説明

リグニン誘導体、その誘導体を含む成形体、およびその成形体から製造される炭素繊維

実験式 L(OH)z [式中、Lはヒドロキシル基のないリグニンを意味し、OHはLに結合された遊離ヒドロキシル基を意味し、且つzは、Lに結合された遊離ヒドロキシル基の100%を意味する] のリグニンから製造されるリグニン誘導体であって、該リグニン誘導体において、Lに結合された遊離ヒドロキシル基のx≧0.1%が、二価の残基Rxと共に誘導体化され、前記二価の残基Rxはエステル基、エーテル基またはウレタン基を介してLと連結しており、
Lに結合された遊離ヒドロキシル基のy≧0.1%が、一価の残基Ryと共に誘導体化され、前記一価の残基Ryはエステル基、エーテル基またはウレタン基を介してLと連結しており、x+y=100%であり、且つ、z=0%であることを特徴とする、リグニン誘導体が発表される。さらに、該リグニン誘導体を含む成形体が発表される。該成形体は、繊維の形態、例えば、炭素繊維の製造のための前駆体繊維として存在できる。最終的に、先述の前駆体繊維から製造される炭素繊維が発表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
明細書:
本発明はリグニン誘導体、その誘導体を含む成形体、およびその成形体から製造される炭素繊維に関する。
【0002】
リグニン誘導体は公知である。US3519581号は、溶剤中で溶解されたリグニンと、有機ポリイソシアネートとを反応させる方法を記載している。生じるリグニン誘導体中に含有されるポリイソシアネートのために、US3519581号内に記載されるリグニン誘導体は熱硬化性樹脂の特性を有する。
【0003】
それゆえ、本発明の課題は、熱可塑的に加工可能な、且つ、繊維形成性のリグニン誘導体を提供することである。
【0004】
この課題は、実験式(1)
L(OH)z (1)
[式中、
Lはヒドロキシル基のないリグニンを意味し、
OHはLに結合された遊離ヒドロキシル基を意味し、且つ
zは、Lに結合された遊離ヒドロキシル基の100%を意味する]
のリグニンから製造されるリグニン誘導体によって解決され、その際、該リグニン誘導体は、該リグニン誘導体において、
Lに結合された遊離ヒドロキシル基のx≧0.1%が、二価の残基Rxと共に誘導体化され、前記二価の残基Rxはエステル基、エーテル基またはウレタン基を介してLと連結しており、
Lに結合された遊離ヒドロキシル基のy≧0.1%が、一価の残基Ryと共に誘導体化され、前記一価の残基Ryはエステル基、エーテル基またはウレタン基を介してLと連結しており、
x+y=100%であり、且つ、
z=0%であることを特徴とする。
【0005】
従って、本発明によるリグニン誘導体は、リグニン(そこからリグニン誘導体が製造された)のヒドロキシル基に関して、一価および二価の残基と共に完全に誘導体化されている。このことは、本発明の枠内では、赤外スペクトルにおいて、約3000cm-1〜約3500cm-1の範囲にあるリグニンに典型的なOHバンドが、測定精度の枠内で、もはや検出可能ではないことを意味する。
【0006】
本発明によるリグニン誘導体において、二価の残基とLとの連結の化学的性質は、一価の残基とLとの連結の化学的性質に依存しない。そのことは、以下を意味する:
・ 二価の残基がエステル基を介してLと連結している場合、一価の残基は、同様にエステル基を介するか、またはエーテル基を介するか、またはウレタン基を介するかのいずれかでLと連結できる。
・ 二価の残基がエーテル基を介してLと連結している場合、一価の残基は、同様にエーテル基を介するか、またはエステル基を介するか、またはウレタン基を介するかのいずれかでLと連結できる。
・ 二価の残基がウレタン基を介してLと連結している場合、一価の残基は、同様にウレタン基を介するか、またはエステル基を介するか、またはエーテル基を介するかのいずれかでLと連結できる。
【0007】
本発明によるリグニン誘導体は、熱可塑的に加工可能であり、且つ、繊維形成性である。さらには、本発明によるリグニン誘導体は、例えば、二価の残基がオリゴマー、例えばオリゴエステル、またはオリゴウレタンに由来するいくつかの実施態様において、および、以下にさらに詳細に説明される実施態様において、部分的に弾性である。
【0008】
好ましくは、本発明によるリグニン誘導体は、−30℃〜200℃の範囲内、特に好ましくは−10℃〜170℃の範囲内のガラス温度Tgを有する。
【0009】
さらに好ましい実施態様において、本発明によるリグニン誘導体は、少なくとも10000g/mol、且つ、特に好ましくは少なくとも20000g/molである質量平均分子量を有する。上限については、約80000g/mol〜約150000g/molの範囲が好ましい。
【0010】
さらに、本発明によるリグニン誘導体において、xは1%〜99%の範囲内であり、且つyは99%〜1%の範囲内であることが好ましく、その際、xが10%〜90%の範囲内であり、且つyが90%〜10%の範囲内であることが特に好ましく、且つ、xが20%〜80%の範囲内であり、且つyが80%〜20%の範囲内であることがさらに特に好ましいが、しかし、それぞれの場合において、x+y=100%である条件である。
【0011】
本発明によるリグニン誘導体のさらに好ましい実施態様において、二価の残基Rxは、2つの官能基を含む、特に好ましくは保有する化合物から誘導され、それによりリグニン誘導体を形成するために、大部分の両者が、それぞれエステル結合、エーテル結合、またはウレタン結合を介してLと連結している。その際、その2つの官能基は、好ましくは末端基であり、即ち、残基Rxを誘導する化合物と、α,ω位で結合されている基である。
【0012】
本発明によるリグニン誘導体のさらに好ましい実施態様において、二価の残基Rxは、2つの同一の官能基を含む、特に好ましくは保有する化合物から誘導され、それによりリグニン誘導体を形成するために、大部分の両者がそれぞれエステル結合、エーテル結合、またはウレタン結合を介してLと連結している。その際、「大部分」は、2つの同一の官能基の50%より多くが、それぞれ、エステル結合、エーテル結合、またはウレタン結合を介して、Lと連結していることを意味する。さらに、その2つの同一の官能基は、好ましくは末端基であり、即ち、残基Rxを誘導する化合物と、α,ω位で結合されている基である。
【0013】
本発明によるリグニン誘導体の特に好ましい実施態様において、2つの同一の官能基の少なくとも20%、さらに特に好ましくは少なくとも60%が、それぞれエステル基、エーテル基またはウレタン基を介してLと連結している。その際、その2つの同一の官能基は、好ましくは末端基であり、即ち、残基Rxを誘導する化合物と、α,ω位で結合されている基である。
【0014】
本発明によるリグニン誘導体のさらに好ましい実施態様において、二価の残基Rxは、ジカルボン酸に、特に好ましくは活性化したジカルボン酸に、例えばジカルボン酸クロリドに由来し、その際、ジカルボン酸もしくはジカルボン酸クロリドの少なくとも1つのカルボン酸基もしくは少なくとも1つのカルボン酸クロリド基は、エステル基を介してLと連結している。特に好ましくは、ジカルボン酸もしくはジカルボン酸クロリドの、両者の活性化したカルボン酸基もしくは両者のカルボン酸クロリド基は、両者のエステル基を介してLと連結している。その際、ジカルボン酸は以下の群から選択される:
・ 一般式HOOC−(CH2n−COOH
[式中、nは1〜20の範囲内の値であり、且つ、1〜20の間にある全ての値をとることができる]
の飽和脂肪族ジカルボン酸、
・ 不飽和脂肪族ジカルボン酸、
・ 脂肪族および/または芳香族側基を有する脂肪族カルボン酸、および
・ 芳香族ジカルボン酸、例えばフェニレンジカルボン酸。
【0015】
本発明によるリグニン誘導体のさらに好ましい実施態様において、二価の残基Rxは、2つの好ましくは活性化したカルボン酸末端基を有するオリゴエステルに由来し、その際、オリゴエステルの少なくとも1つのカルボン酸末端基は、エステル基を介してLと連結している。好ましくは、オリゴエステルの両者の活性化したカルボン酸末端基が、それぞれエステル基を介してLと連結している。その際、オリゴエステルは、
・ 脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの縮合
・ 芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの縮合
・ 脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの縮合、および
・ 芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの縮合
によって製造されていてよい。さらに、前記のモノマーの種類のそれぞれの脂肪族および芳香族の代表例の混合物を、オリゴエステルの製造のために使用できる。特に好ましくは、脂肪族または芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの縮合物を使用する。オリゴエステルのためのジオールとして、2〜18個の炭素原子を有する飽和および不飽和α,ω−ジオール、または芳香族ジオール、例えばヒドロキノン、または4,4’−ジヒドロキシ,1,1’−ビフェニルを使用できる。分枝ジオールも、オリゴエステルの製造のために使用できる。ジオールとして、同様にオリゴエステルジオールまたはポリエステルジオール、もしくはオリゴエーテルジオールまたはポリエーテルジオールを使用できる。ジカルボン酸として、前述のジカルボン酸を使用できる。オリゴエステル中でのジカルボン酸のジオールに対するモル比は、好ましくは1〜2の範囲内、特に好ましくは1.1〜1.9の範囲内である。
【0016】
本発明によるリグニン誘導体のさらに好ましい実施態様において、二価の残基Rxはジイソシアネートに由来し、その際、ジイソシアネートの少なくとも1つのイソシアネート基は、ウレタン基を介してLと連結している。好ましくは、ジイソシアネートの両者のイソシアネート基が、ウレタン基を介してLと連結している。その際、ジイソシアネートは以下の群から選択される:
・ 一般式O=C=N−(CH2n−N=C=O
[式中、nは2〜18の範囲内の値であり、且つ、2〜18の間にある全ての値をとることができる]
の飽和脂肪族ジイソシアネート、
・ 分枝ジイソシアネート、
・ 環状の飽和または部分的に不飽和のジイソシアネート、例えばイソホロンジイソシアネート、または
・ 芳香族ジイソシアネート、例えばTDI、即ち、2,4−トルエンジイソシアネート、またはMDI、即ち、4,4’−メチレン−ビス−(フェニルイソシアネート)。
【0017】
イソシアネート基は、保護基、例えば脂肪族または芳香族アルコール、アミドまたはチオールの群からの保護基を備えていてよい。
【0018】
本発明によるリグニン誘導体のさらに好ましい実施態様において、二価の残基Rxは2つのイソシアネート末端基を有するオリゴウレタンに由来し、その際、オリゴウレタンの少なくとも1つのイソシアネート末端基は、ウレタン基を介してLと連結している。その際、オリゴウレタンの製造のために、先述のジイソシアネートおよびジオールを使用できる。ジイソシアネートのジオールに対するモル比は、好ましくは1〜2の範囲内、特に好ましくは1.1〜1.9の範囲内である。
【0019】
本発明によるリグニン誘導体のさらに好ましい実施態様において、一価の残基Ryは、好ましくは活性化したモノカルボン酸に、例えばモノカルボン酸クロリドに、またはモノイソシアネートに由来し、その際、好ましくは活性化したモノカルボン酸はエステル基を介して、もしくはモノイソシアネートはウレタン基を介して、Lと連結しており、且つ、その際、酸無水物としての活性化したモノカルボン酸も使用できる。その際、モノカルボン酸は以下の群から選択される:
・ 一般式CH3−(CH2n−COOH
[式中、nは0〜21の範囲内の値であり、且つ、それぞれ0〜21の間にある値をとることができる]
の直鎖の飽和脂肪族モノカルボン酸、
・ 分枝飽和脂肪族カルボン酸、その際、分枝は、例えばi−プロピル基、i−ブチル基、またはtert−ブチル基によって生じることができる、
・ 不飽和脂肪族モノカルボン酸、例えば、脂肪族残基内で1つまたはそれより多くの二重結合を有するモノカルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸またはクロトン酸、
・ 1つまたはそれより多くの環からなり得る芳香族または脂肪族残基を有するモノカルボン酸、その際、環1つあたりの環の大きさは、4〜8つの環原子であってよく、その際、環原子は、C原子だけであるか、またはC原子と、ヘテロ原子、例えばO、S、NおよびPとの組み合わせであるかのいずれかであり、且つ、その際、環は単結合、二重結合、または三重結合によって互いに連結されることができるか、または、縮環した形態、または両者が連結した状態で存在でき、例えばフェニル−、シンナメート(Zinnamat)、(1,2)−ナフチル−、アントラセニル−、フェナントリル−、ビフェニル−、テルフェニル−、ビチオフェニル−、ターチオフェニル−、ビピロリル−またはターピロリル−などである。
【0020】
上記のモノカルボン酸もしくはモノイソシアネートの混合物も、一価の残基Ryとして使用できる。上記のモノカルボン酸の残基についてと同じことが、意味に即して、上記のモノイソシアネートの残基について当てはまる。
【0021】
本発明によるリグニン誘導体の製造のために、任意の起源のリグニン、例えば広葉樹、針葉樹から、並びに一年生植物から得られるリグニンを使用できる。それらのリグニンの取得を、蒸解法によって行い、その際、リグニンは
・ 有機溶剤を用いて木材から抽出されるか(その際、オルガノソルブ法の際のように、触媒が使用されてもよい)、
・ または、例えば産業上で利用されるクラフト法の際のように、塩基性または酸性の条件下での木材の処理によって、完全または部分的にセルロースから分離されるかのいずれかである。
【0022】
本発明によるリグニン誘導体の製造のために、好ましくは純粋なリグニンを使用する。本発明の枠内において、「純粋なリグニン」とは、本発明によるリグニン誘導体の製造のために使用されるリグニンが、好ましくは最大5質量%、特に好ましくは最大1質量%、およびさらに特に好ましくは最大0.5質量%の他の成分、例えばセルロース、ヘミセルロース、または無機塩を含有することを意味する。従って、好ましくは、本発明によるリグニン誘導体は、好ましくは少なくとも95質量%、特に好ましくは少なくとも99質量%、およびさらに特に好ましくは少なくとも99.5質量%の純度を有するリグニンから製造される。
【0023】
本発明によるリグニン誘導体の製造のために、それぞれ選択されたリグニンを初めにそれぞれ選択された二価の残基Rxと共に誘導体化し、その際、Lに結合された遊離ヒドロキシル基のx%が、エステル基、エーテル基、またはウレタン基を介して二価の残基Rxと連結され、その後、Lに結合された遊離ヒドロキシル基の、まだ残っているy%が、それぞれ選択された一価の残基Ryと共に誘導体化されて、Lに結合された遊離ヒドロキシル基のy%はエステル基、エーテル基またはウレタン基を介して一価の残基Rxと連結され、且つ、z=0%であるように、行うことができる。
【0024】
選択的に、本発明によるリグニン誘導体の製造のために、それぞれ選択されたリグニンを初めにそれぞれ選択された一価の残基Ryと共に誘導体化し、その際、Lに結合された遊離ヒドロキシル基のy%が、エステル基、エーテル基、またはウレタン基を介して一価の残基Ryと連結され、その後、Lに結合された遊離ヒドロキシル基の、まだ残っているx%が、それぞれ選択された二価の残基Rxと共に誘導体化されて、Lに結合された遊離ヒドロキシル基のx%はエステル基、エーテル基またはウレタン基を介して二価の残基Ryと連結され、且つ、z=0%であるように、行うことができる。
【0025】
本発明によるリグニン誘導体をみちびく上記の誘導体化反応を、触媒により促進できる。例えば、1−メチルイミダゾールを用いてエステル形成を促進できる。
【0026】
生じる本発明によるリグニン誘導体は、図1に概略的に描かれる構造を有することができる。その際、Lはヒドロキシル基のないリグニンを意味し、Oはエステル結合、エーテル結合またはウレタン結合の一部である酸素原子を意味し、それを介して、それぞれの二価の残基Rx(図1において「Di」で示される)はLと連結しており、且つ「Mo」は、エステル結合、エーテル結合またはウレタン結合の一部である酸素原子Oを介してLと連結しているそれぞれの一価の残基Ryである。図1において、符号は以下を示す:
・ 1 一重の直鎖の連結、
・ 2 架橋、
・ 3 環形成、
・ 4 分枝(主鎖に関する)、
・ 5 二重の直鎖の連結、および
・ 6 その末端基の1つでのみOを介してLと連結しており、従って「R」で示されるその2つ目の末端基は遊離している、二価の単位。
【0027】
既に述べられた通り、本発明によるリグニン誘導体は熱可塑的に加工できるものである。従って、本発明によるリグニン誘導体を含む成形体も、同様に本発明の一部である。本発明による成形体は、熱可塑的な加工によって、例えば本発明によるリグニン誘導体の混練、押出、溶融紡糸または射出成形によって、30〜250℃の範囲で製造され得る。好ましくは約150℃〜250℃の、より高い加工温度範囲において、本発明によるリグニン誘導体の、本発明による成形体への加工を、不活性ガス雰囲気下で実施できる。
【0028】
好ましい実施態様において、本発明による成形体は繊維の形態で存在する。
【0029】
特に好ましい実施態様において、例えば、
・ 繊維が、二価の残基Rxが2つのカルボン酸末端基を有するオリゴエステルに由来し、その際、オリゴエステルの少なくとも1つのカルボン酸末端基がエステル基を介してLと連結している、本発明によるリグニン誘導体を含む実施態様において、または、
・ 繊維が、二価の残基Rxがジイソシアネートに由来し、その際、ジイソシアネートの少なくとも1つのイソシアネート基がウレタン基を介してLと連結している、本発明によるリグニン誘導体を含むさらなる実施態様において、
その繊維は、炭素繊維の製造のための前駆体繊維である。
【0030】
さらに好ましい実施態様において、本発明による成形体はシートの形態で、特に好ましくは半透過性メンブレンとして存在する。このメンブレンは特に好ましくは電池セパレータである。
【0031】
さらに、先述の本発明による前駆体繊維から製造された炭素繊維も、同様に本発明の一部である。本発明による前駆体繊維からの本発明による炭素繊維の製造を、酸化および炭化の連続したプロセス工程によって行い、その後、第三のプロセス工程として黒鉛化を実施できる。
【0032】
酸化のプロセス工程は、酸化性雰囲気下で、好ましくは空気またはオゾン下で行われる。酸化を、1または複数の段階で行うことができ、その際、1つの酸化段階もしくは複数の酸化段階を、それぞれ150℃〜400℃の温度範囲、好ましくは180℃〜250℃の温度範囲で実施できる。それぞれのプロセス工程の間の昇温速度は、0.1K/分〜10K/分の範囲内、好ましくは0.2K/分〜5K/分の範囲内である。酸化のプロセス工程により、本発明による熱可塑性前駆体繊維が、本発明による非熱可塑性繊維に変換され、それを安定化繊維として称する。
【0033】
酸化に引き続く、本発明による安定化繊維の炭化のプロセス工程を、不活性ガス雰囲気下、好ましくは窒素下で行う。炭化を、1または複数の段階で実施できる。炭化の間、安定化繊維を、10K/秒〜5K/分の範囲内、好ましくは5K/秒〜5K/分の範囲内の昇温速度で加熱する。炭化の終わりの温度は、1800℃までの値であってよい。炭化のプロセス工程により、本発明による安定化繊維が、本発明による炭化繊維、即ち、その繊維形成材料が炭素である繊維に変換される。
【0034】
炭化に引き続き、本発明による炭化繊維を黒鉛化プロセス段階においてさらに処理できる。その際、黒鉛化を一段階で行うことができ、その際、本発明による炭化繊維を、単原子の不活性ガスから、好ましくはアルゴンからなる雰囲気中で、好ましくは5K/秒〜5K/分の範囲の昇温速度で、例えば3000℃までの温度に加熱する。黒鉛化のプロセス工程により、本発明による炭化繊維が、本発明による黒鉛化繊維に変換される。本発明による炭化繊維を延伸させながら黒鉛化を実施することにより、生じる本発明による黒鉛化繊維の弾性率の明らかな上昇がみちびかれる。従って、本発明による炭化繊維の黒鉛化を、好ましくは繊維を同時に延伸させながら実施する。
【0035】
本発明において、xおよびyは13C−NMR分光法によって測定され、その際、13Cの信号はDMSO溶液内、80℃で測定される。
【0036】
本発明において、ガラス温度Tgは、DSC検査(DSC=示差走査熱分析)によって測定され、その際、第二のスキャンにおいて10K/分の昇温速度で検出された値が使用される。
【0037】
本発明において、質量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnは、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって測定され、その際、ジメチルスルホキシドが溶剤として利用された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明によるリグニン誘導体の概略図である。
【0039】
本発明を、以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【0040】
実施例1
純度99.5質量%を有する広葉樹のリグニン10gを、80℃で16時間の間、真空中でP410を介して乾燥させる。乾燥されたリグニンを、無水ジメチルアセトアミド50ml中で溶解させ、且つ、トリエチルアミン3.935g(38.89mmol)と混合する。
【0041】
それとは別に、第二の溶液を、無水ジメチルアセトアミド20ml中のアジピン酸ジクロリド3.56g(19.44mmol)から調製し、且つ、ゆっくりと不活性ガス雰囲気下で強力に攪拌し、且つ、氷水で冷却しながら、先述のリグニン溶液に滴下する。10分間の強力な混合の後、過剰なプロピオン酸無水物を、1−メチルイミダゾール0.5gと共に添加する。その後、50℃に温め、且つ、反応バッチを2時間の間、この温度で攪拌する。それに引き続いて、室温に冷却し、生じる粘性の溶液を約500mlのエタノール中にもたらし、1時間の間、攪拌して、最後にろ過し、その際、そのろ液を、水中に滴下することによって、沈殿の完全性について調べる。ろ過ケークが生じ、それを3回、各200mlのエタノール/水(9/1)を用いて高温中で煮沸し、即ち、エタノール/水混合物の沸点で精製し、且つ、その後、もう1回、エタノールを用いて煮沸し、即ち、エタノールの沸点で後精製する。空気での乾燥後、一定の質量になるまで真空下で乾燥させる。4.5gのリグニン誘導体Aが秤量される。リグニン誘導体Aは、132℃のガラス温度Tg、10100g/molの質量平均分子量Mw、5.6の多分散度P=Mw/Mnを有し、且つ、62%/38%の一価の残基/二価の残基の比を有する。13C−NMR分光法で、アジピン酸ジクロリドの両方の官能性の末端基の85%が、エステル結合を介してLと連結していることが測定される。
【0042】
実施例2
純度99.5質量%を有する広葉樹のリグニン10gを、80℃で16時間の間、真空中でP410を介して乾燥させる。乾燥されたリグニンを、無水ジメチルアセトアミド50ml中で溶解させ、且つ、トリエチルアミン7.308g(72.22mmol)と混合する。
【0043】
それとは別に、第二の溶液を無水ジメチルアセトアミド20ml中のアジピン酸ジクロリド6.61g(36.11mmol)から調製し、且つ、ゆっくりと不活性ガス雰囲気下で力強く攪拌し、且つ、氷水で冷却しながら、先述のリグニン溶液に滴下する。リグニン溶液とアジピン酸ジクロリド溶液との10分間の強力な混合の後、過剰なプロピオン酸無水物を、1−メチルイミダゾール0.5gと共に添加する。その後、50℃に温め、且つ、反応バッチを2時間の間、この温度で攪拌する。それに引き続いて、室温に冷却し、生じる粘性の溶液を約500mlのエタノール中にもたらし、1時間の間、攪拌して、最後にろ過し、その際、そのろ液を、水中に滴下することによって、沈殿の完全性について調べる。ろ過ケークが生じ、それを3回、各200mlのエタノール/水(9/1)を用いて高温中で煮沸し、即ち、エタノール/水混合物の沸点で精製し、且つ、その後、もう1回、エタノールを用いて煮沸し、即ち、エタノールの沸点で後精製する。空気での乾燥後、一定の質量になるまで真空下で乾燥させる。9.3gのリグニン誘導体Bが秤量される。リグニン誘導体Bは、133℃のガラス温度Tg、18200g/molの質量平均分子量Mw、10の多分散度Pを有し、且つ、48%/52%の一価の残基/二価の残基の比を有する。13C−NMR分光法で、アジピン酸ジクロリドの両方の官能性の末端基の83%が、エステル結合を介してLと連結していることが測定される。
【0044】
実施例3
純度99.5質量%を有する広葉樹のリグニン10gを、80℃で16時間の間、真空中でP410を介して乾燥させる。乾燥されたリグニンを、無水ジメチルアセトアミド50ml中で溶解させ、且つ、トリエチルアミン7.308g(72.22mmol)と混合する。それが溶液1をもたらす。
【0045】
それとは別に、第二の溶液を以下の通り調製する: アジピン酸ジクロリド13.219g(72.22mmol)を無水ジメチルアセトアミド75ml中に溶解させる。この溶液に、不活性ガス雰囲気下で、氷水で冷却し、且つ強力に攪拌しながら、無水ジメチルアセトアミド10ml中の水不含の1,3−プロパンジオール2.748g(36.11mmol)の溶液を滴下する。その後で、強力に攪拌しながら、無水ジメチルアセトアミド20ml中のトリエチルアミン7.308g(72.22mmol)の溶液を、さらに滴下し、且つ、10分間、室温で攪拌する。それが溶液2をもたらす。
【0046】
その後、溶液1を溶液2中に素早く導入し、且つ、生じる混合物を強力に混合する。
【0047】
溶液1と溶液2との10分間の強力な混合後、過剰なプロピオン酸無水物を1−メチルイミダゾール0.5gと共に添加する。その後、50℃に温め、且つ、反応バッチを2時間の間、この温度で攪拌する。それに引き続いて、室温に冷却し、生じる粘性の溶液を約500mlのエタノール中にもたらし、1時間の間、攪拌して、最後にろ過し、その際、そのろ液を、水中に滴下することによって、沈殿の完全性について調べる。ろ過ケークが生じ、それを3回、各200mlのエタノール/水(9/1)を用いて高温中で煮沸し、即ち、エタノール/水混合物の沸点で精製し、且つ、その後、もう1回、エタノールを用いて煮沸し、即ち、エタノールの沸点で後精製する。空気での乾燥後、一定の質量になるまで真空下で乾燥させる。9.7gのリグニン誘導体Cが秤量される。リグニン誘導体Cは、非常にわずかに際立ったガラス転移段階、20600g/molの質量平均分子量Mw、11の多分散度Pを有し、且つ、50%/50%の一価の残基/二価の残基の比を有する。13C−NMR分光法を用いて測定されたアジペート/プロパンジオレートの比は、1.7/1である。
【0048】
実施例4
純度99.5質量%を有する広葉樹のリグニン10gを、80℃で16時間の間、真空中でP410を介して乾燥させる。乾燥されたリグニンを、無水ジメチルアセトアミド50ml中で溶解させ、且つ、トリエチルアミン7.308g(72.22mmol)と混合する。それが溶液1をもたらす。
【0049】
それとは別に、第二の溶液を以下の通り調製する: アジピン酸ジクロリド19.828g(108.33mmol)を無水ジメチルアセトアミド75ml中に溶解させる。この溶液に、不活性ガス雰囲気下で、氷水で冷却し、且つ強力に攪拌しながら、無水ジメチルアセトアミド10ml中の無水の1,3−プロパンジオール5.495g(72.22mmol)の溶液を滴下する。その後で、強力に攪拌しながら、無水ジメチルアセトアミド20ml中のトリエチルアミン14.616g(144.44mmol)の溶液を、さらに滴下し、且つ、10分間、室温で攪拌する。それが溶液2をもたらす。
【0050】
その後、溶液1を溶液2中に素早く導入し、且つ、生じる混合物を強力に混合する。
【0051】
溶液1と溶液2との10分間の強力な混合後、過剰なプロピオン酸無水物を1−メチルイミダゾール0.5gと共に添加する。その後、50℃に温め、且つ、反応バッチを2時間の間、この温度で攪拌する。それに引き続いて、室温に冷却し、生じる粘性の溶液を約500mlのエタノール中にもたらし、1時間の間、攪拌して、最後にろ過し、その際、そのろ液を、水中に滴下することによって、沈殿の完全性について調べる。ろ過ケークが生じ、それを3回、各200mlのエタノール/水(9/1)を用いて高温中で煮沸し、即ち、エタノール/水混合物の沸点で精製し、且つ、その後、もう1回、エタノールを用いて煮沸し、即ち、エタノールの沸点で後精製する。空気での乾燥後、一定の質量になるまで真空下で乾燥させる。12.3gのリグニン誘導体Dが秤量される。リグニン誘導体Dは、非常にわずかに際立ったガラス転移段階、42500g/molの質量平均分子量Mw、15の多分散度Pを有し、且つ、47%/53%の一価の残基/二価の残基の比を有する。13C−NMR分光法を用いて測定されたアジペート/プロパンジオレートの比は、1.39/1である。
【0052】
実施例5
実施例3および4と類似して、リグニン誘導体Eを製造する。リグニン誘導体Eは、非常にわずかに際立ったガラス転移段階、36250g/molの質量平均分子量Mw、21.5の多分散度Pを有し、且つ、61%/39%の一価の残基/二価の残基の比を有する。13C−NMR分光法を用いて測定されたアジペート/プロパンジオレートの比は、1.35/1である。
【0053】
リグニン誘導体Eを、実験室用二軸スクリュー押出機内、110℃で、且つ170分-1の回転速度で、孔直径500μmを有する単孔ノズルを通じて、直径250μmを有するモノフラメントへと紡糸し、且つ、破断しないように巻取る。該モノフラメントは、滑らかな表面を示し、且つ、低温破壊後、滑らかな断面を示す。その際、「低温破壊」は、モノフィラメントを液体窒素中に浸漬させ、引き続き破断することを意味する。
【0054】
該モノフィラメントは、以下の実施例内に示される通り、炭素繊維の製造のための前駆体繊維として適している。
【0055】
実施例6
実施例5の熱可塑性モノフィラメントを、熱酸化によって非熱可塑性モノフィラメントへと変換する。そのために、熱可塑性モノフィラメントをセラミックプレート上に取り付け、その際、モノフィラメントの両端を高温耐性セラミックセメントでセラミックプレート上に固定する。引き続き、モノフィラメントをオーブン内、空気−雰囲気下にて、昇温速度0.2k/分で、温度180℃まで温め、且つ、そのモノフィラメントを12時間、この温度で保持する。その後で、ヒーターをオフにすることによりオーブンを室温に冷却する。それが、非熱可塑性の安定化モノフィラメントをもたらす。
【0056】
実施例7
実施例6の安定化モノフィラメントを、セラミックプレート上に取り付け、その際、モノフィラメントの両端を高温耐性セラミックセメントでセラミックプレート上に固定する。引き続き、モノフィラメントを、昇温速度3K/分で、温度1100℃まで加熱し、且つ、30分の間、この温度で保持する。その後で、ヒーターをオフにすることによりオーブンを室温に冷却する。それが、炭化モノフィラメントをもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験式(1)
L(OH)z (1)
[式中、
Lはヒドロキシル基のないリグニンを意味し、
OHはLに結合された遊離ヒドロキシル基を意味し、且つ
zは、Lに結合された遊離ヒドロキシル基の100%を意味する]
のリグニンから製造されるリグニン誘導体であって、該リグニン誘導体において、
Lに結合された遊離ヒドロキシル基のx≧0.1%が、二価の残基Rxと共に誘導体化され、前記二価の残基Rxはエステル基、エーテル基またはウレタン基を介してLと連結しており、
Lに結合された遊離ヒドロキシル基のy≧0.1%が、一価の残基Ryと共に誘導体化され、前記一価の残基Ryはエステル基、エーテル基またはウレタン基を介してLと連結しており、
x+y=100%であり、且つ、
z=0%であることを特徴とする、リグニン誘導体。
【請求項2】
リグニン誘導体が、−30℃〜200℃の範囲内のガラス温度Tgを有することを特徴とする、請求項1に記載のリグニン誘導体。
【請求項3】
リグニン誘導体が、少なくとも10000g/molの質量平均分子量Mwを有することを特徴とする、請求項1または2に記載のリグニン誘導体。
【請求項4】
xが1%〜99%の範囲内であり、且つ、yが99%〜1%の範囲内であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のリグニン誘導体。
【請求項5】
二価の残基Rxが、2つの同一の官能基を含む化合物から誘導され、それによりリグニン誘導体を形成するために、大部分の両者がそれぞれエステル結合、エーテル結合、またはウレタン結合を介してLと連結していることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載のリグニン誘導体。
【請求項6】
両者の同一の官能基の少なくとも20%がそれぞれエステル基、エーテル基またはウレタン基を介してLと連結していることを特徴とする、請求項5に記載のリグニン誘導体。
【請求項7】
二価の残基Rxがジカルボン酸またはジカルボン酸クロリドに由来し、その際、ジカルボン酸もしくはジカルボン酸クロリドの少なくとも1つのカルボン酸基もしくは少なくとも1つのカルボン酸クロリド基がエステル基を介してLと連結していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のリグニン誘導体。
【請求項8】
二価の残基Rxが2つのカルボン酸末端基を有するオリゴエステルに由来し、その際、オリゴエステルの少なくとも1つのカルボン酸末端基がエステル基を介してLと連結していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のリグニン誘導体。
【請求項9】
二価の残基Rxがジイソシアネートに由来し、その際、ジイソシアネートの少なくとも1つのイソシアネート基がウレタン基を介してLと連結していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のリグニン誘導体。
【請求項10】
二価の残基Rxが2つのイソシアネート末端基を有するオリゴウレタンに由来し、その際、オリゴウレタンの少なくとも1つのイソシアネート末端基がウレタン基を介してLと連結していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のリグニン誘導体。
【請求項11】
一価の残基Ryが、モノカルボン酸またはモノイソシアネートに由来し、その際、モノカルボン酸はエステル基を介して、もしくはモノイソシアネートはウレタン基を介して、Lと連結していることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載のリグニン誘導体。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項に記載のリグニン誘導体を含む成形体。
【請求項13】
成形体が繊維の形態で存在することを特徴とする、請求項12に記載の成形体。
【請求項14】
繊維が、炭素繊維製造のための前駆体繊維であることを特徴とする、請求項13に記載の成形体。
【請求項15】
成形体がメンブレンの形態で存在することを特徴とする、請求項12に記載の成形体。
【請求項16】
メンブレンが電池セパレータであることを特徴とする、請求項15に記載の成形体。
【請求項17】
請求項14に記載の前駆体繊維から製造される炭素繊維。

【図1】
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【公表番号】特表2012−515241(P2012−515241A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545716(P2011−545716)
【出願日】平成22年1月11日(2010.1.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050185
【国際公開番号】WO2010/081775
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(508322897)トウホウ テナックス ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (5)
【氏名又は名称原語表記】Toho Tenax Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Kasinostrasse 19−21, D−42103 Wuppertal, Germany
【出願人】(594102418)フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ (63)
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer−Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D−80686 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】