説明

ラベル化蛋白質合成用ポリヌクレオチド

本発明によれば、ラベル化物質よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で遺伝子テンプレートを翻訳してラベル化蛋白質を製造する方法において、遺伝子テンプレートの目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に付加することによりラベル化効率を増強する機能を有することを特徴とする、ラベル化蛋白質合成に用いるためのポリヌクレオチド、及びそれを用いたラベル化蛋白質の製造方法などが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ラベル化物質よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で遺伝子テンプレートを翻訳してラベル化蛋白質を製造する方法において、目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に付加することにより該ラベル化効率を増強させる活性を有するラベル化蛋白質合成用ポリヌクレオチドに関するものである。さらに本発明は、上記ポリヌクレオチドの選択方法、上記ポリヌクレオチドを用いたラベル化蛋白質製造方法、上記ポリヌクレオチドを含むラベル化蛋白質合成のためのベクター等、目的蛋白質の部分ペプチドからなるラベル化蛋白質の製造方法、該方法により得られる蛋白質群を用いた蛋白質の機能解析方法、並びに上記ポリヌクレオチドあるいはラベル化化合物との結合体に対する抗体等に関するものである。
【背景技術】
蛋白質は生体の構造と機能の最も基本的かつ不可欠な担い手であり、それなくして生命はありえない。蛋白質は遺伝子(DNA)からmRNAへの転写反応、そしてmRNAの翻訳反応の過程を経て合成され、通常20種類のL−アミノ酸から構成されている。これらのアミノ酸は酸アミド結合を介し、蛋白質ごとに固有の配列順序(一次構造)で一列につながったポリペプチドと呼ばれる高分子として存在する。このポリペプチドは水素結合により局所的に二次構造を形成するとともに、ポリペプチドが折りたたまれて個々の蛋白質に固有の立体構造を形成する。この様にして合成された蛋白質は、生体内で様々な生体分子、例えば遺伝子(DNA)や他の蛋白質に対して親和性を示したり、リン酸化反応などの酵素活性を示したりする。
蛋白質はこれらの相互作用を通じて細胞の骨格構築や組織形成、さらにはシグナル伝達など生命活動の一翼に深く関与している。特にシグナル伝達に関与する蛋白質は、その分子内に機能的に独立性の高い部位(ドメイン)から構成されていることが知られている。これらのドメインは、蛋白質の分子認識などの相互作用に関与しており、分子内や分子間におけるドメイン同士の会合を通して、蛋白質自身の活性を制御している。近年の膨大な遺伝子配列解析の結果、遺伝子には生命活動における機能不明な数多くの蛋白質のアミノ酸配列がコードされていることが判ってきた。このため、蛋白質を対象とした効率的かつ有効な機能解析法が必要とされている。
蛋白質の機能を明らかにする試みのなかで注目されている方法として、蛋白質相互作用(例えば、蛋白質−蛋白質間、蛋白質−DNA間、蛋白質−医薬化合物間に関する結合反応や修飾反応)に関する解析法が挙げられる。例えば、機能や活性が判明している物質を固定しておき、これと相互作用する蛋白質を見い出した場合、見い出した蛋白質は結合した物質の機能や活性を調節する作用を持っていることが期待できる。一般的にこの蛋白質相互作用の解析を行うためには、蛋白質にその挙動を検出するための標識をつけることが必要となる。このため通常は、蛋白質のアミノ酸側鎖を蛍光物質で化学的に修飾したり、蛋白質をGFP(green fluorescent protein)などの蛍光蛋白質と結合する方法(以下、これらを「従来法」と称することがある)がとられていた。
目的蛋白質のC末端に直接ラベル化化合物を結合させることによる蛋白質ラベル化法は、無細胞蛋白質合成系を用いて蛋白質を合成する際に、蛍光物質などが付加したピューロマイシンなどの核酸誘導体を適当濃度添加することにより、合成された蛋白質のC末端にこの核酸誘導体が特異的に結合する原理に基づいた蛋白質ラベル化法(FEBS Lett.,462,43−46(1999)、特開平11−322781号公報、特開2000−139468号公報、米国特許6228994号など、本明細書中ではこれを「蛋白質C末端ラベル化法」と称することがある)等が用いられる。
上記の方法によれば、目的蛋白質のC末端のみを特異的にラベル化することが可能である。従って、従来法と比較して蛋白質の活性が保持されやすく、しかも無細胞蛋白質合成時に目的蛋白質をラベル化できるため、簡便かつ多種の蛋白質合成およびそのラベル化が可能となる。さらにこれらのラベル化蛋白質を利用することにより、in vitro(試験管内)系において多種類の蛋白質を対象とした相互作用の解析が可能となる(WO01/16600号公報)。このin vitroにおける蛋白質相互作用の解析は、反応を厳密にコントロールすることが可能なため、従来の酵母などの細胞を用いる場合と比較し、擬陽性が少なく多種類の蛋白質を効率良く解析可能であり、新しい蛋白質相互作用ネットワークの解明に有効な方法と考えられる。
しかしながら、上記蛋白質C末端ンラベル化法では蛋白質の種類によってラベル化効率が大きく異なり、蛋白質の種類によっては全くラベル化されない蛋白質も存在するという問題があった。従って、上記蛋白質ラベル化方法によって製造された蛋白質は、C末端がラベル化されているものとされていないものが混在することとなり、これらの蛋白質を用いて効率よく相互作用解析を行うことは困難であった。
一方、蛋白質は一般的に自分自身の分子内における相互作用、すなわち活性部位(ドメイン)を自分自身の制御部位(ドメイン)で覆って抑制している場合が非常に多く、autoregulation(自己制御)と呼ばれている状態にあることが知られている(J.Biol.Chem.,265,1823−1826(1990))。例えば、細胞内シグナル伝達に関与するキナーゼやそのアダプター蛋白質、受容体、転写因子などの蛋白質は、他の蛋白質や生体成分の作用を受け、その制御モジュールにリン酸化などの修飾を受けることにより初めて活性モジュールが蛋白質表面に露出して活性化し、結合活性や酵素活性を獲得する。従って、目的蛋白質の全長のラベル化蛋白質を用いて上記相互作用を解析する場合、目的蛋白質自身に制御ドメインが含まれ、相互作用が不活化されて検出ができない可能性があった。
【発明の開示】
本発明の第1の目的は、ラベル化物質よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で遺伝子テンプレートを翻訳してラベル化蛋白質を製造する方法において、目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に付加することにより該ラベル化効率を増強させる活性を有するラベル化蛋白質合成用ポリヌクレオチドを提供することである。
本発明の第2の目的は、上記ポリヌクレオチドの選択方法を提供することである。
本発明の第3の目的は、上記ポリヌクレオチドを用いたラベル化蛋白質製造方法を提供することである。
また本発明の第4の目的は、上記ポリヌクレオチドを含むベクター等、およびそれらを含む試薬キットを提供することである。
また本発明の第5の目的は、目的蛋白質の部分ペプチドからなるラベル化蛋白質の製造方法、並びに該方法により得られる蛋白質群を用いた蛋白質の機能解析方法を提供することである。
さらに、本発明の第6の目的は、上記ポリヌクレオチドあるいはラベル化化合物との結合体を抗原として得られる抗体を提供することである。
本発明者らは上記蛋白質C末端ラベル化法を用い、様々な蛋白質に対してラベル化検討を行った。具体的には、蛍光物質としてCy3が結合したピューロマイシン誘導体を使用し、コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞蛋白質合成系に様々な蛋白質をコードするmRNAを加え、合成された蛋白質を解析した。これらの検討の結果、(1)蛋白質の種類によりそのラベル化効率が著しく異なること、(2)ラベル化蛋白質の合成量が多い目的蛋白質は、その全長が適当な大きさで断片化した蛋白質のC末端にラベル化化合物が結合したものを含んでいることを見出し、ラベル化蛋白質の合成量が多い目的蛋白質のC末端のアミノ酸配列、あるいはそれをコードする塩基配列が、目的蛋白質のラベル化蛋白質の合成量に関連することを見出した。
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) ラベル化物質よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で遺伝子テンプレートを翻訳してラベル化蛋白質を製造する方法において、遺伝子テンプレートの目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に付加することによりラベル化効率を増強する機能を有することを特徴とする、ラベル化蛋白質合成に用いるためのポリヌクレオチド。
(2) ラベル化効率を増強する機能を有するポリヌクレオチドを選択するための方法であって、以下の工程からなることを特徴とする方法;
(i)目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に候補塩基配列を付加した遺伝子テンプレートを作製する工程。
(ii)ラベル化物質よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で、該遺伝子テンプレートを翻訳する工程。
(iii)得られるラベル化目的蛋白質量を測定する工程。
(iv)該蛋白質量を指標として、該候補配列を選択する工程。
(3) ラベル化効率を増強する機能を有するポリヌクレオチドを選択するための方法であって、以下の工程からなることを特徴とする方法;
(i)目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に候補塩基配列を付加した遺伝子テンプレートを作製する工程。
(ii)ラベル化物質よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で、該遺伝子テンプレートを翻訳する工程。
(iii)リボソームをポージングさせる活性の測定し、該活性を指標として該候補配列を選択する工程。
(4) (2)又は(3)に記載の方法により選択されることを特徴とするラベル化蛋白質合成に用いるためのポリヌクレオチド。
(5) ポリヌクレオチドが、6〜60塩基でグアニンおよびシスチジンが全体の30%以上を占める塩基配列を有することを特徴とする(1)又は(4)に記載のポリヌクレオチド。
(6) ポリヌクレオチドが、GGCまたはGCGGCGを含む塩基配列を有することを特徴とする(5)に記載のポリヌクレオチド。
(7) ポリヌクレオチドが、2〜20残基のシステイン、ヒスチジン、グルタミン、アラニンの何れかからなるポリペプチドをコードする塩基配列を有することを特徴とする(1)あるいは(4)〜(6)の何れかに記載のポリヌクレオチド。
(8) ポリヌクレオチドが、2〜20残基のシステイン、ヒスチジン、グルタミン、アラニン、グリシン、メチオニン、チロシン、アルギニン、プロリン、フェニルアラニンの何れかの組み合わせからなるポリペプチドをコードする塩基配列を有することを特徴とする(1)あるいは(4)〜(6)の何れかに記載のポリヌクレオチド。
(9) ポリヌクレオチドが、配列番号5〜9に記載のアミノ酸配列のうちのC末端から2残基以上のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を有することを特徴とする(1)あるいは(4)〜(8)の何れかに記載のポリヌクレオチド。
(10) ポリヌクレオチドが、配列番号11又は13に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を有することを特徴とする(1)あるいは(4)〜(9)の何れかに記載のポリヌクレオチド。
(11) ラベル化蛋白質を製造するための方法であって、以下の工程からなることを特徴とする方法;
(i)目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に(1)あるいは(4)〜(10)の何れかに記載のポリヌクレオチドを付加した遺伝子テンプレートを用意する工程。
(ii)ラベル化物質よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で、該遺伝子テンプレートを翻訳する工程。
(12) 目的蛋白質をコードする塩基配列が、終止コドンを含まないことを特徴とする(11)に記載の方法。
(13) 目的蛋白質をコードする塩基配列が、終止コドンを含むことを特徴とする(11)に記載の方法。
(14) ラベル化化合物を、翻訳反応が開始された後に添加することを特徴とする、(11)から(13)の何れかに記載の方法。
(15) ラベル化化合物の添加の時期が、リボソームがポージングするに十分な時間の後であることを特徴とする、(14)に記載の方法。
(16) (11)から(15)の何れかに記載の方法により製造されるラベル化蛋白質群。
(17) (16)に記載のラベル化蛋白質群と被検物質とを接触させ、該蛋白質と被検物質との相互作用を解析することを特徴とする蛋白質の機能解析方法。
(18) 少なくとも(1)あるいは(4)〜(10)の何れかに記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする。(11)〜(15)の何れかに記載の方法において用いられる遺伝子テンプレートを作製するためのベクター又はポリメラーゼチェインリアクション用プライマー。
(19) 少なくとも(18)に記載のベクター及びポリメラーゼチェインリアクション用プライマーを含むことを特徴とする、(11)〜(15)の何れかに記載の方法を行うためのキット。
(20) (1)あるいは(4)〜(10)の何れかに記載のポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを含む物質に対する抗体。
(21) (1)あるいは(4)〜(10)の何れかに記載のポリヌクレオチドがコードするポリペプチドとラベル化化合物の結合体に対する抗体。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の蛋白質ラベル化方法の概略図である。
図2は、アクセプター部にリンカーが結合した化合物の例を示した化学式である。
図3は、ラベル化化合物の例を示した化学式である。
図4は、異なる蛋白質を上記蛋白質ラベル化方法によりラベル化して合成した結果を示す電気泳動写真、およびラベル化蛋白質量を示すグラフである。蛋白質の種類によって合成されるラベル化蛋白質量が著しく異なることが判る。
図5は、GSTの3’末端配列をラベル化増強配列として付加した遺伝子テンプレートを用いてラベル化蛋白質合成を行った結果を示す電気泳動写真、およびラベル化蛋白質量を示すグラフである。GSTの3’末端配列を付加することにより、ラベル化蛋白質合成量が増加した。
図6は、ラベル化蛋白質合成量が低かった蛋白質のORFからストップコドンを除いた配列にGSTの3’末端の配列を付加した遺伝子テンプレートを用いてラベル化蛋白質合成を行った結果を示す電気泳動写真である。GSTの3’末端の配列は、ラベル化蛋白質の合成量を増加させる機能を有する。
図7は、ランダム配列から選択されたラベル化増強配列の候補配列を付加した遺伝子テンプレートを用いて蛋白質C末端ラベル化方法を行った結果を示す電気泳動写真、およびラベル化蛋白質量を示すグラフである。アミノ酸配列GRGAAGをコードする塩基配列などが、ラベル化増強活性が高いことが判った。
図8は、選択されたラベル化増強配列に欠失、付加を導入して最適化を計った結果のラベル化蛋白質量を示すグラフである。
図9は、異なるアミノ酸を4つ連結した配列を候補配列として、これを付加した遺伝子テンプレートを用いてラベル化蛋白質を合成し、得られたラベル化蛋白質量を示すグラフである。アラニン4残基をコードする塩基配列が、特に高いラベル化増強効果を持っていた。
図10は、ラベル化増強配列の長さの影響を確認するため、アラニン1〜6残基をコードする配列を付加した遺伝子テンプレートを用いてラベル化蛋白質を合成し、得られたラベル化蛋白質量を示すグラフである。
図11は、RGAAをコードする塩基配列を付加した遺伝子テンプレートを用いてラベル化蛋白質を合成して得られた蛋白質のラベル化効率を示すグラフである。
図12は、異なるラベル化化合物、および異なる濃度のラベル化化合物の存在下でラベル化蛋白質合成を行って得られた蛋白質のラベル化効率を示すグラフである。
図13は、ビオチンを付加したラベル化化合物を用いて、異なるラベル化化合物、および異なる濃度のラベル化化合物の存在下で蛋白質C末端ラベル化方法を行って得られた蛋白質のラベル化効率を示すグラフである。
図14は、異なる無細胞蛋白質合成方法を用いてラベル化蛋白質を合成して得られた蛋白質のラベル化効率を示すグラフである。
図15は、無細胞蛋白質合成系において、ラベル化化合物を異なる層に添加してラベル化蛋白質を合成して得られた蛋白質のラベル化効率を示すグラフである。
図16は、目的蛋白質をコードする遺伝子(ストップコドン含むものと含まないもの)テンプレートを用いて転写・翻訳を行うことにより得られたラベル化蛋白質の電気泳動バンドを解析した結果を示す。
図17は、無細胞蛋白質合成系においてラベル化蛋白質を合成する場合に、ラベル化化合物を添加するタイミングを変えて合成して得られた蛋白質のラベル化効率を示すグラフである。ラベル化化合物を合成反応が始まってから適当時間後に添加すると、目的蛋白質の全長のC末端にラベル化化合物が結合したラベル化蛋白質が合成される割合が多いことが判った。
図18は、異なる無細胞蛋白質合成用細胞抽出液を用いてラベル化蛋白質を合成した場合のラベル化効率を示すグラフである。いずれの細胞抽出液でもラベル化増強配列の効果が確認された。
図19は、ラベル化増強配列のGC含量について、異なるGC含量である候補配列を、目的蛋白質のORFの3‘末端に付加した遺伝子テンプレートを用いてラベル化蛋白質を合成した場合の、GC含量とラベル化蛋白質合成量との関係を示すグラフである。GC含量が30%を超えると、付加しなかったものの1.5倍のラベル化蛋白質が合成されることが判った。
図20は、リボソームポージング機能を有する配列を含む候補配列を、目的蛋白質のORFの3‘末端に付加した遺伝子テンプレートを用いてラベル化蛋白質を合成した場合の、ラベル化効率を示す表である。
図21は、異なるアミノ酸を4つ連結した配列を候補配列として、これを付加した遺伝子テンプレートを用いてラベル化蛋白質を合成し、ラベル化効率を測定した結果および候補配列を示す表である。
図22は、ラベル化増強配列とラベル化化合物の連結体を認識する抗体を解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、ラベル化化合物よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で遺伝子テンプレートを翻訳してラベル化蛋白質を製造する方法において、遺伝子テンプレートの目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に付加することによりラベル化効率を増強する機能を有することを特徴とするラベル化蛋白質合成に用いるためのポリヌクレオチド、目的蛋白質の全長あるいは部分ペプチドからなる蛋白質のC末端にラベル化化合物が結合していることを特徴とする蛋白質群の製造方法、および該方法により得られる蛋白質群を用いた蛋白質の機能解析方法等に関するものである。本発明の概略を図1に示す。
図1において、先ず、(A−1)では、目的タンパク質をコードするcDNAの3’末端側に標識効率増強配列が結合し、(A−2)では、目的タンパク質をコードするcDNAの3’末端側に、終止コドンを有する標識効率増強配列が結合させる。(B)では(A−1)又は(A−2)で作製した遺伝子テンプレート(転写反応およびタンパク質合成反応用)を用いて転写反応を行い、mRNAを合成する。次いで、反応混合物にラベル化化合物を添加せずに、又はラベル化化合物を添加して、タンパク質合成を行う(C)。(C)では、反応層とエネルギー供給層を分離させた状態で反応を開始する(これを重層法とも言う)ことにより、無細胞タンパク合成系にてタンパクシ質合成と標識化反応を行う。(C)の例1では上層にエネルギー供給層があり、下層に比重の重い反応層がある。(C)の例2では上層に反応層があり、下層にエネルギー供給層を含むゲル又はビーズ等がある。(C)の例3では内側に反応層があり、半透膜などの界面をはさんで外側にエネルギー供給層が存在する。(C)のタンパク質合成を行う前にラベル化化合物を添加しなかった場合には、タンパク質合成開始後にラベル化化合物を添加する。即ち、(D)はタンパク質合成開始後に標識剤(ラベル化化合物)を添加することを特徴とする、全長タンパク質の標識方法である。(D)の方法の場合、標識全長タンパク質が生成する(E−1)。タンパク質合成を行う前にラベル化化合物を添加した場合には、標識全長タンパク質と標識断片化タンパク質が生成するか(E−2)、標識断片化タンパク質が生成する(E−3)。(E−1)の標識全長タンパク質は、本発明のペプチド・標識剤を認識する抗体を用いて、標識タンパク質の検出、精製、固定化又は相互解析を行うことができる(F−1)。(E−2)の標識全長タンパク質と標識断片化タンパク質又は(E−3)の標識断片化タンパク質は、標識タンパク質に付加したタグを認識する抗体を用いて、標識タンパク質の検出、精製、固定化又は相互解析を行うことができる(F−2)。
本明細書で使用する用語は特に断らない限り以下の意味を有する。
「ラベル化蛋白質」とは、目的蛋白質あるいはそのC末端に本発明の「ラベル化増強タグ」が連結したもののC末端にラベル化化合物が結合したものをいう。目的蛋白質とは、ラベル化蛋白質の対象となる蛋白質であり、生細胞または無細胞蛋白質翻訳系において合成され得るものであれば如何なるものでもよい。また、これをコードする塩基配列を有するDNAは、天然のDNAから調製したものでもよいし、遺伝子組み換えや、ポリメラーゼチェインリアクション(PCR)等で作製したものでもよく、さらには、翻訳系に適したコドンに置き換えた塩基配列から設計し、合成したもの等でもよい。
「ラベル化増強タグ」とは、ラベル化物質よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で遺伝子テンプレートを翻訳してラベル化蛋白質を製造する方法において、遺伝子テンプレートの目的蛋白質をコードする塩基配列の3‘末端に付加することによりラベル化効率を増強する機能を有するポリヌクレオチドであり、上記ラベル化蛋白質の合成のために用いられる。このようなラベル化増強タグは、上記機能を有する限り特に制限はない。
「目的蛋白質のC末端ラベル化効率を増強する機能」とは、該機能を有するポリヌクレオチド(ラベル化増強タグ)を目的蛋白質をコードする塩基配列に付加するか、または該配列で目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端を置換した遺伝子テンプレートを用いて、蛋白質C末端ラベル化法を行った場合に、ラベル化増強タグを含まない遺伝子テンプレートを用いた場合と比べて、得られるラベル化蛋白質の量が1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上になる、あるいは目的蛋白質、あるいはそれに結合したラベル化増強タグがコードするポリペプチドのC末端にラベル化化合物が結合する効率が1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上となる機能を意味する。
「ラベル化増強タグ」は、例えば、以下のような方法で選択取得することができる。まず、1つ以上の候補ポリヌクレオチドを、目的蛋白質をコードする塩基配列の3’側に付加、あるいは目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端を置換した遺伝子テンプレートを作製し、これを用いて後述する蛋白質C末端ラベル化法を行い、翻訳反応液中に含まれる蛋白質について、そのC末端にラベル化化合物が結合している効率やラベル化蛋白質の合成量を適当な方法で測定する。さらに、候補ポリヌクレオチドを含まない遺伝子テンプレートについて同様に行った翻訳反応液中の蛋白質についても、そのC末端にラベル化化合物が結合している効率やラベル化蛋白質の合成量を適当な方法で測定し、候補ポリヌクレオチドを含む遺伝子テンプレートを用いた場合に、C末端にラベル化化合物が結合している効率が上がるか、C末端ラベル化蛋白質の合成量が増加した時、該候補ポリヌクレオチドは目的蛋白質のラベル化蛋白質の合成を増加させる機能を有するものとして選択される。
候補ポリヌクレオチドとしては、アミノ酸をコードするものでもしないものでもよいが、アミノ酸をコードする場合、目的蛋白質とオープンリーディングフレームの読み枠がずれないように付加または置換する。アミノ酸をコードするものとしては、天然の蛋白質内に存在する部分アミノ酸配列、もしくはランダムなアミノ酸配列をコードするものでもよいし、さらには単一のアミノ酸をコードするポリヌクレオチドでもよい。これらのうち、好ましくは2〜20アミノ酸残基、より好ましくは3〜6アミノ酸残基からなるポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドがよい。また、アミノ酸の種類としては、例えば、グリシン、メチオニン、チロシン、アルギニン(EMBO.J,7:3559−3569(1988);Mol.Cell.Biol,22:3959−3969(2002))、プロリン(J.Biol.Chem,277:33825−33832(2002))、アラニン、フェニルアラニン、システイン、ヒスチジン、グルタミン、等が挙げられる。
また、候補ポリヌクレオチドとして、既に蛋白質C末端ラベル化法を行った場合に、そのラベル化蛋白質合成量が多いことが既にわかっている蛋白質のC末端のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドも好ましく用いられる。このような蛋白質として具体的には、グルタチオン−S−トランスフェラーゼおよびその誘導体、タウプロテインキナーゼ−1(TPK1)、プロテインチロシンホスファターゼ−1B(PTP1B)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)などが挙げられる。
上記ラベル化増強タグの選択方法で用いる目的蛋白質は、それ自身ではラベル化蛋白質の合成量が低いものを用いることが好ましい。具体的には、PPARγ(GenBank accession No.NM_015869)、RXRα(GenBank accession No.NM_002957)、Smad2(GenBank accession No.NM_005901)、Smad3(GenBank accession No.NM_005902)、Smad4(GenBank accession No.NM_005359)などが挙げられる。
具体的な選択方法として、候補ポリヌクレオチドをランダムなアミノ酸配列をコードするものを用いた場合を以下に示す。まず、目的蛋白質をコードするDNAの3’側にそのオープンリーディングフレームが合うように、それぞれ異なる適当な長さのアミノ酸配列、好ましくは2〜20個のアミノ酸をコードするDNAが付加した個別のDNAから遺伝子テンプレートを作製し、後述する蛋白質C末端ラベル化法を行い、得られたラベル化蛋白質量を後述の方法で解析し、ラベル化蛋白質の合成量が多い、またはラベル化効率が高い遺伝子テンプレートに含まれる候補ポリヌクレオチドを選択する。さらに得られたポリヌクレオチドについて、その3’末端または5’末端に異なるアミノ酸をコードするDNAを付加した、または欠失した遺伝子テンプレートを作製し、蛋白質C末端ラベル化法以降の工程を繰り返す。また、上記で、付加するポリヌクレオチドを1アミノ酸をコードする3塩基とし、上記の解析を、複数回繰り返すことにより、好ましい数のアミノ酸からなるポリペプチドをコードするラベル化増強配列を選択することができる。
このようにして選択されたラベル化増強タグとしては、好ましくは、6〜60塩基でグアニンおよびシステインが全体の30%以上を占めるポリヌクレオチド、2〜20残基のシステイン、ヒスチジン、グルタミン、アラニンの何れかからなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、あるいは2〜20残基のシステイン、ヒスチジン、グルタミン、アラニン、グリシン、メチオニン、チロシン、アルギニン、プロリン、フェニルアラニンの何れかの組み合わせからなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、並びに6〜60塩基のポリヌクレオチドであって、少なくとも1つのGGCまたはGCGGCGモチーフを含むものが挙げられる。又、さらに好ましくは、配列番号5〜9の何れかに記載のアミノ酸配列のうちの、C末端側から少なくとも2アミノ酸からなるポリペプチドをコードする塩基配列が挙げられる。さらに好ましくは、配列番号11又は13に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列が挙げられる。
また、上記の共通の配列であるGGCモチーフは、リボソームをポージングさせる配列として知られているため、ラベル化増強タグは、リボソームをポージングさせる活性を指標としても選択することができる。リボソームをポージングさせる活性の測定方法としては、例えば、FEBS Lett.,14:106−110(2002)に記載されたリボソームディスプレー法、もしくはEMBO.J,7:3559−3569(1988)に記載されたmRNA上のリボソームポージング位置の決定法が挙げられる。具体的には、例えば、(1)ラベル化蛋白質の合成量が低い目的蛋白質をコードするDNAの3’側にそのオープンリーディングフレームが合うように、ランダムなDNA配列、望ましくは6塩基以上からなるDNA配列を付加した遺伝子テンプレートを作成し、(2)後述する方法で蛋白質合成系を実施し、(3)FEBS Lett.,514:106−110(2002)の方法に従い、超遠心法、さらには合成された蛋白質に対する親和性物質を固定した樹脂を用い、mRNA上でポージングした状態のリボソーム・mRNA・蛋白質の複合体を回収する。(4)この複合体より回収されたmRNAの3’末端に逆転写用のプライマーをT4 RNAリガーゼ等で連結し、このプライマーに相補的なDNAプライマーをアニーリングさせるか、もしくはこの複合体より回収されたmRNAに対してランダムプライマーをアニーリングさせる。(5)次にこの複合体について、逆転転写反応を行う、(6)RNaseH処理後、DNAポリメラーゼおよびDNAリガーゼで処理し、二本鎖cDNAを調製する、(7)T4 DNAポリメラーゼ等で処理した後、適当なベクターに挿入してトランスフォーメーション後、ベクター内に挿入されたランダムなDNA部分の塩基配列を決定することにより、リボソームをポージング(pausing)させる塩基配列を取得することができる。特にEMBO.J,7:3559−3569(1988)に記載された方法を用いる場合は、ラベル化蛋白質合成量が多い目的蛋白質をコードする遺伝子を対象として、その内部に含まれるリボソームをポージングさせる塩基配列を取得するのに有用である。
上記ラベル化増強タグは、目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端側に付加または、目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端部分をラベル化増強配列で置換した状態で使用することが好ましい。通常はラベル化増強タグを付加または置換した目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端には終止コドンを付加しない様にすることが望ましい。ここで、ラベル化増強タグを付加又は置換した目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端が終止コドンである場合、これを後述する蛋白質C末端ラベル化法に用いると、目的蛋白質の一部のアミノ酸配列からなる蛋白質のC末端にラベル化化合物が結合したものを含む蛋白質群が合成される。
「遺伝子テンプレート」は、目的蛋白質をコードする塩基配列、およびその3’末端にラベル化増強タグを含むことを特徴とし、DNAか、またはそれを転写することにより得られるRNAを意味する。遺伝子テンプレート又はその転写鋳型となるDNAには、他に転写(mRNA合成反応)、翻訳(蛋白合成反応)するための転写反応用プロモーターおよび翻訳反応用エンハンサー(以下これらを合わせて「5’非翻訳領域」と称することがある)を目的蛋白質をコードする配列の5’上流側に付加することが好ましい。この5’非翻訳領域はDNAからmRNAへの転写及びmRNAからの蛋白質への翻訳を可能とするあらゆるプロモーター、エンハンサー、コザック配列、シャイン・ダルガーノ配列等の塩基配列から、利用する無細胞蛋白質合成系に用いる抽出液が由来する細胞系、例えば大腸菌などの微生物、昆虫細胞、酵母、小麦、赤血球等の様々な動物細胞に応じて選択することができる。
例えば、無細胞転写、翻訳系にて使用する場合、転写反応用プロモーターとしてはSP6もしくはT7 RNAポリメラーゼのプロモーターを含み、翻訳用エンハンサーとしてタバコモザイクウイルス(TMV)のオメガ配列の全部もしくは一部等を使用することができる。また、遺伝子テンプレートの5’末端にCap構造を付加しても良い。
また、目的蛋白質中に特定の物質と親和性を有するポリペプチド(以下、これを「タグ」と称することがある)を挿入、付加することによれば、ラベル化蛋白質を該ポリペプチドを介して固相に固定したり、精製等を行うことができる。タグとしては、目的蛋白質の立体構造や活性に影響を与えないもの、または挿入位置を選択することが必要である。具体的には、タグをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドを、目的蛋白質をコードする塩基配列中に挿入、付加して作製することができる。タグをコードするポリヌクレオチド(以下、これを「タグ配列」と称することがある)を目的蛋白質をコードするポリヌクレオチドの5’上流側に付加する場合には、タグ配列の5’末端に翻訳開始反応に必要なメチオニンをコードする配列を付加するとよい。逆に、タグ配列を目的蛋白質をコードする配列の3’下流に付加する場合には、ラベル化増強配列を付加又は置換した目的蛋白質をコードする塩基配列とオープンリーディングフレームが合うように付加することが好ましい。
タグとしては、例えば、β−galactosidase(β−gal:116kDa)、Maltose Binding Protein(MBP:41kDa)、Green Fluorescent Protein(GFP:27kDa)およびその誘導体、Glutathion−S−transferase(GST:26kDa)、Thioredoxin(Thio(TRX):14kDa)、CreRecombninase、ペプチド性のタグとして、AU5(TDFYLK)、c−Myc(EQKLISEEDL)、CruzTag 09(MKAEFRRQESDR)、CruzTag 22(MRDALDRLDRLA)、CruzTag 41(MKDGEEYSRAFR)、Glu−Gl(EEEEYMPME)、(Influenza)Hemagglutinin(HA:YPYDVPDYA)、(Influenza)Hemagglutinin(Ha.11:CYPYDVPDYASL)、Histidine Tag(His:H×n(nは自由に設定可能である)、HisG(HHHHHHG)、hexapeptide(KT3:PPEPET)、Octapeptide(FLAG(R):DYKDDDDK)、Omni−probe(between the His(6)and polylinkersequences of the Xpress series:DLYDDDDK)、S−Tag encoded domain of thepET−29a−c(+)(S−probethe)、T7(MASMTGGQQMG)、V5(GKPIPNPLLGLDST)、VSV−G(YTDIEMNRLGK)、Biotinylation peptide by Biotin Ligase(Biotin AviTag:GLNDIFEAQKIEWHE)、HGFtag(EFGHEFDLYENK)、cMettag(STKKEVFNILQAAYVSKPGAQLARQ)、GAL4 DNA Binding Domain(GAL4)、E.coli protein Lex A(Lex A)、HSV−1 protein VP5(VP5)、HSV protein VP16(VP16)、B42、TAP(ProtenA−ZZDomain、calmodulin binding Peptode、Protein A、Maltose Binding Protein、Calmodulin Binding Peptide、antibodyFcDomainなどから選択することができる。これらのタグはそれ自体既知の通常用いられるものである。遺伝子テンプレートに含まれるタグ配列は、上記タグの全長のアミノ酸配列を含む必要はなく、特定の物質と親和性を有する限り特に制限はない。
一方、ラベル化蛋白質の合成量を低下させたい場合には、遺伝子テンプレートまたはその転写鋳型となるDNAの3’側に終止コドンを付加したものや、終始コドンのあとにポリA配列などを含む長い3’非翻訳配列を付加することにより行うことができる。
遺伝子テンプレートの転写鋳型となるDNAは、上記の各構成要素を別々に調製した後に、これらを通常の遺伝子組み換え方法を用いて結合してもよいし、いくつかの構成要素を結合したDNA断片として調製し、さらに結合することもできる。具体的には、遺伝子テンプレートの転写鋳型であるDNA(以下、これを「テンプレートDNA」と称するこおとがある)を調製する場合、適当なクローニングベクターに上記構成要素を挿入することによりDNAベクターとして作製する方法や、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99:14652−14657(2002)に記載されている方法に準じてPCR反応により作製することもできる。このようにして作製されたテンプレートDNAは、該DNAが含むプロモーターに応じて選択されるRNA合成酵素、例えば、SP6 RNA Polymerase(Promega社製)などを用いてin vitroにて転写反応を行なえば、RNAである遺伝子テンプレートを調製することができる。
「ラベル化化合物」は、標識物質よりなる「ラベル部」と蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなる「アクセプター部」を含む化合物である。ラベル部とアクセプター部は直接結合していてもよく、またリンカーを介して化学結合していてもよい。また、ラベル部は複数の標識物質からなってもよい。
リンカーとしては、好ましくは核酸誘導体、あるいはその連結体が用いられる。具体的には、デオキシシチジル酸(dC)、デオキシアデニル酸(dA)、デオキシグアニル酸(dG)、デオキシチミジル酸(dT)、シチジル酸(rC)、アデニル酸(rA)、グアニル酸(rG)、ウリジル酸(rU)、あるいはその連結体や、これらにアミノヘキサノールやAmino−modifierC6(AmC)が結合したもの等が挙げられるが、これらのうちデオキシシチジル酸(dC)が含まれるものが好ましく用いられ、さらに1〜3残基の連結体や、これらにアミノヘキサノールやAmino−modifierC6(AmC)が結合したもの等が好ましい。
また、リンカーとして、複数の標識物質を結合するための分岐点を導入し得るものも用いられる。このようなリンカーとして、具体的には、例えば、リジンやシステイン等のアミノ酸、5’アミノ修飾C6dT(Amino−modifier C6−dT:合成機に導入するホスホアミダイドの正式名称では5’−Dimethoxytrityl−5−[N−(trifluoroacetylaminohexyl)−3−acrylimido]−2’−deoxyUridine、3’−[(2−cyanoethyl)−(N、N−diisopropyl)]−phosphoramidite:グレンリサーチ社)等の核酸誘導体、あるいはその連結体等が挙げられる。リンカーは、用いるアクセプター部および標識物質によって異なるので、適宜選択して用いることが好ましい。リンカーの選択方法としては、例えば、WO02/46395号公報に記載の方法等を用いることができる。
ラベル化化合物として、ラベル部が一つのものは、例えば、下記式1に示されるものが挙げられ、またラベル部が二つのものは、下記式2に示すもの等が挙げられる。

(式中、Xはアクセプター部を構成する分子の残基を示し、Rはラベル部を構成する分子の残基を示す。X1−mは、リンカーを示す。mは1以上の整数を示す)

(式中、Xはアクセプター部を構成する分子の残基を示し、R及びRはラベル部を構成する分子の残基を示す。X1−mは、リンカーを示す。Lは、分岐点を導入するためのコネクターを示す。mは1以上の整数を示す)
アクセプター部を構成する化合物の結合方法は特に制限はないが、リン酸ジエステル結合、アミド結合、スルホンアミド結合、チオウレア結合、エステル結合等が挙げられ、特に好ましくはリン酸ジエステル結合とアミド結合が用いられる。また、アクセプター部にリンカーが結合した化合物としては、図2に記載のもの等が挙げられる。図中、RおよびRはラベル物質を示す。
「ラベル部」は、ラベル化蛋白質の検出に用いられる標識物質を含む物質を意味し、その構造に特に制限はない。「標識物質」は、通常の検出方法で蛋白質の存在を検出するために用いられる物質を意味し、ラベル化化合物の目的蛋白質のC末端への結合を妨げない限り特に制限はない。具体的には、放射性物質、非放射性物質のいずれでもよく、放射性物質としては、33P、32P、35S等が挙げられる。非放射性物質としては、蛍光物質、特定の物質と親和性を有する物質(以下、これを「親和性物質」と称することがある)、蛋白質、ポリペプチド、糖類、脂質類、色素、ポリエチレングリコールのような高分子、ビーズ、ナノビーズ、および核酸等が挙げられる。
蛍光性物質としては、フルオレセイン系列、ローダミン系列、エオシン系列、NBD系列等の蛍光色素や、緑色蛍光蛋白質(GFP)等の蛍光性蛋白質、ホタルルシフェリン、ルミノール誘導体、エクオリン、アクリジウム塩、アクリジウムサクシイミドエステル、CDP−Star、CSPD、AMPPD、Galacton、Galacton−Plus、Galacton−Star、Glucuron、Glucin等の発光化合物なども挙げられる。具体的には、フルオレセイン、オレゴングリーン(モレキュラープローブ社製)、Alexa488(モレキュラープローブ社製)、テトラメチルローダミン、テキサスレッド(モレキュラープローブ社製)、IC3(同仁化学社製)、IC5(同仁化学社製)、Cy3(アマシャムバイオサイエンス社製)、Cy5(アマシャムバイオサイエンス社製)などが挙げられる。
親和性物質及び該物質と親和性を有する物質の組み合わせとしては、例えば、ビオチンあるいはイミドビオチンとアビジン及びストレプトアビジン等のビオチン結合蛋白質、マルトースとマルトース結合蛋白質、ニッケルあるいはコバルト等の金属イオンとポリヒスチジンペプチド、グルタチオンとグルタチオン−S−トランスフェラーゼ、抗原分子と抗体、アデノシン3リン酸とATP結合蛋白質、エチレンジアミン四酢酸と2価イオン等が挙げられる。このうち特に、ビオチンやグルタチオンが好ましく用いられる。
このような標識物質が、アクセプター部に結合する場合に用いられる反応性官能基としてはチオール基、ケトン基、ヒドラジド基、アジド基、チオエステル基などが挙げられる。
「アクセプター部」は、無細胞蛋白質合成系または生細胞中で蛋白質の合成(翻訳)が行われたときに、合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物を意味し、この機能を有する限り特に制限はない。通常は、核酸に類似した化学構造骨核を有する物質あるいはその連続体とアミノ酸あるいはアミノ酸に類似した化学構造骨核を有する物質が化学的に結合したもの(核酸誘導体)である。このような化合物としては、化学結合としてアミド結合を有するピューロマイシン(Puromycin)、3’−N−アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(3’−N−Aminoacylpuromycin aminonucleoside、PANS−アミノ酸)、及び化学結合として3’−アミノアデノシンのアミノ基とアミノ酸のカルボキシル基が脱水縮合した結果形成されたアミド結合でつながった3’−N−アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(3’−Aminoacyladenosine aminonucleoside、AANS−アミノ酸)等が挙げられる。
PANS−アミノ酸の具体例としては、アミノ酸部がグリシンのPANS−Gly、バリンのPANS−Val、アラニンのPANS−Ala、その他、全アミノ酸に対応するPANS−全アミノ酸化合物が挙げられる。また、AANS−アミノ酸の具体例としては、アミノ酸部がグリシンのAANS−Gly、バリンのAANS−Val、アラニンのAANS−Ala、その他、全アミノ酸に対応するAANS−全アミノ酸化合物が挙げられる。
アクセプター部としては、さらに、ヌクレオシドあるいはヌクレオチドとアミノ酸のエステル結合したもの等も使用できる。即ち、核酸あるいは核酸に類似した化学構造骨格および塩基を有する物質と、アミノ酸に類似した化学構造骨格を有する物質とを化学的に結合可能であれば、そのようにして結合した化合物は、すべて使用できる。
なお、ここで核酸とは、ヌクレオシド若しくはその誘導体またはそれらが3’と5’位炭素の間でリン酸を介してジエステル結合により結合した連結体を意味する。アクセプター部は、好ましくは、核酸とアミノ酸またはアミノ酸誘導体とが結合した化合物である。さらに好ましくは、2’若しくは3’−アミノアデノシンまたはその誘導体とアミノ酸またはアミノ酸誘導体とが結合した化合物である。特に好ましくは、ピューロマイシンまたはピューロマイシンに後述するリンカーが結合したピューロマイシン誘導体である。
ピューロマイシン誘導体としては、例えば、リボシチジルピューロマイシン((rCp)nPur:nは1以上の整数で適宜選択される)、デオキシシチジルピューロマイシン((dCp)nPur:nは1以上の整数で適宜選択される)、デオキシウリジルピューロマイシン((dUp)nPur:nは1以上の整数で適宜選択される)等が挙げられる。これらのうちで特にデオキシシチジン1〜3残基にピューロマイシンが結合しているものが好ましい。
アクセプター部を構成する化合物の、無細胞蛋白質合成系または生細胞中での蛋白質の合成(翻訳)が行われる際に合成された蛋白質のC末端に結合する能力は、その化合物の存在下に無細胞蛋白質合成系または生細胞中で蛋白質の合成を行い、ペプチジル化合物の生成を測定することによって評価可能である。
ラベル化化合物の具体的な例としては、図3に示す化合物等が挙げられる。 これらの化合物の合成方法としては、特に制限はなく、それ自体既知の通常用いられる方法を用いることができる。例えば、標識物質として蛍光色素のみを有するラベル化化合物(例えば、図3(1)〜(5)に示される化合物)は、特開2002−257832号公報などに記載された方法などにより合成することができる。
また、標識物質として蛍光色素、親和性物質としてビオチンを有するラベル化化合物のうち、チミン塩基の修飾部分に蛍光色素を導入したもの(例えば、図3(14)〜(17)に示される化合物等)は、WO02/46395号公報に記載された方法等により合成することができる。また、もう一方の分岐部分にリジン残基を持つタイプのもの(例えば、図3(6)〜(13)に示される化合物)は特願2002−044955号明細書に記載された新規ピューロマイシン支持体(ZF−Puromycin support)を出発物質として合成することもできる。
具体的な合成法として、図3(6)に示す化合物であって、蛍光色素としてCy3をもつBiotAC2−Lys(Cy3)−AmC−dC−dC−Puro(Bio−Cy3−Lys−dC2−Puro)の合成法の例を以下に示す。まず、通常のホスホアミダイトDNA合成法によりZF−Puromycin(PFZ)supportにAc−dC−CEホスホアミダイトと5’−アミノ修飾C6(ともに例えば、グレンリサーチ社製)を連結してAmC−dC−dC−PFZを合成する。このうち1μmolを0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.2)150μlとDMF350μlに溶解し、Fmoc−Lys(Boc)−Opfp(novabiochem)の0.2Mジメチルホルムアミド(DMF)溶液25μlをミキサー上で激しく撹拌しながら10分おきに4回加える。DMF200μlと0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.2)200μlを加えて1時間撹拌したのち、20%ピペリジンDMF溶液100μlを加えてさらに室温で2時間撹拌する。溶液を希釈して中性にしたのち酢酸トリエチルアミン水溶液とアセトニトリルを移動相とした逆相HPLCで精製し、目的物Lys(Boc)−AmC−dC−dC−PFZ(約800nmol)を得ることができる。これを0.15M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.2)80μl、DMF20μlに溶解し、100mM Biotin−(AC5)2−OSu(同仁化学)のDMF溶液20μlを10分おきに4回加えたのち1時間撹拌する。逆相HPLCでビオチンが導入された目的物BiotAC2−Lys(Boc)−AmC−dC−dC−PFZ(約700nmol)を精製する。これをあらかじめ氷冷した80%TFA20μlに溶かし、氷上で45分放置して脱Boc反応を行なう。水で20mlに希釈したのち凍結乾燥機で濃縮し、水による再溶解と濃縮をほぼ中性になるまで繰り返す。得られた目的物BiotAC2−Lys−AmC−dC−dC−PFZ約600nmolのうち150nmolを0.15M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.2)60μlに溶かし、20μlずつCy3 Mono−functional Dye(アマシャムファルマシアバイオテク)のチューブに加え室温で2時間撹拌する。この溶液に50mMリン酸緩衝液(pH8.1)100μlと10mg/mlのキモトリプシン溶液(50mM酢酸ナトリウム緩衝液、pH3.6)2.5μlを加え37℃で3時間過熱する。逆相HPLCで精製し、目的物であるBiotAC2−Lys(Cy3)−AmC−dC−dC−Puro約60nmol)を得ることができる。
上記の合成法として、例えば、蛍光色素がCy5、フルオレセイン、Alexa488のものはそれぞれ市販のCy5 Mono−functional Dye(アマシャムファルマシアバイオテク)、6−フルオレセイン−5(6)−カルボキサミドヘキサン酸コハク酸イミドエステル(フナコシ)、Alexa Fluor488 carboxylic acid(Molecular Probes)等を上記方法で使用するCy3 Mono−functional Dyeの代わりに用いて合成することができる。
ラベル化蛋白質は、上記遺伝子テンプレートを、ラベル化化合物の適当な濃度の存在化で適当な翻訳系で翻訳することにより合成することができる。また、後述の工程の一部および全工程は、各種分注器およびその機能を備えた自動化ロボット、例えばテカン社やベックマンコールター社等のものを利用し、その工程を半自動化もしくは自動化することができる。
「翻訳系」とは、遺伝子テンプレートと翻訳に必要な物質を添加することにより、それが含むコーディング配列を翻訳して蛋白質を合成し得る系を意味する。本発明で遺伝子テンプレートの翻訳に用いられる蛋白質合成系は、無細胞蛋白質合成系、生細胞発現系の何れでもよいが、無細胞蛋白質合成系が好ましい。無細胞蛋白質合成系としては、例えば、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、大腸菌S30画分を用いた無細胞蛋白質合成系等が挙げられる。具体的には、例えば、コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞蛋白質合成系の場合、
Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97:559−564(2000)、特開2000−236896号公報、特開2002−125693号公報、特開2002−204689号公報などに従って調製された小麦胚芽抽出液およびその無細胞蛋白質合成系を用いることができる。
蛋白質合成系として用いる生細胞は、大腸菌、枯草菌、好熱菌、酵母などの微生物、昆虫細胞、動物細胞などの培養細胞や生命個体等、遺伝子テンプレートが導入可能なものはいずれも使用可能であり、各細胞で効率よく転写・翻訳される様にデザインされた5’非翻訳領域を有するDNAもしくはRNAの遺伝子テンプレートと1〜100μMのラベル化化合物をマイクロインジェクション法や電気穿孔を用いて細胞に導入し、その細胞が生育する至適温度で1〜数十時間反応させることにより、ラベル化化合物がC末端に結合した蛋白質が合成される。
本発明で用いるコムギ胚芽抽出液としては、遺伝子テンプレート、アミノ酸、エネルギー源等を供給することにより無細胞蛋白質合成を行なうことができるものであればその製造方法は特に限定されない。本発明で用いるコムギ胚芽抽出液として好ましくは、コムギ種子中の胚芽を胚乳を除去するように分離して、該胚芽から抽出して精製したものを用いることができる。このようなコムギ胚芽抽出液は、コムギ種子から以下のようにして調製したものか、あるいは市販のものを用いることができる。市販の細胞抽出液としては、コムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM(TOYOBO社製)等が挙げられる。
コムギ胚芽抽出液の作製法としては、例えばJohnston、F.B.et al.、Nature、179、160−161(1957)、あるいはErickson、A.H.et al.、(1996)Meth.In Enzymol.、96、38−50等に記載の方法を用いることができるが、以下にさらに詳細に説明する。
本発明で用いるコムギ胚芽抽出液の製造においては、先ず、コムギの胚芽以外の成分、特に胚乳をほぼ完全に除去することが好ましい。このような胚芽の調製方法としては、通常、まず、コムギ種子に機械的な力を加えることにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得、該混合物から、胚乳破砕物、種皮破砕物等を取り除いて粗胚芽画分(胚芽を主成分とし、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物)を得る。コムギ種子に加える力は、コムギ種子から胚芽を分離することができる程度の強さであればよい。具体的には、公知の粉砕装置を用いて、植物種子を粉砕することにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得る。
コムギ種子の粉砕は、通常公知の粉砕装置を用いて行うことができるが、ピンミル、ハンマーミル等の被粉砕物に対して衝撃力を加えるタイプの粉砕装置を用いることが好ましい。粉砕の程度は、例えばコムギ種子の場合は、通常、最大長さ4mm以下、好ましくは最大長さ2mm以下の大きさに粉砕する。また、粉砕は乾式で行うのが好ましい。
次いで、得られたコムギ種子粉砕物から、通常公知の分級装置、例えば、篩を用いて粗胚芽画分を取得する。例えば、コムギ種子の場合、通常、メッシュサイズ0.5mm〜2.0mm、好ましくは0.7mm〜1.4mmの粗胚芽画分を取得する。さらに、必要に応じて、得られた粗胚芽画分に含まれる種皮、胚乳、ゴミ等を風力、静電気力を利用して除去してもよい。
また、胚芽と種皮、胚乳の比重の違いを利用する方法、例えば重液選別により、粗胚芽画分を得ることもできる。より多くの胚芽を含有する粗胚芽画分を得るために、上記の方法を複数組み合わせてもよい。さらに、得られた粗胚芽画分から、例えば目視や色彩選別機等を用いて胚芽を選別する。
このようにして得られた胚芽画分は、胚乳成分が付着している場合があるため、通常胚芽純化のために更に洗浄処理することが好ましい。洗浄処理としては、通常10℃以下、好ましくは4℃以下に冷却した水又は水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させ、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することが好ましい。また、通常10℃以下、好ましくは4℃以下で、界面活性剤を含有する水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させて、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することがより好ましい。界面活性剤としては、非イオン性のものが好ましく、非イオン性界面活性剤であるかぎりは、広く利用ができる。具体的には、例えば、好適なものとして、ポリオキシエチレン誘導体であるブリッジ(Brij)、トリトン(Triton)、ノニデット(Nonidet)P40、ツイーン(Tween)等が例示される。なかでも、ノニデット(Nonidet)P40が最適である。これらの非イオン性界面活性剤は、例えば0.5%の濃度で使用することができる。水又は水溶液による洗浄処理及び界面活性剤による洗浄処理は、どちらか一方でもよいし、両方実施してもよい。また、これらの洗浄処理は、超音波処理との組み合わせで実施してもよい。
本発明においては、上記のようにコムギ種子を粉砕して得られた粉砕物からコムギ胚芽を選別した後洗浄して得られた無傷(発芽能を有する)の胚芽を抽出溶媒の存在下に細分化した後、得られるコムギ胚芽抽液を分離し、更に精製することにより無細胞蛋白質合成用コムギ胚芽抽出液を得ることができる。
抽出溶媒としては、緩衝液、カリウムイオン、マグネシウムイオン及び/又はチオール基の酸化防止剤を含む水溶液を用いることができる。また、必要に応じて、カルシウムイオン、L型アミノ酸等をさらに添加してもよい。例えば、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、L型アミノ酸及び/又はジチオスレイトールを含む溶液や、Pattersonらの方法を一部改変した溶液(HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、塩化カルシウム、L型アミノ酸及び/又はジチオスレイトールを含む溶液)を抽出溶媒として使用することができる。抽出溶媒中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞蛋白質合成用のコムギ胚芽抽出液の製造法に用いられるものを採用すればよい。
胚芽と抽出に必要な量の抽出溶媒とを混合し、抽出溶媒の存在下に胚芽を細分化する。抽出溶媒の量は、洗浄前の胚芽1gに対して、通常0.1ミリリットル以上、好ましくは0.5ミリリットル以上、より好ましくは1ミリリットル以上である。抽出溶媒量の上限は特に限定されないが、通常、洗浄前の胚芽1gに対して、10ミリリットル以下、好ましくは5ミリリットル以下である。また、細分化しようとする胚芽は従来のように凍結させたものを用いてもよいし、凍結させていないものを用いてもよいが、凍結させていないものを用いるのがより好ましい。
細分化の方法としては、摩砕、圧砕、衝撃、切断等、粉砕方法として従来公知の方法を採用することができるが、特に衝撃または切断により胚芽を細分化することが好ましい。ここで、「衝撃または切断により細分化する」とは、植物胚芽の細胞核、ミトコンドリア、葉緑体等の細胞小器官(オルガネラ)、細胞膜や細胞壁等の破壊を、従来の摩砕又は圧砕と比べて最小限に止めうる条件で植物胚芽を破壊することを意味する。
細分化する際に用いることのできる装置や方法としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、ワーリングブレンダーのような高速回転する刃状物を有する装置を用いることが好ましい。刃状物の回転数は、通常1000rpm以上、好ましくは5000rpm以上であり、また、通常30000rpm以下、好ましくは25000rpm以下である。刃状物の回転時間は、通常5秒以上、好ましくは10秒以上である。回転時間の上限は特に限定されないが、通常10分以下、好ましくは5分以下である。細分化する際の温度は、好ましくは10℃以下で操作が可能な範囲内、特に好ましくは4℃程度が適当である。
このように衝撃または切断により胚芽を細分化することにより、胚芽の細胞核や細胞壁を全て破壊してしまうのではなく、少なくともその一部は破壊されることなく残る。即ち、胚芽の細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁が必要以上に破壊されることがないため、それらに含まれるDNAや脂質等の不純物の混入が少なく、細胞質に局在する蛋白質合成に必要なRNAやリボソーム等を高純度で効率的に胚芽から抽出することができる。
このような方法によれば、従来の植物胚芽を粉砕する工程と粉砕された植物胚芽と抽出溶媒とを混合してコムギ胚芽抽出液を得る工程とを同時に一つの工程として行うことができるため効率的にコムギ胚芽抽出液を得ることができる。上記の方法を、以下、「ブレンダー法」と称することがある。
次いで、遠心分離等によりコムギ胚芽抽出液を回収し、ゲルろ過等により精製することによりコムギ胚芽抽出液を得ることができる。ゲルろ過としては、例えば予め溶液(HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、ジチオスレイトール又はL型アミノ酸を含む溶媒)で平衡化しておいたゲルろ過装置を用いて行うことができる。ゲルろ過溶液中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞蛋白合成用のコムギ胚芽抽出液の製造法に用いられるものを採用すればよい。
ゲルろ過後の胚芽抽出物含有液には、微生物、特に糸状菌(カビ)などの胞子が混入していることがあり、これら微生物を排除しておくことが好ましい。特に長期(1日以上)の無細胞蛋白質合成反応中に微生物の繁殖が見られることがあるので、これを阻止することは重要である。微生物の排除手段は特に限定されないが、ろ過滅菌フィルターを用いるのが好ましい。フィルターのポアサイズとしては、混入の可能性のある微生物が除去可能なものであれば特に制限はないが、通常0.1〜1マイクロメーター、好ましくは0.2〜0.5マイクロメーターが適当である。ちなみに、小さな部類の枯草菌の胞子のサイズは0.5μmx1μmであることから、0.20マイクロメーターのフィルター(例えばSartorius製のMinisartTM等)を用いるのが胞子の除去にも有効である。ろ過に際して、まずポアサイズの大きめのフィルターでろ過し、次に混入の可能性のある微生物が除去可能であるポアサイズのフィルターを用いてろ過するのが好ましい。
このようにして得られた細胞抽出液は、原料細胞自身が含有する又は保持する蛋白質合成機能を抑制する物質(トリチン、チオニン、リボヌクレアーゼ等の、mRNA、tRNA、翻訳蛋白質因子やリボソーム等に作用してその機能を抑制する物質)を含む胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されている。ここで、胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されているとは、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳部分を取り除いたコムギ胚芽抽出液のことであり、また、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度とは、リボソームの脱アデニン化率が7%未満、好ましくは1%以下になっていることをいう。
このような細胞抽出液は、上記のごとく低分子の蛋白質合成阻害物質(以下、これを「低分子合成阻害物質」と称することがある)を含有しているため、細胞抽出液の構成成分から、これら低分子合成阻害物質を分子量の違いにより分画排除する。排除されるべき物質(低分子阻害物質)の分子量は、細胞抽出液中に含まれる蛋白質合成に必要な因子よりも小さいものであればよい。具体的には、分子量50,000〜14,000以下、好ましくは14,000以下のものが挙げられる。
低分子合成阻害物質の細胞抽出液からの排除方法としては、それ自体既知の通常用いられる方法が用いられるが、具体的には透析膜を介した透析による方法、ゲルろ過法、あるいは限外ろ過法等が挙げられる。このうち、透析による方法(透析法)が、透析内液に対しての物質の供給のし易さ等の点において好ましい。以下、透析法を用いる場合を例に詳細に説明する。
透析に用いる透析膜としては、50,000〜12,000の排除分子量を有するものが挙げられる、具体的には排除分子量12,000〜14,000の再生セルロース膜(Viskase Sales、Chicago製)や、排除分子量50,000のスペクトラ/ポア6(SPECTRUM LABOTRATORIES INC.,CA,USA製)等が好ましく用いられる。このような透析膜中に適当な量の上記細胞抽出液を入れ常法を用いて透析を行う。透析を行う時間は、30分〜24時間程度が好ましい。
低分子合成阻害物質の排除を行う際、細胞抽出液に不溶性成分が生成される場合には、これを阻害する(以下、これを「細胞抽出液の安定化」と称することがある)ことにより、最終的に得られる細胞抽出液(以下、これを「処理後細胞抽出液」と称することがある)の蛋白質合成活性が高まる。細胞抽出液の安定化の具体的な方法としては、上記(1)に記載した低分子阻害物質の排除を行う際に、少なくとも高エネルギーリン酸化合物、例えばATPまたはGTP等を含む溶液中で行う方法が挙げられる。高エネルギーリン酸化合物としては、ATPが好ましく用いられる。また、好ましくは、ATPとGTP、さらに好ましくはATP、GTP、及び20種類のアミノ酸を含む溶液中で行う。
これらの成分(以下、これを「安定化成分」と称することがある)を含む溶液中で低分子阻害物質の排除を行う場合は、細胞抽出液に予め安定化成分を添加し、インキュベートした後、これを低分子阻害物質の排除工程に供してもよい。低分子合成阻害物質の排除に透析法を用いる場合は、細胞抽出液だけでなく透析外液にも安定化成分を添加して透析を行い低分子阻害物質の排除を行うこともできる。透析外液にも安定化成分を添加しておけば、透析中に安定化成分が分解されても常に新しい安定化成分が供給されるのでより好ましい。このことは、ゲルろ過法や限外ろ過法を用いる場合にも適用でき、それぞれの担体を安定化成分を含むろ過用緩衝液により平衡化した後に、安定化成分を含む細胞抽出液を供し、さらに上記緩衝液を添加しながらろ過を行うことにより同様の効果を得ることができる。
安定化成分の添加量、及び安定化処理時間としては、細胞抽出液の種類や調製方法により適宜選択することができる。これらの選択の方法としては、試験的に量及び種類をふった安定化成分を細胞抽出液に添加し、適当な時間の後に低分子阻害物質の排除工程を行い、取得された処理後細胞抽出液を遠心分離等の方法で可溶化成分と不溶化成分に分離し、そのうちの不溶性成分が少ないものを選択する方法が挙げられる。さらには、取得された処理後細胞抽出液を用いて無細胞蛋白質合成を行い、蛋白質合成活性の高いものを選択する方法も好ましい。また、上記の選択方法において、細胞抽出液と透析法を用いる場合、適当な安定化成分を透析外液にも添加し、これらを用いて透析を適当時間行った後、得られた細胞抽出液中の不溶性成分量や、得られた細胞抽出液の蛋白質合成活性等により選択する方法も挙げられる。
このようにして選択された細胞抽出液の安定化条件の例として、具体的には、上述のブレンダー法を用いて調製したコムギ胚芽抽出液で、透析法により低分子阻害物質の排除工程を行う場合においては、そのコムギ胚芽抽出液、及び透析外液中に、ATPとしては100μM〜0.5mM、GTPは25μM〜1mM、20種類のアミノ酸としてはそれぞれ25μM〜5mM添加して30分〜1時間以上の透析を行う方法等が挙げられる。透析を行う場合の温度は、蛋白質合成活性が失われず、かつ透析が可能な温度であれば如何なるものであってもよい。具体的には、最低温度としては、溶液が凍結しない温度で、通常−10℃、好ましくは−5℃、最高温度としては透析に用いられる溶液に悪影響を与えない温度の限界である40℃、好ましくは38℃である。
細胞抽出液への安定化成分の添加方法は、特に制限はなく、低分子阻害物質の排除工程の前に添加しこれを適当時間インキュベートして安定化を行った後、低分子合成阻害物質の排除工程を行ってもよいし、安定化成分を添加した細胞抽出液、及び/または安定化成分を添加した該排除工程に用いるための緩衝液を用いて低分子合成阻害物質の排除工程を行ってもよい。
本発明で用いるコムギ胚芽抽出液としては、DNA含有量および/または総脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸)含有量が低いものが好ましく、例えば、(a)260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90の時のDNA含有量が230μg/ml以下であるもの、あるいは(b)260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90の時の総脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸)含有量の合計量が0.03g/100g以下であるものが好ましく、さらに上記(a)及び(b)の両方の条件を満たすものが特に好ましい。
無細胞蛋白質合成系において、遺伝子テンプレートの翻訳反応を行う場合、上記細胞抽出液、遺伝子テンプレート等が含まれる反応層に、蛋白質を構成するアミノ酸(基質)やATP、GTPなどのエネルギーなど(本明細書中では、これらを「供給物質」と称することがある)を含む供給層からその接触面を通してエネルギー源や基質等の供給物質が供給される系が好ましく用いられる。即ち、(1)蛋白質合成反応の開始時には、反応層と供給層が分離された状態にあり、(2)反応時間とともに供給物質が、供給層から反応層へ供給される工程を含む蛋白質合成系が好ましい。
このような工程を含む無細胞蛋白質合成系として、具体的には、(1)比重の高い反応層に対してその上部にエネルギー供給層を重層する方法(例えば、WO2002/24939号公報等)、(2)反応層に糖などを添加してさらに比重を高くし、その上に重層するエネルギー供給層の添加を簡便にする方法(例えば、WO2002/24939号公報等)、(3)エネルギー供給層をセファデックス、セファロース、アガロース、アクリルアミドなどの吸水性の樹脂やビーズもしくはゲルに吸収・包埋し、それと反応層を混合する方法、もしくはその上部もしくは下部もしくは内部に反応層を添加する方法(例えば、特願2002−354062明細書等)、(4)半透膜を利用して反応層とエネルギー供給層を分離する透析法(例えば、WO88/08453号公報等)、(5)反応層に対して経時的に供給層を添加する方法(例えば、WO2002/24939号公報等)などが好ましく用いられる。このうち、(1)、(2)および(3)の方法が特に好ましい。
これらの無細胞蛋白質合成系を使用して遺伝子テンプレートを翻訳およびラベル化する際、蛋白質をコードする遺伝子テンプレート(mRNA)および適当な濃度のラベル化化合物は反応層、供給層の何れか一方、もしくは両方に添加することが可能である。より望ましくは、遺伝子テンプレートは反応層に添加するのが良く、ラベル化化合物は反応層および供給層の両方に後述する適当な濃度となるように添加するのが好ましい。
ここで、ラベル化化合物の適当な濃度とは、合成された蛋白質のC末端にラベル化化合物が結合するのに有効な濃度、即ち無細胞蛋白質合成系または生細胞中での蛋白質合成を阻害せず、かつ蛋白質のC末端に検出可能な量で結合し得る濃度を意味する。このような濃度範囲の選択は、下記例7に詳述するとおり、実際に蛋白質合成を行う系において、異なる濃度のラベル化化合物の存在下で遺伝子テンプレートを翻訳し、得られた蛋白質に標識物質が結合しているか否かを、適当な方法で検出して、得られた蛋白質に標識物質が結合している系で用いたラベル化化合物の濃度範囲を選択することにより行うことができる。
選択された濃度のラベル化化合物の存在下で遺伝子テンプレートを用いる蛋白質合成系に適した反応方法で翻訳する。具体的には、例えば、遺伝子テンプレートとしてGSK−PK14(GenBank accession No.AK_074856)、ラベル化化合物としてCy3−AmC−dC−Puromycin(図3(1))を用い、これらを上記ブレンダー法で得られたコムギ胚芽抽出液を用いた蛋白質合成系で重層法で翻訳反応を行う場合で詳細に説明する。
まず、96穴プレートに最終濃度16μMになるようにラベル化化合物を添加した125μlの供給液(31.3mM HEPES/KOH(pH7.8)、2.67mM Mg(OAc)2、93mM KOAc、1.2mM ATP、0.257mM GTP、16mM creatine phosphate、2.1mM DTT、0.41mM spermidine、0.3mM L型アミノ酸(20種)、1μM E−64、0.005%NaN3、0.05%NP−40)を入れ、その上部に遺伝子テンプレートを転写したmRNAを20pmolとラベル化化合物が最終濃度で16μMとなるように添加した反応溶液(6μlのコムギ胚芽抽出液、24mM Hepes/KOH(pH7.8)、1.2mM ATP、0.25mM GTP、16mM creatine phosphate、10μg creatine kinase、ribonuclease inhibitor(20units)、2mM DTT、0.4mM spermidine、0.3mM L型アミノ酸(20種)、2.7mM magnesium acetate、100mM potassium acetate、5μg小麦胚芽由来tRNA、0.05%Nonidet P−40および0.005%NaN)を重層し、このプレートを25〜37℃で保温して1〜数十時間反応させることにより翻訳反応を行う。
「ラベル化蛋白質」は、目的蛋白質の全長からなるもの(これを「全長蛋白質」と称することがある)のC末端にラベル化化合物が結合したものだけではなく、その一部のアミノ酸配列からなる、即ち目的蛋白質が種々断片化された蛋白質(これを「断片化蛋白質」と称することがある)のC末端にラベル化化合物が結合した蛋白質も含まれる。このようなC末端がラベル化された断片化蛋白質は、上記の蛋白質C末端ラベル化法により取得することができるが、遺伝子テンプレートとして目的蛋白質をコードする配列の3’末端にストップコドンを有しているものを用いると全長蛋白質よりも断片化されたラベル化蛋白質が多く合成されるので好ましい。
C末端がラベル化された断片化蛋白質群は、後述する蛋白質と物質の相互作用の解析等に用いることができる。断片化蛋白質が好ましく用いられる場合とは、例えば、目的蛋白質が活性化するのに、自分自身の分子内における相互作用、すなわち活性部位(ドメイン)を自分自身の制御部位(ドメイン)で覆って抑制している場合(autoregulation(自己制御))等が挙げられる。具体的には、目的蛋白質の全長のC末端にラベル化化合物が結合した蛋白質を用いて上記相互作用を解析する場合、目的蛋白質自身に制御ドメインが含まれ、相互作用が不活化されて検出ができないような場合、上記断片化蛋白質を含む蛋白質群(ライブラリー)を用いることが好ましい。
上記蛋白質C末端ラベル化法において、ラベル化化合物を添加することなく、蛋白質合成反応を開始させた一定時間後、具体的には数分から数時間後にラベル化化合物を添加することにより、目的蛋白質の全長のC末端にラベル化化合物が結合した蛋白質(以下、これを「C末端ラベル化全長蛋白質」と称することがある)の発現量を向上させ、逆にラベル化された断片化蛋白質の発現量を低下させることが可能である。
ラベル化化合物を添加するタイミングは、用いる蛋白質合成系や遺伝子テンプレートにより適宜選択して用いることができる。選択の方法は、特に制限はないが、例えば、上記の蛋白質C末端ラベル化方法を行うにあたり、蛋白質合成を行う際、蛋白質合成系に遺伝子テンプレートを添加した後、適当な時間ごとにラベル化化合物を添加して合成反応を進行させる。反応終了後、反応溶液中の蛋白質を、SDS−PAGE等により分離し、C末端にラベル化化合物が結合した蛋白質を適当な方法により解析し、その分子量から、全長蛋白質が最も多く合成される時間を、C末端ラベル化全長蛋白質を合成するのに好ましいラベル化化合物を添加するタイミングとして選択する方法等が挙げられる。
C末端ラベル化全長蛋白質を合成するのに好ましいラベル化化合物を添加するタイミングの選択方法としては、さらに、蛋白質合成反応中のリボソームをmRNA上でポージングさせるのに十分な時間として選択する方法も用いられる。このような時間の選択方法としては、FEBS Lett.,514,106−110(2002)等に記載の方法等が用いられる。
また、C末端ラベル化全長蛋白質を選択的に合成する方法として、J.Biol.Chem、276:38036−38043(2001)記載の方法に従ってスペルミジンやスペルミンなどのポリアミンを適量、具体的には1〜1000μM程度添加する方法等が挙げられる。さらに、遺伝子テンプレートとして、目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端にストップコドンを有していないものを用いることも好ましい。
以上の方法で合成されたラベル化蛋白質を含む反応溶液に対し、各種界面活性剤、EDTAやEGTAなどのキレート剤、0.1〜2Mの各種塩を添加することにより、合成された蛋白質と合成系に含まれる夾雑物、例えば、各種核酸、リボソーム、脂質、糖、他の蛋白質との結合を抑制もしくは解離することができる。
かくして得られたラベル化蛋白質を含む上記反応溶液としては、(1)目的蛋白質の全長のC末端にラベル化化合物が結合した蛋白質と、断片化された蛋白質のC末端にラベル化化合物が結合した蛋白質の混合物、(2)目的蛋白質の全長のC末端に、ラベル化化合物が結合したタンパク質、(3)断片化された蛋白質のC末端にラベル化化合物が結合した蛋白質を含む蛋白質群(ライブラリー)からなるものが挙げられる。このようなライブラリーは、それぞれに適した上述の方法により調製することができる。目的蛋白質の全長のC末端にラベル化化合物が結合した蛋白質は、例えば、ラベル化増強配列がアミノ酸をコードしていた場合には、該配列がコードするポリペプチドが目的蛋白質の内部、好ましくはそのC末端側に存在し、そのC末端にラベル化化合物が結合している。一方、断片化された蛋白質のC末端にラベル化化合物が結合している蛋白質は、目的蛋白質の一部のアミノ酸配列からなる複数の蛋白質のC末端にラベル化化合物等が結合したものの混合物で、ラベル化増強配列がアミノ酸をコードしていた場合でも、必ずしもそれを含むとは限らない。
このようなラベル化蛋白質を回収または精製する方法としては、該蛋白質または蛋白質群がその種類等により回収率等が変化しない方法であれば如何なるものであってもよい。具体的には、例えば、C末端ラベル化蛋白質に含まれる物質と親和性を有する物質を、樹脂やビーズもしくはプレート等の固相に結合させ、該物質とラベル化蛋白質を接触させた後に洗浄し、該固相に結合した蛋白質を抽出して回収する方法等が挙げられる。ここで、ラベル化蛋白質に含まれる物質と、該物質と親和性を有する物質との組み合わせとしては、上記した「タグ」と該タグに特異的に結合する抗体、ラベル化化合物に付加された親和性物質と該物質と特異的に結合する物質、あるいは目的蛋白質の部分ペプチドと該ペプチドに対する抗体等が挙げられる。親和性物質としては、上記と同様のものが用いられる。
「目的蛋白質の部分ポリペプチド」とは、目的蛋白質のいずれの部分でもよい。好ましくは合成されるラベル化蛋白質の立体構造において外側に露出している部分のポリペプチドが用いられる。このような部分ポリペプチドとして好ましくは、ラベル化増強配列がアミノ酸をコードする場合そのポリペプチド、または、該ポリペプチドとそのC末端にラベル化化合物が結合した分子等が用いられる。タグや目的蛋白質の部分ポリペプチドに特異的に結合する抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。また、タグに対する抗体は市販のものが好ましく用いられる。
目的蛋白質の部分ペプチドのうち、特にラベル化増強タグがコードするポリペプチド、あるいは該ポリペプチドとそのC末端にラベル化化合物が結合した分子を抗原とする抗体の取得方法について以下に詳細に説明する。上記抗原となる分子に、一般的にはキャリアーとしてKLH(キーホール・リンペット・ヘモシアニン)、BSA(ウシ血清アルブミン)、OVA(オバルブミン)などの蛋白質または高分子体に結合もしくは重合させたものを免疫用抗原として使用する。具体的には、例えば、選択されたラベル化増強配列がコードするポリペプチドのN末端にさらにシステインを付加したものや、該ポリペプチドのC末端にラベル化化合物が結合した分子のN末端にさらにシステインを付加したものを合成し、PIERCE社Imject Maleimide Activated Carrier Proteinsに結合させたもの等が挙げられる。また、このようにして作製した免疫用抗原を1種以上混合して免疫用抗原としてもよい。抗原となる部分ポリペプチドは、化学合成したものでもよいし、公知の遺伝子工学的手法を用いて作製したものでもよい。
免疫に使用する動物は特に限定されないが、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、マウス、ラット、モルモット、ニワトリ等はいずれも使用できる。免疫用抗原の動物への接種は、皮下、筋肉内、腹腔内に完全フロイントアジュバントや不完全フロイトアジュバントと免疫用抗原をよく混和して行う接種は、2週間から5週間ごとに実施し、接種した抗原に対する免疫動物の抗体価が充分に上昇するまで続ける。
モノクローナル抗体を調製する場合、この後、免疫動物に対して抗原のみの静脈注射を行い、その3日後に抗体産生細胞を含むと考えられる脾臓もしくはリンパ節を採取し、この脾臓細胞またはリンパ細胞を腫瘍細胞と細胞融合させる。この後、細胞融合して不死化した抗体産生細胞(ハイブリドーマ)を単離する。ここで使用する腫瘍細胞は、一般的に免疫を行った動物から調製される脾臓細胞もしくはリンパ細胞と同一種であることが望ましいが、異種動物間のものでも可能である。
腫瘍細胞の例として、p3(p3/x63−Ag8)、P3U1、NS−1、MPC−11、SP2/0、FO、x63.6.5.3、S194、R210等の骨髄腫細胞が使用される。細胞融合は一般に行われている方法、例えば「単クローン抗体実験マニュアル」(講談社サイエンティフィック1987年出版)に従って実施すればよい。細胞融合は、融合させる細胞を懸濁した融合培地に細胞融合促進剤を加えることに実施することができる。細胞融合促進剤としては、センダイウイルスや平均分子量1000〜6000のポリエチレングリコールなどが挙げられる。この際、更に融合効率を高めるために、ジメチルスルホキシド等の補助剤やIL−6等のサイトカインを融合培地に添加することもできる。免疫を行った脾臓細胞もしくはリンパ細胞に対する腫瘍細胞の混合比は、例えば腫瘍細胞に対し、脾臓細胞もしくはリンパ細胞を約1倍から10倍程度用いればよい。
上記の融合培地としてはERDF培地、RPMI−1640培地、MEM培地等の通常の各種培地を使用することができ、融合時は通常、牛胎児血清(FBS)等の血清を培地から抜いておくのがよい。融合は、上記の免疫を行った脾臓細胞もしくはリンパ細胞と腫瘍細胞との所定量を上記の培地内でよく混合し、予め37℃程度に加温しておいたポリエチレングリコール溶液を20〜50%程度加え、好ましくは30〜37℃で1〜10分程度反応させることによって実施する。以降、適当な培地を逐次添加して遠心し、上清を除去する操作を繰り返す。
目的とするハイブリドーマは、通常の選択培地、例えばHAT培地(ヒポキチンサン、アミノプテリン及びチミジンを含む培地)で培養する。このHAT培地での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(未融合細胞等)が死滅するのに充分な時間、通常では数日から数週間行えばよい。
ラベル化増強配列がコードするポリペプチド、あるいは該ポリペプチドのC末端にラベル化化合物が結合した分子に対するモノクローナル抗体を取得する際、最も技術的に重要な点がそのスクリーニングである。ラベル化増強配列がコードするポリペプチド、あるいは該ポリペプチドのC末端にラベル化化合物が結合した分子に対するモノクローナル抗体を産生しているハイブリドーマのスクリーニングは、ラベル化増強配列がコードするポリペプチド、あるいは該ポリペプチドのC末端にラベル化化合物が結合した分子もしくはキャリアー蛋白質とラベル化増強配列がコードするポリペプチド、あるいは該ポリペプチドのC末端にラベル化化合物が結合した分子が結合したものなどを材料とし、様々な免疫化学的方法で解析することにより可能となる。
例えば、ラベル化増強配列がコードするポリペプチド、あるいは該ポリペプチドのC末端にラベル化化合物が結合した分子をスクリーニング用抗原として用い、これらのスクリーニング用抗原とハイブリドーマ培養上清中に分泌されるモノクローナル抗体との結合を、ELISA法などの酵素免疫測法、またはウエスタンブロッティング法などで解析して、目的とするハイブリドーマを選択することができる。
具体的には、ラベル化増強配列がコードするポリペプチド、あるいは該ポリペプチドのC末端にラベル化化合物が結合した分子、もしくはこれらが結合したキャリアー蛋白質をスクリーニングプレートなどに付着させ、スクリーニングプレートをブロッキング操作後、上記ハイブリドーマの培養上清を添加して、これらを認識する抗体を分泌しているハイブリドーマを選別する。これら選別されたハイブリドーマに対し、さらにキャリアー蛋白質のみを付着させブロッキング操作を行ったスクリーニングプレートを使用し、このキャリアー蛋白質を認識しない抗体を分泌しているハイブリドーマを選別する。
例えば、選択するハイブリドーマの培養上清をラベル化増強配列がコードするポリペプチド、あるいは該ポリペプチドのC末端にラベル化化合物が結合した分子、もしくはこれらが結合したキャリアー蛋白質、およびキャリアー蛋白質のみが付着したELISA法用のプレートに添加して反応させ、十分な洗浄操作後、標識抗マウスIgGポリクローナル抗体を添加してさらに反応させる。洗浄操作後に標識の検出を行い、ラベル化増強配列がコードするポリペプチド、あるいは該ポリペプチドのC末端にラベル化化合物が結合した分子、もしくはこれらが結合したキャリアー蛋白質を付着したプレートに反応性を有し、キャリアー蛋白質のみを付着させたプレートに対して反応性を示さない培養上清を有するハイブリドーマを選択する。標識としては、後述する各種酵素、蛍光物質、化学発光物質、ラジオアイソトープ、ビオチンまたはアビジン等が用いられる。
上記のスクリーニングにより、ラベル化増強配列がコードするポリペプチド、あるいは該ポリペプチドのC末端にラベル化化合物が結合した分子を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが得られる。
得られたハイブブリドーマは、限界希釈法によりクローニングすることにより、単一のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンを得ることができる。このハイブリドーマクローンは、あらかじめFBS中に含まれるウシ抗体(IgG)を除いたFBSを1〜10%程度加えた培地または無血清用培地を用いて培養を行い、得られた培養上清を目的のモノクローナル抗体を精製する原料とする。一方、得られたハイブリドーマクローンをあらかじめプリステンを投与したBalb/CマウスまたはBalb/c(nu/nu)マウスの腹腔内に移植し、10〜14日後にモノクローナル抗体を高濃度に含む腹水を採取し、目的のモノクローナル抗体を精製する原料としてもよい。モノクローナル抗体を精製する方法は、通常の免疫グロブリン精製法を用いれば良く、例えば、硫安分画法、ポリエチレン分画法、エタノール分画法、陰イオン交換クロマトグラフィー、プロテインAまたはプロテインGが結合したアフィニティークロマトグラフィー等により実施することができる。
ポリクローナル抗体を調製する場合には、上述の免疫動物に対して抗原のみの静脈注射を行い、その3〜5日後に抗血清を取得する。取得した抗血清からポリクローナル抗体を精製する方法は、通常の免疫グロブリン精製法を用いれば良く、例えば、硫安分画法、ポリエチレン分画法、エタノール分画法、陰イオン交換クロマトグラフィー、プロテインAまたはプロテインGが結合したアフィニティークロマトグラフィー等により実施することができる。
ラベル化増強配列がコードするポリペプチド、あるいは該ポリペプチドのC末端にラベル化化合物が結合した分子を抗原とするポリクローナル抗体を取得するための精製操作とは、上述と同様の方法を用いることができる。
このようにして得られる目的蛋白質の部分ポリペプチド、あるいはタグと特異的に結合する抗体は、そのまま用いてもよいし、定法であるパパイン処理によって得られるFabもしくはペプシン処理によって得られるF(ab’)2またはF(ab’)の形態として用いてもよい。また、該抗体のH鎖とL鎖の両可変ドメイン内の相補性決定領域(CDR)、または超可変領域などを含む断片や、これをコードする遺伝子も本発明に含まれる。さらに、上述のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系も本発明に含まれる。
上記以外にも、本発明におけるラベル化蛋白質の精製法に関しては、一般的に蛋白質の精製に用いられるあらゆる方法が利用可能であり、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、分子ふるいクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル電気遊動法、免疫電気遊動法、透析法、沈殿、限外濾過法等を用いることができ、また、これらを組み合わせて使用することもできる。
また、ここで述べた工程の一部および全工程は、各種分注器およびその機能を備えた自動化ロボット、例えばテカン社やベックマンコールター社等のものを利用し、その工程を半自動化もしくは自動化することができる。
かくして精製、回収されたラベル化蛋白質は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)等により分離し、該蛋白質に結合しているラベル化化合物を検出することにより確認することができる。また、蛋白質のラベル化効率は、上記SDS−PAGEにより分離された蛋白質のラベル量、およびラベル化された蛋白質量を解析することにより算出することが可能である。これらのラベルから蛋白質は、その分子量ごとにSDS−PAGEやゲル濾過法などで分離、回収することもできる。そしてこれらをマススペクトル法等を用いて質量分析したり、そのペプチドを解析することにより、C末端ラベル化蛋白質内に存在するアミノ酸配列を決定することが可能である。また簡便には、断片化されたラベル化蛋白質の場合等、その混合物に含まれる各蛋白質の分子量をSDS−PAGE等を用いて決定し、目的蛋白質の全長の分子量とアミノ酸配列とを比較することにより、断片化されたラベル化蛋白質が有するアミノ酸配列を求めることが可能である。
本発明の方法により合成されるラベル化蛋白質は、分子生物学や細胞生物学、さらには生化学等の種々の分野で利用が可能である。例えば、目的蛋白質と物質間の相互作用に対する検出、解析、測定や、目的蛋白質の個体あるいは細胞内における動態の解析、あるいは目的蛋白質のラベル部から発せられる信号量を指標とした蛋白質の定量等に用いることができる。
上記の解析に用いられるラベル化蛋白質は、本発明の方法により作製されたものであれば如何なるものでもよい。このうち、上記のC末端がラベル化された断片化蛋白質(または蛋白質群)は、目的蛋白質の活性状態が不明で、相互作用に必要な活性部位(ドメイン)を自分自身の制御部位(ドメイン)で覆って抑制している(autoregulation(自己抑制))ことが疑われる蛋白質−物質間の相互作用解析で特に好ましく用いられる。また、数多くの目的蛋白質について網羅的に、ハイスループットに解析する場合にも該蛋白質群を用いることが好ましい。
また、解析方法に応じて、該蛋白質を固相(基盤)に結合して用いることも好ましい。例えば、複数種類のラベル化蛋白質を、一つの基盤表面に、または複数の領域に区画された基盤表面のそれぞれに結合させたもの(以下、これを「蛋白チップ」と称することがある)等が挙げられる。蛋白チップ上の領域数は特に制限はないが、検出機器等との組み合わせから、6の倍数であることが好ましく、具体的には、6〜1536個の範囲、又はそれ以上であることが好ましい。
基盤材料としては、非伝導性の材質として、ガラス、セメント、陶磁器等のセラミックス又はニューセラミックス、ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ビスフェノールAのポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等のポリマー、シリコン、活性炭、多孔質ガラス、多孔質セラミック、多孔質シリコン、多孔質活性炭、織編物、不織布、濾紙、短繊維、メンブレンフィルターなどの多孔質物質などを挙げることができる。具体的には、マイクロタイタープレートや各種ビーズ、チップ等が挙げられる。また、導電性のものとしては、グラファイト、グラシーカーボン、パイリティックグラファイト、カーボンペースト、カーボンファイバーなどの炭素、白金、白金黒、金、パラジウム、ロジウム等の貴金属、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化鉛等の酸化物、Si、Ge、ZnO、CdS、TiO、GaAs等の半導体電極、チタン等を挙げることができる。これらは、導電性高分子によって被覆されいてもよい。これらの中で、特に、各種ポリマー、ガラス、シリコン、金もしくはグラシーカーボン等のチップを用いることが好ましい。基盤の厚さや形は、用いる解析方法や検出機に応じて適宜選択することができる。
ラベル化蛋白質の上記基盤への固定は、その何れの位置で固定されていてもよく、また二箇所以上で固定されていてもよい。また、固定化した蛋白質を物質との相互作用解析に用いる場合には、相互作用に影響のない位置で固定されていることが好ましい。固定化方法は特に制限はなく、共有結合、イオン結合、物理的吸着等による結合で固定化されていることが好ましい。例えば、蛋白質の特定の反応基と基板との間の共有結合による方法、目的蛋白質中のペプチドと親和性を有する物質との結合による方法、目的蛋白質に結合させた物質と親和性を有する物質との結合による方法等が挙げられる。
具体的な固定化方法としては、例えば、基盤表面を金で蒸着処理した場合には、システイン基を導入したラベル化蛋白質を上記の方法に準じて作製し、そのシステイン残基のメルカプト基と金との配位結合を介して、ラベル化蛋白質を基盤に結合させることができる。このシステイン残基の該蛋白質内における配位位置は、蛋白質のC末端あるいはN末端であることが好ましい。しかしながら、蛋白質の高次構造形成あるいは相互作用を阻害する位置であれば必ずしも蛋白質の末端でなくてもよい。
また、基盤表面を、グラシーカーボンで塗布処理した場合には、そのグラシーカーボン層を過マンガン酸カリウムで酸化することによって、基盤表面、あるいはグラシーカーボン層のさらに表面にカルボン酸基が導入され、蛋白質はアミド結合により基盤上に固定化される。さらに、基盤上にCMデキストラン等の親水性ポリマーが固定されている場合には、これらを介してC末端ラベル化蛋白質を基盤上に固定化することができる。親水性ポリマーとしては、カチオン性、あるいはアニオン性もしくは両性イオン性のポリマーを用いることができ、目的蛋白質の物質との相互作用を阻害しないものであることが好ましい。さらに、基盤表面を、ポリ−L−リシン、ポリエチレンイミン、ポリアルキルアミン等で処理した場合には、ラベル化蛋白質を固定することができる。この場合、ラベル化蛋白質を付着させた後に、該基盤を加熱処理や紫外線処理を行うことにより、蛋白質と基盤表面との間に架橋を形成し、より安定に固定化することができる。
また、目的蛋白質中のペプチドと親和性を有する物質との結合による方法として、上記の目的蛋白質の部分ペプチドに対する抗体を基盤に結合させ、この抗体とC末端蛋白質との結合により該蛋白質を固定化する方法等が挙げられる。このような抗体を用いたラベル化蛋白質の基盤への固定化は、該蛋白質を含む水性液として、上述の無細胞蛋白質合成系において合成した合成液を精製せずに用いることができるため好ましい。抗体は、上記した方法により作製されたものが用いられるが、断片化蛋白質群を固定化する場合には、目的蛋白質のN末端の部分ペプチド、または目的蛋白質のN末端に融合させたタグペプチドを抗原とする抗体を用いることが好ましい。抗体の基盤への固定化は、上記のラベル化蛋白質の基盤への固定化方法と同様にして行うことができる。また、基盤に抗体に対する親和性物質が結合しているものに抗体を結合させる方法によることもできる。抗体に対する親和性物質とは、例えば、プロテインGやプロテインA等が挙げられ、これらの固定化方法は、上記ラベル化蛋白質の基盤への固定化方法と同様にして行うことができる。かくしてラベル化蛋白質と特異的に結合する抗体を表面に結合した基盤は、表面の過剰な蛋白質結合部位をウシ血清アルブミン、スキムミルク、またはゼラチン等でブロッキングした後に、ラベル化蛋白質と接触させることが好ましい。ここで、C末端ラベル化タンパク質は、これを合成した無細胞蛋白質合成反応液をそのまま用いることができる。
上記した何れの方法においても、蛋白質が含まれる水性液を基板上に点着して行うことが好ましい。点着の方法としては、マニュアル操作によっても行うことができるが、DNAマイクロアレイ法等で利用されている各種スポッター装置を用いて行うこともできる。点着の条件は、使用する基盤の大きさ、点着する蛋白質の種類、数などによって適宜選択される。具体的には、例えば、市販のスポッター装置を用いて、複数の領域に区画された基板上に、それぞれの領域に対応するようにラベル化蛋白質を含む水性液を点着することが好ましい。点着後、未固定の蛋白質を各種界面活性剤やEDTA、あるいはEGTA等のキレート剤、0.1〜2Mの各種塩等を含む洗浄液を使用し、洗浄除去しておくことが好ましい。
ラベル化蛋白質の固相への固定化は、その工程の一部または全部を各種分注機およびその機能を備えた自動化ロボット、例えばテカン社やベックマンコールター社などの市販のロボットを用いて、半自動化または自動化することができる。
本発明の方法で合成されたラベル化蛋白質は、蛋白質−物質間相互作用の解析に用いることができる。
「蛋白質−物質間相互作用解析」とは、蛋白質と標的物質が相互に何らかの作用をすることを解析することを意味する。なんらかの作用とは、例えば、結合、活性化、修飾などが挙げられる。「標的物質」とは、具体的には蛋白質、核酸、糖鎖、低分子化合物などが挙げられる。
蛋白質−物質間相互作用解析法としては、例えば、蛍光測定法、時間分解蛍光測定法、蛍光偏向解析法、蛍光スキャナーやイメージャーを利用した蛍光イメージング法、蛍光共鳴エネルギー移動法(Fluoresence Resonance Energy Transfer:FRET)、蛍光相関分光法(Fluorescence orrelation Spectroscopy:FCS)、蛍光相互相関分光法(Fluorescence Cross−Correlation Spectroscopy:FCCS)、エバネッセント場分子イメージング法、平面導波路エバネッセント蛍光法、Luminexシステム(Luminex Corporation)などに代表されるフローサイトメトリー法、さらに酵素を利用した発色・吸光測定法、発光蛋白質を用いた発光測定法、発光化合物などを利用した化学発光測定法、電気化学発光法もしくは化学発光酵素測定法、表面プラズモン共鳴装置を利用したSPR法、さらにはラベル化蛋白質を細胞や組繊内で検出することを特徴とした組識解析法、親和性樹脂吸着法、ポリアクリルアミドゲル及びアガロースゲル電気泳動法、液体クロマトグラフィー装置などを利用したクロマトグラフィー法、放射能スキャナー法、シンチレーションカウント法、さらには、固相に対し、ラベル化蛋白質を高密度に結合させたプロテインチップやプロティンアレイ法などが用いられる。これらの方法を用いた具体的な解析方法は、例えば、WO01/16600号公報に記載の方法が挙げられる。また、目的蛋白質の部分ペプチド、または目的蛋白質に融合させたタグペプチドを抗原とする抗体を用いた検出方法も用いられる。抗体は、上記した方法により作製されたものが用いられるが、断片化蛋白質群について解析する場合には、目的蛋白質のN末端の部分ペプチド、または目的蛋白質のN末端に融合させたタグペプチドを抗原とする抗体を用いることが好ましい。また、検出方法としては、それ自体公知の一般に用いられる方法、例えば、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、化学発光免疫測定法、イムノブロッティング法、イムノクロマト法、ラテックス凝集法が用いられる。
上記相互作用の一例として、ラベル化蛋白質とC末端ラベル化蛋白質間の相互作用を蛍光イメージング法を用いて解析する方法を以下に示す。まず、上記した方法で、蛋白チップを作製する。次に、蛋白チップに用いたラベル化蛋白質の蛍光物質とは異なる蛍光物質を有するように、上記の本発明の方法によりラベル化蛋白質を無細胞蛋白質合成系を用いて合成する。この解析対象となるラベル化蛋白質を含む無細胞蛋白質合成系の反応液を上記蛋白チップに対して添加する。そして、タンパクチップ上で添加したラベル化蛋白質と固定化されたラベル化蛋白質による蛋白質複合体を形成させる。次に洗浄操作を行うことにより、添加した反応溶液中に含まれる無細胞蛋白質合成用の細胞抽出液由来の蛋白質や、蛋白質のC末端に結合しなかったラベル化化合物を除去する。洗浄方法は、蛋白チップを作製する際の洗浄と同様にして行うことができる。この後、形成された蛋白質複合体を蛋白チップ上で検出する。検出方法としては、添加したラベル化蛋白質の蛍光量と固定化されているラベル化蛋白質の蛍光量を、蛍光プレートリーダーで解析したり、蛍光スキャナーやイメージャーを用いた蛍光イメージング法で解析し、解析対象となる蛋白質の蛍光量と固定化した蛋白質の蛍光量の比率を解析すること等により両者の相互作用を解析することができる。また、後述する方法によれば、両者の蛋白質の定量を行うこともできる。
これらのラベル化蛋白質を用いた蛋白質−物質間相互作用解析は、その工程の一部または全部を各種分注機およびその機能を備えた自動化ロボット、例えばテカン社やベックマンコールター社などの市販のロボットを用いて、半自動化または自動化することができる。
本発明の方法により作製されるラベル化蛋白質は、そのラベル部から発せられる信号量を測定することにより、該蛋白質を定量することができる。例えば、上記で詳述した方法によりラベル化蛋白質を固定化し、固定化された蛋白質のラベル部より発せられる信号を検出して定量する方法などが用いられる。C末端蛋白質のラベル部より発せられる信号の検出方法は、該信号を検出し得る方法であれば如何なるものであってもよい。例えば、ラベル化物質として蛍光部物質を用いた場合には、蛍光測定法、時間分解蛍光測定法、蛍光偏向解析法、蛍光スキャナーやイメージャーを利用した蛍光イメージング法、蛍光共鳴エネルギー移動法(Fluoresence Resonance Energy Transfer:FRET)、エバネッセント場分子イメージング法、平面導波路エバネッセント蛍光法などにより検出することができる。また、ラベル化蛋白質を、これに特異的に結合する抗体を用いて競合的結合アッセイ方法やサンドイッチアッセイ法によりラベル化蛋白質を定量することができる。さらに、ラベル化蛋白質に特異的に結合する抗体を用い免疫組織染色法や免疫沈降法を行うことにより、細胞や組織に導入したラベル化蛋白質を定量することも可能である。
これらの方法の中で、ラベル化蛋白質を合成した無細胞蛋白質合成系の反応溶液中のラベル化蛋白質を定量する方法をその一例として詳述する。上記した無細胞蛋白質合成系を用い、Cy3などの蛍光物質をラベル部に有するラベル化蛋白質を合成する。このC末端ラベル化蛋白質を含む反応溶液を、例えば上記(i)の該ラベル化蛋白質に特異的に結合する抗体を固相化したマイクロタイタープレートなどの基盤に対して添加する。この基盤上でラベル化蛋白質と抗体の複合体を形成させ、溶液中のラベル化蛋白質を抗体を介して基盤上に固定化する。次に洗浄操作を行うことにより、添加した翻訳溶液中に含まれる無細胞蛋白質合成用の細胞抽出液由来の蛋白質や、蛋白質のC末端に結合しなかったラベル化化合物を基盤表面より除去する。この後、基盤上の蛍光量を蛍光プレートリーダーで解析したり、蛍光スキャナーやイメージャーを利用した蛍光イメージング法で解析することにより、基盤上に固定化されたラベル化蛋白質量を測定することができる。このように、無細胞蛋白質合成系の反応溶液中に含まれるラベル化蛋白質の活性を検討する前に、本方法によりラベル化蛋白質量を定量しておくことにより、ラベル化蛋白質の活性の解析をより簡便に定量的に行うことができる。
また、ラベル化蛋白質のラベル部のラベル物質として、アルカリホスファターゼ、西洋わさびペルオキシターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼなどの酵素が付加されている場合、これらの酵素に対する発色基質を添加して発色、または吸光量を測定する方法が利用できる。またラベル化蛋白質のラベル部のラベル物質としてホタルルシフェリン、ルミノール誘導体、エクオリン、アクリジウム塩、アクリジウムサクシイミドエステル、CDP−Star、CSPD、AMPPD、Galacton、Galacton−Plus、Galacton−Star、Glucuron、Glucinなどの発光化合物などを利用した場合、発光測定法、化学発光測定法、電気化学発光法、化学発光酵素測定法などが利用可能である。さらにラベル部のラベル物質として、32P、35S等の放射性同位元素が付加されている場合は放射能スキャナー法を利用できる。
また、ラベル化蛋白質の定量法の他の一例としては、上記で用いた抗体をドナー蛍光色素(Euキレート等)で標識しておき、これに対してアクセプター蛍光色素(Cy5等)をラベル部に持つラベル化蛋白質を含む無細胞蛋白質合成系の反応溶液と混合し、該抗体と該C末端ラベル化蛋白質との免疫複合体を形成させる。この後、ドナー蛍光色素を光源によって励起させることによりこの免疫複合体上で蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)が起こり、アクセプター蛍光色素が励起される。この際、アクセプター蛍光色素から放射された特定波長を検出・解析することによりラベル化蛋白質を測定することができる。この方法の場合、一般的にはドナー蛍光色素で標識された抗体は固相面に固定する必要はなく、また免疫複合体を形成させたあとの洗浄操作も不要である。すなわち上記のラベル化蛋白質を含む無細胞蛋白質合成系の反応溶液と抗体溶液を混合すれば測定できる。従って、無細胞蛋白質合成系の反応溶液中に含まれるラベル化蛋白質の活性の検討や、該蛋白質を基盤に固定化する前に、本方法によりラベル化蛋白質量を定量しておくことにより、これらを簡便に定量的に行うことができる。
また、本発明によれば、少なくとも上記のラベル化増強配列を含む、遺伝子テンプレート又はその転写鋳型となるDNAを製造するためのベクターまたはポリメラーゼチェインリアクション用プライマーが提供される。ベクターとしては、通常のクローニングベクター又は発現ベクターを用いることができ、プラスミドベクター、ファージベクターのいずれでもよい。通常は、該DNAが導入される宿主に適したプロモーター等の発現制御領域DNAが既に挿入されている市販の発現ベクターに、上記のラベル化増強配列を挿入したものを用いることができる。このようなラベル化増強配列を挿入すべき発現ベクターとして、具体的には例えば、宿主が大腸菌の場合では、pET3、pET11(ストラタジーン社製)pGEX(アマシャムファルマシアバイオテク社製)等が挙げられ、酵母の場合ではpESP−Iエクスプレッションベクター(ストラタジーン社製)等が挙げられ、さらに昆虫細胞の場合ではBacPAK6(クロンテック社製)等が用いられる。また宿主が動物細胞の場合では、ZAP Express(ストラタジーン社製)、pSVK3(アマシャムファルマシアバイオテク社製)等が挙げられる。ラベル化増強配列の挿入部位は、目的蛋白質のORFを挿入すべき部位の3’末端側で、ORFと読み取り枠がずれないようにマルチクローニングサイト等を設計するのが好ましい。ポリメラーゼチェインリアクション用プライマーとしては、該プライマーを用いて目的蛋白質のORFを含むポリヌクレオチドを増幅して得たDNAが、上記無細胞蛋白質合成系で蛋白合成を行う鋳型となり得るものが好ましい。具体的には、コムギ胚芽抽出液を含む合成系の鋳型として作製する場合、WO02/24939に記載の方法で設計し、3’側のプライマーの目的蛋白質のORFの3’側に本願発明のラベル化増強配列がORFとの読み取り枠がずれないように結合されているものが好ましい。また、上記のベクター中に挿入されているラベル化増強配列を増幅することができるプライマーを適宜設計して使用することができる。プライマーの設計及び合成は当業者に公知の常法により行うことができる。
さらに本発明によれば、上記のベクター及びポリメラーゼチェインリアクション用プライマーを含むラベル化蛋白質を製造するためのキットも提供される。本キットには、上記以外にもPCR用試薬等の試薬類、陽性コントロール、遺伝子テンプレートの翻訳のための試薬、遺伝子テンプレートの調製のための転写用試薬等を含むこともできる。
【実施例】
以下に実施例を挙げ本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例は本発明の一例を示すものに過ぎず、本発明の範囲は以下の実施例により何ら制限されるものでない。
例1 各種C末端ラベル化蛋白質の製造
(1)遺伝子テンプレートの調製
PK14(GenBank accession No.AK074856)、PK−22(アミノ酸配列:配列番号2、塩基配列:配列番号1)、POU(アミノ酸配列:配列番号15、塩基配列:配列番号14)、PK20(アミノ酸配列:配列番号4、塩基配列:配列番号3)のオープンリーディング配列(以下、これを「ORF」と称することがある)の各々5’上流にGlutathion−S−transferase(以下、これを「GST」と称することがある、アミノ酸配列:配列番号17、塩基配列:配列番号16)のORF配列を付加したDNA断片、及びGSTのORF配列からなるDNA断片を調製し、それぞれGenome Research,12:487−492(2002)およびProc.Natl.Acad.Sci.USA,99:14652−14657(2002)に記載の方法に準じてPCRを行い、遺伝子テンプレートの転写鋳型となるDNAを調製した。このDNAを鋳型としてSP6 RNA Polymerase(Promega社製)を用いて転写反応を行ないmRNAを合成後、エタノール沈殿操作によりmRNAを精製した。このmRNAを小麦胚芽抽出液を用いた蛋白質合成に使用する遺伝子テンプレートとした。
(2)コムギ胚芽抽出液の調製
北海道産のチホク小麦(未消毒)を1分間に100gの割合でミル(Fritsch社製Rotor Speed Mill pulverisette 14型)に添加し、回転数7000rpmで種子を温和に破砕した。この破砕処理を4回繰り返して行った。篩いで発芽能を有する胚芽を含む画分(メッシュサイズ0.71mm〜1.00mm)を回収した後、四塩化炭素とシクロヘキサンの混合液[四塩化炭素:シクロヘキサン=2.4:1(容量比)]を用いた重液選別によって、発芽能を有する胚芽を含む浮上画分を回収し、室温乾燥によって有機溶媒を除去した後、室温送風によって混在する種皮等の不純物を除去して粗胚芽画分を得た。
次に、ベルト式色彩選別機BLM−300K(製造元:株式会社安西製作所、発売元:株式会社安西総業)を用いて、次の通り、色彩の違いを利用して粗胚芽画分から胚芽を選別した。この色彩選別機は、粗胚芽画分に光を照射する手段、粗胚芽画分からの反射光及び/又は透過光を検出する手段、検出値と基準値とを比較する手段、基準値より外れたもの又は基準値内のものを選別排除する手段を有する装置である。
色彩選別機のベルト上に粗胚芽画分を1000乃至5000粒/m2となるように供給し、ベルト上の粗胚芽画分に蛍光灯で光を照射して反射光を検出した。ベルトの搬送速度は、50m/分とした。受光センサーとして、モノクロのCCDラインセンサー(2048画素)を用いた。
まず、胚芽より色の黒い成分(種皮等)を排除するために、ベージュ色のベルトを取り付け、胚芽の輝度と種皮の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。次いで、胚乳を選別するために、濃緑色のベルトに取り替えて胚芽の輝度と胚乳の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。吸引は、搬送ベルト上方約1cm位置に設置した吸引ノズル30個(長さ1cm当たり吸引ノズル1個並べたもの)を用いて行った。
この方法を繰り返すことにより胚芽の純度(任意のサンプル1g当たりに含まれる胚芽の重量割合)が98%以上になるまで胚芽を選別した。
上記によって得られた小麦胚芽50gを4℃の蒸留水中に懸濁し、超音波洗浄器を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄した。次に、ノニデット(Nonidet)P40の0.5容量%溶液に懸濁し、超音波洗浄器を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄して胚乳分を除去した小麦胚芽を得た。
次いで、以下の操作を4℃で行い、胚芽抽出物含有液を得た。まず、洗浄した小麦胚芽を抽出溶媒(HEPES−KOH(pH7.6)80mM、酢酸カリウム200mM、酢酸マグネシウム2mM、塩化カルシウム4mM、L型アミノ酸20種類各0.6mM及びジチオスレイトール8mM)100mlとともにワーリングブレンダーに入れ、回転数5000〜20000rpmで30秒粉砕した。ブレンダー内壁に付着した胚芽等をかき落とした後再び5000〜20000rpmで30秒粉砕する作業を2回行った。得られた胚芽粉砕物の粒径分布をレーザー散乱方式粒度分布装置(堀場製作所製LA−920)を用いて測定した。
得られた抽出液と粉砕胚芽の混合物を遠心管に移し30000g、30分間の遠心をかけ上清を採取した。これをさらに30000g、30分間の遠心をかけ上清を採取する操作を5回繰り返し濁りのない上清を得た。これをあらかじめ溶液(HEPES−KOH(pH7.6)40mM、酢酸カリウム100mM、酢酸マグネシウム5mM、L型アミノ酸20種類各0.3mM及びジチオスレイトール4mM)で平衡化しておいたセファデックスG−25カラムでゲルろ過を行った。得られた液を30000g、12分間の逮心をかけ上清を採取し、これを小麦胚芽抽出物含有液とした。試料の濃度は、260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が80〜150(A260/A280=1.5)になるように抽出溶媒で調整した。
(3)蛋白質合成
反応層溶液(25μl)は、(2)で調製した小麦胚芽抽出液:6μl、(1)で調製したmRNA:約20pmol/5〜20μg)を含み、その組成が、24mM Hepes/KOH(pH7.8)、1.2mM ATP、0.25mM GTP、16mM creatine phosphate、10μgcreatine kinase、20units ribonuclease inhibitor、2mM DTT、0.4mM spermidine、0.3mM L型アミノ酸(20種)、2.7mM magnesium acetate、100mM potassium acetate、5μg 小麦胚芽由来tRNA、0.05% Nonidet P−40、0.005% NaNから成るものを調製した。一方、供給層用溶液は、31.3mM HEPES/KOH(pH7.8)、2.67mM Mg(OAc)、93mM KOAc、1.2mM ATP、0.257mM GTP、16mM creatie phosphate、2.1mM DTT、0.41mM spermidine、0.3mM L型アミノ酸(20種)、1μM E−64、0.005%NaN、0.05% NP−40から成るものを調製した。
上記反応層溶液、及び供給層溶液それぞれに対し、ラベル化化合物として、Cy3を付加したピューロマイシン誘導体(図3(1))を最終濃度16μMになるように添加した。得られた供給層溶液(125μl)に対し、反応層溶液(25μl)を重層後、26℃にて保温し、16時間の蛋白質合成および標識反応を行った。
反応終了後、反応層溶液および供給層溶液をよく混合し、このうち6μlに対して、還元条件下のSDS−ポリアクリルアミドゲル(15%)電気泳動を実施し、ラベル化蛋白質を示すバンドの蛍光量を、Molecular Imager(Bio Rad社製)を用いて定量した。この際、上記のラベル化蛋白質合成に用いたラベル化化合物を上記と同様にSDS−ポリアクリルアミドゲル(15%)電気泳動により分離したバンドを同様に定量し、これを標準(スタンダード)とした。
この結果を図4Aに示す。また、図4Bは上記で合成されたラベル化蛋白質のうち、ORF全長によりコードされる蛋白質(以下、これを「全長蛋白質」と称することがある;図4Aの矢印で示されたバンド)の蛍光量の定量値を示す。図中▲1▼は、GST−PK14のラベル化蛋白質を示し、▲2▼はGST−PK22、▲3▼はGST−POU、▲4▼はGST−PK20、▲5▼はGSTのみのラベル化蛋白質を示す。
図から明らかなように、GST−PK14、GST−PK22、GST−POUではラベル化蛋白質はほとんど検出されなかった。一方、GST−PK20、GSTはラベル化蛋白質が強く検出されるとともに、その断片化された蛋白質(以下、これを「断片化蛋白質」と称することがある)がラベル化されたものも検出された(図4A、▲5▼の点線矢印で示されたバンド)。これらの結果からラベル化化合物を用いた蛋白質C末端ラベル化法では、蛋白質の種類によりそのラベル化効率が著しく異なることが判った。
例2 GST蛋白質の各種断片化蛋白質のラベル化
(1)断片化蛋白質の解析
上記例1においてGST−PK20およびGSTは、その全長蛋白質が強くラベル化されると共に、ラベル化断片化蛋白質も検出された(図4A▲4▼および▲5▼)。そこで、上記例1で得られたラベル化GST全長蛋白質をSDS−ポリアクリルアミドゲル(18%)電気泳動法にて解析し、GST全長蛋白質と同等にラベル化される断片化蛋白質の分子量を測定し、該分子量から断片化蛋白質を予測した。この結果を図5Aに示す。
図から明らかなように、用いたGST蛋白質では、分子量約26〜29kDaの全長蛋白質(図中実線で示すバンド)が強くラベル化されているが、これと同等に強くラベル化された断片化蛋白質が分子量約13〜15kDの位置のバンドとして観察された(図中点線で示すバンド)。上記蛋白質合成系において、GST蛋白質は、N末端から蛋白質が合成され、そのペプチド伸長中のC末端にラベル化化合物が取り込まれることにより蛋白質合成が中断する。その結果、C末端にラベル化化合物が取り込まれた断片化蛋白質が生成されると考えられる。そこで、上記断片化蛋白質が有するアミノ酸配列は、配列番号17記載したアミノ酸配列のアミノ酸番号1から始まって、そのC末端は115番アスパラギン酸(D)から130番メチオニン(M)の間であると予測した。
(2)GST中のアミノ酸配列をコードする塩基配列がラベル化効率へ与える影響の検討
次にGST蛋白質中のアミノ酸配列又はそれをコードする塩基配列がタンパク質のラベル化量に影響を及ぼすかどうかを調べるために、GST全長蛋白質のC末端欠失体(配列番号17のアミノ酸番号で1〜195、1〜189、1〜152、1〜147、1〜130、1〜122および1〜115で示されるアミノ酸配列を有する断片化蛋白質)をコードする塩基配列を含むDNAを調製し、これを転写して遺伝子テンプレートを調製した。この遺伝子テンプレートを、例1(3)と同様に翻訳して、得られたラベル化断片化蛋白質の量を解析した。
各断片化蛋白質のC末端6残基のアミノ酸配列およびその塩基配列を図5Bに示した(図中、「各ドメイン長」として記載されている番号及び記号は、配列番号17のアミノ酸番号とアミノ酸を示す)。又、図5Cは、得られたラベル化断片化蛋白質量を、全長蛋白質との相対値として示した。
図から明らかなように、(1)GST蛋白質は、そのC末端のアミノ酸を欠失するに従いラベル化蛋白質の合成量が減少すること、(2)配列番号17のアミノ酸番号1〜115番のアスパラギン酸、1〜122番のアスパラギン酸、および1〜130番のアミノ酸配列を有する断片化蛋白質において、合成されるラベル化蛋白質量が多いことが判った。これらの結果は、合成される蛋白質のC末端アミノ酸配列又はそれをコードする塩基配列が、ラベル化蛋白質の合成量に重要な役割を担っていることを示している。
例3 特定のアミノ酸(塩基)配列をC末端に付加することのC末端ラベル化効率への影響の検討
例1に示した方法により、ラベル化蛋白質の合成量が低い蛋白質のORFからストップコドンを削除した塩基配列の3’末端に、GSTのC末端6残基のアミノ酸配列をコードする塩基配列を付加した遺伝子テンプレートを調製し、蛋白質のC末端ラベル化効率に及ぼす影響を検討した。
ラベル化蛋白質合成量が低い蛋白質として、Smad3(GenBank Accession No.NM_005902)を用い、そのORFからストップコドンを削除した塩基配列を有するDNAの3’末端に、GSTのC末6残基のアミノ酸(配列番号17のアミノ酸番号237〜242版で示される)をコードする塩基配列を例1(1)に記載の方法と同様にPCR法にて付加した。又、コントロールとして、上記塩基配列を付加しないDNAも作製した。これらのDNAを、例1に記載の方法と同様に転写、翻訳し、反応溶液をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動(18%)で分離し解析した。この結果を図6AおよびBに示す。図中、▲1▼はコントロールの結果を、また▲2▼はGSTC末アミノ酸を付加したもの結果を示す。又、図6Aの太矢印は、ラベル化された全長Smad3蛋白質のバンドを示す。図6Bは、コントロールを用いて合成されたラベル化された全長Smad3タンパク量に対して、GSTC末アミノ酸を付加した蛋白質のラベル化蛋白質合成量をその相対値で示した。
図から明らかなように、GSTのC末6残基のアミノ酸をコードする塩基配列をSmad3のストップコドンを削除したORFの3’末端に付加した結果、ラベル化されたSmad3蛋白質の合成量が極めて向上することが判った。これらの結果は蛋白質C末端ラベル化法においては、ラベル化タンパク合成量の低い蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に、ラベル化蛋白質合成量の多い蛋白質のC末端の数残基アミノ酸ををコードする塩基配列を付加することにより、ラベル化蛋白質合成量を上げることができることを示している。さらにラベル化された全長蛋白質とともに、ラベル化された断片化蛋白質の合成量も増加することが判った。
例4 C末端ラベル化増強配列の選択
(1)C末端ラベル化増強配列の選択
ランダムなアミノ酸配列より選択された5アミノ酸残基からなる5つのアミノ酸配列をコードする塩基配列(図7Aの「塩基配列」に示す)を、上記Smad3のORFからストップコドンを削除したものの3’末端に付加した塩基配列を有するDNAを調製し、これを遺伝子テンプレートの鋳型となるDNAとして調製した。該DNAを例1と同様に転写・翻訳し、合成されたラベル化蛋白質について例2と同様にして解析した。このうち、(1)で示したGRGAAGをコードする塩基配列については、その3‘末端にさらにアデニン2残基を付加したもの(配列番号10)を用いた。
得られたC末端ラベル化蛋白質のSDSポリアクリルアミド電気泳動(18%)により分離したパターン、およびラベル化全長蛋白質量について、例2と同様の方法で解析した結果を、図7BおよびCに示す。これらの結果から、図7Aの(1)〜(5)に示されるアミノ酸配列又はそれをコードする塩基配列を付加することにより、合成されるラベル化蛋白質量を向上させた。また(1)で示されるアミノ酸配列(配列番号9)又はこれをコードする塩基配列(配列番号10)の付加が、ラベル化蛋白質合成量が最も高いことが判った。
これらの結果は例3で示した天然の蛋白質(例えば、GST等)内に存在するペプチドのみならず、ランダムなアミノ酸配列から選択されるポリペプチドあるいはそれをコードする塩基配列の付加が、ラベル化蛋白質合成量を向上させる機能を有することを示している。
(2)増強配列の複数種の蛋白質のラベル化蛋白質合成量への影響の確認
次に、ラベル化蛋白質合成量が最も高かった図7A(1)で示される塩基配列(配列番号10)を、ラベル化蛋白質合成量低い複数の蛋白質のストップコドンを削除したORFの3’末端に付加して、これを遺伝子テンプレートとして例1と同様の方法で作製し、翻訳した。また、合成されたラベル化蛋白質量については、例2と同様に解析した。ラベル化蛋白質合成量が低い蛋白質としては、PPARγ(GenBank accession No.NM_015869)、RXRα(GenBank accession No.NM_002957)、Smad2(GenBank Accession No.NM_005901)、Smad3(GenBank accession No.NM_005902)、Smad4(GenBank accession No.NM_005359)を用いた。
合成されたラベル化蛋白質をSDSポリアクリルアミド電気泳動(18%)で分離した泳動パターンを、図7Dに示す。図中(+)は、図7A(1)に示される塩基配列(配列番号10)(以下、これを「増強配列(1)」と称する)を付加した場合の結果を示し、(−)は付加していない場合の結果を示す。図から明らかなように、増強配列(1)を付加することにより、全ての蛋白質でラベル化蛋白質合成量が上昇した。
例5 C末端ラベル化効率増強配列ラベル化増強配列の最適化
(1)欠失体、およびコドン置換体
上記例4にて見いだされた増強配列(1)に欠失あるいはアミノ酸のコドン変異体を作製し、増強配列の最適化をはかった。欠失体は、増強配列(1)3‘末端に付加されていた2残基のアデニンを欠失させたもの(図8A、C−del(1))、増強配列(1)がコードするアミノ酸GRGAAGのC末から1アミノ酸残基を欠失させたもの(図8A,C−del(2))、2アミノ酸残基を欠失させたもの(図8A,C−del(3))、3アミノ酸残基を欠失させたもの(図8A、C−del(4))、増強配列(1)がコードするアミノ酸GTGAAGのN末から1アミノ酸残基を欠失させたもの(図8A、N−del(1))、2アミノ酸残基を欠失させたもの(図8A,C−del(2))、3アミノ酸残基を欠失させたもの(図8、C−del(3))をそれぞれコードする塩基配列を用いた。また、コドン置換体としては、増強配列(1)を、異なるコドンにより置換した塩基配列(図8A、Mutation(1)〜(3))を用いた。
これらの塩基配列を、上記したSmad3のストップコドンを削除したORFの3’末端に付加した塩基配列を有する遺伝子テンプレートを作製し、例1と同様にして翻訳し、合成されたラベル化蛋白質について例2と同様に解析した。この結果を図8Cに示す。
これらの結果、増強配列(1)のアミノ酸配列のC末端から1アミノ酸残基を欠失させたポリペプチドをコードする塩基配列の付加により、欠失させないものを付加した時よりラベル化蛋白質合成量が上昇するが(図8C、C−del(2))、さらにアミノ酸残基を欠失させると合成されるラベル化蛋白質量は低下し、3アミノ酸残基を欠失させた場合にはラベル化蛋白質合成量が激しく低下すること(図8、C−del(4))がわかった。また、N末端からアミノ酸残基を欠失させた場合は、1アミノ酸残基を欠失させたポリペプチドをコードする塩基配列の付加により、ラベル化蛋白質合成量が上昇するが(図8C、N−del(1))、さらにアミノ酸残基を欠失させると合成されるラベル化蛋白質量は低下傾向にあるが、3アミノ酸残基を欠失させた場合でも、決失させないものを用いた場合と同等の効果を有していた。一方、コドン置換体では、そのラベル化蛋白質合成量への大きな影響は見られなかった。
(2)最適化増強配列のアミノ酸種の影響の解析
上記(1)で最適化されたC−del(2)(配列番号12)がコードするアミノ酸配列(配列番号11)について、コドン置換体を上記(1)と同様に作製し、これをGST(配列番号17、塩基配列は配列番号16)、Smad3(GenBank accession No.NM_005902)、Smad4(GenBank accession No.NM_005359)のストップコドンを削除したORFの3‘末端に付加した塩基配列を有する遺伝子テンプレートを作製し、例2と同様に翻訳し、合成されるラベル化蛋白質量を測定した。
また、C−del(2)がコードするアミノ酸配列GRGAAからN末とC末の1残基ずつを削除した配列(以下「RGAA」と称することがある、配列番号13)が、アミノ酸種によりどのような変化があるかを次のアミノ酸変異体を作製して解析した。まず、4アミノ酸残基すべてをアルギニンに変えたもの(図9A、R4)、グリシンに変えたもの(図9A、G4)、及びアラニンに変えたもの(図9A、A4)をコードする塩基配列(図9A、塩基配列に示す)を、上記蛋白質のストップコドンを削除したORFの3’末端に付加した塩基配列を有する遺伝子テンプレートを調製し、例1と同様にして翻訳し、合成されたラベル化蛋白質量を例2と同様にして解析した。この結果を図9Bに示す。
図から明らかなように、やはり、コドン置換はそのラベル化蛋白質合成量には影響しないことがわかった。また、アミノ酸種では、アルギニン及びグリシンに変えたものは、RGAAと同等または低下していたが、アラニンに変えたものは比較的高いラベル化蛋白質合成量を示していることがわかった。また、ラベル化蛋白質をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動で解析したところ、いずれの目的蛋白質においても、全長と断片化蛋白質が混合したものが合成されていた。
さらに、他のアミノ酸種のラベル化蛋白質合成に対する影響を解析した。複数種のアミノ酸4残基からなるポリヌクレオチドをコードする塩基配列を、GST蛋白質の断片(配列番号17のアミノ酸番号1〜219)をコードする塩基配列の3‘末端に付加した塩基配列を有する遺伝子テンプレートを調製し、これを例1の方法で翻訳した。得られたラベル化蛋白質の解析は、以下に述べる蛍光プレートアッセイにより、合成蛋白質量に対するラベル化蛋白質量の割合で行った同様に翻訳及び解析を行い、該配列を付加していないコントロールのラベル化蛋白質の割合に対する相対値として各種配列のラベル化強度を示した。
蛍光プレートアッセイは、まず、精製ウサギ抗GSTポリクローナル抗体(VERITAS社製)を50mM炭酸バッファー(pH9.2)により濃度20μg/mlに希釈し、50μl/wellの容量で96ウェルプレート(CORNING社製、黒、高結合型)に添加した。4℃にて12時間以上静置して抗体をプレートに吸着させ、このプレートをPBSバッファーで2回洗浄した。この後、上記にて調製したラベル化蛋白質を含む溶液をブロッキングバッファー(3%スキムミルク、0.05% Tween20/PBS)で150倍に希釈し、この溶液を50μl/wellの容量でこのプレートに添加した。ここで、GST蛋白質の断片(配列番号17のアミノ酸番号1〜219)をコードする塩基配列の3’末端に、C−del(2)GRGAAをコードする塩基配列を付加したものも調製し、得られたGST蛋白質をGlutathione Sepharose 4B(Amersham社製)を用いて精製したものを、スタンダードとして用いた。このプレートを室温で1時間静置し、洗浄バッファー(0.05% Tween20/PBS)により5回洗浄した。この後、FluoroLink−Ab Cy5 Labelling Kit(Amersham社製)を用いてCy5標識したウサギ抗GSTポリクローナル抗体をブロッキングバッファーで濃度5〜10μg/mlに希釈し、50μg/mlの容量で添加した。このプレートを室温で1時間静置し、洗浄バッファーにより5回洗浄後、Proteinase K溶液(10mM Tris−HCl(pH8.0)、5mM EDTA、50mM NaCl、100μg/ml Proteinase K、0.5% SDS)を100μl/wellの容量で添加し、65℃で2時間以上反応させた。この後、Molecular Imager(Bio Rad社製)を用いてCy3の蛍光値からGST蛋白質に対するラベル化量、Cy5の蛍光値からGST蛋白量を定量した。
この結果を図21に示す。図中、アミノ酸配列及び塩基配列は用いたそれぞれの配列を示す。図から明らかなように、アラニン、ヒスチジン、グルタミン、及びシステインからなるポリペプチドをコードする塩基配列の付加は、蛋白質のC末端ラベル化強度が高かった。また、グリシン、メチオニン、チロシン、アルギニン、プロリン、及びフェニルアラニンからなるポリペプチドをコードする塩基配列の付加は、付加しないものと比較すると、蛋白質のラベル化強度は高いが、これらのアミノ酸と、アラニン、ヒスチジン、グルタミン及びシステインの組み合わせのアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列では、さらにラベル化強度が高まることがわかった。
(3)アミノ酸残基数の影響の確認
上記(2)でアラニン4残基をコードする塩基配列の付加が、合成されるラベル化蛋白質量が多い例であったので、アミノ酸をアラニンに固定してアミノ酸残基数が異なる場合でのラベル化蛋白質合成量への影響を解析した。アラニン1残基〜6残基までのポリペプチドをコードする塩基配列(図10A、塩基配列に示す)を、Smad4(GenBank accession No.NM_005359)のストップコドンを削除したORFの3’末端に付加したテンプレートDNAを調製し、例1と同様にして転写・翻訳し、合成されたラベル化蛋白質量を例2と同様に解析した。また、上記Smad4のストップコドンを削除したORFの3’末端をアラニンをコードする塩基配列に置換したものも同様に解析した。この結果を図10Bに示す。
図から明らかなように、アラニン3〜6残基からなるポリペプチドをコードする塩基配列の付加は、最適化配列(C−del(2):GRGAA)と同等であるので、アミノ酸3残基以上にすることが特にラベル化蛋白質の合成量に影響を及ぼさないことがわかった。しかし、アラニン2残基以下では合成されるラベル化蛋白質合成量が低下することがわかった。また、Smad4の固有の3‘末端の塩基配列をアラニンをコードする配列に置換したものでは、アラニンをコードする塩基配列を1つ付加したもの(図10B「Ala1」)よりラベル化蛋白質合成量は高かった。
(4)リボソームポージング配列の影響の確認
これらの結果を見ると、合成されるラベル化蛋白質の量が多い付加配列は、いずれもリボソームをポージングさせることを特徴とする塩基配列(EMBO.J、7:3559−3569(1988))であるGGC、又はGCGGCGが含まれていることが判った。つまり、ラベル化蛋白質合成量を増加に影響を及ぼすのは、鋳型のリボソームをポージングさせる能力にあり、このような能力を有する塩基配列を目的蛋白質のORFの3‘末端に付加することにより合成されるラベル化蛋白質量が増加していることが推測された。
そこで、上記のGGC、またはGCGGCGを含む4アミノ酸残基をコードする塩基配列(図20、「塩基配列」)を、GST蛋白質の断片(配列番号17のアミノ酸番号1〜219)をコードする塩基配列の3‘末端に付加した塩基配列を有する遺伝子テンプレートを調製し、これを例1の方法で翻訳した。得られたラベル化蛋白質の解析は、以下に述べる蛍光プレートアッセイにより、合成蛋白質量に対するラベル化蛋白質量の割合で行った同様に翻訳及び解析を行い、該配列を付加していないコントロールのラベル化蛋白質の割合に対する相対値として各種配列のラベル化強度を示した。
蛍光プレートアッセイは、まず、精製ウサギ抗GSTポリクローナル抗体(VERITAS社製)を50mM炭酸バッファー(pH9.2)により濃度20μg/mlに希釈し、50μl/wellの容量で96ウェルプレート(CORNING社製、黒、高結合型)に添加した。4℃にて12時間以上静置して抗体をプレートに吸着させ、このプレートをPBSバッファーで2回洗浄した。この後、上記にて調製したラベル化蛋白質を含む溶液をブロッキングバッファー(3%スキムミルク、0.05% Tween20/PBS)で150倍に希釈し、この溶液を50μl/wellの容量でこのプレートに添加した。ここで、GST蛋白質の断片(配列番号17のアミノ酸番号1〜219)をコードする塩基配列の3’末端に、C−del(2)GRGAAをコードする塩基配列を付加したものも調製し、得られたGST蛋白質をGlutathione Sepharose 4B(Amersham社製)を用いて精製したものを、スタンダードとして用いた。このプレートを室温で1時間静置し、洗浄バッファー(0.05% Tween20/PBS)により5回洗浄した。この後、FluoroLink−Ab Cy5 Labelling Kit(Amersham社製)を用いてCy5標識したウサギ抗GSTポリクローナル抗体をブロッキングバッファーで濃度5〜10μg/mlに希釈し、50μg/mlの容量で添加した。このプレートを室温で1時間静置し、洗浄バッファーにより5回洗浄後、Proteinase K溶液(10mM Tris−HCl(pH8.0)、5mM EDTA、50mM NaCl、100μg/ml Proteinase K、0.5% SDS)を100μl/wellの容量で添加し、65℃で2時間以上反応させた。この後、Molecular Imager(Bio Rad社製)を用いてCy3の蛍光値からGST蛋白質に対するラベル化量、Cy5の蛍光値からGST蛋白量を定量した。
この結果を図20に示す。図中、「アミノ酸配列」と「塩基配列」に用いた配列を示した。又、図中の黒丸は、その塩基配列中にGCGGCGおよびGGCを有するものを示し、白丸はGGCを有するものである。図から明らかなように、リボソームポージング機能を有するGCGGCG及びGGCを含む塩基配列の付加により、蛋白質のC末端ラベル化強度が一様に高まることがわかった。
(5)GC含量の影響の確認
上記で、合成される蛋白質量が多い付加配列の特徴として、GC含量が高いことが観察されたので、この影響を解析した。
候補配列として、アミノ酸20種のそれぞれ4残基からなるポリヌクレオチドをコードする塩基配列62種類を用いた。これらを、GST蛋白質の断片(配列番号17のアミノ酸番号1〜219)をコードする塩基配列の3’末端に付加した塩基配列を有する遺伝子テンプレートを調製し、これを例1の方法で翻訳した。得られたラベル化蛋白質の解析は、上記(4)と同様に蛍光プレートアッセイにより、合成蛋白質量に対するラベル化蛋白質量の割合で行った同様に翻訳及び解析を行い、該配列を付加していないコントロールのラベル化蛋白質の割合に対する相対値として各種配列のラベル化強度を示した。
この結果のうち、コントロールよりC末端ラベル化強度が高かったものの結果を図19Bに示す。図中、「アミノ酸配列」および「塩基配列」は用いた配列を示し、「G+C%」は該塩基配列中のGC含量を示す。さらに、図19Aは用いた全62種類の候補配列中のGC含量と、C末端ラベル化強度との関係を示した、図から明らかなように、塩基配列中のGC含量が増加するに従って、C末端ラベル化強度が上昇し、GC含量が60%以上で飽和することがわかった。
例6 ラベル化蛋白質合成量とラベル化強度の比較
上記で、増強配列の機能の指標として、合成されるラベル化蛋白質量と、合成される蛋白質に対するラベル化蛋白質の割合(ラベル化強度)の2種を用いていたが、これらが相互に関連していることを確認した。
例1で用いたGST−PK22、GST−PKPOU、およびGST蛋白質をコードするORFのストップコドンを削除したものの3’末端に、例4で選択した増強配列(1)(配列番号10)を付加したテンプレートDNAを調製し、例1と同様に転写・翻訳した。また、コントロールとして、上記増強配列を付加しないテンプレートDNAについても同様に調製し、転写・翻訳を行った。反応終了後、反応溶液に含まれる蛋白質をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動(15%)で分離し、ラベル化蛋白質のバンドを蛍光量としてMolecular Imager(Bio Rad社製)で解析してラベル化蛋白質量を測定した。合成された蛋白質量に対するラベル化蛋白質量の割合は、上記例5で示した方法と同様に行った。これらの結果を図11に示す。図中、(+)は増強配列(1)を付加した遺伝子テンプレートの結果を示し、また(−)は付加していないコントロールの結果を示す。又、▲1▼はGST−PK22の結果を示し、▲2▼はGST−POUの結果を示す。
図から明らかなように、増強配列(1)を付加しない場合、GST−PK22、GST−POUのラベル化強度は極めて低く、図4Bの▲2▼、▲3▼の結果と同様であり、これら2つの指標はともに関連があることがわかった。また、例2(図4B)においてラベル化蛋白質が検出されなかったのは、蛋白質合成量が低いからではなく、ラベル化効率が著しく低いからであることがわかった。これに対して増強配列(1)を付加した結果、各目的蛋白質のラベル化強度は増加し、その標識効率は合成された総蛋白質1分子あたりラベル化化合物がおよそ1分子程度付加していることが判った。一方、GSTは増強配列(1)を付加しない場合でもその標識化効率は良く、増強配列(1)を付加した場合、標識化効率がさらに若干向上することが判った。
例7 ラベル化化合物濃度及び種類のラベル化強度に対する影響の解析
(1)ラベル化化合物濃度
上記RGAA(配列番号13)をGST蛋白質の断片(配列番号17のアミノ酸番号1〜219)をコードする塩基配列の3’末端に付加した塩基配列を有する遺伝子テンプレートを調製し、これを例1の方法で転写した。この遺伝子テンプレートを用い、0、10、20、30、40、50および60μMのラベル化化合物(Cy3−AmC−dC−Puro(図3(1)))存在下で例1と同様に翻訳した。反応終了後、反応溶液に含まれるラベル化蛋白質をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動(15%)で分離し、そのバンドの蛍光量をMolecular Imager(Bio Rad社製)で解析した。この際、蛍光のスタンダードとして、適当な濃度のラベル化化合物を同様のSDS−ポリアクリルアミド電気泳動で解析し、これをもとに合成されたラベル化蛋白質のモル数を算出した。
一方、上記の翻訳反応溶液中に合成されたGST蛋白質量を測定するために、抗GST抗体を用いたELISA法(GST 96 well Detection Module、アマシャムファルマシア製)を用い、合成されたGST蛋白質のモル数を定量した。両者の結果より、合成されたGST蛋白質(モル)当たりのラベル化GST蛋白質(モル)の割合(%)を求めた。
この結果を図12Aに示す。図中、黒丸で示すグラフは、RGAAを付加したものの結果を示し、三角で示すグラフは付加していないものの結果を示す。図12Aから明らかなように、RGAAを付加した場合、添加するラベル化化合物の濃度に従って、蛋白質のラベル化強度が上昇し、20μM以上の濃度にて合成された蛋白質の大部分(80〜100%)がラベル化されることがわかった。一方、RGAAを付加しなかった場合、添加するラベル化化合物の濃度を上昇させても、蛋白質を十分にラベル化することはできず、その強度は50%以下であった。
又、上記と同様の方法でGST−PK20、GST−PK22についても種々のラベル化化合物の濃度を変えて翻訳反応を行った結果、GST−PK20では16〜48μMで同等の蛋白質のラベル化が観察されたが、64μMではラベル化強度は減少した。また。GST−PK22では、16〜48μMで最も高いラベル化強度を示した。これらのことから、ラベルする蛋白質の種類によって最適なラベル化化合物の濃度は異なるが、15μM以上で比較的高いラベル化強度が得られることがわかった。
(2)ラベル化化合物の種類
上記(1)と同様に、GST、GST−PK14、GST−PK20、GST−PK22にRGAAをコードする塩基配列を付加した遺伝子テンプレートを用い、これを翻訳する際に次の各種ラベル化化合物を20μM添加した。ラベル化化合物は、Cy3−AmC−dC−Puro(図3(1))、Cy5−AmC−dC−Puro(図3(2))、Flu−dC−Puro(図3(3))、Flu−dC−Puro(phe)(図3(4))、およびAlexa488−Am−dC−Puro(図3(5))を用いた。翻訳反応により得られた蛋白質を上記(1)と同様に解析した結果を図12Bに示す。解析結果はCy3−AmC−dC−Puroを添加した場合の結果を100%として相対値で表示した。
図から明らかなように、ラベル化試薬によってもラベル化強度が異なることがわかった。しかし、Cy3−AmC−dC−Puroを用いた場合には、蛋白質の種類によらず高いラペル化強度が得られることがわかった。
(3)ピオチンおよび蛍光物質を有するラベル化化合物
増強配列(1)(配列番号12)を、GST、GST−PK20、GST−PK22のストップコドンを削除したORFの3’末端に付加した塩基配列を含む遺伝子テンプレートを調製し、これを例1に記載の方法で翻訳する際に、親和性物質としてビオチンが結合したBio−Cy3−Lys−dC2−Puro(図3(6))、Bio−Cy5−Lys−dC2−Puro(図3(7))、Bio−Flu−Lys−dC2−Puro(図3(8))、Bio−Alexa488−Lys−dC2−Puro(図3(9))を16μM添加した。又、Bio−Cy3−Lys−dC−Puro(図3(10))を、16、32、40、60μM添加して翻訳反応を行った。翻訳反応終了後、反応溶液中の蛋白質を、上記(1)と同様に解析した結果を図13A及びBに示す。
解析結果は最終濃度16μMのラベル化化合物を添加して翻訳反応を行った場合の総蛋白質量に対するC末端ラベル化蛋白質の割合を100%として相対的に表示した。
これらの結果から、添加するラベル化化合物の最適濃度は、ビオチンを結合したラベル化試薬を用いた場合でも、ラベル化強度は蛋白質の種類によって異なり(図13A)、GST蛋白質では16〜60μMの全てで蛋白質のラベル化が見られ、特に40μMで最もラベル化効率が高かった。また、GST−PK20では、16〜40μMで蛋白質のラベル化が観察され、特に32〜60μMでラベル化効率が高かった。又、GST−PK22では、16〜60μMで高いラベル化強度を得られることが判った。
また、ラベル化化合物については、目的蛋白質によってラベル化効率が異なることがわかったが、Bio−Cy3−Lys−dC−Puro(図3(10))およびBio−Flu−Lys−dC−Puro(図3(12))を用いた場合、蛋白質の種類によらず高いラベル化強度を得られることがわかった。
例8 目的蛋白質のストップコドンの有無のラベル化への影響の検討
例1で用いたGST−PK20を目的蛋白質として、該蛋白質をコードするORF(ストップコドン含む)の3’末端に例4で選択した増強配列(1)(配列番号10)を付加したテンプレートDNAを調製し、例1と同様にして転写・翻訳した。また、GSTのORFからストップコドンを削除したものも同様にしてテンプレートDNAを調製した。これらを同様に転写、翻訳した。反応終了後、反応溶液に含まれる蛋白質をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動(15%)で分離し、ラベル化蛋白質のバンドを蛍光量としてMolecular Imager(Bio Rad社製)で解析した。この結果を図16に示す。
図中、「+」で示すレーンはストップコドンを含む遺伝子テンプレートを用いた結果を示し、「−」で示すレーンはストップコドンを削除した遺伝子テンプレートを用いた結果を示す。又、GST−PK20の全長の蛋白質は図中太矢印で示すバンドで、断片化された蛋白質は図中点線矢印で示すバンドである。図からも明らかなように、増強配列およびストップコドンを有する遺伝子テンプレートを用いた場合、断片化された蛋白質が、全長蛋白質よりも多くラベル化されることがわかった。
例9 各種無細胞蛋白質合成系のラベル化強度への影響の解析
本発明のラベル化増強配列が、コムギ胚芽抽出液以外の無細胞蛋白質合成系を用いた翻訳反応においても有効か否かを以下の方法で解析した。
上記RGAA(配列番号13)およびアラニン4残基(以下、「Ala4」と称することがある)をコードする塩基配列をGST蛋白質の断片(配列番号17のアミノ酸番号1〜219)をコードする塩基配列の3’末端に付加した塩基配列を有するDNAと、さらにその5’末端にSP6プロモーター、tacプロモーターおよびリボソームバインディングサイト(以下、「RBS」と称することがある)を付加したDNAをPCR法にて作製し、大腸菌S30抽出物あるいはウサギ網状赤血球抽出物を用いた無細胞蛋白質合成に使用するテンプレートDNAとして用いた。
一方、上記RGAA(配列番号13)あるいはAla4コード塩基配列をGST蛋白質の断片(配列番号17のアミノ酸番号1〜219)をコードする塩基配列の3’末端に付加した塩基配列を有するテンプレートDNAをコムギ胚芽抽出液を用いた蛋白質合成に使用するものとして調製した。これらのテンプレートDNAを鋳型として、SP6RNAポリメラーゼ(Promega社製)を用いた転写反応を行ってmRNAを合成後、イソプロピルアルコール沈殿操作によりmRNAを精製した。
無細胞蛋白質合成反応に使用する大腸菌S30抽出物は、E.coli Extract System for Linear Templates(Promega社)を使用し、ウサギ網状赤血球抽出物はRabbit Reticulocyte Lysate System,Nuclease Treated(Promega社)を使用した。各抽出物に付属のマニュアルに従って反応溶液を調製し、これに上記にて調製したmRNAおよび種々の濃度のラベル化化合物(Cy3−AmC−dC−Puro(図3(1))を添加して無細胞蛋白質合成反応を行った。
反応終了後、例7に記載の方法に従ってSDS−ポリアクリルアミド電気泳動法及びELISA法を実施し、合成されたラベル化蛋白質のラベル化強度(%)を求めた。これらの結果を図18に示す。
図18Aはウサギ網状赤血球抽出物を利用した場合、又図18Bは大腸菌S30抽出物を用いてそれぞれ合成したラベル化GST蛋白質のバンドを示している。各々図中▲1▼はRGAAを付加していない遺伝子テンプレートを用いた結果を示し、▲2▼はRGAAを添加したもの、▲3▼はAla4を添加したもの、▲4▼はmRNA自体を添加していないものの結果を示す。図から明らかなように、いずれの抽出液においてもRGAAおよびAla4を付加した遺伝子テンプレートを用いた場合にはラベル化GST蛋白質のバンドが強く検出されたが(図18A矢印)、付加していないものではほとんどバンドが検出されなかった(図18A▲1▼)。
図18CはRGAAを付加した遺伝子テンプレートを用いて、各濃度のラベル化化合物の存在下で蛋白質合成した場合のラベル化効率と用いたラベル化化合物の濃度との関係を示している。図から明らかなように、添加するラベル化化合物の濃度に従って、蛋白質のラベル化効率が上昇し、20μMから60μMの濃度にて合成された蛋白質の大部分が標識されることが判った。
これら結果から、大腸菌S30抽出物、ウサギ網状赤血球抽出物を用いた無細胞蛋白質合成では、ラベル化化合物を20〜60μMの濃度で用いること、並びにラベル化増強配列を用いることにより、高いラベル化強度を有するC末端ラベル化蛋白質を得られることが判った。
例10 無細胞蛋白質合成法の蛋白質ラベル化への影響の検討
(1)翻訳反応系の検討
無細胞蛋白質合成系で用いられる異なる反応方法について本発明のラベル化増強配列の影響を確認した。
蛋白質の標識を実施する際に使用する無細胞タンパク合成系として、例1と同様の方法(以下、これを「重層法」と称することがある)および反応層とエネルギー供給層を混合させた状態より無細胞タンパク合成反応開始させる方法(以下、これを「バッチ法」と称することがある)を用い、各無細胞タンパク合成系における蛋白質のラベル化強度を比較検討した。
例1で用いたGST−PK20および上記のGST蛋白質をコードするORF(ストップコドン含む)の3’末端に例4で選択した増強配列(1)(配列番号10)を付加したテンプレートDNAを調製し、例1と同様にして転写・翻訳した。また、上記蛋白質のORFのストップコドンを削除したものについても同様に調製し、さらにコントロールとして増強配列を付加しないものも同様に調製した。ラベル化化合物は、Cy3−AmC−dC−Puro(図3(1))で、いずれも最終濃度で16μMを、重層法では、供給層と反応層の両方に添加し、バッチ法では反応溶液に添加して、翻訳反応を行った。翻訳反応終了後、反応溶液中の蛋白質を、例6と同様にSDS−PAGE(15%)で分離し、合成された総蛋白質量に対するC末端がラベル化された蛋白質の割合を測定した。
この結果を図14に示す。図中、レーンAは、増強配列を付加していない遺伝子テンプレートの結果を示し、レーンBは増強配列(1)を付加した目的タンパク質のORFのストップコドンを含む遺伝子テンプレートの結果を示す。また、レーンCは、増強配列(1)を付加した目的蛋白質のORFからストップコドンを削除した塩基配列を含む遺伝子テンプレートの結果を示す。また、▲1▼は重層法により翻訳反応を行った結果であり、▲2▼はバッチ法により翻訳反応を行った結果を示す。
図から明らかなように、重層法で合成した場合、いずれの遺伝子テンプレートを用いた場合も、そのラベル化強度がバッチ法に比べて極めて上昇することが判った。また各遺伝子テンプレートを比較した結果、増強配列(1)を付加した場合が、ラベル化蛋白質合成量もラベル化強度も(図14AおよびBのC▲1▼とC▲2▼)最も向上した。一方、ストップコドンに続き増強配列(1)を付加場合でも蛋白質のラベル化(図14AおよびBのB▲1▼とB▲2▼)が可能であることが判った。
(2)ラベル化化合物の添加方法の検討
上記重層法を用いて無細胞蛋白質合成を実施する際、添加するラベル化化合物(Cy3−AmC−dC−Puro最終濃度16μM)を(1)反応層溶液およびエネルギー供給層溶液の両方に添加した場合(2)反応層溶液のみに添加した場合(3)エネルギー供給層溶液のみに添加した場合で翻訳反応を行った。目的蛋白質は、例1と同様のGSTを用い、ストップコドンは削除しないものに増強配列(1)を付加したものを遺伝子テンプレートとして用いた。
また、反応層溶液およびエネルギー供給層溶液の総量を150μlに対し、30μlにして翻訳反応を行った。この場合、溶液の組成及び添加量等は全て同様の割合でスケールダウンして行った。翻訳反応終了後、反応溶液中の蛋白質を、例6と同様にSDS−PAGE(15%)で分離し、合成された総蛋白質量に対するラベル化蛋白質量の割合を測定した。解析結果は反応層溶液およびエネルギー供給層溶液の両方に添加した場合の標識化強度を100%として表示した。この結果を図15Aに示す。また、スケールダウンした場合の結果を図15Bに示す。
これらの結果から、ラベル化化合物は反応層溶液およびエネルギー供給層溶液の両方に添加することが好ましいが、何れか一方に添加しても蛋白質の標識が可能であることが判った。また反応層溶液をおよびエネルギー供給層溶液の各量を1/5量にスケールダウンし、384wellプレートを使用して無細胞蛋白質合成系を実施しても同様の蛋白質標識化効率が得られることが判った(図15B)。
例11 ラベル化化合物の添加のタイミングの検討
上記増強配列(1)(配列番号10)を例1に示したものと同様の目的タンパク質(GST−Smad3およびGST−Smad4)のORFの3’末端に付加した塩基配列を含むテンプレートDNAを調製し、これを例1に記載の方法で転写、翻訳した。この翻訳を行う際、無細胞蛋白質合成系にラベル化化合物を添加するタイミングについて、(i)ラベル化化合物を添加してから無細胞蛋白質合成を反応させる方法(ii)無細胞蛋白質合成反応を開始させてから一定時間後にラベル化化合物を添加し、さらに反応を続ける方法に関して蛋白質のラベル化強度を比較検討した。まず、転写した遺伝子テンプレートを添加した反応層用溶液(25μl)を26℃で保温することによりタンパク合成反応を開始し、その0.5時間後、1時間後、2時間後にCy3−AmC−dC−Puro(図3(1))を最終濃度16μMになるように添加した。続いて同じラベル化化合物(16μM)を添加したエネルギー供給層溶液(125μl)を例1の方法に従って添加し、さらに16時間反応させた。一方、コントロール(上記(i)の方法)として、反応層用溶液(25μl)およびエネルギー供給層用溶液(125μl)それぞれに同じラベル化化合物(16μM)を添加し、例1の方法に従って26℃16時間の無細胞タンパク合成反応を行った。目的蛋白質としては、例1で用いたものと同様のGST−Smad3およびGST−Smad4を用いた。翻訳反応終了後、反応溶液中の蛋白質を、例6と同様にSDS−PAGE(15%)で分離し、合成された総蛋白質量に対するラベル化蛋白質量の割合を測定した。
図17Aに電気泳動法にて解析されたラベル化蛋白質のバンドパターンを示す。また図17Bには、図17Aの太矢印で示した全長蛋白質のバンド量(0hを100%とした相対量)の変化を示し、図17Cには断片化された蛋白質のバンド量(0hを100%とした相対量)の変化を示す。これらの結果から、蛋白質合成反応を開始してから0.5時間から1時間後にラベル化化合物を添加する事により、ラベル化全長蛋白質の合成量が増加し、それととともに、ラベル化された断片化蛋白質の合成量は低下することが見いだされた。これらの結果は、無細胞蛋白質合成反応を開始させた一定時間後に、ラベル化化合物を添加することにより、全長蛋白質のラベル化量が向上し、ラベル化蛋白質中に含まれる全長蛋白質の割合を極めて向上させることができる事を示している。
例12 ラベル化化合物とラベル化増強ポリペプチドの結合体を抗原とする抗体調製
(1)抗原の調製
ラベル化増強ポリペプチドであるRGAAのC末端にラベル化化合物(Cy3−AmC−dC−Puro(図3(1))を化学的に結合させた合成ペプチドを調製した。これをImject Maleimide Activated Carrier Proteinsキット(PIERCE社)に付属のマニュアルに従い、キャリアー蛋白質(KLH)に結合させたものを免疫用抗原として用いた。キャリアーとしてKLH(キーホール・リンペット・ヘモシアニン)、BSA(ウシ血清アルブミン)、OVA(オバルブミン)などの蛋白質または高分子体に結合させたものを免疫用抗原として使用した。
(2)ポリクローナル抗体の調製
上記(1)で調製した免疫用抗原約100μgを、同容量のフロイント完全アジュバントとともに混合したものを抗原として、ウサギ皮下へ2週間間隔で7回投与した。血清中に抗体が産生していることを確認後、さらに10μgの免疫用抗原を脈内に投与し、5日後に抗血清を取得た。これを硫安沈殿操作後、プロテインAカラムを使用した精製操作により、ポリクローナル抗体を取得した。
(3)モノクローナル抗体の調製
(1)で調製した免疫用抗原約200μgを、同容量のフロイント完全アジュバントとともに、Balb/cマウスの皮下および腹腔内に2週間間隔で6回投与した。マウスの血清中に抗体が産生していることを確認後、100μgの免疫用抗原を尾静脈内に投与した。3日後に脾臓を取り出し、「単クローン抗体実験マニュアル」(講談社サイエンティフィック1987年出版)に従い、ポリエチエングリコール1500を使用して、脾臓細胞をミエローマ細胞P3U1と細胞融合させ、96ウェルプレートに注入後HAT培地を添加して14日間の培養を行った。この後、ラベル化剤が結合したラベル化増強配列もしくはラベル化増強配列に対して特異的なモノクローナル抗体を培地中に産生するハイブリドーマの選別を行った。
このハイブリドーマを選別するためのELISAプレートは以下の様にして作製した。ELISA用スクリーニング用抗原として、(1)RGAAのC末端にラベル化化合物(Cy3−AmC−dC−Puro(図3(1))を化学的結合させ、このものをC末端側に含みかつN末端にはキャリアーへの結合のためのシステイン付加したを合成ペプチドに対し、Imject Maleimide Activated Carrier Proteinsキット(PIERCE社)に付属のマニュアルに従い、キャリアー蛋白質(BSA)を結合させたELISA用スクリーニング用抗原、(2)RGAAをC末端側に含みかつN末端にはキャリアーへの結合のためのシステイン付加したを合成ペプチドに対し、Imject Maleimide Activated Carrier Proteinsキット(PIERCE社)に付属のマニュアルに従い、キャリアー蛋白質(BSA)を結合させたELISA用スクリーニング用抗原、(3)例11に記載の方法に従い、ラベル化増強配列のアミノ酸配列としてRGAAを有し、ラベル化化合物(Cy3−AmC−dC−Puro(図3(1))を用いてラベル化したGST蛋白質を精製したもの、(4)ラベル化していないGST蛋白質、(5)5%ウシ血清アルブミン(以下「BSA」と略す)を準備した。
各ELISA用スクリーニング用抗原はそれぞれ最終濃度1μg/mlになる様に生理的リン酸水素緩衝液(PBS(−))に希釈後、96wellプレートのウェルに100μlずつ添加した。この後、4℃下にて24時間保存して、各抗原を96ウェルプレートに吸着させた。この抗原付着プレートより溶液を除き、2.5%ゼラチンを含むPBS(−)を250μlずつウェルに添加して、4℃にて一昼夜(12時間程度)または37℃にて2時間以上おくことによりブロッキング操作を行い、ハイブリドーマ選別用ELISAプレートとして、4℃下にて保存した。これらのELISAプレートは、使用直前にプレート中のブロッキング溶液を除いて使用した。
上記にて作成したそれぞれのハイブリドーマ選別用ELISAプレートに対して、ハイブリドーマの培養上清を添加し、培養上清に存在するモノクローナル抗体の反応性を解析した。各選別用ELISAプレートに対し、選択するハイブリドーマの培養上清を100μl/ウェルにて添加した後,4℃下にて2時間以上反応させた。この後、0.05% Tween20を含むPBS(−)液(以下「PBST液」と略す)を用いて十分な洗浄を行ない、HRP(西洋わさびペルオキシターゼ)標識ヒツジ抗マウスIgG・Fcポリクローナル抗体(DAKO社)1μg/mlおよび2.5%ゼラチンを含むPBS(−)を100μlずつウェルに添加し、さらに室温で1時間反応させた。PBST液で充分に洗浄操作を行った後、0.4mg/mlオルトフェニレンジアミン(OPD、Sigma社 P−9029)および0.015〜0.03%過酸化水素溶液を含むクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.0)を添加して室温にて反応させ、発色を行なった。この後1N HSO溶液を添加して反応を止め、測定波長490nm、リファレンス波長650nmにて測定を行なった。このスクリーニングにより、上記のELISA用スクリーニング用抗原(1)(3)に対して反応性が強く、(2)(4)(5)への反応性が弱いもの、すなわちラベル化化合物とラベル化増強ポリペプチドの結合体を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(Cy3−PURO−RGAA)を取得した。
一方、上記ELISA用スクリーニング用抗原(1)(2)(3)に対して反応性が強く、(4)(5)への反応性が弱いもの、すなわちラベル化ポリペプチドを特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(RGAA)を取得した。得られた各ハイブブリドーマは、限界希釈法による3回のクローニング操作後、培養上製を回収してプロテインAが結合したアフィニティークロマトグラフィー(アマシャムファルマシアバイオテク社製)により、モノクローナル抗体の精製を行った。
(4)モノクローナル抗体の解析
例12(3)で調整および精製されたモノクローナル抗体の反応性を解析するため、上記(3)で作製した各ELISAプレートを用い、ハイブリドーマCy3−PURO−RGAAもくしはハイブリドーマRGAA由来のモノクローナル抗体約1μg/mlおよび2.5%ゼラチンを含むPBS(−)を100μlずつウェルに添加して、4℃下にて2時間以上反応させた。この後、PBST液を用いて十分な洗浄を行ない、HRP標識ヒツジ抗マウスIgGポリクローナル抗体(DAKO社)1μg/mlおよび2.5%ゼラチンを含むPBS(−)を100μlずつウェルに添加し、さらに室温で1時間反応させた。
PBST液で充分に洗浄操作を行った後、0.4mg/mlオルトフェニレンジアミン(OPD、Sigma社 P−9029)および0.015〜0.03%過酸化水素溶液を含むクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.0)を添加して室温にて反応させ、発色を行なった。この後、1N HSO溶液を添加して反応を止め、測定波長490nm、リファレンス波長650nmにて測定を行なった。測定結果はELISA用スクリーニング用抗原(1)(図22A:RGAA−Cy3−dC−Puro−BSA)への反応性を100%とした相対活性(%)として表示した。
この測定結果を図22に示す。図22Aに示す様にハイブリドーマCy3−PURO−RGAA由来のモノクローナル抗体は、上記のELISA用スクリーニング用抗原(1)(図23A:RGAA−Cy3−dC−Puro−BSA)および(3)(図23Aラベル化GST)に対しては反応性が極めて強かった。一方、(2)(図23A:RGAA−BSA)、(4)(図23A:GST)および(5)(図23A:BSA)への反応性は非常に弱い、もしくはほとんど反応しなかった。また、図22Bに示す様に、ハイブリドーマRGAA由来のモノクローナル抗体は、上記ELISA用スクリーニング用抗原(1)(図23B:RGAA−Cy3−dC−Puro−BSA)、(2)(図23B:RGAA−BSA)、および(3)(図23Bラベル化GST)に対して反応性は極めて強かった。一方、(4)(図23A:GST)および(5)(図23A:BSA)への反応性は非常に弱い、もしくはほとんど反応しなかった。
例13 ラベル化剤化合物とラベル化増強ポリペプチドを認識するモノクローナル抗体を用いたラベル化蛋白質の定量
例12で調製したハイブリドーマCy3−PURO−RGAA由来のモノクローナル抗体を30μg/mlの濃度になるように0.05M炭酸−重炭酸緩衝液(pH9.6)に溶解し、100μl/ウェルにて96ウェルプレートへ添加し、4℃にて一昼夜(12時間程度以上)おいた。この抗体付着プレートより抗体溶液を除いた後、3% スキムミルクを含むPBS(−)を250〜300μl/ウェルずつ添加し、4℃にて一昼夜(12時間程度)または37℃にて2時間以上おいた後、このプレートからブロッキング溶液を除いた。例9に記載で調製したラベル化GST蛋白質を含む溶液をブロッキングバッファー(3% スキムミルク、0.05% Tween20 in PBS)で数段階に希釈し、この溶液を50μl/wellの容量で上記のプレートに添加した。このプレートを室温で1時間静置し、洗浄バッファー(0.05% Tween20 in PBS)により5回洗浄した。この後、Molecular Imager(Bio Rad社製)を用いてCy3の蛍光値から溶液中に存在するラベル化GST蛋白質量を定量した。この際、種々の濃度のラベル化化合物(Cy3−AmC−dC−Puro(図3(1))を同様に定量してスタンダードとして使用した。
この結果は、例9の測定結果と一致し、該抗体によってラベル化蛋白質量が測定可能であることが判った。
例14 ラベル化蛋白質を用いた蛋白質相互作用の解析
転写因子コファクター候補蛋白質をコードした約90種類のヒトcDNAを用い、それぞれの3’末端にRGAAをコードするラベル化増強配列(配列番号13)をPCR法にて付加した配列を含む遺伝子遺伝子テンプレートを作成した。各個別の遺伝子テンプレートは、それぞれ例1と同様に転写し、さらに40μMのラベル化化合物(Cy3−AmC−dC−Puro(図3(1))存在下にて翻訳した。一方、例16で調製したモノクローナル抗体を固層化し、さらに例12と同様にブロッキング処理を行ったプレートを準備し、上記で得られたラベル化蛋白質を含む溶液を50μl/wellの容量でこのプレートに個別に添加した。プレートを室温で1時間静置し、洗浄バッファー(0.05% Tween20 in PBS)により5回洗浄した後、Molecular Imager(Bio Rad社製)を用いてCy3の蛍光値から溶液中に存在する各ラベル化C末端ラベル化蛋白質量を定量した。この際、種々の濃度のラベル化化合物(Cy3−AmC−dC−Puro(図3(1))を同様に定量してスタンダードとして使用した。このプレートを以下、Cy3ラベル化転写因子コファクター固定化プレートと呼ぶ。
次に転写因子として知られるSmad3(GemBamk Accession No.NM_005902番号)をコードするDNAにAla4をコードするラベル化増強配列をPCR法にて付加したものを調製し、例1の方法に従い小麦胚芽抽出液を用いた蛋白質合成に使用する遺伝子テンプレートを作成した。これを、例1に従い40μMのラベル化化合物(Cy5−AmC−dC−Puro(図3(2))存在下にて翻訳した。得られたラベル化Smad3蛋白質を含む溶液を上記のCy3ラベル化転写因子コファクター固定化プレートに50μl/wellの容量で添加した。このプレートを室温で1時間静置し、洗浄バッファー(0.05% Tween20 in PBS)により5回洗浄した。この後、Molecular Imager(Bio Rad社製)を用いてCy5の蛍光値およびCy5/Cy3蛍光値の比から転写因子コファクターとSmad3の相互作用値を算出した。この際、種々の濃度のラベル化化合物(Cy3−AmC−dC−Puro(図3(1))およびCy5−AmC−dC−Puro(図3(2)))を同様に定量してスタンダードとして使用した。
この結果数種類のcDNAにおいて、転写因子コファクターとSmad3の相互作用が検出され、本発明のラベル化法と抗体により蛋白質−物質間の相互作用解析が行えることがわかった。
産業上の利用の可能性
本発明によれば、目的蛋白質のC末端にラベル化化合物が結合したラベル化蛋白質の合成量を高めることができ、どのような目的蛋白質であっても検出が可能な程度のラベル化を行う手段が提供される。また、目的蛋白質の一部のアミノ酸配列からなる蛋白質のC末端にラベル化化合物が結合したラベル化蛋白質を選択的に合成する手段も提供される。このような断片化されたラベル化蛋白質群は、蛋白質−分子間相互作用解析を行う場合に有意に使用できる可能性がある。
さらに本発明によれば、目的蛋白質の全長のC末端にラベル化化合物が結合した蛋白質を選択的に合成する手段も提供される。又、本発明のラベル化増強タグ又はこれとラベル化化合物の結合体を認識する抗体は、多くの蛋白質について網羅的に相互作用解析を行うのに非常に有用なツールとなる。
本出願は、2003年6月18日付の日本特許出願(特願2003−173634)に基づく優先権を主張する出願であり、その内容は本明細書中に参照として取り込まれる。また、本明細書にて引用した文献の内容も本明細書中に参照として取り込まれる。
【配列表】


















【図1】

【図2】


【図3】








【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラベル化物質よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で遺伝子テンプレートを翻訳してラベル化蛋白質を製造する方法において、遺伝子テンプレートの目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に付加することによりラベル化効率を増強する機能を有することを特徴とする、ラベル化蛋白質合成に用いるためのポリヌクレオチド。
【請求項2】
ラベル化効率を増強する機能を有するポリヌクレオチドを選択するための方法であって、以下の工程からなることを特徴とする方法;
(1)目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に候補塩基配列を付加した遺伝子テンプレートを作製する工程。
(2)ラベル化物質よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で、該遺伝子テンプレートを翻訳する工程。
(3)得られるラベル化目的蛋白質量を測定する工程。
(4)該蛋白質量を指標として、該候補配列を選択する工程。
【請求項3】
ラベル化効率を増強する機能を有するポリヌクレオチドを選択するための方法であって、以下の工程からなることを特徴とする方法;
(1)目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に候補塩基配列を付加した遺伝子テンプレートを作製する工程。
(2)ラベル化物質よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で、該遺伝子テンプレートを翻訳する工程。
(3)リボソームをポージングさせる活性の測定し、該活性を指標として該候補配列を選択する工程。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の方法により選択されることを特徴とするラベル化蛋白質合成に用いるためのポリヌクレオチド。
【請求項5】
ポリヌクレオチドが、6〜60塩基でグアニンおよびシスチジンが全体の30%以上を占める塩基配列を有することを特徴とする請求項1又は4に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
ポリヌクレオチドが、GGCまたはGCGGCGを含む塩基配列を有することを特徴とする請求項5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
ポリヌクレオチドが、2〜20残基のシステイン、ヒスチジン、グルタミン、アラニンの何れかからなるポリペプチドをコードする塩基配列を有することを特徴とする請求項1あるいは4〜6の何れかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
ポリヌクレオチドが、2〜20残基のシステイン、ヒスチジン、グルタミン、アラニン、グリシン、メチオニン、チロシン、アルギニン、プロリン、フェニルアラニンの何れかの組み合わせからなるポリペプチドをコードする塩基配列を有することを特徴とする請求項1あるいは4〜6の何れかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
ポリヌクレオチドが、配列番号5〜9に記載のアミノ酸配列のうちのC末端から2残基以上のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を有することを特徴とする請求項1あるいは4〜8の何れかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
ポリヌクレオチドが、配列番号11又は13に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を有することを特徴とする請求項1あるいは4〜9の何れかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
ラベル化蛋白質を製造するための方法であって、以下の工程からなることを特徴とする方法;
(1)目的蛋白質をコードする塩基配列の3’末端に請求項1あるいは4〜10の何れかに記載のポリヌクレオチドを付加した遺伝子テンプレートを用意する工程。
(2)ラベル化物質よりなるラベル部と、翻訳系において合成された蛋白質のC末端に結合する能力を有する化合物よりなるアクセプター部とを含むラベル化化合物の存在下で、該遺伝子テンプレートを翻訳する工程。
【請求項12】
目的蛋白質をコードする塩基配列が、終止コドンを含まないことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
目的蛋白質をコードする塩基配列が、終止コドンを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
ラベル化化合物を、翻訳反応が開始された後に添加することを特徴とする、請求項11から13の何れかに記載の方法。
【請求項15】
ラベル化化合物の添加の時期が、リボソームがポージングするに十分な時間の後であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項11から15の何れかに記載の方法により製造されるラベル化蛋白質群。
【請求項17】
請求項16に記載のラベル化蛋白質群と被検物質とを接触させ、該蛋白質と被検物質との相互作用を解析することを特徴とする蛋白質の機能解析方法。
【請求項18】
少なくとも請求項1あるいは4〜10の何れかに記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、請求項11〜15の何れかに記載の方法において用いられる遺伝子テンプレートを作製するためのベクター又はポリメラーゼチェインリアクション用プライマー。
【請求項19】
少なくとも請求項18に記載のベクター及びポリメラーゼチェインリアクション用プライマーを含むことを特徴とする、請求項11〜15の何れかに記載の方法を行うためのキット。
【請求項20】
請求項1あるいは4〜10の何れかに記載のポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを含む物質に対する抗体。
【請求項21】
請求項1あるいは4〜10の何れかに記載のポリヌクレオチドがコードするポリペプチドとラベル化化合物の結合体に対する抗体。

【国際公開番号】WO2004/113530
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507298(P2005−507298)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008953
【国際出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】