説明

ラジアル型ピストンモータ装置

【課題】回転軸心に沿った方向の寸法をさらに短縮化する。
【解決手段】ラジアルピストンモータ100から回転駆動力が与えられた場合にこれを減速して出力する複数段の遊星歯車機構200,300を備えたラジアル型ピストンモータ装置であって、最終段となる第2遊星歯車機構300と、第2遊星歯車機構300の第2サンギア301に回転駆動力を出力する第1遊星歯車機構200との間にモータケース10と一体となるキャリア構成部11aを延在し、キャリア構成部11aに第2遊星歯車機構300の第2プラネタリキャリア305を一体に形成し、モータケース10の内部において初段となる第1遊星歯車機構200の外方域を覆う部位に第1アウタギア202以上の外径を有したベアリングホルダ部13を着脱可能に配設し、ベアリングホルダ部13に設けたベアリングBを介してラジアルピストンモータ100のシリンダブロック110を回転可能に支承している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックに設けたシリンダに圧油が供給された場合にピストンを行程移動させることによりシリンダブロックが所定の回転軸心回りに回転駆動するラジアルピストンモータと、前記ラジアルピストンモータから回転駆動力が与えられた場合にこれを減速して出力する複数段の遊星歯車機構とを備えたラジアル型ピストンモータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、減速歯車列として複数段の遊星歯車機構を適用し、ラジアルピストンモータの回転駆動力を出力するようにしたラジアル型ピストンモータ装置が提供されている。例えば特許文献1では、ラジアルピストンモータの出力端となる軸部材を第1サンギアとして第1遊星歯車機構を構成するとともに、第1遊星歯車機構の第1プラネタリキャリアと一体に回転する歯車を第2サンギアとして第2遊星歯車機構を構成したものが示されている。
【0003】
第1遊星歯車機構では、第1アウタギアがモータケースに直接設けられており、第1プラネタリキャリアが出力となっている。また、第2遊星歯車機構では、第1プラネタリキャリアの回転に伴って第2サンギアが回転し、第2アウタギアが出力となっている。
【0004】
上記のように構成されたラジアル型ピストンモータ装置では、圧油を供給することによってラジアルピストンモータを駆動すると、その回転駆動力が第1遊星歯車機構及び第2遊星歯車機構に順次伝達され、第2遊星歯車機構の第2アウタギアから出力されることになる。第2アウタギアからの出力は、ラジアルピストンモータの回転に対して大きく減速され、低速かつ大トルクとなる。従って、上記ラジアル型ピストンモータ装置は、建設機械等のように、走行速度が比較的低速で、大きなトルクが必要となる車両用の走行モータとして好適なものとなる。
【0005】
ここで、ピストンが回転軸心に対して放射状に配置されるラジアル型ピストンモータ装置は、元々アキシャル型のものに比べて回転軸心に沿った方向の長さを短く構成することができる。しかしながら、昨今においては更なる短縮化が要望されている。このため、上述した特許文献1に記載のものにあっては、モータケースと一体に中空のファイナルシャフトを構成するとともに、このファイナルシャフトの内部に第1遊星歯車機構を収容するようにしている。こうしたラジアル型ピストンモータ装置によれば、ファイナルシャフトの外部に第1遊星歯車機構を配置する場合に比べて回転軸心に沿った方向の短縮化を図ることが可能となる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−232556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、第2遊星歯車機構において第2サンギアから回転駆動力を入力し、かつこれを第2アウタギアから出力する場合には、第2プラネタリキャリアの回転を阻止する必要がある。第2プラネタリキャリアの回転を阻止するには、これをモータケースに連結させれば良い。但し、第2プラネタリキャリアをモータケースに連結する構成とした場合にも、この第2遊星歯車機構と、モータケースに収容されたラジアルピストンモータとの間に第1遊星歯車機構を構成しなければならないため、第1遊星歯車機構をモータケースに収容させるための手法は確保しておく必要がある。
【0008】
このため、上述した特許文献1に記載のラジアル型ピストンモータ装置では、第2プラネタリキャリアとモータケースとの間をスプラインによって互いに着脱可能に歯合させ、モータケースに対する第2プラネタリキャリアの回転を阻止するように構成している。すなわち、第1遊星歯車機構の構成要素をすべてモータケースに組み込んだ後に、スプラインによって第2プラネタリキャリアをモータケースに歯合させることにより、両者の相対的な回転を阻止するようにしている。
【0009】
こうしたラジアル型ピストンモータ装置によれば、第1遊星歯車機構をモータケースに収容させた状態で第2プラネタリキャリアのモータケースに対する回転が阻止される。従って、ラジアルピストンモータの回転を、第1遊星歯車機構を介して第2遊星歯車機構の第2アウタギアから出力させることができるようになり、大きなトルクを得ることができるようになる。
【0010】
しかしながら、モータケースに対して着脱可能に構成される第2プラネタリキャリアとしては、第2プラネタリギアに加えられる荷重に対して単体でこれを支持しなければならない。特に、第2プラネタリギアを支承する軸部材に対しては、運転中に傾動することがないように、十分な強度を確保する必要がある。従って、第2プラネタリキャリアとしては、回転軸心に沿った方向の板厚を確保する必要がある。
【0011】
さらに、第2プラネタリキャリアにスプラインを設ける場合には、必要となるスプラインの歯幅(回転軸心に沿った方向の長さ)に対してほぼ1/4程度の逃げを確保する必要がある。この逃げは、スプライン加工において円盤状のカッター刃を適用する場合に必須となるものである。
【0012】
これらの結果、特許文献1に記載のものにあっては、回転軸心に沿った方向の寸法を思った以上に短縮化できない事態が発生し得ることになる。
【0013】
本発明は、上記実情に鑑みて、回転軸心に沿った方向の寸法を短縮化することのできるラジアル型ピストンモータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係るラジアル型ピストンモータ装置は、シリンダブロックに設けたシリンダに圧油が供給された場合にピストンを行程移動させることによりシリンダブロックが所定の回転軸心回りに回転駆動するラジアルピストンモータと、前記ラジアルピストンモータから回転駆動力が与えられた場合にこれを減速して出力する複数段の遊星歯車機構とを備えたラジアル型ピストンモータ装置であって、最終段となる最終遊星歯車機構と、この最終遊星歯車機構のサンギアに回転駆動力を出力する遊星歯車機構との間にモータケースと一体となるキャリア構成部を延在し、このキャリア構成部に最終遊星歯車機構のプラネタリキャリアを一体に形成する一方、前記モータケースの内部において初段となる第1遊星歯車機構の外方域を覆う部位に該第1遊星歯車機構の第1アウタギア以上の外径を有したホルダ部材を着脱可能に配設し、かつこのホルダ部材に設けたベアリングを介して前記ラジアルピストンモータのシリンダブロックを回転可能に支承したことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項2に係るラジアル型ピストンモータ装置は、上述した請求項1において、前記モータケースの内周面及び前記ホルダ部材の外周面の少なくとも一方に油溝を形成し、ホルダ部材をモータケースに装着した場合に前記油溝により両者の間に油路を構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、モータケースの内部において初段となる第1遊星歯車機構の外方域を覆う部位に該第1遊星歯車機構の第1アウタギア以上の外径を有したホルダ部材を着脱可能に配設し、かつ最終遊星歯車機構のプラネタリキャリアをモータケースと一体に形成している。すなわち、ホルダ部材を着脱可能に構成することにより、モータケースに対して複数段の遊星歯車機構を収容させることができる一方、最終段のプラネタリキャリアをモータケースと一体のキャリア構成部に形成することができるようになる。従って、最終遊星歯車機構のプラネタリキャリアとしては、単体でプラネタリギアに加えられる荷重を支持する必要がなく、板厚を増大して強度を確保する等の考慮が不要となる。さらに、スプライン加工を施す必要もないため、プラネタリキャリアにカッター刃の逃げとなる寸法を確保する必要もない。これらの結果、回転軸心に沿った方向の寸法をさらに短縮化することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るラジアル型ピストンモータ装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
図1〜図6は、本発明の実施の形態であるラジアル型ピストンモータ装置を示したものである。ここで例示するラジアル型ピストンモータ装置は、建設機械の走行用モータとして適用されるもので、モータケース10を備えている。モータケース10は、本体ケース部11、カバーケース部12及びベアリングホルダ部(ホルダ部材)13を備えたもので、これらを組み合わせることによって構成してある。
【0019】
本体ケース部11は、モータケース10の主要部を構成するもので、その中心部に大径の収容孔14を有している。カバーケース部12は、本体ケース部11の一端部において収容孔14の開口を閉塞する態様で本体ケース部11に装着されるものである。ベアリングホルダ部13は、中心孔を有した略円盤状を成すもので、その外周面を介して本体ケース部11の収容孔14に着脱可能に配設されるものである。このベアリングホルダ部13は、本体ケース部11の収容孔14においてカバーケース部12との間に囲まれる空間を2分割し、収容孔14の内部に遊星歯車収容部15及びモータ収容部16を画成する隔壁として機能する。
【0020】
図1及び図2からも明らかなように、本体ケース部11の収容孔14は、カバーケース部12が装着される開口端部に向けて漸次内径が僅かずつ大きくなるように構成してある。具体的には、ベアリングホルダ部13が装着される部分の内径が遊星歯車収容部15よりも大きくなるように構成し、またこのベアリングホルダ部13が装着される部分よりもモータ収容部16の内径が大きくなるように構成してある。
【0021】
上述したモータケース10には、モータ収容部16にラジアルピストンモータ100が収容してある。ラジアルピストンモータ100は、可変容量型の油圧モータであり、シリンダブロック110、カムリング120、シューリング130、ピントル140を備えて構成してある。
【0022】
シリンダブロック110は、中心部に軸状部111を有した円板状部材である。このシリンダブロック110は、ベアリングホルダ部13の内周部及びカバーケース部12の内周部にそれぞれ設けたベアリングBを介して支承されており、軸状部111の軸心を回転軸心CRとして回転することが可能である。シリンダブロック110には、中心孔112及び複数のシリンダ113が設けてある。
【0023】
中心孔112は、回転軸心CRを中心として軸状部111に形成した円柱状の孔であり、カバーケース部12に向けて開口している。図1及び図2からも明らかなように、中心孔112においてベアリングホルダ部13の内周側に位置する部位は細径に構成してある。この中心孔112において細径に構成した部分には、その端部内周面にモータ出力用スプライン114が形成してある。尚、図1中の符号1は、シリンダブロック110における軸状部111の外周面と、ベアリングホルダ部13との間に介在させたオイルシール部材である。また符号2は、シリンダブロック110の中心孔112においてベアリングホルダ部13の内周側に位置する部位に配設したオイルシール栓部材である。これらオイルシール部材1及びオイルシール栓部材2は、本体ケース部11の収容孔14においてモータ収容部16と遊星歯車収容部15との間の油が混在するのを防止するものである。
【0024】
複数のシリンダ113は、図1〜図3に示すように、回転軸心CRに対してそれぞれ径方向に沿う態様で形成したものである。それぞれのシリンダ113は、個々の軸心が回転軸心CRに直交する同一の基準面M上に位置し、かつシリンダブロック110の外周面において互いに等間隔となる部位に開口している。シリンダ113において中心孔112に近接する端部には、それぞれ連絡油路115が設けてある。連絡油路115は、シリンダ113と中心孔112との間を連通するものであり、それぞれ中心孔112において上述した基準面Mに位置する部位に開口している。
【0025】
このシリンダブロック110には、個々のシリンダ113にピストン116が往復移動可能に収容してある。ピストン116は、その先端部とシリンダ113との間に圧力室を画成するものである。各ピストン116には、それぞれピストンシュー117が設けてある。ピストンシュー117は、図4に示すように、一端部に球状の頭部117aを有する一方、他端部に摺接部117bを有したもので、摺接部117bがピストン116の他端部から延在する態様で頭部117aを介してピストン116に傾動可能に取り付けてある。ピストンシュー117の摺接部117bには、図3に示すように、他端となる部位に円筒状に凸となる摺接面117cが構成してある。
【0026】
カムリング120は、図1及び図3に示すように、円筒状の内周面を有するカム部121と、カム部121の一側から中心に向けて延在したフランジ部122とを一体に成形した環状部材である。このカムリング120には、外周面に一対のスライド面123が設けてある。スライド面123は、互いに平行となる態様で延在した平坦面である。このカムリング120は、それぞれのスライド面123を本体ケース部11に設けたガイド面17に摺動可能に当接させた状態でモータケース10の内部に配設してある。
【0027】
図3に示すように、本体ケース部11においてカムリング120の外周面に対向する部位は、ガイド面17に直交する方向の長さがカムリング120の外径よりも大きく構成してある。これにより、カムリング120は、ガイド面17に沿ってスライドすることが可能である。カムリング120がガイド面17に沿ってスライドした場合には、そのスライド量に応じてシリンダブロック110の回転軸心CRと、カムリング120におけるカム部121の円筒軸心CCとの偏心量を変更することが可能である。
【0028】
また、本体ケース部11においてカムリング120の外周面に対向する部位には、一対の偏心用シリンダアクチュエータ150が設けてある。偏心用シリンダアクチュエータ150は、圧油が供給された場合にシリンダ本体150aに対して押圧ピストン150bが突出移動するものである。これらの偏心用シリンダアクチュエータ150は、それぞれの押圧ピストン150bが互いに対向する態様でカムリング120の外周面に当接し、かつ個々の作動軸心がカム部121の円筒軸心CC及びシリンダブロック110の回転軸心CRを通過する同一の軸線上に位置する態様でシリンダ本体150aを介して本体ケース部11に配設してある。
【0029】
シューリング130は、ピストンシュー117の摺接部117bに設けた摺接面117cをカムリング120におけるカム部121の内周面121aに当接した状態に保持するための弾性部材である。シューリング130としては、例えば狭幅長尺の金属板を環状に成形することによってC字状に構成し、径方向に沿って弾性的に拡縮するものを適用することができる。シューリング130が無負荷状態にある場合の外径は、図4に示すように、各ピストンシュー117の摺接部117bにおいてそれぞれシリンダブロック110に対向する面(以下、「摺接部内面117d」という)を結ぶ仮想の円よりも大きな直径を有するように構成してある。このシューリング130は、上述したシリンダブロック110の基準面Mに対して両側となる部位にそれぞれ個別に配置してある。それぞれのシューリング130は、ピストンシュー117の摺接部内面117dを弾性的に押圧することにより、ピストンシュー117の摺接面117cがカムリング120の内周面121aに当接した状態を維持する。
【0030】
ここで、上記のようにシリンダブロック110の回転軸心CRに対してカムリング120におけるカム部121の円筒軸心CCが偏心した状態でシリンダブロック110を回転軸心CR回りに回転させると、シューリング130によって押圧されたピストンシュー117の摺接面117cがカムリング120の内周面121aを常時摺接することにより、シリンダブロック110の回転軸心CRとカムリング120の円筒軸心CCとの偏心量に応じてピストン116がシリンダ113に対して行程移動する。例えば、図3に示すように、シリンダブロック110の回転軸心CRに対してカムリング120の円筒軸心CCが図中の上方向に偏心した場合には、シリンダブロック110の下半分に対してカムリング120におけるカム部121の内周面121aが近接し、逆にシリンダブロック110の上半分に対してカムリング120におけるカム部121の内周面121aが離隔する。このため、シリンダブロック110において下方から上方に移行する部分では、シリンダ113における圧力室の容積が漸次増加する一方、シリンダブロック110において上方から下方に移行する部分では、シリンダ113における圧力室の容積が漸次減少するようになる。結局、シリンダブロック110が1回転する間にそれぞれのシリンダ113においては、ピストン116が上死点から下死点までの間を往復移動することになる。
【0031】
ピントル140は、図1及び図2に示すように、円柱状に構成した軸部材であり、シリンダブロック110の中心孔112からカバーケース部12に形成した支持孔12aの内部に亘る部位に嵌合する態様で装着してある。このピントル140は、カバーケース部12との間に構成したオルダム継手160により、モータケース10に対して自身の軸心回りの回転が規制されている。
【0032】
ピントル140の外周面には、図3及び図4に示すように、2つの互いに独立した切替油溝141,142が設けてある。切替油溝141,142は、シリンダブロック110の中心孔112において連絡油路115の開口に対向する同一の外周上に形成した凹溝であり、それぞれが互いに180°ずれた位置において、隣設する複数の連絡油路115を互いに連通させることができるように構成してある。本実施の形態では、図3に示すように、シリンダブロック110に9個のシリンダ113が設けてあり、ピントル140の切替油溝141,142がそれぞれ最大で4つの隣設した連絡油路115を互いに連通できるように構成してある。より具体的には、図3に示すように、カムリング120のスライド面123が左右にほぼ鉛直に配置され、かつ例えばシリンダブロック110が図3において時計回りに回転した場合、一方の切替油溝141がシリンダ113における圧力室の容積が漸次減少する範囲の連絡油路115、つまりシリンダブロック110の右方側に配置されているシリンダ113の連絡油路115を相互に連通させるように形成してある。他方の切替油溝142は、シリンダ113における圧力室の容積が漸次増加する範囲の連絡油路115、つまりシリンダブロック110の左方側に配置されているシリンダ113の連絡油路115を相互に連通させるように形成してある。尚、ピストン116が上死点付近となる位置及びピストン116が下死点付近となる位置においては、いずれも連絡油路115が切替油溝141,142に連通することはない。
【0033】
一方の切替油溝141には、一方の主油通路143の基端部が接続してあり、他方の切替油溝142には、他方の主油通路144の基端部が接続してある。主油通路143,144は、互いに個別に形成したもので、図1に示すように、ピントル140の軸心方向に沿って並設している。さらに一方の主油通路143の先端部は、一方の連絡油溝145に連通し、他方の主油通路144の先端部は、他方の連絡油溝146に連通している。これら連絡油溝145,146は、それぞれモータケース10のカバーケース部12においてピントル140の外周面に形成した個別のものである。
【0034】
さらに、一方の連絡油溝145には、カバーケース部12に形成した供給油路18を介して図示せぬ油圧ポンプが接続され、他方の連絡油溝146には、カバーケース部12に形成した吐出油路19を介して図示せぬ油タンクが接続されている。カバーケース部12の供給油路18及び吐出油路19には、それぞれが互いに吸込弁として機能するバルブ手段18a,19a及び図2に示すカウンターバランス弁20が設けてある。
【0035】
図1に示すように、ピントル140の内部には、カバーケース部12に対応する端部にシャトル弁148が構成してある。このシャトル弁148は、一対の主油通路143,144において圧力の大きな方の圧油を出力するものである。つまり、油圧ポンプから供給される圧油の圧力と、シリンダ113から吐出される圧油の圧力とのいずれか高い方の圧油がシャトル弁148から吐出されることになる。
【0036】
シャトル弁148を介して出力された圧油は、図2に示すように、自動変速弁149に供給される。自動変速弁149は、シャトル弁148から供給される圧油の圧力に応じて一対の偏心用シリンダアクチュエータ150に供給する圧油を切り換えるものである。本実施の形態では、シリンダブロック110の回転軸心CRとカムリング120の円筒軸心CCとの偏心量が小さい状態においてシャトル弁148から吐出される圧油の圧力が高くなった場合に、偏心量を増大させるように一対の偏心用シリンダアクチュエータ150に圧油を供給するように設定してある。
【0037】
ここで、モータケース10の中心部にシリンダブロック110及びカムリング120を収容するための収容孔14を有したラジアル型ピストンモータ装置にあっては、モータケース10の内部に圧油を供給するための通路を確保することが必ずしも容易とはいえない。すなわち、圧油を供給するための通路は、モータケース10に切り孔を穿設することによって構成するのが一般的である。但し、上述のラジアル型ピストンモータ装置では、モータケース10の中心部に収容孔14が存在するため、径方向に沿って切り孔を形成することができない。また、切り孔自体は、これを湾曲する態様で穿設することは不可能である。従って、中心部に収容孔14を有したモータケース10にあっては、180°ずれた一対の偏心用シリンダアクチュエータ150に対してそれぞれ圧油を供給する場合、多数の切り孔を相互に接続して湾曲状の通路を形成しなければならないことになる。これらの結果、モータケース10の製造作業が著しく煩雑化することになる。
【0038】
そこで、本実施の形態では、互いに着脱可能に装着されるベアリングホルダ部13と本体ケース部11との間に環状油路161を構成し、上述した問題を解決するようにしている。より具体的には、ベアリングホルダ部13の外周面に環状となる一連の油溝13aを形成し、ベアリングホルダ部13を本体ケース部11に装着した場合にこの油溝13aと本体ケース部11の内周面との間に環状油路161を画成するようにしている。
【0039】
図7は、偏心用シリンダアクチュエータ150に対する圧油の供給系を模式的に示したものである。同図7及び図2からも明らかなように、モータケース10において一方の偏心用シリンダアクチュエータ(以下の説明では便宜上図7及び図2において下方に配置された偏心用シリンダアクチュエータを指示するものとし、「下方シリンダアクチュエータ150L」と称する)に近接した部位に自動変速弁149を配設し、自動変速弁149の第1出力ポート149aと下方シリンダアクチュエータ150Lとの間を第1圧油供給通路151によって互いに接続している。互いに近接した下方シリンダアクチュエータ150Lと自動変速弁149との間を接続する第1圧油供給通路151は、湾曲状に構成する必要はなく、直線状の第1圧油供給通路151によって両者を接続すれば良い。さらに、図2に示すように、本体ケース部11とカバーケース部12との接合面を開口端として第1圧油供給通路151を穿設すれば、第1圧油供給通路151がモータケース10の外表面に露出することもない。
【0040】
他方の偏心用シリンダアクチュエータ(以下の説明では便宜上図7及び図2において上方に配置された偏心用シリンダアクチュエータを指示するものとし、「上方シリンダアクチュエータ150U」と称する)に対しては、ベアリングホルダ部13とモータケース10(本体ケース部11)との間に構成した環状油路161を介して自動変速弁149の第2出力ポート149bとの間を接続すれば良い。すなわち、上方シリンダアクチュエータ150Uと環状油路161との間を第2圧油供給通路152によって互いに接続するとともに、この環状油路161と自動変速弁149の第2出力ポート149bとの間を第3圧油供給通路153によって接続する。
【0041】
この場合、第2圧油供給通路152は、環状油路161がベアリングホルダ部13の全周に亘って環状に構成したものであるため、上方シリンダアクチュエータ150Uとの間を直線的に、かつ最短距離で接続するように構成すれば良い。さらに、本体ケース部11からベアリングホルダ部13を取り外した状態においては、環状油路161が開放されることになるため、収容孔14の内周面から上方シリンダアクチュエータ150Uに対して容易に第2圧油供給通路152を形成することができる。
【0042】
一方、第3圧油供給通路153に関しても、環状油路161がベアリングホルダ部13の全周に亘って環状に構成したものであるため、自動変速弁149の第2出力ポート149bとの間を直線的に構成すれば良い。
【0043】
このように、ベアリングホルダ部13と本体ケース部11との間に環状油路161を構成すれば、180°ずれた位置に配置した一対の偏心用シリンダアクチュエータ150U,150Lに対してそれぞれ圧油を供給する場合にも、多数の切り孔を接続して湾曲状の通路を形成する必要がない。従って、モータケース10の製造作業が煩雑化する事態を招来する虞れがなくなる。
【0044】
尚、ラジアルピストンモータ100において図1中に示す符号170は、シリンダブロック110とモータケース10のカバーケース部12との間に構成したブレーキ手段170である。このブレーキ手段170は、図4に示すように、シリンダブロック110に係合させた回転側摩擦プレート171と、モータケース10のカバーケース部12に係合させた固定側摩擦プレート172とを交互に重ね合わせて構成したものである。ブレーキ手段170が通常状態にある場合、バネ部材173を介して押圧部材174が回転側摩擦プレート171及び固定側摩擦プレート172を相互に押圧しており、モータケース10に対するシリンダブロック110の相対的な回転移動が阻止される。一方、モータケース10の油室175に圧油を供給した場合には、バネ部材173の押圧力に抗して押圧部材174が退行する。この結果、回転側摩擦プレート171と固定側摩擦プレート172との相互押圧状態が解除され、モータケース10に対するシリンダブロック110の相対的な回転移動が許容されることになる。
【0045】
一方、上述したモータケース10には、収容孔14の遊星歯車収容部15に第1遊星歯車機構200が収容してある一方、収容孔14の外部となる本体ケース部11の他端部に第2遊星歯車機構300が構成してある。
【0046】
第1遊星歯車機構200は、シリンダブロック110の回転軸心CRに対してその延長上となる部位に第1サンギア201を備えている。第1サンギア201は、基端部がベアリングホルダ部13の内周面に至る部位まで延在しており、その延在端部が上述したシリンダブロック110のモータ出力用スプライン114に歯合している。この第1サンギア201は、シリンダブロック110が回転した場合に、自身の軸心回りに回転することが可能である。第1遊星歯車機構200の第1アウタギア202は、本体ケース部11に形成した収容孔14の内周面に嵌合し、該本体ケース部11に対する回転が規制された状態にある。
【0047】
図1、図2及び図5に示すように、これら第1サンギア201と第1アウタギア202との間には、3つの第1プラネタリギア203が等間隔に設けてある。これら3つの第1プラネタリギア203を支承する第1プラネタリキャリア204は、本体ケース部11の他端部側に位置する部位が円筒状に突出しており、その内周面に第1出力用スプライン205を有している。
【0048】
この第1遊星歯車機構200は、第1アウタギア202の外径がベアリングホルダ部13の外径よりも小さく構成してあり、本体ケース部11の収容孔14にベアリングホルダ部13を装着する以前に遊星歯車収容部15に収容させることが可能である。
【0049】
第2遊星歯車機構300は、第1サンギア201の軸心に対してその延長上となる部位に第2サンギア301を備えている。第2サンギア301は、基端部が本体ケース部11を介して第1遊星歯車機構200における第1プラネタリキャリア204の内周面に至る部位まで延在しており、その延在端部が上述した第1出力用スプライン205に歯合している。この第2サンギア301は、第1プラネタリキャリア204が回転した場合に、自身の軸心回りに回転することが可能である。第2遊星歯車機構300の第2アウタギア302は、本体ケース部11の外周部にベアリングGBを介して支承させたアウターケース部303に構成してあり、シリンダブロック110の回転軸心CRを中心として回転することが可能である。
【0050】
第2遊星歯車機構300の第2プラネタリギア304は、図1、図2及び図6に示すように、第2サンギア301と第2アウタギア302との間において等間隔となる部位に3つ設けてある。これら3つの第2プラネタリギア304を支承する第2プラネタリキャリア305は、本体ケース部11に一体に設けたキャリア構成部11aに形成してある。キャリア構成部11aは、第1遊星歯車機構200と第2遊星歯車機構300との間に位置する部位において本体ケース部11の他端外周部からシリンダブロック110の回転軸心CRに向けて互いに内方に延在した部分である。キャリア構成部11aには、互いに等間隔となる部位に相互に平行となる態様でギア支持軸部305aが突設してあり、それぞれのギア支持軸部305aに第2プラネタリギア304が回転可能に支承させてある。ギア支持軸部305aの突出端部には、第2プラネタリギア304の脱落を防止するためのスナップリング306が装着してある。
【0051】
上記のように構成したラジアル型ピストンモータ装置では、図示せぬ油圧ポンプを駆動し、カウンターバランス弁20、バルブ手段18a及び供給油路18を介して一方の主油通路143に圧油を供給するとともに、上述したブレーキ手段170の油室175に圧油を供給すると、モータケース10に対するシリンダブロック110の回転移動が許容された状態で一方の切替油溝に圧油が供給される。いま、図3において右方に位置する切替油溝141が主油通路143に接続されているとすると、右方に配置されているシリンダ113にそれぞれの連絡油路115を介して圧油が供給され、シリンダブロック110が回転軸心CRを中心として図3中の反時計回りに回転することになる。
【0052】
シリンダブロック110が回転すると、図1に示すように、シリンダブロック110の端部に形成したモータ出力用スプライン114を介して第1遊星歯車機構200の第1サンギア201が回転する。第1遊星歯車機構200では、本体ケース部11に固定する態様で第1アウタギア202が設けてある。この結果、第1サンギア201が回転すると、第1プラネタリギア203が回転するとともに、第1プラネタリキャリア204が回転し、この第1プラネタリキャリア204の回転が第2遊星歯車機構300の第2サンギア301に入力される。
【0053】
第2遊星歯車機構300では、第2プラネタリキャリア305がモータケース10の本体ケース部11と一体に構成されている一方、第2アウタギア302がモータケース10の第2アウタギア302に設けてある。この第2アウタギア302は、本体ケース部11に対して回転可能に支持させたものである。この結果、第2サンギア301が回転すると、第2プラネタリギア304を介して第2アウタギア302が回転するとともに、第2アウタギア302と一体に構成したアウターケース部303が回転することになり、例えばアウターケース部303の周囲に巻回した建設機械の履帯を走行移動させることが可能となる。
【0054】
この間、ピストン116が上死点を通過したシリンダ113にあっては、圧力室の容積が漸次減少することになり、シリンダ113の圧油が連絡油路115を介し、図3において左方に位置する切替油溝142に順次吐出される。左方の切替油溝142に吐出された圧油は、ピントル140の主油通路144を通じて順次送給され、吐出油路19、バルブ手段19a及びカウンターバランス弁20を介して図示せぬ油タンクに返却される。
【0055】
上述した動作の間においてシャトル弁148から吐出される圧油の圧力が高くなると、自動変速弁149が切り替わり、一対の偏心用シリンダアクチュエータ150に対する圧油の供給態様が変化する。この結果、シリンダブロック110の回転軸心CRとカムリング120の円筒軸心CCとの偏心量が小さい状態においては、偏心量を増大させるように一対の偏心用シリンダアクチュエータ150が作動する。具体的には、カムリング120が図3において上方に移動され、シリンダブロック110の回転軸心CRに対するカムリング120の円筒軸心CCの偏心量が増大することになる。この状態においては、シリンダ113に対するピストン116の往復移動量が大きくなるため、油圧ポンプ(図示せず)から同量の圧油を供給した場合にもシリンダブロック110の回転数が小さくなり、第2アウタギア302の出力が低速、かつ大トルクとなる。
【0056】
以降、上述した動作が適宜実施され、第2サンギア301を最終出力ギアとしてラジアル型ピストンモータ装置が運転される。
【0057】
ここで、上記のようにモータケース10の本体ケース部11に対してベアリングホルダ部13を着脱可能に構成したラジアル型ピストンモータ装置では、本体ケース部11の一端部に開口する収容孔14から第1遊星歯車機構200を遊星歯車収容部15に収容させることができる。従って、最終段となる第2遊星歯車機構300の第2プラネタリキャリア305としては、本体ケース部11と一体のキャリア構成部11aに設けることが可能となる。これにより、本体ケース部11と第2プラネタリキャリア305との間に相互に着脱可能となるスプラインを設ける必要がない。さらに、第2プラネタリギア304に加えられる荷重を単体で支持する構成ではないため、第2プラネタリキャリア305の板厚を増大して強度を確保する必要がない。これらの結果、シリンダブロック110の回転軸心CRに沿った寸法を大幅に削減することができる。
【0058】
また、第2プラネタリキャリア305を本体ケース部11と一体に設けているため、これらの間を連結するための締結手段も不要になる。この結果、取扱部品点数の低減を図ることができ、製造作業の容易化及び製造コストの削減することも可能となる。
【0059】
尚、上述した実施の形態では、建設機械の走行用モータとして適用される可変容量型のラジアル型ピストンモータ装置を例示しているが、その他の用途に用いるものであっても構わない。この場合、必ずしも可変容量型である必要はなく、固定容量のものであっても同様に適用することが可能である。
【0060】
また、上述した実施の形態では、遊星歯車機構を2段備えたものを例示しているが、3段以上の遊星歯車機構を備えたものにも適用することが可能である。
【0061】
さらに、上述した実施の形態では、ホルダ部材(ベアリングホルダ部)の外周面にのみ油溝を形成することによりモータケースとの間に油路を構成するようにしているが、モータケースにおいてホルダ部材の外周面に対向する部位にのみ油溝を形成しても良いし、互いに対向する部位にそれぞれ油溝を形成して油路を構成するようにしても構わない。この場合、構成する油路としては、必ずしも全周に亘って連続している必要はない。また、設ける油路は必ずしも一条である必要はなく、2条以上の油路を設けるようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態であるラジアル型ピストンモータ装置の断面平面図である。
【図2】図1に示したラジアル型ピストンモータ装置の断面側面図である。
【図3】図2における III−III 線断面図である。
【図4】図1に示したラジアル型ピストンモータ装置の要部を示す拡大図であり、ピントルについては外観を示している。
【図5】図1における V−V 線断面図である。
【図6】図1における VI−VI 線断面図である。
【図7】図1に示したラジアル型ピストンモータ装置に適用する偏心用シリンダアクチュエータの圧油供給系を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0063】
10 モータケース
11 本体ケース部
11a キャリア構成部
12 カバーケース部
12a 支持孔
13 ベアリングホルダ部
13a 油溝
14 収容孔
15 遊星歯車収容部
16 モータ収容部
17 ガイド面
18 供給油路
19 吐出油路
100 ラジアルピストンモータ
110 シリンダブロック
113 シリンダ
116 ピストン
117 ピストンシュー
120 カムリング
121 カム部
121a 内周面
123 スライド面
130 シューリング
140 ピントル
141,142 切替油溝
143,144 主油通路
145,146 連絡油溝
148 シャトル弁
149 自動変速弁
150 偏心用シリンダアクチュエータ
151 第1圧油供給通路
152 第2圧油供給通路
153 第3圧油供給通路
160 オルダム継手
161 環状油路
200,300 遊星歯車機構
201 第1サンギア
202 第1アウタギア
203 第1プラネタリギア
204 第1プラネタリキャリア
205 第1出力用スプライン
301 第2サンギア
302 第2アウタギア
303 アウターケース部
304 第2プラネタリギア
305 第2プラネタリキャリア
305a ギア支持軸部
B ベアリング
CC 円筒軸心
CR 回転軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックに設けたシリンダに圧油が供給された場合にピストンを行程移動させることによりシリンダブロックが所定の回転軸心回りに回転駆動するラジアルピストンモータと、前記ラジアルピストンモータから回転駆動力が与えられた場合にこれを減速して出力する複数段の遊星歯車機構とを備えたラジアル型ピストンモータ装置であって、
最終段となる最終遊星歯車機構と、この最終遊星歯車機構のサンギアに回転駆動力を出力する遊星歯車機構との間にモータケースと一体となるキャリア構成部を延在し、このキャリア構成部に最終遊星歯車機構のプラネタリキャリアを一体に形成する一方、
前記モータケースの内部において初段となる第1遊星歯車機構の外方域を覆う部位に該第1遊星歯車機構の第1アウタギア以上の外径を有したホルダ部材を着脱可能に配設し、かつこのホルダ部材に設けたベアリングを介して前記ラジアルピストンモータのシリンダブロックを回転可能に支承した
ことを特徴とするラジアル型ピストンモータ装置。
【請求項2】
前記モータケースの内周面及び前記ホルダ部材の外周面の少なくとも一方に油溝を形成し、ホルダ部材をモータケースに装着した場合に前記油溝により両者の間に油路を構成することを特徴とする請求項1に記載のラジアル型ピストンモータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−163808(P2008−163808A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352920(P2006−352920)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】