説明

ラクトバシラスジョンソニイNo.1088のコレステロール抑制効果を有する各種製品

【課題】抱合した胆汁酸の加水分解活性を示し、血清中のコレステロール抑制効果を有する乳酸菌を提供する。
【解決手段】ラクトバシラスジョンソニイ(Lactobacillusjohnsonii)No.1088(受託No.NITEP−278)は抱合胆汁酸に対する加水分解活性、胆汁酸耐性、コレステロール吸着作用に優れ、生体への投与によって血清中のコレステロールを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバシラス ジョンソニイNo.1088の乳酸菌で、耐酸性及び胆汁酸耐性を示し、生体への投与によって血清中のコレステロールを抑制することの特徴を持ち、当該乳酸菌を使用し、加工した各種製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラクトバシラス(Lactobacillus)属の胆汁酸耐性については数多く報告されている(非特許文献1、2参照)。
胆汁酸耐性を示し、生体への投与によって血清中のコレステロール抑制効果についても多くの報告がある(非特許文献1、2、3、4、5参照)(特許文献1、2、3、4、5参照)。
しかしながらラクトバシラス属で耐酸性や胆汁酸耐性を有し、安定的に腸内に到達し、増殖し、血清中のコレステロール抑制効果を示すとは限らない。
【非特許文献1】Dora I.A.Pereira et al Appled and Enviromental Microbiology 2003,69,4743−4752
【非特許文献2】Wan−Kyu Lee et al Bioscience Microflora 2005,24,11−16
【非特許文献3】S.E.Gillil et al Appled and Enviremental Microbiology 1985,49,377−381 Dora I.A.Pereira et al Appled and Enviromental Microbiology 2003,69,4743−4752
【非特許文献4】I.Desmet et al British Journal of Nutrition 1998,79,185−194
【非特許文献5】Wan−Ku Lee et al Bioscience Microflora 2005,24,11−16 Dora I.A.Pereira et al Appled and Enviromental Microbiology 2002,68,4689−4693
【特許文献1】特開2007−189973
【特許文献2】特開2003−306436
【特許文献3】特開2000−197469
【特許文献4】特開2000−189105
【特許文献5】特開2003−081855
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
乳酸菌による血清中のコレステロール抑制機序としては、腸管内の胆汁酸は主にタウリンやグリシンと抱合して存在する。乳酸菌はこの抱合した胆汁酸を加水分解することにより胆汁酸の腸、肝循環が阻害されることにより、肝臓のコレステロールからの胆汁酸への合成が促進され、その結果生体内のコレステロールが低下する。
本発明者は、数年前から抱合した胆汁酸の加水分解活性を示す乳酸菌に強い関心を持ち、血清中のコレステロール抑制効果の乳酸菌の探索を鋭意行ってきた
その結果、タウロデオキシコール酸ナトリウム(シグマ社)に対し、他のラクトバシラス属の乳酸菌よりも優れた加水分解活性を示し、さらに高コレステロール飼料摂取マウスに投与することにより、血清中のコレステロールを有意に抑制するラクトバシラス ジョンソニイNo.1088を見出し、更にこの乳酸菌の用途として各種製品に利用することが可能であることにより本発明を完成した。
【課題を開発するための手段】
【0004】
課題を解決する本発明は、ラクトバシラス属の乳酸菌であって
a)胆汁酸耐性を有すること
b)抱合胆汁酸に対する加水分解活性に優れている
c)生体への投与により血清中のコレステロールを抑制すること
の性質を有するラクトバシラス属の乳酸菌がラクトバシラス ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)No.1088(受託番号NITE P−278)であること。並びに本乳酸菌による発酵食品、本乳酸菌の菌末化に伴う混合食品、錠剤化等の加工することを特徴とする各種製品。
【0005】
次に発明について詳細に記載する。本発明者がヒトの胃液から分離した乳酸菌ラクトバシラス ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)No.1088(以下No.1088と略記する)さらに生体への投与によって血清中のコレステロールの抑制を示す乳酸菌である。
【0006】
本発明は、胆汁酸耐性を有し、抱合胆汁酸に対する加水分解活性に優れ、生体への投与によって血清中のコレステロール抑制効果を示すNo.1088を含有する各種製品であり、本乳酸菌により発酵したヨーグルト等の発酵食品、本乳酸菌を凍結乾燥した粉末からなる健康食品、本乳酸菌末を加工した錠剤等の健康食品や医薬品等多くの製品に使用することが可能である。
【0007】
次に試験例を示し、本発明について詳細に記載する。
【0008】
No.1088と他のラクトバシラス属乳酸菌の抱合胆汁酸(BSH)の加水分解活性
1)抱合胆汁酸の加水分解活性に優れたNo.1088と他のラクトバシラス属乳酸菌
エムアールエス(MRS)寒天培地(ベクトン・デッキンソン社製)に0.5%タウロデオキシコール酸ナトリウム(シグマ社製)及び塩化カルシウム(和光純薬社製)0.37g/L加え、121℃で15分滅菌後、10mLずつシャーレに充填し平板とする。
この平板に抗生物質検定用のステンレスカップを並べ、あらかじめエムアールエス・ブロス(MRS broth:ベクトン・デッキンソン社製)で37℃、18時間培養した乳酸菌培養液をカップに滴下し、37℃、72時間嫌気培養した。
判定はカップ周辺に抱合胆汁酸が加水分解により不溶性の胆汁酸に変換され混濁した円の径が出現する。この円の径を測定することで胆汁酸の加水分解活性とした(図1)。混濁した円の径が大きいほど活性が強いことを示す。
【表1】

結果は、表1に示す通りで標準株や他のラクトバシラス属の乳酸菌よりもNo.1088は最も強い活性を示した。
【0009】
2)胆汁及び胆汁酸耐性試験
エムアールエス・ブロス(MRS broth:ベクトン・デッキンソン社製)10mLに胆汁(オックスガル:ベクトン・デッキンソン社製)及びタウロコール酸ナトリウム(シグマ社製)を0、0.1、0.3、0.6、1.2及び2.0%になるよう加え121℃で15分滅菌した。
この液体培地にあらかじめエムアールエス・ブロス(MRS broth:ベクトン・デッキンソン社製)で37℃、18時間培養したNo.1088の培養液0.1mLを接種し、0時間、3時間、6時間、9時間、12時間及び24時間目にサンプリングし、No.1088の菌数を測定した。菌数の測定はエムアールエス・アガー(MRS agar:ベクトン・デッキンソン社製)の平板上に滅菌生理食塩水で10−1、10−3、10−5.10−7、及び10−8の希釈菌液を0.1mL滴下し、コンラージ棒でまき広げ37℃で48時間培養した。この平板に出現した集落数に希釈倍数を乗じて菌数とした。
結果は図2に示す通りでオックスガル及びタウロコール酸ナトリウム添加量を増加させることにより増殖は抑制されたが、12時間、2%の添加量まで増殖は確認できた。このことから腸管内の胆汁濃度の範囲内で十分増殖できるものと思われた。
【0010】
3)タウロコール酸ナトリウム存在下によるコレステロール抑制試験
エムアールエス・ブロス(MRS broth:ベクトン・デッキンソン社製)10mLに溶性コレステロール(シグマ社製)100mg/mL含有タウロコール酸ナトリウム(シグマ社製)を0、0.1、0.3、0.6、1.2及び2%になるように加え121℃で15分滅菌した培地に、あらかじめエムアールエス・ブロス(MRS broth:ベクトン・デッキンソン社製)で37℃、18時間培養したNo.1088を0.1mL接種し、37℃で24時間培養した。
溶媒培養液はNo.1088の菌数の測定と培養液を3000回転、15分遠心分離して上清を分取し、コレステロール量を測定した。
コレステロールの測定はエスアールエス(SRS)社に依頼し、添加したコレステロールに対する減少率(%)で示した。
結果は、図3に示したようにタウロコール酸ナトリウムの添加量に依存してNo.1088の菌数及びコレステロールの減少率は抑制された。すなわち、コレステロールの減少は、タウロコール酸添加濃度に依存することなくNo.1088の増殖性によってコレステロールの減少率(%)が決まることを示している。
【0011】
4)胆汁及び胆汁酸存在下によるコレステロール抑制試験
エムアールエス・ブロス(MRS broth:ベクトン・デッキンソン社製)に溶性コレステロール(シグマ社製)に0.3%オックスガル(シグマ社製)、5mMタウロコール酸ナトリウム(シグマ社製)、5mMタウロデオキシコール酸ナトリウム(シグマ社製)、5mMデオキシコール酸ナトリウム(シグマ社製)及び5mMコール酸ナトリウム濃度によるように調製し、121℃15分滅菌した。
上記の液体培地にあらかじめエムアールエス・ブロス(MRS broth:ベクトン・デッキンソン社製)で37℃、18時間培養した菌液を1×1010/mLに調整し、その0.1mL接種後37℃、18時間培養した。
培養液はNo.1088の生菌数の測定と培養液を3000回転で15分遠心分離して上清のコレステロールを測定した。コレステロールの測定はエスアールエス(SRL)社に依頼し、添加したコレステロールの減少率(%)で示した。
【表2】

結果は表2に示したようにオックスガル、タウロコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム存在下でコレステロールは20〜70%減少した。
SRL社のコレステロール試験法
コレステロール脱水素酵素法
測定機器 JCA−BM8000シリーズ自動分析装置(日本電子社製)
参考文献 桜井 強 医学検査 47(4)、747−752、1998
【0012】
5)高コレステロール飼料飼育マウスによるNo.1088のコレステロール抑制試験
4週令スペシフィックパソジエンフリー(SPF)バルブ・シー(BALB/C)マウス(日本クレア社)を用い、実験群として1群、通常飼料CL2(日本クレア社製)に水0.5mL連日投与マウス10匹(雄5、雌5)。2群、通常飼料CL2(日本クレア社製)にNo.1088を連日2×10/mLの生菌数0.5mL連日投与マウス10匹(雄5、雌5)。
【表3】

3群、高コレステロール飼料(日本クレア社製、表3に組成参照)に水0.5mL連日投与マウス10匹(雄5、雌5)。4群、高コレステロール飼料(日本クレア社製)にNo.1088を連日2×10/mLの生菌数を0.5mL連日投与マウス10匹(維5、雌5)とした。
体重は1週間ずつ測定した。マウスは投与12週目に糞便中の菌叢の検索及びマウスを屠殺して体重を測定後、血液を採取し、さらに肝重量と下腹部精巣及び卵巣周囲の脂肪重量を測定した。
血液は血清を分取してコレステロール測定用のサンプルとした。
コレステロールの測定はエスアールエル(SRL)社に依頼した。
体重の増加率(%)は図4に示し、高コレステロール飼料飼育マウスにNo.1088投与した雌の体重が抑制されたがそれ以外の実験群マウスに大きな違いは見られなかった。
肝重量及び下腹部精巣及び卵巣周囲の脂肪重量は通常飼料(CL2)に比べ高脂肪飼育マウスでは有意に増加し、高コレステロール飼料マウスにNo.1088を投与すると水投与に比べ体重に対する肝の重量%と下腹部精巣及び卵巣周囲の脂肪量で有意な減少が見られた。それ以外の実験群マウスに著名な差は認められなかった。(表4)
【表4】

血清中のコレステロールの値は、通常飼料(CL2)の場合、雌マウスでNo.1088の投与によって投与前の値よりも低下したが、雄では変わらなかった。その要因として雌の体重の増加率が低かったことによるかもしれない。
高コレステロール飼料飼育マウスの場合、No.1088の投与によって水投与に比べ雄のコレステロールは10%抑制され、雌は16%と有意な抑制がみられ平均で13%の抑制が見られた(図5)。
Hjermannはコレステロール値が1%低下するとコレステロール血症のリスクは2%減少するといわれており(非特許文献6参照)、このことを鑑みるとNo.1088は、コレステロール血症の予防食品としてヒトへの応用が期待される。
【非特許文献6】Hjermann.I,et al 1981 Lancet ii:1303
【0013】
次に本発明を実施するための最良の形態について、実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
エムアールエス・ブロス(MRS broth:ベクトン・デッキンソン社製)10LにNo.1088を生菌数濃度1×10/mLの割合で接種し、37℃で15時間培養し、培養終了後、遠心分離による集菌し、集菌した菌体を濃度0.85%の滅菌精製水に懸濁し、遠心分離により洗浄した菌体を集菌し、10%の脱脂粉乳及び1%のグルタミン酸ナトリウムを含有する溶液に洗浄した菌体を懸濁し、常法により凍結乾燥し、約50gの乾燥菌末を製造した。得られた乾燥菌末の生菌数を前記試験例1と同一の方法により試験した結果2.0×1011/gであった。
【0015】
前期No.1088の乾燥菌体10gを水分3%以下の市販デキストリン(松谷化学社製。パンデックス)4.99kgに倍散し、乳酸菌末約5kgを製造した。得られた乳酸菌末の生菌数を前記試験例1と同一の方法により測定した結果4.0×10/gであった。
【実施例2】
【0016】
殺菌した原料乳10kgに、スターターとしてNo.1088、ラクトバシラス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)(市販ヨーグルトから分離した菌株)及びストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(市販ヨーグルトから分離した菌株)の等量混合菌末を2%の割合で添加したことを除き、常法のタンク発酵タイプによりタンク内で発酵させ、約10kgのヨーグルトを製造した。
【実施例3】
【0017】
実施例1で得られたNo.1088の乾燥菌体2.0kgを、約0.3gずつそのまま打錠し、約6,500個の錠剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上記載したとおりNo.1088は優れた胆汁酸耐性、優れた抱合胆汁酸加水分解能、コレステロール吸着能、さらに生体への投与によって血清中のコレステロールを抑制することから、発酵食品、健康食品、機能性食品、医薬品等広範囲な製品に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】BSH活性の測定方法
【図2】胆汁及び胆汁酸耐性試験
【図3】タウロコール酸ナトリウム存在下によるコレステロール抑制試験
【図4】体重増加率の変化
【図5】血清コレステロール抑制効果
【0020】
「表1」No.1088と他のラクトバシラス属乳酸菌の抱合胆汁酸(BSH)の分解活性
「表2」胆汁及び胆汁酸存在下によるコレステロール抑制試験
「表3」高コレステロール飼料組成
「表4」体重、肝重量、下腹部精巣及び卵巣周囲脂肪量の変化(投与12W)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバシラス属の乳酸菌であって次のa)乃至d)
a)胆汁酸耐性に優れている
b)抱合胆汁酸に対する加水分解活性が優れている
c)コレステロール吸着作用が優れている
d)生体への投与によって血清中のコレステロールを抑制すること
上記の性質を有することを特徴とするラクトバシラス属の乳酸菌がラクトバシラス ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)No.1088(受託番号NITE P−278)
【請求項2】
ラクトバシラス ジョンソニイNo.1088乳酸菌による発酵菌末化又は錠剤化等各種製品

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−217715(P2011−217715A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100323(P2010−100323)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(593206894)スノーデン株式会社 (10)
【Fターム(参考)】