説明

ラック軸支持装置

【課題】タイヤから衝撃がラック軸7に逆入力しても、ラック7aとピニオン3aの相対的な離間を抑制してラック7aの歯面とピニオン3aの歯面が衝突することによる歯打ち音を低減し、かつ良好な操舵が行なえるラック軸支持装置を提供する。
【解決手段】ハウジング6に形成された保持孔8内に保持孔8の深さ方向に進退可能に保持され、ピニオン3と噛合するラック軸7を軸方向に摺動可能に支持するラック軸支持部材2と、前記ラック軸支持部材2をラック軸7側へ付勢する付勢部材12と、前記付勢部材12の前記ラック軸7とは反対側にして設けられたプレート部材15と、前記保持孔8の入口30の内周に形成されたねじに螺合するプラグと、前記プレート部材15と前記プラグ20との間に流体を封入した流体封入部材16を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックアンドピニオン式舵取り装置において、ラック軸を支持するラック軸支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン式のステアリング装置には、通常、ラック軸のラックとピニオン軸のピニオンとの間のバックラッシを除去するためのラック軸支持装置が設けられている。そのラック軸支持装置では、ハウジングに形成された保持孔に、保持孔の深さ方向に進退自在なサポートヨークを収容し、このサポートヨークによって、ラック軸を軸方向に摺動自在に支持するとともにラック軸をピニオン軸側へ押圧している。
【0003】
このラック軸支持装置では、保持孔の入口の内周に形成されたねじにヨークプラグがねじ込まれ、このヨークプラグとサポートヨークとの間に付勢部材を介在させ、サポートヨークをラック軸側に付勢している。ヨークプラグは、保持孔内でのサポートヨークの後退位置を位置決めする機能を果たすものであり、サポートヨークとヨークプラグとの間のクリアランスは厳密に調整される。この種のラック軸支持装置として、例えば、特許文献1に示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−18828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなラック軸支持装置においては、車両が不整路等を走行した際の衝撃がタイヤから逆入力した場合、ラック軸が軸周りに回転し、瞬時にラックとピニオンとの間が相対的に離間することがある。離間した場合には、付勢部材の弾性力により、即座にラックとピニオンが噛合した元の状態に戻るが、この元の状態に戻った際、ラックの歯面とピニオンの歯面が衝突し、この衝突により歯打ち音が発生する。
また、この衝突を低減するために、付勢部材の弾性力を大きく設定し、ラックをピニオンに向けて強く付勢することも考えられるが、このやり方ではラックとピニオンとの間に発生する摩擦力が大きくなり、ラック軸の動きが滑らかでなくなり良好な操舵が行なえなくなる恐れがある。
【0006】
本発明は、タイヤからの衝撃がラック軸に逆入力しても、ラックとピニオンの相対的な離間を抑制して、ラックの歯面とピニオンの歯面が衝突することによる歯打ち音を低減し、かつ良好な操舵が行なえるラック軸支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ハウジングに形成された保持孔内に保持孔の深さ方向に進退可能に保持され、ピニオンと噛合するラック軸を軸方向に摺動可能に支持するラック軸支持部材と、前記ラック軸支持部材をラック軸側へ付勢する付勢部材と、前記付勢部材の前記ラック軸とは反対側に当接して設けられたプレート部材と、前記保持孔の入口の内周に形成されたねじに螺合するプラグと、前記プレート部材と前記プラグとの間に流体を封入した流体封入部材を設けたこと、を要旨とする。
上記構成によれば、ラック軸のピニオン側とは反対方向の動きを付勢部材と流体封入部材により規制するので、常に、ラック軸とラック軸支持部材が当接した状態を維持でき、ラック軸にタイヤからの衝撃が逆入力した場合であっても流体封入部材の弾性力によりラック支持部材がラック軸から離れるのを抑制できるので、ラック軸とピニオンの歯面同士が衝突することによる歯打ち音を低減できる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記流体封入部材の前記プレート部材との当接部に、凹部を形成したこと、を要旨とする。
即ち、凹部の深さを調整することで、流体封入部材の弾性力を調整できる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記ラック軸支持部材の前記ラック軸側とは反対方向の後退量は、前記ラック軸支持部材と前記プレート部材との隙間、前記流体封入部材に形成した前記凹部の深さとにより設定すること、を要旨とする。
即ち、通常は前記隙間分のラック軸の動きを前記付勢部材により吸収して、ラック軸とピニオンの歯打ち音を低減する。また、ラック軸にタイヤからの衝撃が逆入力した場合には、前記隙間分と前記凹部の深さに応じた前記流体封入部材の弾性力により、ラック軸の後退を抑制できる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記凹部に弾性部材を設けたこと、を要旨とする。
即ち、前記凹部に設けた弾性部材の弾性係数に応じ、流体封入部材の弾性力を調整できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タイヤからの衝撃がラック軸に逆入力しても、ラック軸とピニオンの相対的な離間を抑制し、ラックの歯面とピニオンの歯面が衝突することによる歯打ち音を低減し、かつ良好な操舵を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明の実施形態のラック支持装置が適用されたラックアンドピニオン式のステアリング装置の断面図である。
【図2】図2はサポートヨークとプレートが当接した状態を説明する図である。
【図3】図3はプレートとヨークプラグが当接した状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について図面を参照し説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態のラック軸支持装置が適用されたラックアンドピニオン式のステアリング装置の断面図である。
本ステアリング装置1にはラック軸支持装置2が装備されている。ピニオン軸3は玉軸受からなる第1の軸受4と円筒ころ軸受からなる第2の軸受5によって、ピニオンハウジング6内に回転可能に支持されている。また、ラック軸7は、ピニオンハウジング6内に設けられた上記のラック軸支持装置2と、ピニオンハウジング6に連結される図示しないラックハウジング内に設けられた軸受部材とによって、その軸長方向(紙面に直交する方向)に沿って摺動自在に支持されている。
【0015】
ピニオン軸3のピニオン3aの歯面とラック軸7のラック7aの歯面とはピニオンハウジング6内で相互に噛合わされている。図示していないが、ラック軸7の両端部はタイロッドを介して操向車輪に連結されており、図示しないステアリングホイール等の操舵部材の回転に伴ってラック軸7が軸長方向に移動し操向が行なわれる。
【0016】
上記のラック軸支持装置2は、円孔からなる保持孔8を有するハウジング9と、保持孔8の深さ方向X1に進退可能に収容され、かつ、ラック軸7の周面7bを摺動可能に支持するラック軸支持部材としてのサポートヨーク10と、保持孔8の入口30にねじ込まれて固定された円筒状のヨークプラグ20と、このサポートヨーク10とヨークプラグ20との間には、サポートヨーク10をラック軸7側へ付勢する付勢部材12と、この付勢部材12のラック軸7側とは反対側に設けられたプレート部材としてのプレート15と、流体を封入した流体封入部材16を備える。
【0017】
上記のハウジング9は、ピニオンハウジング6と単一の材料で一体に形成され、ラック軸7を隔ててピニオン軸3との反対側に配置されている。ピニオンハウジング6およびハウジング9は例えばアルミニウム製である。
上記の保持孔8の入口30における内周面には図示しない雄ねじ部が形成され、この雄ねじ部に上記のヨークプラグ20がねじ込まれ固定されている。ヨークプラグ20は例えば鋼鉄製のものである。
【0018】
サポートヨーク10は、その前面10aにラック軸7の周面7bに沿う円弧面からなる凹面13を有している。凹面13には、ラック軸7に摺接する摺接板14が取り付けられている。サポートヨーク10の後面10bは、プレート15の前面15aとの間に所定のクリアランスC1を設けて対向している。
【0019】
流体封入部材16はゴムからなる弾性体で構成され、油、シリコンなどの液体、またはチッソガスなどの気体からなる流体16aが封入され、プレート15の後面15bと対向する側に凹部16bが、この凹部16bを取り囲むように周辺部16cがそれぞれ形成されている。この周辺部16cはプレート15の後面15bと面で当接するように設けられ、プレート15の後面15bとヨークプラグ20の前面20aとの間に所定のクリアランスC2を設けて対向している。
【0020】
クリアランスC1、C2の量は、ヨークプラグ20のねじ込み位置の調整により調整されるが、このねじ込み位置は、流体封入部材16の凹部16bの深さと封入する流体に基づく流体封入部材16の弾性力、付勢部材12の弾性力を基に算出して求める。例えば、クリアランスC1は0.1mm、クリアランスC2は0.2mmになるように調整する。
なお、流体封入部材16の弾性力の微調整が必要な場合は、凹部16bに流体を封入することで調整しても良い。
【0021】
以上、構成における動作について図1〜3を参照して説明する。
図1に示す通常状態では、タイヤからの振動がラック軸7に加わり、ラック軸7がサポートヨーク10の方向に微動するが、サポートヨーク10がプレート15との間のクリアランスC1の範囲においては、サポートヨーク10をラック軸7側へ付勢する付勢部材12により吸収されるようになっている。
【0022】
更に、図1に示す通常状態から、車両が不整路等を走行した等により強い力(衝撃)がステアリング装置1に作用すると、この衝撃がタイヤから逆入力してラック軸7に加わり、ラック軸7がサポートヨーク10を付勢し、図2に示すようにサポートヨーク10とプレート15が当接した状態となる。即ち、サポートヨーク10とプレート15とのクリアランスC1がゼロの状態となる。更に、サポートヨーク10がプレート15を押圧すると、プレート15の後面15bが流体封入部材16の周辺部16cを押圧し、図3に示すように、流体封入部材16が凹部16bと共に変形する。即ち、プレート15の後面15bとヨークプラグ20の前面20aとの間のクリアランスC2が図1の状態から減少した状態となる。
【0023】
このように、付勢部材12と流体封入部材16を直列的に配置することで、通常状態では付勢部材12の弾性力でラック軸7の微動を吸収し、更なる逆入力がラック軸7に加わった場合には、流体封入部材16の弾性力でラック軸7の衝撃による移動を抑制する構成になっている。
【0024】
本実施形態によれば、車両が不整路等を走行した等により強い力(衝撃)がステアリング装置1に作用し、この衝撃がタイヤから逆入力してラック軸7に加わっても、ラック軸7のサポートヨーク10側への移動を付勢部材12と流体封入部材16により抑制するので、ラック7aの歯面とピニオン3aの歯面の相対的な離間を抑制して、ラック7aの歯面とピニオン3aの歯面が衝突することによる歯打ち音を低減できる。また、ラック軸7に衝撃が加わった際に流体封入部材16の弾性力により、ラック軸7の移動を抑制するので、通常状態において、ラック7aとピニオン3aとの間に発生する摩擦力が大きくなることがなく、ラック軸7の動きが滑らかになり、良好な操舵が行なえる。
【符号の説明】
【0025】
1 ステアリング装置、2 ラック軸支持装置、3 ピニオン軸、3a ピニオン、7 ラック軸、7a ラック、8 保持孔、10 サポートヨーク、15 プレート、16 流体封入部材、16a 流体、16b 凹部、16c 周辺部 20 ヨークプラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに形成された保持孔内に保持孔の深さ方向に進退可能に保持され、ピニオンと噛合するラック軸を軸方向に摺動可能に支持するラック軸支持部材と、前記ラック軸支持部材をラック軸側へ付勢する付勢部材と、前記付勢部材の前記ラック軸とは反対側に当接して設けられたプレート部材と、前記保持孔の入口の内周に形成されたねじに螺合するプラグと、前記プレート部材と前記プラグとの間に流体を封入した流体封入部材を設けたことを特徴とするラック軸支持装置。
【請求項2】
請求項1において、前記流体封入部材の前記プレート部材との当接部に、凹部を形成したことを特徴とする記載のラック軸支持装置。
【請求項3】
請求項2において、前記ラック軸支持部材の前記ラック軸側とは反対方向の後退量は、前記ラック軸支持部材と前記プレート部材との隙間、前記流体封入部材に形成した前記凹部の深さとにより設定することを特徴とするラック軸支持装置。
【請求項4】
請求項2において、前記凹部に弾性部材を設けたことを特徴とするラック軸支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−71816(P2012−71816A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75165(P2011−75165)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】