説明

モールドコイルの製造方法

【課題】低コスト且つ小型や低背なモールドコイルの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】
モールドコイルの製造方法において、上型と下型の少なくとも一方がダイスとパンチを備える上下一対の金型を用いると共に、以下の工程を有する。
(1)上型と下型を磁性体モールド成形材料が軟化する温度に予熱する工程。
(2)上型に設けられた上部キャビティと下型に設けられた下部キャビティのそれぞれに所定量の磁性体モールド成形材料を充填する工程。
(3)上部キャビティと下部キャビティに充填された磁性体モールド成形材料の何れか一方の露出する面上の所定の位置にコイル部材を載置する工程。
(4)上部キャビティと下部キャビティがコイル部材を挟むように上型と下型を重ね合わせて固定し、パンチを用いて磁性体モールド成形材料を加圧して成形する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドコイルの製造方法に関し、特にコイル部材を磁性体モールド成形材料に封止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フェライトコアなどの巻芯に巻かれたコイルを磁性体モールド成形材料で封止してなるモールドコイルが広く利用されている。従来のモールドコイルは、主に移送成形(トランスファ成形)や射出成形(インジェクション成形)を用いて成形される。
【0003】
移送成形や射出成形を用いたモールドコイルの製造方法では、通常、巻芯に巻かれたコイルを金型のキャビティ内に配し、その後キャビティ内に溶融状態の磁性体モールド成形材料を充填してコイルを封止する。ここで、巻芯のない空芯コイルを金型のキャビティ内に配した場合、磁性体モールド成形材料の充填圧力によって空芯コイルが変形したり、キャビティ内の片側に寄ったりして所定の位置からずれてしまうこともあった。そのため、これらの成形方法を用いる場合には、巻芯やフレームなどを用いることが多い。
【0004】
特許文献1には移送成形を用いて成形されたモールドコイル、特許文献2には移送成形と射出成形を用いて成形されたモールドコイルが開示されている。
【特許文献1】特開平4−338613号公報
【特許文献2】特開2006−32847号公報
【特許文献3】特開2004−351508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器の小型化、高機能化の技術革新が著しく、それに伴い、モールドコイルのような電子部品もまた小型化や低背化、更には低価格などの要求が高まっている。しかし、従来のモールドコイルは、コイルなどの変形や位置ずれを防ぐためにも巻芯やフレームなどを用いねばならなかった。これらの巻芯やフレームなどはモールドコイルの小型化や低背化の実現に不利であった。
【0006】
また、移送成形や射出成形を用いると、チャンバーポッドやノズル、さらにはスプルーなどの部分に多くの磁性体モールド成形材料が残ってしまい、それらに残った材料は再使用ができないため完全なロスになる。従って、これらの成形方法では材料のロスが大きいことや巻芯やフレームなどの部材が必要なため、コストの低減が難しい。
【0007】
現在、巻芯を用いずに空芯コイルを磁性材料中に封止する方法として、磁性体圧粉材料を利用する方法がある。この方法は、成形金型のキャビティ内に空芯コイルを配し、キャビティ中に磁性体圧粉材料を充填し、パンチなどを用いて加圧成形を行う方法である(詳細は、特許文献3参照)。しかし、磁性体圧粉材料は粉末材料であるため、成形圧力を加えた際にむらができやすく、特に外形状が小型や低背なものの成形には不利であった。従って、現行の方法ではモールドコイルの小型化や低背化に限界があった。
【0008】
そこで、本発明は低コスト且つ小型や低背なモールドコイルの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決する本発明のモールドコイルの製造方法は、上型と下型の両方若しくは少なくとも一方がダイスとダイスを貫通し上下に昇降するパンチを備える上下一対の金型を用いると共に、以下の工程を有することを特徴とする。
(1)上型と下型を磁性体モールド成形材料が軟化する温度に予熱する工程。
(2)上型に設けられた上部キャビティと下型に設けられた下部キャビティのそれぞれに所定量の磁性体モールド成形材料を充填する工程。
(3)上部キャビティと下部キャビティに充填された磁性体モールド成形材料の何れか一方の露出する面上の所定の位置にコイル部材を載置する工程。
(4)上部キャビティと下部キャビティがコイル部材を挟むように上型と下型を重ね合わせて固定し、パンチを用いて磁性体モールド成形材料を加圧して成形する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明のモールドコイルの製造方法では、上型と下型の上下一対の成形金型が用いられ、上型と下型に設けられている上部キャビティと下部キャビティ内にそれぞれ磁性体モールド成形材料が充填される。磁性体モールド形成材料の充填にチャンバーポッド、ノズル、スプルーなどが不要のため、移送成形や射出成形に比較して材料のロスを著しく抑えることができる。
【0011】
また、成形金型は予め磁性体モールド成形材料中の樹脂の融点以上に加熱されており、各キャビティ内に充填された磁性体モールド成形材料は充填後に軟化状態になる。軟化状態の磁性体モールド成形材料でコイルを上下から挟むように封止するため、成形加圧を加えたときに圧力が均等にかかり、巻芯やフレームを用いずともコイルの変形や位置ずれが生じにくい。従って、本発明の方法を用いれば、非常に高品質で小型や低背なモールドコイルを低コストに得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のモールドコイルの製造方法は、磁性体粉末と熱硬化性樹脂などからなる磁性体モールド成形材料にコイル部材を封止する方法であり、上ダイスと上パンチとからなる上型と下型の上下一対の成形金型を用いる。上型と下型にはそれぞれ上部キャビティと下部キャビティが設けられており、その上部キャビティと下部キャビティにそれぞれ秤量した磁性体モールド成形材料を充填する。各キャビティに充填された磁性体モールド成形材料は、必要であればその表面を平板などを用いて平坦化する。
【0013】
上型と下型は予め磁性体モールド成形材料中の熱硬化性樹脂の融点以上に加熱されており、上部キャビティと下部キャビティ内に充填された磁性体モールド成形材料は軟化状態になる。下部キャビティに充填された軟化状態の磁性体モールド成形材料の上にコイル部材をセットする。上部キャビティと下部キャビティがコイル部材を挟むように上型と下型を固定する。
【0014】
上パンチを用いて成形圧力を加えながら、磁性体モールド成形材料を硬化させる。その後、成形金型から取り出してモールドコイルを得る。
【実施例】
【0015】
以下に、図面を参照しながら、本発明のモールドコイルの製造方法の実施例について説明する。図中の1は上型、2は下型、3は磁性体モールド成形材料、4は平板、5はコイル、6は外部電極を示している。
【0016】
(第1の実施例)
図1は本発明の第1の実施例によるモールドコイルの製造工程を示し、図2は本発明の第1の実施例で得たモールドコイルの斜視図を示している。
【0017】
まず、第1の実施例では磁性体モールド成形材料として、磁性体粉末(本実施例ではアモルファス合金粉末)が93wt%になるように熱硬化性樹脂(本実施例ではノボラック系エポキシ樹脂)に混練し、その混練物を冷却固化後に粉砕して粉末状としたものを用いる。成形金型は、上ダイスと上パンチを有する上型と下型からなる2.8mm角のモールド金型を用いる。これを用い、粉末状の磁性体モールド成形材料に対して以下のような加工を施す。
【0018】
図1(a)のように、上型1は上ダイス1aと上パンチ1bからなり、上ダイス1aと上パンチ1bを組み合わせることによって上部キャビティ1cが形成される。また、下型2にも下部キャビティ2cが設けられている。上型1と下型2は予め磁性体モールド成形材料中の熱硬化性樹脂の融点よりも高い温度にしておく。本実施例では、上型1と下型2を95℃に加熱した。それぞれのキャビティに、磁性体モールド成形材料3を所定量秤量して充填する。
【0019】
次に、図1(b)のように、平板4を用いて上部キャビティ1cと下部キャビティ2c内に充填された磁性体モールド成形材料3の露出している面を平らにならす。なお、磁性体モールド成形材料3の露出面を平らにできるならば平板以外のものを用いても良い。また、上部キャビティ1cと下部キャビティ2c内で磁性体モールド成形材料3は上型1と下型2からの加熱によって軟化する。
【0020】
次に図1(c)のように、断面形状が円形の外径0.14Φの融着線を外外巻に11ターン巻いた空芯コイル5(以下、コイル5)を下部キャビティ2cに充填した磁性体モールド成形材料3上の所定の位置にセットする。
【0021】
次に図1(d)のように、上部キャビティ1cと下部キャビティ2cがコイル5を挟むように、上型1と下型2を固定する。
【0022】
次に図1(e)のように、上型1と下型2を180℃まで加熱して2分予熱後、上パンチ1bを用いて200kgの成形圧力を加え、磁性体モールド成形材料3を硬化させる。その後、成形金型から取り出し、コイル5の引き出し線を折り曲げて、図2に示すようなモールドコイルを得る。
【0023】
(第2の実施例)
図3は本発明の第2の実施例によるモールドコイルの製造工程を示している。先に説明した第1の実施例と第2の実施例の相違点は、下ダイスと下パンチからなる下型を用いる点と、成形金型に充填する前の磁性体モールド成形材料の形状が板状である点である。なお、第1の実施例と重複する部分の説明は割愛する。
【0024】
まず、第2の実施例で用いる板状の磁性体モールド成形材料について説明する。第2の実施例で用いる磁性体モールド成形材料は、磁性体粉末(本実施例ではアモルファス合金粉末)が93wt%になるように熱硬化性樹脂(本実施例ではノボラック系エポキシ樹脂)に混練し、混練物をシート状に成形する。そのシート状混練物を2.7mm角に打ち抜き、得たものである。本実施例では磁性体モールド成形材料を板状に予備成形したが、成形金型に合わせて、その他の形状に予備成形しても良い。
【0025】
第2の実施例では成形金型として、上ダイス1aと上パンチ1bを有する上型1と下ダイス2aと、下パンチ2bを有する下型2からなる、2.8mm角のモールド金型を用いる。第1の実施例と同様に、予め上型1と下型2は磁性体モールド成形材料中の熱硬化性樹脂の融点よりも高い温度(95℃)にする。
【0026】
図3(a)のように、上ダイス1aと上パンチ1bからなる上部キャビティ1cと、下ダイス2aと下パンチ2bからなる下部キャビティ2cのそれぞれに、上記の方法で得た板状の磁性体モールド成形材料3を装填する。板状の磁性体モールド成形材料3は、図3(b)のように上型1と下型2からの加熱によって軟化する。
【0027】
次に図3(c)のように、下部キャビティ1cに充填されている軟化状態の磁性体モールド成形材料3の上にコイル5をセットする。さらに、図3(d)のように、上部キャビティ1cと下部キャビティ2cがコイル5を挟むように上型1と下型2を固定する。
【0028】
次に図3(e)のように、上型1と下型2を180℃まで加熱して2分予熱後、上パンチ1bと下パンチ2bを用いて200kgの成形圧力を加えながら、磁性体モールド成形材料3を硬化させる。その後、成形金型から取り出して、第1の実施例と同様にモールドコイルを得る。
【0029】
第2の実施例では、第1の実施例とは異なり、各キャビティ内に充填する前に磁性体モールド成形材料3を板状に予備成形しているため、表面を平坦化する必要がなく、充填量も一定にすることが可能である。また、上パンチ1bと下パンチ2bを用いて上下方向の両方から成形圧力を加えるため、第1の実施例よりも均等に加圧できる。
【0030】
(第3の実施例)
図4は本発明の第3の実施例によるモールドコイルの製造工程を示し、図5は本発明の第3の実施例で得たモールドコイルの斜視図を示している。第1の実施例、第2の実施例と本第3の実施例の相違点は、コイルだけでなく外部電極も同時に一体成形する点である。なお、第1の実施例や第2の実施例と重複する部分の説明は割愛する。
【0031】
第3の実施例では、磁性体モールド成形材料として、第1の実施例と同じ粉末状の磁性体モールド成形材料を用いる。また、成形金型として、第2の実施例と同様に、上ダイスと上パンチからなる上型と下ダイスと下パンチからなる下型の上下一対の成形金型を用いる。第1、第2の実施例と同様に、予め上型と下型を95℃に加熱した。
【0032】
図4(a)のように、外部電極6を下部キャビティ2cの底面の所定の位置にセットする。例えば、図4(a)の斜視図のように外部電極6が2つ有る場合には、2つの外部電極6のそれぞれがコイル5の引き出し線に接続しやすいように、下部キャビティ2cの両端に対向するようにセットする。
【0033】
次に図4(b)のように、上部キャビティ1cと下部キャビティ2cのそれぞれに所定量秤量した粉末状の磁性体モールド成形材料3を充填する。
【0034】
次に図4(c)のように、平板4を用いて上部キャビティ1cと下部キャビティ2c内に充填された磁性体モールド成形材料3の露出している面を平板4で平らにならす。また、上部キャビティ1cと下部キャビティ2cに充填された磁性体モールド成形材料3は、上型1と下型2からの加熱によって軟化する。
【0035】
次に図4(d)のように、下部キャビティ1cに充填されている軟化状態の磁性体モールド成形材料3の上にコイル5をセットする。さらに図4(e)のように、上部キャビティ1cと下部キャビティ2cがコイル5を挟むように上型1と下型2を固定する。
【0036】
次に図4(f)のように、上型1と下型2を180℃まで加熱し2分予熱後、上パンチ1bと下パンチ2bを用いて200kgの成形圧力を加えながら、磁性体モールド成形材料3を硬化させる。その後、成形金型から取り出し、コイル5の引き出し線を折り曲げて、図5に示すようなモールドコイルを得る。コイル5と外部電極6は半田による接合などで導通させればよい。
【0037】
本発明のモールドコイルの製造方法として3つの実施例を示したが、いずれの実施例を用いても各キャビティ内の磁性体モールド成形材料3は軟化状態であるため、パンチなどで加圧したときに圧力のムラが生じずに均等に加圧できる。また、従来の移送成形や射出成形とは異なり、磁性体モールド成形材料3の充填圧力がコイル5にかからないので、コイル5の変形や位置ずれが起こりにくい。
【0038】
上記実施例では、磁性体モールド成形材料の硬化時間を短縮するために、上型と下型を熱硬化性樹脂の融点以上の95℃から熱硬化性樹脂の硬化温度以上の180℃までさらに加熱したが、95℃を保持したまま加圧のみでも成形は可能である。また、下型2にコイル5や外部電極6をセットしたが、上型1にコイル5や外部電極6をセットしても良い。また、コイル5を丸線の融着線を外外巻に巻いた空芯コイルで実施したが、平角線を用いたものや外外巻以外の巻き方のコイル部材でも実施できることは自明である。
【0039】
以上より、本発明のモールドコイルの製造方法を用いれば非常に高い成形精度でモールドコイルを製造することができ、小型や低背なモールドコイルを容易に実現できる。また、モールド成形材料のロスが少なく、安価にモールドコイルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造工程を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施例で得たモールドコイルの斜視図である。
【図3】本発明の第2の実施例のモールドコイルの製造工程を示す図である。
【図4】本発明の第3の実施例のモールドコイルの製造工程を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施例で得たモールドコイルの斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
1:上型(1a:上ダイス、1b:上パンチ、1c:上部キャビティ)
2:下型(2a:下ダイス、2b:下パンチ、2c:下部キャビティ)
3:磁性体モールド成形材料
4:平板
5:コイル
6:外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体粉末と熱硬化性樹脂等からなる磁性体モールド成形材料にコイル部材を埋め込むモールドコイルの製造方法において、
上型と下型の上下一対の金型であって、該上型と該下型の少なくとも一方がダイスと該ダイスを貫通し上下に昇降するパンチを備える金型を用い、
該上型と該下型を予め該磁性体モールド成形材料が軟化する温度以上に予熱し、
該上型に設けられた上部キャビティと該下型に設けられた下部キャビティのそれぞれに所定量の該磁性体モールド成形材料を充填し、
該上部キャビティと該下部キャビティに充填された該磁性体モールド成形材料の何れか一方の露出する面上に該コイル部材を載置し、
該上部キャビティと該下部キャビティが該コイル部材を挟むように該上型と該下型を重ね合わせて固定し、該パンチを用いて該磁性体モールド成形材料を加圧して成形することを特徴とするモールドコイルの製造方法。
【請求項2】
前記磁性体モールド成形材料が粉末状または顆粒状であることを特徴とする請求項1に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項3】
前記上部キャビティと前記下部キャビティ内に前記磁性体モールド成形材料を充填した後、該磁性体モールド成形材料の露出する表面を平らにならすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項4】
前記磁性体モールド成形材料がシート状または板状であることを特徴する請求項1に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項5】
前記上部と下部の何れか一方のキャビティ内に外部電極を所定の位置に設置し、その後に前記磁性体モールド成形材料を充填することを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項6】
前記コイル部材に丸または平角形状の融着線を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載のモールドコイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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