説明

ラテライト鉱石の処理方法

【課題】
大気圧下塩化浴にて、ラテライト鉱中Ni,Coを浸出し、高品位の金属ニッケル及び金属コバルトを高品位で回収する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
ラテライト鉱石を大気圧下塩酸浴にて浸出し、高品位の金属ニッケル及び金属コバルトを回収する方法であり、前記方法の前処理において、
(1)ラテライト鉱石を、大気圧下、HClによりNi及びCoを含む金属を浸出した後、pHを2.0-3.5に増大させる工程、
(2)前記スラリーを固液分離し、Feを含んだ浸出残渣とNi,Coを含む浸出後液に分離する工程、
から成ることを特徴とするラテライト鉱石の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラテライト鉱石から、湿式プロセスにより、金属ニッケル及び金属コバルトを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含ニッケル酸化物鉱石、例えばラテライト鉱石、に含まれるニッケル及びコバルトの確認埋蔵量は、硫化物鉱石における対応した埋蔵量より遥かに多い。
しかしながら、酸化物鉱石から生産されるニッケル地金量は、硫化物から生産されるニッケル地金量よりも少ない。この理由は、酸化物鉱石中ニッケルおよびコバルトを物理的に濃縮するのが困難なため、Ni,Coを処理するのが難しいためであるが、酸化物鉱石の埋蔵量が多いことを考慮すると、酸化物鉱石からニッケル及びコバルトを回収することは非常に有意である。
【0003】
ラテライト鉱石から湿式製錬方法によりニッケル及びコバルトを回収する一つの方法として、硫酸を用いた高温加圧酸浸出法(High
Pressure Acid Leaching、以下HPAL法)が案出されている。
しかしながら、HPAL法は高いニッケル及びコバルト抽出量を達成する一方、高温(200℃-300℃)加圧(525-785psig)での濃硫酸使用に耐える、高価かつ精錬された設備を必要とする。
【0004】
高温高圧処理を避けるために、大気圧下でラテライト鉱石を浸出し、処理する方法も案出されている。
【0005】
例えば、特表2009-510258(特許文献1)では、次の処理フローが案出されている。大気圧下60℃以上において、ラテライト鉱石から濃硫酸によりニッケル及びコバルトを浸出し、中和による脱Fe後、ニッケル及びコバルトを回収する。
このプロセスでは、精巧なオートクレーブに付随した高い資本コストを回避できるが、硫酸浴にてラテライト鉱石を処理しているため、特別な処置なしでは、中和によるFeの除去の際Feスルフェート、例えばジャロサイトが生成する。ジャロサイトの生成は、中和後スラリーの固液分離を困難にするばかりでなく、ジャロサイト中にはFeスルフェートが含まれるため、浸出のための酸の必要量が増加してしまうという問題がある。
【0006】
そこで、Feスルフェートの生成を防ぐため、塩酸浴にて処理するフローが案出されている。例えば、特開平6-279881(特許文献2)では、珪酸苦土ニッケル鉱石から、大気圧下50℃以上において塩酸によりニッケルを浸出し、浸出後液を中和脱Feし、更に中和剤を添加することでニッケルを水酸化物として沈殿させる。こうして得たニッケル水酸化物は乾燥、ばい焼し、酸化ニッケルとして回収される。
このプロセスでは、塩酸浴で処理しているため、Fe沈殿物はFeスルフェートでは無く水酸化物として沈殿され、酸の消費を抑えることができる。また、鉱石に多量に含まれているFe分はろ過洗浄に問題があり、特別な処置無しでは、Feの全量を沈殿回収することは困難であるが、特許文献2では中和剤の添加速度と攪拌速度を厳密に制御することにより、ろ過洗浄性に優れる沈殿物を得ている。
しかしながら、浸出後液への中和剤の添加速度と攪拌速度の厳密な制御は、操業上負担が大きいという問題や浸出後液を得るための浸出後スラリーのろ過の負担が大きいという問題ある。また、このプロセスでは、鉱石中に含まれる高価なコバルトを回収できないという問題がある。更には、回収した酸化ニッケルから高品位の金属ニッケルを製造するには更なる処理を必要とし、コストがかかるという問題がある。
【特許文献1】特表2009-510258:
【特許文献2】特開平6-279881
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点を解決するもので、大気圧下塩酸浴にて、ラテライト鉱中Ni,Coを浸出し、金属ニッケル及び金属コバルトを高品位で回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)ラテライト鉱石を大気圧下塩酸浴にて浸出し、高品位の金属ニッケル及び金属コバルトを回収する方法であり、前記方法の前処理において、
イ)ラテライト鉱石を、大気圧下、塩酸によりNi及びCoを含む金属を浸出した後、pHを2.0-3.5に調整する工程、
ロ)前記スラリーを固液分離し、Feを含んだ浸出残渣とNi,Coを含む浸出後液に分離する工程、
から成るラテライト鉱石の処理方法。
【0009】
(2)上記(1)の前処理工程に加えて、その後の工程を
ハ)前記浸出後液から、Ca,Mn,Znの内少なくとも一つ以上を酸性リン酸エステ
ル系抽出剤を用いた溶媒抽出により除去し、更に、カルボン酸系抽出剤を用
いた溶媒抽出により、Ni、Coを共抽出し、Mgを含んだNi、Co共抽出後液を残す工程、
ニ)Ni、Co共抽出後油を逆抽出し、Ni、Coを含んだNi,Co逆抽出後液を得る工
程、
ホ)Ni、Co逆抽出後液中のCoを、酸性リン酸エステル系抽出剤で溶媒抽出後、
Co抽出後液から金属Niを回収する工程、
へ)前記抽出したCoは硫酸溶液中に硫酸コバルトとして回収し、この硫酸コバ
ルトより金属コバルトを回収する工程を含んだラテライト鉱石の処理方法。
【0010】
(3)上記(2)に記載のCa,Mn,Znの内少なくとも一つ以上の溶媒抽出を、抽出後液pH=2.0-3.0の範囲で行うことを特徴とするラテライト鉱石の処理方法。
【0011】
(4)上記(2)記載のNi、Coの共抽出を抽出後液pH=5.5-7.5の範囲で行うラテライト鉱石の処理方法。
【0012】
(5)上記(2)のNi,Co共抽出後液を乾燥後、500℃から600℃で焙焼することにより塩酸、及びMgO又はMg(OH)Clを回収し、それぞれを浸出工程の酸、中和剤として使用するラテライト鉱石の処理方法。
【0013】
(6)上記(2)記載の前記Ni、Co逆抽出後液から、イオン交換樹脂法によるCuの除去工程を更に含んだラテライト鉱石の処理方法。
【0014】
(7)上記(2)記載の前記Ni,Co逆抽出後液中のCoを酸性リン酸エステル系抽出剤で溶媒抽出後、スクラビングによるNi除去工程を更に含んだラテライト鉱石の処理方法。
(8)上記(7)に記載のNiのスクラビングを、スクラビング前液pHが1.5-2.0の範囲で行うラテライト鉱石の処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の効果を有する。
(1)原料中Ni,Coを大気圧下にて塩酸浸出するため、浸出工程にオートクレープのような高価かつ精錬された設備を必要としない。
(2)また、塩酸浴で処理しているため、浸出工程におけるFe沈殿物はFeスルフェートでは無く水酸化物として沈殿され、酸の消費を抑えることができる。
(3)更に、Feの除去を行う前にろ過を行っていないので、ろ過性の悪い残渣のろ過の手間を省くことが出来、かつスラリーの状態で中和脱Feを行うことで、容易にろ過洗浄性の良いFe沈殿物を得ることが出来る。
(4)更に、Ni,Co回収する前に複雑な工程を経ず不純物を除去しているため、比較的コストをかけず高品位の金属ニッケル及び金属コバルトを製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
以下,本発明の具体例を、図1を参照して示す。このプロセスは、不純物除去工程をCa,Mn-Sxと、Ni,Co共抽出工程をNi,Co-Exと、Ni,Co逆抽出工程をNi,Co-Stと、Co抽出工程をCo-Exと、Niスクラビング工程をNi-Scと、Co電解工程をCo-Ewと、Ni抽出工程をNi-Exと、Ni電解工程をNi-Ewと表記する。
【0017】
浸出工程1
ラテライト鉱に水等を加えリパルプすることで得た水性パルプに塩酸を加え、大気圧下50℃以上の温度でNi及びCoを浸出する。浸出時のpHは2.0以下が好ましく、より好ましくは、pH=0.5以下である。また、浸出反応をより促進させるためには、50℃より温度を上げて反応を行う方が良い。浸出工程で得たスラリーは固液分離を行わず浸出工程2へ送られる。
【0018】
浸出工程2
浸出工程1で得た浸出後スラリーを50℃以上に保持し、中和剤を、例えば水酸化マグネシウム又は酸化マグネシウムを、加え、Feを含む不純物を沈殿させる。中和時のpHは1.0-4.5が好ましい。pH=3.5以上であると、Ni及びCoが沈殿しロスしてしまうため、より好ましいpHは2.5-3.0である。
浸出2後スラリーは固液分離し、浸出後液は不純物除去工程へ送られる。
【0019】
不純物除去工程(Ca,Mn-Sx)
浸出後液は溶媒抽出法により、Ca,Mnを含む不純物が除去され、不純物抽出後液はNi、Co共抽出工程へ送られる。
【0020】
Ni、Co共抽出工程、Ni、Co逆抽出工程、Cu除去工程(Ni,Co-Ex、Ni,Co-St)
不純物抽出後液中には、主としてNi、Co、Mgが含まれ、Ni、Coは溶媒抽出法により抽出される。つまり、Ni、Coは溶媒に抽出され、Mgは抽出後液に残される。
【0021】
抽出後油は、酸により逆抽出され、Ni,Coを含む逆抽後液が得られる。場合によっては、逆抽出後液中にCuが少量含まれる。その場合、イオン交換樹脂法や溶媒抽出法により逆抽出後液中のCuは除去される。逆抽出後液はCo抽出工程に送られる。
【0022】
MgO、HCl回収工程
Ni、Co共抽出後液中には、塩化マグネシウムが溶解している。塩化マグネシウム水溶液を乾燥・焙焼することにより、塩酸及び酸化マグネシウムを回収する。
大気圧、空気雰囲気下において、5gのMgCl2・6H2Oを500〜600℃にて2時間加熱した。発生したHClは、水の入った吸収塔で回収する。
また、反応後の固体を粉末X線回折した。
この結果から、MgCl2・6H2OはMgOに変換でき、かつHClを生成することが出来ることを把握した。
また、550℃で加熱した場合、HClはほぼ全て回収できる。反応温度が高温であれば反応時間が短縮できるが、熱コストの増大や耐熱性、耐腐食性を持つ設備の必要性を招くので、好ましい反応温度は500〜600℃である。
焙焼炉には、たとえば流動層型やロータリキルンのような回転炉が使用される。回収された酸化マグネシウムは中和工程の中和剤の使用できる。また、回収された塩酸も、浸出工程の酸として、利用できる。
【0023】
Co抽出工程(Co-Ex,)、Niスクラビング工程(Ni-Sc)
Ni、Co共抽出工程から得られた逆抽後液中にはNi、Coが含まれ、Coは溶媒抽出法により抽出される。一方NiはCo抽出後液に残され、Ni抽出工程へ送られる。なお、場合によっては、Co抽出後油中にはCoと共にNiが少量含まれる。その場合、Co抽出後油中のNi除去のために、スクラビングを行うのが好ましい。
【0024】
Co回収工程(Co-Ew)
抽出したCoは希硫酸で逆抽出することで硫酸コバルト溶液を得ることができる。この硫酸コバルト溶液から電気分解することで金属コバルトを回収できる。硫酸浴からのコバルトの電解採取は良く知られた方法であり、品位の高いコバルトを得ることができる。
【0025】
Ni抽出工程(Ni-Ex)
Co共抽出工程から得られた抽出後液中にはNiが含まれ、Niは溶媒抽出法により抽出される。
【0026】
Ni回収工程(Ni-Ew)
抽出したNiは希硫酸で逆抽出することで硫酸ニッケル溶液を得ることができる。この硫酸ニッケル溶液から電気分解することで金属ニッケルを回収できる。硫酸浴からのニッケルの電解採取は良く知られた方法であり、品位の高いニッケルを得ることができる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
原料として、Ni 2.5%、Co 0.07%、Fe 19.0%、Mg 12.1%、Si 15.4%という組成を持つNi鉱を粉砕し、粒度P80 値で21μmとしたものを用いた。
前記精鉱101.3g-dryに純水を加えリパルプし、加温した。その後、35%塩酸を所定量添加し、1時間浸出を実施した。なお、パルプ濃度を一定にするため、リパルプ時の純水量と35%塩酸量は、合計で450mlとなるよう添加した。
所定時間反応後、ろ過し、浸出残渣と浸出後液に固液分離した。また、浸出残渣は純水により、洗浄を行った。
図2に、この実施例の結果を示す。
【0028】
この例で示すように、塩酸添加量の増加に伴いNi浸出率及びCo浸出率は増加し、塩酸添加量2.47(L/Ni鉱1kg)では、Ni浸出率99.5%、Co浸出率99.1%であった。なお、好ましい塩酸添加量は1.5(L/Ni鉱1kg)以上であり、この時Niは90%以上浸出される。
【0029】
(実施例2)
実施例1で得た浸出後スラリーにMgOHスラリーを加え、80℃、所定pHにて中和試験を実施した。なお、浸出時の35%塩酸添加量は、1.52(L/Ni鉱1kg)または2.47(L/Ni鉱1kg)である。30分反応後、ろ過し、浸出残渣と浸出後液に固液分離した。また、浸出残渣は純水により、洗浄を行った。
図3及び図4に、この実施例の結果を示す。
【0030】
この例で示すように、中和pH=2.5以上でFeは十分に除去される。また、Cuも中和時pHの増加に伴い、除去率は増加する。一方、Ni、Coは、中和pH=2.49では殆ど沈殿しないが、pH=3.50以上では沈殿量が増加し、pH=4.56ではNiロス率は51.0%に達する。Cuの除去率及びNi、Coロス率の観点から、中和時pHは2.5〜3.0が好ましい。
【0031】
(実施例3)
実施例1で得た浸出後スラリーまたは浸出後液にMgOHスラリーを加え、80℃、pH=3にて中和試験を実施した。なお、浸出時の35%塩酸添加量は、1.52(L/Ni鉱1kg)である。一時間反応後、ろ過(保留粒子径5μmのろ紙を使用)し、浸出残渣と浸出後液に固液分離し、浸出残渣は純水にて洗浄した。
【0032】
浸出後スラリーを中和することで得た浸出残渣を洗浄した場合、清澄な洗浄後液が得られた。一方、浸出後液を中和することで得た浸出残渣を洗浄した場合、洗浄後液には微粒子が含まれた。
浸出後スラリーを中和することで、攪拌速度等の厳密な制御を行わずとも、ろ過洗浄性に優れるFe残渣を得ることが出来る。
【0033】
(実施例4)
溶媒抽出法による不純物除去を以下の方法で実施した。
抽出前液は、Ni濃度4.2g/L、Co濃度0.1g/L、Cu濃度0.009g/L、Mg濃度33.5g/L、Mn濃度0.312g/L、Ca濃度0.177g/Lである中和後液を用いた。抽出剤は、DP-8R(大八化学社製)をIsoperMで希釈し、体積比5%としたものを用いた。この抽出前液と抽出剤を体積比1:1で混合後、静置し有機相と水相に分離し、水相中の金属濃度を測定した。また、有機相は体積比1倍の1:1HClで逆抽出し、逆抽出後液中金属濃度から有機相中金属濃度を測定した。図5にこの結果を示す。
【0034】
この例で示すように、抽出pH=2.0〜3.0において、Caは75%程度、Mnも30-50%除去される。しかしながら、pH=3.5においてCo及びMgも少量抽出される。よって、抽出後液pHは1.5〜3.5が好ましく、この時Ni,Co,Mgはほとんど抽出されない。
【0035】
(実施例5)
抽出2段をもつ向流溶媒抽出装置を用いて、以下の手順で不純物抽出試験を実施した。
Ca濃度として0.39g/L、Mn濃度として0.37g/L、Ni濃度として3.95g/L、Co濃度として1.01g/L、Mg濃度として39.9g/L、の液を不純物抽出前液として用いた。また、抽出剤には、DP-8RをIsoperMで希釈し体積比5%としたものを用いた。
抽出前油は抽出一段目に、抽出前液は抽出二段目に投入し、抽出一段の抽出後液pHが2.2、抽出前液と抽出剤の体積比が0.5になるようにした。また、抽出後有機相は体積比1倍の1:1HClで逆抽出し、逆抽出後液中金属濃度から有機相中金属濃度を測定した。表1にこの結果を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
この例で示すように、溶媒抽出によりCa濃度は0.39g/Lから0.01g/L、Mn濃度は0.37g/Lから0.11g/Lまで低下し、十分に除去される。
【0038】
(実施例6)
溶媒抽出法によるNi,Co共抽出試験を以下の方法で実施した。
抽出前液は、Ni濃度3.3g/L、Co濃度1.0g/L、Mg濃度28.7g/L、である液を用いた。抽出剤は、Versatic acid 10 (シェル化学社製、以下VA-10と表記)をIsoperMで希釈し、体積比20%としたものを用いた。この抽出前液と抽出剤を体積比3:1で混合後、静置し有機相と水相に分離し、水相中の金属濃度を測定した。また、有機相は体積比1倍の1:1HClで逆抽出し、逆抽出後液中金属濃度から有機相中金属濃度を測定した。図6にこの結果を示す。
【0039】
この例で示すように、抽出後液pH=6.7において、Niは90%以上、Coは80%程度抽出される。一方MgはpH=5.5-7.0において抽出されない。pHが低いとNi,Coの抽出率が低下することから、抽出後液pHは5.5〜7.5が好ましい。
【0040】
(実施例7)
抽出3段をもつ向流溶媒抽出装置を用いて、以下の手順でNi、Co共抽出試験を実施した。
Ni濃度として3.35g/L、Co濃度として0.97g/L、Mg濃度として27.9g/Lの液をCo共抽出前液として用いた。また、抽出剤には、VA-10をIsoperMで希釈し体積比20%としたものを用いた。
抽出前油は抽出一段目に、抽出前液は抽出三段目に投入し、抽出一段の抽出後液pHが6.9、抽出前液と抽出剤の体積比が2.0になるようにした。また、抽出後有機相は体積比1倍の1:1HClで逆抽出し、逆抽出後液中金属濃度から有機相中金属濃度を測定した。表2にこの結果を示す。
【0041】
【表2】

【0042】
抽出後液中Ni,Co濃度は共に<0.001g/Lであり、十分にNi、Coは抽出された。
【0043】
(実施例8)
以下の手順で、MgO、HCl回収試験を実施した。
Air250ml/min流通下において、熱重量分析計(TG-DTA)中で、MgCl2・6H2Oのサンプルを室温から1000℃まで10℃/minで昇温した。この実施例の結果を図7に示す。
【0044】
サンプルが250℃にまで加熱された時の重量減少合は53%であった。MgCl2にまで脱水された場合の重量減少割合は53%であることから、250℃までに脱水反応が起こると考えられる。
その後、温度が上がるにつれ、重量は減少し、450℃まで加熱された時の重量減少は61%であった。Mg(OH)Clが生成した場合の重量減少割合は62%であることから、250℃以上でMg(OH)Clは生成すると予想される。
その後、450℃以上で再び重量減少が観察され、700℃で重量減少割合は82%に達した。MgOに変換された場合の重量減少割合は80%であることから、450℃以上で加熱することで、MgCl2・6H2OはMgOに変換される。なお、700℃以上で重量減少は観察されなかった。
【0045】
(実施例9)
以下の手順で、MgO、HCl回収試験を実施した。
大気圧、空気雰囲気下において、5gのMgCl2・6H2Oを500〜600℃にて2時間加熱した。発生したHClは純水の入った洗浄瓶で回収し、中和滴定した。また、反応後の固体を粉末X線回折した。この実施例の結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
この例で示すように、500℃で加熱することでMgCl2・6H2OはMgOに変換でき、かつHClを生成することが出来る。
また、550℃以上で加熱した場合、HClはほぼ全て回収できる。反応温度が高温であれば反応時間が短縮できるが、熱コストの増大や耐熱性、耐腐食性を持つ設備の必要性を招くので、より好ましい反応温度は550℃から600℃程度である。
【0048】
(実施例10)
以下の手順で、Mg(OH)Cl回収試験を実施した。
大気圧、加湿空気雰囲気下において、5gのMgCl2・6H2Oを400℃にて2時間加熱した。反応後の固体を粉末X線回折した。反応後の固体は主にMg(OH)Clであり、TG/DTAの結果を考慮すると、250℃〜450℃でMg(OH)Clを生成することができる。
【0049】
(実施例11)
抽出4段をもつ向流溶媒抽出装置を用いてCo抽出試験を以下の手順で行なった。
抽出前液はNi濃度として7.0g/L、Co濃度として2.0g/Lである液を用いた。また、抽出剤にPC-88A(大八化学社製)をIsoperMで希釈し、体積比20%としたものを用いた。
なお、抽出前油は抽出一段目に、抽出前液は抽出四段目に投入し、抽出一段の抽出後液pHが5.8、抽出前液と抽出剤の体積比が5.0になるように実施した。また、抽出後有機相は体積比1倍の1:1HClで逆抽出し、逆抽出後液中金属濃度から有機相中金属濃度を測定した。この結果を図8に示す。
【0050】
図8で示すように、抽出後液中Co濃度は0.001g/Lであり、Coは十分に抽出される。一方、抽出後油中Ni濃度は0.148g/Lであり、Niも少量であるが抽出される。
Co抽出後液はNi抽出工程へ送られる。Co抽出後液はNiが濃縮されており、かつCoを殆ど含んでいない。よって、溶媒抽出法によりCo抽出後液からNiを抽出、逆抽出した場合、Coを殆ど含まない硫酸ニッケル溶液が得られる。この硫酸ニッケル溶液からニッケルを電解採取することで高品位のニッケルが得られる。
【0051】
(実施例12)
次の手順で、Co抽出後油中Niの除去のためのスクラビング試験を実施した。
スクラビング前液にはCo濃度として27g/Lである液を用いた。スクラビング前油には、IsoperMで体積比20%に希釈したCo濃度として10.0g/L、Ni濃度として0.32g/LであるPC-88Aを用いた。
このスクラビング前液とスクラビング前油を体積比0.13で混合、静置後、有機相と水相に分離し、水相中の金属濃度を測定した。また、有機相は体積比1倍の1:1HClで逆抽出し、逆抽出後液中金属濃度から有機相中金属濃度を測定した。
図9に、この実施例の結果を示す。
【0052】
図9から、スクラビング前液pHが低いほどNiはスクラビングされるが、Coもスクラビングされる。Coのスクラビング率の観点から、前液pHは1.5〜2.0であるのが好ましく、この時、Coは殆どスクラビングされず、かつNiスクラビング後油中Co/Ni濃度比を1000倍程度にまでNiを除去できる。
また、スクラビング段数を2段にすれば、Niスクラビング後油中Co/Ni濃度比を更に上げることが出来る。
Niスクラビング後油は希硫酸で逆抽出することで硫酸コバルト溶液を得ることができる。スクラビング後油にはCoに対しNiは殆ど含んでいないため、Niを殆ど含んでいない硫酸コバルト溶液を得ることが可能である。この硫酸コバルト溶液から電気分解することで高品位の金属コバルトを回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のラテライト鉱処理方法の一実施態様を示す工程図である。
【図2】浸出1工程における35%塩酸添加量とNi,Co浸出率の関係を表す図である。
【図3】浸出2工程における中和時pHと中和後液中不純物濃度の関係を表す図である。
【図4】浸出2工程における中和時pHとNi,Coロス率の関係を表す図である。
【図5】不純物工程における金属イオンの抽出率と抽出後液pHの関係を示す図である。
【図6】Ni、Co共抽出工程における、金属イオンの抽出率と抽出後液pHの関係を示す図である。
【図7】MgO、HCl回収工程における昇温温度と試料重量減少割合の関係を表す図である。
【図8】Co抽出工程において、抽出段数4段にて抽出を行った場合の抽出後液中Ni,Co濃度及び抽出後油中Ni,Co濃度を示した図である。
【図9】Niスクラビング工程におけるスクラビング後油中金属濃度とスクラビング前液pHの関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラテライト鉱石を大気圧下塩酸浴にて浸出し、高品位の金属ニッケル及び金属コバルトを回収する方法であり、前記方法の前処理において、
(1)
ラテライト鉱石を、大気圧下、塩酸によりNi及びCoを含む金属を浸出した後、pHを2.0-3.5に調整する工程、
(2)
前記スラリーを固液分離し、Feを含んだ浸出残渣とNi,Coを含む浸出後液に分離する工程、
から成ることを特徴とするラテライト鉱石の処理方法。
【請求項2】
請求項1の前処理工程に加えて、その後の工程を
(3)
前記浸出後液から、Ca,Mn,Znの内少なくとも一つ以上を酸性リン酸エステル系抽出剤を用いた溶媒抽出により除去し、更に、カルボン酸系抽出剤を用いた溶媒抽出により、Ni、Coを共抽出し、Mgを含んだNi、Co共抽出後液を残す工程、
(4)
Ni、Co共抽出後油を逆抽出し、Ni、Coを含んだNi、Co逆抽出後液を得る工程、
(5)
Ni、Co逆抽出後液中のCoを、酸性リン酸エステル系抽出剤で溶媒抽出後、Co抽出後液から金属Niを回収する工程、
(6)
前記抽出したCoは硫酸溶液中に硫酸コバルトとして回収し、この硫酸コバルトより金属コバルトを回収する工程を含んだことを特徴とするラテライト鉱石の処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載のCa,Mn,Znの内少なくとも一つ以上の溶媒抽出を、抽出後液pH=2.0-3.0の範囲で行うことを特徴とするラテライト鉱石の処理方法。
【請求項4】
請求項2記載のNi、Coの共抽出を抽出後液pH=5.5-7.5の範囲で行うことを特徴とするラテライト鉱石の処理方法。
【請求項5】
請求項2記載のNi,Co共抽出後液を乾燥後、500℃から600℃で焙焼することにより塩酸、及びMgO又はMg(OH)Clを回収し、それぞれを浸出工程の酸、中和剤として使用することを特徴とするラテライト鉱石の処理方法。
【請求項6】
請求項2記載の前記Ni、Co逆抽出後液から、イオン交換樹脂法によるCuの除去工程を更に含んだことを特徴とするラテライト鉱石の処理方法。
【請求項7】
請求項2記載の前記Ni,Co逆抽出後液中のCoを酸性リン酸エステル系抽出剤で溶媒抽出後、スクラビングによるNi除去工程を更に含んだことを特徴とするラテライト鉱石の処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載のNiのスクラビングを、スクラビング前液pHが1.5-2.0の範囲で行うことを特徴とする請求項6に記載のラテライト鉱石の処理方法。







































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−195920(P2011−195920A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65752(P2010−65752)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】