説明

ライニングの乾燥方法

【課題】従来技術にも増して爆裂を防止すること、具体的には、ウェア耐火物やその補修材で形成される含水不焼成耐火物層の乾燥時における爆裂を抑制、更には防止できるライニングの乾燥方法を提供する。
【解決手段】溶湯と接触する稼動面12側から鉄皮11側へ向けて、1又は複数の含水不焼成耐火物層13と、1又は複数の焼成耐火物層14、17が形成され、しかも含水不焼成耐火物層13の鉄皮11側となる背面側に焼成耐火物層14が形成されたライニング15の乾燥方法であり、含水不焼成耐火物層13の厚み方向の温度勾配が、0を超え0.5(℃/mm)以下となるように、ライニング15を加熱し乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、溶湯容器や樋に適用するライニングの乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、製鉄用の溶湯容器の炉内側(溶鋼接触面側)には、耐火物がライニングされている。この溶湯容器の使用にあっては、耐火物を予め乾燥する必要があるが、この乾燥時に耐火物が爆裂する問題があった。
このため、従来より、耐火物の爆裂を防止するための乾燥方法の模索が行われていた。
一方、例えば、特許文献1、2には、ライニングされた耐火物と鉄皮との間に断熱材を配置し、鉄皮からの放散熱を低減させる取り組み例が記載されている。
また、特許文献3には、ライニングされた耐火物を構成するウェア耐火物とパーマネント耐火物との間に断熱材を配置し、ウェア耐火物の乾燥時間を短縮する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−266103号公報
【特許文献2】特開2010−248563号公報
【特許文献3】特開平10−206031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2は、ライニングされた耐火物を構成するウェア耐火物とパーマネント耐火物に、不定形耐火物ではなく定形耐火物を使用することを前提としている。
なお、特許文献1では、ウェア耐火物として不定形耐火物も適用可能に記載されているが、実施例の熱伝導率(15W/(m・K)以上)から推定すると、不定形耐火物を使用しているとは考えにくい。また、特許文献1には、C含有系のウェア耐火物が記載されているが、Cは疎水性であることから、一般的に混練水を多く必要とするため、結果的に気孔率が高くなって、不定形耐火物では熱伝導率15W/(m・K)を得ることが困難であり、定形耐火物を用いた例であることが判る。
以上から、特許文献1、2では、C含有系の不焼成の定形耐火物を使用していると考えられるが、不焼成の定形耐火物の乾燥は、保形性を担う樹脂に起因する揮発分の除去が目的であり、水を含んだ不定形耐火物の使用前(溶湯注入前)の乾燥と比べ、爆裂に対する危険は小さい。
【0005】
また、特許文献3には、不定形耐火物で構成されたウェア耐火物の爆裂を防止する指標として、ウェア耐火物の背面における水分除去温度(ここでは、350℃)が記載されている。即ち、この水分除去温度までウェア耐火物の温度を上昇させれば(温度の絶対値管理を行えば)、その後の温度上昇に際して、ウェア耐火物の爆裂の心配がないとしており、一定の爆裂防止効果がある。
しかし、本発明者らの経験によると、特許文献3に記載の温度の絶対値管理だけでは、爆裂をある程度抑制できるが、改善の余地があることがわかった。また、特許文献3では、実際の使用時(実使用時)の亀裂や剥離を課題として記載しており、例えば、100℃前後の乾燥時の水の蒸発による爆裂を課題にしていない。
【0006】
一般的に、例えば、溶湯容器のウェア耐火物に不定形耐火物を使用する場合、使用前(溶湯注入前)に、この不定形耐火物内の水分を除去するため、乾燥が実施される。この乾燥を行う乾燥工程は、溶湯容器の一連の耐火物施工作業が終了した後に実施される。つまり、乾燥工程は、溶湯を受ける前の最終工程であり、ひとたび不定形耐火物の爆裂トラブルが発生すると、再度、不定形耐火物の施工(手直し施工や解体後の再施工)が必要となり、トラブルが発生しない場合と比較して、耐火物の施工工期が大幅に延長される。
このため、場合によっては、生産機会の損失を招き影響は大きい。
更に、溶湯容器の使用後のウェア耐火物を不定形耐火物で補修する場合も、上記と同様に不定形耐火物内の水分を除去する必要があり、爆裂トラブルを防止する必要がある。
【0007】
上記した不定形耐火物をウェア耐火物として施工する場合は、一般に流し込み法(流し込み材)が用いられ、使用後のウェア耐火物を未乾燥の不定形耐火物(補修材)で補修する場合は、ショット法(ショット材)、こて塗り法(こて塗り材)、吹付け法(吹付け材)が用いられる。これらの方法は、不定形耐火物の層を設ける施工方法が異なり、例えば、流し込み材、ショット材、こて塗り材、吹付け材の順に、不定形耐火物に混ぜる水分量が増加する等、乾燥の前提条件が異なる。つまり、同じ材質かつ同じ乾燥条件(加熱温度)であっても、施工方法が異なると、爆裂が発生し易くなる場合があるということを意味する。
以上のことから、特許文献3に記載の温度の絶対値管理では、爆裂防止の一定の効果は得られるが、施工方法や前提条件が異なるウェア耐火物やその補修材を構成する種々の不定形耐火物全体の更なる爆裂防止につながりにくいことがわかった。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、従来技術にも増して爆裂を防止すること、具体的には、ウェア耐火物やその補修材で形成される含水不焼成耐火物層の乾燥時における爆裂を抑制、更には防止できるライニングの乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う本発明に係るライニングの乾燥方法は、溶湯と接触する稼動面側から鉄皮側へ向けて、1又は複数の含水不焼成耐火物層と、1又は複数の焼成耐火物層が形成され、しかも前記含水不焼成耐火物層の前記鉄皮側となる背面側に前記焼成耐火物層が形成されたライニングの乾燥方法において、
前記含水不焼成耐火物層の厚み方向の温度勾配が、0を超え0.5(℃/mm)以下となるように、前記ライニングを加熱し乾燥させる。
【0010】
本発明に係るライニングの乾燥方法において、前記含水不焼成耐火物層の鉄皮側に、複数の前記焼成耐火物層を設け、しかも前記含水不焼成耐火物層の背面側に少なくとも1層の前記焼成耐火物層を介して断熱材を配置し、前記ライニングの加熱を少なくとも前記稼動面側から行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るライニングの乾燥方法は、例えば、不定形耐火物をウェア耐火物として施工する場合や、使用後のウェア耐火物を未乾燥の不定形耐火物(補修材)で補修する場合など、この不定形耐火物で形成される含水不焼成耐火物層の乾燥に際し、その温度勾配を0を超え0.5(℃/mm)以下にしたので、含水不焼成耐火物層の爆裂発生を抑制、更には防止できる。更に、本発明は、上記したように、含水不焼成耐火物層の温度勾配を規定することによって、その爆裂防止を図るものであるため、この層の形成に使用する含水不焼成耐火物の種類(例えば、流し込み材、ショット材、こて塗り材、吹付け材など)によらず、含水不焼成耐火物層の爆裂を安定的に防止できる。
【0012】
また、ライニング内に断熱材を配置し、しかも含水不焼成耐火物層の背面側に少なくとも1層の焼成耐火物層を介して断熱材を配置する場合、含水不焼成耐火物層中の水分の吸収に伴う断熱材の劣化を抑制できる。これにより、含水不焼成耐火物層の温度勾配を、上記した所定範囲内に保持した状態で、含水不焼成耐火物層の加熱速度を上昇できるため、乾燥時間の短縮を図りながら、爆裂を抑制、更には防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係るライニングの乾燥方法を適用する溶湯容器の炉壁構造の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
まず、本発明のライニングの乾燥方法に想到した経緯について説明する。
本発明者らは、前記した従来技術以上に爆裂発生の抑制を実現するにあたり、種々検討を重ね、以下の機構で爆裂が発生するものと考えた。
前提条件として、水分を含む含水不焼成耐火物層(未乾燥のウェア耐火物あるいは補修材)と、その背面側に配置される焼成耐火物層(定形耐火物のパーマネント耐火物、あるいは使用によって焼成状態となった不定形耐火物)の層構成で、含水不焼成耐火物層を乾燥する場合を想定する。
【0015】
この含水不焼成耐火物層の稼動面(以下、表面ともいう)に高温ガスを接触させて乾燥を進めると、まず、含水不焼成耐火物層の稼動面の温度が上昇し、時間的に遅れてその厚み方向中央部(以下、単に中央部ともいう)の温度、更に時間的に遅れて背面(焼成耐火物層の表面側)の温度が上昇する。
ここで、含水不焼成耐火物層の中央部の温度上昇を考えると、温度上昇に伴って発生する水蒸気により、中央部の内部圧力(以下、蒸気圧という)が上昇するが、上昇した蒸気圧の値が不定形耐火物の破壊強度を超えると、爆裂が発生するものと考えられる。
この蒸気圧の値は、含水不焼成耐火物層の中央部における単位時間あたりの水蒸気発生量と、発生した水蒸気が含水不焼成耐火物層の中央部からその稼動面あるいは背面へ排出される単位時間あたりの水蒸気排出量とのバランスで決定されると考えられる。
【0016】
なお、単位時間あたりの水蒸気発生量は、含水不焼成耐火物層の中央部の入熱によって決定されるので、概ね含水不焼成耐火物層の温度勾配で決定される。即ち、上記した蒸気圧の値を大きくするには、温度勾配が大きいことが必須となる。
また、単位時間あたりの水蒸気排出量は、含水不焼成耐火物層の中央部の隣接部(即ち、含水不焼成耐火物層内の稼動面側あるいは背面側)を、水蒸気が通過するときの圧損、即ち含水不焼成耐火物層の気孔の生成状況(水の蒸発進行による気孔生成)によって決定される。この含水不焼成耐火物層を稼動面側から加熱して乾燥すると、実質的には、含水不焼成耐火物層の稼動面部位の乾燥が進むと、含水不焼成耐火物層の中央部の水蒸気排出量が増加することとなる。従って、含水不焼成耐火物層の稼動面部位の温度を上昇させて乾燥を促進させると、即ち含水不焼成耐火物層の温度勾配が大きいと、水蒸気の排出が進むことになる。
【0017】
以上から、蒸気圧の上昇と水蒸気の排出(蒸気圧の低減)はいずれも、温度勾配が所定の値を確保することが必要であることがわかる。
本発明者らは、温度勾配が0を超え0.5(℃/mm)以下の領域では、含水不焼成耐火物層からの水蒸気発生量に比べて水蒸気排出が顕著であり、蒸気圧の上昇が顕著とならずに爆裂を抑制でき、0.5(℃/mm)超の領域では、水蒸気発生量が顕著となって、爆裂現象につながり易い(ミクロクラックの多数発生)ことを見出した。具体的には、温度勾配が0を超え0.5(℃/mm)以下となるような加熱を、含水不焼成耐火物層の背面温度が110℃になるまで(即ち、加熱開始から背面温度が110℃に達するまで)継続する。これは、含水不焼成耐火物層の背面温度が少なくとも100℃を超えるまでは、爆裂の原因となる水(水蒸気)が含水不焼成耐火物層に残留すると考えられ、また温度のばらつきを考慮すると、含水不焼成耐火物層の背面温度が110℃になった段階で、乾燥対象から水が無くなったとすることが妥当と考えられるためである。
【0018】
なお、前記した特許文献3は、温度の絶対値管理により爆裂をある程度抑制できるが、ウェア耐火物の厚み方向の温度差、即ち、温度勾配(℃/mm)が大きくなれば、この温度勾配に起因して、乾燥時にウェア耐火物に爆裂が発生する場合があり、この問題の対策はとられていない。
また、特許文献3の実施例には、厚みが異なるウェア耐火物の発明例と従来例が記載されているが(発明例:200mm、従来例:230mm)、水蒸気が発生する背面温度100℃近傍までは、発明例の方がウェア耐火物の温度勾配が大きくなっているため、温度勾配を小さくすることによる爆裂防止効果が得られない。具体的には、特許文献3の図3において、脱水完了温度(水蒸気圧がたたない)110℃付近でのウェア耐火物の稼動面と背面の温度差は、120℃程度と考えられ、発明例は厚みが200mmであるから温度勾配が0.60℃/mmとなり、従来例は厚みが230mmであるから温度勾配が0.52℃/mmとなる。これでは、乾燥時間の短縮や実使用時の亀裂や剥離を防止できても、乾燥途中で水の蒸発による爆裂が発生する場合がある。
【0019】
次に、本発明の一実施の形態に係るライニングの乾燥方法を適用する溶湯容器について説明した後、ライニングの乾燥方法について説明する。
図1に示すように、溶湯容器10は、鉄皮11の炉内側に、溶湯(図示しない)と接触する稼動面12側(炉内側)から鉄皮11側(炉外側)へ向けて、含水不焼成耐火物層13及び焼成耐火物層(第1の焼成耐火物層14)が順に形成されたライニング15を有し、このライニング15を加熱し乾燥させたものである。なお、溶湯容器には、例えば、転炉、溶銑鍋、溶鋼鍋、電気炉等がある。
【0020】
含水不焼成耐火物層13は、未乾燥のウェア耐火物や補修材(即ち、常温で水と共に混練して得られる不定形耐火物)で構成される耐火物層である。この未乾燥のウェア耐火物層とは、含水不焼成耐火物をウェア耐火物として施工するに際し、この含水不焼成耐火物を流し込み材等として使用し、焼成耐火物層の稼動面側に設けた耐火物層である。また、未乾燥の補修材層とは、溶湯容器などで一旦使用済みとなった残存するウェア耐火物(ここでは、第1の焼成耐火物層14に相当)の稼動面側を含水不焼成耐火物で補修するに際し、この含水不焼成耐火物を、例えば、吹付け材、ショット材、こて塗り材として使用し、ウェア耐火物の稼動面側に設けた耐火物層である。
なお、ここでは、含水不焼成耐火物層を1層形成した場合について説明したが、稼動面側から鉄皮側へ向けて、2層以上の複数層形成することもできる。この場合、各層の材質や形成方法(施工方法)は、同一でもよく、また異なってもよい。
【0021】
含水不焼成耐火物の成分系には、例えば、マグネシア−ライム質、アルミナ−マグネシア質、アルミナ−スピネル質、アルミナ−シリカ質、シリカ質、アルミナ−炭化ケイ素質、粘土質等があるが、特に限定されるものではない。また、含水不焼成耐火物の硬化法も、アルミナセメントのように水和反応を用いる水硬性に限らず、例えば、化学硬化性、熱硬化性、気硬性のいずれでもよく、特に限定されるものではない。
この含水不焼成耐火物層13の厚み(複数層形成する場合は合計厚み)は、用途(施工方法)に応じて種々変更でき、特に限定されるものではないが、一般的に、含水不焼成耐火物をウェア耐火物として施工する場合は、例えば、200mm以下程度であり、またウェア耐火物の稼動面を補修する場合は、例えば、200mm以下(特には、150mm以下)程度である。なお、焼成耐火物層の表面に含水不焼成耐火物層が配置されることからすれば、含水不焼成耐火物層の下限値は0mmを超える厚みであるが、通常は、5mm以上、更には10mm以上である。
【0022】
第1の焼成耐火物層14は、パーマネント耐火物や焼成された不定形耐火物で構成される耐火物層である。このパーマネント耐火物層とは、一般に焼成した定形耐火物(定型耐火物)で形成される耐火物層であり、焼成された不定形耐火物層とは、前記した使用済みであって焼成された不定形耐火物で形成される耐火物層である。
この焼成耐火物の材質は、特に限定されるものではないが、焼成耐火物層は、その稼動面側に配置された焼成した含水不焼成耐火物層が溶損し剥離した際に、高温の溶融物と接する可能性があることから、耐火度の高いろう石やアルミナ質などが一般的である。
また、第1の焼成耐火物層14の厚みは、用途(施工方法)に応じて種々変更でき、特に限定されるものではないが、一般的には、例えば、上限が100mm(特に、70mm)程度であり、下限が30mmである。
【0023】
なお、前記したように、含水不焼成耐火物を構成する不定形耐火物の成分系は、特に限定されるものではないが、含水不焼成耐火物に、炭素を含有する不定形耐火物を使用する場合、本発明の効果、即ち含水不焼成耐火物の爆裂を防止する効果が薄れる。この炭素を含有する不定形耐火物は、不定形耐火物そのものの熱伝導率が高いため、不定形耐火物内の温度勾配が小さくなることによる。この場合、含水不焼成耐火物層の加熱速度を増加させて、含水不焼成耐火物層を加熱できるため、例えば、加熱時間の短縮が図れる。
また、含水不焼成耐火物の爆裂を防止する効果は、熱伝導率が10W/(m・K)以下の不定形耐火物を使用する際に顕著に得られる。なお、不定形耐火物の熱伝導率の下限値は、世の中に存在する不定形耐火物の熱伝導率を考慮すれば、例えば、0.1W/(m・K)程度である。
【0024】
上記した第1の焼成耐火物層14(稼動面側耐火物)の鉄皮11側には、鉄皮11側へ向けて、断熱材16と第2の焼成耐火物層17(鉄皮側耐火物)が順次配置されている。このように、含水不焼成耐火物層13の鉄皮11側に、複数の焼成耐火物層(第1、第2の焼成耐火物層14、17)を設け、しかも含水不焼成耐火物層13の背面側に第1の焼成耐火物層14を形成している。即ち、含水不焼成耐火物層13の背面(複数層形成する場合は最も鉄皮側に位置する含水不焼成耐火物層の背面)に、第1、第2の焼成耐火物層14、17のうち最も稼動面12側の1層である第1の焼成耐火物層14を、隣接させて(隣り合わせて)配置している。なお、背面側に形成するとは、鉄皮側に隣接して配置することをいう。
第2の焼成耐火物層17の構成も、前記した第1の焼成耐火物層14と同様の材質で構成できる。
断熱材は一般的に、水との接触で断熱特性が低下するため、含水不焼成耐火物層13と直接接触する位置、即ち含水不焼成耐火物層13と第1の焼成耐火物層14の間に配置することは避けるべきである。また、断熱材を、鉄皮11と第2の焼成耐火物層17との間に配置しても、含水不焼成耐火物層13の更なる爆裂防止効果が得られない。
以上のことから、断熱材16の効果を安定に得るため、断熱材16を上記した位置に配置した。
【0025】
この断熱材を構成する材料は、例えば、ガラス、シリカ、アルミナ等を主成分とする繊維状の材料や、微孔構造を有する無機物質等である。また、断熱材の形状は、厚みが均一なシート状(板状)のものであり、その熱伝導率は常温で0.15W/(m・K)以下のものが望ましい。このような断熱材には、例えば、Porextherm Dammstoffe Gmbh社製の「Porextherm WDS(登録商標)」がある。その材質は、ヒュームドシリカを主材とした微孔性成形体であり、熱伝導率は0.021W/(m・K)である。
なお、上記した理由から、断熱材16を配置する場合は、含水不焼成耐火物層13と断熱材16との間に、少なくとも1層の焼成耐火物層が配置されていればよく、例えば、材質が同一又は異なる2層又は3層以上(複数層)の焼成耐火物層を配置してもよい。なお、複数層の焼成耐火物層の合計厚みは、上記した第1の焼成耐火物層14の厚みにする。
一方、断熱材16を配置しない場合は、焼成耐火物層を、1層又は稼動面側から鉄皮側へ向けて2層以上(複数層)形成することもできる。このように、複数層形成する場合、各層の材質は、同一でもよく、また異なってもよい。なお、この場合も、複数層の焼成耐火物層の合計厚みを、上記した第1の焼成耐火物層14の厚みに相当する厚みにする。
【0026】
上記した構成のライニング15は、前記したように、含水不焼成耐火物層13の厚み方向の温度勾配が、0を超え0.5(℃/mm)以下となるように、加熱し乾燥させている。なお、含水不焼成耐火物層が複数層形成される場合は、その全厚みでの温度勾配となる。
この温度勾配の値を実現するには、含水不焼成耐火物層の温度勾配を測定しながら、加熱時の入熱量を制御(例えば、バーナーに供給する燃焼ガス量等を制御)すればよい。また、急な温度勾配を避けるため、ライニング15の稼動面側のみならず、稼動面側と背面(例えば、鉄皮11)側の双方から、ライニング15を加熱することもできる。更に、被乾燥物である溶湯容器10をオーブンに入れて乾燥することで、大きな温度勾配値となることを抑制することもできる。
この乾燥は、一般に、鉄皮側と比較して含水不焼成耐火物層の稼動面からの入熱が大きいが、当該入熱の含水不焼成耐火物層の背面からの熱損失を抑制すると、温度勾配が上記した範囲内で低い側であっても、乾燥完了までの時間を短縮することができる。
【0027】
従って、熱損失を抑制して短時間で乾燥を完了させるには、前記したように、含水不焼成耐火物層の背面側に断熱材を配置するとよい。しかし、乾燥完了までの時間を短縮する必要がなければ、断熱材を配置しなくても構わない。なお、断熱材を配置しない場合は、第2の焼成耐火物層17を配置する必要もないが、配置してもよい。
その他の温度勾配の値の実現方法としては、例えば、温度勾配を測定しながらの加熱(乾燥時のライニングへの入熱制御)や、ライニングの構成を利用する方法がある。
ライニングの構成を利用する方法には、例えば、乾燥対象である含水不焼成耐火物層の厚さや、上記した含水不焼成耐火物層と断熱材の間に配置する焼成耐火物層の厚さを薄くする方法があり、これにより、温度勾配の値が低下し易くなる。
また、断熱材の熱通過率(熱透過率ともいう)を低下(断熱性を向上)させてもよい。なお、熱通過率は、熱伝導率を厚みで除した値(=熱伝導率/厚み)である。
【0028】
以上に示したライニング構造の適用箇所は、特に限定されるものではないが、断熱材を使用する場合、溶湯容器の炉壁(側壁)に適用することが望ましい。これは、断熱材より炉内側に施工する耐火物、即ち含水不焼成耐火物層と第1の焼成耐火物層の自重により、断熱材が断熱性能の劣化を受けることなく、所望する効果が得られることによる。
一方、ライニング構造を炉底(敷部)に適用する場合、断熱材より炉内側に施工する耐火物の自重が、断熱材の圧縮強度を上回り、断熱材の気孔構造が破壊され、断熱性能の低下を招き、所望する効果が減少する。しかし、爆裂防止の効果はあるため、ライニング構造を炉底部に使用してもよい。
また、ライニング構造は、溶湯容器の炉壁及び/又は炉底の全体にわたって適用することが好ましいが、特に爆裂防止の効果が得られる部分のみに、部分的に設置してもよい。
【0029】
続いて、本発明の一実施の形態に係るライニングの乾燥方法について、図1を参照しながら説明する。
含水不焼成耐火物をウェア耐火物として施工する場合は、まず鉄皮11の炉内側表面に、例えば、直方体、台形柱、又は台形台の第2の焼成耐火物層17を、目地を介して隙間なく多数内張りする。
次に、この内張りした第2の焼成耐火物層17の炉内側表面に、シート状の断熱材16を、隣り合う断熱材16の間に隙間が生じないように貼り合わせる。
そして、第1の焼成耐火物層14を、第2の焼成耐火物層17の表面に貼り合わせた断熱材16の炉内側表面に、隙間なく多数内張りする。更に、この内張りした第1の焼成耐火物層14の炉内側表面に、熱電対18を設置する。
なお、断熱材を設置しない場合は、上記した断熱材16の設置作業を省略でき、第2の焼成耐火物層17の設置作業を省略できる場合があるが、この場合は、まず鉄皮11の炉内側表面に、第1の焼成耐火物層14を直接内張りすることもできる。
【0030】
このように、熱電対18を設置した後、第1の焼成耐火物層14の炉内側に間隔を有して型枠(図示しない)を設置し、この空間内に含水不焼成耐火物を流し込み、第1の焼成耐火物層14の稼動面側に含水不焼成耐火物層13を形成する。そして、形成した含水不焼成耐火物層13の稼動面12であって、上記した熱電対18と対向するほぼ同じ高さ位置(特に、形成する含水不焼成耐火物層13の厚みが最も厚くなる高さ位置)に、熱電対19を設置する。
なお、上記した対となる熱電対18、19の設置個数は、特に限定されるものではなく、温度測定が必要な箇所に応じて、1又は2以上の複数設置することができる。
このように、鉄皮11の炉内側表面に、炉内側から炉外側へ向けて、含水不焼成耐火物層13、第1の焼成耐火物層14、断熱材16、第2の焼成耐火物層17の順に配置した後、このライニング15を、炉内側(含水不焼成耐火物層13側)から、更には炉外側(鉄皮11側)から加熱して乾燥させる。
【0031】
このライニング15の加熱は、含水不焼成耐火物層13の厚み方向の温度勾配が、0を超え0.5(℃/mm)以下(好ましくは、下限を0.1(℃/mm)、上限を0.48(℃/mm))となるように行う。具体的には、含水不焼成耐火物層13の最も稼動面12側に設置された熱電対19の測定温度Ts(℃)、及び最も背面側に設置された熱電対18の測定温度Tb(℃)と、含水不焼成耐火物層13の厚み(対となる熱電対18と熱電対19の距離に相当)t(mm)から算出される温度勾配(=(Ts−Tb)/t)が、上記した範囲内となるように、ライニング15を加熱する。
ここで、乾燥を行うに際し、使用可能な加熱方法としては、例えば、バーナー加熱、温風加熱、熱風加熱、放射加熱(ラジアントチューブ)など、一方向あるいは同心円状に熱源を投入する方法があるが、その方法を特に規定するものではない。なお、加熱を行うに際しては、所定の昇温パターンに対して精度よく追従でき、しかも溶湯容器の上面開放部分を覆うことができる蓋を用いる方法が一般的である。
【0032】
これらの加熱方法により達成できる昇温速度、具体的には、含水不焼成耐火物層の乾燥面(稼動面)を100℃から200℃へ加熱する際に、この乾燥面を均一に加熱できる昇温速度は、例えば、含水不焼成耐火物層の乾燥面温度が1時間あたり40℃以下、即ち40(℃/時間)以下(更には35(℃/時間)以下)となる速度である。一方、昇温速度の下限値は、特に限定されるものではないが、より短時間で乾燥を行うことを考慮すれば、5(℃/時間)、更には10(℃/時間)である。
以上のように、形成したライニング15を加熱し乾燥することで、ウェア耐火物で形成される含水不焼成耐火物層13の乾燥時における爆裂を抑制、更には防止できる。
【0033】
なお、上記した溶湯容器の使用にあっては、溶湯と接触する焼成した含水不焼成耐火物層が、溶損、摩耗、剥離などの種々の要因により損傷し減肉する。
そこで、この場合は、損傷し残存する熱履歴を受けた使用後のウェア耐火物を、未乾燥の不定形耐火物(補修材)で補修する。以下、補修するウェア耐火物を第1の焼成耐火物層14とし、未乾燥の不定形耐火物を含水不焼成耐火物層13として説明する。
まず、減肉した損傷部位、即ち第1の焼成耐火物層14の表面に、熱電対18を設置する。
このように、熱電対18を設置した後、第1の焼成耐火物層14の炉内側表面に含水不焼成耐火物を配置して、含水不焼成耐火物層13を形成する。ここで、形成した含水不焼成耐火物層13の稼動面12であって、上記した熱電対18と対向するほぼ同じ高さ位置(特に、形成する含水不焼成耐火物層13の厚みが最も厚くなる高さ位置)に、熱電対19を設置する。
なお、熱電対18、19の設置個数は、上記と同様である。
【0034】
ここで、損傷部位に、含水不焼成耐火物層13を形成するに際しては、混練や混合した不定形耐火物を使用できる。
なお、混練した不定形耐火物を使用するに際しては、以下のような施工方法がある。
1)水分と耐火材を予め(事前に)混練した後、この混練物を、損傷部位(補修部分)までホース等で搬送して、損傷部位(第1の焼成耐火物層14の表面)に吹付ける(ショット補修)。
2)水分と耐火材を補修部分までホース等で別々に搬送した後、このホース等の噴出口近傍で混合した不定形耐火物を、損傷部位(第1の焼成耐火物層14の表面)に吹付ける(吹付け補修)。
3)水分と耐火材を予め(事前に)混練した後、この混練物を、損傷部位(第1の焼成耐火物層14の表面)に、こてで塗る(こて塗り補修)。
上記したように、補修の方法には種々あるが、所望される補修方法に応じて選択できる。
なお、含水不焼成耐火物層を複数形成する場合は、上記した施工方法のいずれか1のみ、又は2以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
このように、損傷部位に、含水不焼成耐火物層13を形成した後、この含水不焼成耐火物層13を、炉内側(含水不焼成耐火物層13の稼動面側)から乾燥させる。
このライニング15の加熱は、含水不焼成耐火物層13の厚み方向の温度勾配が、0を超え0.5(℃/mm)以下となるように、上記と同様の方法により行う。なお、含水不焼成耐火物層を複数形成する場合は、複数の含水不焼成耐火物層の全厚みでの温度勾配が、上記した範囲内となるように、ライニングを加熱する。
以上のように、形成したライニング15を加熱し乾燥することで、不定形耐火物で形成される含水不焼成耐火物層13の乾燥時における爆裂を抑制、更には防止できる。
従って、本発明者らが想到した前記メカニズムは、爆裂発生のし易さを温度勾配で説明できるものであり、異なる水分量である流し込み材、ショット材、こて塗り材、吹付け材等の施工方法(補修方法)に用いる含水不焼成耐火物を、同じ考え方の管理方法で、乾燥時の爆裂を抑制できる利点をもつ。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
まず、円筒容器の内張りとして、耐火物をライニングした。
このライニングは、円筒容器の鉄皮の炉内側表面に、炉内側から炉外側へ向けて、含水不焼成耐火物層、第1の焼成耐火物層の順に配置して、更には第1の焼成耐火物層の炉外側に、断熱材、第2の焼成耐火物層の順に配置して行った。ここで、含水不焼成耐火物層にはアルミナ−マグネシア質の不定形耐火物を、第1の焼成耐火物層には高アルミナ質の定形耐火物を、第2の焼成耐火物層にはろう石質の定形耐火物を、それぞれ使用した。
【0037】
なお、上記したライニングを行うに際しては、含水不焼成耐火物をウェア耐火物として施工する場合と、使用後のウェア耐火物を未乾燥の含水不焼成耐火物(補修材)で補修する場合について、ライニングの適用場所、含水不焼成耐火物層と第1の焼成耐火物層の各厚み、断熱材の有無や配置位置とその熱通過率、含水不焼成耐火物層の施工方法、その加熱方法を、種々変更した。
そして、ライニングを常温から加熱して乾燥し、水を含む含水不焼成耐火物層の背面温度が110℃に達して脱水が完了(水蒸気が発生しない)したタイミングにおいて、含水不焼成耐火物層内の温度勾配(℃/mm)と、剥離や爆裂トラブル発生の有無の調査を行った。
【0038】
表1に、試験条件と、得られた含水不焼成耐火物層の温度勾配、及び剥離や爆裂トラブル発生の有無の結果を、それぞれ示す。
なお、表1には、剥離や爆裂が発生しない場合と、剥離が発生する場合の典型的な条件を記載した。また、爆裂については、過去5年間の乾燥データで爆裂が発生した条件を記載した。しかし、ライニングの加熱にオーブンを使用した場合は、含水不焼成耐火物層に爆裂が発生しなかったため、オーブンを使用した爆裂の条件については記載していない。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示す断熱材の施工位置の欄において、「A」とは、断熱材を第1の焼成耐火物層と第2の焼成耐火物層との間に配置した場合を、「B」とは、断熱材を鉄皮と第2の焼成耐火物層との間に配置した場合を、「−」とは、断熱材と第2の焼成耐火物層を設けることなく、鉄皮の炉内側表面に第1の焼成耐火物層を配置した場合を、それぞれ意味する。
また、含水不焼成耐火物層の温度勾配は、含水不焼成耐火物層の背面温度が110℃に達して脱水が完了(水蒸気が発生しない)したタイミングにおいて、含水不焼成耐火物層の稼動面温度から背面温度を引いた値を、含水不焼成耐火物層の厚みで割った値、即ち以下の式で求めた値である。
{(含水不焼成耐火物層の稼動面温度)−(含水不焼成耐火物層の背面温度)}/(含水不焼成耐火物層の厚み)
ここで、含水不焼成耐火物層の稼動面温度と背面温度、含水不焼成耐火物層の厚みは、前記した実施の形態に記載の方法で得た。
【0041】
そして、施工方法の欄において、「流し込み」とは、第1の焼成耐火物層の炉内側に間隔を有して型枠を設置し、この空間内に含水不焼成耐火物を流し込む方法を、「吹付け」と「ショット」は、前記した実施の形態に記載のように、含水不焼成耐火物を第1の焼成耐火物層の炉内側表面に吹付ける方法を、それぞれ意味する。なお、「吹付け」と「ショット」は、前記したように、含水不焼成耐火物を製造する水と耐火材の混合時期が異なっている。
ここで、各方法に使用する含水不焼成耐火物中の水分量は、含水不焼成耐火物を構成する耐火材に対し、流し込み法では外掛けで4質量%以上9質量%以下程度、吹付け法では外掛けで20質量%以上25質量%以下程度、ショット法では外掛けで10質量%以上15質量%以下程度、である。
【0042】
また、加熱方法の欄において、「a」とは、ライニングを常温から加熱し乾燥するに際し、含水不焼成耐火物層の稼動面温度が40(℃/時間)で等速昇温するように、バーナーを用いてライニングを炉内側から加熱した場合を、「b」とは、上記した「a」の条件に加え、炉内側のバーナーよりも小規模のバーナー(キャンドルバーナー)を用いて、ライニングを炉外側(鉄皮面)からも加熱した場合を、「c」とは、上記した「a」の条件において、等速昇温を10(℃/時間)に変更した場合を、それぞれ意味する。
なお、前記したように、含水不焼成耐火物層の稼動面温度を40(℃/時間)とする昇温は、上記したバーナー等の加熱において、乾燥面を100℃から200℃へ加熱する際に、均一に加熱することができる最速クラスの昇温速度である。
そして、剥離爆裂トラブル発生の有無の欄において、「なし」は剥離や爆裂トラブルの発生なしを、「あり」は剥離や爆裂トラブルの発生ありを、それぞれ意味する。
【0043】
まず、含水不焼成耐火物をウェア耐火物として施工(流し込み施工)する場合について、表1の実施例1〜6及び比較例1〜5を参照しながら説明する。
表1において、実施例1〜6は、含水不焼成耐火物層の厚み方向の温度勾配を、0.5(℃/mm)以下に調整した結果であり、一方、比較例1〜5は、含水不焼成耐火物層の厚み方向の温度勾配を、0.5(℃/mm)超に調整した結果である。
表1から明らかなように、含水不焼成耐火物層の厚み方向の温度勾配を0.5(℃/mm)以下に調整することで、含水不焼成耐火物層の剥離や爆裂トラブルの発生を防止できることがわかった。
以下、ライニングの適用場所、断熱材の有無(配置位置と熱通過率)、含水不焼成耐火物層と第1の焼成耐火物層の各厚み、含水不焼成耐火物層の加熱方法を種々変更した影響について、更に詳細に説明する。
【0044】
まず、ライニングの施工部位を変更した結果について説明する。
実施例1は、断熱材を壁部に施工した結果であるため、断熱材より炉内側に施工する耐火物層の自重によって、断熱材の断熱性能が劣化することを防止できた。一方、実施例5は、断熱材を底部に施工した結果であるため、断熱材より炉内側に施工する耐火物層の自重によって、断熱材の断熱性能が劣化した。
このため、実施例5は、実施例1と比較して、含水不焼成耐火物層の温度勾配を小さく保つことができなかったと考えられ、実施例1のように、断熱材を壁部に施工する方が、含水不焼成耐火物層の温度勾配を小さく保つ効果は大きいことを確認できた。
【0045】
次に、断熱材の有無、及び施工位置を変更した結果について説明する。
実施例1と比較例1、2の結果から、熱源に近い、即ち含水不焼成耐火物層に近い位置に断熱材を施工することで、含水不焼成耐火物層の温度勾配を小さくできることを確認できた。
また、断熱材の熱通過率を変更した結果について説明する。
実施例1、2と比較例3の結果から、断熱材の熱通過率が小さい(熱伝導率が低い、あるいは断熱材の施工厚さが厚い)ほど、含水不焼成耐火物層の温度勾配を小さくできることを確認できた。
【0046】
次に、含水不焼成耐火物層の厚みを変更した結果について説明する。
実施例1、4と比較例4の結果から、含水不焼成耐火物層の厚みが薄いほど、含水不焼成耐火物層の温度勾配を小さくできることを確認できた。
また、第1の焼成耐火物層の厚みを変更した結果について説明する。
実施例1、3と比較例5の結果から、第1の焼成耐火物層の厚みが薄いほど、含水不焼成耐火物層の温度勾配を小さくできることを確認できた。
そして、含水不焼成耐火物層の加熱方法を変更した結果について説明する。
実施例5、6の結果から、炉内側からのみならず、炉内側と炉外側の双方から、ライニングを常温から加熱し乾燥することで、含水不焼成耐火物層の温度勾配を小さくできることを確認できた。
【0047】
続いて、使用後のウェア耐火物を含水不焼成耐火物で補修(吹付け補修、ショット補修、流し込み補修)する場合について、表1の実施例7〜12及び比較例6〜11を参照しながら説明する。
表1において、実施例7〜12は、含水不焼成耐火物層の厚み方向の温度勾配を、0.5(℃/mm)以下に調整した結果であり、一方、比較例6〜11は、含水不焼成耐火物層の厚み方向の温度勾配を、0.5(℃/mm)超に調整した結果である。
表1から明らかなように、含水不焼成耐火物層の厚み方向の温度勾配を0.5(℃/mm)以下に調整することで、含水不焼成耐火物層の剥離や爆裂トラブルの発生を防止できることがわかった。
以下、断熱材の有無(配置位置と熱通過率)、含水不焼成耐火物層と第1の焼成耐火物層の各厚み、含水不焼成耐火物層の施工方法とその加熱方法を種々変更した影響について、更に詳細に説明する。
【0048】
まず、断熱材の有無、及び施工位置を変更した結果について説明する。
実施例7と比較例6、7の結果から、熱源に近い、即ち含水不焼成耐火物層に近い位置に断熱材を施工することで、含水不焼成耐火物層の温度勾配を小さくできることを確認できた。
また、断熱材の熱透過率を変更した結果について説明する。
実施例7、8と比較例8の結果から、断熱材の熱透過率が小さい(熱伝導率が低い、あるいは断熱材の施工厚さが厚い)ほど、含水不焼成耐火物層の温度勾配を小さくできることを確認できた。
そして、含水不焼成耐火物層の厚みを変更した結果について説明する。
実施例7、9と比較例9の結果や、実施例11と比較例11の結果から、含水不焼成耐火物層の厚みが薄いほど、含水不焼成耐火物層の温度勾配を小さくできることを確認できた。
【0049】
次に、第1の焼成耐火物層の厚みを変更した結果について説明する。
実施例7、10と比較例10の結果から、第1の焼成耐火物層の厚みが薄いほど、含水不焼成耐火物層の温度勾配を小さくできることを確認できた。
また、含水不焼成耐火物層の施工方法を変更した結果について説明する。
実施例10、11の結果から、含水不焼成耐火物層の施工方法を変更しても、即ち含水不焼成耐火物層中の水分量を変更しても、含水不焼成耐火物層の剥離や爆裂トラブルの発生を防止できることが確認できた。
そして、含水不焼成耐火物層の加熱方法を変更した結果について説明する。
実施例12の結果から、ライニングを常温から加熱し乾燥するに際し、含水不焼成耐火物層の稼動面温度が10(℃/時間)で等速昇温するように、バーナーを用いてライニングを炉内側から加熱することで(即ち、含水不焼成耐火物層の加熱速度を遅くすることで)、含水不焼成耐火物層の温度勾配を小さくできることを確認できた。
【0050】
以上のことから、本発明のライニングの乾燥方法を用いて、形成したライニングを加熱し乾燥することで、ウェア耐火物やその補修材で形成される含水不焼成耐火物層の乾燥時における爆裂を抑制、更には防止できることを確認できた。
【0051】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のライニングの乾燥方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、本発明のライニングの乾燥方法を溶湯容器に適用した場合について説明したが、ライニングを実施する対象であれば、これに限定されるものではなく、例えば、樋でもよい。
【符号の説明】
【0052】
10:溶湯容器、11:鉄皮、12:稼動面、13:含水不焼成耐火物層、14:第1の焼成耐火物層、15:ライニング、16:断熱材、17:第2の焼成耐火物層、18、19:熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯と接触する稼動面側から鉄皮側へ向けて、1又は複数の含水不焼成耐火物層と、1又は複数の焼成耐火物層が形成され、しかも前記含水不焼成耐火物層の前記鉄皮側となる背面側に前記焼成耐火物層が形成されたライニングの乾燥方法において、
前記含水不焼成耐火物層の厚み方向の温度勾配が、0を超え0.5(℃/mm)以下となるように、前記ライニングを加熱し乾燥させることを特徴とするライニングの乾燥方法。
【請求項2】
請求項1記載のライニングの乾燥方法において、前記焼成耐火物層を複数設け、しかも前記含水不焼成耐火物層の背面側に少なくとも1層の前記焼成耐火物層を介して断熱材を配置し、前記ライニングの加熱を少なくとも前記稼動面側から行うことを特徴とするライニングの乾燥方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−40716(P2013−40716A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177955(P2011−177955)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】