説明

リグノフェノール誘導体含浸段ボール及びその製造方法

【課題】従来の一般の段ボールより高い強度を有すると共に、生分解性を備えており、さらに、人に対して無害な段ボール及びそのリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
リグノセルロース系材料としてのスギを用い、所定の工程に従って、リグノフェノール誘導体であるリグノクレゾールのアセトン溶液を得た。そして、段ボールを密閉された槽内に設置し、段ボール全体が浸漬するまで、上記リグノクレゾール−アセトン溶液を満たした。その後、リグノクレゾール−アセトン溶液を排出し、引き続き槽内に窒素を所定の流量で流し、段ボールを窒素乾燥した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段ボール、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
段ボールは、波形に成形された中しん、その中しんを保持するために貼り合わせられるライナ、といった2種類の段ボール原紙から構成されている。このように構成された段ボールは、軽量でありながら、構造体としての強さと衝撃吸収性とを有している。
【0003】
しかしながら、段ボールには、その用途によっては、一層の強さが求められることがある。その場合には、中しんに合成樹脂等を含浸させて強度を高めた強化段ボールが用いられてきた(特許文献1等参照)。
【特許文献1】特開平6−345093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の強化段ボールは、生分解性のない合成樹脂等を含んでいるため、廃棄時の処理が困難となるという問題があった。また、従来の強化段ボールが含有する合成樹脂成分には、人に対し有害性を有するものがあり、その場合は、強化段ボールを食品分野などには使用しにくいという問題があった。
【0005】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、従来の一般の段ボールより高い強度を有すると共に、生分解性を備えており、さらに、人に対して無害な段ボール及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の段ボールは、リグノフェノール誘導体が含浸されたことを特徴とする。
このように、本発明の段ボールにおいては、リグノフェノール誘導体が含浸されているので、従来の段ボールに比べて強度を増すことができ、段ボールが水に濡れた場合でも、段ボール自体の強度、及び、ライナと中しん間の接着強度を維持することができる。また、リグノフェノール誘導体は生分解性があるため、廃棄する際に特別な処理を必要とせず、従来の段ボールと同様に取り扱うことができる。さらに、リグノフェノール誘導体は人に対して無害な物質であるため、食品分野にも用いることができる。
【0007】
次に、請求項1に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールは、請求項2記載のように、リグノフェノール誘導体を、リグノセルロース系材料、フェノール誘導体及び酸を反応させた反応混合液を固液分離することにより回収される粗リグノフェノール誘導体に対し、不純物を取り除く精製処理を施されたものとするとよい。
【0008】
このようにすれば、不純物を取り除く精製処理を施したリグノフェノール誘導体が段ボールに含浸されているので、例えば、段ボールの外観を向上したり、段ボールに不純物による薬品臭が残ることを抑制できる。
【0009】
一方、請求項2に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールは、請求項3に記載のように、上記不純物に酸が含まれており、酸を取り除く精製処理が行われたリグノフェノール誘導体を、段ボールに含浸させたものであってもよい。
【0010】
このようにすれば、粗リグノフェノール誘導体から不純物として酸が取り除かれているので、例えば、表面にインクで印刷されている段ボールにリグノフェノール誘導体を含浸させても、酸の影響により、インクが色落ちしたり、にじんだりすることを抑制できる。
【0011】
次に、請求項2または請求項3に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールでは、請求項4に記載のように、上記精製処理として、リグノフェノール誘導体を溶解可能な溶媒でリグノフェノール誘導体を抽出し、このリグノフェノール誘導体が抽出された抽出液に陰イオン交換樹脂を接触させる工程を含むようにしてもよい。
【0012】
このようにすれば、不純物を取り除く処理に、リグノフェノール誘導体に陰イオン交換樹脂を接触させる工程を含んでいるので、陰イオン交換樹脂の性質により、粗リグノフェノール誘導体から酸分を確実に除去することができる。
【0013】
また、請求項4に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールでは、請求項5に記載のように、リグノフェノール誘導体が抽出された抽出液に陰イオン交換樹脂を接触させることにより、抽出液のpHが5より大きくなるようにされていてもよい。
【0014】
このようにすれば、抽出液のpHが5より大きく中性に近い状態となるので、この抽出液を、表面にインクで印刷された段ボールに含浸させたとしても、インクが色落ちしたり、にじんだりすることを、より抑制できる。
【0015】
次に、請求項4または請求項5に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールでは、請求項6に記載のように、粗リグノフェノール誘導体には、上記不純物として、酸及びフェノール誘導体が含まれており、リグノフェノール誘導体は、この粗リグノフェノール誘導体に、陰イオン交換樹脂を接触させることによって処理された抽出液に対し、さらに、フェノール誘導体を透過させると共にリグノフェノール誘導体の少なくとも一部の透過を阻止する分画分子量の限外濾過膜にて濾過処理を施したものであってもよい。
【0016】
このようにすれば、リグノフェノール誘導体の抽出液に残留した余剰のフェノール誘導体が膜を透過し、リグノフェノール誘導体の少なくとも一部は膜を透過しないので、確実に酸及び余剰のフェノール誘導体が除去されたリグノフェノール誘導体を得ることができ、このようなリグノフェノール誘導体が含浸された段ボールを製造することができる。なお、本明細書における限外濾過膜は、0.001μm〜0.01μm程度の孔径を有する濾過膜を示し、0.001μm近傍の孔径を有するNF膜を含むものとする。
【0017】
次に、請求項1〜請求項6の何れかに記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールは、請求項7に記載のように、少なくとも1つの中しんと、少なくとも1つのライナと、を備えるようにしてもよい。
【0018】
そして、請求項7に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールは、請求項8に記載のように、リグノフェノール誘導体が、少なくとも1つの中しんと、少なくとも1つのライナとの両方に含浸されるようにしたものであってもよい。このようにすれば、中しんとライナとの両方にリグノフェノール誘導体が含浸されているので、何れか一方にのみリグノフェノール誘導体が含浸された段ボールに比べ強度を向上することができる。
【0019】
一方、請求項7に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールでは、請求項9に記載のように、リグノフェノール誘導体が、少なくとも1つの中しんと、少なくとも1つのライナとのうち、何れか一方に含浸されるようにしてもよい。このようにすれば、中しんとライナとの何れか一方にリグノフェノール誘導体が含浸されているので、両方にリグノフェノール誘導体が含浸された段ボールに比べ軽量の段ボールとすることができる。
【0020】
また、請求項1〜請求項9の何れかに記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールは、請求項10に記載のように、段ボールの外部に露出される面の少なくとも一部には、フレキソインキにより印刷がされていてもよく、このようにすれば、リグノフェノール誘導体を含浸させることにより、段ボールに印刷されたインクが色落ちしたり、にじむことを抑制でき、外観を向上できる。
【0021】
次に、請求項11に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法は、段ボールまたは少なくとも1つの段ボール原紙にリグノフェノール誘導体を含浸させる含浸工程を備えることを特徴とする。
【0022】
このように、本発明のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法においては、リグノフェノール誘導体を含浸させる含浸工程を有しているので、従来の段ボールに比べ強度の高い段ボールを製造することができる。また、リグノフェノール誘導体は生分解性があるため、本発明の方法で製造した段ボールは廃棄する際に特別な処理を必要とせず、従来の段ボールと同様に扱うことができる。さらに、リグノフェノール誘導体は人に対して無害な物質であるため、食品分野にも用いることができる。また、段ボールが水に濡れた場合でも、段ボール自体の強度、及び、ライナと中しん間の接着強度を維持することができる。
【0023】
次に、請求項11に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法は、請求項12に記載のように、リグノセルロース系材料、フェノール誘導体及び酸を反応させた反応混合液を分離することにより粗リグノフェノール誘導体を抽出する抽出工程と、この抽出工程により抽出された粗リグノフェノール誘導体に対し、不純物を取り除く精製処理を施す精製工程と、を設けるようにしてもよい。また、含浸工程は、精製工程により精製処理が施されたリグノフェノール誘導体を段ボールまたは段ボール原紙に含浸させるものであってもよい。
【0024】
このようにすれば、不純物を取り除く処理を施したリグノフェノール誘導体が段ボールに含浸されているので、例えば、段ボールの外観を向上したり、段ボールに不純物による薬品臭が残ることを抑制できる。
【0025】
一方、請求項11または請求項12に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法は、請求項13に記載のように、段ボールを構成する段ボール原紙としての少なくとも1つのライナと、少なくとも1つの中しんと、を接着する接着工程を備え、含浸工程は、接着工程による接着前に、少なくとも1つのライナ及び少なくとも1つの中しんのうち、少なくとも1つにリグノフェノール誘導体を含浸させるものであってもよい。
【0026】
このようにすれば、ライナまたは中しんの少なくとも1つにリグノフェノール誘導体を含浸させた後に、ライナと中しんとを接着するので、ライナ及び中しんを接着し、段ボールを形成した後にリグノフェノール誘導体を含浸させる場合に比べ、容易に作業を行いうる。
【0027】
次に、請求項11または請求項12に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法は、請求項14に記載のように、段ボールを構成する段ボール原紙としての少なくとも1つのライナと、少なくとも1つの中しんと、を接着する接着工程を備え、含浸工程は、接着工程による接着後の段ボールの少なくとも一部にリグノフェノール誘導体を含浸させるものであってもよい。さらに、請求項14に記載の発明は、請求項15に記載のように、含浸工程では、段ボール全体にリグノフェノール誘導体を含浸させるようにしてもよい。
【0028】
このようにすれば、リグノフェノール誘導体が段ボール全体に含浸されているので、例えば、中しん、ライナの何れか一方のみ、または、段ボールの一部にのみリグノフェノール誘導体が含浸された段ボールに比べ、強度を向上することができる。
【0029】
次に、請求項11〜請求項15の何れかに記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法は、請求項16に記載のように、含浸工程に、リグノフェノール誘導体の有機溶媒溶液を用いるようにしてもよい。さらに、請求項16に記載の発明は、請求項17に記載のように、水分含有量が10重量%以下の有機溶媒溶液を用いるようにしてもよい。このようにすれば、有機溶媒溶液の水分含有量が比較的0%に近い値であるので、段ボールの表面にリグノフェノール誘導体が析出し、段ボールの外観が劣化することを抑制できる。
【0030】
また、請求項16または請求項17に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法は、請求項18に記載のように、含浸工程では、段ボールまたは少なくとも1つの段ボール原紙をリグノフェノール誘導体の有機溶媒溶液に浸積させ、一方、含浸工程において浸積された段ボールまたは少なくとも1つの段ボール原紙を、不活性ガス中で乾燥させる乾燥工程を備えるようにしてもよい。このようにすれば、不活性ガス中で段ボールを乾燥するので、段ボールの表面にリグノフェノール誘導体が析出し、段ボールの外観が劣化することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
まず、本発明の段ボールに含浸されたリグノフェノール誘導体について説明する。
リグノフェノール誘導体は、本質的には、リグニンを含有するリグノセルロース系材料から得られる。リグニンを含有するリグノセルロース系材料としては、例えば、間伐材、林地残材、製材屑、木粉、チップ、廃材、端材、草本、モミ殻、稲ワラ、古紙等を挙げることができる。上記のうち、木質系のリグノセルロース系材料としては、スギ、クロマツ、ブナ等の林地残材・製材屑などを好適に用いることができ、また、木材の種類は、針葉樹、広葉樹等種類を問わないで用いることができる。一方、上記のうち、草本系のリグノセルロール系材料としては、各種草本植物、農産廃棄物、また、最近注目されているケナフのコア(心材)を粉砕したものなどを好適に用いることができる。
【0032】
リグノセルロース系材料から、リグノフェノール誘導体を得るには、かかるリグノセルロース系材料中のリグニンをフェノール誘導体で処理してリグノフェノール誘導体として、リグノセルロース系材料中から抽出する必要がある。
【0033】
以下、リグノセルロース系材料中のリグニンを、リグノフェノール誘導体として抽出する方法を説明する。
第1の方法は、特開平2−233701号公報に記載されている方法である。例えば、図1に示すように、まず、木粉等のリグノセルロース系材料に液体状のフェノール誘導体(クレゾール等)を浸透させ、リグニンをフェノール誘導体により溶媒和させる。次に、リグノセルロース系材料に濃酸(一例として72%硫酸)を添加して、セルロース成分を溶解する。
【0034】
この方法によると、リグニンを溶媒和したフェノール誘導体と、セルロース成分を溶解した濃酸とが2相分離系を形成する。フェノール誘導体により溶媒和されたリグニンは、フェノール誘導体相が濃酸相と接触する界面においてのみ、酸と接触され、この際生じたリグニンの高反応サイト(α位)のカチオンが、さらにフェノール誘導体により攻撃される。この結果、リグノフェノール誘導体がフェノール誘導体相に生成される(図3参照)。
【0035】
このようにして得られたリグノフェノール誘導体は、余剰のフェノール誘導体、残留酸分、及び糖(炭水化物)などの高分子成分が不純物として含まれた粗リグノフェノール誘導体である。このような粗リグノフェノール誘導体に対し、以下に説明する処理を行うことにより上記の不純物を除去し、リグノフェノール誘導体を精製された状態で取り出すことができる。
【0036】
まず、フェノール誘導体相に、大過剰のエチルエーテルを加える。そして、大過剰のエチルエーテルを加えたことにより生じた不溶区分を集めて、リグノフェノール誘導体を溶解可能な溶媒(例えば、アセトン)に溶解する。次に、この溶液から不溶区分を遠心分離により除去し、さらに、アセトンに溶解されたアセトン可溶区分を濃縮する。そして、このアセトン可溶区分を、大過剰のエチルエーテルに滴下し、沈殿した不溶区分を集める。この不溶区分から溶媒を留去した後、五酸化リン入りデシケータ中で乾燥する。
【0037】
このようにして、精製されたリグノフェノール誘導体を得ることができる。ここで、過剰のエチルエーテルやアセトンを用いてフェノール誘導体相から不純物を取り除く処理は、本発明の精製処理に相当する。
【0038】
なお、リグノフェノール誘導体を溶解可能な溶媒(抽出溶媒)としては、上述したアセトンの他に、例えば、メチルエチルケトン、リサイクルアセトン、リサイクルメチルエチルケトンなどのケトン類等や、メタノール、エタノール、エチレングリコール等を使用することができる。
【0039】
一方、リグノセルロース系材料に添加する濃酸としては、上述した72%硫酸に限るものではなく、セルロースを膨潤させる作用を有する酸を用いることができる。例えば、65%以上の硫酸(好ましくは、72%の硫酸)、85%以上のリン酸、38%以上の塩酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などである。なお、本明細書における「%」の記載は、重量%を示すものとする。
【0040】
また、単にフェノール誘導体相を減圧し、残留有機溶媒を蒸発させることにより溶媒を除去することによってもリグノフェノール誘導体を抽出することができる。ただし、この方法で得られるリグノフェノール誘導体は、上記のように不純物を取り除く精製処理を行っていないため、不純物が取り除かれていない、つまり、粗リグノフェノール誘導体である。
【0041】
次に、リグノセルロース系材料中のリグニンを、リグノフェノール誘導体として抽出する第2の方法を説明する。
図2に示すように、まず、リグノセルロース系材料に、固体状あるいは液体状のフェノール誘導体を溶解した有機溶媒(例えば、エタノールあるいはアセトン)を浸透させた後、溶媒を留去する(フェノール誘導体の収着工程)。
【0042】
詳述すると、まず、原料となるリグノセルロース系材料を粉砕する。また、粉砕後、粒径を2mm以下にふるい分けるようにしてもよい。このようにすれば、後段のフェノール誘導体の含浸効果を高め、反応性を向上させることができる。また、リグノセルロース系材料の含水率が15〜20%程度となるように乾燥させることが好ましく、このようにすれば、ふるい分け時に玉等の発生が少なく、原料粉の収率が向上する。ここで含水率(%)とは、リグノセルロース系材料の絶乾重量をw1とし、水を含んだ状態での重量をw2としたとき、((w2−w1)/w2)×100で表されるものである。
【0043】
一方、リグノセルロース系材料の種類によっては、樹脂分等を含む場合がある。これが後段の反応過程で阻害物質とならないように、フェノール誘導体を添加する前にリグノセルロース系材料の樹脂分を除去(脱脂)することが好ましい。
【0044】
脱脂方法としては、例えば、撹拌槽内にリグノセルロース系材料と有機溶媒とを投入し、十分に混合・撹拌することによって行うことができる。有機溶媒で脱脂を行うことにより、リグノセルロース系材料中の水分を除去するという効果も得られる。
【0045】
この目的で用いることのできる有機溶媒としてはアセトン、ヘキサンなどが考えられ、使用量としてはリグノセルロース系材料の1〜10倍量が好ましい。なお、ここで規定する「倍量」とは、木粉1kgに対する有機溶媒の量(リットル数)を意味し、例えば「10倍量」とは、木粉1kgに対して有機溶媒10lを加えることを意味する。
【0046】
次に、フェノール誘導体を有機溶媒中に混合した溶液を、リグノセルロース系材料と混合し、十分に撹拌することによって、リグノセルロース系材料にフェノール誘導体を収着させる。
【0047】
フェノール誘導体が溶解された有機溶媒溶液とリグノセルロース系材料とを十分に撹拌して収着を行わせた後、減圧して低温で残留有機溶媒を蒸発させることにより溶媒を除去し、フェノール誘導体が含浸したリグノセルロース系材料を乾燥させる。
【0048】
次に、このリグノセルロース系材料に、酸を添加してセルロース成分を溶解する。ここで用いる酸としては、第1の方法と同様の酸を用いることができるが、濃度65%以上の濃硫酸を用いることが好ましく、反応性を維持・継続するためには72%以上の濃度の濃硫酸を用いることがより好ましい。
【0049】
添加する酸の量は、リグノセルロース系材料に対して1倍〜10倍量が好ましく、3倍〜5倍量がより好ましい。なお、ここでの酸の「倍量」とは、フェノール誘導体を含浸する前の(即ち、含浸されたフェノール誘導体の重量を含まない)木粉原料1kgに対する有機溶媒の量(リットル数)を意味し、例えば「10倍量」とは、含浸フェノール誘導体の重量を含まない木粉原料1kgに対して有機溶媒10lを加えることを意味する。
【0050】
また、酸処理工程においては、反応槽内に予めリグノセルロース系材料を投入した後に、酸を添加すれば、反応の時間差をなくし、均一な酸処理が可能となるので好ましい。酸を添加した後は、均一に反応を進行させるためにむら無く十分に撹拌することが好ましい。
【0051】
この結果、第1の方法と同様、フェノール誘導体により溶媒和されたリグニンは、フェノール誘導体と酸とが接触する界面において、酸と接触し、フェノール誘導体により攻撃されて、粗リグノフェノール誘導体が生成される。フェノール誘導体相からのリグノフェノール誘導体の抽出は、第1の方法と同様にして行うことができる。
【0052】
また、濃酸添加後の反応液から、次の方法でリグノフェノール誘導体を抽出することも可能である。まず、濃酸処理後の全反応液を過剰の水中に投入し、不溶区分を遠心分離にて集め、透析し、乾燥させる。次に、この乾燥物にアセトンあるいはアルコールを加えて可溶区分を抽出する。さらに、この可溶区分を第1の方法と同様に、過剰のエチルエーテル等に滴下して、リグノフェノール誘導体を不溶区分として得る。
【0053】
このように、第2の方法においても、アセトンあるいはアルコール、及び、過剰のエチルエーテル等の溶媒を用いてリグノフェノール誘導体から不純物を取り除く精製処理を行い、不溶区分として、精製されたリグノフェノール誘導体を得ることができる。なお、上記乾燥物は、粗リグノフェノール誘導体に該当する。
【0054】
これらの2種類の方法においては、第2の方法が、なかでも特に後者、すなわち、粗リグノフェノール誘導体を過剰の水中に投入し、不溶区分を遠心分離により得た後に、この不溶区分からリグノフェノール誘導体をアセトンあるいはアルコールにて抽出分離する方法が、フェノール誘導体の使用量が少なくてすむため、経済的である。また、この方法は、少量のフェノール誘導体で、多くのリグノセルロース系材料を処理できるため、リグノフェノール誘導体の大量合成に適している。
【0055】
一方、濃酸添加後の反応液から、次の方法でリグノフェノール誘導体を抽出することも可能である。
まず、上記のようにして得られた濃酸処理後の反応液、つまり、リグノフェノール誘導体、余剰のフェノール誘導体及び残留酸分を含む反応液を、固液分離工程にかけて、リグノフェノール誘導体を含む固相と、糖化したセルロース、ヘミセルロースが溶解した酸の液相とに分離する。かかる固液分離工程には、遠心分離を利用することができる。
【0056】
遠心分離により、リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形分と、セルロース、ヘミセルロースが糖化(液化)して溶解した酸溶液とが、その比重差によってそれぞれ遠心分離機のバスケット内で内側、外側の2相に分離する。遠心分離機の回転を止めると、外側の酸・糖溶液が自重で装置下部に設けられた排出口から排出される。酸・糖溶液が排出された後、バスケット内に残留するリグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物を、掻き取り装置などを利用して下部排出口から排出する。
【0057】
また、この固液分離には、フィルタ等の膜分離を利用することもできる。この場合、酸処理後の反応混合液を、フィルタを布設した濾過槽に導入し、液の自重若しくは減圧又は加圧によって、リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物を、液化したセルロース、ヘミセルロースが溶解した酸溶液から濾過分離する。この際、濾過槽は、適当な量の液を貯めた後に濾過を行うことができるように貯留が可能な構造を有することが好ましい。
【0058】
上述の固液分離処理によって得られるリグノフェノール誘導体を含む固形物には、酸及び炭水化物の糖化物並びに未反応物が残留しているので、これを洗浄して残留物を除去する必要がある。これは、リグノフェノール誘導体を含む固形物を10倍量程度の水中に分散・撹拌させて、残留する酸等の成分を水側に移動させた後、静置して固形物を自然沈降させて、上澄み液を除去するという作業を適当回数繰り返すことによって行うことができる。固形物を水中に分散することによって、同時に、酸の濃度が希釈されて酸反応が停止する。リグノフェノール誘導体を含む固形物の脱酸・洗浄が終了したら、固形分を回収して乾燥する。
【0059】
このようにして得られたリグノフェノール誘導体は、しかしながら、未だ、余剰のフェノール誘導体、残留酸分、及び糖(炭水化物)などの高分子成分を不純物として含む粗リグノフェノール誘導体である。このような粗リグノフェノール誘導体からは、特開2007−70437号公報に記載されている、いわゆるイオン交換精製法により、上記不純物を除去することができる。
【0060】
具体的には、まず、粗リグノフェノール誘導体を、上述した粗リグノフェノール誘導体を溶解可能な溶媒(例えば、アセトン)で抽出することにより、糖などの高分子成分を不溶区分として分離除去することができる。ここで、得られた抽出液(可溶区分)には、リグノフェノール誘導体、残留酸分及び余剰のフェノール誘導体が含まれる。
【0061】
次に、このような抽出液に陰イオン交換樹脂を接触させることにより、酸が除去される。抽出液と陰イオン交換樹脂との接触は、例えば、抽出液を容器に入れ、この抽出液に陰イオン交換樹脂を投入した後、攪拌機で攪拌するようにしてもよく、また、脱酸の状態をpHモニタ等で確認しつつ、確認された脱酸状態に応じて順次抽出液を追加していくようにしてもよい。また、抽出液及び陰イオン交換樹脂を投入した容器を密封し、振盪して陰イオン交換樹脂と抽出液とを十分に接触させてもよい。
【0062】
ここで、陰イオン交換樹脂の量は、陰イオン交換樹脂の種類や抽出液中の酸の濃度などによって変動するが、一般に、抽出液1lを陰イオン交換樹脂0.2〜1lと接触させることが好ましい。また、抽出液と陰イオン交換樹脂との接触時間は、用いる陰イオン交換樹脂の種類及び量、抽出液中の酸の濃度などによって変動するが、一般に、0.5時間〜2時間の接触時間を確保することが好ましい。
【0063】
また、所定量の陰イオン交換樹脂をカラムに充填し、カラム内をアセトンで十分に置換した後、カラム上部から抽出液を通液することで脱酸処理を行ってもよい。その際、抽出液と陰イオン交換樹脂との接触時間を最適に調整して所定の脱酸能力を得られるように、抽出液の通液流量や、陰イオン交換樹脂のカラム充填量を決定する必要がある。採用する樹脂の交換容量や脱酸能力によって変動するが、一般に通液空間速度SV=1〜3h-1となるように選定するとよい。
【0064】
また、用いる陰イオン交換樹脂は、イオン交換基がOH型のものであることが好ましい。例えば、抽出液中に含まれる酸が硫酸:H2SO4の場合には、硫酸のSO42-イオンが陰イオン交換樹脂のOH-とイオン交換して水を生成する。これにより、抽出液中の酸分が除去される。
【0065】
なお、イオン交換樹脂による精製処理において、イオン交換時に生成される水分は、イオン交換樹脂処理後の抽出液にシリカゲルやモレキュラーシーブ、ゼオライト、活性アルミナ等の脱水剤により除去してもよい。
【0066】
上述したように陰イオン交換樹脂の種類、量、また、抽出液との接触時間を管理しつつ、陰イオン交換樹脂により抽出液を脱酸処理することにより、例えば硫酸の濃度が0.5%の抽出液の酸濃度を0.0005%以下というように、1,000〜10,000分の1程度にまで抽出液中の酸分を除去することができる。
【0067】
ところで、リグノフェノール誘導体は、分子量で1,000〜50,000の範囲のものが熱流動性等で良好な特性を示すが、粗リグノフェノール誘導体を有機溶媒に抽出した抽出液中には、良好な特性を示す分子量範囲のリグノフェノール誘導体以外に、不純物として低分子量のリグノフェノール誘導体や未反応で余剰のフェノール誘導体並びに酸分を含有する。
【0068】
上記に説明した陰イオン交換樹脂による処理によって、酸分はほぼ完全に除去することができるが、低分子量のリグノフェノール誘導体や余剰フェノール誘導体は抽出液中に残留する。そこで、陰イオン交換樹脂で処理されたリグノフェノール誘導体を含む抽出液を更に限外濾過膜による精製処理にかけて、低分子量リグノフェノール誘導体や余剰フェノール誘導体及びイオン交換樹時に生成した水分を除去することが好ましい。
【0069】
低分子量のリグノフェノール誘導体や余剰フェノール誘導体を不純物として含むリグノフェノール誘導体抽出液から良好な特性を持つリグノフェノール誘導体を精製回収するためには、抽出液からこれらの不純物を除去する必要がある。良好な特性を持つリグノフェノール誘導体の分子量分布が1,000〜50,000であることから、これ以外、すなわち分子量1,000以下である低分子区分や未反応で余剰のフェノール誘導体を抽出溶液から除去すればよい。これら低分子量不純物は、抽出液を限外濾過膜に通し、限外濾過膜の分子量分画作用を利用することにより、分離・除去することができる。
【0070】
限外濾過膜として分画分子量が500〜1,000のものを使用することで、分子量が100以下の未反応の余剰フェノール誘導体や分子量が1,000より小さいグノフェノール誘導体の低分子区分及びイオン交換樹時に生成した水分を限外濾過膜の透過液側に分離・除去することができる。良好な特性を示す分子量分布が1,000以上のリグノフェノール誘導体を含む抽出液は限外濾過膜を透過せずに濃縮液の形態で回収することができる。
【0071】
ところで、粗リグノフェノール誘導体を有機溶媒に抽出する際に、粗リグノフェノール誘導体の含水率を5%以下に高乾燥させた場合には、高分子成分は抽出溶媒に不溶となり、抽出後の固液分離で固形分残渣として分離除去されて、抽出液中には高分子成分は含まれない。
【0072】
しかしながら、粗リグノフェノール誘導体に水分が残留していると、有機溶媒への抽出の際に残留する糖(炭水化物)等の高分子成分が抽出溶媒に可溶性となり、抽出液中にこれら高分子成分、低分子区分のリグノフェノール誘導体、未反応で余剰のフェノール誘導体及び残留酸分とが含まれるようになる。このため、上記した低分子量不純物のような低分子成分に加えて、糖(炭水化物)などの高分子成分も限外濾過膜の分子量分画作用を利用して除去するようにしてもよい。
【0073】
詳述すると、粗リグノフェノール誘導体を有機溶媒で抽出した抽出液を、まず、分画分子量が20,000〜50,000、例えば50,000程度の限外濾過膜で処理し、高分子成分を濃縮液側に分離・除去する。リグノフェノール誘導体は、低分子区分のリグノフェノール誘導体や未反応の余剰フェノール誘導体と共に透過液側に含まれる。
【0074】
次に、この透過液を、分画分子量が500〜1,000の限外濾過膜で処理し、低分子区分のリグノフェノール誘導体や未反応の余剰フェノール誘導体を透過液側として分離・除去する。これにより、分子量分布が1,000〜50,000の良好な特性を持つリグノフェノール誘導体を、濃縮液側として精製・回収することができる。この態様によれば、例えば含水率30%程度に風乾された粗リグノフェノール誘導体を有機溶媒による抽出処理にかけた抽出液を精製処理して、低分子区分のリグノフェノール誘導体、未反応の余剰フェノール誘導体、酸分、可溶化した糖(炭水化物)等の高分子成分を除去して、分子量分布が1,000〜50,000の良好な特性を持つリグノフェノール誘導体を精製・回収することができる。
【0075】
また、例えば、上述した方法で抽出された粗リグノフェノール誘導体をアセトンで溶解して不溶区分を除去し、可溶区分にジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等の溶媒を加えることで精製を行うことも可能である。この方法は、イソプロピルエーテル精製法(IPE精製法)と呼ばれており、公知の方法である(特開2005−15687号公報参照)ため、本明細書では詳細な説明は省略する。
【0076】
なお、図4には、これらの方法におけるリグニン側鎖のα位にフェノール誘導体が選択的に導入される状態を示している。また、図5には、これらの方法による、天然リグニンから、リグノフェノール誘導体への変換工程を、天然リグニンと、リグノフェノール誘導体との部分的構造の変化により示している。
【0077】
ところで、リグノセルロース系材料中のリグニンを、リグノフェノール誘導体として抽出するこれらの方法においては、フェノール誘導体として、1価のフェノール、2価のフェノール、3価のフェノールを用いることができる。
【0078】
1価のフェノールとしては、例えば、フェノール、クレゾールなどのアルキルフェノール、メトキシフェノール、ナフトール等を挙げることができる。2価のフェノールとしては、例えばカテコール、アルキルカテコール、レゾルシノール、アルキルレゾルシノール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン等を挙げることができる。3価のフェノールとしては、ピロガロール等を挙げることができる。
【0079】
このようなフェノール誘導体により合成されたリグノフェノール誘導体の疎水性は、リグノモノフェノール誘導体が最も疎水性が高く、リグノジフェノール誘導体、リグノトリフェノール誘導体の順に疎水性が低下する。このため、疎水性成形体の製造を意図する場合には、リグノフェノール誘導体の合成に際して1価のフェノールをフェノール誘導体として用いるのが好ましく、特に、コスト及び安定性及び取り扱い易さを考慮するとフェノール、クレゾールがより好ましい。
【0080】
なお、リグノフェノール誘導体としては、リグノフェノール誘導体が含まれたリグノフェノール系成形体から回収されたリグノフェノール誘導体を用いることもできる。かかるリグノフェノール系成形体を、アセトン、エタノール、メタノール、ジオキサン、これらそれぞれと水の混合液、及び、アルカリ溶液の中から選ばれた1種類以上の溶媒に浸すことにより、この溶媒中で、リグノフェノール誘導体が回収される。このように回収されるリグノフェノール誘導体は、再利用可能である。このため、この方法によれば、リグノフェノール誘導体を繰り返し再利用することができ、資源の有効利用につながる。
【0081】
次に、本発明の段ボール及びリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法を、実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0082】
(a)リグノフェノール誘導体の製造
リグノセルロース系材料として、スギを用い、以下の工程に従って、リグノフェノール誘導体としてリグノクレゾールを合成した。すなわち、スギ脱脂木粉100gに、このスギ脱脂木粉中のリグニンC9単位あたり2molのp−クレゾールを含むアセトン溶液を加えて一夜放置して、木粉にp−クレゾールを含浸させた。その後、木粉をバットに薄く広げて、アセトン臭がなくなるまで、ドラフト中で放置して、アセトンを留去した。なお、スギ脱脂木粉中のリグニンのC9単位量は、スギ脱脂木粉中のリグニンの元素分析に基づいて算出されている。
【0083】
次に、この全量に72%硫酸400mlを加え、30℃の水浴に浸して60分間激しく攪拌した。そして、所定時間経過後、攪拌を停止し、反応を停止させるために、反応溶液を冷却下の大過剰のイオン交換水に激しく攪拌しながら少量づつ加え、全量を4000mlとした。約60分後、攪拌を停止し、不溶解物を遠心分離により分離した。不溶解物は、透析膜に入れて流水及び大量のイオン交換水で透析し、透析膜外の水のpHが6になり、かつ、ジアゾ化スルファニル酸によるp−クレゾールの発色がなくなるまで透析を行った。
【0084】
透析終了後、内容物を遠心分離し、沈殿物を60℃の乾燥機中で乾燥、さらに、五酸化二リン上で減圧乾燥した。なお、ここで、乾燥させた沈殿物は、粗リグノクレゾールであり、不純物として、糖(炭水化物)等の高分子成分、余剰のp−クレゾール、残留酸分(硫酸イオン)を含んでいる。
【0085】
そこで、まず、粗リグノクレゾールを600mlのアセトンで溶解して不溶区分を除去し、可溶区分を過剰のエチルエーテルに滴下して、リグノクレゾールを不溶区分として抽出した。
【0086】
次に、このリグノクレゾールをアセトンに溶解し、リグノクレゾール−アセトン溶液を得た。ここでは、リグノクレゾール−アセトン溶液におけるリグノクレゾールの濃度が150g/lとなるようにリグノクレゾールにアセトンを加え、リグノクレゾール−アセトン溶液を生成した。
【0087】
このように、粗リグノクレゾールをアセトンに溶解し、可溶区分を過剰のエチルエーテルに滴下して、不溶区分を抽出する工程により、粗リグノクレゾールから上述した不純物の除去を行った(つまり、粗リグノクレゾールの精製処理を行った)。
(b)段ボールの製造
箱状に成形された段ボールを畳んだ状態で密閉された槽内に設置し、段ボール全体が浸漬するまで上記(a)で製造したリグノクレゾール−アセトン溶液を満たした。その後、リグノクレゾール−アセトン溶液を排出し、引き続き槽内で段ボールを窒素乾燥した。この窒素乾燥の条件は、窒素雰囲気であり、窒素を所定の流量で流し、乾燥時間は5時間というものである。なお、段ボールは、中しんとライナとからなる下記の2種類を用いた。
【0088】
段ボール1:Aフルート(A段両面段ボール)K210 P K210
段ボール2:BAフルート(B段A段複両面段ボール)K280 P P P K280
以上の工程により、リグノクレゾールが含浸された段ボールが完成した。
(c)段ボールの評価
(c−1)垂直圧縮強さ
「JIS Z−0403−2:1999 段ボール−第2部:垂直圧縮強さ試験方法」により、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボールの垂直圧縮強さを測定した。測定は、23℃50%RH条件下で24時間調湿したものと、40℃90%RH条件下で24時間調湿したものとの、それぞれに対して行った。また、同時に、比較例1(リグノクレゾールを含浸させていない、同種の段ボール)、及び比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)についても同様に測定を行った。なお、比較例2におけるケミコンテ加工とは、段ボールをポリスチレンの有機溶媒溶液(濃度130g/l〜210g/l)に浸漬し、ポリスチレンを段ボール中に含浸させる加工であり、本実施例においてはダイナパック株式会社製「ケミコンテ」段ボールを使用した。
【0089】
測定結果を表1に示す。なお、本試験に用いた実施例1の試験片におけるリグノクレゾールの含浸率は8%であり、また、比較例2の試験片におけるポリスチレンの含浸率も8%であった。なお、本明細書において含浸率(%)とは、含浸後絶乾重量をWa、含浸前絶乾重量をWbとした場合に、((Wa−Wb)/Wa)×100で表されるものである。ここで、絶乾重量とは、乾燥機を使用して段ボールを乾燥させ段ボール中の水分を完全に無くしたときの重量である。
【0090】
【表1】

表1に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、比較例1(リグノクレゾールを含浸させていない、同種の段ボール)に比べて、遙かに垂直圧縮強さが高く、比較例2(
同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)と同等の垂直圧縮強さを有する。
【0091】
また、本実施例1、比較例1、及び比較例2の段ボールについて、所定時間水に浸漬させた後の垂直圧縮強さと、含水率とを測定した。ここで含水率(%)とは、段ボールの絶乾重量をw3とし、水を含んだ状態での重量をw4としたとき、((w4−w3)/w4)×100で表されるものである。その結果を表2に示す。
【0092】
【表2】

表2に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、比較例1(リグノクレゾールを含浸させていない、同種の段ボール)及び比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)のいずれと比べても、浸水後の垂直圧縮強さが高い。また、比較例1と比べると含水率が低く、水に対して比較例2の段ボールと同等の防水効果を有することが分かる。
(c−2)曲げ強さ
「JIS K−7171:1994 プラスチック−曲げ特性の試験方法」により、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボールの曲げ強さを測定した。測定に用いた試験片は、長手方向150mm、短手方向50mmの長方形形状を有するものであり、その長手方向(TD方向)と、短手方向(MD方向)とのそれぞれについて、曲げ強さを測定した。なお、上記試験片において、ライナの波目はMD方向と平行である。また、曲げ強さの測定は、23℃50%RH条件下にて24時間調湿したものと、40℃90%RH条件下にて24時間調湿したものとに対して、それぞれ行った。また、同時に、比較例1、及び比較例2についても同様に測定を行った。
【0093】
測定結果を表3に示す。なお、本試験に用いた実施例1の試験片におけるリグノクレゾールの含浸率は7〜8%であり、比較例2の試験片におけるポリスチレンの含浸率は7%であった。
【0094】
【表3】

表3に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、比較例1(リグノクレゾールを含浸させていない、同種の段ボール)に比べて、遙かに曲げ強さが高く、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)と同等の曲げ強さを有する。
(c−3)破裂強さ
「JIS P−8131:1994 紙及び板紙のミューレン高圧形試験機による破裂強さ試験方法」により、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボールの破裂強さを測定した。また、同時に、比較例1、及び比較例2についても同様に測定を行った。
【0095】
測定結果を表4(段ボールがAフルート K210 P K210(段ボール1)の場合)、表5(段ボールがBAフルート K280 P P P K280(段ボール2)の場合)に示す。なお、表4、表5における測定値は、n数10の平均値である。また、「比破裂強さ」は、破裂強さをm2当りの秤量で除した値である。
【0096】
なお、本試験に用いた実施例1の試験片におけるリグノクレゾールの含浸率は7〜8%であり、比較例2の試験片におけるポリスチレンの含浸率は7%であった。
【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

表4、表5に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、比較例1(リグノクレゾールを含浸させていない、同種の段ボール)に比べて、遙かに破裂強さが高く、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)と、ほぼ同等の破裂強さを有する。
(c−4)段ボールのリサイクル性
「JIS P 8220:1998 パルプ−離解方法」、「JIS P 8222:1998 パルプ試験用手すき紙の調整方法」に基づき、パルプ離解機(日本T.M.C株式会社製)を用いて、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボール2における離解時間及び状況を評価した。また、同時に、比較例1、及び比較例2についても同様に測定を行った。
【0099】
回転数3000回(離解時間25分)後における、実施例1、及び比較例1〜2の段ボールの状況を表6に示す。なお、本試験に用いた実施例1の試験片におけるリグノクレゾールの含浸率は7〜8%であり、比較例2の試験片におけるポリスチレンの含浸率は7%であった。
【0100】
【表6】

表6に示すように、本実施例1で製造した段ボール2は、比較例1(リグノクレゾールを含浸させていない、同種の段ボール)と同様に解離されやすく、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)よりも遙かに解離されやすかった。すなわち、本実施例1で製造した段ボールは、リサイクル性において優れている。
(c−5)段ボール接着強さ
「JIS Z−0402:1995 段ボール接着力試験方法」に基づき、リングクラッシュテスターを用いて、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボールの段頂とライナとの接着部の引きはがし抵抗値(剥離時の最大荷重)を測定した。また、同時に、比較例1、及び比較例2についても同様に測定を行った。
【0101】
測定は、23℃50%RH条件下で24時間調湿したものと、5分間浸水させたものとに対して、それぞれ行った。23℃50%RH条件下で24時間調湿したものに対する測定結果を表7に示す。
【0102】
【表7】

表7に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、比較例1(リグノクレゾールを含浸させていない、同種の段ボール)よりも接着強さが高く、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)と同等の接着強さを有している。5分間浸水させたものに対する測定結果を表8に示す。
【0103】
【表8】

表8に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、比較例1(リグノクレゾールを含浸させていない、同種の段ボール)よりも接着強さが高く、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)と同等の接着強さを有している。
(c−6)印刷部分のインキの色落ち、にじみ
段ボールに、予め、複数種類のインクで文字を印刷しておき、その段ボールを前記(a)で製造したリグノクレゾール−アセトン溶液(pH=6)に浸した。そして、そのときの印刷部分の変色具合・にじみ等を評価した。
【0104】
インクは、フレキソインキ(本実施形態では東洋インキ製造(株)製のLOXインク)を使用し、LOX15 紅、LOX23 黄、LOX25 黄、LOX39 藍、LOX350 藍、LOX53 朱、LOX570 牡丹、LOX61 白、LOX79 草、LOX821 紫、LOX92 墨、LOX94 墨、のそれぞれに関して評価を行った。
【0105】
その結果、どのインクの場合でも、変色・にじみは見られなかった。
参考例として、精製していないリグノクレゾールのアセトン溶液(pH=3)についても同様に実験を行ったところ、インクとしてLOX570 牡丹を用いたときに、印刷部分の変
色・にじみが見られた。なお、その他のインクの場合は、変色・にじみは見られなかった。
【0106】
また、もう一つの参考例として、基本的には実施例1と同様の、精製したリグノクレゾールのアセトン溶液であるが、pHを5に調整したものについて同様に実験を行ったところ、インクとしてLOX570 牡丹を用いたときに、印刷部分の変色・にじみが見られた。な
お、その他のインクの場合は、変色・にじみは見られなかった。
【0107】
上記精製していないリグノクレゾールのアセトン溶液は、次のようにして製造することができる。すなわち、前記(a)のリグノクレゾールの製造工程において、五酸化二リン上で減圧乾燥したリグノクレゾールを、抽出工程を経ることなく、そのまま、アセトンに溶解させることで製造できる。
(c−7)段ボールの箱圧縮強さ
「JIS Z−0212:1998 包装貨物及び容器−圧縮試験方法」に基づき、段ボール容器箱圧縮試験器を用いて、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボール2の箱圧縮強さ(初回挫屈)を評価した。また、同時に、比較例1、及び比較例2についても同様に測定を行った。測定は、それぞれ5回行い、平均値を算出した。結果を表9に示す。
【0108】
【表9】

表9に示すように、本実施例1で製造した段ボール2は、比較例1(リグノクレゾールを含浸させていない、同種の段ボール)よりも箱圧縮強さが高く、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)と同等の箱圧縮強さを有している。
(c−8)段ボールの外観
前記(a)及び(b)で製造した段ボールを目視観察したところ、リグノクレゾールの析出(しみ)はなく、良好な外観であった。
【0109】
また、リグノクレゾール−アセトン溶液における水分の量は0%であることが望ましいが、実質的には水分を含みうる。そこで、異なる量の水分を含むリグノクレゾール−アセトン溶液に含浸させた段ボールの外観を確認した。なお、前記(b)で使用したリグノクレゾール−アセトン溶液における水分量は約2%であった。
【0110】
段ボールの外観の確認は、段ボールを浸漬させるリグノクレゾール−アセトン溶液における水分の量を、5%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、20%とした場合のそれぞれについて、段ボールを製造し、目視観察することにより行った。
【0111】
その結果、水分量5%の場合は、段ボールのいずれの部分にも、リグノクレゾールの析出は見られなかったが、水分量が10%以上の場合は、段ボールをリグノクレゾール−アセトン溶液から引き上げたときの下端であって、液だれが生じていた部分に、リグノクレゾールの析出が見られた。
【0112】
また、析出の範囲としては、水分量が10%の場合には、目立たない程度の析出(試験に用いた段ボール全体の3%)が見られ、水分量が11%の場合には、段ボール全体の7%の面積に析出が達し、析出が容易に視認可能となることが確認された。
【0113】
従って、段ボールに含浸させるリグノクレゾール−アセトン溶液は水分量が10%以下(より好適には5%以下)であることが好ましく、このようにすれば、段ボールの表面に容易に視認可能にリグノフェノール誘導体が析出してしまうようなことが起こりにくく、外観の良好な段ボールを製造することができる。
【0114】
そこで、段ボールに含浸させるリグノクレゾール−アセトン溶液を複数の段ボールを含浸させるために繰り返し利用する場合には、含浸前の段ボールの水分量を7〜8%(通常の状態)に管理すればよく、このようにすれば、リグノクレゾール−アセトン溶液の水分量を常に10%以下に抑えることが可能であることが確認されている。
【0115】
また、リグノクレゾール−アセトン溶液を含浸させた後の段ボールは、アセトンを揮発させつつ乾燥を行うが、揮発させたアセトンを再利用してリグノクレゾール−アセトン溶液を生成したり、濃度を調整する場合には、アセトンに含まれる水分量を調整して、生成されるリグノクレゾールアセトン溶液の水分量を10%以下に抑えるようにすればよい。
【0116】
一方、本実施例1の段ボールにおいては、段ボールをリグノクレゾールに浸漬した後、窒素中で乾燥するため、段ボールの表面にリグノフェノール誘導体が析出してしまうようなことが起こりにくく、製造した段ボールは、外観において優れている。なお、上記実施例においては、窒素中で乾燥したが、窒素の代わりに、例えば、アルゴン、ヘリウム等の他の不活性ガスを用いてもよい。
【0117】
また、段ボールを乾燥させるときの圧力条件は、減圧条件、又は常圧条件とすることができる。段ボールを乾燥させるときは、例えば、雰囲気温度が40〜200℃(好ましくは40〜150℃、より好ましくは40〜100℃)の範囲内の温度となるように調整するようにしてもよい。
【実施例2】
【0118】
前記実施例1の(a)で製造したリグノクレゾール−アセトン溶液を段ボール用のライナの片面にロールコータ法により塗布し、その後、窒素乾燥した。次に、このライナを、中しんの両側に接着することで、ライナにのみリグノクレゾールが含浸された段ボールを製造した。なお、使用した段ボールは前記実施例1と同様とし、窒素乾燥の条件も前記実施例1と同様とした。
【0119】
本実施例2においても、前記実施例1と同様に、従来の段ボールよりも強度が高く、また、生分解性があり、人に対し無害な段ボールを実現できる。
【実施例3】
【0120】
前記実施例1の(a)で製造したリグノクレゾール−アセトン溶液を段ボール用の中しんの片面にロールコータ法により塗布し、その後、窒素乾燥した。次に、この中しんの両側にライナ(リグノクレゾール−アセトン溶液を塗布していないもの)を接着することで、中しんにのみリグノクレゾールが含浸された段ボールを製造した。なお、使用した段ボールは前記実施例1と同様とし、窒素乾燥の条件も前記実施例1と同様とした。
【0121】
本実施例3においても、前記実施例1と同様に、従来の段ボールよりも強度が高く、また、生分解性があり、人に対し無害な段ボールを実現できる。
【実施例4】
【0122】
(a)リグノフェノール誘導体の製造
上記第2の方法により、粗リグノ−p−クレゾールを生成し、図6に示すような工程(いわゆる、イオン交換精製法)で、粗リグノ−p−クレゾールの精製を行う。図6は、精製の流れの概要を示すフローチャートであり、図7は、プラントにおける抽出・脱酸の流れを示す説明図であり、図8は、アセトン抽出液のNF膜分離の流れを示す説明図である。
【0123】
まず、図7に示すように、含水率5%程度に乾燥した粗リグノ−p−クレゾール−炭水化物複合体(乾燥cLP−P)15Kgと濾過助剤5kgとを抽出機2に投入し、これらを混合した後にアセトン150lを加えた。抽出機2は、単板濾過方式であり、N2による加圧濾過を実施し、アセトン抽出液を回収する固液分離を行った。この作業を2回実施し、290lのアセトン抽出液を回収した。
【0124】
ここで、粗リグノ−p−クレゾール−炭水化物複合体(乾燥cLP−P)は、不純物として、余剰クレゾール、高分子成分、残留酸分を含む固形物であり、アセトンが添加され固液分離されることで、アセトンに不溶な高分子成分は残渣として排出される。一方、余剰クレゾール及び残留酸分はアセトン抽出液中に溶解されている。
【0125】
次に、図7に示すように、アセトン抽出液を、抽出液受槽4及び脱酸用循環ポンプ8を介してイオン交換樹脂塔6へ送出し、イオン交換樹脂塔6と抽出液受槽4との間を循環させることで脱酸、つまり、残留酸分の除去を行なった。脱酸用循環ポンプ8の吐出側で、アセトン抽出液をサンプリングして、アセトン抽出液の脱酸状態、つまり、アセトン抽出液のpHが5より大きいことをpH試験紙にて確認した。
【0126】
なお、イオン交換樹脂塔6には、アセトン抽出液中の残留酸分と交換容量から算出された脱酸に必要とするために十分な量の陰イオン交換樹脂が供給される。また、陰イオン交換樹脂は、弱塩基性陰イオン交換樹脂とし、OH型に再生した後、樹脂をアセトンに浸して、樹脂が保持する水分をアセトンに置換した状態で用いた。なお、本実施例においては、陰イオン交換樹脂として弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いたが、陰イオン交換樹脂の種類は、陰イオン交換樹脂の交換能力、イオン交換樹脂塔6における抽出液のフロー速度等の条件に応じて適宜選択すればよく、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いてもよい。
【0127】
次に、イオン交換樹脂塔6にて脱酸されたアセトン抽出液は、脱酸後抽出液送液ポンプ10を介して、図8に示すNF膜分離装置に送液される。そして、NF膜分離装置の原液タンク12に移送されたアセトン抽出液は、NF膜分離用抽出液循環ポンプ16によりNF膜モジュール18へ送液される。ここで、NF膜モジュール18は、濾過面積5.6m2、送液圧力は3MPaとし、分画分子量700のNF膜を使用した。
【0128】
ここで、NF膜を透過した液は透過液タンク20に貯留され、一方、NF膜を透過できない溶液(つまり、濃縮液)は濃縮液ライン24を介して原液タンク12に戻る。このように、濃縮液をNF膜モジュール18と原液タンク12間を循環させることにより、低分子分(つまり、余剰クレゾール)をアセトンとともに透過させつつ分離・除去する。
【0129】
290lのアセトン抽出液を2倍濃縮相当の150lまで濃縮した後、アセトンにより300lまで希釈して再度NF膜分離を行う工程を10回繰り返した。このような工程を行うことにより、NF膜分離後の濃縮液として、NF分離後濃縮液送液ポンプ14を介してリグノクレゾール−アセトン溶液を得た。
【0130】
なお、膜分離は、例えば全量濾過方式等の他の方式を用いることも可能であるが、本実施例では膜分離はクロスフロー濾過方式にて行い、膜表面での濃縮物の堆積・滞留を防止している。また、使用したNF膜分離用抽出液循環ポンプ16の最低流量、及び、循環時の発熱による温度上昇を防止するため、アセトン抽出液を原液タンク12に戻すバイパスライン22を設置するとともにバイパスライン22及び濃縮液ライン24のそれぞれに熱交換器26,28を設置し溶液の除熱冷却を実施した。また、上述の精製工程に用いる粗リグノフェノール誘導体を溶解する溶媒として、アセトンのような有機溶媒を使用していることから、適用するNF膜は、耐溶剤性のある膜を選定した。
【0131】
ところで、本実施例においては、余剰クレゾールの分子量が1,000以下であるため、余剰クレゾールを分離・除去するために適当な膜として、分画分子量700のNF膜を使用した。しかしながら、必ずしも分画分子量700のNF膜を用いる必要はなく、他の分画分子量の濾過膜を用いることも可能である。例えば、良好な特性を持つリグノフェノール誘導体の分子量分布が1,000〜50,000であることから、濾過膜として分画分子量が500〜1,000のものを使用してもよい。このようにすれば、分子量が100以下の未反応の余剰フェノール誘導体や分子量1,000以下のリグノフェノール誘導体の低分子区分及びイオン交換時に発生した水分を濾過膜の透過液側に分離・除去する事ができる。
(b)段ボールの製造
平板状の段ボールを密閉された槽内に設置し、段ボール全体が浸漬するまで上記(a)で製造したリグノクレゾール−アセトン溶液を満たす。その後、リグノクレゾール−アセトン溶液を排出し、引き続き槽内で段ボールを窒素乾燥した。この窒素乾燥の条件は、窒素雰囲気であり、窒素を所定の流量で流し、乾燥時間は5時間というものである。
【0132】
なお、段ボールは、中しんとライナとから構成されており、下記の2種類を用いた。
段ボール1:Aフルート(A段両面段ボール)K210 P K210
段ボール2:BAフルート(B段A段複両面段ボール)K280 P P P K280
以上の工程により、リグノクレゾールが含浸された段ボールが完成した。
(c)段ボールの評価
(c−1)リグノクレゾール−アセトン溶液の濃度毎の垂直圧縮強さ
実施例1の(c−1)と同様の条件で段ボールの垂直圧縮強さを測定した。ただし、リグノクレゾール−アセトン溶液におけるリグノクレゾールの濃度が、50,75,100,150g/lとなるようにリグノクレゾール−アセトン溶液にアセトンを加えることにより調整を行い、各濃度のリグノクレゾール−アセトン溶液を用いて製造した段ボールにて測定を行った。
【0133】
測定結果を表10に示す。なお、表中の( )の値は、含浸率を示す。
【0134】
【表10】

測定結果から、段ボール1,2の垂直圧縮強さは、リグノクレゾール−アセトン溶液におけるリグノクレゾールの濃度が50g/l(段ボール1,2共に含浸率2.4%)の場合は、それぞれ、溶液含浸前の段ボール(ブランク)の約19%増(段ボール1)、約22%増(段ボール2)であり、リグノクレゾールの濃度が150g/l(段ボール1は含浸率9.8%、段ボール2は含浸率10.4%)の場合は、ケミコンテ加工品と同等の垂直圧縮強さあることが確認された。
【0135】
以上の結果より、リグノクレゾール−アセトン溶液におけるリグノクレゾールの濃度を50g/l以上、一方、段ボールへの含浸率を3%以上とすることにより、段ボールの垂直圧縮強さを溶液含浸前の段ボール(ブランク)の少なくとも10%増としうることが確認された。また、リグノクレゾールの濃度を150g/l以上、一方、含浸率を11%以上とすることにより、ケミコンテ加工品と同等の垂直圧縮強さの段ボールとしうることが確認された。
【0136】
このため、リグノクレゾール−アセトン溶液におけるリグノクレゾールの濃度は、50g/l以上であることが好ましく、特に、150g/l以上とすることが好ましい。一方、リグノクレゾール−アセトン溶液の含浸率は、3%以上であることが好ましく、特に、11%以上であることが好ましい。
(c−2)印刷部分のインキの色落ち、にじみ
段ボールに、予め、複数種類のインクで文字を印刷しておき、その段ボールを前記(a)で製造したリグノクレゾール−アセトン溶液(pH=5.71:pHモニタによる測定)と、この溶液を攪拌した状態で、この溶液に微量の酸(HCL)またはアルカリ(NaOH)を加えたpHの異なる複数種類の溶液に浸した。そして、そのときの印刷部分の変色具合・にじみ等を評価した。
【0137】
インクは、実施例1で使用したものと同様のフレキソインクを用いた。
評価結果を表11に示す。
【0138】
【表11】

その結果、表11に示すように、イオン交換精製法にて生成されたリグノクレゾール−アセトン溶液(pH5.71)、またpH6.17、pH7.13(各pHモニタによる測定)に調整した溶液においては、LOX53朱のインクで印刷した試験片における含浸させた溶液の液面に相当した部分にのみ、変色・にじみが生じた。また、他の色のインクで印刷した試験片には、変色・にじみは生じなかった。
【0139】
一方、pH4.87、pH3.88、pH3.09(各pHモニタによる測定)に調整した何れの溶液においても、LOX53朱、LOX570牡丹のインクで印刷した試験片の溶液に含浸された部分全体に、変色・にじみが生じた。
【0140】
また、pH3.88に調整した溶液においては、さらに、LOX39藍のインクで印刷した試験片における含浸させた溶液の液面に相当した部分に、変色・にじみが生じ、pH3.09に調整した溶液においては、LOX39藍及びLOX15紅のインクで印刷した試験片における含浸させた溶液の液面に相当した部分に、変色・にじみが生じた。
【0141】
以上、表11に示す評価結果から、リグノクレゾールのアセトン溶液(つまり、リグノフェノール誘導体の有機溶媒溶液)から酸を除去することにより、インクの色落ちやにじみを抑制できることが確認された。
【0142】
詳述すると、リグノクレゾールのアセトン溶液のpHを5.0〜7.0の範囲とすることで、LOX53朱及びLOX570牡丹を除くインクにて印刷した場合に、インクの色落ちやにじみを発生しないようにすることが可能であることが確認された。また、リグノクレゾールのアセトン溶液のpHを6.0〜7.0とすることで、LOX53朱のインクを使用した場合にわずかな色落ちやにじみが液面付近に発生するものの、何れのインクを用いて印刷した場合においても、全体に色落ちやにじみが発生しないようにすることが可能であることが確認された。
【0143】
このように、リグノクレゾールのアセトン溶液のpHは、5.0〜7.0の範囲が好適であり、6.0〜7.0の範囲が一層好適である。この範囲とすることにより、段ボールの表面に予めインクで印刷されていても、印刷の色落ちやにじみを生じることなく、強度の高い段ボールを製造することができる。
【0144】
また、実施例4の段ボールにおいては、膜分離を繰り返し行うことにより、余剰のクレゾールが分離・除去されているので、段ボールにおけるクレゾール臭を抑制することができる。
【0145】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
上記各実施例においては、A段両面段ボール及びB段A段複両面段ボールとしたが、本発明の段ボールの種類や段の構成は、これらに限るものではなく、例えば、片面段ボール、複々両面段ボール等に本発明を適用してもよい。
【0146】
上記実施例1、4においては、中しん及びライナが接着された段ボールの全体にリグノクレゾールを含浸させたが、一部にのみ含浸させてもよい。また、実施例2、3においては、接着前の中しん、または、ライナの状態で、中しん及びライナの何れか一方の片面にのみリグノクレゾールを含浸させたが、中しん及びライナの両方に含浸させるようにしてもよく、両面に含浸させてもよい。また、ライナや中しんがそれぞれ複数ある構成の段ボールの場合には、複数のライナや中しんの1枚にのみリグノクレゾールを含浸させてもよく、複数のライナや中しんの全てにリグノクレゾールを含浸させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】リグノフェノール誘導体を合成するための第1の方法を示した図である。
【図2】リグノフェノール誘導体を合成するための第2の方法を示した図である。
【図3】フェノール誘導体相と濃酸相との2相分離系において、フェノール誘導体相の界面での濃酸との接触を介して行われるリグニンとフェノール誘導体との反応を示した図である。
【図4】リグニンの側鎖のα位にフェノール誘導体が選択的に導入される状態を示す図である。
【図5】リグニンの側鎖のα位にフェノール誘導体が導入されることにより構造変換されるリグニンの部分的構造を示した図である。
【図6】イオン交換樹脂及びNF膜分離による精製フロー図である。
【図7】プラントにおける抽出・脱酸の流れを示す説明図である。
【図8】アセトン抽出液のNF膜分離の流れを示す説明図である。
【符号の説明】
【0148】
2…抽出機、4…抽出液受槽、6…イオン交換樹脂塔、8…脱酸用循環ポンプ、10…脱酸後抽出液送液ポンプ、12…原液タンク、14…NF分離後濃縮液送液ポンプ、16…NF膜分離用抽出液循環ポンプ、18…NF膜モジュール、20…透過液タンク、22…バイパスライン、24…濃縮液ライン、26,28…熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノフェノール誘導体が含浸されたことを特徴とするリグノフェノール誘導体含浸段ボール。
【請求項2】
前記リグノフェノール誘導体は、リグノセルロース系材料、フェノール誘導体及び酸を反応させた反応混合液を固液分離することにより回収される粗リグノフェノール誘導体に対し、不純物を取り除く精製処理が施されたものであることを特徴とする請求項1に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボール。
【請求項3】
前記不純物は酸を含むことを特徴とする請求項2に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボール。
【請求項4】
前記精製処理は、リグノフェノール誘導体を溶解可能な溶媒でリグノフェノール誘導体を抽出し、このリグノフェノール誘導体が抽出された抽出液に陰イオン交換樹脂を接触させる工程を含むことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボール。
【請求項5】
前記抽出液に陰イオン交換樹脂を接触させることにより、前記抽出液のpHが5より大きくなるようにされたことを特徴とする請求項4に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボール。
【請求項6】
前記不純物は、酸及び前記フェノール誘導体を含み、
前記リグノフェノール誘導体は、前記陰イオン交換樹脂を接触させることによって処理された抽出液に対し前記フェノール誘導体を透過させると共に、前記リグノフェノール誘導体の少なくとも一部の透過を阻止する分画分子量の限外濾過膜にて濾過処理を施したものであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボール。
【請求項7】
前記段ボールは、少なくとも1つの中しんと、少なくとも1つのライナと、を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れかに記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボール。
【請求項8】
前記リグノフェノール誘導体は、前記少なくとも1つの中しんと、前記少なくとも1つのライナとの両方に含浸されていることを特徴とする請求項7に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボール。
【請求項9】
前記リグノフェノール誘導体は、前記少なくとも1つの中しんと、前記少なくとも1つのライナとのうち、何れか一方に含浸されていることを特徴とする請求項7に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボール。
【請求項10】
前記段ボールの外部に露出される面の少なくとも一部には、フレキソインキにより印刷がされていることを特徴とする請求項1〜請求項9の何れかに記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボール。
【請求項11】
段ボールまたは少なくとも1つの段ボール原紙にリグノフェノール誘導体を含浸させる含浸工程を備えることを特徴とするリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法。
【請求項12】
リグノセルロース系材料、フェノール誘導体及び酸を反応させた反応混合液を固液分離することにより粗リグノフェノール誘導体を抽出する抽出工程と、
該抽出工程により抽出された粗リグノフェノール誘導体に対し、不純物を取り除く精製処理を施す精製工程と、
を備え、
前記含浸工程は、前記精製工程により精製処理が施されたリグノフェノール誘導体を前記段ボールまたは段ボール原紙に含浸させることを特徴とする請求項11に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法。
【請求項13】
前記段ボールは、前記段ボール原紙として、少なくとも1つのライナと、少なくとも1つの中しんと、を有し、
前記少なくとも1つのライナと、前記少なくとも1つの中しんと、を接着する接着工程を備え、
前記含浸工程は、前記接着工程による接着前に、前記少なくとも1つのライナ及び前記少なくとも1つの中しんのうち少なくとも1つに、前記リグノフェノール誘導体を含浸させることを特徴とする請求項11または請求項12に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法。
【請求項14】
前記段ボールは、前記段ボール原紙として、少なくとも1つのライナと、少なくとも1つの中しんと、を有し、
前記少なくとも1つのライナと、前記少なくとも1つの中しんと、を接着する接着工程を備え、
前記含浸工程は、前記接着工程による接着後の段ボールの少なくとも一部に前記リグノフェノール誘導体を含浸させることを特徴とする請求項11または請求項12に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法。
【請求項15】
前記含浸工程は、前記段ボール全体に前記リグノフェノール誘導体を含浸させることを特徴とする請求項14に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法。
【請求項16】
前記含浸工程には、前記リグノフェノール誘導体の有機溶媒溶液を用いることを特徴とする請求項11〜請求項15の何れかに記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法。
【請求項17】
前記有機溶媒溶液の水分含有量が10重量%以下であることを特徴とする請求項16に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法。
【請求項18】
前記含浸工程は、前記段ボールまたは前記少なくとも1つの段ボール原紙を、前記リグノフェノール誘導体の有機溶媒溶液に浸積させ、
前記含浸工程において浸積された前記段ボールまたは前記少なくとも1つの段ボール原紙を、不活性ガス中で乾燥させる乾燥工程を備えたことを特徴とする請求項16または請求項17に記載のリグノフェノール誘導体含浸段ボールの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−75238(P2008−75238A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213571(P2007−213571)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(305006624)ダイナパック株式会社 (8)
【出願人】(594023836)東洋樹脂株式会社 (4)
【Fターム(参考)】