説明

リサイクル用補強材およびリサイクル製品

【課題】 タッピング強度に優れたリサイクル製品を得ること、ならびにそれにより再生率を改善すること。
【解決手段】 芳香族ビニル系単量体またはそれと共重合可能な他のエチレン系不飽和単量体をゴム状重合体にグラフト重合して得られたグラフト重合体(A)であって、該グラフト重合体(A)中にシリコン系化合物(B)を0.01重量%以上含有してなるリサイクル用補強材、および該リサイクル補強材とリサイクル熱可塑性樹脂からなるリサイクル製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を再生利用する際に問題となるタッピング強度の低下を改善することのできるリサイクル用補強材および該リサイクル補強材を使用したリサイクル製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、パソコンやOA機器、電化製品、車両内装用部品等、様々な成形品において、その物性や外観からABS樹脂やPS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂が使用されており、これらの樹脂は環境問題の観点から再生利用が望まれている。しかしながら、例えば成形の際に発生するランナー等の粉砕品を未使用のペレットと混合して使用することは広く行われているものの、市場からの回収品等の再利用については、物性の低下が著しいため進んでいないのが現状である。このような現状に対して、ゴム状重合体を主体とするリサイクル助剤を再生材と混合して利用する技術が提案されているが(例えば、特開平8−245756号公報:特許文献1、国際公開WO00−53384号公報:特許文献2)、この場合、一般的な物性(特に衝撃強度)の改善は認められるものの、筐体の接合や内部部品の固定によく使われるタッピングにおいて、十分な強度の回復が得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開平8−245756号公報
【特許文献2】国際公開WO00−53384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、タッピング強度に優れたリサイクル製品を得ること、ならびにそれにより再生率を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明者らは、上記問題点につき鋭意検討を行った結果、熱可塑性樹脂をリサイクルする際にリサイクル補強材として使用するグラフト重合体に対し特定量のシリコン化合物を添加することにより、十分なタッピング強度を有する製品が得られることを見出し、本発明に至ったものである。
すなわち本発明は、芳香族ビニル系単量体またはそれと共重合可能な他のエチレン系不飽和単量体をゴム状重合体にグラフト重合して得られたグラフト重合体(A)であって、該グラフト重合体(A)中にシリコン系化合物(B)を0.01重量%以上含有することを特徴とするリサイクル用補強材を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、タッピング強度に優れたリサイクル製品を得ることが可能となり、再生率を改善することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明におけるリサイクル用補強材とは、グラフト重合体(A)に特定量のシリコン系化合物(B)を添加して得られるものである。
また、本発明におけるグラフト重合体(A)とは、ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル系単量体またはそれと共重合可能な他のエチレン系不飽和単量体を重合して得られるものである。
【0007】
本発明におけるグラフト重重合体(A)に用いられるゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレンゴム、ブタジエン−アクリロニトリルゴムのようなジエン系ゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレンゴムに、第三成分としてエチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエンのような非共役ジエン成分を導入してなるエチレン−プロピレン−(非共役ジエン)系ゴム、アクリル系ゴム、さらにはこれらとシリコン系ゴムとの複合ゴムなどを挙げることができ、1種または2種以上混合して用いることが可能である。
グラフト重合体(A)に用いられる芳香族ビニル系単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、p−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ジビニルベンゼンなどの1種あるいは2種以上が用いられ、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましく、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリルなどシアン化ビニル系単量体、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、N−フェニルマレイミド等のイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸(無水物)単量体、グリシジルメタアクリレート等のエポキシ基含有エチレン系不飽和単量体等が例示され、目的に応じて各々1種または2種以上混合して用いることができる。
【0008】
グラフト重合体(A)中のゴム状重合体の割合に関しては特に制限は無く、目的に応じて10〜90重量%の範囲で調整することが好ましいが、成形性あるいはリサイクルの対象となる他の熱可塑性樹脂との相溶性の点から30〜80重量%の範囲内であることが好ましい。
また、グラフト重合体(A)中の芳香族ビニル系単量体の割合に関しても特に制限はないが、リサイクルされた製品の外観あるいは流動性の点から20〜80重量%の範囲であることが好ましい。
【0009】
上記グラフト重合体(A)は公知の重合方法、例えば乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法またはそれらの組合せによって製造することが可能であるが、不純物による熱安定性の低下を防止するという観点から、特に懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法を採用することが好ましい。
【0010】
本発明におけるリサイクル補強材は、上記のグラフト重合体(A)中にシリコン系化合物(B)を0.01重量%以上含有することが必要であり、その含有量が0.01重量未満では本発明の目的を達成することができない。また、その含有量の上限については特に制限はないが、経済性の面より10重量%である。
なお、シリコン系化合物(B)としては、シリコンゴム、メチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルエチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサン、フェニルメチルポリシロキサンから選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0011】
本発明におけるリサイクルに用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば使用済の家電製品、自動車部品、工業用部材などから回収された熱可塑性樹脂もしくは成形時に発生するランナー等の工程内で発生する熱可塑性樹脂であり、例えば、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS)、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体(MS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−(エチレン−プロピレン系ゴム)−スチレン(AES)樹脂、アクリロニトリル−アクリル系ゴム−スチレン(AAS)樹脂、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン(ACS)樹脂のようなスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチルのようなアクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、(変性)ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、さらにはこれら2種以上の樹脂からなる混合物などが挙げられる。
【0012】
本発明におけるリサイクル補強材と使用されるリサイクル熱可塑性樹脂との混合割合については特に制限はなく、リサイクルされる製品に要求される物性により適宜変更すればよいが、リサイクル熱可塑性樹脂100重量部に対して1〜100重量部の範囲内であることが好ましく、特に、リサイクル熱可塑性樹脂100重量部に対して1〜50重量部の範囲で混合することが好ましい。
【0013】
本発明におけるリサイクル補強材は、予め粉砕されたリサイクル熱可塑性樹脂に適当な割合でタンブラーあるいはミキサー等公知の方法により混合された後、バンバリーミキサーや押出機等公知の溶融混練装置によって溶融混合され、射出成形、押出成形、ブロー成形等、公知の成形法により目的とするリサイクル製品を製造することが可能である。
【0014】
〔実施例〕
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中に表わす%及び部は、特にことわらないかぎり重量基準である。
【0015】
グラフト重合体
グラフト重合体(A−1):公知の乳化重合法にて、ポリブタジエンゴム50部にスチレン50部を重合することによりグラフト重合体(A−1)を得た。
【0016】
グラフト重合体(A−2):公知の懸濁重合法にて、エチレン−プロピレン−非共役ジエン系ゴム50部にスチレン35部、アクリロニトリル15部を重合することによりグラフト重合体(A−2)を得た。
【0017】
グラフト重合体(A−3):公知の乳化重合法にて、アクリル系ゴム50部に、スチレン35部、アクリロニトリル15部を重合することによりグラフト重合体(A−3)を得た。
【0018】
リサイクル補強材
グラフト重合体(A−1)にシリコン系化合物(B)としてジメチルポリシロキサンオイル(KF96−100CS、信越化学(株)製)を0.05重量%となるよう添加し、リサイクル用補強材(1)を得た。
【0019】
グラフト重合体(A−2)にシリコン系化合物(B)としてジメチルポリシロキサンオイル(KF96−100CS、信越化学(株)製)を0.05重量%となるよう添加し、リサイクル用補強材(2)を得た。
【0020】
グラフト重合体(A−3)にシリコン系化合物(B)としてジメチルポリシロキサンオイル(KF96−100CS、信越化学(株)製)を0.1重量%となるよう添加し、リサイクル用補強材(3)を得た。
【0021】
[実施例1、比較例1、2]
実施例1として、複写機ハウジング(アイボリー着色された変性ポリフェニレンエーテル樹脂(ポリフェニレンエーテル樹脂/ポリスチレン樹脂)製)から回収・粉砕されたリサイクル熱可塑性樹脂90%およびリサイクル用補強材(1)10%の割合で混合し、二軸押出機を用いて、樹脂温度を270℃に保ちながら溶融混練してペレット化した。得られたペレットにつき、3.5オンス射出成形機により、設定温度260℃にてタッピング用ボス付プレート試験片を作成した。
また比較例1として、グラフト重合体(A−1)を使用した以外は実施例1と同様にしてペレット化し、同様に試験片を作成した。さらに比較例2として、リサイクル熱可塑性樹脂100%とした以外は実施例1と同様にしてにてペレット化し、同様に試験片を作成した。評価方法は以下のとおり。
【0022】
タッピング強度
上記にて作成したタッピング用ボス付プレート試験片は、図1に示すとおり、150mm×200mm×3.0mmtのプレートに外径8mm、内径4mmのタッピング用ボス(ボス1)が3箇所、外径12mm、内径7mmのタッピング用ボス(ボス2)が3箇所、合計6個のタッピング用ボスが均等に配置されている。
ボス1に対してはM5、ボス2にはM8の木ねじを1kg・mのトルクにて締めこんだ時の割れの有無にて評価した。ボス1、ボス2それぞれ3箇所の試験に対し、全数割れがない場合には○、1乃至は2箇所で割れが発生したときには△、全数割れが発生した場合には×との判断基準とした。
【0023】
〔表1〕
タッピング強度ボス1 タッピング強度ボス2
実施例1 ○ ○
比較例1 △ △
比較例2 × ×
【0024】
[実施例2、比較例3,4]
実施例2して、プリンターハウジング(グレー着色されたABS樹脂製)から回収・粉砕されたリサイクル熱可塑性樹脂95%およびリサイクル補強材(A−2)5%の割合で混合し、二軸押出機を用いて、樹脂温度を240℃に保ちながら溶融混練してペレット化した。得られたペレットにつき、3.5オンス射出成形機により、設定温度220℃にてタッピング用ボス付プレート試験片を作成した。
また比較例3として、グラフト重合体(A−2)を使用した以外は実施例2と同様にしてペレット化し、同様に試験片を作成した。さらに比較例4として、リサイクル熱可塑性樹脂100%とした以外は実施例2と同様にしてにてペレット化し、同様に試験片を作成した。評価方法は実施例1に準拠した。
【0025】
〔表2〕
タッピング強度ボス1 タッピング強度ボス2
実施例2 ○ ○
比較例3 × ×
比較例4 × ×
【0026】
[実施例3、比較例5,6]
実施例3して、車輌外装品(ブラック着色されたAAS樹脂製)から回収・粉砕されたリサイクル熱可塑性樹脂95%およびリサイクル補強材(A−3)5%の割合で混合し、二軸押出機を用いて、樹脂温度を230℃に保ちながら溶融混練してペレット化した。得られたペレットにつき、150トン射出成形機(日本製鋼製)により、設定温度230℃にてタッピング用ボス付プレート試験片を作成した。
また比較例5として、グラフト重合体(A−3)を使用した以外は実施例3と同様にしてペレット化し、同様に試験片を作成した。さらに比較例6として、リサイクル熱可塑性樹脂100%とした以外は実施例3と同様にしてにてペレット化し、同様に試験片を作成した。評価方法は実施例1に準拠した。
【0027】
〔表3〕
タッピング強度ボス1 タッピング強度ボス2
実施例3 ○ ○
比較例5 × △
比較例6 × ×
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、熱可塑性樹脂を再生利用する際に問題となるタッピング強度の低下を改善することのできるリサイクル用補強材およびリサイクル製品を提供できるものであり、特にパソコンやOA機器、電化製品等のハウジングに使用される筐体の再生手法として非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】タッピング試験用試験片を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1:ボス1
2:ボス2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル系単量体またはそれと共重合可能な他のエチレン系不飽和単量体をゴム状重合体にグラフト重合して得られたグラフト重合体(A)であって、該グラフト重合体(A)中にシリコン系化合物(B)を0.01重量%以上含有することを特徴とするリサイクル用補強材。
【請求項2】
グラフト重合体(A)に用いられるゴム状重合体が、ジエン系ゴム、エチレン−プロピレン−(非共役ジエン)系ゴム、アクリル系ゴムから選ばれた1種以上のゴム状重合体である請求項1に記載のリサイクル用補強材。
【請求項3】
シリコン系化合物(B)が、シリコンゴム、メチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルエチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサン、フェニルメチルポリシロキサンから選ばれた少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜2に記載のリサイクル用補強材。
【請求項4】
リサイクル熱可塑性樹脂と、請求項1〜3何れかに記載のリサイクル補強材とからなるリサイクル製品。
【請求項5】
リサイクル熱可塑性樹脂が、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、(変性)ポリフェニレンエーテル樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂の少なくとも1種から選ばれた熱可塑性樹脂である請求項4に記載のリサイクル製品。
【請求項6】
リサイクル熱可塑性樹脂100重量部に対してリサイクル用補強材を1〜100重量部添加して得られた請求項4又は5に記載のリサイクル製品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−176976(P2007−176976A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373854(P2005−373854)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】