説明

ヨウ化水素の製造方法

【課題】ヨウ素原子含有化合物よりヨウ化水素を製造する方法を提供する。
【解決手段】ヨウ素原子含有化合物と、水素供与体を反応させることにより、ヨウ化水素を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ化水素の製造方法に関する。また、本発明は得られたヨウ化水素を使用して、含フッ素アルキルエチルヨウ化物、さらには含フッ素エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハロゲン化水素の発生方法として、例えば,ヨウ化水素の場合には,ヨウ素をナフタレンの水素付加物により還元する方法 (非特許文献1、特許文献1) や、リン酸水溶液と五酸化二リンと金属ヨウ化物とを反応させる方法 (特許文献2) が報告されている。また、特許文献3には、水素供与剤と含フッ素アルキルハロゲン化物を反応させてハロゲン化水素を発生させ、これを含フッ素アルケンと反応させているが、含フッ素アルケンとの反応の転化率は3.9 %であり、ハロゲン化水素の製造方法としては収率が低いことが示唆されている。
【特許文献1】特開平9-25103号公報
【特許文献2】特開平9-86902号公報
【特許文献3】特開2004-256406号公報
【非特許文献1】Bericht der deutschen chemischen Geselschaft:Inorg. Synth., vol.VII, 180, (1963)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、ヨウ化水素を効率良く製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ヨウ化水素をヨウ素原子含有化合物と水素供与体から製造できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、下記の技術に係るものである。
1. 分子中に −CF2I 基を n 個 (n は1 以上の整数を示す) 有するヨウ素原子含有化合物と,水素供与体とを,触媒の存在下又は非存在下に反応させることを特徴とする,ヨウ化水素を製造する方法。
2. ヨウ素原子含有化合物が,一般式 (I)
Rf1-(CF2I)n (I)
(式中,Rf1 は,炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロ炭化水素基又は,ポリフルオロ炭化水素基を示し,n は1または2である。)
であることを特徴とする項1に記載の方法。
3. 一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf1 が,炭素数 1〜20の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロ炭化水素基である項1又は2のいずれかに記載の方法.
4. 一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf1 が,炭素数 1〜20の直鎖パーフルオロ炭化水素基である項1〜3のいずれかに記載の方法.
5. 一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf1 が,炭素数 1〜20の分岐鎖状のパーフルオロ炭化水素基である項1〜3のいずれかに記載の方法.
6. 一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf1 が,炭素数 1〜20の直鎖又は,分岐鎖状のポリフルオロ炭化水素基である項1又は2のいずれかに記載の方法.
7. 一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf1 が,炭素数 1〜20の直鎖ポリフルオロ炭化水素基である項1又は2又は6のいずれかに記載の方法.
8. 一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf1 が,炭素数 1〜20の分岐鎖状のポリフルオロ炭化水素基である項1又は2又は6のいずれかに記載の方法.
9. ヨウ素原子含有化合物が,一般式 (II)
Rf2-CF2I (II)
(式中,Rf2 は,炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又は,ポリフルオロアルキル基を示す.)
であることを特徴とする項1に記載の方法.
10. 一般式 (II) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf2 が,炭素数 1〜20の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロアルキル基である項1又は9のいずれかに記載の方法.
11. 一般式 (II) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf2 が,炭素数 1〜20の直鎖パーフルオロアルキル基である項1又は9又は10のいずれかに記載の方法.
12. 一般式 (II) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf2 が,炭素数 1〜20の分岐鎖状のパーフルオロアルキル基である項1又は9又は10のいずれかに記載の方法.
13. 一般式 (II) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf2 が,炭素数 1〜20の直鎖又は,分岐鎖状のポリフルオロアルキル基である項1又は9のいずれかに記載の方法.
14. 一般式 (II) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf2 が,炭素数 1〜20の直鎖ポリフルオロアルキル基である項1又は9又は13のいずれかに記載の方法.
15. 一般式 (II) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf2 が,炭素数 1〜20の分岐鎖状のポリフルオロアルキル基である項1又は9又は13のいずれかに記載の方法.
16. ヨウ素原子含有化合物が,一般式 (III)
ICF2- Rf3-CF2I (III)
(式中,Rf3は,炭素数 1〜20 の直鎖のパーフルオロアルキレン基又は,ポリフルオロアルキレン基を示す.)
であることを特徴とする項1に記載の方法.
17. 一般式 (III) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf3が,炭素数 1〜20の直鎖のパーフルオロアルキレン基である項1又は16のいずれかに記載の方法.
18. 一般式 (III) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf3 が,炭素数 1〜20の直鎖のポリフルオロアルキレン基である項1又は16のいずれかに記載の方法.
19. 水素供与体が、水素、水素化芳香族化合物及び1〜3個のC〜Cアルキル基で置換された芳香族化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種である項1に記載の方法。
20. 水素化芳香族化合物が、部分水素化された多環構造を持つ芳香族化合物である項19に記載の方法。
21. 1〜3個のC〜Cアルキル基で置換された芳香族化合物が、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、クメン、シメンまたはn−ブチルベンゼンである項4に記載の方法。
22. 触媒が、活性炭、金属硫酸塩、金属及びルイス酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である項 1〜22 のいずれかに記載の方法。
23. 金属硫酸塩が、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム及び硫酸アルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種であり、金属が、銅、白金、亜鉛、パラジウム、スズ、チタン、ジルコニウム、ガリウム、コバルト、ニッケル及び鉄からなる群より選ばれた少なくとも1種であり、ルイス酸が、ハロゲン化ホウ素、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化チタン、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化砒素、ハロゲン化鉄、ハロゲン化水銀及びハロゲン化ジルコニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種である項22に記載の方法。
24. 項1〜23のいずれかに記載の方法によってヨウ化水素を得た後、これを一般式 (IV) :
Rf4-CH=CH2 (IV)
(式中、Rf4は、炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又は,ポリフルオロアルキル基を示す)
で表される含フッ素アルケンとを触媒の存在下に反応させることを特徴とする、一般式 (V) :
Rf4-CH2CH2-I (V)
(式中、Rf4は前記に同じ。)
で表される含フッ素アルキルエチルヨウ化物の製造方法。
25. 項24に記載の方法によって一般式 (V) で表される含フッ素アルキルエチルヨウ化物を得た後、これを一般式 (VI) :
CH2=CRCOOM (VI)
(式中、Mはアルカリ金属であり、RはH又はCH3である。)
で表されるカルボン酸塩と反応させることを特徴とする、一般式 (VII) :
Rf4-CH2CH2OCOCR=CH2 (VII)
(式中、Rf4は、炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又は,ポリフルオロアルキル基を示す.Rは前記に同じ。)
で表される含フッ素エステルの製造方法。
26. 一般式 (V) :
Rf4-CH2CH2-I (V)
(式中、Rf4は、炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又は,ポリフルオロアルキル基を示す。)
で表される含フッ素アルキルエチルヨウ化物を、一般式 (VI) :
CH2=CRCOOM (VI)
(式中、Mはアルカリ金属であり、RはH又はCH3である) で表されるカルボン酸塩と反応させて、一般式 (VII) :
Rf4-CH2CH2OCOCR=CH2 (VII)
(式中、Rf4及びRは前記に同じ) で表される含フッ素エステルを製造する方法において、副生する一般式 (IV)
Rf4-CH=CH2 (IV)
(式中、Rf4は、炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又は,ポリフルオロアルキル基を示す)
で表される含フッ素アルケンを、項24の方法によって、一般式 (V) の含フッ素アルキルエチルヨウ化物に変換し、一般式 (VII) の含フッ素エステルの製造工程における原料としてリサイクルすることを特徴とする、一般式 (VII) で表される含フッ素エステルの製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明では、分子中に−CF2I 基を n 個 (n は1 以上の整数を示す) 有するヨウ素原子含有化合物を使用する。
【0007】
nは1以上の整数、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2,特に1である。
【0008】
本発明の1つの実施形態は、一般式(I) :
Rf-(CF2I)n (I)
(式中,Rf は,炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロ炭化水素基又は,ポリフルオロ炭化水素基を示し,n は1以上の整数である.)
で表されるヨウ素原子含有化合物と、水素供与体とを、触媒の存在下又は非存在下に反応させることを特徴とする、ヨウ化水素を製造する方法である。
【0009】
本明細書において、Rfで表されるパーフルオロ炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロ炭化水素基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状のポリフルオロ炭化水素基が挙げられる。
【0010】
Rfで表されるパーフルオロ炭化水素基は、パーフルオロ炭化水素のn個のフッ素原子を除いた基を意味し、n=1の場合、パーフルオロアルキル基、n=2の場合、パーフルオロアルキレン基である。好ましいパーフルオロ炭化水素基は、炭素数4〜12、さらに好ましくは炭素数4〜8、特に炭素数6〜8の直鎖または分岐を有するパーフルオロ炭化水素基である。
【0011】
Rfで表されるポリフルオロ炭化水素基は、ポリフルオロ炭化水素のn個の水素原子および/またはフッ素原子を除いた基を意味し、n=1の場合、ポリフルオロアルキル基、n=2の場合、ポリフルオロアルキレン基である。好ましいポリフルオロ炭化水素基は、炭素数4〜12、さらに好ましくは炭素数4〜8、特に炭素数6〜8の直鎖または分岐を有するパーフルオロ炭化水素基である。
【0012】
炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルキル基としては、CF3、C2F5、(n-又はiso-)C3F7、(n-又はiso-、sec-又はtert-)C4F9、CF3(CF2)m (mは4〜19の整数)、(CF3)2CF(CF2)k(kは2〜17の整数) 等を挙げることができる。
【0013】
炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルキレン基としては、-CF2-、-C2F4-、-CF2CF2CF2-、 -CF(CF3)CF2-、 -CF2CF2CF2CF2-、 -CF(CF3)CF2CF2-、 -CF2CF(CF3)CF2-、 -(CF2)m- (mは5〜20の整数)、-CF2CF(CF3)(CF2)k- (kは2〜17の整数) , -CF(CF3)(CF2)k- (kは3〜18の整数)等を挙げることができる。
【0014】
炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状のポリフルオロアルキル基としては、例えば上記パーフルオロアルキル基の1以上のフッ素原子が水素原子で置換された基が挙げられ、具体的には、CaFbHc(a, b ,cは1以上の整数であり、b+c=2a+1である)を挙げることができる。
【0015】
炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状のポリフルオロアルキレン基としては、上記パーフルオロアルキレン基の1以上のフッ素原子が水素原子で置換された基が挙げられ、具体的には、-CHF-、-CH2CF2-、 -CF2CH2CF2-、 -CH(CF3)CF2-、 -CH2CF(CF3)-、 CF2CH2CF2CF2-、 -CH(CF3)CF2CF2-、 -CH2CF(CF3)CF2-、 -CH2CF2CF(CF3)-、 -CH2CF(CF3)(CF2)k- (kは2〜17の整数)、-CHF(CF2)p- (pは1〜19の整数)、-CH2(CF2)q- (qは1〜19の整数), が挙げられる。
【0016】
nが3以上の場合、ポリフルオロ炭化水素基は、上記のパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基、ポリフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキレン基から1または2以上のフッ素原子ないし水素原子が除かれた基を示す。
【0017】
水素化芳香族化合物としては、部分水素化された芳香族化合物を用いることができる。該芳香族化合物は、多環構造を持つことが好ましい。
【0018】
この様な多環構造を持つ部分水素化された芳香族化合物としては、水素化ナフタレン、水素化フェナントレン、水素化アントラセン、水素化ピレン、水素化ナフタセン、水素化ベンズアントラセン、水素化ベンズピレン等を例示できる。これらの内で、水素化ナフタレンが好ましく、その具体例としては、1,2−ジヒドロナフタレン、1,4−ジヒドロナフタレン及び1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン等を挙げることができる。水素化芳香族化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0019】
1〜3個のC〜Cアルキル基で置換された芳香族化合物としては、具体的には、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、クメン、シメン(o-シメン、m-シメン、p-シメン)が挙げられる。なお、C〜Cアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどの直鎖又は分枝を有するアルキル基が挙げられる。
【0020】
次に、本反応のヨウ化水素の具体的な製造方法について説明する。
【0021】
オートクレーブ等の圧力容器に、ヨウ素原子含有化合物、水素供与体を仕込み、不活性気体 (例えば、窒素) で容器内を置換する。その後ヒーターで反応温度まで昇温し、同温下一定時間撹拌すればよい。
【0022】
本反応における一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の使用量は、例えば、水素供与体に対し、0.01〜10モル等量程度であればよい。
【0023】
好ましい反応条件は、反応温度は50〜400 ℃程度、好ましくは100〜300 ℃程度であればよい。反応時間は、1〜100時間程度であればよい。
【0024】
HIを製造するための本反応は、例えば、次のようにして実施しうる。オートクレーブ等の圧力容器に、ヨウ素原子含有化合物、水素供与体を仕込み、不活性気体 (例えば、窒素) で容器内を置換する。その後ヒーターで反応温度まで昇温し、同温下一定時間撹拌すればよい。
【0025】
本反応における一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の使用量は、例えば、水素供与体に対し、0.01〜10モル等量程度であればよい。
【0026】
好ましい反応条件は、反応温度は50〜400 ℃程度、好ましくは100〜300 ℃程度であればよい。反応時間は、1〜100時間程度であればよい。
【0027】
一般式 (IV) で表される含フッ素アルケンとヨウ化水素ガスとの反応は、バッチ式または連続式で行うことができる。反応装置としては、特に制限はなく、固定床、流動床、移動床の反応器を備えた気相用の連続反応装置、またはバッチ式反応装置を使用することができる。
【0028】
気相連続反応によって、含フッ素アルケンとヨウ化水素とを反応させる方法としては、例えば、触媒を充填したステンレス製反応管を加熱用電気炉にセットし、触媒層を反応温度まで昇温させ、含フッ素アルケンをプランジャーポンプ等を用いて一定の速度で気化器に導入し、気化した含フッ素アルケンガスとマスフローコントローラ等で流量制御されたヨウ化水素ガスあるいは不活性ガスにて希釈したヨウ化水素ガスを触媒層まで同伴させて接触反応させ、反応生成物を後段のトラップなどで回収する方法等が挙げられる。ヨウ化水素ガスを希釈するための不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等が好ましい。好ましい反応条件は、使用する触媒の種類により若干異なるが、反応温度は、50〜400℃程度、好ましくは100〜300℃程度とすればよい。反応は大気圧下又は加圧下で行うことができる。含フッ素アルケンとヨウ化水素ガスとのモル比は、1 : 0.2〜200程度が好ましい。W/F (接触時間) は0.1〜10 g・sec/ml程度とすればよい。
【0029】
又、バッチ式で反応を行う場合には、例えば、オートクレーブ等の圧力容器に、含フッ素アルケン、ヨウ化水素ガス及び触媒を仕込み、ヒーターにて反応温度まで昇温させ、撹拌下に一定時間反応させればよい。好ましい反応条件は、使用する触媒の種類により若干異なるが、反応温度は、50〜400℃程度、好ましくは100〜300℃程度とすればよい。又、含フッ素アルケンとヨウ化水素ガスとのモル比は、1 :0.2〜200程度が好ましい。反応時間は1〜100時間程度とすればよい。反応雰囲気としては、ヨウ化水素ガスのみでもよく、あるいは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスを封入してもよい。
【0030】
次に、上記製造方法により得られた含フッ素アルキルエチルヨウ化物を用いて、含フッ素エステルを製造する方法について説明する。
【0031】
本方法においては、一般式 (V)で表される含フッ素アルキルエチルヨウ化物を製造し、次いで、これを一般式 (VI) で表されるカルボン酸塩と反応させることによって、一般式(VII) で表される含フッ素エステルを製造することができる。
【0032】
一般式 (V)で表される含フッ素アルキルエチルヨウ化物と一般式 (VI) で表されるカルボン酸塩との反応は、例えば、アルコール溶媒との混合物とした後、通常、溶液を125〜200℃に於いて、1〜30時間加熱し、反応混合物からエステルを回収することによって、行うことができる。
【0033】
カルボン酸塩を形成するアルカリ金属(M)としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が用いられる。この内、特にカリウムが好ましい。
【0034】
反応は、バッチ式または連続式で行うことができる。反応装置としては、特に制限はなく、固定床、流動床、移動床の反応器を備えた気相用の連続反応装置、またはバッチ式反応装置を使用することができる。
【0035】
エステル化反応時に発生するKIや一般式(IV)で表される含フッ素アルケンを原料として再利用すれば、さらに生産効率が向上する、
本発明の反応は、触媒の存在下又は非存在下に行うことができる。触媒としては、活性炭、金属硫酸塩、金属、ルイス酸などを用いることができる。これらの触媒は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0036】
活性炭としては、特に限定はなく、入手容易な公知の活性炭を用いることができる。
【0037】
金属硫酸塩の具体例としては、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等を挙げることができ、これらを一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0038】
金属としては、銅、白金、亜鉛、パラジウム、スズ、チタン、ジルコニウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、鉄等を挙げることができ、これらを一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0039】
ルイス酸としては、ハロゲン化ホウ素、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化チタン、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化砒素、ハロゲン化鉄、ハロゲン化水銀、ハロゲン化ジルコニウム等を用いることができる。これらの化合物において、ハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素等を例示できる。これらのルイス酸は一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0040】
触媒の使用量については、活性炭、金属硫酸塩を用いる場合には、ヨウ素原子含有化合物または含フッ素アルケン1モルに対して、0.1〜10モル程度とすることが好ましい。また、触媒として、ルイス酸を用いる場合には、ヨウ素原子含有化合物または含フッ素アルケン1モルに対して0.01〜1モル程度とすることが好ましい。
【0041】
また、活性炭と金属硫酸塩は併用することができ、両者を併用することによって、反応性を向上させ、収率を上げることが可能となる。両者を併用する場合には、その割合は、活性炭1重量部に対して金属硫酸塩0.01〜10重量部程度とすることが好ましい。この場合には、反応に先立ち、減圧下(例えば、0〜1×105Pa程度)で、例えば、100〜300℃程度に加熱して触媒を活性化することが好ましい。
[実施例]
【0042】
以下に実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
200 ml ハステロイ製オートクレーブにヨウ素原子含有化合物 (C8F17I) 49.6 g (91 mmol)、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン (C10H12) 57.6 g (436 mmol) を入れ、窒素置換、真空引きした後、400 rpmで撹拌しながら170 ℃まで昇温して4 hr反応を行った。
反応後、発生した HI を定量した.
収率15.4 %でHIが得られたことが分かった。
【実施例2】
【0044】
200 ml ハステロイ製オートクレーブにヨウ素原子含有化合物 (C8F17I) 49.5 g (91 mmol)、エチルベンゼン (C8H10) 46.3 g (436 mmol) を入れ、窒素置換、真空引きした後、400 rpmで撹拌しながら170 ℃まで昇温して4 hr反応を行った。
反応後、発生した HI を定量した.
収率20.5 %でHIが得られたことが分かった。
【実施例3】
【0045】
200 ml ハステロイ製オートクレーブにヨウ素原子含有化合物 (C4F9I) 41.5g (120 mmol)、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン (C10H12) 80.1 g (606 mmol) を入れ、窒素置換、真空引きした後、300 rpmで撹拌しながら170 ℃まで昇温して2 hr反応を行った。
【0046】
その結果,収率18.2 %でHIが得られたことが分かった。
【実施例4】
【0047】
200 ml ハステロイ製オートクレーブにヨウ素原子含有化合物 (C4F9I) 41.6g (120 mmol)、エチルベンゼン (C8H10) 61.7 g (581 mmol) を入れ、窒素置換、真空引きした後、300 rpmで撹拌しながら170 ℃まで昇温して2 hr反応を行った。
【0048】
その結果,収率23.4 %でHIが得られたことが分かった。
【実施例5】
【0049】
200 ml ハステロイ製オートクレーブにヨウ素原子含有化合物 (C4F9I) 41.5g (120 mmol)、n−プロピルベンゼン (C9H12) 72.4 g (602 mmol) を入れ、窒素置換、真空引きした後、300 rpmで撹拌しながら170 ℃まで昇温して2 hr反応を行った。
その結果,収率25.1 %でHIが得られたことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の製造方法によれば、ヨウ素原子含有化合物 (I) を出発原料にして、水素供与体と反応させることにより、ヨウ化水素 (HI) を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に −CF2I 基を n 個 (n は1 以上の整数を示す) 有するヨウ素原子含有化合物と,水素供与体とを,触媒の存在下又は非存在下に反応させることを特徴とする,ヨウ化水素を製造する方法。
【請求項2】
ヨウ素原子含有化合物が,一般式 (I)
Rf1-(CF2I)n (I)
(式中,Rf1 は,炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロ炭化水素基又は,ポリフルオロ炭化水素基を示し,n は1または2である。)
であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf1が,炭素数 1〜20の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロ炭化水素基である請求項1又は2のいずれかに記載の方法.
【請求項4】
一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf1が,炭素数 1〜20の直鎖パーフルオロ炭化水素基である請求項1〜3のいずれかに記載の方法.
【請求項5】
一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf1が,炭素数 1〜20の分岐鎖状のパーフルオロ炭化水素基である請求項1〜3のいずれかに記載の方法.
【請求項6】
一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf1が,炭素数 1〜20の直鎖又は,分岐鎖状のポリフルオロ炭化水素基である請求項1又は2のいずれかに記載の方法.
【請求項7】
一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf1が,炭素数 1〜20の直鎖ポリフルオロ炭化水素基である請求項1又は2又は6のいずれかに記載の方法.
【請求項8】
一般式 (I) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf1が,炭素数 1〜20の分岐鎖状のポリフルオロ炭化水素基である請求項1又は2又は6のいずれかに記載の方法.
【請求項9】
ヨウ素原子含有化合物が,一般式 (II)
Rf2-CF2I (II)
(式中,Rf2 は,炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又は,ポリフルオロアルキル基を示す.)
であることを特徴とする請求項1に記載の方法.
【請求項10】
一般式 (II) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf2が,炭素数 1〜20の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロアルキル基である請求項1又は9のいずれかに記載の方法.
【請求項11】
一般式 (II) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf2が,炭素数 1〜20の直鎖パーフルオロアルキル基である請求項1又は9又は10のいずれかに記載の方法.
【請求項12】
一般式 (II) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf2が,炭素数 1〜20の分岐鎖状のパーフルオロアルキル基である請求項1又は9又は10のいずれかに記載の方法.
【請求項13】
一般式 (II) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf2が,炭素数 1〜20の直鎖又は,分岐鎖状のポリフルオロアルキル基である請求項1又は9のいずれかに記載の方法.
【請求項14】
一般式 (II) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf2が,炭素数 1〜20の直鎖ポリフルオロアルキル基である請求項1又は9又は13のいずれかに記載の方法.
【請求項15】
一般式 (II) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf2が,炭素数 1〜20の分岐鎖状のポリフルオロアルキル基である請求項1又は9又は13のいずれかに記載の方法.
【請求項16】
ヨウ素原子含有化合物が,一般式 (III)
ICF2- Rf3-CF2I (III)
(式中,Rf3は,炭素数 1〜20 の直鎖のパーフルオロアルキレン基又は,ポリフルオロアルキレン基を示す.)
であることを特徴とする請求項1に記載の方法.
【請求項17】
一般式 (III) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf3が,炭素数 1〜20の直鎖のパーフルオロアルキレン基である請求項1又は16のいずれかに記載の方法.
【請求項18】
一般式 (III) で表されるヨウ素原子含有化合物の Rf3が,炭素数 1〜20の直鎖のポリフルオロアルキレン基である請求項1又は16のいずれかに記載の方法.
【請求項19】
水素供与体が、水素、水素化芳香族化合物及び1〜3個のC〜Cアルキル基で置換された芳香族化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の方法。
【請求項20】
水素化芳香族化合物が、部分水素化された多環構造を持つ芳香族化合物である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
1〜3個のC〜Cアルキル基で置換された芳香族化合物が、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、クメン、シメンまたはn−ブチルベンゼンである請求項4に記載の方法。
【請求項22】
触媒が、活性炭、金属硫酸塩、金属及びルイス酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項 1〜22 のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
金属硫酸塩が、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム及び硫酸アルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種であり、金属が、銅、白金、亜鉛、パラジウム、スズ、チタン、ジルコニウム、ガリウム、コバルト、ニッケル及び鉄からなる群より選ばれた少なくとも1種であり、ルイス酸が、ハロゲン化ホウ素、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化チタン、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化砒素、ハロゲン化鉄、ハロゲン化水銀及びハロゲン化ジルコニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれかに記載の方法によってヨウ化水素を得た後、これを一般式 (IV) :
Rf4-CH=CH2 (IV)
(式中、Rf4は、炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又は,ポリフルオロアルキル基を示す)
で表される含フッ素アルケンとを触媒の存在下に反応させることを特徴とする、一般式 (V) :
Rf4-CH2CH2-I (V)
(式中、Rf4は前記に同じ。)
で表される含フッ素アルキルエチルヨウ化物の製造方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法によって一般式 (V) で表される含フッ素アルキルエチルヨウ化物を得た後、これを一般式 (VI) :
CH2=CRCOOM (VI)
(式中、Mはアルカリ金属であり、RはH又はCH3である。)
で表されるカルボン酸塩と反応させることを特徴とする、一般式 (VII) :
Rf4-CH2CH2OCOCR=CH2 (VII)
(式中、Rf4は、炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又は,ポリフルオロアルキル基を示す.Rは前記に同じ。)
で表される含フッ素エステルの製造方法。
【請求項26】
一般式 (V) :
Rf4-CH2CH2-I (V)
(式中、Rf4は、炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又は,ポリフルオロアルキル基を示す。)
で表される含フッ素アルキルエチルヨウ化物を、一般式 (VI) :
CH2=CRCOOM (VI)
(式中、Mはアルカリ金属であり、RはH又はCH3である) で表されるカルボン酸塩と反応させて、一般式 (VII) :
Rf4-CH2CH2OCOCR=CH2 (VII)
(式中、Rf4及びRは前記に同じ) で表される含フッ素エステルを製造する方法において、副生する一般式 (IV)
Rf4-CH=CH2 (IV)
(式中、Rf4は、炭素数 1〜20 の直鎖又は,分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又は,ポリフルオロアルキル基を示す)
で表される含フッ素アルケンを、請求項24の方法によって、一般式 (V) の含フッ素アルキルエチルヨウ化物に変換し、一般式 (VII) の含フッ素エステルの製造工程における原料としてリサイクルすることを特徴とする、一般式 (VII) で表される含フッ素エステルの製造方法。

【公開番号】特開2006−188387(P2006−188387A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1126(P2005−1126)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】