説明

ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置

【課題】 ラックガイドホルダの変形を防止し、ラトル音の発生を防止できるラックガイドを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置を提供する。
【解決手段】 ラックガイド16は、ラックガイドホルダ17と、その内部のピン挿入溝17bに配置されたピン18、及び外周面が鼓状に形成されたローラ19から構成される。ローラ20はピン18を介してラックガイドホルダ17の内部に配置され、ローラ20の外周面がラック軸15の背面に転がり接触する。ピン18は中央部は断面円形で、両端部とその付近は軸方向に沿ってその一部が削られ平面部18bが形成されている。ピン両端部とその付近の平面部18bとラックガイドホルダ17のピン挿入溝17bの平面に形成された底面17cとが面接触するから、接触面積が従来の線接触に比較して飛躍的に拡大して接触面圧が低下し、ラックガイドホルダ17の変形を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置は、ピニオンの回転をピニオンに噛合するラックに伝達してラックの端部に取付られているタイロッドを移動させ、操向車輪の向きを操作する舵取り機構に伝達するように構成されている。
【0003】
この種のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置では、ピニオンとラックとが適正に噛合するように、ラック軸の背面を噛合方向に弾性体、例えばばねなどを利用して押圧するラックガイドを備え、ピニオンとラックとの噛合状態を適正に維持するように構成されている。
【0004】
また、ラックガイドには、ラック軸とラックガイドとを滑り接触させた滑り形式のものと、ラック軸をローラで支承する転がり形式のものがあり、転がり形式のものでは、ローラを支持するピンをラックガイドホルダに設けたピン挿入溝により支承するように構成されている(特許文献1参照)。
【0005】
上記した転がり形式のラックガイドでは、車両走行時の振動等がタイロッドを経てラック軸に伝達され、ラック軸に接触するローラだけでなく、ローラを支持するピンをラックガイドホルダにも大きな荷重が作用し、ローラを支持するピンとラックガイドホルダとの間の面圧が増大する。
【0006】
ラック軸に伝達される車両走行時の振動等による不都合を改善する手段としては、ローラとラックガイドホルダとの間に弾性体を備えたブッシュ(滑り軸受)を介在させたものが提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
図9は、上記した従来の転がり形式のラックガイドを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置100の構成の一例を説明する断面図、図10(a)は図9のA−A線に沿った部分断面図、図10(b)は図9のB−B線に沿った断面図で、ハウジングは図示を省略してある。
【0008】
ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置100は、ハウジング101の内部にピニオン軸104及びラック軸105が配置されて構成されている。ピニオン軸104は、玉軸受102及びニードル軸受103により回転自在に支承され、ラック軸105は、図示しないラックブッシュにより軸方向に移動可能に配置されており、ラック軸105の端部は、図示されていない操向車輪の向きを変更するリンク機構のタイロッドに連結されている。ラック軸105のラック歯105aは、前記したピニオン軸104に一体に形成されたピニオンのピニオン歯104aと噛合している。
【0009】
さらに、ハウジング101の内部には、ラック軸105のピニオン軸104と反対側にラックガイド106が配置され、ラック軸105を背面から押圧してピニオン歯104aとラック歯105aとの噛合状態を適正に維持するように構成されている。
【0010】
ラックガイド106は、全体が略円筒状に形成されたラックガイドホルダ107と、その内部空間に形成されたピン受部107aにラック軸105の軸方向に直交する方向に配置されたピン108、及び中心部分にニードルベアリング109が圧入され、外周面が鼓状に形成されたローラ110から構成される。
【0011】
前記ローラ110はピン108に装着されてラックガイドホルダ107の内部空間に回転自在に配置され、ローラ110の鼓状外周面はラック軸105の背面(噛合面と反対側の面)に転がり接触し、ラック軸105を噛合面に向けて押圧可能に構成されている。
【0012】
ハウジング101には、ラックガイドホルダ107を案内する円筒状の孔からなるラックガイド案内部111が設けられ、ラックガイドホルダ107の外周面がラックガイド案内部111に嵌合している。また、ハウジング101のラックガイド案内部111の下側(ラック軸105と反対側)には、調整スクリュー112が螺合するように内面にねじが形成されている。
【0013】
調整スクリュー112は有底円筒上の部材であって、ラックガイド案内部111に螺合し、ラックガイドホルダ107との間に皿ばね113を介在させてラックガイドホルダ107をラック軸105に向けて押圧するように構成されており、調整スクリュー112のねじ込み量を調整することで、ラック歯105aとピニオン歯104aとの噛合状態を適正に調整することができる。ラックガイドホルダ107は皿ばね113の撓み量だけ変位することが可能である。
【0014】
図12は、ローラとピンとの間に弾性体を備えたブッシュ(滑り軸受)を介在させた転がり形式のラックガイドの一例を説明する断面図、図13は、ローラのピン挿入孔に弾性体を備えたブッシュ(滑り軸受)を挿入したローラの構成を説明する断面図である(特許文献2参照)。
【0015】
図9に示す構成と同一部材には同一符号を付して、詳細な説明は省略するが、この構成においても、ハウジング101の内部にラック軸105のピニオン軸104と反対側にラックガイド106が配置され、ラック軸105を背面から押圧してピニオン歯104aとラック歯105aとの噛合状態を適正に維持している。
【0016】
ハウジング101には、ラックガイドホルダ107を案内する円筒状の孔からなるラックガイド案内部111が設けられ、ラックガイドホルダ107の外周面がラックガイド案内部111に嵌合している。また、ハウジング101のラックガイド案内部111の下側(ラック軸105と反対側)には内面にねじが形成され、調整スクリュー112が螺合している。
【0017】
ラックガイドホルダ107には、ピニオン軸の軸心に平行にピン108が配置されており、ピン108には、滑り軸受として機能するブッシュ210が挿入され、外周面が鼓状に形成されたローラ110が回転自在に支持されている。ブッシュ210は、低摩擦材料で構成されたつば部210aと円筒部210bとからなり、その外表面は弾性体210cが固定されている。
【0018】
ステアリング機構が作動するとき、ブッシュ210の低摩擦材料で構成されたつば部210aと円筒部210bとがローラ110の回転方向の摩擦抵抗を軽減するほか、ローラ110にスラスト方向の力が作用したとき、弾性体210cがラックガイドホルダ107とローラ110との間の摩擦抵抗を軽減する。
【0019】
このほか、操舵の安定性を向上させる目的で、ラック軸を弾性体を介在させることなく車体フレームに固定する手段も知られているが、車両走行時の振動等が前記したローラとラックガイドホルダとの間に弾性体を備えたブッシュ(滑り軸受)を介在させた構成のものよりもラック軸に伝達されやすく、ローラを支持するピンとラックガイドホルダのピン受部との間の接触面圧を増大させる原因となっている。
【特許文献1】特開2004−34829号公報。
【特許文献2】特開平11−105717号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
図9及び図10で説明した従来のラックガイドでは、以下に説明するような課題が指摘されていた。即ち、従来のラックガイドでは、図11に示すように、ピン108をピン受部107aに挿入できるようにするため、ラックガイドホルダ107のピン受部107aの半径R(幅2R)はピン108の半径よりも大きく形成されるから、ピン受部107aとピン108との接触部は線接触の状態となり、両者の接触面積は非常に小さくなる。
【0021】
このため、ピニオンとラックとが噛合するとき発生する離反力がラックガイドホルダ107に伝達されると、ピン受部107aとピン108との接触部は高い接触面圧となり、特にラックガイドホルダ107が焼結材の場合は、ピン108を受けるピン受部107aが変形してしまうという不都合があった。
【0022】
ラックガイドホルダ107が変形してしまうと、その分だけ皿ばね113の撓み量が大きくなり、ラックガイド可動量が大きくなる。ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置において、ラックガイド可動量が大きくなると、ラトル音の発生につながるため、不必要なラックガイド可動量の増加は避けなければならない。
【0023】
また、図12及び図13で説明した従来のラックガイドは、ピン108とローラ110との間に弾性体を備えたブッシュを挿入したもので、ピン108とラックガイドホルダ107のピン受部とは直接接触しているから、車両走行時の振動等が両者の接触面に繰り返し加わると接触面が徐々に押し潰されガタ付きが生じるから、ラックとピニオンとの噛合面方向の押圧力も低下し、バックラッシュの増加、歯打ち音(ラトル音)の発生を招くという不都合があった。
【0024】
さらに、従来の円柱形状のピンと、これに適合したラックガイドホルダ側のピン受部の形状によっては、部品の加工精度の点から両者が完全な面接触にすることはできず、作動初期状態では線接触となるから、接触面圧が高くなるという不都合を解決することができない。
【0025】
接触面圧を低下させるためには、ピンの直径を大きくするという方法もあるが、ピンの直径を大きくするとローラの直径も大きくなるという不都合が発生し、また、ピンの長さを長くするという方法ではラックガイドホルダが大きくなるという不都合が発生する。
【0026】
さらに、ラック軸を弾性体を介在させることなく車体フレームに固定する手段では、車両走行時の振動等が減衰されないのでローラを支持するピンの面圧を増大させることになり、やはりバックラッシュの増加、歯打ち音(ラトル音)の発生を招くという不都合を解決することができない。
【0027】
この発明は、上記した不都合を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
この発明は上記課題を解決するもので、請求項1の発明は、ローラでラック軸の背面をラックとピニオンとの噛合方向に向けて押圧する転がり型ラックガイドを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置において、前記ラックガイドは、前記ラックとピニオンとの噛合方向に向けて移動可能に配置され、その内部にピン挿入溝が形成されたラックガイドホルダと、前記ローラが回転自在に装着され、前記ラックガイドホルダのピン挿入溝に配置されるピンとから構成され、前記ラックガイドホルダのピン挿入溝とピンとは平面に形成された接触面を備え、前記ピン挿入溝側の接触面と前記ピン側の接触面との面接触により前記ローラに作用する負荷を支承するように構成されていることを特徴とするラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置である。
【0029】
そして、前記ラックガイドホルダのピン挿入溝と前記ピンとは、それぞれが平面に形成された接触面を備える。
【0030】
この場合、前記ラックガイドホルダのピン挿入溝は前記ラック軸の背面を押圧する押圧力の作用方向に対して垂直に交差する平面に形成された接触面を備え、前記ピンは中央部分が断面円形で、ピン軸方向の両端部がピン軸に対して平行に削られて平面に形成された接触面を備えるものとする。
【0031】
また、前記ラックガイドホルダのピン挿入溝は断面V字状に配置された2つの平面で構成された溝状の接触面を備え、前記ピンは断面逆V字状に配置された2つの平面で構成された凸条からなる接触面を備えるように構成してもよい。
【0032】
この場合、前記ラックガイドホルダのピン挿入溝は前記ラック軸の背面を押圧する押圧力の作用方向に対して傾斜し、且つラック軸の軸心に直交する方向に伸びる2つの平面で構成された溝状の接触面を備え、前記ピンは中央部分が断面円形で、両端部がピン軸方向に伸びる2つの平面で構成された凸条からなる接触面を備えるものとする。
【0033】
請求項6の発明は、ローラでラック軸の背面をラックとピニオンとの噛合方向に向けて押圧する転がり型ラックガイドを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置において、前記ラックガイドは、前記ラックとピニオンとの噛合方向に向けて移動可能に配置され、その内部に形成されたピン挿入溝にピン受部材が配置されたラックガイドホルダと、前記ローラが回転自在に装着され前記ピン受部材に支承されるピンとから構成され、前記ラックガイドホルダのピン挿入溝はその底面が平面に形成された接触面を備え、前記ピン受部材はその底面が平面に形成された接触面を備え、前記ピン挿入溝の接触面とピン受部材の接触面との面接触により前記ローラに作用する負荷を支承するように構成されていることを特徴とするラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置である。
【0034】
そして、前記ラックガイドホルダのピン挿入溝は、前記ラック軸の背面を押圧する押圧力の作用方向に平行でラックガイドホルダの内面の直径方向に対向する位置に形成された底面が平面からなる接触面である矩形断面の2つの溝に、それぞれ底面が平面に形成された接触面で反対側の端部がそれぞれ前記ピンの外径に適合した断面円弧状のピン支承面を備えたピン受部材を装着する。
【0035】
また、前記ラックガイドホルダのピン挿入溝は、前記ラック軸の背面を押圧する押圧力の作用方向に平行でラックガイドホルダの内面の直径方向に対向する位置に形成された底面が平面からなる接触面である矩形断面の2つの溝に、全体がU字状に形成され、底面が平面に形成された接触面でU字状の端部がそれぞれ前記ピンの外径に適合した断面円弧状のピン支承面を備えたピン受部材を装着してもよい。
【発明の効果】
【0036】
以上説明したとおり、請求項1の発明では、ラックガイドホルダのピン挿入溝とピンとは平面に形成された接触面を備え、ピン挿入溝側の接触面とピン側の接触面との面接触により前記ローラに作用する負荷を支承するように構成されている。この構成によれば、従来のラックガイドよりもローラに作用する負荷を支承する接触面積が格段に大きくなり、接触面圧を大幅に低下させることができるから、ラックガイドホルダの変形を防止し、ラックガイド可動量の増加を抑えることができ、バックラッシュの増加、歯打ち音(ラトル音)の発生を防止することができるという顕著な効果を奏するものである。
【0037】
また、請求項6の発明では、ラックガイドホルダのピン挿入溝はその底面が平面に形成された接触面を備え、ピン挿入溝に装着されるピン受部材はその底面が平面に形成された接触面を備え、前記ピン挿入溝の接触面とピン受部材の接触面との面接触により前記ローラに作用する負荷を支承するように構成されている。そして、ピン受部材は、ラックガイドホルダよりも硬度の高い材料で構成することにより、荷重による変形を防止するように構成するとよい。
【0038】
この構成においても、従来のラックガイドよりもローラに作用する負荷を支承する接触面積が格段に大きくなり、接触面圧を大幅に低下させることができるから、ラックガイドホルダの変形を防止し、ラックガイド可動量の増加を抑えることができ、バックラッシュの増加、歯打ち音(ラトル音)の発生を防止することができるという顕著な効果を奏するものである。
【0039】
また、請求項1及び請求項6の発明によれば、ピンの直径を大きくすることなく接触面圧を低下させることができるから、ラックガイドホルダを大きくすることなく小型に纏めることができるという顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、この発明の実施の形態について説明する。この発明の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置は、先に説明した従来のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置において、ラックガイドホルダの構成が相違するだけで、その他の構成は先に説明した従来の装置と変わらない。従って、以下、この発明の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラックガイドホルダの構成について説明し、その他の構成については説明を省略する。
【0041】
[第1の実施の形態]
図1は、この発明の第1の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の構成を説明する断面図、図2はそのラックガイドホルダのピン軸方向から見た断面図で、図2(a)はラックガイドホルダ及びピンのピン軸方向から見た断面図、図2(b)はラックガイドホルダとピンとの接触状態を説明する拡大断面図である。
【0042】
図1において、11はハウジング、14はピニオン軸、15はラック軸、16はラックガイドである。ラックガイド16は、全体が略円筒状に形成されたラックガイドホルダ17と、その内部空間17aに形成されたピン挿入溝17bにラック軸15の軸方向に直交する方向に配置されたピン18、及び中心部分にニードルベアリング19が圧入され、外周面が鼓状に形成されたローラ20から構成される。
【0043】
前記ローラ20はピン18に装着されてラックガイドホルダ17の内部空間に回転自在に配置され、鼓状に形成されたローラ20の外周面は、ラック軸15の背面(噛合面と反対側)に転がり接触し、ラック軸15を噛合面に向けて押圧可能に構成されている。
【0044】
ハウジング11には、ラックガイドホルダ17を案内する円筒状の孔からなるラックガイド案内部12が設けられ、ラックガイドホルダ17の外周面がラックガイド案内部12に嵌合している。また、ハウジング11のラックガイド案内部12の下側(ラック軸15と反対側)には、調整スクリュー13が螺合するように内面にねじが形成されている。
【0045】
調整スクリュー13は有底円筒上の部材であって、ラックガイド案内部12に螺合しており、調整スクリュー13とラックガイドホルダ17との間には皿ばね13aが配置されていて、調整スクリュー13をねじ込むと、皿ばね13aを介してラックガイドホルダ17をラック軸15に向けて押圧するように構成されている。調整スクリュー13のねじ込み量を調整することで、ラック軸15のラック歯15aとピニオン軸14のピニオン歯14aとの噛合状態を適正に調整することができる。
【0046】
次に、ピン18と、ラックガイドホルダ17の内部空間に形成されたピン挿入溝17bの構成について説明する。
【0047】
ピン18は、図1にピン軸に沿った方向の断面が示され、図2にピンの断面が示されているように、その中央部18aは断面が円形に形成され、ニードルベアリング19を介してローラ20を回転自在に支持するように構成されている。ピン18の両端部とその付近は、それぞれ円形断面の一部がピン軸に平行な平面に沿って削り取られた平面からなる接触面18bが形成されている。即ち、ピン18は中央部は円柱状18a、両端部とその付近はカマボコ状で、カマボコ状に削り取られた下側の面が接触面18bとなる。
【0048】
一方、ラックガイドホルダ17は、図1、図2に示されるように、外形が略円筒状に形成された部材であって、その中央部分には、内部に収容されるローラ20の形状に沿った形状の、底面が半円筒状でその上に矩形断面の孔が繋がる内部空間17aが形成され、その内部空間17aのラックガイドホルダ17の直径方向の左右には矩形断面の溝からなるピン挿入溝17bが形成され、ピン挿入溝17bの底面は前記したピン18の両端部とその付近に形成された平面部18bに当接する平面からなる接触面17cが形成されている。
【0049】
この構成によれば、ピン18の両端部とその付近に形成された接触面18bとラックガイドホルダ17のピン挿入溝17bの底面の接触面17cとが面接触するから、接触面積が従来の線接触に比較して飛躍的に拡大して接触面圧が低下するので、ラックガイドホルダ17の変形を防止することができる。従来は焼結材により構成されていたラックガイドホルダ17を、アルミニウム合金等で作成することも可能となる。
【0050】
また、ピン18の両端部とその付近に設けた接触面18bは、ピン18の外径の1/2を削り取ると最大面積を得ることができるが、削り取った角部に曲げ応力が集中してピン18の折れが懸念されるので、ピン18の外径の1/4程度を削り取り、角部に集中する曲げ応力を緩和している。
【0051】
[第2の実施の形態]
図3は、この発明の第2の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の構成を説明する断面図、図4はそのラックガイドホルダのピン軸方向から見た断面図で、図4(a)はラックガイドホルダ及びピンのピン軸方向から見た断面図、図4(b)はラックガイドホルダとピンとの接触状態を説明する拡大断面図である。
【0052】
第2の実施の形態は、第1の実施の形態のものにおいて、ピン18と、ラックガイドホルダ17の内部空間に形成されたピン挿入溝の構成が相違するだけであるから、第1の実施の形態のものと同一部材には同一符号を付して詳細な説明は省略し、相違点について説明する。
【0053】
ピン18は、その中央部18aは、円形断面に形成され、ニードルベアリング19を介してローラ20を回転自在に支持するように構成されている。また、ピン18の両端部とその付近は、左右対称に断面逆V字状(例えば角度45°)に配置された2つの平面で構成された凸条により接触面18bが構成される。必要に応じてその先端が僅かに丸めることができる。
【0054】
一方、ラックガイドホルダ17は、図3、図4に示されるように、外形が略円筒状に形成された部材であって、その中央部分には、内部に収容されるローラ20の形状に沿った形状の、底面が半円筒状でその上に矩形断面の孔からなる内部空間17aが形成され、その内部空間17aのラックガイドホルダ17の直径方向の左右には、矩形断面の溝からなるピン挿入溝17bが形成され、ピン挿入溝17bの底面は断面V字状(例えば角度45°)に配置された2つの平面で構成された溝状の接触面17dが形成されている。
【0055】
ピン挿入溝17bの底面の断面V字状の溝状の接触面17dは、前記したピン18の両端部とその付近に形成された断面逆V字状の凸条の接触面18bと当接する。
【0056】
この構成によれば、ピン18の両端部とその付近に形成された接触面18bと、ラックガイドホルダ17のピン挿入溝17bの底面の接触面17dとが面接触し、接触面積が従来の線接触に比較して飛躍的に拡大し、接触面圧が低下するので、ラックガイドホルダ17の変形を防止することができる。
【0057】
[第3の実施の形態]
図5は、この発明の第3の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の構成を説明する部分断面図、図6はそのラックガイドホルダ部分をピンの軸方向から見た断面図で、図6(a)はラックガイドホルダ及びピンのピン軸方向から見た断面図、図6(b)はラックガイドホルダとピンとの接触状態を説明する拡大断面図である。
【0058】
第3の実施の形態のラックガイドは、第1の実施の形態のラックガイドにおいて、ピンと、ラックガイドホルダ17の内部空間に形成されたピン挿入溝の構成が相違するだけであるから、第1の実施の形態のものと同一部材には同一符号を付して詳細な説明は省略し、相違点について説明する。
【0059】
ピン18と、ラックガイドホルダ17の内部空間に形成されたピン挿入溝の構成について説明する。ピン18は、図5、図6に示すように断面円形のピンで、従来の構成のピンと変わらない。
【0060】
一方、ラックガイドホルダ17は、図5、図6に示すように、外形が略円筒状に形成された部材であって、その中央部分には、内部に収容されるローラ20の形状に沿った形状の、底面が半円筒状でその上に矩形断面の孔からなる内部空間17aが形成され、その内部空間17aのラックガイドホルダ17の直径方向の左右には、それぞれ矩形断面の溝からなるピン挿入溝17fが形成されている。
【0061】
そして、ピン挿入溝17fの底面は平面からなる接触面17eに形成され、ピン挿入溝17fにはそれぞれピン18を受けるピン受部材21aが装着される。ピン受部材21aのピン18を受ける側は、ピン18の外径に適合した断面円弧状のピン支承面21cに形成され、ピン挿入溝17fの底面に当接する側は平面からなる接触面21eに形成されている。ピン受部材21aは、ラックガイドホルダ17よりも硬度の高い材料で構成し、荷重による変形を防ぐものとする。
【0062】
ピン挿入溝17fの底面の接触面17eはラックガイドホルダ17側の接触面を構成し、ピン受部材21aの底面の接触面21eはピン受部材21a側の接触面を構成し、ラックガイドホルダ側の接触面とピン受部材側の接触面とが面接触し、ピン18に加わる負荷をピン受部材21aを介してラックガイドホルダ17に伝達する。
【0063】
この構成によれば、ピン18は断面円形の単純な構成のピンを使用することができ、また、ラックガイドホルダ17の底面の接触面17eとピン受部材21aの底面の接触面21eとが面接触するから、接触面積が従来の線接触に比較して飛躍的に拡大し、接触面圧が低下するので、ラックガイドホルダ17の変形を防止することができるから、従来は焼結材により構成されていたラックガイドホルダ17を、アルミニウム合金等で作成することも可能となる。
【0064】
[第4の実施の形態]
図7は、この発明の第4の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の構成を説明する部分断面図、図8はそのラックガイドホルダ部分をピンの軸方向から見た断面図で、図8(a)はラックガイドホルダ及びピンのピン軸方向から見た断面図、図8(b)はラックガイドホルダとピンとの接触状態を説明する拡大断面図である。
【0065】
第4の実施の形態のラックガイドは、第1、第2の実施の形態のラックガイドと略同じ構成であり、ピンと、ラックガイドホルダ17の内部空間に形成されたピン挿入溝に挿入されるピン受部材の構成が相違するだけであるから、第1、第2の実施の形態のものと同一部材には同一符号を付して詳細な説明は省略し、相違点について説明する。
【0066】
ピン18と、ラックガイドホルダ17の内部空間に形成されたピン挿入溝の構成について説明する。ピン18は、図7、図8に示すように断面円形のピンで、従来の構成のピンと変わらない。
【0067】
一方、ラックガイドホルダ17は、図7、図8に示すように、外形が略円筒状に形成された部材であって、その中央部分には、内部に収容されるローラ20の形状に沿った形状の、底面が半円筒状でその上に矩形断面の孔からなる内部空間17aが形成される。
【0068】
内部空間17aのラックガイドホルダ17の直径方向の左右にはそれぞれ矩形断面の溝からなるピン挿入溝17fが形成され、ピン挿入溝17fの底面は連続した平面からなる接触面17eに形成され、全体としてラックガイドホルダ17の側面及び底面に所定幅の枠状の溝からなるピン挿入溝17Wが構成され、ピン挿入溝17Wにはピン18を支承するピン受部材22が装着される。
【0069】
ピン受部材22は、先に第3実施例で説明した2つのピン受部材21aの底面を一体に連結して全体がU字状に構成されており、ピン受部材22のピン18を受ける側は、ピン18の外径に適合した断面円弧状の湾曲面からなるピン支承面22cが形成され、ピン挿入溝17Wの底面の接触面17eに当接する側は平面からなる接触面21eに形成されている。ピン受部材22は、ラックガイドホルダ17よりも硬度の高い材料で構成し、荷重による変形を防ぐものとする。
【0070】
この構成によれば、ピン18は断面円形の単純な構成のピンを使用することができ、また、ピン受部材22が一個の部材で一体に構成されているので、複数部材で構成した場合のようにピン受部材の軸心のずれが生じるおそれがない。また、ラックガイドホルダ17のピン挿入溝17Wの底面が平面に形成されているのでピン受部材22とは面接触するから、接触面積が従来の線接触に比較して飛躍的に拡大し、接触面圧が低下するので、ラックガイドホルダ17の変形を防止することができる。また、ピン18はピン受部材22と接触し、ラックガイドホルダ17とは直接接触しないので、従来は焼結材により構成されていたラックガイドホルダ17を、アルミニウム合金等で作成することも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
ラックガイドホルダの変形を防止し、ラトル音の発生を防止できるラックガイドを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置であって、ラックガイドホルダとローラを保持するピンとの間の接触状態を線接触から面接触として接触面積を拡大し、ラックガイドホルダの変形を防止するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】第1の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラックガイドの構成を説明する部分断面図。
【図2】図1に示すラックガイドホルダのピンの軸方向から見た断面図。
【図3】第2の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラックガイドの構成を説明する部分断面図。
【図4】図3に示すラックガイドホルダのピンの軸方向から見た断面図。
【図5】第3の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラックガイドの構成を説明する部分断面図。
【図6】図5に示すラックガイドホルダのピンの軸方向から見た断面図。
【図7】第4の実施の形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラックガイドの構成を説明する部分断面図。
【図8】図7に示すラックガイドホルダのピンの軸方向から見た断面図。
【図9】従来の転がり形式のラックガイドを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の構成を説明する断面図。
【図10】図9に示す従来のステアリング装置のラックガイドの部分断面図。
【図11】図10に示す従来のラックガイドのピン挿入溝とピンとの接触面を説明する図。
【図12】従来の転がり形式のラックガイドを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラックガイドの他の構成を説明する断面図。
【図13】図12に示すラックガイドのピン挿入溝とピンの構成を説明する断面図。
【符号の説明】
【0073】
11 ハウジング
12 ラックガイド案内部
13 調整スクリュー
13a 皿ばね
14 ピニオン軸
14a ピニオン歯
15 ラック軸
15a ラック歯
16 ラックガイド
17 ラックガイドホルダ
17a 内部空間
17b、17f ピン挿入溝
17c 接触面(平面の接触面)
17d 接触面(溝状の接触面)
17e 接触面(ピン挿入溝が連続平面からなる接触面)
17W ピン挿入溝
18 ピン
18a 中央部(ピンの中央部)
18b 接触面(ピンの両端部とその付近の凸条の接触面)
19 ニードルベアリング
20 ローラ
21a ピン受部材
21c、22c ピン支承面
21e 接触面(ピン挿入溝の底面の接触面)
22 ピン受部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラでラック軸の背面をラックとピニオンとの噛合方向に向けて押圧する転がり型ラックガイドを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置において、
前記ラックガイドは、前記ラックとピニオンとの噛合方向に向けて移動可能に配置され、その内部にピン挿入溝が形成されたラックガイドホルダと、前記ローラが回転自在に装着され、前記ラックガイドホルダのピン挿入溝に配置されるピンとから構成され、
前記ラックガイドホルダのピン挿入溝とピンとは平面に形成された接触面を備え、
前記ピン挿入溝側の接触面と前記ピン側の接触面との面接触により前記ローラに作用する負荷を支承するように構成されていること
を特徴とするラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項2】
前記ラックガイドホルダのピン挿入溝と前記ピンとは、それぞれが平面に形成された接触面を備えること
を特徴とする請求項1に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項3】
前記ラックガイドホルダのピン挿入溝は前記ラック軸の背面を押圧する押圧力の作用方向に対して垂直に交差する平面に形成された接触面を備え、
前記ピンは中央部分が断面円形で、ピン軸方向の両端部がピン軸に対して平行に削られて平面に形成された接触面を備えること
を特徴とする請求項2に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項4】
前記ラックガイドホルダのピン挿入溝は断面V字状に配置された2つの平面で構成された溝状の接触面を備え、前記ピンは断面逆V字状に配置された2つの平面で構成された凸条からなる接触面を備えること
を特徴とする請求項1に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項5】
前記ラックガイドホルダのピン挿入溝は前記ラック軸の背面を押圧する押圧力の作用方向に対して傾斜し、且つラック軸の軸心に直交する方向に伸びる2つの平面で構成された溝状の接触面を備え、
前記ピンは中央部分が断面円形で、両端部がピン軸方向に伸びる2つの平面で構成された凸条からなる接触面を備えること
を特徴とする請求項4に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項6】
ローラでラック軸の背面をラックとピニオンとの噛合方向に向けて押圧する転がり型ラックガイドを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置において、
前記ラックガイドは、前記ラックとピニオンとの噛合方向に向けて移動可能に配置され、その内部に形成されたピン挿入溝にピン受部材が配置されたラックガイドホルダと、前記ローラが回転自在に装着され前記ピン受部材に支承されるピンとから構成され、
前記ラックガイドホルダのピン挿入溝はその底面が平面に形成された接触面を備え、前記ピン受部材はその底面が平面に形成された接触面を備え、
前記ピン挿入溝の接触面とピン受部材の接触面との面接触により前記ローラに作用する負荷を支承するように構成されていること
を特徴とするラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項7】
前記ラックガイドホルダのピン挿入溝は、前記ラック軸の背面を押圧する押圧力の作用方向に平行でラックガイドホルダの内面の直径方向に対向する位置に形成された底面が平面からなる接触面である矩形断面の2つの溝に、それぞれ底面が平面に形成された接触面で反対側の端部がそれぞれ前記ピンの外径に適合した断面円弧状のピン支承面を備えたピン受部材が装着されていること
を特徴とする請求項6に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項8】
前記ラックガイドホルダのピン挿入溝は、前記ラック軸の背面を押圧する押圧力の作用方向に平行でラックガイドホルダの内面の直径方向に対向する位置に形成された底面が平面からなる接触面である矩形断面の2つの溝に、全体がU字状に形成され、底面が平面に形成された接触面でU字状の端部がそれぞれ前記ピンの外径に適合した断面円弧状のピン支承面を備えたピン受部材が装着されていること
を特徴とする請求項6に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項9】
前記ピン受部材は、ラックガイドホルダよりも硬度の高い材料で構成されていること
を特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−62397(P2007−62397A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246944(P2005−246944)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】