説明

ユニーク配列のDNAプローブを作製するための方法および組成物、DNAプローブの標識、ならびにこれらプローブの使用

【課題】ユニーク配列のDNAプローブを得るための方法および組成物を提供する。
【解決手段】組成物はユニーク配列を含む任意の二本鎖DNAからなり、反復配列が排除されている。個別に単離した標的細胞の表現型および遺伝型の複数パラメータ解析を組み合わせることによって、希少循環細胞を解析する。注目する細胞を調査するために、免疫磁気選択および蛍光標識後に同定された細胞を保存し、免疫磁気選択および蛍光標識後に同定された細胞の遺伝子解析をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明者:Mark Carle Connelly、Brad Foulk;Michael Kagan、Joost F.Swennenhuis;Leon W.M.M.Terstappen、Arjan G.J.Tibbe、およびJohn Verrant
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年9月20日出願の米国仮特許出願第60/718,676号;2005年10月24日出願の第60/729,536号;および2006年3月出願の第60/786,117号の優先権を主張する非仮出願である。前記の各出願をここに出典明示して全体を本明細書の一部とみなす。
【0003】
本発明は、一般的に、DNA配列、遺伝子または染色体の同定の分野に関する。
【背景技術】
【0004】
DNAプローブの作製
ヒトゲノムDNAは、ゲノム全体にわたって複数のコピー数が存在するユニーク配列および反復配列の混合物である。一部の適用では、反復配列を検出するための核酸ハイブリダイゼーションプローブが望ましい。これらのプローブは、胎児細胞の診断学、腫瘍学、および細胞遺伝学の分野において有用性が示されている。他の適用では、染色体上の注目するユニーク配列にのみアニーリングするハイブリダイゼーションプローブを作製することが望ましい。ユニーク配列のプローブの調製は、生物のゲノム全体にわたって多数のクラスの反復配列が存在することによって混乱する(Hood他、Molecular Biology of Eucaryotic Cells(Benjamin/Cummings Publishing Company、カリフォルニア州Menlo Park、1975年)。ハイブリダイゼーションプローブ中に反復配列が存在することにより、プローブの一部分が注目する配列外に見つかる他の反復配列と結合するので、プローブの特異性が低下する。したがって、ハイブリダイゼーションプローブが特定の目的配列に結合することを確実にするために、プローブ中の反復配列が注目する配列外の標的DNAにアニーリングしないことを確実にする努力を行わなければならない。
【0005】
最近の寄稿では、非標識の遮断核酸を使用することで反復配列のハイブリダイゼーションを阻害することによって、この問題に対処している(US5,447,841号およびUS6,596,479号)。ハイブリダイゼーションにおける遮断核酸の使用は、高価であり、反復配列のハイブリダイゼーションを完全には阻止せず、ゲノムハイブリダイゼーションパターンを変形させる可能性がある(Newkirk他、「Distortion of quantitative genomic and expression hybridization by Cot−1 DNA:mitigation of this effect」、Nucleic Acids Res.、第33巻(22):e191(2005年))。したがって、最適なハイブリダイゼーションのために、遮断DNAを使用せずに反復配列のハイブリダイゼーションを阻止する方法が必要である。
【0006】
これを達成する一手段は、ハイブリダイゼーション前に、ハイブリダイゼーションプローブから所望しない反復セグメントを除去することである。反復性の高い配列を除去することを含む技術は、従前に記載されている。ヒドロキシアパタイトのような吸収剤により、抽出したDNAから反復性の高い配列を除去する手段が提供されている。ヒロキシアパタイトクロマトグラフィーでは、温度、塩濃度、または他のストリンジェンシーのような二重鎖の再会合の条件に基づいてDNAを分画する。この手順は厄介であり、異なる配列で変動する。反復DNAは、固定したDNAへのハイブリダイゼーションによって除去することもできる(Brison他、「General Methods for Cloning Amplified DNA by Differential Screening with Genomic Probes」、Molecular and Cellular Biology、第2巻、578〜587頁(1982年))。これらの手順すべてにおいて、反復配列の物理的除去は、DNA配列の塩基組成に基づいた、固有の変異を用いた条件の厳密な最適化に依存するであろう。
【0007】
ハイブリダイゼーションプローブから反復配列を除去するためのいくつかの他の方法が記載されている。一方法は、反復配列のハイブリダイゼーションを直接防止するため、またはPCR反応において反復配列の増幅を防止するために、架橋化剤を用いて反復配列を架橋結合させることを含む。(US6,406,850号)。別の方法では、PCR支援アフィニティークロマトグラフィーを用いてハイブリダイゼーションプローブから反復を除去する(US6,569,621号)。これらの方法はどちらも、反復配列を除去するために標識したDNAの使用に依存し、それにより、これらの方法が複雑かつ再現が困難となる。さらに、どちらの方法も時間がかかり、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)または高い標的特異性を要する他のハイブリダイゼーション反応での使用に適した機能的なプローブを生じるために、複数回の反復の除去を必要とする。
【0008】
二本鎖デオキシリボ核酸分子を優先的に切断する二重鎖特異的ヌクレアーゼの使用が、一塩基多型のような配列変異体の検出適用に記載されている(US2005/0164216号;US6,541,204号)。一本鎖と比較して完全一致した核酸二重鎖ポリヌクレオチドを優先的に切断する酵素の能力により、非標的二本鎖DNAを試料混合物から除去する手段が提供される。
【0009】
ポリヌクレオチドの二重鎖形態を特異的に消化するこれらのヌクレアーゼの能力は本発明において発見され、遮断DNAを必要とせず、したがって遮断DNAのコストおよび妨害の影響が排除されることで、ユニークな標的特異的プローブの製造において相当な利益がもたらされ、また、特異性の高いプローブの迅速、効率的かつ対費用効果の高い生産が提供される。
【0010】
ゲノム中の特異的配列の検出は、DNAが2本のDNA鎖のらせんからなること、およびこれら2本の鎖が相同体である場合にこの二本鎖が最も安定しているという事実を利用する。DNAはリン酸−糖リン酸の主鎖からなり、それぞれの糖に、4個の異なる窒素塩基、シトシン、グアニン、チミンまたはアデニンのうちの1個が存在し得る。相同体の鎖は、それぞれのシトシンをグアニンと、またそれぞれのチミンをアデニンと対合する。標識した相同体配列をゲノムに加えてDNAを一本鎖にした場合、これらの標識した配列は、正しい状況下でゲノム中の特異的相同体配列とハイブリダイズする。このin situハイブリダイゼーションには、様々な検出目的および適用のためにいくつかのプローブが利用可能である。
【0011】
全染色体/彩色プローブ(WCP)
WCPは、具体的な染色体に相同的な標識したDNA材料を取り込む。材料は分裂中期の染色体の流動分別または分裂中期の拡大物からレーザー切開によって得て、これをPCRまたは関連技術によって増幅する。それを標識し、適切に準備した核に施用した後、これは標的染色体を染色する。しかしながら、このような標識プローブは、染色体の一部またはすべてで共有される構造配列要素または反復配列要素のため、他の非標的染色体も染色する。したがって、意図する注目する染色体に由来する配列のみを染色するために、通常は、遮断DNAを用いたハイブリダイゼーションまたは非特異的な相互作用を遮断もしくは除去する他の方法によってこれらの共通の反復要素を阻害する。
【0012】
また、複数の染色体彩色を単一の核に施用する。WCPを異なる蛍光色素または蛍光色素の組合せによって標識し、1回のハイブリダイゼーションで施用するWCPの量に制限はない。WCPは主に、核型分析、ならびに、核の分裂中期の拡大物において最も良好に観察される染色体の大きな断片、領域および小領域の転座を研究するために用いる。
【0013】
セントロメアプローブ
セントロメアプローブは、ヒト染色体のすべてのセントロメア領域中で反復的な順序で生じる171bpの配列を標的とする。すべての染色体はわずかに異なる配列を有しており、このため、正しいハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを用いた場合はすべての染色体が個別に検出される。2対の染色体、すなわち、第13と第21および第14と第22のみが、同じ反復を共有しており独立して検出することができない。一般的に、セントロメアプローブは、171pbの反復の1コピーまたは数コピーからの挿入物を含むプラスミドから生成する。これらのプローブは、171bpの配列が注目する領域外では出現しないので、遮断DNAを加えずにハイブリダイズできる。
【0014】
テロメアプローブ
ヒトテロメアは、短い反復配列(すなわち、TTAGGG)のアレイからなる。これは、それぞれの染色体および個々の試験対象の年齢について、異なる量で数回繰り返される。この反復配列は、すべての染色体を染色するプローブとして用いるが、すべての染色体が同等の強度では染色されない。染色体のテロメア末端を検出するために、ほとんどの場合はサブテロメア細菌人工染色体(BAC)クローンを用いる。このBACクローンは、ハイブリダイゼーション中またはその前に遮断または除去すべき反復配列を含む。
【0015】
比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)プローブ
CGHは、試験ゲノムを参照ゲノムとハイブリダイズさせることを含む方法である。参照ゲノムは、健康な個体からの分裂中期の染色体の拡大物の形態をとり得るか、またはゲノムの全体もしくは一部を表すプローブ配列を用いたアレイに基づき得る。BACクローンを用いて作製したマイクロアレイプローブは、ハイブリダイゼーション前に遮断しなければならない反復配列を含む。しかしながら、遮断は、反復を除去したプローブと比較した場合にずれを生じさせる潜在性がある(KnolおよびRogan、Nucleic Acids Research、2005年、第33巻、第22号)。さらに、遮断工程はハイブリダイゼーションアッセイのコストを上げる。プローブ配列から反復配列を除去すれば、標識したゲノムDNAの遮断工程は不要であり、コスト軽減およびすべてのばらつきの排除がもたらされる。
【0016】
遺伝子特異的プローブ
遺伝子特異的プローブは、標的遺伝子または遺伝子群を含むゲノムの領域を検出するために設計される。これらのプローブは、注目する特異的遺伝子の発現レベルに相関する、特異的ゲノム領域の増幅または欠失を検出するために用いる。遺伝子(または複数の遺伝子)自体のコード配列は、標準的な蛍光顕微鏡を用いて可視的なプローブについて検出シグナルを生じるほど十分に大きくない。したがって、そのような遺伝子特異的プローブは、コード遺伝子配列(エクソン)だけに限定されず、非コード配列(イントロン)、制御配列または遺伝子周辺の他の配列も含む。遺伝子特異的プローブの設計にさえ包含される大きな配列のため、これらは、所望しない反復配列の不所望の包含にしばしば苦しむ。その後、このような材料を標識してハイブリダイゼーションで用いるか、またはハイブリダイゼーションで用いた後に標識した場合、遺伝子領域の特異的な検出を可能にするためには、所望しない配列をプローブから遮断または除去しなければならない。
【0017】
マイクロアレイプローブ
CGHと同様、マイクロアレイプローブは担体に固定する。一般的に、自動ロボット技術を用いてcDNA−PCR産物または合成オリゴヌクレオチドをスライドまたは類似の固定表面上にスポットする。また、配列をスライド上で直接合成する技術が存在する(Affimetrix,Inc、Santa Clara)。異なる標識cDNAまたはRNAを組み合わせて、スライドを標識cDNAまたはRNAと共にハイブリダイズさせる。
【0018】
レポーター分子とDNAプローブとのカップリング
DNAプローブをカップリングさせたレポーター分子によって可視化する。これらの分子は、DNAプローブに取り込ませるか、またはそれに付着させる必要がある。一方法では、酵素反応に連結したヌクレオチドを有するレポーター分子を利用する。例には、ニックトランスレーションまたはランダムプライム反応による取り込みが含まれる。さらに、次いで、この方法で構築したアミン結合ヌクレオチドをレポーター分子に直接または間接的にカップリングさせる。カップリングは、DNAの化学標識によって行う。一例は、ULS標識(Kreatech Diagnostics、Amsterdam)で用い、US5,580,990号;US5,714,327号;US5,985,566号;US6,133,038号;US6,248,531号;US6,338,943号;US6,406,850号;およびUS6,797,818号に記載の、グアニンのN7位と配位結合を形成する白金基に連結したレポーター分子のカップリングである。レポーター分子は、放射性同位体、非同位体標識、ジゴキシゲニン、酵素、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、放射線発光性薬剤、化学発光性薬剤、生物発光性薬剤、および光発光性薬剤(蛍光およびリン光を含む)等の発光性薬剤、色素、ハプテンなどであり得る。
【0019】
試料調製
静止期の染色体に結合した標識プローブを検出できるようになるためには、核はFISH手順中およびその後に形態学を維持すべきである。固定を用いて、細胞または核を顕微鏡スライドのような固体層に付着させる。固体層への付着前、その間、またはその後の固定により、同定の参照が提供される。細胞または組織の種類に応じて、核は、通常はタンパク質分解酵素、熱、アルコール、変性剤、洗剤溶液または処理の組合せで前処理することによってプローブDNAに接近可能でなければならない。プローブおよび核DNAは熱またはアルカリ処理によって一本鎖にし、その後、ハイブリダイズさせる。
【0020】
DNAプローブの使用
マイクロアレイ
マイクロアレイの1つの一般的な使用は、疑わしい組織、腫瘍、または微生物のRNA発現プロフィールを決定することである。RNA発現プロフィールを解析することにより、患者の治療および生存の予後診断が提案される。臨床使用のためのRNAマイクロアレイの予後的価値はまだ決定されていない。マイクロアレイのもう一つの一般的な使用は、アレイに基づいたCGHである。この技術を用いて、ゲノム全体を染色体領域の増幅および/または欠失についてスクリーニングできる。
【0021】
顕微鏡観察
出生前または出生後試験における細胞遺伝学的解析を用いて、胎児からの細胞集団において胎児が細胞遺伝学な異常を有するかどうかを決定する。試料は、多くの場合、細胞遺伝学的異常の危険性が高いと考えられる妊娠女性で実施する羊水穿孔を介して得る。したがって、これらの細胞を細胞遺伝学的異常について調査する。細胞遺伝学的異常を確認するため、または出産後に得られた細胞集団において疑わしい細胞遺伝学的異常を調査するために、同種の調査を行う。
【0022】
母体血中の胎児細胞の評価
妊娠中、胎児細胞が母体血中に入り込む場合があり、外傷、子癇(前)症および異常妊娠においてこのような胎児細胞の数の増加が見出される。胎児母体出血のルーチン評価では、頻繁に使用されるクライハウアー−ベトケ試験は胎児ヘモグロビンを発現する赤血球の検出に基づいている。細胞遺伝学的異常の検出には、母体血からの有核細胞が必要である。これらの細胞の頻度は著しく低く、母体血1mLあたり1〜10個の胎児細胞の範囲であると推定される。有核赤血球、栄養芽細胞、および胎児由来の造血前駆体の存在により、妊娠初期の細胞遺伝学的異常の検出における単離およびプローブハイブリダイゼーションの標的が提供される。現在までに、これらの細胞の細胞遺伝学的組成を同定および評価する信頼性および再現性のある方法は利用可能となっていない。この解析の主な問題の1つは、手順全体にわたる様々な工程での胎児細胞の損失であり、一貫性のないまたは決定的でない情報がもたらされることである。
【0023】
腫瘍学
FISHは、転座、欠失、増幅、逆位、および重複のような様々な種類の染色体異常を検出するために用いる。これらの異常は、あらゆるタイプの細胞および組織において検出されている。白血病では、細胞を血液または骨髄から単離し、次いでFISH解析を行う。膀胱癌では、細胞を尿から単離する。固形腫瘍からの細胞は、腫瘍自体の穿刺または切除によって得る。また、固形腫瘍によって放出される細胞を血液から単離し、FISHによって解析する。後者は、腫瘍中の染色体の変化を検出するために腫瘍治療を綿密に監視する機会を与える。いくつかのタイプの癌において、FISHは腫瘍進行の予後診断を提供するか、または特定の投薬の有効性を予測する。商業的には、最も使用されているFISH試験は、慢性骨髄性白血病におけるBCR−ABL転座FISHおよび乳癌におけるher2/neu遺伝子増幅FISHである。
【0024】
播種性腫瘍細胞
腫瘍細胞だけでなく希少な細胞、または生体試料からの他の生物学的実体を特徴づける方法は、従前に記載されている(US6,365,362号)。この2段階方法は、解析前に実質的な量の細片および他の妨害物質を排除しつつ、標的細胞の獲得を確実にし、イメージング技術による細胞検査を可能にするために、効率的な濃縮を要する。この方法は、免疫磁気濃縮の要素と、複数パラメータフローサイトメトリー、顕微鏡観察および免疫細胞化学的解析とを、独自に自動化された方法で組み合わせる。この組合せ方法を用いて、血液試料中の上皮細胞を濃縮および計数し、したがって、癌を測定するための手段が提供される。
【0025】
この2段階方法は、癌の予後診断および転移癌を有する患者の生存において適用を有する(WO04076643)。血液中に形態学的に無処置の循環癌細胞が存在することに基づいて、この方法は、転移性乳癌患者の循環癌細胞の存在を、疾患の進行および生存の時間に相関させることができる。より具体的には、7.5ミリリットルあたり5個以上の循環腫瘍細胞の存在により最初の経過観察で予測的な値がもたらされ、したがって、患者の生存の初期予後指標がもたらされる。
【0026】
前記のアッセイの特異性は検出される細胞数に伴って増大し、数個(一般的に5個未満の循環腫瘍細胞)しか検出されない場合には不十分である。この問題の1つの解決策は、疑わしい癌細胞に関して詳細な遺伝情報を提供することである。したがって、複数パラメータイメージサイトメトリーを用いた血液試料の濃縮および個々の疑わしい癌細胞の複数パラメータ遺伝子解析を組み込む方法が、患者のスクリーニング、疾患の再発の評価、または全体的な生存のための現在の手順を顕著に改善するための、完全なプロフィールおよび確証的な機構を提供するであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
ここに出典明示して本明細書の一部とみなす、WO00/60119;Meng他、PNAS、101(25):9393〜9398(2004年);Fehm他、Clin Can Res、8:2073〜2084(2002年)に記載のように、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)が、濃縮後の希少細胞の検出における単一の解析方法として記載されている。上皮細胞の濃縮後、捕捉した細胞を公知のハイブリダイゼーション方法によってスクリーニングし、顕微鏡スライド上でイメージングする。特有の技術的変動および満足できる遺伝情報の確認の欠如のため、ハイブリダイゼーションパターンだけでは、5個未満の標的細胞を含む試料の評価のように、高感度分析に必要な臨床的信頼度のレベルが提供されない。さらに、このFISH解析の方法は自動化が困難である。
【0028】
個々の細胞の解析においてハイブリダイゼーションに基づいた方法を免疫細胞化学と組み合わせることは、従前に記載されている(US6,524,798号)。個々の細胞の表現型および遺伝型の同時評価には、表現型特徴がin situハイブリダイゼーションの準備工程後に安定に保たれていることを要し、検出可能な標識の選択が限定される。典型的には、慣用のin situハイブリダイゼーションアッセイは以下の工程を要する:(1)熱またはアルカリでの変性;(2)非特異的結合を減少させるための所望による工程;(3)1つまたは複数の核酸プローブと標的核酸配列とのハイブリダイゼーション;(4)結合していない核酸断片の除去;および(5)ハイブリダイズしたプローブの検出。これらの工程の1つまたは複数を完了するために用いた試薬(すなわち、メタノール洗浄)は、続く免疫細胞化学において抗原認識を変化させるか、標的細胞の位置にわずかなシフトを引き起こすか、または標的細胞を完全に除去し、これにより、疑わしい細胞の誤った特徴づけの可能性が導入される。
【0029】
複数パラメータFISH解析のプローブセットおよび方法が肺癌について記載されている(US20030087248号)。また、患者における膀胱癌の検出につき95%の感度をもたらす3個のプローブの組合せが記載されており、US6,376,188号;US6,174,681号を参照されたい。これらの方法は少数の標的細胞の評価につき特異性および感度を欠いており、したがって、病状の初期検出の確証的な評価を欠いている。また、好都合な自動化の手段も提供しない。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明の一態様は、個別に単離した標的細胞の表現型および遺伝型の複数パラメータ解析を組み合わせることによって、希少循環細胞の解析において確証的なアッセイを提供し、その結果、臨床的に有意なレベルの感度をもたらし、したがって、得られたすべての定量的情報に関して臨床家に確実性を与える。関連病状は非常に少数(1個、2個、3個、または4個)の循環腫瘍細胞(CTC)を用いて評価し、初期の疾患検出の確認を提供する。
【0031】
反復を除去したDNAプローブの作製
本発明の一実施形態には、DNAから反復配列を排除するための方法および組成物が含まれる。任意の二本鎖DNAが、本発明の方法の適用において適切な源である。反復配列を欠く一本鎖DNAを得るために、最初に、増幅全ゲノムライブラリをDNA源から標準的な手順に従って作製する。得られたライブラリは、サイズが約200〜500塩基対の範囲にあるランダムに選択された断片からなる。各断片は、標的配列の各末端にPCRプライマー配列を有する二本鎖DNAからなる。一般的に、このライブラリはDNA源の代表的なものである。また、増幅を可能にするDNAの改変断片をもたらす他の方法も、断片の大きさに制限なしに本発明で考慮される。これらには、限定されるものではないが、変性オリゴヌクレオチドプライムポリメラーゼ連鎖反応(DOP PCR)、ローリングサークルおよび等温増幅方法が含まれる。二本鎖DNA断片は、95℃まで加熱することによって、または一本鎖DNA断片を得るための他の手段によって変性させる。得られた一本鎖DNA断片は、反復配列、ユニーク配列またはユニーク配列および反復配列の組合せを含む。過剰のCot DNAまたは反復配列に結合する他の適切な相殺DNAを加える。続いて温度を下げることにより、反復配列を含むそれらの断片についてのみ二本鎖DNAの形成がもたらされる。二本鎖DNAの消化を行わせるために二重鎖特異的ヌクレアーゼ(DSN)を加える。一実施形態では、DSN酵素を2時間、65℃で加える。得られた組成物は主に、ユニーク配列のみを有する一本鎖DNAおよび消化DNAを含む。ここでは両末端にPCRプライマーを有する一本鎖DNAとなったユニーク配列を、プローブの生成で用いる大量のユニーク配列を作製するための鋳型として用いる。所望のユニーク配列を含むBACクローンをDNA源として用いた場合、この方法によって作製した鋳型はそのユニーク配列のみを含む。境界配列が知られている場合は、この方法は、ゲノムDNA中の境界配列の間のヌクレオチドにわたるプローブを得るために有用である。さらに、本発明には、その反復配列を排除した後にこれらのDNA配列を生成することにより得られた、使用方法および組成物が含まれる。これらの反復を除去したDNA配列は、所望しないDNA配列の無効化または遮断を要するいずれかの適切な適用において、遮断DNAを使用せずにハイブリダイゼーションプローブとして機能する。
【0032】
本発明の別の実施形態は、続くFISH解析のために免疫磁気標識した細胞の保存におけるシステム、装置、および方法を提供する。本態様は、それを同定するために従前に使用したものと同じまたは同様のレポーター分子を利用した、個々の細胞の再解析を可能にする。したがって、免疫磁気選択および最初の蛍光標識後、注目する細胞を同定し、その位置を記録する。細胞の位置を固定し、次いで適切な処置を行う。あるいは、細胞の位置を固定し、後の時点で処置するために保管する。FISH適用には、試料をDNAの融解温度より高く加熱し、その結果、最初に標的細胞を同定するために用いたレポーター分子が失われる。蛍光FISHプローブをハイブリダイズさせ、核材料を再度蛍光標識するFISHの完了後、FISHプローブからの蛍光シグナルを検査するために注目する細胞を位置付ける解析器に試料を再度導入する。
【0033】
本発明のもう一つの実施形態は、循環腫瘍細胞(CTC)のような希少循環細胞の同定における確認として、免疫磁気標識した細胞の再解析方法を提供する。したがって、特異性を増大させ、したがって患者内の疑わしいCTCが何であるかを癌細胞として確認する手段として、濃縮、免疫蛍光標識および続くin situハイブリダイゼーションを用いた確証的な解析後に細胞をさらに処置する方法ならびに技術。転移性癌腫患者で検出される形態学的に疑わしいCTC中で検出される細胞遺伝学的異常は、形態学的に明らかなCTCを有する患者または多量のCTCを有する患者に類似の予後診断を有する。本発明の一実施形態は、癌腫を診断され、CTCを有する、または骨髄中に播種性腫瘍細胞(DTC)を有する患者における確認アッセイを考慮しており、この場合、再発の危険性が高まっている。さらに、本発明の方法は、CTC中に、限定されるものではないが、Her1、Her2、アンドロゲン受容体(AR)、cMyc、またはP10のような薬物標的が存在するまたは存在しないかを評価する必要がある場合に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】BAC開始DNAから反復を除去したDNAプローブの作製を示す模式図である。断片化した全ゲノム増幅ライブラリを変性し、過剰のCot DNAの存在下で再アニーリングさせた。二本鎖DNAのDSN消化により、プローブ生成の鋳型として利用可能な一本鎖ユニーク配列の混合物がもたらされる。
【図2】DNA源からの特異的DNA配列の切断およびそのクローンの生成を示す模式図である。適切な由来源からの二本鎖DNAを変性し、特異的DNA配列をハイブリダイズさせる。二本鎖DNAのDSN消化、次いで、大きさによる一本鎖DNAの分離により、所望の一本鎖DNAの単離がもたらされる。第2の鎖の合成後、生成のために所望のDNAを適切なベクター内にクローニングする。
【図3】FISH解析における反復を除去したプローブを用いた比較を示す図である。白血球を、反復を含むHer−2プローブと、遮断DNAなしでハイブリダイズさせた。遮断DNAが存在しない場合は、プローブは反復領域を用いたハイブリダイゼーション後に核全体を標識する。パネルAは、反復を含むHer−2FISHプローブと、遮断DNAなしでハイブリダイズさせた白血球を示す。パネルBは、核をDAPIで標識した後の同じ細胞を示す。パネルCは、2つのシグナルを重ね合わせ、Her−2の解像を欠いた図である。パネルDは、反復を除去したHer−2プローブを用いた白血球のFISH解析を示す。矢印はHer−2のユニーク染色体配列の位置を示す。パネルEは核をDAPIで標識した後の同じ細胞を示す。パネルFは、パネルDおよびEを重ね合わせ、細胞核内のHer−2部位の位置を可視化した図である。
【図4】パネルAは、黒色腫を特徴づけるために頻繁に用いられる9p21を標的とする、P16(CDKN2A)で標識した反復を含まないプローブとハイブリダイズした染色体の拡大物を示す図である。2個の染色体が9p21の存在を示し矢印によって例示する。パネルBは、特定の種類の白血病を同定するために用いられる11q23を標的とする、MLLで標識した反復を含まないプローブとハイブリダイズした染色体の拡大物を示す図である。矢印によって例示するように、2個の染色体が11q23の存在を示す。
【図5】試料をFISH解析用に調製するために用いる固定およびハイブリダイゼーション装置の模式図である。免疫磁気濃縮および最初の蛍光イメージング後にFISH解析用に試料を調製するための小型かつ携帯型装置。コントロールパネル、電子機器、ポンプ、およびポーザー供給を試料カートリッジに関連して示す。
【図6】最初の蛍光イメージング後のFISHの基本的な工程の模式図である。試料カートリッジおよび磁気担体(黒いくさび状)の存在の断面図を示す。パネル1は、CellTracksSystemを用いた最初の蛍光イメージング後のカートリッジのイメージング面の内部表面に沿って配置された細胞を示す。パネル2は、緩衝溶液をFISH用に固定液で同時に交換することを示す。パネル3では、固定液を吸引して流体をカートリッジから除去する。パネル4は、カートリッジを乾燥させるために空気を強制的に加えることを示す。パネル5では、カートリッジを反転し、細胞を覆うだけの十分なFISHプローブを加える。パネル6は、ハイブリダイゼーションを可能にするための熱源上のカートリッジを示す。パネル7では、FISH試薬を洗浄して、パネル8でFISHシグナルの再走査および解析を可能にする。
【図7】カートリッジのチャンバ容量を縮小するための、プローブ伸長物を備えた、FISHカートリッジ用のストッパーの模式図である。
【図8】カートリッジの模式図である。反転したカートリッジおよび細胞の位置の断面図であり、FISH試薬はチャンバの低い試薬容量分布およびより小さな面を例示し、したがって下部表面全体に沿った細胞を覆うのに十分なだけの試薬を許容する。
【図9】最初に免疫細胞化学(ICC)によって、続いて第1、7、8および17染色体の存在に対するFISH解析によって同定した腫瘍細胞の代表的な画像である。パネルAは、そのICCシグネチャに基づいてソフトウェアによって同定したCTC候補のリストを示す。パネルBは、獲得した蛍光ICC画像を示す。パネルCは、同じ細胞腫瘍細胞の異数体シグネチャを実証する第1、7、8および17染色体の対応するFISHシグナルを示す。
【図10】5つの異なる蛍光色素について励起/発光フィルターを用いた、細胞の異なる焦点面での5つの蛍光画像を示す図である。パネルAはPEを用いた細胞の画像を示す。パネルBは、DAPIを用いた同じ細胞の画像を示す。パネルCは、APCを用いた同じ細胞の画像を示す。パネルDは、FITCを用いた同じ細胞の画像を示す。パネルEは、Dy415を用いた同じ細胞の画像を示す。
【図11】CTCを確認する、ICCおよびFISH解析の結果を示す図である。パネルAは、疑わしいCTCが同定されたICC走査のICC画像を示す。パネルBは、FISHプローブを用いた、対応する蛍光シグナルを示す。それぞれのプローブのシグナルの対応する計数をそれぞれの画像の横に示す;PEでは4つ、APCは1つ、FITCでは4つ、Dy415では2つである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
反復を除去したDNAプローブの作製
DNAはユニーク配列および反復配列を含む。反復配列は染色体全体にわたって出現し、これらの反復配列外の特異的領域またはユニーク配列を標的とするin situハイブリダイゼーションのようなハイブリダイゼーション反応を妨害する潜在性を有する。染色体、遺伝子またはDNA配列上の特異的配列の存在、量および位置を同定するためには、ハイブリダイゼーションプローブが注目する位置でのみハイブリダイズすることが重要である。ハイブリダイゼーションプローブ混合物中に反復配列が存在することにより結合の特異性が低減するので、方法では、反復配列をプローブから除去するか、またはプローブが標的上の反復配列とハイブリダイズすることを阻止する必要がある。たとえば、プローブと反復配列との結合を阻止するために、しばしばCot−1DNAをハイブリダイゼーション中に加える(US5,447,841号およびUS6,596,479号)。
【0036】
最近の寄稿では、反復配列を無効化することによってこの問題に対処している。Cot−1DNAの使用は、利用可能な一本鎖反復配列と二重鎖構造体を形成し、したがって配列のこの部分とユニーク標的配列との非特異的結合の相互作用を最小限にする、Cot−1DNAの能力に依存する。ハイブリダイゼーション工程中にユニーク標的配列を用いて、または事前会合工程でハイブリダイゼーション前に反復DNAを遮断することにより、その相補的配列と二重鎖構造体を形成する反復セグメントと、そのユニーク標的セグメントとのハイブリダイゼーションに利用可能な標的プローブの一本鎖形態とを有する混合物がもたらされる。残念ながら、続く増幅または標識反応においてこの二重鎖の存在は、特にシグナルが非常に弱い場合に、非特異的ノイズの導入によってシグナルに影響を与える。反復配列を遮断する代替方法は、所望しない反復セグメントを反応混合物から除去することである。
【0037】
この阻止の、反復を除去したDNAプローブの作製を図1に示す。本発明の一実施形態では、デオキシリボ核酸分子を優先的に切断する二重鎖特異的ヌクレアーゼ(DSN)を利用する(参考として組み込まれているUS2005/0164216号およびUS6,541,204号)。一本鎖DNAと比較して核酸二重鎖ポリヌクレオチドを優先的に切断する酵素の能力は、非標的二本鎖DNAを試料混合物から除去する手段を提供する。これらのヌクレアーゼがポリヌクレオチドの二重鎖形態を優先的に消化する能力は、ユニーク標的特異的プローブの製造における潜在的な使用を提供し、遮断DNAの妨害影響を排除し、迅速、効率的かつ対費用効果の高いその生成手段を提供する。
【0038】
本発明の実施で用いる開始DNAは、典型的には、多数のDNAセグメントを含む1つまたは複数のDNA配列の形態である。プローブ組成物の生成における個々の出発物質の最初の由来源は、直接標識したプローブの生成に記載されている(US6,569,626号)。最適には、開始ポリヌクレオチドの由来源を組織から精製し、限定されるものではないが、酵素処理(制限酵素)、ポリメラーゼ、制限DNase I消化、リョクトウ制限ヌクレアーゼ消化、超音波処理、DNAの剪断のような任意の周知の技術を用いて、150kb〜200kbのセグメントへと断片化する。これらのセグメント断片の一部が、特定のユニーク標的配列中の1つまたは複数のDNAセグメントの少なくとも一部分と相補的となる。個々のDNAセグメントを、プラスミド構築体内にクローニングし、その後細菌内に形質移入する方法などの、一般的に知られている方法によって増殖させる。クローン化断片を増殖させた後、単離された断片を表す個々のコロニーは、注目する配列の少なくとも一部分を含むと同定される。同定は、ハイブリダイゼーション、PCR、または市販ライブラリの確立されたデータベースの検索のような周知の技術によって行う。選択されたそれぞれのコロニーを増殖させ、染色体上の標的配列のセグメントに少なくとも部分的に相補的なユニーク断片を有する単離プラスミド構築体が得られる。例示的な標的配列には、HER−2、IGF−1、MUC−1、EGFR、およびARが含まれ、市販の供給者から入手可能であり得る(すなわち、BACクローン)。注目するクローン化断片を増殖および単離した後、それらからその反復ポリヌクレオチド配列を除去する。全遺伝子増幅(WGA)を用いて、断片を200〜500bpのセグメントとして単離したプラスミド構築体から増幅する。市販のDOP PCRは、この手順のこの一部分の一実施形態とみなされる。Cot−1DNAを増幅後に、最初に95℃まで加熱して二本鎖ポリヌクレオチドを一本鎖状態に変性し、その後、65℃まで冷却して反復配列の選択的再アニーリングを行わせることによって、WGAライブラリプールと合わせる。その後、最適DSN条件下の二重鎖特異的ヌクレアーゼ(DSN)を、完全一致した核酸二重鎖を含むが残りのどの一本鎖セグメントにも影響を与えない、優先的に切断するデオキシリボ核酸分子に加える。二重鎖核酸の選択的切断は、DNA−DNA二重鎖およびDNA−RNA二重鎖の酵素消化によって行う。本発明の具体的な実施形態には、カムチャッカ・カニ(US10/845,366号)またはエビ(US6,541,204号)から単離したDSNが含まれるが、二重鎖構造体の任意の酵素的除去が本発明で考慮される。エンドヌクレアーゼに特異的なヌクレアーゼの使用では、二重鎖DNA主鎖中のリン酸ジエステル結合が加水分解され、ヌクレオチド配列に特異的でないという利点が提供され、したがって、ほとんどの注目する標的に適用可能である。DSN消化は、続く残りの一本鎖ポリヌクレオチドの増幅のための、実質的な量の核酸二重鎖の除去を提供する。本発明の一実施形態は、2時間、65℃でのDSN消化である。得られた組成物は、染色体上のユニーク標的配列の一部分、ある程度の量の未消化の二本鎖DNA、および消化された塩基対に対応する一本鎖DNAを含む。好ましくは、遠心分離(すなわち、スピンカラムクロマトグラフィー)によって未消化のDNAを消化されたDNAおよびDSNから分離する。混合物は直ちに使用するか、または、標識およびin situハイブリダイゼーションでの使用などに続いて利用するために、精製した組成物を増幅する前またはその後に、80℃で保管する。増幅後、得られた標的プローブ配列をPCRによって増幅し、90%〜99%純粋な標的プローブ配列が得られ、これを、反復を除去したDNAと称する。
【0039】
一本鎖ポリヌクレオチドを二本鎖から濃縮および単離することにおけるDSNの使用は、一本鎖の実体を二本鎖の汚染物質から分離することが望ましい任意の一本鎖ポリヌクレオチドの生成に適用可能である。これは、限定されるものではないが、遺伝子もしくは染色体を同定するための標識プローブの生成、核型決定または一本鎖および二本鎖ポリヌクレオチドのプールのパンニングに特に適切である。
【0040】
生じたプローブは、組成物および生成のどちらも、本発明の実施形態とする主題に組み込まれている。本発明に記載した反復を除去したDNAは、FISHおよびすべての他の核酸ハイブリダイゼーションアッセイを含めたin situハイブリダイゼーションに有用である。本発明に記載した反復を除去したプローブを用いることで競合的結合の必要性が排除され、その結果、反応の特異性の増大および結合に必要なプローブの量の減少がもたらされる。
【0041】
二重鎖特異的ヌクレアーゼ方法
標的配列に対するハイブリダイゼーションプローブを作製するために、注目する配列を含むDNAを得る。注目する配列を含むDNAを得る方法は当業者に知られており、限定されるものではないが、組織または細胞からのゲノムDNAの単離、染色体の流動分別、ハイブリダイゼーション、電気的、またはPCRによる染色体のクローン化断片のスクリーニングライブラリが含まれる。
【0042】
本発明の実施で用いる開始DNAは、任意の方法によって由来源から精製する。典型的には、開始DNAは、ゲノム、染色体、染色体の一部分、または染色体のクローン化断片からなる。癌関連遺伝子の標的配列を含むことが知られている流動分別した染色体および細菌人工染色体(BAC)により、本発明に特に適用性が与えられる。例示的な標的配列には、HER−2、IGF−1、MYC、EGFR、およびARが含まれる。これらの配列を含むBACクローンは市販の供給者から入手可能である。
【0043】
注目する配列を含むDNAを同定して得た後、これらから反復ポリヌクレオチド配列を除去する。この過程は、注目する配列を含むライブラリを断片化および調製することから始まる。一方法は、クローン化断片を200〜500bpの断片へとランダムに切断し、リンカー配列を付着させることで、後にPCRを用いてライブラリを増幅および再増幅するために使用することができる、GenomePlex(登録商標)全ゲノム増幅(WGA)方法(GenomePlex(登録商標)はRubicon Genomics,Inc.の商標である)である。この例では、断片化した増幅したライブラリをDNA源とみなす。
【0044】
反復配列を除去するために、DNA源を一本鎖状態に変性し、その後、反復配列がアニーリングして二本鎖分子を形成し、ユニーク配列は一本鎖のままで保たれることを選択的に可能にする条件下で冷却する。その後、二本鎖反復断片を優先的に切断する一方で一本鎖ユニーク配列を切断しない二重鎖特異的ヌクレアーゼ(DSN)を加える。得られた混合物は、染色体上のユニーク標的配列の一部分、ある程度の量の未消化の二本鎖DNA、および消化された塩基対に対応する一本鎖DNAを含む。好ましくは、スピンカラムクロマトグラフィー、フェノールクロロホルム抽出またはいくらかの他の同様の方法によって未消化のDNAを消化されたDNAおよびDSNから分離するが、分離は必要条件ではない。その後、反復を除去したライブラリをハイブリダイゼーションプローブとして用いるか、またはPCRを用いて再増幅して、より大量のプローブDNAを調製する。増幅後、得られた標的プローブ配列は90%〜99%純粋な標的プローブ配列であり、これを、反復を除去したDNAと称する。
【0045】
前記のライブラリ断片化および増幅方法は限定することを意図せず、むしろ、断片化および増幅方法をどのように用いて反復を除去したプローブを作製するかの一例として役割を果たす。核酸を断片化および増幅する数々の方法が存在し、リンカー−アダプターPCR、DOP PCR、ローリングサークル増幅、転写媒介増幅が含まれ、すべての他の方法が本発明で考慮される。様々なライブラリの断片化および増幅の方法に適応するために、反復を除去したDNAを調製する上記方法のある程度の変形が必要となることが予測され、これらの変形も本発明に含まれる。
【0046】
本発明における1つの考慮は、二本鎖DNAを切断できるが、一本鎖DNAを切断できない酵素の使用である。本発明に含まれる酵素は、糖−リン酸主鎖の溶解、DNA二重鎖の一方もしくは両方の鎖の除去、または窒素塩基を除去してアプリン/アピリミジン部位を形成することを含めた任意の様式で二本鎖DNAを切断し得る。これらの酵素の非限定的な例には、エンドヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼ、制限酵素、ニッキング酵素、DNA修復酵素、トポイソメラーゼ、DNAジャイレース、および相同組換えに関連する酵素が含まれる。本発明の具体的な実施形態には、すべて参考として組み込まれている、カムチャッカ・カニ(US10/845,366号)、エビ(US6,541,204号)、T7エンドヌクレアーゼI、およびイー・コリエキソヌクレアーゼIIIから単離したDSNが含まれる。
【0047】
酵素濃度、消化時間、ならびに塩およびマグネシウムイオン濃度などの緩衝液条件が、二本鎖DNAに対するDSNの特異性に影響を与えることができる要素である。効率的な反復の除去を成すためにはこれらの条件の最適化が必要である。
【0048】
本発明における反復除去の効率および特異性は、変性および再アニーリングに用いる反応条件、ならびにDSNを用いた消化中に存在する条件に依存する。変性は、アルカリまたは加熱によって達成する。DNA再アニーリングの度合は、試料中に存在するDNAの濃度および再アニーリングにかける時間に依存する。反復配列の選択的再アニーリングが起こるためには、反復配列がユニーク配列よりも高い濃度で存在していなければならない。特定のクローン中の反復配列−対−ユニーク配列の比は、ゲノム全体にわたって領域ごとに異なる。様々な数の反復配列を有する領域にわたって除去過程を標準化するために、過剰の相殺DNAを反応に加える。加える相殺DNAの質量は所望の除去する反復の量に応じて変動し、好ましくはDNA源の質量の10〜50倍である。本発明では、相殺とは、相殺配列とDNA源中の配列の一部分とのハイブリダイゼーションを可能にして相殺配列を有用にする、ヌクレオチド配列中で反復配列と十分に相同的な配列を含むいずれかの核酸または核酸類似体であると考える。本発明の一実施形態には、DNA源から反復配列を除去するために用いる相殺DNAとしてCot−1DNAが含まれる。
【0049】
再アニーリングのストリンジェンシーは本発明のもう一つの構成要素である。塩濃度および温度が、いずれかの再アニーリング工程のストリンジェンシーを決定する要素である。反復除去の度合は、この工程のストリンジェンシー条件を調節することによって制御する。ストリンジェンシー条件を調節して100%相同的でない配列間のある程度のアニーリングを許容することにより、反復除去の度合が改善される。塩濃度の範囲は5ミリモーラー〜1000ミリモーラーのNaClであり、アニーリング温度の範囲は15℃〜80℃である。
【0050】
一実施形態では、反復除去過程は、再アニーリングおよびDSN消化が逐次的に起こるように行う。したがって、DNAを変性し、アニーリングに最適化した条件下で一定時間冷却する。その後、反応条件を、DSN消化の特異性および活性を最適化する条件に変更する。もう一つの実施形態では、再アニーリングおよびDSN消化は、同一条件下で同時に起こる。
【0051】
また、混合物中の一本鎖または二本鎖の画分のどちらかに対する酵素の特異性を変化させるために、DNA源または相殺DNAを、酵素消化の前またはその間に化学的または物理的薬剤で処理することも、本発明の範囲内である。たとえば、イー・コリRecAタンパク質を一本鎖および二本鎖DNAの混合物に加える。このタンパク質は混合物中の一本鎖DNAをコーティングし、混合物中の二本鎖DNAの消化を可能にしつつ、一本鎖DNAをイー・コリRecBC DNaseから保護する(「Escherichia coli RecA protein protects singles stranded DNA or Gapped Duplex DNA from degradation by RecBC DNase」。Williams,JGK、Shibata、T.Radding、CM Journal of Biological Chemistry、第246巻、第14号、7573〜7582頁)。また、一本鎖または二本鎖DNA画分に対する酵素の特異性を変化させる修飾ヌクレオチドを用いてDNA源または相殺DNAを作製することも可能である。
【0052】
二本鎖からの一本鎖ポリヌクレオチドの濃縮および単離におけるDSNの使用は、一本鎖の実体を二本鎖の汚染物質から分離することが望ましい、任意の一本鎖ポリヌクレオチドの生成に適用可能である。これには、いずれかの所望しない配列をDNA源から除去することが含まれる。これらの所望しない配列には、限定されるものではないが、反復配列、ユニーク配列、およびベクター配列が含まれる。この方法は、遺伝子もしくは染色体を同定するための標識プローブの生成、核型分析、または一本鎖および二本鎖ポリヌクレオチドのプールのパンニングに特に適切である。
【0053】
選択的結合方法
DNA源を変性し、反復配列のアニーリングを選択的に可能にすることによって、一本鎖または二本鎖DNA構造に優先的に結合する任意の薬剤を用いて反復配列をDNA源から除去する。このような薬剤の例には、限定されるものではないが、DNAまたはRNAポリヌクレオチド、酵素、抗体、DNA結合タンパク質、抗体とDNA結合剤との組合せ、ならびに天然または合成の化合物および分子が含まれる。DNA結合剤は、ユニーク配列または反復配列の陽性または陰性クロマトグラフィー選択を可能にする固体担体に、直接または間接的に連結していてよい。一例には、一本鎖または二本鎖DNAに対するビオチン標識抗体を用いた、一本鎖および二本鎖DNAの分離が含まれる。ストレプトアビジンでコーティングした常磁粒子を用いて、所望の集団を分離する。あるいは、一本鎖または二本鎖DNAに優先的に結合するDNA結合剤に対するビオチン標識抗体を同じ様式で用いる。
【0054】
他の一本鎖または二本鎖特異的酵素
また、本発明は、反復除去の促進におけるDNA源または相殺DNAの修飾において一本鎖または二本鎖DNAに優先的に作用する任意の酵素を具体化する。非限定的な第1の例は、変性および反復との選択的再アニーリング後にDNAリンカーを二本鎖DNA集団に選択的に連結することである。反復配列を除去するために、このリンカーを磁気(または常磁)粒子に付着した相同的なオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせる。第2の例は、DNA源の変性および選択的再アニーリング後に存在する一本鎖DNAを選択的に環化させるために一本鎖DNA/RNAリガーゼを用いることである。次いで、得られた環を、ローリングサークル増幅によって増幅および濃縮する。
【0055】
反復配列の構造特異的分離
特異的プローブの生成方法に加えて、かつ二本鎖DNAからの一本鎖DNAの分離に基づいて、本発明は、当該技術分野で知られている任意の方法を考慮し、ここで、ユニーク配列からの反復配列の分離が反復配列またはユニーク配列のどちらか中にある程度の検出可能なDNA構造の確立に伴って起こり、この検出可能な構造を用いて一方の集団を他方から分離する。検出可能なDNA構造のいくつかの例には、限定されるものではないが、三重鎖または四重鎖DNA、ヘアピン、パンハンドル、フラップ、Z−DNA、ホリデイジャンクションおよび組換え中に形成された他の構造が含まれる。これらの構造は、注目する配列中に天然に存在するか、または核酸源もしくは相殺核酸のどちらかもしくは両方を修飾することによって誘導し得る。
【0056】
反復配列の選択的消化
反復配列をDNA源から除去するもう一つの方法は、断片化して増幅可能なDNAライブラリを、その認識配列が反復DNA配列中に存在することが知られている制限酵素で消化することである。消化されたDNA源をPCRによって再増幅した場合、残りのライブラリはユニーク配列について濃縮され、反復を含む配列が除去される。
【0057】
消化および選択的ライゲーション
反復を除去したプローブを調製するもう一つの方法は、標的DNAを、消化された配列上に異なるオーバーハングを残す2つの制限酵素で消化することである。第1の制限酵素は、好ましくは反復配列内で切断する酵素であり、第2の制限酵素は、反復配列内で切断しない酵素である。消化後、第2の制限酵素によって切断された配列の末端にリンカーを選択的に付着させる。その後、これらのリンカー配列を用いて、反復配列が除去されたライブラリをPCR増幅する。得られた反復を除去したDNAは、組成物も生成も、本発明に組み込まれる。本発明に記載した反復を除去したDNAは、標的配列の特異的結合が所望される任意の種類のハイブリダイゼーションアッセイのプローブとして有用である。このような技術には、限定されるものではないが、ISH、FISH、CGH、スペクトル核型分析、染色体彩色、サザンブロット、ノーザンブロット、およびマイクロアレイが含まれる。ユニーク配列のみを含むハイブリダイゼーションプローブの生成は、本発明の一実施形態である。したがって、競合的結合の必要性が排除され、その結果、反応の特異性の増大、および結合に必要なプローブの量の減少がもたらされる。
【0058】
DNAを所望の位置で切断するための二重鎖特異的ヌクレアーゼの使用。
二重鎖特異的ヌクレアーゼの使用は、DNAから特異的配列を切断することにおいて有用性を有する。図2は、本実施形態の模式図を示す。所望の配列を含む一本鎖DNAをDNA源から得る。所望の配列の両末端を同定するオリゴヌクレオチドを加え、二重鎖特異的ヌクレアーゼを導入して所望のDNAプローブをDNA源から切断する。サイズ排除によって所望のDNAプローブを分離した後、DNAの第2の鎖を合成し、クローニングして、DNAプローブ源がもたらされる。したがって、二重鎖特異的ヌクレアーゼを用いてDNA配列を特異的領域で切断する。この方法は、PCRによって増幅するには大きすぎる注目する断片をクローニングする場合、および断片が適切な制限酵素部位を欠く場合に最も有用である。その後、これらの断片をハイブリダイゼーションプローブとして用いるか、配列決定するか、または任意の他の目的のために用い得る。図2では、DNAの一方または両方の鎖にアニーリングし、注目する配列に隣接する、2つのオリゴヌクレオチドを設計する。注目する配列を含むDNAを変性し、過剰の隣接オリゴヌクレオチドの存在下で再アニーリングさせる。二重鎖特異的ヌクレアーゼを用いた消化により、オリゴヌクレオチドがアニーリングした部位でDNAが選択的に切断される。残りの一本鎖DNA分子をサイズによって分画して注目する配列を得る。DNAポリメラーゼを用いて注目する配列を二本鎖にし、プラスミド内にクローニングする。これにより、より大きなDNAポリヌクレオチドから注目する配列をクローニングまたはサブクローニングする可能性が作り出される。部位特異的切断の第2の例は、ベクターを選択的に消化することによる、プラスミドベクターからのクローン化断片の回収である。一例では、クローン化DNA断片を含むプラスミドを変性し、クローン化DNAを欠く過剰のプラスミドの存在下で再度アニーリングさせる。二重鎖特異的ヌクレアーゼを加えることによりプラスミド配列が切断され、一本鎖のクローン化DNAを無処置のまま残す。その後、残りの一本鎖DNAを、限定されるものではないが、配列決定またはサブクローニングを含めた当該技術分野で知られている任意の用途に用いる。
【0059】
実施例1−反復を除去したDNAプローブを用いた、染色体または染色体の一部分の検出
UCSCゲノムブラウザソフトウェア(http://genome.ucsc.edu/cgi−bin/hgGateway)を用いたヒトゲノムの電子スクリーニングによる、Her−2遺伝子についてのプローブとして用いるために、BACクローンCTD−2019C10を選択し、クローンはInvitrogen(カリフォルニア州Carlsbad)から得た。BAC DNAはQiagen(カリフォルニア州Valencia)からのLarge Constructキットを用いて単離した。DNA源は、製造者の指示に従って、10ナノグラムの精製BACおよびGenomePlex(登録商標)完全全ゲノム増幅キット(Sigma−Aldrich、ミズーリ州St.Louis)を用いて調製した。2マイクログラムのCot−1DNA、1×二重鎖特異的ヌクレアーゼ緩衝液(Evrogen、ロシア、Moscow)、0.3モーラーのNaCl、および66ナノグラムのDNA源を含む除去混合物を調製した。除去混合物を5分間、95℃で変性し、氷上に10秒間置き、1単位の二重鎖特異的ヌクレアーゼ(Evrogen、ロシア、Moscow)を加えた。試料を65℃で90分間インキュベートした。Genelute PCRクリーンアップキット(Sigma−Aldrich、ミズーリ州St.Louis)を用いて5マイクロリットルの反応を精製し、精製したDNAを50マイクロリットルのアリコートで溶出させた。その後、15マイクロリットルの除去した試料を、全ゲノム再増幅キット(Sigma−Aldrich、ミズーリ州St.Louis)を用いてPCRによって再増幅した。記載のようにPCR反応を精製し、そのA260に基づいて定量した。10ナノグラムの第1の再増幅混合物を第2の再増幅の鋳型として用い、記載のように精製した。この物質を200〜500塩基対の平均分子量まで超音波処理し、エタノール沈殿し、蒸留HOに再懸濁させた。Kreatech ULS Platinum Bright Red/Orangeキット(Kreatech、オランダAmsterdam)を用いて生じたDNAを蛍光標識した。比較のために、反復を有するプローブも、除去過程で使用したDNA源から作製した。
【0060】
75%メタノール、25%酢酸で固定することによってフィトヘマグルチニンで刺激した白血球をFISH用に調製し、標準的な技術を用いてスライド上にスポットした。反復を除去したプローブとDNA源プローブとを2ng/μlで、Cot遮断DNAなしで、50%のホルムアミド、10%の硫酸デキストラン、および1×SSCからなるハイブリダイゼーション緩衝液中でハイブリダイズさせた。スライドおよびプローブを80℃で3分間同時に変性し、終夜、37℃でハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、試料を5分間、50℃、0.5×SSC、0.001%のSDSで洗浄した。試料を0.5μg/mlのDAPIで5分間対比染色し、50%のグリセロールに載せた。画像は、ローダミンおよびDAPIに適したフィルターを備えたLeica DM−RXA蛍光顕微鏡(Leica Microsystems、イリノイ州Bannockburn)を用いて得た。画像は、Photometrics SynSys白黒デジタルカメラ(Photometrics、アリゾナ州Tucson)を用いて得た。DAPIシグナルを増強し、Leica FW4000ソフトウェアを用いて重ね合わせた画像を作成した。比較のために、Her−2の画像は編集しておらず、同じカメラ設定でキャプチャした。図3は画像の比較を示す。パネルAは、反復を含むDNA源をハイブリダイゼーションプローブとして用いた場合、プローブは核全体を染色し、Her−2に特異的なシグナルは見られないことを示す。反復を除去したDNAをプローブとして用いた場合(パネルD)、Her−2遺伝子に対応する特異的シグナルは明白に検出可能である(矢印)。
【0061】
実施例2−本発明に従って反復配列を除去したDNAプローブは、手順中に遮断する反復を含む従来のDNAプローブと比較して、蛍光標識したDNAプローブの可視化を向上する。
蛍光標識したプローブの信号対雑音比は、本発明に従って得た反復を除去したDNAプローブを用いた場合に有意に向上する。この比較のために、当業者に知られている9p21および11q23を標的とするDNAプローブを用いた。これらのシグナルは、シグナルが比較的小さく、識別が困難だということが問題である。本発明に従ってプローブから反復配列を除去し、グアニンのN7位と配位結合を形成する白金基に連結した蛍光レポーター分子を用いて、プローブを蛍光標識した(ULS labeling、Kreatech、Amsterdam)。図4のパネルAおよびBは、それぞれローダミンで標識した9p21およびdGreenで標識した11q23のプローブとハイブリダイズした染色体の拡大物を示す。図中に矢印で示したように、反復を含まないプローブからの明白なシグナルは、反復を含まないプローブから識別することができる。したがって、これらのプローブの存在の可視化は、従来方法により得られたプローブを用いて得られるものより優れている。この可視化の向上により、黒色腫(パネルA、9p21、P16(CDKN2A)および白血病(パネルB、11q23、MLL)のより正確な示差的診断がもたらされる。
【0062】
続く解析のための免疫磁気標識した細胞の保存
免疫細胞化学(ICC)イメージング解析中、細胞は、外部磁石によって適用される磁力によって、カートリッジの光学的に透明な表面に磁気的に保持される(US5,466,574号)。装置の計算した保持力は約10−9ニュートンである。この保持力は、限定されるものではないが、細胞上の強磁性流体粒子の数、磁気粒子の大きさ、および外部磁石によって適用される磁場勾配を含めたいくつかの変数に依存する。細胞をガラス表面に固定するためには、緩衝溶液を除去し、メタノール、アセトン、酢酸、当該技術分野で知られている他の薬剤およびこれらの組合せなどの細胞固定溶液によって置き換えなければならない。解析する細胞を移動または除去しないように、緩衝溶液の吸引は注意深く完了しなければならない。流体を試料チャンバから吸引する際、流体のメニスカスが磁気的に保持された細胞に剪断力を適用する。これらの剪断力は磁気保持力よりも大きい場合がある(計算すると10−9ニュートンを超える)。そのような場合、細胞をカートリッジ内で移動させるか、または緩衝溶液と共にカートリッジから吸引されるように移動させる。流体の剪断力は、カートリッジのガラス部分を渡って移動する速度、吸引プローブとガラス表面との距離、吸引する流体の速度および粘度ならびに他のパラメータの関数である。さらに、吸引後、固定溶液を加える前にガラス表面を乾燥させることは、カートリッジ内の細胞に負の効果を与える可能性がある。加えて、固定溶液を空のカートリッジに加えることは、細胞の分布をさらに乱す。
【0063】
したがって、本発明の一態様は、細胞をメニスカスによって引き起こされる流体剪断力に供さずに緩衝溶液を固定流体に交換する方法を提供することによって、これらの問題に対処する。固定溶液をカートリッジの底部に分注すると同時に、置き換えられる緩衝溶液をカートリッジの上部から吸引する。固定液および緩衝液のある程度の混合が2つの流体の境界で起こるが、ガラス表面への必要な細胞固定を完了するために十分な固定溶液を分注する。この流体置換は、分注した固定溶液と置換した流体の吸引との流動のバランスをとり、また、免疫磁気によりガラスの表面に付着した細胞を保つ磁気保持力によって、カートリッジ中の細胞に与えられる剪断力を最小限にして起こる。本発明の好ましい一実施形態では、カートリッジから溢れさせずにカートリッジ内の約100マイクロリットルの流体を置換することにおいて、US6,861,259号;US10/988,057号;およびUS7,011,794号;US11/294,012号に記載の試料チャンバの入口面積を利用する。カートリッジの開口部は、固定溶液を分注して緩衝溶液を置き換えつつ、吸引プローブからの緩衝溶液の除去を可能にするために十分である。細胞が固定流体によって固定された後、細胞を乱す危険性なしに流体を除去し得る。この手順は、調製過程にばらつきを導入する可能性のあるオペレータのインタラクションを最小限にして、続くFISHまたは他の解析のための試料の自動処置を可能にする。
【0064】
本発明は、ベンチトップ装置でのICCイメージング後にカートリッジ中の細胞の完全かつ一貫した固定を可能にする自動装置を記載し、続くFISHイメージング解析のための、ICC後の標的細胞の調製の全工程を組み込む。図5は、個々の構成要素の相対的な位置を示す、装置の模式図を示す。したがって、緩衝液の除去および固定のために、ICCイメージングを行った試料を含むカートリッジを装置内に入れる。ピペットと組み合わせたシリンジおよびシリンジポンプにより、緩衝液を吸引して固定液を分注する。図6は、細胞の固定およびハイブリダイゼーションに関与する工程の模式図である。本発明の一実施形態では、流体の除去および添加によって示される力による細胞の動きを最小限にするために、緩衝液の除去および固定液の添加を同時に行う。固定は、すべての流体をカートリッジから除去し、続いて固定試薬の添加および除去に用いたものと同じピペットを用いてカートリッジ内に空気流動を強制することによってカートリッジを乾燥させるによって、完了する。固定および乾燥後、カートリッジを保管するか、または直ちにFISHもしくは他の追加の解析に使用する。固定液に最適な混合物は標的の実体(すなわち、DNA、RNA、タンパク質)に応じて異なる。
【0065】
FISHの固定プロトコル
細胞を上部表面上に固定し、無処置のまま残し、FISHプローブが接近可能にするためには、以下のプロトコルを開発し、自動ベンチトップ装置に実装する:
1.250マイクロリットルの固定液をカートリッジの底部から分注する(カートリッジは立位)。
2.上部から250マイクロリットルを吸引し、廃棄する。
3.250マイクロリットルの新しい固定液をカートリッジの底部から分注することを繰り返す。
4.すべての流体をカートリッジの上部から吸引する。
5.カートリッジに空気を流すことによってカートリッジを乾燥させる。吸引/分注に用いたピペットを空気流動にも用いる。
【0066】
容量の縮小
抗体またはポリヌクレオチドプローブの費用およびそれらを高濃度で用いることが必要であることから、高濃度を用いることによるコストが非常に少量の試薬しか用いないことによって相殺されるように、反応を非常に小さな閉ざされた容量内で実施する(たとえば5マイクロリットル〜25マイクロリットル)。US6,861,259号;第10/988,057号;およびUS7,011,794号;第11/294,012号に記載の試料カートリッジを、チャンバ内での固定後の反応器として用いる。これらのカートリッジでは、細胞を固定するチャンバの実際の容量は320マイクロリットルである。したがって、固定した細胞をin situハイブリダイゼーションで解析する必要があるが、ほとんどのプローブを高濃度の320マイクロリットル加えることは高価かつ非現実的である。
【0067】
この問題に対処するために、加えたプローブの容量の縮小と共に、細胞を固定したカートリッジの光学的に透明な表面の表面全体にわたって均一なプローブ混合物の分布が必要である。この方法は以下によって達成する:
1.カートリッジ内に物体を挿入して容量を縮小する。
2.カートリッジが水平位にあり、細胞の面が下側にある場合に(底部に光学的観察面)、十分に大きな容量であるが、細胞を固定した全表面にわたって320マイクロリットルよりも小さい容量を用いる。
3.小さな容量、および試薬の密度よりも低い密度を有する流体を用いる。低密度の流体は試薬の上方に浮き、試薬が表面全体にわたって均一に拡大することを可能にする。
【0068】
第1の可能性の例として、ストッパーのプローブ末端に伸長物を導入して、その部分がチャンバの全長を伸長するようにする(図7)。伸長物はチャンバの容量の約1/3を満たす。伸長物の直径は、チャンバの開口部を通って滑るような寸法、直径2.36mmである。伸長物は、既存のプラグのモールド上に新しいプラグ全体をモールドすることによって、または固体金属棒をプラグの中心線に挿入することによって作製する。材料は、たとえば、316ステンレス鋼、ポリプロピレンまたはインコネル625など、試薬に対して不活性でなければならない。プラグの上部分を熱可塑性プラスチックでオーバーモールドすることは、挿入中に形状を維持するための適切なプラスチック硬度計を確実にするため、かつ液体の密封およびプラグの固定を維持するためにチャンバ内に配置した際に必要である。さらに、プラグおよび伸長物は、所望により、過程中にチャンバ内の温度を監視するために、中央の穴から出し入れすることができる。プラグはさらに、取り外して適切な洗浄後に再使用するように設計されている。
【0069】
第2の実施形態を図8に示す。50マイクロリットルの容量のFISH試薬が、カートリッジの上部表面全体を覆うのに十分である。完全な反応を確実にするためにこの容量が必要であり、これは試薬の粘度および疎水性に依存する。試薬の添加後、試薬への曝露をさらに確実にするためにカートリッジを水平位に置く。
【0070】
1つの他の実施形態は、第2の実施形態を、試薬容量をさらに縮小して組み込む。記載のように試薬を注入した後、より低い密度の余剰の流体を注入する。より低い密度の流体は試薬の試薬の上方に浮くので、表面全体にわたってより完全な反応となる。試薬の構成成分に応じて、25マイクロリットルの試薬の容量が得られる。
【0071】
免疫磁気標識した細胞の再解析
染色体異数性は遺伝子障害、特に癌に関連している。これらの染色体異常の、特にin situハイブリダイゼーション(ISH)を用いた検出を提供する診断方法が利用可能である。組織または細胞試料におけるISHおよび免疫細胞化学(ICC)の適用はよく確立されているが、単一細胞におけるISHおよびICCの同時解析に診断上有効な方法を確立する明らかな必要性が存在する。本発明の一態様は、個々の細胞におけるこれらの染色体異常の検出を提供し、これは、対費用効果および特異性の高い手段によって形態学的に疑わしい癌細胞を確認することに関する。
【0072】
本発明の一態様は、濃縮および免疫細胞化学的(ICC)解析後の、希少細胞のさらなる処置を提供する。たとえば、上皮細胞のような循環希少細胞は、疑わしい癌細胞として同定されている(US6,365,362号;US6,645,731号;およびUS11/202,875号は参考として組み込まれている)。疑わしい細胞は、特異的細胞抗原および核酸標識によって同定する。これらの疑わしい細胞の確認は、次いで、同定した疑わしい細胞内の染色体変化(すなわち、異数性)を評価するために用いる染色体および/または遺伝子のどちらかを定義する、特異的ユニーク標的配列の発現によって決定される。したがって、本発明の一実施形態には、ICC染色と、続いてCTCを定義する選択された染色体の群に対する蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)による確認との組合せが含まれる。
【0073】
癌を確証するアッセイは、CellTracks(登録商標)AutoPrep(登録商標)およびCellTracks(登録商標)Analyzer II Systems(Immunicon Corporation)によって提供され、US6,365,362号にさらに記載されているように、循環腫瘍細胞の免疫磁気濃縮および蛍光イメージングを行った後、特異性の増加を提供する。確証的な試験は、疾患の段階にかかわらず1つまたは複数のCTCを癌細胞として指定することを可能にし、したがって、試料をCTCに対して陽性と呼ぶ閾値が低下する。本発明の一実施形態は、ICCで決定された疑わしいCTCを確認するために、第1、7、8および/または17染色体中の異数性を評価することである。さらなる実施形態には、治療標的が存在することまたは存在しないことを検出するために、限定されるものではないが、HER−2、IGF−1、MYC、EGFR、およびアンドロゲン受容体(AR)のような個々の遺伝子の検出が含まれ、したがって正しい治療の選択を行う手段が提供される。
【0074】
したがって、自動化および標準化された血液試料の処置方法は、ICCによる循環上皮細胞の同定を提供する。分配した血液試料からの吸引した血漿を、標的細胞集団に特異的な抗体(すなわち、EpCAM陽性)にコンジュゲートした強磁性流体試薬と合わせる。これらの細胞を、外部から適用した磁場によって免疫磁気的に採取し、非標識細胞の分離および除去が可能となる。
【0075】
標的細胞を分離した後、画像提示装置を用いたイメージング解析のためにこれらを使い捨てカートリッジに分注する(US6,790,366号およびUS6,890,426号)。この装置は、続くICCイメージングのために標識した細胞をチャンバの光学的に透明な表面に沿って配向させる磁場を及ぼすように設計されている。
【0076】
ICCイメージング後、適切なアルゴリズムを用いて疑わしい細胞を同定する。疑わしい細胞の画像をユーザに提示し、ユーザが提示された疑わしい細胞が何であるかの最終決断を行う。疑わしい細胞の画像およびチャンバの光学的に透明な観察面に沿ったその相対的な位置を、後に使用するために記録および保管する。ICCイメージング単独では、5個未満のCTCを有する血液試料の臨床的有意性を評価するため、または疑わしい癌細胞に関する詳細な遺伝情報を提供するための特異性を欠くので、完全なプロフィールを提供し、スクリーニング、疾患の再発の評価、および全体的な生存を含めた診断的解析に用いることができる確証的な機構を確立するためには、個々の疑わしい細胞に対する複数パラメータ遺伝子プロファイリングを用いた解析が続いて必要である。本発明の一実施形態では蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を複数パラメータ遺伝子解析として利用するが、他のプロフィール評価も考慮される。これにより、観察面に沿って存在する個々の細胞の表現型および遺伝型のプロフィール評価がどちらも提供される。
【0077】
FISHは、DNAの融解温度を超える温度およびICC標識と適合性のない試薬を必要とする。ICCおよびDNA標識のほとんどはFISH手順を乗りきれず、すべてのシグナルが処置中に失われる。したがって、FISH解析に興味深い細胞と同定された細胞は、その位置を辿ることができない。したがって、ICC画像が得られた後、続く複数パラメータ遺伝子解析(FISH)またはICC標識が失われる他の種類の解析のために、光学的に透明な観察面に沿った細胞の位置が維持される検出方法の必要性が存在する。これは、部分的に、細胞の損失または表面に沿った実質的な移動がまったくなくICC画像が得られた後、細胞を光学的に透明な表面上に固定することによって成される。したがって、FISH試薬の添加後、カートリッジをホットプレートに載せ、固定細胞を有する表面をホットプレートと接触させる。アッセイの種類に応じて、ホットプレートを2〜48時間実行する異なる温度サイクルでプログラミングする。温度サイクルの完了後、過剰のFISH試薬をカートリッジから除去する。固定した細胞の核を可視化するために、カートリッジにDNA標識を含む緩衝溶液を満たす。用いたDNA標識に応じて、標識はカートリッジ中に残るか、染色後にカートリッジから洗い流される。
【0078】
次に、2回目の走査のためにカートリッジをCellTracks(登録商標)Analyzer II Systemに戻す。1回目のICCイメージング解析中に上部表面上に存在していた細胞は固定されていたので、同じ細胞はカートリッジ内で同じ相対的な位置のままである。イメージングシステム(CellTracks(登録商標)Analyzer II System)に対するカートリッジのシフトを評価するために、2回目の走査の画像中の核の位置を、1回目のICC走査の画像中の核の位置と比較する。互いに対するこれらの画像のシフトは、畳み込みアルゴリズムを用いて決定する。このシフトを決定した後、特異的な注目する細胞をそのICC画像に基づいてリストから選択し、2回目の走査のFISH後にカートリッジの表面上に再配置することができる。次に、様々なFISHプローブの蛍光画像が得られる。
【0079】
図9は、ICCによって同定し、第1、第7、第8および第17染色体の存在についてプロービングした腫瘍細胞の代表的な画像を示す。パネルAは、ソフトウェアによってサイトケラチン(上皮由来の細胞中に存在する細胞骨格タンパク質)陽性およびDAPI(核酸染色)陽性として同定されたCTC候補のリストを示す。ハイライトした事象の対応する画像は、CTCの定義(サイトケラチン陽性、CD45陰性、DAPI陽性の事象および細胞の形態的外観)が確認されたので、ユーザによってCTCとして同定された。10×対物レンズを用いて撮影した4つの画像をパネルBに示す。左上の画像は核のDAPI染色を示し、左下の画像は細胞質のサイトケラチン染色を示す。陽性染色の欠如によって例示されるように、CD45染色およびFITC染色は欠如している。細胞を保存し、第1、第7、第8および第17染色体についてセントロメアプローブのプロービングを行った後、カートリッジの上部表面の画像を再度獲得し、パネルCに、第1、第7、第8および第17染色体のプローブの蛍光シグナルをパネルBに示す細胞と同じ細胞について示す。2個のコピーの第1染色体、3個のコピーの第7染色体、4個のコピーの第8染色体および2個のコピーの第17染色体が明白に視認でき、これは、細胞が異数体であることを実証しており、実際に癌細胞であることが確認された。
【0080】
図10に示す画像は、10×、NA0.5プランアクロマート対物レンズを用いて獲得した。解像度はほとんどのセントロメアプローブには十分であるが、遺伝子特異的プローブ、たとえばHER−2およびEGFR FISHプローブには不十分である。この理由から、ICC画像収集に用いる対物レンズ10×、NA0,5対物レンズを、カートリッジの透明な上部表面の光学的厚さに対して補正した40×、NA0.6対物レンズに交換する。高いNAの対物レンズの使用により、注目する細胞の3Dイメージングが可能となり、選択した細胞中のFISHプローブで標識した配列の正しいコピー数を確信的に決定することが可能となる。注目する特異的細胞の光学軸に沿った様々な焦点面での複数の画像を獲得し、次いで細胞の3D再構成を行う。図10は、5つの異なる蛍光色素について励起/発光フィルターを用いた、細胞の5つのそのような切片を示す。パネルAはPEの5つの切片を示す。切片#2では2つのシグナルしか視認できないが、切片#3では3つのシグナルが視認できる。パネルBはDAPI染色の5つの切片を示す。パネルCのAPC切片では、切片#2は1つのシグナルを示す。パネルDのFITC切片では、切片#3は2つのシグナルを示し、切片#4は2つの異なるシグナルを示し、このプローブの合計が4つとなる。パネルEでは、Dy415切片は、切片#2で1つのシグナルを示し、切片#3で2つのシグナルを示す。画像から、プローブが核の様々な部分に位置し、シグナルの計数に1つの焦点面しか用いないことは妥当でないことが明らかである。図11、パネルAは、図10からの画像の積み重ねとして提示するCTCの蛍光ICC画像。パネルBでは、それぞれの蛍光色素の切片を加えて平均強度が提示され、したがって、画像のスケールがとられて強度レベルの範囲全体が使用され、これは計数を容易にする。それぞれのプローブのシグナル数の計数をそれぞれの画像の横に示す(すなわち、PEで4つ、APCで1つ、FITCで4つ、dy415で2つ)。
【0081】
本発明の主題は癌細胞の検出に限定されず、他の細胞種を特徴づけるためにも使用できることを理解されたい。細胞遺伝学的異常の検出に頻繁に追求される一細胞種は、母体血中の胎児細胞である。このような細胞を濃縮するためには、胎児細胞上に高頻度で存在し、母体細胞上に低頻度で存在するマーカーを標的とする必要がある。頻繁に追求されている一細胞種は有核赤血球である。すべての有核赤血球上に存在するマーカーは、たとえば、トランスフェリン受容体(CD71)である。強磁性流体と連結した場合、有核赤血球は、CellTracks(登録商標)Autoprep(登録商標)Systemを用いて全血から再現性よく濃縮される。濃縮した細胞は、胎児有核赤血球、母体有核赤血球、活性Tリンパ球、未熟網状赤血球および免疫磁気濃縮によって持ち越された他の細胞を含む。ここで、濃縮した細胞集団を、胎児由来および母体由来の細胞を識別するマーカーを用いて染色する。マーカーのそのようなパネルの1つは、解析から白血球を排除するためのCD45と、胎児赤血球中に存在するが母体赤血球中には稀にしか存在しないヘモグロビンF、成人赤血球中にのみ存在する炭酸脱水酵素、および細胞の核を同定するためのDAPIとを、組み合わせて使用することである。CellTracks(登録商標)Autoprep(登録商標)Systemを用いて細胞を再現性のよい様式で染色する。抗原の一部は細胞内にあるので、抗体が細胞膜を通過するためには細胞を透過処理する必要がある。透過処理に用いる薬剤は未熟網状赤血球も溶解し、CD71および手順にわたって持ち越された残存赤血球を使用することによって特異的に選択される。様々なレポーター分子を有するプローブを用いて細胞を染色した後、染色した細胞を含むカートリッジをCellTracks(登録商標)Analyzer II Systemに入れる。このシステムは、胎児有核赤血球候補をDAPI、CD45、胎児ヘモグロブリン、炭酸脱水酵素の事象として同定する。ユーザは、これらの事象が胎児有核赤血球に典型的なすべての特徴を確かに有することを確認することができる。システムが胎児有核赤血球の位置を記録した後、前記のようにカートリッジを空にし、細胞遺伝学解析のために細胞をプローブとハイブリダイズさせる。比較的頻繁な細胞遺伝学的異常を同定するために典型的に用いるプローブは、X、Y、第13、第18および第21染色体を認識するものである。1回目のICCイメージング解析中に上部表面上に存在していた細胞は固定されており、同じ細胞はカートリッジ内で同じ位置のままであるので、細胞を染色した後、カートリッジをCellTracks(登録商標)Analyzer II Systemに再度挿入する。システムは事象に戻り、X、Y、第13、第18および第21染色体を同定するために用いた蛍光色素の画像を撮影する。その後、ユーザがそれぞれの染色体のコピー数を評価し、胎児の性別を決定し、染色体のコピー数が細胞遺伝学的異常の存在を示唆するかどうかを決定する。
【0082】
実施例1−CTC同定後の細胞遺伝学的異常の検出。
7.5mLの血液からのCTCが、CellSearch System(Veridex、LLC)を用いてEpCAM抗原を標的とした免疫磁気濃縮後に、サイトケラチン+、CD45−有核細胞として同定された。CTCはCellTracks(登録商標)Analyzer (Immunicon Corporation)によって同定し、細胞はカートリッジの上部表面に沿って磁気的に保持されている。細胞遺伝学解析には、細胞の最初の位置を維持したまま、カートリッジ中の流体を除去して細胞を固定した。第1、7、8および17染色体に対する蛍光標識したプローブをカートリッジ内に導入し、細胞とハイブリダイズさせた。固定およびハイブリダイゼーション過程により、CTCの同定に用いた蛍光標識が除去される。ハイブリダイゼーション後、カートリッジをCellTracks(登録商標)Analyzerに再度入れ、2回目の解析を行った。その後、1回目の走査で同定されたCTCの蛍光画像を、2回目の走査で得られた4個の染色体標識のそれぞれからの蛍光画像と合わせた。1回目の走査で同定されたそれぞれのCTCについて、第1、7、8および17染色体の数を計数した。CTCを取り囲む白血球中に検出された染色体の数を内部対照として用いた。転移性癌腫に罹患している8名の患者からの7.5mLの血液のうち、1〜7個のCTCを同定した。2個を超えるまたは2個未満のコピー数の第1、7、8または17染色体が、8名の患者全員で検出された。染色体異常の不均一性は、異なる患者のCTC間だけでなく、同一患者のCTC間でも検出された。検査した21個のCTCのうち、77%が染色体異常を示し、大多数が染色体のコピー数の増加を示していた。対照的に、80%を超える検査した白血球で2コピーの染色体が示され、染色体コピー数の増加を示したものは存在しなかった。
結論:CTCの細胞遺伝学組成物は、同定した後に評価することができる。染色体異数性CTCの存在は、患者の状態の結果に関する情報を提供し、臨床成績の予後的指標を提供する。さらに、CTCの遺伝子変化は、現在および将来のがん治療の指標を提供する。
【0083】
実施例2−治療の成功を予測するためのCTCに対する抗癌標的の評価。
CellSearch System(商標)は、転移性癌腫に罹患している患者の血液中の腫瘍細胞の存在が乏しい生存の見込みに関連していることを実証するために、多施設の先見的研究で用いられている。これらの研究において1サイクルの治療後に循環腫瘍細胞(CTC)の排除に成功しなかったことは、これらの患者が無益な治療を受けていることを強く示唆している。腫瘍に対する治療標的の存在の評価により、適切な治療選択が可能となるはずである。治療の開始前に抗癌標的をCTCで同定する。7.5mLの血液からの細胞が、EpCAM免疫磁気選択後にサイトケラチン(CK)+、CD45−および有核と同定された。疑わしいCTCを同定し、カートリッジの上部表面に局在化させて磁場によって保持した。HER2、IGF−1、Bcl−2およびEGFRのような、既知の治療に関連する治療標的を認識する蛍光標識した抗体をCTCで評価する。次いで、細胞遺伝学解析のためにCTCを保存する。カートリッジ中の流体を除去した後、細胞を固定し、プローブハイブリダイゼーションのために最初の位置を維持する。システムがその最初の位置を知っているので、注目するプローブの存在について細胞を再検査することができる。結果は、第1、7、8および17染色体とのハイブリダイゼーション前および後のCTCおよび白血球を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.試験対象から生物検体を得る工程であって、前記検体が標的細胞を含むと疑われる混合細胞集団を含む工程と;
b.免疫磁気濃縮によって疑わしい前記標的細胞の部分集団を単離する工程と;
c.複数パラメータ表現型プロフィールによって疑わしい標的細胞を同定する工程と;
d.疑わしい標的細胞を複数パラメータ遺伝子型プロフィール用に調製する工程と;
e.前記遺伝型プロフィールによって疑わしい標的細胞を確認する工程であって、前記個々の疑わしい標的細胞が前記標的細胞の表現型および遺伝型プロフィールをどちらも含む工程と
を含む、混合細胞集団中の疑わしい標的細胞の検出および計数を確認する方法。
【請求項2】
前記免疫磁気濃縮が、
a.他の集団を実質的に排除するために、前記検体を、疑わしい前記腫瘍細胞と特異的に結合するリガンドに連結したコロイド状免疫磁気粒子と混合する工程と;
b.前記腫瘍細胞が前記試験検体中に存在する場合は、免疫磁気粒子と結合した腫瘍細胞が濃縮された、分離された細胞画分を生じるために、検体−免疫磁気粒子混合物を高勾配磁場に供する工程と
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記表現型プロフィールが、複数パラメータフローサイトメトリー、免疫蛍光顕微鏡観察、レーザー走査サイトメトリー、明視野系イメージング解析、毛細容量測定、スペクトルイメージング解析、手動細胞解析、自動細胞解析およびその組合せよりなる群から選択される方法によって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝子解析が、ISH、FISH、CGH、スペクトル核型分析、染色体彩色、ノーザンブロット、サザンブロット、マイクロアレイ解析、およびその組合せよりなる群から選択される方法によって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
標的細胞が内皮細胞、上皮細胞、胎児細胞、細菌細胞、心筋細胞、ウイルス感染細胞、およびその組合せよりなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝子解析が、in situハイブリダイゼーション中に、形態学的に同定可能な細胞核内の染色体の存在を検出する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記遺伝子解析が、第1染色体、第7染色体、第8染色体、第17染色体、およびその組合せよりなる群から選択される染色体を検出することである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記疑わしい標的細胞の確認により、前記試験対象の診断的、予後的、または治療的情報が提供される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記染色体が、DAPIを用いて染色した細胞核内で形態学的に同定可能である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
a.試験対象から生物検体を得る手段であって、前記検体が標的細胞を含むと疑われる混合細胞集団を含む手段と;
b.免疫磁気濃縮手段によって疑わしい前記標的細胞の部分集団を単離する手段と;
c.表現型プロフィール解析手段によって疑わしい標的細胞を同定する手段と;
d.疑わしい標的細胞を遺伝型プロフィール解析手段用に調製する手段と;
e.前記遺伝型プロフィールによって疑わしい標的細胞を確認する手段であって、前記個々の疑わしい標的細胞が表現型および遺伝型特徴をどちらも含む手段と
を含む、混合細胞集団中の疑わしい標的細胞の検出および計数を確認するシステム。
【請求項11】
生物検体を得るための前記手段が前記検体の固定を含む、請求項10記載のシステム。
【請求項12】
前記免疫磁気濃縮手段がコロイド状磁気粒子を用いる、請求項10記載のシステム。
【請求項13】
前記表現型プロフィール解析手段が自動免疫蛍光細胞解析手段である、請求項10記載のシステム。
【請求項14】
前記遺伝型プロフィール解析手段がFISHである、請求項10記載のシステム。
【請求項15】
a.反復配列を除去したポリヌクレオチドと;
b.前記ポリヌクレオチドに連結した標識部分と
を含む、ヌクレオチドを標識するキット。
【請求項16】
染色体のセントロメア領域に相補的な配列を有する、請求項15記載のキット。
【請求項17】
二重鎖特異的ヌクレアーゼを用いた消化によって前記ポリヌクレオチドから前記反復配列を除去する、請求項15記載のキット。
【請求項18】
前記標識部分が、白金系の配位結合によって前記ポリヌクレオチドと連結したフルオロフォアである、請求項15記載のキット。
【請求項19】
a.緩衝溶液中に疑わしい癌細胞を有する試料を含むカートリッジを得る工程と;
b.置き換えられる緩衝溶液を吸引しながらFISH解析用の固定溶液を分注する工程であって、固定液と緩衝液とが最小限の混合を有する工程と;
c.分注と吸引の流動のバランスをとることによって細胞に対する剪断力を最小限にする工程と
を含む、疑わしい標的細胞を含むカートリッジ内の緩衝溶液を交換する方法。
【請求項20】
d.緩衝溶液中に疑わしい癌細胞を有する試料を含むカートリッジを得る手段と;
e.置き換えられる緩衝溶液を吸引しながらFISH解析用の固定溶液を分注する手段であって、固定液と緩衝液とが最小限の混合を有する手段と;
f.分注と吸引の流動のバランスをとることによって細胞に対する剪断力を最小限にする手段と
を含む、疑わしい標的細胞を含むカートリッジ内の緩衝溶液を交換する装置。
【請求項21】
疑わしい細胞を免疫磁気的に捕捉し、観察面に沿って整列させることによって得られる、前記疑わしい標的細胞の蛍光イメージングに用いるカートリッジ装置用の改善されたストッパーであって、改善がチャンバ内の流体を置き換えるためのストッパープローブ伸長手段を含み、前記ストッパープローブの伸長物の直径が、プローブがチャンバ開口部を通って滑るような直径である該ストッパー。
【請求項22】
a.カートリッジ中の流体を移すためのシリンジポンプ(ここに、前記流体は、緩衝液、固定液、またはハイブリダイゼーション緩衝液である)と;
b.試薬を移すための試料結合システムと;
c.乾燥用の吸引プローブと;
d.フィードバック熱電対、制御熱電対、および温度調節器を介して作動するヒーターブロックと
を含む、蛍光in situハイブリダイゼーション用に疑わしい癌細胞の集団を調製するための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図9】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−175976(P2012−175976A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−99354(P2012−99354)
【出願日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【分割の表示】特願2008−532351(P2008−532351)の分割
【原出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(309021320)ベリデックス・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (7)
【氏名又は名称原語表記】Veridex,LLC
【Fターム(参考)】