説明

ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置

【課題】
ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置において、摩耗が進行した場合の予圧力をほぼ一定に保ち、アジャストガタの大きさを増加させず、ほぼ一定に保ち、離間力が予圧力を越えた場合にもラトル音を防止できるラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置を提供する。
【解決手段】
本発明に係るラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置は、前記ラック軸に摺接するラックガイドと、前記ラックガイドを前記ラック軸に押し付けるための弾性部材と、回転力を押し付け力に変える変換機構と、回転力を発生させるための回転力発生部材と、回転を一方向に制限する回転方向制限部材と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置には、タイヤが路面の凹凸を通過することなどが原因で逆入力と呼ばれる力が入力される。逆入力により、ラックとピニオンはかみ合い、ラックとピニオンをラックガイドのしゅう動方向に離間させる力が働く。このときの離間力がラックとピニオンを押し付けるバネ予圧力より大きい場合、ラックとピニオンは離間し、ラックとピニオンのかみ合い部に隙間ができる。この隙間が元に戻るときにラックとピニオン歯面では衝突がおこる。すきまが大きいと衝突音が大きくなり、聴感上の問題となる。ラトル音の聴感上の問題を防止するには、逆入力荷重よりも予圧力を大きくすることと、逆入力荷重による離間力が予圧力より大きかった場合に歯面にできる隙間を小さくすることが重要である。また、一般にラックとピニオンを長期間使用すると、ラックとピニオンのかみ合い部などに摩耗が発生するため、バネによる予圧力は低下し、アジャストガタは大きくなる。
【0003】
このラトル音を防止する先行技術としては、図6の特許文献1に記載された技術がある。これは、弾性部材24であるコイルバネに加え、ゼンマイバネ25のねじり戻り力を、突起21と溝カム22の機構を介して予圧力とすることで負荷する。このため、長期の使用において摩耗が発生してラックとピニオン歯面のガタが大きくなったとしても、予圧力が低下しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−210062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、予圧力が離間力をこえる場合に、溝カム22はラックとピニオンを離間させて歯面に隙間を生じさせる向きに回転することが出来るため、摩耗によるガタの増加は防止できない。このため、離間力が予圧力をこえた場合にラトル音を防止できない問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、離間力が予圧力を越えた場合にもラトル音を防止できるラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置において、前記ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置は、前記ラック軸に摺接するラックガイドと、前記ラックガイドを前記ラック軸に押し付けるための弾性部材と、回転力を押し付け力に変える変換機構と、回転力を発生させるための回転力発生部材と、回転を一方向に制限する回転方向制限部材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、回転力を押し付け力に変える変換機構とそれを回転させる回転力発生部材によって、押し付け力を発生させる。 また、この変換機構はワンウェイクラッチやラチェットにより、ラックとピニオンを離間させて歯面に隙間を生じさせる方向には回転できず、ラックガイドを予圧する方向にのみ回転できるようにする。これにより、摩耗が進行した場合の予圧力をほぼ一定に保つだけでなく、アジャストガタの大きさを増加させず、ほぼ一定に保つことが出来きる。このため、離間力が予圧力を越えた場合にもラトル音を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の部分断面図
【図2】図1と図3の回転力が発生する部分の断面図
【図3】本発明に係るラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の部分断面図
【図4】図3のラチェット部の概略構成を示す模式図
【図5】本発明に係るラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の概略構成を示す模式図
【図6】従来のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置1について図面を参照して説明する。図5に示すように、本実施形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2
に連結しているステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されたピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン7aに噛合うラック8aを有して自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸8とを有している。ピニオン軸7およびラック軸8により舵取り機構としてのラック・アンド・ピニオン機構Aが構成されている。
【0011】
ラック軸8は、車体に固定されるラックハウジング9内に、図示しない複数の軸受を介して、軸方向Z1に沿って直線往復動可能に支持されている。ラック軸8の両端部はラックハウジング9
の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド10が結合されている。各タイロッド10は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪11に連結されている。操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン7aおよびラック8aによって、自動車の左右方向に沿ってのラック軸8の直線運動に変換される。これにより、転舵輪11の転舵が達成される。
【0012】
また、図1、図2に示すように前記ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置1は、前記ラック軸8に摺接するラックガイド18と、前記ラックガイド18を前記ラック軸8に押し付けるための弾性部材24である皿バネと、回転力を押し付け力に変える変換機構26と、回転力を発生させるための回転力発生部材27であるコイルバネと、回転を一方向に制限する回転方向制限部材28であるワンウェイクラッチと、を有する。図1では、コイルバネによって回転力を発生させ、変換機構26を構成する変換部品26aの外周に設置された雄ねじ部26a1とハウジング17の内周に設置された雌ねじ部17a1により回転が直動に変換される。ラックガイド18のラック軸8に対する予圧力は、バネ調整部29を回転することで調整し、調整後にナット30を締め付けて摩擦によりカバー19に固定する。また、回転方向は、ワンウェイクラッチによって予圧のかかる方向にのみ制限されている。
【0013】
次に、本発明に係るラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置1の別の実施形態について図面を参照して説明する。なお、前の実施形態に記載した事項については省略する。図3、図2に示すように、本実施形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置1は、前記ラックガイド18を前記ラック軸8に押し付けるための弾性部材24としてコイルバネを用いており、回転を一方向に制限する回転方向制限部材28としてラチェット部を有する。前記ラチェット部に関しては、図4の概略構成を示す模式図に大まかな構成を示し、図3に示したように、変換機構26を構成する変換部品26aの外周に設置されたラチェット歯車部26bとラチェット歯止め部31によって、回転方向は、予圧のかかる方向にのみ制限されている。
【0014】
以上のように、本発明では、回転力を押し付け力に変える変換機構とそれを回転させる回転力発生部材によって、押し付け力を発生させる。 また、この変換機構はワンウェイクラッチやラチェットにより、ラックとピニオンを離間させて歯面に隙間を生じさせる方向には回転できず、ラックガイドを予圧する方向にのみ回転できるようにする。これにより、摩耗が進行した場合の予圧力をほぼ一定に保つだけでなく、アジャストガタの大きさを増加させず、ほぼ一定に保つことが出来きる。このため、離間力が予圧力を越えた場合にもラトル音を防止できる。
【0015】
また、上述の実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨を外れない限り、他の実施形態にも適用出来る。
【符号の説明】
【0016】
1 ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置
2 操舵部材
3 ステアリングシャフト
4、6 自在継手
5 中間軸
7 ピニオン軸
7a ピニオン
8 ラック軸
8a ラック
9 ラックハウジング
10 タイロッド
11 転舵輪
17 ハウジング
17a1 雌ねじ部
18 ラックガイド
19 カバー
21 突起
22 溝カム
24 弾性部材
25 ゼンマイバネ
26 変換機構
26a 変換部品
26a1 雄ねじ部
26b、260b ラチェット歯車部
27 回転力発生部材
28 回転方向制限部材
29 バネ調整部
30 ナット
31、310 ラチェット歯止め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置において、前記ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置は、前記ラック軸に摺接するラックガイドと、前記ラックガイドを前記ラック軸に押し付けるための弾性部材と、回転力を押し付け力に変える変換機構と、回転力を発生させるための回転力発生部材と、回転を一方向に制限する回転方向制限部材と、を有することを特徴とするラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−86528(P2013−86528A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225726(P2011−225726)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】