説明

ラクトナーゼの製法およびその利用

光学活性なパントラクトンなどのγ−ラクトン誘導体は医薬品などの有用物質の合成中間体としてその大量且つ安価な生産が求められている。この目的には、酵素的不斉加水分解を行う酵素ラクトナーゼを利用する技術が優れているが、その酵素の調製や該酵素産生微生物の利用には依然として問題点がある。組換え技術による場合も、十分な且つ安定した酵素活性を得ることが困難である。ラセミパントラクトンなどのγ−ラクトン誘導体を選択的に不斉加水分解するラクトナーゼを組換え技術で産生させるにあたり、成熟ラクトナーゼDNAとシグナルペプチド領域DNAとの両方を宿主に導入することで、天然のラクトナーゼに劣らない安定性ある活性を得ることができ、高い酵素活性を持ち且つそれを安定的に保持する形質転換を得ることができ、効率的且つ工業上有利なγ−ラクトン誘導体の不斉合成が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、D−パントラクトン加水分解酵素活性を有するラクトナーゼの製法に関する。本発明は、D−パントラクトン加水分解酵素活性を有するラクトナーゼの微生物での発現及び分泌生産に関する。また、本発明は、該酵素および該酵素を生産するシステムを用いた光学活性γ−ラクトン及びその関連化合物の製法に関する。
【背景技術】
D−パントラクトンはD−パントテン酸、D−パンテノール、パンテチンの製造における中間体として知られている。これらは医学上または生理学上重要なビタミンとして医薬品の他、食品添加物、飼料添加物の他、化粧品原料としても有用である。従来、D−パントラクトンは化学的に合成されたD,L−パントラクトンを光学分割することにより製造されている。しかしながら、この方法は、キニーネ、ブルシン等の高価な分割剤を必要とするものであり、D−パントラクトンの回収も容易でない等の欠点を有している。このような問題点を解決するため本発明者らはD,L−パントラクトンの酵素的不斉加水分解による光学分割法を特許文献1および特許文献2各公報に提示した。
すなわち、フサリウム属、シリンドロカルポン属、ジベレラ属、アスペルジラス属、ペニシリウム属、リゾプス属、ボルテラ属、グリオクラディウム属、ユーロティウム属、ネクトリア属、シゾフィラム属、ミロセシウム属、ノイロスポラ属、アクレモニウム属、ツベルクリナ属、アブシジア属、スポロスリクス属、バーティシリウム属またはアルスロダーマ属に属する微生物より選ばれたラクトン加水分解能を有する微生物を用いてD,L−パントラクトン中のD−体を選択的に不斉加水分解せしめることにより、D−パントイン酸を生成せしめ、そのD−パントイン酸を分離し、D−パントラクトンに変換することを特徴とするD−パントラクトンの製造法および上記した属に属する微生物によるD−パントラクトン加水分解酵素の製造法である。
しかし、これらの開示されている微生物の多くが直ちに工業的に利用可能なほどの加水分解活性を有しているとは必ずしもいえず、当該微生物がもつ酵素活性を工業可能なレベルまでに上昇させるためには、培養条件や活性誘導条件等について長時間を要する煩雑で難しい検討が必要とされる。またこれらの当該微生物は真菌であるため、菌体が様々な形態をもつ菌糸状を呈し、単一な形態を有する細菌などに比べ、工業的生産に有利な固定化菌体の調製がかなり難しいという問題がある。さらに酵素を菌体から精製する際にも、D−パントラクトン加水分解酵素に関してはかなり回収率が悪いなどの問題がある。
これらの問題点を解決し、さらにD−パントラクトン加水分解酵素そのものの改変により酵素活性の飛躍的な上昇を可能ならしめることを目指して、天然のD−パントラクトン加水分解酵素、例えば、フサリウム・オキシスポルム由未の天然のD−パントラクトン加水分解酵素またはそれと実質的に同等な活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を明らかにし、該タンパク質をコードする塩基配列を含有するDNAで形質転換せしめた宿主細胞が作製された(特許文献3)が、該形質転換宿主細胞で得られる酵素活性もそれを直ちに工業的に利用可能とするにはさらに効率のよい方法が求められていた。
【特許文献1】 特開平3−65198号
【特許文献2】 特開平4−144681号
【特許文献3】 国際公開パンフレット WO,A,97/10341
【発明の開示】
従来、大腸菌などを使用して得られた形質転換体が生産する酵素は糖鎖の付加がなく、天然型(野生型)よりも分子量が小さく、安定性に欠けるという問題がありこれを解決することが求められていた。
本発明は、天然のラクトナーゼ遺伝子を利用し、効率よく且つ生産性に侵れた該酵素を生産するシステムを作製することにある。また、本発明は、さらに該酵素および該酵素を生産するシステムを用い、効率よく且つより生産性に優れた光学活性γ−ラクトン生産システムの構築にある。
D−パントラクトン加水分解酵素活性を有するD−パントラクトン加水分解酵素(以下、「ラクトナーゼ」とする)、特には、フサリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)よりクローニングされ同定されたラクトナーゼは、その遺伝子の解析の結果、5つのイントロンを含む1453塩基対からなる染色体遺伝子によってコードされており、該酵素は20個のアミノ酸残基からなるNH末端シグナルペプチドを有するもので、その染色体遺伝子から転写されたmRNAに相補的なcDNAによりコードされる成熟酵素は380個のアミノ酸からなるタンパク質である。
そして野生型のものは、糖鎖が付加しているものである。
上記課題に鑑み、本発明者等は組換え型酵素においても糖鎖付加がなされるシステムを開発すべく鋭意研究を進めた結果、該ラクトナーゼ遺伝子をシグナルペプチドをコードする遺伝子配列とともに宿主細胞に導入し、発現させることにより天然型の糖鎖が付加した該酵素の大量発現に成功し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、
〔1〕 D−パントラクトン加水分解酵素活性を有するラクトナーゼおよびシグナルペプチド領域をコードするDNAを導入されたことを特徴とするラクトナーゼ産生形質転換体;
〔2〕 ラクトナーゼがフサリウム属由来のものであることを特徴とする上記〔1〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔3〕 配列表の配列番号:9の第1〜380番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するラクトナーゼをコードするDNAあるいはその一部配列とシグナルペプチド領域をコードするDNAとからなるDNAを導入されたことを特徴とするラクトナーゼ産生形質転換体;
〔4〕 シグナルペプチド領域が配列表の配列番号:9の第−20〜−1番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列又はその一部配列、あるいはAlpシグナルペプチド領域であることを特徴とする上記〔3〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔5〕 上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体を培養し、組換えラクトナーゼを産生せしめ、得られた組換えラクトナーゼを得ることを特徴とするD−パントラクトン加水分解酵素活性を有する組換えラクトナーゼの製法;及び
〔6〕 一般式(I)

(Rはヒドロキシル基、アミノ基を表し、R及びRはそれぞれ同一または異なり、互いに独立に、水素又は低級アルキル基を表す。)で示される化合物又はその塩を、
上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体の培養物、その細胞、細胞処理物、または固定化菌体、該形質転換体から得られた組換えラクトナーゼ、及び固定化組換えラクトナーゼから成る群から選ばれたもの
に接触せしめることを特徴とする、一般式(II)

(R,R及びRはそれぞれ前記に同じ。)、又は一般式(IV)

(R,R及びRはそれぞれ前記に同じ。)で示される光学活性なγ−ラクトン誘導体又はその塩の製造方法を提供する。
別の態様では、本発明は、
〔7〕 D−パントラクトン加水分解酵素活性を有するラクトナーゼおよびシグナルペプチド領域をコードするDNA又はそれを挿入したベクターを導入されたことを特徴とするラクトナーゼ産生形質転換体;
〔8〕 ベクターが、糸状菌のエンハンサー塩基配列の1個または複数個を有するものであることを特徴とする上記〔7〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔9〕 ベクターが、糸状菌のエンハンサー塩基配列を1個または複数個、糸状菌で機能するプロモーター領域に導入したものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕、〔7〕及び〔8〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔10〕 ベクターが、アスペルギルス・オリゼのα−グルコシダーゼ遺伝子(agdA)プロモーター上のエンハンサー配列の1個または複数個を糸状菌で機能するプロモーター領域に導入したものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕及び〔7〕〜〔9〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔11〕 プロモーター領域が糸状菌由来の加水分解酵素遺伝子、または、解糖系酵素遺伝子のプロモーター領域であることを特徴とする上記〔9〕又は〔10〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔12〕 プロモーター領域がアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来のα−グルコシダーゼ遺伝子のプロモーター領域、あるいは、その部分配列を含むプロモーター領域であることを特徴とする上記〔9〕〜〔11〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔13〕 ベクターが、宿主糸状菌の形質転換体の選択に好適なマーカー遺伝子を有し、ターミネーターを有し、大腸菌で複製可能なDNA領域を有し、且つ糸状菌におけるポリペプチド発現用プラスミドであることを特徴とする上記〔7〕〜〔12〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔14〕 マーカー遺伝子が糸状菌由来の硝酸還元酵素遺伝子、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ遺伝子、トリプトファンシンターゼ遺伝子、またはアセトアミダーゼ遺伝子であることを特徴とする上記〔13〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔15〕 マーカー遺伝子がアスペルギルス属由来の硝酸還元酵素遺伝子であることを特徴とする上記〔13〕又は〔14〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔16〕 ターミネーターがアスペルギルス・オリゼ由来のα−グルコシダーゼ遺伝子のターミネーター、あるいは、その部分配列を含むターミネーターであることを特徴とする上記〔13〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔17〕 ベクターが、フサリウム(Fusarium)属糸状菌の産生するアルカリプロテアーゼ(Alp)の発現に係るプロモーター領域を有するものであることを特徴とする上記〔7〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔18〕 シグナルペプチド領域が、該Alpの分泌に係るシグナル配列領域又は該ラクトナーゼのシグナル配列領域であることを特徴とする上記〔1〕又は〔7〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔19〕 (a)D−パントラクトン加水分解酵素活性を有するラクトナーゼ全長をコードするDNA配列及び(b)該ラクトナーゼのNH末端シグナルペプチド領域をコードするDNA配列を含有するDNAを導入されたことを特徴とするラクトナーゼ産生形質転換体;
〔20〕 (a)ラクトナーゼ全長をコードするcDNA配列(i)又は染色体遺伝子DNA配列(ii)及び(b)該ラクトナーゼのNH末端シグナルペプチド領域をコードするDNA配列を含有するDNAを導入されたことを特徴とする前記〔19〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔21〕 (a)D−パントラクトン加水分解酵素活性を有するラクトナーゼ全長をコードするDNA配列及び(b)フサリウム属糸状菌の産生するAlpシグナルペプチド領域をコードするDNA配列を含有するDNAを導入されたことを特徴とするラクトナーゼ産生形質転換体;
〔22〕 (a)ラクトナーゼ全長をコードするcDNA配列(i)又は染色体遺伝子DNA配列(ii)及び(b)該Alpシグナルペプチド領域をコードするDNA配列を含有するDNAを導入されたことを特徴とする前記〔21〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔23〕 配列表の配列番号:8の第61〜1453番目の塩基配列をコードするDNAとシグナルペプチド領域をコードするDNAとからなるDNAを導入されたことを特徴とするラクトナーゼ産生形質転換体;
〔24〕 シグナルペプチド領域が配列表の配列番号:9の第−20〜−1番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列あるいはフサリウム属糸状菌Alpシグナルペプチド領域であることを特徴とする上記〔23〕記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔25〕 一般式(I)

(Rはヒドロキシル基、アミノ基を表し、R及びRはそれぞれ同一または異なり、互いに独立に、水素又は低級アルキル基を表す。)で示される化合物又はその塩を、上記〔1〕〜〔4〕及び〔7〕〜〔24〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体の培養物、その細胞、細胞処理物、または固定化菌体、該形質転換体から得られた組換えラクトナーゼ、及び固定化組換えラクトナーゼから成る群から選ばれたものに接触せしめ、未反応である一般式(II)

(R,R及びRはそれぞれ前記に同じ。)の化合物又はその塩を反応系から分離することによる(S)−γ−ラクトン誘導体又はその塩の製造方法;
〔26〕 一般式(I)

(Rはヒドロキシル基、アミノ基を表し、R及びRはそれぞれ同一または異なり、互いに独立に、水素又は低級アルキル基を表す。)で示される化合物又はその塩を、上記〔1〕〜〔4〕及び〔7〕〜〔24〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体の培養物、その細胞、細胞処理物、または固定化菌体、該形質転換体から得られた組換えラクトナーゼ、及び固定化組換えラクトナーゼから成る群から選ばれたものに接触せしめ、一般式(III)

(R,R及びRはそれぞれ前記に同じ。)の化合物又はその塩を得、これを一般式(IV)

(R,R及びRはそれぞれ前記に同じ。)の化合物又はその塩に変換することによる、(R)−γ−ラクトン誘導体又はその塩の製造方法;
〔27〕 ラクトナーゼおよびシグナルペプチド領域をコードする配列を含有することを特徴とするDNA;
〔28〕 (a)ラクトナーゼ全長をコードするDNA配列及び(b)該ラクトナーゼのNH末端シグナルペプチド領域をコードするDNA配列を含有することを特徴とするDNA;及び
〔29〕 (a)ラクトナーゼ全長をコードするcDNA配列(i)又は染色体遺伝子DNA配列(ii)及び(b)該ラクトナーゼのNH末端シグナルペプチド領域をコードするDNA配列を含有することを特徴とするDNAを提供する。
更なる態様では、本発明は、
〔30〕 宿主微生物として、アスペルギルス属、アクレモニウム属、フサリウム属に属する微生物に導入することを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕、〔7〕及び〔18〕〜〔24〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔31〕 宿主微生物として、アスペルギルス・オリゼ、アクレモニウム・クリソゲナム、フサリウム・オキシスポルムに属する微生物に導入することを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕、〔7〕及び〔18〕〜〔24〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体;
〔32〕 一般式(II)又は(IV)の光学活性なγ−ラクトン誘導体の製造法において、ラクトナーゼ産生形質転換体、その培養物、その細胞、その細胞処理物、及び該形質転換体から得られた組換えラクトナーゼを固定化し繰り返し反応させることを特徴とする製造方法;
〔33〕 一般式(I)においてRがヒドロキシル基であり、R及びRが共にメチル基である光学活性なパントラクトン又はその塩の製造方法;
〔34〕 一般式(I)で示される化合物又はその塩を、上記〔1〕〜〔4〕、〔7〕〜〔24〕、〔30〕及び〔31〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体の培養物、その細胞、細胞処理物、または固定化菌体、該形質転換体から得られた組換えラクトナーゼ、及び固定化組換えラクトナーゼからなる群から選ばれたものに接触せしめて得られたD−パントラクトンを用いることを特徴とするパントテン酸又はその塩、パンテノール、あるいはパンテチンの製造方法;
〔35〕 上記〔1〕〜〔4〕、〔7〕〜〔24〕、〔30〕及び〔31〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体が固定化されていることを特徴とする固定化菌体;及び
〔36〕 上記〔1〕〜〔4〕、〔7〕〜〔24〕、〔30〕及び〔31〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体から得られた組換えラクトナーゼが固定化されていることを特徴とする固定化組換えラクトナーゼを提供する。
さらなる態様では、本発明は
〔37〕 上記一般式(I)で示される化合物又はその塩を、上記〔1〕〜〔4〕、〔7〕〜〔24〕、〔30〕、〔31〕、〔35〕及び〔36〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体の培養物、その細胞、細胞処理物、または固定化菌体、該形質転換体から得られた組換えラクトナーゼ、及び固定化組換えラクトナーゼから成る群から選ばれたものに接触せしめ、上記一般式(III)で示される光学活性な化合物又はその塩を製造し、次に該光学活性な一般式(III)で示される化合物又はその塩を出発物質として使用して公知の方法あるいはそれと均等な方法又はその改変方法を適用して、一般式(IV)で示される化合物、パントテン酸、パントテン酸カルシウム、パンテノール、パンテテイン、コエンザイムA(CoA)、パントテニールエチルエーテル、パンテチンなどのD−パントラクトン誘導体又はその塩を製造することを特徴とするD−パントラクトン誘導体又はその塩の製造方法;
〔38〕 (a)D−パントラクトンをβ−アラニンのCa塩又はエステルとを縮合させて、D−パントテン酸カルシウムを製造すること、
(b)D−パントラクトンをβ−アラニン又はそのエステルと縮合させ、D−パントテン酸とした後、カルシウム化合物を反応させて、D−パントテン酸カルシウムを製造すること、
(c)D−パントラクトンとβ−アラニンを第二級又は第三級アミンの存在下に反応せしめ、得られた反応混合物に酸化カルシウムを加えてD−パントテン酸カルシウムを製造すること、
(d)D−パントラクトンと3−アミノプロパノールを縮合させてD−パンテノールを製造すること、
(e)D−パントラクトンとγ−アミノプロピオニトリルと反応させてD−パントテノニトリルとし、さらにシステアミンを反応させ、2−(2−D−パントアミドエチル)−2−チアゾリンとした後、加水分解してD−パンテテインを製造すること、又は
(f)上記(e)工程で得られたD−パンテテインを過酸化水素の存在下縮合させてパンテチンを製造することを特徴とする上記〔37〕記載の製造方法;
〔39〕 一般式(III)で示される化合物、一般式(IV)で示される化合物、パントテン酸、パントテン酸カルシウム、パンテノール、パンテテイン、コエンザイムA(CoA)、パントテニールエチルエーテル、パンテチンなどのD−パントラクトン誘導体又はその塩を製造するにあたり、上記〔1〕〜〔4〕、〔7〕〜〔24〕、〔30〕、〔31〕、〔35〕及び〔36〕のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体の培養物、その細胞、細胞処理物、または固定化菌体、該形質転換体から得られた組換えラクトナーゼ、及び固定化組換えラクトナーゼから成る群から選ばれたもの、あるいは上記〔27〕〜〔29〕のいずれか一記載のDNAを使用することが提供される。
【発明の効果】
本発明は、天然のラクトナーゼ遺伝子を利用し、効率よく且つ生産性に優れた該酵素を生産するシステムを作製する技術を提供する。また、本発明は、該酵素および該酵素を生産するシステムを用い、効率よく且つより生産性に優れた光学活性γ−ラクトン生産システムの構築を可能にする。
本発明により、高価な分割剤を必要とせず、また簡単な操作で工業的生産に適し、環境上も問題の少ない、そして効率よい方法で、医薬品中間体として有用な、またアミノ酸やパントテン酸の出発原料である光学活性γ−ラクトン誘導体を製造できる。光学活性なγ−ラクトン誘導体を簡便に、かつ、工業的に製造する方法が提供される。さらに、D−パントラクトン並びにその誘導体、例えば、パントテン酸、パントテン酸カルシウム、パンテノール、パンテテイン、コエンザイムA(CoA)、パントテニールエチルエーテル、パンテチン又はその塩の効率的且つ経済的に優れた製造が可能となる。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、A.oryzaeにおける外来ラクトナーゼ遺伝子の発現について調べた結果の電気泳動写真を示す。
Aは、電気泳動で分離処理したタンパクをCoomassie Brilliant Blue染色したゲルを示す。Lane1は分子量マーカー(Daiichi Chemicals,Tokyo,Japan):ホスホリラーゼb(97kDa)、ウシ血清アルブミン(66kDa)、アルドラーゼ(42kDa)、そしてカルボニックアンハイドラーゼ(30kDa)。Lane2は、pNAN−PCで形質転換されたA.oryzaeのセルフリー抽出液、Lane3はpNAN−XGで形質転換されたA.oryzaeのセルフリー抽出液。各Laneには25μgを適用。Lane4はF.oxysporumから得た精製ラクトナーゼ。0.5μgを適用。
Bはウエスタンブロットの結果を示すもので、野生型ラクトナーゼに特異的な抗体により免疫染色したもので、Aと同様のゲルについてのものである。Lane1は分子量マーカー(prestained SDS−PAGE standards low range,Bio−Rad,Hercules,USA):ホスホリラーゼb(97kDa)、ウシ血清アルブミン(66kDa)、卵白アルブミン(45kDa)、カルボニックアンハイドラーゼ(31kDa)、トリプシンインヒビター(22kDa)。
図2は、F.oxysporumと組換体A.oryzaeを用いてのラセミパントラクトンの不斉加水分解の結果を示す。Aは、湿潤細胞を使用して結果を、Bは固定化細胞を使用した結果を示す。白の丸印はpNAN−PCで形質転換されたA.oryzae、黒の丸印はpNAN−XGで形質転換されたA.oryzae、白の四角印はF.oxysporumである。
図3は、ラクトナーゼの分泌発現用プラスミドの構造を示す。融合遺伝子は、PCRを組み合わせて行って構築し、SalIおよびXbaIで切断し、pBluescript II SK+中にサブクローニングした。
図4は、Ac.chrysogenum形質転換体により分泌されたラクトナーゼの電気泳動(SDS−PAGE)写真を示す。10%ポリアクリルアミドゲル使用。Lane1はF.oxysporumから得た精製野生型ラクトナーゼ(0.5μg)を、Lane2は、pAlpSで形質転換されたAc.chrysogenum(3μgのタンパク含有)を、Lane3は、pLacSで形質転換されたAc.chrysogenum(3μgのタンパク含有)を示す。Lane4は分子量マーカー:ホスホリラーゼb(97kDa)、ウシ血清アルブミン(66kDa)、アルドラーゼ(42kDa)、そしてカルボニックアンハイドラーゼ(30kDa)。
図5は、糖鎖切断処理されたラクトナーゼの電気泳動(SDS−PAGE)写真を示す。野生型ラクトナーゼ(Lane2−5)およびpAlpSで形質転換されたAc.chrysogenumから得た精製組換え型ラクトナーゼ(Lane8−11)はEndoHで処理されたもので、10%ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動処理されたものである(各Lane当たり0.8μg)。Lane2およびLane8は、1分間の糖鎖切断処理、Lane3およびLane9は、5分間の糖鎖切断処理、Lane4およびLane10は、15分間の糖鎖切断処理、Lane5およびLane11は、60分間の糖鎖切断処理。糖鎖切断処理をしていない野生型ラクトナーゼおよび組換え型ラクトナーゼは、Lane1およびLane7に示す。Lane6は、分子量マーカーで詳細は図4と同様のものである。
図6は、固定化酵素によるラセミパントラクトンの不斉加水分解の結果を示す。D−及びL−パント酸の比率はHPLCで測定した。黒い丸印は、D−パント酸を、白い丸印はL−パント酸を、白い四角印は、DL−パントラクトン(ラセミパントラクトン)を示す。
図7は、フサリウム属糸状菌由来ラクトナーゼをコードする染色体DNA(ゲノミック・ジーン)の塩基配列を示す。NH−末端の20個のアミノ酸残基の配列(1〜60の塩基配列)がシグナルペプチド領域で影を付して表示してある。また、5個のイントロンは小文字(lowercase letter)で表記されており、予測されるN−グリコシル化アスパラギン残基はダイヤ印が付してあり、関連ストップコドンはアスタリスクを付して示してある。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明では、天然のD−パントラクトン加水分解能をもつラクトナーゼ酵素、例えば、フサリウム・オキシスポルム由来の野生型(天然型)ラクトナーゼ(D−パントラクトン加水分解酵素)またはそれと実質的に同等な活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の組換え発現技術並びにその利用技術を提供する。該ラクトナーゼをコードする塩基配列を含有するDNAを用いて形質転換せしめた宿主細胞の作成及び培養・増殖、該宿主細胞を用いる該タンパク質の製造、さらにはそれらタンパク質および宿主細胞の用途等が提供される。また本発明では上記ラクトナーゼをコードする遺伝子を利用する有用な各種の手段が提供され、さらにこうしてデザインされた発現ベクターなどを利用して、効率よく且つより生産性に優れたD−パントラクトン生産システムが提供される。
本発明は、D,L−パントラクトン中のD−体を選択的に不斉加水分解せしめる活性を有することを特徴とするラクトナーゼに関し、NH末端シグナルペプチド領域を含んでいる該ラクトナーゼ全長をコードする遺伝子を使用して形質転換せしめると、得られた形質転換体は、野生型酵素とほぼ等しい分子量の組換え酵素を発現産生するばかりでなく、得られる酵素活性についてもその安定性において満足できるものであるとの知見を利用する技術であり、当該ラクトナーゼに関し、組換え技術によっても、より高い触媒能と安定的な酵素活性を保持する形質転換された細胞を取得し、それを利用する技術に関する。
本発明は、D−パントラクトン加水分解酵素としての活性を持つラクトナーゼの微生物での発現及び分泌生産の技術を提供する。代表的には、該ラクトナーゼ全長をコードする遺伝子を、N末端シグナルペプチド領域を含む形態として、糸状菌、例えばアスペルギルス属やアクレモニウム属などの菌に導入すると、得られた形質転換体は、野生型酵素と一致する分子量の糖鎖が付加された組換え酵素を産生し、該酵素はDL−パントラクトンなどのγ−ラクトン類の加水分解反応において、糖鎖付加を受けない酵素に比べて酵素安定性に優れ、さらに当該形質転換体A.oryzae菌株は、Fusarium oxysporumに比べて加水分解率も向上した。さらにAc.chrysogenumの場合、ラクトナーゼを菌体外大量分泌可能となり、酵素レベル(粗酵素、精製酵素または固定化酵素)でのDL−パントラクトン加水分解反応が可能になったなど優れたものであった。
本発明で利用される遺伝子組換え技術は、例えばT.Maniatis et al.,“Molecular Cloning”,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.T.(1989);日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人(1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸III(組換えDNA技術)」、東京化学同人(1992);R.Wu ed.,“Methods in Enzymology”,Vol.68,Academic Press,New York(1980);R.Wu et al.ed.,“Methods in Enzymology”,Vol.100 & 101,Academic Press,New York(1983);R.Wu et al.ed.,“Methods in Enzymology”,Vol.153,154 & 155,Academic Press,New York(1987)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法あるいはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。それらの手法は、本発明の目的に合わせて公知の手法に独自の改変改良を加えたものであることもできる。
本明細書中、「ポリメラーゼ・チェイン・リアクション(polymerase chain reaction)」又は「PCR」とは、一般的に、米国特許第4,683,195号明細書などに記載されたような方法を指し、例えば、所望のヌクレオチド配列をインビトロで酵素的に増幅するための方法を指している。一般に、PCR法は、鋳型核酸と優先的にハイブリダイズすることのできる2個のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、プライマー伸長合成を行うようなサイクルを繰り返し行うことを含むものである。典型的には、PCR法で用いられるプライマーは、鋳型内部の増幅されるべきヌクレオチド配列に対して相補的なプライマーを使用することができ、例えば、該増幅されるべきヌクレオチド配列とその両端において相補的であるか、あるいは該増幅されるべきヌクレオチド配列に隣接しているものを好ましく使用することができる。5’端側のプライマーとしては、少なくとも開始コドンを含有するか、あるいは該開始コドンを含めて増幅できるように選択し、また3’端側のプライマーとしては、少なくともストップコドンを含有するか、あるいは該ストップコドンを含めて増幅できるように選択することが好ましい。プライマーは、好ましくは5個以上の塩基、さらに好ましくは10個以上の塩基からなるオリゴヌクレオチド、より好ましくは18〜25個の塩基からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる。
PCR反応は、当該分野で公知の方法あるいはそれと実質的に同様な方法や改変法により行うことができるが、例えばR.Saiki,et al.,Science,230:1350,1985;R.Saiki,et al.,Science,239:487,1988;H.A.Erlich ed.,PCR Technology,Stockton Press,1989;D.M.Glover et al.ed.,“DNA Cloning”,2nd ed.,Vol.1,(The Practical Approach Series),IRL Press,Oxford University Press(1995);M.A.Innis et al.ed.,“PCR Protocols:a guide to methods and applications”,Academic Press,New York(1990));M.J.McPherson,P.Quirke and G.R.Taylor(Ed.),PCR:tical approach,IRL Press,Oxford(1991);M.A.Frohman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85,8998−9002(1988)などに記載された方法あるいはそれを修飾したり、改変した方法に従って行うことができる。また、PCR法は、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、キット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコルに従って実施することもできる。
本明細書中、「オリゴヌクレオチド」とは、比較的短い一本鎖又は二本鎖のポリヌクレオチドで、好ましくはポリデオキシヌクレオチドが挙げられ、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,Vol.28,p.716−734(1989)に記載されているような既知の方法、例えば、フォスフォトリエステル法、フォスフォジエステル法、フォスファイト法、フォスフォアミダイト法、フォスフォネート法などの方法により化学合成されることができる。通常合成は、修飾された固体支持体上で合成を便利に行うことができることが知られており、例えば、自動化された合成装置を用いて行うことができ、該装置は市販されている。該オリゴヌクレオチドは、一つ又はそれ以上の修飾された塩基を含有していてよく、例えば、イノシンなどの天然においては普通でない塩基あるいはトリチル化された塩基などを含有していてよいし、場合によっては、マーカーの付された塩基を含有していてよい。
所定の核酸を同定したりするには、ハイブリダイゼーション技術を利用することができる。該ハイブリダイゼーションは、上記「遺伝子組換え技術」を開示する文献記載の方法あるいはそれと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。例えば、ハイブリダイゼーションは、DNAなどの核酸を含有しているサンプルをナイロンフィルターなどの膜を含めた担体に転写せしめ、必要に応じ変成処理、固定化処理、洗浄処理などを施した後、その担体(例えば、膜など)に転写せしめられたものを、必要に応じ変成させた標識プローブDNA断片と、ハイブリダイゼーション用緩衝液中で反応させて行われる。
ハイブリダイゼーション処理は、普通約35〜約80℃、より好適には約50〜約65℃で、約15分間〜約36時間、より好適には約1〜約24時間行われるが、適宜最適な条件を選択して行うことができる。例えば、ハイブリダイゼーション処理は、約55℃で約18時間行われる。ハイブリダイゼーション用緩衝液としては、当該分野で普通に使用されるものの中から選んで用いることができ、例えば、Rapid hybridization buffer(Amersham社)などを用いることができる。転写した担体(例えば、膜など)の変成処理としては、アルカリ変性液を使用する方法が挙げられ、その処理後中和液や緩衝液で処理するのが好ましい。また担体(例えば、膜など)の固定化処理としては、普通約40〜約100℃、より好適には約70〜約90℃で、約15分間〜約24時間、より好適には約1〜約4時間ベーキングすることにより行われるが、適宜好ましい条件を選択して行うことができる。例えば、フィルターなどの担体を約80℃で約2時間ベーキングすることにより固定化が行われる。転写した担体(例えば、膜など)の洗浄処理としては、当該分野で普通に使用される洗浄液、例えば1M NaCl、1mM EDTAおよび0.1%sodium dodecyl sulfate(SDS)含有50mM Tris−HCl緩衝液,pH8.0などで洗うことにより行うことができる。ナイロンフィルターなどの膜を含めた担体としては、当該分野で普通に使用されるものの中から選んで用いることができる。
上記アルカリ変性液、中和液、緩衝液としては、当該分野で普通に使用されるものの中から選んで用いることができ、アルカリ変性液としては、例えば、0.5M NaOHおよび1.5M NaClを含有する液などを挙げることができ、中和液としては、例えば、1.5M NaCl含有0.5M Tris−HCl緩衝液,pH8.0などを挙げることができ、緩衝液としては、例えば、2×SSPE(0.36M NaCl、20mM NaHPOおよび2mM EDTA)などを挙げることができる。またハイブリダイゼーション処理に先立ち、非特異的なハイブリダイゼーション反応を防ぐために、必要に応じて転写した担体(例えば、膜など)はプレハイブリダイゼーション処理することが好ましい。このプレハイブリダイゼーション処理は、例えば、プレハイブリダイゼーション溶液[50%formamide、5×Denhardt’s溶液(0.2%ウシ血清アルブミン、0.2%polyvinyl pyrrolidone)、5×SSPE、0.1%SDS、100μg/ml熱変性サケ精子DNA]などに浸し、約35〜約50℃、好ましくは約42℃で、約4〜約24時間、好ましくは約6〜約8時間反応させることにより行うことができるが、こうした条件は当業者であれば適宜実験を繰り返し、より好ましい条件を決めることができる。ハイブリダイゼーションに用いる標識プローブDNA断片の変性は、例えば、約70〜約100℃、好ましくは約100℃で、約1〜約60分間、好ましくは約5分間加熱するなどして行うことができる。なお、ハイブリダイゼーションは、それ自体公知の方法あるいはそれに準じた方法で行うことができるが、本明細書でストリンジェントな条件とは、例えばナトリウム濃度に関し、約15〜約50mM、好ましくは約19〜約40mM、より好ましくは約19〜約20mMで、温度については約35〜約85℃、好ましくは約50〜約70℃、より好ましくは約60〜約65℃の条件を示す。
ハイブリダイゼーション完了後、フィルターなどの担体を十分に洗浄処理し、特異的なハイブリダイゼーション反応をした標識プローブDNA断片以外の標識プローブを取り除くなどしてから検出処理をすることができる。フィルターなどの担体の洗浄処理は、当該分野で普通に使用されるものの中から選んで用いて行うことができ、例えば、0.1%SDS含有0.5×SSC(0.15M NaCl、15mM クエン酸)溶液などで洗うことにより実施できる。
ハイブリダイズした核酸は、代表的にはオートラジオグラフィーにより検出することができるが、当該分野で用いられる方法の中から適宜選択して検出に用いることもできる。検出したシグナルに相当する核酸バンドを、適切な緩衝液、例えば、SM溶液(100mM NaClおよび10mM MgSO含有50mM Tris−HCl緩衝液、pH7.5)などに懸濁し、ついでこの懸濁液を適度に希釈して、所定の核酸を単離・精製、そしてさらなる増幅処理にかけることができる。
ハイブリダイゼーション処理により遺伝子ライブラリーやcDNAライブラリーなどを含めた核酸サンプルから目的核酸をスクリーニングする処理は、繰り返して行うことができる。
本発明で用いられる当該ラクトナーゼは、例えば、フサリウム属、シリンドロカルポン属、ジベレラ属、アスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾプス属、ボルテラ属、グリオクラディウム属、ユーロティウム属、ネクトリア属、シゾフィラム属、ミロセシウム属、ノイロスポラ属、アクレモニウム属、ツベルクリナ属、アブシジア属、スポロスリクス属、バーティシリウム属またはアルスロダーマ属に属する微生物などから得ることができる。代表的なものとしては、例えばフサリウム・オキシスポルムIFO 5942、フサリウム・セミテクタムIFO 30200、シリンドロカルポン・トンキネンスIFO 30561、ジベレラ・フジクロイIFO 6349、アスペルギルス・オリゼATCC 91002、アルペルギルス・オリゼIFO 5240、アスペルギルス・アワモリIFO 4033、ペニシリウム・クリソゲナムIFO 4626、リゾプス・オリザエIFO 4706、ボルテラ・ブクシIFO 6003、グリオクラディウム・カテヌラタムIFO 6121、ユーロティウム・シエバリエリIFO 4334、ネクトリア・エレガンスIFO 7187、シゾフィラム・コムネIFO 4928、ミロセシウム・ロリダムIFO 9531、ノイロスポラ・クラツサIFO 6067、アクレモニウム・フシデイオイデスIFO 6813、ツベルクリナ・ペルシシナIFO 6464、アブシジア・リヒセイミIFO 4009、スポロスリクス・シエンキIFO 5983、バーティシリウム・マルトウセイIFO 6624、またはアルスロダーマ・ウンシナトウムIFO 7865などが挙げられる。
本発明で利用される当該ラクトナーゼをコードする遺伝子は、WO,A,97/10341;Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95,12787−92,1998に準じて遺伝子組換え技術を利用して得ることができる。例えば、培養したフサリウム・オキシスポルムの菌体を破砕し、常法により染色体DNAを遠心分離後、RNAを分解除去し、除タンパク操作をおこなって、DNA成分を精製する。これらの操作については「植物バイオテクノロジー実験マニュアル:農村文化社、252頁」を参照して行うことができる。同様に、破砕した菌体から、AGPC法に従って全RNAを抽出し、ここから適当な方法、例えばオリゴdTセルロースカラムを用いてmRNAを精製し、ついで得られたmRNAを鋳型として逆転写酵素(リバース・トランスクリプターゼ)などを用いてcDNAを合成してもよい。また、既に構築された遺伝子ライブラリーを使用し、適当なプライマーを使用してPCR法、逆転写PCR(polymerase chain reaction coupled reverse transcription;RT−PCR)法で得ることができる。既に得られているラクトナーゼ遺伝子をプローブとして利用して得ることもできる。プローブなどを放射性同位体などによって標識するには、市販の標識キット、例えばランダムプライムDNAラベリングキット(Boehringer Mannheim社)などを使用して行うことができる。例えば、random −primingキット(Pharmacia LKB社,Uppsala)などを使用して、プローブ用DNAを[α−P]dCTP(Amersham社)などで標識し、放射活性を持つプローブを得ることができる。
所定の核酸を保有する、ファージ粒子、組換えプラスミド、組換えベクターなどは、当該分野で普通に使用される方法でそれを精製分離することができ、例えば、グリセロールグラジエント超遠心分離法(Molecular Cloning,a laboratory manual,ed.T.Maniatis,Cold Spring Harbor Laboratory,2nd ed.78,1989)、電気泳動法などにより精製することができる。ファージ粒子などからは、当該分野で普通に使用される方法でDNAを精製分離することができ、例えば、得られたファージなどをTM溶液(10mM MgSO含有50mM Tris−HCl緩衝液、pH7.8)などに懸濁し、DNase IおよびRNase Aなどで処理後、20mM EDTA、50μg/ml Proteinase K及び0.5%SDS混合液などを加え、約65℃、約1時間保温した後、これをフェノール抽出ジエチルエーテル抽出後、エタノール沈殿によりDNAを沈殿させ、次に得られたDNAを70%エタノールで洗浄後乾燥し、TE溶液(10mM EDTA含有10mM Tris−HCl緩衝液、pH8.0)に溶解するなどして得られる。また、目的としているDNAは、サブクローニングなどにより大量に得ることも可能であり、例えばサブクローニングは、宿主として大腸菌を用いプラスミドベクターなどを用いて行うことができる。こうしたサブクローニングにより得られたDNAも、上記と同様にして遠心分離、フェノール抽出、エタノール沈殿などの方法により精製分離できる。塩基配列の決定は、ダイデオキシ法、例えばM13ダイデオキシ法など、Maxam−Gilbert法などを用いて行うことができるが、市販のシークエンシングキット、例えばTaqダイプライマーサイクルシークエンシングキットなどを用いたり、自動塩基配列決定装置、例えば蛍光DNAシーケンサー装置などを用いて行うことができる。
本明細書において、核酸(又はポリヌクレオチド)は、一本鎖DNA、二本鎖DNA、RNA、DNA:RNAハイブリッド、合成DNAなどの核酸であり、またゲノムDN(染色体遺伝子DNA)、ゲノミックDNAライブラリー、cDNA、合成DNAのいずれであってもよい。核酸の塩基配列は、修飾(例えば、付加、除去、置換など)されることもでき、そうした修飾されたものも包含されてよい。核酸は、本発明で記載するペプチドあるいはその一部をコードするものであってよく、好ましいものとしてはDNAが挙げられる。核酸は、化学合成によって得ることも可能である。その場合断片を化学合成し、それらを酵素により結合することによってもよい。
本明細書において、得られたPCR産物などの核酸(DNAを含む)は、通常1〜2%アガロースゲル電気泳動にかけて、特異なバンドとしてゲルから切り出し、例えば、gene clean kit(Bio 101)などの市販の抽出キットを用いて抽出する。抽出されたDNAは適当な制限酵素で切断し、必要に応じ精製処理したり、さらには必要に応じ5’末端をT4ポリヌクレオチドキナーゼなどによりリン酸化した後、pUC18などのpUC系ベクターといった適当なプラスミドベクターにライゲーションし、適当なコンピテント細胞を形質転換する。クローニングされたPCR産物はその塩基配列を解析されてよい。PCR産物のクローニングには、例えば、p−Direct(Clontech社),pCR−ScriptTM SK(+)(Stratagene社),pGEM−T(Promega社),pAmpTM(Gibco−BRL社)などの市販のプラスミドベクターを用いることが出来る。宿主細胞の形質転換をするには、例えばファージベクターを使用したり、カルシウム法、ルビジウム/カルシウム法、カルシウム/マンガン法、TFB高効率法、FSB凍結コンピテント細胞法、迅速コロニー法、エレクトロポレーションなど当該分野で知られた方法あるいはそれと実質的に同様な方法で行うことができる(D.Hanahan,J.Mol.Biol.,166:557,1983など)。
当該プラスミドの配列内には、例えば選択した宿主細胞で発現するのに好適なコドンを導入することや、制限酵素部位を設けることも可能である。また、目的とする遺伝子の発現を容易にするための制御配列、促進配列など、目的とする遺伝子を結合するのに役立つリンカー、アダプターなど、さらには抗生物質耐性などを制御したり、代謝を制御したりし、選別などに有用な配列等を含ませることが可能である。
大腸菌を宿主とするプラスミドとしては、例えばpBR322,pUC18,pUC19,pUC118,pUC119,pSP64,pSP65,pTZ−18R/−18U,pTZ−19R/−19U,pGEM−3,pGEM−4,pGEM−3Z,pGEM−4Z,pGEM−5Zf(−),pBluescript KSTM(Stratagene)などが挙げられる。大腸菌での発現に適したプラスミドベクターとしては、pAS,pKK223(Pharmacia),pMC1403,pMC931,pKC30なども挙げられる。
宿主細胞としては、大腸菌の場合、例えば大腸菌K12株に由来するものが挙げられ、例えばNM533 XL1−Blue,C600,DH1,HB101,JM109などが挙げられる。本発明の遺伝子工学的手法においては、当該分野で知られたあるいは汎用されている制限酵素、逆転写酵素、DNA断片をクローン化するのに適した構造に修飾したりあるいは変換するための酵素であるDNA修飾・分解酵素、DNAポリメラーゼ、末端ヌクレオチジルトランスフェラーゼ、DNAリガーゼなどを用いることが出来る。
本発明に従えば、該ラクトナーゼは融合タンパク質として発現させ、生体内あるいは生体外で野生型酵素と実質的に同等の生物学的活性を有しているものに変換・加工してもよい。また、遺伝子工学的に常用される融合産生法を用いることができるが、こうした融合タンパク質はその融合部を利用してアフィニティクロマトグラフィーなどで精製することも可能である。タンパク質の構造の修飾・改変などは、例えば合成オリゴヌクレオチドなどを利用する位置指定変異導入法(部位特異的変異導入法)あるいはPCRを使用するなど当該分野で広く知られた方法で行うことができる。
本発明では、当該ラクトナーゼを発現する形質転換体を作製するのに、該ラクトナーゼおよびシグナルペプチドをコードするDNAが構築され、好適に利用される。該ラクトナーゼをコードするDNAは、フサリウム属糸状菌由来のものを好適に利用できる。本発明で利用される組換えラクトナーゼ発現用塩基配列は、例えばラクトナーゼ全長をコードするDNA配列及び該ラクトナーゼのNH末端シグナルペプチド領域をコードするDNA配列を有するもの。また、該組換えラクトナーゼ発現用塩基配列は、(a)フサリウム属糸状菌由来ラクトナーゼ全長をコードするcDNA配列又は染色体遺伝子DNA配列と該ラクトナーゼのNH末端シグナルペプチド領域をコードするDNA配列を含有するものであることができる。
好ましい例では、該フサリウム属糸状菌由来ラクトナーゼとシグナルペプチド領域をコードする配列とを持つ配列は、適切な発現用ベクター内に組み込むことができる。該発現用ベクターとしては、糸状菌のエンハンサー塩基配列の1個または複数個を有するもの、フサリウム(Fusarium)属糸状菌の産生するアルカリプロテアーゼ(Alp)の発現に係るプロモーター領域を有するもの、糸状菌のエンハンサー塩基配列の1個または複数個を糸状菌で機能するプロモーター領域に導入したもの、シグナルペプチド領域が、該Alpの分泌に係るシグナル配列領域又は該ラクトナーゼのシグナル配列領域であるように構成できるものなどが挙げられる。
糸状菌での発現に適した発現用ベクターとしては、アスペルギルス・オリゼのα−グルコシダーゼ遺伝子(agdA)プロモーター上のエンハンサー配列とプロモーター領域をもつものが挙げられる。該エンハンサー配列を導入するプロモーターとしては、糸状菌において機能するものであれば特に制限されないが、具体的には、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、セロビオハイドラーゼ、アセトアミダーゼ等の加水分解酵素遺伝子、3−ホスホグリセレートキナーゼ、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、エノラーゼ等の解糖系酵素遺伝子のプロモーターが挙げられる。
好適なプロモーターは、アスペルギルス属のα−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼの遺伝子から単離することができる。より好適には、アスペルギルス・オリゼのα−グルコシダーゼ遺伝子のプロモーターが挙げられる。そのプロモーターは、部分配列であっても糸状菌におけるプロモーターとしての機能を有する限り含まれる。さらに、本発明で好適に使用できる発現プラスミドは、上述の如く改良された糸状菌で機能するプロモーターと、ターミネーターを有し、宿主の形質転換体の選択に好適なマーカー遺伝子を有し、大腸菌で複製可能なDNA領域を有するものである。当該エンハンサー配列のプロモーターへの導入部位は、プロモーター領域であれば特に制限されるものではない。ターミネーターは、糸状菌において機能するものであれば特に制限されないが、例えば、アスペルギルス・オリゼのα−グルコシダーゼ遺伝子のターミネーター、あるいは、その部分配列を含むターミネーターがより好適に用いられる。好ましい選択マーカーとしては、硝酸還元酵素(niaD)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(argB)、トリプトファンシンターゼ(trpC)、アセトアミダーゼ(amdS)の遺伝子が挙げられる。より好適な選択マーカー遺伝子は、硝酸還元酵素遺伝子(niaD)である。これらのプラスミドは、プロモーターとターミネーターの間に設けられた制限酵素認識サイトを利用して、本発明の発現させるべき目的のタンパク質をコードするDNA断片を挿入される。
使用するに好適な発現用ベクターとしては、例えば特開平09−9968号公報、特開平5−268972号公報などに開示のもの、あるいはそれから公知の技術で誘導されたものが挙げられる。例えば、プラスミドpNLH2、pNAN8142などが好適に使用できる。遺伝子を連結する場合、遺伝子間にアダプターDNAとして合成DNAを用いることもできる。該合成DNAとしては、両遺伝子のフレームが一致し、目的とする遺伝子の活性が失われないものであればいかなるものでもよい。例えば、APアーゼ遺伝子プロモーターと、翻訳開始部位および/または分泌シグナルを用いた目的遺伝子の発現は、該APアーゼ遺伝子由来部位と目的とする遺伝子のフレームが一致するように融合遺伝子を作製することによって行われる。APアーゼの分泌シグナルを翻訳開始コドンの下流にフレームを合わせて連結されることにより、目的物質を菌体外に分泌生産させることができる。プロモーターの機能が失われない限りは、一部のDNA断片を欠失させても差し支えない。また、プロモーターおよび翻訳開始部位の機能を変化させるように、例えば、発現力が増加するようにプロモーターおよび翻訳開始部位を含む領域のDNA塩基配列を改変したものであっても好都合に用いることができるし、プロモーターおよび翻訳開始部位の機能に関係しない領域のDNA塩基配列を改変させて用いることも可能である。
以上のようにして構築された目的遺伝子を導入するための宿主としては、その遺伝子が作動、発現する生物ならばどのようなものであってもよい。代表的な宿主としては、例えば、酵母、糸状菌、植物などの真核生物より適宜選択されてよい。例えば、フサリウム属、シリンドロカルポン属、ジベレラ属、アスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾプス属、ボルテラ属、グリオクラディウム属、ユーロティウム属、ネクトリア属、シゾフィラム属、ミロセシウム属、ノイロスポラ属、アクレモニウム属、ツベルクリナ属、アブシジア属、スポロスリクス属、バーティシリウム属またはアルスロダーマ属に属する微生物が挙げられる。
代表的なものとしては、例えばフサリウム・オキシスポルムIFO 5942、フサリウム・セミテクタムIFO 30200、シリンドロカルポン・トンキネンスIFO 30561、ジベレラ・フジクロイIFO 6349、アスペルギルス・オリゼATCC 91002、アルペルギルス・オリゼIFO 5240、アスペルギルス・アワモリIFO 4033、ペニシリウム・クリソゲナムIFO 4626、リゾプス・オリザエIFO 4706、ボルテラ・ブクシIFO 6003、グリオクラディウム・カテヌラタムIFO 6121、ユーロティウム・シエバリエリIFO 4334、ネクトリア・エレガンスIFO 7187、シゾフィラム・コムネIFO 4928、ミロセシウム・ロリダムIFO 9531、ノイロスポラ・クラツサIFO 6067、アクレモニウム・フシデイオイデスIFO6813、ツベルクリナ・ペルシシナIFO 6464、アブシジア・リヒセイミIFO 4009、スポロスリクス・シエンキIFO 5983、バーティシリウム・マルトウセイIFO 6624、またはアルスロダーマ・ウンシナトウムIFO 7865などが挙げられる。
さらに、APアーゼ遺伝子のプロモーター有しており且つ翻訳開始部位および/または分泌シグナルをコードする領域の下流に連結した目的ラクトナーゼ遺伝子を有するベクターを導入するための宿主としては、その遺伝子が作動、発現する生物ならばどのようなものであってもよい。好ましくは、例えば酵母、糸状菌などの真核微生物より適宜選択される。具体的には、酵母菌として、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、ピキア(Pichia)属菌などである。より具体的には、サッカロミセス・セレビッシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などを挙げることができる。また糸状菌としては、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、フサリウム(Fusarium)属、ペニシリウム(Penicillium)属、ムコール(Mucor)属、ノイロスポラ(Neurospora)属、トリコデルマ(Trichoderma)属菌などが挙げられる。より具体的には、アクレモニウム・クリソゲナム(Acremonium chrysogenum)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、フサリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)、フサリウム・セミテクタム(Fusarium semitectum)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)、ノイロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、トリコデルマ・ビリデー(Trichoderma viridae)などを挙げることができる。これらの中で特にアクレモニウム・クリソゲナムが好ましい。さらに具体的には、サッカロミセス・セレビッシエAH22R−、アクレモニウム・クリソゲナムATCC11550株、ATCC14553株、アスペルギルス・オリゼIFO5240、アスペルギルス・アワモリIFO4033、フサリウム・オキシスポルムIFO5942、フサリウム・セミテクタムIFO30200、ムコール・ジャバニカスIFO4570、トリコデルマ・ビリデーIFO31137などを挙げることができる。これらの中で特にアクレモニウム・クリソゲナムATCC11550株などを挙げることができる。
これら宿主に遺伝子を導入する形質転換法としては、例えばプロトプラスト形質転換法などが挙げられる。例えば、適当な細胞壁溶解酵素を用いて調製したプロトプラスト化した細胞に、塩化カルシウム、ポリエチレングリコールなどの存在下DNAを接触させるなどの方法で形質転換を行うことができる。また、形質転換法としては、エレクトロポレーション法(例えば、E.Neumann et al.,“EMBO J”,Vol.1,pp.841(1982)など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃により打ち込む方法などが挙げられる。
形質転換された細胞を効率良く分離するためには、宿主内で機能する適切な選択マーカー遺伝子を持つプラスミドに該融合遺伝子を挿入した後、該プラスミドで宿主を形質転換してよい。該選択マーカー遺伝子としては、形質転換された細胞を選択的に分離できるものであるならどのようなものも使用可能である。代表的なものとしては、例えばハイグロマイシンB耐性遺伝子などを挙げることができる。普通、宿主は、選定された選択マーカーについての機能的遺伝子を有しない株を用いなければならない。
本発明で得られる形質転換された細胞を培養する場合の各種条件は、使用する菌株など細胞の種類により異なるが、一般的には培地に関しては、該形質転換細胞が同化したり、資化することが可能な炭素源や窒素源などを含有する培地を使用する。炭素源としては、該形質転換細胞が同化したり、資化することができるものであればどのようなものでもよいが、例えば、グルコース、シュクロース、でんぷん、可溶性でんぷん、デキストリンなどの糖類、パラフィン類などが挙げられ、さらに、酢酸、クエン酸、酪酸、フマール酸、安息香酸などの有機酸類、メタノール、エタノール、ブタノール、グリセリンなどのアルコール類、オレイン酸、ステアリン酸などの脂肪酸およびそのエステル類、大豆油、菜種油、ラード油などの油脂類などが挙げられ、それらは単独又は混合して用いることができる。窒素源としては、資化することができるものであればどのようなものでもよいが、例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩類、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの硝酸塩類、尿素、ペプトン、カザミノ酸、コーンステイープリカー、コーングルテンミール、ふすま、酵母エキス、乾燥酵母、大豆粉、綿実粉、肉エキス、その他の有機または無機の窒素含有物などが挙げられ、それらは単独又は混合して用いることができる。培地には、無機塩類、ミネラル、ビタミン、微量金属塩などの栄養素を任意に適宜加えることもできる。無機塩類としては、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウムなどのリン酸塩類、マンガン塩類などが挙げられ、他の栄養源として、麦芽エキスなども挙げられる。その他、当該分野で一般的に使用されるものを適宜選択して用いることができる。
培養は好気条件下で深部培養するのが一般に有利で、好気的に行なう場合、通常、培養時間1〜20日程度であり、好ましくは3〜14日程度であり、さらに好ましくは3〜10日程度で、培地のpH3〜9、培養温度、10〜50℃で行なう。
本発明で得られる形質転換された細胞により産生される酵素は、各種原料、例えば細胞培養液、細胞培養破砕物などを含めた、形質転換体細胞などの酵素産生材料から、従来公知の方法にしたがって得ることができる。例えば、培地中に蓄積された場合には、遠心分離または濾過によって目的物質を含む上澄液をうる。一方、目的物質が菌体など細胞中に蓄積される場合には、培養後、遠心分離または濾過などの公知の方法で菌体などを集め、菌体を塩酸グアニジンなどの蛋白質変性剤を含む緩衝液に懸濁し、冷所で撹拌したのち遠心分離等により目的物質の蛋白質を含む上澄液を得たり、菌体を緩衝液に懸濁したのち、ガラスビーズによる粉砕、フレンチプレス、超音波処理あるいは酵素処理等で細胞を破砕したのち遠心分離等により上澄液を得るなどの方法が適宜用いられる。
前記上澄液から目的蛋白質を分離・精製するには、自体公知の分離・精製法を適切に組合わせて行うことができ、例えば硫酸アンモニウム沈殿法などの塩析、エタノールを使用するなどの溶媒沈澱法、セファデックスなどによるゲルろ過法、例えばジエチルアミノエチル基あるいはカルボキシメチル基などの塩基性基あるいは酸性基を持つ担体などを用いたイオン交換クロマトグラフィー法、例えばブチル基、オクチル基、フェニル基など疎水性基を持つ担体などを用いた疎水性クロマトグラフィー法、色素ゲルクロマトグラフィー法、電気泳動法、透析、限外ろ過法、アフィニティ・クロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法などにより精製して得ることができる。また封入体として得られた場合には、可溶化処理、例えば、塩酸グアニジン、尿素といった変成剤、さらには必要に応じ、2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトールなどの還元剤存在下に処理して活性型酵素とすることもできる。
酵素としては酵素産生細胞をそのまま用いることが出来る。固定化酵素としては、当該分野で知られた方法で酵素又は酵素産生細胞などを固定化したものが挙げられ、共有結合法や吸着法といった担体結合法、架橋法、包括法などにより固定化できる。また、微生物菌体のアルギン酸ゲルへの固定化も好適に用いることができる。例えばグルタルアルデヒド、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソチオシアネートなどの縮合剤を必要に応じて使用し、固定化できる。またモノマーを重合反応でゲル化させて行うモノマー法、通常のモノマーよりも大きな分子を重合させるプレポリマー法、ポリマーをゲル化させて行うポリマー法などが挙げられ、ポリアクリルアミドを用いた固定化、アルギン酸、コラーゲン、ゼラチン、寒天、κ−カラギーナンなどの天然高分子を用いた固定化、光硬化性樹脂、ウレタンポリマーなどの合成高分子を用いた固定化などが挙げられる。酵素や微生物菌体の固定化技術及びその利用は、例えば、千畑一郎編「固定化酵素」、p75、講談社サイエンティフィック(1975年);千畑一郎編「固定化生体触媒」、p67、講談社サイエンティフィック(1986年);鈴木智雄監修「微生物工学技術ハンドブック」、朝倉書店(1990年5月);今中忠行編「Maruzen Advanced Technology〈生物工学編〉微生物工学」、p180〜194、丸善株式会社(平成5年9月30日)、日本生化学会編「新生化学実験講座13バイオテクノロジー」、p50〜54、東京化学同人(ISBN:4−8079−1079−5)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法あるいはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。それらの手法は、本発明の目的に合わせて公知の手法に独自の改変改良を加えたものであることもできる。微生物の培養、酵素を用いたD−パントラクトン加水分解をはじめとしたラクトン加水分解酵素利用の酵素的不斉加水分解によるラクトン系化合物の光学分割反応及び生成物の処理は特開平3−65198号および特開平4−144681号に記載のようにして行うことができる。
例えば、液体培地で振盪培養した形質転換菌を集菌し、得られた菌体にD,L−パントラクトン水溶液(2〜60%濃度)を加え、pHを6〜8に調整しながら温度10〜40℃で数時間から1日反応させる。反応終了後、菌体を分離し、反応液中の未反応L−パントラクトンを有機溶媒(酢酸エチルのようなエステル類、ベンゼンのような芳香族炭化水素類、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素等などが好ましい)を用いて抽出分離する。水層に残存しているD−パントイン酸を塩酸酸性下、加熱することによりラクトン化をおこない、上記した有機溶媒で抽出することにより生成したD−パントラクトンを得ることができる。
かくして、本発明では、一般式(I)の化合物又はその塩を、フサリウム属糸状菌由来ラクトナーゼおよびシグナルペプチド領域をコードするDNA又はそれを挿入したベクターを導入されたラクトナーゼ産生形質転換体の培養物、その細胞、または細胞処理物、及び該形質転換体から得られた組換えラクトナーゼなどに接触せしめ、一般式(II)で示されるS体の未加水分解物又はその塩を反応系から分離することにより、また、得られた一般式(III)で示される加水分解物又はその塩は次にラクトン化を行うことにより一般式(IV)又はその塩に変換することにより、効率的な光学活性なγ−ラクトン誘導体又はその塩の製造法が提供されるのである。
本発明においては、上記のようにして得られた形質転換体、特には形質転換された微生物が、好適に、一般式(I)の化合物をR体選択的に不斉加水分解するのに使用され、工業的に一般式(II)の化合物、または一般式(III)の化合物を経て一般式(IV)の化合物を製造するために用いられる。例えば、以下の反応式で表すことができる。

(*は光学活性炭素を示し、Rはヒドロキシル基、アミノ基を表し、R及びRはそれぞれ同一または異なり、互いに独立に、水素又は低級アルキル基を表す。)
及びRの低級アルキル基としては、直鎖状あるいは分岐状の炭素数1〜5個のアルキル基が挙げられ、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。代表的には、Rがヒドロキシル基であり、R及びRが共にメチル基であるもので、その場合一般式(I)のラセミパントラクトン又はその塩から光学活性なパントラクトン又はその塩、例えば一般式(IV)のD−パントラクトン又はその塩、あるいは一般式(II)のL−パントラクトン又はその塩が製造できる。
本製造法において、使用する形質転換体、特には形質転換された微生物は、液体培地に菌株を培養して得られた培養物、培養液から分離した菌体、あるいは菌体または培養物を処理して得られる乾燥菌体、もしくは固定化菌体などのいずれの形態のものも用いることができ、さらに該形質転換体から単離された酵素はそれを粗製のものも、精製したものも、また固定化されたものなどのいずれの形態のものも用いることができる。
操作は回分式、半回分式、または、連続式のいずれでも行なうことができる。使用するγ−ラクトンの濃度は、通常、10〜500g/Lである。反応温度は、通常、10〜50℃であるが、より好ましくは20〜30℃である。反応時間は、回分式の場合、通常、数時間から1日間である。反応系のpHは、通常、3〜9程度であるがより好ましくは6〜8である。
形質転換体微生物による一般式(I)の選択的不斉加水分解の結果、一般式(III)の化合物が生成し、反応液のpHが低下するとともに、反応速度も低下する。反応速度を大きくするため、反応液のpHを各微生物のラクトン加水分解酵素の至適pHに保持することが好ましい。その際、pHを保持するための無機塩として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物または炭酸塩のほか、アンモニア水などが用いられる。
反応終了後、加水分解をうけていない反応液中の一般式(II)の化合物を有機溶媒による抽出などの操作により分離する。有機溶媒としては、塩化エチレン、クロロホルム、トリクロロエタンのようなハロゲン系炭化水素、ベンゼン、トルエンのような芳香族系炭化水素、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテルのようなエーテル類の他、酢酸エチル等が用いられ、より好ましくは、酢酸エチルである。
また抽出以外の分離方法としては、カラムクロマトグラフィー等が挙げられる。逆相カラムを用い、溶離液としては、水、メタノールまたはエタノールのようなアルコール類、またはそれらの混合物で一般式(II)の化合物と一般式(III)の化合物を分離することも可能である。
反応液中に残存している一般式(III)の化合物は、そのまま酸性にすることにより、一般式(IV)の化合物に変換することができる。酸としては、塩酸、硫酸等が用いられ、より好ましくは硫酸である。pHや反応温度、反応時間は、一般式(III)の化合物が閉環し、一般式(IV)の化合物に変換することができる条件でよいが、より好ましくは、pHは1以上の強酸性、反応温度は80〜130℃、反応時間は1〜6時間である。
生成した一般式(IV)の化合物は有機溶媒を用いて抽出することにより回収する。ここで用いられる有機溶媒は、先に一般式(II)の化合物の抽出に用いた溶媒と同様に、塩化エチレン、クロロホルム、トリクロロエタンのようなハロゲン系炭化水素、ベンゼン、トルエンのような芳香族系炭化水素、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテルのようなエーテル類の他、酢酸エチル等が用いられ、より好ましくは、酢酸エチルである。また、カラムクロマトグラフィーでの回収も可能である。
一方、反応液中に残存している一般式(III)の化合物は、アルカリ金属の水酸化物または炭酸塩等で処理後、反応液を減圧留去し、乾固物を溶媒で再結晶することにより、カルボン酸のアルカリ金属塩とし単離することもできる。用いられるアルカリ金属の水酸化物または炭酸塩としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等があり、好ましくは、水酸化ナトリウムである。また、再結晶溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、クロロホルム等が用いられ、好ましくは、メタノールである。
特に、本発明においては高い光学純度のD−パントラクトンを高収率で得ることができる。D−パントラクトンからは、β−アラニンのCa塩又はエステルとアルコール系溶媒中縮合させて、D−パントテン酸カルシウムを得ることができ、例えば、D−パントラクトンをアルコール等の有機溶媒中、β−アラニン又はそのエステルと縮合させ、D−パントテン酸とした後、炭酸カルシウムなどのカルシウム化合物を反応させる方法(E.Stiller,et al.,J.Am.Chem.Soc.,62,1785(1940))、D−パントラクトンとβ−アラニンを第二級又は第三級アミンの存在で煮沸し、その反応液に酸化カルシウムを加えてD−パントテン酸カルシウムを製する方法(E.H.Wilson,et al.,J.Am.Chem.Soc.,76,5177(1954))などにより製造することができる。また、3−アミノプロパノールをアルコール系溶媒中縮合させてD−パンテノールを得ることができる(USP No.2,413,077;Brit.Patent No.568,355)。また、D−パントラクトンをアルコール等の有機溶媒中、γ−アミノプロピオニトリルと反応させD−パントテノニトリルとし、さらにシステアミンを加え反応させ、2−(2−D−パントアミドエチル)−2−チアゾリンとした後、加水分解してD−パンテテインとした後、過酸化水素の存在下縮合させパンテチンを製造することができる(M.Shimizu,et al.,Chem.Pharm.Bull.,13,180(1965))。本発明で得られるD−パントラクトンを使用することにより、D−パントテン酸及びまたはその塩、あるいはD−パンテノールを効率よく得ることができる。
このように、本発明は医薬品中間体やアミノ酸誘導体として有用な光学活性なγ−ラクトン誘導体の簡便で、効率的な製造方法を提供するものである。
明細書及び図面において、用語は、IUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるか、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。代表的な用語の意味を以下に示す。
A:アラニン(Ala) M:メチオニン(Met)
C:システイン(Cys) N:アスパラギン(Asn)
D:アスパラギン酸(Asp) P:プロリン(Pro)
E:グルタミン酸(Glu) Q:グルタミン(Gln)
F:フェニルアラニン(Phe) R:アルギニン(Arg)
G:グリシン(Gly) S:セリン(Ser)
H:ヒスチジン(His) T:スレオニン(Thr)
I:イソロイシン(Ile) V:バリン(Val)
K:リジン(Lys) W:トリプトファン(Trp)
L:ロイシン(Leu) Y:チロシン(Tyr)
ヌクレオチド配列に関しては:
A:アデニン G:グアニン
C:シトシン T:チミン
(1)後述の実施例1に記載のpNAN−XGで形質転換されたAspergillus oryzae:A.oryzae/pNAN−XGは、平成15年2月4日から茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(AIST Tsukuba Central 6,1−1,Higashi 1−Chome,Tsukuba−shi,Ibaraki−ken 305−8566 Japan,旧住所表記:茨城県つくば市東1丁目1番3号)(郵便番号305−8566)の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(National Institute of Advanced Industrial Science and Technology,International Patent Organism Depositary:IPOD)(旧名称:経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所(NIBH))に寄託されて保管されており(受託番号FERM P−19199)、平成16年2月2日に原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託への移管請求がなされ、受託番号FERM BP−08608としてIPODに保管されている。また、後述の実施例2に記載のpAlpSで形質転換されたAcremonium chrysogenum:Ac.chrysogenum/pAlpSは、平成15年2月4日からIPODに寄託されて保管されており(受託番号FERM P−19200)、平成16年2月2日に原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託への移管請求がなされ、受託番号FERM BP−08609としてIPODに保管されている。
(2)また、後述の実施例1で使用されたラクトナーゼの遺伝子を導入したベクター(pFLC40E)を保有する大腸菌JM109(EJM−ESE−1)は、平成7年8月30日(原寄託日)からIPODに寄託されており(受託番号FERM P−15141)、平成8年8月28日に原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託への移管請求がなされ、受託番号FERM BP−5638としてIPODに保管されている。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。以下の実施例における通常慣用される分子生物学的技術としては、標準的な実験マニュアル、例えばJ.Sambrook,E.F.Fritsch & T.Maniatis(ed.),“Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd edition)”,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(1989);D.M.Glover et al.(ed.),“DNA Cloning”,2nd ed.,Vol.1 to 4,(The Practical Approach Series),IRL Press,Oxford University Press(1995);H.A.Erlich(ed.),PCR Technology,Stockton Press,1989;D.M.Glover et al.(ed.),“DNA Cloning”,2nd ed.,Vol.1,(The Practical Approach Series),IRL Press,Oxford University Press(1995);M.A.Innis et al.(ed.),“PCR Protocols:a guide to methods and applications”,Academic Press,New York(1990));M.J.McPherson,P.Quirke and G.R.Taylor(ed.),PCR:a practical approach,IRL Press,Oxford(1991)などに記載の方法に準じて行っているし、また市販の試薬あるいはキットを用いている場合はそれらに添付の指示書(protocols)や添付の薬品等を使用している。
【実施例1】
〔Fusarium oxysporum由来ラクトナーゼのAspergillus oryzaeにおける発現〕
(1) プラスミドの構築
Fusarium oxysporum由来成熟ラクトナーゼcDNA(N末のシグナルペプチドおよびイントロン不含)を組み入れたプラスミドpFLC40Eを制限酵素EcoRI,XbaIで処理し、ラクトナーゼcDNAを含む断片を単離した。これをblunting処理した後、発現用プラスミドpNAN8142(特開平09−9968号公報、Biosci.Biotechnol.Biochem.,60:383−389,1996)のp−No8142プロモーター下流のPmaCIサイトに挿入し、pNAN−PCを得た。
pNAN−XCはラクトナーゼ遺伝子のcDNAとシグナルペプチドの配列を導入してあり、以下のように構築された。
F.oxysporumから全RNAをAGPC法(フェノールとチオシアン酸グアニジンを用いた方法)で抽出した(キット名:ISOGEN、ニッポンジーン)。この全RNAを鋳型として、RT−PCR(PCR使い、RNAからDNAを増幅する方法)法[Access RT−PCR System;Promega社製]を用いて、1.3kbのDNA断片を増幅した。2つのオリゴヌクレオチド、FusLac1(下線部にXho1切断配列を含む)とFusLac2(下線部にXba1切断配列を含む)をプライマーとして使用した。

PCR増幅条件は上記キットのinstruction manualに従った。PCR産物は低融点アガロースゲルで精製し、制限酵素Xho1とXba1で切断した後にプラスミド:pNAN8142の同様の切断部位に挿入した。
ゲノム上の完全長ラクトナーゼ遺伝子を、FusLac1とFusLac2をプライマーとしてPCRを用いてF.oxysporumの全DNAから増幅した。増幅したDNA断片は、制限酵素Xho1とXba1で切断した後にプラスミド:pNAN8142の同様の切断部位に挿入し、これをpNAN−XGとした。
(2) A.oryzaeにおけるラクトナーゼ遺伝子の発現
前記プラスミドを個別にAspergillus oryzae(ATCC91002)を、UnKles SEら(Mol.Gen.Genet.218,99−104,1989)の方法により調製したAspergillus oryzae niaD mutant(AON−2)に形質転換し、ラクトナーゼ活性を測定した。ラクトナーゼ活性測定方法は下記の通りである。
湿菌体50mg、0.5Mトリス塩酸緩衝液(pH7.4)および0.61mM(80mg)D−パントラクトンを含む反応液2mLを30℃、15分間、300rpmで振とうした。遠心により菌体を除き、その上清中のパントラクトンおよびパント酸をHPLCにより解析した。酵素1Uは、1分間で1μmol D−パントラクトンの加水分解を触媒する酵素量とした。
pNAN−XGの形質転換体が最も高いラクトナーゼ活性(F.oxysporumの約7.4倍)を示し、pNAN−XCもまた同等の活性を示した。PNAN−PCの形質転換体においてはpNAN−XGのそれの4分の1の活性であった(表1)。

(3) 組換え酵素の比較
pNAN−XGおよびpNAN−XCの形質転換体の粗抽出液をSDS−PAGEに供したところ、F.oxysporum由来生成ラクトナーゼの分子量に相当する60kDaの位置に発現タンパク質が認められた(図1A)。一方、pNAN−PCの場合は51kDaに発現タンパク質が認められた。ラクトナーゼ抗血清を用いたウエスタンブロッティングを行ったところ、pNAN−XGは60kDaに、pNAN−PCは51kDaに陽性バンドが検出された(図1B)。同様に、pNAN−XCにおいても60kDaの陽性バンドが検出された。
PNAN−XGおよびpNAN−PC形質転換体からの各組換え酵素のN末を解析したところ、両方とも天然型と同じアミノ酸配列(Ala−Lys−Leu−Pro−Ser)を示し、正しくプロセッシングを受けていることが確認された。従って、組換え酵素間の分子量の差異は糖鎖付加の有無によるものであると考えられた。
シグナルペプチド領域を付加しなかったpNAN−PCの形質転換体のみが脱糖鎖型の酵素を生産したことから、シグナルペプチドは翻訳後のポリペプチドが糖鎖付加が起こる場所、すなわち小胞体に輸送されるために必要なものであると考えられた。
(4) ラセミパントラクトンの不斉加水分解
F.oxysporumおよびA.oryzae転換体(pNAN−PCおよびpNAN−XG)を35%DL−パントラクトン溶液とpHを6.8〜7.5にコントロールしながら反応を行った。
pNAN−PC形質転換体では、反応初速は高いものの酵素の安定性が悪く、2時間後にはほとんど反応が進まなくなった。24時間後ではDL−パントラクトンの加水分解率は8.52%であり、F.oxysporumの14.6%に比べて低かった(図2A)。pNAN−XG転換体の酵素は、pNAN−PC形質転換体の酵素よりも安定性がよく加水分解率は19.8%であった。
さらに加水分解率50%を目指して、酵素の安定性を高めるために、湿菌体5gを115mLの1%アルギン酸ナトリウムに懸濁し、2%塩化カルシウム溶液に滴下して形質転換体の固定化を行った。固定化菌体を用いた反応においてpNAN−XGおよびpNAN−PC形質転換体の酵素どちらも安定性がよくなりDL−パントラクトンの加水分解率は格段に向上した。反応24時間後の加水分解率は、pNAN−XGおよびpNAN−PC形質転換体においてそれぞれ49.1%および21%に達した(図2B)。光学純度は95%e.e.以上であった。
【実施例2】
〔Fusarium oxysporum由来ラクトナーゼのAcremonium chrysogenumによる分泌生産〕
(1) プラスミドの構築
Combined PCRを用いて、Fusarium alkaline protease(Alp)プロモーター、そのシグナル配列、ラクトナーゼ遺伝子の融合遺伝子を構築した(図3)。
Alpプロモーターとそれに続くAlpシグナルペプチド、プロペプチドをプラスミドpNLH2(特開平5−268972号公報)を鋳型にしてPCRで増幅した。使用したプライマーは以下のとおりである。
センスプライマーAlpPS(下線部分は合成したSal1切断配列である)
アンチセンスプライマーAlpPA(下線部はLacSプライマーの一部とアニーリングする)。

N末のシグナルペプチドを無くしたラクトナーゼ遺伝子はpNAN−XGを鋳型にしてセンスプライマーLacS(下線部はAlpPAプライマーの一部分とアニーリングする)と、アンチセンスプライマーFusLac2(配列番号2)を用いてPCRで増幅した。それぞれのPCR産物を混合して、AlpPSとFusLac2をプライマーにしてセカンドPCRを行った。得られたPCR断片(2.3kb)をSal1、Xba1で切断しpBluescriptに導入しpAlpSを構築した。
もうひとつの発現プラスミドpLacSはラクトナーゼ自身のシグナルペプチドをAlpプロモーターの制御下に置くものであり、やはり、Combined PCRを用いて構築した。AlpプロモーターはプライマーAlpPSとAlpPA2(下線部はLacS2プライマーの一部分とアニーリングする)を用いてPCRで増幅し、ラクトナーゼ自身のシグナルペプチドをもった全長遺伝子はプライマーLacS2;(下線部はAlpAP2プライマーの一部分とアニーリングすることができる)とプライマーFusLac2を用いてPCRで増幅した。

両方のPCR産物を混合しプライマーAlpPSとプライマーFusLac2を用いてセカンドPCRを行い増幅産物をSal1,Xba1で切断しpBluescriptにサブクローニングした。Ac.Chrysogenumのglyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase(GDPH)プロモーターとハイグロマイシンB脱リン酸化酵素をもつ3.0kbの断片がMorita,Sらにより開発されたpNLH2(J.Biotechenol.42,1−8,1995)からHindIIIで切り出すことができる。このHindIII切断断片をpBluescriptに導入し、pHmとした。
(2) Ac.chrysogenumにおけるラクトナーゼ遺伝子の発現
前記プラスミドを個別にAc.Chrysogenum(ATCC11550)に形質転換した。ラクトナーゼ遺伝子が形質転換体の染色体DNAに挿入されていることを確認するために、形質転換体のゲノムDNAを鋳型とし、ラクトナーゼ遺伝子3’および5’末端領域のオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCR解析を行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動に供したところ、試験した80の形質転換体の約80%にラクトナーゼ遺伝子に相当する1.2kbのバンドが検出された。
各形質転換体を1L当り30g Sucrose,5g DL−メチオニン,32g soy bean flour,1.5g炭酸カルシウム(pH6.8)を含む培地で28℃、3日間前培養し、さらに500mLの培地で28℃、5日間、120strokes/minで本培養した。その培養上清のラクトナーゼ活性を測定した。
ラクトナーゼ活性は、0.5Mトリス塩酸緩衝液(pH7.4)、0.61mM(80mg)D−パントラクトンおよび適当量の酵素を含む反応液0.5mLを30℃、15分間反応後、反応液中のパントラクトンおよびパント酸をHPLCにより解析した。その結果、pAlpSおよびpLacSの形質転換体の培養上清で大量のラクトナーゼが認められた(表2)。

(3) 分泌酵素の性質
pAlpSおよびpLacSの形質転換体の培養上清をSDS−PAGEに供したところ、60kDaの位置にメジャーなバンドが認められた(図4)。この分子量は天然の酵素に相当する。これらのバンドをPVDFメンブレンに写し、N末端のアミノ酸配列を解析したところ、両方とも天然型と同じアミノ酸配列(Ala−Lys−Leu−Pro−Ser−Thr−Ala−)を示した。
酵素に付加されている糖鎖の解析を行うために、N−linked糖タンパク質由来の高マンノースタイプおよびハイブリッドオリゴサッカライドを切断するエンドグリコシダーゼをF.oxysporumおよびpAlpSの形質転換体からそれぞれ精製した酵素と1,5,15,60分間反応させ、SDS−PAGEを行った。60,56,51kDaの異なる3種の分子量のバンドが検出された(図5)ことから、少なくとも2つのN−linked糖鎖をもつことが示された。
(4) 固定化酵素の調製
pAlpSの形質転換体の培養液500mLを20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に透析し、Amicon YM−10メンブレンを用い100mLに濃縮し、酵素溶液とした。一方、支持体としてDeolite A−568を0.1M NaOHで洗浄し、pHが8.2になるまで精製水で洗浄した。酵素溶液100mLに乾燥重量15gの洗浄Deolite A−568を加え、4℃、24時間撹拌を行った。酵素吸着後、精製水で洗浄し、2%グルタルアルデヒドを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)100mLで4℃、24時間架橋した。
約13.6%のタンパク質が培養液中に残り、固定化されなかった。固定化された酵素のD−ラクトナーゼ活性は60.4U/g wet resinと見積もられ、活性収率は14.8%であった(表3)。

(5) 固定化酵素によるラセミパントラクトンの不斉加水分解
酵素が固定化されたresin湿重量15gと35%(w/v)DL−パントラクトン75mLを30℃でpHを6.8〜7.5に保ち、穏やかに撹拌しながら反応させた。不斉加水分解は効率よく進み、副生物であるL−パント酸は検出されなかった(図6)。反応9時間後、加水分解率が40%、すなわちD体の加水分解率が80%まで進み、24時間後では45%までに達した。
【産業上の利用可能性】
本発明により、天然のラクトナーゼ遺伝子を利用し、効率よく且つ生産性に優れた該酵素を生産するシステムを作製できる技術が開発可能となり、また、該酵素および該酵素を生産するシステムを用い、効率よく且つより生産性に優れた光学活性γ−ラクトン生産システムの構築が可能となる。さらに、医学上または生理学上重要なビタミンであるD−パントテン酸、D−パンテノール、パンテチンなどを製造するすぐれたシステムを構築でき、医薬品の他、食品添加物、飼料添加物、化粧品の生産において有用である。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【配列表フリーテキスト】

【配列表】








【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−パントラクトン加水分解酵素活性を有するラクトナーゼおよびシグナルペプチド領域をコードするDNAを導入されたことを特徴とするラクトナーゼ産生形質転換体。
【請求項2】
ラクトナーゼがフサリウム属由来のものであることを特徴とする請求項1記載のラクトナーゼ産生形質転換体。
【請求項3】
配列表の配列番号:9の第1〜380番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するラクトナーゼをコードするDNAとシグナルペプチド領域をコードするDNAとからなるDNAを導入されたことを特徴とするラクトナーゼ産生形質転換体。
【請求項4】
シグナルペプチド領域が配列表の配列番号:9の第−20〜−1番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列あるいはAlpシグナルペプチド領域であることを特徴とする請求項3記載のラクトナーゼ産生形質転換体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体を培養し、組換えラクトナーゼを産生せしめ、得られた組換えラクトナーゼを得ることを特徴とするD−パントラクトン加水分解酵素活性を有する組換えラクトナーゼの製法。
【請求項6】
一般式(I)

(Rはヒドロキシル基、アミノ基を表し、R及びRはそれぞれ同一または異なり、互いに独立に、水素又は低級アルキル基を表す。)で示される化合物又はその塩を、
請求項1〜4のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体の培養物、その細胞、細胞処理物、または固定化菌体、該形質転換体から得られた組換えラクトナーゼ、及び固定化組換えラクトナーゼから成る群から選ばれたもの
に接触せしめることを特徴とする、一般式(II)

(R,R及びRはそれぞれ前記に同じ。)、又は一般式(IV)

(R,R及びRはそれぞれ前記に同じ。)で示される光学活性なγ−ラクトン誘導体又はその塩の製造方法。
【請求項7】
上記一般式(I)で示される化合物又はその塩を、請求項1〜4のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体の培養物、その細胞、細胞処理物、または固定化菌体、該形質転換体から得られた組換えラクトナーゼ、及び固定化組換えラクトナーゼから成る群から選ばれたものに接触せしめ、上記一般式(IV)で示される光学活性な化合物又はその塩を製造し、次に該光学活性な一般式(IV)で示される化合物又はその塩を使用して公知の方法あるいはそれと均等な方法又はその改変方法を適用して、パントテン酸、パントテン酸カルシウム、パンテノール、パンテテイン、パントテニールエチルエーテル、パンテチンなどのD−パントラクトン誘導体又はその塩を製造することを特徴とするD−パントラクトン誘導体又はその塩の製造方法。
【請求項8】
一般式(IV)で示される化合物、パントテン酸、パントテン酸カルシウム、パンテノール、パンテテイン、パントテニールエチルエーテル、パンテチンなどのD−パントラクトン誘導体又はその塩を製造するにあたり、請求項1〜4のいずれか一記載のラクトナーゼ産生形質転換体の培養物、その細胞、細胞処理物、または固定化菌体、該形質転換体から得られた組換えラクトナーゼ、及び固定化組換えラクトナーゼから成る群から選ばれたもの、あるいは(1)ラクトナーゼおよびシグナルペプチド領域をコードする配列を含有することを特徴とするDNA;(2)(a)ラクトナーゼ全長をコードするDNA配列及び(b)該ラクトナーゼのNH末端シグナルペプチド領域をコードするDNA配列を含有することを特徴とするDNA;及び(3)(a)ラクトナーゼ全長をコードするcDNA配列(i)又は染色体遺伝子DNA配列(ii)及び(b)該ラクトナーゼのNH末端シグナルペプチド領域をコードするDNA配列を含有することを特徴とするDNAから成る群から選ばれたDNAの使用。

【国際公開番号】WO2004/078951
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503072(P2005−503072)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002643
【国際出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【出願人】(390010205)第一ファインケミカル株式会社 (23)
【Fターム(参考)】