説明

モールドパウダーの滓化および溶融性の評価方法

【課題】 鋼の連続鋳造法もしくはインゴットケース造塊法に用いるモールドパウダーの滓化性および溶融性を定量評価する方法を提供する。
【解決手段】 加熱前のモールドパウダーの全質量に対する加熱後のスラグ化したモールドパウダーの質量の比をスラグ化率とし、このスラグ化率でモールドパウダーの滓化および溶融性を評価する。すなわち、モールドパウダーの滓化および溶融性を数値によって定量的に評価する手法として、以下の(1)式により算出されるスラグ化率を用いる方法である。
スラグ化率(%)={(スラグ化したモールドパウダーの質量)/(モールドパウダーの全質量)}×100……(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼を連続鋳造法あるいは造塊法で製造する際に用いるモールドパウダーの特性に関し、特にモールドパウダーの滓化および溶融性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼を連続鋳造する時に、例えば、鋳型内に散布するモールドパウダーは種々の役割を担っている。すなわち、(a)鋳造される鋳型内の溶鋼表面を保温すること、(b)鋳型内の溶鋼表面の酸化を防止すること、(c)鋳型内の溶鋼中から浮上する介在物を吸着すること、(d)鋳型と鋳片の間に溶融したモールドパウダー(以下、「スラグ」と呼ぶことがある。)が流れ込んで、潤滑作用を発揮すること、(e)鋳片より最適な抜熱量をコントロールすることなどの種々の働きが課せられている。
【0003】
モールドパウダーは通常粉末状あるいは顆粒状であり、その成分は一般にCaO、SiO2を主成分とし、他にAl23、アルカリ土類金属およびアルカリ金属の化合物(酸化物、炭酸塩、ふっ化物など)を加えてなるものであり、溶融温度、粘度などを調整し、さらに、溶融速度を調整するためにカーボンを添加してパウダー組成が構成されており、顆粒状の場合は、有機、無機質のバインダーなどが用いられ一定の形状を保持するものとしている。
【0004】
ここにおいて、モールドパウダーの粒度分布、嵩比重などの粉末または顆粒状態における特性や、粘度、溶融状態、特に鋳造時に鋳片とモールドとの間のフィルム状モールドパウダーの凝固状態の特性、すなわち、モールドパウダーが凝固状態において結晶質か非結晶質か、また結晶が柱状晶かなどの軸晶か、さらには粗大であるか微細であるかなどの特性は、得られる鋳片の表面性状の良否に大きく影響を及ぼすものである。従って、実際の使用に当たっては、予め上記の各特性を測定してその正確な把握を行っておく必要がある。
【0005】
上記の各特性のうち、粉末状態または顆粒状態における粒度分布や嵩比重は容易かつ定量的に測定でき、また溶融状態における重要な物性である粘度も比較的容易にかつ定量的に測定できる。一方、モールドパウダーの滓化や溶融過程における挙動を確実に把握する方法としては、従来では、モールドパウダーの粉末を三角錐形状または円柱状に成型し、これを加熱炉内で過熱して溶融状態を観察する方法、あるいはモールドパウダーを坩堝内に入れて一方向より所定時間加熱して冷却した後、坩堝を縦に切断して添加剤の溶融状態を観察する方法が提示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
またモールドパウダーを黒鉛坩堝へ装入し、所定時間加熱して溶解したパウダーを、所定形状を有する傾斜冷却鋳型に注入して冷却試料を作り、縦断してその断面を観察する方法が提示されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、モールドパウダーを鉄製の容器に一定量充填させ、マッフル炉にて所定温度で加熱した後、その外観表面を観察する方法が採られている。
【0007】
しかしながら、このような方法は、いずれも定性的な官能評価であり、モールドパウダー製造ロット間の滓化性のばらつきや、新規開発モールドパウダーの滓化性を評価するには不十分であった。
【0008】
【特許文献1】特開平07−204810号公報
【特許文献2】特開平10−58103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
モールドパウダーの滓化性について、上記の官能評価だけでなく、数値によって定量評価が可能である手法が要望されていた。そこで、本発明が解決しようとする課題は、鋼の連続鋳造法もしくはインゴットケース造塊法に用いるモールドパウダーの滓化性および溶融性を定量評価する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、鋼の連続鋳造法またはインゴットケースによる造塊法で使用するモールドパウダーにおいて、加熱前のモールドパウダーの全質量に対する加熱後のスラグ化したモールドパウダーの質量の比、をスラグ化質量率(以下、「スラグ化率」という。)とし、該スラグ化率でモールドパウダーの滓化および溶融性を評価することを特徴とするモールドパウダーの滓化および溶融性の評価方法である。
【0011】
すなわち、モールドパウダーの滓化および溶融性を数値によって定量的に評価する手法として、以下の(1)式により算出されるスラグ化率を用いる方法である。
【0012】
スラグ化率(%)={(スラグ化したモールドパウダーの質量)/(モールドパウダーの全質量)}×100……(1)
【発明の効果】
【0013】
モールドパウダーの滓化および溶融性の評価方法として本発明のスラグ化率による方法を適用することにより、パウダーの滓化および溶融性を、従来の定性的な勘と経験による官能評価ではなく、数値により定量的に客観的に評価することができ、この結果モールドパウダーの製造におけるロット間のバラツキを減少することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の最良の形態を図面を参照して説明する。図2に示す鉄製の容器1に、秤量したモールドパウダーを入れる。秤量するモールドパウダーの量は、例えば50〜200gとする。少なすぎると再現性が低下し、また多すぎると滓化量が減少して評価の感度が低下する。
【0015】
モールドパウダーの入った鉄製の容器1をラボ実験用のマッフル炉中に装入し、1573Kの温度でモールドパウダーを焼成する。焼成時間は、例えば1〜25分間とする。
【0016】
滓化したモールドパウダー(スラグ)と未溶融のモールドパウダーを例えばボールミルで粉砕し、この粉砕物をJIS Z 8801 呼び寸法:500〜600μmの篩で篩別することで、滓化したモールドパウダーと未溶融のモールドパウダーを分離する。次いで、分離したスラグの質量(g)を測定する。ボールミルによる粉砕時間は長時間粉砕しても作業性が低下するだけであることから、例えば10分間とする。これらのモールドパウダーの粒子径の分布は図1に示すグラフのようになり、滓化したモールドパウダーと未溶融のモールドパウダーは500〜600μmで分離されることから、篩の網目の間隔は500〜600μmとすることが望ましい。
【0017】
次の(1)式を用いてスラグ化率を算出する。
スラグ化率(%)={(スラグ化したモールドパウダーの質量)/(モールドパウダーの全質量)}×100……(1)
【実施例1】
【0018】
本実施例で使用した鉄製の容器を図2に示す。厚さ1mmの鉄板を加工し、幅80mm×長さ150mm×深さ25mmである容器を作製する。表1に、本方法により滓化性を測定したモールドパウダーA〜Dの組成および物性を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
図2に示す鉄製の容器1にモールドパウダーを150g秤量して平らになるよう均等に充填する。モールドパウダーを溶解させる炉としてはマッフル炉を使用する。上記の鉄製の容器1を1573Kに設定したマッフル炉中に装入し、1〜15分までは1分間刻み、さらに15〜25分までは5分間刻みで保持し、モールドパウダーを溶解させた後、鉄製の容器1ごと取り出して自然冷却する。
【0021】
鉄製の容器1からモールドパウダーを全て取り出し、ボールミルで10分間粉砕する。粉砕後のパウダーをJIS Z 8801の呼び寸法600μmの篩にて篩別する。このとき網目上に残ったものを、滓化したモールドパウダー(スラグ)とし、その質量を測定する。
【0022】
スラグ化率の(1)式に基づいて、スラグ化したモールドパウダーの質量を、元のモールドパウダーの全質量で割ることでスラグ化率を算出する。表1におけるモールドパウダーA〜Dの加熱時間によるスラグ化率を図3のグラフに示す。モールドパウダーの種類による滓化性の差が、数値によって定量的に評価可能であることがわかる。
【0023】
さらにモールドパウダーBの含有カーボン量を変更したときのスラグ化率を図4のグラフに示す。さらにモールドパウダーDの含有カーボンの種類を変更したときのスラグ化率を図5のグラフに示す。ここで図4におけるパウダー中のカーボン量の増減は、増がオリジナルのパウダーBに対して+0.5%増、減が−0.5%減である。また図5におけるカーボン種類は、オリジナルであるパウダーDではカーボンの粗粒と微粒の割合が2:2であり、カーボン種類aでは粗粒と微粒の割合が2:1であり、カーボン種類bでは粗粒と微粒の割合が2:3であり、カーボン種類cでは粗粒と微粒の割合が3:2である、各カーボンを使用している。これらからも、モールドパウダー中に含まれるカーボンの量や種類によるモールドパウダー滓化性の定量評価が可能であることがわかる。また本評価方法をモールドパウダーの受け入れ検査や、新規開発モールドパウダーの検査に使用することにより、モールドパウダーのロット間の管理や鋳片品質への影響を管理することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】スラグ化したモールドパウダーの割合とモールドパウダー粒子径の関係を示すグラフ。
【図2】モールドパウダーを充填する鉄製の容器の斜視図。
【図3】各種モールドパウダーのスラグ化率と加熱時間の関係を示すグラフ。
【図4】モールドパウダー中のカーボン量の差異と加熱時間とスラグ化率の関係を示すグラフ。
【図5】モールドパウダー中のカーボン種類と加熱時間とスラグ化率の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0025】
1 鉄製の容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造法またインゴットケースによる造塊法で使用するモールドパウダーにおいて、加熱前のモールドパウダーの全質量に対する加熱後のスラグ化したモールドパウダーの質量の比をスラグ化質量率(以下、「スラグ化率」という。)とし、該スラグ化率でモールドパウダーの滓化および溶融性を評価することを特徴とするモールドパウダーの滓化および溶融性の評価方法。
【請求項2】
スラグ化率は下記の(1)式で示されることを特徴とする請求項1に記載のモールドパウダーの滓化および溶融性の評価方法。
スラグ化率(%)={(スラグ化したモールドパウダーの質量)/(モールドパウダーの全質量)}×100……(1)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−246500(P2008−246500A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88525(P2007−88525)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【出願人】(591152654)日本サーモケミカル株式会社 (5)
【Fターム(参考)】