説明

リサイクルスラグの生成方法及びリサイクルスラグ

【課題】酸化スラグを再利用するにあたって、6価クロムの溶出を確実に抑制することができるようにする。
【解決手段】質量%で、CaO:35〜51%、SiO2:5〜16%、Al23:0.5〜11%、MgO:3〜15%、MnO:2〜11%、CaF2:0.1〜0.5%、T.Fe:14〜29%、Cr23:0.2〜6.0%を含有し、残部が不可避不純物である酸化スラグに対して、T.Fe分におけるFeO/Fe23が1.25以上となるように調整することで、酸化スラグをリサイクル用のスラグにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクルスラグの生成方法及びリサイクルスラグに関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレスなどのクロム鋼を生成したときのスラグ(含クロム鋼スラグということがある)は、原料を溶解する工程あるいは脱炭、生成酸化物の還元、脱硫等の精錬工程において不可避的に発生し、数%のクロム酸化物を含有している。このクロム酸化物の存在状態によっては、スラグを路盤材や海洋用途等に再利用した際に、水や土壌等へ有害な6価クロムが溶出する場合があり、含クロム鋼スラグの有効利用を困難にしている。
【0003】
含クロム鋼スラグからの6価クロム溶出防止方法として、特許文献1〜特許文献3に示すものがある。
特許文献1では、アルミ灰およびマグネシア系物質を受滓鍋に敷き詰めておき、溶融状態にあるスラグを受滓鍋に排滓している。この方法においては、MgO・Al23という組成のスピネルを形成させ、その中へ酸化クロムを固溶させることにより安定化させることでクロムの酸化すなわち6価クロム生成を防止している。
【0004】
特許文献2は、スラグの均一状態が保たれる溶融状態でのスラグ組成制御により、6価クロム溶出を抑制するものであって、含クロム鋼の溶解精錬工程において発生するスラグを溶鋼の浴面上から分離あるいは除去するに際し、規定する式を満足するようにスラグ中(S)濃度と溶鋼中[S]濃度の比である脱硫分配比(S)/[S]を調整してスラグを分離あるいは除去している。
【0005】
特許文献3では、スラグ中の全クロムの80wt%以上がFeO・Cr23および/またはMnO・Cr23として存在することや、2CaO・SiO2含有量が3wt%以下であること、スラグ中の酸化鉄質量と酸化マンガン質量の和が全クロム質量の1.5倍であること等、スラグ組成やスラグ中鉱物相を制御することで、6価クロムの溶出量を抑制している。
【0006】
また、一般的に、含クロム鋼スラグは、高温溶融状態では3価クロム(Cr23)として存在しており、その冷却過程の条件によりこの3価クロムが酸化されることで6価クロムが生成するとされている。そのため、特許文献4及び特許文献5では、スラグ塩基度(CaO/SiO2)の調整によってクロムの還元を導いて3価クロム(Cr23)濃度を低減させた上で、排滓後のスラグが大気にさらされる面積を制御し、3価クロムの酸化を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−171993号公報
【特許文献2】特許第3586311号
【特許文献3】特開2005−298834号公報
【特許文献4】特開2008−50700号公報
【特許文献5】特開2008−81845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、含クロム鋼スラグからの6価クロムの溶出を抑制するには、スラグ組成等を制御することが重要であるが、特許文献1〜特許文献5の技術では、その厳密な制御が非常に困難である。
本発明は、上記問題点に鑑み、酸化スラグを再利用するにあたって、6価クロムの溶出を確実に抑制することができるリサイクルスラグの生成方法及びリサイクルスラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明の方法による技術的手段は、質量%で、CaO:35〜51%、SiO2:5〜16%、Al23:0.5〜11%、MgO:3〜15%、MnO:2〜11%、CaF2:0.1〜0.5%、T.Fe:14〜29%、Cr23:0.2〜6.0%を含有し、残部が不可避不純物である酸化スラグに対して、T.Fe分におけるFeO/Fe23が1.25以上となるように調整することで、前記酸化スラグをリサイクル用のスラグにする点にある。
【0010】
本発明の物による技術的手段は、リサイクルスラグを、質量%で、CaO:35〜51%、SiO2:5〜16%、Al23:0.5〜11%、MgO:3〜15%、MnO:2〜11%、CaF2:0.1〜0.5%、T.Fe:14〜29%、Cr23:0.2〜6.0%を含有していて、さらに、残部が不可避不純物であり、且つ、T.Fe分におけるFeO/Fe23≧1.25にする点にある。
【0011】
発明者は、炉外精錬(還元精錬)スラグではなく、転炉、ならびに電気炉などの酸素吹錬を行った際に発生する酸化スラグに着眼した。
一般的に、含クロム鋼を転炉、電気炉において吹錬した場合、発生するスラグ中の3価クロム酸化物(Cr23)は、ステンレス鋼のAOD法やVOD法に比べてその濃度が非常に高くなるということはないものの、精錬時にスクラップ等を投入することによって当該スクラップに含まれるCrが酸化し、当該酸化スラグ中に含まれる3価クロム酸化物の濃度が高くなる。
【0012】
スラグ組成によっては、酸化スラグ中の3価クロム酸化物が、さらに酸化されて6価クロムを生成させる可能性がある。そのため、発明者らは、転炉や電気炉等の精錬にて生成される酸化スラグにおいても、6価クロムの溶出について考慮した。
即ち、発明者は、酸化スラグを再利用するに際して6価クロムの溶出防止が重要であり、6価クロムはスラグ中の3価クロム酸化物が一部酸化することにより6価クロム酸化物に変化するという認識の下で、精鋭研究を行った。
【0013】
その結果、発明者は、6価クロムの溶出を防止するために、酸化スラグの組成について、スラグ中のFeOとFe23の比を1.25以上にする必要があることを見出した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化スラグを再利用するにあたって、当該スラグからの6価クロムの溶出を確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】クロム鋼を精錬する精錬装置の一例を示したものである。
【図2】酸化スラグ中のFeO/Fe23と、6価クロムの溶出量との関係をまとめたものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、ステンレス鋼などのCrを含む、クロム鋼(含クロム鋼ということがある)を精錬する精錬装置の一例を示したものである。
図1に示すように、一般的に、含クロム鋼は電気炉1にて溶解精錬することにより製造している。この電気炉1は、内部に投入した冷鉄源等を溶解すると共に、溶解した冷鉄源等(溶湯2)や外部から直接挿入された溶湯2を精錬するものであって、溶湯2を貯留する容器本体3と、この容器本体3を覆う蓋体4とを備えている。
【0017】
容器本体3と蓋体4とは上下分離可能となっている。この容器本体3と蓋体4とによって、一方側(紙面、右側)に排滓口5が形成され、他方側(紙面、左側)に出鋼口6が形成されている。なお、容器本体3に、排滓口5や出鋼口6が形成されていてもよい。
排滓口5には、容器本体3内の溶湯に対して、酸素等を吹き込むためのランス7が挿入されている。なお、容器本体3に、排滓口5や出鋼口6が形成されていてもよい。
【0018】
蓋体4等には、アークを発生させる複数の電極(例えば、炭素電極)8が設けられ、この電極8のアーク放電によって内部の冷鉄源を溶解するようになっている。
このような電気炉1を用いて、含クロム鋼を製造するには、まず、冷鉄源(例えば、スクラップ)を容器本体3に投入すると共に、副原料等を投入する。そして、電極8によるアーク放電によって、冷鉄源及び副原料を加熱溶解して溶湯状態とし、その溶湯2に対してランス7により酸素を吹き込むことにより、精錬、即ち、脱りん処理や脱炭処理を行うことによって製造している。
【0019】
このように含クロム鋼を製造する過程では、電気炉1における精錬にて酸化スラグ(酸素吹錬により発生したスラグ)Sが生成されることになる。本発明では、含クロム鋼を製造する過程にて生成された酸化スラグSを、問題なくリサイクルスラグとして、路盤材や海洋用途等に再利用できるようにすることを特徴としている。
以下、リサイクルスラグの生成方法及びリサイクルスラグについて詳しく説明する。
【0020】
含クロム鋼を製造するにあたって、電気炉1等で精錬後に生成した酸化スラグSは、質量%で、CaO:35〜51%、SiO2:5〜16%、Al23:0.5〜11%、MgO:3〜15%、MnO:2〜11%、CaF2:0.1〜0.5%、T.Fe:14〜29%、Cr23:0.2〜6.0%を含有し、且つ、残部が不可避不純物である。なお、酸化スラグSにおいて、可能性のある不可避不純物としては、Na、K、Clなどがあげられる。また、酸化スラグSの塩基度(CaO/SiO2)については任意に選択できるが、例えば、2.5〜6.0の値を選択し得る。また、「T.Fe」の標記は、酸化スラグに含有される「トータルのFeの量」のことである。
【0021】
このような精錬後の酸化スラグSを単純に冷却した場合、特に冷却時に酸化スラグSに含まれる3価クロムが更に酸化し、路盤材や海洋用途等に再利用したときに6価クロムが多量に溶出する可能性がある。
発明者は、3価クロム(Cr23)を含む種々の酸化スラグSから6価クロム溶出量を実験等により調査した結果、6価クロムの溶出量はスラグ組成に大きく影響を受け、特に鉄酸化物の存在状態に依存していることを知見した。即ち、本発明によれば、酸化スラグSに対して、T.Fe分におけるFeO/Fe23が1.25以上となるように調整することで、酸化スラグSをリサイクルスラグとして使用することができる。
【0022】
具体的には、精錬後の酸化スラグSに対して、当該酸化スラグSの温度が下がって固化する前に、Fe23を還元する還元剤(Al、Si等)を添加し脱酸したり、酸化鉄(FeO)を添加してFe23に対するFeO量増加させる(Fe23を希釈させる)ことによって、FeO/Fe23が1.25以上とすることができる。例えば、精錬後の酸化スラグSを排滓する際に、排滓した酸化スラグSを受ける容器に予め還元剤や酸化鉄を入れていたうえで、当該容器に酸化スラグSを排滓し、FeO/Fe23が1.25以上となるようにし、酸化スラグSを冷却することでリサイクルスラグとして使用することができる。
【0023】
次に、FeO/Fe23を1.25以上にすることによって、6価クロムの溶出を抑制できる理由について説明する。
酸化スラグSは、炉外精錬スラグとは異なり、酸素の吹錬により酸化された溶鋼が、鉄酸化物としてスラグ中に多量に含有されることになる。一般的に、スラグ中の鉄分はT.Feとして分析されることが多いが、実際にはスラグの酸化状態によって2価鉄(FeO)や3価鉄(Fe23)が共存した状態である。このFeOとFe23は、例えば、酸素吹錬量の影響を受ける。
【0024】
例えば、酸化スラグSにおいて、FeOとFe23の比率(以下、FeO/Fe23)が小さい場合は、酸化スラグSの酸素ポテンシャルが高い状態、即ち、冷却時の酸化源であるFe23が多い状態であるといえ、Cr23はより強く酸化されやすくなり、その結果、6価クロムの溶出量が多くなると考えられる。
逆に、FeO/Fe23を大きくしてスラグ中の酸素ポテンシャルが低い状態、即ち、冷却時の酸化源であるFe23が少ない状態であれば、3価クロムの6価クロムへの酸化が抑制され、6価クロムの溶出量を抑制することができると考えられる。即ち、FeO/Fe23を大きくしてスラグ中の酸素ポテンシャルが低い状態とすれば、酸化スラグをリサイクルスラグにするために冷却する際でも当該酸化スラグSが酸化雰囲気下になり難く、このときに、3価クロムが酸化して6価クロムが生成することを抑制することができると考えられる。
【0025】
図2は、実験等によりFeO/Fe23と6価クロムの溶出量との関係をまとめたものである。
図2に示すように、酸化スラグS中のFeO/Fe23が1.25以上であると、すべての実験において6価クロム溶出量を0.05mg/L以下にすることができる。即ち、酸化スラグS中のFeO/Fe23を1.25以上にすることによって、環境庁告知46号により定められている6価クロムの溶出量を、0.05mg/L以下にすることができる。
【0026】
以上、本発明によれば、質量%で、CaO:35〜51%、SiO2:5〜16%、Al23:0.5〜11%、MgO:3〜15%、MnO:2〜11%、CaF2:0.1〜0.5%、T.Fe:14〜29%、Cr23:0.2〜6.0%を含有し、残部が不可避不純物である酸化スラグSに対して、T.Fe分におけるFeO/Fe23が1.25以上となるように調整することで、6価クロムの溶出量が0.05mg/L以下となるリサイクルスラグを製造することができる。
【0027】
表1は、本発明のリサイクルスラグの生成方法によって生成したリサイクルスラグの実施例と、本発明とは異なる方法によリサイクルスラグを生成したリサイクルスラグの比較例とをまとめたものである。
実施例及び比較例においての6価クロム溶出量は、土壌環境基準の検定方法である環境庁告知46号に則した溶出試験方法に基づいて測定した。また、実施例及び比較例では、所定の酸化スラグSの組成に試薬を配合して、白金坩堝や耐火物坩堝に保持した状態で、大気焼成炉や、雰囲気焼成炉を用いて酸化スラグSの溶解を行い、その後の冷却により酸化スラグSを固化させ、スラグ試料を得た。Fe2+とFe3+の割合はFeO、Fe23試薬を所定量混合することにより調整を行った。
【0028】
また、表1における実施例及び比較例において、6価クロムの溶出量が分析限界値である0.02mg/Lを切るものについては、「0.00」と表記した。
【0029】
【表1】

【0030】
比較例1〜比較例8に示すように、酸化スラグ(リサイクルスラグ)において、FeO/Fe23が1.25未満であると、6価クロムの溶出量が環境基準とされている0.05mg/Lを上回ることになり、6価クロムの溶出量を抑えることができない。
一方で、実施例1〜実施例8に示すように、酸化スラグ(リサイクルスラグ)において、FeO/Fe23が1.25以上であると、6価クロムの溶出量が環境基準とされている0.05mg/L以下にすることができ、6価クロムの溶出量を抑制することができる。
【0031】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。上記の実施形態においては、含クロム鋼を製造する際に電気炉にて発生する酸化スラグについて説明しているが、この酸化スラグは、炉外精錬(取鍋精錬)以外で発生したものであればよく、転炉の精錬の際に発生したものであってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 電気炉
2 溶湯
3 容器本体
4 蓋体
5 排滓口
6 出鋼口
7 ランス
8 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、CaO:35〜51%、SiO2:5〜16%、Al23:0.5〜11%、MgO:3〜15%、MnO:2〜11%、CaF2:0.1〜0.5%、T.Fe:14〜29%、Cr23:0.2〜6.0%を含有し、残部が不可避不純物である酸化スラグに対して、T.Fe分におけるFeO/Fe23が1.25以上となるように調整することで、前記酸化スラグをリサイクル用のスラグにするリサイクルスラグの生成方法。
【請求項2】
質量%で、CaO:35〜51%、SiO2:5〜16%、Al23:0.5〜11%、MgO:3〜15%、MnO:2〜11%、CaF2:0.1〜0.5%、T.Fe:14〜29%、Cr23:0.2〜6.0%を含有していて、さらに、残部が不可避不純物であり、且つ、T.Fe分におけるFeO/Fe23≧1.25であることを特徴とするリサイクルスラグ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−51822(P2011−51822A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201637(P2009−201637)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】