説明

ランフラットタイヤ

【課題】 ランフラット耐久性を維持しながらタイヤ重量の低減を可能にして、通常走行時における乗心地性を向上させると共に、燃費性を改善できるようにしたランフラットタイヤを提供する。
【解決手段】 サイドウォール部3の内面側に断面が三日月状の硬質の補強ゴム層10を配置したランフラットタイヤ1において、サイドウォール部3におけるカーカス層5の外側のタイヤ最大幅位置Pを跨ぐ上方域に所定の長さHで延在する短繊維を配合したゴム繊維複合層11を配置し、このゴム繊維複合層11における短繊維をタイヤ周方向に対して高角度に配向させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はランフラットタイヤに関し、さらに詳しくは、ランフラット耐久性を維持しながらタイヤ重量の低減を可能にして、通常走行時における乗心地性を向上させると共に、燃費性を改善できるようにしたランフラットタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、サイドウォール部の内面側に断面三日月状の硬質の補強ゴム層を配置したランフラットタイヤは、ランフラット走行時における耐久性を確保するために、補強ゴム層の厚さを厚くしたり、硬度の高いゴムを使用する方法が採られている。しかし、これらのタイヤは重量増加によって転がり抵抗が増加したり、サイド剛性の増加によって通常走行時における乗心地性が大幅に悪化するという問題がある。
【0003】
従来、通常走行時の乗心地性を改善しながら、ランフラット耐久性を向上させるための対策として、補強ゴム層の材料に特殊のゴムを使用したり、補強ゴム層の材料に短繊維を配合するようにした提案がある(例えば、特許文献1参照)。しかし、いずれの提案にあっても、通常走行時の乗心地性を向上させるには限界があり、さらにはタイヤ重量増加に伴う転がり抵抗の増加により燃費性を改善するまでには至っていなかった。
【特許文献1】特開2005−343372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上述する従来の問題点を解消するもので、ランフラット耐久性を維持しながらタイヤ重量の低減を可能にして、通常走行時における乗心地性を向上させると共に、燃費性を改善できるようにしたランフラットタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明のランフラットタイヤは、左右一対のビード部にカーカス層を装架すると共に、サイドウォール部の内面側に断面が三日月状の硬質の補強ゴム層を配置したランフラットタイヤにおいて、前記サイドウォール部における前記カーカス層の外側にタイヤ最大幅位置を跨ぐように短繊維を配合したゴム繊維複合層を配置し、該ゴム繊維複合層のタイヤ径方向長さをタイヤ断面高さの15〜60%にし、かつ該ゴム繊維複合層における前記短繊維をタイヤ周方向に対して50〜90°に配向したことを特徴とするものである。
【0006】
また、上述する構成において、以下(1)〜(5)に記載するように構成することが好ましい。
【0007】
(1)前記ゴム繊維複合層の厚さを0.5〜2.0mmにする。
(2)前記補強ゴム層の最大厚さを3〜8mmにする。
(3)前記ゴム繊維複合層における前記短繊維の配合量を4〜70重量%にする。
(4)前記短繊維の長さLと径dとの比L/dを2以上にする。
(5)前記短繊維を芳香族ポリアミド繊維、脂肪族ポリアミド繊維、レーヨン繊維、ポリオレフィンケトン繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、スチール繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種にする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、サイドウォール部におけるカーカス層の外側にタイヤ最大幅位置を跨ぐように所定の長さで延在する短繊維を配合したゴム繊維複合層を配置し、このゴム繊維複合層における短繊維をタイヤ周方向に対して高角度に配向させたので、ランフラット走行時においてタイヤの変形が最も大きくなるサイドウォール部上方域におけるたわみを効率的に抑制するため、補強ゴム層などのサイドウォール部を構成するゴムを薄肉化しても良好なランフラット耐久性を確保することができ、サイドウォール部の薄肉化により、タイヤ重量を低下させて通常走行時における乗心地性を向上させると同時に、転がり抵抗を低下させて燃費性を改善させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
図1は本発明の実施形態によるランフラットタイヤの一例を示す半断面図である。図1において、ランフラットタイヤ1は左右一対のビード部2、2と、これらビード部2、2からそれぞれ半径方向外側に延びるサイドウォール部3、3と、これらサイドウォール部3、3の半径方向外側同士を連ねる円筒状のトレッド部4とを備えている。
【0011】
左右一対のビード部2、2間にはカーカス層5(図では2層)が装架され、その両端部がそれぞれビード部2、2に埋設されたビードコア6、6の周囲にビードフィラー7、7を包み込んでタイヤ内側から外側に向かって折り返されている。トレッド部4のカーカス層5の外周側にはベルト層8(図では2層)及びベルトカバー層9が配設され、サイドウォール部3、3の内面側には断面が三日月状の硬質の補強ゴム層10がタイヤ径方向に配置されている。図中12はリムプロテクトバーを示している。
【0012】
そして、本発明のランフラットタイヤ1では、サイドウォール部3におけるカーカス層5の外側(図ではサイドウォール部3の外壁)の上方域にタイヤ最大幅位置Pを跨ぐように短繊維を配合したゴム繊維複合層11を配置し、このゴム繊維複合層11のタイヤ径方向長さHをタイヤ断面高さSHの15〜60%にすると共に、ゴム繊維複合層11における短繊維をタイヤ周方向に対して50〜90°、好ましくは65〜90°に配向させている。
【0013】
これにより、ランフラット走行時においてタイヤの変形が最も大きくなるサイドウォール部3上方域におけるたわみを効率的に抑制するため、補強ゴム層10などのサイドウォール部3を構成するゴムを薄肉化しても良好なランフラット耐久性を確保することができる。そして、サイドウォール部3の薄肉化により、タイヤ重量を低下させて通常走行時における乗心地性を向上させると同時に、転がり抵抗を低下させて燃費性を改善させることができる。
【0014】
本発明において、タイヤ断面高さSHとは、JATMA規定のリムに装着したランフラットタイヤ1にJATMA規定の最大負荷能力に対応する空気圧の80%に相当する内圧を充填したときのタイヤ断面高さをいい、タイヤ最大幅位置Pとは、ランフラットタイヤ1にJATMA規定の最大負荷能力に対応する空気圧の80%に相当する内圧を充填したときのリムプロテクトバー12を除くタイヤ最大幅の位置をいう。
【0015】
なお、上述する図1の実施形態では、サイドウォール部3の外壁の上方域にゴム繊維複合層11を配置した場合を示したが、本発明のランフラットタイヤ1では、ゴム繊維複合層11をサイドウォール部3の上方域におけるカーカス層5の外側に埋設させて配置することができる。
【0016】
上述するゴム繊維複合層11は、その厚さを0.5〜2.0mm、好ましくは0.8〜2.0mmに設定するとよい。これにより、ランフラット耐久性を向上し、サイドウォール部3を構成するゴムを薄肉化しても、良好なランフラット耐久性を維持することができる。
【0017】
本発明において、サイドウォール部3を構成するゴムを薄肉化するには、サイドウォール部3、3の内面側に配置する補強ゴム層10の肉厚を調整することによって行うとよい。このように補強ゴム層10の肉厚を調整する場合には、補強ゴム層10の最大厚さを3〜8mm、好ましくは5〜8mmに設定するとよい。これにより、通常走行時における乗心地性及び燃費性を確実に向上させることができる。
【0018】
本発明において、ゴム繊維複合層11中に配合する短繊維の配合量をゴム100重量部に対して4〜70重量部、好ましくは20〜45重量部に調整するとよい。これにより、ゴム中における短繊維の分散性を阻害することなしに、ランフラット耐久性の低下を効率よく抑制することができる。ここで、短繊維の配合量が4重量%未満ではランフラット走行時における補強ゴム層10の剛性が発現し難くなり、70重量%を超えるとゴム繊維複合層11における繊維比率が多くなり過ぎて耐久性が低下する原因になる。
【0019】
上述する短繊維は、その長さLと径dとの比L/dを2以上に調整するとよい。ここで、L/dを2未満にするとゴム繊維複合層11における短繊維の配向性が乱れる恐れがある。
【0020】
上述する場合において、短繊維の繊維長を0.5〜50mm、好ましくは1〜20mmに調整するとよく、さらに好ましくは、繊維径を0.1〜20dtex程度に調整するとよい。これにより、短繊維のゴム中における分散性を良好にすることができる。ここで、短繊維の繊維長が0.5mm未満ではゴム繊維複合層11としての剛性が不足することになり、50mmを超えると短繊維同士が絡み合い易くなって一定の方向に配向させることが難しくなる。
【0021】
本発明において、ゴム繊維複合層11を構成するゴムの材料は特に限定されるものではないが、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴムなどを使用するとよい。
【0022】
また、上述するゴムに配合する短繊維の材料も特に限定されるものではないが、芳香族ポリアミド繊維、脂肪族ポリアミド繊維、レーヨン繊維、ポリオレフィンケトン繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、スチール繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種により構成するとよい。そして、必要に応じて、これら繊維の中から複数種を混合して配合するとよい。
【0023】
上述するように、本発明のランフラットタイヤは、サイドウォール部におけるカーカス層の外側の上方域に所定の長さで延在する短繊維を配合したゴム繊維複合層を配置し、このゴム繊維複合層における短繊維をタイヤ周方向に対して高角度に配向させることにより、サイドウォール部を構成するゴムを薄肉化しても良好なランフラット耐久性を確保するようにしたもので、ゴムの薄肉化によるタイヤ重量の低減により、通常走行時における乗心地性及び燃費性を向上させることができることから、近年の高性能車両に装着されるランフラットタイヤに対して幅広く適用することができる。
【実施例】
【0024】
タイヤサイズを195/55R16 87V、タイヤの基本構造を図1として、サイドウォール部の内面側に配置した補強ゴム層の最大厚さを表1のように変化させたうえで、サイドウォール部の外壁の上方域にゴム繊維複合層を配置しない従来タイヤ(従来例)と、サイドウォール部の外壁の上方域にゴム繊維複合層を配置した本発明タイヤ(実施例1〜6)と、をそれぞれ作製した。さらに、比較のために、従来タイヤにおける補強ゴム層を薄肉化した比較タイヤ(比較例1)と、従来タイヤにおける補強ゴム層に短繊維を配合した比較タイヤ(比較例2)と、を作製した。
【0025】
なお、本発明タイヤのゴム繊維複合層における短繊維及び比較タイヤ(比較例2)の補強ゴム層における短繊維を、それぞれ繊維長が30mm、繊維径が0.25mmのレーヨン繊維コードで構成し、その配向角度を、本発明タイヤではタイヤ周方向に対して90°、比較タイヤ(比較例2)ではタイヤ周方向に対して0°とした。
【0026】
これら9種類のタイヤについて、タイヤの重量を測定すると共に、以下の試験方法により、ランフラット耐久性、乗心地性及び燃費性を評価し、その結果を従来タイヤを100とする指数により表1に併記した。数値が大きいほど優れていることを示す。
【0027】
〔ランフラット耐久性〕
各タイヤをリムに組み込み、前輪右側のタイヤの空気圧のみをゼロ(0kPa)にし、その他のタイヤの空気圧を210kPaにして、排気量1600ccのFF車の前後輪に装着し、アスファルト路面からなるテストコースを平均時速90km/hで走行させて、空気圧をゼロにしたタイヤが破壊して運転者が振動等によって危険と判断するまでに走行した距離を測定し、その結果により評価した。
【0028】
〔乗心地性〕
各タイヤをリムに組み込み、空気圧210kPaを充填して、排気量1600ccのFF車の前後輪に装着し、アスファルト路面からなるテストコースを平均時速50km/hで走行させて、熟練されたテストドライバーによる官能評価を行い、その結果により評価した。
【0029】
〔燃費性〕
各タイヤをリムに組み込み、空気圧210kPaを充填して、室内における転がり抵抗試験機により転がり抵抗指数を測定し、その結果を以って燃費性の評価とした。
【0030】
【表1】

【0031】
表1より、本発明タイヤは、従来タイヤに比較して、補強ゴム層の肉厚を低減させたにもかかわらず、ランフラット耐久性を高いレベルで維持していると同時に、タイヤ重量の低減に伴い、乗心地性を向上すると共に燃費性が向上させることがわかる。なお、比較例1は、補強ゴム層の肉厚を同等にした実施例1に比してランフラット耐久性が著しく低下し、比較例2は、補強ゴム層の肉厚を同等にした従来例に比して乗心地性及び燃費性がやや低下することを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態によるランフラットタイヤの一例を示す半断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ランフラットタイヤ
2 ビード部
3 サイドウォール部
5 カーカス層
10 補強ゴム層
11 ゴム繊維複合層
P タイヤ最大幅位置
H ゴム繊維複合層のタイヤ径方向長さ
SH タイヤ断面高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のビード部にカーカス層を装架すると共に、サイドウォール部の内面側に断面が三日月状の硬質の補強ゴム層を配置したランフラットタイヤにおいて、
前記サイドウォール部における前記カーカス層の外側にタイヤ最大幅位置を跨ぐように短繊維を配合したゴム繊維複合層を配置し、該ゴム繊維複合層のタイヤ径方向長さをタイヤ断面高さの15〜60%にし、かつ該ゴム繊維複合層における前記短繊維をタイヤ周方向に対して50〜90°に配向したランフラットタイヤ。
【請求項2】
前記ゴム繊維複合層の厚さを0.5〜2.0mmにした請求項1に記載のランフラットタイヤ。
【請求項3】
前記補強ゴム層の最大厚さを3〜8mmにした請求項1又は2に記載のランフラットタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム繊維複合層における前記短繊維の配合量を4〜70重量%にした請求項1〜3のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項5】
前記短繊維の長さLと径dとの比L/dを2以上にした請求項1〜4のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項6】
前記短繊維を芳香族ポリアミド繊維、脂肪族ポリアミド繊維、レーヨン繊維、ポリオレフィンケトン繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、スチール繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種にした請求項1〜5のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2010−115999(P2010−115999A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289724(P2008−289724)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】