説明

ライニング組成物及びこれを用いたライニング方法

【課題】無機充填剤を使用することなく耐酸性を有し、溶剤や毒性の強い成分を含むことなく、手動で施工する作業者の健康に悪影響を与えることを防止することができるようにすること。
【解決手段】(A)〜(D)成分からなるライニング組成物。
(A)成分:水
(B)成分:エポキシ基を有する化合物
(C)成分:アミン基を有する化合物
(D)成分:クロロスルフォン化ポリエチレン粒子

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライニング組成物及びこれを用いたライニング方法に係り、更に詳しくは、電力会社、石油コンビナートなどに於ける焼却炉煙突で使われているライニング組成物と、当該組成物により金属製煙突の内面に塗膜を形成して煙突の延命を図ることができるライニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の様に、有機材料による煙突内面ライニングの手法が知られている。ライニング材の施工方法として最も効率的な吹付をはじめとして様々な手法が知られている。また、施工を自動で行うか手動で行うかの違いも存在する。煙突の種類によっては自動化出来ない場合もあるため、人の手による施工方法が有用な場合も存在する。手作業により型枠でライニング層を形成する方法として特許文献2が知られている。また、自動吹付による施工方法としては特許文献3が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−032309号公報
【特許文献2】特開昭63−103165号公報
【特許文献3】特開平09−125699号公報
【特許文献4】特開2006−297883号公報
【特許文献5】特開2001−141229号公報
【特許文献6】特開平06−198246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、煙突内部は閉所空間であり、高さも200メートル近くに及ぶものもあり、十分な換気等ができず、攪拌機、塗布機、昇降機を持ち込んでの作業において、引火性を有する樹脂を使用した場合、引火等による爆発等の懸念があるので溶剤系のライニング材は使用できないといった制約がある。
【0005】
また、電力会社、石油コンビナートなどで使用される燃料には硫黄成分を含有するため、燃焼により硫黄成分を由来とする酸性物質が発生する。そのため、煙突の内面に使用されるライニング材には耐酸性を必要とされ、煙突内を通過する煙中の硫黄分が高濃度になるような過酷な条件下では、塗膜劣化が急速に進行し、塗膜に亀裂を生じ保護材としての機能を果たさなくなり、硫黄分が補強芯材のみならず、筒身を構成する鋼板に浸透してこれらを腐食するという問題がある。特に、石炭火力発電所では数十種類の原料炭を使用しており、排気ガスの組成が変化するため、排気ガス中の硫黄によるライニング材の劣化がいっそう顕著となる場合がある。さらには、稼働時と停止時により温度が急変すると共に、季節要因が影響して冬場では大きな温度差が発生するため、これによっても、ライニング材の劣化が顕著となる場合がある。
【0006】
耐性向上の対策として、特許文献4においては、下地処理としてセラミックや合金等を溶射する手法で耐熱・耐蝕性を発現させているが、アルミナ粉などを大量に使用するため加工賃の向上を招く傾向がある。
【0007】
また、特許文献5と特許文献6の様に、有機材料に無機充填剤を添加する手法も知られているが、施工方法の中で最も効率的な吹付に対応することが難しい。仮に対応出来たとしても、無機充填剤を多く含んでいるために粘性が増して均一な塗膜を形成することが困難である。
【0008】
更に、ライニング材として汎用されているビニルエステル樹脂が公知であるが、下地にエポキシ樹脂を使用するとアミン系硬化剤が硬化阻害を誘発し、ビニルエステル樹脂が未硬化になる可能性が高く作業に支障を来すことが知られている。さらには、ビニルエステル樹脂に溶剤が含まれるため、密閉された煙突のライニング作業に於いて作業者の健康に悪影響を与えると共に、引火による爆発の危険が伴うなどの問題点が挙げられる。
【0009】
また、ウレタン樹脂からなるライニング材としては、発泡によるピンホールの発生など技術的な課題も見られると共に、ウレタンライニング材は耐熱性が低い傾向が有る。また、揮発性の高いイソシアネート化合物が含まれる事が多いため、その毒性が作業者の健康に悪影響を与える事も懸念される。
【0010】
[発明の目的]
本発明は、前述の問題点や懸念等を解決すべく鋭意検討した結果案出されたものであり、その目的は、無機充填剤を使用することなく耐酸性を有し、溶剤や毒性の強い成分を含むことなく、手動で施工する作業者の健康に悪影響を与えることを防止することができるライニング組成物及びこれを用いたライニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明のライニング組成物は、下記(A)〜(D)成分からなる、という構成を採っている。
(A)成分:水
(B)成分:エポキシ基を有する化合物
(C)成分:アミン基を有する化合物
(D)成分:クロロスルフォン化ポリエチレン粒子
【0012】
本発明において、前記(D)成分が事前に水に分散された粒子、または事前に水中で乳化重合して作られた粒子である、という構成が好ましくは採用される。
【0013】
また、前記(A)成分、(B)成分、(D)成分から構成される本剤と、(C)成分から構成される硬化剤からなる二液型であることが好ましい。
【0014】
更に、本発明のライニング方法は、請求項1,2又は3記載のライニング組成物の塗膜を形成した後、当該塗膜の表面にクロロスルフォン化ポリエチレンラテックスによる塗膜を形成する、という方法を採っている。
【0015】
また、施工の下地としてエポキシ樹脂組成物からなる1または2の塗膜を形成した後、請求項4記載の方法を行うとよい。
【0016】
更に、管内面の脆弱部を除去した後に、請求項4又は5記載の方法を行うこともできる。
【0017】
また、煙突内面に対し、請求項4,5又は6記載の方法を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、無機充填剤を使用しない耐酸性を有するライニング材であると同時に、溶剤や毒性の強い成分を含まず、手動で施工する場合にも作業者の健康に悪影響を与えることを防止することができる。また、塗膜形成のための作業性を向上できる他、従来のようなアルミナ粉等の大量使用を回避でき、加工コストの低減を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
本発明のライニング組成物は、以下に述べる(A)〜(D)成分からなる。
【0021】
本発明で使用することができる(A)成分としては水であれば限定されず、好ましくは精製水、純水である。(A)成分の添加量によりライニング組成物の粘性を変えて、吹付に適した状態に調整する。
【0022】
本発明で使用することができる(B)成分としては、1分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物であり、一般的にエポキシ樹脂と呼ばれている。1種類だけ使用しても2種類以上を混合して使用しても良い。エポキシ樹脂の具体例としては、エピクロルヒドリンとビスフェノール類などの多価フェノール類や多価アルコールとの縮合によって得られるもので、例えばビスフェノールA型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、ノボラック型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型、テトラフェニロールエタン型などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を例示することができる。その他エピクロルヒドリンとフタル酸誘導体や脂肪酸などのカルボン酸との縮合によって得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、エピクロルヒドリンとアミン類、シアヌル酸類、ヒダントイン類との反応によって得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、さらには様々な方法で変性したエポキシ樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明で使用することができる(C)成分としては、1分子内に2以上のアミン基を有するポリアミン化合物であれば良く、脂肪族ポリアミン、変性脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、変性芳香族ポリアミンなどが挙げられる。耐熱性の観点から芳香族ポリアミンが好ましく、具体的には4,4−ジアミノジフェニルメタン、1,3−フェニレンジアミン、N−(3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル)−m−フェニレンジアミン、4−(3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピルアミン)−4−ジアミノジフェニルメタン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明で使用することができる(D)成分としては、クロロスルフォン化ポリエチレンの粒子が最終的に水に分散されれば良く、クロロスルフォン化ポリエチレンの微粒子を水に分散させる方法が挙げられる。好ましくは、水の中でクロロスルフォン化ポリエチレンの粒子を合成しても良い。製造方法としては、SBRラテックスやNBRラテックスのようにモノマーより直接乳化重合により製造する方法、一旦ポリマーとしたものを有機溶剤に溶解したものに乳化剤を含んだ水を加えて乳化させ、その後に溶剤を除去することで製造する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。水中で事前に粒子が合成される具体的としては、住友精化株式会社製のCSM−450、CSM−200などが挙げられる。
【0025】
本発明の態様としては、作業上支障が無い程度で使用できれば一液型、二液型を問わない。二液型の具体的としては、本剤が(A)成分、(B)成分、(D)成分からなり、硬化剤が(C)成分からなる場合や、本剤が(A)成分、(B)成分、(D)成分からなり、硬化剤が(A)成分、(C)成分からなる場合などが考えられるがこれらに限定されるものではない。
【0026】
前記(A)〜(D)成分を調整したライニング組成物を施工する場合、成型物等に対し、吹き付け等により塗布して塗膜を形成する。この塗膜を形成した後、当該塗膜の表面にクロロスルフォン化ポリエチレンラテックスによる塗膜を形成することが好ましい。また、前記ライニング組成物の塗膜を形成する前に、施工の下地としてエポキシ樹脂組成物からなる1または2の塗膜を形成するとよい。前記ライニング組成物は、特に限定されるものでないが、煙突の内面に施工を行うことが例示できる。
【0027】
前記ライニング組成物を施工する時に、長年の使用により劣化した脆弱部が生じている場合は、当該脆弱部を除去若しくは剥離して健全な表面を露出させる初期作業が行われる。脆弱部をブラスティング若しくは高圧水洗浄(例えば、100〜300MPa)により除去若しくは剥離し、処理面を乾燥させた後にライニング組成物を塗布する手法が採用される。この脆弱部は表面側を3〜5mmの深さに一様に除去して清掃される。脆弱部が浅い場合は単に除去若しくは剥離するだけとし、大断面欠損である場合は埋め戻して脆弱部を補修することが好ましい。
【0028】
本発明のライニング組成物には、本発明の所期の効果を損なわない範囲において、顔料、染料などの着色剤、金属粉、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤、難燃剤、有機充填剤、可塑剤、酸化防止剤、消泡剤、シラン系カップリング剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、界面活性剤、乳化剤、架橋剤、分散剤等の添加剤を適量配合しても良い。これらの添加により、樹脂強度・接着強さ・作業性・保存性等に優れた組成物およびその硬化物が得られる。
【実施例】
【0029】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
実施例1〜4、比較例1〜5のライニング組成物を調製するために下記成分を準備した。なお、(D)成分は実施例1〜4に使用し、(D’)成分は比較例1〜3に使用した。
(A)成分:精製水
(B)成分:エポキシ基を有する化合物
・ビスF型エポキシ樹脂(jER807 ジャパンエポキシレジン株式会社製)
・ビスA型エポキシ樹脂(jER828 ジャパンエポキシレジン株式会社製)
(C)成分:アミン基を有する化合物
・変性芳香族ポリアミン樹脂(EH−549 株式会社ADEKA)
・変性芳香族ポリアミン樹脂(EH−551 株式会社ADEKA)
・変性芳香族ポリアミン樹脂(EH−520 株式会社ADEKA)
・変性芳香族ポリアミン樹脂(EH−521 株式会社ADEKA)
(D)成分:クロロスルフォン化ポリエチレン粒子
・クロロスルフォン化ポリエチレンラテックス(固形分40%)(CSM−200 住友精化株式会社製)
・クロロスルフォン化ポリエチレンラテックス(固形分40%)(CSM−450 住友精化株式会社製)
(D’)成分:クロロスルフォン化ポリエチレン以外のゴム
・クロロプレンラテックス(固形分50%)(LM−50 電気化学工業株式会社製)
・クロロプレンラテックス(固形分50%)(LA−660 東ソー株式会社製)
・クロロプレン−メタクリル酸共重合ラテックス(固形分50%)(GFL−890 東ソー株式会社製)
その他の成分
・陰イオン性界面活性剤(デモールN 花王株式会社製)
【0031】
(A)成分、(D)成分または(D’)成分、その他の成分をディゾルバーにより5分間撹拌した。その後、(B)成分を添加してさらに5分間撹拌した(以下、(A)成分、(B)成分、(D)成分または(D’)成分、その他成分の混合物を本剤と呼ぶ。)。一方、複数種の(C)成分を撹拌機にて5分混合した(以下、(C)成分のみから構成される混合物を硬化剤と呼ぶ。)。ただし、比較例4,5では調製は不要である。詳細な調製量は表1に従い数値は全て質量部で表記する。また、使用前に本剤と硬化剤を混合して使用する。
【0032】
【表1】

【0033】
[テストピース1の作成]
硫黄成分を含まず室温硬化する二液型エポキシ樹脂を使用して、直径5mm×高さ50mmの円柱状に成型物を作成した(以下、この成型物を成型物1と呼ぶ。)。成型物1の表面に実施例1〜4、比較例1〜5を塗布した後、室温で24時間放置して塗膜を形成する(以下、塗膜を形成した成型物をテストピース1と呼ぶ。)。塗膜厚は、実施例1〜4及び比較例1〜3の場合はウェット状態で400μm、比較例4〜5の場合はウェット状態で80μmとする。
【0034】
[浸透距離の測定]
前記テストピース1に於いて、硫黄成分を含まない二液型エポキシ樹脂を用いた理由は、塗膜を経由して成型物まで硫黄成分が浸透しないか確認するためである。テストピース1を切断してその断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観測し、電子ビームによって励起されたX線をエネルギー分散型X線分光法(SEM−EDXまたはSEM−EDS)により元素のマッピングを行う。硫黄元素をマッピングすることにより、成型物と塗膜の界面から成型物内部に硫黄元素が浸透しているかを観察、界面からの「浸透距離」(μm)を測定し、その結果を表2及び表3の試験項目「浸透距離」で示す。判断の目安として、成型物に対して浸透距離が測定出来る場合は数値で表記するが、成型物全体に浸透している場合は「NG」と表記する。また、「NG」の状態になった後、継続して試験をしている場合は確認未実施として「−」と表記する。
【0035】
[テストピース2の作成]
耐酸性モルタルにより150mm×150mm×20mmの成型物を作成し、硫黄成分を含まず室温硬化する二液型エポキシ樹脂を使用して500μmの塗膜を形成する(以下、この成型物を成型物2と呼ぶ。)。耐酸性モルタルとは特殊セメント、焼成粘土、特殊耐酸材より構成されているモルタルである。成型物2の表面に実施例1〜4、比較例1〜5のライニング組成物を塗布した後、室温で24時間放置して塗膜を形成する(以下、塗膜を形成した成型物をテストピース2と呼ぶ。)。各実施例及び各比較例の塗膜厚はテストピース1の作成に従う。
【0036】
[外観の確認]
前記テストピース2の塗膜に、亀裂や界面剥離等の発生有無を目視により「外観」を確認し、その結果を表2及び表3の試験項目「外観」で示す。判断の目安として、変化がない場合は「異常なし」、一部に亀裂や界面剥離が発生している場合は「一部異常」、全面的に亀裂や界面剥離が発生している場合は「NG」とする。また、「NG」の状態になった後、継続して試験をしている場合は確認未実施として「−」と表記する。
【0037】
[接着力の測定]
前記テストピース2に対して、接着面積が40mm×40mmのアタッチメントを室温硬化する二液型エポキシ樹脂によりテストピース2の表面に接着する。デジタル荷重計によりアタッチメントを接着面に対して垂直方向に引っ張って測定を行う。この方法は建設省建築研究所の指導により設計された試験方法で、一般的に建研式接着力試験と呼ばれる方法である。接着面積当たりの強度を測定した後、「接着力」(MPa)を計算し、その結果を表2及び表3の試験項目「接着力」で示す。
【0038】
[耐硫酸試験]
テストピース1とテストピース2を20%硫酸水溶液中に浸漬して、150℃で48時間放置する。テストピースを取り出した後、軽く精製水で洗浄して室温に1日放置して乾燥する。その後、前述と同様に、浸透距離の測定、外観の確認、接着力の測定を実施し、それらの結果を表2及び表3の試験項目「浸透距離(耐硫酸試験)」、「外観(耐硫酸試験)」、「接着力(耐硫酸試験)」で示す。
【0039】
[吹付試験]
実施例1〜4及び比較例1〜5のライニング組成物を一般的な吹付装置から吹付した時に、塗膜の状態を目視で確認し、その結果を表2及び表3の試験項目「吹付特性」で示す。「良」は斑にならず均一な塗膜が形成されている状態であり、「不良」は斑になり均一な塗膜が形成されない状態を言う。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
[疑似フィールド試験]
耐酸性モルタルにより150mm×150mm×20mmの成型物を作成し、実際の施工を想定した仕様A〜Fの施工を行った。仕様A〜Fに関する詳細は表4にまとめた(エポキシ樹脂は株式会社スリーボンド製、シリコーンエマルジョンは亜細亜工業株式会社製、ビニルエステル樹脂は昭和高分子株式会社製、ポリマーモルタルセメントは昭和高分子株式会社製を使用した。)。表4に於ける各層の塗膜厚は、すべてウェット状態で実施例1が200μm、エポキシ樹脂が500μm、クロロスルフォン化ポリエチレンラテックスが40μm、シリコーンエマルジョンが200μm、ビニルエステル樹脂が200μmに設定した(以下、施工済みの耐酸性モルタルをキャスター材と呼ぶ。)。キャスター材を浸漬液に浸漬して150℃で2日、4日、8日後に取り出すという長期間の耐硫酸試験を実施した。浸漬液は前記耐硫酸試験と同様に20%硫酸水溶液を使用し、キャスター材を取り出す毎に取り替える。取り出したキャスター材は室温になるまで放置した後、前述と同様に、浸透距離の測定、外観の確認、接着力の測定を実施した。それらの結果を表5に示す。浸透距離の測定において、仕様A〜Eは表4の2層目と3層目の界面に於ける浸透距離を確認し、仕様Fは1層目と2層目の界面における浸透距離を確認した。接着力の測定における剥離状態として、「※1」は耐酸性モルタルの凝集破壊を示し、「※2」は2層目と3層目の界面破壊を示し、「※3」は1層目の凝集破壊を示す。
【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
表2と表3を比較すると、浸透距離の測定結果において、耐酸性に強いと言われているクロロプレン粒子を含む比較例1〜3を使用しても耐硫酸試験において外観が不良になると共に硫黄成分の浸透も激しい。また、比較例1〜3は塗膜が劣化するに呼応して、接着力が発現しない傾向が見られる。一方、実施例1〜4は外観、接着力、浸透距離すべてに於いて比較例1〜3より勝ると共に、吹付特性も良好である。また、クロロスルフォン化ポリエチレン粒子を含むが、エポキシ樹脂成分を含まない比較例4〜5では、浸透距離は実施例1〜3に勝るものの絶対的な接着力が低く塗膜として不十分である。
【0046】
実際の使用条件に近い疑似フィールド試験においては、表4の様な多層ライニングを形成して長期間の耐硫酸試験を実施した。当該長期間の耐硫酸試験は非常に厳しい信頼性試験であり、実際の使用条件に耐えうるかの裏付けになる試験に相当する。多層塗膜の中には、仕様Eに示した耐薬品性を有するシリコーンの塗膜や仕様Fに示したライニング材として安定した特性が得られるビニルエステルの塗膜も同時に試験を実施した。表5から理解できるように、最も優れた特性を有しているのは仕様Dであり、浸透距離・外観・接着力すべてに於いて良好な特性を示した。実施例1を用いた別の仕様である仕様Cは、仕様Fと同程度の特性を示していると共に、仕様Fよりも高い接着力が発現した。本発明のライニング組成物を用いる事により、一般的に安定していると言われているビニルエステルと同等以上の耐硫酸性を有することが理解できる。本発明のライニング組成物とクロロスルフォン化ポリエチレンの多層ライニングを併用することにより、従来には見られない際だった耐硫酸性を有する事を実現した。さらには、本発明のライニング組成物は水性タイプであり、作業者の健康を守ると共に作業環境を危険にさらす事が無い。
【0047】
本発明において、表面保護層となる塗膜は、耐酸性および耐熱性を有すると共に付着力も高く長期の安定した耐久性を示すことができる。つまり、基材である無機質ライニングへの劣化を防ぐと共に、定期的に実施されるライニング材の補修工事の間隔を大幅に延長することができ、メンテナンスコストを削減することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(D)成分からなることを特徴とするライニング組成物。
(A)成分:水
(B)成分:エポキシ基を有する化合物
(C)成分:アミン基を有する化合物
(D)成分:クロロスルフォン化ポリエチレン粒子
【請求項2】
前記(D)成分が事前に水に分散された粒子、または事前に水中で乳化重合して作られた粒子であることを特徴とする請求項1記載のライニング組成物。
【請求項3】
前記(A)成分、(B)成分、(D)成分から構成される本剤と、(C)成分から構成される硬化剤からなる二液型であることを特徴とする請求項1又は2記載のライニング組成物。
【請求項4】
前記請求項1,2又は3記載のライニング組成物の塗膜を形成した後、当該塗膜の表面にクロロスルフォン化ポリエチレンラテックスによる塗膜を形成することを特徴とするライニング方法。
【請求項5】
施工の下地としてエポキシ樹脂組成物からなる1または2の塗膜を形成した後、前記請求項4記載の方法を行うことを特徴とするライニング方法。
【請求項6】
管内面の脆弱部を除去した後に、前記請求項4又は5記載の方法を行うことを特徴とするライニング方法。
【請求項7】
煙突内面に対し、前記請求項4,5又は6記載の方法を行うことを特徴とするライニング方法。

【公開番号】特開2010−202473(P2010−202473A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51913(P2009−51913)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【出願人】(592082206)スリーボンドユニコム株式会社 (11)
【Fターム(参考)】