説明

リグノセルロース材の緑液による前処理方法

【課題】従来の方法の欠点を解消したリグノセルロース材の処理方法を提供する。
【解決手段】化学パルプを製造するための連続方法であって、(a)1〜60分間の第一の時間間隔で、リグノセルロース材をスチーミングするステップ、(b)スチーミング後、スチーミングされたリグノセルロース材を、含浸容器11内で、110℃〜150℃の温度で、5分間までの第二の時間間隔で、緑液で含浸するステップ、(c)含浸後、化学パルプを製造するために、リグノセルロース材を、蒸解缶30で連続的に蒸解するステップ、を含むことを特徴とする化学パルプの連続製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般に連続クラフト法パルプ製造プロセスにおいてリグノセルロース材を含浸することおよび含浸されたリグノセルロース材を蒸解することに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の方法は、例えば、針葉樹材チップおよび広葉樹材チップを含むリグノセルロース材の処理において、含浸溶液として黒液、緑液および/または白液を用いてなされており、例えば、特許文献1〜4および非特許文献1〜7に述べられている。
【0003】
黒液の含浸プロセスは、例えば、特許文献5および6に述べられている。加うるに、黒液における高い硫化度の重要性およびその含浸における使用は、特許文献7に述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,674,359号明細書
【特許文献2】米国特許第3,520,773号明細書
【特許文献3】米国特許第1,691,511号明細書
【特許文献4】ヨーロッパ特許第0 810 321 B1号明細書
【特許文献5】米国特許第5,192,396号明細書
【特許文献6】米国特許第5,346,591号明細書
【特許文献7】米国特許第5,660,686号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Svedman et al., The Use of Green Liquor And Its Derivatives in Improving Kraft Pulping, Tappi Journal Vol. 81, No. 10, pp. 151-158 (Oct. 1998);
【非特許文献2】Ban et al., Low Capital, High Return Modifications to Kraft Pulping Operations, Tappi 2001 Pulping Conference;
【非特許文献3】Ban et al., The Relationship of Pretreatment Pulping Parameters With Respect to Selectivity: Optimization of Green Liquor Pretreatment Conditions for Improved Kraft Pulping, Paperia ja Puu - Paper and Timber, Vol. 86, No. 2, pp. 102-108 (2004);
【非特許文献4】Ban et al., Fundamental Correlations Between Green Liquor (GL) Pretreatment and Pulp Qualities, 2002 Tappi Fall Conference & Trade Fair;
【非特許文献5】Ban et al., Kraft Green Liquor Pretreatment of Softwood Chips. Part II: Chemical Effect of Pulp Carbohydrates, Journal of Pulp and Paper Science, Vol. 29, No. 4, pp. 114-119 (April 2003);
【非特許文献6】Mao et al., Technical Evaluation of a Hardwood Biorefinery Using the “Near-Neutral” Hemicellulose Pre-Extraction Process, 2007AIChE Annual Meeting;
【非特許文献7】Lucia et al., Green Liquor Pretreatment of Chips Could Boost Kraft Pulping Efficiency, PaperAge, Nov/Dec 2002, pp. 24-26.
【0006】
黒液は有用であると知られているが、その使用にはいくつかの問題を含んでいる。その一つは、望ましくないリグニンの析出により生じるpHの変化である。別の一つは、パルプ品質および薬剤消費に有害な材料が黒液中に単に存在することである。水酸化ナトリウムに対する硫化ナトリウムの比が、高い硫化度溶液を得るために重要であることが知られている。
【0007】
従来の方法は、また、含浸媒体として緑液の使用を含んでいた。しかしこれらの方法は、バッチ式のプロセスであり、または長い含浸時間(例えば、30分より長い時間)の使用が必要であり、そのため、化学パルプを製造するための商業的な連続プロセスにおいて、一定のスループット(一定時間内で処理する原料の量)を維持するために大きなおよび/または多数の容器を必要とする。これらの従来の方法は、例えば投資コストと維持コストを増大するという欠点を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の従来の方法の欠点を解消したリグノセルロース材の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、含浸溶液として緑液を短時間で使用することが有利であることを見出した。緑液は、黒液において存在する有益な硫黄化合物を含み、他の望ましくない固体化合物が存在しないという有利さを持っている。さらに、水酸化ナトリウムに対する硫化ナトリウムの比が高い。
【0010】
一つの見地では、本発明は、化学パルプを製造するための連続方法であって、この方法は、(a)1〜60分間の第一の時間間隔で、リグノセルロース材をスチーミングするステップ、(b)スチーミング後、スチーミングされたリグノセルロース材を、含浸容器内で、110℃〜150℃の温度で、5分までの第二の時間間隔で、緑液で含浸するステップ、および(c)含浸後、化学パルプを製造するために、リグノセルロース材を、蒸解缶で連続的に蒸解するステップ、を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】含浸を伴なう、二つの容器の蒸解缶システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「黒液」「白液」および「緑液」という言葉は、紙パルプにおいて一般に理解されている意味に従って用いられる。例えば、黒液は、一般に蒸解中または蒸解後に抽出された液や残渣液を意味する。白液は、一般に水酸化ナトリウムと水硫化ナトリウムの混合物を意味する。そして緑液は、一般に回収ボイラーから得られる溶解された無機溶融物を意味する。緑液は、例えば硫化ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを含み得る。
【0013】
本発明の方法で用いられるリグノセルロース材は、一般に針葉樹材または広葉樹材の種類(varieties)、またはそれら混合材からなる木材チップである。また、わらやバガスなどのような他のセルロース材を用いることも可能である。
【0014】
図1は、含浸容器で緑液含浸し、蒸解缶で蒸解する二容器システムを包含する連続方法を概略的に図示している。例示するように、本システムは、含浸容器11に供給するリグノセルロース材のスラリーの圧力を上げるための高圧フィーダー10、またはポンプ(または静水圧)のような他の圧力装置;含浸容器11の頂部13に導く高圧入口ライン12;および含浸容器11の頂部のスクリーンの後から高圧フィーダー10または供給システムの他の位置に繋がる戻りライン17を含み得る。
【0015】
予めスチーミングされたリグノセルロース材(例えば、大気圧でスチーミングされたリグノセルロース材)は、高圧フィーダー10または他の圧力装置に供給される。あるいは、リグノセルロース材は、高圧フィーダー10または他の圧力装置から移動の後、含浸容器11に入る前に(あるいは含浸容器11の初期段階においてさえも)、高圧でスチーミングされ得る。スチーミングは、どの圧力下でも、かつ通常過熱条件下でも生じ得る。
【0016】
緑液、白液および/または黒液は、含浸を起こさせるためにライン17に加えられ、さらに蒸解缶30と連絡している種々の再循環ラインおよびシステムにも加えられる。蒸解缶30は、リグノセルロース材を薬液で蒸解するために適切ないかなる蒸解缶でもよい。スラリー(リグノセルロース材および薬液)は、ライン29経由で、蒸解缶30の頂部へ供給され、蒸解缶30の頂部のスクリーンの後から、ライン31に移動され、加熱器32により加熱される。
【0017】
蒸解缶30は、一般的な、または一般的でない蒸解缶であって、満液型または気相型のいずれでもよい。含浸容器11は、さらに、一個または複数個の含浸ゾーンを含む。二個の含浸ゾーンは、例えば第一の低温ゾーンと第二の高温ゾーンからなり、各ゾーンにおける有効アルカリレベルは異なっている。さらに、二個以上の含浸ゾーンのそれぞれは、緑液、白液および/または黒液の異なる濃度とすることもできる。
【0018】
含浸プロセスでは、アルカリが繊維壁の中に拡散する。これは木材の組織を開繊し、おそらく、予備処理の間に木材の一部を部分的に溶解させる。この含浸は、短時間(例えば、1分)あるいは長時間(例えば、数時間まで)続き得る。含浸温度は、約110℃〜150℃、さらに好ましくは約120℃である。
【0019】
含浸容器11では、含浸ゾーン(複数を含む)は、並流および/または向流(どの組み合わせまたは順序においても)とすることができる。別個の含浸容器として図示されているが、ある状況下では、含浸は蒸解缶30の頂部で行われ得ることを理解すべきである。また、蒸解缶30は、紙パルプ工業において用いられるいかなるタイプのものでもよい。
【0020】
本発明の一つの態様では、パルプを製造するための緑液を用いる連続方法がある。この方法は、現存の方法に比べて少数の化学薬剤で済む。この方法は、一般に以下のステップを含む。(a)リグノセルロース材をスチーミングするステップ、(b)スチーミング後、スチーミングされたリグノセルロース材を含浸容器において、緑液で含浸するステップ、および(c)含浸後、化学パルプを製造するため、通常の条件下で、多分白液を加えて、リグノセルロース材を連続的に蒸解するステップ。
【0021】
本発明の別のある態様では、リグノセルロース材を連続的に蒸解する前に、緑液、白液および/または黒液を含む二個以上のさらなる含浸ステップを設けることも可能である。好ましくは、緑液は除去され、含浸されたリグノセルロース材は、後続の含浸ステップ(複数を含む)を行わずに、薬液(例えば、白液)で蒸解するための蒸解缶に直ちに送られる。
【0022】
ステップ(a)では、例えば針葉樹材チップまたは広葉樹材チップのようなリグノセルロース材は、いかなる化学薬剤の存在なしに(例えば、白液、黒液または緑液の存在なしに)水蒸気で、1〜60分(好ましくは約15分)の時間、(例えば、1バール(0.1MPa)、100℃の温度で)スチーミングされる。他の温度および圧力(例えば、6バール(0.6MPa)または10バール(1MPa))も、スチーミングステップに好適である。
【0023】
ステップ(b)では、含浸は、高圧(例えば、6バール(0.6MPa)または10バール(1MPa))で、5分まで(例えば、1分、2分または5分)の時間で生じる。含浸は約110℃〜150℃、さらに好ましくは約120℃で生じ得る。所望の接触時間の後、遊離の緑液は、ステップ(c)の前に除去され得る。
【0024】
上で述べた方法を使用すると、緑液からリグノセルロース材への良好な硫化度の移動が、処理の極めて早い段階から達成され、これは全体の蒸解プロセスに多大な利益をもたらすことができると出願人は信じる。方法の早い段階での硫化度の移動は、方法のより遅い段階での硫化度の移動に比べて、製造されたパルプの特性の改善に寄与することが知られている。例えば、Henricson等の米国特許第5,660,686号明細書を参照のこと。
【0025】
上で述べた方法を用いたテスト(ならびに90〜100℃で行われた比較例)から、約120℃の温度で、2〜5分間の接触時間において、カッパー価は、2カッパー単位だけ明確に影響を受け得ることが見い出された。緑液を用いる含浸を、同一温度で異なる圧力で行ったときに、圧力を変動させた利益が得られないので、圧力は重要なファクターではないと考えられる。
【0026】
一方、含浸温度について、接触時間の効果が検討された。緑液を三つの時間間隔である、1分、2分および5分間、リグノセルロース材に接触させた。接触時間が1分間と2分間ではカッパー価に相違がある(2分間がより好ましい。)が、接触時間が2分間と5分間では、カッパー価に有意の相違はなかった。これらの接触時間テストは、緑液が迅速にリグノセルロース材壁に浸透し、リグノセルロース材壁中の間隙を満たすことを示している。
【0027】
この短い接触時間は、安定したpH状態が含浸中に存在することになるので、重要である。短い緑液接触時間は、緑液が排出され、白液に置き換わる前のリグノセルロース材と緑液との混合物のpHに最小の変化をもたらす。比較的に安定したpH環境は、酸安定リグニンからのリグニン析出の可能性を低下することとなる。低下したリグニン析出は、リグニンの縮合のような、副反応をより少なくする。
【0028】
上に述べたように、短い時間の緑液含浸の利点は、蒸解プロセスへ加えられる有効アルカリ(EA)の消費量を削減(例えば、40%まで)することを含む。例えば、緑液添加無しの方法でカッパー価16を達成するためには、18%(EA)が必要とされる。上述の緑液含浸方法を使用すると、カッパー価16は、10%(EA)の添加で達成される。このEAの量の有意の削減は、苛性化装置(蒸解液再生装置)のサイズを縮小するとともに石灰キルン炉設備のサイズを縮小することができる。これらの設備の削減(ならびに含浸容器サイズの明らかな削減)は、パルプ工場で消費される全てのエネルギーを削減するとともに二酸化炭素のような汚染物質を削減することができる。
【0029】
本発明は、現在最も実用的で、好ましい態様と考えられるものに関して記載されているけれども、本発明は開示された態様に限定されることなく、むしろ反対に、特許請求の範囲に含まれる種々の修正や均等物をも包含するものであると理解される。
【符号の説明】
【0030】
10 高圧フィーダー
11 含浸容器
12 高圧入口ライン
13 含浸容器の頂部
17 戻りライン
29 スラリー入口ライン
30 蒸解缶
31 戻りライン
32 加熱器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学パルプを製造するための連続方法であって、
(a)1〜60分間の第一の時間間隔で、リグノセルロース材をスチーミングするステップ、
(b)スチーミング後、スチーミングされたリグノセルロース材を、含浸容器内で、110℃〜150℃の温度で、5分間までの第二の時間間隔で、緑液で含浸するステップ、および
(c)含浸後、化学パルプを製造するために、リグノセルロース材を、蒸解缶で連続的に蒸解するステップ、
を含むことを特徴とする化学パルプの連続製造方法。
【請求項2】
リグノセルロース材は木材チップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記ステップ(a)は水蒸気の存在下で、白液、緑液および黒液の不存在下に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第一時間間隔はおおよそ15分までとする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記ステップ(a)は大気圧下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記ステップ(a)は10バール(1MPa)までの圧力下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記ステップ(b)は2分までの時間間隔で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
上記ステップ(b)は1分までの時間間隔で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記ステップ(b)は10バール(1MPa)までの圧力下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
上記ステップ(b)は6バール(0.6MPa)までの圧力下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記ステップ(b)および(c)の間に、遊離の緑液を除去するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。




【図1】
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