説明

ラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法およびラミネーション加工用アルミニウム箔、ならびにラミネート材

【課題】 合成樹脂との接着性に優れたラミネーション加工用アルミニウム箔を簡単な方法で製造する。
【解決手段】 熱間圧延、中間焼鈍を含む冷間圧延、箔圧延、最終焼鈍の各工程を含むアルミニウム箔の製造方法において、最終焼鈍を低湿度に制御された雰囲気中で行う。雰囲気中の絶対湿度は6g/m以下が好ましい。また、最終焼鈍雰囲気の湿度制御は、焼鈍炉に導入する雰囲気の冷却または脱水剤との接触によって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法に関し、さらにこの方法で製造されたラミネーション加工用アルミニウム箔、このアルミニウム箔にラミネーション加工を施したラミネート材に関する。
【0002】
なお、この明細書において、「アルミニウム」の語はアルミニウムおよびその合金の両者を含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0003】
食品や医薬品等の包装用材料としてアルミニウム箔にポリエチレン等の合成樹脂フィルムを貼り合わせたラミネート材が用いられている。包装用ラミネート材は内容物を保護するために水密性および気密性が要求され、アルミニウム箔と合成樹脂とが高い強度で接着されている必要がある。そして、これらの異種材料の接着強度を高めるために種々の提案がなされている(例えば、特許文献1〜4)。
【0004】
特許文献1には、金属箔の表面にコロナ放電処理を施して表面張力を調整することにより合成樹脂との接着性を高める技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、アルミニウム箔の表面を化学エッチングで粗面化し、ポリオレフィンとの熱圧着性を高める技術が開示されている。
【0006】
特許文献3には、アルミニウム箔表面に、下地処理としてジルコン化合物またはチタン化合物と、タンニン物質または有機高分子物質とを塗布し、合成樹脂との親和性の高い皮膜を形成することが開示されている。
【0007】
また、特許文献4では、アルミニウム箔に含有されるMgが高温加熱によって表面に濃化して合成樹脂との接着性を低下させていることに着目し、アルミニウム箔中のMg含有量を10ppm以下に規制することが開示されている。
【0008】
さらに、アルミニウム箔の最終焼鈍をアルゴンガス等の不活性雰囲気中で行うことも行われている。
【特許文献1】特開昭59−131451号公報
【特許文献2】特開昭53−74579号公報
【特許文献3】特開昭58−101767号公報
【特許文献4】特開平4−74844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された方法は、いずれもラミネーション加工以外の工程が必要であって工程数が増加する上に、処理設備や処理液にコストがかかるという問題がある。
【0010】
また、特許文献4に記載された方法は、Mg含有量を規制するための材料精製にコストがかかるという問題がある。
【0011】
また、アルミニウム箔の最終焼鈍雰囲気をアルゴン等の不活性ガス中で行う場合にも、アルゴンガスにコストがかかるという問題がある。
【0012】
この発明は、上述した技術背景に鑑み、工程数や処理資材を増大させることなく、低コストでアルミニウム箔と合成樹脂との接着性を向上しうるラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法およびラミネーション加工用アルミニウム箔、ならびにラミネート材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、上述した技術背景に鑑み、工程数や処理資材を増大させることなく、低コストでアルミニウム箔と合成樹脂との接着性を向上しうるラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法およびラミネーション加工用アルミニウム箔、ならびにラミネート材の提供を目的とする。
【0014】
前記目的を達成するために、本発明のラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法は下記(1)〜(6)の構成を有する。
(1) 熱間圧延、中間焼鈍を含む冷間圧延、箔圧延、最終焼鈍の各工程を含むアルミニウム箔の製造方法において、
最終焼鈍を低湿度に制御された雰囲気中で行うことを特徴とするラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法。
(2) 最終焼鈍を絶対湿度が6g/m以下に制御された雰囲気中で行う前項1に記載のラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法。
(3) 最終焼鈍を大気中で行う前項1または2に記載のラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法。
(4) 最終焼鈍雰囲気の湿度制御を、焼鈍炉に導入する雰囲気を冷却することにより行う前1〜3のいずれか1項に記載のラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法。
(5) 最終焼鈍雰囲気の湿度制御は、焼鈍炉に導入する雰囲気を脱水剤に接触させることにより行う前項1〜4のいずれか1項に記載のラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法。
(6) アルミニウム箔は純度が95〜99.9質量%のアルミニウムからなる前項1〜5のいずれか1項に記載のラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法。
【0015】
本発明のラミネーション加工用アルミニウム箔は下記(7)の構成を有する。
(7) 前項1〜6のいずれか1項に記載された方法により製造されたことを特徴とするラミネーション加工用アルミニウム箔。
【0016】
本発明のラミネート材は下記(8)(9)の構成を有する。
(8) 前項1〜6のいずれか1項に記載された方法により製造されたアルミニウム箔に合成樹脂フィルムが貼り合わされてなることを特徴とするラミネート材。
(9) ラミネート材は包装用材料である前項8に記載のラミネート材。
【発明の効果】
【0017】
(1)の発明にかかるラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法によれば、最終焼鈍が低湿度に制御された雰囲気中で行われるため、酸化膜の水和化が抑制されて合成樹脂との接着性の良いアルミニウム箔を製造できる。ひいては、このアルミニウム箔を用いることによって接着強度の高いラミネート材を製造することができる。しかも、雰囲気中の湿度制御を行うだけであるから工程管理も容易である。
【0018】
(2)の発明において、最終焼鈍を絶対湿度が6g/m以下に制御された雰囲気中で行うことによって、水和酸化膜の抑制が確実になされる。
【0019】
(3)の発明において、最終焼鈍を大気中で行う場合は、特に工程管理が簡単である。
【0020】
(4)の発明において、最終焼鈍雰囲気の湿度制御は、焼鈍炉に導入する雰囲気を冷却することにより容易に行うことができる。
【0021】
(5)の発明において、最終焼鈍雰囲気の湿度制御は、焼鈍炉に導入する雰囲気を脱水剤に接触させることによっても容易に行うことができる。
【0022】
(6)の発明において、アルミニウム箔が純度が95〜99.9質量%のアルミニウムからなる場合は、特にラミネーション加工用アルミニウム箔に適したものとなる。
【0023】
(7)の発明にかかるラミネーション加工用アルミニウム箔は、上記の方法で製造されて酸化膜の水和化が抑制されているため、接着強度の高いラミネート材を製造することができる。
【0024】
(8)の発明にかかるラミネート材は、上記の方法で製造されたアルミニウム箔に合成樹脂フィルムが貼り合わされてなるものであるから、アルミニウム箔と合成樹脂フィルムとの間の接着強度が優れている。
【0025】
(9)の発明において、前記ラミネート材を包装用材料として用いることにより、密閉性の高い容器となし得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
アルミニウム箔の最終焼鈍工程において箔表面に生成される酸化膜は、焼鈍雰囲気に含まれる水分によって水和される。水和酸化膜は脆く合成樹脂との接着性を低下させ、ひいては接着強度を低下させる原因となる。このため、本発明では、低湿雰囲気中で最終焼鈍を行うことによって焼鈍中に成長する酸化膜の水和化を抑制し、アルミニウム箔と合成樹脂フィルムとの接着強度の向上を図っている。
【0027】
水和酸化膜の生成を抑制し優れた接着強度を確実に得るために、最終焼鈍を絶対湿度が6g/m以下に規制された雰囲気中で行うことが好ましく、特に4g/m以下が好ましい。
【0028】
最終焼鈍雰囲気の湿度制御は、加熱前の炉内雰囲気を所定湿度に設定しておくだけで良い。具体的には、湿度制御された雰囲気を炉内に導入し、その後通常の工程により焼鈍加熱を行う。湿度以外の条件は何ら限定されず、焼鈍温度や時間は従来の条件をそのまま適用することができる。
【0029】
焼鈍炉に導入する雰囲気の湿度制御、即ち湿度降下は、例えば雰囲気を冷却して結露させて脱水することによって行うことができる。このとき、設定湿度は冷却温度によって調節する。また、雰囲気を脱水剤に接触させることによっても行うこともできる。脱水剤はシリカゲル、生石灰、塩化カルシウム等を例示でき、特に加熱することで再利用でき、生石灰ほど発熱せず、塩化カルシウムのように塩素イオンによる腐食のおそれがないという点でシリカゲルが好ましい。脱水剤との接触は、例えば粒状の脱水剤を充填したセル内に雰囲気を導入させることにより行い、設定湿度は脱水剤との接触時間、導入雰囲気の流速等によって調節することができる。これらの湿度制御方法はいずれも容易に行える。また、雰囲気を冷却後さらに脱水剤で脱水することによって、さらに湿度を下げることもできる。
【0030】
湿度以外の焼鈍条件は何ら限定されず、焼鈍温度や時間は従来の条件をそのまま適用することができ、大気中で焼鈍加熱を行うことができる。また、従来の技術の項で述べたような工程や大がかりな処理装置の追加を必要とせず、処理液やアルゴンガスといった処理資材も必要としないため、簡単な工程管理で接着強度の優れたアルミニウム箔を製造できる。
【0031】
最終焼鈍以外の製造工程は何ら限定されず、常法に従って材料溶解、鋳造、熱間圧延、中間焼鈍を含む冷間圧延、箔圧延を行えば良い。また、その他の熱処理、脱脂、洗浄等も任意に行うことができる。
【0032】
アルミニウム箔の化学組成は限定されず、ラミネート材の用途に応じて任意の材料を用いることができる。例えば、一般的に箔として用いられている、純度が95〜99.9質量%のアルミニウムを推奨でき、具体的にはA1100、A1200、A1N30、A1050、A1085、A3003、A8021、A8079合金が挙げられる。
【0033】
アルミニウム箔の厚さも限定されず、ラミネート材の用途に応じて任意の厚さに設定することができる。例えば、食品包装用には5〜100μm、工業用材料では10〜200μmのアルミニウム箔が用いられる。
【0034】
前記アルミニウム箔は、片面または両面に合成樹脂フィルムを貼り合わせるラミネーション加工が施されてラミネート材に加工される。貼り合わせる合成樹脂の種類や貼り合わせ方法も限定されない。合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、スチレン−ブタジエンラバー、ニトリルラバー、クロロピレンゴム、アイオノマー等周知の合成樹脂を例示できる。また、フィルムに成形したのちに貼り合わせたラミネート材の他、液状の合成樹脂をアルミニウム箔に塗布した後に硬化させてフィルムに形成したラミネート材、あるいは合成樹脂を介して他の材料が貼り合わされたラミネート材も本発明に含まれる。
【0035】
また、本発明のラミネート材はアルミニウム箔と合成樹脂フィルムとが接着強度が優れているため、包装用材料として用いた場合に高い水密性および気密性が得られる。例えば食品、飲料、医薬品、工業製品、日用品等の幅広い分野において優れた密閉性を有する包装容器として利用することができる。
【実施例】
【0036】
JIS A1N30合金を、常法により溶解、鋳造、熱間圧延、冷間圧延(中間焼鈍を含む)して厚さ0.3mmの箔地とし、さらにこの箔地に複数回の箔圧延を施して厚さ7μmのアルミニウム箔を製作した。
【0037】
前記アルミニウム箔に対し、表1に示すように雰囲気中の絶対湿度を変えて最終焼鈍を施した。雰囲気中の絶対湿度の調整は、焼鈍前に炉内に導入する空気の絶対湿度を調整することにより行うものとし、各実施例では空気を脱水することにより室内空気よりも絶対湿度を下げ、各比較例では温度の異なる室内の空気を湿度調整を行うことなくそのまま導入した。実施例1、4、5における脱水方法は、粒状のシリカゲルを充填したセル内に空気を導入してシリカゲルに接触させることにより行うものとし、室内空気中の水分量、温度、シリカゲルとの接触時間等に応じて表1に示す絶対湿度となった。また実施例2における脱水方法は、30℃の室内空気を10℃に冷却して結露させることにより行うものとし、実施例3における脱水方法は、17℃の室内空気を6℃に冷却して結露させることにより行うものとした。
【0038】
このようにして、絶対湿度を調整した空気を炉内に導入して最終焼鈍を施した。最終焼鈍における加熱条件はいずれも230℃×30時間とした。前記条件は、JIS A1N30合金からなるアルミニウム箔の最終焼鈍条件として従来より実施されている条件である。
【0039】
次いで、最終焼鈍を施したアルミニウム箔の片面に、押出機のダイからポリエチレンを厚さ30μmのフィルムに押出しながらラミネーション加工して、図1に示すラミネート材(1)を製作した。図1中、(2)はアルミニウム箔、(3)はポリエチレンフィルムである。
【0040】
前記ラミネート材(1)から幅15mmの短冊状試験片を切り出し、JIS K6854A法に準拠して180°剥離試験を行って接着強度を求めた。この剥離試験は、図2に示すように、試験片(S)の一端においてアルミニウム箔(2)とポリエチレンフィルム(3)を剥離させてポリエチレンフィルム(3)を180°に折り曲げ、ポリエチレン(3)の引き剥がしに要した剥離荷重によって接着強度を評価するものである。表1に、測定した接着強度を併せて示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、アルミニウム箔の最終焼鈍雰囲気の絶対湿度を制御することにより、アルミニウム箔とポリエチレンフィルムとの接着強度を向上させることができた。また、比較例6〜8では一般的に必要とされる0.98N/15mm(100gf/15mm)前後の接着強度であったのに対し、実施例1〜5ではその他の条件によるバラツキを許容するために十分とされる1.18N/15mm(120gf/15mm)以上の高い接着強度が達成されていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のラミネート材の一実施形態を示す断面図である。
【図2】ラミネート材の180°剥離試験方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1、S…ラミネート材
2…アルミニウム箔
3…合成樹脂フィルム(ポリエチレンフィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延、中間焼鈍を含む冷間圧延、箔圧延、最終焼鈍の各工程を含むアルミニウム箔の製造方法において、
最終焼鈍を低湿度に制御された雰囲気中で行うことを特徴とするラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法。
【請求項2】
最終焼鈍を絶対湿度が6g/m以下に制御された雰囲気中で行う請求項1に記載のラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法。
【請求項3】
最終焼鈍を大気中で行う請求項1または2に記載のラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法。
【請求項4】
最終焼鈍雰囲気の湿度制御を、焼鈍炉に導入する雰囲気を冷却することにより行う請求項1〜3のいずれか1項に記載のラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法。
【請求項5】
最終焼鈍雰囲気の湿度制御は、焼鈍炉に導入する雰囲気を脱水剤に接触させることにより行う請求項1〜4のいずれか1項に記載のラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法。
【請求項6】
アルミニウム箔は純度が95〜99.9質量%のアルミニウムからなる請求項1〜5のいずれか1項に記載のラミネーション加工用アルミニウム箔の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載された方法により製造されたことを特徴とするラミネーション加工用アルミニウム箔。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載された方法により製造されたアルミニウム箔に合成樹脂フィルムが貼り合わされてなることを特徴とするラミネート材。
【請求項9】
ラミネート材は包装用材料である請求項8に記載のラミネート材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−62622(P2009−62622A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310434(P2008−310434)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【分割の表示】特願2004−138680(P2004−138680)の分割
【原出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】