説明

ラジアルすべり軸受及び回転軸の軸受構造

【課題】回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する場合に、低温時に潤滑油の昇温を促進させ、高温時に潤滑油の循環を促進させる。
【解決手段】裏金32においては、内周側の高熱膨張率裏金層35の熱膨張率が外周側の低熱膨張率裏金層34の熱膨張率より高い。低温時には、オイルリリーフ36が狭くなることで、クランクピン18と軸受合金層33との間の隙間に充填された潤滑油の排出が抑制される。一方、高温時には、内周側の高熱膨張率裏金層35の熱膨張量が外周側の低熱膨張率裏金層34の熱膨張量より大きくなる裏金32の熱膨張により、オイルリリーフ36が広くなることで、クランクピン18と軸受合金層33との間の隙間に充填された潤滑油の排出が促進される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアルすべり軸受及び回転軸の軸受構造に関し、特に、裏金の内周側にライニング層が形成され、回転軸を潤滑油を介してライニング層で支持する、半割り構造のラジアルすべり軸受、及び回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する回転軸の軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸を潤滑油を介して支持する軸受構造の関連技術が下記特許文献1,2に開示されている。特許文献1のすべり軸受では、ベアリングメタルの軸方向両端部の厚さが中央部の厚さよりも厚くなるようにベアリングメタルを曲面加工するとともに、ベアリングメタル表面に円周方向の条痕溝を多数設けている。これによって、すべり軸受の軸受全面積に渡って高い油膜圧力を保持し、軸受の潤滑性能の向上、及びベアリング打音の低減を図っている。
【0003】
また、特許文献2の軸受構造では、低温域から中温域にかけて負の熱膨張率を有し、中温域から高温域にかけて正の熱膨張率を有する熱膨張材料により軸受ハウジングを構成することで、潤滑油が供給される、軸受ハウジングと回転軸との間の隙間を、低温域では大きくし、中温域では小さくし、高温域では再度大きくしている。これによって、低温域における摩擦の抑制、中温域における燃費悪化の抑制、高温域における油膜切れの抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−256320号公報
【特許文献2】特開2008−309199号公報
【特許文献3】特開2005−264179号公報
【特許文献4】特開2006−283905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する場合に、低温時には、潤滑油の粘度が高いため、回転軸が回転するときの粘性摩擦損失が大きくなる。粘性摩擦損失を小さくするためには、潤滑油の温度を速やかに上昇させて潤滑油の粘度を速やかに低くする必要があり、そのためには、軸受と回転軸との間の隙間に供給された潤滑油を滞留させ、滞留した潤滑油自体の攪拌発熱により潤滑油の昇温を促進させることが望ましい。一方、潤滑油の粘度が低く、粘性摩擦損失が小さい高温時において、潤滑油による潤滑性能・冷却性能を向上させるためには、軸受と回転軸との間の隙間に供給された潤滑油の排出を促進させて、潤滑油の循環を促進させることが望ましい。
【0006】
特許文献1では、ベアリングメタルと回転軸との間の隙間は、低温時・高温時に関係なく、軸方向両端部が中央部より小さくなる。そのため、低温時においては、ベアリングメタルと回転軸との間の隙間に滞留する潤滑油の攪拌発熱により潤滑油の昇温を図ることが可能となるものの、高温時においても、ベアリングメタルと回転軸との間の隙間に潤滑油が滞留して潤滑油の循環が促進されなくなる。さらに、高温時において、ベアリングメタルの軸方向両端部と回転軸が接触して磨耗・焼付きが生じる虞がある。
【0007】
また、特許文献2では、低温時において、軸受ハウジングと回転軸との間の隙間が大きくなって潤滑油が滞留しないため、滞留した潤滑油自体の攪拌発熱により潤滑油の昇温を促進させることが困難である。そのため、潤滑油の昇温により潤滑油の粘度を速やかに低くして粘性摩擦損失を小さくすることは困難である。
【0008】
本発明は、回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する場合に、低温時に潤滑油の昇温を促進させ、高温時に潤滑油の循環を促進させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るラジアルすべり軸受及び回転軸の軸受構造は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0010】
本発明に係るラジアルすべり軸受は、裏金の内周側にライニング層が形成され、回転軸を潤滑油を介してライニング層で支持する、半割り構造のラジアルすべり軸受であって、裏金は、ライニング層より厚い第1の裏金層と、第1の裏金層とライニング層との間に配置され、ライニング層より厚い第2の裏金層と、を含み、第2の裏金層の熱膨張率が第1の裏金層の熱膨張率より高いことを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、低温時においては、ラジアルすべり軸受の割り面近傍での回転軸に対する隙間(オイルリリーフ)が狭くなることで、ライニング層と回転軸との間の隙間に供給された潤滑油が滞留し、この潤滑油の攪拌発熱により潤滑油の昇温を促進させることができる。一方、高温時においては、内周側の第2の裏金層の熱膨張量が外周側の第1の裏金層の熱膨張量より大きくなる裏金の熱膨張により、ラジアルすべり軸受の割り面近傍での回転軸に対する隙間(オイルリリーフ)が広くなることで、ライニング層と回転軸との間の隙間に供給された潤滑油の排出を促進させることができ、潤滑油の循環を促進させることができる。
【0012】
本発明の一態様では、裏金は、回転軸方向の両端部より中央部が外周側へ窪んでいることが好適である。
【0013】
上記構成によれば、低温時においては、ラジアルすべり軸受の回転軸方向両端部での回転軸に対する隙間(サイドクリアランス)が狭くなることで、ライニング層と回転軸との間の隙間に供給された潤滑油が滞留し、この潤滑油の攪拌発熱により潤滑油の昇温を促進させることができる。一方、高温時においては、内周側の第2の裏金層の熱膨張量が外周側の第1の裏金層の熱膨張量より大きくなる裏金の熱膨張により、ラジアルすべり軸受の回転軸方向両端部での回転軸に対する隙間(サイドクリアランス)が広くなることで、ライニング層と回転軸との間の隙間に供給された潤滑油の排出を促進させることができ、潤滑油の循環を促進させることができる。
【0014】
本発明の一態様では、ラジアルすべり軸受は、内燃機関のコネクティングロッドの大端部に装着され、前記回転軸としてクランクシャフトのクランクピンを潤滑油を介してライニング層で支持することが好適である。
【0015】
また、本発明に係る回転軸の軸受構造は、回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する回転軸の軸受構造であって、前記ラジアルすべり軸受が、本発明に係るラジアルすべり軸受であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する場合に、低温時に潤滑油の昇温を促進させることができ、高温時に潤滑油の循環を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受が用いられる内燃機関のコネクティングロッドの概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造の概略を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造の概略を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受の作用を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受が用いられる内燃機関のコネクティングロッドの概略構成を示す図であり、図2,3は、本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造の概略を示す図である。図1,2は回転軸方向から見た図を示し、図3は回転軸方向に垂直な方向から見た図を示す。ただし、図1〜3を含む各図において、ラジアルすべり軸受(大端部軸受)の厚さや、回転軸(クランクピン)とラジアルすべり軸受(大端部軸受)との間の隙間等のサイズについては、説明の便宜上、実際のサイズよりも大きく図示している。
【0020】
内燃機関のコネクティングロッド10は、ピストン11の往復直線運動を図示しないクランクシャフトに伝達して回転運動に変換する部品である。図1に示すように、コネクティングロッド10は、ピストン11側の小端部12と、クランクシャフト側の大端部13と、小端部12と大端部13との間を繋ぐコラム部14とから構成されている。なお、コネクティングロッド10は、ニッケル・クロム鋼、クロム・モリブデン鋼、チタン合金などの材料から構成され、高い機械的強度が要求される部材である。
【0021】
小端部12は、ピストン11との接続部であって、ピストン11に連結されたピストンピン15が挿通される小端部貫通孔16が形成されている。そして、小端部貫通孔16には、ピストンピン15を支持するための小端部軸受17が設けられる。小端部軸受17は、例えば、爆発行程における高荷重を、ピストン11を介して受けるため、高い負荷容量が要求される。小端部12の運動形態は、コネクティングロッド10全体の往復運動と大端部13の回転運動との合成から揺動運動となるため、小端部軸受17には、軸受内周面の広い範囲に亘って高荷重が作用する。したがって、軸受内周面には、例えば、大端部13に形成される図示しないジェット孔や連通孔から潤滑油が給油され、潤滑油を介して軸荷重を支持する。
【0022】
大端部13は、クランクシャフトとの接続部であって、クランクシャフトのクランクピン18が挿通される大端部貫通孔19が形成されている。そして、大端部貫通孔19には、クランクピン18を支持するための大端部軸受30が設けられる。なお、大端部13は、コラム部14と一体成形された大端部本体20と大端部本体20に締結されるキャップ21とから構成され、大端部本体20にキャップ21を締結して形成される大端部貫通孔19に半割り構造の大端部軸受30が装着される。
【0023】
コラム部14は、上記のように、小端部12と大端部13との間を繋ぐ部分であって、一般的に、コラム部14、小端部12、及び大端部本体20は一体成形される。コラム部14には、大端部13から小端部12に潤滑油を供給するために、例えば、図示しない連通孔が形成される。また、クランクピン18は、上記のように、クランクシャフトと大端部13とを接続する軸であって、ピストン11の往復動による力を受けて回転すると共に、その力をクランクシャフトに伝達するための部材である。
【0024】
上記のように、コネクティングロッド10がピストン11とクランクシャフトのクランクピン18とを連結することにより、エンジンの作動時にピストン11が図示しないシリンダ内を往復運動すると、その往復運動がコネクティングロッド10を介してクランクシャフトの回転運動に変換され、クランクシャフトの回転動力がエンジン出力として得られる仕組みになっている。
【0025】
大端部軸受30は、回転軸であるクランクピン18を潤滑油を介して支持するラジアルすべり軸受(ジャーナルすべり軸受とも称される)であり、図2に示すように、回転軸の周方向に関して2分割された略半円筒形状の半割り軸受31により構成される。一方の半割り軸受31は軸受支持部材としての大端部本体20に装着され、他方の半割り軸受31は軸受支持部材としてのキャップ21に装着され、2つの半割り軸受31の周方向に関する両端部同士を合わせることで、略円筒形状の大端部軸受30が構成される。半割り軸受31は、裏金32と、裏金32の内周側に形成されたライニング層としての軸受合金層33とを含んで構成される。クランクシャフトには、給油路が形成されており、この給油路を経てクランクピン18の外周面と軸受合金層33との間の隙間に潤滑油が供給される。半割り構造の大端部軸受30は、クランクピン18を潤滑油を介してライニング層(軸受合金層33)で支持する。ここでの潤滑油は、油膜を形成することにより、軸と軸受が焼き付くことなく機関を運転すること、軸と軸受内周面との摩擦損失や磨耗を低減することを主な役割とするが、冷却、洗浄、防錆等の役割も果たしている。
【0026】
本実施形態では、裏金32は、低熱膨張率裏金層34と、低熱膨張率裏金層34と軸受合金層33との間(低熱膨張率裏金層34の内周側)に配置された高熱膨張率裏金層35とを含んで構成されるバイメタル構造であり、低熱膨張率裏金層34及び高熱膨張率裏金層35はいずれも正の熱膨張率を有し、さらに、内周側の高熱膨張率裏金層35の熱膨張率が外周側の低熱膨張率裏金層34の熱膨張率より高い。高熱膨張率裏金層35の厚さは低熱膨張率裏金層34の厚さに等しく(あるいはほぼ等しく)、低熱膨張率裏金層34の厚さ及び高熱膨張率裏金層35の厚さは、いずれも軸受合金層33の厚さより厚い。低熱膨張率裏金層34の種類としては、例えば鋼等が挙げられ、高熱膨張率裏金層35の種類としては、例えばアルミニウム合金や銅合金等が挙げられる。また、軸受合金層33の種類としては、例えば銅−鉛合金やアルミニウム合金等が挙げられる。なお、軸受合金層33の内周側にオーバーレイを形成することも可能である。
【0027】
さらに、本実施形態では、半割り軸受31(裏金32及び軸受合金層33)は、図3に示すように、回転軸方向の両端部より中央部が外周側へ窪むように回転軸方向に関して湾曲している。これによって、半割り軸受31(軸受合金層33)のクランクピン18に対するクリアランスは、回転軸方向の両端部が中央部より狭くなる。この状態では、半割り軸受31(裏金32)は、回転軸方向に関しては、中央部で軸受支持部材としての大端部13(大端部本体20またはキャップ21)に接触し、回転軸方向の両端部では大端部13(大端部本体20またはキャップ21)との間に微小クリアランスが形成される。また、半割り軸受31(裏金32)は、周方向に関しては、合わせ面(両端部)付近で大端部13(大端部本体20またはキャップ21)との間に微小クリアランスが形成される。
【0028】
内燃機関の冷間始動直後等、半割り軸受31の温度が低いときは、図2に示すように、半割り軸受31の合わせ面近傍でのクランクピン18に対するクリアランス(オイルリリーフ)36が狭くなることにより、クランクピン18と軸受合金層33との間の隙間に充填された潤滑油の排出が抑制される。さらに、半割り軸受31の温度が低いときは、図3に示すように、半割り軸受31(裏金32)の回転軸方向の両端部が中央部より内周側(クランクピン18側)に張り出しており、半割り軸受31の回転軸方向両端部でのクランクピン18に対するクリアランス(サイドクリアランス)37が狭くなることによっても、クランクピン18と軸受合金層33との間の隙間に充填された潤滑油の排出が抑制される。
【0029】
低温時においては、潤滑油の粘度が高く、クランクピン18が大端部13に対して回転するときの粘性摩擦損失が大きくなりやすいが、本実施形態では、低温時において、オイルリリーフ36及びサイドクリアランス37が狭くなる。そのため、低温時においては、クランクピン18と軸受合金層33との間の隙間に充填された潤滑油が滞留し、滞留した潤滑油自体の攪拌発熱により潤滑油の温度上昇が促進される。これによって、潤滑油の粘度を速やかに低くすることができ、クランクピン18が大端部13に対して回転するときの粘性摩擦損失を低減することができる。
【0030】
内燃機関の運転とともに半割り軸受31の温度が上昇すると、裏金32が熱膨張する。裏金32の熱膨張の際には、高熱膨張率裏金層35の熱膨張率が低熱膨張率裏金層34の熱膨張率より高いため、内周側の高熱膨張率裏金層35の熱膨張量が外周側の低熱膨張率裏金層34の熱膨張量より大きくなる。そのため、内燃機関の定常運転時等、半割り軸受31の温度が高いときは、半割り軸受31の温度が低いときと比較して、裏金32の周方向に関する曲率が小さくなり、図4に示すように、半割り軸受31の合わせ面近傍でのクランクピン18に対するクリアランス(オイルリリーフ)36が広くなる。これによって、クランクピン18と軸受合金層33との間の隙間に充填された潤滑油の排出が促進される。この状態では、半割り軸受31(裏金32)は、周方向に関して合わせ面(両端部)付近でも大端部13(大端部本体20またはキャップ21)と接触する。
【0031】
さらに、半割り軸受31の温度が高いときは、半割り軸受31の温度が低いときと比較して、裏金32の回転軸方向に関する曲率も小さくなり、図5に示すように、半割り軸受31の回転軸方向両端部でのクランクピン18に対するクリアランス(サイドクリアランス)37が広くなる。これによっても、クランクピン18と軸受合金層33との間の隙間に充填された潤滑油の排出が促進される。この状態では、半割り軸受31(裏金32)は、回転軸方向の両端部でも大端部13(大端部本体20またはキャップ21)と接触する。その際には、内燃機関の定常運転時に相当する温度において、半割り軸受31のクランクピン18に対するクリアランスが回転軸方向において均一となる(回転軸方向の両端部と中央部とで等しくなる)ように、低温時における裏金32の回転軸方向に関する曲率を設計することが好ましい。
【0032】
このように、本実施形態では、潤滑油の粘度が低く、粘性摩擦損失が小さい高温時において、裏金32の熱膨張によりオイルリリーフ36及びサイドクリアランス37が広くなる。したがって、高温時において、潤滑油の循環を促進することができ、潤滑油による潤滑性能・冷却性能を向上させることができる。
【0033】
以上説明した本実施形態では、2分割された半割り軸受31の両方について、裏金32を低熱膨張率裏金層34と高熱膨張率裏金層35によるバイメタル構造にすることが可能である。ただし、本実施形態では、2分割された半割り軸受31のいずれか一方について、裏金32を低熱膨張率裏金層34と高熱膨張率裏金層35によるバイメタル構造にすることも可能である。なお、特許文献3,4のように、1層の(バイメタル構造でない)裏金上に軸受合金層を形成した構造では、軸受合金層の厚さが裏金と比べて薄く、低温時にオイルリリーフやサイドクリアランスを狭くし、高温時に熱膨張によってオイルリリーフやサイドクリアランスを広くする作用を十分に得ることは困難である。
【0034】
一般に、厚さh1、弾性定数E1、線膨張率α1の材料1と、厚さh2、弾性定数E2、線膨張率α2の材料2とによる、長さlのバイメタル構造において、温度がΔTだけ上昇したときに端部に発生する変位δは、以下の(1)式で表される(金属便覧6.6節p942参照)。
【0035】
δ=6×ΔT×(α1−α2)×l2×m×n
/[(h1+h2)×(m+1)×(n+1)×(m×n+1)] (1)
ただし、m=E2/E1,n=h2/h1
【0036】
本実施形態において、低熱膨張率裏金層34(材料1)を厚さh1=1.25mmの鋼(E1=2.1×1011Pa、α1=1.1×10-5)とし、高熱膨張率裏金層35(材料2)を厚さh2=1.25mmのアルミニウム合金(E2=7.0×1010Pa、α2=2.2×10-5)とすると、ΔT=50℃(例えば20℃→70℃)の温度上昇が生じたときに、(1)式より、径40mmの軸受オイルリリーフ位置におけるクリアランス変化は約0.11mmとなり、回転軸方向の幅15mmの軸受端部と中央部のクリアランス変化は約7μmとなる。一方、1層の(バイメタル構造でない)裏金上に軸受合金層を形成した構造において、裏金(材料1)を厚さh1=2.3mmの鋼(E1=2.1×1011Pa、α1=1.1×10-5)とし、軸受合金層(材料2)を厚さh2=0.2mmのアルミニウム合金(E2=7.0×1010Pa、α2=2.2×10-5)とすると、ΔT=50℃の温度上昇が生じたときに、(1)式より、径40mmの軸受オイルリリーフ位置におけるクリアランス変化は約0.02mmとなり、回転軸方向の幅15mmの軸受端部と中央部のクリアランス変化は約1.4μmとなる。したがって、特許文献3,4のように、1層の(バイメタル構造でない)裏金上に軸受合金層を形成した構造では、熱膨張によるクリアランス変化が小さく、低温時にオイルリリーフやサイドクリアランスを狭くし、高温時に熱膨張によってオイルリリーフやサイドクリアランスを広くする作用を十分に得ることが困難となる。
【0037】
以上の説明では、本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造として、コネクティングロッド10の大端部軸受30を例に挙げて説明した。ただし、本発明に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造は、コネクティングロッド10の大端部軸受30以外に、例えばカムシャフト用軸受等のその他のエンジン部材用軸受にも適用することが可能であり、さらに、エンジン部材用軸受以外の用途に適用することも可能である。このように、本発明に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造は、回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する構造であれば、種々の軸受に適用することが可能である。
【0038】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
10 コネクティングロッド、11 ピストン、12 小端部、13 大端部、14 コラム部、15 ピストンピン、16 小端部貫通孔、17 小端部軸受、18 クランクピン、19 大端部貫通孔、20 大端部本体、21 キャップ、30 大端部軸受、31 半割り軸受、32 裏金、33 軸受合金層、34 低熱膨張率裏金層、35 高熱膨張率裏金層、36 オイルリリーフ、37 サイドクリアランス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏金の内周側にライニング層が形成され、回転軸を潤滑油を介してライニング層で支持する、半割り構造のラジアルすべり軸受であって、
裏金は、ライニング層より厚い第1の裏金層と、第1の裏金層とライニング層との間に配置され、ライニング層より厚い第2の裏金層と、を含み、
第2の裏金層の熱膨張率が第1の裏金層の熱膨張率より高い、ラジアルすべり軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のラジアルすべり軸受であって、
裏金は、回転軸方向の両端部より中央部が外周側へ窪んでいる、ラジアルすべり軸受。
【請求項3】
請求項1または2に記載のラジアルすべり軸受であって、
ラジアルすべり軸受は、内燃機関のコネクティングロッドの大端部に装着され、前記回転軸としてクランクシャフトのクランクピンを潤滑油を介してライニング層で支持する、ラジアルすべり軸受。
【請求項4】
回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する回転軸の軸受構造であって、
前記ラジアルすべり軸受が、請求項1〜3のいずれか1に記載のラジアルすべり軸受である、回転軸の軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−231903(P2011−231903A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104897(P2010−104897)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】