説明

ラクダ科動物由来の抗原結合ポリペプチド

本発明は、ラクダ科ファミリーの種の通常型抗体レパトアを基にした所望の標的抗原に対する特異性を有する抗原結合ポリペプチドを作製するためのプラットフォーム技術、及びこの技術プラットフォームを用いて得られた抗原結合ポリペプチドに関する。特に本発明は、VHドメイン又はVLドメイン中の少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)が、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られる、VHドメイン及びVLドメインを含む抗原結合ポリペプチドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ヒト抗体の可変ドメインと高度の配列相同性及び構造相同性を共有する、モノクローナル抗体を含む、抗原結合ポリペプチドを作製するための新規プラットフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
モノクローナル抗体は、研究ツールとしての、及び次第に治療用又は診断用の物質としての多くの適用を有する。現在20種を超える様々なモノクローナル抗体が、癌、炎症、自己免疫障害、感染症、喘息、心臓血管疾患及び移植拒絶反応を含む多種多様な疾患を治療するために、規制当局の認可を受けており、かつ開発ライン上にあるモノクローナル抗体医薬の数は、対前年比で増加しつつある。
【0003】
ヒト療法における齧歯類(具体的にはマウス)モノクローナル抗体の有用性は、それらの非-ヒト起源に関連した問題点、特にヒト宿主におけるそれらの免疫原性のために、限定されている。治療用抗体医薬に対するヒト免疫応答を最小化するために、モノクローナル抗体技術は、完全マウス抗体から、キメラ抗体(ヒトIgG骨格にグラフティング(grafting)されたマウス可変ドメイン)へ、ヒト化抗体(ヒトIgG骨格にグラフティングされたマウスCDR)へ、ヒトIgGレパトアの一部を発現している合成ライブラリー又は免疫化されたトランスジェニックマウス由来の「完全ヒト」抗体へと発展している。
【0004】
治療上関心のある標的抗原に対する完全ヒト又は「ヒト化された」モノクローナル抗体の産生を可能にする、多くの技術のプラットフォームが開発されている。これらのプラットフォームの各々は、それ自身に特有な特徴及び潜在的短所を有する。
【0005】
マウスモノクローナル抗体のヒト化は、マウス可変ドメインをヒト定常ドメインと組合せ、約70%のヒト内容物(content)を有するいわゆるキメラ抗体を作製することにより最初に達成された。更なるヒト化度は、引き続き、マウスモノクローナル抗体の相補性決定領域(CDR)を、ヒト抗体の可変抗体ドメインのヒトフレームワーク領域にグラフティングすることにより達成された。加えて、それらのフレームワーク領域に存在するいくつかのアミノ酸残基は、CDR又は抗原との相互作用として同定され、かつ結合を改善するようにヒト化抗体において復帰変異された。(Almagroらの論文、Frontiers in Bioscience. 13:1619-1633 (2008))。このアプローチを用いて操作されたモノクローナル抗体は、ヒト化後に、ヒトVH及びVLドメイン配列と比較的高度な一次配列相同性を有するが、欠点は、全てではないマウス-コードされたCDRが、ヒト抗体において認められないカノニカルフォールド(canonical fold)、及びカノニカルフォールド組合せを使用するので、ヒト様構造を有さない超可変ループで終わる可能性があることである。(Almagroらの論文、Mol. Immunol. 34:1199-1214 (1997);Almagroらの論文、Immunogen, 47:355-63 (1998))。更なる欠点は、そのような抗体をヒト化するために典型的に必要とされる非常に多数の変異であり(そのための手順は複雑で時間のかかるものである)、これはヒト化に必要な数多くの変化の結果として親和性及び効力を失うという当然のリスク、並びにVκドメインはマウスのレパトアにおいて主に使用されるのに対し、ヒト抗体全体のおよそ半分はVλドメインを有するという事実を伴う。
【0006】
ヒト化されたマウスモノクローナル抗体に対する可能性のある改善として、「完全ヒト」モノクローナル抗体が、ふたつの非常に異なるアプローチにより作製されることができる。第一のアプローチは、完全な合成ヒトコンビナトリアル抗体ライブラリー(例えば、HuCAL(登録商標)、MorphoSys社)からの選択である。このアプローチの潜在的欠点は、この合成ライブラリーは、ヒト生殖系列に天然に存在する機能的多様性を近似するのみであり、従ってその多様性は若干制限されていることである。同じくこのアプローチを用いて作出された抗体は、能動免疫化を介したCDRのインビボ選択に由来せず、かつ典型的には標的抗原に対する親和性を改善するために、親和性成熟がなされなければならない。親和性成熟は、抗体発見プロセスにかなりの時間をかけることがある冗長なプロセスである。同じく親和性成熟のプロセスにおいて、ある種のアミノ酸残基は、生じる抗体の結合特異性又は安定性に負の影響を及ぼし得るよう変更されることがある。(Wuらの論文、J. Mol. Biol. 368:652-65 (2007))。
【0007】
代わりの「完全ヒト」プラットフォームは、マウス免疫グロブリンのコード領域を、ヒト生殖系列由来の抗体をコードしている配列(例えば、HuMab、Medarex社)と交換するよう操作されているトランスジェニックマウスを基にしている。これらのシステムは、抗体は、標的抗原に対する能動免疫化により生じる、すなわち抗体は抗原に対する高い出発親和性を有すること、並びにそれらをよりヒト様とするための当初の抗体の抗体操作が必要ないか又は必要であってもごくわずかであるという利点を有する。しかしこのトランスジェニックマウス系統は、定義により高度に近交系であり、かつこれは抗体反応の強度及び多様性に関して良くない帰結をもたらす。このプラットフォームによる別の欠点は、一部のトランスジェニックマウスシステムにおけるヒトFc/マウスFc受容体相互作用に起因した、損なわれたB細胞成熟であろう。
【0008】
更なるプラットフォームは、非ヒト霊長類、具体的にはカニクイザルの免疫化を基にしている。サルとヒトの免疫グロブリン間の高度なアミノ酸配列同一性のために、サルにおいて生じた抗体をヒト治療薬として有用にするためには、抗体は、それらの可変ドメインにおける追加の「ヒト化」をほとんど又は全く必要としないことが前提とされる(WO 93/02108参照されたい)。
【発明の概要】
【0009】
(発明の概要)
本発明者らは、先行技術のヒト化された又は完全にヒトの抗体プラットフォームにより認められる短所の一部又は全てを避け、かつヒト宿主における免疫原性を最小化する一方で、治療上重要な広範な標的抗原に対し高度に特異性及び親和性の抗体を産生することが可能である、「ヒト化された」モノクローナル抗体(抗原結合ポリペプチド)プラットフォームの必要性を認めている。
【0010】
本発明者らは、ラクダ科ファミリー(family Camelidae)由来の通常型(conventional)抗体のVH及びVLの両ドメインが、フレームワーク領域にわたり、ヒト抗体のVH及びVLドメインと高度なアミノ酸配列同一性を示すことを認めている。実際に、ラクダ科動物(camelid)の通常型VHドメインとヒトVHドメインの間の、及びラクダ科動物の通常型VLドメインとヒトVLドメインの間の配列同一性の程度は、ヒトと他の霊長類種、例えばカニクイザルとの間で認められるものに近づくことができ、かつヒトとラクダ科動物の系統学的な距離を考え予想されるものよりもはるかに高い。この知見は、重鎖ラクダ科動物抗体の可変ドメイン(VHH)は、ヒト可変ドメインと高度な配列相同性を示さないことを考えると、驚くべきことである。
【0011】
加えて、本発明者らは、ラクダ科動物VH及びVLドメインの超可変ループ(H1、H2、L1、L2及びL3)は、ヒトVH及びVLドメインの超可変ループと高度な構造相同性を示すことが多いことを認め、このこともヒトとラクダ科動物の間の進化的距離を考えると予想外である。重鎖ラクダ科動物抗体の超可変ループは、ヒト及びマウスVHの対応するループとは、コンホメーション及び長さにおいて実質的に異なることが報告されているので、ラクダ科動物の通常型抗体(又はむしろそのような抗体の超可変ループ)とヒト抗体の間の高度な構造相同性も、驚くべきことである(De Genstらの総説、Develop Comp. Immunol. 30:187-98 (2006)を参照されたい)。
【0012】
ヒト抗体の結合部位とこの超可変ループを含む抗原結合部位の高度の構造相同性と組み合わされた、ヒト抗体のフレームワーク領域と高度の一次アミノ酸配列の相同性、及びラクダ科(Camelidae)通常型抗体がヒトから系統学的に極めて遠い非近交系動物集団の能動免疫化により生じることができるという事実は、ラクダ科ファミリー由来の通常型抗体がヒト治療薬としての潜在的有用性を有するモノクローナル抗体を操作するための魅力的な出発点であるという推量を本発明者らにもたらした。
【0013】
従って本発明の第一の態様に従い、VHドメイン又はVLドメイン中の少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)が、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られる、VHドメイン及びVLドメインを含む抗原結合ポリペプチドが提供される。
【0014】
一実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、標的抗原と免疫反応性であることができる。別の実施態様において、本抗原結合ポリペプチドは、標的抗原へ特異的に結合することができる。
【0015】
非限定的実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、組換えポリペプチドであることができる。
非限定的実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、キメラポリペプチドであることができる。
【0016】
非限定的実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、モノクローナル抗体であることができる。
非限定的実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、組換えにより発現されたキメラモノクローナル抗体であることができる。
非限定的実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、ラクダ科ファミリーの種の能動免疫化により得られた超可変ループ又は相補性決定領域を含むことができる。
【0017】
第二の態様において、本発明は、標的抗原と免疫反応性である抗原結合ポリペプチドを調製する方法を提供し、該方法は:
(a)該標的抗原と免疫反応性であるラクダ科通常型抗体のVH及び/又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)をコードしているヌクレオチド配列を決定すること;並びに
(b)該標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドを発現することであり、該抗原結合ポリペプチドが、VH及びVLドメインを含み、ここでこのVHドメイン又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ若しくは相補性決定領域(CDR)は、パート(a)において決定されたヌクレオチド配列によりコードされたアミノ酸配列を有すること:を含む。
【0018】
第三の態様において、本発明は、標的抗原と免疫反応性である(又は特異的に結合する)組換え抗原結合ポリペプチドを調製する方法を提供し、該抗原結合ポリペプチドは、VHドメイン及びVLドメインを含み、ここでVHドメイン又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)が、ラクダ科ファミリーの種から得られ、該方法は:
(a)該標的抗原と免疫反応性のラクダ科通常型抗体のVH及び/又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)をコードしているラクダ科核酸を単離する工程;
(b)工程(a)において単離された核酸によりコードされた超可変ループ又は相補性決定領域と同一のアミノ酸配列を有する超可変ループ又は相補性決定領域をコードしているヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを調製する工程であり、このポリヌクレオチドが、該標的抗原と免疫反応性である(又は特異的に結合する)VHドメイン及びVLドメインを含む抗原結合ポリペプチドをコードしている、前記工程;並びに
(c)工程(b)の組換えポリヌクレオチドから該抗原結合ポリペプチドを発現する工程:を含む。
工程(b)において調製されたポリヌクレオチドは、好ましくは組換え体である。
【0019】
本発明は、本発明の第一の態様に従う抗原結合ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列、又はラクダ科ファミリーの種のVH若しくはVLドメインから得られた少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)を含む該抗原結合ポリペプチドの断片をコードしているヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチドを更に提供する。
【0020】
本発明は、宿主細胞又は無細胞発現システムにおける本抗原結合ポリペプチドの発現を可能にする調節配列に機能的に連結されている先に定義されたポリヌクレオチドを含む発現ベクター、この発現ベクターを含む宿主細胞又は無細胞発現システム、並びに前記抗原結合ポリペプチドの発現を可能にする条件下で宿主細胞若しくは無細胞発現システムを培養すること、及び発現された抗原結合ポリペプチドを回収することを含む、組換え抗原結合ポリペプチドを作製する方法も提供する。
【0021】
また更に本発明は、本発明の第一の態様の抗原結合ポリペプチドを備える試験キット、並びに本発明の第一の態様の抗原結合ポリペプチド及び少なくとも1種の医薬として許容し得る希釈剤、賦形剤又は担体を含有する医薬製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
(図面の簡単な説明)
【図1】図1は、IL1-βで免疫化されたラマ由来の血清を、免疫化後0日目及び28日目に、IL1-βに対する抗体の存在について試験した、ELISAの結果を示す。
【図2】図2は、1E2及び1F2をコードする、IL-1βと免疫反応性であるふたつのFabの「ヒト化された」変異型のアミノ酸配列を図示している。最も近いヒト生殖系列に対するアラインメントを基に、1E2及び1F2のVH及びVλフレームワーク領域における変異が提唱された。完全にヒト化されたV領域(hum)及び野生型V領域(wt)に加え、わずか3個の野生型残基が残存している「安全変異型」(safe)も提唱されている。
【図3】図3は、組換えにより発現されたFabが、biot-IL-1βに結合するそれらの能力について試験されたELISAの結果を示す。これに関して、これらのFabは、抗-mycコートされたMaxisorpプレート上に捕獲された。ビオチン化されたヒトIL-1βが添加され、かつ結合したサイトカインが、HRP-複合されたストレプトアビジンを用いて検出された。
【図4】図4は、Fab 1E2及び1F2のヒト化された変異型を提示しているファージが、IL-1βへの結合に関して試験された、ファージELISAの結果を示す。
【図5】図5は、キメラ1E2が、IL-1βへの結合に関して試験されたELISAの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ラクダ科ファミリーの種の通常型抗体レパトアを基にした所望の標的抗原に対する特異性を有する抗原結合ポリペプチドを作製するための新規プラットフォーム技術、及びこの技術プラットフォームを使用し得られた抗原結合ポリペプチドに関する。
【0024】
従って第一の態様において、本発明は、VHドメイン又はVLドメイン中の少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)が、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られる、VHドメイン及びVLドメインを含む抗原結合ポリペプチドを提供する。
【0025】
以下の節において、本発明の様々な態様が、より詳細に定義されている。そのように定義された各態様は、相容れないことが明確に指摘されない限りは、いずれか他のひとつの態様又は複数の態様と組合されることができる。特に好ましい又は有利であると指摘されたいずれかの特徴は、好ましい又は有利であると指摘されたいずれか他のひとつの特徴又は複数の特徴と組合されることができる。
【0026】
(定義)
用語「抗原結合ポリペプチド」とは、標的抗原と免疫反応性であり、標的抗原と特異的結合を示す、VHドメイン及びVLドメインを含む任意のポリペプチドをいう。例証的抗原結合ポリペプチドは、本明細書の別所において考察されたような、抗体及び免疫グロブリン、並びに抗体断片も含む。
【0027】
用語「抗原」は、抗原結合ポリペプチドが免疫反応性である「標的抗原」に関して言及される場合、当業者にとってその通常の意味を持ち、かつとりわけ、ポリペプチド、ペプチド、多糖、糖タンパク質、ポリヌクレオチド(例えばDNA)、又は合成化学的抗原を含む。
【0028】
用語「抗原」は、本発明の抗原結合ポリペプチドの製造時に、動物(例えばラクダ科動物)の免疫化に利用される物質を説明するために使用されることもできる。この文脈において、用語「抗原」は、より広範な意味を有してよく、かつ抗原の精製された型、及び同じく例として細胞、細胞溶解液又は上清、細胞画分、例えば細胞膜などのような、抗原の精製されない又は半精製された調製品、加えて好適な担体タンパク質と複合されたハプテンも包含することができる。免疫化プロトコールにおいて使用される「抗原」は、それと得られる抗原結合ポリペプチドが免疫反応性である「標的抗原」と必ずしも構造的に同一ではない。典型的には、免疫化に使用される「抗原」は、「標的抗原」の切断型、例えば免疫原性エピトープを含む断片であることができる。能動免疫化に使用される「抗原」の更なる特徴は、本明細書の別所に説明されており、かつこれは当業者に一般に公知であろう。
【0029】
抗原結合ポリペプチドと標的抗原の間の「特異的結合」とは、免疫学的特異性をいう。抗原結合ポリペプチドが、その標的抗原上のエピトープに他のエピトープよりも優先して結合する場合に、抗原結合ポリペプチドはその標的抗原と「特異的に」結合する。「特異的結合」とは、類似した抗原エピトープを生じる他の抗原との交差反応性を排除するものではない。
「抗体」(Ab)及び「免疫グロブリン」(Ig)は、(標的)抗原に対する結合特異性を示す糖タンパク質である。
【0030】
ラクダ科動物の種は、以下のふたつの異なる抗体型を有することがわかっている;古典的又は「通常型」抗体、及び同じく重鎖抗体。
本明細書において使用される用語「通常型抗体」とは、IgA、IgG、IgD、IgE又はIgMを含むいずれかのアイソタイプの抗体をいう。未変性の又は天然の「通常型」ラクダ科動物の抗体は、通常、2本の同一の軽(L)鎖及び2本の同一の重(H)鎖で構成される、ヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1個の共有ジスルフィド結合により、重鎖に連結されているが、このジスルフィド連結の数は、様々な免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の間で変動する。各重鎖及び軽鎖は、規則的に配置された鎖内ジスルフィド橋も有する。各重鎖は、一端(N-末端)に可変ドメイン(VH)を、それに続きいくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端(N-末端)に可変ドメイン(VL)及びその他端に定常ドメイン(CL)を有し;軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第一の定常ドメインと並置され、かつ軽鎖可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと並置されている。特定のアミノ酸残基は、軽鎖及び重鎖の可変ドメイン間の境界面を形成すると考えられる。
【0031】
用語「重鎖抗体」は、軽鎖を自然に欠いている抗体のような、ラクダ科動物の種の天然に生じることがわかっている抗体の第二の型をいう(Hamers-Castermanらの論文、Nature, 363: 446-8 (1993))。重鎖抗体(HCAbと略される)は、共有ジスルフィド結合により連結された2本の重鎖で構成される。HCAb中の各重鎖は、一端に可変ドメインを有する。HCAbの可変ドメインは、「通常型」ラクダ科動物抗体の重鎖の可変ドメイン(VH)からこれらを区別するために、「VHH」と称される。VHHドメインとVHドメインは、完全に異質であり、かつラクダ科動物ゲノムの異なる遺伝子セグメントによりコードされている。
【0032】
本発明のポリペプチド中のVLドメインは、Vλ型又はVκ型であることができる。従って用語「VLドメイン」は、ラクダ科由来のVκ及びVλ両アイソタイプ、並びにラクダ科VLドメインと比べ1つ以上のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むそれらの操作された変異型をいう。
【0033】
用語「VHドメイン」とは、γ、ε、δ、α又はμアイソタイプを含むラクダ科のいずれか公知の重鎖アイソタイプのVHドメイン、並びにラクダ科のVHドメインと比べ1つ以上のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むそれらの操作された変異型をいう。用語「VHドメイン」とは、ラクダ科動物の通常型抗体のVHドメインのみをいい、かつラクダ科動物のVHHドメインは包含しない
【0034】
用語「可変」とは、可変ドメインVH及びVLのある部分は、抗体間で配列が大きく異なるという事実をいい、かつ特定の抗体の各々のその標的抗原に対する結合及び特異性において使用される。しかしその可変性は、抗体の可変ドメインを通じて均等には分散していない。これは、抗原結合部位の一部を形成しているVLドメイン及びVHドメインの各々において「超可変ループ」と称される3つのセグメントに集中されている。Vλ軽鎖ドメインの第一、第二及び第三の超可変ループは、本明細書においてL1(λ)、L2(λ)及びL3(λ)と称され、かつVLドメインにおいて残基24-33(9、10又は11個のアミノ酸残基からなる、L1(λ))、49-53(3個の残基からなる、L2(λ))及び90-96(5個の残基からなる、L3(λ))を含むと定義され得る(Moreaらの論文、Methods, 20:267-279 (2000))。Vκ軽鎖ドメインの第一、第二及び第三の超可変ループは、本明細書において、L1(κ)、L2(κ)及びL3(κ)と称され、かつVLドメインにおいて残基25-33(6、7、8、11、12又は13個の残基からなる、L1(κ))、49-53(3個の残基からなる、L2(κ))及び90-97(6個の残基からなる、L3(κ))を含むと定義され得る(Moreaらの論文、Methods, 20:267-279 (2000))。VHドメインの第一、第二及び第三の超可変ループは、本明細書において、H1、H2及びH3と称され、かつVHドメインにおいて残基25-33(7、8又は9個の残基からなる、H1)、52-56(3又は4個の残基からなる、H2)及び91-105(長さが高度に変動する、H3)を含むと定義され得る(Moreaらの論文、Methods, 20:267-279 (2000))。
【0035】
用語L1、L2及びL3は、別に指摘されない限りは、各々、VLドメインの第一、第二及び第三の超可変ループを意味し、かつラクダ科由来のVκ及びVλアイソタイプの両方から得られた超可変ループを包含している。用語H1、H2及びH3は、各々、VHドメインの第一、第二及び第三の超可変ループを意味し、かつγ、ε、δ、α又はμを含む、ラクダ科由来の公知の重鎖アイソタイプのいずれかから得られた超可変ループを包含している。
【0036】
前述の超可変ループL1、L2、L3、H1、H2及びH3は、各々、「相補性決定領域」又は「CDR」の一部を含むことができる。超可変ループ(HV)は構造を基に規定されるのに対し、相補性決定領域(CDR)は配列可変性を基に規定されるので、用語「超可変ループ」及び「相補性決定領域」は、厳密に同義語ではなく(Kabatらの文献、「免疫学的関心のあるタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)」、第5版、Public Health Service、米国国立衛生研究所(NIH)、ベセスダ、MD.、1983)、かつHVとCDRの境界は、一部のVH及びVLドメインにおいて異なることができる。
【0037】
前記VL及びVHドメインのCDRは、典型的には、下記のアミノ酸を含むと定義されることができる:軽鎖可変ドメイン中の残基24-34(CDRL1)、50-56(CDRL2)及び89-97(CDRL3)、並びに重鎖可変ドメイン中の残基31-35又は31-35b(CDRH1)、50-65(CDRH2)及び95-102(CDRH3);Kabatらの文献、「免疫学的関心のあるタンパク質の配列」、第5版、Public Health Service、NIH、ベセスダ、MD.、(1991))。従ってこれらのHVは、対応するCDR内に含まれることができ、かつ別に指摘されない限りは、本明細書におけるVH及びVLドメインの「超可変ループ」の言及は、対応するCDRも包含すると解釈されなけばならず、その逆もまた同様である。
【0038】
可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と称される。未変性の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、各々、3つの超可変ループにより接続された、β-シート立体配置を主として採用している4つのFR(各々、FR1、FR2、FR3及びFR4)を含む。各鎖内の超可変ループは、これらのFRにより密に近接して保持され、かつ他方の鎖由来の超可変ループと一緒に、抗体の抗原-結合部位の形成に貢献する。抗体の構造解析は、相補性決定領域により形成された結合部位の配列と形状の関係を明らかにした(Chothiaらの論文、J. Mol. Biol., 227:799-817 (1992));Tramontanoらの論文、J. Mol. Biol., 215:175-182 (1990))。それらの高度な配列可変性にもかかわらず、これら6つのループの5つは、「カノニカル構造」と称される、主鎖コンホメーションの小さいレパトアのみを採用する。これらのコンホメーションは、まず第一にループの長さにより決定され、かつ第二に、それらのパッキング、水素結合又は通常の主鎖コンホメーションを推定する能力を通じコンホメーションを決定するループ内及びフレームワーク領域内のある位置での重要残基の存在により決定される。
【0039】
前記定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接は関与しないが、抗体-依存性細胞傷害性(ADCC)又は補体-依存性細胞傷害性(CDC)における抗体の参加などの、様々なエフェクター機能を発揮する。
【0040】
本発明の全ての態様及び実施態様において、ラクダ科(又はラクダ科動物)の種(それから本発明の抗原結合ポリペプチドの超可変ループ又はCDRが得られる)は、フタコブラクダ、リャマ、ヒトコブラクダ、ヴィクーニャ、グアナコ又はアルパカ、並びにそれらの任意の交配であることができる。リャマ(ラマ・グラマ(Lama glama))及びアルパカ(ラマ・パコス(Lama pacos))は、本発明の全ての態様に関して好ましいラクダ科の種である。
【0041】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、それらが、ラクダ科ファミリーの種のVHドメイン又はVLドメインから得られる、少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域を含むことで特徴づけられる。誤解を避けるために、これらの用語「VHドメイン」「VLドメイン」は、ラクダ科動物の通常型抗体由来のドメインをいう。この定義は、ラクダ科動物の重鎖のみのVHH抗体、及びラクダ科動物のVHHドメインのHV又はCDRだけを含む組換え構築体を除外し、これらは本発明の範囲内に包含されない
【0042】
「ラクダ科ファミリーの種のVHドメイン又はVLドメインから得られた超可変ループ又は相補性決定領域」は、その超可変ループ(HV)又はCDRが、ラクダ科免疫グロブリン遺伝子によりコードされている超可変ループ又はCDRのアミノ酸配列と同一であるか、又は実質的に同一であるアミノ酸配列を有することを意味する。この文脈において、「免疫グロブリン遺伝子」は、生殖系列遺伝子、再編成を受けている免疫グロブリン遺伝子、及び同じく体細胞変異された遺伝子を含む。従って、ラクダ科種のVH又はVLドメインから得られたHV又はCDRのアミノ酸配列は、成熟したラクダ科通常型抗体に存在するHV又はCDRのアミノ酸配列と同一であることができる。この文脈において用語「から得られた」とは、本発明の抗原結合ポリペプチドのHV又はCDRは、ラクダ科免疫グロブリン遺伝子により当初コードされたアミノ酸配列(又はそれらの重要でない変異型)を具現化するという意味での構造的関係を暗示している。しかしこれは、本発明の抗原結合ポリペプチドの調製に使用される製造方法の観点から特定の関係を必ずしも暗示していない。以下に考察するように、ラクダ科免疫グロブリン遺伝子により当初コードされた配列と同一(又は実質的に同一)のアミノ酸配列を伴うHV又はCDRを含む抗原結合ポリペプチドを調製するために使用されることができる、いくつかの方法が存在する。
【0043】
誤解を避けるために、用語「ラクダ科動物の通常型抗体のVHドメイン」及び「ラクダ科種から得られたVHドメイン」は、同義語的に使用され、かつ合成の又は操作された組換え遺伝子(コドン-最適化された合成遺伝子を含む)の産物であるVHドメインを包含しており、これらのVHドメインは、ラクダ科免疫グロブリン遺伝子(生殖系列、再編成された又は体細胞変異された)によりコードされたVHドメインのアミノ酸配列と同一(又は実質的に同一)のアミノ酸配列を有する。同様に、用語「ラクダ科動物の通常型抗体のVLドメイン」及び「ラクダ科種から得られたVLドメイン」は、同義語的に使用され、かつ合成の又は操作された組換え遺伝子(コドン-最適化された合成遺伝子を含む)の産物であるVLドメインを包含しており、これらのVLドメインは、ラクダ科免疫グロブリン遺伝子(生殖系列、再編成された又は体細胞変異された)によりコードされたVLドメインのアミノ酸配列と同一(又は実質的に同一)のアミノ酸配列を有する。
【0044】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、典型的には組換えにより発現されたポリペプチドであり、かつキメラポリペプチドであることができる。用語「キメラポリペプチド」は、そうでなければ隣接して生じることのない2つ以上のペプチド断片の並立により作製される人工の(非天然の)ポリペプチドをいう。この定義に含まれるのは、例えばラクダ科動物とヒトのような、2種以上の種によりコードされたペプチド断片の並立により作製された「種」キメラポリペプチドである。
【0045】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、ラクダ科動物由来の少なくとも1個の超可変ループ(又はCDR)を必要とするため、天然のヒト抗体、特にヒト自己抗体ではない。「天然の」ヒト抗体は、ヒト対象内で自然に発現される抗体を意味する。天然の抗体又は断片がキメラでなく、かつアミノ酸配列にいかなる操作された変化も施されていない(体細胞変異を除く)、天然のヒト抗体のアミノ酸配列と100%同一であるアミノ酸配列を有する抗原結合ポリペプチド、又はそれらの断片は、本発明の範囲から除外される。
【0046】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、重鎖可変(VH)ドメイン及び軽鎖可変(VL)ドメインの両方を含み、かつVHドメイン中又はVLドメイン中のいずれかの少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域は、ラクダ科ファミリーの種から得られることで特徴づけられる。
【0047】
代替の実施態様において、VHドメイン中のH1若しくはH2のいずれか、又はH1及びH2の両方は、ラクダ科ファミリーの種から得、かつ独立してVLドメイン中のL1若しくはL2のいずれか、又はL1及びL2の両方は、ラクダ科ファミリーの種から得ることができる。更なる実施態様において、VHドメイン中のH3又はVLドメイン中のL3も、ラクダ科ファミリーの種から得ることができる。全ての可能性のある前述のものの並べ替えが可能である。
【0048】
ひとつの具体的実施態様において、VHドメイン及びVLドメインの両方における超可変ループH1、H2、H3、L1、L2及びL3の各々は、ラクダ科ファミリーの種から得ることができる。
【0049】
一実施態様において、全VHドメイン及び/又は全VLドメインは、ラクダ科ファミリーの種から得ることができる。その後ラクダ科VHドメイン及び/又はラクダ科VLドメインは、1つ以上のアミノ酸の置換、挿入又は欠失がラクダ科配列に導入されるタンパク質操作に供されることができる。これらの操作された変化は好ましくは、ラクダ科配列に対するアミノ酸置換を含む。このような変化は、ラクダ科動物-コードされたVH又はVLドメイン中の1個以上のアミノ酸残基が、相同のヒト-コードされたVH又はVLドメイン由来の同等の残基と置き換えられる「ヒト化」又は「生殖系列化(germlining)」を含む。
【0050】
ある実施態様において、ラクダ科超可変ループ(又はCDR)は、所望の標的抗原によるラクダ科ファミリーの種の能動免疫化により得ることができる。本明細書において詳細に考察されかつ例証されるように、標的抗原によるラクダ科(未変性の動物又はラクダ科動物の種の免疫グロブリンレパトアを発現するように操作されたトランスジェニック動物のいずれか)の免疫化後、所望の抗原に対する特異性を有するB細胞産生(通常型ラクダ科)抗体が、同定され、かつそのような抗体のVH及びVLドメインをコードしているポリヌクレオチドが、公知の技術を用い単離され得る。
【0051】
従って具体的な実施態様において、本発明は、標的抗原と免疫反応性である組換え抗原結合ポリペプチドを提供し、このポリペプチドは、VHドメイン及びVLドメインを含み、ここでVHドメイン又はVLドメイン中の少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域は、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られ、その抗原結合ポリペプチドは、下記の工程を含む方法により入手可能である:
(a)ラクダ科ファミリーの種を、標的抗原又は該標的抗原をコードしているポリヌクレオチドにより、免疫化し、該標的抗原に対する抗体を作出する工程;
(b)該標的抗原と免疫反応性のラクダ科通常型抗体のVH及び/又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)をコードしているヌクレオチド配列を決定する工程;並びに
(c)該標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドを発現する工程であって、該抗原結合ポリペプチドが、VH及びVLドメインを含み、ここでVHドメイン又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)は、パート(a)において決定されたヌクレオチド配列によりコードされたアミノ酸配列を有する工程。
【0052】
能動免疫化により得られた単離されたラクダ科VH及びVLドメインは、本発明に従い抗原結合ポリペプチドを操作するための基礎として使用されることができる。無傷のラクダ科VH及びVLドメインから出発し、出発ラクダ科配列から逸脱する1つ以上のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を操作することが可能である。ある実施態様において、そのような置換、挿入又は欠失は、VHドメイン及び/又はVLドメインのフレームワーク領域中に存在することができる。一次アミノ酸配列におけるそのような変化の目的は、恐らく好ましくない特性(例えば、ヒト宿主における免疫原性(いわゆるヒト化)、可能性のある生成物の不均一性及び/又は不安定性の位置(グリコシル化、脱アミド化、異性体化など)を減らすか、又はこの分子のいくつかの他の好ましい特性(例えば、溶解度、安定性、生物学的利用能など)を増強することである。別の実施態様において、一次アミノ酸配列の変化は、能動免疫化により得られたラクダ科VH及び/又はVLドメインの1個以上の超可変ループ(又はCDR)において操作されることができる。このような変化は、抗原結合親和性及び/若しくは特異性を増強するため、又は恐らく好ましくない特性、例えばヒト宿主における免疫原性(いわゆるヒト化)、可能性のある生成物の不均一性及び/又は不安定性の位置、グリコシル化、脱アミド化、異性体化などを減少するため、又はこの分子のいくつかの他の好ましい特性、例えば溶解度、安定性、生物学的利用能などを増強するために導入されることができる。
【0053】
従って一実施態様において、本発明は、標的抗原によるラクダ科ファミリーの種の能動免疫化により得られたラクダ科VH又はVLドメインと比較して、VHドメイン又はVLドメインのいずれかの少なくとも1個のフレームワーク又はCDR領域内に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む組換え抗原結合ポリペプチドを提供する。この特定の実施態様は、能動免疫化により作出された未変性のラクダ科VH及びVLドメインを含む抗原結合ポリペプチドは除外している。
【0054】
標的抗原(又は標的抗原若しくはこれをコードしているポリヌクレオチドを含有する組成物)による「能動免疫化」の代わりに、所望の抗原-結合特性を持つ抗原結合ポリペプチドの成分として使用されるVH及び/又はVLドメインの給源として、罹患したラクダ科動物における免疫応答又はラクダ科の種内で自然に生じる免疫応答を使用することも可能である。このようなVH/VLドメインは、能動免疫化により得られたVH/VLドメインと類似した方式で抗原-結合ポリペプチドを操作するための出発点として使用されることもできる。本発明は、また非免疫ライブラリーの使用、及びそれらから得られた/由来した抗原-結合ポリペプチドを更に包含している。
【0055】
別の実施態様において、本発明は、ラクダ科由来のVH及びVLドメイン(又はそれらの操作された変異型)並びに非ラクダ科動物の抗体由来の1つ以上の定常ドメイン、例えばヒト-コードされた定常ドメイン(又はそれらの操作された変異型)を含む、「キメラ」抗体分子を包含している。本発明は、VH又はVLドメインの一方はラクダ科動物でコードされており、かつ他方の可変ドメインは非ラクダ科動物(例えばヒト)であるキメラ抗原結合ポリペプチド(例えば抗体分子)にも及ぶ。そのような実施態様において、VHドメイン及びVLドメインは両方とも、ラクダ科動物の同じ種から得られることが好ましく、例えば、VH及びVLの両方はラマ・グラマ由来であるか、又はVH及びVLの両方はラマ・パコス由来であることができる(操作されたアミノ酸配列の変動の導入前)。そのような実施態様において、VH及びVLドメインの両方は、単独の動物、特に能動免疫化された単独の動物に由来することができる。
【0056】
ラクダ科VH及び/又はVLドメインの一次アミノ酸配列において変化を操作する代わりに、個別のラクダ科超可変ループ若しくはCDR、又はそれらの組合せが、ラクダ科VH/VLドメインから単離され、かつCDRグラフティングされることにより、代替(すなわち非ラクダ科)フレームワーク、例えばヒトVH/VLフレームワークへ移されることができる。
【0057】
(ヒト可変ドメインとの配列同一性/相同性)
本発明者らは、ラクダ科ファミリーの種由来の通常型抗体のVH及びVLドメインの両方をコードしているラクダ科生殖系列及び体細胞変異されたDNA配列は、フレームワーク領域について、ヒト抗体のVH及びVLドメインをコードしているヒト生殖系列DNA配列と高度の配列同一性/配列相同性を示すことを認めた。
従って本発明の抗原結合ポリペプチドは、これらがヒト抗体のVH及びVLドメインと、高度のアミノ酸配列相同性を示すことで特徴づけられる。
【0058】
一実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドのVHドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり、1つ以上のヒトVHドメインと、80%以上アミノ酸配列同一性又は配列相同性を示すことができる。他の実施態様において、当然少なくとも1個の超可変ループ又はCDRは、ラクダ科から得られる、すなわち、ラクダ科VH又はVL遺伝子によりコードされた超可変ループ又はCDRのアミノ酸配列と同一(又は実質的に同一)であるアミノ酸配列を有することを条件として、本発明のポリペプチドのVHドメインと1つ以上のヒトVHドメインの間のアミノ酸配列同一性又は配列相同性は、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、又は最大99%若しくは100%でさえであることができる。
【0059】
一実施態様において、本発明のポリペプチドのVHドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり、最も近いマッチしたヒトVH配列と比べ、1個以上のアミノ酸配列ミスマッチを含むことができる。この後者の実施態様は、そのフレームワーク領域が全体としてヒト配列を有する、VHドメイン、又はVH及びVLドメインの両方を含むポリペプチドを明確に除外するであろう。
【0060】
別の実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドのVLドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり1つ以上のヒトVLドメインと、80%以上の配列同一性又は配列相同性を示すことができる。他の実施態様において、本発明のポリペプチドのVLドメインと1つ以上のヒトVLドメインの間のアミノ酸の配列同一性又は配列相同性は、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、又は最大99%若しくは100%でさえであることができる。
【0061】
一実施態様において、本発明のポリペプチドのVLドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり、最も近いマッチしたヒトVL配列と比べ、1個以上のアミノ酸配列ミスマッチを含むことができる。この後者の実施態様は、そのフレームワーク領域が全体としてヒト配列を有する、VLドメイン、又はVL及びVHドメインの両方を含むポリペプチドを明確に除外するであろう。
【0062】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、ただ1つの完全にヒト可変ドメインが存在し、次にラクダ科から得られた超可変ループ又はCDRを含む可変ドメインと組合せることを条件として、「完全にヒト」のVH又はVLドメインを含むことができる。
【0063】
付随する実施例に含まれるラクダ科配列とヒト生殖系列配列の代表的アラインメントは、通常型ラクダ科動物のVH及びVLドメインは、それらのヒトの対応物と著しく高い配列相同性を示すことを明らかにしている。これらの実施例から、VH又はVLドメインのフレームワーク領域中に存在する典型的には8個未満の、頻繁にはわずか5個のみのアミノ酸残基が、最も近いヒト生殖系列-コードされた配列から所定の位置で異なることを結論づけることができる。これらの位置に関連した構造上の制限が存在しないならば、位置指定変異誘発によるヒト化は、複雑でないと予想される。
【0064】
従って特定の実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、通常型ラクダ科抗体の、例えば、標的抗原(又は該標的抗原をコードしているポリヌクレオチド)によるラクダ科の能動免疫化により得られた(入手可能な)通常型ラクダ科抗体のVH及び/又はVLドメインを含むことができ、ここで該VH及びVLドメインは、VHドメイン及びVLドメインのいずれか一方又は両方においてフレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり、合計1〜10個の、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のアミノ酸置換を導入するように、(独立して)操作されている。そのようなアミノ酸置換は、出発ラクダ科VH又はVLドメイン中のミスマッチのアミノ酸残基を、ヒト生殖系列-コードされたVH又はVLドメインにおいて認められる同等の残基と交換することにより、「ヒト化」を生じる置換を含むことができる(しかし、これに限定されるものではない)。該ラクダ科動物-由来のVH及びVLドメインの超可変ループ(CDR)中に独立してアミノ酸置換を作製することも可能であり、かつそのような変異型は、本発明の一部を形成することができる。本明細書における「アミノ酸置換」の言及は、天然のアミノ酸が、非天然のアミノ酸、又は翻訳後修飾を施されたアミノ酸と交換されているような置換を含む。
【0065】
ラクダ科とヒト生殖系列のVH及びVLの間の配列同一性の割合を解析する前に、そのカノニカルフォールドが決定されることができ、このことは、H1及びH2又はL1及びL2(及びL3)に関するカノニカルフォールドの同一の組合せを伴う、ヒト生殖系列セグメントファミリーの同定を可能にする。その後、関心対象のラクダ科可変領域と最高程度の配列相同性を有するヒト生殖系列ファミリーの一員が、配列相同性のスコア化のために選択される。超可変ループL1、L2、L3、H1及びH2のショティア(Chothia)カノニカルクラスの決定は、ウェブページwww.bioinf.org.uk/abs/chothia.html.page.上で公に利用可能なバイオインフォマティクスツールにより実行された。このプログラムのアウトプットは、データファイルにおける重要残基の必要要件を示す。これらのデータファイルにおいて、重要残基の位置は、各位置で許容されたアミノ酸と共に示される。この抗体の可変領域の配列は、インプットとしてもたらされ、かつカバット(Kabat)番号付けスキームを割り当てるために、最初にコンセンサス抗体配列と並置される。このカノニカルフォールドの解析は、Martin及びThorntonにより開発された自動化された方法によりもたらされた重要残基鋳型のセットを使用する(Martinらの論文、J. Mol. Biol. 263:800-815 (1996))。
【0066】
H1及びH2又はL1及びL2(及びL3)に関するカノニカルフォールドの同じ組合せを使用する、公知の特定のヒト生殖系列Vセグメントにより、配列相同性に関するベストマッチングファミリーメンバーが決定された。ラクダ科VH及びVLドメインフレームワークアミノ酸配列と、ヒト生殖系列によりコードされた対応する配列の間の配列同一性の割合は、バイオインフォマティクスツールにより決定されることができるが、実際にはこれらの配列の手作業による並置も適用されることができる。ヒト免疫グロブリン配列は、VBase (http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)又はPluckthun/Honeggerデータベース(http://www.bioc.unizh.ch/antibody/ Sequences/Germlines)のような、いくつかのタンパク質データベースから同定されることができる。ヒト配列をラクダ科VH又はVLドメインのV領域と比較するために、www.expasy.ch/tools/#alignなどのウェブサイトを介して利用可能なもののような配列アラインメントアルゴリズムが使用されることができるが、同じく配列の限定されたセットとの手作業によるアラインメントも行われ得る。カノニカルフォールドの同じ組合せ並びに各鎖のフレームワーク領域1、2、及び3との最高度の相同性を伴うこれらのファミリーのヒト生殖系列軽鎖及び重鎖配列が選択され、かつ関心対象のラクダ科可変領域と比較され;同じく、このFR4は、ヒト生殖系列JH及びJK又はJL領域に対してチェックされる。
【0067】
配列相同性の全体の割合の計算において、FR1、FR2及びFR3の残基は、カノニカルフォールドの同じ組合せを持つヒト生殖系列ファミリーから最も近いマッチング配列を用いて評価されることに留意されたい。カノニカルフォールドの同じ組合せを持つ最も近いマッチングの又は同じファミリーの他のメンバーと異なる残基のみが、スコア化される(NB-プライマーにコードされた差異は除外する)。しかしヒト化の目的のためには、カノニカルフォールドの同じ組合せを有さない他のヒト生殖系列ファミリーのメンバーと同じフレームワーク領域内の残基は、先に説明されるストリンジェントな条件に従い「ネガティブ」とスコア化されるという事実にもかかわらず、これらは「ヒト」と考えることができる。この前提は、ヒト化のための「ミックス及びマッチ」法を基本にしており、これは、Quと同僚(Quらの論文、Clin. Cancer Res. 5:3095-3100 (1999))並びにOnoと同僚(Ono らの論文、Mol. Immunol. 36:387-395 (1999))により行われたように、FR1、FR2、FR3及びFR4の各々が、その最も近いマッチングのヒト生殖系列配列と個別に比較され、その結果ヒト化された分子は、様々なFRの組合せを含む。
【0068】
個々のフレームワーク領域の境界は、ショティア番号付けスキームの改変である、IMGT番号付けスキームを用いて割り当てられることができる。(Lefrancらの文献、NAR, 27:209-212 (1999);http://imgt.cines.fr)。
【0069】
VH及びVLドメインのフレームワーク領域にわたるラクダ科とヒトの間の予想外に高度な配列相同性にもかかわらず、それでもなおラクダ科動物とヒト生殖系列のVH及びVL配列の直接的配列比較により、ラクダ科動物-コードされた超可変ループ(CDR)を、ヒト-コードされた超可変ループ(CDR)から識別することは可能である。
【0070】
(ヒト-コードされたVH及びVLドメインとの構造相同性)
好ましい実施態様は、以下に詳細に考察するように、更にヒト又はヒト様カノニカルフォールドを有するラクダ科動物の超可変ループ又はCDRを使用することである。
従って一実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドのVHドメイン又はVLドメインのいずれかの中の少なくとも1個の超可変ループ又はCDRは、ラクダ科の種から得られたVHドメイン又はVLドメインから得られ、その上ヒト抗体において生じるカノニカルフォールド構造と実質的に同一である予測された又は実際のカノニカルフォールド構造を示す。
【0071】
ヒト生殖系列によりコードされたVHドメイン及びVLドメインの両方に存在する超可変ループの一次アミノ酸配列は、定義により、高度に可変性であるが、VHドメインのCDR H3以外の全ての超可変ループは、カノニカルフォールドと称されるほんの数種類の独特な構造のコンホメーションを採用し(Chothiaらの論文、J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987);Tramontanoらの論文、Proteins, 6:382-94 (1989))、これは超可変ループの長さ及びいわゆるカノニカルアミノ酸残基の存在の両方に左右される(Chothiaらの論文、J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))ことは、当該技術分野においてよく確立されている。無傷のVH又はVLドメイン中の超可変ループの実際のカノニカル構造は、構造解析(例えばX線結晶解析)により決定されることができるが、特定の構造に特徴的である重要なアミノ酸残基を基に、カノニカル構造を予測することも可能である(以下に更に考察される)。本質的に、各々のカノニカル構造を決定する残基の特異的パターンは、そのカノニカル構造が未知の構造のVH又はVLドメインの超可変ループにおいて認められることを可能にする「署名(signature)」を形成し;その結果カノニカル構造は、一次アミノ酸配列だけを基に予測されることができる。
【0072】
生殖系列及び体細胞変異されたVH及びVL配列の解析を基に、本発明者らは、ラクダ科VH及びVLドメインの超可変ループ(VHドメイン中のH3及び時にはVLドメインのL3も除いて)は、ヒト抗体の超可変ループにより採用されたカノニカルフォールド構造と実質的に同一であるカノニカルフォールド構造を同じく採用することを予測している。
【0073】
抗原結合ポリペプチド中のいずれか所定のVH又はVL配列の超可変ループに関して予測されたカノニカルフォールド構造は、www.bioinf.org.uk/abs/chothia. html、www.biochem.ucl.ac.uk/~martin/antibodies.html、及びwww.bioc.unizh. ch/antibody/Sequences/Germlines/Vbase_hVk.htmlから公に利用可能であるアルゴリズムを用いて解析されることができる。これらのツールは、クエリーVH又はVL配列を、公知のカノニカル構造のヒトVH又はVLドメイン配列に対して並置ること、並びにカノニカル構造の予測をクエリー配列の超可変ループに関して行うことを可能にする。
【0074】
VHドメインの場合、ラクダ科に由来したH1及びH2ループは、少なくとも下記の第一の判定基準、好ましくは両方の判定基準が満たされる場合、ヒト抗体において生じることがわかっているカノニカルフォールド構造と「実質的に同一の」カノニカルフォールド構造を有するものとして、スコア化されることができる:
1.残基の数により決定された、最も近いマッチングのヒトカノニカル構造クラスと、同一の長さ、
2.対応するヒトH1及びH2のカノニカル構造クラスに関して説明された重要なアミノ酸残基との、少なくとも33%の同一性、好ましくは少なくとも50%の同一性。
(前述の解析目的のために、H1及びH2ループは、個別に処理され、かつ各々その最も近いマッチングのヒトカノニカル構造クラスに対し比較されることに留意されたい)。
【0075】
前述の解析は、ラクダ科H1及びH2ループのカノニカル構造の予測に頼っている。例えばX線結晶解析を基にH1及びH2ループの実際の構造がわかっている場合は、ラクダ科に由来したH1及びH2ループは、そのループの長さが最も近いマッチングのヒトカノニカル構造クラスの長さと異なる(典型的には±1又は±2個のアミノ酸)が、これらのラクダ科H1及びH2ループの実際の構造がヒトカノニカルフォールドの構造とマッチする場合に、ヒト抗体において生じることがわかっているカノニカルフォールド構造と「実質的に同一の」カノニカルフォールド構造を有するものとしてもスコア化できる。
【0076】
ヒトVHドメインの第一及び第二の超可変ループ(H1及びH2)に関してヒトカノニカル構造クラスにおいて認められた重要なアミノ酸残基は、Chothiaらの論文(J. Mol. Biol. 227:799-817 (1992))に記載されており、この論文の内容はその全体が引用により本明細書中に組み込まれている。特に、引用により本明細書中に具体的に組み込まれているChothiaらの論文の802頁の表3は、ヒト生殖系列において認められたH1カノニカル構造の重要な位置での好ましいアミノ酸残基を列記しているのに対し、同じく具体的に引用により本明細書中に組み込まれている802頁の表4は、ヒト生殖系列において認められたCDR H2カノニカル構造の重要な位置での好ましいアミノ酸残基を列記している。
【0077】
付随する実施例は、Chothiaらの論文(J Mol. Biol. 227:799-817 (1992))の判定基準に従いカノニカルフォールド構造に関して重要であると考えられたH1及びH2及び基礎となるフレームワーク領域内の各位置に関して、ラクダ科において認められた実際のアミノ酸残基を、最も近いヒト生殖系列VH配列のアミノ酸残基に対して比較する、ラクダ科の種(具体的にはリャマ及びヒトコブラクダ)由来の生殖系列VH配列の解析を含んでいる。ラクダ科動物とヒトの間で同じ重要残基の数は、最も頻繁には33%以上、典型的には50〜100%の範囲であることが認められた。
【0078】
一実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドのVHドメイン中のH1及びH2の両方は、ラクダ科の種のVHドメインから得られ、その上ヒト抗体において生じるカノニカルフォールド構造と実質的に同一である予測された又は実際のカノニカルフォールド構造を示す。
【0079】
本発明者らは、超可変ループ、具体的にはVHドメイン中のH1及びH2に関して、個別にヒト抗体において天然に生じる型のカノニカル構造を有することが重要であるのみならず、いずれか所定のVHドメイン中のH1及びH2に関して、少なくとも1つのヒト生殖系列VHドメインにおいて生じることがわかっているカノニカル構造の組合せと同一であるカノニカルフォールド構造の組合せを形成することも重要であることを推量している。H1及びH2でのカノニカルフォールド構造のある種の組合せのみが、ヒト生殖系列によりコードされたVHドメインにおいて実際に生じることが認められている。本発明者らは、解析され得る全ての入手可能なラクダ科生殖系列又は体細胞変異されたVH配列は、ヒト抗体において使用されるものと実質的に同一のH1及びH2での個別のカノニカルフォールド構造のみではなく、ヒト抗体において認められる組合せにマッチするH1及びH2での構造の正確な組合せも示すことを発見し驚いた。このことは、H1及びH2での「正確な」ヒト様カノニカルフォールド構造を有するが、ヒト抗体においては生じない組合せである抗体を産生することができる、ヒトにおける可能性のある治療的用途のための抗体産生に関する他のプラットフォームに勝る、際だった利点を示す。例として、本発明者ら自身の非ヒト霊長類に由来した抗体の構造の解析(Biogen IDEC社のガリキシマブ(抗-CD80)、ルミリキシマブ(抗-CD23)及び炭疽菌毒素に対する非ヒト霊長類mAb、Pelatらの論文、J. Mol. Biol., 384:1400-7 (2008))は、これらは構造上、ヒト抗体構造、特にカノニカルフォールドの組合せとみなされる構造に、一貫して非常に近くはないことを示している。H1及びH2でのカノニカルフォールドの正確な組合せが存在しないことは、ヒト宿主において免疫原性である所与の抗原結合ポリペプチド(これはフレームワーク領域において「ヒト化され」ている)に繋がり得る。
【0080】
従って更なる実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドのVHドメイン中のH1及びH2は、ラクダ科種のVHドメインから得られ、その上ヒト生殖系列又は体細胞変異されたVHドメインにおいて生じることがわかっているカノニカルフォールド構造の組合せと同一である予測された又は実際のカノニカルフォールド構造の組合せを形成する。
【0081】
非限定的実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドのVHドメイン中のH1及びH2は、ラクダ科種のVHドメインから得られ、かつ下記のカノニカルフォールド組合せのひとつを形成する:1-1、1-2、1-3、1-6、1-4、2-1、3-1及び3-5。
【0082】
本発明の抗原結合ポリペプチドのVHドメインは、ヒトVHと高い配列同一性/配列相同性の両方を示すこと、更にはVHドメイン内の超可変ループは、ヒトVHと構造相同性を示すことが好ましい。
【0083】
本発明の抗原結合ポリペプチドのVHドメイン中のH1及びH2に存在するカノニカルフォールド、並びにそれらの組合せに関して、全体の一次アミノ酸配列の同一性の観点で、本発明の抗原結合ポリペプチドのVHドメインと最も近いマッチングを示すヒトVH生殖系列配列に関して「補正」されることは有利である。例として、最も近い配列マッチングがヒト生殖系列のVH3ドメインとである場合、H1及びH2(ラクダ科から得られた)に関して、ヒトVH3ドメインにおいても自然に生じるカノニカルフォールドの組合せを形成することが有利であることができる。
【0084】
従って一実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドのVHドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたりヒトVHドメインと80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、又は最大99%若しくは100%でさえもの配列同一性又は配列相同性を示すことができ、かつ加えて、同じ抗原結合ポリペプチドのH1及びH2は、ラクダ科種のVHドメインから得られるが、同じヒトVHドメインにおいて天然に生じることがわかっているカノニカルフォールド組合せと同じである予測された又は実際のカノニカルフォールド構造の組合せを形成する。
【0085】
別の実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドのVLドメインのL1及びL2は、各々、ラクダ科種のVLドメインから得られ、かつ各々、ヒト抗体において生じるカノニカルフォールド構造と実質的に同一である予測された又は実際のカノニカルフォールド構造を示す。
【0086】
前述のVHドメインと同様に、Vλ型及びVκ型の両方のVLドメインの超可変ループは、長さにより、及びあるカノニカル位置での重要なアミノ酸残基の存在によっても一部決定される、限られた数のコンホメーション又はカノニカル構造を採用することができる。
【0087】
ラクダ科種のVLドメインから得られたL1、L2及びL3ループは、その上少なくとも下記の第一の判定基準、好ましくは両方の判定基準が満たされる場合、ヒト抗体において生じることがわかっているカノニカルフォールド構造と「実質的に同一の」カノニカルフォールド構造を有するものとして、スコア化されることができる:
1.残基の数により決定された、最も近いマッチングのヒトの構造クラスと、同一の長さ、
2.Vλ又はVκレパトアのいずれかからの、対応するヒトL1又はL2のカノニカル構造クラスに関して説明された重要なアミノ酸残基との、少なくとも33%同一性、好ましくは少なくとも50%同一性。
(前述の解析目的のために、L1及びL2ループは、個別に処理され、かつ各々その最も近いマッチングのヒトカノニカル構造クラスに対し比較されることに留意されたい)。
【0088】
前述の解析は、ラクダ科L1、L2及びL3ループのカノニカル構造の予測に頼っている。例えばX線結晶解析を基にL1、L2及びL3ループの実際の構造がわかっている場合は、ラクダ科に由来したL1、L2又はL3ループは、そのループの長さが最も近いマッチングのヒトカノニカル構造クラスの長さと異なる(典型的には±1又は±2個のアミノ酸)が、これらのラクダ科ループの実際の構造がヒトカノニカルフォールドとマッチする場合に、同じくヒト抗体において生じることがわかっているカノニカルフォールド構造と「実質的に同一の」カノニカルフォールド構造を有するものとして、スコア化されることができる。
【0089】
ヒトVλ及びVκドメインのCDRに関してヒトカノニカル構造クラスにおいて認められた重要なアミノ酸残基は、Moreaらの論文、Methods, 20: 267-279 (2000)、及びMartinらの論文、J. Mol. Biol., 263:800-815 (1996)に説明されている。同じくヒトVκドメインの構造的レパトアは、Tomlinsonらの論文、EMBO J. 14:4628-4638 (1995)に、並びにVλドメインの構造的レパトアは、Williamsらの論文、J. Mol. Biol., 264:220-232 (1996)に説明されている。これらの文書全ての内容は、引用により本明細書中に組み込まれている。
【0090】
付随する実施例は、カノニカルフォールド構造に関して重要であると考えられたL1及びL2の各位置に関して、ラクダ科において認められた実際のアミノ酸残基を、最も近いヒト生殖系列Vλ又はVκ配列のアミノ酸残基に対して比較する、生殖系列VL配列又はラクダ科種(具体的にはリャマ及びヒトコブラクダ)由来のκ型及びλ型の両方の解析を含んでいる。ラクダ科動物とヒトの間で同じ重要残基の数は、典型的には33〜100%の範囲、より頻繁には50〜100%、典型的には100%に近いことが認められた。
【0091】
VLドメイン中のL1及びL2は、ヒト生殖系列VLドメインにおいて生じることがわかっているカノニカルフォールド構造の組合せと同一である予測された又は実際のカノニカルフォールド構造の組合せを形成することができる。
【0092】
非限定的実施態様において、Vλドメイン中のL1及びL2は、下記のカノニカルフォールド組合せのひとつを形成することができる:11-7、13-7(A,B,C)、14-7(A,B)、12-11、14-11及び12-12(Williamsらの論文、J. Mol. Biol. 264:220-32 (1996)に規定され、かつhttp://www.bioc.uzh.ch/antibody/Sequences/Germlines/ VBase_hVL.htmlに示されている)。非限定的実施態様において、Vκドメイン中のL1及びL2は、下記のカノニカルフォールド組合せのひとつを形成することができる:2-1、3-1、4-1及び6-1(Tomlinsonらの論文、EMBO J. 14:4628-38 (1995)に規定され、かつhttp://www.bioc.uzh.ch/antibody/Sequences/ Germlines/VBase_ hVK.htmlに示されている)。
【0093】
更なる実施態様において、VLドメインのL1、L2及びL3の3種は全て、実質的にヒト構造を示すことができる。ほとんどのヒトVκ生殖系列セグメントは、位置95上の保存されたcis-プロリンにより安定化されている、L3ループの単独のコンホメーション(1型)もコードしているが、V-J結合のプロセス及びこのプロリン残基の喪失の可能性のために、再編成された配列における他のコンホメーションが可能である。公に入手可能な体細胞変異されたヒトコブラクダVκ配列は、ヒトκ生殖系列配列において認められるようにL3(κ)に関する1型カノニカルフォールドを有し、並びに位置95上のプロリンが、7つのヒトコブラクダVκドメインの中の6つにおいて生じる。従って本抗原結合ポリペプチドがVκドメインを含む場合、このドメインは、位置95上に保存されたプロリン残基を有することができる。
【0094】
ヒトVL生殖系列配列の構造的レパトアは、Williamsとその同僚により解析された(Williamsらの論文、J. Mol. Biol. 264:220-232 (1996))。その中で解析された3つのファミリーは、L2ループの同じコンホメーションをコードしている。L3ループのコンホメーションは、若干の長さの変動がありかつcis-プロリン残基は存在しないので、より高度に可変性であると考えられる。実際に入手可能な体細胞変異されたヒトコブラクダVλ配列は、L3の長さにおいて高度の可変性を示す。これらのほとんどは、L3についてカノニカルフォールドを有する(f.i. Vλ3-1ファミリーメンバーCamvl19(10A)及びCamvl20(1/9A)、Vλ2-18ファミリーメンバーCamvl5、17、30、36及び52(全て10B)、並びにVλ1-40ファミリーメンバーCamvl44(5/11A))。
本発明の抗原結合ポリペプチドのVLドメインは、ヒトVLと高い配列同一性/配列相同性の両方を示すこと、及び同じくVLドメイン内の超可変ループは、ヒトVLと構造相同性を示すことが好ましい。
【0095】
一実施態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドのVLドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたりヒトVLドメインと80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、又は最大99%若しくは100%でさえもの配列同一性を示すことができ、かつ加えて、超可変ループL1及び超可変ループL2は、同じヒトVLドメインにおいて天然に生じることがわかっているカノニカルフォールド組合せと同じである予測された又は実際のカノニカルフォールド構造の組合せを形成することができる。
【0096】
当然、ヒト-コードされたVH/VL対合と最大の配列及び構造の相同性を伴う、(ラクダ科動物-由来した)VH/VL対合を含む抗原結合ポリペプチドを提供するために、ヒトVHと高い配列同一性/配列相同性、及びヒトVHの超可変ループと構造相同性も示すVHドメインは、ヒトVLと高い配列同一性/配列相同性、及びヒトVLの超可変ループと構造相同性を示すVLドメインと組合せられることが描かれている。本発明により提供されたラクダ科動物のプラットフォームの特別な利点は、VHドメイン及びVLドメインの両方が、ヒト抗体の可変ドメインと高い配列及び構造の相同性を示すことである。
【0097】
(抗原結合ポリペプチドの構造)
本発明の抗原結合ポリペプチドは、VHドメイン及びVLドメインの両方が存在することを条件として、様々な異なる実施態様をとることができる。従って非限定的実施態様において、本抗原結合ポリペプチドは、免疫グロブリン、抗体又は抗体断片であることができる。本明細書において用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、かつそれらが標的抗原に対し好適な特異性を示す限りは、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)を包含するが、これらに限定されるものではない。本明細書において使用される用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体をいい、すなわちその集団を構成する個々の抗体は、少量存在し得る可能性のある天然の変異を除いて、同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異性であり、単独の抗原部位に対し示されている。更に、抗原上の異なる決定基(エピトープ)に対し示された様々な抗体を典型的には含む通常型(ポリクローナル)抗体調製とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単独の決定基又はエピトープに対して示される。
【0098】
「抗体断片」は、完全長抗体の一部、一般にそれらの抗原結合又は可変ドメインを含む。抗体断片の例は、Fab、Fab'、F(ab')2、二重特異性Fab'、及びFv断片、ダイアボディ、線状抗体、単鎖抗体分子、単鎖可変部断片(scFv)又は抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む(Holliger及びHudsonの論文、Nature Biotechnol., 23:1126-36 (2005)を参照することとし、その内容は引用により本明細書中に組み込まれている。)。
【0099】
非限定的実施態様において、本発明の抗体及び抗体断片は、CH1ドメイン及び/又はCLドメインを含むことができ、それらのアミノ酸配列は、完全に又は実質的にヒトである。本発明の抗原結合ポリペプチドが、ヒト治療的用途が意図された抗体である場合、これは、その抗体の定常領域全体、又は少なくともそれらの一部について典型的には、完全に又は実質的にヒトアミノ酸配列を有する。従って本発明の抗体は、VH及びVLドメインを含まなければならず、その少なくとも一方は、ラクダ科に由来した少なくとも1個の超可変ループを含むが、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCLドメイン(並びに存在するならばCH4ドメイン)の1つ以上若しくはいずれかの組合せは、そのアミノ酸配列に関して完全に又は実質的にヒトであることができる。
【0100】
有利なことに、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCLドメイン(並びに存在するならばCH4ドメイン)は、全て完全に又は実質的にヒトアミノ酸配列を有することができる。ヒト化又はキメラ抗体、又は抗体断片の定常領域の文脈において、用語「実質的にヒト」とは、ヒト定常領域との少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97%、又は少なくとも99%のアミノ酸配列同一性をいう。この文脈において用語「ヒトアミノ酸配列」は、生殖系列、再配列された及び体細胞変異された遺伝子を含む、ヒト免疫グロブリン遺伝子によりコードされたアミノ酸配列をいう。本発明は同じく、ヒト配列に関して1つ以上のアミノ酸の付加、欠失又は置換により変更されている「ヒト」配列の定常ドメインを含むポリペプチドも企図している。
【0101】
本明細書の別所において考察されるように、1つ以上のアミノ酸の置換、挿入又は欠失は、重鎖及び/又は軽鎖の定常領域内、特にFc領域内に作製されることが企図されている。アミノ酸置換は、置換されたアミノ酸の、異なる天然のアミノ酸との、又は非天然若しくは修飾されたアミノ酸との交換を生じることができる。例えばグリコシル化パターンの変化(例えば、N-又はO-連結されたグリコシル化部位の付加又は欠失による)などの、他の構造的修飾も許容される。抗体の意図された用途に応じて、Fc受容体へのその結合特性に関して、本発明の抗体を修飾すること、例えばエフェクター機能を変更することが望ましいことがある。例えば、システイン残基は、Fc領域に導入されることができ、これによりこの領域内での鎖内ジスルフィド結合形成が可能になる。こうして作出されたホモ二量体型抗体は、改善されたインターナリゼーション能並びに/又は増大された補体-媒介性細胞傷害性及び抗体-依存性細胞傷害性(ADCC)を有する。Caronらの論文、J. Exp. Med. 176:1191-1195 (1992)及びShopesの論文、B. J. Immunol. 148:2918-2922 (1992)を参照されたい。あるいは抗体は、二重Fc領域を有し、かつこれにより増強された補体溶解及びADCC能を有し得るよう、操作されることができる。Stevensonらの論文、Anti-Cancer Drug Design, 3:219-230 (1989)を参照されたい。本発明は、化学療法薬、毒素(例えば、細菌、真菌、植物若しくは動物起源の酵素的に活性がある毒素、又はそれらの断片)、又は放射性同位元素(すなわち、放射性複合体)などの、細胞毒性物質に複合された、本明細書に説明されたような抗体を含む免疫複合体も企図している。Fc領域は、半減期を延長するように操作されることもできる。
【0102】
本発明は、ある実施態様において、キメララクダ科/ヒト抗体、及び特にVH及びVLドメインが完全にラクダ科動物の配列(例えば、リャマ又はアルパカ)のものであり、かつその抗体の残りが完全にヒト配列のものであるキメラ抗体を包含している。好ましい実施態様において、本発明は、「ヒト化された」又は「生殖系列化された」ラクダ科抗体、並びにVH及びVLドメインが、能動免疫化により得られたラクダ科VH及びVLドメインと比べ、そのフレームワーク領域内に1つ以上のアミノ酸置換を含む、ラクダ科/ヒトキメラ抗体も包含している。そのような「ヒト化」は、出発のラクダ科VH又はVLドメイン中のミスマッチしたアミノ酸残基を、ヒト生殖系列-コードされたVH又はVLドメイン中に認められた同等の残基と置き換えることにより、ヒト生殖系列VH又はVLドメインとの%配列同一性を増大する。
【0103】
本発明はなお更に、ラクダ科抗体、例えば標的抗原による能動免疫化により生じたラクダ科抗体に由来した、又はそうでなければラクダ科動物遺伝子によりコードされたCDR(又は超可変ループ)が、ヒトVH及びVLフレームワーク上にグラフティングされており、その抗体の残りも完全にヒト起源である、CDR-グラフティング抗体を包含している。しかしラクダ科免疫グロブリンとヒト免疫グロブリンの間で認められる高度のアミノ酸配列相同性及び構造相同性を前提とすると、本発明者らは大半の場合において、CDRグラフティングを必要としないラクダ科動物-由来のVH及びVLドメインのフレームワーク領域の「ヒト化」を介するか、又は表面的修飾(veneering)を必要としない限定された数の骨格配列に対するCDRグラフティングを介し、インビボでの治療的用途に必要とされるヒト相同性のレベルを達成することが可能であることを予測する(同じくAlmagroらの論文、Frontiers in Bioscience, 13:1619-1633 (2008)も参照することとし、その内容は引用により本明細書中に組み込まれている)。
【0104】
本発明に従うヒト化抗体、キメラ抗体及びCDR-グラフティング抗体、特に標的抗原によるラクダ科の能動免疫化に由来した超可変ループを含む抗体は、関心対象のポリペプチドを作出するように操作され、かつ細菌細胞、酵母細胞、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞を含むが、これらに限定されるものではない、原核又は真核宿主細胞を使用し、通常型組換えDNA操作及び発現技術を用い、容易に作成することができ、それらの一部は本明細書に説明されかつ付随する実施例において例示されている。
【0105】
本発明は、VH又はVLドメインの一方又は他方のいずれかが、ラクダ科から得られるか、又はラクダ科に由来した少なくとも1個のCDR又は超可変領域を含み、かつ「他方」の可変ドメインが、非ラクダ科動物、例えばヒトのアミノ酸配列を有する、抗原結合ポリペプチドも包含している。従ってラクダ科動物のVHドメインをヒトVLドメインと対合するか、又はヒトVHドメインをラクダ科動物のVLドメインと対合することが企図されている。このような対合は、それらから所望の抗原結合特性を伴う高親和性の結合物質(binder)を選択するために利用可能な抗原に結合するレパトアを増大することができる。
【0106】
本発明はなお更に、VHドメイン及び/又はVLドメインの超可変ループ又はCDRが、ラクダ科から得られるが、該(ラクダ科動物由来の)超可変ループ又はCDRの少なくとも1個は、ラクダ科動物-コードされた配列と比べ1つ以上のアミノ酸の置換、付加又は欠失を含むように操作されている、抗原結合ポリペプチドに及ぶ。そのような変化は、超可変ループ/CDRの「ヒト化」を含む。この方式で操作されているラクダ科動物由来のHV/CDRは、ラクダ科動物-コードされたHV/CDRのアミノ酸配列と依然「実質的に同一」であるアミノ酸配列を示すことができる。この文脈において、「実質的同一性」とは、ラクダ科動物-コードしているHV/CDRとの、わずかに1個、又はわずかに2個のアミノ酸配列ミスマッチを容認することができる。
【0107】
本発明の抗体は、任意のアイソタイプであることができる。ヒトの治療的用途が意図された抗体は、典型的にはIgA、IgD、IgE、IgG、IgM型であり、頻繁にはIgG型であり、その場合これらは4種のサブ-クラスIgG1、IgG2a及びb、IgG3又はIgG4のいずれかに属することができる。これらのサブ-クラスの各々において、そのFc部分内に1つ以上のアミノ酸の置換、挿入若しくは欠失を生じるか、又は例えばFc-依存型機能性を増強若しくは低下させるために、他の構造上の修飾を生じることが可能である。
【0108】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、疾患の研究並びに診断及び/又は治療の両方における、広範な適用において有用であることができる。天然ヒト抗体のVH及びVLドメインとの高度のアミノ酸配列同一性、並びに高度の構造相同性(具体的にはヒト抗体において認められるようなカノニカルフォールドの正確な組合せ)のために、本発明の抗原結合ポリペプチドは、特にモノクローナル抗体の形で、ヒト治療薬としての特定の有用性を認めるであろう。
【0109】
本発明は、広範な抗原に対する抗原結合ポリペプチド、及び具体的にはモノクローナル抗体の作製のためのプラットフォームを提供し、かつ本発明は、その最も広い態様において、標的抗原の厳密な同一性に関して、実際に標的抗原への結合の特異性又は親和性に関しても、限定されることを意図しない。しかし特定の非限定的実施態様において、この標的抗原は、非ラクダ科動物の抗原、細菌抗原、ウイルス抗原又はヒト抗原であることができる。好ましい実施態様において、この標的抗原は、特定の治療上重要な抗原であることができる。用語「治療上重要な標的」とは、ヒト又は動物の疾患の形成、発症、進行、媒介に、又は各々の疾患に関連した作用に関与した標的をいう。この定義に含まれるのは、標的の発現レベル及び/又は活性が、抗体結合により変更される標的(例えば、その活性が作動性若しくは拮抗性の抗体との結合により変更され得る受容体)、並びに標的の活性及び/又は発現が、疾患への直接若しくは間接の影響を有する標的である。
【0110】
例として、「ヒト抗原」は、受容体、受容体リガンド、細胞-シグナル伝達分子、ホルモン、サイトカイン若しくはサイトカイン受容体、神経伝達物質などとして機能する天然のヒトポリペプチド(タンパク質)を含むことができる。「天然の」により、このポリペプチドは、その発達のいずれかの段階で人体内で発現されることを意味し、疾患過程において人体により発現されたポリペプチドを含む。
【0111】
本発明の抗原結合ポリペプチドの非限定的実施態様は以下を含む:
VHドメイン又はVLドメイン中の少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)が、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られる、VHドメイン及びVLドメインを含むキメラ抗原結合ポリペプチド。特定の実施態様において、VHドメイン及びVLドメインの両方は、リャマ(ラマ・グラマ)から得られる。
VHドメイン又はVLドメイン中の少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)が、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られる、VHドメイン及びVLドメインを含む組換えにより発現された抗原結合ポリペプチド。特定の実施態様において、VHドメイン及びVLドメインの両方は、リャマ(ラマ・グラマ)から得られる。
VHドメイン又はVLドメイン中の少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)が、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られる、VHドメイン及びVLドメインを含むモノクローナル抗体。特定の実施態様において、VHドメイン及びVLドメインの両方は、リャマ(ラマ・グラマ)から得られる。
VHドメイン又はVLドメイン中の少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)が、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られ、かつ該抗原結合ポリペプチドが、治療上又は診断上重要な標的抗原と免疫反応性である、VHドメイン及びVLドメインを含む抗原結合ポリペプチド。特定の実施態様において、VHドメイン及びVLドメインの両方は、リャマ(ラマ・グラマ)から得られる。
ラクダ科動物(特にリャマ又はアルパカ)の通常型抗体のVHドメイン、ラクダ科動物(特にリャマ又はアルパカ)の通常型抗体のVLドメイン及び1個以上のヒト抗体定常ドメインを含む、キメラ抗原結合ポリペプチド。特定の実施態様において、VHドメイン及びVLドメインの両方は、リャマ(ラマ・グラマ)から得られる。
抗原結合ポリペプチドが、ラクダ科動物(特にリャマ又はアルパカ)の通常型抗体のVHドメイン、ラクダ科動物(特にリャマ又はアルパカ)の通常型抗体のVLドメイン及び1個以上のヒト抗体定常ドメインを含むか又はこれらからなる、治療上又は診断上重要な標的抗原と免疫反応性である、キメラ抗原結合ポリペプチド。特定の実施態様において、VHドメイン及びVLドメインの両方は、リャマ(ラマ・グラマ)から得られる。
ラクダ科動物(特にリャマ又はアルパカ)の通常型抗体のVHドメイン、ラクダ科動物(特にリャマ又はアルパカ)の通常型抗体のVLドメイン、並びにIgG、IgM、IgD、IgE及びIgAからなる群から選択されるアイソタイプのヒト抗体の定常ドメインを含むか又はこれらからなる、キメラ抗体。特定の実施態様において、VHドメイン及びVLドメインの両方は、リャマ(ラマ・グラマ)から得られる。
抗原結合ポリペプチドが、ラクダ科動物(特にリャマ又はアルパカ)の通常型抗体のVHドメイン、ラクダ科動物(特にリャマ又はアルパカ)の通常型抗体のVLドメイン、並びにIgG、IgM、IgD、IgE、IgAからなる群から選択されるアイソタイプのヒト抗体の定常ドメインを含むか又はこれらからなる、治療上又は診断上重要な標的抗原と免疫反応性である、キメラ抗原結合ポリペプチド。特定の実施態様において、VHドメイン及びVLドメインの両方は、リャマ(ラマ・グラマ)から得られる。
【0112】
前述の特定の実施態様において、VH及びVLドメインの両方は、ラクダ科動物の同じ種(特にリャマ又はアルパカ)に由来することができ、かつこの種内の同じ動物、例えば能動免疫化されている単独の動物に由来することさえできる。特にVHドメイン及びVLドメインの両方は、単独の能動免疫化されたリャマから得ることができる。しかし、VH及びVLドメインを、異なる動物、又は非免疫ライブラリーから得ることは除外されない。
【0113】
前述の実施態様において、用語「ラクダ科動物の通常型抗体のVHドメイン」及び「ラクダ科動物の通常型抗体のVLドメイン」は、本明細書の別所に説明されたように、1個以上のフレームワーク領域において「ヒト化された」又は「生殖系列化された」変異型のように、アミノ酸配列に1個以上の変化を導入するように操作されている変異型を包含し、かつ本明細書の別所に説明されたように、合成(例えばコドン最適化された)遺伝子の産物も包含することが意図されている。
【0114】
(ポリヌクレオチド、ベクター及び組換え発現)
本発明は、本発明の抗原結合ポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド分子、宿主細胞又は無細胞発現システムにおいて本抗原結合ポリペプチドの発現を可能にする調節配列に機能的に連結された本発明の抗原結合ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を含む発現ベクター、並びにこの発現ベクターを含む宿主細胞又は無細胞発現システムも提供する。
本発明の抗原結合ポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド分子は、例えば組換えDNA分子を含む。
【0115】
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」又は「ポリヌクレオチド分子」は、本明細書において互換的に使用され、かつ1本鎖又は二本鎖のいずれかのDNA又はRNA分子、及び1本鎖の場合、その相補配列の分子をいう。核酸分子の考察において、特定の核酸分子の配列又は構造は、5'から3'方向で配列が提供される通常の慣習に従い本明細書において説明され得る。本発明の一部の実施態様において、核酸又はポリヌクレオチドは、「単離され」ている。この用語は、核酸分子に適用される場合、それが起源とする生物の天然のゲノム内でそれが直ぐ近接している配列から分離されている核酸分子をいう。例えば「単離された核酸」は、プラスミドベクター若しくはウイルスベクターなどのベクターに挿入されたDNA分子、又は原核細胞又は真核細胞若しくは非-ヒト宿主生物のゲノムDNAに組み込まれたDNA分子を含むことができる。RNAに適用される場合、用語「単離されたポリヌクレオチド」とは、主に先に定義された単離されたDNA分子によりコードされたRNA分子をいう。あるいは、この用語は、その自然の状態(すなわち細胞又は組織内)ではそれが会合されるであろう他の核酸から精製/分離されたRNA分子をいうことができる。単離されたポリヌクレオチド(DNA又はRNAのいずれか)は、生物学的手段又は合成手段により直接作製され、かつその作製時に存在する他の成分から分離された分子を更に表すことができる。
【0116】
本発明の抗原結合ポリペプチドの組換え生成に関して、これをコードしている組換えポリヌクレオチドは、(標準の分子生物学的技術を用いて)調製され、かつ選択された宿主細胞、又は無細胞発現システムにおいて発現するために、複製可能なベクターに挿入されることができる。好適な宿主細胞は、原核細胞、酵母細胞、又はより高等な真核細胞、具体的には哺乳類細胞であることができる。有用な哺乳類宿主細胞株の例は、SV40により形質転換されたサル腎CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胎児腎株(293細胞又は懸濁培養における増殖のために継代された293細胞、Grahamらの論文、J. Gen. Virol. 36:59 (1977));ベビーハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaubらの論文、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Matherの論文、Biol. Reprod. 23:243-251 (1980));マウス骨髄腫細胞SP2/0-AG14(ATCC CRL 1581;ATCC CRL 8287)又はNSO(HPAカルチャーコレクション番号85110503);サル腎細胞(CV1、ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファロー系ラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳癌(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherらの論文、Annals N. Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982));MRC 5細胞;FS4細胞;並びに、ヒト肝癌株(Hep G2)、更にはDSMのPERC-6細胞株である。これらの宿主細胞の各々における使用に適した発現ベクターも、概して当該技術分野において公知である。
【0117】
用語「宿主細胞」は一般に、培養された細胞株をいうことは留意されなければならない。本発明の抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターが導入されているヒト全体は、本発明の範囲から明白に除外される。
【0118】
重要な態様において、本発明は、本組換え抗原結合ポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド(例えば発現ベクター)を含む宿主細胞(又は無細胞発現システム)を、該抗原結合ポリペプチドの発現を可能にする条件下で培養すること、並びに発現された抗原結合ポリペプチドを回収することを含む、組換え抗原結合ポリペプチドを作製する方法も提供する。この組換え発現方法は、ヒトの治療的用途のために意図されたモノクローナル抗体を含む、本発明の抗原結合ポリペプチドの大規模製造に使用されることができる。インビボ治療的用途に適した組換え抗体の大規模製造に適したベクター、細胞株及び製造方法は、一般に当該技術分野において利用可能であり、かつ当業者に周知であろう。
【0119】
本発明の更なる態様は、本発明の抗原結合ポリペプチドを備える、診断用キットなどを含む、試験キット、及び同じく本発明の抗原結合ポリペプチドを含有する医薬製剤に関する。
【0120】
本抗原結合ポリペプチドが診断的用途のために意図される場合、例えば本抗原結合ポリペプチドが病態又は易罹患性の生体マーカーである抗原に特異的である場合、本抗原結合ポリペプチドを試験キットの成分として供給することは都合がよくあり得る。診断試験は典型的には、ELISA、ラジオイムノアッセイ、Elispotなどの標準のイムノアッセイの形をとる。このような試験キットの成分は、試験又はアッセイの性質に応じて変動することができ、これは本発明の抗原結合ポリペプチドを使用し実行されることが意図されるが、典型的には本発明の抗原結合ポリペプチドを用いるイムノアッセイを実行するために必要とされる追加試薬を含む。診断試薬として使用するための抗原結合ポリペプチドは、例えば蛍光部分、酵素標識、又は放射標識などの顕在化標識(revealing label)を保持することができる。
【0121】
インビボ治療的用途のために意図された抗原結合ポリペプチドは、典型的には1種以上の医薬として許容し得る希釈剤、担体又は賦形剤と一緒に、医薬剤形に製剤される(「レミントン薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、第16版、Osol, A.編集、1980)。本発明の抗原結合ポリペプチドは、典型的には、それを必要とする哺乳類対象、典型的にはヒト患者へ、静脈内へ、又は筋肉内、腹腔内、脳室内、腫瘍内、経口、腫瘍周辺、皮下、滑液嚢内、髄腔内、局所的、舌下若しくは吸入経路により、投与される、無菌の水溶液として製剤される。疾患の予防又は治療のための、抗原結合ポリペプチドの適量は、治療されるべき疾患の種類、該疾患の重症度及び臨床経過に加え、患者の年齢、体重及び既往歴により左右され、かつ担当医の判断により決定されるであろう。
【0122】
(抗原結合ポリペプチドの作製方法)
本発明の重要な態様は、関心対象の標的抗原に対する高親和性抗原結合ポリペプチド、具体的にはモノクローナル抗体の作製方法に関する。
従って本発明は、標的抗原と免疫反応性である抗原結合ポリペプチドを調製する方法を提供し、該方法は:
(a)該標的抗原と免疫反応性であるラクダ科通常型抗体のVH及び/又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)をコードしているヌクレオチド配列を決定すること;並びに
(b)該標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドを発現することであり、該抗原結合ポリペプチドが、VH及びVLドメインを含み、ここでこのVHドメイン又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ若しくは相補性決定領域(CDR)は、パート(a)において決定されたヌクレオチド配列によりコードされたアミノ酸配列を有すること:を含む。
一実施態様において、パート(b)において発現された抗原結合ポリペプチドは、パート(a)のラクダ科通常型抗体と同一ではない。
【0123】
ひとつの非限定的実施態様において、本発明は、標的抗原と免疫反応性である(又は特異的に結合する)組換え抗原結合ポリペプチドを調製する方法を提供し、該抗原結合ポリペプチドは、VHドメイン及びVLドメインを含み、ここでVHドメイン又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)が、ラクダ科ファミリーの種から得られ、該方法は:
(a)該標的抗原と免疫反応性のラクダ科通常型抗体のVH及び/又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)をコードしているラクダ科核酸を単離する工程;
(b)工程(a)において単離された核酸によりコードされた超可変ループ又は相補性決定領域と同一のアミノ酸配列を有する超可変ループ又は相補性決定領域をコードしているヌクレオチド配列を含む組換えポリヌクレオチドを調製する工程であり、この組換えポリヌクレオチドが、該標的抗原と免疫反応性である(又は特異的に結合する)VHドメイン及びVLドメインを含む抗原結合ポリペプチドをコードしている、前記工程;並びに
(c)工程(b)の組換えポリヌクレオチドから該抗原結合ポリペプチドを発現する工程:を含む。
一実施態様において、パート(c)において発現された抗原結合ポリペプチドは、パート(a)のラクダ科通常型抗体と同一ではない。
【0124】
前述の方法は、本明細書において、抗原結合ポリペプチドの調製に関する「全般的方法」と称されることができる。
いずれかの方法の第一の工程は、標的抗原に対する免疫応答を誘起するための、ラクダ科ファミリーの種の能動免疫化、これによる該標的抗原に対し免疫反応性のラクダ科動物の通常型抗体の発生に関与し得る。ラクダ科動物の免疫化に関するプロトコールは、付随する実施例において説明される。免疫化に使用される抗原調製品は、標的抗原、例えば組換えにより発現されたポリペプチド、又はそれらの免疫原性断片の精製型であることができる。しかし、該標的抗原を発現若しくはコードしている単離された細胞又は組織調製品、細胞溶解液、細胞上清若しくは細胞膜などの画分などのような抗原の粗調製品によるか、又は該標的抗原をコードしているポリヌクレオチドにより(DNA免疫化)、免疫化することも可能である。
【0125】
この方法は典型的には、ラクダ科種の動物(リャマ及びアルパカを含むが、これらに限定されるものではない)の免疫化に関与し、かつ有利なことにこれらの動物は、非近交系集団に属するであろう。しかし、ラクダ科動物の通常型Ig遺伝子座、又は少なくともそれらの一部を含むトランスジェニック動物(例えばトランスジェニックマウス)を使用することも企図される。
【0126】
関心が増大しつつある話題は、インビボ及びインビトロで作出された抗体の相補性決定領域(CDR)間の差異であるように見える。本発明者らは、インビボ選択が得られる抗体の免疫原性、機能性、安定性、その結果として改善された製造可能性に対し好ましい影響を有する一方で、インビトロにおいて作出されかつ選択された合成CDRは、この観点で不都合があると推量している。所与の治療的抗体は、患者からのいわゆる抗-イディオタイプ抗体反応により中和されるリスクがあるので、このことは重要である(Lonbergの論文、Nature Biotechnology, 23:1117-1125 (2005))。
【0127】
ラクダ科動物の能動免疫化を基にした本発明の方法の重要な利点は、ラクダ科の全ての種は、個々の動物が異なる遺伝的背景を有する巨大な非近交系集団において維持され得るという事実に端を発する。従って、それから可能性のある抗原結合分子の多様なプールを得ることができる関心対象の抗原に対する強力かつ多様な免疫応答を誘起するために能動免疫化を使用することが可能である。付随する実施例において例証されるように、本発明者らは、ラクダ科動物の能動免疫化は、高度の免疫多様性を伴う標的抗原に結合するFab断片を作出することができることを認めている。理論により結びつけられることを意図するものではないが、本発明者らは、ヒトとラクダ科動物の間の系統学的距離は、所与の標的抗原に対する多様な免疫応答を生じる上で重要であると推量している。対照的に、非ヒト霊長類は、系統学的にヒトに近く、従って非ヒト霊長類とヒトの間で高い相同性を持つ標的は、非ヒト霊長類において強度及び多様性の点で限定された免疫応答のみを誘起することができる。
【0128】
ヒトから系統学的に離れている非近交系集団において能動免疫化を使用する能力は、そのように作製された抗体が、ヒト抗体と低い配列相同性及び構造相同性を示す場合に、特に有利ではなく、その結果治療的可能性のある候補抗体を作出するためには、実質的「タンパク質操作」が必要であろう。従って本発明者らが、ラクダ科生殖系列(及び体細胞変異された配列)は、ヒトVH及びVLドメインと非常に高度の配列相同性及び構造相同性を伴うVH及びVLドメインの両方をコードしている(先に説明されたように)ことを示したことは極めて重要である。この高度の相同性は、巨大な非近交系集団の利用可能性と組合せて、ヒト治療薬として使用するためのモノクローナル抗体の開発のための非常に強力なプラットフォームを生じる。
【0129】
標的抗原による能動免疫化後、末梢血リンパ球又はリンパ節若しくは脾臓生検標本などの生検標本を、免疫化された動物から単離でき、かつ標的抗原に対する通常型ラクダ科動物抗体の産生についてスクリーニングできる。本実施例において例示されるように、スクリーニングされるべきB細胞レパトアの複雑度を低下させるために、パニング又はFACS選別を使用する濃厚化などの技術を、この段階で使用することができる。その後抗原-特異性B細胞が選択され、かつ総RNA抽出及び引き続きのcDNA合成のために使用される。(前記標的抗原に特異的な)未変性のラクダ科動物VH及びVLドメインをコードしている核酸は、PCRにより単離されることができる。
【0130】
関心対象の標的とのラクダ科動物の通常型抗体の免疫反応性を同定するために、能動免疫化を使用することは必須ではない。別の実施態様において、ラクダ科動物自身の免疫応答を使用すること、この動物、又は例えば罹患した動物若しくは例えば通常の感染経路により特定の病原体に自然に曝された動物に天然に存在するいずれかの免疫多様性を使用することは可能である。これに関して、本発明は、非-免疫ライブラリーの使用を包含している。ラクダ科動物内の「自然」免疫応答が関心対象の標的抗原に結合する抗体を既に生じている場合、そのような抗体を産生するB細胞を培養及び単離するため、又はそのような抗体のモノクローナル培養物を作製するため、並びに/又はそのような抗体のVH及び/若しくはVLドメインをコードしているラクダ科動物の遺伝子セグメントのヌクレオチド配列を決定するために、本明細書に説明されたような遺伝子操作技術、及び当該技術分野において公知の他の標準技術を使用することが可能である。この配列情報で武装された後、ラクダ科動物由来のVH及び/若しくはVL、又はそれらの超可変ループ(若しくはCDR)を具現化している抗原結合ポリペプチドをコードしている組換えDNA構築体を操作することが可能である。
【0131】
ラクダ科動物のVH及びVLドメインをコードしている核酸(能動免疫化又は他の手段のいずれかにより得られた)は、本発明の抗原結合ポリペプチドを作製するために、発現ベクターに直接クローニングされることができる。特にこれらの配列は、キメラ抗体を作製するために、ヒト抗体定常領域又はその一部もコードしている発現ベクターへクローニングされることができる。しかしヒト定常領域配列のクローニング及び発現の前に、単離されたラクダ科動物VH及びVL配列に更なる操作を実行することは典型的である。
【0132】
第一の工程として、候補ラクダ科動物VH及びVL配列(能動免疫化後に単離された配列を含む)を使用し、ラクダ科動物ライブラリー(例えば、付随する実施例において説明されたFabライブラリー)を調製することができる。次にこのライブラリーは、標的抗原への結合に関してスクリーニングされる(例えば、ファージディスプレイを用いて)。有望なリード候補は、例えば、Biacore又は好適なバイオアッセイを使用し、標的抗原結合について更に試験されることができる。最後に、最も有望なリードのVH及びVLドメインをコードしている配列が、ヒト抗体定常領域をコードしている配列とのインフレーム融合としてクローニングされることができる。
【0133】
(ラクダ科動物由来の)HV/CDRをコードするために使用されるポリヌクレオチド配列(例えば、本発明の抗原結合ポリペプチドの組換え発現のため)は、ラクダ科動物においてHV/CDRを天然にコードしている未変性のポリヌクレオチド配列と同一であることは必須ではない。従って本発明は、コードされたアミノ酸配列を変更しない、クローニング及び/又は発現に関連したポリヌクレオチド配列中のコドン最適化及び他の変化を包含し/可能とする。
【0134】
ある実施態様において、関心対象の抗原に結合することがわかっている特定の可変ドメインを、反対型の可変ドメインの各セットと対合し(すなわち、VHはVLライブラリーと対合し、逆もまた同様)、ライブラリーを作製するために、「鎖シャッフリング」が行われることができ、かつ得られるVH/VLの「不規則な」組合せは、抗原結合の親和性及び/又は特異性について試験される。あるいは、VHドメインのライブラリーは、無作為に又は階層的な様式のいずれかで、VLドメインのライブラリーと対合され、かつ得られる組合せが試験される(Clacksonらの論文、Nature, 352:624-638 (1991)を参照されたい)。この方法において、これらのライブラリーは、関心対象の抗原に対する免疫性を提示しているラクダ科動物(能動免疫化された動物を含む)からの再配列されたVH及びVL(Vκ又はVλ)のライブラリーであることができる。この鎖シャッフリングプロセスは、免疫多様性を増大し、かつ著しく増強された親和性による対合を生じることができる。
【0135】
本発明は、ラクダ科動物VH又はVLドメインから出発するエピトープインプリンティングされた選択(いわゆる「ガイド付き選択」)を行うことも企図しており、ここで他方の可変ドメインは、非ラクダ科動物種、例えばヒトから得られる。従って一実施態様において、ラクダ科動物VHドメインは、ヒト-コードされたVLドメインのライブラリーと「シャッフル」され、未変性のラクダ科動物-コードされたVLドメインを置き換え、ラクダ科動物VH/ヒトVLの対合を生じることができる。1つ以上のこれらの対合は、次にヒトVLドメインが、ヒト-コードされたものであることができるVHドメインのライブラリーに対してシャッフルされる第二の鎖シャッフリング工程に供される。この第二の工程は、当初のラクダ科動物-コードされたVH/VL組合せのエピトープインプリンティングを有する、ヒト-コードされたVH/VL組合せを作製することができる。
【0136】
同じく本発明の範囲内に、関心対象の抗原に結合する非ラクダ科動物(好ましくはヒト)-コードされたVH/VLドメイン組合せで始まる、逆「鎖シャッフリング」プロセスも含まれる。これは、例えば実証(validate)された疾患標的に対する完全ヒト治療的抗体であることができる。このVH/VL組合せから出発し、VHドメインが、ラクダ科動物-コードされたVLドメインのライブラリーにより「シャッフル」される(逆もまた同様)選択の第一ラウンドを実行し、かつこの対合が抗原結合について試験されることが可能である。次に、選択された非ラクダ科動物(例えばヒト)VH/ラクダ科動物VLの対合は、ラクダ科動物-コードされたVLが、ラクダ科動物-コードされたVHのライブラリーに対してシャッフルされる選択の第二ラウンドに供され、得られた対合が抗原結合について試験される。結果として、出発VH/VL組合せのエピトープインプリンティングを保持する、ラクダ科動物VH/ラクダ科動物VLの組合せを作製することが可能であることができる。このラクダ科動物VH/VL組合せは、本明細書に説明された方法のいずれかを使用し、必要ならば、更に操作/修飾され、かつヒト-コードされた定常ドメインと組合せられる。
【0137】
本発明の方法において、「未変性の」ラクダ科動物由来のVH及びVLドメインは、典型的にはフレームワーク領域内に、1個以上の選択的アミノ酸置換が導入される、タンパク質操作に供されることができる。このような置換を「野生型」ラクダ科動物配列に導入する理由は、(i)フレームワーク領域のヒト化、(ii)安定性、生物学的利用能、生成物の均一性、組織透過などの改善、又は(iii)標的抗原結合の最適化であることができる。
【0138】
フレームワーク領域内での1個以上のアミノ酸残基の選択的交換によるラクダ科動物由来のVH及びVLドメインの「ヒト化」は、良く確立された原理に従い実行されることができる(付随する実施例において例示され、かつAlmagroらの論文、Frontiers in Bioscience, 13:1619-1633 (2008)において検証され、その内容は具体的に引用により本明細書中に組み込まれている)。所与のVHドメイン、VLドメイン又はそれらの組合せのいずれかの許容し得る「ヒト化」を実現するために行われるアミノ酸変化の正確な同一性は、ラクダ科由来のフレームワーク領域の配列及びこれらのフレームワーク領域と最も近い並置されたヒト生殖系列(又は体細胞変異された)フレームワーク領域の間の出発相同性によって決まり、かつ恐らく抗原結合部位を形成する超可変ループの配列及びコンホメーションによっても決まるので、これらは個別的基準で変動することは理解されるであろう。
【0139】
ヒト化の全般的目的は、ラクダ科によりコードされた親のVH及びVLドメイン(例えば能動免疫化により得られたラクダ科動物VH/VL)により形成された抗原結合部位の特異性及び親和性は保持しながら、VH及びVLドメインが、ヒト対象に導入された場合に、最小の免疫原性を示すような分子を作製することである。この目的を達成するために使用することができるヒト化には、多くの確立されたアプローチが存在する。技術は一般に、理論的アプローチ又は経験的アプローチのいずれかとして分類されることができる。理論的アプローチは、CDR-グラフティング、再表面形成(resurfacing)又は表面的修飾、超ヒト化及びヒトストリング(string)含量最適化を含む。経験的アプローチは、FRライブラリーアプローチ、ガイド付き選択、FRシャッフリング及びヒューマニア化(humaneering)を含む。これらの技術は全て、Almagroの文献、「生物科学最前線(Frontiers in Bioscience)」、2008(同書)において検証されており、かつこれらの技術のいずれか又はそれらの組合せ若しくは改変を使用し、本発明の「ヒト化された」抗原結合ポリペプチドを調製することができる。
【0140】
(ライブラリー構築方法)
関連した態様において、本発明は、ラクダ科動物の通常型抗体のVH及び/又はVLドメインをコードしている発現ベクターのライブラリーを作製する方法も包含しており、該方法は:
a)増幅された遺伝子セグメントを得るために、ラクダ科動物の通常型抗体のVH及び/又はVLドメインをコードしている核酸分子の領域を増幅する工程であって、各遺伝子セグメントが、ラクダ科動物の通常型抗体のVHドメインをコードしているヌクレオチド配列又はVLドメインをコードしているヌクレオチド配列を含む、工程、並びに
b)各発現ベクターが、VHドメインをコードしている遺伝子セグメント及び/又はVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを少なくとも含むように、工程a)において得られた遺伝子セグメントを発現ベクターにクローニングし、これにより発現ベクターのライブラリーが得られる工程:を含む。
【0141】
前記「ライブラリー構築」の方法は、先に説明されたように、本発明の抗原結合ポリペプチドの作製のための全般的方法の一部を形成することもできる。従って本発明のこの態様に関連して好ましい又は有利であると説明された任意の特徴は、別に指定されない限りは、本全般的方法に関連して好ましい又は有利であるとすることもでき、逆もまた同様である。
【0142】
一実施態様において、工程a)において増幅された核酸は、ラクダ科動物のリンパ系組織から調製されたcDNA又はゲノムDNAを含み、該リンパ系組織は、B細胞、リンパ節、脾細胞、骨髄細胞の1種以上、又はそれらの組合せを含む。循環B細胞が特に好ましい。本発明者らは驚くべきことに、末梢血リンパ球(PBL)を、通常型ラクダ科動物抗体のVH及びVLドメインをコードしている核酸の供給源として使用することができる、すなわちPBL試料中に直接増幅することが可能である十分な量の血漿細胞(抗体を発現している)が存在することを発見した。このことは、PBLは動物(ラクダ科動物)から採取された全血試料から調製されることができるので、利点である。これは、(例えば脾臓又はリンパ節から)組織生検標本を得るための侵襲的手法、及び試料採取手法が必要なだけ頻繁に繰り返される手段を使用する必要を回避し、動物に対する衝撃を最小化する。例えば、ラクダ科動物を能動免疫化し、その動物から最初の血液試料を採取しかつPBLを調製し、次に同じ動物を同じ抗原の「追加免疫」用量又は異なる抗原のいずれかで2回目免疫化し、その後第二の血液試料を採取しかつPBLを調製することが可能である。
【0143】
従って、本発明のこの方法の特定の実施態様は、ラクダ科動物からPBLを含む試料を調製すること、このPBLからcDNA又はゲノムDNAを調製すること、及びこのcDNA又はゲノムDNAをラクダ科動物の通常型抗体のVH又はVLドメインをコードしている遺伝子セグメントの増幅の鋳型として使用することに関連することができる。
【0144】
一実施態様において、前記リンパ系組織(例えば循環B細胞)は、本明細書の別所に説明されたように、能動免疫化されたラクダ科動物から得られる。しかしこの実施態様は非限定的であり、かつ同じく本明細書の別所に説明されたように、非-免疫ライブラリー及び罹患したラクダ科動物のリンパ系組織由来のライブラリーを調製することも企図される。
【0145】
好都合なことに総RNA(又はmRNA)は、リンパ系組織試料(例えば、末梢血細胞又は組織生検標本)から調製され、かつ標準技術によりcDNAに転換されることができる。出発材料としてゲノムDNAを使用することも可能である。
【0146】
本発明のこの態様は、多様なライブラリーアプローチ、及びそのライブラリーの構築のためのB細胞選択アプローチの両方を包含している。多様なライブラリーアプローチにおいて、VH及びVL-コードしている遺伝子セグメントのレパトアは、いかなる先行するB細胞選択も伴わずにリンパ系組織から調製された核酸から増幅されることができる。B細胞選択アプローチにおいて、所望の抗原-結合特性を持つ抗体を提示しているB細胞は、核酸抽出並びにVH及びVL-コードしている遺伝子セグメントの増幅の前に、選択されることができる。
【0147】
様々な慣習的方法を用い、所望の抗原-結合特性を持つ抗体を発現しているラクダ科動物のB細胞を選択することができる。例えばB細胞は、蛍光標識されたモノクローナル抗体(mAb、リャマ又は他のラクダ科動物由来の通常型抗体を特異的に認識する)により、及び別の蛍光色素で標識された標的抗原により、通常型IgGの細胞表面提示のために染色されることができる。次に個々のダブルポジティブB細胞は、FACSにより単離され、かつ総RNA(又はゲノムDNA)が個別の細胞から抽出される。あるいは、細胞はインビトロ増殖に供され、かつ分泌されたIgGを含む培養上清はスクリーニングされることができ、かつ総RNA(又はゲノムDNA)が陽性細胞から抽出される。なお更なるアプローチにおいて、個々のB細胞は、特異的遺伝子により形質転換されるか、又は腫瘍細胞株と融合され、「自由自在に」増殖することができる細胞株を作出することができ、引き続き総RNA(又はゲノムDNA)がこれらの細胞から調製される。
【0148】
FACSによる選別の代わりに、通常型IgGを発現している標的特異的B細胞は、固定されたモノクローナル抗体(ラクダ科動物の通常型抗体に対して向けられた)上で、引き続き固定された標的抗原上で、「パニング」されることができる。RNA(又はゲノムDNA)は、抗原特異的B細胞のプールから抽出されることができるか、又はこれらのプールは、形質転換されることができ、かつ個々の細胞は、限定希釈又はFACSによりクローニングされる。
B細胞選択方法は、陽性選択、又は陰性選択に関与することができる。
【0149】
いかなるB細胞選択も伴わない多様なライブラリーアプローチ又はB細胞選択アプローチを使用するかにかかわらず、リンパ系組織から調製された核酸(cDNA又はゲノムDNA)は、個々のVHドメイン又はVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを増幅するために、増幅工程に供される。
【0150】
リンパ系組織(例えば、末梢B細胞又は組織生検標本)から抽出された総RNAは、ランダムプライミングされたcDNAに転換でき、又はオリゴdTプライマーは、cDNA合成に使用されることができるか、あるいはIg特異的オリゴヌクレオチドプライマーは、cDNA合成に適用でき、又はmRNA(すなわちポリA RNA)は、cDNA合成の前に、オリゴdTセルロースにより総RNAから精製されることができる。B細胞から単離されたゲノムDNAは、PCRに使用されることができる。
【0151】
少なくともVH又はVLをコードしている重鎖及び軽鎖(κ及びλ)遺伝子セグメントのPCR増幅は、CH1又はCκ/Cλ領域の3'末端へのプライマーアニーリングと組合せた、可変領域の5'末端へアニーリングするFR1プライマーにより行うことができ、これらの定常領域プライマーに関して、唯一のプライマーが各型に必要とされるという利点がある。このアプローチは、ラクダ科動物のFabがクローニングされることを可能にする。あるいはこれらの可変領域の3'末端へアニーリングするFR4プライマーのセットは、Fabとして(ベクターにコードされた定常領域に融合された)又はscFvとして(単鎖Fv、そこで重鎖及び軽鎖可変領域は、柔軟なリンカー配列を介して連結されている)再度クローニングするために使用されることができるか;あるいは、これらの可変領域は、発現ベクター中にクローニングされることができ、哺乳類細胞上に提示された完全長IgG分子の生成が可能である。
【0152】
一般に増幅は、二工程で実行され;第一工程においては、タグなしプライマーにより、大量のcDNAを使用し(多様性を維持するため)、及び第二工程においては、これらのアンプリコンは、クローニングのために5'側に導入された制限部位を伴う延長されたプライマーであるタグ付きプライマーによりわずかに数サイクルで再増幅される。第一の増幅工程(タグなしプライマー)において作製されたアンプリコンは、第二の増幅工程の前に、過剰なプライマーを除去するために、ゲル-精製されることができる。あるいは、プロモーター配列が導入され、これはリボソーム提示のためにRNAへ転写され得る。制限部位の代わりに、Cre-Lox部位又はTOPO部位などの、組換え部位が導入されることができ、これらは適当なベクターへの位置指定された挿入を可能にする。
【0153】
ラクダ科動物の通常型VH及びVLドメインをコードしている増幅された遺伝子セグメントはその後、機能的抗原結合ポリペプチドとしてVH/VL組合せの発現に適したベクターへクローニングされることができる。例として、B細胞(又はいずれのB細胞選択にも供されない他のリンパ系組織)のプールから増幅されたVHCH1/VKCK/VLCL遺伝子セグメントは、個々のライブラリー(一次ライブラリー)として個別に最初にクローニングされることができ、次に第二工程において、Fab又はscFVライブラリーは、軽鎖断片を切断し、かつこれらを重鎖断片をコードしているベクターへ連結することにより、集成され得る。この二工程手順は、PCR産物のクローニングが相対的に不充分であるので(制限酵素による部分最適な消化のため)、大きいライブラリーの作製を裏付けている。scFvをコードしているDNA断片は、アンプリコン内の小さい重複配列を基にしたオーバーラップ伸長によるスプライシングPCR(SOE)により作出されることができ;VH及びVLコードしているアンプリコンのPCRにおけるリンカーをコードしている小型DNA断片との混合により、前記重複配列のために、単独のDNA断片が形成される。
【0154】
VH及びVL-コードしている遺伝子セグメントを含むアンプリコンは、ファージベクター又はファージミドベクターにおいてクローニングされることができ、ファージディスプレイをベースにした選択方法を使用することにより、標的特異的抗体断片の選択を可能にしている。あるいはアンプリコンは、酵母細胞(Fab、scFv又は完全長IgGとして)又は哺乳類細胞(IgGとして)上の提示を可能にする発現ベクターへクローニングされることができる。
【0155】
別の実施態様において、クローニングは、T7(又は他の)プロモーター配列及びリボソーム結合部位が増幅のためのプライマー内に含まれているリボソームディスプレイのためのアンプリコンを用いることにより避けることができる。標的抗原への結合に関する選択後に、プールはクローニングされ、かつ個々のクローンが分析される。理論上、ファージによるライブラリーのクローニング及び選択は1010〜1012クローンに制限されるので、より大きい免疫レパトアは、ファージディスプレイライブラリーアプローチとは対照的に、このアプローチを用いてサンプリングされることができる。
【0156】
B細胞選別を適用する場合、抗体断片(scFV又はFab)又は完全長IgGさえも作製するために、個々の標的特異的B細胞のVH又はVL-コードしている遺伝子セグメントを含むアンプリコンは、細菌又は哺乳類の発現ベクターへ直接クローニングされることができる。
【0157】
「ライブラリー構築」プロセスの特定の非限定的実施態様において、本発明は、ラクダ科動物の通常型抗体のVH及びVLドメインをコードしている発現ベクターのライブラリーの作製方法を提供し、該方法は:
a)ラクダ科動物を能動免疫化し、これにより標的抗原に対する通常のラクダ科動物の抗体を産生する工程;
b)該免疫化されたラクダ科動物(リャマ又はアルパカを含むが、これらに限定されるものではない)由来のリンパ系組織(例えば循環B細胞)を含む試料から、cDNA又はゲノムDNAを調製する工程;
c)該cDNA又はゲノムDNAの領域を増幅し、増幅された遺伝子セグメントを得、各遺伝子セグメントが、ラクダ科動物の通常型抗体のVHドメインをコードしているヌクレオチド配列又はVLドメインをコードしているヌクレオチド配列を含む工程;並びに
d)各発現ベクターが、VHドメインをコードしている遺伝子セグメント及びVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを含み、かつ該VHドメイン及び該VLドメインを含む抗原結合ポリペプチドの発現を指示するように、c)において得られた遺伝子セグメントを発現ベクターへクローニングし、これにより発現ベクターのライブラリーが得られる工程:を含む。
【0158】
前述の方法は、例えばscFV、Fab又は完全長抗体の形での、機能的抗原-結合ポリペプチドとしてのVH/VL組合せの発現に適している、ラクダ科動物-コードされたVH及びVLドメイン(特にリャマ及びアルパカのVH及びVLドメイン)のライブラリーを調製するために使用されることができる。
【0159】
前述の方法に従い調製され、かつラクダ科動物(リャマ又はアルパカを含むが、これらに限定されるものではない)のVH及びVLドメインをコードしている発現ベクターのライブラリーも、本発明の主題の一部を形成している。
【0160】
特定の実施態様において、本発明は、Fab又はscFV分子をコードしているファージベクターのライブラリーを提供し、ここでこのライブラリーにコードされたFab又はscFVの各々は、ラクダ科動物の通常型抗体のVHドメイン及びラクダ科動物の通常型抗体のVLドメインを含む。
【0161】
一実施態様において、本ライブラリーは、ライブラリー中の大部分のクローンが、独自のアミノ酸配列のVHドメイン、及び/又は独自のアミノ酸配列のVLドメインをコードしている「多様な」ライブラリーであり、これはラクダ科動物のVHドメイン及びラクダ科動物のVLドメインの多様なライブラリーを含む。従って多様なライブラリー中のクローンの大部分(例えば>90%)は、VHドメイン及び/又はVLドメインのアミノ酸配列に関して、同じライブラリー内のいずれか他のVH/VL対合とは異なるVH/VL対合をコードしている。
【0162】
本発明は、ラクダ科動物(例えばリャマ又はアルパカ)の単独の選択されたB細胞から単離されたVH及びVL-コードしている遺伝子セグメントを含む発現ベクターも包含している。
【0163】
更なる態様において、本発明は、標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを選択する方法も提供し、この方法は:
i)発現ベクターのライブラリーを提供する工程であり、ここで該ライブラリー中の各ベクターが、VHドメインをコードしている遺伝子セグメント及びVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを含み、ここで該VHドメイン又は該VLドメインの少なくとも1つがラクダ科動物通常型抗体に由来し、かつここで該ライブラリーの各ベクターが該VHドメイン及びVLドメインを含む抗原結合ポリペプチドの発現を指示する、前記工程;
ii)該標的抗原と免疫反応性である該ライブラリーによりコードされた抗原結合ポリペプチドをスクリーニングし、かつこれにより該標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを選択する工程:を含む。
【0164】
本発明のこの方法は、VH/VL対合をコードしているクローンのライブラリーからの、標的抗原と免疫反応性のクローンのスクリーニング/選択を包含している。本方法は、先に説明されたライブラリー構築法を使用し実行されることができる、ライブラリー構築も包含している。任意の下流のプロセッシング/最適化工程は、以下に説明されるように、選択されたクローンに対して実行されることができる。この選択及びスクリーニング方法は、先に説明された本発明の抗原結合ポリペプチドを生成する全般的方法の一部を形成することもできる。従って本発明のこの態様に関連して好ましい又は有利であると説明されたあらゆる特徴は、別に指定されない限りは、その全般的方法に関連しても好ましい又は有利であるとすることもでき、逆もまた同様である。
【0165】
(標的抗原と免疫反応性のクローンのスクリーニング及び選択)
スクリーニング/選択は典型的には、ライブラリーのクローンによりコードされた発現産物(すなわち、抗原結合ポリペプチドの形のVH/VL対合、例えばFab、scFV又は抗体)を、標的抗原と接触すること、並びに所望の抗原結合特性を示しているVH/VL対合をコードしている1つ以上のクローンを選択することが関与している。
【0166】
ファージディスプレイライブラリーは、固定された標的抗原について又は可溶性(しばしばビオチン化された)標的抗原について選択されることができる。Fabフォーマットは、そのモノマー性の外観及びファージ上のその一価のディスプレイに起因した、親和性による選択を可能にするが、これはscFv(凝集及びファージ上の多価ディスプレイの結果として)及びIgG(二価のフォーマット)については可能ではない。3回の選択のうちの2回は典型的には、標的特異的結合物質の十分な濃厚化を得るために必要とされる。
【0167】
親和性による選択は、引き続きの選択ラウンドにおける標的抗原の量を減少することにより実行されることができるのに対し、ビオチン化されない標的による延長された洗浄は、極めて良好な親和性を伴う結合物質の識別を可能にする。
【0168】
この選択手順は、使用者があるエピトープに的を絞ることを可能にするのに対し;固定された標的からファージクローンを溶出する古典的方法は、抗体断片及び/又は標的を変性するpHショックを基礎とし、標的抗原又は可溶性受容体又はサイトカインに対する参照mAbとの競合は、その標的の関連エピトープへの抗体断片の結合を提示しているファージの溶出へつながる(これは当然B細胞選択法を含む、更なる他の提示システムに適用可能である)。
【0169】
選択のアウトプットから得られた個々のクローンは、細胞から又はそれらへ断片が細胞から「漏出される」培養上清から調製されたペリプラズム画分を使用し、抗原-結合ポリペプチド(例えば抗体断片)の小規模製造のために使用されることができる。発現は、誘導性プロモーター(例えばlacプロモーター)により駆動され、これはインデューサー(IPTG)添加時に、該断片の生成が開始されることを意味する。リーダー配列は、該断片のペリプラズムへの輸送を確実にし、そこでこれは適切にフォールディングされ、かつ分子内ジスルフィド橋が形成される。
【0170】
得られた粗タンパク質画分は、ELISAなどの、標的結合アッセイに使用されることができる。結合試験に関して、個々のクローンから調製されたファージは、概して非常に低い結合シグナルを生じる、Fabの低い発現収量を回避するために使用される。これらのタンパク質画分は、拮抗性抗体を同定するためのインビトロ受容体-リガンド結合アッセイを使用し、スクリーニングされることもでき;ELISAベースの受容体-リガンド結合アッセイを使用することができ、同じくAlphascreenなどのハイスループットアッセイも可能である。
【0171】
スクリーニングは、受容体を過剰発現している細胞株の膜画分が固定されている、放射標識されたリガンド結合アッセイにより実行されることができ;後者のアッセイは、わずかにピコモル量の放射性サイトカインが必要であるので、極めて感度がよく、このことは粗タンパク質画分中に存在する微量の拮抗性Fabは、正の測定値を生じることを意味する。あるいはFACSは、蛍光標識されたサイトカインの細胞上に発現されたその受容体への結合を阻害する抗体のスクリーニングに適用されることができるのに対し、FMATは、これのハイスループット変法である。
【0172】
ペリプラズム画分に存在するFab、又はそのヘキサヒスチジンタグへのIMACによるか若しくはプロテインG(FabのCH1ドメインに結合することがわかっている)により部分的に精製されたFabは、細菌夾雑物に対し感度が良くない細胞を用いるバイオアッセイにおいて直接使用されることができ;あるいは、個々の大腸菌細胞由来のFabは、Fab又はIgGの発現のための哺乳類システムにおいて再クローニングされ、引き続きバイオアッセイにおいてスクリーニングされる。
【0173】
陽性発現ベクタークローン、すなわち所望の標的抗原に結合する機能性VH/VL組合せをコードしているクローンの識別後、可変領域のヌクレオチド配列を決定し、それによりコードされたVH及びVLドメインのアミノ酸配列を推定することは慣習的手段である。
【0174】
望ましい場合、Fab(又はscFV)コード領域は、代わりの発現プラットフォーム、例えば細菌発現ベクター(ファージミドベクターと同じであるが、ファージディスプレイに必要なgene3を伴わない)へ再クローニングされることができ、このことはより大量のコードされた断片が生成されかつ精製されることを可能にする。
【0175】
標的結合の親和性は、表面プラズモン共鳴(例えばBiacore)によるか又は他の方法を介して、精製されたFab(又はscFV)について決定されることができ、かつその中和効力は、インビトロ受容体-リガンド結合アッセイ及び細胞ベースのアッセイを用いて試験される。
【0176】
抗原-結合のファミリー、特に拮抗性Fab(又はscFV)は、配列解析(主にVHの、特にVHドメインのCDR3の長さ及びアミノ酸配列)を基に識別されることができる。
【0177】
(効力最適化)
所望の標的抗原に対する親和性を持つVH/VL組合せをコードするものとしてスクリーニング/選択により同定されたクローンは、望ましいならば、親和性及び/又は中和化効力が最適化される下流工程に供されることができる。
【0178】
各VHファミリーの最良の成績(best performing)のメンバーの効力最適化は、軽鎖シャッフリング、重鎖シャッフリング又はそれらの組合せにより達成され、これにより動物における天然の親和性変異型を選択することができる。このことは、同じ免疫化された動物から調製された当初のライブラリーを用い、鎖シャッフリングを行い、これにより同じ免疫化された動物において生じる親和性変異型をスクリーニングすることは可能であるので、当初のラクダ科動物のVH/VLドメインが、能動免疫化されたラクダ科動物から単離されるような実施態様において特に有利である。
【0179】
軽鎖シャッフリングに関して、望ましい抗原結合特性(例えば拮抗性Fab)を伴うVH/VL対合のVH領域(又はVHCH1)をコードしている遺伝子セグメントは、この単独のVH-コードしている遺伝子セグメントを使用して、クローンが当初選択されたライブラリーの軽鎖レパトアと組合せられるライブラリーを構築することができる。例えば、VH-コードしているセグメントが、標的抗原に対する免疫応答を誘起するために能動免疫化されたラクダ科動物から調製されたライブラリー(例えばFabライブラリー)から選択された場合、「鎖シャッフリング」ライブラリーは、このVH-コードしているセグメントを同じ免疫化されたラクダ科動物の軽鎖(VL)レパトアと組合せることにより構築されることができる。次に得られるライブラリーは、標的抗原の選択に供することができ、ストリンジェントな条件(標的の低い濃度、溶液中のビオチン化されない標的による大規模な洗浄)下で、最良の親和性変異型の単離を確実にする。ペリプラズム画分のオフレート(off-rate)スクリーニングも、改善されたクローンの識別を補助することができる。配列解析及び細菌性産生ベクターへの再クローニング後、精製され選択されたFabは、親和性(例えば表面プラズモン共鳴により)及び効力(例えばバイオアッセイにより)について試験されることができる。
【0180】
重鎖シャッフリングは、軽鎖シャッフリング後に選択されたクローンの軽鎖(VL)をコードしている遺伝子セグメントの、同じ動物由来の当初の重鎖ライブラリー(そこから当初のVH/VL-コードしているクローンが選択された)への逆クローニングにより行うことができる。あるいは、CDR3特異性オリゴヌクレオチドプライマーは、VH領域のファミリーの増幅のために使用されることができ、これは拮抗性Fabの軽鎖と組合せたレパトアとしてクローニングされることができる。親和性による選択及びオフレートスクリーニングは次に、そのファミリー内の最良の成績のVHの識別を可能にする。
【0181】
軽鎖シャッフリング工程及び重鎖シャッフリング工程は、実際には、いずれかの順番で実行できること、すなわち軽鎖シャッフリングが最初に、引き続き重鎖シャッフリングが行われるか、又は重鎖シャッフリングが最初に、引き続き軽鎖シャッフリングが行われることができることは理解されるであろう。両方の可能性が、本発明の範囲内に包含されている。
【0182】
改善された親和性及び効力を持つVH/VL対合(例えばFab)の軽鎖又は重鎖から、配列、特にCDRの配列を使用し、個々のFabの変異が組合せられている操作された変異型を作出することができる。変異は、付加的であることが多いことはわかっており、このことはこれらの変異の組合せは、更により増大された親和性に繋がり得ることを意味する。
【0183】
(ヒト治療的用途のための生殖系列化及びフォーマット化)
望ましい抗原-結合特性を示しているVH/VL対合をコードしている選択された発現クローンのVH及びVL-コードしている遺伝子セグメント(例えばscFV又はFabをコードしているファージクローン)は、下流のプロセッシング工程に供され、かつヒト治療的用途に適した抗原結合ポリペプチドフォーマット(例えば完全にヒト定常ドメインを伴う完全長抗体)をコードしているベクターなどの、代替の発現プラットフォームに再クローニングされることができる。
【0184】
有望な「リード」の選択されたクローンは、VHドメイン及び/又はVLドメインをコードしているヌクレオチド配列内に、1つ以上の変化を導入するように操作されることができ、この変化は、VHドメイン及び/又はVLドメインのコードされたアミノ酸配列を変更してもよく、しなくてもよい。VH又はVLドメインの配列のそのような変化は、生殖系列化又はヒト化、コドン最適化、増強された安定性、最適親和性などを含む、本明細書の別所に説明された任意の目的のために操作されることができる。
【0185】
本明細書に説明された生殖系列化又はヒト化の一般的原理は、本発明のこの実施態様において同等に適用される。例として、ラクダ科動物-コードされたVH及びVLドメインを含むリード選択されたクローンは、ライブラリーアプローチを適用することにより、それらのフレームワーク領域(FR)において生殖系列化/ヒト化されることができる。本明細書の別所に詳細に説明されたように、最も近いヒト生殖系列(VH及びVLに関して)並びにCDR1及びCDR2の同一のカノニカルフォールドを伴うその他のヒト生殖系列に対するアラインメントの後、FR中の変更されるべき残基が同定され、かつ好ましいヒト残基が選択される。生殖系列化は、ラクダ科動物-コードされた残基の、最も近いマッチングしているヒト生殖系列由来の同等の残基との交換に関与するが、これは必須ではなく、他のヒト生殖系列由来の残基が使用されることもできる。
【0186】
ヒトVH3ファミリーのメンバーと相同なアミノ酸配列を有するVHドメインの生殖系列化は、多くの残基の交換/置換に関与することが多く、これは公知のラマ・グラマ、ラマ・パコス又はカメールス・ドロメダリウス(Camelus dromedarius)由来の生殖系列配列に既に逸脱している。ラマ・グラマ、ラマ・パコス又はカメールス・ドロメダリウスの、特にラマ・グラマのVH3ドメインの生殖系列化/ヒト化のための許容されたアミノ酸置換は、フレームワーク領域内の位置71、83及び84(カバット番号付けを使用)のいずれかひとつ又はいずれかの組合せでのアミノ酸交換を含むが、これらに限定されるものではない。このような交換は、天然の又は非天然のアミノ酸であることができ、かつ好ましくはヒト-コードされたVH3ドメインの同等の位置に生じることがわかっているアミノ酸である、様々なアミノ酸との、これらの位置でのラクダ科動物-コードされた残基の置換に関連している。例えば、位置71のアラニンはセリン又はアラニンと交換され、位置83のリジンはアルギニンと交換され、かつ位置84のプロリンはアラニンと交換されることができる。従って、本発明の抗原結合ポリペプチドの特定の非限定的実施態様は、ヒトVH3ドメインと配列相同性を示すラクダ科動物(及びより詳細にはリャマ、アルパカ又はヒトコブラクダ)のVHドメインを含む変異型を含み、このVHドメインは、位置71、83及び84(カバット番号付けを使用)の1つ以上又は全てでのアミノ酸置換(ラクダ科動物-コードされた配列に対して)を含む。特に、下記の置換の1つ以上又はいずれかの組合せを伴う変異型が許容される:位置71のAのSへの変化、位置83のKのRへの変化、又は位置84のPのAへの変化。
【0187】
一旦リードVH及びVLドメインのアミノ酸配列(適宜効力最適化後)がわかったならば、VH及びVLの合成遺伝子がデザインされることができ、そこではヒト生殖系列から逸脱している残基が、好ましいヒト残基と交換される(最も近いマッチングしているヒト生殖系列からの、又は他のヒト生殖系列において生じる残基で、又は更にはラクダ科動物野生型残基で)。この段階において、可変ドメインをコードしている遺伝子セグメントは、遺伝子合成時又は好適な提示ベクターにおけるクローニングによるかのいずれかで、Fabのヒト定常領域に融合される発現ベクターに再クローニングされることができる。
【0188】
得られるVH及びVL合成遺伝子は、Fabライブラリーへ組換えられることができるか、又は生殖系列化されたVHは、野生型VLと組換えることができる(及び逆もまた同様、「ハイブリッド」ライブラリーと称される)。親和性による選択は、最良の成績の生殖系列化されたバージョンの単離を可能にし、「ハイブリッド」ライブラリーの場合、この最良の成績の生殖系列化されたVHは、最良の成績の生殖系列化されたVLと組換えられることができる。
【0189】
生殖系列化されたFabに関するアミノ酸及びヌクレオチドの配列情報は、好ましいアイソタイプの完全長ヒトIgGの生成(ADCC及びCDCに関してIgG1、限定されたエフェクター機能に関してIgG2、IgG2については一価の結合が必要とされる場合にIgG4)のための、コドン-最適化された合成遺伝子を作出するために使用されることができる。長期でない適用及び急性適応のために、細菌で又は哺乳類細胞で生成されたヒトFabも更に作製されることができる。
【0190】
特定の非限定的実施態様において、前述の方法の工程を組合せて、本発明は、標的抗原と免疫反応性のキメラ抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターの作製方法を提供し、該方法は:
a)ラクダ科動物(リャマ又はアルパカを含むが、これらに限定されるものではない)を能動免疫化し、これにより標的抗原に対する通常型ラクダ科動物抗体を生じる工程;
b)該免疫化されたラクダ科動物由来のリンパ系組織(例えば循環B細胞)を含有する試料からcDNA又はゲノムDNAを調製する工程;
c)該cDNA又はゲノムDNAの領域を増幅し、増幅された遺伝子セグメントを得、各遺伝子セグメントがラクダ科動物の通常型抗体のVHドメインをコードしているヌクレオチド配列及びVLドメインをコードしているヌクレオチド配列を含む工程;
d)工程c)で得られた遺伝子セグメントを、発現ベクターへクローニングし、その結果各発現ベクターがVHドメインをコードしている遺伝子セグメント及びVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを含み、かつ該VHドメイン及び該VLドメインを含む抗原結合ポリペプチドの発現を指示し、これにより発現ベクターのライブラリーを作製する工程;
e)該標的抗原との免疫反応性について、工程d)で得られたライブラリーによりコードされた抗原結合ポリペプチドをスクリーニングし、これにより該標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを選択する工程;
f)軽鎖シャッフリング工程及び/又は重鎖シャッフリング工程を任意に実行し、該標的抗原と免疫反応性の効力最適化された抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを選択する工程;
g)工程e)若しくは工程f)で選択されたベクターのVHドメインをコードしている遺伝子セグメント及び/又は工程e)若しくは工程f)で選択されたベクターのVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを、生殖系列化及び/又はコドン最適化に任意に供する工程;並びに
h)パートe)又はf)で選択されたベクターのVHドメインをコードしている遺伝子セグメント又は工程g)において作製された生殖系列化及び/若しくはコドン最適化されたVH遺伝子セグメント及びパートe)又はf)で選択されたベクターのVLドメインをコードしている遺伝子セグメント又は工程g)において作製された生殖系列化及び/若しくはコドン最適化されたVL遺伝子セグメントを、ヒト抗体の1個以上の定常ドメインをコードしているヌクレオチド配列と機能的に連結している更なる発現ベクターへクローニングし、これによりヒト抗体の1個以上の定常ドメインに融合されたVH及びVLドメインを含むキメラ抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを作製する工程:を含む。
【0191】
本発明は、前述の方法に従い調製された発現ベクター、及び標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドの作製方法にも拡大され、この方法は:
a)先に説明された方法を使用し、標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを調製する工程;
b)該発現ベクターを、コードされた抗原結合ポリペプチドの発現を可能にする条件下で、宿主細胞又は無細胞発現システムへ導入する工程;並びに
c)発現された抗原結合ポリペプチドを回収する工程:を含む。
【0192】
一実施態様において、後者の方法は、組換え発現による、本発明の抗原-結合ポリペプチドのバルク生産規模での製造、特に医薬活性物質としての使用が意図された治療用抗体のバルク規模製造を包含している。そのような実施態様において、工程a)において調製された発現ベクター及び工程b)において使用される宿主細胞/発現システムは、ヒト患者への投与が意図された組換え抗体の大規模製造に適しているように選択される。この目的に適したベクター及び発現システムの一般的な特徴は、当該技術分野において周知である。
【0193】
本発明は、以下の非限定的な例証的実施例を参照し、更に理解されるであろう。
実施例1から9は、リャマの免疫化から始まる、「サイトカインx」と示された例としての抗原に対する抗体が生じる方法を例示している。同じ一般的プロトコールは、任意のラクダ科動物種における任意の標的抗原に適応されることができ、従って「サイトカインx」の正確なアイデンティティは実質ではない。本方法は、IL-1βに結合するFabの調製についても例証される(前方の実施例15)。
様々な刊行物が、前述の説明において及び以下の実施例を通じて引用されており、その各々は、その全体として引用により本明細書中に組み込まれている。
【実施例】
【0194】
(全般的プロトコール)
(実施例1:リャマの免疫化)
リャマ(ラマ・グラマ)の免疫化及び末梢血リンパ球の収集に加え、引き続きのRNA抽出及び抗体遺伝子断片の増幅を、De Haardとその同僚により説明されたように行った(De Haardらの論文、J. Bact. 187:4531-4541 (2005))。1頭のリャマを、フロイント完全アジュバント又は好適な動物に優しいアジュバントStimune(Cedi Diagnostics BV社、オランダ)を使用し、組換えヒトサイトカインxにより筋肉内へ免疫化した。サイトカインx(操作されたヒト細胞株中において組換えにより発現された)は購入した。免疫化の前に、凍結乾燥されたサイトカインxを、PBS(Dulbecco社)中、濃度250μg/mlに再構成した。リャマは、隔週で6回の注射を受け、最初の2回の注射は、1回の注射につきサイトカイン100μg、最後の4回の注射は1回の追加免疫につき50μgであった。最後の免疫化後4日目に、血液試料(PBL1)150mlを該動物から採取し、かつ血清を調製した。最終免疫化後10日目に、第二の血液試料(PBL2)150mlを採取し、かつ血清を調製した。リャマ免疫グロブリンの遺伝子給源としての末梢血リンパ球(PBL)は、フィコール-パク勾配法(Amersham Biosciences社)を用い、これらの血液試料から単離し、1〜5×108個PBLを収集した。抗体の最大多様性は、試料採取されたBリンパ球の数と等しいと予想され、これはPBL数(1〜5×107)の約10%(9.2〜23.2%(De Genstらの論文、Dev. Comp. Immunol. 30:187-98 (2006))である。リャマ血清中の通常型抗体の画分は、総免疫グロブリンの最大80%であり、これは通常型抗体を産生するBリンパ球の類似の画分に外挿されることができる。従って血液試料150ml中の通常型抗体の最大多様性は、0.8〜4×107の異なる分子と計算される。総RNAは、Chomczynskiらの論文の方法(Anal. Biochem.162:156-159 (1987))に従い、PBLから単離した。
【0195】
(実施例2:パニング又はFACS選別による抗原反応性B細胞の濃厚化(任意))
組換えFabファージディスプレイライブラリーの効果的クローニングを可能にする試料採取されたB細胞レパトアの複雑性を低下するために、抗原反応性B細胞を、蛍光標識された抗原及び特異的にラクダ科動物の通常型抗体を認識するmAb(B細胞マーカーとして)を用いるFACS選別によるか(Weitkampらの論文、J. Immunol. Meth., 275:223-237 (2003))、又は固定された抗原に対するパニング手法により(Lightwoodらの論文、J. Immunol. Meth. 316:133-143 (2006))、濃厚化した。
【0196】
免疫化された動物由来のPBLは、先に説明されたフィコール-パク上での密度勾配遠心分離により単離した。任意に同時精製した赤血球細胞を、溶解緩衝液(8.29g/L NH4Cl、1.09g/L KHCO3及び37mg/L EDTA)20ml中でのPBLペレットの室温での再懸濁、引き続きの200×g、10分間の遠心分離により溶解した。単球のTI50培養フラスコのプラスチック表面への接着による単球の枯渇も任意であった。これを実現するために、細胞を、10%ウシ胎仔血清、Glutamax、25mM Hepes、ペニシリン-ストレプトマイシン(Invitrogen社)及び0.38%クエン酸ナトリウムが補充されたRPMI(Invitrogen社)70ml中に再懸濁し、そのフラスコ内で37℃及び5%CO2下で2時間インキュベーションした。選択されたB(細胞)を含有する上清画分を回収し、かつ細胞をカウントした。
【0197】
標的特異的通常型抗体を提示している(生存している)B細胞のFACSにおけるバルク選別は、ラクダ科動物の通常型抗体を特異的に認識する蛍光標識されたmAb及び更に別の蛍光色素により標識された標的抗原による同時染色により行った。1,000〜100,000個の間の抗原特異的細胞を選別し、Goughと同僚のプロトコールの適用によるか(Goughの論文、Anal. Biochem. 173:93-95 (1988))、又はTRIzolキット(Invitrogen社)の使用による、RNA抽出に使用した。総RNAは、抗体重鎖及び軽鎖の可変遺伝子の増幅のための鋳型としてランダムプライミングされたcDNAへ転換した(実施例3以降を参照されたい)。
【0198】
(実施例3:可変領域遺伝子の増幅及びクローニング)
ランダムプライミングされたcDNAは、RT-PCRのためのSuperscript IIIファーストストランド合成システム(Invitrogen社)を用い、PBL RNA 80μgから調製した。RNAは、反応液20μlの8種の独立した反応において、2.5μMランダムヘキサヌクレオチドプライマー及び500μM dNTP類の存在下で、65℃で5分間熱変性した。引き続き、供給業者の指示に従い、緩衝液及びジチオスレイトールを添加し、更に最終総容積8×40μl中で、640ユニットのRNasOUT(40ユニット/μl、Invitrogen社)、及び3200ユニットのSuperscriptIII逆転写酵素(200ユニット/μl;Invitrogen社)を添加した。50℃で50分間、85℃で5分間、及び1℃で1分間の後、RNAse Hを添加し(〜4ユニット)、かつ37℃で20分間インキュベーションした。プールされたcDNAを、QIAquick PCR精製キットを供給業者の推奨に従い用いて浄化し、PCRに使用した。
【0199】
CH1の3'末端並びにVHの5'及び3'末端へのプライマーアニーリングを、リャマ及びヒトコブラクダの生殖系列配列を基にデザインし、それらの寄託された配列は、De Genstとその同僚の論文からの引用に従い、IMGT及び他のデータベースから検索することができた(De Genstらの論文、Dev. Comp. Immunol., 30:187-198 (2006))。軽鎖増幅のためのオリゴヌクレオチドのデザインに関して、学位論文(I. Legssyer、ブリュッセル自由大学)において公表された再配列されかつ体細胞変異されたヒトコブラクダ配列を使用した。
【0200】
全てのプライマリーPCRは、最大多様性を維持するように鋳型として比較的大量のランダムプライミングされたcDNA(総RNA 6μgに相当する最大2.5μl)に対し、可変領域の5'末端へアニーリングする個別のBACKプライマーを、CH1の3'末端へアニーリングするFORプライマーと組合せて実行した。重鎖由来のアンプリコンは、VHの3'末端にアニーリングし、かつ天然のBstEII部位を含むJHFORプライマー及びVH遺伝子の5'末端にアニーリングされるSfil-タグ付きVHBACKプライマーの組合せにより、再増幅され、かつ引き続きVH断片としてクローニングされることができる。軽鎖V-遺伝子は、定常ドメインの3'末端にアニーリングするCKFOR又はCLFORプライマー及びV-領域の5'末端でプライミングするBACKプライマーのセットによる、PCRにより得た。第一のPCR反応からのアンプリコンは、伸長されたCH1FOR(NotI部位を含む)又はCKFOR及びCLFORプライマー(AscI部位を含む)により再増幅され、引き続きリャマFab断片としてクローニングされる。あるいは、前記DNAセグメントは、制限部位(AscI部位を持つFORプライマー及びXhoI部位を持つFR4ベースのBACKプライマー)によりタグ付けられたプライマーにより再増幅され、かつVL断片としてクローニングされ、その結果ヒトC領域と組合せられたリャマ由来のV領域を含むキメラFab'sを作製する。
【0201】
PCRは、Phusionポリメラーゼ(Finnzymes社)及び各プライマー 500pMを用い、容積50μl反応液中、28サイクルで(96℃で1分間、60℃で1分間、及び72℃で1分間)実行した。全ての生成物は、QIAex-II抽出キット(Qiagen社)により、アガロースゲルから精製した。制限部位を導入する再増幅のための投入物として、精製されたDNA断片100〜200ngを、反応容積100μl中において、鋳型として使用した。大量の投入物は、可変性の維持を確実にするが、これは、アガロースゲル上の「増幅されなかった」PCR混合物4μlの分析によりチェックした。
【0202】
(実施例4:一次及び二次ラクダ科動物Fabレパトアの構築)
一次重鎖レパトア及びふたつの一次軽鎖レパトアの構築のために、制限部位が添えられたPCR産物を、ゲル精製し、その後消化し、かつ様々なVH、VK及びVLファミリーを3群にまとめた。VHCH1断片を、SfiI及びNotIにより消化し、かつVKCK及びVLCL断片を、ApaLI及びAscIにより消化し、かつファージミドベクターpCB3(適用させた複数のクローニングサイトを伴うベクターpCES1に類似)へクローニングした。消化された断片(1〜2μg)は、消化されかつ精製されたpCB3(2〜4μg)へ、T4-DNAリガーゼ(Fermentas社)を用い、室温で数時間、その後37℃で1〜2時間ライゲーションした。軽鎖又は重鎖プールに関する脱塩されたライゲーション混合液を、大腸菌株TG1の電気穿孔に使用し、1本鎖ライブラリーを作製した。
【0203】
あるいは、合計1.5μgのVH断片を、SfiI及びBstEII(VHに存在する)により消化し、反応混合液100〜200μl中でT4-DNAリガーゼ9ユニットにより、室温で、ゲル精製されたベクターpCB4(ベクターpCB3に類似しているが、pIII遺伝子欠失)4μgへライゲーションできる。加えて、これらのVH遺伝子セグメントは、SfiI及びBstEIIを介して、並びにVK/VL遺伝子セグメントは、ApaLI及びXhoIを介して、クローニングすることができ、キメラFd及びVKCK及びVLCLを生じる。
【0204】
Fabライブラリーを、軽鎖レパトアから調製されたプラスミドDNAから消化された軽鎖断片の、重鎖レパトアを含むプラスミドコレクションへのクローニングにより得た。VLライブラリーの少なくとも3×109個細菌(ドナーベクター)から単離されたプラスミドDNAを、ApaLI及びAscIにより消化し、既に重鎖ライブラリーに含まれているアクセプターベクター中でゲル精製されたDNA断片にクローニングし、その結果κ軽鎖を伴う個別のFabライブラリー及び1〜10×109クローンのサイズのλ軽鎖を伴うFabからなる別のライブラリーを作製した。同様に、単鎖ライブラリー由来のVLCL又はVKCKを、ApaLI/AscIを用いアガロースゲルから抽出し、かつ同じ制限部位を用い、VHCHライブラリーベクターへクローニングすることができる。
【0205】
(実施例5:ライブラリーの選択)
出発接種材料中の各クローン由来の少なくとも10種の細菌の存在を確実にするために、ヘルパーファージM13-KO7又はVCSM-13によるファージミド粒子のレスキューを、接種のためのライブラリー由来の細菌の代表的数を用い、2Lスケールで実行した。選択に関して、1013個のコロニー-形成単位が、イムノチューブ(Maxisorpチューブ、Nunc社)又は96ウェルマイクロタイタープレート(Maxisorp、Nunc社)内に固定された抗原と共に、又は可溶性ビオチン化された抗原と共に使用した。固定された抗原の量は、ラウンド1では10μg/mlで出発し、引き続きの選択ラウンドの間に10〜100倍減少された。抗原は、供給業者の推奨に従い、抗原1分子につきNHS-ビオチン(Pierce社)3〜10分子の比でビオチン化し、かつバイオアッセイにおいてそれらの生物活性について試験した。別に言及されない限りは、これらの抗原は、ラウンド1の間10nMの濃度で、引き続きのラウンドの間には10pM〜1nMで、選択のために使用した。
【0206】
(実施例6:拮抗性サイトカインx特異的Fabのスクリーニング)
可溶性Fabは、Marksらの論文に説明されたように個別のクローンから(Marksらの論文、J. Mol. Biol. 222:581-597 (1991))、しかし好ましくは感度を高める(boost)ためにモノクローナルファージとして(Leeらの論文、Blood、108:3103-3111 (2006))作製した。可溶性Fab又はFabディスプレイファージを含有する培養上清を、直接コーティングされた抗原によるELISAにおいて試験するか、又は固定されたストレプトアビジンを介して捕獲した。組換えヒトサイトカインx及びストレプトアビジンは、0.1M NaHCO3(pH9.6)中10μg/mlで、4℃で16時間コーティングした。PBS、0.1%(v/v)Tween 20で3回洗浄した後、ビオチン化された抗原を、濃度0.5μg/mlで、30〜60分にわたり室温で添加した。これらのプレートを、PBS中の2%(w/v)半-脱脂粉乳(Marvel)又は1%カゼイン溶液(PBS中)により、室温で30分間かけてブロックした。この培養上清を、2%(w/v)Marvel/PBS中で1倍又は5倍希釈し、かつ2時間インキュベーションし;結合したFabを、重Fd鎖のカルボキシル端でmyc-ペプチドタグを認識する抗-myc抗体9E10(5μg/ml)、及びウサギ抗-マウス-HRP複合体(Dako社)により検出した。最後のインキュベーション後、基質としてテトラメチルベンジジン及びH2O2により染色を行い、0.5容量の1M H2SO4の添加により停止し;光学密度を、450nmで測定した。ELISAにおいて陽性シグナル(バックグラウンドの2倍を上回る)を生じるクローンを、オリゴヌクレオチドプライマーM13-リバース及びgeneIII-フォワード(4)による増幅により得られたPCR産物の、又は個別のFd及びVKCK又はVLCLアンプリコンの、BstNI又はHinfIフィンガープリントにより解析した。
【0207】
サイトカインxのその受容体への結合を妨害するFabの能力のスクリーニングは、好適な受容体-リガンド結合ELISAにおいて実行した。これに関して、少量のビオチン化されたサイトカインxを、サイトカインx-受容体でコーティングされたプレート上で、培養上清中のFabと共にインキュベーションし、かつ引き続き結合されたサイトカインxを、ストレプトアビジン-HRP複合体により検出した。陽性のヒットを配列決定し、かつFabを、インビトロ受容体-リガンドアッセイにおいてそれらの効力(IC50)を決定するため、及び固定されたサイトカインxに対するBIAcoreにおけるそれらの親和性を評価するために、精製した。
【0208】
個別のクローンからの可溶性Fab断片の大規模誘導は、100μg/mlカルベニシリン及び2%グルコースを含有する2×TY中で、50ml又は250mlの規模で行った。OD600が0.9となるまで37℃で増殖した後、これらの細胞を、ペレットとし(2,934×gで10分間)、かつカルベニシリン及び1mMイソプロピル-1-チオ-D-ガラクトピラノシド(IPTG)を含有する2×TY中に再懸濁した。代わりのDe Bellis手法(De Bellis及びSchwartzの論文、NAR, 18(5):1311 (1990))は、2%グルコースの代わりに0.2%を用いて進められ、その結果対数期後期の細胞の培地へのIPTGの直接添加が可能である。30℃で3.5時間増殖した後、遠心分離(前述のように)により、細菌を収集し;細胞ペレットを1mlの氷冷したPBS中に再懸濁することにより、ペリプラズム画分を調製した。4℃で2〜16時間上下(head-over-head)回転した後、2回の遠心分離工程により、スフェロプラストを除去し;3,400×gで10分間遠心した後、その上清を、エッペンドルフ遠心機において13,000×gで10分間の追加の遠心分離工程により透明化した。得られたペリプラズム画分を、様々な分画アッセイ(標的結合ELISA、インビトロ受容体-リガンド結合アッセイ及びBiacore)において直接使用した。
【0209】
配列決定のために、プラスミドDNAを、Qiagenミニキット(Qiagen社)を使用するか、又はFab挿入断片の境界でアニーリングするベクタープライマーM13-リバース及びgeneIII-フォワードによるアンプリコン上で、100μg/mlカルベニシリン及び2%グルコースを含有するLB培地内で、30℃で増殖された5ml培養物から調製した。
【0210】
(実施例7:リードFabの大規模生成及び精製)
3〜6種の異なるリード由来のFab挿入断片を、Fdのカルボキシ端に融合されたヘキサヒスチジン及びC-MYCタグを含むが、バクテリオファージM13gene3を欠いている、pCB3と同一の発現ベクター(pCB5とコード)において、ApaLI-NotIにより再クローニングした。平行して、それらのV領域を、制限酵素の好適な組合せにより再クローニングし、引き続きキメラFabの発現のためにヒトCH1及びCK又はCLを含むgene3欠失ベクターにおいてクローニングした。フィンガープリント解析後、再クローニング後に得た個別のクローンを、50ml又は250mlスケールで増殖し、かつペリプラズム画分を先に説明したように調製した。Fab断片を、IMAC精製し、かつ正確に形成されたFabは、Superdex 75HRカラム(Amersham Pharmacia Biotech社)を使用するサイズ排除クロマトグラフィーにより更に精製した。細胞ベースのアッセイに応じて、エンドトキシンを、1M NaOH中で一晩増感し、引き続きD-PBS中で平衡化した陰イオン交換カラム(Source30Q、GE Healthcare社)上の通過により除去した。この収量は、Fabに関してモル吸光計数13を使用し、280nmで光学密度を測定することにより決定した。
【0211】
精製されたFabを、インビトロ受容体-リガンド結合アッセイ及びBiacoreにおいて試験し、gene3を含むpCB3ベクターにより作製されたFab断片について成された知見を確認した。最後に、このFabの効力を、バイオアッセイにおいて決定した。
【0212】
(実施例8)
本実施例において、サイトカインxに対するリャマ由来のリードFabを、フレームワーク残基の小さいセットを標的化するソフトランダム化手順を用い、かつ親和性ベースの選択により高親和性フレームワーク配列を同定するための、線維状ファージの表面に得られたFabライブラリーの一価ディスプレイ(US2003/0190317 A1、引用により本明細書中に組み込まれている)により、ヒト化した。例えばヒトコブラクダ由来の生殖系列VH(IGHV1S20)に関して、野生型残基の70%を維持している、位置5(Val、Leu)、55(Gly、Ala)、83(Ala、Ser)、95(Lys、Arg)、96(Ser、Ala)及び101(Met、Val)の小さいライブラリーが作製された(IMGT番号付け)。超可変ループ中のアミノ酸は、同様の方法で位置づけすることができる。
【0213】
PCRエラーを補正するため又は追加の特異的単独コドン変化を導入するための部位特異的変異誘発を、本質的にKunkelらの論文(Curr. Protoc. Mol. Biol. CH8U8.1 (2001))に説明されたように実行するか、あるいはこれらの変異型をコードしている合成遺伝子をGeneArtに注文した。部位特異的実験のための鋳型は、ヒト化Fabクローン由来の1本鎖DNAであった。
【0214】
部位特異的変異誘発は、野生型Fab又はヒト化FabをコードしているDNAにおけるヒト化又は修飾の目的で、限定された数のアミノ酸コドンを直接変化させるためにも使用した。
個々のリードは、選択された後、親和性及び効力について試験し、かつヒトFab/IgGへの再フォーマットのための最良のリードを選択した。
【0215】
(実施例9:ヒトFab断片及びヒトモノクローナル抗体の発現)
ヒト化VH及びVL領域から出発する、ヒト化Fabの発現を、Rauchenbergerらの論文(J. Biol. Chem. 278:38194-204 (2003))に説明されたように行った。ヒトモノクローナル抗体の発現のために、ひとつは軽鎖及びひとつは重鎖の構築のための2つの個別の発現ベクターを、pcDNA3.1ベクターを基に構築した。軽鎖のための発現ベクターは、CMVプロモーターの下流にヒトCκ又はヒトCλ配列のいずれか、更にはCMVプロモーターの下流及び軽鎖定常ドメインとインフレームのKPN1 BsmB1断片のような、軽鎖構築体のクローニングを可能にする制限部位を含んだ。次に重鎖のための発現ベクターは、CMVプロモーターの下流にヒトCH1-ヒンジ-CH2-CH3配列、更にはCMVプロモーターの下流及び重鎖定常ドメインとインフレームのKPN1 BsmB1断片のような、VH構築体のクローニングを可能にする制限部位を含んだ。
【0216】
これらのVL及びVH断片は、コザック配列、それに続き各VL又はVH配列とインフレームでマウスIgGκリーダー配列を含む、KPN1 BsmB1断片のような好適な発現ベクターにクローニングした。これらの配列は、遺伝子合成により得られ、かつ哺乳類細胞における発現のために最適化された(Geneart社)。
【0217】
完全長IgG生成に関して、VH及びVL発現ベクター構築体を、哺乳類細胞(HEK-293(一過性)又はCHO(安定))へ同時トランスフェクションした。一過性にトランスフェクションされた細胞又は安定してトランスフェクションされた細胞由来の上清は、プロテインAクロマトグラフィーにより精製した。
モノクローナル抗体又はFabは、受容体結合アッセイ及びバイオアッセイにおいて試験し、かつ最良のリードを更なる開発のために選択した。
【0218】
(実施例10:ラクダ科動物対ヒトの相同性解析)
(方法論)
FR4をコードしている生殖系列リャマ及びヒトコブラクダのJ領域の配列を、ヒト配列と比較し、かつこれらは完全に同一であり(10残基中10がマッチ);唯一の例外は、FR4の位置6にグルタミン(ロイシン又はメチオニンの代わり)を含むIGHJ4であった(アラインメントは以下に示される)。体細胞変異されたVλに関して、ヒトコブラクダ由来のFR4の10残基中9は、マッチしており(相同性90%)、その理由は入手可能な配列のほとんどは、位置6にリジン又はグルタミン酸又はグルタミンの代わりにヒスチジンを有するからである(アラインメントは以下に示される)。最後に、6種の入手可能な体細胞変異されたヒトコブラクダVκ配列のセットのFR4中に再度90%同一性(10残基中9)が存在し、その理由は位置3の残基セリンは、ヒト生殖系列JKセグメントにおいて認められるものとは異なる、すなわちグルタミン、プロリン及びグリシンであるからである(アラインメントは以下に示される)。
【0219】
VH、Vλ及びVκに関する解析は、アラインメントにより支援される(下記参照)。配列アラインメントは、同一のH1及びH2カノニカルフォールドを有する最も近いヒト生殖系列配列と行った。
揃わないが、同じ生殖系列の別のファミリーメンバー(又はサブクラス)に見られる残基は、それらを該最も近いヒト生殖系列配列に復帰変異することが実行可能であるという仮定を基に、相同であるとみなされる。
【0220】
カノニカル構造は、下記のプログラムを用いて比較される:
http://www.bioinf.org.uk/abs/chothia/html、及びhttp://www.bioc.unizh.ch/ antibody/Sequences/Germlines/VBase_hVK.html。カノニカルフォールドアルゴリズムと厳密にはフィットしない解析されたラクダ科動物の抗体(又は他の種由来の)残基は、カノニカルフォールドの同じ組合せとマッチしているヒト生殖系列ファミリーのメンバーの配列中のそれらの出現についてチェックされるか、又は言及されたフォールドが可能である残基は、解析される抗体が属するラクダ科動物の抗体ファミリー内のそれらの出現についてチェックされる。
【0221】
結果は、下記節において示される:
10.1−ヒトコブラクダVH
10.2−ラマ・グラマVH
10.3−VL1-40
10.4−VL2-18
10.5−VL3-1
10.6−VL3-12
10.7−Vκ2-40
10.8−リャマとヒトのJ(H)領域比較
10.9−軽鎖J領域の比較
10.10−ラマ・パコスVH生殖系列相同性
10.11−ラマ・グラマ由来のVH相同性解析
10.12−ラマ・グラマ由来のVL解析
【0222】
【表1】


















【0223】
(実施例11:H1及びH2のカノニカルフォールドに関する重要残基の解析並びにヒト生殖系列とのH1及びH2残基の比較)
抗体の構造解析は、配列と相補性決定領域により形成された結合部位の形状の間の関係を明らかにした(Chothia及びLeskの論文、J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987);Tramontanoらの論文、J. Mol. Biol. 215:175-82 (1990))。それらの高度な配列可変性にもかかわらず、6つのループ中の5つは、「カノニカル構造」と称される、主鎖コンホメーションの小さいレパトアのみを採用する。これらのコンホメーションは、まず第一にループの長さにより決定され、かつ第二にそれらのパッキング、水素結合又は一般的でない主鎖コンホメーションを推定する能力を通じたコンホメーションを決定するループ内及びフレームワーク領域内のある位置での重要残基の存在により全て決定される。
【0224】
本発明者らは、生殖系列ヒトコブラクダ及びリャマのVHセグメントについてH1及びH2の予測されたカノニカル構造を、これらのループの長さ及び先に言及した重要残基の存在を基に解析した。この比較は、カノニカルフォールドの同一の組合せの存在と全般的配列相同性に関して、最も近いマッチングのヒト生殖系列において生じるような重要残基により行い(表1);加えて、Moreaとその同僚により提唱されたような対応するカノニカルフォールドと同等のアミノ酸が示された(Moreaらの論文、Methods, 20:267-279 (2000))。H1に関するカノニカルフォールド1(表1においてH1:1としてコードされた)及びH2に関するフォールド1(H2:1)を有するヒトコブラクダ生殖系列VHファミリーIGHV1S(1-19)、並びにH1に関するフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド3(H2:3)を伴うファミリーIGHV1S(20、22、23、24)、並びにH1に関するフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド2 (H2:2)を伴うファミリーIGHV1S(21、25-39)、並びにH1に関するフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド2(H2:2)を伴うリャマ生殖系列IGHV1S8について、H1のカノニカルフォールドに関する重要残基24、26、27、29、34及び94が、同じカノニカルフォールド組合せを伴う類似のヒト生殖系列ファミリー由来のもの(表1上側部分)と一緒に示されている。同じくH1に関するフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド1(H2:1)を伴うヒトコブラクダ生殖系列VHファミリーIGHV1S(1-19)、並びにH1に関するフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド3(H2:3)を伴うファミリーIGHV1S(20、22、23、24)、並びにH1に関するフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド2(H2:2)を伴うファミリーIGHV1S(21,25-39)、並びにH1に関するフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド2(H2:1)を伴うリャマ生殖系列IGHV1S8について、残基71と組合せた重要残基52a又は54又は55は、同じカノニカルフォールド組合せを伴う類似のヒト生殖系列ファミリー由来のもの(表1下側部分)と一緒に示されている。
【0225】
ラクダ科動物VHセグメントに認められる重要残基は、対応するヒトVHセグメントにおいて認められるものと同一であるので、この解析は、これらのカノニカルループの「ヒト性質」を明確に実証している。例えば、ヒトコブラクダのコードされたIGHV1S(1-19)由来の19の生殖系列VHセグメントは全て、これらのヒトコブラクダ生殖系列配列同様、H1に関してカノニカルフォールド1型及びH2に関してフォールド1型を有するヒト生殖系列ファミリー3メンバーにおいて優先的に生じるように、位置19にアラニン、26にグリシン、27及び29にフェニルアラニン、並びに34にメチオニンを有する。位置94は、(合計39の生殖系列VHセグメントの中の)ひとつの生殖系列ヒトコブラクダにおいてのみコードされ、このことは適切な解析は不可能であることを意味する。Nguyenとその同僚(Nguyenらの論文、EMBO J. 19:921-930 (2000))は、ヒトコブラクダ生殖系列VH及びVHHセグメントは、「保存された八量体(すなわち組換えシグナル)からFR3のシステイン残基92まで広がる」(引用の最後)のに対し、このヒトセグメントは、2つの追加の残基(93及び94)をコードしていることを注記した。しかし本発明者らは、リャマ由来の通常型抗体に由来したわずか6個の既知の体細胞変異されたVHセグメントの解析時に、この残基を考察する。
【0226】
ヒト類似体はトレオニンを使用するが、その位置にセリンを有する、ループH2に関するカノニカルフォールド2型のためのリャマ生殖系列IGHV1S6の残基52aに加えて、Moreaとその同僚により提唱された(Moreaらの論文、Methods, 20:267-279 (2000))ヒト生殖系列セグメントとの完全なマッチ及びそれらの重要残基に関して、事実上例外は存在しない。これは、体細胞変異された通常型抗体に由来した6種の公開されたリャマVHの4種において(Vuらの論文、Mol. Immunol. 34:1121-31 (1997))、トレオニンが位置52aに見られることを認めることを促している。セリン及びトレオニンは両方とも極性ヒドロキシル基及び小型側鎖を有するので、これらは密接に関連していることに注意することは価値があり、このことはヒト化の間に両残基を交換することは可能であり得ることを示唆している。
【0227】
ループH2に関してカノニカルフォールド1型を伴う19のヒトコブラクダ生殖系列VHセグメントの中の1つ、及びH2に関してカノニカルフォールド2型を伴う16のヒトコブラクダ生殖系列VH中の4つに生じる位置71のグルタミンは、むしろ異例であるように見える。このH2ループは、位置71の残基に対しパックし、かつこのフレームワークに対するループの位置は、この位置の残基のサイズにより主に決定される。カノニカル構造2及び3は、6個の残基を伴うH2ループにおいて認められる。構造2は、残基52a及び71が、小型又は中型のサイズの疎水性残基である場合に生じるのに対し、カノニカルフォールド3は、残基71がアルギニン又はリジンである場合に生じる。位置71にグルタミンを伴うヒトコブラクダ生殖系列セグメントは、体細胞変異された通常型抗体においてどのくらいの頻度で使用されるかは予測できないが、抗体のこの残基のヒト化は、慎重に試験される必要があるこの特定の残基につながる。H2に関してカノニカルフォールド2を伴うヒトコブラクダIGHV1S(20、22、23、24)ファミリーメンバーにおける位置71のアルギニン及びグルタミンの存在は、むしろ予測できず、しかし他方でH2に関してカノニカルフォールド2を伴うヒト生殖系列VH1ファミリーメンバーVH1-9、VH1-10及びVH1-11は、アルギニンを有するのに加え、H2に関してフォールド2を伴うVH5メンバー5-1は、この位置にグルタミンを保持する。
【0228】
Chothiaとその同僚が、ヒトVHセグメントの構造レパトアを考察した際に行ったように(Chothiaらの論文、J. Mol. Biol. 227:799-817 (1992))、本発明者らは、前述の重要残基と共にヒトコブラクダ及びラマVHセグメントのH1及びH2ループの個別のアミノ酸残基を試験し、かつこれらを同じカノニカルフォールド組合せを有するヒト対応物と比較した(表2)。H1に関するカノニカルフォールド1及びH2に関するフォールド1を伴うヒトコブラクダ生殖系列VHファミリーIGHV1S(1-19)、並びにH1に関するフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド3(H2:3)を伴うファミリーIGHV1S(20、22、23、24)、並びにH1に関するフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド2(H2:2)を伴うファミリーIGHV1S(21、25-39)、並びにH1に関するフォールド1及びH2に関するフォールド2を伴うラマ生殖系列IGHV1S8について、H1残基26から33が、H1の外側に配置された重要残基24及び94と一緒に示されている(表2A)。加えて、H1に関するカノニカルフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド1(H2:1)を伴うヒトコブラクダ生殖系列VHファミリーIGHV1S(1-19)、並びにH1に関するフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド3(H2:3)を伴うファミリーIGHV1S(20、22、23、24)、並びにH1に関するフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド2(H2:2)を伴うファミリーIGHV1S(21、25-39)、並びにH1に関するフォールド1(H1:1)及びH2に関するフォールド2(H2:2)を伴うリャマ生殖系列IGHV1S8について、H2残基52から56は、H2の外側に配置されている重要残基71と共に解析した(表2B)。
【0229】
関連のあるヒト配列とほとんど差異がないその可変ループにおいて、特にH1において非常に高度の配列相同性が見られることは驚きである。例えば、カノニカルフォールド組合せH1:1/H2:1を伴う生殖系列ヒトコブラクダファミリーIGHV1S(1-19)は、優先的に位置24にアラニン、26にグリシン、27にフェニルアラニン、28にトレオニン、29にフェニルアラニン、30及び31にセリン、33にチロシン、34にメチオニン並びに35にセリンを含み、これはH1及びH2カノニカルフォールドの同じ組合せを共有しているヒト生殖系列ファミリー3メンバーと完全にマッチしている。例外は、唯一の公知のリャマ生殖系列VHセグメントの残基27(フェニルアラニン)及び32(セリン)であるが、また一方で公知の6種の体細胞変異されたリャマVH中の4種においてでもある(Vuらの論文、Mol. Immunol. 34:1121-1131 (1997))。類似のヒト生殖系列において認められるように、チロシンは32に存在する。同じ高度な配列相同性が、ファミリーIGHV1S(1-19)の残基54の例外を伴う、ヒトコブラクダ生殖系列VHセグメントのH2ループに認められる。特にヒトコブラクダファミリーIGHV1S(21、25-39)は、H2ループの多くの位置(すなわち53、54、56及び58)で逸脱している。同じフォールドを伴うリャマ生殖系列VHセグメントのH2ループは、はるかに良好にスコア化されるが、加えて位置50、52、52a、54、55及び58に多くの逸脱している残基を含み、しかしこの解釈はかなり難しく、その理由はこの解析は既知の生殖系列セグメントのみで実行されたからである。リャマに由来した体細胞変異されたVHの解析は、これらの位置上にある種の残基が生じることを示し、これは対応するヒト生殖系列配列においても出現するが、頻繁ではない(f.i. 50のグリシン、52及び58のアスパラギン、52aのトレオニン並びに55のグリシン)。
【0230】
本発明者らは、リャマ由来の6種の公知の体細胞変異されたVH配列のパネルも解析した(Vuらの論文、Mol. Immunol. 34:1121-31 (1997))。以下にヒトVH3メンバー3-23とのアラインメントが示され、これは非常に高度な配列相同性を示し:全体でわずかに3つの逸脱残基が認められ、そのうちの1つは増幅に使用されたプライマーによりコードされ、残りの2つは同じクラスのヒト生殖系列において生じる。CDRは非常に高度の配列相同性を有することを示すとしても:CDR1は恐らく同一であり、CDR2の3つの残基のみが異なるであろう。カノニカルフォールド解析は、2つのVHは、唯一の入手可能なリャマ由来の生殖系列VHについて観察されたように、H1に関するフォールド1及びH2に関するフォールド2を有するが、残りの4つは、3-23及びヒトファミリーVH3生殖系列セグメントの大半において生じるように、H1に関してフォールド1及びH2に関してフォールド3を有することを明らかにしている。このことは、これらは、公知の生殖系列VHセグメントではなく、他のものに由来することを示唆しているであろう。カノニカルフォールドを支援している重要残基の検討は、表1に列挙されたリャマ生殖系列VHセグメントについて既に観察されたように、同じカノニカルフォールドの組合せを伴うヒト生殖系列において生じるものとの完全なマッチをもたらす。これらの体細胞変異された配列における重要残基94は、リジン(5種中2種)、セリン(5種中1種)及びアルギニン(5種中1種)であることを認めることは非常に興味深く、これらは全て、同じフォールド組合せを伴うヒト生殖系列において認められるか又はMoreaとその同僚により提唱された(Moreaらの論文、Methods 20:267-279 (2000))。
【0231】
【表2】

【0232】
(実施例12−L1(λ)及びL2(λ)のカノニカルフォールドに関する重要残基の解析並びにヒト生殖系列のL1(λ)及びL2(λ)残基との比較)
同じく予測されたL1及びL2のカノニカル構造を、ループの長さ及びカノニカルフォールドに関連した重要残基の存在をベースにして、体細胞変異されたヒトコブラクダVλセグメントについて解析した。この比較は、カノニカルフォールドの同じ組合せ及び全体の配列の相同性を持つ、最も近いマッチングのヒト生殖系列に生じる重要残基で行った(表3)。L1に関してフォールド11(L1:11)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVLファミリーVL3-1(Camvl8、18、19、20及び23)、並びにL1に関してフォールド11(L1:11)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVLファミリーVL3-12/32(Camvl11)、並びにL1に関してフォールド14(L1:14)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVL1-40(Camvl44)、並びにL1に関してフォールド14(L1:14)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVL2-18(Camvl5、17、30-33、36、52、57、59、60及び65)について、L1のカノニカルフォールドに関連した重要残基2、25、29、30、33及び71が、同じカノニカルフォールドの組合せを伴う類似のヒト生殖系列ファミリー由来のものと一緒に示されている(表3上側部分)。L1に関してフォールド11(L1:11)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVLファミリーVL3-1(Camvl8、18、19、20及び23)、並びにL1に関してフォールド11(L1:11)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVLファミリーVL3-12/32(Camvl11)、並びにL1に関してフォールド14(L1:14)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVL1-40(Camvl44)、並びにL1に関してフォールド14(L1:14)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVL2-18(Camvl5、17、30-33、36、52、57、59、60及び65)について、L2のカノニカルフォールドに大切な重要残基48及び64が、同じカノニカルフォールドの組合せを有する類似のヒト生殖系列ファミリー由来の重要残基と一緒に示されている(表3下側部分)。
【0233】
ここでラクダ科動物Vλセグメントの重要残基も、対応するヒトVλセグメントのものと同一であるので、VHに関して認められたように、本解析は、カノニカルループL1及びL2の両方の「ヒト性質」を明らかにしている。例えば、ヒトコブラクダVL3-12/32、VL1-40及びVL2-18において、L1の重要残基は全て対応するヒト生殖系列において生じるものと同一であり、かつヒトコブラクダVL3-1、VL3-12/32及びVL2-18において、L2の重要残基は、対応するヒト生殖系列VLセグメントと完全にマッチする。基本的にただ2つの例外が存在する。まず第一に、VL1-40のL2重要残基64はグルタミン酸であり、これはVL1-40と同じカノニカルフォールドL1/L2組合せを伴うヒト生殖系列Vλ1に存在するグリシンとはむしろ異なる。VL1-40は、孤立したもの(orphan)(すなわちCamvl44)からのみなるので、一般的結論を描くことは困難である。第二の例外は、VL3-1であり、ここではフェニルアラニンが、位置30に最も優先して生じるL1重要残基であるのに対し、VL3-1とL1に関するフォールド11及びL2に関するフォールド7を共有するヒトVλファミリー3メンバーにおいては、ロイシンが頻繁に認められる。しかし、ロイシンは、5種のVL3-1メンバー中1種においても存在する。
【0234】
本発明者らは、重要残基と共に体細胞変異されたヒトコブラクダVλセグメントのL1及びL2ループの個々のアミノ酸残基を解析し、同じカノニカルフォールド組合せを共有するヒト対応物と比較した(表4)。L1に関してフォールド11(L1:11)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVLファミリーVL3-1(Camvl8、18、19、20及び23)、並びにL1に関してフォールド11(L1:11)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVLファミリーVL3-12/32(Camvl11)について、L1残基27から33は、L1の外側の重要残基71と一緒に、L1及びL2に関して同じフォールドの組合せを伴う対応するヒト生殖系列Vλに存在する同じ残基と比較されている(表4A上側部分)。ヒトコブラクダについて、L1に関してフォールド14(L1:14)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVL1-40(Camvl44)、並びにL1に関してフォールド14(L1:14)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVL2-18(Camvl5、17、30-33、36、52、57、59、60及び65)について、L1残基26から33は、L1の外側の重要残基2及び71と一緒に、L1及びL2に関して同じフォールドの組合せを伴う対応するヒト生殖系列Vλファミリーに存在する同じ残基と比較されている(表A下側部分)。加えて、L1に関してフォールド11(L1:11)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVLファミリーVL3-1(Camvl8、18、19、20及び23)、並びにL1に関してフォールド11(L1:11)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVLファミリーVL3-12/32(Camvl11)、並びにL1に関してフォールド14(L1:14)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVL1-40(Camvl44)、並びにL1に関してフォールド14(L1:14)及びL2に関してフォールド7(L2:7)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVL2-18(Camvl5、17、30-33、36、52、57、59、60及び65)について、L2残基49から53は、L2の外側の重要残基48及び64と一緒に、L1及びL2に関して同じカノニカルフォールドの組合せを伴う対応するヒト生殖系列Vλファミリーに存在する同じ残基と比較されている(表4B)。L1、L2及び重要残基の間で、ヒト生殖系列配列と、高度な配列相同性が存在し、かつごくわずかな例外が存在し、これらは主に、VL3-12/32及びVL1-40ファミリーの孤立したメンバーにおいて認めることができる。VL3-12/32のL1に関して、残基27、28、30、30a及び30bは、対応するヒト生殖系列Vλファミリー3から逸脱しているのに対し、VL1-40の同じループの残基30b、31及び32は、マッチングするヒト生殖系列Vλファミリー1とは異なる。VL3-12/32の孤立したメンバーにおいて、L2の残基50は、ヒト類似体とは異なるのに対し、VL1-40の唯一のメンバーに関して、重要残基64が、ヒト類似体とは異なる。基本的差異は、L1に関して、ヒトコブラクダファミリーVL2-18の残基 28に認めることができる(アスパラギン又はグルタミン酸、対、類似のヒトVλファミリー2中のセリン)。
【0235】
(実施例13−L1(κ)及びL2(κ)のカノニカルフォールドに関する重要残基の解析並びにヒト生殖系列のL1(κ)及びL2(κ)残基との比較)
予測されたL1(κ)及びL2(κ)のカノニカル構造を、ループの長さ及び重要残基の存在をベースにして、体細胞変異されたヒトコブラクダVκセグメントについて解析した。前述のように、この比較は、カノニカルフォールドの同じ組合せ及び全体の配列の相同性を持つ、最も近いマッチングのヒト生殖系列に生じる重要残基で行った(表5)。L1に関してフォールド3(L1:3)及びL2に関してフォールド1(L2:1)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVKファミリーVK2-40(Kp1、3、6、7、10、20及び48)について、L1のカノニカルフォールドに関連した重要残基2、25、29、30e、33及び71が、同じカノニカルフォールドの組合せを伴う類似のヒトVκ生殖系列ファミリー2由来のものと一緒に示されている。加えて、Moreaらにより提唱されたような対応するカノニカルフォールドと同等な重要残基は、一番下の列に印されている。重要残基2、25、33及び71に関して完全なマッチが、並びに残基29に関してある程度のマッチが存在する。ヒトコブラクダVκの残基30eは、グリシンの代わりにグルタミンであるが、Moreaとその同僚は、この残基はL1に関するフォールド3と完全に同等であることを示唆している(Moreaらの論文、Methods, 20:267-279 (2000))。
【0236】
L1に関してフォールド3(L1:3)及びL2に関してフォールド1(L2:1)を伴う同じ体細胞変異されたヒトコブラクダVKファミリーVK2-40(Kp1、3、6、7、10、20及び48)について、L1のカノニカルフォールドを決定している重要残基48及び64は、類似のヒトVκ生殖系列ファミリー2由来のものと一緒に示されている。ここでもこのマッチは再度完全である。
【0237】
重要残基と共に体細胞変異されたヒトコブラクダVκセグメントのL1及びL2ループの個々のアミノ酸残基を、同じカノニカルフォールド組合せを共有するヒト対応物(VKファミリー2)において生じるものと比較した(表6)。L1に関してフォールド3(L1:3)及びL2に関してフォールド1(L2:1)を伴う体細胞変異されたヒトコブラクダVKファミリーVK2-40(Kp1、3、6、7、10、20及び48)について、L1及びL2残基は、同一のカノニカルループ組合せを有する生殖系列VKファミリー2において認められるものと比較した。これらの残基の大半は、位置2のイソロイシン、25、26、28及び30bのセリン、27のグルタミン、32のチロシン、33のロイシン、並びに71のフェニルアラニンのように、ヒトコブラクダ体細胞変異されたVKとヒト生殖系列の間で共有されている。しかし、ヒト類似体とは、わずかに異なり、すなわち、29のバリン(しかしヒト生殖系列のロイシンはヒトコブラクダVKにおいても生じる)、30のフェニルアラニン(再度ヒト残基ロイシンは同じくヒトコブラクダVKにおいても認められる)、30aのセリン(ヒト残基グルタミン酸はヒトコブラクダVKにおいて頻繁ではないが生じる)、30cのセリン、30dのアスパラギン、30eのグルタミン、30fのリジン、及び最後に31のセリンである。
【0238】
これらの重要残基と一緒に、体細胞変異されたヒトコブラクダVκセグメントのL2ループの残基を、同じカノニカルフォールド組合せを共有するヒト対応物(VKファミリー2)に生じるものと比較した(表6)。ここで再度、48のイソロイシン、49のチロシン、52のセリン、及び64のグリシンの残基から、完全なマッチが認められたのに対し、位置50(ヒトVKファミリー2由来のトレオニンの代わりにチロシン)、及び51(ロイシンの代わりに51のアラニン)において逸脱が認められた。
【0239】
全般的結論:
このラクダ科動物のVH及びVL配列の解析は、カノニカルフォールドを規定するヒトの重要残基と、更には超可変ループにおいて認められた残基それら自身と同一でない場合の、非常に高度の相同性を実証している。このことは、圧倒的多数のラクダ科動物の免疫グロブリン配列は、個々の超可変ループについてのみならず、更にはヒトVH及びVLにおいて認められるカノニカルフォールドの組合せについても、ヒト生殖系列において認められるようなカノニカルフォールドを採用することを示唆している。
【0240】
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【0241】
(実施例14−リャマ由来の体細胞変異されたVH、VK及びVLの配列解析)
先に説明されたように、4頭のリャマ末梢血から、リンパ球を単離し、RNAを抽出し、かつランダムプライミングしたcDNAを合成した(de Haardらの論文、JBC 1999)。VHCH1、VLCL及びVKCKの増幅を行い、これらのアンプリコンを、ベクターpCB3においてクローニングし、重鎖又は軽鎖のライブラリーを得た。抗体ドメイン挿入断片の存在をチェックするためのクローンのPCRによるスクリーニングを行った後、個々のクローンを増殖し、かつプラスミドDNAを配列解析のために精製した。
【0242】
14.A節は、同じCDR1及びCDR2長並びに恐らく同じカノニカルフォールド組合せを有する最も近いヒト生殖系列類似体に従いファミリーに群別されたλ軽鎖可変領域を示している。ヒトにおいて最も頻繁に使用されるλ生殖系列、すなわちVL1、VL2及びVL3は、解析されたリャマ配列においても頻繁に認められ、加えてVL4、VL5、VL6(14.A節において示されず)及びVL8において認められ、このことはヒトにおいて認められる10種のλファミリーのうちの7種は、リャマにおいても使用されることを意味している。14.B節は、3種のκ軽鎖可変領域中2種を示し(すなわちVK1及びVK4;VK2は示されず)、これはκを含むヒト抗体の約50%において生じる。VK3ファミリーのメンバーは、ヒト抗体において最も頻繁に使用される(50%)が、これらは同定されなかったが、しかし増幅のために使用されたプライマーがこれに寄与すること、並びにこれらは採用されなければならないことが良く示され得る(can well be)。14.C節は、最も頻繁に使用されるヒトVH3セグメント(ヒト抗体において34%生じる)及びVH1(17%)と、高い配列相同性を明らかにしているVH配列のアラインメントを示す。Achourらの最新の文献(J Immunol, 2008)は、ヒトVH4ファミリーに最も密に関連しているアルパカの生殖系列中のVH2ファミリーの存在に言及していることは注目されなければならない(実施例10.10を参照されたい)。
【0243】
全般的に、ラクダ科動物は、ヒト免疫系において認められるものに類似した、重鎖及び軽鎖ファミリーの高い多様性を使用することを結論づけることができ、このことはヒト疾患標的による能動免疫化により、ヒト抗体と高い配列相同性を伴うリード抗体の優れた選択が有望であり、従って治療的適用のために容易に操作され得ることを意味する。
【0244】
【表10】


【表11】

【表12】

【0245】
(実施例15−IL-1βに対するFab作製)
別に指定しない限りは、以下の試験に使用した材料及びプロトコールは、実施例1-9において使用したものと類似していた。
(リャマはIL-1βによりうまく免疫化された)
2頭のリャマ(ラマ・グラマ)を、標準プロトコールに従い(実施例1に説明されたように)、ヒトIL-1βにより免疫化した。
両方のリャマ由来の血清を、免疫化の前(0日目)及び後(28日目)にELISAにより、IL-1βに対する抗体の存在について試験した。図1に示されたように、IL-1βに対する特異的シグナルは、免疫化後にELISAにおいて認められ、血清を10,000倍希釈した後であっても認められた。この高い抗体力価は、特異的かつ好適な免疫応答を示す。
【0246】
(良好な多様性を伴うFabライブラリーが構築された)
両方の免疫化されたリャマから単離されたPBLは、Haardらの論文(JBC 1999)に説明された戦略をする、ファージミドにおけるFabのRNA抽出、RT-PCR及びPCR-クローニングに使用し、良好な多様性を伴う多様なライブラリー(2〜5×108)を得た。
下記のプライマーを使用した:
【表13】

【0247】
独立したVλCλ及びVκCκライブラリーを、単独の(タグ付き)-PCR工程(30サイクル)を用いて構築し、より大きいクローン多様性を保存した。
VHCH1ライブラリーを、平行して、2工程PCR(タグなしプライマーで25サイクル(工程1)、それに続くタグ付きプライマーで10サイクル(工程2))を用いて構築した。
【0248】
次に、VλCλ及びVκCκライブラリー由来の軽鎖を、VHCH1-発現ベクターにおいて個別に再クローニングし、各々、「λ」及び「κ」リャマFab-ライブラリー(各免疫化されたリャマについて2つ)を作製した。これらのライブラリーの品質管理は、PCRを用い、慣習的に行った。
これらの試験したクローンの最大93%は、完全長Fab配列を無作為に含み、このことはこれらのライブラリーの高い品質を示している。
【0249】
(ヒトIL-1β特異的Fabが選択された)
ファージディスプレイを使用し、ビオチン化されたIL-1βに結合するリャマFabの大きい多様性を同定した。ビオチン化されたIL-1ベータを捕獲するために使用し、タンパク質の活性のあるコンホメーションを保存した。2ラウンドの選択の後、対照に比べ優れた濃厚化が認められた。ファージELISAは、サイトカイン特異的Fabを発現しているクローンの存在を明らかにした(データは示さず)。
【0250】
ビオチン化されたIL-1βに結合するファージは、pHショックにより溶出した。溶出物(output)の段階希釈(10-1〜10-5)を使用し、新鮮な大腸菌TG1細胞を感染した。得られたコロニー数は、この選択時に結合されたファージの数を示している。前述の例において、選択がbiot-IL-1βの100nM及び10nMにより行われる場合に、溶出物5μlは、およそ105個のファージを生じた。非特異的結合により得られた102個のファージと比べ、これは、1000倍の濃厚化を生じた。
94種の単独クローンを増殖し、モノクローナルファージを作製するために使用した。これらのファージは、ファージELISAにおいて使用した。多くのファージは、ビオチン化されたIL-1β上での2ラウンドの選択の後、biot-IL-1βに良好に結合することを示した。
【0251】
(ヒトIL-1β特異的Fabはヒト生殖系列に対し高い出発相同性を有する)
標的特異的VH及びVλドメインは、そのような一般的ヒト生殖系列とマッチし、このことは同一のCDR1及びCDR2長並びに対応するカノニカルフォールドを示している。引き続き最も近いヒト生殖系列を、それらのフレームワーク領域における配列相同性を基に選択した。マッチングしないアミノ酸残基は、他の関連のあるヒト生殖系列中のそれらの存在についてチェックした。マッチングが存在しない場合、これらの残基は、外来(foreign)とカウントした:
【表14】

【表15】

【0252】
考察及び結論:
・合計14種の標的特異的VHファミリー、9種の標的特異的Vλファミリー及び3種のVκファミリーは、このまず第一の選択を基に同定した。
・14種の抗-IL-1βWT VH及び12種の抗-IL-1βWT VLの最初のパネルは、ヒト生殖系列と驚くほど高い配列相同性を示した。
・これらのVHドメインの33%は、ヒト状況に対し95%以上の出発相同性を有し、かつVLドメインの約44%は、ヒト状況に対し95%以上の出発相同性を有し、更なるヒト化の必要性を排除している。
・VHドメイン2D8は、VH1C2のヒト化型であり、その理由はこれは、最も近いヒト生殖系列と比べより少ない1個の逸脱しているアミノ酸残基を有するからである。その対応するVLドメイン(VL2D8)は、最も近いヒト生殖系列に対し95%の出発相同性を有し、これは更に1つの復帰変異(VL 2G7)により96%に増大された。
・先に説明された方法を用いて評価した場合に、VH及びVLドメインは全て、1つの例外もなく、ヒト3-D結合部位構造を示した(すなわち、マッチングするヒト生殖系列セグメントにおいて生じるようなCDR1及びCDR2と同一のカノニカルフォールドの組合せ)(データは示さず)。
【0253】
(Fab 1E2及び1F2のヒト化)
ヒト化は、1E2及び1F2とコードされた2つのIL-1β特異的Fabに行った。最も近いヒト生殖系列に対するアラインメントを基に、それらのVH及びVλフレームワーク領域における変異を提唱した(図2)。ヒトVH3ファミリーへマッチングするVHの生殖系列化には、多くの残基がかかわることが多く、これらは既に公知のラマ・グラマ、ラマ・パコス又はカメールス・ドロメダリウス由来の生殖系列配列において逸脱している。例えば、位置71のアラニン(Kabat番号付け)及び83のリジン及び84のプロリンは、各々、セリン(しかしあるヒト生殖系列VH3メンバーにおいてアラニンが存在する)、アルギニン(しかし多くのヒトVH3生殖系列により、リジンが使用される)及びアラニンに変更されることができる。軽鎖可変配列に関して、ラクダ科動物について生殖系列配列は入手可能ではないが、恐らくリード抗体の大半において変更される、ヒト生殖系列由来のFRにおいて多くの変異が存在する。完全にヒト化された(hum)及び野生型(wt)V領域に加え、残存するわずかに3個の野生型残基を伴う「安全な(safe)変異型」も提唱された。
【0254】
Fab 1E2は、工程毎のアプローチでフォーマットされ、これによりヒト定常ドメインに融合されたVλの様々な型(wt、safe及び完全にヒト化された)は、表9に示されたFabを作出するために、ヒト定常CH1ドメインに融合されたVHの様々な型と組合せられた:
【0255】
【表16】

【0256】
これらのFab遺伝子を、GeneArt社(独国)に合成遺伝子として注文し、かつ引き続き大腸菌において産生し、精製し、biot-IL-1βへ結合するそれらの能力について試験した。これに関して、Fabは、抗-mycコートされたMaxisorpプレート上に捕獲した。ビオチン化されたヒトIL-1βを添加し、かつ結合したサイトカインを、HRP-複合されたストレプトアビジンを用いて検出した。このアッセイの測定値を、下記図3に示した。
【0257】
・野生型定常ドメインCH1及びCλのそれらのヒト対応物による交換は、結合能に影響を及ぼさなかった。
・1E2のVHドメインの部分的ヒト化(wt Vλ/safe VH)及び完全にヒト化(wt Vλ/hum VH)は、機能的Fabを作出した。
【0258】
クローン1F2のヒト化された変異型は、gene3-Fab融合体を発現しているファージにより試験した(図4)。ファージは、各構築体に関して4つの独立したクローンから作出した
・wt 1F2及びwt 1E2(ヒトCλ及びCH1に融合されたリャマVλ及びVH)
・safe変異型1F2及びsafe変異型1E2(ヒトCλ及びCH1に融合された部分的ヒト化されたVλ)
・hum 1F2及びhum 1E2(ヒトCλ及びCH1に融合された完全にヒト化されたVλ及びVH)
【0259】
各Fabに関する4種のクローンを、クローンの変動(細菌増殖、ファージ産生効率及び毒性などに起因した)を克服するように試験した。ファージELISAは、ビオチン化されたIL-1βをニュートラアビジンでコートされたMaxisorpプレート上に捕獲し、引き続き粗ファージ抽出物(すなわち細菌培地)をインキュベーションすることにより行った。過度の洗浄後、結合したファージを、抗-M13-HRPモノクローナル抗体により検出した。ニュートラアビジンでコートされたウェル(ビオチン化されたIL-1βを含まない)上で試験する場合、同じファージ調製物は、シグナルを生じなかった(データは示さず)。
・最も近いヒト生殖系列への1F2 VL及びVHドメインのフレームワーク領域内の復帰変異は、抗原特異性を維持している、部分的(safe)及び完全に(hum)ヒト化された変異型をうまく生じる。
【0260】
(ヒト定常ドメインによるラクダ科動物可変ドメインの良好なフォーマット化)
IL-1β特異的クローン1E2のVL及びVH可変ドメインは、ヒトCλ及びCH1定常ドメインへうまく融合され、産生されかつ精製された「キメラ」Fabを生じた。
このキメラ1E2 Fabは、pCB5ファージミド(Δgene3)から、37℃で4時間(o/d)又は28℃で16時間(o/n)の誘導を行うことにより作製した。この野生型リャマ1E2 Fabを、pCB3(gene3含むファージミド)から30℃で16時間の誘導を行うことにより作製した。精製後、これらのFabを、DTT含有(還元型)又は非含有(非還元型)SDS-PAGE上に装荷した。クマーシー染色を行い、予想された分子量バンド(示さず)に、これらのFab又はそれらを構成する軽鎖及び重鎖の存在を巧く示した。
【0261】
先に説明された精製されたリャマ及びキメラ1E2 Fabを、抗-mycでコートされたMaxisorpプレート上に捕獲した。ビオチン化されたヒトIL-1βと一緒にインキュベーションし、十分に洗浄した後、Fabに結合したビオチン化されたIL-1βを、HRP-複合したストレプトアビジンを用いて検出した。精製されたリャマ及びキメラの両1E2 Fabは、機能的標的結合を示した(図5)。この知見は、ラクダ科動物に由来した可変ドメインのヒトIgGの定常ドメインとの連関の実行可能性を実証している。
【0262】
(Fabサブセットは標的の機能阻害を示した)
下記表は、以下のELISA実験から生じたOD値を示している。ウェルは、IL1-βのその受容体との結合を阻害することがわかっているマウスモノクローナル抗体(Diaclone SAS社により提供)によりコートした。
【0263】
ビオチン化されたIL-1βを、これらのウェルに、ビオチン化されたIL-1βに対する2ラウンドの選択後に、同定されたFabのペリプラズム抽出物と一緒に添加した。結合されたビオチン化されたIL-1βの検出は、HRP標識されたストレプトアビジンにより生じた。減少されたシグナルは、特異的Fabのブロッキングマウスモノクローナル抗体との競合を示し、拮抗作用を示唆している。
陽性対照は、大量の競合するマウスモノクローナル中でスパイクすることにより、ウェルG12中に含まれた(表10においてウェル12G)。
【0264】
【表17】

【0265】
ブロッキングマウスモノクローナル抗体と良好に競合する(表10において影のついた細胞により示される)、多くのFabが同定された。競合するクローンの配列解析は、異なるVHを伴う3種のFabの存在を明らかにし、これは48のスクリーニングしたクローンに存在した(表10において6Aとコードされたプレートの部分)。拮抗性Fab 1A1(表10の競合アッセイにおいてシグナル0.205を生じる)、1B3(シグナル0.444)及び関連クローン1G1(シグナル0.498)並びに最後に1C3(シグナル0.386)のVHの最も近いヒト生殖系列に対する配列アラインメント及び構造相同性解析を、以下に示している。
【0266】
3つは全て、マッチングしたヒト生殖系列と非常に高度の配列相同性を有し、かつヒト生殖系列において認められるものと同一のカノニカルフォールド組合せを有する。これは、3つの拮抗性リードのλ軽鎖についても認められる(データは示さず)。Fab 1A1は、拮抗性参照モノクローナル抗体と強力に拮抗する(ELISAベースの競合アッセイにおいてIC50は12μg/ml)のに対し、Fab 1C3は、競合をほとんど示さない(50μg/mlを超える濃度でのみ)。しかしバイオアッセイにおいて、1C3(IC50は3μg/ml)は、1A1(IC50は10μg/ml)よりもより強力であり、このことは異なるエピトープ認識を示唆している。高頻度の様々な拮抗性Fab(48のスクリーニングされたクローン中の3つの異なる抗体)及びこれらのうちの2つにおいて認められるエピトープ認識における差異は、ラマの非近交系の性質の結果としての抗体の高い多様性を例証している。ヒト生殖系列V領域との高度の配列相同性は、(強力な)抗体の高い多様性及び広範なエピトープ範囲と組合せ、免疫化されたラクダ科動物由来の治療用抗体のパネルの同定を可能にする。
【0267】
【表18】

【表19】

【0268】
(実施例16)
下記実施例は、確立されたマウスモノクローナル抗体アプローチと比較して、本発明により達成され得る機能的多様性を実証している。
10匹のBALB/cマウスを、小さい分子量の組換え生成されたサイトカインにより免疫化した。この免疫化プロトコールの完了後、動物を屠殺し、それらの脾細胞の不死化によりハイブリドーマを作出した。得られたハイブリドーマの上清を、サイトカイン結合ELISAにおいて、引き続き好適なバイオアッセイにおいて試験した。1つの高度に強力なアンタゴニスト及び1つの弱いアンタゴニストを同定することができた。
【0269】
同じく4頭のリャマを、本明細書に説明された一般的プロトコールを使用し、同じ組換え生成されたサイトカインにより免疫化した。この免疫化プロトコールの完了後、末梢Bリンパ球を収集し、かつそれらのRNAを抽出し、精製した。リャマ特異的プライマーのセットを使用し、ファージディスプレイ技術を用い、Fabライブラリーを作製した。これらのFabは、サイトカイン/サイトカイン受容体結合ELISAにおいて試験した。5種の異なるVHファミリーは、最初の2頭のリャマから同定され、かつ6種の別の異なるVHファミリーは、次の2頭のリャマから同定され、これは高い効力でサイトカイン/受容体相互作用をブロックし、このことは、これらのVHドメインは、長さ及びアミノ酸配列の両方が、独自の異なるCDRを含むことを意味する。
【0270】
従ってより高い機能的多様性は、より多数の近交系BALB/cマウスとは対照的に、少数の非近交系リャマから達成することができる。リャマの能動免疫化により得られた全てのVHファミリーは、最も近いヒト生殖系列と比較して、並はずれた配列相同性を示し、かつCDR1及びCDR2に関してマッチングするヒト生殖系列と同じカノニカルフォールド組合せを有した。
【0271】
(実施例17)
以下の表は、アルパカ(ラマ・パコス)の生殖系列VHドメインと、最も近いマッチングのヒト生殖系列VHドメインの間のアミノ酸配列相同性比較の結果をまとめている。%相同性は、ラマ・グラマに関して本明細書において説明されたものと同じアルゴリズムを用いて算出した。ラマ・パコスに関する生のVH配列データは示していない:
【0272】
【表20】

【0273】
下記表は、検索目的でST.25フォーマットに提出された配列リストと、本明細書に列記されたヌクレオチド及びアミノ酸配列を相互参照するために提供される。
【0274】
【表21】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
VHドメイン又はVLドメイン中の少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)が、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られる、VHドメイン及びVLドメインを含む抗原結合ポリペプチド。
【請求項2】
前記VHドメイン中の超可変ループH1若しくは超可変ループH2のいずれか、又は超可変ループH1及び超可変ループH2の両方が、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られる、請求項1記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項3】
前記VLドメイン中の超可変ループL1若しくは超可変ループL2のいずれか、又は超可変ループL1及び超可変ループL2の両方が、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られる、請求項1又は2記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項4】
前記VHドメイン中の超可変ループH3、又はVLドメイン中の超可変ループL3又は両方が、同じくラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られる、請求項2又は3記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項5】
前記VHドメイン及びVLドメインの両方の中の超可変ループ又は相補性決定領域の各々が、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られる、請求項1記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項6】
前記ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られた超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)が、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVL遺伝子によりコードされているアミノ酸配列を有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項7】
前記ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られた超可変ループ又は相補性決定領域 (CDR)が、ラクダ科ファミリーの種の能動免疫化により得られた通常型抗体の超可変ループ又は相補性決定領域のアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列を有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項8】
前記ラクダ科ファミリーの種の能動免疫化により得られたラクダ科VH若しくはVLドメインと比較して、又はラクダ科ファミリーの種のVH若しくはVL遺伝子によりコードされたVH若しくはVLドメインと比較して、VHドメイン又はVLドメインのいずれかの少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域内に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項9】
前記ラクダ科ファミリーの種の能動免疫化により得られたラクダ科VH若しくはVLドメインと比較して、又はラクダ科ファミリーの種のVH若しくはVL遺伝子によりコードされたVH若しくはVLドメインと比較して、VHドメイン又はVLドメインのいずれかの少なくとも1個のフレームワーク領域内に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項10】
前記VHドメインが、ヒト生殖系列又は体細胞変異されたVH遺伝子によりコードされたVHドメインと比較して、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり少なくとも1つのアミノ酸配列ミスマッチを含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項11】
前記VLドメインが、ヒト生殖系列又は体細胞変異されたVL遺伝子によりコードされたVLドメインと比較して、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり少なくとも1つのアミノ酸配列ミスマッチを含む、請求項1〜10のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項12】
前記VHドメインが、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり1つ以上のヒトVHドメインと、80%以上、好ましくは85%以上の配列同一性を示す、VHドメインを含む請求項1〜11のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項13】
前記VHドメインが、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり1つ以上のヒトVHドメインと、90%以上の配列同一性を示す、請求項12記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項14】
前記VHドメインが、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり1つ以上のヒトVHドメインと、95%以上の配列同一性を示す、請求項13記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項15】
前記VHドメインが、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり1つ以上のヒトVHドメインと、97%以上の配列同一性を示す、請求項14記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項16】
前記VLドメインが、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり1つ以上のヒトVLドメインと、80%以上、好ましくは85%以上の配列同一性を示す、VLドメインを含む請求項1〜15のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項17】
前記VLドメインが、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり1つ以上のヒトVLドメインと、90%以上の配列同一性を示す、請求項16記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項18】
前記VLドメインが、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり1つ以上のヒトVLドメインと、95%以上の配列同一性を示す、請求項17記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項19】
前記VLドメインが、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたり1つ以上のヒトVLドメインと、97%以上の配列同一性を示す、請求項18記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項20】
前記VHドメイン又はVLドメインのいずれかの中の少なくとも1個の超可変ループが、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られ、かつヒト抗体において生じるカノニカルフォールド構造と実質的に同一である予測された又は実際のカノニカルフォールド構造を示す、請求項1〜19のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項21】
前記VHドメイン中の超可変ループH1及び超可変ループH2が、各々、ラクダ科ファミリーの種のVHドメインから得られ、かつ各々、ヒト抗体において生じるカノニカルフォールド構造と実質的に同一である予測された又は実際のカノニカルフォールド構造を示す、請求項20記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項22】
前記VHドメイン中の超可変ループH1及び超可変ループH2が、ヒト生殖系列VHドメインにおいて生じることがわかっているカノニカルフォールド構造の組合せと同一である予測された又は実際のカノニカルフォールド構造の組合せを形成する、請求項21記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項23】
前記VHドメイン中の超可変ループH1及び超可変ループH2が、1-1、1-2、1-3、1-4、1-6、2-1、3-1及び3-5からなる群から選択されるカノニカルフォールド組合せを形成する、請求項22記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項24】
前記フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたりヒトVHドメインと80%以上配列同一性を示し、かつ超可変ループH1及び超可変ループH2が、同じヒトVHドメインにおいて天然に生じることがわかっているカノニカルフォールド組合せと同じである予測された又は実際のカノニカルフォールド構造の組合せを形成する、請求項22又は23記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項25】
前記VLドメイン中の超可変ループL1及び超可変ループL2が、各々、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVLドメインから得られ、かつ各々、ヒト抗体において生じるカノニカルフォールド構造と実質的に同一である予測された又は実際のカノニカルフォールド構造を示す、請求項21〜24のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項26】
前記VLドメイン中の超可変ループL1及び超可変ループL2が、ヒト生殖系列VLドメインにおいて生じることがわかっているカノニカルフォールド構造の組合せと同一である予測された又は実際のカノニカルフォールド構造の組合せを形成する、請求項25記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項27】
前記VLドメイン中の超可変ループL1及び超可変ループL2が、11-7、13-7(A,B,C)、14-7(A,B)、12-11、14-11、12-12、2-1、3-1、4-1及び6-1のカノニカルフォールド組合せのひとつを形成する、請求項26記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項28】
前記VHドメイン及び/又はVLドメインが、ラクダ科ファミリーの種のVH又はVL遺伝子によりコードされているアミノ酸配列を有する、請求項1記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項29】
前記ラクダ科ファミリーの種が、フタコブラクダ、リャマ、ヒトコブラクダ、ヴィクーニャ、グアナコ及びアルパカからなる群から選択される、請求項1〜28のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項30】
標的抗原と免疫反応性である、請求項1〜29のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項31】
標的抗原と特異的に結合する、請求項1〜30のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項32】
前記標的抗原が、非ラクダ科動物の抗原である、請求項30又は31記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項33】
前記標的抗原が、ヒト抗原である、請求項32記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項34】
前記標的抗原が、ウイルス抗原又は細菌抗原である、請求項32記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項35】
前記標的抗原が、治療上又は診断上重要な標的である、請求項30〜34のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項36】
キメラポリペプチドである、請求項1〜35のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項37】
組換えにより発現されたポリペプチドである、請求項1〜36のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項38】
抗体である、請求項1〜37のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項39】
ヒト免疫グロブリン遺伝子によりコードされているアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する少なくとも1個の定常ドメインを含む、請求項1〜38のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項40】
ヒト抗体の完全定常領域を含む、請求項39記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項41】
Fab、Fab'、F(ab')2、二重特異性Fab'、Fv断片、ダイアボディ、線状抗体、単鎖可変部断片(scFv)又は抗体断片から形成された多重特異性抗体である、請求項1〜37のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項42】
請求項1〜41のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチドをコードしているか、又は断片がラクダ科ファミリーの種のVH若しくはVLドメインから得られた少なくとも1個の超可変ループ若しくは相補性決定領域(CDR)を含む、該抗原結合ポリペプチドの断片をコードしている、ポリヌクレオチド分子。
【請求項43】
宿主細胞又は無細胞発現システムにおける前記抗原結合ポリペプチドの発現を可能にする調節配列に機能的に連結されている、請求項42記載のポリヌクレオチド分子を含む、発現ベクター。
【請求項44】
請求項43記載の発現ベクターを含む、宿主細胞又は無細胞発現システム。
【請求項45】
前記抗原結合ポリペプチドの発現を可能にする条件下で、請求項44記載の宿主細胞又は無細胞発現システムを培養すること、並びに発現された抗原結合ポリペプチドを回収することを含む、組換え抗原結合ポリペプチドを作製する方法。
【請求項46】
標的抗原と免疫反応性である抗原結合ポリペプチドを調製する方法であって、該方法が:
(a)前記標的抗原と免疫反応性であるラクダ科の通常型抗体のVH及び/又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)をコードしているヌクレオチド配列を決定すること;並びに
(b)該標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドを発現することであり、該抗原結合ポリペプチドが、VH及びVLドメインを含み、ここでこのVHドメイン又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ若しくは相補性決定領域(CDR)は、パート(a)において決定されたヌクレオチド配列によりコードされたアミノ酸配列を有すること:を含む、前記方法。
【請求項47】
前記パート(a)のラクダ科通常型抗体が、ラクダ科ファミリーの種の免疫化、それによる該標的抗原と免疫反応性である通常型抗体の産生により得られる、請求項46記載の方法。
【請求項48】
前記工程(a)が、該標的抗原と免疫反応性のラクダ科通常型抗体のVH及び/又はVLドメインをコードしているヌクレオチド配列を決定することを含み;並びに、工程(b)が、該標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドを発現することを含み、該抗原結合ポリペプチドが、VH及びVLドメインを含み、ここでVHドメイン又はVLドメインの少なくとも1つは、パート(a)において決定されたヌクレオチド配列によりコードされたアミノ酸配列を有する、請求項46又は47記載の方法。
【請求項49】
前記工程(b)において発現された抗原結合ポリペプチドが、非ラクダ科動物の抗体、好ましくはヒト抗体の少なくとも1個の定常ドメインを含む、請求項46〜48のいずれか1項記載の方法。
【請求項50】
標的抗原と免疫反応性である(又は特異的に結合する)組換え抗原結合ポリペプチドを調製する方法であって、該抗原結合ポリペプチドが、VHドメイン及びVLドメインを含み、ここでこのVHドメイン又はVLドメイン中の少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)が、ラクダ科ファミリーの種から得られ、該方法が:
(a)該標的抗原と免疫反応性のラクダ科通常型抗体のVH及び/又はVLドメインの少なくとも1個の超可変ループ又は相補性決定領域(CDR)をコードしているラクダ科核酸を単離する工程;
(b)工程(a)において単離された核酸によりコードされた超可変ループ又は相補性決定領域と同一のアミノ酸配列を有する超可変ループ又は相補性決定領域をコードしているヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを調製する工程であり、このポリヌクレオチドが、該標的抗原と免疫反応性である(又は特異的に結合する)VHドメイン及びVLドメインを含む抗原結合ポリペプチドをコードしている、工程;並びに
(c)工程(b)の組換えポリヌクレオチドから該抗原結合ポリペプチドを発現する工程であり、ここで該抗原結合ポリペプチドは、パート(a)のラクダ科の通常型抗体と同一ではない、工程:を含む、前記方法。
【請求項51】
前記工程(a)が、該抗体のVHドメイン及び/又はVLドメインをコードしているラクダ科核酸を単離すること、並びに該核酸が、1個以上のアミノ酸の置換、欠失若しくは付加を伴うVHドメイン及び/又はVLドメインをコードするように、該核酸の配列を変更することを含む、請求項50記載の方法。
【請求項52】
前記工程(b)において調製された組換えポリヌクレオチドが、非ラクダ科動物の抗体、好ましくはヒト抗体の1個以上の定常ドメインをコードしているヌクレオチド配列を追加的に含む、請求項50又は51記載の方法。
【請求項53】
前記工程(a)のラクダ科の通常型抗体が、ラクダ科ファミリーの種の免疫化、それによる該標的抗原に対する通常型抗体の産生により得られる、請求項50〜52のいずれか1項記載の方法。
【請求項54】
前記ラクダ科ファミリーの種が、フタコブラクダ、リャマ、ヒトコブラクダ、ヴィクーニャ、グアナコ又はアルパカである、請求項53記載の方法。
【請求項55】
前記標的抗原が、ヒト抗原、ウイルス抗原、細菌抗原及び治療上又は診断上重要な標的抗原からなる群から選択される、請求項53又は54記載の方法。
【請求項56】
前記方法により調製された抗原結合ポリペプチドが、パート(a)のラクダ科の通常型抗体と同一ではない、請求項46〜55のいずれか1項記載の方法。
【請求項57】
請求項46〜56のいずれか1項記載の方法により入手可能である、請求項1記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項58】
請求項1〜41のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチドを備える、試験キット。
【請求項59】
前記試験キットが、該抗原結合ポリペプチドを使用するイムノアッセイを実行するために必要とされる少なくとも1種の追加試薬を備える、請求項58記載の試験キット。
【請求項60】
請求項1〜41のいずれか1項記載の抗原結合ポリペプチド、及び少なくとも1種の医薬として許容し得る希釈剤、賦形剤又は担体を含有する、医薬製剤。
【請求項61】
ラクダ科の通常型抗体のVH及び/又はVLドメインをコードしている発現ベクターのライブラリーを作製する方法であって、該方法が:
a)増幅された遺伝子セグメントを得るために、ラクダ科の通常型抗体のVH及び/又はVLドメインをコードしている核酸分子の領域を増幅する工程であって、各遺伝子セグメントが、ラクダ科の通常型抗体のVHドメインをコードしているヌクレオチド配列又はVLドメインをコードしているヌクレオチド配列を含む、工程;並びに
b)各発現ベクターが、VHドメインをコードしている遺伝子セグメント及び/又はVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを少なくとも含むように、工程a)において得られた遺伝子セグメントを発現ベクターにクローニングし、これにより発現ベクターのライブラリーが得られる工程:を含む、前記方法。
【請求項62】
前記工程a)において増幅された核酸が、ラクダ科動物のリンパ系組織から調製されたcDNA又はゲノムDNAを含み、該リンパ系組織が、B細胞、リンパ節、脾細胞、骨髄細胞の1種以上、又はそれらの組合せを含む、請求項61記載の方法。
【請求項63】
前記リンパ系組織が、能動免疫化されたラクダ科動物から得られる、請求項62記載の方法。
【請求項64】
前記リンパ系組織が、所望の抗原結合特性を伴うラクダ科動物の通常型抗体の発現のために選択された1種以上のB細胞を含む、請求項62又は63記載の方法。
【請求項65】
前記標的抗原が、ヒト抗原、ウイルス抗原、細菌抗原及び治療上又は診断上重要な標的抗原からなる群から選択される、請求項64記載の方法。
【請求項66】
前記工程b)が、VH及びVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを発現ベクターへクローニングし、発現ベクターのライブラリーを作製することを含み、ここで該ライブラリー中の各発現ベクターが、VHドメインをコードしている遺伝子セグメント及びVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを含み、かつ該VHドメイン及び該VLドメインを含む抗原結合ポリペプチドの発現を指示する、請求項61〜65のいずれか1項記載の方法。
【請求項67】
前記ライブラリー中の発現ベクターが、ファージベクター、ファージミドベクター、酵母、哺乳類の発現ベクター及び細菌発現ベクターからなる群から選択される、請求項61〜66のいずれか1項記載の方法。
【請求項68】
ラクダ科の通常型抗体のVH及びVLドメインをコードしている発現ベクターのライブラリーを作製する方法であって、該方法が:
a)ラクダ科動物を能動免疫化し、これにより標的抗原に対する通常型のラクダ科動物の抗体を産生する工程;
b)該免疫化されたラクダ科動物由来のリンパ系組織(例えば循環B細胞)を含有する試料から、cDNA又はゲノムDNAを調製する工程;
c)該cDNA又はゲノムDNAの領域を増幅し、増幅された遺伝子セグメントを得、各遺伝子セグメントが、ラクダ科の通常型抗体のVHドメインをコードしているヌクレオチド配列又はVLドメインをコードしているヌクレオチド配列を含む工程;並びに
d)各発現ベクターが、VHドメインをコードしている遺伝子セグメント及びVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを含み、かつ該VHドメイン及び該VLドメインを含む抗原結合ポリペプチドの発現を指示するように、工程c)において得られた遺伝子セグメントを発現ベクターへクローニングし、これにより発現ベクターのライブラリーが得られる工程:を含む、前記方法。
【請求項69】
前記工程d)において得られた発現ベクターが、scFV、Fab及び抗体からなる群から選択される抗原結合ポリペプチドの形での該VHドメイン及び該VLドメインの発現を指示する、請求項68記載の方法。
【請求項70】
前記ラクダ科動物が、リャマ又はアルパカである、請求項61〜69のいずれか1項記載の方法。
【請求項71】
請求項61〜70のいずれか1項記載の方法により作製された発現ベクターのライブラリー。
【請求項72】
標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを調製する方法であって、該方法が:
i)発現ベクターのライブラリーを調製する工程であり、ここで該ライブラリー中の各ベクターが、VHドメインをコードしている遺伝子セグメント及びVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを含み、ここで該VHドメイン又は該VLドメインの少なくとも1つは、ラクダ科動物の通常型抗体に由来し、かつここで該ライブラリー中の各ベクターは、該VHドメイン及びVLドメインを含む抗原結合ポリペプチドの発現を指示する工程;
ii)該標的抗原と免疫反応性である該ライブラリーによりコードされた抗原結合ポリペプチドをスクリーニングし、かつこれにより該標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを選択する工程:を含む、前記方法。
【請求項73】
前記VHドメイン及び該VLドメインの両方が、ラクダ科動物の通常型抗体に由来する、請求項72記載の方法。
【請求項74】
前記工程i)のライブラリーが、請求項66〜69、72又は73のいずれか1項記載の方法により調製される、請求項73記載の方法。
【請求項75】
iii)前述のパート(ii)で選択されたベクターのVHドメインをコードしている遺伝子セグメント及びパート(ii)で選択されたベクターのVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを、ヒト抗体の1個以上の定常ドメインをコードしているヌクレオチド配列に機能的に連結されている更なる発現ベクターへクローニングし、これによりヒト抗体の1個以上の定常ドメインに融合された工程ii)において選択されたVH及びVLドメインを含むキメラ抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを作製する更なる工程を含む、請求項72〜74のいずれか1項記載の方法。
【請求項76】
前記パート(ii)で選択されたベクターのVHドメインをコードしている遺伝子セグメント及び/又はパート(ii)で選択されたベクターのVLドメインをコードしている遺伝子セグメントが、更なる発現ベクターへクローニングされる前に、該VH及び/又は該VLドメインをコードしているヌクレオチド配列に1つ以上の変更を導入するように操作される、請求項75記載の方法。
【請求項77】
iii)発現ベクターの第二のライブラリーを調製する工程であり、ここで該ライブラリー中の各ベクターが、工程ii)で選択された発現ベクターのVHドメインをコードしている遺伝子セグメント及びVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを含む工程;
iv)該標的抗原との免疫反応性について、該第二のライブラリーによりコードされた抗原結合ポリペプチドをスクリーニングし、これにより該標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを選択する工程:を含む、軽鎖シャッフリングプロセスを更に含む、請求項72〜74のいずれか1項記載の方法。
【請求項78】
v)前記パート(iv)で選択されたベクターのVHドメインをコードしている遺伝子セグメント及びパート(iv)で選択されたベクターのVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを、ヒト抗体の1個以上の定常ドメインをコードしているヌクレオチド配列に機能的に連結されている更なる発現ベクターへクローニングし、これによりヒト抗体の1個以上の定常ドメインに融合された工程iv)において選択されたVH及びVLドメインを含むキメラ抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを作製する更なる工程:を含む、請求項77記載の方法。
【請求項79】
前記パート(iv)で選択されたベクターのVHドメインをコードしている遺伝子セグメント及び/又はパート(iv)で選択されたベクターのVLドメインをコードしている遺伝子セグメントが、更なる発現ベクターへクローニングされる前に、該VH及び/又は該VLドメインをコードしているヌクレオチド配列において1つ以上の変更を導入するように操作される、請求項78記載の方法。
【請求項80】
v)発現ベクターの第三のライブラリーを調製し、ここで該ライブラリーの各ベクターが、工程iv)で選択された発現ベクターのVLドメインをコードしている遺伝子セグメント及びVHドメインをコードしている遺伝子セグメントを含む工程;
vi)該標的抗原との免疫反応性について、該第三のライブラリーによりコードされた抗原結合ポリペプチドをスクリーニングし、これにより該標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを選択する工程:を含む、重鎖シャッフリングプロセスを更に含む、請求項77記載の方法。
【請求項81】
vii)前記パート(vi)で選択されたベクターのVHドメインをコードしている遺伝子セグメント及びパート(vi)で選択されたベクターのVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを、ヒト抗体の1個以上の定常ドメインをコードしているヌクレオチド配列に機能的に連結されている更なる発現ベクターへクローニングし、これによりヒト抗体の1個以上の定常ドメインと融合された工程vi)において選択されたベクターのVH及びVLドメインを含むキメラ抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを作製する更なる工程:を含む、請求項80記載の方法。
【請求項82】
前記パート(vi)で選択されたベクターのVHドメインをコードしている遺伝子セグメント及び/又はパート(vi)で選択されたベクターのVLドメインをコードしている遺伝子セグメントが、更なる発現ベクターへクローニングされる前に、該VH及び/又は該VLドメインをコードしているヌクレオチド配列に1つ以上の変更を導入するように操作される、請求項81記載の方法。
【請求項83】
請求項72〜82のいずれか1項記載の方法により調製された発現ベクター。
【請求項84】
標的抗原と免疫反応性のキメラ抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを作製する方法であって、該方法が:
a)ラクダ科動物(リャマ又はアルパカ)を能動免疫化し、これにより標的抗原に対する通常型のラクダ科動物の抗体を産生する工程;
b)該免疫化されたラクダ科動物由来のリンパ系組織(例えば循環B細胞)を含有する試料からcDNA又はゲノムDNAを調製する工程;
c)該cDNA又はゲノムDNAの領域を増幅し、増幅された遺伝子セグメントを得る工程であって、各遺伝子セグメントは、ラクダ科動物の通常型抗体のVHドメインをコードしているヌクレオチド配列又はVLドメインをコードしているヌクレオチド配列を含む工程;
d)前記工程c)で得られた遺伝子セグメントを、発現ベクターへクローニングし、その結果各発現ベクターは、VHドメインをコードしている遺伝子セグメント及びVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを含み、かつ該VHドメイン及び該VLドメインを含む抗原結合ポリペプチドの発現を指示し、これにより発現ベクターのライブラリーを作製する工程;
e)該標的抗原との免疫反応性について、工程d)で得られたライブラリーによりコードされた抗原結合ポリペプチドをスクリーニングし、これにより該標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを選択する工程;
f)軽鎖シャッフリング工程及び/又は重鎖シャッフリング工程を任意に実行し、該標的抗原と免疫反応性の効力最適化された抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを選択する工程;
g)工程e)若しくは工程f)で選択されたベクターのVHドメインをコードしている遺伝子セグメント及び/又は工程e)若しくは工程f)で選択されたベクターのVLドメインをコードしている遺伝子セグメントを、任意に生殖系列化及び/又はコドン最適化に供する工程;並びに
h)前記パートe)若しくはf)で選択されたベクターのVHドメインをコードしている遺伝子セグメント又は工程g)において作製された生殖系列化及び/若しくはコドン最適化されたVH遺伝子セグメント、並びにパートe)若しくはf)で選択されたベクターのVLドメインをコードしている遺伝子セグメント、又は工程g)において作製された生殖系列化及び/若しくはコドン最適化されたVL遺伝子セグメントを、ヒト抗体の1個以上の定常ドメインをコードしているヌクレオチド配列に機能的に連結されている更なる発現ベクターへクローニングし、これによりヒト抗体の1個以上の定常ドメインに融合されたVH及びVLドメインを含むキメラ抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを作製する工程:を含む、前記方法。
【請求項85】
請求項84記載の方法により調製された発現ベクター。
【請求項86】
標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドを作製する方法であって、該方法が:
a)請求項72〜82のいずれか1項記載の方法又は請求項84記載の方法を使用し、標的抗原と免疫反応性の抗原結合ポリペプチドをコードしている発現ベクターを調製する工程;
b)該発現ベクターを、コードされた抗原結合ポリペプチドの発現を可能にする条件下で、宿主細胞又は無細胞発現システムへ導入する工程;並びに
c)発現された抗原結合ポリペプチドを回収する工程:を含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−526493(P2011−526493A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515664(P2011−515664)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006329
【国際公開番号】WO2010/001251
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(511002179)アルゲン−エックス ビー.ブイ. (2)
【Fターム(参考)】