ラックピニオン式ステアリング装置
【課題】ピニオン軸のスラスト荷重を支持する止め輪が離脱したり破損しても、ピニオン軸が軸方向に動くことを規制することが可能なラックピニオン式ステアリング装置。
【解決手段】止め輪23が離脱したり破損すると、ピニオン軸1が軸方向の上方に動く。すると、ピニオン4の下端面42側の切り上がり部45が、ラック5の外周面51に当接し、ピニオン軸1はそれ以上軸方向に動かないため、スラスト荷重を支持することができ、ラックピニオン式ステアリング装置の所定の性能を維持することができる。
【解決手段】止め輪23が離脱したり破損すると、ピニオン軸1が軸方向の上方に動く。すると、ピニオン4の下端面42側の切り上がり部45が、ラック5の外周面51に当接し、ピニオン軸1はそれ以上軸方向に動かないため、スラスト荷重を支持することができ、ラックピニオン式ステアリング装置の所定の性能を維持することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステアリング装置、特に、ステアリングホイールに付与された操舵力を、ピニオンに噛み合うラックを介して車輪側に伝達するラックピニオン式ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールの操舵トルクを、ピニオンに噛み合うラックを介して車輪側に伝達するラックピニオン式ステアリング装置がある。また、ステアリングホイールの操舵トルクを検出し、ステアリングホイールに付与された操舵力を補助して、ピニオンに噛み合うラックを介して車輪側に伝達し、ステアリングホイールの操作を楽に行うようにした操舵力補助装置(電動パワーステアリング装置)を有するラックピニオン式ステアリング装置がある。このようなステアリング装置として、特許文献1、特許文献2に開示されたラックピニオン式ステアリング装置がある。
【0003】
図10は従来のラックピニオン式ステアリング装置の全体を示す斜視図、図11は図10のピニオン軸の正面図、図12は図10のピニオン軸に加わる荷重を示す斜視図である。図10、図11に示すように、ピニオン軸1は、その軸方向の略中間位置より下方にピニオン4が形成され、ピニオン4の上端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも大径の大径軸部11が形成されている。また、ピニオン4の下端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小径の小径軸部12が形成されている。
【0004】
大径軸部11が玉軸受(第1の軸受)21によりハウジング3に軸支されている。大径軸部11上端の環状溝13に装着してカシメられたカシメリング22は、玉軸受21の内輪を、ピニオン4の上端面41との間で挟み込んでいる。
【0005】
また、玉軸受21の外輪は、ハウジング3に形成された軸受穴31に挿入され、この軸受穴31の開口側の環状溝32に装着された止め輪23によって、軸方向の移動不能にハウジング3に固定されている。
【0006】
ピニオン4の歯底43は、ピニオン4の下端面42(小径軸部12)側は、歯底円直径D1のままで通し加工されている。また、ピニオン4の上端面41(大径軸部11)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第1の切り上がり部)44(ピニオン4の歯形加工時のホブカッターの逃げ部分)が、上端面41よりも下側に形成されている。従って、切り上がり部44の終端は、ピニオン4の歯先円直径D2と同一直径に形成されている。
【0007】
小径軸部12の外径寸法は、歯形加工時にホブカッターで通し加工した際、ホブカッターと小径軸部12の外周との干渉を避けるために、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小さく形成されている。この小径軸部12はハウジング3の下方に形成された軸受穴33に、ニードル軸受(第2の軸受)24により軸支されている。このようにして、ピニオン軸1は、玉軸受21及びニードル軸受24によって、スラスト方向及びラジアル方向にハウジング3に支持されている。
【0008】
ピニオン軸1の上端は、図示しないステアリングシャフトを介してステアリングホイールに連結されている。ステアリングホイールを操作すると、その操舵力がピニオン軸1に伝達される。ピニオン軸1の回転は、ピニオン4を介してラック5に伝達され、ラック5に連結された図示しないタイロッドを介して舵輪の向きを変更する。ピニオン4の回転をラック5に円滑に伝達するために、ピニオン4の歯は、ピニオン軸1の軸心に対して所定のねじれ角を有するヘリカルピニオンに形成されている。
【0009】
ラックガイド6は、ラック5の背面に押圧ブロック61をアジャストカバー62によって常時押し付けている。アジャストカバー62は、コイルバネ63を介して押圧ブロック61を付勢して、ラック5の背面に押圧ブロック61を押し付けている。これによって、ピニオン4とラック5との噛み合い部のバックラッシュを無くし、ラック5が円滑に移動するようにしている。
【0010】
図12に示すように、ステアリングホイールの操舵力がラック5に伝達されると、ピニオン4には、スラスト荷重P1、ラジアル荷重P2、接線荷重P3の3種類の荷重が加わる。
【0011】
ラジアル荷重P2と接線荷重P3は、玉軸受21及びニードル軸受24とハウジング3によって支持される。しかし、スラスト荷重P1は、玉軸受21と止め輪23だけで支持される。従って、大きなスラスト荷重P1が作用して止め輪23が離脱したり破損すると、ピニオン軸1が軸方向に動くため、スラスト荷重を支持することができない。特に、コラム式の電動パワーステアリング装置などで、高出力タイプのものに適用することが難しくなる。
【0012】
特許文献1のラックピニオン式ステアリング装置は、玉軸受と止め輪との間の異音の発生を防止するものであって、止め輪の離脱や破損によるピニオン軸の軸方向移動を防止するものではない。特許文献2のラックピニオン式ステアリング装置は、玉軸受のスラスト荷重を支持するネジカバーの緩み止めとして、玉軸受の外輪に溝を形成している。しかし、玉軸受の外輪形状が特殊形状となるため、玉軸受の製造コストが上昇してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−038254号公報
【特許文献2】特開2010−031915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ピニオン軸のスラスト荷重を支持する止め輪が離脱したり破損しても、ピニオン軸が軸方向に動くことを規制することが可能なラックピニオン式ステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は以下の手段によって解決される。すなわち、第1番目の発明は、ハウジング、上記ハウジングに回転可能に軸支され、ステアリングホイールの操舵力がその一端に伝達されるピニオン軸、上記ピニオン軸の他端に形成されたピニオン、上記ピニオンと噛み合い、操舵力を車輪側に伝達するラック、上記ピニオンの一端にピニオンの歯底円直径よりも大径に形成された大径軸部、上記大径軸部を上記ハウジングに回転可能に軸支する第1の軸受、上記ピニオンの他端にピニオンの歯底円直径よりも小径に形成された小径軸部、上記小径軸部を上記ハウジングに回転可能に軸支する第2の軸受、上記ピニオンの大径軸部側の歯底に形成された第1の切り上がり部、上記ピニオンの小径軸部側の歯底に形成された第2の切り上がり部が形成されていることを特徴とするラックピニオン式ステアリング装置である。
【0016】
第2番目の発明は、第1番目の発明のラックピニオン式ステアリング装置において、上記第1の切り上がり部及び第2の切り上がり部の終端が、上記ピニオンの歯先円直径と同一直径に形成されていることを特徴とするラックピニオン式ステアリング装置である。
【0017】
第3番目の発明は、第1番目の発明のラックピニオン式ステアリング装置において、上記第1の切り上がり部の終端が、上記ピニオンの歯先円直径と同一直径に形成され、上記第2の切り上がり部の終端が、上記ピニオンの歯先円直径よりも小径で、上記ラックの歯先よりも大径に形成されていることを特徴とするラックピニオン式ステアリング装置である。
【0018】
第4番目の発明は、第2番目から第3番目までのいずれかの発明のラックピニオン式ステアリング装置において、上記ピニオンに加わるスラスト荷重によって上記ピニオン軸が第1の軸受の側に移動し、上記ラックの外周面が第2の切り上がり部に当接するまでの軸方向の長さが、上記第2の軸受が上記小径軸部を軸支する軸方向の長さよりも小さく形成されていることを特徴とするラックピニオン式ステアリング装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のラックピニオン式ステアリング装置は、ピニオンの一端にピニオンの歯底円直径よりも大径に形成された大径軸部と、大径軸部をハウジングに回転可能に軸支する第1の軸受と、ピニオンの他端にピニオンの歯底円直径よりも小径に形成された小径軸部と、小径軸部をハウジングに回転可能に軸支する第2の軸受と、ピニオンの大径軸部側の歯底に形成された第1の切り上がり部と、ピニオンの小径軸部側の歯底に形成された第2の切り上がり部とから構成されている。
【0020】
従って、ピニオンに大きなスラスト荷重が加わり、止め輪が離脱したり破損すると、ピニオンが軸方向に動く。すると、ピニオンの小径軸部側の歯底に形成された第2の切り上がり部が、ラックの外周面に当接し、ピニオンはそれ以上軸方向に動かないため、スラスト荷重を支持することができ、ラックピニオン式ステアリング装置の所定の性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のラックピニオン式ステアリング装置の全体を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施例1のラックピニオン式ステアリング装置を示す縦断面図である。
【図3】図2のピニオン軸の正面図である。
【図4】本発明の実施例2のラックピニオン式ステアリング装置を示す縦断面図である。
【図5】図4のピニオン軸の正面図である。
【図6】図4のP部拡大断面図である。
【図7】本発明の実施例3のラックピニオン式ステアリング装置を示す縦断面図である。
【図8】図7のQ部拡大断面図である。
【図9】図7のラック単体の正面図である。
【図10】従来のラックピニオン式ステアリング装置の全体を示す斜視図である。
【図11】図10のピニオン軸の正面図である。
【図12】図10のピニオン軸に加わる荷重を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施例1から実施例3を説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は本発明のラックピニオン式ステアリング装置の全体を示す斜視図、図2は本発明の実施例1のラックピニオン式ステアリング装置を示す縦断面図、図3は図2のピニオン軸の正面図である。
【0024】
図1に示すように、本発明のラックピニオン式ステアリング装置は、コラムアシスト型ラックピニオン式パワーステアリング装置である。ステアリングホイール101の操作力を軽減するために、コラム105の中間部に取付けたモータ102の操舵補助力をステアリングシャフトに付与し、中間シャフト106を介して、ラックピニオン式のステアリングギヤ103のラックを往復移動させ、タイロッド104を介して舵輪を操舵する方式のパワーステアリング装置である。
【0025】
ステアリングシャフトに補助トルクを付与する為のアシスト装置(操舵補助部)107の車体前方側端面から突出した出力軸108が、自在継手(上側自在継手)109Aを介して、中間シャフト106の後端部に連結している。また、この中間シャフト106の前端部に、別の自在継手(下側自在継手)109Bを介して、ステアリングギヤ103のピニオン軸1を連結している。
【0026】
図2、図3に示すように、図1で説明したピニオン軸1は、その軸方向の略中間位置より下方にピニオン4が形成され、ピニオン4の上端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも大径の大径軸部11が形成されている。また、ピニオン4の下端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小径の小径軸部12が形成されている。
【0027】
大径軸部11が玉軸受(第1の軸受)21によりハウジング3に軸支されている。大径軸部11上端の環状溝13に装着してカシメられたカシメリング22は、玉軸受21の内輪を、ピニオン4の上端面41との間で挟み込んでいる。
【0028】
また、玉軸受21の外輪は、ハウジング3に形成された軸受穴31に挿入され、この軸受穴31の開口側の環状溝32に装着された止め輪23によって、軸方向の移動不能にハウジング3に固定されている。
【0029】
ピニオン4の上端面41(大径軸部11)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第1の切り上がり部)44(ピニオン4の歯形加工時のホブカッターの逃げ部分)が、上端面41よりも下側に形成されている。また、ピニオン4の下端面42(小径軸部12)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第2の切り上がり部)45が、下端面42よりも上側に形成されている。従って、切り上がり部44、45の終端は、ピニオン4の歯先円直径D2と同一直径に形成されている。
【0030】
小径軸部12の外径寸法は、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小さく形成されている。この小径軸部12はハウジング3の下方に形成された軸受穴33に、ニードル軸受(第2の軸受)24により軸支されている。このようにして、ピニオン軸1は、玉軸受21及びニードル軸受24によって、スラスト方向及びラジアル方向にハウジング3に支持されている。
【0031】
ピニオン軸1の上端は、図1の自在継手109B、中間シャフト106を介してステアリングホイール101に連結されている。ステアリングホイール101を操作すると、モータ102の操舵補助力が付与された操舵力がピニオン軸1に伝達される。ピニオン軸1の回転は、ピニオン4を介してラック5に伝達され、ラック5に連結された図1のタイロッド104を介して舵輪の向きを変更する。ピニオン4の回転をラック5に円滑に伝達するために、ピニオン4の歯は、ピニオン軸1の軸心に対して所定のねじれ角を有するヘリカルピニオンに形成されている。
【0032】
ラックガイド6は、ラック5の背面に押圧ブロック61をアジャストカバー62によって常時押し付けている。アジャストカバー62は、コイルバネ63を介して押圧ブロック61を付勢して、ラック5の背面に押圧ブロック61を押し付けている。これによって、ピニオン4とラック5との噛み合い部のバックラッシュを無くし、ラック5が円滑に移動するようにしている。
【0033】
図11に示すように、ステアリングホイール101の操舵力がラック5に伝達され、ピニオン4に大きなスラスト荷重P1が加わり、止め輪23が離脱したり破損すると、ピニオン軸1が図1、図2の軸方向の上方に動く。すると、ピニオン4の下端面42側の切り上がり部45が、ラック5の外周面51に当接し、ピニオン軸1はそれ以上軸方向に動かないため、スラスト荷重を支持することができ、ラックピニオン式ステアリング装置の所定の性能を維持することができる。また、切り上がり部45がラック5の外周面51に当接すると、異音が生じるため、運転者に異常を通知することができる。
【0034】
本発明の実施例1では、ピニオン4の小径軸部12側の歯底43に切り上がり部45を形成し、切り上がり部45の終端をピニオン4の歯先円直径D2と同一直径に形成するだけで済むため、製造コストの上昇を小さく抑えることができる。
【実施例2】
【0035】
次に本発明の実施例2について説明する。図4は本発明の実施例2のラックピニオン式ステアリング装置を示す縦断面図、図5は図4のピニオン軸の正面図、図6は図4のP部拡大断面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。実施例2は実施例1の変形例であって、実施例1の切り上がり部45の終端の直径を実施例1よりも小さく形成した例である。
【0036】
図4から図6に示すように、ピニオン軸1は、その軸方向の略中間位置より下方にピニオン4が形成され、ピニオン4の上端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも大径の大径軸部11が形成されている。また、ピニオン4の下端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小径の小径軸部12が形成されている。
【0037】
大径軸部11が玉軸受(第1の軸受)21によりハウジング3に軸支されている。大径軸部11上端の環状溝13に装着してカシメられたカシメリング22は、玉軸受21の内輪を、ピニオン4の上端面41との間で挟み込んでいる。
【0038】
また、玉軸受21の外輪は、ハウジング3に形成された軸受穴31に挿入され、この軸受穴31の開口側の環状溝32に装着された止め輪23によって、軸方向の移動不能にハウジング3に固定されている。
【0039】
ピニオン4の上端面41(大径軸部11)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第1の切り上がり部)44(ピニオン4の歯形加工時のホブカッターの逃げ部分)が、上端面41よりも下側に形成されている。切り上がり部44の終端は、ピニオン4の歯先円直径D2と同一直径に形成されている。
【0040】
また、ピニオン4の下端面42(小径軸部12)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第2の切り上がり部)45が、下端面42よりも下側に延びて形成されて、切り上がり部45の終端が、ピニオン4の歯先円直径D2よりも小径で、ラック5の歯先52よりも、図6の長さLだけ大径に形成されている。
【0041】
小径軸部12の外径寸法は、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小さく形成されている。この小径軸部12はハウジング3の下方に形成された軸受穴33に、ニードル軸受(第2の軸受)24により軸支されている。このようにして、ピニオン軸1は、玉軸受21及びニードル軸受24によって、スラスト方向及びラジアル方向にハウジング3に支持されている。
【0042】
ピニオン軸1の上端は、図1の自在継手109B、中間シャフト106を介してステアリングホイール101に連結されている。ステアリングホイール101を操作すると、モータ102の操舵補助力が付与された操舵力がピニオン軸1に伝達される。ピニオン軸1の回転は、ピニオン4を介してラック5に伝達され、ラック5に連結された図1のタイロッド104を介して舵輪の向きを変更する。ピニオン4の回転をラック5に円滑に伝達するために、ピニオン4の歯は、ピニオン軸1の軸心に対して所定のねじれ角を有するヘリカルピニオンに形成されている。
【0043】
ラックガイド6は、ラック5の背面に押圧ブロック61をアジャストカバー62によって常時押し付けている。アジャストカバー62は、コイルバネ63を介して押圧ブロック61を付勢して、ラック5の背面に押圧ブロック61を押し付けている。これによって、ピニオン4とラック5との噛み合い部のバックラッシュを無くし、ラック5が円滑に移動するようにしている。
【0044】
図11に示すように、ステアリングホイール101の操舵力がラック5に伝達され、ピニオン4に大きなスラスト荷重P1が加わり、止め輪23が離脱したり破損すると、ピニオン軸1が図4から図6の軸方向の上方に動く。すると、ピニオン4の下端面42側の切り上がり部45が、ラック5の外周面51に当接し、ピニオン軸1はそれ以上軸方向に動かないため、スラスト荷重を支持することができ、ラックピニオン式ステアリング装置の所定の性能を維持することができる。また、切り上がり部45がラック5の外周面51に当接すると、異音が生じるため、運転者に異常を通知することができる。
【0045】
本発明の実施例2では、ピニオン4の小径軸部12側の歯底43に切り上がり部45を形成し、切り上がり部45の終端を、ピニオン4の歯先円直径D2よりも小径で、ラック5の歯先52よりも大径に形成するだけで済むため、製造コストの上昇を小さく抑えることができる。
【実施例3】
【0046】
次に本発明の実施例3について説明する。図7は本発明の実施例3のラックピニオン式ステアリング装置を示す縦断面図、図8は図7のQ部拡大断面図、図9は図7のラック単体の正面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。実施例3は実施例1の変形例であって、ピニオンに加わるスラスト荷重によってピニオン軸が第1の軸受の側に移動した時に、小径軸部が第2の軸受から外れないようにした例である。
【0047】
図7、図8に示すように、ピニオン軸1は、その軸方向の略中間位置より下方にピニオン4が形成され、ピニオン4の上端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも大径の大径軸部11が形成されている。また、ピニオン4の下端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小径の小径軸部12が形成されている。
【0048】
大径軸部11が玉軸受(第1の軸受)21によりハウジング3に軸支されている。大径軸部11上端の環状溝13に装着してカシメられたカシメリング22は、玉軸受21の内輪を、ピニオン4の上端面41との間で挟み込んでいる。
【0049】
また、玉軸受21の外輪は、ハウジング3に形成された軸受穴31に挿入され、この軸受穴31の開口側の環状溝32に装着された止め輪23によって、軸方向の移動不能にハウジング3に固定されている。
【0050】
ピニオン4の上端面41(大径軸部11)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第1の切り上がり部)44(ピニオン4の歯形加工時のホブカッターの逃げ部分)が、上端面41よりも下側に形成されている。
【0051】
また、ピニオン4の下端面42(小径軸部12)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第2の切り上がり部)45が、下端面42よりも上側に形成されている。従って、切り上がり部44、45の終端は、ピニオン4の歯先円直径D2と同一直径に形成されている。図9に示すように、ラック5のラック歯の左端部には、ラック歯の歯底を延長した平面部53が形成されている。この平面部53がピニオン軸1の軸心位置にくるようにラック5の軸方向位置を位置決めしてから、ピニオン軸1をハウジング3に挿入して組み立てる。
【0052】
小径軸部12の外径寸法は、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小さく形成されている。この小径軸部12はハウジング3の下方に形成された軸受穴33に、ニードル軸受(第2の軸受)24により軸支されている。このようにして、ピニオン軸1は、玉軸受21及びニードル軸受24によって、スラスト方向及びラジアル方向にハウジング3に支持されている。
【0053】
ピニオン軸1の上端は、図1の自在継手109B、中間シャフト106を介してステアリングホイール101に連結されている。ステアリングホイール101を操作すると、モータ102の操舵補助力が付与された操舵力がピニオン軸1に伝達される。ピニオン軸1の回転は、ピニオン4を介してラック5に伝達され、ラック5に連結された図1のタイロッド104を介して舵輪の向きを変更する。ピニオン4の回転をラック5に円滑に伝達するために、ピニオン4の歯は、ピニオン軸1の軸心に対して所定のねじれ角を有するヘリカルピニオンに形成されている。
【0054】
ラックガイド6は、ラック5の背面に押圧ブロック61をアジャストカバー62によって常時押し付けている。アジャストカバー62は、コイルバネ63を介して押圧ブロック61を付勢して、ラック5の背面に押圧ブロック61を押し付けている。これによって、ピニオン4とラック5との噛み合い部のバックラッシュを無くし、ラック5が円滑に移動するようにしている。
【0055】
図12に示すように、ステアリングホイール101の操舵力がラック5に伝達され、ピニオン4に大きなスラスト荷重P1が加わり、止め輪23が離脱したり破損すると、ピニオン軸1が図7、図8の軸方向の上方に動く。すると、ピニオン4の下端面42側の切り上がり部45が、ラック5の外周面51に当接し、ピニオン軸1はそれ以上軸方向に動かない。また、切り上がり部45がラック5の外周面51に当接すると、異音が生じるため、運転者に異常を通知することができる。
【0056】
図8に示すように、ラック5の外周面51がピニオン4の下端面42側の切り上がり部45に当接するまでの軸方向の長さをβ1とする。また、ニードル軸受24が小径軸部12を軸支する軸方向の長さをβ2とする。このβ1がβ2よりも小さく形成されているため、ピニオン軸1が軸方向の上方に動いても、小径軸部12はニードル軸受24から外れることが無い。そのため、ピニオン軸1は、常時、玉軸受21とニードル軸受24の両方によって軸支されるため、ラックピニオン式ステアリング装置の所定の性能を維持することができる。
【符号の説明】
【0057】
101 ステアリングホイール
102 モータ
103 ステアリングギヤ
104 タイロッド
105 コラム
106 中間シャフト
107 アシスト装置(操舵補助部)
108 出力軸
109A、109B 自在継手
1 ピニオン軸
11 大径軸部
12 小径軸部
13 環状溝
21 玉軸受(第1の軸受)
22 カシメリング
23 止め輪
24 ニードル軸受(第2の軸受)
3 ハウジング
31 軸受穴
32 環状溝
33 軸受穴
4 ピニオン
41 上端面
42 下端面
43 歯底
44 切り上がり部(第1の切り上がり部)
45 切り上がり部(第2の切り上がり部)
5 ラック
51 外周面
52 歯先
53 平面部
6 ラックガイド
61 押圧ブロック
62 アジャストカバー
63 コイルバネ
【技術分野】
【0001】
本発明はステアリング装置、特に、ステアリングホイールに付与された操舵力を、ピニオンに噛み合うラックを介して車輪側に伝達するラックピニオン式ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールの操舵トルクを、ピニオンに噛み合うラックを介して車輪側に伝達するラックピニオン式ステアリング装置がある。また、ステアリングホイールの操舵トルクを検出し、ステアリングホイールに付与された操舵力を補助して、ピニオンに噛み合うラックを介して車輪側に伝達し、ステアリングホイールの操作を楽に行うようにした操舵力補助装置(電動パワーステアリング装置)を有するラックピニオン式ステアリング装置がある。このようなステアリング装置として、特許文献1、特許文献2に開示されたラックピニオン式ステアリング装置がある。
【0003】
図10は従来のラックピニオン式ステアリング装置の全体を示す斜視図、図11は図10のピニオン軸の正面図、図12は図10のピニオン軸に加わる荷重を示す斜視図である。図10、図11に示すように、ピニオン軸1は、その軸方向の略中間位置より下方にピニオン4が形成され、ピニオン4の上端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも大径の大径軸部11が形成されている。また、ピニオン4の下端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小径の小径軸部12が形成されている。
【0004】
大径軸部11が玉軸受(第1の軸受)21によりハウジング3に軸支されている。大径軸部11上端の環状溝13に装着してカシメられたカシメリング22は、玉軸受21の内輪を、ピニオン4の上端面41との間で挟み込んでいる。
【0005】
また、玉軸受21の外輪は、ハウジング3に形成された軸受穴31に挿入され、この軸受穴31の開口側の環状溝32に装着された止め輪23によって、軸方向の移動不能にハウジング3に固定されている。
【0006】
ピニオン4の歯底43は、ピニオン4の下端面42(小径軸部12)側は、歯底円直径D1のままで通し加工されている。また、ピニオン4の上端面41(大径軸部11)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第1の切り上がり部)44(ピニオン4の歯形加工時のホブカッターの逃げ部分)が、上端面41よりも下側に形成されている。従って、切り上がり部44の終端は、ピニオン4の歯先円直径D2と同一直径に形成されている。
【0007】
小径軸部12の外径寸法は、歯形加工時にホブカッターで通し加工した際、ホブカッターと小径軸部12の外周との干渉を避けるために、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小さく形成されている。この小径軸部12はハウジング3の下方に形成された軸受穴33に、ニードル軸受(第2の軸受)24により軸支されている。このようにして、ピニオン軸1は、玉軸受21及びニードル軸受24によって、スラスト方向及びラジアル方向にハウジング3に支持されている。
【0008】
ピニオン軸1の上端は、図示しないステアリングシャフトを介してステアリングホイールに連結されている。ステアリングホイールを操作すると、その操舵力がピニオン軸1に伝達される。ピニオン軸1の回転は、ピニオン4を介してラック5に伝達され、ラック5に連結された図示しないタイロッドを介して舵輪の向きを変更する。ピニオン4の回転をラック5に円滑に伝達するために、ピニオン4の歯は、ピニオン軸1の軸心に対して所定のねじれ角を有するヘリカルピニオンに形成されている。
【0009】
ラックガイド6は、ラック5の背面に押圧ブロック61をアジャストカバー62によって常時押し付けている。アジャストカバー62は、コイルバネ63を介して押圧ブロック61を付勢して、ラック5の背面に押圧ブロック61を押し付けている。これによって、ピニオン4とラック5との噛み合い部のバックラッシュを無くし、ラック5が円滑に移動するようにしている。
【0010】
図12に示すように、ステアリングホイールの操舵力がラック5に伝達されると、ピニオン4には、スラスト荷重P1、ラジアル荷重P2、接線荷重P3の3種類の荷重が加わる。
【0011】
ラジアル荷重P2と接線荷重P3は、玉軸受21及びニードル軸受24とハウジング3によって支持される。しかし、スラスト荷重P1は、玉軸受21と止め輪23だけで支持される。従って、大きなスラスト荷重P1が作用して止め輪23が離脱したり破損すると、ピニオン軸1が軸方向に動くため、スラスト荷重を支持することができない。特に、コラム式の電動パワーステアリング装置などで、高出力タイプのものに適用することが難しくなる。
【0012】
特許文献1のラックピニオン式ステアリング装置は、玉軸受と止め輪との間の異音の発生を防止するものであって、止め輪の離脱や破損によるピニオン軸の軸方向移動を防止するものではない。特許文献2のラックピニオン式ステアリング装置は、玉軸受のスラスト荷重を支持するネジカバーの緩み止めとして、玉軸受の外輪に溝を形成している。しかし、玉軸受の外輪形状が特殊形状となるため、玉軸受の製造コストが上昇してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−038254号公報
【特許文献2】特開2010−031915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ピニオン軸のスラスト荷重を支持する止め輪が離脱したり破損しても、ピニオン軸が軸方向に動くことを規制することが可能なラックピニオン式ステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は以下の手段によって解決される。すなわち、第1番目の発明は、ハウジング、上記ハウジングに回転可能に軸支され、ステアリングホイールの操舵力がその一端に伝達されるピニオン軸、上記ピニオン軸の他端に形成されたピニオン、上記ピニオンと噛み合い、操舵力を車輪側に伝達するラック、上記ピニオンの一端にピニオンの歯底円直径よりも大径に形成された大径軸部、上記大径軸部を上記ハウジングに回転可能に軸支する第1の軸受、上記ピニオンの他端にピニオンの歯底円直径よりも小径に形成された小径軸部、上記小径軸部を上記ハウジングに回転可能に軸支する第2の軸受、上記ピニオンの大径軸部側の歯底に形成された第1の切り上がり部、上記ピニオンの小径軸部側の歯底に形成された第2の切り上がり部が形成されていることを特徴とするラックピニオン式ステアリング装置である。
【0016】
第2番目の発明は、第1番目の発明のラックピニオン式ステアリング装置において、上記第1の切り上がり部及び第2の切り上がり部の終端が、上記ピニオンの歯先円直径と同一直径に形成されていることを特徴とするラックピニオン式ステアリング装置である。
【0017】
第3番目の発明は、第1番目の発明のラックピニオン式ステアリング装置において、上記第1の切り上がり部の終端が、上記ピニオンの歯先円直径と同一直径に形成され、上記第2の切り上がり部の終端が、上記ピニオンの歯先円直径よりも小径で、上記ラックの歯先よりも大径に形成されていることを特徴とするラックピニオン式ステアリング装置である。
【0018】
第4番目の発明は、第2番目から第3番目までのいずれかの発明のラックピニオン式ステアリング装置において、上記ピニオンに加わるスラスト荷重によって上記ピニオン軸が第1の軸受の側に移動し、上記ラックの外周面が第2の切り上がり部に当接するまでの軸方向の長さが、上記第2の軸受が上記小径軸部を軸支する軸方向の長さよりも小さく形成されていることを特徴とするラックピニオン式ステアリング装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のラックピニオン式ステアリング装置は、ピニオンの一端にピニオンの歯底円直径よりも大径に形成された大径軸部と、大径軸部をハウジングに回転可能に軸支する第1の軸受と、ピニオンの他端にピニオンの歯底円直径よりも小径に形成された小径軸部と、小径軸部をハウジングに回転可能に軸支する第2の軸受と、ピニオンの大径軸部側の歯底に形成された第1の切り上がり部と、ピニオンの小径軸部側の歯底に形成された第2の切り上がり部とから構成されている。
【0020】
従って、ピニオンに大きなスラスト荷重が加わり、止め輪が離脱したり破損すると、ピニオンが軸方向に動く。すると、ピニオンの小径軸部側の歯底に形成された第2の切り上がり部が、ラックの外周面に当接し、ピニオンはそれ以上軸方向に動かないため、スラスト荷重を支持することができ、ラックピニオン式ステアリング装置の所定の性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のラックピニオン式ステアリング装置の全体を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施例1のラックピニオン式ステアリング装置を示す縦断面図である。
【図3】図2のピニオン軸の正面図である。
【図4】本発明の実施例2のラックピニオン式ステアリング装置を示す縦断面図である。
【図5】図4のピニオン軸の正面図である。
【図6】図4のP部拡大断面図である。
【図7】本発明の実施例3のラックピニオン式ステアリング装置を示す縦断面図である。
【図8】図7のQ部拡大断面図である。
【図9】図7のラック単体の正面図である。
【図10】従来のラックピニオン式ステアリング装置の全体を示す斜視図である。
【図11】図10のピニオン軸の正面図である。
【図12】図10のピニオン軸に加わる荷重を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施例1から実施例3を説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は本発明のラックピニオン式ステアリング装置の全体を示す斜視図、図2は本発明の実施例1のラックピニオン式ステアリング装置を示す縦断面図、図3は図2のピニオン軸の正面図である。
【0024】
図1に示すように、本発明のラックピニオン式ステアリング装置は、コラムアシスト型ラックピニオン式パワーステアリング装置である。ステアリングホイール101の操作力を軽減するために、コラム105の中間部に取付けたモータ102の操舵補助力をステアリングシャフトに付与し、中間シャフト106を介して、ラックピニオン式のステアリングギヤ103のラックを往復移動させ、タイロッド104を介して舵輪を操舵する方式のパワーステアリング装置である。
【0025】
ステアリングシャフトに補助トルクを付与する為のアシスト装置(操舵補助部)107の車体前方側端面から突出した出力軸108が、自在継手(上側自在継手)109Aを介して、中間シャフト106の後端部に連結している。また、この中間シャフト106の前端部に、別の自在継手(下側自在継手)109Bを介して、ステアリングギヤ103のピニオン軸1を連結している。
【0026】
図2、図3に示すように、図1で説明したピニオン軸1は、その軸方向の略中間位置より下方にピニオン4が形成され、ピニオン4の上端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも大径の大径軸部11が形成されている。また、ピニオン4の下端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小径の小径軸部12が形成されている。
【0027】
大径軸部11が玉軸受(第1の軸受)21によりハウジング3に軸支されている。大径軸部11上端の環状溝13に装着してカシメられたカシメリング22は、玉軸受21の内輪を、ピニオン4の上端面41との間で挟み込んでいる。
【0028】
また、玉軸受21の外輪は、ハウジング3に形成された軸受穴31に挿入され、この軸受穴31の開口側の環状溝32に装着された止め輪23によって、軸方向の移動不能にハウジング3に固定されている。
【0029】
ピニオン4の上端面41(大径軸部11)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第1の切り上がり部)44(ピニオン4の歯形加工時のホブカッターの逃げ部分)が、上端面41よりも下側に形成されている。また、ピニオン4の下端面42(小径軸部12)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第2の切り上がり部)45が、下端面42よりも上側に形成されている。従って、切り上がり部44、45の終端は、ピニオン4の歯先円直径D2と同一直径に形成されている。
【0030】
小径軸部12の外径寸法は、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小さく形成されている。この小径軸部12はハウジング3の下方に形成された軸受穴33に、ニードル軸受(第2の軸受)24により軸支されている。このようにして、ピニオン軸1は、玉軸受21及びニードル軸受24によって、スラスト方向及びラジアル方向にハウジング3に支持されている。
【0031】
ピニオン軸1の上端は、図1の自在継手109B、中間シャフト106を介してステアリングホイール101に連結されている。ステアリングホイール101を操作すると、モータ102の操舵補助力が付与された操舵力がピニオン軸1に伝達される。ピニオン軸1の回転は、ピニオン4を介してラック5に伝達され、ラック5に連結された図1のタイロッド104を介して舵輪の向きを変更する。ピニオン4の回転をラック5に円滑に伝達するために、ピニオン4の歯は、ピニオン軸1の軸心に対して所定のねじれ角を有するヘリカルピニオンに形成されている。
【0032】
ラックガイド6は、ラック5の背面に押圧ブロック61をアジャストカバー62によって常時押し付けている。アジャストカバー62は、コイルバネ63を介して押圧ブロック61を付勢して、ラック5の背面に押圧ブロック61を押し付けている。これによって、ピニオン4とラック5との噛み合い部のバックラッシュを無くし、ラック5が円滑に移動するようにしている。
【0033】
図11に示すように、ステアリングホイール101の操舵力がラック5に伝達され、ピニオン4に大きなスラスト荷重P1が加わり、止め輪23が離脱したり破損すると、ピニオン軸1が図1、図2の軸方向の上方に動く。すると、ピニオン4の下端面42側の切り上がり部45が、ラック5の外周面51に当接し、ピニオン軸1はそれ以上軸方向に動かないため、スラスト荷重を支持することができ、ラックピニオン式ステアリング装置の所定の性能を維持することができる。また、切り上がり部45がラック5の外周面51に当接すると、異音が生じるため、運転者に異常を通知することができる。
【0034】
本発明の実施例1では、ピニオン4の小径軸部12側の歯底43に切り上がり部45を形成し、切り上がり部45の終端をピニオン4の歯先円直径D2と同一直径に形成するだけで済むため、製造コストの上昇を小さく抑えることができる。
【実施例2】
【0035】
次に本発明の実施例2について説明する。図4は本発明の実施例2のラックピニオン式ステアリング装置を示す縦断面図、図5は図4のピニオン軸の正面図、図6は図4のP部拡大断面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。実施例2は実施例1の変形例であって、実施例1の切り上がり部45の終端の直径を実施例1よりも小さく形成した例である。
【0036】
図4から図6に示すように、ピニオン軸1は、その軸方向の略中間位置より下方にピニオン4が形成され、ピニオン4の上端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも大径の大径軸部11が形成されている。また、ピニオン4の下端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小径の小径軸部12が形成されている。
【0037】
大径軸部11が玉軸受(第1の軸受)21によりハウジング3に軸支されている。大径軸部11上端の環状溝13に装着してカシメられたカシメリング22は、玉軸受21の内輪を、ピニオン4の上端面41との間で挟み込んでいる。
【0038】
また、玉軸受21の外輪は、ハウジング3に形成された軸受穴31に挿入され、この軸受穴31の開口側の環状溝32に装着された止め輪23によって、軸方向の移動不能にハウジング3に固定されている。
【0039】
ピニオン4の上端面41(大径軸部11)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第1の切り上がり部)44(ピニオン4の歯形加工時のホブカッターの逃げ部分)が、上端面41よりも下側に形成されている。切り上がり部44の終端は、ピニオン4の歯先円直径D2と同一直径に形成されている。
【0040】
また、ピニオン4の下端面42(小径軸部12)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第2の切り上がり部)45が、下端面42よりも下側に延びて形成されて、切り上がり部45の終端が、ピニオン4の歯先円直径D2よりも小径で、ラック5の歯先52よりも、図6の長さLだけ大径に形成されている。
【0041】
小径軸部12の外径寸法は、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小さく形成されている。この小径軸部12はハウジング3の下方に形成された軸受穴33に、ニードル軸受(第2の軸受)24により軸支されている。このようにして、ピニオン軸1は、玉軸受21及びニードル軸受24によって、スラスト方向及びラジアル方向にハウジング3に支持されている。
【0042】
ピニオン軸1の上端は、図1の自在継手109B、中間シャフト106を介してステアリングホイール101に連結されている。ステアリングホイール101を操作すると、モータ102の操舵補助力が付与された操舵力がピニオン軸1に伝達される。ピニオン軸1の回転は、ピニオン4を介してラック5に伝達され、ラック5に連結された図1のタイロッド104を介して舵輪の向きを変更する。ピニオン4の回転をラック5に円滑に伝達するために、ピニオン4の歯は、ピニオン軸1の軸心に対して所定のねじれ角を有するヘリカルピニオンに形成されている。
【0043】
ラックガイド6は、ラック5の背面に押圧ブロック61をアジャストカバー62によって常時押し付けている。アジャストカバー62は、コイルバネ63を介して押圧ブロック61を付勢して、ラック5の背面に押圧ブロック61を押し付けている。これによって、ピニオン4とラック5との噛み合い部のバックラッシュを無くし、ラック5が円滑に移動するようにしている。
【0044】
図11に示すように、ステアリングホイール101の操舵力がラック5に伝達され、ピニオン4に大きなスラスト荷重P1が加わり、止め輪23が離脱したり破損すると、ピニオン軸1が図4から図6の軸方向の上方に動く。すると、ピニオン4の下端面42側の切り上がり部45が、ラック5の外周面51に当接し、ピニオン軸1はそれ以上軸方向に動かないため、スラスト荷重を支持することができ、ラックピニオン式ステアリング装置の所定の性能を維持することができる。また、切り上がり部45がラック5の外周面51に当接すると、異音が生じるため、運転者に異常を通知することができる。
【0045】
本発明の実施例2では、ピニオン4の小径軸部12側の歯底43に切り上がり部45を形成し、切り上がり部45の終端を、ピニオン4の歯先円直径D2よりも小径で、ラック5の歯先52よりも大径に形成するだけで済むため、製造コストの上昇を小さく抑えることができる。
【実施例3】
【0046】
次に本発明の実施例3について説明する。図7は本発明の実施例3のラックピニオン式ステアリング装置を示す縦断面図、図8は図7のQ部拡大断面図、図9は図7のラック単体の正面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。実施例3は実施例1の変形例であって、ピニオンに加わるスラスト荷重によってピニオン軸が第1の軸受の側に移動した時に、小径軸部が第2の軸受から外れないようにした例である。
【0047】
図7、図8に示すように、ピニオン軸1は、その軸方向の略中間位置より下方にピニオン4が形成され、ピニオン4の上端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも大径の大径軸部11が形成されている。また、ピニオン4の下端には、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小径の小径軸部12が形成されている。
【0048】
大径軸部11が玉軸受(第1の軸受)21によりハウジング3に軸支されている。大径軸部11上端の環状溝13に装着してカシメられたカシメリング22は、玉軸受21の内輪を、ピニオン4の上端面41との間で挟み込んでいる。
【0049】
また、玉軸受21の外輪は、ハウジング3に形成された軸受穴31に挿入され、この軸受穴31の開口側の環状溝32に装着された止め輪23によって、軸方向の移動不能にハウジング3に固定されている。
【0050】
ピニオン4の上端面41(大径軸部11)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第1の切り上がり部)44(ピニオン4の歯形加工時のホブカッターの逃げ部分)が、上端面41よりも下側に形成されている。
【0051】
また、ピニオン4の下端面42(小径軸部12)側の歯底43は、ホブカッターの曲率半径と同一半径R1の切り上がり部(第2の切り上がり部)45が、下端面42よりも上側に形成されている。従って、切り上がり部44、45の終端は、ピニオン4の歯先円直径D2と同一直径に形成されている。図9に示すように、ラック5のラック歯の左端部には、ラック歯の歯底を延長した平面部53が形成されている。この平面部53がピニオン軸1の軸心位置にくるようにラック5の軸方向位置を位置決めしてから、ピニオン軸1をハウジング3に挿入して組み立てる。
【0052】
小径軸部12の外径寸法は、ピニオン4の歯底円直径D1よりも小さく形成されている。この小径軸部12はハウジング3の下方に形成された軸受穴33に、ニードル軸受(第2の軸受)24により軸支されている。このようにして、ピニオン軸1は、玉軸受21及びニードル軸受24によって、スラスト方向及びラジアル方向にハウジング3に支持されている。
【0053】
ピニオン軸1の上端は、図1の自在継手109B、中間シャフト106を介してステアリングホイール101に連結されている。ステアリングホイール101を操作すると、モータ102の操舵補助力が付与された操舵力がピニオン軸1に伝達される。ピニオン軸1の回転は、ピニオン4を介してラック5に伝達され、ラック5に連結された図1のタイロッド104を介して舵輪の向きを変更する。ピニオン4の回転をラック5に円滑に伝達するために、ピニオン4の歯は、ピニオン軸1の軸心に対して所定のねじれ角を有するヘリカルピニオンに形成されている。
【0054】
ラックガイド6は、ラック5の背面に押圧ブロック61をアジャストカバー62によって常時押し付けている。アジャストカバー62は、コイルバネ63を介して押圧ブロック61を付勢して、ラック5の背面に押圧ブロック61を押し付けている。これによって、ピニオン4とラック5との噛み合い部のバックラッシュを無くし、ラック5が円滑に移動するようにしている。
【0055】
図12に示すように、ステアリングホイール101の操舵力がラック5に伝達され、ピニオン4に大きなスラスト荷重P1が加わり、止め輪23が離脱したり破損すると、ピニオン軸1が図7、図8の軸方向の上方に動く。すると、ピニオン4の下端面42側の切り上がり部45が、ラック5の外周面51に当接し、ピニオン軸1はそれ以上軸方向に動かない。また、切り上がり部45がラック5の外周面51に当接すると、異音が生じるため、運転者に異常を通知することができる。
【0056】
図8に示すように、ラック5の外周面51がピニオン4の下端面42側の切り上がり部45に当接するまでの軸方向の長さをβ1とする。また、ニードル軸受24が小径軸部12を軸支する軸方向の長さをβ2とする。このβ1がβ2よりも小さく形成されているため、ピニオン軸1が軸方向の上方に動いても、小径軸部12はニードル軸受24から外れることが無い。そのため、ピニオン軸1は、常時、玉軸受21とニードル軸受24の両方によって軸支されるため、ラックピニオン式ステアリング装置の所定の性能を維持することができる。
【符号の説明】
【0057】
101 ステアリングホイール
102 モータ
103 ステアリングギヤ
104 タイロッド
105 コラム
106 中間シャフト
107 アシスト装置(操舵補助部)
108 出力軸
109A、109B 自在継手
1 ピニオン軸
11 大径軸部
12 小径軸部
13 環状溝
21 玉軸受(第1の軸受)
22 カシメリング
23 止め輪
24 ニードル軸受(第2の軸受)
3 ハウジング
31 軸受穴
32 環状溝
33 軸受穴
4 ピニオン
41 上端面
42 下端面
43 歯底
44 切り上がり部(第1の切り上がり部)
45 切り上がり部(第2の切り上がり部)
5 ラック
51 外周面
52 歯先
53 平面部
6 ラックガイド
61 押圧ブロック
62 アジャストカバー
63 コイルバネ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング、
上記ハウジングに回転可能に軸支され、ステアリングホイールの操舵力がその一端に伝達されるピニオン軸、
上記ピニオン軸の他端に形成されたピニオン、
上記ピニオンと噛み合い、操舵力を車輪側に伝達するラック、
上記ピニオンの一端にピニオンの歯底円直径よりも大径に形成された大径軸部、
上記大径軸部を上記ハウジングに回転可能に軸支する第1の軸受、
上記ピニオンの他端にピニオンの歯底円直径よりも小径に形成された小径軸部、
上記小径軸部を上記ハウジングに回転可能に軸支する第2の軸受、
上記ピニオンの大径軸部側の歯底に形成された第1の切り上がり部、
上記ピニオンの小径軸部側の歯底に形成された第2の切り上がり部が形成されていること
を特徴とするラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたラックピニオン式ステアリング装置において、
上記第1の切り上がり部及び第2の切り上がり部の終端が、上記ピニオンの歯先円直径と同一直径に形成されていること
を特徴とするラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載されたラックピニオン式ステアリング装置において、
上記第1の切り上がり部の終端が、上記ピニオンの歯先円直径と同一直径に形成され、
上記第2の切り上がり部の終端が、上記ピニオンの歯先円直径よりも小径で、上記ラックの歯先よりも大径に形成されていること
を特徴とするラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項4】
請求項2から請求項3までのいずれかに記載されたラックピニオン式ステアリング装置において、
上記ピニオンに加わるスラスト荷重によって上記ピニオン軸が第1の軸受の側に移動し、上記ラックの外周面が第2の切り上がり部に当接するまでの軸方向の長さが、
上記第2の軸受が上記小径軸部を軸支する軸方向の長さよりも小さく形成されていること
を特徴とするラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項1】
ハウジング、
上記ハウジングに回転可能に軸支され、ステアリングホイールの操舵力がその一端に伝達されるピニオン軸、
上記ピニオン軸の他端に形成されたピニオン、
上記ピニオンと噛み合い、操舵力を車輪側に伝達するラック、
上記ピニオンの一端にピニオンの歯底円直径よりも大径に形成された大径軸部、
上記大径軸部を上記ハウジングに回転可能に軸支する第1の軸受、
上記ピニオンの他端にピニオンの歯底円直径よりも小径に形成された小径軸部、
上記小径軸部を上記ハウジングに回転可能に軸支する第2の軸受、
上記ピニオンの大径軸部側の歯底に形成された第1の切り上がり部、
上記ピニオンの小径軸部側の歯底に形成された第2の切り上がり部が形成されていること
を特徴とするラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたラックピニオン式ステアリング装置において、
上記第1の切り上がり部及び第2の切り上がり部の終端が、上記ピニオンの歯先円直径と同一直径に形成されていること
を特徴とするラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載されたラックピニオン式ステアリング装置において、
上記第1の切り上がり部の終端が、上記ピニオンの歯先円直径と同一直径に形成され、
上記第2の切り上がり部の終端が、上記ピニオンの歯先円直径よりも小径で、上記ラックの歯先よりも大径に形成されていること
を特徴とするラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項4】
請求項2から請求項3までのいずれかに記載されたラックピニオン式ステアリング装置において、
上記ピニオンに加わるスラスト荷重によって上記ピニオン軸が第1の軸受の側に移動し、上記ラックの外周面が第2の切り上がり部に当接するまでの軸方向の長さが、
上記第2の軸受が上記小径軸部を軸支する軸方向の長さよりも小さく形成されていること
を特徴とするラックピニオン式ステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−162253(P2012−162253A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232525(P2011−232525)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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