説明

リグニン含有複合体とその製造方法

【解決手段】必要により酸触媒(硫酸など)又は可溶化助剤成分(グリセリンなど)の共存下、フルオレン骨格を有する化合物(9,9−ビス(ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンなど)と、リグニン含有物質(針葉樹及び広葉樹から選択された少なくとも一種の木粉など)とを前者/後者=20/80〜80/20の割合(重量比)で用いて加熱混合し、リグニン含有複合体を得る。
【効果】リグニン複合体は、ポリウレタン系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂原料として利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格(例えば、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格)を有する化合物を含有し、環境に優しく、硬度、耐熱性、耐水性に優れたリグニン含有複合体(又はリグノセルロース含有複合体、バイオマス由来複合材料)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材加工においては、木粉、木材チップなどのリグノセルロース含有物質が多量に発生する。しかも、これらのリグノセルロース含有物質は熱加工できず、再利用可能な範囲が極めて限定されている。
【0003】
特開平11−130872号公報(特許文献1)には、リグノセルロース物質と、酸触媒と、フェノール類、多価アルコール類及び環状エステル類から選択される1種又は2種以上の物質とを混合して得られる混合物を押出機により加熱混練押出し、リグノセルロース物質の液化物を製造する方法が開示されている。この文献には、リグノセルロース物質として、スギ、ヒノキなどの木材を粉砕したものなどが例示され、フェノール類として、フェノール、ビスフェノールAなどが例示され、多価アルコール類として、グリセリンなどが例示されている。また、この文献の実施例には、フェノールと、硫酸と、ヒノキ木粉との混合物を押出機により混練押出することにより、液化物を得たことが記載されている。
【0004】
しかし、この方法では、リグノセルロース物質を有効に溶出できず、多量の残渣が生成し、リグノセルロース含有液化物の収率を向上するのが困難である。特に、リグノセルロース含有物質を極めて小さな残渣率で溶出するのが困難である。さらに、リグノセルロース含有液化物の分子量が比較的小さく、得られた液化物を接着剤や樹脂の原料として利用しても、生成した接着剤及び樹脂の耐熱性、機械的強度、耐水性、硬度を向上できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−130872号公報(請求項1、段落[0015][0019][0020]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、フルオレン骨格を有する化合物とリグニンとを含み、環境に優しい複合体(バイオマス由来複合材料)およびその製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、リグノセルロース含有物質を高い効率(極めて小さな残渣率)で可溶化できる複合体(バイオマス由来複合材料)の製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、比較的高分子量のリグニン含有複合体およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、耐熱性、機械的強度、耐水性に優れ、高硬度を兼ね備えた樹脂を得るのに適した複合体(バイオマス由来複合材料)およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フルオレン骨格(9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格)を有する化合物を反応溶媒として用い、リグニン含有物質(リグノセルロース物質)と加熱混合すると、リグノセルロース物質の少なくとも一部が可溶化してバイオマス由来の複合体が得られること、特に、リグニン含有物質が極めて効率よく可溶化され、フルオレン骨格を有する化合物と、リグニンとを含む複合体が生成すること、この複合体を樹脂原料として用いると、耐熱性などに優れた樹脂が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の複合体は、下記式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Aは少なくともベンゼン環骨格を有する芳香族炭化水素環を示し、Xはヘテロ原子含有官能基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又はN,N−二置換アミノ基を示し、Rは、炭化水素基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基又は置換アミノ基を示し、kは0又は1以上の整数を示し、mは1〜3の整数を示し、n及びpは、同一又は異なって、0〜4の整数を示す。)
で表されるフルオレン骨格を有する化合物と、リグニンとを含むリグニン含有複合体である。
【0014】
前記複合体は、式(1)で表されるフルオレン骨格を有する化合物と、リグニン含有物質とを加熱混合することにより得られる複合体であってもよい。前記リグニン含有物質は、木材、草本類、パルプ、パルプ含有成形体から選択された少なくとも一種で構成してもよく、例えば、リグニン含有物質は、針葉樹及び広葉樹から選択された少なくとも一種の木粉であってもよい。フルオレン骨格を有する化合物とリグニン含有物質とは、前者/後者=20/80〜80/20程度の割合(重量比)で用いてもよい。
【0015】
前記複合体は、酸成分(又は酸触媒)及び/又は可溶化助剤成分の共存下、加熱混合することにより得ることもできる。可溶化助剤成分の沸点は150℃以上であり、ヒドロキシ化合物、窒素含有環式ケトン、アミド類、スルホキシド類から選択された少なくとも一種が使用できる。前記ヒドロキシ化合物は多価アルコール及びフェノール類から選択された少なくとも一種で構成されていてもよい。フルオレン骨格を有する化合物と、可溶化助剤成分とは、前者/後者=99/1〜50/50の割合(重量比)で用いてもよい。
【0016】
本発明の複合体は、リグニンの割合が、複合体全体に対して、10〜90重量%であってもよい。また、この複合体は、ポリウレタン系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂の原料であってもよい。
【0017】
本発明は、式(1)で表される化合物と、リグニン含有物質とを加熱混合して、複合体を製造する方法を含む。この方法では、酸成分の存在下に加熱混合し、前記複合体を得てもよい。加熱混合は温度150〜300℃程度で行うことができる。
【0018】
なお、リグニン含有物質は、リグニンの他に、セルロース、ヘミセルロースを含む場合が多い。このように、リグニン含有物質はリグニンとセルロースとヘミセルロースとを含むため、本明細書において、用語「リグニン含有物質」はリグノセルロース物質と同義に用い、単にリグニンと言う場合がある。また、「複合体」とは、複数の成分が相互作用により一体化している複合体、複数の成分が反応して得られた複合体、複数の成分が単に混合している複合体のいずれの意味でも用いる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、フルオレン骨格を有する化合物とリグニンとを含み、環境に優しく、バイオマス由来の複合材料を得ることができる。また、本発明では、リグノセルロース含有物質を高い効率(極めて小さな残渣率)で可溶化でき、リグニン含有物質を有効に利用できる。特に、比較的高分子量の複合体を得ることができる。そのため、耐熱性、機械的強度、耐水性に優れ、高硬度を兼ね備えた樹脂を得るのに適した複合体(バイオマス由来複合材料)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施例1で得られた複合体のGPCチャートである。
【図2】図2は、実施例2で得られた複合体のGPCチャートである。
【図3】図3は、実施例3で得られた複合体のGPCチャートである。
【図4】図4は、比較例で得られた複合体のGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の複合体は、フルオレン骨格を有する化合物とリグニンとを含んでいる。この複合体は、フルオレン骨格を有する化合物とリグニン含有物質とを加熱混合することにより得られる複合体であってもよい。なお、前記のように、複合体において複数の成分が反応していてもよく混合物であってもよい。
【0022】
(フルオレン骨格を有する化合物)
フルオレン骨格を有する化合物は、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する限り、特に制限されず、下記式(1)
【0023】
【化2】

【0024】
(式中、Aは少なくともベンゼン環骨格を有する芳香族炭化水素環を示し、Xはヘテロ原子含有官能基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又はN,N−二置換アミノ基を示し、Rは、炭化水素基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基又は置換アミノ基を示し、kは0又は1以上の整数を示し、mは1〜3の整数を示し、n及びpは、同一又は異なって、0〜4の整数を示す。)
で表される化合物であってもよい。
【0025】
上記式(1)において、環Aで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環の他、少なくともベンゼン環骨格を有する縮合多環式芳香族炭化水素環[例えば、縮合二環式炭化水素環(インデン環、ナフタレン環などのC8−20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素環など)、縮合三環式炭化水素環(アントラセン環、フェナントレン環など)などの縮合二乃至四環式炭化水素環など]などが挙げられる。
【0026】
なお、フルオレンの9位に置換する2つの環Aは、異なっていてもよく、同一であってもよいが、通常、同一の環である場合が多い。
【0027】
環Aのうち、ベンゼン環、ナフタレン環(特にベンゼン環)などが好ましい。なお、フルオレンの9位に置換する環Aの置換位置は、特に限定されない。例えば、環Aがナフタレン環の場合、フルオレンの9位に置換する環Aに対応する基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
【0028】
前記式(1)において、Xで表されるヘテロ原子含有官能基としては、ヘテロ原子として、酸素、イオウ及び窒素原子から選択された少なくとも一種を有する官能基などが例示できる。このような官能基に含まれるヘテロ原子の数は、特に制限されないが、通常、1〜3個、好ましくは1又は2個であってもよい。前記官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、エポキシ含有基(エポキシ基、グリシジル基など)などの酸素原子含有官能基;メルカプト基などのイオウ原子含有官能基;アミノ基又はN−一置換アミノ基[例えば、メチルアミノ、エチルアミノ基などのN−モノアルキルアミノ基(N−モノC1−4アルキルアミノ基など)、ヒドロキシエチルアミノ基などのN−モノヒドロキシアルキルアミノ基(N−モノヒドロキシC1−4アルキルアミノ基など)などの窒素原子含有官能基などが例示できる。Xのうち、ヒドロキシル基、エポキシ含有基(グリシジル基など)、アミノ基又はN−一置換アミノ基などが好ましく、特に、ヒドロキシル基が好ましい。
【0029】
前記式(1)において、基Rで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(又は1,2−プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2−ブタンジイル基、テトラメチレン基などのC2−6アルキレン基、好ましくはC2−4アルキレン基、さらに好ましくはC2−3アルキレン基が挙げられる。これらのアルキレン基のうち、特に、エチレン基が好ましい。なお、kが2以上の整数である場合、各オキシアルキレンユニットにおけるアルキレン基は、同一であってもよく、異なっていてもよいが、通常、同一である場合が多い。また、2つの環Aにおいて、基Rは同一であっても、異なっていてもよく、同一である場合が多い。
【0030】
オキシアルキレン基(OR)の繰り返し数(付加モル数)を示すkは、0〜15(例えば、0〜10)程度の範囲から選択でき、例えば0〜6、好ましくは0〜4(例えば、0〜3)、さらに好ましくは0〜2、特に、0又は1であってもよい。2つの環Aに結合するオキシアルキレン基は、同一であってもよく、異なっていてもよいが、通常、同一である場合が多い。
【0031】
前記式(1)において、環Aに置換した基−(OR−Xの個数を示すmは、好ましくは、1〜3の整数であり、さらに好ましくは1又は2であり、特に、1であってもよい。なお、基−(OR−Xの環Aにおける置換位置は特に制限されず、例えば、環Aがベンゼン環である場合には、フルオレン骨格の9位との結合位置(1位)に対して、2位、3位及び/又は4位のいずれであってもよい。例えば、mが2である場合、上記置換位置は、2位及び3位、2位及び4位、3及び5位などであってもよいが、3位及び4位である場合が多い。また、環Aがナフタレン環の場合には、上記置換位置は、フルオレン骨格の9位との結合位置(1位)に対して、2位から8位のいずれであってもよい。例えば、mが2である場合、上記置換位置は2位及び6位である場合が多い。
【0032】
前記式(1)において、R及びRで表される炭化水素基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基、好ましくはC1−4アルキル基、さらに好ましくはC1−3アルキル基、特にメチル基又はエチル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−8シクロアルキル基、好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(モノ又はジメチルフェニル基(トリル基、2−メチルフェニル基、キシリル基など)、ナフチル基などのC6−10アリール基、好ましくはフェニル基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などが例示できる。
【0033】
また、R及びRで表されるエーテル基としては、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが例示できる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−6アルコキシ基(好ましくはC1−4アルコキシ基、さらに好ましくはC1−3アルコキシ基など)が例示でき、シクロアルコキシ基としては、シクロへキシルオキシ基などのC5−8シクロアルキルオキシ基(C5−6シクロアルキルオキシ基など)が例示できる。さらに、アリールオキシ基としては、フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基などが例示でき、アラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基などが例示できる。
【0034】
また、R及びRで表されるチオエーテル基(置換チオール基又は置換メルカプト基)としては、上記エーテル基に対応するチオエーテル基(アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基など)などが例示できる。
【0035】
及びRで表されるアシル基としては、アセチル基などのC2−7アシル基(C2−5アシル基など)などが例示でき、アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基などが例示できる。
【0036】
及びRで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが例示できる。
【0037】
で表されるN,N−二置換アミノ基としては、N,N−ジアルキルアミノ基(N,N−ジメチルアミノ基などのジC1−6アルキルアミノ基、好ましくはジC1−4アルキルアミノ基など)などが挙げられる。また、Rで表される置換アミノ基としては、N−一置換アミノ基[例えば、メチルアミノ、エチルアミノ基などのN−モノアルキルアミノ基(N−モノC1−6アルキルアミノ基、好ましくはN−モノC1−4アルキルアミノ基など)、ヒドロキシエチルアミノ基などのN−モノヒドロキシアルキルアミノ基(N−モノヒドロキシC1−6アルキルアミノ基、好ましくはN−モノヒドロキシC1−4アルキルアミノ基など)など]、N,N−二置換アミノ基[N,N−ジアルキルアミノ基(N,N−ジメチルアミノ基などのジC1−6アルキルアミノ基、好ましくはジC1−4アルキルアミノ基など)など]が例示できる。
【0038】
なお、基Rは、フルオレン骨格の9位に置換した2つの環Aにおいて、それぞれ異なっていてもよく、同一であってもよい。また、環Aが複数の基Rを有する場合、Rの種類は一部又は全部が同一であってもよく、全てが異なっていてもよい。基Rは、フルオレン骨格の2つのベンゼン環において、それぞれ異なっていてもよく、同一であってもよい。また、ベンゼン環が、複数の基Rを有する場合、Rの種類は、一部又は全部が同一であってもよく、全てが異なっていてもよい。
【0039】
基Rの個数(置換数)を示すn、及び基Rの個数を示すpは、それぞれ、好ましくは0〜3、さらに好ましくは0〜2の整数であってもよい。nとpとは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、nは、フルオレン骨格の9位に置換した2つの環Aにおいて、それぞれ異なっていてもよいが、同一である場合が多い。pも、フルオレン骨格の2つのベンゼン環について、それぞれ異なっていてもよく、同一であってもよい。
【0040】
前記式(1)において、例えば、下記の化合物(a)〜(e)などが好ましい。
【0041】
(a)環Aがベンゼン環又はナフタレン環であり、Xが、ヒドロキシル基、エポキシ含有基、アミノ基、又はN−一置換アミノ基であり、RがC2−4アルキレン基であり、Rが、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はシアノ基であり、Rが、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基又はN−一置換アミノ基であり、kが0〜3の整数であり、mが1又は2であり、n及びpが、同一又は異なって、0〜3の整数である化合物;
(b)環Aがベンゼン環又はナフタレン環であり、Xがヒドロキシル基であり、RがC2−4アルキレン基であり、Rが、C1−6アルキル基、フェニル基、ハロゲン原子又はシアノ基であり、RがC1−6アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基又はN−モノC1−6アルキルアミノ基であり、kが0〜2の整数であり、mが1であり、n及びpが、同一又は異なって、0〜2の整数である化合物;
(c)環Aがベンゼン環であり、Xがヒドロキシル基であり、RがC2−3アルキレン基であり、Rが、C1−4アルキル基又はフェニル基であり、RがC1−4アルキル基、ヒドロキシル基であり、kが0又は1であり、mが1であり、n及びpが、同一又は異なって、0又は1である化合物;
(d)環Aがベンゼン環であり、Xがヒドロキシル基であり、RがC2−3アルキレン基であり、kが0又は1であり、mが1であり、n及びpが0である化合物;及び
(e)環Aがベンゼン環であり、Xがヒドロキシル基であり、Rがエチレン基であり、RがC1−3アルキル基であり、RがC1−3アルキル基であり、kが0又は1であり、mが1であり、n及びpが、同一又は異なって、0又は1である化合物。
【0042】
なお、好ましいフルオレン骨格を有する化合物には、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−C1−3アルキル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−C1−3アルキル−4−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,5−ジC1−3アルキル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、及び9,9−ビス(3,5−ジC1−3アルキル−4−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンなども含まれる。
【0043】
これらの化合物のうち、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)、9,9−ビス(3−C1−2アルキル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス[3−C1−2アルキル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス(3,5−ジC1−2アルキル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、及び9,9−ビス[3,5−ジC1−2アルキル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどが好ましく、特に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[3−C1−2アルキル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、及び9,9−ビス[3,5−ジC1−2アルキル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンが好ましい。
【0044】
これらのフルオレン骨格を有する化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0045】
なお、上記フルオレン骨格を有する化合物としては、市販品を用いてもよく、公知又は慣用の合成方法又はこれらの方法に準じた方法などにより得られる化合物を用いてもよい。フルオレン骨格を有する化合物は、例えば、(i)塩化水素ガス及びメルカプトカルボン酸の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法(文献[J. Appl. Polym. Sci., 27(9), 3289, 1982]、特開平6−145087号公報、特開平8−217713号公報)、(ii)酸触媒(及びアルキルメルカプタン)の存在下、9−フルオレノンとアルキルフェノール類とを反応させる方法(特開2000−26349号公報)、(iii)塩酸及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法(特開2002−47227号公報)、(iv)硫酸及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させ、炭化水素類と極性溶媒とで構成された晶析溶媒で晶析させてビスフェノールフルオレンを製造する方法(特開2003−221352号公報)などを利用することにより合成してもよい。
【0046】
(リグニン含有物質)
リグニンは、植物の維管束細胞壁成分として存在する無定形高分子であり、フェニルプロパン系の構成単位を含む縮合体である。このリグニンを含有する物質(リグニン含有物質)としては、木材、草本類などが挙げられる。木材は、針葉樹と広葉樹とに大別され、針葉樹としては、マツ、スギ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤなどが挙げられる。広葉樹としては、シイ、サクラ、柿などが挙げられる。草本類としては、ケナフ、ワラ、バガス、亜麻、マニラ麻、黄麻、楮などが挙げられる。針葉樹に含まれるリグニン(針葉樹リグニン)は、グアイアシルプロパン構造を有していてもよく、広葉樹に含まれるリグニン(広葉樹リグニン)は、グアイアシルプロパン構造及びシリンギルプロパン構造を有していてもよく、草本類に含まれるリグニン(草本類リグニン)は、グアイアシルプロパン構造、シリンギルプロパン構造、及びp−ヒドロキシフェニルプロパン構造を有していてもよい。なお、メトキシ基の含量は、針葉樹リグニンで14〜17重量%程度、広葉樹リグニンで20〜23重量%程度、草本類リグニンで14〜15重量%程度であってもよい。
【0047】
リグニン含有物質としては、例えば、木材、草本類やこれらを原料とする誘導体などが利用できる。木材は、間伐材などであってもよく、木材の破砕物、例えば、木粉、木材チップ、単板くずなどの形態で利用でき、廃材(建築廃材など)などを利用してもよい。廃材(建築廃材など)を再利用すると、リグニン含有物質を有効に利用でき、環境に優しい複合体を提供できる。木材や草木類の破砕物のサイズは特に制限されないが、効率よく複合体を得るため、平均径が0.01〜1mm、好ましくは0.02〜0.5mm、さらに好ましくは0.03〜0.1mm程度であってもよい。
【0048】
リグニン含有物質としては、木材、草本類を原料としたパルプ(例えば、木材パルプ、竹パルプ、ワラパルプ、バガスパルプ、木綿パルプ、亜麻パルプ、麻パルプ、楮パルプ、三椏パルプなど)も利用できる。さらに、リグニン含有物質として、パルプから調製される紙(抄紙やボードなど)、古紙などのパルプ含有成形体も利用できる。
【0049】
これらのリグニン含有物質は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのリグニン含有物質のうち、木材、草本類、パルプ、パルプ含有成形体から選択された少なくとも一種、特に針葉樹及び広葉樹から選択された少なくとも一種の木粉が好ましい。
【0050】
フルオレン骨格を有する化合物とリグニン含有物質との使用割合(重量比)は、複合体の収率を損なわない広い範囲、例えば、前者/後者=10/90〜90/10程度の範囲から選択でき、通常、20/80〜80/20、好ましくは30/70〜75/25、さらに好ましくは40/60〜65/35程度であってもよい。なお、フルオレン骨格を有する化合物の使用量が少ないと、リグノセルロース物質を効率よく可溶化するのが困難であり、多すぎると未反応又は遊離のフルオレン骨格を有する化合物の残存量が多くなる。なお、加熱混合において、フルオレン骨格を有する化合物は反応溶媒として過剰に用いてもよい。
【0051】
(加熱混合)
フルオレン骨格を有する化合物とリグノセルロース物質との加熱混合又は加熱処理(可溶化)は、リグノセルロース物質やフルオレン骨格を有する化合物の分解を抑制しつつ、可溶化を損なわない加熱温度で行うことができ、加熱温度は、例えば、100〜300℃(例えば、120〜250℃)で行うことができ、通常、150〜300℃(例えば、160〜300℃)、好ましくは165〜270℃(例えば、165〜250℃)、さらに好ましくは170〜250℃程度であってもよい。なお、加熱温度が低いと、反応生成物の粘度が高くなるようである。加熱混合は、不活性ガス雰囲気中、又は空気中で、常圧又は加圧下で行うことができる。
【0052】
フルオレン骨格を有する化合物とリグノセルロース物質との加熱混合又は加熱処理を行うための装置の種類は、特に制限されず、反応釜などのバッチ式反応装置であってもよく、連続反応装置であってもよい。特に、押出機を利用すると、リグノセルロース物質を解繊しつつ、しかもフルオレン骨格を有する化合物とリグノセルロース物質との混練により効率よく可溶化できる。なお、装置は、開放型の装置ではなく、通常、密閉可能な装置が利用される。
【0053】
複合体の生成機構の詳細は明確ではないが、加熱混合により、リグノセルロース物質の少なくとも一部がフルオレン骨格を有する化合物と反応してバイオマスの複合材料が生成するようである。特に、リグノセルロース物質の少なくともリグニン成分がフルオレン骨格を有する化合物と反応して溶解し、可溶化と熱可塑化が生じ、複合体(複合材料)が生成するようである。
【0054】
(可溶化助剤成分)
前記加熱混合(又は加熱処理)可溶化工程において、リグノセルロース物質の可溶化効率又は複合体の生成効率を高めるため、可溶化助剤成分を共存させてもよい。この助剤成分を併用すると、反応系の粘度の上昇を抑制できるとともに、フルオレン骨格を有する化合物の使用量を低減しても、複合体を効率よく得ることができる。
【0055】
可溶化助剤成分としては、通常、沸点が150℃以上(例えば、150〜300℃)、好ましくは160〜298℃、さらに好ましくは170〜296℃(180〜295℃)程度の溶媒が含まれる。
【0056】
可溶化助剤成分は、ヒドロキシ化合物、窒素含有環式ケトン、アミド類、スルホキシド類などが使用でき、これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0057】
ヒドロキシ化合物は、多価アルコール及びフェノール類から選択された少なくとも一種で構成されていてもよい。多価アルコールとしては、2価アルコール[例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリC2−5アルキレングリコールなど)など];3価以上のポリオール[例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなど]が例示できる。フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ビスフェノール(ビスフェノールA,Sなど)などが例示できる。ヒドロキシ化合物は、反応系又は加熱処理系において、反応性であってもよく非反応性であってもよい。
【0058】
窒素含有環式ケトンとしては、N−メチル−2−ピロリドンなどが例示でき、アミド類としては、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどが例示できる。スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシドなどが例示できる。これらの成分は反応系又は加熱処理系において、非反応性であってもよく反応性であってもよい。
【0059】
これらの可溶化助剤成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、可溶化助剤成分としては、通常、フェノール類、二価又は三価アルコール、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどを用いる場合が多く、特にグリセリンなどの多価アルコールを用いる場合が多い。
【0060】
フルオレン骨格を有する化合物と、可溶化助剤成分との割合は、複合体の可溶化効率を向上できる範囲で選択でき、例えば、前者/後者(重量比)=99/1〜50/50、好ましくは95/5〜55/45(例えば、90/10〜55/45)、さらに好ましくは85/15〜60/40(例えば、80/20〜60/40)程度であってもよい。
【0061】
(酸成分)
前記加熱混合系(可溶化系)に酸成分(又は酸触媒)を共存させると、リグニン含有物質を加水分解して可溶化を促進するとともに、フルオレン骨格を有する化合物とリグニンとの反応により複合体の形成を促進する。
【0062】
酸成分(又は酸触媒)としては、特に制限されず、例えば、無機酸(例えば、硫酸、塩酸、リン酸など)、有機酸[例えば、カルボン酸(ギ酸、酢酸などの脂肪族カルボン酸)、ヒドロキシカルボン酸(シュウ酸、酒石酸、クエン酸など)、スルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸など)など]、ルイス酸(例えば、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化亜鉛など)などが例示できる。これらの酸触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの酸触媒のうち、硫酸などの無機酸が好ましい。
【0063】
酸成分(又は酸触媒)の使用割合は、フルオレン骨格を有する化合物100重量部に対して、0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部程度であってもよい。また、リグニン含有物質100重量部に対して、酸成分(又は酸触媒)の使用割合は、0.01〜20重量部(例えば、0.05〜10重量部)、好ましくは0.1〜5重量部(例えば、0.2〜4重量部)、さらに好ましくは0.5〜3重量部(例えば、1〜3重量部)程度であってもよい。
【0064】
(その他の成分)
本発明において、フルオレン骨格を有する化合物の種類に応じて、種々の反応開始剤を用いてもよい。例えば、フルオレン骨格を有する化合物がエポキシ基を有する場合、反応開始剤、例えば、第三級アミン類又は酸触媒を併用すると、エポキシ基とリグノセルロース物質のヒドロキシル基との反応による可溶化が期待できる。
【0065】
(溶媒)
本発明ではリグノセルロース物質を極めて小さな残渣率で可溶化できるため、必ずしも必要ではないが、加熱混合処理した後、水などの貧溶媒に注入して析出させて複合体を回収してもよく、加熱混合処理した後、溶媒を用いて反応生成物から複合体を溶出させて回収してもよい。さらに、必要であれば、溶出、沈殿操作などにより複合体を分離精製してもよい。
【0066】
複合体の回収効率を高めるため、加熱混合処理した後、溶媒を用いて反応生成物から複合体を溶出又は抽出して回収するのが有利である。溶媒の種類は、複合体を溶出可能であれば特に制限されず、炭化水素類(例えば、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素)、ハロゲン系溶媒(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素など)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、エーテル類(例えば、エチルエーテル、イソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル類;ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトンなどのジアルキルケトン)、セロソルブ類(例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、カルビトール類(メチルカルビトールなど)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類など)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、ニトリル類(アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用できる。
【0067】
これらの溶媒のうち、アルコール類(特に、メタノール)及び環状エーテル類(特に、1,4−ジオキサン)の混合溶媒が好ましい。環状エーテル類及びアルコール類の重量比は、前者/後者=95/5〜50/50、好ましくは90/10〜60/40、さらに好ましくは85/15〜70/30程度であってもよい。
【0068】
(複合体)
このようにして得られた複合体は複数の成分(フルオレン骨格を有する化合物、リグノセルロース物質を構成する成分)が反応していてもよく、混合物であってもよいが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィに供すると、通常、遊離の成分ではなく、単一又は複数のピークを有して一体化しているようである。
【0069】
複合体全体に対して、リグニンの割合は、例えば、10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは30〜70重量%(例えば、30〜60重量%)程度であってもよい。
【0070】
本発明の複合体は分子量が大きいという特色がある。複合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにおいて、ポリスチレン換算で、1500〜15000、好ましくは2000〜12000(例えば、3000〜10000)、さらに好ましくは4000〜8000程度であってもよい。また、複合体の数平均分子量は、1000〜10000、好ましくは1500〜9000、さらに好ましくは2000〜8000程度であってもよい。分子量分布(又は多分散度)は、1〜3、好ましくは1.05〜2.8、さらに好ましくは1.1〜2.5程度であってもよい。
【0071】
本発明の複合体は、室温(15〜20℃)で液状、半固形状であってもよく、固体状であってもよい。
【0072】
本発明の複合体は、複合体の官能基を利用して種々の樹脂原料として利用できる。しかも、複合体の分子量が大きいため、耐熱性、耐水性、高強度などに優れた新規樹脂原料(特に、熱硬化性樹脂原料)として適している。例えば、複合体(複合材料)は、ポリイソシアネート成分と反応させることによりポリウレタン系樹脂を生成でき、塩基触媒又は酸触媒の存在下、アルデヒド類と反応させることによりフェノール樹脂を生成でき、塩基の存在下、エピクロルヒドリンと反応させることによりエポキシ樹脂を生成できる。また、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸クロライドとの反応により、(メタ)アクリロイル基を含有する熱硬化性又は光硬化性樹脂などを生成できる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0074】
実施例1
三口フラスコ(容量100mL)に9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF、大阪瓦斯(株)製)20g、木粉(日本杉、サイズ0.5mmの粉状物)10g、及び硫酸(濃度97%)0.2gを加え、180℃のオイルバスを用いて加熱し、撹拌した後、フラスコをオイルバスから外した。次に、室温まで冷却してから1,4−ジオキサンとメタノール(重量比:前者/後者=4/1)の混合溶媒を加え、均一に混合した。得られた混合液を濾紙(サイズ:B5)を用いて濾過し、その残渣率及びろ液のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による分子量を評価した。この評価結果を表1及び図1に示す。
【0075】
実施例2
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを14gにして、さらにグリセリン(ナカライテスク(株)製)6gを用いた点を除き、実施例1と同様に行った。残渣率及びろ液のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による分子量を評価した結果を表1及び図2に示す。
【0076】
実施例3
オイルバスの温度を235℃にした点を除き、実施例2と同様に実施した。残渣率及びろ液のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による分子量を評価した結果を表1及び図3に示す。生成物3.5gをテトラヒドロフラン(THF)5mLに溶解し、さらにビス(イソシアナトフェニル)メタン(MDI)3gを加え、室温で20分撹拌した。得られた混合液をガラス基板又はテフロン(登録商標)基板上にキャストして、60℃送風乾燥機で2時間加熱した後、150℃で3時間処理した。得られた硬化物について、熱分析(TG−DTAの分析)を行った。また、鉛筆硬度、水接触角を評価した。結果を表2に示す。
【0077】
比較例
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF、大阪瓦斯(株)製)に代えて、ポリエチレングリコール(PEG400、ナカライテスク(株)製)を用いる以外、実施例1と同様にして複合物を得た。残渣率及びろ液のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による分子量を評価した結果を表1及び図5に示す。得られた液化生成物から実施例3と同様の手順で硬化物を調製した。その硬化物について、熱分析(TG−DTAの分析)を行った。また、鉛筆硬度、水接触角を評価した。結果を表2に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1から明らかなように、比較例では、残渣率が大きく木材の可溶化効率が低いのに対して、実施例1〜3では残渣率が低く、木材を高い効率で可溶化できる。また、実施例1〜3で得られる複合体は、重量平均分子量及び数平均分子量が大きい。
【0080】
【表2】

【0081】
表2から明らかなように、実施例3で得られた複合体は、耐熱性、硬度、耐水性の点で優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の複合体(複合材料)は、環境に優しく、種々の樹脂(例えば、ポリウレタン系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂など)の原料として利用できる。得られた樹脂は、自動車分野、電子分野、建材分野などで成形材料、コーティング材料などとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、Aは少なくともベンゼン環骨格を有する芳香族炭化水素環を示し、Xはヘテロ原子含有官能基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又はN,N−二置換アミノ基を示し、Rは、炭化水素基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基又は置換アミノ基を示し、kは0又は1以上の整数を示し、mは1〜3の整数を示し、n及びpは、同一又は異なって、0〜4の整数を示す。)
で表されるフルオレン骨格を有する化合物と、リグニンとを含むリグニン含有複合体。
【請求項2】
式(1)で表されるフルオレン骨格を有する化合物と、リグニン含有物質とを加熱混合することにより得られる複合体。
【請求項3】
酸成分の存在下、フルオレン骨格を有する化合物と、リグニン含有物質とを加熱混合する請求項2記載の複合体。
【請求項4】
リグニン含有物質が、木材、草本類、パルプ、及びパルプ含有成形体から選択された少なくとも一種で構成されている請求項2又は3記載の複合体。
【請求項5】
リグニン含有物質が、針葉樹及び広葉樹から選択された少なくとも一種の木粉である請求項2〜4のいずれかに記載の複合体。
【請求項6】
フルオレン骨格を有する化合物とリグニン含有物質とを、前者/後者=20/80〜80/20の割合(重量比)で用いる請求項2〜5のいずれかに記載の複合体。
【請求項7】
さらに、沸点が150℃以上であって、かつヒドロキシ化合物、窒素含有環式ケトン、アミド類、スルホキシド類から選択された少なくとも一種で構成される可溶化助剤成分を共存させて加熱混合して得られる請求項2〜6のいずれかに記載の複合体。
【請求項8】
ヒドロキシ化合物が多価アルコール及びフェノール類から選択される少なくとも一種で構成される請求項7記載の複合体。
【請求項9】
フルオレン骨格を有する化合物と、可溶化助剤成分とを、前者/後者=99/1〜50/50の割合(重量比)で用いる請求項7又は8記載の複合体。
【請求項10】
複合体全体に対して、リグニンを10〜90重量%の割合で含む請求項1〜9のいずれかに記載の複合体。
【請求項11】
ポリウレタン系樹脂、フェノール樹脂、又はエポキシ樹脂の原料である請求項1〜10のいずれかに記載の複合体。
【請求項12】
式(1)で表される化合物と、リグニン含有物質とを加熱混合して、請求項1記載の複合体を製造する方法。
【請求項13】
酸成分の存在下で加熱混合する請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
温度150〜300℃で加熱混合する請求項12又は13記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−235872(P2010−235872A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87601(P2009−87601)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】