説明

ラック軸支持装置および車両用操舵装置

【課題】車両への搭載性に優れたラック軸支持装置を提供する。
【解決手段】ラック軸支持装置13が、ラックハウジング10の内周10aによってラック軸8の軸方向X1に移動可能に支持された断面楔状の楔部材27を備える。楔部材27とラック軸8との間に介在するスペーサ28が、楔部材27の第1テーパ面32に沿う第2テーパ面34と、ラック軸8の外周8bの一部を軸方向X1に摺動可能に受ける受け面35を含む。第2テーパ面34とラックハウジング10の内周10aとの間に、楔状空間S1が形成される。押圧機構29が、楔部材27を楔状空間S1の狭い側へ押し込むことにより、スペーサ28を介してラック軸8をピニオン軸7側へ押し付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラック軸支持装置および車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1の図4では、ラック軸支持装置が、ラックハウジングから径方向に突出するハウジングに設けられた保持孔に、保持孔の深さ方向(ラック軸の径方向に相当)に摺動可能なラックガイド(リテーナともいう。サポートヨークともいう。)と、そのラックガイドを保持孔の深さ方向に付勢する圧縮コイルばねとを収容している。
圧縮コイルばねは、保持孔の入口のねじ部に螺合するアジャストスクリューとラックガイドとの間に介在しており、アジャストスクリューのねじ込み位置の調整によって、圧縮コイルばねのセット荷重を調整している。圧縮コイルばねにより付勢されたラックガイドが、ラック軸をピニオン軸側へ押圧しつつ、ラック軸を軸方向に摺動可能に支持している。
【0003】
また、特許文献1の図2,3では、ラックハウジングから突出するハウジングの形状を、すなわち、そのハウジング内の保持孔の形状をL字形形状にしたり、湾曲形状にしたりすることより、ラックガイドの進退方向と、アジャストスクリューの進退方向とに角度をつける技術が提案されている。この場合、アジャストスクリューの操作方向を、ラック軸の径方向から別の方向にずらすことにより、車載時のアジャストスクリューの操作を容易にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−23871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、ラック軸支持装置の各部品が、ラックハウジングから突出するハウジング内に配置されている。ラック軸支持装置を含む車両用操舵装置を車両に搭載するにあたっては、ラックハウジングから突出するハウジングと、車体側部品との干渉を避ける必要があり、車両への搭載性が悪いという問題があった。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、車両への搭載性に優れたラック軸支持装置およびこれを含む車両用操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、操舵に伴って回転するピニオン軸(7)と噛み合って軸方向(X1)に移動するラック軸(8)を支持するラック軸支持装置(13;13A)において、前記ラック軸が挿通されたラックハウジング(10)の内周(10a)によって前記軸方向に移動可能に支持された断面楔状の楔部材(27)と、前記楔部材と前記ラック軸の外周(8b)との間に介在し、前記ラックハウジングによって前記軸方向への移動が規制されたスペーサ(28)と、前記楔部材を前記軸方向に沿う押圧方向(P1)に押圧する押圧機構(29;29A)と、を備え、前記楔部材は、前記軸方向に対して傾斜した第1テーパ面(32)を含み、前記スペーサは、前記第1テーパ面に沿う第2テーパ面(34)と、前記ラック軸の外周の一部を前記軸方向に摺動可能に受ける受け面(35)と、を含み、前記第2テーパ面と前記ラックハウジングの内周との間に、前記押圧方向に向かうにしたがって狭くなる楔状空間(S1)が形成され、前記押圧機構は、前記楔部材を前記押圧方向に押圧して前記楔部材を前記楔状空間の狭い側へ押し込むことにより、前記スペーサを介して前記ラック軸を前記ピニオン側へ押し付けるように構成されている、ラック軸支持装置を提供する。
【0007】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、請求項2のように、前記押圧機構は、前記ラックハウジングの内周のねじ部に螺合するねじ部材(30)を含んでいてもよい。
【0008】
また、請求項3のように、前記スペーサは、前記ラック軸の外周を径方向に押圧する弾性を有する樹脂部材を含んでいてもよい。
また、請求項4のように、前記押圧機構は、前記楔部材を前記押圧方向に弾性的に付勢する弾性付勢部材(31)を含んでいてもよい。
また、請求項5の発明は、操舵に伴って回転するピニオン軸と、前記ピニオン軸と噛み合って軸方向に移動するラック軸と、前記ラック軸が挿通された筒状のラックハウジングと、前記ラック軸が挿通されたラックハウジングの内周によって前記軸方向に移動可能に支持された断面楔状の楔部材と、前記楔部材と前記ラック軸の外周との間に介在し、前記ラックハウジングによって前記軸方向への移動が規制されたスペーサと、前記楔部材を前記軸方向に沿う押圧方向に押圧する押圧機構と、を備え、前記楔部材は、前記軸方向に対して傾斜した第1テーパ面を含み、前記スペーサは、前記第1テーパ面に沿う第2テーパ面と、前記ラック軸の外周の一部を摺動可能に受ける受け面と、を含み、前記第2テーパ面と前記ラックハウジングの内周との間に、前記押圧方向に向かうにしたがって狭くなる楔状空間が形成され、前記押圧機構は、前記楔部材を前記押圧方向に押圧して前記楔部材を前記楔状空間の狭い側へ押し込むことにより、前記スペーサを介して前記ラック軸を前記ピニオン側へ押し付けるように構成されている、車両用操舵装置(1)を提供する。
【0009】
また、請求項6のように、前記ラックハウジングは、ピニオン軸に相対的に近い第1端部(11)と、ピニオン軸から相対的に遠い第2端部(12)と、を含み、前記楔部材は、前記ラックハウジングの前記第1端部に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、押圧機構によって楔部材を楔状空間の狭い側へ押し込むことにより、スペーサをラック軸の外周の一部に押圧する。これにより、スペーサを介して、ラック軸をピニオン軸側に、押し付けることができるので、ピニオンとラックとの間のバックラッシを低減することができる。また、楔部材、スペーサおよび押圧機構をラックハウジング内に配置することができるので、従来のラック軸支持装置のように、ラックハウジングの径方向に大きく出っ張ることがなく、車両への搭載性に優れている。
【0011】
また、請求項2の発明によれば、押圧機構として、ラックハウジングの内周のねじ部に螺合するねじ部材を含むので、ねじ部材の螺合位置の調整によって押圧力を容易に調整することができる。
また、請求項3の発明によれば、長期の使用で、スペーサとラック軸との摺動部分に摩耗を生じた場合にも、その摩耗の量に応じてスペーサを構成する樹脂部材が弾性変形することによって、ラック軸の外周に対する、スペーサの押圧状態を維持することができる。したがって、長期にわたってバックラッシを小さく維持することができ、長期にわたってラック軸とピニオンとの歯打ち音を低減することができる。
【0012】
また、請求項4の発明によれば、長期の使用で、スペーサとラック軸との摺動部分に摩耗を生じた場合にも、その摩耗の量に応じて弾性付勢部材が弾性変形することによって、ラック軸の外周に対する、スペーサの押圧状態を維持することができる。したがって、長期にわたってバックラッシを小さく維持することができ、長期にわたってラック軸とピニオンとの歯打ち音を低減することができる。
【0013】
また、請求項5の発明によれば、請求項1の発明と同じ効果を奏することができる。また、ラック軸支持装置が、ラックハウジングの径方向に大きく出っ張ることがないので、車両への搭載性に優れた小型の車両用操舵装置を実現することができる。
また、請求項6の発明によれば、従来、ラックハウジングの第1端部に配置されていたラックブッシュを廃止し、当該ラック軸支持装置によってラックブッシュの機能を兼用することができるので、構造を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態のラック軸支持装置を含む、ラックアンドピニオン式の車両用操舵装置としての電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1のラック軸支持装置の断面図である。
【図3】図2のIII −III 線に沿う断面図である。
【図4】ラック軸支持装置のスペーサの斜視図である。
【図5】ラック軸の支持構造を示す模式図である。
【図6】本発明の別の実施形態のラック軸支持装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態のラック軸支持装置が適用された車両用操舵装置の概略構成図である。図1を参照して、車両用操舵装置としての電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結された操舵軸3と、操舵軸3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されたピニオン軸7と、ピニオン軸7に設けられたピニオン7aに噛み合うラック8aを軸方向X1の適長に形成して軸方向X1(自動車の左右方向)に延びる転舵軸としてのラック軸8とを備えている。ピニオン軸7およびラック軸8により、ラックアンドピニオン機構からなる転舵機構Aが構成されている。
【0016】
ラック軸8は、車体9に固定された筒状のラックハウジング10に挿通されている。ラックハウジング10は、ピニオン軸7に相対的に近い第1端部11とピニオン軸7から相対的に遠い第2端部12とを有している。ラック軸8は、ラックハウジング10の第1端部11に保持されたラック軸支持装置13と、第2端部12に保持されたラックブッシュ14とによって、軸方向X1に移動可能に支持されている。ラック軸支持装置13は、ラック軸8を軸方向X1に移動可能に支持するラックブッシュの機能と、ピニオン7aおよびラック8aのバックラッシを除去する機能とを果たしている。
【0017】
ピニオン軸7は、ラックハウジング10の第1端部11近傍に交叉するピニオンハウジング50の内部に延び、ピニオンハウジング50の内部において、前記のピニオン7a を一体に形成している。ピニオン軸7は、ピニオンハウジング50によって図示しない軸受を介して回転可能に支持されている。ピニオンハウジング50とラックハウジング10との交叉部において、ピニオン7aとラック8aとが噛み合わされている。
【0018】
ラック軸8の両端部はラックハウジング10の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド15が結合されている。各タイロッド15は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪16に連結されている。
操舵軸3は、車体9にブラケット17を介して固定された筒状のコラムハウジング18によって、図示しない軸受を介して回転可能に支持されている。操舵軸3は、操舵部材2に連結された操舵入力軸3aと、中間軸5に連結された操舵出力軸3bとを含む。操舵入力軸3aと操舵出力軸3bとは、トーションバー19を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。操舵軸3の周囲に配置されたトルクセンサ20は、操舵入力軸3aおよび操舵出力軸3bの相対回転変位量に基づいて、操舵部材2に入力された操舵トルクを検出する。
【0019】
電動パワーステアリング装置1は、操舵補助用の電動モータ21と、電動モータ21の出力トルクを転舵機構Aに伝達するための伝達機構としての減速機構22とを含む。減速機構22は、電動モータ21により回転駆動される駆動ギヤとしてのウォーム23と、このウォーム23に噛み合うと共に、操舵出力軸3bに一体回転可能に連結された被動ギヤとしてのウォームホイール24とを備えている。
【0020】
操舵部材2が操作されて操舵軸3が回転されると、この回転がピニオン7aおよびラック8aによって、ラック軸8の軸方向X1の直線運動に変換される。これにより、転舵輪16の転舵が達成される。また、トルクセンサ20によるトルク検出結果および図示しない車速センサからの車速検出結果が、ECU(Electronic Control Unit)25に与えられ、これらの検出結果に基づいてECU25が、電動モータ21を駆動制御する。これにより、減速機構22を介して操舵出力軸3bが回転駆動され、操舵が補助される。
【0021】
図2は、ラック軸支持装置の拡大断面図であり、図3は図2のIII −III 線に沿う断面図である。図2に示すように、ラック軸支持装置13は、断面楔状をなす筒状の楔部材27と、楔部材27とラック軸8との間に介在しラック軸8を軸方向X1に移動可能に受けるスペーサ28とを備えている。スペーサ28とラックハウジング10の内周10aとの間には、ラックハウジング10の内奥側へ向かうにしたがって狭くなる楔状空間S1が形成されている。
【0022】
楔部材27は、楔状空間S1の狭い側へ押込み可能に、ラックハウジング10の内周10aによって支持されている。具体的には、楔部材27は、ラックハウジング10の第1端部11の内周10aを拡径して設けられた円筒面からなる支持部26によって、軸方向X1に移動可能に支持されている。
また、ラック軸支持装置13は、楔部材27を軸方向X1に沿う押圧方向P1(ラックハウジング10の内奥側)へ押圧して楔状空間S1の狭い側へ押し込むことにより、スペーサ28を介してラック軸8をピニオン軸7側に押し付ける押圧機構29を備えている。押圧機構29は、ラックハウジング10の第1端部11の内周10aに設けられたねじ部10bに螺合した環状のねじ部材30と、ねじ部材30と楔部材27との間に介在し、楔部材27を軸方向X1に弾性的に付勢する弾性付勢部材31とを備えている。
【0023】
楔部材27は、外周27aおよび内周27bを有している。楔部材27の外周27aは、円筒面からなり、ラックハウジング10の内周10aの支持部26に嵌合されている。楔部材27の内周27bには、軸方向X1に対して傾斜した第1テーパ面32が設けられている。具体的には、第1テーパ面32は、ラックハウジング10の内奥側(押圧方向P1)に向かうにしたがって、内径が大きくなる円錐状テーパ面である。
【0024】
ラックハウジング10の内周10aの支持部26の一端には、環状段部33が設けられている。また、ラックハウジング10の内周10aには、支持部26の他端に隣接して、前記ねじ部10bが設けられている。
楔部材27は、前端面271と後端面272とを有している。楔部材27の前端面271と環状段部33との間には、所定量の隙間が設けられており、楔部材27がラックハウジング10の奥側へ移動できるようになっている。楔部材27の後端面272とこれに対向するねじ部材30の前端面301との間に、押圧機構29の弾性付勢部材31が介在している。弾性付勢部材31は、例えば、図2に示すような皿ばねであってもよいし、圧縮コイルばね(図示せず)であってもよいし、筒状の弾性ゴム(図示せず)であってもよい。
【0025】
ねじ部材30の後端面302には、当該ねじ部材30を回動させるための工具(図示せず)が係合する工具係合孔303が設けられている。ねじ部10bに対するねじ部材30の螺合位置に応じて、弾性付勢部材31のセット荷重が設定され、これにより、楔部材27を軸方向X1に押圧する押圧力F(付勢力)が設定される。ひいては、スペーサ28がラック軸8をピニオン軸7側へ押し付ける径方向Y1の押圧力G(付勢力)が設定される。
【0026】
図3に示すように、スペーサ28は、ラック軸8の外周8bの略半周を囲んで配置されている。図2に示すように、スペーサ28は、ラック軸8に対してピニオン軸7とは反対側に配置されており、ラック軸8の軸方向X1の移動を案内するラックガイドとして機能する。図2および図3を参照して、スペーサ28は、楔部材27の第1テーパ面32によって受けられた第2テーパ面34と、円筒面の一部をなし、ラック軸8の外周8bの一部(略半周)を摺動可能に受ける受け面35とを備えている。
【0027】
図2に示すように、スペーサ28の第2テーパ面34は、ラックハウジング10の内奥側(押圧方向P1)に向かうにしたがって、外径が大きくなる円錐状テーパ面に形成されている。楔部材27の第1テーパ面32とスペーサ28の第2テーパ面34とは、互いに逆向きの傾斜をなして互いに沿わされている。第1テーパ面32は第2テーパ面34に対して摺動可能である。
【0028】
楔状空間S1は、スペーサ28の第2テーパ面34とラックハウジング10の内周10a(具体的は支持部26)との間に形成されている。楔状空間S1は、押圧機構29の押圧方向P1(ラックハウジング10の内奥側)に向かうにしたがって狭くなっている。
スペーサ28は、径方向の厚みが相対的に厚い前端281と、径方向の厚みが相対的に薄い後端282とを有している。スペーサ28の後端282は、ラックハウジング10の内周10aの環状段部33に当接している。環状段部33によって、ラックハウジング10の内奥側への、スペーサ28の移動が規制されている。すなわち、環状段部33がスペーサ28の軸方向移動を規制するストッパとして機能している。
【0029】
図4に示すように、スペーサ28には、その後端282から軸方向に所定深さで延びるスリット36が形成されている。スリット36は、図示のように、周方向に離隔して複数が設けられていることが好ましい。
スペーサ28は、例えばポリアセタールやポリアミド等の樹脂部材により形成されており、弾性を有している。具体的には、スペーサ28は、樹脂部材としての材料自体の持つ弾性と、前記のスリット36を設けることによって構造的に実現される弾性とを有している。
【0030】
本実施の形態によれば、押圧機構29によって楔部材27を軸方向X1(押圧方向P1)に押圧して、楔部材27を楔状空間S1の狭い側へ押し込むことにより、スペーサ28をラック軸8の外周8bの一部に押圧する。換言すると、楔部材27の第1テーパ面32とスペーサ28の第2テーパ面34の働きで、押圧機構29による軸方向X1の押圧力Fをスペーサ28による径方向Y1の押圧力Gに変換することができる。したがって、スペーサ28を介して、ラック軸8をピニオン軸7側に押し付けることができるので、ピニオン7aとラック8aとの間のバックラッシを抑制することができる。
【0031】
また、楔部材27、スペーサ28および押圧機構29をラックハウジング10内に配置することができるので、従来のラック軸支持装置のように、ラックハウジングの径方向に大きく出っ張ることがなく、車両への搭載性に優れている。しかも、従来のようなラック軸の径方向に直線運動する直動ラックガイド(サポートヨーク)を用いないので、直動ラックガイドの直動によるガタ音の発生や、直動ラックガイドの倒れに起因するスティックスリップ音等の発生のおそれもない。
【0032】
また、押圧機構29として、ラックハウジング10の内周10aのねじ部10bに螺合するねじ部材30を含むので、ねじ部材30の螺合位置の調整によって押圧力を容易に調整することができる。
また、長期の使用で、スペーサ28とラック軸8との摺動部分に摩耗を生じた場合にも、その摩耗の量を、スペーサ28を構成する樹脂部材が弾性変形したり、弾性付勢部材31が弾性変形したりすることによって、吸収することができる。したがって、ラック軸8の外周8bに対する、スペーサ28の押圧状態を維持することができる。その結果、長期にわたってピニオン7aとラック8aとの間のバックラッシをゼロに維持することができ、長期にわたってラック7aとピニオン8aとの歯打ち音を低減することができる。
【0033】
また、模式図である図5に示すように、ラック軸8の支持が、ラックハウジング10の第2端部12に配置されラック軸8を径方向の全方向に支持するラックブッシュ14と、ラック軸8を第1径方向R1に支持するピニオン軸7と、ラックハウジング10の第1端部11に配置されラック軸8を第1径方向R1の反対方向である第2径方向R2に支持するラック軸支持装置13とを用いた3点支持となる。
【0034】
ラック軸支持装置13が、ラックハウジング10の第1端部11に配置されて、ラック軸8を支持するので、従来、ラックハウジングの第1端部に配置されていたラックブッシュを廃止することができる。すなわち、ラック軸支持装置13によって、ラックブッシュの機能と、ピニオン7aおよびラック8aの間のバックラッシを除去する機能とを兼用することができるので、構造を簡素化することができる。
【0035】
次いで、図6は本発明の別の実施の形態を示している。本実施の形態が図2の実施の形態と異なるのは、図2の実施の形態のラック軸支持装置13では、ねじ部材30と弾性付勢部材31とで構成される押圧機構29を用いていたのに対して、本実施の形態のラック軸支持装置13Aでは、弾性付勢部材31を廃止し、ねじ部材30のみで構成される押圧機構29Aを用いた点にある。
【0036】
なお、本実施の形態の構成要素において、図2の実施の形態と同じ構成要素には、図2の実施の構成要素の参照符号と同じ参照符号を付してある。
本実施の形態では、押圧機構29Aを構成するねじ部材30が、楔部材27の後端面272を直接、軸方向X1(押圧方向P1)に押圧することにより、スペーサ28を介してラック軸8をピニオン軸7側に押し付け、ピニオン7aとラック8aとの間のバックラッシを低減することができる。
【0037】
また、押圧機構29Aをねじ部材30のみで構成したので、構造を簡素化することができ、また、製造コストを安くすることができる。
また、ラックハウジング10の径方向に出っ張ることがないので、車両への搭載性に優れている。しかも、従来のようなラック軸の径方向に直線運動する直動ラックガイド(サポートヨーク)を用いないので、直動ラックガイドのガタ音やスティックスリップ音等の発生のおそれもない。
【0038】
また、長期の使用で、スペーサ28とラック軸8との摺動部分に摩耗を生じた場合にも、その摩耗の量を、スペーサ28を構成する樹脂部材が弾性変形することにって、吸収することができる。したがって、ラック軸8の外周8bに対する、スペーサ28の押圧状態を維持することができる。その結果、長期にわたってピニオン7aとラック8aとの間のバックラッシをゼロに維持することができ、長期にわたってラック7aとピニオン8aの歯打ち音を低減することができる。
【0039】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、例えば、ラック軸8の外周8bとスペーサ28の受け面35との間の摺動荷重を低減するために、ラック軸8の外周8bに摺接する受け面35の接触面積を調整してもよい。また、図示していないが、受け面35に摩擦低減部として、フッ素樹脂シート等の低摩擦シートを貼り付けたり、受け面35にフッ素樹脂層等の低摩擦層をコーティングしてもよい。
【0040】
また車両用操舵装置としては、電動パワーステアリング装置1に限らず、マニュアルステアリングであってもよいし、油圧式のパワーステアリング装置であってもよい。その他、本発明の特許請求の範囲で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0041】
1…電動パワーステアリング装置(車両用操舵装置)、2…操舵部材、7…ピニオン軸、7a…ピニオン、8…ラック軸、8a…ラック、8b…外周、10…ラックハウジング、10a…内周、10b…ねじ部、11…第1端部、12…第2端部、13;13A…ラック軸支持装置、14…ラックブッシュ、26…支持部、27…楔部材、27a…外周、27b…内周、271…前端面、272…後端面、28…スペーサ、29;29A…押圧機構、30…ねじ部材、301…端面、31…弾性付勢部材、32…第1テーパ面、34…第2テーパ面、35…受け面、36…スリット、P1…押圧方向、S1…楔状空間、X1…軸方向、Y1…径方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵に伴って回転するピニオン軸と噛み合って軸方向に移動するラック軸を支持するラック軸支持装置において、
前記ラック軸が挿通されたラックハウジングの内周によって前記軸方向に移動可能に支持された断面楔状の楔部材と、
前記楔部材と前記ラック軸の外周との間に介在し、前記ラックハウジングによって前記軸方向への移動が規制されたスペーサと、
前記楔部材を前記軸方向に沿う押圧方向に押圧する押圧機構と、を備え、
前記楔部材は、前記軸方向に対して傾斜した第1テーパ面を含み、
前記スペーサは、前記第1テーパ面に沿う第2テーパ面と、前記ラック軸の外周の一部を前記軸方向に摺動可能に受ける受け面と、を含み、
前記第2テーパ面と前記ラックハウジングの内周との間に、前記押圧方向に向かうにしたがって狭くなる楔状空間が形成され、
前記押圧機構は、前記楔部材を前記押圧方向に押圧して前記楔部材を前記楔状空間の狭い側へ押し込むことにより、前記スペーサを介して前記ラック軸を前記ピニオン側へ押し付けるように構成されている、ラック軸支持装置。
【請求項2】
請求項1において、前記押圧機構は、前記ラックハウジングの内周のねじ部に螺合するねじ部材を含むラック軸支持装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記スペーサは、前記ラック軸の外周を径方向に押圧する弾性を有する樹脂部材を含むラック軸支持装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項において、前記押圧機構は、前記楔部材を前記押圧方向に弾性的に付勢する弾性付勢部材を含むラック軸支持装置。
【請求項5】
操舵に伴って回転するピニオン軸と、
前記ピニオン軸と噛み合って軸方向に移動するラック軸と、
前記ラック軸が挿通された筒状のラックハウジングと、
前記ラック軸が挿通されたラックハウジングの内周によって前記軸方向に移動可能に支持された断面楔状の楔部材と、
前記楔部材と前記ラック軸の外周との間に介在し、前記ラックハウジングによって前記軸方向への移動が規制されたスペーサと、
前記楔部材を前記軸方向に沿う押圧方向に押圧する押圧機構と、を備え、
前記楔部材は、前記軸方向に対して傾斜した第1テーパ面を含み、
前記スペーサは、前記第1テーパ面に沿う第2テーパ面と、前記ラック軸の外周の一部を摺動可能に受ける受け面と、を含み、
前記第2テーパ面と前記ラックハウジングの内周との間に、前記押圧方向に向かうにしたがって狭くなる楔状空間が形成され、
前記押圧機構は、前記楔部材を前記押圧方向に押圧して前記楔部材を前記楔状空間の狭い側へ押し込むことにより、前記スペーサを介して前記ラック軸を前記ピニオン側へ押し付けるように構成されている、車両用操舵装置。
【請求項6】
請求項5において、前記ラックハウジングは、ピニオン軸に相対的に近い第1端部と、ピニオン軸から相対的に遠い第2端部と、を含み、
前記楔部材は、前記ラックハウジングの前記第1端部に配置されている車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−245810(P2012−245810A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116779(P2011−116779)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】