説明

ラジカル重合開始点とカチオン重合開始点とを有する開始剤、およびその開始剤を用いて合成したブロック共重合体

【課題】リビングカチオン重合及びリビングラジカル重合がそれぞれ可能である新規な重合開始剤、前記重合開始剤を用いた新規な重合体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される化合物であることを特徴とする重合開始剤、前記重合開始剤を用いた新規な重合体及びその製造方法。なお、式(1)において、X1は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロアセトキシ基又はアセトキシ基を表し、X2は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、mは1〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、(m+n)は2〜6の整数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合開始剤、重合体及びその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、リビングカチオン重合及びリビングラジカル重合の両方を行うことが可能な重合開始剤、前記重合開始剤を用いた重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブロックポリマーはその一次構造に基づいて“自己組織化”し、様々な高次構造を形成する。形成される微細高次構造は、エラストマー、情報記憶材料、ドラックデリバリーシステム(DDS)など種々の材料開発の基盤となるため、構造の明確なブロックポリマーの合成は非常に重要となる。
【0003】
ブロックポリマーの合成には“リビング重合”が必要不可欠である。例えばジブロックポリマーを合成する場合、1stモノマーをリビング重合させた後に、2ndモノマーを添加することで合成する。しかし、この方法で生成するブロックポリマーの構成は同一重合種で重合するモノマーの組み合わせになるため、合成できるブロックポリマーは限られたものとなる。
【0004】
一方、異なる重合種のリビング重合を組み合わせによる新規ブロックポリマーの開発が注目されている。古くは、ポリマー末端同士をカップリングする方法が報告されているが(非特許文献1)、この場合両ポリマーの量を正確に合わせる必要があり、この量のバランスが崩れると、生成物にホモポリマーが混在してしまうという問題があった。
また成長末端を変換する方法も報告されているが(非特許文献2及び3)、定量的に末端を変換する必要がある上、変換時にポリマー側鎖への副反応が起こらないことが要求され、簡便な方法とは言い難い。
【0005】
最近になって、イオン重合に加え、ラジカル重合(非特許文献4)や配位重合でもリビング重合が可能になったことも相俟って、各種リビング重合に適した開始剤を複数有する“マルチ開始剤”を設計し、これを用いてブロックポリマー(非特許文献5〜7)や星型ポリマー(非特許文献8及び9)を合成する研究が報告されるようになった。
【0006】
また、重合開始剤とルイス酸とを使用したリビングラカチオン重合例としては、特許文献1が挙げられ、重合開始剤と遷移金属触媒とを使用したリビングラジカル重合例としは、特許文献2が挙げられる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−55420号公報
【特許文献2】特開2000−264914号公報
【非特許文献1】Y. Yamashita, K. Nobutoki, and Y. Nakamura, Macromolecules, 1971, vol.4, p.548
【非特許文献2】Nikos Hadjichristidis, Marinos Pitsikalis, and Hermis Iatrou, Adv. Polym. Sci., 2005, vol.189, p.1
【非特許文献3】Krzysztof Matyjaszewski, Mircea Teodorescu, Metin H. Acar, Kathryn L. Beers, Simion Coca, Scott G. Gaynor, Peter J. Miller, and Hyun-jong Paik, Macromol. Symp., 2000, vol.157, p.183
【非特許文献4】M. Kato, M. Kamigaito, M. Sawamoto, and T. Higashimura, Macromolecules, 1995, vol.28, p.1721
【非特許文献5】F. J. Hua and Y. L. Yang, Polymer, 2001, vol.42, p.1361
【非特許文献6】K. V. Bernaerts, E. H. Schacht, E. J. Goethals EJ, and F. E. du Prez, J. Polym. Sci. Polym. Chem. Ed., 2003, vol.41, p.3206
【非特許文献7】A. P. Smithe and C. L. Fraser, Macromolecules, 2003, vol.36, p.2654
【非特許文献8】C. Celik, G. Hizal, and U. Tunca, J. Polym. Sci. Part A; Polym. Chem., 2003, vol.41, p.2542
【非特許文献9】T. He, D. Li, X. Sheng, and B. Zhao, Macromolecules, 2004, vol.37, p.3128
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、リビングカチオン重合及びリビングラジカル重合がそれぞれ可能である新規な重合開始剤、前記重合開始剤を用いた新規な重合体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、以下の手段<1>、<4>、<6>、<9>又は<10>により達成された。好ましい実施態様である<2>、<3>、<5>、<7>及び<8>と共に以下に示す。
<1> 式(1)で表される化合物であることを特徴とする重合開始剤、
【0010】
【化1】

(式(1)において、X1は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロアセトキシ基又はアセトキシ基を表し、X2は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、mは1〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、(m+n)は2〜6の整数を表す。)
<2> 式(2)で表される化合物である上記<1>に記載の重合開始剤、
【0011】
【化2】

(式(2)において、X1は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロアセトキシ基又はアセトキシ基を表し、X2は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、nは1〜5の整数を表す。)
<3> 式(3)又は式(4)で表される化合物である上記<2>に記載の重合開始剤、
【0012】
【化3】

<4> 上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の重合開始剤の残基を有し、式(5)で表されるカチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体、
【0013】
【化4】

(式(5)において、P1はカチオン重合ポリマー鎖を表し、P2はラジカル重合ポリマー鎖を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、mは1〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、(m+n)は2〜6の整数を表す。)
<5> 前記P1におけるカチオン重合ポリマー鎖がビニルエーテル化合物をカチオン重合して得られたポリマー鎖であり、前記P2におけるラジカル重合ポリマー鎖が(メタ)アクリレート化合物をラジカル重合して得られたポリマー鎖である上記<4>に記載のカチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体、
<6> 下記(A)及び(B)、又は、下記(C)及び(D)を含むカチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体の製造方法、
(A)上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の重合開始剤を用いてルイス酸の存在下でカチオン重合性単量体をリビングカチオン重合し、末端に前記重合開始剤が結合したカチオン重合体を得る工程、及び、
(B)前記末端に前記重合開始剤が結合したカチオン重合体及び遷移金属錯体の存在下、ラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合する工程、
(C)上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の重合開始剤を用いて遷移金属錯体の存在下でラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合し、末端に前記重合開始剤が結合したラジカル重合体を得る工程、及び、
(D)前記末端に前記重合開始剤が結合したラジカル重合体及びルイス酸の存在下、カチオン重合性単量体をリビングカチオン重合する工程、
<7> 前記(A)及び(B)を含む上記<6>に記載のカチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体の製造方法、
<8> 前記カチオン重合性単量体がビニルエーテル化合物であり、かつ、前記ラジカル重合性単量体が(メタ)アクリレート化合物である上記<6>又は<7>に記載の重合体の製造方法、
<9> 上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の重合開始剤の残基を有し、式(6)又は式(7)で表されるカチオン重合ポリマー鎖又はラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体、
【0014】
【化5】

(式(6)及び式(7)において、X1は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロアセトキシ基又はアセトキシ基を表し、X2は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、P1はカチオン重合ポリマー鎖を表し、P2はラジカル重合ポリマー鎖を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、mは1〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、(m+n)は2〜6の整数を表す。)
<10> 下記(A)、又は、下記(C)を含むカチオン重合ポリマー鎖又はラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体の製造方法、
(A)上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の重合開始剤を用いてルイス酸の存在下でカチオン重合性単量体をリビングカチオン重合し、末端に前記重合開始剤が結合したカチオン重合体を得る工程、
(C)上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の重合開始剤を用いて遷移金属錯体の存在下でラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合し、末端に前記重合開始剤が結合したラジカル重合体を得る工程。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リビングカチオン重合及びリビングラジカル重合がそれぞれ可能である新規な重合開始剤、前記重合開始剤を用いた新規な重合体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
(重合開始剤)
本発明の重合開始剤は、式(1)で表される化合物であることを特徴とする。
【0018】
【化6】

(式(1)において、X1は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロアセトキシ基又はアセトキシ基を表し、X2は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、mは1〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、(m+n)は2〜6の整数を表す。)
【0019】
式(1)におけるX1は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロアセトキシ基又はアセトキシ基であり、塩素原子、ヨウ素原子、トリフルオロアセトキシ基又はアセトキシ基であることが好ましく、塩素原子であることがより好ましい。
式(1)におけるX2は、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、塩素原子又は臭素原子であることが好ましく、塩素原子であることがより好ましい。
式(1)におけるR2は、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、メチル基、エチル基、ブチル基又はフェニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基又はフェニル基であることがより好ましく、メチル基又はフェニル基であることがさらに好ましく、フェニル基であることが特に好ましい。
式(1)におけるmとしては、1〜5の整数であり、1〜3の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
式(1)におけるnとしては、1〜5の整数であり、1〜3の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。
式(1)におけるmとnとを合計した数(m+n)は、2〜6の整数であり、2〜4の整数であることが好ましく、2又は3であることがより好ましい。
m個存在するX1は、それぞれ同じであっても異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましく、n個存在するX2は、それぞれ同じであっても異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましく、また、n個存在するR2は、それぞれ同じであっても異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。
【0020】
本発明の重合開始剤における下記(A)に示す構造は、リビングカチオン重合可能な重合開始点を有する構造(以下、単に「カチオン重合開始点」ともいう。)であり、X1の脱離によりカチオンが生じ、リビングカチオン重合を開始することができる。
【0021】
【化7】

(式(A)中、X1は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロアセトキシ基又はアセトキシ基を表し、波線はベンゼン環と結合する部分を表す。)
【0022】
また、本発明の重合開始剤における下記(B)に示す構造は、リビングラジカル重合可能な重合開始点を有する構造(以下、単に「ラジカル重合開始点」ともいう。)であり、炭素−X2結合の切断により炭素中心ラジカルが生じ、リビングラジカル重合を開始することができる。
【0023】
【化8】

(式(B)中、X2は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、波線はベンゼン環と結合する部分を表す。)
【0024】
本発明の重合開始剤を用いることにより、(a)リビングカチオン重合を行う際にカチオン重合開始点でのみリビングカチオン重合が進行し、ラジカル重合開始点ではリビングカチオン重合が起こらない、及び/又は、(b)リビングラジカル重合を行う際にはラジカル重合開始点でのみリビングラジカル重合が進行し、カチオン重合開始点ではリビングラジカル重合が起こらず、カチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合ポリマー鎖を有する新規な重合体を得ることができる。
本発明の重合開始剤を用いることにより、本発明の重合開始剤のカチオン重合開始点からはカチオン重合を、ラジカル重合開始点からラジカル重合をそれぞれ行うことができ、本発明の重合開始剤由来の残基を中心とし、前記残基に結合したカチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合ポリマー鎖をそれぞれ有する新規な重合体を合成することができる。
さらに、本発明の重合開始剤は前記式(1)において示すように、その構造の中心部分をベンゼン環とすることにより、ベンゼン環の1〜6位に重合開始点を導入できるため、得られる重合体の構造を明確にでき、また、重合開始剤の合成も容易である。
また、本発明の重合開始剤は、前記式(1)で表される構造をとることにより、非特許文献5〜7に記載された発明と比較して、使用可能なカチオン重合性単量体とラジカル重合性単量体との組合せが多いという利点を有する。
【0025】
また、本発明の重合開始剤は、式(1)におけるX1が塩素原子であり、かつ、X2が塩素原子であることがさらに好ましく、式(1)におけるX1が塩素原子であり、X2が塩素原子であり、かつ、R2がフェニル基であることが特に好ましい。上記に示す構造であると、リビングカチオン重合及びリビングラジカル重合をそれぞれ容易に行うことができる。
【0026】
本発明の重合開始剤は、式(2)で表される化合物であることがさらに好ましい。
【0027】
【化9】

【0028】
式(2)において、X1、X2、R2は式(1)におけるX1、X2、R2と同義であり、好ましい範囲も同様である。n個存在するX2はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、また、n個存在するR2はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
n個存在するX2は全て同じ基であることが好ましく、また、n個存在するR2は全て同じ基であることが好ましい。
【0029】
本発明の重合開始剤としては、下記の化合物であることが特に好ましい。
【0030】
【化10】

【0031】
(重合体)
本発明の重合体は、本発明の重合開始剤の残基を有し、下記式(5)で表されるカチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体である。
【0032】
【化11】

(式(5)において、P1はカチオン重合ポリマー鎖を表し、P2はラジカル重合ポリマー鎖を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、mは1〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、(m+n)は2〜6の整数を表す。)
【0033】
式(5)におけるR2、m、n、(m+n)は、前記式(1)におけるR2、m、n、(m+n)と同義であり、好ましい範囲も同様である。m個存在するX1はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、n個存在するX2はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、n個存在するR2はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
m個存在するP1は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、全て同じカチオン重合性単量体を用いたポリマー鎖であることが好ましく、n個存在するP2は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、全て同じラジカル重合性単量体を用いたポリマー鎖であることが好ましい。
【0034】
m個存在するP1における分子量分布は、1〜2.2であることが好ましく、1〜1.8であることが更に好ましく、1〜1.5であることが最も好ましい。上記範囲であると、構造がより制御されるため好ましい。
n個存在するP2における分子量分布は、1〜2.2であることが好ましく、1〜1.8であることが更に好ましく、1〜1.5であることが最も好ましい。上記範囲であると、構造がより制御されるため好ましい。
【0035】
本発明の重合体は、本発明の重合開始剤の残基(すなわち、前記式(5)においてP1及びP2を除いた基)を中心とし、前記残基に結合したカチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合ポリマー鎖をそれぞれ有している。
本発明の重合体におけるカチオン重合ポリマー鎖P1は、カチオン重合性単量体を用いて形成され、また、本発明の重合体におけるラジカル重合ポリマー鎖P2は、ラジカル重合性単量体を用いて形成される。
本発明の重合体におけるカチオン重合ポリマー鎖P1の末端、ラジカル重合ポリマー鎖P2の末端は、特に制限はないが、それぞれ前記式(1)におけるX1、X2であっても、他の試薬と反応させ、他の基へ誘導したものであってもよい。本発明の重合体におけるカチオン重合ポリマー鎖P1の末端、及び、ラジカル重合ポリマー鎖P2の末端は、少なくとも1つが前記式(1)におけるX1、X2でないことが好ましく、少なくとも1つがアルコキシ基であることがより好ましい。
また、本発明の重合体におけるカチオン重合ポリマー鎖P1及びラジカル重合ポリマー鎖P2はそれぞれ、1種単独の単量体を重合したポリマー鎖であっても、2種以上の単量体を共重合したポリマー鎖であってもよい。
【0036】
<カチオン重合性単量体>
本発明の重合体に用いることができるカチオン重合性単量体は、リビングカチオン重合可能な単量体であればよく、公知のカチオン重合性単量体を用いることができ、ビニルエーテル化合物、スチレン化合物、イソブテン、インデン、N−ビニルカルバゾールが好ましく例示でき、ビニルエーテル化合物であることがより好ましい。
ビニルエーテル化合物としては、炭素数3〜20のアルキルビニルエーテルであることが好ましく、炭素数3〜18のアルキルビニルエーテルが特に好ましい。
【0037】
<ラジカル重合性単量体>
本発明の重合体に用いることができるラジカル重合性単量体は、リビングラジカル重合可能な単量体であればよく、公知のラジカル重合性単量体を用いることができ、(メタ)アクリレート化合物、及び、スチレン化合物を好ましく例示できる。なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートを意味する。
(メタ)アクリレート化合物としては、アルキル(メタ)アクリレートが好ましく例示でき、メチルメタクリレートが特に好ましく例示できる。
スチレン化合物としては、スチレン、アルキルスチレン及びアルコキシスチレンが好ましく例示でき、t−ブトキシスチレンがより好ましく例示できる。
【0038】
<使用比率>
前記重合開始剤の使用量は、カチオン重合性単量体及びラジカル重合性単量体の総重量に対して、0.001〜50重量%が好ましく、0.01〜40重量%がより好ましい。上記範囲であると、目的とする分子量のポリマー鎖が合成できる。
【0039】
本発明の重合体の重量平均分子量は、500〜5,000,000が好ましく、800〜3,000,000がより好ましく、1,000〜500,000が更に好ましい。
本発明の重合体の回収方法は、特に制限はなく公知の重合物の回収方法を用いることができるが、例えば、リビングラジカル重合系の温度を下げて重合を停止させた後、水洗や吸着剤により重合触媒を除去し、さらに溶液から揮発分を留去する方法や、大量の溶媒を添加して重合体を沈殿させ分離する方法等により行われる。
【0040】
(重合体の製造方法)
本発明の重合体の製造方法は、下記(A)及び(B)、又は、下記(C)及び(D)(以下、「(A)」等をそれぞれ「(A)工程」等ともいう。)を含む。
(A)本発明の重合開始剤を用いてルイス酸の存在下でカチオン重合性単量体をリビングカチオン重合し、末端に前記重合開始剤が結合したカチオン重合体を得る工程、及び、
(B)前記末端に前記重合開始剤が結合したカチオン重合体及び遷移金属錯体の存在下、ラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合する工程。
(C)本発明の重合開始剤を用いて遷移金属錯体の存在下でラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合し、末端に前記重合開始剤が結合したラジカル重合体を得る工程、及び、
(D)前記末端に前記重合開始剤が結合したラジカル重合体及びルイス酸の存在下、カチオン重合性単量体をリビングカチオン重合する工程。
なお、前記(A)工程、及び、(D)工程をそれぞれ「リビングカチオン工程」ともいい、前記(B)工程、及び、(C)工程をそれぞれ「リビングラジカル工程」ともいう。
また、カチオン重合体又はラジカル重合体のいずれか一方のみを付加した本発明の重合開始剤、すなわち、前記(A)工程等における末端に前記重合開始剤が結合したカチオン重合体、又は、前記(C)工程等における末端に前記重合開始剤が結合したラジカル重合体を、「マクロ開始剤」ともいう。
本発明の製造方法においては、リビングカチオン重合工程(又はリビングラジカル重合工程)で得たマクロ開始剤を反応液から単離することなく、次のリビングラジカル重合工程(又はリビングカチオン重合工程)に用いることができる。
【0041】
最初に重合するポリマー鎖は、どちらの開始種から重合してもよいが、初めにリビングカチオン重合を行い、得られたマクロ開始剤を用いてリビングラジカル重合を行うことによりジブロックポリマーを合成することが好ましい。すなわち、本発明の重合体の製造方法は、前記(A)及び(B)を含むことが好ましい。リビングカチオン重合をリビングラジカル重合より先に行うことにより、重合の制御をより精密に行うことができる。
また、前記リビングカチオン重合工程又はリビングラジカル重合工程では、1種単独の単量体を使用して重合を行ってもよく、2種以上の単量体を使用して共重合を行ってもよい。
【0042】
<リビングカチオン重合工程>
リビングカチオン重合工程は、(A)本発明の重合開始剤を用いてルイス酸の存在下でカチオン重合性単量体をリビングカチオン重合し、末端に前記重合開始剤が結合したカチオン重合体を得る工程、又は、(D)前記末端に前記重合開始剤が結合したラジカル重合体及びルイス酸の存在下、カチオン重合性単量体をリビングカチオン重合する工程である。
リビングカチオン重合を行うため、反応系中に発生したカチオンを安定化させる方法としては、ルイス酸の存在によりカチオンを安定化させる方法、塩基の添加によりカチオンを安定化させる方法、及び、ハロゲンイオン塩の添加によりカチオンを安定化させる方法が挙げられる。本発明においてはこれらの中でも、ルイス酸によりカチオンを安定化させる方法が好ましい。
リビングカチオン重合工程に用いることができるカチオン重合性単量体としては、前述したものを好ましく用いることができる。中でもビニルエーテル化合物を用いることがより好ましい。
【0043】
<ルイス酸>
ルイス酸は、カチオン重合開始点に作用してカチオン生成を促進する(以下、「ルイス酸」を「ルイス酸触媒」ともいい、また、重合開始剤とルイス酸触媒との組合せを「リビングカチオン重合開始剤系」ともいう。)
ルイス酸としては、公知のルイス酸を用いることができるが、リビングカチオン重合を良好に進行させる点から、無機ハロゲン化物や有機金属ハロゲン化物を好ましく例示できる。
無機ハロゲン化物及び有機金属ハロゲン化物として、具体的には、四塩化スズ(SnCl4)、四臭化スズ(SnBr4)、三フッ化ホウ素(BF3)、三フッ化ホウ素エーテル錯体(BF3・O(C252)、三塩化ホウ素(BCl3)、三塩化アルミニウム(AlCl3)、三臭化アルミニウム(AlBr3)、二塩化亜鉛(ZnCl2)、五フッ化アンチモン(SbF5)、五塩化アンチモン(SbCl5)、三塩化鉄(FeCl3)、四塩化チタン(TiCl4)、四臭化チタン(TiBr4)、六塩化タングステン(WCl6)、五塩化レニウム(ReCl5)、五塩化タンタル(TaCl5)、ジエチルアルミニウムモノクロライド(AlEt2Cl)及びモノエチルアルミニウムジクロライド(AlEtCl2)が例示できる。中でも、四塩化スズ(SnCl4)及び四臭化スズ(SnBr4)が好ましく、四塩化スズ(SnCl4)がより好ましい。四塩化スズ(SnCl4)を用いると重合が適度な速度で進行し、狭い分子量分布を有する重合体を得ることができる。
前記ルイス酸は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0044】
リビングカチオン重合工程におけるルイス酸の使用量は、カチオン重合性単量体の総使用量に対して、0.001〜50重量%であることが好ましく、0.005〜40重量%であることがより好ましい。上記範囲であると、副反応を抑制し、重合を制御できるため好ましい。
【0045】
本発明において、リビングカチオン重合の際に、必要に応じて、ルイス塩基又はその塩を添加してもよい。
ルイス塩基としては、酢酸エチル、クロロ酢酸エチル、ジエチルカーボネート、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルフィド、チオエーテル類、2,6−ジメチルピリジン等が挙げられる。また、塩としては四級アンモニウム塩及び四級ホスホニウム塩が挙げられる。
ルイス塩基又はその塩の使用量は、特には限定されないが、カチオン重合性単量体1モルに対して0.001〜1モルが好ましい。
【0046】
リビングカチオン重合は溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒は反応に不活性なものであれば、特に限定されないが、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、ニトロ化合物、飽和炭化水素又はこれらの混合物が例示できる。
具体的には、芳香族炭化水素としてはベンゼン及びトルエンが挙げられ;ハロゲン化炭化水素としては塩化メチル、塩化メチレン及び1,2−ジクロロエタンが挙げられ;ニトロ化合物としてはニトロメタン及びニトロエタンが挙げられ;飽和炭化水素としてはへキサン、ヘプタン、オクタン及びノナンが挙げられ、中でも、ベンゼン、トルエンが好ましい。
【0047】
<重合方式・反応条件>
カチオン重合性単量体を、前記重合開始剤及びルイス酸の存在下、リビングカチオン重合させることによりリビングポリマーが得られる。リビングカチオン重合は、公知の方法(高分子学会編:新高分子実験学2、高分子の合成・反応(1)、242〜276頁、1995年、東村敏延、澤本光男、上垣外正己 著、共立出版)により行うことができる。
以下、詳細に説明する。
【0048】
前記リビングカチオン重合工程におけるリビングカチオン重合の温度は、−120〜100℃が好ましく、−100〜80℃がより好ましい。
重合時間は特に限定されず、カチオン重合性単量体やルイス酸触媒等の種類や使用量により調整できる。
【0049】
リビングカチオン重合により目的の重合体が得られた後、すなわち、前記(A)工程又は(D)工程終了後に、反応液にルイス酸を失活又は弱めることができる添加剤を添加することが好ましい。
添加剤としては、アルコール化合物、水、エーテル化合物、エステル化合物、チオエーテル化合物、チオケトン化合物、脂肪族アミン及び芳香族アミンが例示できる。
アルコールとしてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール及びイソブタノールが挙げられ;エーテルとしては、水、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン及びジオキサンが挙げられ;エステルとしては酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル及びクロロ酢酸エチルが挙げられ;チオエーテルとしてはテトラヒドロチオフェン及びジメチルスルフィドが挙げられ;脂肪族アミンとしてはジアルキルアミン、トリアルキルアミン、ジアルキルエチレンジアミン及びテトラアルキルエチレンジアミンが挙げられ;芳香族アミンとしてはビピリジル、フェナントロリン、ピリジン及びジメチルピリジンが挙げられ、中でもメタノール又は水が好ましい。
添加物の使用量は、ルイス酸1モルに対して、0.01〜10,000モルが好ましい。
【0050】
<リビングラジカル重合工程>
リビングラジカル重合工程は、(B)前記末端に前記重合開始剤が結合したカチオン重合体及び遷移金属錯体の存在下、ラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合する工程、又は、(C)本発明の重合開始剤を用いて遷移金属錯体の存在下でラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合し、末端に前記重合開始剤が結合したラジカル重合体を得る工程である。
リビングラジカル重合の方法としては、ニトロキシド等の安定ラジカル種を脱離基とする方法、ハロゲン原子を脱離基として遷移金属錯体を触媒とする方法、及び、チオエステル基を脱離基として成長ラジカルとの付加開列型移動反応による方法が挙げられ、中でもハロゲンを脱離基として遷移金属錯体を触媒とする方法が好ましい。
リビングラジカル重合工程に用いることができるラジカル重合性単量体としては、前述したものを好ましく用いることができる。中でも(メタ)アクリレート化合物を用いることがより好ましく、前記リビングカチオン重合工程においてはカチオン重合性単量体としてビニルエーテル化合物を用い、かつ、リビングラジカル重合工程においてはラジカル重合性単量体として(メタ)アクリレート化合物をもちいることが特に好ましい。
【0051】
<遷移金属錯体>
本発明に用いることができる遷移金属錯体としては、リビングラジカル重合を進行させることが可能である遷移金属触媒であれば、特に制限はなく、公知の遷移金属触媒を用いることができる。中でも、周期律表の第7族〜第11族元素を中心金属とする遷移金属錯体であることが好ましく、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt又はCuを中心金属とする遷移金属錯体であることがより好ましく、Fe又はRuを中心金属とする遷移金属錯体であることがさらに好ましく、Ruを中心金属とする遷移金属錯体であることが特に好ましい。
また、遷移金属錯体としては、下記式(6)で表されるものが好ましい。
ML1i2j (6)
式(6)において、Mは周期律表の第8族〜第10族元素の遷移金属元素を表し、L1はそれぞれ独立に炭化水素環を含む炭化水素配位子を表し、置換基を有していてもよい。L2はそれぞれ独立に金属に配位して錯体を形成する配位子を表し、iは0〜2の整数、jは0〜5の整数である
【0052】
式(6)において、Mとしては、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd又はPtが好ましく挙げられ、Fe又はRuがより好ましく、Ruがさらに好ましい。
1で表される炭化水素環を含む炭化水素配位子としては、前記遷移金属元素に単座で又は多座で配位又は結合可能な炭化水素環を含む炭化水素配位子であれば特に制限されず、炭化水素配位子は置換基を有していてもよい。
炭化水素配位子としてはフェニル基、シクロブタジエニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロヘプタジエニル基、シクロヘプタトリエニル基、シクロオクタジエニル基、シクロオクタテトラエニル基、ノルボルナジエニル基、インデニル基及びフルオレニル基が挙げられ、中でも5員環を有する炭化水素配位子が好ましく、シクロペンタジエニル基、インデニル基及びフルオレニル基が好ましい。
これらの炭化水素配位子は置換基を有していてもよい。
前記置換基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、イミノ基、ニトロ基、シアノ基、シリル基、チオエステル基、チオケトン基、チオエーテル基、ハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素等)が挙げられる。
置換基を有する炭化水素配位子としては、ペンタメチルシクロペンタジエニル基、トリメチルシリルシクロペンタジエニル基が挙げられる。
【0053】
2で表される金属に配位して錯体を形成する配位子としては、炭化水素配位子、リン原子を含む配位子、窒素原子を含む配位子、酸素原子を含む配位子、ハロゲン原子及び擬ハロゲン基が挙げられる。
具体的には炭化水素配位子としてはエチレン、2−ブテン、アリル、2−メチルアリルを含むオレフィン類及びアレン類が挙げられ;リン原子を含む配位子としてはトリフェニルホスフィン、トリナフチルホスフィンを含むトリアリールホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィンを含むトリアルキルホスフィン及びトリフェニルホスファイトを含むトリアリールホスファイトが挙げられ;窒素原子を含む配位子としては窒素、ビピリジン、フェナントロリンが挙げられ;硫黄原子を含む配位子としてはジチオカルバメート及びジチオレンが挙げられ;酸素原子を含む配位子としてはアセチルアセトナト及び一酸化炭素が挙げられ;ハロゲン原子としては塩素、臭素及びヨウ素が挙げられ;擬ハロゲン基としてはCN、SCN、OCN、ONC、N3が挙げられ、中でもリン原子を含む配位子が好ましく、トリフェニルホスフィンがより好ましい。
【0054】
iは0〜2の整数であることが好ましく、1又は2の整数がより好ましい。jは0〜5の整数であることが好ましく、2〜5の整数がより好ましい。
【0055】
また、第11族元素を中心金属とする遷移金属錯体としては、銅錯体であることが好ましく、0価又は1価の銅の錯体が例示できる。銅錯体の形成に使用することができる1価の銅化合物を具体的に例示するならば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅等である。銅化合物を用いる場合、触媒活性を高めるために2,2’−ビピリジル及びその誘導体、1,10−フェナントロリン及びその誘導体、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリス(2−アミノエチル)アミン等のポリアミン等の配位子が添加され、銅錯体が形成される。
【0056】
遷移金属錯体の具体例としては、クロロシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロペンタメチルシクロペンタジエニルトリシクロヘキシルホスフィンルテニウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロトリス(トリブチルホスフィン)ルテニウム、ジヒドリドテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ヨードジカルボニルシクロペンタジエニル鉄、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)鉄等が挙げられ、中でもクロロシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムが好ましく、クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムがより好ましい。
【0057】
遷移金属錯体の使用量は、ラジカル重合性単量体の総使用量に対して、0.001〜30重量%であることが好ましく、0.003〜20重量%であることがより好ましい。上記範囲であると、副反応を抑制でき、重合の制御ができるため好ましい。
【0058】
<アミン>
アミンは、遷移金属錯体に作用してリビングラジカル重合を促進させる活性化剤として用いられる。このようなアミンは1又は2以上を組み合わせて使用できる。
アミンとしては脂肪族第一級アミン、脂肪族第二級アミン、脂肪族第三級アミン、脂肪族ポリアミン、芳香族第一級アミン、芳香族第二級アミン及び芳香族第三級アミンが例示できる。
具体的には、脂肪族第一級アミンとしてはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン及びブチルアミンが挙げられ;脂肪族第二級アミンとしてはジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン及びジブチルアミンが挙げられ;脂肪族第三級アミンとしてはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン及びトリブチルアミンが挙げられ;脂肪族ポリアミンとしてはN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”’,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン及び1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミンが挙げられ;芳香族第一級アミンとしてはアニリン及びトルイジンが挙げられ;芳香族第二級アミンとしてはジフェニルアミンが挙げられ;芳香族第三級アミンとしてはトリフェニルアミンが挙げられる。中でも本発明においてはトリブチルアミンが好ましい。
【0059】
アミンの使用量は、遷移金属錯体1モルに対して、0.01〜100モルが好ましく、0.05〜80モルがより好ましい。
【0060】
<リビングラジカル重合条件>
リビングラジカル重合の温度は、−50〜300℃であることが好ましく、0〜200℃であることがより好ましい。重合時間は特に限定されず、重合性単量体や遷移金属錯体の種類や使用量により調整することができる。
【0061】
リビングラジカル重合工程において、ラジカル性単量体及び遷移金属錯体の反応液への添加はいつ行われてもよく、リビングカチオン重合の開始前、反応中または反応後であってもよい。
また、リビングラジカル重合により目的の重合体が得られた後、すなわち、前記(B)工程又は(C)工程終了後に、吸着剤による処理又は,再沈殿法による処理などにより遷移金属錯体を除去することも好ましい。
【0062】
本発明の重合体、及び、本発明の重合体の製造方法により得られた重合体は、重合体の各カチオン重合鎖部分及びラジカル重合鎖部分の長さ(分子量)を、重合時間、重合温度等により容易に制御できる。
本発明により得られた重合体を接着剤、粘着剤として使用する場合、例えば、金属、木材、プラスチック、紙、無機材料等の被着体に、本発明の重合体の溶液を塗布して使用できる。また、本発明により得られた重合体は、相溶化剤、分散剤、情報記憶材料、ドラックデリバリーシステム、バインダー用樹脂、インキ、熱可塑性エラストマー、塗料、接着剤、高分子樹脂への添加剤(高分子樹脂の可塑化効果、接着性改善、塗装性改善等も含めた改質剤)等の用途にも有用である。
【0063】
(マクロ開始剤)
本発明のマクロ開始剤は、本発明の重合開始剤の残基を有し、式(6)又は式(7)で表されるカチオン重合ポリマー鎖又はラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体であり、ポリマー鎖及び重合開始点を有する重合体である。
【0064】
【化12】

(式(6)及び式(7)において、X1は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロアセトキシ基又はアセトキシ基を表し、X2は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、P1はカチオン重合ポリマー鎖を表し、P2はラジカル重合ポリマー鎖を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、mは1〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、(m+n)は2〜6の整数を表す。)
【0065】
式(6)及び式(7)におけるX1、X2、R2、m、n、(m+n)は、前記式(1)におけるX1、X2、R2、m、n、(m+n)と同義であり、好ましい範囲も同様である。また、式(6)及び式(7)におけるP1、P2は、前記式(5)におけるP1、P2と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0066】
本発明のマクロ開始剤は、本発明の重合開始剤の残基(すなわち、前記式(6)又は(7)においてP1又はP2を除いた基)を中心とし、前記残基に結合したカチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合開始点をそれぞれ有しているか、又は、前記残基に結合したラジカル重合ポリマー鎖及びカチオン重合開始点をそれぞれ有している。
本発明のマクロ開始剤がカチオン重合ポリマー鎖P1を有する場合、P1はカチオン重合性単量体を用いて形成され、また、本発明のマクロ開始剤がラジカル重合ポリマー鎖P2を有する場合、P2はラジカル重合性単量体を用いて形成される。
【0067】
(マクロ開始剤の製造方法)
本発明のマクロ開始剤の製造方法は、下記(A)、又は、下記(C)を含むカチオン重合ポリマー鎖又はラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体の製造方法である。
(A)本発明の重合開始剤を用いてルイス酸の存在下でカチオン重合性単量体をリビングカチオン重合し、末端に前記重合開始剤が結合したカチオン重合体を得る工程。
(C)本発明の重合開始剤を用いて遷移金属錯体の存在下でラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合し、末端に前記重合開始剤が結合したラジカル重合体を得る工程。
【0068】
本発明のマクロ開始剤の製造方法における(A)工程は、前記重合体の製造方法における(A)工程と同義であり、試薬や反応条件等の好ましい範囲も同様である。
本発明のマクロ開始剤の製造方法における(C)工程は、前記重合体の製造方法における(C)工程と同義であり、試薬や反応条件等の好ましい範囲も同様である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能である。
【0070】
本発明者らは、「ルイス酸によるリビングカチオン重合」と「遷移金属錯体によるリビングラジカル重合」の組み合わせによる新規ブロック共重合の合成を検討した。これらのリビング重合は、炭素−ハロゲン結合を有する“重合開始剤”を、“触媒”が可逆的に活性化することで進行する。その炭素についた置換基によって、生じる活性種がカチオンあるいはラジカルとなるため、重合に応じた重合開始剤の設計が重要となる。また、生成ポリマーは必ず重合開始剤の開始点から生成するため、全てのポリマー末端に重合開始剤が導入される。ここでは、両重合の開始点を一分子内に有するC1R1開始剤(C1R1initiator)及びC1R2開始剤(C1R2initiator)を設計した(下式参照)。
【0071】
【化13】

【0072】
【化14】

【0073】
上式に示す重合開始剤において、一方の炭素−ハロゲン結合の炭素はエーテル結合の酸素に隣接し、電子供与型の活性種を生成するのでカチオン重合開始剤であり、ルイス酸触媒により活性化される。
もう一方の炭素−ハロゲン結合は、活性種をベンゼン環とカルボニル基で共役できる構造を有しており、ラジカル重合開始点となり、遷移金属錯体により活性化される。それぞれ逆の触媒に対しては全く不活性となる。この重合開始剤を用いて、各重合触媒を組み合わせれば、リビングカチオン重合とリビングラジカル重合を各開始点から進行させることができ、結果、生成するポリマーはこの開始点を間にもつブロックポリマーとなる。
本実施例では、イソブチルビニルエーテル(IBVE)とメタクリル酸メチル(MMA)の組み合わせで各重合を行い、これまで報告例の無いIBVE−MMAブロック共重合体の合成を検討した。
【0074】
<試薬類>
下記に示した以外の試薬は、市販品をそのまま使用した。
3−ヒドロキシベンジルアルコール(Aldrich社製;純度>99%)、ジメチル−5−ヒドロキシイソフタレート(Aldrich社製;純度>99%)、水素化リチウムアルミニウム(和光純薬工業(株)製)、2−クロロエチルビニルエーテル(CEVE)(東京化成工業(株)製;純度>97%)、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド(東京化成工業(株)製;純度>98%)、水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製;純度>96%)、水酸化カリウム(和光純薬工業(株)製;純度>96%)はそのまま使用した。
2−クロロ−2−フェニルアセチルクロライド(Aldrich社製;純度>90%)は使用前に減圧蒸留した。
トリエチルアミン(和光純薬工業(株)製;純度>99%)は水素化カルシウムで乾燥したものを使用前に減圧蒸留した。
テトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製;純度>99.5%)はそのまま使用した。
塩化メチレンは精製カラム(Solvent Dispensing System;(株)アーンスト・ハンセン商会製)により精製したものを用いた。精製方法は、A. B. Pangborn at al., Organometallics, 1996, vol.15, p.1518を参照した。
四塩化スズ(和光純薬工業(株)製:純度>97%)は五酸化リンを添加して減圧蒸留し、使用した。
イソブチルビニルエーテル(東京化成工業(株)製;純度>99%)は10%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した後、使用前に、水素化カルシウムを添加して二回蒸留した。
メチルメタクリレート(東京化成工業(株)製;純度>99%)は、水素化カルシウムで乾燥し、使用前に水素化カルシウムを添加して減圧蒸留した。
クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(Strem社製;純度>98%)は購入したものを、グローブ・ボックス(M.Braun Labmaster 130)内にて、アルゴン雰囲気下(H2O<1ppm、O2<1ppm)で取り扱い使用した。
トリ(n−ブチル)アミン(東京化成工業(株)製;純度>98%)は、使用前に、乾燥した窒素ガスで15分間バブリングした。
ヘキサン(ガスクロマトグラフィーにおけるイソブチルビニルエーテルの内部標準試料)は、使用前に精製カラム(Solvent Dispensing System;(株)アーンスト・ハンセン商会製)により精製したものを用いた。精製方法は、A. B. Pangborn at al., Organometallics, 1996, vol.15, p.1518を参照した。
n−オクタン(ガスクロマトグラフィーにおけるメチルメタクリレートの内部標準試料)は、塩化カルシウムを用いて一晩乾燥させ、使用前に、水素化カルシウムを添加して二回蒸留した。
トルエン(溶媒)は使用前に精製カラム(Solvent Dispensing System;(株)アーンスト・ハンセン商会製)により精製したものを用いた。精製方法は、A. B. Pangborn at al., Organometallics, 1996, vol.15, p.1518を参照した。
【0075】
(実施例1:化合物3の合成)
<中間化合物1の合成>
【0076】
【化15】

【0077】
200mlのフラスコに、3−ヒドロキシベンジルアルコール(10g、80mmol)を48%水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム;5.39g、0.096mmol)で溶解したものを仕込み、2−クロロエチルビニルエーテルと、相間移動触媒としてテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド(0.5158g、1.6mmol)とを加え、24時間加熱還流した。反応液に塩化メチレンを加え、有機層を数回水洗いした後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。余剰の2−クロロエチルビニルエーテル及び塩化メチレンを留去し、残渣中の2−クロロエチルビニルエーテルをヘキサンで洗浄して中間化合物1(8.5g、55%)を得た。なお、反応条件についてはT. Nishikubo et al., Macromolcules, 1992, vol.25, p.4469を参照した。
1H NMR(CDCl3,TMS):δ(ppm)=1.8(tri,H,−OH),4.0〜4.3(m,6H,−OCH2CH2O−,CH2=C−),4.7(d,2H,Ar−CH2−O−),6.5(dd,H,C=CH),6.7〜7.4(m,4H,aromatic proton).
【0078】
<中間化合物2の合成>
【0079】
【化16】

【0080】
500mlのフラスコに、中間化合物1(3.89g、20mmol)、トリエチルアミン(2.64ml、30mmol)及びテトラヒドロフラン(100ml)を仕込み、氷浴で冷却した。この溶液に2−クロロ−2−フェニルアセチルクロライド(3.00ml、19mmol)を滴下した。滴下終了後、室温で3時間撹拌した(中間化合物1は2−クロロ−2−フェニルアセチルクロライドと反応し、中間化合物2と塩化水素とを生じた。塩化水素はトリエチルアミンにより吸収される。)。
蒸留水(100ml)を加え反応を停止させた後、塩化メチレンを加え、有機層を数回水洗いし、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)で精製して、中間化合物2(5.9g、89%)を得た。中間化合物2の化学構造は図1に示すように1H NMRにより確認した。なお、反応条件についてはShiping Zhu et al., Macromolecules, 2000, vol.33, p.5399を参照した。
1H NMR(CDCl3,テトラメチルシラン(TMS)):δ(ppm)=4.0〜4.3(m,6H,−OCH2CH2O−,CH2=C),5.1(m,2H,Ar−CH2−OCO−),5.4(s,H,Ar−,OCO−CH−Cl),6.5(dd,H,C=CH),6.7〜7.4(m,9H,aromatic proton).
【0081】
<目的化合物3の合成>
【0082】
【化17】

【0083】
中間化合物2(5.86g、16.9mmol)を含む400mMの塩化メチレン溶液を調製した。その溶液に−78℃で1.5時間、塩化水素ガスをバブリングした。塩化水素ガスは濃硫酸を粉末状の塩化ナトリウムに滴下して作製し、更に塩化カルシウムを充填したカラムを通して使用した。反応液中の過剰の塩化水素は−78℃で30分間、0℃で30分間、窒素ガスをバブリングすることにより除去し、目的化合物3(C1R1開始剤)の塩化メチレン溶液を得た。溶液濃度はホルハルト法により求めた。なお、反応条件としてはM. Sawamoto et al., Macromolecules, 1993, Vol.26, p.1643を参照した。
1H NMR(d−toluene,TMS):δ(ppm)=1.8(d,3H,CH3−C),3.8〜4.2(m,4H,−OCH2CH2O−),5.0〜5.5(m,3H,Ar−CH2−O−,Ar,OCO−CH−Cl),5.8(q,H,C−CH−O,Cl),6.7〜7.4(m,9H,aromatic proton).
【0084】
(実施例2)
<リビングカチオン重合工程>
重合はアルゴン雰囲気下で,ベーキングした三方コック付シュレンク管中で行った。イソブチルビニルエーテルモノマー(IBVE、0.25ml、1.9mmol)と、開始剤(C1R1開始剤、0.09ml、0.025mmol)のヘキサン溶液(0.25ml)に、先に調整した四塩化スズのトルエン溶液(0.01mmol、0.5ml)を乾燥したシリンジを用いて添加することにより重合を開始した。
1分経過した後、重合系にアンモニア性メタノール(2ml)を注入することにより重合を停止した。重合率はガスクロマトグラフィー測定(内部標準:ヘキサン)により決定した。重合を停止した反応液を10%塩酸水溶液、10%水酸化ナトリウム水溶液、更に水でそれぞれ洗い、減圧下で溶媒を留去してPIBVEマクロ開始剤を得た。
【0085】
【化18】

【0086】
<リビングラジカル重合工程>
重合はアルゴン雰囲気下で、ベーキングした三方コック付シュレンク管中でシリンジを用いて行った。
以下に、メチルメタクリレート(MMA)とPIBVEマクロ開始剤/クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム/トリ−n−ブチルアミンを用いた重合例を示す。
50mlナスフラスコにPIBVEマクロ開始剤(0.352g、0.036mmol)、クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(2.80mg、0.0036mmol)、トルエン(0.83ml)、n−オクタン(0.05ml)、トリ−n−ブチルアミンのトルエン溶液(0.18ml、400mM、0.072mmol)、MMA(0.39ml、3.60mmol)を調製した(総量1.80ml)。
調製後すぐに、4つの試験管に0.3mlずつ小分けして封管し、80℃のオイルバスにより加熱した。5時間(重合率42%)、9時間(重合率65%)、26時間(重合率88%)、29時間(重合率92%)が経過した後、−78℃に冷却して重合を停止した。重合停止した反応液をトルエンで希釈し、吸着剤(Kyowaad−2000G−7(Mg0.7Al0.31.15)協和化学工業(株)製)を加え激しく撹拌して金属を含む残渣を除去した。吸着剤をろ過により除去した後、ろ液の溶媒を留去し、室温で一晩真空乾燥することでPIBVEとPMMAのブロックポリマーを得た(以下、PIBVE−b−PMMAとも言う)。なお、重合率はガスクロマトグラフィー測定(内部標準:n−オクタン)により決定した。
【0087】
【化19】

【0088】
<In−Situでの連続した重合によるPIBVE−b−PMMAの合成>
C1R1開始剤を用いたPIBVEのリビングカチオン重合は、アルゴン雰囲気下で、ベーキングした三方コック付シュレンク管中で行った。IBVE(0.74ml、5.7mmol)モノマー、ヘキサン(0.074ml)及びC1R1開始剤(0.09ml、0.025mmol)を含むモノマー及び開始剤の溶液に、予め調製した四塩化スズトルエン溶液(四塩化スズ0.01mmol、トルエン0.5ml)を乾燥したシリンジを用いて注入し、重合を開始した。1分後、脱気したメタノール(1.0ml)を注入して重合を停止した。
MMAのリビングラジカル重合は、クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(11.9mg、0.015mmol)、n−オクタン(0.10ml)、トリ−n−ブチルアミンのトルエン溶液(400mM、0.31mmol)及びMMA(0.80ml、7.51mmol)を含むラジカルモノマー溶液を、前記重合停止したPIBVEマクロ開始剤を含む溶液に注入し、80℃のオイルバスにより加熱し、重合を開始した。3時間(重合率10%)、10時間(重合率57%)、22時間(重合率82%)、29時間(重合率90%)が経過した後、反応を観察するために溶液の一部を採取した。重合停止した反応液をトルエンで希釈し、吸着剤(Kyowaad−2000G−7、協和化学工業(株)製)を加え激しく撹拌することで金属を含む残渣を除去した。ろ材(Whatman 113V、ワットマン社製)を用いて吸着剤をろ過した後、ろ液の溶媒を留去し、室温で一晩真空乾燥した。なお、重合率はガスクロマトグラフィー測定(内部標準:n−オクタン)により決定した。
【0089】
<MWD、Mn、Mw/Mn比の測定>
得られた重合体の分子量分布(MWD)、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量と数平均分子量の比(多分散度、Mw/Mn比)はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により算出した。
GPCカラムはGPC K−805(昭和電工(株)製)を3本直列に連結し、PU−980型ポンプ(日本分光(株)製)に接続した。検出器はJasco RI−930型検出器(日本分光(株)製)及びJasco UV/vis検出器(256nm)(日本分光(株)製)を用いた。展開溶媒はクロロホルムを使用し、カラムオーブンは40℃、流量は1ml/minとした。
13種類のポリスチレンサンプル及びポリメタクリレートサンプル(Polymer Laboratories社製;Mn=630〜1,200,000;Mw/Mn=1.06〜1.22)、スチレンモノマー及びメタクリレートモノマーを用いてカラムを校正した。
【0090】
1H NMRスペクトル測定>
1H NMRスペクトルは、JEOL JNM−LA500 spectrometer(日本電子(株)製)を用いた(CDCl3,25℃,500.16MHz)。
【0091】
(実施例3)
PIBVE−b−PMMAの合成の最初のステップであるIBVEのリビングカチオン重合は、ルイス酸として四塩化スズ(SnCl4)を、開始剤としてC1R1開始剤を用いてトルエン中、−78℃、アルゴン雰囲気下で行った。それぞれの濃度は[IBVE]0/[C1R1開始剤]0/[SnCl40=380/5.0/2.0mMとした。
重合率が98%のPIBVEのNMRスペクトルを図2に示す。1分で重合率はほぼ100%に達し、数平均分子量が重合率に比例的に増加し、また,得られたポリマーの分子量分布が1.1以下と非常に狭くなった。さらにNMRスペクトルのα末端から算出した数平均分子量とゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)から算出した数平均分子量がほぼ同じになった。これらのことから本重合はリビング的に進行したといえる。
【0092】
MMAのリビングラジカル重合は、触媒としてクロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(Ru(Ind)Cl(PPh32)を、添加物としてトリ−n−ブチルアミン(n−Bu3N)を、開始剤としてPIBVEマクロ開始剤を用いてトルエン中、80℃、アルゴン雰囲気下で行われた。それぞれの濃度は[MMA]0/[PIBVEマクロ開始剤]0/[Ru(Ind)Cl(PPh320/[n−Bu3N]0=2,000/20/2/40mMとした。図3に重合時間とMMAの重合率とをプロットしたグラフ、MMAの重合率と数平均分子量とをプロットしたグラフ、及び、重量平均分子量でプロットしたGPC曲線を示した。また重合率が92%のPIBVE−b−PMMAのNMRスペクトルを図4に示した。
29時間で重合率は90%以上に達し、数平均分子量が重合率に比例的に増加し、また、得られたポリマーの分子量分布が1.1と非常に狭くなった。さらにNMRスペクトルのα末端から算出した数平均分子量とGPCから算出した数平均分子量がほぼ同じになった。これらのことから本重合はリビング的に進行し、よく制御されたPIBVE−b−PMMAを合成することができた。
【0093】
(実施例4:化合物7の合成)
<ジメチル−5−ヒドロキシイソフタレートの還元>
【0094】
【化20】

【0095】
2Lのフラスコに水素化リチウムアルミニウム(22.8g、0.6mol)のTHF(500ml)溶液を仕込み、氷浴で冷却した。この溶液にジメチル−5−ヒドロキシイソフタレート(42.0g、0.2mol)のTHF(500ml)溶液を30分かけて滴下した。滴下終了後、12時間加熱還流した。再び氷浴で冷却して、10%硫酸を水素の発生が収まるまでゆっくり加えた。析出した塩分をろ過し、THFで洗浄して、ろ液は溶媒留去した。残渣はTHFで再溶解して無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥し、ろ過後、再び溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=5/1)で精製して、中間化合物4(27.8g、90%)を得た。なお、実験条件についてはM. Inouye, K. Fujimoto, M. Furusyo, and H. Nakazumi, J. Am. Chem. Soc., 1999, vol.121, p.1452を参照した。
【0096】
<中間化合物4のエーテル化>
【0097】
【化21】

【0098】
200mlのナスフラスコに中間化合物4(27.0g、0.175mol)を48%水酸化カリウム(KOH)水溶液(KOH:11.8g、0.21mol)で溶解したものを仕込み、2−クロロエチルビニルエーテル(26.7ml、0.26mol)と層間移動触媒としてテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド(1.13g、3.5mmol)を加えて、激しく撹拌しながら、16時間加熱還流した。蒸留水(100ml)を加えて析出した塩分を溶解し、分液漏斗に移して塩化メチレンで3回抽出した。有機層は水洗いし、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=100/3)で精製して、中間化合物5(16.8g、43%)を得た。
【0099】
<中間化合物5のエステル化>
【0100】
【化22】

【0101】
500mlのフラスコに中間化合物5(2.54g、11.3mmol)、トリエチルアミン(4.12ml、34.0mmol)のTHF(100ml)溶液を仕込み、氷浴で冷却した。この溶液に2−クロロ−2−フェニルアセチルクロライド(3.40ml、21.5mmol)を、滴下漏斗を使って滴下した。滴下終了後、3時間室温で反応した。蒸留水(100ml)を加え、反応を停止させ、分液漏斗に移して塩化メチレンで抽出した。有機層は水洗いし、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)で精製して、中間化合物6(5.0g、88%)を得た。
【0102】
<中間化合物6のHCl付加>
【0103】
【化23】

【0104】
中間化合物6(4.90g、9.25mmol)を200mMの塩化メチレン溶液に調製した。その溶液に−78℃、1.5時間、塩化水素ガスをバブリングした。反応系中の過剰の塩化水素は−78℃で30分、および0℃で30分、窒素をバブリングすることにより除去し、目的化合物7(C1R2開始剤)を得た(図5)。
【0105】
<イソブチルビニルエーテル(IBVE)のリビングカチオン重合>
重合はアルゴン雰囲気下で、ベーキングした三方コック付シュレンク管中で行った。IBVEとC1R2開始剤のトルエン溶液に、先に調製した四塩化スズのトルエン溶液を注入することよって重合開始をした。重合系にアンモニア性メタノールを注入することにより重合を停止した。重合率はガスクロマトグラフィー測定(内部標準:ヘキサン)により決定した。重合停止した反応液を10%塩酸水溶液で3回、10%水酸化ナトリウム水溶液で1回、水で2回洗うことによりPIBVEマクロ開始剤を得た。
【0106】
【化24】

【0107】
(実施例5)
<メタクリル酸メチル(MMA)のリビングラジカル重合>
重合はアルゴン雰囲気下で、ベーキングした三方コック付シュレンク管中もしくは封管した試験管中で行った。
50mlのフラスコにPIBVEマクロ開始剤(0.314g、0.03mmol)、トルエン(0.67ml)、n−オクタン(0.04ml)、n−Bu3Nのトルエン溶液(0.15mM、0.06mmol)、MMA(0.32ml、3.0mmol)を調製した(総量1.5ml)。調製後すぐに、試験管に小分けし、封管し、80℃のオイルバス中に浸すことにより重合を開始した。3時間(重合率3%)、10時間(重合率64%)、22時間(重合率83%)、29時間(重合率91%)経過した後、重合系をドライアイスメタノール(−78℃)に浸すことにより重合を停止した。重合率はガスクロマトグラフィー測定(内部標準:n−オクタン)により決定した。重合停止した反応液をトルエンで希釈し、吸着剤(Kyowaad−2000G−7、協和化学工業(株)製)を加え激しく撹拌することで金属物を除去し、吸着剤をろ過した。ろ液の溶媒を留去し、室温で一晩真空乾燥することでPIBVEとPMMAのブロックポリマーを得た(以下、PIBVE−b−(PMMA)2ともいう。)。
【0108】
【化25】

【0109】
PIBVE−b−(PMMA)2合成の、最初のステップであるIBVEのリビングカチオン重合は、ルイス酸として四塩化スズ(SnCl4)を、開始剤としてC1R2開始剤を用いてトルエン中、−78℃、アルゴン雰囲気下で行った。
それぞれの濃度は[IBVE]0/[C1R2開始剤]0/[SnCl40=380/5.0/2.0mMとした。重合率が98%のPIBVEのNMRスペクトルを図6に示した。1分で重合率はほぼ100%に達し、数平均分子量が重合率に比例的に増加し、また、得られたポリマーの分子量分布が1.1以下と非常に狭くなった。さらにNMRスペクトルのα末端から算出した数平均分子量とGPCから算出した数平均分子量がほぼ同じになった。これらのことから本重合はリビング的に進行したといえる。
【0110】
MMAのリビングラジカル重合は、触媒としてRu(Ind)Cl(PPh32を、アミンとしてn−Bu3Nを、開始剤としてPIBVEマクロ開始剤を用いてトルエン中、80℃、アルゴン雰囲気下で行われた。それぞれの濃度は[MMA]0/[PIBVEマクロ開始剤]0/[Ru(Ind)Cl(PPh320/[n−Bu3N]0=2,000/20/2/40mMとした。
図7に重合時間とMMAの重合率とをプロットしたグラフ、MMAの重合率と数平均分子量とをプロットしたグラフ、及び、重量平均分子量でプロットしたGPC曲線を示した。また重合率が92%のPIBVE−b−(PMMA)2のNMRスペクトルを図8に示した。29時間で重合率は90%以上に達し、数平均分子量が重合率に比例的に増加し、また、得られたポリマーの分子量分布が1.2と狭くなった。さらにNMRスペクトルのα末端から算出した数平均分子量とGPCから算出した数平均分子量がほぼ同じになった。これらのことから本重合はリビング的に進行し、よく制御されたPIBVE−b−(PMMA)2を合成することができた。
【0111】
<各ラジカル重合ポリマー鎖の切断>
50mlのナスフラスコにPIBVE−b−(PMMA)2(0.2g)のTHF(10ml)溶液を仕込み、ナトリウムメトキサイド(13.8mg、0.25mol)のTHF/メタノール(5ml/0.3ml)溶液を加えた。この溶液を70℃のオイルバスに浸し、4日間加熱還流した。反応後、反応溶液の溶媒を留去し、残渣を酢酸エチルに溶解し、10%HCl水溶液及び水で洗浄し、有機層の溶媒を留去した。なお、実験条件としては、T. He, D. Li, X. Sheng, and B. Zhao, Macromolecules, 2004, vol.37, p.3128を参照した。
【0112】
各ラジカル重合ポリマー鎖を、ナトリウムメトキシドを使用して切断し、GPC測定を行った(図9)。各ポリマー鎖の分子量も制御されていることが確認された。なお、図9中の各段階(1、2、3、4−1、4−2)におけるGPC曲線は、それぞれ図9右側に記載したマクロ開始剤、重合体の状態に対応する。
図9において、段階1ではカチオン重合ポリマー鎖のみを有するマクロ開始剤を、段階2ではカチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体を、段階3では塩基によるポリマー鎖の切断により生じたラジカル重合ポリマー鎖が解離した前記重合体及び解離したラジカル重合ポリマー鎖を、段落4−1ではヘキサンにより抽出して得られた前記ラジカル重合ポリマー鎖が解離した重合体のみを、段落4−2では抽出後に残渣として残った前記ラジカル重合ポリマー鎖のみを、それぞれ測定したGPC曲線を表す。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】中間化合物2及び化合物3の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図2】PIBVE−C1R1開始剤の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図3】PIBVE−b−PMMAの作製時において、重合時間とMMAの重合率とをプロットしたグラフ、MMAの重合率と数平均分子量とをプロットしたグラフ及びGPC曲線を示す図である。
【図4】PIBVE−b−PMMAの1H NMRスペクトルを示す図である。
【図5】中間化合物6及び化合物7の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図6】PIBVE−C1R2開始剤の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図7】PIBVE−b−(PMMA)2の作製時において、重合時間とMMAの重合率とをプロットしたグラフ、MMAの重合率と数平均分子量とをプロットしたグラフ及びGPC曲線を示す図である。
【図8】PIBVE−b−(PMMA)21H NMRスペクトルを示す図である。
【図9】PIBVE−b−(PMMA)2の作製時及びラジカル重合ポリマー鎖の切断前後において、GPC測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0114】
1 図9の右側に記載した本発明の重合体の模式図における重合開始剤残基
2 図9の右側に記載した本発明のカチオン重合ポリマー鎖を有する重合体の模式図におけるリビングラジカル重合可能な重合開始点を有する構造
3 図9の右側に記載した本発明の重合体の模式図におけるカチオン重合ポリマー鎖
4 図9の右側に記載した本発明の重合体の模式図におけるラジカル重合ポリマー鎖
5 図9の右側に記載した本発明の重合体の模式図において、重合体から部分分解して得られたラジカル重合ポリマー鎖

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物であることを特徴とする
重合開始剤。
【化1】

(式(1)において、X1は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロアセトキシ基又はアセトキシ基を表し、X2は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、mは1〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、(m+n)は2〜6の整数を表す。)
【請求項2】
式(2)で表される化合物である請求項1に記載の重合開始剤。
【化2】

(式(2)において、X1は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロアセトキシ基又はアセトキシ基を表し、X2は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、nは1〜5の整数を表す。)
【請求項3】
式(3)又は式(4)で表される化合物である請求項2に記載の重合開始剤。
【化3】

【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の重合開始剤の残基を有し、式(5)で表されるカチオン重合で得られるポリマー鎖及びラジカル重合で得られるポリマー鎖を有する重合体。
【化4】

(式(5)において、P1はカチオン重合ポリマー鎖を表し、P2はラジカル重合ポリマー鎖を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、mは1〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、(m+n)は2〜6の整数を表す。)
【請求項5】
前記P1におけるカチオン重合ポリマー鎖がビニルエーテル化合物をカチオン重合して得られたポリマー鎖であり、前記P2におけるラジカル重合ポリマー鎖が(メタ)アクリレート化合物をラジカル重合して得られたポリマー鎖である請求項4に記載のカチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体。
【請求項6】
下記(A)及び(B)、又は、下記(C)及び(D)を含むカチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体の製造方法。
(A)請求項1〜3のいずれか1つに記載の重合開始剤を用いてルイス酸の存在下でカチオン重合性単量体をリビングカチオン重合し、末端に前記重合開始剤が結合したカチオン重合体を得る工程、及び、
(B)前記末端に前記重合開始剤が結合したカチオン重合体及び遷移金属錯体の存在下、ラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合する工程。
(C)請求項1〜3のいずれか1つに記載の重合開始剤を用いて遷移金属錯体の存在下でラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合し、末端に前記重合開始剤が結合したラジカル重合体を得る工程、及び、
(D)前記末端に前記重合開始剤が結合したラジカル重合体及びルイス酸の存在下、カチオン重合性単量体をリビングカチオン重合する工程。
【請求項7】
前記(A)及び(B)を含む請求項6に記載のカチオン重合ポリマー鎖及びラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体の製造方法。
【請求項8】
前記カチオン重合性単量体がビニルエーテル化合物であり、かつ、前記ラジカル重合性単量体が(メタ)アクリレート化合物である請求項6又は7に記載の重合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の重合開始剤の残基を有し、式(6)又は式(7)で表されるカチオン重合ポリマー鎖又はラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体。
【化5】

(式(6)及び式(7)において、X1は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロアセトキシ基又はアセトキシ基を表し、X2は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、P1はカチオン重合ポリマー鎖を表し、P2はラジカル重合ポリマー鎖を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、mは1〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、(m+n)は2〜6の整数を表す。)
【請求項10】
下記(A)、又は、下記(C)を含むカチオン重合ポリマー鎖又はラジカル重合ポリマー鎖を有する重合体の製造方法。
(A)請求項1〜3のいずれか1つに記載の重合開始剤を用いてルイス酸の存在下でカチオン重合性単量体をリビングカチオン重合し、末端に前記重合開始剤が結合したカチオン重合体を得る工程。
(C)請求項1〜3のいずれか1つに記載の重合開始剤を用いて遷移金属錯体の存在下でラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合し、末端に前記重合開始剤が結合したラジカル重合体を得る工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−222821(P2008−222821A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61709(P2007−61709)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】