説明

ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置

【課題】 ピニオン歯とラック歯との噛合状態を適正に維持できるラックガイドを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置を提供する。
【解決手段】 ラックガイド20は、ホルダー21と、これに保持されたピン22の上に回転自在に支持されたローラ24とを備え、ピニオンハウジング13に形成された筒状部13aに装着され、ローラ24がラック軸を背面から支持し、噛合状態を適正に維持する。アジャストスクリュー(以下、スクリュー)25のホルダー21側部は略平面に形成され、その上面に中央部分Aが周辺部より厚く形成された板状の間座27が配置される。スクリュー25の中央部分は間座27の中央部分Aとのみ接触して両者間の摩擦力は小さい。スクリュー25を筒状部21aにねじ込んだとき発生する回転トルクは間座27の存在によりホルダー21に伝達されず、ラックガイド20の回転は防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置に関するもので、特にそのラックガイドの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のステアリング装置として、ピニオンの回転をラックに伝達するラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置が広く使用されている。このようなラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置では、ピニオン軸からラック軸に回転力が伝達されるが、ラック歯には圧力角を設けているため、ラック背面方向に分力が発生し、ラック歯がピニオン歯から離脱しようとするので、ピニオン歯とラック歯とは適正に噛み合わなくなってしまう。
【0003】
このため、ラック歯とピニオン歯とが噛合する付近には、ラック軸の背面にラックガイドが配置され、ラック軸をピニオン軸に向けて押圧してラック歯とピニオン歯との噛合状態を適正に保つように構成されている(特許文献1参照)。
【0004】
図8は、従来のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラック軸とピニオンとの噛合部分の構成の一例を説明する断面図である。図8において、101はピニオンハウジング、102はステアリングシャフトに連結されるピニオン軸で、ピニオン軸102はボールベアリング104及びニードルベアリング105でピニオンハウジング101に回転自在に支持されている。
【0005】
ピニオン軸102に一体に形成されたピニオン歯102aは、ラック軸103のラック歯103aと噛合している。ピニオンハウジング101には、後述するラックガイド110の保持部材であるホルダー111が挿入される筒状部101aが形成されており、筒状部101aの開口部付近には、後述する調整ねじ部材であるアジャストスクリュー115をねじ込み、押込量を調整するためのねじ溝が形成されている。
【0006】
ラックガイド110は、円筒状のホルダー111と、ホルダー111の円筒軸と直交する方向に配置されたピン112と、ピン112の上にニードルベアリング113で回転自在に支持されたローラ114とから構成され、ピニオンハウジング101に形成された筒状部101aに摺動自在に配置される。
【0007】
ホルダー111は、そのラック軸103側と反対側の端部に、ホルダー111の外径よりも小径の突起部111aが形成されており、突起部111aには皿バネ116が嵌合して半径方向の移動が規制されている。
【0008】
アジャストスクリュー115のホルダー111に対向する端部には、その中央部分に凹みが形成されており、アジャストスクリュー115の端部の周辺部だけが皿バネ116に接触するように構成されている。
【0009】
以上の構成において、ホルダー111を、ピニオンハウジング101の筒状部101aに挿入してローラ114をラック軸の背面(ピニオン歯102aとラック歯103aとの噛合面とは反対の面)から接触させ、筒状部101aの端部から皿バネ116を介在させてアジャストスクリュー115をねじ込み、押圧量を調整して皿バネ116の圧縮量を調整する。圧縮量の調整後は、ロックナット119によりアジャストスクリュー115を固定する。ラックガイド110のホルダー111は皿バネ116の撓み量だけ変位可能であるから、ラック歯とピニオン歯との噛合量を適正に維持することができる。
【特許文献1】特開2004−34829号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したようなラックアンドピニオン式ステアリング装置のラックガイドは、ステアリング装置を車に搭載するときのレイアウトの関係で、全体の大きさが制限されるが、上記したような、回転自在なローラ114をラック軸103の背面から接触させる構成では、ローラ114を支持するピン112の両端がホルダー111の溝111a、111bにより支持されているため、ローラ114の幅が制限される。このため、ローラ114とラック軸103との接触角θを大きく取ることができない。
【0011】
アジャストスクリュー115をねじ込むとき、皿バネ116を介して回転トルクがホルダー111に伝達されるが、上記したようにローラ114とラック軸103の接触角θが小さいと、ラックガイド110の回転を抑える力が小さくなりラックガイド110が回転してしまい、ローラ114がラック軸103に乗り上げてしまうという不都合の発生することがあった。
【0012】
図9は、ローラがラック軸に乗り上げる状態を説明する図で、図9の(a)はローラ114がラック軸103に正常に接触している状態を示し、図9の(b)はローラ114を支持するピン112が水平方向に振れ回りして、ローラ114がラック軸103に乗り上げた状態を示している。
【0013】
図9の(b)に示すように、ローラ114がラック軸103に乗り上げると、ローラ114の外周縁が断面円形のラック軸103の中心側に寄って接触するから、ローラ114によりホルダー111はラック軸103から離れる方向に押し下げられ、アジャストスクリュー115の上面とホルダー111の下面との間に配置されている皿バネ116の撓み量がΔhだけ増大する。
【0014】
ステアリング装置の組立工程においては、アジャストスクリュー115をねじ込みながら皿バネ116の圧縮量の調整をするが、このとき、ローラがラック軸に乗り上げてしまった状態で皿バネ116の圧縮量の調整をすると、皿バネ116の撓み量はΔhだけ増大した状態で設定される。その後、ラック軸103の移動などによりローラがラック軸に乗り上げた状態が解消し、ローラとラック軸との接触状態が正常な状態に戻ると、皿バネ116の撓み量はΔhだけ増大しているから、皿バネ116の撓みに基づくラック軸103の変位可能量も大きい状態で設定されてしまう。
【0015】
このように、ラック軸103の変位可能量が大きいと、ステアリング操作の際にラック歯とピニオン歯との噛合面に緩みが生じ、ラトル音が発生するなどの不都合が発生する。この発明は、アジャストスクリューのねじ込み時にホルダーに伝達される回転トルクを減少させてホルダーの回転を防止し、上記した不都合を解決したラックガイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明は上記課題を解決するもので、請求項1の発明は、走行装置に連結されるラック軸と、ステアリングホイールに連結されるピニオン軸と、前記ラック軸のラック歯とピニオン軸のピニオン歯との噛合部をラック背面から押圧するラックガイドを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置において、前記ラックガイドは、前記ラック軸の背面に転がり接触するローラを備えた保持部材と、ラックガイドの前記噛合部に対する押圧量を調整する調整ねじ部材と、前記保持部材と調整ねじ部材との間に配置されたばね部材と、前記保持部材と調整ねじ部材との対向面の間の摩擦力を調整する摩擦調整部材とから構成されることを特徴とするラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置である。
【0017】
そして、前記ラックガイドは、ステアリング装置のハウジングに形成された筒状部に摺動自在に配置され、前記調整ねじ部材は前記筒状部に螺合してラックガイドの噛合部に対する押圧量を調整するものとする。
【0018】
また、前記摩擦調整部材は、前記調整ねじ部材に対向する面の中央部分が周辺部分よりも厚く形成された板状の部材であって、その厚く形成された中央部分が調整ねじ部材の中央部分に接触するように構成されている。
【0019】
また、前記摩擦調整部材は板状の部材であって、少なくともその片面が低摩擦係数となるように表面処理を施すとよい。
【0020】
また、前記摩擦調整部材は板状の部材であって、少なくとも片面が低摩擦係数樹脂被膜で被覆してもよい。
【0021】
また、前記摩擦調整部材は、前記調整ねじ部材と保持部材又はばね部材との対向面の間に配置されたスラストベアリングであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
この発明に係るラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置は、ラック軸のラック歯とピニオン軸のピニオン歯との噛合量を調整するラックガイドが、ラック軸の背面に転がり接触するローラを備えた保持部材と、ラックガイドの前記噛合部に対する押圧量を調整する調整ねじ部材と、前記保持部材と調整ねじ部材との間に配置されたばね部材と、前記保持部材と調整ねじ部材との対向面の間の摩擦力を調整する摩擦調整部材とから構成され、摩擦調整部材により保持部材と調整ねじ部材との間の摩擦力を軽減する。
【0023】
この構成により、調整ねじ部材をねじ込んだ場合に発生する回転トルクが保持部材に伝達されることがなく、ラックガイドの連れ回りを防止することができ、保持部材に設けられたラック軸を背面から押圧するローラがラック軸に乗り上げるといった不都合を解消し、ラック歯とピニオン歯との噛合量を適正に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0025】
[第1の実施の形態]
図1は、この発明の第1の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置10の全体構成を一部断面で示した正面図である。図1において、11はピニオン軸、12はラック軸、12aはラック軸12に形成されたラック歯を示す。図示されていないが、ピニオン軸11の先端にはピニオン歯(11a)が形成され、ラック軸12のラック歯12aと噛合している。13はその噛合部分を覆うピニオンハウジング、14はラック軸ハウジングを示す。
【0026】
ラック軸12の端部は左右対称に構成されており、ラック軸12の端部にはボールジョイント15を介してタイロッド16が結合され、ボールジョイント15の端面には緩衝部材19が当接配置されている。
【0027】
図2は、第1の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラック軸とピニオンとの噛合部分の構成を説明する断面図である。図2において、11はステアリングシャフトに連結されるピニオン軸で、ピニオン軸11はボールベアリング17及びニードルベアリング18によりピニオンハウジング13に回転自在に支持されている。
【0028】
ピニオン軸11にはピニオン歯11aが一体に形成され、ラック軸12のラック歯12aと噛合している。ピニオンハウジング13には、後述するラックガイド20の保持部材であるホルダー21を収容する筒状部13aが一体に形成されている。
【0029】
ラックガイド20は、ホルダー21と、ホルダー21の円筒軸と直交する方向に配置されたピン22と、ピン22の上にニードルベアリング23で回転自在に支持されたローラ24とから構成される。
【0030】
ホルダー21のラック軸12側とは反対側の端部に、ホルダー21の外径よりも小径の突起部21aが形成されており、突起部21aにばね部材である皿バネ26が嵌合して半径方向の移動が規制されている。
【0031】
調整ねじ部材であるアジャストスクリュー25のホルダー21に対向する端部は、略平面に形成され、その上面に摩擦調整部材である間座27が配置され、アジャストスクリュー25は、間座27を介在させて皿バネ26に接触するように構成されている。
【0032】
間座27は板状の部材であって、アジャストスクリュー25に対向する面の中央部分Aが周辺部分よりも厚く形成され、厚く形成された中央部分Aがアジャストスクリュー25の中央部分に接触するように構成されている。
【0033】
次にラックガイド20の組立手順を説明する。ホルダー21を、ピニオンハウジング13の筒状部13aに挿入してローラ24をラック軸の背面(ピニオン歯11aとラック歯12aとの噛合面とは反対の面)から接触させ、筒状部13aの端部から皿バネ26と間座27を介在させてアジャストスクリュー25をねじ込み、押圧量を調整して皿バネ26の圧縮量を調整する。圧縮量の調整後は、ロックナット19によりアジャストスクリュー25を固定する。ラックガイド20のホルダー21は皿バネ26の撓み量だけ変位可能であるから、ラック歯とピニオン歯との噛合量を適正に維持することができる。
【0034】
前記したように、間座27は中央部分Aが周辺部分よりも厚く形成され、アジャストスクリュー25の中央部分のみに接触し、間座27とアジャストスクリュー25との接触面に大きな摩擦力が発生しないように構成されているから、アジャストスクリュー25が回転しても間座27は回転しない。従ってアジャストスクリュー25をねじ込んだとき発生する回転トルクはホルダー21に伝達されず、アジャストスクリュー25のねじ込みによってもラックガイド20は連れ回りせず、ラックガイド20の回転を防止することができる。
【0035】
なお、第1の実施の形態では、アジャストスクリュー25のホルダー21に対向する端部が略平面に形成され、間座27のアジャストスクリュー25に対向する面の中央部分Aが周辺部分よりも厚く形成されているが、これと逆に、アジャストスクリュー25のホルダー21に対向する面を周辺部分よりも高く形成し、間座27のアジャストスクリュー25に対向する面を略平面に形成してもよい。この構成でも同様に、両者の接触面に大きな摩擦力を発生させることがない。
【0036】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置10の全体構成は、先に説明した第1の実施の形態のものと変らないので、ここでは説明を省略し、ラックガイドの構成について説明する。
【0037】
図3は、第2の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラック軸とピニオンとの噛合部分の構成を説明する断面図である。第2の実施の形態は第1の実施の形態のものとラックガイドの構成が異なるだけで、その他は第1の実施の形態のものと同様であるから、同一部材には同一符号を付して説明を省略し、相違する構成について説明する。
【0038】
ラックガイド30は、ホルダー21と、ホルダー21の円筒軸と直交する方向に配置されたピン22と、ピン22の上にニードルベアリング23で回転自在に支持されたローラ24とから構成される。
【0039】
ホルダー21のラック軸12側とは反対側の端部に、ホルダー21の外径よりも小径の突起部21aが形成されており、突起部21aにばね部材である皿バネ26が嵌合して半径方向の移動が規制されている。
【0040】
調整ねじ部材であるアジャストスクリュー35のホルダー21に対向する端部は、中央部に形成された凹部の周囲が平面に形成されており、その上面に摩擦調整部材である間座37が配置され、アジャストスクリュー35は、間座37を介在させて皿バネ26に接触するように構成されている。
【0041】
間座37は、その少くとも片面又は両面を低摩擦係数となる表面処理を施すものとする。表面処理の方法は公知の方法による。また、間座37の少くとも片面又は両面を低摩擦係数樹脂、例えばテフロン(登録商標)の被膜で被覆してもよい。
【0042】
次にラックガイド30の組立手順を説明する。ホルダー21を、ピニオンハウジング13の筒状部13aに挿入してローラ24をラック軸の背面(ピニオン歯11aとラック歯12aとの噛合面とは反対の面)から接触させ、筒状部13aの端部から皿バネ26と間座37を介在させてアジャストスクリュー35をねじ込み、押圧量を調整して皿バネ26の圧縮量を調整する。圧縮量の調整後は、ロックナット19によりアジャストスクリュー35を固定する。ラックガイド30のホルダー21は皿バネ26の撓み量だけ変位可能であるから、ラック歯とピニオン歯との噛合量を適正に維持することができる。
【0043】
間座37の表面は低摩擦係数となる表面処理、或いは低摩擦係数樹脂の被膜で被覆されているから、間座37の表面の低摩擦係数面をアジャストスクリュー35に対向する側に配置することで、アジャストスクリュー35をねじ込んでも間座37は連れ回りすることがない。
【0044】
これにより、アジャストスクリュー35をねじ込んだとき発生する回転トルクはホルダー21に伝達されず、アジャストスクリュー35のねじ込みによってもラックガイド30の回転を防止することができる。
【0045】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置10の全体構成は、先に説明した第1の実施の形態のものと変らないので、ここでは説明を省略し、ラックガイドの構成について説明する。
【0046】
図4は、第3の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラック軸とピニオンとの噛合部分の構成を説明する断面図である。第3の実施の形態は第1の実施の形態のものとラックガイドの構成が異なるだけで、その他は第1の実施の形態のものと同様であるから、同一部材には同一符号を付して説明を省略し、相違する構成について説明する。
【0047】
ラックガイド40は、ホルダー21と、ホルダー21の円筒軸と直交する方向に配置されたピン22と、ピン22の上にニードルベアリング23で回転自在に支持されたローラ24とから構成される。
【0048】
ホルダー21のラック軸12側とは反対側の端部に、ホルダー21の外径よりも小径の突起部21aが形成されており、突起部21aにばね部材である皿バネ26が嵌合して半径方向の移動が規制されている。
【0049】
調整ねじ部材であるアジャストスクリュー45のホルダー21に対向する端部は、中央部に突起部45aが形成され、突起部45aの周囲にスラストベアリング46が配置される。スラストベアリング46には2つのタイプがある。
【0050】
図5は、アジャストスクリュー45の端部の構成の第1実施例を説明する断面図で、第1実施例ではスラストベアリング46として、スラストニードルベアリング46Aが配置されている。スラストニードルベアリング46Aは、軌道輪46A1及び46A2を備え、さらにニードル46A4を保持する保持器46A3が付いているもので、軌道輪46A1の外面はホルダー21の皿バネ26の側面に接触し、軌道輪46A2の外面はアジャストスクリュー45の端部に接触している。
【0051】
図6は、アジャストスクリュー45の端部の構成の第2実施例を説明する断面図で、第2実施例ではスラストベアリング46として、スラストニードルベアリング46Bが配置されている。スラストニードルベアリング46Bは、軌道輪46B1を備え、さらにニードル46B4を保持する保持器46B3が付いているもので、スラストニードルベアリング46Bの軌道輪が設けられていない側は、ニードル46B4が直接アジャストスクリュー45の端部に接触している。また、軌道輪46B1の外面はホルダー21の皿バネ26の側面に接触している。
【0052】
この他、軌道輪と保持器が一体に構成されたスラストニードルベアリングを使用することもできる。さらに、配置空間に余裕があれば、スラスト球軸受を使用してもよい。
【0053】
次にラックガイド40の組立手順を説明する。ホルダー21を、ピニオンハウジング13の筒状部13aに挿入してローラ24をラック軸の背面(ピニオン歯11aとラック歯12aとの噛合面とは反対の面)から接触させ、筒状部13aの端部から皿バネ26を介在させてアジャストスクリュー45をねじ込み、押圧量を調整して皿バネ26の圧縮量を調整する。圧縮量の調整後は、ロックナット19によりアジャストスクリュー45を固定する。ラックガイド40のホルダー21は皿バネ26の撓み量だけ変位可能であるから、ラック歯とピニオン歯との噛合量を適正に維持することができる。
【0054】
この構成では、ホルダー21とアジャストスクリュー45の対向する面の間にスラストベアリング46が配置されているから、アジャストスクリュー45をねじ込んで発生する回転トルクはホルダー21に伝達されず、アジャストスクリュー45のねじ込みによってもホルダー21の回転を防止することができる。
【0055】
[第4の実施の形態]
第4の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置10の全体構成は、先に説明した第1の実施の形態のものと変らないので、ここでは説明を省略し、ラックガイドの構成について説明する。
【0056】
図7は、第4の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラック軸とピニオンとの噛合部分の構成を説明する断面図である。第4の実施の形態は第1の実施の形態のものとラックガイドの構成が異なるだけで、その他は第1の実施の形態のものと同様であるから、同一部材には同一符号を付して説明を省略し、相違する構成について説明する。
【0057】
ラックガイド50は、ホルダー21と、ホルダー21の円筒軸と直交する方向に配置されたピン22と、ピン22の上にニードルベアリング23で回転自在に支持されたローラ24とから構成される。
【0058】
ホルダー21のラック軸12側とは反対側の端部は平面に形成されている。また、摩擦調整部材である間座52は、その表面の中心部分が隆起して凸面Aが形成され、裏面は略平面に構成された円板状の部材である。
【0059】
一方、アジャストスクリュー51のホルダー21に対向する端部は、中央部に突起部51aが形成され、突起部51aにばね部材である皿バネ26が嵌合して半径方向の移動が規制されている。
【0060】
次にラックガイド50の組立手順を説明する。ホルダー21を、ピニオンハウジング13の筒状部13aに挿入してローラ24をラック軸の背面(ピニオン歯11aとラック歯12aとの噛合面とは反対の面)から接触させ、筒状部13aの端部から皿バネ26と間座52を介在させてアジャストスクリュー51をねじ込み、押圧量を調整して皿バネ26の圧縮量を調整する。圧縮量の調整後は、ロックナット19によりアジャストスクリュー51を固定する。ラックガイド50のホルダー21は皿バネ26の撓み量だけ変位可能であるから、ラック歯とピニオン歯との噛合量を適正に維持することができる。
【0061】
この構成では、ホルダー21とアジャストスクリュー51の対向する面の間に配置された間座52の隆起した凸面Aがホルダー21の端面と接触し、間座52とホルダー21に対向する端部とは間座52の隆起した凸面Aでのみ接触しているから、アジャストスクリュー51をねじ込んでも、発生する回転トルクはホルダー21に伝達されず、アジャストスクリュー51のねじ込みによってもラックガイド50の回転を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
ピニオン歯とラック歯との噛合状態を維持するラックガイドの、保持部材(ホルダー)と調整ねじ部材(アジャストスクリュー)との間に摩擦調整部材(間座又はスラストベアリング)を配置し、調整ねじ部材をねじ込んだとき発生する回転トルクが保持部材に伝達されないように構成したもので、ラックガイドの回転を防止し、ピニオン歯とラック歯との噛合状態を適正に維持することができるラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明の第1の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の全体構成を示す一部断面を示す正面図。
【図2】第1の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラック軸とピニオンとの噛合部分の構成を説明する断面図。
【図3】第2の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラック軸とピニオンとの噛合部分の構成を説明する断面図。
【図4】第3の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラック軸とピニオンとの噛合部分の構成を説明する断面図。
【図5】アジャストスクリューの端部構成の第1実施例を説明する断面図。
【図6】アジャストスクリューの端部構成の第2実施例を説明する断面図。
【図7】第4の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラック軸とピニオンとの噛合部分の構成を説明する断面図。
【図8】従来のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラック軸とピニオンとの噛合部分の構成の一例を説明する断面図。
【図9】ローラがラック軸に乗り上げる状態を説明する図。
【符号の説明】
【0064】
10 ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置
11 ピニオン軸
11a ピニオン歯
12 ラック軸
12a ラック歯
13 ピニオンハウジング
13a 筒状部
14 ラック軸ハウジング
15 ボールジョイント
16 タイロッド
17 ボールベアリング
18 ニードルベアリング
19 ロックナット
20 ラックガイド
21 ホルダー(保持部材)
21a 突起部
22 ピン
23 ニードルベアリング
24 ローラ
25 アジャストスクリュー(調整ねじ部材)
26 皿ばね(ばね部材)
27 間座(摩擦調整部材)
30 ラックガイド
35 アジャストスクリュー(調整ねじ部材)
37 間座(摩擦調整部材)
40 ラックガイド
45 アジャストスクリュー(調整ねじ部材)
45a 突起部
46 スラストベアリング(摩擦調整部材)
46A、46B スラストニードルベアリング
50 ラックガイド
51 アジャストスクリュー(調整ねじ部材)
52 間座(摩擦調整部材)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置に連結されるラック軸と、ステアリングホイールに連結されるピニオン軸と、前記ラック軸のラック歯とピニオン軸のピニオン歯との噛合部をラック背面から押圧するラックガイドを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置において、
前記ラックガイドは、前記ラック軸の背面に転がり接触するローラを備えた保持部材と、ラックガイドの前記噛合部に対する押圧量を調整する調整ねじ部材と、前記保持部材と調整ねじ部材との間に配置されたばね部材と、前記保持部材と調整ねじ部材との対向面の間の摩擦力を調整する摩擦調整部材とから構成されること
を特徴とするラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項2】
前記ラックガイドは、ステアリング装置のハウジングに形成された筒状部に摺動自在に配置され、前記調整ねじ部材は前記筒状部に螺合してラックガイドの噛合部に対する押圧量を調整すること
を特徴とする請求項1に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項3】
前記摩擦調整部材は、前記調整ねじ部材に対向する面の中央部分が周辺部分よりも厚く形成された板状の部材であって、その厚く形成された中央部分が調整ねじ部材の中央部分に接触すること
を特徴とする請求項1に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項4】
前記摩擦調整部材は板状の部材であって、少なくともその片面が低摩擦係数となるように表面処理が施されていること
を特徴とする請求項1に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項5】
前記摩擦調整部材は板状の部材であって、少なくとも片面が低摩擦係数樹脂被膜で被覆されていること
を特徴とする請求項1に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項6】
前記摩擦調整部材は、前記調整ねじ部材と保持部材又はばね部材との対向面の間に配置されたスラストベアリングであること
を特徴とする請求項1に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−213281(P2006−213281A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30651(P2005−30651)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】