説明

リアクトル、コンバータ、及び電力変換装置

【課題】放熱性に優れるリアクトルを提供する。
【解決手段】リアクトル1は、巻線2wを巻回してなるコイル2と、このコイル2内に挿通された内側コア部31、及びこの内側コア部31とコイル2の外周面を覆う外側コア部32の両コア部により閉磁路を形成する磁性コア3とを備える。外側コア部32は、磁性材料と樹脂とを含む混合物から構成されている。コイル2又は内側コア部31のどちらか一方は、その外周面の一部が外側コア部32に覆われない露出部5を有し、該露出部5の少なくとも一部が、放熱層42が形成された放熱板部40の該放熱層42に接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用DC-DCコンバータといった電力変換装置の構成部品等に用いられるリアクトル、このリアクトルを具えるコンバータ、及びこのコンバータを具える電力変換装置に関するものである。特に、放熱性に優れるリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
電圧の昇圧動作や降圧動作を行う回路の部品の一つに、リアクトルがある。例えば、特許文献1には、コイルと、このコイル内に挿通された内側コア部、及びこの内側コア部とコイルの外周の少なくとも一部を覆う連結コア部の両コア部により閉磁路を形成する磁性コアとを備えるリアクトルが開示されている。連結コア部は、その全体が磁性材料と樹脂とを含む混合物(成形硬化体)により形成されており、内側コア部とは接着剤を介在することなく、上記構成樹脂により接合されている。このリアクトルをケースに収納する場合、連結コア部は、コイルの端面及び外周面の実質的に全て、及び内側コア部においてケースに接しない端面及び外周面を覆うように形成されている(特許文献1の図1(A))。また、リアクトルをケースに収納しない場合、連結コア部は、コイルの外周全体、コイルの端面及び内側コア部の両端面を覆うように形成されている(特許文献1の図4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/013394号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リアクトルの作動時、通電によりコイルと磁性コアが発熱してコイルや磁性コアが高温になる。特に、車載用リアクトルでは、一般的な電子部品に利用されるリアクトルと比較して発熱量が大きい。そのため、このリアクトルは、通常、通電時に発熱するコイル等を冷却するために、冷却ベースといった設置対象に固定して利用される。
【0005】
磁性コアのうちコイルの外周面を覆う部分(連結コア部)を、特許文献1に開示されるような磁性材料と樹脂との成形硬化体により構成する場合、鉄といった磁性材料に比較して、通常、熱伝導性に劣る樹脂がコイルと設置対象との間に介在する。そのため、特に、発熱体であるコイルからの放熱を行い難い。よって、上記成形硬化体を利用する場合であっても、放熱性に優れる構成の開発が望まれる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、放熱性に優れるリアクトルを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、上記リアクトルを具えるコンバータ、このコンバータを具える電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、発熱するコイル等の外周面の一部に成形硬化体で覆われない箇所を形成し、この箇所に放熱性に優れる放熱層を備えることで、上記目的を達成する。
【0009】
本発明のリアクトルは、巻線を巻回してなるコイルと、このコイル内に挿通された内側コア部、及びこの内側コア部と上記コイルの外周面を覆う外側コア部の両コア部により閉磁路を形成する磁性コアとを備える。上記外側コア部は、磁性材料と樹脂とを含む混合物から構成されている。上記コイル又は上記内側コア部のどちらか一方は、その外周面の一部が上記外側コア部に覆われない露出部を有し、該露出部の少なくとも一部が、放熱板部の放熱層に接している。
【0010】
上記構成によれば、通電により高温になったコイルや内側コア部において、外周面の一部が外側コア部に覆われず露出することで、この露出した露出部を直接的に放熱層に接合でき、コイルや内側コア部の熱を効率よく放熱層に伝えられる。よって、当該放熱層を介して、上記熱を冷却ベースといった設置対象に伝達でき、放熱性に優れる。
【0011】
放熱板部を設けることで、露出されたコイルや内側コア部に対して粉塵や腐食といった外部環境からの保護や強度といった機械特性の確保等を図ることができる。
【0012】
また、上記リアクトルによれば、放熱層を備えることで、コイル又は内側コア部の設置面から放熱層を介して効率よく放熱できることから、外側コア部を磁性材料と樹脂との成形硬化体により構成することができる。外側コア部を上記成形硬化体により構成することで、外側コア部を電磁鋼板の積層体や圧粉成形体で構成する場合に比較して、所望の形状の外側コア部を容易に形成できる。また、任意の形状のコイルに対して、当該コイルの外周面の一部を容易に外側コア部で覆うことができる。更に、磁性材料と樹脂との混合割合を容易に変更できることから、所望の磁気特性(主としてインダクタンス)を有する外側コア部やこの外側コア部を備える磁性コアを容易に形成できる。
【0013】
本発明の一形態として、上記放熱層の少なくとも上記露出部と接する表面が、絶縁性接着剤で構成されていることが挙げられる。
【0014】
放熱層の少なくとも上記露出部と接する表面が絶縁性接着剤で構成されているため、放熱板部が導電性材料から構成された場合でも、コイルを放熱層に接触させることで、コイルと放熱板部との間を確実に絶縁できる。従って、放熱層を薄くすることができ、上記熱を設置対象に伝達し易く、上記リアクトルは、放熱性に優れる。また、上述のように放熱層の厚さを薄くすることで、コイル又は内側コア部の設置面と放熱板部の内面との間隔を小さくすることができ、リアクトルの大型化を実質的に招かない。さらに、この接着剤を硬化することで、コイル又は内側コア部を放熱層上に確実に接合することができる。この点からも放熱性に優れるリアクトルを得ることができる。
【0015】
本発明の一形態として、上記放熱層の少なくとも一部が、絶縁高熱伝導接着剤で構成され、上記露出部の少なくとも一部が、上記絶縁高熱伝導接着剤に接合されていることが挙げられる。
【0016】
放熱板部に形成された放熱層の少なくとも一部は、絶縁高熱伝導接着剤により構成されることから、放熱板部が導電性材料から構成された場合でも、コイルを放熱層(絶縁高熱伝導接着剤)に接触(接合)させることで、コイルと放熱板部との間を確実に絶縁できる。従って、放熱層を薄くすることができ、上記熱を設置対象に伝達し易く、上記リアクトルは、放熱性に優れる。また、上述のように放熱層の厚さを薄くすることで、コイル又は内側コア部の設置面と放熱板部の内面との間隔を小さくすることができ、リアクトルの大型化を実質的に招かない。
【0017】
本発明の一形態として、外側コア部は、磁性材料と樹脂との混合物から構成されていることが挙げられる。
【0018】
外側コア部を磁性材料と樹脂との混合物から構成することで、磁性材料と樹脂との混合割合を容易に変更できるので、所望の磁気特性を有する外側コア部を備えるリアクトルとすることができる。
【0019】
本発明の一形態として、上記露出部が、上記コイルの外周面の一部に形成されている形態が挙げられる。
【0020】
露出部をコイルの外周面に形成することで、発熱体であるコイルからの熱を効率よく放熱層に伝えられ、当該放熱層を介して、コイルの熱を設置対象に伝達でき、放熱性に優れる。
【0021】
本発明の一形態として、上記露出部が、上記コイルの軸方向に沿って一端から他端に連続して形成されている形態が挙げられる。
【0022】
コイルの外周面において、露出部をコイルの軸方向に沿って一端から他端に連続して形成することで、コイルの軸方向に沿って均一に放熱することができる。
【0023】
本発明の一形態として、上記外側コア部は、トランスファー成形又は射出成形により形成されている形態が挙げられる。
【0024】
トランスファー成形や射出成形により形成された外側コア部を備えるリアクトルは、外側コア部により、コイルや内側コア部に対して粉塵や腐食といった外部環境からの保護や強度といった機械特性の確保等を図ることができる。よって、外側コア部の側面を覆う部品、例えば上記放熱板部と一体化してケースを構成するような側壁部等を別途設ける必要がない。つまり、外側コア部の放熱板部との接触面以外の外周面をケースの側壁としての役割とすることができる。側壁部を設ける必要がないため、部品点数の削減が図れ、リアクトルも小型化できる。
【0025】
本発明の一形態として、上記放熱板部とは別部材で、上記コイルと磁性コアとの周囲を囲んで配置される側壁部を備える形態が挙げられる。この側壁部と上記放熱板部とを一体化することにより、上記外側コア部の側面と設置面とを覆うケースが構成される。
【0026】
外側コア部の側面も覆うことで、外側コア部に対して粉塵や腐食といった外部環境からの保護や強度といった機械特性の確保等を図ることができる。上記構成によれば、ケースを構成する放熱板部と側壁部とが別部材であることから、それぞれを別個に製造できるため、その製造形態の自由度が大きく、例えば、両者を異なる材質とすることができる。また、コイルと磁性コアとの組合体を放熱板部に配置してから側壁部と放熱板部とを一体にできるため、リアクトルの組立て作業性にも優れる。
【0027】
ケースを備えることで、外側コア部の形成工程において、まずコイルと内側コア部の組物を放熱板部と側壁部とが一体化されたケースに収納し、このケース内に、外側コア部を構成する磁性材料と樹脂とを含む混合物を流し込んで、所定の形状に成形した後、樹脂を硬化させることで、外側コア部を形成できると共に、リアクトルを得ることができる。
【0028】
本発明の一形態として、上記放熱板部と一体に形成された側壁部を有するケースを備える形態が挙げられる。上記ケースは、上記外側コア部の側面と設置面とを覆う。
【0029】
この構成によれば、ケースを構成する放熱板部と側壁部とが一体に形成されているので、放熱板部と側壁部との組立工程の削減が図れる。
【0030】
本発明リアクトルは、コンバータの構成部品に好適に利用することができる。本発明のコンバータは、スイッチング素子と、上記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを具え、上記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するものであり、上記リアクトルが本発明リアクトルである形態が挙げられる。この本発明コンバータは、電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。本発明の電力変換装置は、入力電圧を変換するコンバータと、上記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを具え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、上記コンバータが本発明コンバータである形態が挙げられる。
【0031】
本発明コンバータや本発明電力変換装置は、放熱性に優れる本発明リアクトルを具えることで、放熱性に優れることが求められる車載部品などに好適に利用できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明のリアクトルは、放熱性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1(A)は、実施形態1のリアクトルの概略斜視図であり、図1(B)は、図1(A)においてB-B線で切断した断面図である。
【図2】図2は、実施形態2のリアクトルの概略を示す分解斜視図である。
【図3】図3は、ハイブリッド自動車の電源系統を模式的に示す概略構成図である。
【図4】図4は、本発明コンバータを具える本発明電力変換装置の一例を示す概略回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して、実施形態のリアクトルを説明する。図面において同一符号は同一部材を示す。
【0035】
<実施形態1>
≪リアクトルの全体構成≫
図1を参照して、本発明の実施形態1を説明する。リアクトル1は、巻線2wを巻回してなるコイル2と、このコイル2内に挿通された内側コア部31、及びこの内側コア部31とコイル2の外周面を覆う外側コア部32の両コア部により閉磁路を形成する磁性コア3とを備える。本発明のリアクトルの特徴とするところは、コイル2又は内側コア部31のどちらか一方は、その外周面の一部が外側コア部32に覆われない露出部5を有し、該露出部5の少なくとも一部が、放熱層42が形成された放熱板部40の該放熱層42に接していることにある。実施形態1では、コイル2の外周面に露出部5が形成されている。以下、各構成部材をより詳細に説明する。
【0036】
[コイル]
コイル2は、1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなる円筒状体である。巻線2wは、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁性材料からなる絶縁被覆を備える被覆線が好適である。ここでは、導体が銅製の平角線からなり、絶縁被覆がエナメル(代表的にはポリアミドイミド)からなる被覆平角線を利用している。絶縁被覆の厚さは、20μm以上100μm以下が好ましく、薄いほど占積率を高められ、厚いほどピンホールを低減できて電気絶縁性を高められる。例えば、エナメル材料を多層に塗布して絶縁被覆を形成すると、絶縁被覆の厚さを厚くできる。また、絶縁被覆は、異なる材質の多層構造とすることもできる。例えば、ポリアミドイミド層の外周にポリフェニレンスルフィド層を備える多層構造が挙げられる。多層構造の絶縁被覆も電気絶縁性に優れる。巻線2wの巻き数(ターン数)は適宜選択できる。コイル2は、この被覆平角線をエッジワイズ巻きにして形成されている。コイル2の端面形状を円形状とすることで、エッジワイズ巻きであっても比較的容易にコイルを形成できる。巻線2wは、導体が平角線からなるもの以外に、断面が円形状、多角形状等の種々の形状のものを利用できる。平角線は、断面が円形状の丸線を用いた場合よりも占積率が高いコイルを形成し易い。コイルの端面形状は、円形状以外にも、楕円形状やトラック形状等の種々の形状のものを利用できる。また、コイルは、一対のコイル素子が、その各軸方向が並列するように横並びされた形態のものも利用できる。
【0037】
コイル2を形成する巻線2wの両端部は、ターンから適宜引き延ばされて後述する外側コア部32の外部に引き出され、絶縁被覆が剥がされて露出された導体部分に、銅やアルミニウムなどの導電性材料からなる端子部材(図示せず)が接続される。この端子部材を介して、コイル2に電力供給を行う電源などの外部装置(図示せず)が接続される。巻線2wの導体部分と端子部材との接続には、TIG溶接などの溶接の他、圧着や半田による接続などが利用できる。図1に示す例では、コイル2の軸方向に直交するように巻線2wの両端部を上方に引き出しているが、引き出し方向は適宜選択することができる。例えば、巻線の両端部をコイルの軸方向に平行するように引き出してもよいし、各端部の引き出し方向をそれぞれ異ならせてもよい。
【0038】
このコイル2は、その内周に後述する磁性コア3の一部(内側コア部31)が挿入された状態で、後述する放熱板部40に形成された放熱層42に接合されている。本形態のリアクトル1では、このリアクトル1を冷却ベースといった設置対象に設置したとき、コイル2の軸方向が設置対象の表面に平行するように放熱層42に接合された横型配置である。このコイル2は、その外周面の一部が外側コア部32に覆われない露出部5を有している。
【0039】
(露出部)
露出部5は、コイル2又は内側コア部31のどちらか一方において、その外周面が外側コア部32に覆われておらず、露出した部分のことである。この露出部5の少なくとも一部が、放熱層42に直接的に接合されていることで、コイル2や内側コア部31の熱を効率よく放熱層42に伝えられる。よって、放熱層42を介して、上記熱を冷却ベースといった設置対象に伝達でき、放熱性を向上できる。コイル2は通電による発熱体であるため、特に、コイル2を放熱層42に接することで、効果的に放熱を行うことができる。ここでは、図1(B)に示すように、露出部5は、コイル2の軸方向に沿って一端から他端に連続して露出部5を形成している。そして、この露出部5において、コイル2と放熱層42とが接合されている。
【0040】
[磁性コア]
磁性コア3は、コイル2内に挿通された円柱状の内側コア部31と、内側コア部31の両端面、及びコイル2の円筒状の外周面の一部を覆うように形成された外側コア部32とを備える。これら内側コア部31及び外側コア部32により、コイル2を励磁したとき、閉磁路を形成する。磁性コア3は、内側コア部31の構成材料と、外側コア部32の構成材料とを異ならせることで、磁気特性を異ならせることができる。具体的には、内側コア部31の飽和磁束密度は、外側コア部32の飽和磁束密度よりも高く、外側コア部32の比透磁率は、内側コア部31の比透磁率よりも低くすることが挙げられる。
【0041】
磁性コア3全体の比透磁率は、10以上50以下とすることが好ましい。そうすれば、リアクトル1のインダクタンスを調整し易い。ここで、磁性コア3全体の比透磁率とは、例えば、内側コア部31と外側コア部32の間など磁性コア3にギャップ材を介在する場合は、内側コア部31と外側コア部32とギャップ材とを合わせた比透磁率であり、磁性コア3にギャップ材が介在されない場合は、内側コア部31と外側コア部32を合わせた比透磁率である。
【0042】
内側コア部31の比透磁率は、5以上500以下とすることが好ましく、外側コア部32の比透磁率は、5以上50以下とすることが好ましい。内側コア部31の比透磁率は、内側コア部31を圧粉成形体で構成する場合、50以上500以下とすることが好ましく、磁性材料と樹脂とを含む混合物で構成する場合、5以上50以下とすることが好ましい。
【0043】
なお、上記コア部の比透磁率は、次のようにして求めたものとする。まず、各コア部と同じ材料で構成した材料を加工し、外径34mm、内径20mm、厚さ5mmのリング状試験片を作製する。このリング状試験片に、一次側300巻き、二次側20巻きの巻線を施し、試験片についてのB-H初磁化曲線を、H=0〜100エルステッド(Oe)の範囲で測定する。測定には、例えば、理研電子株式会社製BHカーブトレーサ「BHS-40S10K」を用いることができる。得られたB-H初磁化曲線の勾配(B/H)の最大値が試験片の比透磁率であり、その比透磁率を上記コア部の比透磁率と見做す。なお、ここでの磁化曲線とは、所謂直流磁化曲線である。因みに、後段でコア部の飽和磁束密度について記載しているが、その飽和磁束密度は、上記試験片に対して電磁石で10000(Oe)の磁界を印加し、十分に磁気飽和させたときの試験片の磁束密度である。
【0044】
(内側コア部)
内側コア部31は、コイル2の内周面の形状に沿った円柱状の外形を有しており、その全体が圧粉成形体から構成されて、ギャップ材やエアギャップ、接着剤が介在していない中実体である。
【0045】
圧粉成形体は、代表的には、表面に絶縁被膜を備える軟磁性粉末を成形後、上記絶縁被膜の耐熱温度以下で焼成することにより得られる。軟磁性粉末に加えて適宜結合剤を混合した混合粉末を利用したり、上記絶縁被膜としてシリコーン樹脂等からなる被膜を備えた粉末を利用したりすることができる。圧粉成形体の飽和磁束密度は、軟磁性粉末の材質や、上記軟磁性粉末と上記結合剤との混合比、種々の被膜の量などを調整することで変化させることができる。例えば、飽和磁束密度の高い軟磁性粉末を用いたり、結合剤の配合量を低減して軟磁性材料の割合を高めたりすることで、飽和磁束密度が高い圧粉成形体が得られる。その他、成形圧力を変える、具体的には成形圧力を高くすることでも飽和磁束密度を高められる傾向にある。所望の飽和磁束密度となるように軟磁性粉末の材質の選択や成形圧力の調整などを行うとよい。
【0046】
上記軟磁性粉末は、Fe,Co,Niといった鉄族金属、Fe-Si,Fe-Ni,Fe-Al,Fe-Co,Fe-Cr,Fe-Si-AlなどのFe基合金、希土類金属やアモルファス磁性体といった軟磁性材料からなる粉末等が利用できる。特に、Fe基合金粉末は、飽和磁束密度が高い圧粉成形体を得易い。このような粉末は、アトマイズ法(ガス又は水)や、機械的粉砕法などにより製造することができる。また、結晶がナノサイズであるナノ結晶材料からなる粉末、好ましくは異方性ナノ結晶材料からなる粉末を用いると、高異方性で低保磁力の圧粉成形体が得られる。軟磁性粉末に形成される絶縁被膜は、例えば、燐酸化合物、珪素化合物、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、又は硼素化合物などが挙げられる。結合剤は、例えば、熱可塑性樹脂、非熱可塑性樹脂、又は高級脂肪酸が挙げられる。この結合剤は、上記焼成により消失したり、シリカなどの絶縁物に変化したりする。圧粉成形体は、絶縁被膜などの絶縁物が存在することで、軟磁性粉末同士が絶縁されて、渦電流損失を低減でき、コイルに高周波の電流が通電される場合であっても、上記損失を少なくすることができる。圧粉成形体は、公知のものを利用することができる。
【0047】
圧粉成形体における軟磁性粉末(磁性成分)の含有量は、圧粉成形体を100体積%とするとき、体積割合で70体積%以上とすることが望ましく、80体積%以上とすることがさらに望ましい。圧粉成形体は絶縁成分に比べて磁性成分が圧倒的に多いため、内側コア部31を高比透磁率でかつ高飽和磁束密度の磁性部材とすることができる。具体的には、内側コア部31の比透磁率は50以上500以下、飽和磁束密度は1.0T以上とすることが望ましい。また、内側コア部31の熱伝導率は10W/m・K以上とすることが望ましい。
【0048】
なお、内側コア部31は、上記圧粉成形体に代えて、次述する外側コア部32と同様の磁性材料と樹脂とを含む混合物(成形硬化体)や、珪素鋼板に代表される電磁鋼板の積層体を利用することもできる。また、内側コア部31の断面形状は、コイル2の内周面の形状に沿った形状であって、円形状以外にも、楕円形状やトラック形状、或いは多角形状等の種々の形状のものを利用できる。
【0049】
図1に示す例では、内側コア部31の長さはコイル2の長さよりも若干長い。ここでの「長さ」はコイル2の軸方向の長さとする。そのため、内側コア部31の両端面及びその近傍がコイル2の端面から突出している。内側コア部の突出長さは適宜選択することができる。ここでは、内側コア部31においてコイル2の各端面からの突出長さを等しくしているが、異ならせてもよいし、コイル2のいずれか一方の端面からのみ突出させてもよい。また、内側コア部の長さとコイルの長さとが等しい形態、内側コア部の長さがコイルの長さよりも短い形態とすることもできる。いずれの形態にしても、コイル2を励磁したときに閉磁路が形成されるように外側コア部32を備えるとよい。
【0050】
(外側コア部)
外側コア部32は、コイル2の両端面、コイル2の外周面のうち、後述する放熱層42に接触していない箇所の実質的に全て、及び内側コア部31の両端面及びその近傍を覆うように形成されている。外側コア部32と内側コア部31とにより、磁性コア3は、閉磁路を形成する。この外側コア部32と内側コア部31とは接着剤やギャップ材を介在することなく、外側コア部32の構成樹脂により接合してもよいし、外側コア部32と内側コア部31の端面との間に接着剤やギャップ材を介在して接合してもよい。ここでは前者を採用する。従って、磁性コア3は、その全体に亘って接着剤やギャップ材を介することなく一体化された一体化物である。なお、後者を採用する場合、ギャップ材としては、非磁性材料(例えば、アルミナやガラスエポキシ樹脂、不飽和ポリエステルなど)やエアギャップが挙げられる。
【0051】
外側コア部32は、コイル2において放熱層42に接触していない箇所の実質的に全てを覆っていることから、リアクトル1は、外側コア部32により、コイル2や内側コア部31に対して粉塵や腐食といった外部環境からの保護や強度といった機械特性の確保等を図ることができる。
【0052】
上記外側コア部32は、その全体が磁性材料と樹脂とを含む混合物(成形硬化体)により形成されている。成形硬化体は、代表的には、トランスファー成形、射出成形、MIM(Metal Injection Molding)、注型成形、磁性体粉末と粉末状の固形樹脂とを用いたプレス成形などにより形成することができる。トランスファー成形や射出成形、MIMは、通常、磁性材料からなる粉末(必要に応じて更に非磁性粉末を加えた混合粉末)と流動性のあるバインダ樹脂とを混合し、この混合流体を、所定の圧力をかけて成形金型に流し込んで成形した後、バインダ樹脂を硬化させる。注型成形は、上記混合流体を、圧力をかけることなく成形金型に注入して成形・硬化させる。いずれの成形手法も、磁性粉末には、上述した内側コア部31に利用する軟磁性粉末と同様のものを利用することができる。特に、外側コア部32に利用する軟磁性粉末は、純鉄粉末やFe基合金粉末といった鉄基材料からなるものが好適に利用できる。軟磁性材料からなる粒子の表面に燐酸塩などからなる被膜を具える被覆粉末を利用してもよい。磁性粉末は、平均粒径が1μm以上1000μm以下、更に10μm以上500μm以下の粉末が利用し易い。
【0053】
また、上記いずれの成形手法も、バインダとなる樹脂には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂が好適に利用できる。熱硬化性樹脂を用いた場合、成形体を加熱して樹脂を熱硬化させる。バインダとなる樹脂に常温硬化性樹脂、或いは低温硬化性樹脂を用いてもよく、この場合、成形体を常温〜比較的低温に放置して樹脂を硬化させる。成形硬化体は、非磁性材料である樹脂が比較的多く残存するため、内側コア部31を構成する圧粉成形体と同じ軟磁性粉末を用いた場合でも、圧粉成形体よりも飽和磁束密度が低く、かつ比透磁率も低いコアを形成し易い。
【0054】
成形硬化体の構成材料として、磁性材料の粉末及びバインダとなる樹脂に加えて、アルミナやシリカといったセラミックスからなるフィラーを混合させてもよい。磁性材料の粉末に比較して比重が小さい上記フィラーを混合することで、磁性材料の粉末の偏在を抑制して、全体に磁性材料の粉末が均一的に分散した外側コア部を得易い。また、上記フィラーが熱伝導性に優れる材料から構成される場合、放熱性の向上に寄与することができる。上記フィラーを混合する場合、磁性材料の粉末とフィラーとの合計含有量は、外側コア部を100体積%とするとき、20体積%〜70体積%が挙げられる。もちろん、成形硬化体は、磁性材料と樹脂のみからなる混合物で構成されていてもよい。
【0055】
上記トランスファー成形や射出成形を利用する場合、磁性材料の粉末とバインダ樹脂との配合、上述したフィラーを含有する場合、磁性材料の粉末、バインダ樹脂、フィラーの配合を変えることで、外側コア部の比透磁率、飽和磁束密度を調整することができる。例えば、磁性材料の粉末の配合量を減らすと、比透磁率は小さくなる傾向にある。リアクトルが所望のインダクタンスを有するように、外側コア部の比透磁率、飽和磁束密度を調整するとよい。具体的には、外側コア部32の比透磁率は5以上50以下、飽和磁束密度は0.6T以上、更には0.8T以上とすることが望ましい。また、外側コア部32の熱伝導率は、0.25W/m・K以上とすることが望ましい。
【0056】
[放熱板部]
放熱板部40は、ほぼ矩形の板であり、冷却ベースといった設置対象に接して固定される。図1に示す例では、放熱板部40が下方となる設置状態を示すが、放熱板部40が上方、或いは側方となる設置状態も有り得る。この放熱板部40において、上記コイル2と磁性コア3との組合体が設置される一面に放熱層42が形成されている。放熱板部40の外形は適宜選択することができる。ここでは、放熱板部40は、四隅のそれぞれから突出した取付部400を有しており、冷却ベースといった設置対象に固定するボルト(図示せず)が挿通されるボルト孔400hが設けられている。ボルト孔400hは、ネジ加工が成されていない貫通孔、ネジ加工がされたネジ孔のいずれも利用でき、個数なども適宜選択することができる。
【0057】
放熱板部40の構成材料は、例えば、金属材料とすると、金属材料は一般に熱伝導率が高いことから、放熱性に優れた放熱板部とすることができる。具体的な金属は、例えば、アルミニウムやその合金、マグネシウム(熱伝導率:156W/m・K)やその合金、銅(398W/m・K)やその合金、銀(427W/m・K)やその合金、鉄やオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS304:16.7W/m・K)が挙げられる。上記アルミニウムやマグネシウム、及びその合金を利用すると、リアクトルの軽量化に寄与することができる。特に、アルミニウムやその合金は、耐食性にも優れるため、車載部品に好適に利用することができる。金属材料により放熱板部40を形成する場合、ダイキャストといった鋳造の他、プレス加工などの塑性加工により形成することができる。ここでは、放熱板部40はアルミニウムにより構成している。
【0058】
(放熱層)
放熱層42は、熱伝導性に優れる材料で構成することが挙げられる。具体的には、熱伝導率が0.5W/m・K以上であることが好ましく、かつ電気絶縁性を有することがより好ましい。放熱層42は、熱伝導率が高いほど好ましく、2W/m・K以上、3W/m・K以上、特に10W/m・K以上、更に20W/m・K以上、とりわけ30W/m・K以上の材料により構成されることが好ましい。
【0059】
熱伝導性に優れる材料は、例えば、金属元素,B,及びSiの酸化物、炭化物、及び窒化物から選択される一種の材料といったセラミックスなどの非金属無機材料が挙げられる。より具体的なセラミックスは、窒化珪素(Si3N4):20W/m・K〜150W/m・K程度、アルミナ(Al2O3):20W/m・K〜30W/m・K程度、窒化アルミニウム(AlN):200W/m・K〜250W/m・K程度、窒化ほう素(BN):50W/m・K〜65W/m・K程度、炭化珪素(SiC):50W/m・K〜130W/m・K程度等が挙げられる。これらのセラミックスは、放熱性に優れる上に、電気絶縁性にも優れる。上記セラミックスにより形成する場合、例えば、PVD法やCVD法といった蒸着法を利用することができる。或いは、上記セラミックスの焼結板などを用意して、適宜な接着剤により形成することができる。
【0060】
或いは、上記材料として、上記セラミックスからなるフィラーを含有する絶縁性樹脂が挙げられる。絶縁性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。絶縁性樹脂に上記放熱性及び電気絶縁性に優れるフィラーを含有することで、放熱性及び電気絶縁性に優れる放熱層42を構成することができる。また、フィラーを含有する樹脂を利用した場合でも、放熱板部40に当該樹脂を塗布などすることで、放熱層42を容易に形成できる。上記絶縁性樹脂により放熱層42を形成する場合、例えば、スクリーン印刷を利用すると容易に形成することができる。
【0061】
また、放熱層42は、接着剤で構成することが挙げられる。具体的には、絶縁性接着剤であることが好ましく、絶縁高熱伝導接着剤であることがより好ましい。放熱層42を接着剤により構成することで、コイル2及び磁性コア3の組合体、特に、コイル2が有する露出部5と放熱層42との密着性を高められる。特に、絶縁性接着剤であれば、コイル2が有する露出部5と放熱層42との間の絶縁性を向上でき、絶縁高熱伝導接着剤であれば、絶縁性の向上に加えて熱伝導性を向上できる。上記絶縁性接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤などが挙げられる。上記絶縁高熱伝導接着剤としては、上記セラミックスからなるフィラーを含有する上記絶縁性接着剤が挙げられる。絶縁高熱伝導接着剤とは、熱伝導率が2W/m・K超である。
【0062】
放熱層42は多層構造としてもよい。その場合、放熱層42のうち、コイル2と磁性コア3との組合体が接する表面側、即ち、露出部5と接する表面側が上記絶縁性材料から構成され、放熱板部40に接する側が熱伝導性に優れる上記材料から構成されることが挙げられる。或いは、上記表面側が上記絶縁性接着剤や絶縁高熱伝導接着剤から構成され、放熱板部40に接する側が熱伝導性に優れる上記材料から構成されることが挙げられる。このように放熱層42を多層構造とする場合でも、放熱層42の全体の熱伝導率が高いほど好ましく、具体的には上述のように、0.5W/m・K以上、2W/m・K以上、3W/m・K以上、特に10W/m・K以上、更に20W/m・K以上、とりわけ30W/m・K以上であることが好ましい。
【0063】
ここでは、放熱層42は、アルミナからなるフィラーを含有するエポキシ系接着剤により形成されている(熱伝導率:3W/m・K)。放熱層42は、コイル2及び磁性コア3の組合体との接合面が放熱層42に十分に接触できる面積を有していれば特に形状は問わない。
【0064】
放熱層42は、上記露出部5との接合面に、その露出された部材(ここでは、コイル2)の位置決めを行う位置決め部を備えることが好ましい。位置決め部を設けることで、例えば、放熱層42にコイル2と内側コア部31の組物を接合してから外側コア部32を形成する場合、上記組物を放熱層42に容易に位置決めして固定できる。ここでは、図1(B)に示すように、放熱層42上にコイル2の形状に沿った位置決め溝420を形成している。ここでは、この位置決め溝420は、断面が円弧状であり、コイル2の軸方向の長さを有する溝である。この位置決め溝420にコイル2を載置することで、コイル2の位置決め溝420との接触面には外側コア部32が形成されず、コイル2に露出部5が形成される。位置決め部の形態は、上記位置決め溝420以外に、放熱層42上にコイル2を位置決めできれば特に問わない。
【0065】
[その他の構成部材]
(絶縁物)
コイル2と磁性コア3との間の絶縁性をより高めるために、コイル2において磁性コア3に接触する箇所には、絶縁物を介在させることが好ましい。例えば、コイル2の内・外周面に絶縁性テープを貼り付けたり、絶縁紙や絶縁シートを配置したりすることが挙げられる。また、内側コア部31の外周に絶縁性材料からなるボビン(図示せず)を配置してもよい。ボビンは、内側コア部31の外周を覆う筒状体が挙げられる。また、筒状体の両端から周方向に延びる環状のフランジ部を備えるボビンを利用すると、コイル2の端面と外側コア部32との間の絶縁性を高められる。ボビンの構成材料には、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などの絶縁性樹脂が好適に利用できる。
【0066】
≪リアクトルの製造方法≫
上記構成を備えるリアクトル1は、以下のようにして製造することができる。構成部材は、適宜図1を参照して説明する。まず、コイル2、及び圧粉成形体からなる内側コア部31を用意し、コイル2内に内側コア部31を挿入して、コイル2と内側コア部31の組物を作製する。このとき、上述のようにコイル2と内側コア部31との間に適宜絶縁物を配置させてもよい。
【0067】
次に、上記組物を放熱板部40の放熱層42に接合する。このとき、放熱層42に設けられた位置決め溝420を用いることで、コイル2において、露出させたい部分を放熱層42に確実に接するように位置決めでき、放熱層42に組物を容易に接合できる。
【0068】
そして、放熱層42上に接合した組物の外周面に外側コア部32を形成する。このとき、外側コア部32を形成するために複数の金型(図示せず)を用いる。例えば、放熱板部40が収納でき、上方に開口部を有する容器状の下金型と、この下金型の側壁内面と組物との間に配置され、下方に開口部を有する容器状の上金型とを用意する。上金型の開口部と反対側の面には、外側コア部の構成材料を注入する注入口が形成されている。これら金型に組物を配置した状態で、上金型に形成された注入口から、外側コア部の構成材料である磁性材料と樹脂とを含む混合物を注入する。このとき、下金型、上金型、放熱板部の各接合面には隙間がないものとする。注入した混合物が硬化したら、金型を後退させる。こうして得られたリアクトル1は、放熱板部40の放熱層42上にコイル2の露出部5が接合され、この露出部5以外のコイル2と内側コア部31の組物の外周に外側コア部32が形成されている。
【0069】
≪用途≫
上記構成を備えるリアクトル1は、通電条件が、例えば、最大電流(直流):100A〜1000A程度、平均電圧:100V〜1000V程度、使用周波数:5kHz〜100kHz程度である用途、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車などの車載用電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。
【0070】
≪効果≫
実施形態1のリアクトル1では、通電により発熱したコイル2において、一部が外側コア部32で覆われず露出された露出部5を備えているため、この露出部5を放熱層42に接合することができ、コイル2の熱を効率よく放熱層42に伝えられる。よって、当該放熱層42を介して、コイル2の熱を冷却ベースといった設置対象に伝達でき、放熱性に優れる。また、放熱層42は接着剤で構成されているため、この接着剤を硬化することで、コイル2を放熱層42上に確実に接合することができ、この点からも放熱性に優れる。
【0071】
リアクトル1は、ケースを有していないため、小型にできる。ケースを有していなくても、外側コア部32により、コイル2や内側コア部31に対して粉塵や腐食といった外部環境からの保護や強度といった機械特性の確保等を図ることができ、露出部5のコイル2も、放熱板部40によって、機械特性の確保等を図ることができる。
【0072】
<変形例1>
上述した実施形態1では、コイル2と内側コア部31の組物を放熱層42に接合してから、外側コア部32を形成した形態を説明した。コイル2と内側コア部31の組物に外側コア部32を形成した組合体を作製してから、この組合体を放熱層42に接合する形態とすることができる。
【0073】
放熱板部40は、放熱層42の形成面に、コイル2と磁性コア3の組合体がつくる形状に沿った固定溝410(図1(B)参照)を備えることが好ましい。この固定溝410に放熱層42を形成する。上記組合体を放熱層42に接合する際、放熱層42が形成された固定溝410が、当該組合体の形状となっているため、組合体の位置決めを容易にでき、その位置がずれることを抑制できる。このとき、放熱層42上には、位置決め部は特に設ける必要はない。
【0074】
この形態の場合も、実施形態1と同様、コイルに露出部を有しており、この露出部が放熱層に直接的に接合することで、放熱性に優れる。また、外側コア部と放熱板部により、コイルや内側コア部に対して、機械特性の確保等を図ることができる。よって、ケースを省略でき、リアクトルを小型にできる。
【0075】
<実施形態2>
本発明の実施形態2に係るリアクトルについて、図2に基づいて説明する。実施形態2では、上述した実施形態1のリアクトル1において、外側コア部32の側面を覆い、放熱板部40と一体化することでケース4となる側壁部41を備える点が異なる。リアクトル1は、そのままでも利用することができるが、上記側壁部41で外側コア部32の側面も覆うことで、外側コア部32に対しても、機械特性の確保等を図ることができる。以下、この相違点を中心に説明し、その他の構成は実施形態1の構成と同様であるため、説明を省略する。
【0076】
[側壁部]
側壁部41は、放熱板部40とは別部材で構成されており、固定材により両者を一体化することで、外側コア部32の側面と設置面とを覆うケース4となる。側壁部41は、両端が開口した矩形枠状体であり、下部開口側を放熱板部40により塞いで組み立てたとき、外側コア部32の側面を囲むように配置され、上部開口側は部材で塞がれることなく開放される。側壁部41は、放熱板部40との接合領域が該放熱板部40の外形に沿った矩形状であり、上部開口側の領域が外側コア部32の外周面に沿った曲面形状である。
【0077】
側壁部41の放熱板部40との接合領域は、放熱板部40と同様に、四隅のそれぞれから突出する取付部411を備え、各取付部411には、ボルト孔411hが設けられて、取付箇所を構成している。ボルト孔411hは、側壁部41の構成材料のみにより形成してもよいし、別材料からなる筒体を配置させて形成してもよい。ここでは、金属管を配置してボルト孔411hを形成している。或いは、側壁部41が取付部を備えておらず、放熱板部40のみが取付部400を備える形態としてもよい。この形態の場合、放熱板部40の取付部400が側壁部41の外形から突出するように放熱板部40の外形を形成する。
【0078】
放熱板部40と側壁部41とを一体に接続する手法は、種々の固定材を利用できる。固定材は、例えば、接着剤やボルトといった接合部材が挙げられる。ここでは、放熱板部40及び側壁部41にボルト孔(図示せず)を設け、固定材にボルト(図示せず)を利用し、このボルトをねじ込むことで、両者を一体化している。
【0079】
側壁部41の構成材料は、例えば、金属材料とすると、金属材料は一般に熱伝導率が高いことから、放熱性に優れたケースとすることができる。具体的な金属は、上述した放熱板部40の構成材料と同じものを利用できる。或いは、上記構成材料は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂などの樹脂といった非金属材料とすることもできる。また、これらの非金属材料は上述した金属材料よりも軽く、ケースを備えていてもリアクトルを軽量にできる。上記樹脂にセラミックスからなるフィラーを混合した形態とすると、放熱性を向上することができる。樹脂によりケース4を形成する場合、射出成形を好適に利用することができる。
【0080】
放熱板部40及び側壁部41の構成材料は同種の材料とすることができる。この場合、両者の熱伝導率は等しくなる。或いは、放熱板部40及び側壁部41が別部材であることから、両者の構成材料を異ならせることができる。この場合、特に、放熱板部40の熱伝導率が側壁部41の熱伝導率よりも大きくなるように、両者の構成材料を選択すると、放熱板部40に配置されるコイル2の露出部5の熱を冷却ベースといった設置対象に効率よく伝達できる。ここでは、放熱板部40と側壁部41共にアルミニウムにより構成している。他に、底板部40をアルミニウムにより構成し、側壁部41をPBT樹脂により構成することもできる。
【0081】
≪ケース(側壁部)付リアクトルの製造方法≫
上記側壁部41を備えるリアクトル(以下、ケース付リアクトル10と呼ぶ)は、コイル2と磁性コア3との組合体の周囲を囲むように上方から側壁部41を被せ、固定材(ここでは、別途用意したボルト(図示せず))により、放熱板部40と側壁部41とを一体化することで得ることができる。
【0082】
上記方法は、コイル2と内側コア部31の組物の形成⇒放熱板部40への上記組物の接合⇒外側コア部32の形成⇒側壁部41の組立という工程によりケース付リアクトル10を得る方法である。つまり、実施形態1のリアクトル1に側壁部41を組立てる方法である。この方法以外に、コイル2と内側コア部31の組物の形成⇒放熱板部40への上記組物の接合⇒側壁部41の組立⇒外側コア部32の形成という工程によってもケース付リアクトル10を得ることができる。この場合、まずコイル2と内側コア部31の組物を放熱板部40に固定し、側壁部41をこの組物を囲むように放熱板部40と一体化しケース4を形成する。このケース4内に、外側コア部32を構成する磁性材料と樹脂とを含む混合物を流し込んで、所定の形状に成形した後、樹脂を硬化させる。この方法によれば、外側コア部32を形成できると共に、ケース付リアクトル10を得ることができる。よって、ケース付リアクトル10の製造時にコストのかかる金型が不要となる。
【0083】
ケース4内に樹脂を充填する場合、未硬化の樹脂が放熱板部40と側壁部41との隙間から漏れることを防止するために、パッキン6を配置することが挙げられる。ここでは、パッキン6は、側壁部41と放熱板部40との接合箇所の形状・サイズに応じた環状体であり、合成ゴムから構成されるものを利用しているが、適宜な材質のものが利用できる。ケース4の側壁部41の設置面側には、パッキン6を配置するパッキン溝(図示せず)を有する。
【0084】
ここでは、放熱板部40と側壁部41とが独立した別部材であるため、コイル2と内側コア部31との組物、更にはこの組物の外周面に外側コア部32を形成した組合体を放熱板部40に配置してから、この放熱板部40と側壁部41とを一体にできるため、リアクトルの組立て作業性に優れる。
【0085】
<変形例2>
上述した実施形態2では、放熱板部40と側壁部41とが別部材であり、固定材により両者を一体化したケース4を用いる形態を説明したが、両者が一体に形成されたケースを用いる形態とすることができる。この形態の場合、放熱板部と側壁部とが同じ材料で一体に形成されているので、放熱板部と側壁部との組立工程の削減が図れる。
【0086】
<実施形態3>
上述した実施形態1,2では、リアクトルを冷却ベースといった設置対象に設置したとき、コイルの軸方向が設置対象の表面に平行するように放熱層に接合された横型配置の形態について説明したが、コイルの軸方向が設置対象の表面に直交するように放熱層42に接合された縦型配置の形態とすることができる。
【0087】
コイルと内側コア部の組物を縦型配置した場合、外側コア部は、コイルの端面及び外周面の実質的に全て、及び内側コア部において放熱板部に接しない端面及び外周面を覆うように形成される。つまり、外側コア部に覆われず露出した露出部は内側コア部の片方の端面に形成される。この露出部が放熱層に直接的に接合されていることで、内側コア部の熱を放熱層に伝えられ、この放熱層を介して、内側コア部の熱を冷却ベースといった設置対象に伝達できる。
【0088】
ケースを有していなくても、外側コア部により、コイルや内側コア部に対して粉塵や腐食といった外部環境からの保護や強度といった機械特性の確保等を図ることができ、露出部の内側コア部も、放熱板部によって、機械特性の確保等を図ることができる。また、ケース(側壁部)を備える形態とすることもできる。この場合、側壁部は放熱板部と別部材であっても一体成形であってもよい。
【0089】
《実施形態4》
実施形態1〜3や変形例1,2のリアクトルは、例えば、車両などに載置されるコンバータの構成部品や、このコンバータを備える電力変換装置の構成部品に利用できる。
【0090】
例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両1200は、図3に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)1220とを備える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジンを備える。なお、図3では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを備える形態としても良い。
【0091】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V〜300V程度のメインバッテリ1210の直流電圧(入力電圧)を400V〜700V程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。また、コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0092】
コンバータ1110は、図4に示すように複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトルLとを備え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子1111には、FET,IGBTなどのパワーデバイスが利用される。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、実施形態1〜3や変形例1,2に記載のリアクトルを用いる。放熱性に優れるリアクトルを用いることで、電力変換装置1100(コンバータ1110を含む)の放熱性の向上を図ることができる。
【0093】
なお、車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を備える。コンバータ1110は、代表的には、DC-DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC-DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150のなかには、DC-DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、上記実施形態1〜3や変形例1,2のリアクトルなどと同様の構成を備え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用できる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、実施形態1〜3や変形例1,2のリアクトルなどを利用することもできる。
【0094】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のリアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車等の車両に搭載される車載用コンバータといった電力変換装置の構成部品に利用することができる。
【符号の説明】
【0096】
1 リアクトル 10 ケース付リアクトル
2 コイル 2w 巻線
3 磁性コア 31 内側コア部 32 外側コア部
4 ケース 40 放熱板部 41 側壁部 42 放熱層
400,411 取付部 400h,411h ボルト孔
410 固定溝 420 位置決め溝
5 露出部
6 パッキン
1100 電力変換装置 1110 コンバータ
1111 スイッチング素子 1112 駆動回路
L リアクトル 1120 インバータ
1150 給電装置用コンバータ 1160 補機電源用コンバータ
1200 車両 1210 メインバッテリ 1220 モータ
1230 サブバッテリ 1240 補機類 1250 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線を巻回してなるコイルと、このコイル内に挿通された内側コア部、及びこの内側コア部と前記コイルの外周面を覆う外側コア部の両コア部により閉磁路を形成する磁性コアとを備えるリアクトルであって、
前記外側コア部は、磁性材料と樹脂とを含む混合物から構成され、
前記コイル又は前記内側コア部のどちらか一方は、その外周面の一部が前記外側コア部に覆われない露出部を有し、該露出部の少なくとも一部が、放熱板部に形成された放熱層に接していることを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記放熱層の少なくとも前記露出部と接する表面が、絶縁性接着剤から構成されていることを特徴とする請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記放熱層の少なくとも一部が、絶縁高熱伝導接着剤から構成され、
前記露出部の少なくとも一部が、前記絶縁高熱伝導接着剤に接合されていることを特徴とする請求項1または2に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記外側コア部は、磁性材料と樹脂との混合物から構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項5】
前記露出部が、前記コイルの外周面の一部に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項6】
前記露出部が、前記コイルの軸方向に沿って一端から他端に連続して形成されていることを特徴とする請求項5に記載のリアクトル。
【請求項7】
前記外側コア部は、トランスファー成形又は射出成形により形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項8】
さらに、前記放熱板部とは別部材で、前記コイルと磁性コアとの周囲を囲んで配置される側壁部を備え、
この側壁部と前記放熱板部とを一体化することにより、前記外側コア部の側面と設置面とを覆うケースが構成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項9】
さらに、前記放熱板部と一体に形成された側壁部を有するケースを備え、
前記ケースは、前記外側コア部の側面と設置面とを覆うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項10】
スイッチング素子と、前記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを備え、前記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するコンバータであって、
前記リアクトルは、請求項1〜9のいずれか1項に記載のリアクトルであることを特徴とするコンバータ。
【請求項11】
入力電圧を変換するコンバータと、前記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを備え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、
前記コンバータは、請求項10に記載のコンバータであることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−33928(P2013−33928A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−107755(P2012−107755)
【出願日】平成24年5月9日(2012.5.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】