リシン様タンパク質のグリコシル化変種
本発明は、癌ならびにウイルス、寄生虫および真菌感染症の治療薬として有用である、組換えタンパク質のグリコシル化変種およびこのような組換えタンパク質をコードする核酸を提供する。タンパク質および核酸は、疾患に関連した病原体または細胞に特異的なプロテアーゼによって特異的に切断されて活性化されるリンカー配列で結合されているリシン様毒素のAおよびB鎖を有する。本発明はまた、疾病に罹患した細胞を阻害または破壊する方法、疾病が認められる哺乳類を治療する方法ならびに本発明の組換えタンパク質および核酸を使用する薬学的組成物に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、癌ならびにウイルス、寄生虫および真菌感染症の治療薬として有用である、組換えタンパク質のグリコシル化変種およびこのような組換えタンパク質をコードする核酸に関する。タンパク質および核酸は、疾患に関連した病原体または細胞に特異的なプロテアーゼによって特異的に切断されて活性化されるリンカー配列で結合されているリシン様毒素のAおよびB鎖を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
細菌および植物は、1、2または数個のポリペプチドまたはサブユニットからなってもよい細胞障害性タンパク質を産生することが公知である。1つのサブユニットを有するようなタンパク質は、I型タンパク質とおおまかに分類することができる。2つのサブユニット構造を進化させた細胞毒の多くはII型タンパク質といわれる(Saelinger, C. B. in Trafficking of Bacterial Toxins(eds. Saelinger, C. B.) 1-13(CRC Press Inc., Boca Raton, Florida, 1990)。1つのサブユニットA鎖は毒性作用を有するが、第2のサブユニットB鎖は細胞表面に結合しており、標的細胞への毒素の流入を媒介する。これらの毒素のサブユニットは、タンパク質の生合成を阻害することによって標的細胞を死滅させる。例えば、ジフテリア毒素またはシュードモナス(Pseudomonas)外毒素などの細菌毒素は、伸張因子2を不活性化することによってタンパク質合成を阻害する。リシン、アブリンなどの植物毒素および細菌毒素シガ(Shiga)毒素は、リボソームを直接不活性化することによってタンパク質合成を阻害する(Olsnes, S. & Phil, A. in Molecular action of toxins and viruses(eds. Cohen, P. & vanHeyningen, S.) 51-105 Elsevier Biomedical Press, Amsterdam, 1982)。
【0003】
ヒマ(Ricinus communis)(ヒマシ油植物)の種子由来のリシンは植物毒素の中で最も強力となりうる。1つのリシンA鎖は、1500リボソーム/分の速度でリボソームを不活性化することができると推定される。結果として、リシンの1分子は細胞を死滅させるのに十分である(Olsnes, S. & Phil, A. in Molecular action of toxins and viruses(eds. Cohen, P. & vanHeyningen, S.)(Elsevier Biomedical Press, Amsterdam, 1982)。リシン毒素は、ジスルフィド結合によって結合されている分子量30,625 Daおよび31,431 DaのAおよびB鎖からなるグリコシル化ヘテロダイマーである。リシンのA鎖はN-グリコシダーゼ活性を有し、真核生物リボソームの28S rRNAからの特異的なアデニン残基切除を触媒する(Endo, Y. & Tsurugi, K. J. Biol. Chem. 262-8128(1987))。リシンのB鎖は、自体は毒性ではないが、真核細胞の表面のガラクトース残基に結合して、毒素分子の受容体-媒介性エンドサイトーシスを刺激することによってA鎖の毒性を促進する(Simmons et al., Biol. Chem. 261 : 7912 (1986))。AおよびB鎖からなる毒素分子が、クラスリン-依存的または非依存的機序によって細胞内に移行すると、細胞内電位の低下が大きくなり、活性なA鎖の放出を誘導し、タンパク質合成およびその細胞毒性に対する阻害作用を誘発する(Emmanuel, F. et al., Anal. Biochem. 173 : 134-141 (1988) ; Blum, J. S. et al., J. Biol. Chem. 266 : 22091-22095 (1991) ; Fiani, M. L. et al., Arch. Biochem. Biophys. 307 : 225-230 (1993))。エンドソーム内の活性化毒素(例えば、リシン、志賀毒素等)は、逆向性輸送によってトランスゴルジ網を介して小胞体まで経細胞輸送されてから、A鎖は細胞質に移動してその作用を誘発することを実験的証拠は示唆している(Sandvig, K. & van Deurs, B., FEBS Lett. 346 : 99-102 (1994)。
【0004】
タンパク毒素は、最初、不活性な前駆体型で産生される。リシンは、最初、35アミノ酸N-末端プレ配列およびA鎖とB鎖の間の12アミノ酸リンカーを有するシングルポリペプチド(プレプロリシン(preproricin))として産生される。プレ配列は、リシン前駆体の小胞体内への移動中に脱離される(Lord, J. M., Eur. J. Biochem. 146 : 403-409(1985)およびLord, J. M., Eur. J. Biochem. 146 : 411-416 (1985))。次いで、プロリシンは、植物プロテアーゼが、タンパク質をA鎖とB鎖の間のリンカー領域において切断するタンパク粒と呼ばれる特殊化した細胞小器官に移動される(Lord, J. M. et al., FASAB Journal 8 : 201-208(1994))。しかし、2つの鎖は、鎖間ジスルフィド結合(A鎖のシステイン259とB鎖のシステイン4)によって共有結合されており、ジスルフィド結合した成熟リシンは植物細胞内のタンパク粒に保存される。A鎖はプロシン中で不活性であり(O'Hare, M. et al., FEBS Lett. 273 : 200-204 (1990))、ジスルフィド結合した成熟リシン中で不活性である(Richardson, P. T. et al.,FEBS Lett. 255 : 15-20(1989))。トウゴマの実植物のリボソーム自体リシンA鎖による不活性化を受けやすい;しかし、B鎖認識を可能にする細胞表面ガラクトースがないので、A鎖は細胞内に流入することができない。標的細胞の細胞質へのA鎖放出および活性化の正確な機序は不明である((Lord, J. M. et al., FASAB Journal 8 : 201- 208(1994))。しかし、活性化を生じさせるためには、A鎖とB鎖の間のジスルフィド結合を少なくする、従ってサブユニット間の結合を破壊することが必要であることが公知である。
【0005】
ジフテリア毒素は、分子量約58 kDの535アミノ酸ポリペプチドとしてジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)によって産生される(Greenfield, L. et al., Proc. Natl. Sci. USA 80 : 6853-6857(1983) ; Pastan, I. et al., Annu. Rev. Biochem. 61 : 331-354(1992); Collier, R. J. & Kandel, J., J. Biol. Chem. 246 : 1496-1503(1971))。ジフテリア毒素は、2つの機能的ドメインからなる1本鎖ポリペプチドとして分泌される。プロリシンと同様に、N-末端ドメイン(A-鎖)は細胞障害性部分を含有するが、C-末端ドメイン(B-鎖)は細胞への結合を担当し、毒素エンドサイトーシスを促進する。逆に、ジフテリア毒素の細胞障害機序はEF-2のADP-リボシル化に基づいており、それによってタンパク質合成を遮断し、細胞死を生ずる。ジフテリア毒素の2つの機能的ドメインはアルギニン-リッチペプチド配列およびジスルフィド結合によって結合されている。ジフテリア毒素が細胞内に移行すると、アルギニン-リッチペプチドリンカーがトリプシン-様酵素によって切断されて、ジスルフィド結合(Cys 186-201)が減少する。その後、実質的にリシンについて上記するように、細胞障害性ドメインが細胞質ゾル内に移動し、リボソーム阻害および細胞障害を誘発する。
【0006】
シュードモナス(Pseudomonas)外毒素もシュードモナス エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)によって分泌される66 kDの1本鎖毒素タンパク質であり、ジフテリア毒素と同様の細胞障害機序を有する(Pastan, I. et al., Annu. Rev. Biochem. 61 : 331-354(1992); Ogata, M.et al., J. Biol. Chem. 267 : 25396-25401(1992) ; Vagil, M. L. et al., Infect. Immunol. 16 : 353-361(1977))。シュードモナス(Pseudomonas)外毒素は3つの結合した機能的ドメインからなる。第1のドメインIa(アミノ酸1-252)は細胞結合および毒素エンドサイトーシスを担当し、第2のドメインII(アミノ酸253-364)はエンドサイトーシス小胞から細胞質ゾルへの毒素移動を担当し、第3のドメインIII(アミノ酸400-613)はタンパク質合成阻害および細胞障害を担当する。シュードモナス(Pseudomonas)外毒素が細胞に流入すると、第2のドメインのポリペプチド配列のタンパク質分解的切断(Arg 279付近)およびエンドサイトーシス小胞のジスルフィド結合(Cys265-287)の減少によって細胞障害性ドメインの遊離が生じる。本質的に、全体的な細胞障害性経路は、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素の毒素移動ドメインが構造的に別個であるであることを除いて、ジフテリア毒素毒素に類似している。
【0007】
クラス2リボソーム不活性化タンパク質(RIP-2)は、アブリン、モデシン、ボルケンシン(Sandvig, K. et al., Biochem. Soc. Trans. 21: 707-711(1993))およびセイヨウヤドリギレクチン(ビスクミン)(Olsnes, S. & Phil, A. in Molecular action of toxins and viruses(eds. Cohen, P. & vanHeyningen, S.) 51-105 Elsevier Biomedical Press, Amsterdam, 1982 ; Fodstad, et al. Canc. Res. 44: 862 (1984))を含む細胞障害性および細胞結合/毒素移動の別個の機能的ドメインを保有する他の毒素を構成する。志賀毒素およびコレラ毒素などの一部の毒素も、受容体結合およびエンドサイトーシスを担当する多数のポリペプチド鎖を有する。
【0008】
リシン遺伝子はクローニングされ、配列決定されており、AおよびB鎖のX-線結晶構造が記載されている(Rutenber, E. et al. Proteins 10: 240-250 (1991) ; Weston et al., Mol. Bio. 244 : 410-422, 1994 ; Lamb and Lord, Eur. J. Biochem. 14 : 265 (1985) ; Halling, K. et al., Nucleic Acids Res. 13: 8019 (1985))。同様に、ジフテリア毒素およびシュードモナス(Pseudomonas)外毒素の遺伝子がクローニングされ、配列決定されており、毒素タンパク質の3-次元構造が解明され、記載されている(Columblatti, M. et al., J. Biol. Chem. 261 : 3030-3035 (1986) ; Allured, V. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 : 1320-1324 (1986) ; Gray, G. L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 : 2645-2649 (1984) ; Greenfield, L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80: 6853-6857 (1983) ; Collier, R. J. et al., J. Biol. Chem. 257 : 5283-5285 (1982))。
【0009】
リシン様毒素は、ウイルス感染症、癌ならびに寄生虫および真菌感染症を治療するのに有用であることが示されている(米国特許第6,333,303号;同第6,531,125号および同第6,593,132号は参照により本明細書に組み入れられる)。シュードモナス(Pseudomonas)外毒素-Aおよびジフテリア毒素のサブユニットAなどの細菌毒素;リシンなどの2本鎖リボソーム不活性化植物毒素、ならびにトリコサンチンおよびヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質などの1本鎖リボソーム不活性化タンパク質はHIV感染細胞の排除に使用されている(Olson et al., AIDS Res. and Human Retroviruses 7: 1025-1030 (1991))。哺乳類細胞に対するこれらの毒素の高い毒性は、作用の特異性のなさと合わせて、免疫毒素などの毒素を組み入れた薬剤の開発の大きな問題をもたらしている。
【0010】
それらの極めて強い毒性のために、感染または腫瘍細胞または組織を特異的に破壊または阻害するための治療薬としてリシン系免疫毒素を作製することに大きな関心が高まっている(Vitetta et al., Science 238:1098-1104(1987))。免疫毒素は、モノクローナル抗体または増殖因子などの特定の細胞結合成分と2つのタンパク質成分が共有結合されている毒素の結合物である。一般に、成分は化学的に結合されている。しかし、結合はペプチドまたはジスルフィド結合であってもよい。抗体は、特異的な抗原を発現する細胞種に毒素を誘導し、それによって天然の毒素では可能ではない作用の特異性を提供する。免疫毒素は、完全なリシン分子(すなわち、両鎖)およびリシンA鎖単独で作製されている(Spooner et al., Mol. Immunol. 31:117-125, (1994))。
【0011】
リシンダイマー(IT-R)で作製される免疫毒素は、A鎖単独(IT-A)で作製されるものより強力な毒素である。IT-Rの高い毒性は、細胞表面への結合および標的細胞の細胞質ゾルコンパートメントへのA鎖の移動におけるB鎖の二重の作用に寄与すると考えられている(Vitetta et al., Science 238:1098 1104 (1987) ; Vitetta & Thorpe, Seminars in Cell Biology 2 :47-58 (1991))。しかし、これらの結合物におけるB鎖の存在も非標的細胞への免疫毒素の流入を促進する。B鎖は、ほとんどの細胞に存在するN-結合炭水化物に関連するガラクトースに非特異的に結合するので、B鎖は少量でも細胞結合成分の特異性を上回ることがある。IT-Aは、IT-Rより特異的で、使用が安全である。しかし、B鎖が存在しないと、A鎖は特異性が大幅に低下する。IT-AはIT-Rと比較して効力が低いので、IT-Aは大量を患者に投与しなければならない。大量は、患者において免疫応答および中和抗体の産生を生ずることが多い(Vitetta et al., Science 238:1098-1104 (1987))。A鎖が結合物から標的細胞の細胞質に放出されないとき、IT-AおよびIT-Rは毒性が低下する。
【0012】
腫瘍細胞および免疫系の細胞の表面の抗原を認識するために数多くの免疫毒素が設計されている(Pastan et al., Annals New York Academy of Sciences 758:345-353 (1995))。このような免疫毒素の使用に伴う主要な問題は、抗体成分が唯一の標的機序であり、標的抗原は非-標的細胞に見られることが多いことである(Vitetta et al., Immunology Today 14:252-259 (1993)。また、好適な特異的な細胞結合成分の調整が問題である場合がある。例えば、標的細胞に特異的な抗原が入手できない場合があり、標的である可能性のある多数の細胞および感染性である可能性のある多数の成分は、免疫認識を回避するために抗原性の構造を迅速に変更することがある。リシンなどのタンパク質の極めて強い毒性に関しては、免疫毒素の特異性の欠如は、癌および感染性疾患を治療するための治療薬としての有用性をかなり制限することがある。
【0013】
毒素の細胞障害性成分と細胞結合成分との間への分子内プロテアーゼ切断部位の挿入は、天然の毒素が活性化される方法を模倣することができる。欧州特許出願第466,222号は、第Xa因子、トロンビンまたはコラゲナーゼなどの細胞外血液酵素による切断によって活性型に変換されうるトウモロコシ-由来プロタンパク質の使用を記載している。Garred, O. et al. (J. Biol. Chem. 270:10817-10821 (1995))は、偏在するカルシウム依存的セリンプロテアーゼ、ヒューリンを使用して、細胞障害性A鎖と細胞結合B-ユニットのペンタマーの間のトリプシン-感受性結合の切断によって志賀毒素を活性化することを実証した。Westby et al. (Bioconjugate Chem. 3:375-381 (1992))は、特異的な細胞結合成分およびリンカー配列内の第Xa因子に特異的なプロテアーゼ感受性切断部位を有するプロリシンを有する融合タンパク質を実証した。O'Hareら (FEBS Lett. 273:200-204 (1990))も、トリプシン-感受性切断部位によって結合されているRTAおよびブドウ球菌プロテインAの組換え融合タンパク質を記載した。これらの方法に使用される細胞外プロテアーゼの偏在性に関しては、毒素前駆体または免疫毒素のこのような人工的な活性化は細胞内毒素活性化機序を与えず、免疫毒素の細胞結合成分の標的特異性および有害な免疫反応の問題が残っている。
【0014】
結合鎖と毒性鎖を組み合わせているタンパク質への分子内プロテアーゼ切断部位の挿入方法の一形態において、Leppla, S. H.ら (Bacterial Protein Toxins zbl.bakt.suppl. 24:431-442 (1994))は、炭疽菌(Bacillus anthracis)によって産生される防御抗原(PA)の未変性の切断部位と特定のプロテアーゼを含有する細胞によって認識される切断部位の交換を示唆している。PAは、炭疽菌(Bacillus anthracis)によって産生される致死因子(LF)および浮腫毒素(ET)を認識、結合し、そのの内部移行を助ける。しかし、この方法は、全て細胞に局在化しており、修飾PAは特異的なプロテアーゼによって活性化されることがあるLFまたはETおよびPAの利用性に依存している。それは、細胞内毒素活性化機序を与えず、標的細胞への内部移行に十分量の毒素を確実にする問題を生ずる。
【0015】
ブドウ球菌由来の孔形成毒素、αヘモリシンの細胞外腫瘍関連プロテアーゼによるインビトロ活性化が実証されている(Panchel, R.G. et al., Nature Biotechnology 14:852-857 (1996))。αヘモリシンのそのプロテアーゼによるインビトロにおける人工的な活性化は報告されているが、標的細胞の破壊におけるαヘモリシンの実際の活性化および利用性は実証されていない。
【0016】
αヘモリシンはタンパク質合成を阻害するのではなく、最高3 kDの分子の漏洩を可能にするチャネルとして作用して、それによって生細胞のイオンバランスを崩壊させるヘプタマー膜貫通孔である。αヘモリシン活性化ドメインは、(細胞外プロテアーゼによる活性化のために)標的細胞の外に位置している可能性が高い。開示されているヘモリシン前駆体における誘発機序は、機能的に別個の2つのドメインの細胞内タンパク質分解切断に関係しない。また、αヘモリシン活性化に使用されるプロテアーゼは偏在的に分泌される細胞外プロテアーゼであり、毒素活性化は罹患細胞の近くでの活性化に限定されないと思われる。毒素のこのような広範囲の活性化は標的特異性を提供せず、全身毒性のために治療薬としてのそのαヘモリシン毒素の有用性を制限している。
【0017】
悪性腫瘍、ウイルス感染症および寄生虫感染症に特異的に関連する種々のプロテアーゼが同定され、記載されている。例えば、カテプシンは、癌転移において主要な役割を果たすとされているセリン、システインまたはアスパラギン酸エンドペプチダーゼおよびエキソペプチダーゼファミリーである
。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMPまたはマトリキシン)は、コラゲナーゼ、マトリリシン、ストロメリシン、ゲラチナーゼおよびマクロファージエラスターゼからなる亜鉛-依存性プロテイナーゼである
。これらのプロテアーゼは病的なマトリックスリモデリングに関与する。正常な生理的条件下では、マトリキシン活性の調節は遺伝子発現レベルにおいて実施される。酵素活性もメタロプロテイナーゼ組織阻害因子(TIMP)によって厳密に制御される(Murphy, G. et al., Ann. N. Y. Acad. Sci. 732: 31 41(1994))。MMP遺伝子の発現は炎症性疾患(例えば、関節リウマチ)および悪性腫瘍において活性化されることが報告されている。
【0018】
マラリアでは、寄生虫セリンおよびアスパラギン酸プロテアーゼがマラリア原虫(Plasmodium)寄生虫による宿主赤血球侵襲および赤血球内マラリアによるヘモグロビン異化反応に関与する
。マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)も、住血吸虫症またはビルハルツ住血吸虫症を生ずる病原性寄生虫である。エラスチン分解性(elastinolytic)プロテイナーゼはこの特定の寄生虫の病原性に特異的に関連している(McKerrow, J. H. et al., J. Biol. Chem. 260: 3703-3707(1985))。
【0019】
Welch, A. R.ら (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:10797-10800 (1991))は、ヒトサイトメガロウイルス、ヒトヘルペスウイルス、エプスタインバーウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス-Iおよび感染性喉頭気管支炎ウイルスに特異的に関連する一連のウイルスプロテアーゼを記載している。これらのプロテアーゼは同様の基質特異性を有し、キャプシド集合およびウイルス成熟におけるウイルス骨格タンパク質再構築において不可欠な役割を果たす。同様の機能を果たす他のウイルスプロテアーゼもヒトT-細胞白血病ウイルス(Blaha, I. et al., FEBS Lett. 309:389-393 (1992); Pettit, S.C. et al., J. Biol. Chem. 266:14539-14547 (1991))、肝炎ウイルス(Hirowatari, Y. et al., Anal. Biochem. 225:113-120 (1995); Hirowatari, Y. et al., Arch. Virol. 133:349-356 (1993); Jewell, D. A. et al., Biochemistry 31 :7862- 7869 (1992))、灰白髄炎ウイルス(Weidner, J. R. et al., Arch. Biochem. Biophys. 286:402-408 (1991))およびヒトライノウイルス(Long, A. C. et al., FEBS Lett. 258:75-78 (1989))について実証されている。
【0020】
カンジダ(Candida)酵母は、AIDS患者の日和見感染症の大半の原因である二形性真菌である(Holmberg, K. and Myer, R, Scand. J. Infect. Dis. 18:179-192 (1986))。アスパラギン酸プロテイナーゼは、カンジダ アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ トロピカリス(Candida tropicalis)およびカンジダ パラプシロシス(Candida parapsilosis)を含むカンジダの数多くの病原性株に特異的に関連しており
、これらの酵素のレベルはその株の致死性に関連している(Schreiber, B, et al., Diagn. Microbiol. Infect. Dis. 3:1-5 (1985))。
【発明の開示】
【0021】
発明の概要
リシンは、N-結合炭水化物を有する糖タンパク質である。リシンのアミノ酸配列によると、炭水化物の結合部位は4つが可能である(セクオン(sequon))。A-鎖に2つの部位が存在し、B-鎖に2つの部位が存在する。ある程度は、天然のタンパク質では4つ全ての部位においてグリコシル化が生じる。この分子の安定性および活性に対するグリコシル化の重要性は完全には明らかではない。本発明者らは、リシン様タンパク質のグリコシル化変種を調整し、調査した。本発明者らは、1つのグリコシル化部位を含有する組換えタンパク質は活性で安定であるが、グリコシル化部位のないタンパク質は活性が弱く、安定性も非常に悪いと判定した。
【0022】
一局面において、本発明は、(a)リシン様毒素のA鎖、(b)リシン様毒素のB鎖ならびに(c)AおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列を含む組換えタンパク質であって、リンカー配列は疾患特異的プロテアーゼの切断認識部位を含有し、A鎖またはB鎖は少なくとも1つのグリコシル化部位を有する組換えタンパクを提供する。本発明の好ましい態様において、B鎖は少なくとも1つのグリコシル化部位を有する。本発明の別の好ましい態様において、B鎖はB1がグリコシル化されている。
【0023】
本発明の別の態様において、組換えタンパク質は、長さが10以下のアミノ酸、好ましくは、9以下のアミノ酸、最も好ましくは、8以下のアミノ酸のリンカーアミノ酸配列を有する。
【0024】
本発明のさらに別の態様は、リシン分泌シグナル配列を有する組換えタンパク質を提供する。
【0025】
本発明の好ましい態様において、組換えタンパク質は、図1、2または3に示すアミノ酸配列(配列番号1〜3)を有する、
【0026】
本発明の別の局面は、(a)リシン様毒素のA鎖をコードするヌクレオチド配列、(b)リシン様毒素のB鎖をコードするヌクレオチド配列および(c)AおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む単離精製された核酸分子であって、異種リンカー配列は疾患特異的プロテアーゼの切断可能な認識部位を含み、A鎖をコードするヌクレオチド配列またはB鎖をコードするヌクレオチド配列はグリコシル化部位を有する少なくとも1つのアミノ酸をコードする単離精製された核酸分子を提供する。本発明の好ましい態様において、B鎖のヌクレオチド配列は、グリコシル化部位を有する少なくとも1つのアミノ酸をコードする。別の好ましい態様において、B鎖のヌクレオチド配列はB1にグリコシル化部位を有するアミノ酸をコードする。
【0027】
本発明の別の態様において、核酸分子は、長さが10以下のアミノ酸、好ましくは、9以下のアミノ酸、または最も好ましくは、8以下のアミノ酸のリンカーアミノ酸配列をコードする。
【0028】
さらに別の態様は、リシン分泌シグナル配列をコードする本発明の核酸分子を提供する。
【0029】
本発明の好ましい態様において、核酸分子は図4、5または6に示す配列(配列番号4〜6)を有する。
【0030】
A鎖とB鎖を結合する異種リンカーは、特定の疾患に罹患している細胞または組織に局在化しているプロテアーゼによって特異的に切断され、それによって罹患細胞または組織を選択的に阻害または破壊することができる。本明細書において使用する罹患細胞という用語は、癌細胞または真菌、寄生虫もしくはレトロウイルスを含むウイルスに感染している細胞を含む。
【0031】
本発明の組換え毒性タンパク質を使用する毒素標的化は、多数のDNAウイルスは宿主細胞の輸送機序を使用して、免疫的破壊を回避するということを利用している。これは、宿主主要組織適合複合体(MHC)タイプI分子の小胞体から細胞質への逆向性移動を増加することによって実施される(Bonifacino, J. S., Nature 384: 405-406 (1996); Wiertz, E. J. et al., Nature 384: 432-438 (1996))。ウイルスによる罹患細胞における逆向性輸送の促進は、本発明の組換え毒性タンパク質の経細胞輸送および細胞障害性を増強し、それによって非-特異的細胞障害性を低下し、製品の全体的な安全性を改善することができる。
【0032】
本発明の組換え毒性タンパク質を使用して、T-およびB-細胞リンパ球増殖性疾患、卵巣癌、膵臓癌、頭頸部癌、扁平上皮癌、消化器癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、肝臓癌などの種々の形態の癌、マラリアならびにヒトサイトメガロウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、ヒトライノウイルス、感染性喉頭気管支炎ウイルス、灰白髄炎ウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルスの感染に関連する種々のウイルス疾患状態を含む疾患を治療することができる。
【0033】
本発明の一局面は、疾患に罹患しており、各々特異的なプロテアーゼを有する癌またはウイルス、真菌もしくは寄生虫感染症を含む疾患に特異的なプロテアーゼに関連している細胞を阻害または破壊する方法であって、疾患特異的プロテアーゼの切断認識部位を含有する異種リンカー配列を有する本発明の組換えタンパク質を調整する段階および細胞に組換えタンパク質を投与する段階を含む方法を提供する。一態様において、癌はT-細胞またはB-細胞リンパ球増殖性疾患、卵巣癌、膵臓癌、頭頸部癌、扁平上皮癌、消化器癌、乳癌、前立腺癌、肺癌および肝臓癌である。別の態様において、ウイルスはヒトサイトメガロウイルス、エプスタイン-バーウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、ヒトライノウイルス、ヒトT-細胞白血病ウイルス、感染性喉頭気管支炎ウイルス、灰白髄炎ウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルスである。別の態様において、寄生虫は熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)である。
【0034】
本発明はまた、哺乳類に本発明の1つまたは複数の組換えタンパク質の有効量を投与することによって、疾患に罹患している細胞が、各々特異的なプロテアーゼを有する癌またはウイルス、真菌もしくは寄生虫感染症を含む疾患に特異的なプロテアーゼに関連している、疾患が認められる哺乳類を治療する方法に関する。
【0035】
よりさらに、疾患に罹患している細胞が、各々特異的なプロテアーゼを有する癌またはウイルス、真菌もしくは寄生虫感染症を含む疾患に特異的なプロテアーゼに関連している、疾患が認められる哺乳類を治療する方法であって、本発明の単離精製された核酸を調整する段階;宿主細胞に核酸を導入する段階;宿主細胞において核酸を発現して本発明の組換えタンパク質を得る段階;および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤にタンパク質を懸濁させる段階を含む方法が提供される。
【0036】
一態様において、疾患に罹患している細胞が、各々特異的なプロテアーゼを有する癌またはウイルス、真菌もしくは寄生虫感染症を含む疾患に特異的なプロテアーゼに関連している、疾患が認められる哺乳類を治療するための薬剤を製造するための方法であって、プロテアーゼの切断認識部位を同定する段階、リシン様毒素のA鎖、リシン様毒素のB鎖および異種リンカーアミノ酸配列を含む本発明の組換えタンパク質を調整する段階、A鎖とB鎖を結合する段階であって、リンカー配列がプロテアーゼの切断認識部位を含有する段階ならびに薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤にタンパク質を懸濁する段階を含む方法が提供される。
【0037】
さらに別の局面において、本発明は、疾患に罹患している細胞が、癌またはウイルス、真菌もしくは寄生虫感染症を含む疾患に特異的なプロテアーゼに関連している、疾患が認められる哺乳類を治療するための薬学的組成物であって、本発明の組換えタンパク質および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む薬学的組成物を提供する。
【0038】
本発明の別の局面は併用療法である。例えば、併用療法を癌細胞を阻害もしくは破壊する方法または癌を治療する方法に使用することができる。一態様において、癌が認められる哺乳類を治療するために、本発明の薬学的組成物を調整するための方法に少なくとも1つの従来の抗癌療法を加えてもよい。本発明はまた、少なくとも1つの追加の抗癌療法を含む、癌を治療する本発明の薬学的組成物を考慮している。追加の抗癌療法は、ドキソルビシン、シスプラチン、シクロホスファミド、エトポシド、パクリタキセル、タキソテール、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、イリノテカンおよびトポテカンを含む。
【0039】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかし、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の好ましい態様を示すが、本発明の精神および範囲内の種々の変更および改良はこの詳細な説明から当業者に明らかになるので、例示のためだけに提供されていることが理解されるべきである。
【0040】
発明の詳細な説明
(A)本発明の組換えタンパク質
本発明は、癌ならびにウイルス、寄生虫および真菌感染症に対する治療薬として有用な組換えタンパク質のグリコシル化変種を提供する。天然のリシンは、N-結合炭水化物を有する糖タンパク質である。N-結合グリコシル化は、一般に、保存されているセクオン(sequon)において生じる。しかし、全てのセクオンが実際にグリコシル化されているわけではない。リシンのアミノ酸配列によると、4つのセクオンが存在する:A-鎖に2つ(A1およびA2)およびB-鎖に2つ(B1およびB2)(図7参照)。8つのアミノ酸リンカーを有するプロリシン構築物では、A1グリコシル化部位はアミノ酸位置14に存在し、A2グリコシル化部位はアミノ酸位置240に存在し、B1グリコシル化部位はアミノ酸位置363に存在し、B2グリコシル化部位はアミノ酸位置403に存在する。
【0041】
本発明者らは、セクオンが修飾または脱離されている32のグリコシル化変種を調査した。グリコシル化変種の活性および毒性を検討した。最低限1つの炭水化物鎖が組換えタンパク質の機能に必須であることを本発明者らは見出した。特定の理論に結び付けたいわけではないが、本発明者らは、結合している炭化水素が、標的細胞へのタンパク質の取り込み経路を決定すると仮定している。従って、炭水化物が欠損しているタンパク質は、その活性が減少または損失するような方法で誤って誘導されることになる。本発明者らは、他の極端な例において、広範なグリコシル化は、グリコシル化の程度が低い種と比較して分子の毒性を増加することも確立した。
【0042】
TST10088構築物(それぞれ、図1および4;配列番号1および4参照)では、2つのセクオンが存在する。この構築物において、本発明者らは、A1およびB2のグリコシル化部位を突然変異させ、A2部位(アミノ酸位置240)およびB1部位(アミノ酸位置363)のグリコシル化部位を残した。酵母発現系では、TST10088構築物のA2部位はグリコシル化されず、従って発現されるタンパク質はB-鎖のB1の1部位だけがグリコシル化される。
【0043】
TST10092構築物(それぞれ、図2および5;配列番号2および5参照)では、3つのセクオンが存在する。この構築物において、本発明者らは、A1のグリコシル化部位を突然変異させ、A2部位(アミノ酸位置240)、B1部位(アミノ酸位置363)およびB2部位(アミノ酸位置403)のグリコシル化部位を残した。酵母発現系では、TST10092構築物のA2部位はグリコシル化されず、従って発現されるタンパク質は2つの部位:B1およびB2だけがグリコシル化されている。
【0044】
TST10147構築物(それぞれ、図3および6;配列番号3および6参照)では、2つのセクオンが存在する。この構築物において、本発明者らは、A1およびB2のグリコシル化部位を突然変異させ、A2部位(アミノ酸位置240)およびB1部位(アミノ酸位置364)のグリコシル化部位を残した。酵母発現系では、TST10147構築物のA2部位はグリコシル化されず、従って発現されるタンパク質はB-鎖のB1の1部位だけがグリコシル化される。
【0045】
従って、本発明は、(a)リシン様毒素のA鎖、(b)リシン様毒素のB鎖ならびに(c)AおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列を含む組換えタンパク質であって、リンカー配列は疾患特異的プロテアーゼの切断認識部位を含有し、A鎖またはB鎖は少なくとも1つのグリコシル化部位を有する組換えタンパク質を提供する。本発明の好ましい態様において、B鎖は少なくとも1つのグリコシル化部位を有する。本発明の別の好ましい態様において、B鎖はB1がグリコシル化されている。
【0046】
「グリコシル化部位」という用語は、グリコシル化することができるまたは炭水化物に結合することができる組換えタンパク質のアミノ酸残基を意味する。「グリコシル化部位」はまた、本明細書において「セクオン」をいうことがある。Asnは、グリコシル化することができるアミノ酸の一例である。セリンおよびスレオニンも、グリコシル化することができるアミノ酸の例である。
【0047】
好ましくは、組換えタンパク質はA鎖またはB鎖が突然変異されていて、1つまたは複数のグリコシル化部位を遮断している。最も好ましくは、組換えタンパク質は1つの部位だけ、最も好ましくは、部位B1だけがグリコシル化されている。
【0048】
「リシン様毒素」という用語には、リボソームを不活性化して、タンパク質合成を阻害することができる細菌、真菌および植物毒素が挙げられるが、それに限定されるわけではない。ほとんどのリシン様毒素はA-鎖およびB-鎖からなる。A鎖は、毒素の薬理作用を担当する活性なポリペプチドサブユニットである。ほとんどの場合において、A鎖の活性成分は酵素である。B鎖は細胞表面への毒素の結合を担当しており、A鎖の細胞質への流入を促進すると考えられている。成熟毒素のAおよびB鎖はジスルフィド結合によって結合されている。
【0049】
好ましい態様において、リシン様毒素はリシンである。リシンは、真核細胞においてタンパク質合成を阻害する植物由来のリボソーム阻害タンパク質である。リシンは、ヒマ(Ricinus communis)(ヒマシ油植物)の種子から誘導することができる。リシン毒素は、AおよびB鎖分子量が、それぞれ、30,625 Daおよび31,431 Daのグリコシル化ヘテロダイマーである。リシンのA鎖はN-グリコシダーゼ活性を有し、真核生物リボソームの28S rRNAからの特異的なアデニン残基の切除を触媒する(Endo, Y ; & Tsurugi, K. J. Biol. Chem. 262:8128 (1987))。リシンのB鎖は、自体は毒性ではないが、真核細胞表面のガラクトース残基に結合して、毒素分子の受容体-媒介性エンドサイトーシスを刺激することによって、A鎖の毒性を促進する(Simmons et al., Biol. Chem. 261 :7912 (1986))。
【0050】
構造がリシンに極めて類似している毒素は、1つのA鎖および1つのB鎖を有する植物毒素である。このような毒素の例には、トウアズキ(Abrus precatorius)の種子から単離することができるアブリンおよびモデシンが挙げられる。アブリンは3つのグリコシル化部位を有する。1つの部位は位置203(A1)のA-鎖上であり、2つの部位は位置361(B1)および404(B2)のB-鎖上である。A1部位は、植物または酵母発現系ではグリコシル化されないと思われる。
【0051】
リシン様細菌毒素には、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae) によって産生されるジフテリア毒素、シュードモナス(Pseudomonas)エンテロトキシンAおよびコレラ毒素が挙げられる。「リシン様毒素」という用語はまた、A鎖だけを有するような毒素のA鎖を含むことが意図されていることが理解されている。本発明の組換えタンパク質は、別の毒素のB鎖を有する組換えタンパク質に結合されているまたはそれとして発現されるこれらの毒素のA鎖を含んでもよい。A鎖だけを有する植物毒素の例には、トリコサンチン、MMCおよびヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ジアンチン(dianthin) 30、ジアンチン32、クロチン II、クルシン IIおよび小麦胚芽阻害因子が挙げられる。A鎖だけを有する真菌毒素の例には、αサルシン、レストリクトシン(restrictocin)、ミトギリン(mitogillin)、エノマイシン(enomycin)、フェノマイシン(phenomycin)が挙げられる。A鎖だけを有する細菌毒素の例には、志賀菌(Shigella dysenteriae)由来の細胞毒および関連する志賀(Shiga)-様毒素が挙げられる。組換えトリコサンチンおよびそのコード配列は米国特許第5,101,025号および同第5,128,460号に開示されている。
【0052】
リシン様毒素の完全長のAまたはB鎖以外に、本発明の組換えタンパク質は、細胞障害性を発揮するのに必要なA鎖の部分だけを含有してもよいことが理解される。例えば、リシンA鎖の最初の30アミノ酸を除去して、毒性作用を保持する切断型A鎖を生じてもよい。切断型リシンまたはリシン様A鎖は、切断型遺伝子の発現によってまたは例えば、Nagaraseによるタンパク質分解によって調整することができる(Funmatsu et al., Jap. J. Med. Sci. Biol. 23:264-267 (1970))。同様に、本発明の組換えタンパク質は、ガラクトース認識、細胞結合および細胞質内への輸送に必要なB鎖の部分だけを含有してもよい。切断型B鎖は、例えば、E. P. 145,111号に記載されている。リシン様毒素は、重要でなく、タンパク質の活性に影響を与えない他の修飾をA鎖またはB鎖に有してもよいことが理解される。このような変化物には、同類アミノ酸置換を有するアナログを含む、未変性のA鎖またはB鎖と同じ方法で機能するアナログが挙げられる。
【0053】
本明細書において使用する「リンカー配列」という用語は、例えば、真核細胞リボソームの翻訳を酵素的に阻害して、A鎖に毒性作用を発揮できなくするために、AおよびB鎖を結合する残基を含有する組換えタンパク質内の内部アミノ酸配列をいう。異種は、リンカー配列がリシン様毒素またはその前駆体のAまたはB鎖本来の配列でないことを意味する。しかし、好ましくは、リンカー配列は、リシン様毒素のリンカー配列と同様の長さであってもよく、細胞結合および細胞質内への輸送においてB鎖の作用を妨害するべきではない。リンカー配列が切断されると、A鎖は活性または毒性になる。
【0054】
リンカー領域は、例えば、癌、ウイルス、寄生虫または真菌に関連する疾患特異的プロテアーゼの切断認識配列をコードする。特異的なプロテアーゼ-感受性リンカー変種を作製するために使用される変異原性およびクローニング方法は、本発明者らに付与された国際公開公報第9849311号に要約されている。簡単に説明すると、第1の段階は、変異原性プライマーセットを、隣接する2つのプライマーRicin-109EcoおよびRicin1729C Pstlを合わせて使用するDNA増幅に関係する。制限消化したPCR断片をゲル精製し、次いで、Eco RIおよびPstlで消化しておいたPVL1393でライゲーションする。ライゲーション反応を使用して、コンピテントXLI-Blue細胞(Stratagene)を形質転換する。組換えクローンをプラスミドミニプレップの制限消化物によって同定し、DNAおよび突然変異体リンカー配列をDNA配列決定によって確認する。本発明に使用することができる特定のリンカー配列は米国特許第6,333,303号;同第6,531,125号および同第6,593,132号に詳細に記載されている。
【0055】
リンカー鎖の疾患関連プロテアーゼの切断認識配列はペプチド模倣物であってもよい。「ペプチド模倣物」は、分子間の相互作用においてペプチドの置換物として作用する構造物である(総説はMorgan et al (1989), Ann. Reports Med. Chem. 24:243-252参照)。ペプチド模倣物は、アミノ酸および/またはペプチド結合を含有してもよいが、リンカー鎖に切断認識配列の構造的および機能的特徴を保持する合成構造物を含む。ペプチド模倣物はまた、ペプトイド、オリゴペプトイド(oligopeptoid) (Simon et al (1972) Proc. Natl. Acad, Sci USA 89:9367)および本発明の切断認識配列に対応する全ての可能アミノ酸配列を示す設計された長さのペプチドを含有するペプチドライブラリーも含む。
【0056】
ペプチド模倣物は、L-アミノ酸とD-アミノ酸の系統的な置換によって、側鎖と異なる電子特性を有する基の置換によっておよびペプチド結合とアミド結合置換との系統的な置換によって得られる情報に基づいて設計することができる。局所的な立体配座制約を導入して、候補ペプチド模倣物の活性の立体配座要件を決定することもできる。模倣物は、リバースターン立体配座を安定化または促進して、分子を安定化する助けとなるために、等比堆積のアミド結合またはD-アミノ酸を含んでもよい。環状アミノ酸アナログを使用して、アミノ酸残基を特定の立体配座状態に制約してもよい。模倣物は阻害因子ペプチド模倣物二次構造も含んでもよい。これらの構造は、アミノ酸残基の3-次元配向をタンパク質の公知の二次的な立体配座にモデル化することができる。N-置換アミノ酸のオリゴマーであり、新規分子の化学的に異なるライブラリーを作製するためのモチーフとして使用することができるペプトイドも使用することができる。
【0057】
本発明の好ましい態様において、組換えタンパク質は、図1、2または3(それぞれ、配列番号1〜3)に示すアミノ酸配列またはそのフラグメントもしくはアナログを有する。言及されている配列のアナログは同様の生物活性を有するが、アミノ酸配列の差を有してもよい。好ましくは、アナログは、配列番号1〜3と比較するとき、同類アミノ酸置換を有する。同類アミノ酸置換は、本発明の組換えタンパク質の1つまたは複数のアミノ酸を同様の荷電、サイズおよび/または疎水性特性のアミノ酸と置換することに関係する。同類置換だけが生じる場合、結果として得られるアナログは機能的に等価であるはずである。
【0058】
本発明者らは、発現レベルを改善する努力において異なる分泌シグナルを試験した。本明細書において使用する「分泌シグナル配列」という用語は、分泌タンパク質の発現に必要とされるアミノ酸配列をいう。例えば、本発明者らは、タンパク質の発現および分泌を誘導するために、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のα接合因子分泌シグナル、Pho-1分泌シグナルおよびリシン分泌シグナルを試験した。天然リシン分泌シグナルを使用すると最良の結果が得られた。リシン分泌シグナルを使用して遺伝子を発現すると、総タンパク質収率の改善以外に、実質的に全ての高度グリコシル化が排除されたことを本発明者らは発見した。本発明の態様において、本発明の組換えタンパク質は、高度グリコシル化を伴わない組換えタンパク質の発現を可能にする分泌シグナル配列を有する。好ましい態様において、分泌シグナル配列はリシン分泌シグナル配列である。
【0059】
本発明のタンパク質は組換えDNA方法を使用して調整することができる。従って、本発明の核酸分子を、公知の方法で、タンパク質のすぐれた発現を確実にする適当な発現ベクターに導入することができる。可能な発現ベクターには、ベクターが使用する宿主細胞と適合性である限り、コスミド、プラスミドまたは改変ウイルス(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)が挙げられるが、それに限定されるわけではない。発現ベクターは「宿主細胞の形質転換に好適」であり、発現ベクターが、本発明の核酸分子および発現に使用する宿主細胞に基づいて選択され、核酸分子に機能的に結合している調節配列を含有することを意味する。機能的に結合しているは、核酸が、核酸の発現を可能にする方法で調節配列に結合していることを意味することが意図されている。
【0060】
従って、本発明は、本発明の核酸分子またはそのフラグメントならびに挿入されたタンパク質-配列の転写および翻訳に必要な調節配列を含有する本発明の組換え発現ベクターを考慮する。
【0061】
好適な調節配列は、細菌、真菌、ウイルス、哺乳類または昆虫遺伝子を含む種々の起源から誘導することができる(例えば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている調節配列参照)。適当な調節配列の分泌は、以下に考察されているように選択した宿主細胞に依存し、当業者が容易に実施することができる。このような調節配列の例には:転写プロモーターおよびエンハンサーまたはRNAポリメラーゼ結合配列、翻訳開始シグナルを含むリボソーム結合配列が挙げられる。また、選択する宿主細胞および使用するベクターに応じて、複製開始点、追加のDNA制限部位、エンハンサーおよび転写誘導能を与える配列などの他の配列を発現ベクターに導入してもよい。必要な調節配列は未変性のAおよびB鎖および/またはその隣接領域によって供給されうることも理解されている。
【0062】
本発明の組換え発現ベクターは、本発明の組換え分子を形質転換または形質移入した宿主細胞の選択を容易にする選択マーカー遺伝子も含有してもよい。選択マーカー遺伝子の例は、ある種の薬剤に対する耐性を与えるG418およびヘモリシン、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼまたは免疫グロブリンもしくは免疫グロブリン、好ましくは、IgGのFc部分などの一部などのタンパク質をコードする遺伝子である。選択マーカー遺伝子の転写は、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼまたはホタルルシフェラーゼなどの選択マーカータンパク質の濃度の変化によってモニターされる。選択マーカー遺伝子が、ネオマイシン耐性などの抗生物質耐性を与えるタンパク質をコードする場合には、形質転換細胞はG418で選択することができる。選択マーカー遺伝子を導入した細胞は生存するが、他の細胞は死滅する。これにより、本発明の組換え発現ベクターの発現を可視化し、アッセイすることが可能になり、特に発現および表現型に対する突然変異に影響を判定することが可能になる。選択マーカーは、関心対象の核酸とは別個のベクターに導入してもよいことが理解される。
【0063】
組換え発現ベクターは、組換えタンパク質の発現を増加する;組換えタンパク質の溶解度を増加する;およびアフィニティー精製においてリガンドとして作用することによって標的組換えタンパク質の精製の助力となる融合部分をコードする遺伝も含有してもよい。例えば、タンパク質分解部位を標的組換えタンパク質に付加して、融合タンパク質の精製後に組換えタンパク質の融合部分からの分離を可能にすることができる。典型的な融合発現ベクターには、組換えタンパク質に、それぞれ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質またはプロテインAを融合するpGEX (Amrad Corp., Melbourne, Australia)、pMal (New England Biolabs, Beverly, MA) およびpRIT5 (Pharmacia, Piscataway, NJ)が挙げられる。
【0064】
組換え発現ベクターを宿主細胞に導入して、形質転換された宿主細胞を作製することができる。「形質転換された宿主細胞」という用語は、本発明の組換え発現ベクターを形質転換または形質移入した、グリコシル化できる細胞を含むことが意図されている。「で形質転換した」、「を形質移入した」、「形質転換」および「形質移入」という用語は、当技術分野において公知の多数の可能な技法の1つによって核酸(例えば、ベクター)を細胞に導入することを含むことが意図されている。原核細胞は、例えば、エレクトロポレーションまたは塩化カルシウム媒介形質転換によって核酸で形質転換することができる。例えば、リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介形質移入、リポフェクチン、エレクトロポレーションまたはマイクロインジェクションなどの従来の技法によって核酸を哺乳類細胞に導入することができる。宿主細胞を形質転換し、形質移入する好適な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press (1989))および他の実験教科書に見出すことができる。
【0065】
好適な宿主細胞には、多種多様の真核宿主細胞および原核細胞が挙げられる。例えば、本発明のタンパク質は酵母細胞または哺乳類細胞において発現することができる。他の好適な宿主細胞は、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1991)に見出すことができる。また、本発明のタンパク質は、大腸菌(Escherichia coli)などの原核細胞において発現することができる(Zhang et al., Science 303(5656): 371-3 (2004))。
【0066】
本発明を実施するのに好適な酵母および真菌宿主細胞には、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア(Pichia)属またはクルイベロマイセス(Kluyveromyces)属およびアスペルギルス(Aspergillus)属の種々の種が挙げられるが、それに限定されるわけではない。酵母S. セレビシエ(S. cerevisiae)における発現のためのベクターの例には、pYepSec1 (Baldari. et al., Embo J. 6:229-234 (1987))、pMFa (Kurjan and Herskowitz, Cell 30:933-943 (1982))、pJRY88 (Schultz et al., Gene 54:113-123 (1987))およびpYES2 (Invitrogen Corporation, San Diego, CA)が挙げられる。酵母および真菌の形質転換のためのプロトコールは当業者に周知である(Hinnen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75:1929 (1978); ltoh et al., J. Bacteriology 153:163 (1983)およびCullen et al. (BiolTechnology 5:369 (1987)参照)。
【0067】
本発明の一態様において、本発明の組換えタンパク質はピキア パストリス(Pichia pastoris)において発現される。リシンの天然のA-鎖およびB-鎖配列がグリコシル化-コンピテント酵母において発現されるとき、グリコシル化はA-鎖の1つの位置およびB-鎖の2つの部位において生じることを本発明者らは見出した。A-鎖の第2のセクオンは酵母では不活性であると思われる。
【0068】
本発明を実施するのに好適な哺乳類細胞には、特に、COS (例えば、ATCC No. CRL 1650または1651)、BHK (例えば、ATCC No. CRL 6281)、CHO (ATCC No. CCL 61)、HeLa (例えば、ATCC No. CCL 2)、293 (ATCC No. 1573)およびNS-1細胞が挙げられる。哺乳類細胞において発現を誘導するために好適な発現ベクターは、一般に、プロモーター(例えば、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスおよびシミアンウイルス40などのウイルス物質から誘導される)ならびに他の転写および翻訳制御配列を含む。哺乳類発現ベクターの例には、pCDM8 (Seed, B., Nature 329:840 (1987)) およびpMT2PC (Kaufman et al., EMBO J. 6:187-195 (1987))が挙げられる。
【0069】
本発明に提供されている教示内容を考慮すると、プロモーター、ターミネーターおよび適当な種類の発現ベクターを植物、トリおよび昆虫細胞に導入するための方法も容易に実施することができる。例えば、一態様において、本発明のタンパク質を植物細胞から発現することができる(アグロバクテリウム リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)ベクターの使用を考察しているSinkar et al., J. Biosci (Bangalore) 11 :47-58 (1987)参照;また、特にPAPS2022、PAPS2023およびPAPS2034を含む、植物細胞の発現ベクターの使用を記載しているZambryski et al., Genetic Engineering, Principles and Methods, Hollaender and Setlow (eds.), Vol. Vl, pp. 253-278, Plenum Press, New York (1984)参照)。
【0070】
本発明を実施するために好適な昆虫細胞には、カイコガ属(Bombyx)、ウワバ属(Trichoplusia)またはヨトウ(Spodotera)種の細胞および細胞系統が挙げられる。培養昆虫細胞(SF 9細胞)においてタンパク質を発現するために利用可能なバキュロウイルスベクターには、pAcシリーズ(Smith et al., Mol. Cell Biol. 3:2156-2165 (1983))およびpVLシリーズ(Lucklow, V.A., and Summers, M. D., Virology 170:31-39 (1989))が挙げられる。本発明の組換えタンパク質を発現するために好適な一部のバキュロウイルス-昆虫細胞発現系はPCT/US/02442に記載されている。
【0071】
または、本発明のタンパク質は、ラット、ウサギ、ヒツジおよびブタなどの非ヒト遺伝子導入動物においても発現することができる(Hammer et al. Nature 315:680-683 (1985); Palmiter et al. Science 222: 809- 814 (1983); Brinster et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:4438-4442 (1985); Palmiter and Brinster Cell 41 :343-345 (1985)および米国特許第4,736,866号)。
【0072】
本発明のタンパク質は、固相合成(Merrifield, J. Am. Chem. Assoc. 85:2149-2154 (1964); Frische et al., J. Pept. Sci. 2(4): 212-22 (1996))または均一溶液における合成(Houbenweyl, Methods of Organic Chemistry, ed. E. Wansch, Vol. 15 I and II, Thieme, Stuttgart (1987))などのタンパク質の化学において周知の技法を使用する化学合成によっても調整することができる。
【0073】
本発明はまた、リシン様毒素のA鎖、リシン様毒素のB鎖ならびにAおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列を含むタンパク質であって、リンカー配列が特異的なプロテアーゼの切断認識部位を含有するタンパク質も提供する。このようなタンパク質は、組換え手段以外に、例えば、化学合成によってまたはAおよびB鎖と天然植物、真菌または哺乳類起源から単離精製されるリンカー配列の結合によって調整してもよい。
【0074】
タンパク質などの他の分子が結合した本発明のタンパク質を含むN-末端またはC-末端融合タンパク質は組換え技法による融合によって調整することができる。得られた融合タンパク質は、本明細書に記載する選択されたタンパク質またはマーカータンパク質に融合した本発明のタンパク質を含有する。本発明の組換えタンパク質は、公知の技法によって他のタンパク質にも結合することができる。例えば、タンパク質は、国際公開公報第90/10457号に記載されているヘテロ二官能性チオール-含有リンカー、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ-プロピオネート)またはN-スクシンイミジル-5チオアセテートを使用してカップリングすることができる。融合タンパク質または結合物を調整するために使用することができるタンパク質の例には、免疫グロブリン、ホルモン、成長因子、レクチン、インスリン、低密度リポタンパク質、グルカゴン、エンドルフィン、トランスフェリン、ボンベシン、アシアロ糖タンパク質グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ヘマグルチニン(HA)および切断型mycなどの細胞結合タンパク質が挙げられる。
【0075】
(B) 本発明の核酸
本発明は、(a)リシン様毒素のA鎖をコードするヌクレオチド配列、(b)リシン様毒素のB鎖をコードするヌクレオチド配列および(c)AおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む単離精製された核酸分子であって、異種リンカー配列は疾患特異的プロテアーゼの切断可能な認識部位を含み、A鎖をコードするヌクレオチド配列またはB鎖をコードするヌクレオチド配列はグリコシル化部位を有する少なくとも1つのアミノ酸をコードする単離精製された核酸分子に関する。本発明の好ましい態様において、B鎖のヌクレオチド配列は、グリコシル化部位を有する少なくとも1つのアミノ酸をコードする。別の好ましい態様において、B鎖のヌクレオチド配列は、B1にグリコシル化部位を有するアミノ酸をコードする。
【0076】
本発明の一態様において、本発明の核酸分子は、好ましくは、高度グリコシル化されないで、本発明の組換えタンパク質の発現を可能にする分泌シグナル配列をコードする。好ましい態様において、分泌シグナル配列はリシン分泌シグナル配列である。
【0077】
本発明の別の態様において、本発明の核酸分子は図4、5または6(それぞれ、配列番号4〜6)に示す核酸配列を有する。
【0078】
好ましい態様において、核酸分子は:
(a)図4(配列番号:4)、図5(配列番号:5)または図6(配列番号:6)(ここで、TはUであってもよい)に示す核酸配列;
(b)(a)の核酸配列に相補的な核酸配列;
(c)(a)または(b)の核酸配列との実質的な配列相同性を有する核酸配列;
(d)(a)、(b)もしくは(c)の核酸配列のアナログである核酸配列;または
(e)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下において(a)、(b)、(c)もしくは(d)の核酸配列にハイブリダイゼーションする核酸配列
を含む。
【0079】
「実質的な配列の相同性を有する配列」という用語は、(a)または(b)の配列からわずかなまたは取るに足りない配列の変更を有するような核酸配列を意味する、すなわち配列は実質的に同じように機能する。変更は局所的な突然変異または構造的修飾に寄与することがある。実質的な相同性を有する核酸配列は、図4(配列番号:4)、図5(配列番号:5)、図6(配列番号:6)に示す核酸配列と少なくとも65%、さらに好ましくは、少なくとも85%、最も好ましくは、90〜95%の同一性を有する核酸配列を含む。配列の同一性は、当技術分野において公知の方法により算出することができる。配列の同一性は、最も好ましくは、BLASTバージョン2.1アドバンストサーチのアルゴリズムによって評価される。BLASTは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTにおいてオンラインで利用可能なプログラムシリーズである。アドバンストblastサーチ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/blast.cgi?Jform=1 )はデフォルトパラメーターに設定されている。(すなわち、Matrix BLOSUM62;Gap existence cost 11; Per residue gap cost 1; Lambda ratio 0.85 デフォルト)。BLASTサーチは以下に言及されている:
。
【0080】
「ハイブリダイゼーションする配列」という用語は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下において(a)、(b)、(c)または(d)の配列にハイブリダイゼーションすることができる核酸配列を意味する。DNAハイブリダイゼーションを促進する適当な「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は当業者に公知であるか、またはCurrent Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6において見出すことができる。本明細書において使用する「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という用語は、2つの相補的な核酸分子間の溶液中での選択的なハイブリダイゼーションを促進する条件が選択されることを意味する。ハイブリダイゼーションは核酸配列分子の全てまたは一部に生じてもよい。ハイブリダイゼーションする部分は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の1つに対して長さの少なくとも50%である。これに関しては、核酸2本鎖またはハイブリッドの安定性は、ナトリウムを含有する緩衝液において、ナトリウムイオン濃度、標識核酸のG/C含量、核酸プローブの長さ(l)および温度の関数であるTmによって決定される(Tm=81.5℃-16.6(Log10[Na+])+0.41(%(G+C)-600/l)。従って、ハイブリッドの安定性を決定する洗浄条件のパラメーターはナトリウムイオン濃度および温度である。公知の核酸分子に類似しているが、同一ではない分子を同定するためには、例えば、95%より大きい同一性を有する核酸分子を検索し、最後の洗浄が5℃低い場合には、1%のミスマッチによってTmが約1℃減少すると仮定することができる。これらの考慮点に基づいて、ストリンジェントなハイブリッド条件は以下と規定される:5×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)/5×デンハート液/1.0% SDS、Tm(上記等式に基づく)-5℃におけるハイブリダイゼーション、その後60℃における0.2×SSC/0.1% SDSの洗浄。
【0081】
「アナログである核酸配列」という用語は、(a)、(b)または(c)の配列と比較したとき改変されているが、改変が本明細書に記載する配列の利用性を変更しない核酸配列を意味する。改変された配列またはアナログは、(a)、(b)または(c)に示す配列を上回る特性を有する場合がある。アナログを調整するための改変の一例は、図4(配列番号:4)、図5(配列番号:5)または図6(配列番号:6)に示す配列の天然型塩基(すなわち、アデニン、グアニン、シトシンまたはチミジン)の1つを、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、6-メチル、2-プロピルおよび他のアルキルアデニン、5-ハロウラシル、5-ハロシトシン6-アザウラシル、6-アザシトシンおよび6-アザチミン、シュードウラシル、4-チオウラシル、8-ハロアデニン、8-アミノアデニン、8-チオールアデニン、8-チオアルキルアデニン、8-ヒドロキシルアデニンおよび他の8-置換アデニン、8-ハログアニン、8アミノグアニン、8-チオールグアニン、8-チオアルキルグアニン、8-ヒドロキシルグアニンおよび他の8-置換グアニン、他のアザおよびデアザウラシル、チミジン、シトシン、アデニンまたはグアニン、5-トリフルオロメチルウラシルおよび5-トリフルオロシトシンなどの改変された塩基と置換することである。
【0082】
別の改変の例は、図4(配列番号:4)、図5(配列番号:5)または図6(配列番号:6)に示す核酸分子のリン酸骨格、短鎖アルキルもしくはシクロアルキル糖間結合または短鎖ヘテロ原子もしくは複素環糖間結合に修飾リンまたは酸素ヘテロ原子を含ませることである。例えば、核酸配列は、ホスホロチオエート、ホスホトリエステル、メチルホスホネートおよびホスホロジチオエートを含有してもよい。
【0083】
本発明の核酸分子のアナログのさらに別の例は、DNA(またはRNA)のデオキシリボース(またはリボース)リン酸骨格がペプチドに見られるものと類似しているポリアミド骨格で置換されているペプチド核酸(PNA)である(P. E. Nielsen, et al Science 1991 , 254, 1497)。PNAアナログは、酵素による分解に耐性であり、インビボおよびインビトロにおいて寿命が長いことが示されている。PNAは、PNA鎖とDNA鎖間の荷電反発がないので、相補的な(complimentary)DNA配列に強力に結合する。他の核酸アナログは、ポリマー骨格、環状骨格または非環状骨格を含有するヌクレオチドを含有してもよい。例えば、ヌクレオチドはモルホリノ骨格構造を有してもよい(米国特許第5,034,506号)。アナログは、レポーター基、核酸配列の薬物動態または薬物動力学的特性を改善するための基などの基も含有してもよい。
【0084】
本明細書において使用する「単離精製された」という用語は、組換えDNA技法によって作製されるとき細胞物質もしくは培養培地または化学的に合成されるとき化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まない核酸をいう。「単離精製された」核酸はまた、核酸が誘導される核酸に天然に隣接している配列(すなわち、核酸の5'および3'末端に位置する配列)を実質的に含まない。「核酸」という用語はDNAおよびRNAを含むことが意図されており、2本鎖または1本鎖であってもよい。
【0085】
組換え毒性タンパク質をコードする本発明の核酸分子は、グリコシル化変種シリーズを作製するために、プレプロリシンcDNAクローンを部位特異的変異誘発に供することによってクローニングされる。プレプロシン遺伝子の5'および3'最末端に対応するオリゴヌクレオチドを合成し、遺伝子をPCR増幅するために使用する。プレプロリシンのcDNA配列を使用すると(Lamb et al., Eur. J. Biochem. 145:266- 270 (1985))、いくつかのオリゴヌクレオチドプライマーは、プレプロリシンオープンリーディングフレームの開始および停止コドンに隣接するように設計される。
【0086】
プレプロリシンcDNAは、標準的な手法を使用して(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989))、上流プライマーRicin-99またはRicin-109および下流プライマーRicin1729CならびにVent DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)を使用して増幅される。次いで、プレプロリシンcDNAをコードする精製PCRフラグメントを、Eco RV-消化したpBluescript 11 SKプラスミド(Stratagene)にライゲーションし、コンピテントXL1-Blue細胞(Stratagene)を形質転換するために使用する。プレプロリシン遺伝子と推定されるものを含有するクローニングされたPCR産物は、完全なcDNAクローンのDNA配列決定によって確認される。
【0087】
グリコシル化変種シリーズを作製するために、プレプロリシンcDNAクローンをQuickchange変異誘発(Stratagene)に供する。具体的な態様において、突然変異は、Asnをコードする核酸配列を、1つまたは複数のセクオンのGlnをコードする核酸配列と置換することに関係する。
【0088】
上記のように、リシン遺伝子はクローニングされ、配列決定されており、AおよびB鎖のX-線結晶構造が公開されている。本発明は、リシン様タンパク質のAおよびB鎖の切断型ならびにリシン様タンパク質のAおよびB鎖のアナログおよび相同物ならびにそれらの切断型(すなわち、リシン様タンパク質)をコードする核酸を含むことが理解される。本発明のcDNAに対応するmRNAの別のスプライシングによって生じる本発明の核酸の変異型も本発明に含まれることがさらに理解される。
【0089】
本発明の核酸分子は、リシン様毒素のAおよび/またはB鎖を含んでもよい。リシン様毒素をクローニングする方法は当技術分野において公知であり、例えば、E. P. 466,222に記載されている。リシンまたはリシン様AおよびB鎖をコードする配列は、ゲノムまたはcDNAライブラリーにおいてコード領域を選択的に増幅するための変性プライマーまたはプローブセットを使用してコード領域の選択的増幅によって得ることができる。適当なプライマーは、リシンまたはリシン様毒素のAおよびB鎖の核酸配列から選択することができる。PCRに使用するためにヌクレオチド配列から合成オリゴヌクレオチドプライマーを設計することも可能である。例えば、米国特許第5,101,025号およびE. P. 466,222号に記載されているように、高度に保存されているリシン様タンパク質の領域をコードする配列から好適なプライマーを選択してもよい。
【0090】
これらのオリゴヌクレオチドプライマーおよび標準的なPCR増幅技法を使用して、cDNAまたはゲノムDNAから核酸を増幅することができる。このように増幅された核酸を適当なベクターにクローニングして、DNA配列分析によって特徴づけることができる。例えば、Chirgwinら(Biochemistry 18, 5294-5299 (1979)のグアニジンチオシアン酸塩抽出手法を使用することによって、種々の技法によって総細胞mRNAを単離することによってcDNAをmRNAからさ区政することができることが理解されている。次いで、逆転写酵素(例えば、Gibco/BRL, Bethesda, MD社製のモロニーMLV逆転写酵素またはSeikagaku America, Inc., St. Petersburg, FL社製のAMV逆転写酵素)を使用して、cDNAをmRNAから合成する。上記の方法を使用して、公知のリシン様タンパク質を産生する植物、細菌または真菌、好ましくは、植物からコード配列を入手することができるおよび未知のリシン様タンパク質をコードする遺伝子の存在についてスクリーニングすることができることが理解されている。
【0091】
特異的なプロテアーゼの切断認識部位を含有する配列は、組換えタンパク質によって標的とされる疾患または状態に基づいて選択することができる。切断認識部位は、治療される疾患または状態の切断認識部位特異的なプロテアーゼをコードすることが公知の配列から選択することができる。切断認識部位をコードする配列は、それぞれのプロテアーゼによる切断の感受性について配列の発現産物を試験することによって同定することができる。切断認識部位と疑われるものを含有するポリペプチドを特異的なプロテアーゼと共にインキュベーションし、切断産物の量を求める(Dilannit, 1990, J. Biol. Chem. 285: 17345- 17354 (1990))。特異的なプロテアーゼは当技術分野において公知の方法によって調整することができ、切断認識部位と疑われるものを試験するために使用することができる。
【0092】
本発明の核酸分子は融合タンパク質もコードすることができる。特異的なプロテアーゼの切断認識部位を含有する異種リンカー配列をコードする配列は、cDNAもしくはゲノムライブラリーからクローニングしてもまたはこのような切断部位の公知の配列に基づいて化学的に合成してもよい。次いで、異種リンカー配列を、融合タンパク質として発現するために、リシン様毒素のAおよびB鎖をコードする配列のフレーム内に融合することができる。融合タンパク質をコードする核酸分子は同じリシン様毒素のA鎖およびB鎖をコードする配列を含有してもまたはコードされるAおよびB鎖は異なる毒素由来であってもよいことが理解される。例えば、A鎖はリシン由来であってもよく、B鎖はアブリン由来であってもよい。タンパク質は、共有結合のための従来のカップリング剤を使用してAおよびB鎖とリンカー配列との化学的結合によって調整されてもよい。
【0093】
RNAである本発明の単離精製された核酸分子は、cDNAの転写を可能にする適当なベクターにAおよびB鎖ならびにリンカーをコードするcDNAをクローニングして、本発明のタンパク質をコードするRNA分子を作製することによって単離することができる。例えば、cDNAをベクターのバクテリオファージプロモーター(例えば、T7プロモーター)の下流にクローニングし、cDNAをインビトロにおいてT7ポリメラーゼで転写し、得られたRNAを標準的な技法によって単離することができる。
【0094】
(C) 本発明の組換えタンパク質および核酸分子の利用性
(i)治療方法
一態様において、本発明は、疾患に罹患しており、疾患に特異的なプロテアーゼに関連している細胞を阻害または破壊する方法であって、
(a)本発明の単離精製された核酸を調整する段階;(b)宿主細胞に核酸を導入し、宿主細胞において核酸を発現して、本発明の組換えタンパク質を得る段階;(c)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤にタンパク質を懸濁させる段階、および(d)細胞と組換えタンパク質を接触させる段階を含む方法を提供する。
【0095】
「本発明の核酸」および「本発明の組換えタンパク質」という用語は、照会の容易さのために使用され、セクションAおよびBならびに実施例および図面において言及される全ての核酸分子および組換えタンパク質を含む。
【0096】
別の態様において、本発明は、細胞と本発明の組換えタンパク質を接触させる段階を含む、疾患に罹患している細胞を阻害または破壊する方法を提供する。本発明はまた、疾患に罹患している細胞を阻害または破壊するためにの本発明の組換えタンパク質の使用を含む。本発明は、さらに、疾患に罹患している細胞を阻害または破壊するための医薬品を製造する際の本発明の組換えタンパク質の使用を含む。
【0097】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMPまたはマトリキシン)は亜鉛-依存性プロテイナーゼであり、MMP遺伝子の発現は炎症性障害(例えば、関節リウマチ)および悪性腫瘍において活性化されることが報告されている。また、関節リウマチ(Slot, O., et al. 1999)、骨関節炎(Pap, G. et al., 2000)などの炎症性障害、アテローム性硬化細胞(Falkenberg, M., et al., 1998)、クローン病(Desreumaux P, et al. 1999)、中枢神経系疾患(Cuzner and Opdenakker, 1999)および悪性腫瘍においてウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子の活性および発現の増加に関する報告がある。従って、本発明の組換えタンパク質は、疾患に罹患している細胞を特異的に阻害または破壊するために使用することができる。
【0098】
「疾患に罹患している細胞」という用語は、このような細胞、例えば、癌細胞、炎症性細胞またはウイルス、真菌もしくは寄生虫に感染している細胞を、組換えタンパク質のリンカー配列を切断することができる特異的なプロテイナーゼと関連させる疾患または感染症に罹患している細胞をいう。疾患には、T-およびB-細胞リンパ球増殖性疾患、卵巣癌、膵臓癌、頭頸部癌、扁平上皮癌、消化器癌、乳癌、前立腺癌、肺癌および肝臓癌などの種々の形態の癌が挙げられる。疾患にはまた、マラリアならびにヒトサイトメガロウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、ヒトライノウイルス、ヒトT-細胞白血病ウイルス、感染性喉頭気管支炎ウイルス、灰白髄炎ウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルスなどの感染に関連する種々のウイルス疾患状態が挙げられる。疾患には、またマラリア原虫(Plasmodium)寄生虫などの寄生虫感染症が挙げられる。
【0099】
さらに特に、本発明の組換えタンパク質を使用して、組換えタンパク質のリンカー配列を切断することができるプロテアーゼを含有する癌細胞を特異的に阻害または破壊することができる。
【0100】
細胞結合成分の必要性なく、本発明の組換えタンパク質が、炎症性障害および癌細胞のプロテアーゼを含む特異的なプロテアーゼを含有する細胞に対する特異性を有することは本発明の組換えタンパク質の利点である。組換えタンパク質のリシン様B鎖は細胞表面のガラクトース部分を認識して、タンパク質が、例えば、癌細胞によって取り込まれて、細胞質に放出されることを確実にする。タンパク質が正常な細胞に内部移行すると、異種リンカーの切断は特異的なプロテアーゼの非存在下では生じないと思われ、A鎖はB鎖に結合されていて無傷の状態を保持する。逆に、タンパク質が、特異的なプロテアーゼを有する細胞に内部移行すると、特異的なプロテアーゼはリンカーの切断認識部位を切断し、それによって毒性のA鎖を放出する。
【0101】
従って、本発明は、例えば、炎症細胞または癌細胞のような特異的なプロテアーゼを有する細胞を阻害または破壊する方法であって、このような細胞と、本発明の組換えタンパク質または組換えタンパク質をコードする核酸分子の有効量を接触させる段階を含む方法を提供する。本発明はまた、特異的なプロテアーゼを有する細胞を治療する方法であって、必要としている動物に本発明の組換えタンパク質または組換えタンパク質をコードする核酸の有効量を投与する段階を含む方法を提供する。本発明はまた、特異的なプロテアーゼを有する細胞を治療するための、本発明の組換えタンパク質または組換えタンパク質をコードする核酸分子の有効量の使用も含む。本発明はさらに、特異的なプロテアーゼを有する細胞を治療するための医薬品を製造する際の、本発明の組換えタンパク質または組換えタンパク質をコードする核酸分子の有効量の使用も含む。
【0102】
本明細書において使用する「有効量」という用語は、望ましい結果を達成するのに必要な用量および期間において有効な量を意味する。
【0103】
本明細書において使用する「動物」という用語は、全ての哺乳類、鳥類、魚類、爬虫類および両生類を含む動物界の任意のメンバーを意味する。好ましくは、治療対象の動物は哺乳類であり、さらに好ましくは、ヒトである。
【0104】
本明細書において使用する「治療または治療する」という用語は、臨床結果を含む有用なまたは望ましい結果を得るための方法を意味する。有用なまたは望ましい臨床結果には、検出可能であるかどうかにかかわらず、1つまたは複数の症状または状態の軽減または寛解、疾患の程度の軽減、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しない)、疾患の拡散の防止、疾患進行の遅延または緩徐化、疾患状態の寛解または緩和、および寛解(部分的または全体的)、が挙げられるが、それに限定されるわけではない。「治療する」はまた、治療を受けていない場合に期待される生存と比較したとき、生存を延長することを意味する。
【0105】
本発明の組換えタンパク質の特異性は、リンカーの切断認識部位に特異的であると考えられる特異的なプロテアーゼでタンパク質を処理し、切断産物をアッセイすることによって試験することができる。例えば、特異的なプロテアーゼは癌細胞から単離しても、または例えば、Darket et al. (J. Biol. Chem. 254:2307-2312 (1988))の手法に従って組換えにより調整されてもよい。切断産物は、例えば、サイズ、抗原性または活性に基づいて同定することができる。組換えタンパク質の毒性は、例えば、鋳型としてブロムモザイクウイルスmRNAを使用して、細胞溶解液におけるインビトロ翻訳アッセイに切断産物を供することによって検討することができる。切断産物の毒性は、リボソーム不活性化アッセイを使用して判定することができる(Westby et al., Bioconjugate Chem. 3:377-382 (1992))。タンパク質合成に対する切断産物の影響は、例えば、リボソーム源としての網状赤血球溶解液調製物ならびにmRNA鋳型およびアミノ酸などの種々の本質的な補助因子を含む部分的に規定された細胞フリーシステムを使用する標準化されたインビトロ翻訳アッセイにおいて測定することができる。混合物中に放射性標識アミノ酸を使用すると、トリクロロ酢酸沈殿性タンパク質への遊離アミノ酸前駆体の取り込みを定量することが可能になる。ウサギ網状赤血球溶解液は便利に使用することができる(O'Ηare, FEBS Lett. 273:200-204 (1990))。
【0106】
本発明の組換えタンパク質が特異的なプロテアーゼを有する細胞を選択的に阻害または破壊する能力は、癌細胞系統などの特異的なプロテアーゼを有する細胞系統を使用してインビトロにおいて容易に試験することができる。本発明の組換えタンパク質の選択的な阻害作用は、例えば、癌細胞または感染細胞において細胞増殖の選択的な阻害を実証することによって判定することができる。
【0107】
毒性は細胞の生存度に基づいても測定することができ、例えば、組換えタンパク質に接触させた癌および正常細胞培養物の生存度を比較することができる。細胞の生存度は、トリパンブルー排除アッセイなどの公知の技法によって評価することができる。
【0108】
別の例において、数多くのモデルを使用して、癌関連マトリックスメタロプロテイナーゼの切断認識部位を含有する異種リンカー配列を有する組換えタンパク質の毒性を試験することができる。Thompson, E.W. et al. (Breast Cancer Res. Treatment 31 :357-370 (1994))は、細胞外マトリックスの腫瘍細胞-媒介性タンパク質分解および再構成された基底膜(コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲルまたはゼラチン)の腫瘍細胞浸潤を測定することによって、インビトロにおけるヒト乳癌細胞の浸潤を判定するモデルを記載している。適用可能な癌細胞モデルには、培養卵巣腺癌細胞(Young, T.N. et al. Gynecol. Oncol. 62:89-99 (1996);Moore, D. H. et al. Gynecol. Oncol. 65:78-82 (1997))、ヒト濾胞性甲状腺癌細胞(Demeure, M. J. et al., World J. Surg. 16:770-776 (1992))、ヒトメラノーマ(A-2058)および線維肉腫(HT-1080)細胞系統(Mackay, A. R. et al. Lab. Invest. 70:781 783 (1994))ならびに肺扁平上皮(HS-24)および腺癌(SB-3)細胞系統(Spiess, E. et al. J. Histochem. Cytochem. 42:917-929 (1994))が挙げられる。胸腺欠損ヌードマウスにおける腫瘍の植え込みならびに腫瘍増殖および転移の測定に関係するインビボ試験系も記載されている(Thompson, E. W. et al., Breast Cancer Res. Treatment 31 : 357-370 (1994); Shi, Y. E. et al., Cancer Res. 53:1409-1415 (1993))。
【0109】
特異的なプロテアーゼを有する細胞に対する本発明のタンパク質の主要な特異性はリンカーの切断認識部位の特異的な切断によって媒介されるが、特異的な細胞結合成分が、本発明のタンパク質に任意に結合されてもよいことが理解される。このような細胞結合成分は、本発明のタンパク質との融合タンパク質として発現されてもまたは細胞結合成分はタンパク質成分に物理的もしくは化学的に結合されてもよい。好適な細胞結合成分の例には、癌タンパク質に対する抗体、サイトカインおよび受容体フラグメントが挙げられる(Frankel et al., Protein Eng. 9(10): 913-9 (1996); Frankel et al., Carbohydr. Res. 300(3): 251-8 (1997))。
【0110】
細胞表面タンパク質に対する特異性を有する抗体は従来の方法によって調整することができる。哺乳類に抗体応答を誘発する免疫原性型のペプチドで哺乳類(例えば、マウス、ハムスターまたはウサギ)を免疫することができる。ペプチドに免疫原性を与える技法には、キャリヤーとの結合または当技術分野において周知の他の技法が挙げられる。例えば、ペプチドをアジュバントの存在下において投与することができる。免疫化の進行は、血漿または血清における抗体価の検出によってモニターすることができる。標準的なELISAまたは他のイムノアッセイ手法を抗原としての免疫原と共に使用して抗体のレベルを評価することができる。免疫化後、抗血清を入手し、望ましい場合には、ポリクローナル抗体を血清から単離することができる。
【0111】
モノクローナル抗体を作製するためには、抗体産生細胞(リンパ球)を免疫化動物から採取し、標準的な体細胞融合手法によって骨髄腫細胞と融合し、それによってこれらの細胞を不死化し、ハイブリドーマ細胞を生じる。このような技法は当技術分野において周知である(例えば、ハイブリドーマ技法は、最初にKohler and Milstein (Nature 256:495-497 (1975))ならびにヒトB-細胞ハイブリドーマ技法(Kozbor et al., Immunol.Today 4:72 (1983))、ヒトモノクローナル抗体を作製するためのEBV-ハイブリドーマ技法(Cole et al., Methods Enzymol, 121 :140-67 (1986))およびコンビナトリアル抗体ライブラリーのスクリーニング(Huse et al., Science 246:1275 (1989))などの他の技法も当技術分野において周知である。ハイブリドーマ細胞は、ペプチドと特異的に反応する抗体の産生について免疫化学的にスクリーニングすることができ、モノクローナル抗体を単離することができる。
【0112】
本明細書において使用する「抗体」という用語は、細胞表面成分と特異的に反応するそのフラグメントを含むことが意図されている。抗体は、従来の技法を使用してフラグメント化することができ、上記と同じ方法で利用性についてフラグメントをスクリーニングすることができる。例えば、抗体をペプシンで処理することによって、F(ab')2フラグメントを作製することができる。得られたF(ab')2フラグメントは、ジスルフィド架橋を減少するように処理して、Fabフラグメントを作製することができる。
【0113】
キメラ抗体誘導体、すなわち、非ヒト動物可変領域とヒト不変領域を合わせた抗体分子も本発明の範囲内であると考慮される。キメラ抗体分子は、例えば、マウス、ラットまたは他の種の抗体の抗原結合ドメインおよびヒト不変領域を含んでもよい。従来の方法を使用して、細胞表面抗原を認識する免疫グロブリン可変領域を含有するキメラ抗体を作製することができる(例えば、Morrison et al., Proc. Natl Acad. Sci. U.S.A. 81 :6851 (1985); Takeda et al., Nature 314:452 (1985), Cabilly et al.、米国特許第4,816,567号;Boss et al.、米国特許第4,816,397号;Tanaguchi et al., 欧州特許第171,496号;欧州特許第173,494号;英国特許第GB 2177096B参照)。キメラ抗体は、対応する非-キメラ抗体よりヒト被験者において免疫原性が低いと思われることが期待される。
【0114】
可変領域の一部、特に抗原結合ドメインの保存されているフレームワーク領域がヒト起源であり、高頻度可変性領域だけが非ヒト起源であるヒト不変領域キメラを作製することによって細胞表面成分に特異的に反応性のモノクローナルまたはキメラ抗体をさらにヒト化することができる。このような免疫グロブリン分子は当技術分野において公知の技法によって作製することができる(例えば、Teng et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 80:7308-7312 (1983); Kozbor et al., Immunology Today 4:7279 (1983); Olsson et al., Meth. Enzymol., 92:3-16 (1982)およびPCT 公報W092/06193またはEP 239,400)。ヒト化抗体は商業ベースで作製することもできる(Scotgen Limited, 2 Holly Road, Twickenham, Middlesex, Great Britain.)。
【0115】
細胞表面成分に反応性の特異的な抗体または抗体フラグメントは、細胞表面成分を有する細菌において発現される発現ライブラリーをコードする免疫グロブリン遺伝子またはそれらの一部をスクリーニングすることによっても作製することができる。例えば、完全なFabフラグメント、VH領域およびFV領域は、ファージ発現ライブラリーを使用して細菌において発現することができる(例えば、Ward et al., Nature 341 :544-546 (1989); Huse et al., Science 246:1275-1281 (1989);およびMcCafferty et al., Nature 348:552-554 (1990)参照)。または、SCID-huマウス、例えば、Genpharmによって開発されたモデルを使用して抗体またはそれらのフラグメントを作製することができる。
【0116】
(ii)薬学的組成物
本発明のタンパク質および核酸は、インビボにおいて投与するのに好適な生物学的に適合性の形態で被験者に投与するための薬学的組成物に製剤化することができる。「インビボにおいて投与するのに好適な生物学的に適合性の形態」は、任意の毒性作用より治療作用が勝る物質の投与される形態を意味する。物質は、ヒトおよび動物を含む生きている生物に投与することができる。本発明の薬学的組成物の治療的に活性な量の投与は、望ましい結果を達成するのに必要な用量および期間にわたる有効な量と規定される。例えば、物質の治療的に活性な量は、疾患の状態、患者の年齢、性別および体重ならびに本発明の組換えタンパク質が患者において望ましい応答を誘発する能力により変わってもよい。最適の治療応答を提供するように用法用量を調節することができる。例えば、数回の分割投与を毎日投与してもまたは治療状況の要件に示されるように用量を均等に減少してもよい。
【0117】
従って、本発明は、本発明の組換えタンパク質または組換えタンパク質をコードする核酸および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む特異的なプロテアーゼを有する細胞を治療するための薬学的組成物を提供する。
【0118】
作用物質は、注射(皮下、静脈内、筋肉内等)、経口投与、吸入、経皮投与(局所クリームまたは軟膏等など)または坐剤適用などの便利な方法で投与することができる。投与経路に応じて、作用物質は、酵素、酸および化合物を不活性化する可能性のある他の天然の条件の作用から化合物を保護するための材料でコーティングすることができる。
【0119】
本明細書に記載する組成物は、作用物質の有効な量が、混合物において、薬学的に許容される基剤と合わされるように、被験者に投与することができる薬学的に許容される組成物を製造するための公知の方法によって製造することができる。好適な基剤は、例えば、RemingtonのPharmaceutical Sciences (Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., USA 1985)に記載されている。これに基づいて、組成物には、1つまたは複数の薬学的に許容される基剤または希釈剤と関連している物質の溶液、および好適なpHで、生理液と等浸透圧の緩衝液に含有される物質の溶液が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0120】
薬学的組成物は、癌が認められるまたはウイルス、真菌もしくは寄生虫が感染している哺乳類を含む動物、好ましくは、ヒトを治療するための方法に使用することができる。投与される組換えタンパク質の用量および種類は、ヒト被験者において容易にモニターすることができる種々の因子に依存する。このような因子には、異常増殖または感染症の原因および重症度(程度および病期)が挙げられる。
【0121】
(iii)併用療法
承認されている抗癌療法の大半において、薬剤は併用使用される。本発明の組換えタンパク質は、他の従来の抗癌療法と併用使用すると、超相加(supradditive)作用を有することを本発明者らは見出した。「抗癌療法」という用語は、ドキソルビシン、シスプラチン、シクロホスファミドエトポシド、パクリタキセル、タキソテール、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、トポテカン、ビンクリスチン、ゲムシタビン、エピルビシン、カペシタビンおよびテモゾロミドなどの化学療法剤を含むが、これらに限定されない任意の抗癌療法を含む。
【0122】
一態様において、本発明は、本発明の組換えタンパク質および核酸を少なくとも1つの他の抗癌療法と併用使用して、癌に罹患している細胞を阻害または破壊する方法を提供する。本発明はまた、癌に罹患している細胞を阻害または破壊するためのa)本発明の組換えタンパク質または核酸をb)追加の癌療法と併用した使用も含む。本発明はまた、癌に罹患している細胞を阻害または破壊するための医薬品の製造における、a)本発明の組換えタンパク質または核酸をb)追加の抗癌療法と併用した使用も含む。
【0123】
別の態様において、本発明は、本発明の組換えタンパク質を調整する段階および少なくとも1つの他の抗癌療法と併用してタンパク質を哺乳類に投与する段階を含む、癌が認められる哺乳類を治療する方法を提供する。
【0124】
本発明の別の態様は、本発明の組換えタンパク質および/または本発明の核酸および少なくとも1つの他の抗癌療法を使用して、癌が認められる哺乳類を治療するための薬剤を製造する方法である。本発明のさらに別の態様は、本発明の組換えタンパク質および/または本発明の核酸および少なくとも1つの他の抗癌療法を有する、癌を治療するための薬学的組成物である。
【0125】
以下の限定するものではない実施例は本発明を例示している。
【0126】
実施例
実施例1:グリコシル化変種
天然のリシンは、N-結合炭水化物を有する糖タンパク質である。リシンのアミノ酸配列によると、4つのセクオンが存在する:A-鎖に2つの部位およびB-鎖に2つの部位。本発明者らが製造したリシン由来のプロドラッグにも4つのセクオンが存在する。A鎖の2つのセクオンはA1およびA2と呼ばれるが、B鎖の2つはB1およびB2と呼ばれる。8つのアミノ酸リンカーを有するプロリシン構築物において、A1グリコシル化部位はアミノ酸位置14であり、A2グリコシル化部位はアミノ酸位置240であり、B1グリコシル化部位はアミノ酸位置363であり、B2グリコシル化部位はアミノ酸位置403である。グリコシル化は天然のタンパク質では4つ全ての部位においてある程度生じるが、分子の安定性および活性に対するグリコシル化の重要性は完全には明らかではない。本発明者らは、リシン由来のプロドラッグを作製するためにグリコシル化コンピテント酵母を使用する。プロドラッグTST10001からTST10007の発現として酵母を使用するとき、グリコシル化はA鎖の1つだけの位置およびB鎖の2つの部位において生じることを出願人は観察した。明らかに、A鎖の第2のセクオンは酵母において不活性である。
【0127】
組換え糖タンパク質は、それらの炭水化物成分において異種である傾向であるので、問題である。さらに、組換え体を作製するために使用する発酵過程の変動がこの異種性の特性に影響を与えることがある-すなわち、異種性は、タンパク質に結合している炭水化物鎖の数の変動または個々の鎖の組成の差またはその両方によって発現する可能性がある。
【0128】
本発明者らは、セクオンが修飾または脱離されている32のグリコシル化変種(表1および2)を調査した。
【0129】
TST10088構築物(図1および4(それぞれが、配列番号1および4)を参照)では、セクオンは2つ(A2およびB1)存在する。酵母発現系では、TST10088構築物のA2部位はグリコシル化されず、従って発現されるタンパク質はB鎖のB1の1つの部位だけがグリコシル化されている。
【0130】
図1は、TST10088構築物のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。残存するKEX2切断アミノ酸(Glu-Ala-Glu-Ala)を太字で示す(アミノ酸位置1〜4)。A1グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(アミノ酸位置14)。A2グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置240)。B1グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置363)。B2グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(アミノ酸位置403)。リンカー配列アミノ酸を太字で示す(アミノ酸位置264〜271)。
【0131】
図4はTST10088構築物の核酸配列(配列番号4)を示す。未変性のプロリシン分泌シグナルを太字で示す(ヌクレオチド位置-117〜-13)。A1グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(ヌクレオチド位置40〜42)。A1グリコシル化部位を太字で示す(ヌクレオチド位置718〜720)。B1グリコシル化部位を太字で示す(ヌクレオチド位置1087〜1089)。B2グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(ヌクレオチド位置1207〜1209)。リンカー配列を太字で示す(ヌクレオチド位置790〜813)。KEX2切断シグナルを太字で示す(ヌクレオチド位置-13〜-1)。
【0132】
TST10092構築物(図2および5参照)では、セクオンは3つ存在する(A2、B1およびB2)。酵母発現系では、TST10092構築物のA2部位はグリコシル化されず、従って発現されるタンパク質は2つの部位(B1およびB2)だけがグリコシル化されている。
【0133】
図2は、TST10092構築物のアミノ酸配列(配列番号2)を示す。残存するKEX2切断アミノ酸(Glu-Ala-Glu-Alaを太字で示す(アミノ酸位置1〜4)。A1グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(アミノ酸位置14)。A2グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置240)。B1グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置363)。B2グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置403)。リンカー配列アミノ酸を太字で示す(アミノ酸位置264〜271)。
【0134】
図5はTST10092構築物の核酸配列(配列番号5)を示す。未変性のプロリシン分泌シグナルを太字で示す(ヌクレオチド位置-117〜-13)。A1グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(ヌクレオチド位置40〜42)。ヌクレオチド位置718〜720のA2グリコシル化部位を太字で示す。ヌクレオチド位置1087〜089のB1グリコシル化部位を太字で示す。B2グリコシル化部位を太字で示す(ヌクレオチド位置1207〜1209)。リンカー配列を太字で示す(ヌクレオチド位置790〜813)。KEX2切断シグナルを太字で示す(ヌクレオチド位置-13〜-1)。
【0135】
TST10147構築物(図3および6(それぞれが、配列番号3および6)を参照)では、セクオンは2つ存在する(A2およびB1)。酵母発現系では、TST10147構築物のA2部位はグリコシル化されず、従って発現されるタンパク質は1つの部位だけがグリコシル化されている(B1)。
【0136】
図3は、TST10147構築物のアミノ酸配列を示す。残存するKEX2切断アミノ酸(Glu-Ala-Glu-Ala)を太字で示す(アミノ酸位置1〜4)。A1グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(アミノ酸位置14)。A2グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置240)。B1グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置364)。B2グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(アミノ酸位置404)。リンカー配列アミノ酸を太字で示す(アミノ酸位置264〜272)。
【0137】
図6はTST10147構築物の核酸配列を示す(配列番号6)。未変性のプロリシン分泌シグナルを太字で示す(ヌクレオチド位置-117〜-13)。A1グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(ヌクレオチド位置40〜42)。A2グリコシル化部位を太字で示す(ヌクレオチド位置718〜720)。B1グリコシル化部位を太字で示す(ヌクレオチド位置1090〜1092)。B2グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(ヌクレオチド位置1210〜1212)。リンカー配列を太字で示す(ヌクレオチド位置790〜816)。KEX2切断シグナルを太字で示す(ヌクレオチド位置-13〜-1)。
【0138】
1(a)グリコシル化部位のコンビナトリアル変異誘発:天然遺伝子配列およびコドン最適化遺伝子
天然のリシン分子には、公知の炭水化物結合部位は4つ存在する:
セクオンA1、A2、B1およびB2。セクオンの相対的な位置を図7に示す。B3およびB4と指定される2つの謎めいたセクオンもアミノ酸配列見られ、可能な活性を判定するために突然変異を形成した。謎めいた部位は組換え体ではグリコシル化されないことが今では明らかである。DNAクローンは本明細書においてpPICと呼ばれ、対応するタンパク質はTSTとして公知である。高い程度の高度グリコシル化が、α接合因子分泌シグナルを使用したクローンから作製されたタンパク質に観察された(TST 10007〜TST 10087)。または、リシン分泌シグナルを使用したクローンでは、高度グリコシル化は実質的に排除されていた(TST 10088〜TST 10092)。結合位置の主要なアミノ酸は、クローン名の隣に示されている。括弧内のアミノ酸は、セクオンの他の(非結合)位置の突然変異を示す。グリコシル化コンピテントセクオン(酵母)を青で示す。グリコシル化されない位置を黄色で示す。表1および2参照。
【0139】
1(b)グリコシル化パターン
ウェスタンブロット分析を使用してグリコシル化変種を特徴づけた。図8は、セクオンの異なる組み合わせを有する変種サブセットのグリコシル化パターンを示す。5つの異なるタンパク質種がウェスタンブロット/PAGEによって観察された。ゲルの最上部から最下部において、これらの種は以下である;i)高度グリコシル化材料(ほとんどのレーンにおいてしみとして出現する)、ii)3つのグリコシル化部位が占めている(TST10062においてトリプレットの最上部に明確なバンド)、iii)2つのグリコシル化部位が占めている、iv)1つのグリコシル化部位が占めている、v)グリコシル化なし(TST10008において明確なバンド)。A鎖の2つのセクオンをA1およびA2と呼ぶが、B鎖の2つをB1およびB2と呼ぶ。TST10007(天然A鎖およびB鎖配列、4つ全てのセクオンが利用可能である)は、2つおよび3つの炭水化物鎖が主に結合しているタンパク質であることが結果から明らかである。A1セクオンは当節の30%だけがグリコシル化され、A2は本質的にグリコシル化されなかった。振とうフラスコ発酵では、B鎖の両方のセクオンがグリコシル化される。しかし、同じ変種が発酵槽培養で発現されるとき、B鎖グリコシル化の異種性の証拠が存在する。
【0140】
図8は、ウェスタンブロット/PAGEによって観察された5つの異なるタンパク質種を示す。ゲルの最上部から最下部において、これらの種は以下である;i)高度グリコシル化材料(ほとんどのレーンにおいてしみとして出現する)、ii)3つのグリコシル化部位が占めている(TST10062においてトリプレットの最上部に明確なバンド)、iii)2つのグリコシル化部位が占めている、iv)1つのグリコシル化部位が占めている、v)グリコシル化なし(TST10008において明確なバンド)。
【0141】
1(c)P388に対する糖型1の有効性
さらに別の検討において、A鎖のグリコシル化を防ぐようにA1セクオンを改変し、任意の事象において、ピキア パストリス(Pichia pastoris)においてグリコシル化されないので、A2の改変は不必要であった。糖型0と呼ばれる変種(TST10077)を3つのコンピテント位置において改変して(A2変化は不必要であった)、任意の炭水化物が結合されていないタンパク質を作製した。糖型1と呼ばれる変種(TST10088と本質的に同一であるTST10086分泌シグナルだけが異なる変種)はB1位置だけがグリコシル化されるが、糖型2(TST10092と本質的に同一であるTST10087分泌シグナルだけが異なる変種)はB1およびB2位置がグリコシル化される。
【0142】
3つの異なる糖型の活性をP388動物モデルにおいて検討し、結果を図9、10および11に示す。図9は、TST10077で治療したP388皮下腫瘍モデルを示す。治療な静脈内注射(n=4)で行った。図10は、TST10086(TST10088と同一のタンパク質)で治療したP388皮下腫瘍モデルを示す。治療は、3、6および9日目に静脈内注射した(n=4)。図11は、TST10087(TST10092と同一のタンパク質)で治療したP388皮下腫瘍モデルを示す。治療は、3、6および9日目に静脈内注射した(n=4)。図12は、TST10077、TST10086およびTST10087で治療したP388皮下腫瘍モデルにおける体重低下データを示す。治療は、3、5および9日目に静脈内注射した(n=4)。糖型1および糖型2は同じ有効性を持つと思われるが、糖型2は、糖型1より毒性がかなり大きいことが見出された(すなわち、体重低下が大きい-図12参照)。従って、TST10088(糖型1)は、毒性が低いので、前臨床開発に進めるのにすぐれた分子であると判定された。
【0143】
従って、少なくとも1つの炭水化物鎖(すなわち、タンパク質のB鎖の1つのグリコシル化部位)がプロドラッグの活性に必須であることを本発明者らは確立した。炭水化物が完全に欠損しているタンパク質は活性が低下する(図9)。さらに、グリコシル化されていないタンパク質は発現が非常に困難であり、それらは不安定性が大きいことを示唆している。非グリコシル化タンパク質は取り込み中に誤って誘導されるが、適当な取り込み経路および小胞体への局在化を決定するために一部の炭水化物が必要であると本発明者らは考えている。利用可能なすべての部位が広範にグリコシル化されたタンパク質は、一グリコシル化種と比較して毒性が大きいことに注目することも興味深い(図12)。
【0144】
1(d)グリコシル化パターンおよび分泌シグナル
TST10007の発酵による産物の収率は、広範な高度グリコシル化のために典型的には悪い(すなわち、分泌されるタンパク質の>70%)。高度グリコシル化された材料は下流の精製段階において除去した。TST10086の場合には、機能的グリコシル化部位は1つだけであり、高度グリコシル化は分泌タンパク質の約10%に減少していたので、産物の収率は比較的改善されていた。図13は、TST10007およびTST10086の発酵最終産物を比較する銀染色したSDS-PAGEゲルを示す(すなわち、未精製の粗産物)。TST10007およびTST10086の発酵最終産物を比較する銀染色したSDS-PAGEゲル(すなわち、未精製の粗産物)。TST10007は3つの部位がグリコシル化されうる。TST10086は、B1グリコシル化部位だけが利用可能である。各々500 ngのTST10007およびTST10086の試料を分析した。対照試料は、500 ngの2および3グリコシル化プロトキシンならびに以前の発酵から誘導した500 ngの高度グリコシル化プロトキシンを含有する。
【0145】
TST10007は3つの部位がグリコシル化されうる。TST10086は、B1グリコシル化部位だけが利用可能である。各々500 ngのTST10007およびTST10086の試料を分析した。対照試料は、500 ngの2および3グリコシル化プロトキシンならびに以前の発酵から誘導した500 ngの高度グリコシル化プロトキシンを含有する。
【0146】
遺伝子構築物は、典型的には、タンパク質の発現および分泌を誘導するために、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のα接合因子分泌シグナルを試験した(TST 10007からTST10087)。発現レベルを改善する努力において、異なる分泌シグナルを最終的に試験した。天然リシン分泌シグナルを使用すると最良の結果が得られた。リシン分泌シグナル(すなわち、TST10088)を使用して遺伝子を発現すると、総タンパク質収率の改善以外に、実質的に全ての高度グリコシル化が排除されたことを本発明者らは発見した(5%未満)。
【0147】
1(e)シグナル配列および細胞障害性
精製されたタンパク質TST10086およびTST10088は、TST10086の作製を誘導するためにα接合因子分泌シグナルを使用し、TST10088を作製するためにリシン分泌シグナルを使用したことを除いて、全ての点において同一であった。分泌シグナルの差にもかかわらず、分子は同じに処理され、2つのタンパク質のアミノ末端は同一であることに注目されたい。TST10088のCOS-1細胞細胞障害性はTST10086と識別不可能であり、動物検討において分子は交換可能であった。TST10088の細胞障害性データは図14に示し、表3は研究産物のバッチのロット間一致性を示す。
【0148】
実施例2:併用療法
承認されている本質的に全ての抗癌療法において、薬剤は併用使用される。本発明者らの化合物は、ほとんどの従来の化学療法剤と異なる作用機序を有するので、それらは従来の薬剤の作用を増強する可能性がある。TST10088およびTST10007は、他の薬剤の活性を増強することができる程度を判定するために、種々の従来の化学療法剤と併用して試験した。
【0149】
シスプラチンおよびドキソルビシンは混合糖型TST10007と併用して試験した(図15および図16)。図15は、TST10007および従来の薬剤シスプラチンで治療したP388皮下腫瘍モデルを示す。治療は3、6および9日目に静脈内注射した(n=4)。図16Aは、200μg/kg(MTD=350μg/kg)のTST10007単独およびドキソルビシンとの併用の有効性を示し、図16Bは対応する体重低下/療法の毒性を示す。動物には、3日目から開始して、3日間隔で薬剤または生理食塩液(対照)を5回注射した。結果は、併用治療の効果は個々の単独療法の合計より大きいことを示した。しかし、超相加作用の程度は、シスプラチンではドキソルビシンで観察されたほど大きくなかった。
【0150】
以下に概略する検討は、TST10088と従来の薬剤:(i)ドキソルビシン(図17)、(ii)シスプラチン(図18)および(iii)シクロホスファミド(図19&20)間の正の相互作用を示した。図17AはTST10088単独およびドキソルビシンとの併用の有効性を示し、図17Bは対応する体重低下/治療の毒性を示す。動物には、3日目から開始して、3日間隔で薬剤または生理食塩液(対照)を3回注射した。図18AはTST10088単独およびシスプラチン(腹腔内)の有効性を示し、図18Bは対応する体重低下/治療の毒性を示す。治療は3、6および9日目に静脈内投与した(n=4)。図19はTST10088単独およびシクロホスファミド(10 mg/kg)との併用の有効性を示す。TST10088による治療は静脈内注射し、従来の薬剤シクロホスファミドは腹腔内注射した。治療(静脈内/腹腔内)は3、6および9日目に実施した(n=4)。図20は、TST10088単独およびシクロホスファミド(5 mg/kg)との併用の有効性を示す。TST10088による治療は静脈内注射し、従来の薬剤シクロホスファミドは腹腔内注射した。図20Bは対応する体重低下を示す。治療は3、6および9日目に注射した(n=4)。
【0151】
結果は、特にドキソルビシンおよびシスプラチン併用は、分子は相乗的に作用する(さらに正確には、応答は超相加的である)。シスプラチンと併用したTST10088の影響は相加的以上であった。この所見は、TST10007で得られた結果と一致していた。TST10088併用に対する応答は、TST334とドキソルビシンの強力な正の相互作用の以前の観察に一致している。
【0152】
これらの併用検討は、グリコシル化の重要性をさらに強調している。TST10088(単一糖型)およびTST10007(異種、マルチ糖型)の有効性および体重低下データを、それぞれ、図17および16に示す。TST10088およびTST10007は200μg/kgにおいて同様の有効性を有するが、TST10007は、併用の動物の約2倍の体重低下を生ずる。従って、TST10088(糖型1)はP388モデルにおいてTST10007と同様の有効性を有するが、毒性は低いことが示された。
【0153】
実施例3:TST10088+/-ドキソルビシンの薬物動態学的分析
薬物動態学的検討は、雌BDF1マウスにおいて125I標識TST10088を用いて実施した。図21に例示するように、TST10088クリアランスの動態を3回の注射について示す(表4も参照)。クリアランス速度は3回の注射期間中変化しないことは結果から明らかである。分布および組織からのクリアランスを図22に示す。未変性のリシンの検討と矛盾することなく、標識の最も高いレベルは脾臓において見られた。図23は、TST10088の注射後60分経過時の組織レベルを示す。TST10088は腫瘍に到達していることを結果は示している。図24は、腫瘍に到達したTST10088の量は、3回の注射について比較的一定であることを示す(4、6および9日目)。しかし、TST10088をドキソルビシンと併用して注射すると、腫瘍のTST10088量は経時的に増加する。この結果は、一部には、2つの化合物を共に使用すると、相加作用より大きい結果が観察されることを説明することができる。
【0154】
実施例4:免疫応答
本発明者らのプロドラッグは、外来タンパク質であるので、ヒトにおいて免疫応答を誘発することができる。しかし、以前の検討-一例では、ヒト臨床試験および天然リシン、別の例では、ヒトおよび関連タンパク質ビスクミン(viscumin)は、単独療法が免疫応答によって損なわれるまでに余裕があることを示唆している。治療法に応じて、この期間は6週間ほどにもなる。
【0155】
本発明者らは、治療ウィンドウを6週間の範囲より延長するために、ドキソルビシンおよびシスプラチンなどの併用剤の免疫抑制性を利用することを提案している。この治療法の可能性を実証するために、本発明者らは、プロドラッグ単独療法およびプロドラッグ併用療法で治療したマウスの抗体価を測定する検討を実施した。TST10007の結果(図25参照)は、BDF1マウスでは、免疫応答は9日目の3回目の治療後まで見られなかったことを示している。その後の検討は、免疫応答は10日目に見られたことを示している(データは示していない)。しかし、ドキソルビシンと併用すると、免疫応答は治療コース中に効果的に抑制された。これらの所見は、シクロホスファミドと併用したリシンについてFodstad(Godal, A., O. Fodstad, et al., (1983) Int J Cancer 32 (4) : 515-521)によって報告された結果と一致している。
【0156】
図25は、TST10007および従来の薬剤ドキソルビシンで治療したP388皮下腫瘍モデルを示す。治療は、TST10007は3、6、9日目に静脈内注射し、TST10007およびドキソルビシンは3、6、9、15および21日目に静脈内注射した(n=4)。単独療法群および併用群において、動物を示した日に犠牲にし、抗TST10088抗体を求めた。
【0157】
本発明は、本発明において好ましい実施例であると考えられるものに言及して記載されているが、本発明は開示されている実施例に限定されないことが理解されるべきである。一方、本発明は、添付の特許請求の範囲の精神および範囲に含まれる種々の改良および等価な配列を含むことが意図されている。
【0158】
全ての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許または特許出願各々が全体の内容が参照により組み入れられることが具体的且つ個別に示されているのと同じ程度で全体の内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0159】
(表1)グリコシル化変種パート1
*:これらの構築物はプロリシン分泌シグナルを使用する
【0160】
(表2)グリコシル化変種パート2
グリコシル化部位のコンビナトリアル変異誘発
nクローニングされていない
【0161】
(表3)TST10088の活性のロット間変動
【0162】
(表4)マウス血清からのTST10088クリアランスの動態
二重指数関数型崩壊
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】TST10088タンパク質配列(配列番号1)である。
【図2】TST10092タンパク質配列(配列番号2)である。
【図3】TST10147タンパク質配列(配列番号3)である。
【図4】TST10088DNAインサート配列(配列番号4)である。
【図5】TST10092DNAインサート配列(配列番号5)である。
【図6】TST10147DNAインサート配列(配列番号6)である。
【図7】グリコシル化のコンビナトリアル変異原性、天然遺伝子配列を示す。
【図8】グリコシル化変種からのグリコシル化パターンを示す。
【図9】P388に対する糖型0の有効性を示す。
【図10】P388に対する糖型1の有効性を示す。
【図11】P388に対する糖型2の有効性を示す。
【図12】異なる糖型による治療後の体重低下データを示す。
【図13】グリコシル化反復改良変種のグリコシル化パターンを示す。
【図14】COS-1細胞に対するTST10088およびリシン細胞毒性の比較を示す。
【図15】P388に対するTST10007とシスプラチンの併用の有効性を示す。
【図16】AおよびBは、P388モデルにおけるTST10007/Doxの併用の有効性を示す。
【図17】AおよびBは、P388モデルにおけるTST10088/Doxの併用の有効性を示す。
【図18】AおよびBは、P388腫瘍モデルにおけるTST10088/Cisの併用の有効性を示す。
【図19】P388腫瘍モデルにおけるTST10088/CPAの併用の有効性を示す。
【図20】P388腫瘍モデルにおけるTST10088/CPAの併用の有効性を示す。
【図21】マウス血清からのTST10088クリアランスの動態を示す。
【図22】125I標識TST10088の分布を示す(4日目注射)。
【図23】注射後60分経過時の125I標識TST10088の分布を示す(4日目注射)。
【図24】ドキソルビシンを併用する場合および併用しない場合の腫瘍におけるTST10088のレベルを示す。
【図25】TST10007およびドキソルビシンによる治療後の血清抗体の存在を示す。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、癌ならびにウイルス、寄生虫および真菌感染症の治療薬として有用である、組換えタンパク質のグリコシル化変種およびこのような組換えタンパク質をコードする核酸に関する。タンパク質および核酸は、疾患に関連した病原体または細胞に特異的なプロテアーゼによって特異的に切断されて活性化されるリンカー配列で結合されているリシン様毒素のAおよびB鎖を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
細菌および植物は、1、2または数個のポリペプチドまたはサブユニットからなってもよい細胞障害性タンパク質を産生することが公知である。1つのサブユニットを有するようなタンパク質は、I型タンパク質とおおまかに分類することができる。2つのサブユニット構造を進化させた細胞毒の多くはII型タンパク質といわれる(Saelinger, C. B. in Trafficking of Bacterial Toxins(eds. Saelinger, C. B.) 1-13(CRC Press Inc., Boca Raton, Florida, 1990)。1つのサブユニットA鎖は毒性作用を有するが、第2のサブユニットB鎖は細胞表面に結合しており、標的細胞への毒素の流入を媒介する。これらの毒素のサブユニットは、タンパク質の生合成を阻害することによって標的細胞を死滅させる。例えば、ジフテリア毒素またはシュードモナス(Pseudomonas)外毒素などの細菌毒素は、伸張因子2を不活性化することによってタンパク質合成を阻害する。リシン、アブリンなどの植物毒素および細菌毒素シガ(Shiga)毒素は、リボソームを直接不活性化することによってタンパク質合成を阻害する(Olsnes, S. & Phil, A. in Molecular action of toxins and viruses(eds. Cohen, P. & vanHeyningen, S.) 51-105 Elsevier Biomedical Press, Amsterdam, 1982)。
【0003】
ヒマ(Ricinus communis)(ヒマシ油植物)の種子由来のリシンは植物毒素の中で最も強力となりうる。1つのリシンA鎖は、1500リボソーム/分の速度でリボソームを不活性化することができると推定される。結果として、リシンの1分子は細胞を死滅させるのに十分である(Olsnes, S. & Phil, A. in Molecular action of toxins and viruses(eds. Cohen, P. & vanHeyningen, S.)(Elsevier Biomedical Press, Amsterdam, 1982)。リシン毒素は、ジスルフィド結合によって結合されている分子量30,625 Daおよび31,431 DaのAおよびB鎖からなるグリコシル化ヘテロダイマーである。リシンのA鎖はN-グリコシダーゼ活性を有し、真核生物リボソームの28S rRNAからの特異的なアデニン残基切除を触媒する(Endo, Y. & Tsurugi, K. J. Biol. Chem. 262-8128(1987))。リシンのB鎖は、自体は毒性ではないが、真核細胞の表面のガラクトース残基に結合して、毒素分子の受容体-媒介性エンドサイトーシスを刺激することによってA鎖の毒性を促進する(Simmons et al., Biol. Chem. 261 : 7912 (1986))。AおよびB鎖からなる毒素分子が、クラスリン-依存的または非依存的機序によって細胞内に移行すると、細胞内電位の低下が大きくなり、活性なA鎖の放出を誘導し、タンパク質合成およびその細胞毒性に対する阻害作用を誘発する(Emmanuel, F. et al., Anal. Biochem. 173 : 134-141 (1988) ; Blum, J. S. et al., J. Biol. Chem. 266 : 22091-22095 (1991) ; Fiani, M. L. et al., Arch. Biochem. Biophys. 307 : 225-230 (1993))。エンドソーム内の活性化毒素(例えば、リシン、志賀毒素等)は、逆向性輸送によってトランスゴルジ網を介して小胞体まで経細胞輸送されてから、A鎖は細胞質に移動してその作用を誘発することを実験的証拠は示唆している(Sandvig, K. & van Deurs, B., FEBS Lett. 346 : 99-102 (1994)。
【0004】
タンパク毒素は、最初、不活性な前駆体型で産生される。リシンは、最初、35アミノ酸N-末端プレ配列およびA鎖とB鎖の間の12アミノ酸リンカーを有するシングルポリペプチド(プレプロリシン(preproricin))として産生される。プレ配列は、リシン前駆体の小胞体内への移動中に脱離される(Lord, J. M., Eur. J. Biochem. 146 : 403-409(1985)およびLord, J. M., Eur. J. Biochem. 146 : 411-416 (1985))。次いで、プロリシンは、植物プロテアーゼが、タンパク質をA鎖とB鎖の間のリンカー領域において切断するタンパク粒と呼ばれる特殊化した細胞小器官に移動される(Lord, J. M. et al., FASAB Journal 8 : 201-208(1994))。しかし、2つの鎖は、鎖間ジスルフィド結合(A鎖のシステイン259とB鎖のシステイン4)によって共有結合されており、ジスルフィド結合した成熟リシンは植物細胞内のタンパク粒に保存される。A鎖はプロシン中で不活性であり(O'Hare, M. et al., FEBS Lett. 273 : 200-204 (1990))、ジスルフィド結合した成熟リシン中で不活性である(Richardson, P. T. et al.,FEBS Lett. 255 : 15-20(1989))。トウゴマの実植物のリボソーム自体リシンA鎖による不活性化を受けやすい;しかし、B鎖認識を可能にする細胞表面ガラクトースがないので、A鎖は細胞内に流入することができない。標的細胞の細胞質へのA鎖放出および活性化の正確な機序は不明である((Lord, J. M. et al., FASAB Journal 8 : 201- 208(1994))。しかし、活性化を生じさせるためには、A鎖とB鎖の間のジスルフィド結合を少なくする、従ってサブユニット間の結合を破壊することが必要であることが公知である。
【0005】
ジフテリア毒素は、分子量約58 kDの535アミノ酸ポリペプチドとしてジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)によって産生される(Greenfield, L. et al., Proc. Natl. Sci. USA 80 : 6853-6857(1983) ; Pastan, I. et al., Annu. Rev. Biochem. 61 : 331-354(1992); Collier, R. J. & Kandel, J., J. Biol. Chem. 246 : 1496-1503(1971))。ジフテリア毒素は、2つの機能的ドメインからなる1本鎖ポリペプチドとして分泌される。プロリシンと同様に、N-末端ドメイン(A-鎖)は細胞障害性部分を含有するが、C-末端ドメイン(B-鎖)は細胞への結合を担当し、毒素エンドサイトーシスを促進する。逆に、ジフテリア毒素の細胞障害機序はEF-2のADP-リボシル化に基づいており、それによってタンパク質合成を遮断し、細胞死を生ずる。ジフテリア毒素の2つの機能的ドメインはアルギニン-リッチペプチド配列およびジスルフィド結合によって結合されている。ジフテリア毒素が細胞内に移行すると、アルギニン-リッチペプチドリンカーがトリプシン-様酵素によって切断されて、ジスルフィド結合(Cys 186-201)が減少する。その後、実質的にリシンについて上記するように、細胞障害性ドメインが細胞質ゾル内に移動し、リボソーム阻害および細胞障害を誘発する。
【0006】
シュードモナス(Pseudomonas)外毒素もシュードモナス エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)によって分泌される66 kDの1本鎖毒素タンパク質であり、ジフテリア毒素と同様の細胞障害機序を有する(Pastan, I. et al., Annu. Rev. Biochem. 61 : 331-354(1992); Ogata, M.et al., J. Biol. Chem. 267 : 25396-25401(1992) ; Vagil, M. L. et al., Infect. Immunol. 16 : 353-361(1977))。シュードモナス(Pseudomonas)外毒素は3つの結合した機能的ドメインからなる。第1のドメインIa(アミノ酸1-252)は細胞結合および毒素エンドサイトーシスを担当し、第2のドメインII(アミノ酸253-364)はエンドサイトーシス小胞から細胞質ゾルへの毒素移動を担当し、第3のドメインIII(アミノ酸400-613)はタンパク質合成阻害および細胞障害を担当する。シュードモナス(Pseudomonas)外毒素が細胞に流入すると、第2のドメインのポリペプチド配列のタンパク質分解的切断(Arg 279付近)およびエンドサイトーシス小胞のジスルフィド結合(Cys265-287)の減少によって細胞障害性ドメインの遊離が生じる。本質的に、全体的な細胞障害性経路は、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素の毒素移動ドメインが構造的に別個であるであることを除いて、ジフテリア毒素毒素に類似している。
【0007】
クラス2リボソーム不活性化タンパク質(RIP-2)は、アブリン、モデシン、ボルケンシン(Sandvig, K. et al., Biochem. Soc. Trans. 21: 707-711(1993))およびセイヨウヤドリギレクチン(ビスクミン)(Olsnes, S. & Phil, A. in Molecular action of toxins and viruses(eds. Cohen, P. & vanHeyningen, S.) 51-105 Elsevier Biomedical Press, Amsterdam, 1982 ; Fodstad, et al. Canc. Res. 44: 862 (1984))を含む細胞障害性および細胞結合/毒素移動の別個の機能的ドメインを保有する他の毒素を構成する。志賀毒素およびコレラ毒素などの一部の毒素も、受容体結合およびエンドサイトーシスを担当する多数のポリペプチド鎖を有する。
【0008】
リシン遺伝子はクローニングされ、配列決定されており、AおよびB鎖のX-線結晶構造が記載されている(Rutenber, E. et al. Proteins 10: 240-250 (1991) ; Weston et al., Mol. Bio. 244 : 410-422, 1994 ; Lamb and Lord, Eur. J. Biochem. 14 : 265 (1985) ; Halling, K. et al., Nucleic Acids Res. 13: 8019 (1985))。同様に、ジフテリア毒素およびシュードモナス(Pseudomonas)外毒素の遺伝子がクローニングされ、配列決定されており、毒素タンパク質の3-次元構造が解明され、記載されている(Columblatti, M. et al., J. Biol. Chem. 261 : 3030-3035 (1986) ; Allured, V. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 : 1320-1324 (1986) ; Gray, G. L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 : 2645-2649 (1984) ; Greenfield, L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80: 6853-6857 (1983) ; Collier, R. J. et al., J. Biol. Chem. 257 : 5283-5285 (1982))。
【0009】
リシン様毒素は、ウイルス感染症、癌ならびに寄生虫および真菌感染症を治療するのに有用であることが示されている(米国特許第6,333,303号;同第6,531,125号および同第6,593,132号は参照により本明細書に組み入れられる)。シュードモナス(Pseudomonas)外毒素-Aおよびジフテリア毒素のサブユニットAなどの細菌毒素;リシンなどの2本鎖リボソーム不活性化植物毒素、ならびにトリコサンチンおよびヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質などの1本鎖リボソーム不活性化タンパク質はHIV感染細胞の排除に使用されている(Olson et al., AIDS Res. and Human Retroviruses 7: 1025-1030 (1991))。哺乳類細胞に対するこれらの毒素の高い毒性は、作用の特異性のなさと合わせて、免疫毒素などの毒素を組み入れた薬剤の開発の大きな問題をもたらしている。
【0010】
それらの極めて強い毒性のために、感染または腫瘍細胞または組織を特異的に破壊または阻害するための治療薬としてリシン系免疫毒素を作製することに大きな関心が高まっている(Vitetta et al., Science 238:1098-1104(1987))。免疫毒素は、モノクローナル抗体または増殖因子などの特定の細胞結合成分と2つのタンパク質成分が共有結合されている毒素の結合物である。一般に、成分は化学的に結合されている。しかし、結合はペプチドまたはジスルフィド結合であってもよい。抗体は、特異的な抗原を発現する細胞種に毒素を誘導し、それによって天然の毒素では可能ではない作用の特異性を提供する。免疫毒素は、完全なリシン分子(すなわち、両鎖)およびリシンA鎖単独で作製されている(Spooner et al., Mol. Immunol. 31:117-125, (1994))。
【0011】
リシンダイマー(IT-R)で作製される免疫毒素は、A鎖単独(IT-A)で作製されるものより強力な毒素である。IT-Rの高い毒性は、細胞表面への結合および標的細胞の細胞質ゾルコンパートメントへのA鎖の移動におけるB鎖の二重の作用に寄与すると考えられている(Vitetta et al., Science 238:1098 1104 (1987) ; Vitetta & Thorpe, Seminars in Cell Biology 2 :47-58 (1991))。しかし、これらの結合物におけるB鎖の存在も非標的細胞への免疫毒素の流入を促進する。B鎖は、ほとんどの細胞に存在するN-結合炭水化物に関連するガラクトースに非特異的に結合するので、B鎖は少量でも細胞結合成分の特異性を上回ることがある。IT-Aは、IT-Rより特異的で、使用が安全である。しかし、B鎖が存在しないと、A鎖は特異性が大幅に低下する。IT-AはIT-Rと比較して効力が低いので、IT-Aは大量を患者に投与しなければならない。大量は、患者において免疫応答および中和抗体の産生を生ずることが多い(Vitetta et al., Science 238:1098-1104 (1987))。A鎖が結合物から標的細胞の細胞質に放出されないとき、IT-AおよびIT-Rは毒性が低下する。
【0012】
腫瘍細胞および免疫系の細胞の表面の抗原を認識するために数多くの免疫毒素が設計されている(Pastan et al., Annals New York Academy of Sciences 758:345-353 (1995))。このような免疫毒素の使用に伴う主要な問題は、抗体成分が唯一の標的機序であり、標的抗原は非-標的細胞に見られることが多いことである(Vitetta et al., Immunology Today 14:252-259 (1993)。また、好適な特異的な細胞結合成分の調整が問題である場合がある。例えば、標的細胞に特異的な抗原が入手できない場合があり、標的である可能性のある多数の細胞および感染性である可能性のある多数の成分は、免疫認識を回避するために抗原性の構造を迅速に変更することがある。リシンなどのタンパク質の極めて強い毒性に関しては、免疫毒素の特異性の欠如は、癌および感染性疾患を治療するための治療薬としての有用性をかなり制限することがある。
【0013】
毒素の細胞障害性成分と細胞結合成分との間への分子内プロテアーゼ切断部位の挿入は、天然の毒素が活性化される方法を模倣することができる。欧州特許出願第466,222号は、第Xa因子、トロンビンまたはコラゲナーゼなどの細胞外血液酵素による切断によって活性型に変換されうるトウモロコシ-由来プロタンパク質の使用を記載している。Garred, O. et al. (J. Biol. Chem. 270:10817-10821 (1995))は、偏在するカルシウム依存的セリンプロテアーゼ、ヒューリンを使用して、細胞障害性A鎖と細胞結合B-ユニットのペンタマーの間のトリプシン-感受性結合の切断によって志賀毒素を活性化することを実証した。Westby et al. (Bioconjugate Chem. 3:375-381 (1992))は、特異的な細胞結合成分およびリンカー配列内の第Xa因子に特異的なプロテアーゼ感受性切断部位を有するプロリシンを有する融合タンパク質を実証した。O'Hareら (FEBS Lett. 273:200-204 (1990))も、トリプシン-感受性切断部位によって結合されているRTAおよびブドウ球菌プロテインAの組換え融合タンパク質を記載した。これらの方法に使用される細胞外プロテアーゼの偏在性に関しては、毒素前駆体または免疫毒素のこのような人工的な活性化は細胞内毒素活性化機序を与えず、免疫毒素の細胞結合成分の標的特異性および有害な免疫反応の問題が残っている。
【0014】
結合鎖と毒性鎖を組み合わせているタンパク質への分子内プロテアーゼ切断部位の挿入方法の一形態において、Leppla, S. H.ら (Bacterial Protein Toxins zbl.bakt.suppl. 24:431-442 (1994))は、炭疽菌(Bacillus anthracis)によって産生される防御抗原(PA)の未変性の切断部位と特定のプロテアーゼを含有する細胞によって認識される切断部位の交換を示唆している。PAは、炭疽菌(Bacillus anthracis)によって産生される致死因子(LF)および浮腫毒素(ET)を認識、結合し、そのの内部移行を助ける。しかし、この方法は、全て細胞に局在化しており、修飾PAは特異的なプロテアーゼによって活性化されることがあるLFまたはETおよびPAの利用性に依存している。それは、細胞内毒素活性化機序を与えず、標的細胞への内部移行に十分量の毒素を確実にする問題を生ずる。
【0015】
ブドウ球菌由来の孔形成毒素、αヘモリシンの細胞外腫瘍関連プロテアーゼによるインビトロ活性化が実証されている(Panchel, R.G. et al., Nature Biotechnology 14:852-857 (1996))。αヘモリシンのそのプロテアーゼによるインビトロにおける人工的な活性化は報告されているが、標的細胞の破壊におけるαヘモリシンの実際の活性化および利用性は実証されていない。
【0016】
αヘモリシンはタンパク質合成を阻害するのではなく、最高3 kDの分子の漏洩を可能にするチャネルとして作用して、それによって生細胞のイオンバランスを崩壊させるヘプタマー膜貫通孔である。αヘモリシン活性化ドメインは、(細胞外プロテアーゼによる活性化のために)標的細胞の外に位置している可能性が高い。開示されているヘモリシン前駆体における誘発機序は、機能的に別個の2つのドメインの細胞内タンパク質分解切断に関係しない。また、αヘモリシン活性化に使用されるプロテアーゼは偏在的に分泌される細胞外プロテアーゼであり、毒素活性化は罹患細胞の近くでの活性化に限定されないと思われる。毒素のこのような広範囲の活性化は標的特異性を提供せず、全身毒性のために治療薬としてのそのαヘモリシン毒素の有用性を制限している。
【0017】
悪性腫瘍、ウイルス感染症および寄生虫感染症に特異的に関連する種々のプロテアーゼが同定され、記載されている。例えば、カテプシンは、癌転移において主要な役割を果たすとされているセリン、システインまたはアスパラギン酸エンドペプチダーゼおよびエキソペプチダーゼファミリーである
。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMPまたはマトリキシン)は、コラゲナーゼ、マトリリシン、ストロメリシン、ゲラチナーゼおよびマクロファージエラスターゼからなる亜鉛-依存性プロテイナーゼである
。これらのプロテアーゼは病的なマトリックスリモデリングに関与する。正常な生理的条件下では、マトリキシン活性の調節は遺伝子発現レベルにおいて実施される。酵素活性もメタロプロテイナーゼ組織阻害因子(TIMP)によって厳密に制御される(Murphy, G. et al., Ann. N. Y. Acad. Sci. 732: 31 41(1994))。MMP遺伝子の発現は炎症性疾患(例えば、関節リウマチ)および悪性腫瘍において活性化されることが報告されている。
【0018】
マラリアでは、寄生虫セリンおよびアスパラギン酸プロテアーゼがマラリア原虫(Plasmodium)寄生虫による宿主赤血球侵襲および赤血球内マラリアによるヘモグロビン異化反応に関与する
。マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)も、住血吸虫症またはビルハルツ住血吸虫症を生ずる病原性寄生虫である。エラスチン分解性(elastinolytic)プロテイナーゼはこの特定の寄生虫の病原性に特異的に関連している(McKerrow, J. H. et al., J. Biol. Chem. 260: 3703-3707(1985))。
【0019】
Welch, A. R.ら (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:10797-10800 (1991))は、ヒトサイトメガロウイルス、ヒトヘルペスウイルス、エプスタインバーウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス-Iおよび感染性喉頭気管支炎ウイルスに特異的に関連する一連のウイルスプロテアーゼを記載している。これらのプロテアーゼは同様の基質特異性を有し、キャプシド集合およびウイルス成熟におけるウイルス骨格タンパク質再構築において不可欠な役割を果たす。同様の機能を果たす他のウイルスプロテアーゼもヒトT-細胞白血病ウイルス(Blaha, I. et al., FEBS Lett. 309:389-393 (1992); Pettit, S.C. et al., J. Biol. Chem. 266:14539-14547 (1991))、肝炎ウイルス(Hirowatari, Y. et al., Anal. Biochem. 225:113-120 (1995); Hirowatari, Y. et al., Arch. Virol. 133:349-356 (1993); Jewell, D. A. et al., Biochemistry 31 :7862- 7869 (1992))、灰白髄炎ウイルス(Weidner, J. R. et al., Arch. Biochem. Biophys. 286:402-408 (1991))およびヒトライノウイルス(Long, A. C. et al., FEBS Lett. 258:75-78 (1989))について実証されている。
【0020】
カンジダ(Candida)酵母は、AIDS患者の日和見感染症の大半の原因である二形性真菌である(Holmberg, K. and Myer, R, Scand. J. Infect. Dis. 18:179-192 (1986))。アスパラギン酸プロテイナーゼは、カンジダ アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ トロピカリス(Candida tropicalis)およびカンジダ パラプシロシス(Candida parapsilosis)を含むカンジダの数多くの病原性株に特異的に関連しており
、これらの酵素のレベルはその株の致死性に関連している(Schreiber, B, et al., Diagn. Microbiol. Infect. Dis. 3:1-5 (1985))。
【発明の開示】
【0021】
発明の概要
リシンは、N-結合炭水化物を有する糖タンパク質である。リシンのアミノ酸配列によると、炭水化物の結合部位は4つが可能である(セクオン(sequon))。A-鎖に2つの部位が存在し、B-鎖に2つの部位が存在する。ある程度は、天然のタンパク質では4つ全ての部位においてグリコシル化が生じる。この分子の安定性および活性に対するグリコシル化の重要性は完全には明らかではない。本発明者らは、リシン様タンパク質のグリコシル化変種を調整し、調査した。本発明者らは、1つのグリコシル化部位を含有する組換えタンパク質は活性で安定であるが、グリコシル化部位のないタンパク質は活性が弱く、安定性も非常に悪いと判定した。
【0022】
一局面において、本発明は、(a)リシン様毒素のA鎖、(b)リシン様毒素のB鎖ならびに(c)AおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列を含む組換えタンパク質であって、リンカー配列は疾患特異的プロテアーゼの切断認識部位を含有し、A鎖またはB鎖は少なくとも1つのグリコシル化部位を有する組換えタンパクを提供する。本発明の好ましい態様において、B鎖は少なくとも1つのグリコシル化部位を有する。本発明の別の好ましい態様において、B鎖はB1がグリコシル化されている。
【0023】
本発明の別の態様において、組換えタンパク質は、長さが10以下のアミノ酸、好ましくは、9以下のアミノ酸、最も好ましくは、8以下のアミノ酸のリンカーアミノ酸配列を有する。
【0024】
本発明のさらに別の態様は、リシン分泌シグナル配列を有する組換えタンパク質を提供する。
【0025】
本発明の好ましい態様において、組換えタンパク質は、図1、2または3に示すアミノ酸配列(配列番号1〜3)を有する、
【0026】
本発明の別の局面は、(a)リシン様毒素のA鎖をコードするヌクレオチド配列、(b)リシン様毒素のB鎖をコードするヌクレオチド配列および(c)AおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む単離精製された核酸分子であって、異種リンカー配列は疾患特異的プロテアーゼの切断可能な認識部位を含み、A鎖をコードするヌクレオチド配列またはB鎖をコードするヌクレオチド配列はグリコシル化部位を有する少なくとも1つのアミノ酸をコードする単離精製された核酸分子を提供する。本発明の好ましい態様において、B鎖のヌクレオチド配列は、グリコシル化部位を有する少なくとも1つのアミノ酸をコードする。別の好ましい態様において、B鎖のヌクレオチド配列はB1にグリコシル化部位を有するアミノ酸をコードする。
【0027】
本発明の別の態様において、核酸分子は、長さが10以下のアミノ酸、好ましくは、9以下のアミノ酸、または最も好ましくは、8以下のアミノ酸のリンカーアミノ酸配列をコードする。
【0028】
さらに別の態様は、リシン分泌シグナル配列をコードする本発明の核酸分子を提供する。
【0029】
本発明の好ましい態様において、核酸分子は図4、5または6に示す配列(配列番号4〜6)を有する。
【0030】
A鎖とB鎖を結合する異種リンカーは、特定の疾患に罹患している細胞または組織に局在化しているプロテアーゼによって特異的に切断され、それによって罹患細胞または組織を選択的に阻害または破壊することができる。本明細書において使用する罹患細胞という用語は、癌細胞または真菌、寄生虫もしくはレトロウイルスを含むウイルスに感染している細胞を含む。
【0031】
本発明の組換え毒性タンパク質を使用する毒素標的化は、多数のDNAウイルスは宿主細胞の輸送機序を使用して、免疫的破壊を回避するということを利用している。これは、宿主主要組織適合複合体(MHC)タイプI分子の小胞体から細胞質への逆向性移動を増加することによって実施される(Bonifacino, J. S., Nature 384: 405-406 (1996); Wiertz, E. J. et al., Nature 384: 432-438 (1996))。ウイルスによる罹患細胞における逆向性輸送の促進は、本発明の組換え毒性タンパク質の経細胞輸送および細胞障害性を増強し、それによって非-特異的細胞障害性を低下し、製品の全体的な安全性を改善することができる。
【0032】
本発明の組換え毒性タンパク質を使用して、T-およびB-細胞リンパ球増殖性疾患、卵巣癌、膵臓癌、頭頸部癌、扁平上皮癌、消化器癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、肝臓癌などの種々の形態の癌、マラリアならびにヒトサイトメガロウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、ヒトライノウイルス、感染性喉頭気管支炎ウイルス、灰白髄炎ウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルスの感染に関連する種々のウイルス疾患状態を含む疾患を治療することができる。
【0033】
本発明の一局面は、疾患に罹患しており、各々特異的なプロテアーゼを有する癌またはウイルス、真菌もしくは寄生虫感染症を含む疾患に特異的なプロテアーゼに関連している細胞を阻害または破壊する方法であって、疾患特異的プロテアーゼの切断認識部位を含有する異種リンカー配列を有する本発明の組換えタンパク質を調整する段階および細胞に組換えタンパク質を投与する段階を含む方法を提供する。一態様において、癌はT-細胞またはB-細胞リンパ球増殖性疾患、卵巣癌、膵臓癌、頭頸部癌、扁平上皮癌、消化器癌、乳癌、前立腺癌、肺癌および肝臓癌である。別の態様において、ウイルスはヒトサイトメガロウイルス、エプスタイン-バーウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、ヒトライノウイルス、ヒトT-細胞白血病ウイルス、感染性喉頭気管支炎ウイルス、灰白髄炎ウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルスである。別の態様において、寄生虫は熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)である。
【0034】
本発明はまた、哺乳類に本発明の1つまたは複数の組換えタンパク質の有効量を投与することによって、疾患に罹患している細胞が、各々特異的なプロテアーゼを有する癌またはウイルス、真菌もしくは寄生虫感染症を含む疾患に特異的なプロテアーゼに関連している、疾患が認められる哺乳類を治療する方法に関する。
【0035】
よりさらに、疾患に罹患している細胞が、各々特異的なプロテアーゼを有する癌またはウイルス、真菌もしくは寄生虫感染症を含む疾患に特異的なプロテアーゼに関連している、疾患が認められる哺乳類を治療する方法であって、本発明の単離精製された核酸を調整する段階;宿主細胞に核酸を導入する段階;宿主細胞において核酸を発現して本発明の組換えタンパク質を得る段階;および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤にタンパク質を懸濁させる段階を含む方法が提供される。
【0036】
一態様において、疾患に罹患している細胞が、各々特異的なプロテアーゼを有する癌またはウイルス、真菌もしくは寄生虫感染症を含む疾患に特異的なプロテアーゼに関連している、疾患が認められる哺乳類を治療するための薬剤を製造するための方法であって、プロテアーゼの切断認識部位を同定する段階、リシン様毒素のA鎖、リシン様毒素のB鎖および異種リンカーアミノ酸配列を含む本発明の組換えタンパク質を調整する段階、A鎖とB鎖を結合する段階であって、リンカー配列がプロテアーゼの切断認識部位を含有する段階ならびに薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤にタンパク質を懸濁する段階を含む方法が提供される。
【0037】
さらに別の局面において、本発明は、疾患に罹患している細胞が、癌またはウイルス、真菌もしくは寄生虫感染症を含む疾患に特異的なプロテアーゼに関連している、疾患が認められる哺乳類を治療するための薬学的組成物であって、本発明の組換えタンパク質および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む薬学的組成物を提供する。
【0038】
本発明の別の局面は併用療法である。例えば、併用療法を癌細胞を阻害もしくは破壊する方法または癌を治療する方法に使用することができる。一態様において、癌が認められる哺乳類を治療するために、本発明の薬学的組成物を調整するための方法に少なくとも1つの従来の抗癌療法を加えてもよい。本発明はまた、少なくとも1つの追加の抗癌療法を含む、癌を治療する本発明の薬学的組成物を考慮している。追加の抗癌療法は、ドキソルビシン、シスプラチン、シクロホスファミド、エトポシド、パクリタキセル、タキソテール、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、イリノテカンおよびトポテカンを含む。
【0039】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかし、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の好ましい態様を示すが、本発明の精神および範囲内の種々の変更および改良はこの詳細な説明から当業者に明らかになるので、例示のためだけに提供されていることが理解されるべきである。
【0040】
発明の詳細な説明
(A)本発明の組換えタンパク質
本発明は、癌ならびにウイルス、寄生虫および真菌感染症に対する治療薬として有用な組換えタンパク質のグリコシル化変種を提供する。天然のリシンは、N-結合炭水化物を有する糖タンパク質である。N-結合グリコシル化は、一般に、保存されているセクオン(sequon)において生じる。しかし、全てのセクオンが実際にグリコシル化されているわけではない。リシンのアミノ酸配列によると、4つのセクオンが存在する:A-鎖に2つ(A1およびA2)およびB-鎖に2つ(B1およびB2)(図7参照)。8つのアミノ酸リンカーを有するプロリシン構築物では、A1グリコシル化部位はアミノ酸位置14に存在し、A2グリコシル化部位はアミノ酸位置240に存在し、B1グリコシル化部位はアミノ酸位置363に存在し、B2グリコシル化部位はアミノ酸位置403に存在する。
【0041】
本発明者らは、セクオンが修飾または脱離されている32のグリコシル化変種を調査した。グリコシル化変種の活性および毒性を検討した。最低限1つの炭水化物鎖が組換えタンパク質の機能に必須であることを本発明者らは見出した。特定の理論に結び付けたいわけではないが、本発明者らは、結合している炭化水素が、標的細胞へのタンパク質の取り込み経路を決定すると仮定している。従って、炭水化物が欠損しているタンパク質は、その活性が減少または損失するような方法で誤って誘導されることになる。本発明者らは、他の極端な例において、広範なグリコシル化は、グリコシル化の程度が低い種と比較して分子の毒性を増加することも確立した。
【0042】
TST10088構築物(それぞれ、図1および4;配列番号1および4参照)では、2つのセクオンが存在する。この構築物において、本発明者らは、A1およびB2のグリコシル化部位を突然変異させ、A2部位(アミノ酸位置240)およびB1部位(アミノ酸位置363)のグリコシル化部位を残した。酵母発現系では、TST10088構築物のA2部位はグリコシル化されず、従って発現されるタンパク質はB-鎖のB1の1部位だけがグリコシル化される。
【0043】
TST10092構築物(それぞれ、図2および5;配列番号2および5参照)では、3つのセクオンが存在する。この構築物において、本発明者らは、A1のグリコシル化部位を突然変異させ、A2部位(アミノ酸位置240)、B1部位(アミノ酸位置363)およびB2部位(アミノ酸位置403)のグリコシル化部位を残した。酵母発現系では、TST10092構築物のA2部位はグリコシル化されず、従って発現されるタンパク質は2つの部位:B1およびB2だけがグリコシル化されている。
【0044】
TST10147構築物(それぞれ、図3および6;配列番号3および6参照)では、2つのセクオンが存在する。この構築物において、本発明者らは、A1およびB2のグリコシル化部位を突然変異させ、A2部位(アミノ酸位置240)およびB1部位(アミノ酸位置364)のグリコシル化部位を残した。酵母発現系では、TST10147構築物のA2部位はグリコシル化されず、従って発現されるタンパク質はB-鎖のB1の1部位だけがグリコシル化される。
【0045】
従って、本発明は、(a)リシン様毒素のA鎖、(b)リシン様毒素のB鎖ならびに(c)AおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列を含む組換えタンパク質であって、リンカー配列は疾患特異的プロテアーゼの切断認識部位を含有し、A鎖またはB鎖は少なくとも1つのグリコシル化部位を有する組換えタンパク質を提供する。本発明の好ましい態様において、B鎖は少なくとも1つのグリコシル化部位を有する。本発明の別の好ましい態様において、B鎖はB1がグリコシル化されている。
【0046】
「グリコシル化部位」という用語は、グリコシル化することができるまたは炭水化物に結合することができる組換えタンパク質のアミノ酸残基を意味する。「グリコシル化部位」はまた、本明細書において「セクオン」をいうことがある。Asnは、グリコシル化することができるアミノ酸の一例である。セリンおよびスレオニンも、グリコシル化することができるアミノ酸の例である。
【0047】
好ましくは、組換えタンパク質はA鎖またはB鎖が突然変異されていて、1つまたは複数のグリコシル化部位を遮断している。最も好ましくは、組換えタンパク質は1つの部位だけ、最も好ましくは、部位B1だけがグリコシル化されている。
【0048】
「リシン様毒素」という用語には、リボソームを不活性化して、タンパク質合成を阻害することができる細菌、真菌および植物毒素が挙げられるが、それに限定されるわけではない。ほとんどのリシン様毒素はA-鎖およびB-鎖からなる。A鎖は、毒素の薬理作用を担当する活性なポリペプチドサブユニットである。ほとんどの場合において、A鎖の活性成分は酵素である。B鎖は細胞表面への毒素の結合を担当しており、A鎖の細胞質への流入を促進すると考えられている。成熟毒素のAおよびB鎖はジスルフィド結合によって結合されている。
【0049】
好ましい態様において、リシン様毒素はリシンである。リシンは、真核細胞においてタンパク質合成を阻害する植物由来のリボソーム阻害タンパク質である。リシンは、ヒマ(Ricinus communis)(ヒマシ油植物)の種子から誘導することができる。リシン毒素は、AおよびB鎖分子量が、それぞれ、30,625 Daおよび31,431 Daのグリコシル化ヘテロダイマーである。リシンのA鎖はN-グリコシダーゼ活性を有し、真核生物リボソームの28S rRNAからの特異的なアデニン残基の切除を触媒する(Endo, Y ; & Tsurugi, K. J. Biol. Chem. 262:8128 (1987))。リシンのB鎖は、自体は毒性ではないが、真核細胞表面のガラクトース残基に結合して、毒素分子の受容体-媒介性エンドサイトーシスを刺激することによって、A鎖の毒性を促進する(Simmons et al., Biol. Chem. 261 :7912 (1986))。
【0050】
構造がリシンに極めて類似している毒素は、1つのA鎖および1つのB鎖を有する植物毒素である。このような毒素の例には、トウアズキ(Abrus precatorius)の種子から単離することができるアブリンおよびモデシンが挙げられる。アブリンは3つのグリコシル化部位を有する。1つの部位は位置203(A1)のA-鎖上であり、2つの部位は位置361(B1)および404(B2)のB-鎖上である。A1部位は、植物または酵母発現系ではグリコシル化されないと思われる。
【0051】
リシン様細菌毒素には、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae) によって産生されるジフテリア毒素、シュードモナス(Pseudomonas)エンテロトキシンAおよびコレラ毒素が挙げられる。「リシン様毒素」という用語はまた、A鎖だけを有するような毒素のA鎖を含むことが意図されていることが理解されている。本発明の組換えタンパク質は、別の毒素のB鎖を有する組換えタンパク質に結合されているまたはそれとして発現されるこれらの毒素のA鎖を含んでもよい。A鎖だけを有する植物毒素の例には、トリコサンチン、MMCおよびヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ジアンチン(dianthin) 30、ジアンチン32、クロチン II、クルシン IIおよび小麦胚芽阻害因子が挙げられる。A鎖だけを有する真菌毒素の例には、αサルシン、レストリクトシン(restrictocin)、ミトギリン(mitogillin)、エノマイシン(enomycin)、フェノマイシン(phenomycin)が挙げられる。A鎖だけを有する細菌毒素の例には、志賀菌(Shigella dysenteriae)由来の細胞毒および関連する志賀(Shiga)-様毒素が挙げられる。組換えトリコサンチンおよびそのコード配列は米国特許第5,101,025号および同第5,128,460号に開示されている。
【0052】
リシン様毒素の完全長のAまたはB鎖以外に、本発明の組換えタンパク質は、細胞障害性を発揮するのに必要なA鎖の部分だけを含有してもよいことが理解される。例えば、リシンA鎖の最初の30アミノ酸を除去して、毒性作用を保持する切断型A鎖を生じてもよい。切断型リシンまたはリシン様A鎖は、切断型遺伝子の発現によってまたは例えば、Nagaraseによるタンパク質分解によって調整することができる(Funmatsu et al., Jap. J. Med. Sci. Biol. 23:264-267 (1970))。同様に、本発明の組換えタンパク質は、ガラクトース認識、細胞結合および細胞質内への輸送に必要なB鎖の部分だけを含有してもよい。切断型B鎖は、例えば、E. P. 145,111号に記載されている。リシン様毒素は、重要でなく、タンパク質の活性に影響を与えない他の修飾をA鎖またはB鎖に有してもよいことが理解される。このような変化物には、同類アミノ酸置換を有するアナログを含む、未変性のA鎖またはB鎖と同じ方法で機能するアナログが挙げられる。
【0053】
本明細書において使用する「リンカー配列」という用語は、例えば、真核細胞リボソームの翻訳を酵素的に阻害して、A鎖に毒性作用を発揮できなくするために、AおよびB鎖を結合する残基を含有する組換えタンパク質内の内部アミノ酸配列をいう。異種は、リンカー配列がリシン様毒素またはその前駆体のAまたはB鎖本来の配列でないことを意味する。しかし、好ましくは、リンカー配列は、リシン様毒素のリンカー配列と同様の長さであってもよく、細胞結合および細胞質内への輸送においてB鎖の作用を妨害するべきではない。リンカー配列が切断されると、A鎖は活性または毒性になる。
【0054】
リンカー領域は、例えば、癌、ウイルス、寄生虫または真菌に関連する疾患特異的プロテアーゼの切断認識配列をコードする。特異的なプロテアーゼ-感受性リンカー変種を作製するために使用される変異原性およびクローニング方法は、本発明者らに付与された国際公開公報第9849311号に要約されている。簡単に説明すると、第1の段階は、変異原性プライマーセットを、隣接する2つのプライマーRicin-109EcoおよびRicin1729C Pstlを合わせて使用するDNA増幅に関係する。制限消化したPCR断片をゲル精製し、次いで、Eco RIおよびPstlで消化しておいたPVL1393でライゲーションする。ライゲーション反応を使用して、コンピテントXLI-Blue細胞(Stratagene)を形質転換する。組換えクローンをプラスミドミニプレップの制限消化物によって同定し、DNAおよび突然変異体リンカー配列をDNA配列決定によって確認する。本発明に使用することができる特定のリンカー配列は米国特許第6,333,303号;同第6,531,125号および同第6,593,132号に詳細に記載されている。
【0055】
リンカー鎖の疾患関連プロテアーゼの切断認識配列はペプチド模倣物であってもよい。「ペプチド模倣物」は、分子間の相互作用においてペプチドの置換物として作用する構造物である(総説はMorgan et al (1989), Ann. Reports Med. Chem. 24:243-252参照)。ペプチド模倣物は、アミノ酸および/またはペプチド結合を含有してもよいが、リンカー鎖に切断認識配列の構造的および機能的特徴を保持する合成構造物を含む。ペプチド模倣物はまた、ペプトイド、オリゴペプトイド(oligopeptoid) (Simon et al (1972) Proc. Natl. Acad, Sci USA 89:9367)および本発明の切断認識配列に対応する全ての可能アミノ酸配列を示す設計された長さのペプチドを含有するペプチドライブラリーも含む。
【0056】
ペプチド模倣物は、L-アミノ酸とD-アミノ酸の系統的な置換によって、側鎖と異なる電子特性を有する基の置換によっておよびペプチド結合とアミド結合置換との系統的な置換によって得られる情報に基づいて設計することができる。局所的な立体配座制約を導入して、候補ペプチド模倣物の活性の立体配座要件を決定することもできる。模倣物は、リバースターン立体配座を安定化または促進して、分子を安定化する助けとなるために、等比堆積のアミド結合またはD-アミノ酸を含んでもよい。環状アミノ酸アナログを使用して、アミノ酸残基を特定の立体配座状態に制約してもよい。模倣物は阻害因子ペプチド模倣物二次構造も含んでもよい。これらの構造は、アミノ酸残基の3-次元配向をタンパク質の公知の二次的な立体配座にモデル化することができる。N-置換アミノ酸のオリゴマーであり、新規分子の化学的に異なるライブラリーを作製するためのモチーフとして使用することができるペプトイドも使用することができる。
【0057】
本発明の好ましい態様において、組換えタンパク質は、図1、2または3(それぞれ、配列番号1〜3)に示すアミノ酸配列またはそのフラグメントもしくはアナログを有する。言及されている配列のアナログは同様の生物活性を有するが、アミノ酸配列の差を有してもよい。好ましくは、アナログは、配列番号1〜3と比較するとき、同類アミノ酸置換を有する。同類アミノ酸置換は、本発明の組換えタンパク質の1つまたは複数のアミノ酸を同様の荷電、サイズおよび/または疎水性特性のアミノ酸と置換することに関係する。同類置換だけが生じる場合、結果として得られるアナログは機能的に等価であるはずである。
【0058】
本発明者らは、発現レベルを改善する努力において異なる分泌シグナルを試験した。本明細書において使用する「分泌シグナル配列」という用語は、分泌タンパク質の発現に必要とされるアミノ酸配列をいう。例えば、本発明者らは、タンパク質の発現および分泌を誘導するために、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のα接合因子分泌シグナル、Pho-1分泌シグナルおよびリシン分泌シグナルを試験した。天然リシン分泌シグナルを使用すると最良の結果が得られた。リシン分泌シグナルを使用して遺伝子を発現すると、総タンパク質収率の改善以外に、実質的に全ての高度グリコシル化が排除されたことを本発明者らは発見した。本発明の態様において、本発明の組換えタンパク質は、高度グリコシル化を伴わない組換えタンパク質の発現を可能にする分泌シグナル配列を有する。好ましい態様において、分泌シグナル配列はリシン分泌シグナル配列である。
【0059】
本発明のタンパク質は組換えDNA方法を使用して調整することができる。従って、本発明の核酸分子を、公知の方法で、タンパク質のすぐれた発現を確実にする適当な発現ベクターに導入することができる。可能な発現ベクターには、ベクターが使用する宿主細胞と適合性である限り、コスミド、プラスミドまたは改変ウイルス(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)が挙げられるが、それに限定されるわけではない。発現ベクターは「宿主細胞の形質転換に好適」であり、発現ベクターが、本発明の核酸分子および発現に使用する宿主細胞に基づいて選択され、核酸分子に機能的に結合している調節配列を含有することを意味する。機能的に結合しているは、核酸が、核酸の発現を可能にする方法で調節配列に結合していることを意味することが意図されている。
【0060】
従って、本発明は、本発明の核酸分子またはそのフラグメントならびに挿入されたタンパク質-配列の転写および翻訳に必要な調節配列を含有する本発明の組換え発現ベクターを考慮する。
【0061】
好適な調節配列は、細菌、真菌、ウイルス、哺乳類または昆虫遺伝子を含む種々の起源から誘導することができる(例えば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている調節配列参照)。適当な調節配列の分泌は、以下に考察されているように選択した宿主細胞に依存し、当業者が容易に実施することができる。このような調節配列の例には:転写プロモーターおよびエンハンサーまたはRNAポリメラーゼ結合配列、翻訳開始シグナルを含むリボソーム結合配列が挙げられる。また、選択する宿主細胞および使用するベクターに応じて、複製開始点、追加のDNA制限部位、エンハンサーおよび転写誘導能を与える配列などの他の配列を発現ベクターに導入してもよい。必要な調節配列は未変性のAおよびB鎖および/またはその隣接領域によって供給されうることも理解されている。
【0062】
本発明の組換え発現ベクターは、本発明の組換え分子を形質転換または形質移入した宿主細胞の選択を容易にする選択マーカー遺伝子も含有してもよい。選択マーカー遺伝子の例は、ある種の薬剤に対する耐性を与えるG418およびヘモリシン、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼまたは免疫グロブリンもしくは免疫グロブリン、好ましくは、IgGのFc部分などの一部などのタンパク質をコードする遺伝子である。選択マーカー遺伝子の転写は、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼまたはホタルルシフェラーゼなどの選択マーカータンパク質の濃度の変化によってモニターされる。選択マーカー遺伝子が、ネオマイシン耐性などの抗生物質耐性を与えるタンパク質をコードする場合には、形質転換細胞はG418で選択することができる。選択マーカー遺伝子を導入した細胞は生存するが、他の細胞は死滅する。これにより、本発明の組換え発現ベクターの発現を可視化し、アッセイすることが可能になり、特に発現および表現型に対する突然変異に影響を判定することが可能になる。選択マーカーは、関心対象の核酸とは別個のベクターに導入してもよいことが理解される。
【0063】
組換え発現ベクターは、組換えタンパク質の発現を増加する;組換えタンパク質の溶解度を増加する;およびアフィニティー精製においてリガンドとして作用することによって標的組換えタンパク質の精製の助力となる融合部分をコードする遺伝も含有してもよい。例えば、タンパク質分解部位を標的組換えタンパク質に付加して、融合タンパク質の精製後に組換えタンパク質の融合部分からの分離を可能にすることができる。典型的な融合発現ベクターには、組換えタンパク質に、それぞれ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質またはプロテインAを融合するpGEX (Amrad Corp., Melbourne, Australia)、pMal (New England Biolabs, Beverly, MA) およびpRIT5 (Pharmacia, Piscataway, NJ)が挙げられる。
【0064】
組換え発現ベクターを宿主細胞に導入して、形質転換された宿主細胞を作製することができる。「形質転換された宿主細胞」という用語は、本発明の組換え発現ベクターを形質転換または形質移入した、グリコシル化できる細胞を含むことが意図されている。「で形質転換した」、「を形質移入した」、「形質転換」および「形質移入」という用語は、当技術分野において公知の多数の可能な技法の1つによって核酸(例えば、ベクター)を細胞に導入することを含むことが意図されている。原核細胞は、例えば、エレクトロポレーションまたは塩化カルシウム媒介形質転換によって核酸で形質転換することができる。例えば、リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介形質移入、リポフェクチン、エレクトロポレーションまたはマイクロインジェクションなどの従来の技法によって核酸を哺乳類細胞に導入することができる。宿主細胞を形質転換し、形質移入する好適な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press (1989))および他の実験教科書に見出すことができる。
【0065】
好適な宿主細胞には、多種多様の真核宿主細胞および原核細胞が挙げられる。例えば、本発明のタンパク質は酵母細胞または哺乳類細胞において発現することができる。他の好適な宿主細胞は、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1991)に見出すことができる。また、本発明のタンパク質は、大腸菌(Escherichia coli)などの原核細胞において発現することができる(Zhang et al., Science 303(5656): 371-3 (2004))。
【0066】
本発明を実施するのに好適な酵母および真菌宿主細胞には、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア(Pichia)属またはクルイベロマイセス(Kluyveromyces)属およびアスペルギルス(Aspergillus)属の種々の種が挙げられるが、それに限定されるわけではない。酵母S. セレビシエ(S. cerevisiae)における発現のためのベクターの例には、pYepSec1 (Baldari. et al., Embo J. 6:229-234 (1987))、pMFa (Kurjan and Herskowitz, Cell 30:933-943 (1982))、pJRY88 (Schultz et al., Gene 54:113-123 (1987))およびpYES2 (Invitrogen Corporation, San Diego, CA)が挙げられる。酵母および真菌の形質転換のためのプロトコールは当業者に周知である(Hinnen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75:1929 (1978); ltoh et al., J. Bacteriology 153:163 (1983)およびCullen et al. (BiolTechnology 5:369 (1987)参照)。
【0067】
本発明の一態様において、本発明の組換えタンパク質はピキア パストリス(Pichia pastoris)において発現される。リシンの天然のA-鎖およびB-鎖配列がグリコシル化-コンピテント酵母において発現されるとき、グリコシル化はA-鎖の1つの位置およびB-鎖の2つの部位において生じることを本発明者らは見出した。A-鎖の第2のセクオンは酵母では不活性であると思われる。
【0068】
本発明を実施するのに好適な哺乳類細胞には、特に、COS (例えば、ATCC No. CRL 1650または1651)、BHK (例えば、ATCC No. CRL 6281)、CHO (ATCC No. CCL 61)、HeLa (例えば、ATCC No. CCL 2)、293 (ATCC No. 1573)およびNS-1細胞が挙げられる。哺乳類細胞において発現を誘導するために好適な発現ベクターは、一般に、プロモーター(例えば、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスおよびシミアンウイルス40などのウイルス物質から誘導される)ならびに他の転写および翻訳制御配列を含む。哺乳類発現ベクターの例には、pCDM8 (Seed, B., Nature 329:840 (1987)) およびpMT2PC (Kaufman et al., EMBO J. 6:187-195 (1987))が挙げられる。
【0069】
本発明に提供されている教示内容を考慮すると、プロモーター、ターミネーターおよび適当な種類の発現ベクターを植物、トリおよび昆虫細胞に導入するための方法も容易に実施することができる。例えば、一態様において、本発明のタンパク質を植物細胞から発現することができる(アグロバクテリウム リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)ベクターの使用を考察しているSinkar et al., J. Biosci (Bangalore) 11 :47-58 (1987)参照;また、特にPAPS2022、PAPS2023およびPAPS2034を含む、植物細胞の発現ベクターの使用を記載しているZambryski et al., Genetic Engineering, Principles and Methods, Hollaender and Setlow (eds.), Vol. Vl, pp. 253-278, Plenum Press, New York (1984)参照)。
【0070】
本発明を実施するために好適な昆虫細胞には、カイコガ属(Bombyx)、ウワバ属(Trichoplusia)またはヨトウ(Spodotera)種の細胞および細胞系統が挙げられる。培養昆虫細胞(SF 9細胞)においてタンパク質を発現するために利用可能なバキュロウイルスベクターには、pAcシリーズ(Smith et al., Mol. Cell Biol. 3:2156-2165 (1983))およびpVLシリーズ(Lucklow, V.A., and Summers, M. D., Virology 170:31-39 (1989))が挙げられる。本発明の組換えタンパク質を発現するために好適な一部のバキュロウイルス-昆虫細胞発現系はPCT/US/02442に記載されている。
【0071】
または、本発明のタンパク質は、ラット、ウサギ、ヒツジおよびブタなどの非ヒト遺伝子導入動物においても発現することができる(Hammer et al. Nature 315:680-683 (1985); Palmiter et al. Science 222: 809- 814 (1983); Brinster et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:4438-4442 (1985); Palmiter and Brinster Cell 41 :343-345 (1985)および米国特許第4,736,866号)。
【0072】
本発明のタンパク質は、固相合成(Merrifield, J. Am. Chem. Assoc. 85:2149-2154 (1964); Frische et al., J. Pept. Sci. 2(4): 212-22 (1996))または均一溶液における合成(Houbenweyl, Methods of Organic Chemistry, ed. E. Wansch, Vol. 15 I and II, Thieme, Stuttgart (1987))などのタンパク質の化学において周知の技法を使用する化学合成によっても調整することができる。
【0073】
本発明はまた、リシン様毒素のA鎖、リシン様毒素のB鎖ならびにAおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列を含むタンパク質であって、リンカー配列が特異的なプロテアーゼの切断認識部位を含有するタンパク質も提供する。このようなタンパク質は、組換え手段以外に、例えば、化学合成によってまたはAおよびB鎖と天然植物、真菌または哺乳類起源から単離精製されるリンカー配列の結合によって調整してもよい。
【0074】
タンパク質などの他の分子が結合した本発明のタンパク質を含むN-末端またはC-末端融合タンパク質は組換え技法による融合によって調整することができる。得られた融合タンパク質は、本明細書に記載する選択されたタンパク質またはマーカータンパク質に融合した本発明のタンパク質を含有する。本発明の組換えタンパク質は、公知の技法によって他のタンパク質にも結合することができる。例えば、タンパク質は、国際公開公報第90/10457号に記載されているヘテロ二官能性チオール-含有リンカー、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ-プロピオネート)またはN-スクシンイミジル-5チオアセテートを使用してカップリングすることができる。融合タンパク質または結合物を調整するために使用することができるタンパク質の例には、免疫グロブリン、ホルモン、成長因子、レクチン、インスリン、低密度リポタンパク質、グルカゴン、エンドルフィン、トランスフェリン、ボンベシン、アシアロ糖タンパク質グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ヘマグルチニン(HA)および切断型mycなどの細胞結合タンパク質が挙げられる。
【0075】
(B) 本発明の核酸
本発明は、(a)リシン様毒素のA鎖をコードするヌクレオチド配列、(b)リシン様毒素のB鎖をコードするヌクレオチド配列および(c)AおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む単離精製された核酸分子であって、異種リンカー配列は疾患特異的プロテアーゼの切断可能な認識部位を含み、A鎖をコードするヌクレオチド配列またはB鎖をコードするヌクレオチド配列はグリコシル化部位を有する少なくとも1つのアミノ酸をコードする単離精製された核酸分子に関する。本発明の好ましい態様において、B鎖のヌクレオチド配列は、グリコシル化部位を有する少なくとも1つのアミノ酸をコードする。別の好ましい態様において、B鎖のヌクレオチド配列は、B1にグリコシル化部位を有するアミノ酸をコードする。
【0076】
本発明の一態様において、本発明の核酸分子は、好ましくは、高度グリコシル化されないで、本発明の組換えタンパク質の発現を可能にする分泌シグナル配列をコードする。好ましい態様において、分泌シグナル配列はリシン分泌シグナル配列である。
【0077】
本発明の別の態様において、本発明の核酸分子は図4、5または6(それぞれ、配列番号4〜6)に示す核酸配列を有する。
【0078】
好ましい態様において、核酸分子は:
(a)図4(配列番号:4)、図5(配列番号:5)または図6(配列番号:6)(ここで、TはUであってもよい)に示す核酸配列;
(b)(a)の核酸配列に相補的な核酸配列;
(c)(a)または(b)の核酸配列との実質的な配列相同性を有する核酸配列;
(d)(a)、(b)もしくは(c)の核酸配列のアナログである核酸配列;または
(e)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下において(a)、(b)、(c)もしくは(d)の核酸配列にハイブリダイゼーションする核酸配列
を含む。
【0079】
「実質的な配列の相同性を有する配列」という用語は、(a)または(b)の配列からわずかなまたは取るに足りない配列の変更を有するような核酸配列を意味する、すなわち配列は実質的に同じように機能する。変更は局所的な突然変異または構造的修飾に寄与することがある。実質的な相同性を有する核酸配列は、図4(配列番号:4)、図5(配列番号:5)、図6(配列番号:6)に示す核酸配列と少なくとも65%、さらに好ましくは、少なくとも85%、最も好ましくは、90〜95%の同一性を有する核酸配列を含む。配列の同一性は、当技術分野において公知の方法により算出することができる。配列の同一性は、最も好ましくは、BLASTバージョン2.1アドバンストサーチのアルゴリズムによって評価される。BLASTは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTにおいてオンラインで利用可能なプログラムシリーズである。アドバンストblastサーチ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/blast.cgi?Jform=1 )はデフォルトパラメーターに設定されている。(すなわち、Matrix BLOSUM62;Gap existence cost 11; Per residue gap cost 1; Lambda ratio 0.85 デフォルト)。BLASTサーチは以下に言及されている:
。
【0080】
「ハイブリダイゼーションする配列」という用語は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下において(a)、(b)、(c)または(d)の配列にハイブリダイゼーションすることができる核酸配列を意味する。DNAハイブリダイゼーションを促進する適当な「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は当業者に公知であるか、またはCurrent Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6において見出すことができる。本明細書において使用する「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という用語は、2つの相補的な核酸分子間の溶液中での選択的なハイブリダイゼーションを促進する条件が選択されることを意味する。ハイブリダイゼーションは核酸配列分子の全てまたは一部に生じてもよい。ハイブリダイゼーションする部分は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の1つに対して長さの少なくとも50%である。これに関しては、核酸2本鎖またはハイブリッドの安定性は、ナトリウムを含有する緩衝液において、ナトリウムイオン濃度、標識核酸のG/C含量、核酸プローブの長さ(l)および温度の関数であるTmによって決定される(Tm=81.5℃-16.6(Log10[Na+])+0.41(%(G+C)-600/l)。従って、ハイブリッドの安定性を決定する洗浄条件のパラメーターはナトリウムイオン濃度および温度である。公知の核酸分子に類似しているが、同一ではない分子を同定するためには、例えば、95%より大きい同一性を有する核酸分子を検索し、最後の洗浄が5℃低い場合には、1%のミスマッチによってTmが約1℃減少すると仮定することができる。これらの考慮点に基づいて、ストリンジェントなハイブリッド条件は以下と規定される:5×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)/5×デンハート液/1.0% SDS、Tm(上記等式に基づく)-5℃におけるハイブリダイゼーション、その後60℃における0.2×SSC/0.1% SDSの洗浄。
【0081】
「アナログである核酸配列」という用語は、(a)、(b)または(c)の配列と比較したとき改変されているが、改変が本明細書に記載する配列の利用性を変更しない核酸配列を意味する。改変された配列またはアナログは、(a)、(b)または(c)に示す配列を上回る特性を有する場合がある。アナログを調整するための改変の一例は、図4(配列番号:4)、図5(配列番号:5)または図6(配列番号:6)に示す配列の天然型塩基(すなわち、アデニン、グアニン、シトシンまたはチミジン)の1つを、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、6-メチル、2-プロピルおよび他のアルキルアデニン、5-ハロウラシル、5-ハロシトシン6-アザウラシル、6-アザシトシンおよび6-アザチミン、シュードウラシル、4-チオウラシル、8-ハロアデニン、8-アミノアデニン、8-チオールアデニン、8-チオアルキルアデニン、8-ヒドロキシルアデニンおよび他の8-置換アデニン、8-ハログアニン、8アミノグアニン、8-チオールグアニン、8-チオアルキルグアニン、8-ヒドロキシルグアニンおよび他の8-置換グアニン、他のアザおよびデアザウラシル、チミジン、シトシン、アデニンまたはグアニン、5-トリフルオロメチルウラシルおよび5-トリフルオロシトシンなどの改変された塩基と置換することである。
【0082】
別の改変の例は、図4(配列番号:4)、図5(配列番号:5)または図6(配列番号:6)に示す核酸分子のリン酸骨格、短鎖アルキルもしくはシクロアルキル糖間結合または短鎖ヘテロ原子もしくは複素環糖間結合に修飾リンまたは酸素ヘテロ原子を含ませることである。例えば、核酸配列は、ホスホロチオエート、ホスホトリエステル、メチルホスホネートおよびホスホロジチオエートを含有してもよい。
【0083】
本発明の核酸分子のアナログのさらに別の例は、DNA(またはRNA)のデオキシリボース(またはリボース)リン酸骨格がペプチドに見られるものと類似しているポリアミド骨格で置換されているペプチド核酸(PNA)である(P. E. Nielsen, et al Science 1991 , 254, 1497)。PNAアナログは、酵素による分解に耐性であり、インビボおよびインビトロにおいて寿命が長いことが示されている。PNAは、PNA鎖とDNA鎖間の荷電反発がないので、相補的な(complimentary)DNA配列に強力に結合する。他の核酸アナログは、ポリマー骨格、環状骨格または非環状骨格を含有するヌクレオチドを含有してもよい。例えば、ヌクレオチドはモルホリノ骨格構造を有してもよい(米国特許第5,034,506号)。アナログは、レポーター基、核酸配列の薬物動態または薬物動力学的特性を改善するための基などの基も含有してもよい。
【0084】
本明細書において使用する「単離精製された」という用語は、組換えDNA技法によって作製されるとき細胞物質もしくは培養培地または化学的に合成されるとき化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まない核酸をいう。「単離精製された」核酸はまた、核酸が誘導される核酸に天然に隣接している配列(すなわち、核酸の5'および3'末端に位置する配列)を実質的に含まない。「核酸」という用語はDNAおよびRNAを含むことが意図されており、2本鎖または1本鎖であってもよい。
【0085】
組換え毒性タンパク質をコードする本発明の核酸分子は、グリコシル化変種シリーズを作製するために、プレプロリシンcDNAクローンを部位特異的変異誘発に供することによってクローニングされる。プレプロシン遺伝子の5'および3'最末端に対応するオリゴヌクレオチドを合成し、遺伝子をPCR増幅するために使用する。プレプロリシンのcDNA配列を使用すると(Lamb et al., Eur. J. Biochem. 145:266- 270 (1985))、いくつかのオリゴヌクレオチドプライマーは、プレプロリシンオープンリーディングフレームの開始および停止コドンに隣接するように設計される。
【0086】
プレプロリシンcDNAは、標準的な手法を使用して(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989))、上流プライマーRicin-99またはRicin-109および下流プライマーRicin1729CならびにVent DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)を使用して増幅される。次いで、プレプロリシンcDNAをコードする精製PCRフラグメントを、Eco RV-消化したpBluescript 11 SKプラスミド(Stratagene)にライゲーションし、コンピテントXL1-Blue細胞(Stratagene)を形質転換するために使用する。プレプロリシン遺伝子と推定されるものを含有するクローニングされたPCR産物は、完全なcDNAクローンのDNA配列決定によって確認される。
【0087】
グリコシル化変種シリーズを作製するために、プレプロリシンcDNAクローンをQuickchange変異誘発(Stratagene)に供する。具体的な態様において、突然変異は、Asnをコードする核酸配列を、1つまたは複数のセクオンのGlnをコードする核酸配列と置換することに関係する。
【0088】
上記のように、リシン遺伝子はクローニングされ、配列決定されており、AおよびB鎖のX-線結晶構造が公開されている。本発明は、リシン様タンパク質のAおよびB鎖の切断型ならびにリシン様タンパク質のAおよびB鎖のアナログおよび相同物ならびにそれらの切断型(すなわち、リシン様タンパク質)をコードする核酸を含むことが理解される。本発明のcDNAに対応するmRNAの別のスプライシングによって生じる本発明の核酸の変異型も本発明に含まれることがさらに理解される。
【0089】
本発明の核酸分子は、リシン様毒素のAおよび/またはB鎖を含んでもよい。リシン様毒素をクローニングする方法は当技術分野において公知であり、例えば、E. P. 466,222に記載されている。リシンまたはリシン様AおよびB鎖をコードする配列は、ゲノムまたはcDNAライブラリーにおいてコード領域を選択的に増幅するための変性プライマーまたはプローブセットを使用してコード領域の選択的増幅によって得ることができる。適当なプライマーは、リシンまたはリシン様毒素のAおよびB鎖の核酸配列から選択することができる。PCRに使用するためにヌクレオチド配列から合成オリゴヌクレオチドプライマーを設計することも可能である。例えば、米国特許第5,101,025号およびE. P. 466,222号に記載されているように、高度に保存されているリシン様タンパク質の領域をコードする配列から好適なプライマーを選択してもよい。
【0090】
これらのオリゴヌクレオチドプライマーおよび標準的なPCR増幅技法を使用して、cDNAまたはゲノムDNAから核酸を増幅することができる。このように増幅された核酸を適当なベクターにクローニングして、DNA配列分析によって特徴づけることができる。例えば、Chirgwinら(Biochemistry 18, 5294-5299 (1979)のグアニジンチオシアン酸塩抽出手法を使用することによって、種々の技法によって総細胞mRNAを単離することによってcDNAをmRNAからさ区政することができることが理解されている。次いで、逆転写酵素(例えば、Gibco/BRL, Bethesda, MD社製のモロニーMLV逆転写酵素またはSeikagaku America, Inc., St. Petersburg, FL社製のAMV逆転写酵素)を使用して、cDNAをmRNAから合成する。上記の方法を使用して、公知のリシン様タンパク質を産生する植物、細菌または真菌、好ましくは、植物からコード配列を入手することができるおよび未知のリシン様タンパク質をコードする遺伝子の存在についてスクリーニングすることができることが理解されている。
【0091】
特異的なプロテアーゼの切断認識部位を含有する配列は、組換えタンパク質によって標的とされる疾患または状態に基づいて選択することができる。切断認識部位は、治療される疾患または状態の切断認識部位特異的なプロテアーゼをコードすることが公知の配列から選択することができる。切断認識部位をコードする配列は、それぞれのプロテアーゼによる切断の感受性について配列の発現産物を試験することによって同定することができる。切断認識部位と疑われるものを含有するポリペプチドを特異的なプロテアーゼと共にインキュベーションし、切断産物の量を求める(Dilannit, 1990, J. Biol. Chem. 285: 17345- 17354 (1990))。特異的なプロテアーゼは当技術分野において公知の方法によって調整することができ、切断認識部位と疑われるものを試験するために使用することができる。
【0092】
本発明の核酸分子は融合タンパク質もコードすることができる。特異的なプロテアーゼの切断認識部位を含有する異種リンカー配列をコードする配列は、cDNAもしくはゲノムライブラリーからクローニングしてもまたはこのような切断部位の公知の配列に基づいて化学的に合成してもよい。次いで、異種リンカー配列を、融合タンパク質として発現するために、リシン様毒素のAおよびB鎖をコードする配列のフレーム内に融合することができる。融合タンパク質をコードする核酸分子は同じリシン様毒素のA鎖およびB鎖をコードする配列を含有してもまたはコードされるAおよびB鎖は異なる毒素由来であってもよいことが理解される。例えば、A鎖はリシン由来であってもよく、B鎖はアブリン由来であってもよい。タンパク質は、共有結合のための従来のカップリング剤を使用してAおよびB鎖とリンカー配列との化学的結合によって調整されてもよい。
【0093】
RNAである本発明の単離精製された核酸分子は、cDNAの転写を可能にする適当なベクターにAおよびB鎖ならびにリンカーをコードするcDNAをクローニングして、本発明のタンパク質をコードするRNA分子を作製することによって単離することができる。例えば、cDNAをベクターのバクテリオファージプロモーター(例えば、T7プロモーター)の下流にクローニングし、cDNAをインビトロにおいてT7ポリメラーゼで転写し、得られたRNAを標準的な技法によって単離することができる。
【0094】
(C) 本発明の組換えタンパク質および核酸分子の利用性
(i)治療方法
一態様において、本発明は、疾患に罹患しており、疾患に特異的なプロテアーゼに関連している細胞を阻害または破壊する方法であって、
(a)本発明の単離精製された核酸を調整する段階;(b)宿主細胞に核酸を導入し、宿主細胞において核酸を発現して、本発明の組換えタンパク質を得る段階;(c)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤にタンパク質を懸濁させる段階、および(d)細胞と組換えタンパク質を接触させる段階を含む方法を提供する。
【0095】
「本発明の核酸」および「本発明の組換えタンパク質」という用語は、照会の容易さのために使用され、セクションAおよびBならびに実施例および図面において言及される全ての核酸分子および組換えタンパク質を含む。
【0096】
別の態様において、本発明は、細胞と本発明の組換えタンパク質を接触させる段階を含む、疾患に罹患している細胞を阻害または破壊する方法を提供する。本発明はまた、疾患に罹患している細胞を阻害または破壊するためにの本発明の組換えタンパク質の使用を含む。本発明は、さらに、疾患に罹患している細胞を阻害または破壊するための医薬品を製造する際の本発明の組換えタンパク質の使用を含む。
【0097】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMPまたはマトリキシン)は亜鉛-依存性プロテイナーゼであり、MMP遺伝子の発現は炎症性障害(例えば、関節リウマチ)および悪性腫瘍において活性化されることが報告されている。また、関節リウマチ(Slot, O., et al. 1999)、骨関節炎(Pap, G. et al., 2000)などの炎症性障害、アテローム性硬化細胞(Falkenberg, M., et al., 1998)、クローン病(Desreumaux P, et al. 1999)、中枢神経系疾患(Cuzner and Opdenakker, 1999)および悪性腫瘍においてウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子の活性および発現の増加に関する報告がある。従って、本発明の組換えタンパク質は、疾患に罹患している細胞を特異的に阻害または破壊するために使用することができる。
【0098】
「疾患に罹患している細胞」という用語は、このような細胞、例えば、癌細胞、炎症性細胞またはウイルス、真菌もしくは寄生虫に感染している細胞を、組換えタンパク質のリンカー配列を切断することができる特異的なプロテイナーゼと関連させる疾患または感染症に罹患している細胞をいう。疾患には、T-およびB-細胞リンパ球増殖性疾患、卵巣癌、膵臓癌、頭頸部癌、扁平上皮癌、消化器癌、乳癌、前立腺癌、肺癌および肝臓癌などの種々の形態の癌が挙げられる。疾患にはまた、マラリアならびにヒトサイトメガロウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、ヒトライノウイルス、ヒトT-細胞白血病ウイルス、感染性喉頭気管支炎ウイルス、灰白髄炎ウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルスなどの感染に関連する種々のウイルス疾患状態が挙げられる。疾患には、またマラリア原虫(Plasmodium)寄生虫などの寄生虫感染症が挙げられる。
【0099】
さらに特に、本発明の組換えタンパク質を使用して、組換えタンパク質のリンカー配列を切断することができるプロテアーゼを含有する癌細胞を特異的に阻害または破壊することができる。
【0100】
細胞結合成分の必要性なく、本発明の組換えタンパク質が、炎症性障害および癌細胞のプロテアーゼを含む特異的なプロテアーゼを含有する細胞に対する特異性を有することは本発明の組換えタンパク質の利点である。組換えタンパク質のリシン様B鎖は細胞表面のガラクトース部分を認識して、タンパク質が、例えば、癌細胞によって取り込まれて、細胞質に放出されることを確実にする。タンパク質が正常な細胞に内部移行すると、異種リンカーの切断は特異的なプロテアーゼの非存在下では生じないと思われ、A鎖はB鎖に結合されていて無傷の状態を保持する。逆に、タンパク質が、特異的なプロテアーゼを有する細胞に内部移行すると、特異的なプロテアーゼはリンカーの切断認識部位を切断し、それによって毒性のA鎖を放出する。
【0101】
従って、本発明は、例えば、炎症細胞または癌細胞のような特異的なプロテアーゼを有する細胞を阻害または破壊する方法であって、このような細胞と、本発明の組換えタンパク質または組換えタンパク質をコードする核酸分子の有効量を接触させる段階を含む方法を提供する。本発明はまた、特異的なプロテアーゼを有する細胞を治療する方法であって、必要としている動物に本発明の組換えタンパク質または組換えタンパク質をコードする核酸の有効量を投与する段階を含む方法を提供する。本発明はまた、特異的なプロテアーゼを有する細胞を治療するための、本発明の組換えタンパク質または組換えタンパク質をコードする核酸分子の有効量の使用も含む。本発明はさらに、特異的なプロテアーゼを有する細胞を治療するための医薬品を製造する際の、本発明の組換えタンパク質または組換えタンパク質をコードする核酸分子の有効量の使用も含む。
【0102】
本明細書において使用する「有効量」という用語は、望ましい結果を達成するのに必要な用量および期間において有効な量を意味する。
【0103】
本明細書において使用する「動物」という用語は、全ての哺乳類、鳥類、魚類、爬虫類および両生類を含む動物界の任意のメンバーを意味する。好ましくは、治療対象の動物は哺乳類であり、さらに好ましくは、ヒトである。
【0104】
本明細書において使用する「治療または治療する」という用語は、臨床結果を含む有用なまたは望ましい結果を得るための方法を意味する。有用なまたは望ましい臨床結果には、検出可能であるかどうかにかかわらず、1つまたは複数の症状または状態の軽減または寛解、疾患の程度の軽減、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しない)、疾患の拡散の防止、疾患進行の遅延または緩徐化、疾患状態の寛解または緩和、および寛解(部分的または全体的)、が挙げられるが、それに限定されるわけではない。「治療する」はまた、治療を受けていない場合に期待される生存と比較したとき、生存を延長することを意味する。
【0105】
本発明の組換えタンパク質の特異性は、リンカーの切断認識部位に特異的であると考えられる特異的なプロテアーゼでタンパク質を処理し、切断産物をアッセイすることによって試験することができる。例えば、特異的なプロテアーゼは癌細胞から単離しても、または例えば、Darket et al. (J. Biol. Chem. 254:2307-2312 (1988))の手法に従って組換えにより調整されてもよい。切断産物は、例えば、サイズ、抗原性または活性に基づいて同定することができる。組換えタンパク質の毒性は、例えば、鋳型としてブロムモザイクウイルスmRNAを使用して、細胞溶解液におけるインビトロ翻訳アッセイに切断産物を供することによって検討することができる。切断産物の毒性は、リボソーム不活性化アッセイを使用して判定することができる(Westby et al., Bioconjugate Chem. 3:377-382 (1992))。タンパク質合成に対する切断産物の影響は、例えば、リボソーム源としての網状赤血球溶解液調製物ならびにmRNA鋳型およびアミノ酸などの種々の本質的な補助因子を含む部分的に規定された細胞フリーシステムを使用する標準化されたインビトロ翻訳アッセイにおいて測定することができる。混合物中に放射性標識アミノ酸を使用すると、トリクロロ酢酸沈殿性タンパク質への遊離アミノ酸前駆体の取り込みを定量することが可能になる。ウサギ網状赤血球溶解液は便利に使用することができる(O'Ηare, FEBS Lett. 273:200-204 (1990))。
【0106】
本発明の組換えタンパク質が特異的なプロテアーゼを有する細胞を選択的に阻害または破壊する能力は、癌細胞系統などの特異的なプロテアーゼを有する細胞系統を使用してインビトロにおいて容易に試験することができる。本発明の組換えタンパク質の選択的な阻害作用は、例えば、癌細胞または感染細胞において細胞増殖の選択的な阻害を実証することによって判定することができる。
【0107】
毒性は細胞の生存度に基づいても測定することができ、例えば、組換えタンパク質に接触させた癌および正常細胞培養物の生存度を比較することができる。細胞の生存度は、トリパンブルー排除アッセイなどの公知の技法によって評価することができる。
【0108】
別の例において、数多くのモデルを使用して、癌関連マトリックスメタロプロテイナーゼの切断認識部位を含有する異種リンカー配列を有する組換えタンパク質の毒性を試験することができる。Thompson, E.W. et al. (Breast Cancer Res. Treatment 31 :357-370 (1994))は、細胞外マトリックスの腫瘍細胞-媒介性タンパク質分解および再構成された基底膜(コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲルまたはゼラチン)の腫瘍細胞浸潤を測定することによって、インビトロにおけるヒト乳癌細胞の浸潤を判定するモデルを記載している。適用可能な癌細胞モデルには、培養卵巣腺癌細胞(Young, T.N. et al. Gynecol. Oncol. 62:89-99 (1996);Moore, D. H. et al. Gynecol. Oncol. 65:78-82 (1997))、ヒト濾胞性甲状腺癌細胞(Demeure, M. J. et al., World J. Surg. 16:770-776 (1992))、ヒトメラノーマ(A-2058)および線維肉腫(HT-1080)細胞系統(Mackay, A. R. et al. Lab. Invest. 70:781 783 (1994))ならびに肺扁平上皮(HS-24)および腺癌(SB-3)細胞系統(Spiess, E. et al. J. Histochem. Cytochem. 42:917-929 (1994))が挙げられる。胸腺欠損ヌードマウスにおける腫瘍の植え込みならびに腫瘍増殖および転移の測定に関係するインビボ試験系も記載されている(Thompson, E. W. et al., Breast Cancer Res. Treatment 31 : 357-370 (1994); Shi, Y. E. et al., Cancer Res. 53:1409-1415 (1993))。
【0109】
特異的なプロテアーゼを有する細胞に対する本発明のタンパク質の主要な特異性はリンカーの切断認識部位の特異的な切断によって媒介されるが、特異的な細胞結合成分が、本発明のタンパク質に任意に結合されてもよいことが理解される。このような細胞結合成分は、本発明のタンパク質との融合タンパク質として発現されてもまたは細胞結合成分はタンパク質成分に物理的もしくは化学的に結合されてもよい。好適な細胞結合成分の例には、癌タンパク質に対する抗体、サイトカインおよび受容体フラグメントが挙げられる(Frankel et al., Protein Eng. 9(10): 913-9 (1996); Frankel et al., Carbohydr. Res. 300(3): 251-8 (1997))。
【0110】
細胞表面タンパク質に対する特異性を有する抗体は従来の方法によって調整することができる。哺乳類に抗体応答を誘発する免疫原性型のペプチドで哺乳類(例えば、マウス、ハムスターまたはウサギ)を免疫することができる。ペプチドに免疫原性を与える技法には、キャリヤーとの結合または当技術分野において周知の他の技法が挙げられる。例えば、ペプチドをアジュバントの存在下において投与することができる。免疫化の進行は、血漿または血清における抗体価の検出によってモニターすることができる。標準的なELISAまたは他のイムノアッセイ手法を抗原としての免疫原と共に使用して抗体のレベルを評価することができる。免疫化後、抗血清を入手し、望ましい場合には、ポリクローナル抗体を血清から単離することができる。
【0111】
モノクローナル抗体を作製するためには、抗体産生細胞(リンパ球)を免疫化動物から採取し、標準的な体細胞融合手法によって骨髄腫細胞と融合し、それによってこれらの細胞を不死化し、ハイブリドーマ細胞を生じる。このような技法は当技術分野において周知である(例えば、ハイブリドーマ技法は、最初にKohler and Milstein (Nature 256:495-497 (1975))ならびにヒトB-細胞ハイブリドーマ技法(Kozbor et al., Immunol.Today 4:72 (1983))、ヒトモノクローナル抗体を作製するためのEBV-ハイブリドーマ技法(Cole et al., Methods Enzymol, 121 :140-67 (1986))およびコンビナトリアル抗体ライブラリーのスクリーニング(Huse et al., Science 246:1275 (1989))などの他の技法も当技術分野において周知である。ハイブリドーマ細胞は、ペプチドと特異的に反応する抗体の産生について免疫化学的にスクリーニングすることができ、モノクローナル抗体を単離することができる。
【0112】
本明細書において使用する「抗体」という用語は、細胞表面成分と特異的に反応するそのフラグメントを含むことが意図されている。抗体は、従来の技法を使用してフラグメント化することができ、上記と同じ方法で利用性についてフラグメントをスクリーニングすることができる。例えば、抗体をペプシンで処理することによって、F(ab')2フラグメントを作製することができる。得られたF(ab')2フラグメントは、ジスルフィド架橋を減少するように処理して、Fabフラグメントを作製することができる。
【0113】
キメラ抗体誘導体、すなわち、非ヒト動物可変領域とヒト不変領域を合わせた抗体分子も本発明の範囲内であると考慮される。キメラ抗体分子は、例えば、マウス、ラットまたは他の種の抗体の抗原結合ドメインおよびヒト不変領域を含んでもよい。従来の方法を使用して、細胞表面抗原を認識する免疫グロブリン可変領域を含有するキメラ抗体を作製することができる(例えば、Morrison et al., Proc. Natl Acad. Sci. U.S.A. 81 :6851 (1985); Takeda et al., Nature 314:452 (1985), Cabilly et al.、米国特許第4,816,567号;Boss et al.、米国特許第4,816,397号;Tanaguchi et al., 欧州特許第171,496号;欧州特許第173,494号;英国特許第GB 2177096B参照)。キメラ抗体は、対応する非-キメラ抗体よりヒト被験者において免疫原性が低いと思われることが期待される。
【0114】
可変領域の一部、特に抗原結合ドメインの保存されているフレームワーク領域がヒト起源であり、高頻度可変性領域だけが非ヒト起源であるヒト不変領域キメラを作製することによって細胞表面成分に特異的に反応性のモノクローナルまたはキメラ抗体をさらにヒト化することができる。このような免疫グロブリン分子は当技術分野において公知の技法によって作製することができる(例えば、Teng et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 80:7308-7312 (1983); Kozbor et al., Immunology Today 4:7279 (1983); Olsson et al., Meth. Enzymol., 92:3-16 (1982)およびPCT 公報W092/06193またはEP 239,400)。ヒト化抗体は商業ベースで作製することもできる(Scotgen Limited, 2 Holly Road, Twickenham, Middlesex, Great Britain.)。
【0115】
細胞表面成分に反応性の特異的な抗体または抗体フラグメントは、細胞表面成分を有する細菌において発現される発現ライブラリーをコードする免疫グロブリン遺伝子またはそれらの一部をスクリーニングすることによっても作製することができる。例えば、完全なFabフラグメント、VH領域およびFV領域は、ファージ発現ライブラリーを使用して細菌において発現することができる(例えば、Ward et al., Nature 341 :544-546 (1989); Huse et al., Science 246:1275-1281 (1989);およびMcCafferty et al., Nature 348:552-554 (1990)参照)。または、SCID-huマウス、例えば、Genpharmによって開発されたモデルを使用して抗体またはそれらのフラグメントを作製することができる。
【0116】
(ii)薬学的組成物
本発明のタンパク質および核酸は、インビボにおいて投与するのに好適な生物学的に適合性の形態で被験者に投与するための薬学的組成物に製剤化することができる。「インビボにおいて投与するのに好適な生物学的に適合性の形態」は、任意の毒性作用より治療作用が勝る物質の投与される形態を意味する。物質は、ヒトおよび動物を含む生きている生物に投与することができる。本発明の薬学的組成物の治療的に活性な量の投与は、望ましい結果を達成するのに必要な用量および期間にわたる有効な量と規定される。例えば、物質の治療的に活性な量は、疾患の状態、患者の年齢、性別および体重ならびに本発明の組換えタンパク質が患者において望ましい応答を誘発する能力により変わってもよい。最適の治療応答を提供するように用法用量を調節することができる。例えば、数回の分割投与を毎日投与してもまたは治療状況の要件に示されるように用量を均等に減少してもよい。
【0117】
従って、本発明は、本発明の組換えタンパク質または組換えタンパク質をコードする核酸および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む特異的なプロテアーゼを有する細胞を治療するための薬学的組成物を提供する。
【0118】
作用物質は、注射(皮下、静脈内、筋肉内等)、経口投与、吸入、経皮投与(局所クリームまたは軟膏等など)または坐剤適用などの便利な方法で投与することができる。投与経路に応じて、作用物質は、酵素、酸および化合物を不活性化する可能性のある他の天然の条件の作用から化合物を保護するための材料でコーティングすることができる。
【0119】
本明細書に記載する組成物は、作用物質の有効な量が、混合物において、薬学的に許容される基剤と合わされるように、被験者に投与することができる薬学的に許容される組成物を製造するための公知の方法によって製造することができる。好適な基剤は、例えば、RemingtonのPharmaceutical Sciences (Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., USA 1985)に記載されている。これに基づいて、組成物には、1つまたは複数の薬学的に許容される基剤または希釈剤と関連している物質の溶液、および好適なpHで、生理液と等浸透圧の緩衝液に含有される物質の溶液が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0120】
薬学的組成物は、癌が認められるまたはウイルス、真菌もしくは寄生虫が感染している哺乳類を含む動物、好ましくは、ヒトを治療するための方法に使用することができる。投与される組換えタンパク質の用量および種類は、ヒト被験者において容易にモニターすることができる種々の因子に依存する。このような因子には、異常増殖または感染症の原因および重症度(程度および病期)が挙げられる。
【0121】
(iii)併用療法
承認されている抗癌療法の大半において、薬剤は併用使用される。本発明の組換えタンパク質は、他の従来の抗癌療法と併用使用すると、超相加(supradditive)作用を有することを本発明者らは見出した。「抗癌療法」という用語は、ドキソルビシン、シスプラチン、シクロホスファミドエトポシド、パクリタキセル、タキソテール、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、トポテカン、ビンクリスチン、ゲムシタビン、エピルビシン、カペシタビンおよびテモゾロミドなどの化学療法剤を含むが、これらに限定されない任意の抗癌療法を含む。
【0122】
一態様において、本発明は、本発明の組換えタンパク質および核酸を少なくとも1つの他の抗癌療法と併用使用して、癌に罹患している細胞を阻害または破壊する方法を提供する。本発明はまた、癌に罹患している細胞を阻害または破壊するためのa)本発明の組換えタンパク質または核酸をb)追加の癌療法と併用した使用も含む。本発明はまた、癌に罹患している細胞を阻害または破壊するための医薬品の製造における、a)本発明の組換えタンパク質または核酸をb)追加の抗癌療法と併用した使用も含む。
【0123】
別の態様において、本発明は、本発明の組換えタンパク質を調整する段階および少なくとも1つの他の抗癌療法と併用してタンパク質を哺乳類に投与する段階を含む、癌が認められる哺乳類を治療する方法を提供する。
【0124】
本発明の別の態様は、本発明の組換えタンパク質および/または本発明の核酸および少なくとも1つの他の抗癌療法を使用して、癌が認められる哺乳類を治療するための薬剤を製造する方法である。本発明のさらに別の態様は、本発明の組換えタンパク質および/または本発明の核酸および少なくとも1つの他の抗癌療法を有する、癌を治療するための薬学的組成物である。
【0125】
以下の限定するものではない実施例は本発明を例示している。
【0126】
実施例
実施例1:グリコシル化変種
天然のリシンは、N-結合炭水化物を有する糖タンパク質である。リシンのアミノ酸配列によると、4つのセクオンが存在する:A-鎖に2つの部位およびB-鎖に2つの部位。本発明者らが製造したリシン由来のプロドラッグにも4つのセクオンが存在する。A鎖の2つのセクオンはA1およびA2と呼ばれるが、B鎖の2つはB1およびB2と呼ばれる。8つのアミノ酸リンカーを有するプロリシン構築物において、A1グリコシル化部位はアミノ酸位置14であり、A2グリコシル化部位はアミノ酸位置240であり、B1グリコシル化部位はアミノ酸位置363であり、B2グリコシル化部位はアミノ酸位置403である。グリコシル化は天然のタンパク質では4つ全ての部位においてある程度生じるが、分子の安定性および活性に対するグリコシル化の重要性は完全には明らかではない。本発明者らは、リシン由来のプロドラッグを作製するためにグリコシル化コンピテント酵母を使用する。プロドラッグTST10001からTST10007の発現として酵母を使用するとき、グリコシル化はA鎖の1つだけの位置およびB鎖の2つの部位において生じることを出願人は観察した。明らかに、A鎖の第2のセクオンは酵母において不活性である。
【0127】
組換え糖タンパク質は、それらの炭水化物成分において異種である傾向であるので、問題である。さらに、組換え体を作製するために使用する発酵過程の変動がこの異種性の特性に影響を与えることがある-すなわち、異種性は、タンパク質に結合している炭水化物鎖の数の変動または個々の鎖の組成の差またはその両方によって発現する可能性がある。
【0128】
本発明者らは、セクオンが修飾または脱離されている32のグリコシル化変種(表1および2)を調査した。
【0129】
TST10088構築物(図1および4(それぞれが、配列番号1および4)を参照)では、セクオンは2つ(A2およびB1)存在する。酵母発現系では、TST10088構築物のA2部位はグリコシル化されず、従って発現されるタンパク質はB鎖のB1の1つの部位だけがグリコシル化されている。
【0130】
図1は、TST10088構築物のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。残存するKEX2切断アミノ酸(Glu-Ala-Glu-Ala)を太字で示す(アミノ酸位置1〜4)。A1グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(アミノ酸位置14)。A2グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置240)。B1グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置363)。B2グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(アミノ酸位置403)。リンカー配列アミノ酸を太字で示す(アミノ酸位置264〜271)。
【0131】
図4はTST10088構築物の核酸配列(配列番号4)を示す。未変性のプロリシン分泌シグナルを太字で示す(ヌクレオチド位置-117〜-13)。A1グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(ヌクレオチド位置40〜42)。A1グリコシル化部位を太字で示す(ヌクレオチド位置718〜720)。B1グリコシル化部位を太字で示す(ヌクレオチド位置1087〜1089)。B2グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(ヌクレオチド位置1207〜1209)。リンカー配列を太字で示す(ヌクレオチド位置790〜813)。KEX2切断シグナルを太字で示す(ヌクレオチド位置-13〜-1)。
【0132】
TST10092構築物(図2および5参照)では、セクオンは3つ存在する(A2、B1およびB2)。酵母発現系では、TST10092構築物のA2部位はグリコシル化されず、従って発現されるタンパク質は2つの部位(B1およびB2)だけがグリコシル化されている。
【0133】
図2は、TST10092構築物のアミノ酸配列(配列番号2)を示す。残存するKEX2切断アミノ酸(Glu-Ala-Glu-Alaを太字で示す(アミノ酸位置1〜4)。A1グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(アミノ酸位置14)。A2グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置240)。B1グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置363)。B2グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置403)。リンカー配列アミノ酸を太字で示す(アミノ酸位置264〜271)。
【0134】
図5はTST10092構築物の核酸配列(配列番号5)を示す。未変性のプロリシン分泌シグナルを太字で示す(ヌクレオチド位置-117〜-13)。A1グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(ヌクレオチド位置40〜42)。ヌクレオチド位置718〜720のA2グリコシル化部位を太字で示す。ヌクレオチド位置1087〜089のB1グリコシル化部位を太字で示す。B2グリコシル化部位を太字で示す(ヌクレオチド位置1207〜1209)。リンカー配列を太字で示す(ヌクレオチド位置790〜813)。KEX2切断シグナルを太字で示す(ヌクレオチド位置-13〜-1)。
【0135】
TST10147構築物(図3および6(それぞれが、配列番号3および6)を参照)では、セクオンは2つ存在する(A2およびB1)。酵母発現系では、TST10147構築物のA2部位はグリコシル化されず、従って発現されるタンパク質は1つの部位だけがグリコシル化されている(B1)。
【0136】
図3は、TST10147構築物のアミノ酸配列を示す。残存するKEX2切断アミノ酸(Glu-Ala-Glu-Ala)を太字で示す(アミノ酸位置1〜4)。A1グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(アミノ酸位置14)。A2グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置240)。B1グリコシル化部位を太字で示す(アミノ酸位置364)。B2グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(アミノ酸位置404)。リンカー配列アミノ酸を太字で示す(アミノ酸位置264〜272)。
【0137】
図6はTST10147構築物の核酸配列を示す(配列番号6)。未変性のプロリシン分泌シグナルを太字で示す(ヌクレオチド位置-117〜-13)。A1グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(ヌクレオチド位置40〜42)。A2グリコシル化部位を太字で示す(ヌクレオチド位置718〜720)。B1グリコシル化部位を太字で示す(ヌクレオチド位置1090〜1092)。B2グリコシル化部位はAsnからGlnまで突然変異されており、太字で示す(ヌクレオチド位置1210〜1212)。リンカー配列を太字で示す(ヌクレオチド位置790〜816)。KEX2切断シグナルを太字で示す(ヌクレオチド位置-13〜-1)。
【0138】
1(a)グリコシル化部位のコンビナトリアル変異誘発:天然遺伝子配列およびコドン最適化遺伝子
天然のリシン分子には、公知の炭水化物結合部位は4つ存在する:
セクオンA1、A2、B1およびB2。セクオンの相対的な位置を図7に示す。B3およびB4と指定される2つの謎めいたセクオンもアミノ酸配列見られ、可能な活性を判定するために突然変異を形成した。謎めいた部位は組換え体ではグリコシル化されないことが今では明らかである。DNAクローンは本明細書においてpPICと呼ばれ、対応するタンパク質はTSTとして公知である。高い程度の高度グリコシル化が、α接合因子分泌シグナルを使用したクローンから作製されたタンパク質に観察された(TST 10007〜TST 10087)。または、リシン分泌シグナルを使用したクローンでは、高度グリコシル化は実質的に排除されていた(TST 10088〜TST 10092)。結合位置の主要なアミノ酸は、クローン名の隣に示されている。括弧内のアミノ酸は、セクオンの他の(非結合)位置の突然変異を示す。グリコシル化コンピテントセクオン(酵母)を青で示す。グリコシル化されない位置を黄色で示す。表1および2参照。
【0139】
1(b)グリコシル化パターン
ウェスタンブロット分析を使用してグリコシル化変種を特徴づけた。図8は、セクオンの異なる組み合わせを有する変種サブセットのグリコシル化パターンを示す。5つの異なるタンパク質種がウェスタンブロット/PAGEによって観察された。ゲルの最上部から最下部において、これらの種は以下である;i)高度グリコシル化材料(ほとんどのレーンにおいてしみとして出現する)、ii)3つのグリコシル化部位が占めている(TST10062においてトリプレットの最上部に明確なバンド)、iii)2つのグリコシル化部位が占めている、iv)1つのグリコシル化部位が占めている、v)グリコシル化なし(TST10008において明確なバンド)。A鎖の2つのセクオンをA1およびA2と呼ぶが、B鎖の2つをB1およびB2と呼ぶ。TST10007(天然A鎖およびB鎖配列、4つ全てのセクオンが利用可能である)は、2つおよび3つの炭水化物鎖が主に結合しているタンパク質であることが結果から明らかである。A1セクオンは当節の30%だけがグリコシル化され、A2は本質的にグリコシル化されなかった。振とうフラスコ発酵では、B鎖の両方のセクオンがグリコシル化される。しかし、同じ変種が発酵槽培養で発現されるとき、B鎖グリコシル化の異種性の証拠が存在する。
【0140】
図8は、ウェスタンブロット/PAGEによって観察された5つの異なるタンパク質種を示す。ゲルの最上部から最下部において、これらの種は以下である;i)高度グリコシル化材料(ほとんどのレーンにおいてしみとして出現する)、ii)3つのグリコシル化部位が占めている(TST10062においてトリプレットの最上部に明確なバンド)、iii)2つのグリコシル化部位が占めている、iv)1つのグリコシル化部位が占めている、v)グリコシル化なし(TST10008において明確なバンド)。
【0141】
1(c)P388に対する糖型1の有効性
さらに別の検討において、A鎖のグリコシル化を防ぐようにA1セクオンを改変し、任意の事象において、ピキア パストリス(Pichia pastoris)においてグリコシル化されないので、A2の改変は不必要であった。糖型0と呼ばれる変種(TST10077)を3つのコンピテント位置において改変して(A2変化は不必要であった)、任意の炭水化物が結合されていないタンパク質を作製した。糖型1と呼ばれる変種(TST10088と本質的に同一であるTST10086分泌シグナルだけが異なる変種)はB1位置だけがグリコシル化されるが、糖型2(TST10092と本質的に同一であるTST10087分泌シグナルだけが異なる変種)はB1およびB2位置がグリコシル化される。
【0142】
3つの異なる糖型の活性をP388動物モデルにおいて検討し、結果を図9、10および11に示す。図9は、TST10077で治療したP388皮下腫瘍モデルを示す。治療な静脈内注射(n=4)で行った。図10は、TST10086(TST10088と同一のタンパク質)で治療したP388皮下腫瘍モデルを示す。治療は、3、6および9日目に静脈内注射した(n=4)。図11は、TST10087(TST10092と同一のタンパク質)で治療したP388皮下腫瘍モデルを示す。治療は、3、6および9日目に静脈内注射した(n=4)。図12は、TST10077、TST10086およびTST10087で治療したP388皮下腫瘍モデルにおける体重低下データを示す。治療は、3、5および9日目に静脈内注射した(n=4)。糖型1および糖型2は同じ有効性を持つと思われるが、糖型2は、糖型1より毒性がかなり大きいことが見出された(すなわち、体重低下が大きい-図12参照)。従って、TST10088(糖型1)は、毒性が低いので、前臨床開発に進めるのにすぐれた分子であると判定された。
【0143】
従って、少なくとも1つの炭水化物鎖(すなわち、タンパク質のB鎖の1つのグリコシル化部位)がプロドラッグの活性に必須であることを本発明者らは確立した。炭水化物が完全に欠損しているタンパク質は活性が低下する(図9)。さらに、グリコシル化されていないタンパク質は発現が非常に困難であり、それらは不安定性が大きいことを示唆している。非グリコシル化タンパク質は取り込み中に誤って誘導されるが、適当な取り込み経路および小胞体への局在化を決定するために一部の炭水化物が必要であると本発明者らは考えている。利用可能なすべての部位が広範にグリコシル化されたタンパク質は、一グリコシル化種と比較して毒性が大きいことに注目することも興味深い(図12)。
【0144】
1(d)グリコシル化パターンおよび分泌シグナル
TST10007の発酵による産物の収率は、広範な高度グリコシル化のために典型的には悪い(すなわち、分泌されるタンパク質の>70%)。高度グリコシル化された材料は下流の精製段階において除去した。TST10086の場合には、機能的グリコシル化部位は1つだけであり、高度グリコシル化は分泌タンパク質の約10%に減少していたので、産物の収率は比較的改善されていた。図13は、TST10007およびTST10086の発酵最終産物を比較する銀染色したSDS-PAGEゲルを示す(すなわち、未精製の粗産物)。TST10007およびTST10086の発酵最終産物を比較する銀染色したSDS-PAGEゲル(すなわち、未精製の粗産物)。TST10007は3つの部位がグリコシル化されうる。TST10086は、B1グリコシル化部位だけが利用可能である。各々500 ngのTST10007およびTST10086の試料を分析した。対照試料は、500 ngの2および3グリコシル化プロトキシンならびに以前の発酵から誘導した500 ngの高度グリコシル化プロトキシンを含有する。
【0145】
TST10007は3つの部位がグリコシル化されうる。TST10086は、B1グリコシル化部位だけが利用可能である。各々500 ngのTST10007およびTST10086の試料を分析した。対照試料は、500 ngの2および3グリコシル化プロトキシンならびに以前の発酵から誘導した500 ngの高度グリコシル化プロトキシンを含有する。
【0146】
遺伝子構築物は、典型的には、タンパク質の発現および分泌を誘導するために、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のα接合因子分泌シグナルを試験した(TST 10007からTST10087)。発現レベルを改善する努力において、異なる分泌シグナルを最終的に試験した。天然リシン分泌シグナルを使用すると最良の結果が得られた。リシン分泌シグナル(すなわち、TST10088)を使用して遺伝子を発現すると、総タンパク質収率の改善以外に、実質的に全ての高度グリコシル化が排除されたことを本発明者らは発見した(5%未満)。
【0147】
1(e)シグナル配列および細胞障害性
精製されたタンパク質TST10086およびTST10088は、TST10086の作製を誘導するためにα接合因子分泌シグナルを使用し、TST10088を作製するためにリシン分泌シグナルを使用したことを除いて、全ての点において同一であった。分泌シグナルの差にもかかわらず、分子は同じに処理され、2つのタンパク質のアミノ末端は同一であることに注目されたい。TST10088のCOS-1細胞細胞障害性はTST10086と識別不可能であり、動物検討において分子は交換可能であった。TST10088の細胞障害性データは図14に示し、表3は研究産物のバッチのロット間一致性を示す。
【0148】
実施例2:併用療法
承認されている本質的に全ての抗癌療法において、薬剤は併用使用される。本発明者らの化合物は、ほとんどの従来の化学療法剤と異なる作用機序を有するので、それらは従来の薬剤の作用を増強する可能性がある。TST10088およびTST10007は、他の薬剤の活性を増強することができる程度を判定するために、種々の従来の化学療法剤と併用して試験した。
【0149】
シスプラチンおよびドキソルビシンは混合糖型TST10007と併用して試験した(図15および図16)。図15は、TST10007および従来の薬剤シスプラチンで治療したP388皮下腫瘍モデルを示す。治療は3、6および9日目に静脈内注射した(n=4)。図16Aは、200μg/kg(MTD=350μg/kg)のTST10007単独およびドキソルビシンとの併用の有効性を示し、図16Bは対応する体重低下/療法の毒性を示す。動物には、3日目から開始して、3日間隔で薬剤または生理食塩液(対照)を5回注射した。結果は、併用治療の効果は個々の単独療法の合計より大きいことを示した。しかし、超相加作用の程度は、シスプラチンではドキソルビシンで観察されたほど大きくなかった。
【0150】
以下に概略する検討は、TST10088と従来の薬剤:(i)ドキソルビシン(図17)、(ii)シスプラチン(図18)および(iii)シクロホスファミド(図19&20)間の正の相互作用を示した。図17AはTST10088単独およびドキソルビシンとの併用の有効性を示し、図17Bは対応する体重低下/治療の毒性を示す。動物には、3日目から開始して、3日間隔で薬剤または生理食塩液(対照)を3回注射した。図18AはTST10088単独およびシスプラチン(腹腔内)の有効性を示し、図18Bは対応する体重低下/治療の毒性を示す。治療は3、6および9日目に静脈内投与した(n=4)。図19はTST10088単独およびシクロホスファミド(10 mg/kg)との併用の有効性を示す。TST10088による治療は静脈内注射し、従来の薬剤シクロホスファミドは腹腔内注射した。治療(静脈内/腹腔内)は3、6および9日目に実施した(n=4)。図20は、TST10088単独およびシクロホスファミド(5 mg/kg)との併用の有効性を示す。TST10088による治療は静脈内注射し、従来の薬剤シクロホスファミドは腹腔内注射した。図20Bは対応する体重低下を示す。治療は3、6および9日目に注射した(n=4)。
【0151】
結果は、特にドキソルビシンおよびシスプラチン併用は、分子は相乗的に作用する(さらに正確には、応答は超相加的である)。シスプラチンと併用したTST10088の影響は相加的以上であった。この所見は、TST10007で得られた結果と一致していた。TST10088併用に対する応答は、TST334とドキソルビシンの強力な正の相互作用の以前の観察に一致している。
【0152】
これらの併用検討は、グリコシル化の重要性をさらに強調している。TST10088(単一糖型)およびTST10007(異種、マルチ糖型)の有効性および体重低下データを、それぞれ、図17および16に示す。TST10088およびTST10007は200μg/kgにおいて同様の有効性を有するが、TST10007は、併用の動物の約2倍の体重低下を生ずる。従って、TST10088(糖型1)はP388モデルにおいてTST10007と同様の有効性を有するが、毒性は低いことが示された。
【0153】
実施例3:TST10088+/-ドキソルビシンの薬物動態学的分析
薬物動態学的検討は、雌BDF1マウスにおいて125I標識TST10088を用いて実施した。図21に例示するように、TST10088クリアランスの動態を3回の注射について示す(表4も参照)。クリアランス速度は3回の注射期間中変化しないことは結果から明らかである。分布および組織からのクリアランスを図22に示す。未変性のリシンの検討と矛盾することなく、標識の最も高いレベルは脾臓において見られた。図23は、TST10088の注射後60分経過時の組織レベルを示す。TST10088は腫瘍に到達していることを結果は示している。図24は、腫瘍に到達したTST10088の量は、3回の注射について比較的一定であることを示す(4、6および9日目)。しかし、TST10088をドキソルビシンと併用して注射すると、腫瘍のTST10088量は経時的に増加する。この結果は、一部には、2つの化合物を共に使用すると、相加作用より大きい結果が観察されることを説明することができる。
【0154】
実施例4:免疫応答
本発明者らのプロドラッグは、外来タンパク質であるので、ヒトにおいて免疫応答を誘発することができる。しかし、以前の検討-一例では、ヒト臨床試験および天然リシン、別の例では、ヒトおよび関連タンパク質ビスクミン(viscumin)は、単独療法が免疫応答によって損なわれるまでに余裕があることを示唆している。治療法に応じて、この期間は6週間ほどにもなる。
【0155】
本発明者らは、治療ウィンドウを6週間の範囲より延長するために、ドキソルビシンおよびシスプラチンなどの併用剤の免疫抑制性を利用することを提案している。この治療法の可能性を実証するために、本発明者らは、プロドラッグ単独療法およびプロドラッグ併用療法で治療したマウスの抗体価を測定する検討を実施した。TST10007の結果(図25参照)は、BDF1マウスでは、免疫応答は9日目の3回目の治療後まで見られなかったことを示している。その後の検討は、免疫応答は10日目に見られたことを示している(データは示していない)。しかし、ドキソルビシンと併用すると、免疫応答は治療コース中に効果的に抑制された。これらの所見は、シクロホスファミドと併用したリシンについてFodstad(Godal, A., O. Fodstad, et al., (1983) Int J Cancer 32 (4) : 515-521)によって報告された結果と一致している。
【0156】
図25は、TST10007および従来の薬剤ドキソルビシンで治療したP388皮下腫瘍モデルを示す。治療は、TST10007は3、6、9日目に静脈内注射し、TST10007およびドキソルビシンは3、6、9、15および21日目に静脈内注射した(n=4)。単独療法群および併用群において、動物を示した日に犠牲にし、抗TST10088抗体を求めた。
【0157】
本発明は、本発明において好ましい実施例であると考えられるものに言及して記載されているが、本発明は開示されている実施例に限定されないことが理解されるべきである。一方、本発明は、添付の特許請求の範囲の精神および範囲に含まれる種々の改良および等価な配列を含むことが意図されている。
【0158】
全ての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許または特許出願各々が全体の内容が参照により組み入れられることが具体的且つ個別に示されているのと同じ程度で全体の内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0159】
(表1)グリコシル化変種パート1
*:これらの構築物はプロリシン分泌シグナルを使用する
【0160】
(表2)グリコシル化変種パート2
グリコシル化部位のコンビナトリアル変異誘発
nクローニングされていない
【0161】
(表3)TST10088の活性のロット間変動
【0162】
(表4)マウス血清からのTST10088クリアランスの動態
二重指数関数型崩壊
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】TST10088タンパク質配列(配列番号1)である。
【図2】TST10092タンパク質配列(配列番号2)である。
【図3】TST10147タンパク質配列(配列番号3)である。
【図4】TST10088DNAインサート配列(配列番号4)である。
【図5】TST10092DNAインサート配列(配列番号5)である。
【図6】TST10147DNAインサート配列(配列番号6)である。
【図7】グリコシル化のコンビナトリアル変異原性、天然遺伝子配列を示す。
【図8】グリコシル化変種からのグリコシル化パターンを示す。
【図9】P388に対する糖型0の有効性を示す。
【図10】P388に対する糖型1の有効性を示す。
【図11】P388に対する糖型2の有効性を示す。
【図12】異なる糖型による治療後の体重低下データを示す。
【図13】グリコシル化反復改良変種のグリコシル化パターンを示す。
【図14】COS-1細胞に対するTST10088およびリシン細胞毒性の比較を示す。
【図15】P388に対するTST10007とシスプラチンの併用の有効性を示す。
【図16】AおよびBは、P388モデルにおけるTST10007/Doxの併用の有効性を示す。
【図17】AおよびBは、P388モデルにおけるTST10088/Doxの併用の有効性を示す。
【図18】AおよびBは、P388腫瘍モデルにおけるTST10088/Cisの併用の有効性を示す。
【図19】P388腫瘍モデルにおけるTST10088/CPAの併用の有効性を示す。
【図20】P388腫瘍モデルにおけるTST10088/CPAの併用の有効性を示す。
【図21】マウス血清からのTST10088クリアランスの動態を示す。
【図22】125I標識TST10088の分布を示す(4日目注射)。
【図23】注射後60分経過時の125I標識TST10088の分布を示す(4日目注射)。
【図24】ドキソルビシンを併用する場合および併用しない場合の腫瘍におけるTST10088のレベルを示す。
【図25】TST10007およびドキソルビシンによる治療後の血清抗体の存在を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リシン様毒素のA鎖、(b)リシン様毒素のB鎖ならびに(c)AおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列を含む組換えタンパク質であって、リンカー配列は疾患特異的プロテアーゼの切断認識部位を含有し、A鎖またはB鎖は少なくとも1つのグリコシル化部位を有する組換えタンパク質。
【請求項2】
1つまたは複数のグリコシル化部位が突然変異されており、かつグリコシル化されえない請求項1記載の組換えタンパク質。
【請求項3】
B鎖が少なくとも1つのグリコシル化部位を有する、請求項1または2記載の組換えタンパク質。
【請求項4】
B鎖だけがB1でグリコシル化される、請求項1〜3のいずれか1項記載の組換えタンパク質。
【請求項5】
リシン分泌シグナル配列を有する、請求項1〜4のいずれか1項記載の組換えタンパク質。
【請求項6】
図1に示すアミノ酸配列(配列番号1)またはそのフラグメントもしくはアナログを有する、請求項1記載の組換えタンパク質。
【請求項7】
図2に示すアミノ酸配列(配列番号2)またはそのフラグメントもしくはアナログを有する、請求項1記載の組換えタンパク質。
【請求項8】
図3に示すアミノ酸配列(配列番号3)またはそのフラグメントもしくはアナログを有する、請求項1記載の組換えタンパク質。
【請求項9】
(a)リシン様毒素のA鎖をコードするヌクレオチド配列、(b)リシン様毒素のB鎖をコードするヌクレオチド配列および(c)AおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む単離精製された核酸分子であって、異種リンカー配列は疾患特異的プロテアーゼの切断可能な認識部位を含み、A鎖をコードするヌクレオチド配列またはB鎖をコードするヌクレオチド配列は少なくとも1つのグリコシル化部位を有するアミノ酸をコードする単離精製された核酸分子。
【請求項10】
1つまたは複数のグリコシル化部位が突然変異されており、かつグリコシル化されえない請求項9記載の核酸分子。
【請求項11】
B鎖のヌクレオチド配列が、少なくとも1つのグリコシル化部位を有するアミノ酸をコードする、請求項9または10記載の核酸分子。
【請求項12】
B鎖のヌクレオチド配列が、B1にグリコシル化部位を有するアミノ酸をコードする、請求項9〜11のいずれか1項記載の核酸分子。
【請求項13】
リシン分泌シグナル配列をコードする、請求項9〜12のいずれか1項記載の核酸分子。
【請求項14】
(a)図4(配列番号:4)、図5(配列番号:5)または図6(配列番号:6)(ここで、TはUであってもよい)に示す核酸配列であって、
(b)(a)の核酸配列に相補的な核酸配列;
(c)(a)または(b)の核酸配列との実質的な配列相同性を有する核酸配列;
(d)(a)、(b)もしくは(c)の核酸配列のアナログである核酸配列;または
(e)ストリンジェントな条件下において(a)、(b)、(c)もしくは(d)の核酸配列にハイブリダイゼーションする核酸配列
を含む請求項9記載の核酸分子。
【請求項15】
図4(配列番号4)に示す核酸配列を有する、請求項14記載の核酸分子。
【請求項16】
図5(配列番号5)に示す核酸配列を有する、請求項14記載の核酸分子。
【請求項17】
図6(配列番号6)に示す核酸配列を有する、請求項14記載の核酸分子。
【請求項18】
疾患に罹患しており、疾患に特異的なプロテアーゼに関連している細胞を阻害または破壊する方法であって、
(a)請求項9〜17のいずれか1項記載の単離精製された核酸を調整する段階;
(b)宿主細胞に核酸を導入し、宿主細胞において核酸を発現して、請求項1〜8のいずれか1項記載の組換えタンパク質を得る段階;
(c)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤にタンパク質を懸濁させる段階、および
(d)細胞と組換えタンパク質を接触させる段階
を含む方法。
【請求項19】
疾患に罹患しており、疾患に特異的なプロテアーゼに関連している細胞を阻害または破壊するための請求項1〜8のいずれか1項記載の組換えタンパク質の使用。
【請求項20】
疾患が癌である、請求項19記載の使用。
【請求項21】
少なくとも1つの追加の抗癌治療を使用する段階をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
追加の抗癌治療が以下の1つまたは複数である、請求項21記載の使用:ドキソルビシン、シスプラチン、シクロホスファミドエトポシド、パクリタキセル、タキソテール、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、トポテカン、ビンクリスチン、ゲムシタビン、エピルビシン、カペシタビンおよびテモゾロミド。
【請求項23】
疾患がウイルス、真菌または寄生虫感染症である、請求項19記載の使用。
【請求項24】
疾患に罹患しており、疾患に特異的なプロテアーゼに関連している細胞を阻害または破壊するための請求項9〜17のいずれか1項記載の核酸分子の使用。
【請求項25】
疾患が癌である、請求項23記載の使用。
【請求項26】
少なくとも1つの追加の抗癌治療を使用する段階をさらに含む、請求項23記載の方法。
【請求項27】
追加の抗癌治療が以下の1つまたは複数である、請求項25記載の使用:ドキソルビシン、シスプラチン、シクロホスファミドエトポシド、パクリタキセル、タキソテール、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、トポテカン、ビンクリスチン、ゲムシタビン、エピルビシン、カペシタビンおよびテモゾロミド。
【請求項28】
疾患がウイルス、真菌または寄生虫感染症である、請求項24記載の使用。
【請求項29】
癌、真菌感染症、ウイルス感染症または寄生虫感染症の哺乳類を治療するための薬剤を調整するための工程であって:
(a)請求項9〜17のいずれか1項記載の単離精製された核酸を調整する段階であって、リンカー配列が、癌、真菌またはウイルスまたは寄生虫プロテアーゼの切断認識部位を含有する段階;
(b)核酸を宿主細胞に導入し、宿主細胞において核酸を発現して、請求項1〜8のいずれか1項記載の組換えタンパク質を得る段階;
(c) 薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤にタンパク質を懸濁させる段階
を含む工程。
【請求項30】
癌が認められる哺乳類を治療するための薬剤を調整するための工程であって:
(a) 請求項9〜17のいずれか1項記載の単離精製された核酸を調整する段階であって、リンカー配列が、癌プロテアーゼの切断認識部位を含有する段階;
(b)核酸を宿主細胞に導入し、宿主細胞において核酸を発現して、請求項1〜8のいずれか1項記載の組換えタンパク質を得る段階;
(c) 薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤にタンパク質を懸濁させる段階
を含む工程。
【請求項31】
薬学的組成物が少なくとも1つの追加の抗癌治療をさらに含む、請求項28および29記載の工程。
【請求項32】
追加の抗癌治療が以下の1つまたは複数である、請求項31記載の工程:ドキソルビシン、シスプラチン、シクロホスファミドエトポシド、パクリタキセル、タキソテール、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、トポテカン、ビンクリスチン、ゲムシタビン、エピルビシン、カペシタビンおよびテモゾロミド。
【請求項33】
請求項1〜8のいずれか1項記載の組換えタンパク質および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む、動物の癌または真菌、ウイルスもしくは寄生虫感染症を治療するための薬学的組成物。
【請求項34】
請求項9〜17のいずれか1項記載の核酸分子および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む、任意の動物の癌または真菌、ウイルスもしくは寄生虫感染症を治療するための薬学的組成物。
【請求項35】
少なくとも1つの追加の抗癌治療をさらに含む、請求項33または34記載の癌を治療するための薬学的組成物。
【請求項36】
追加の抗癌治療が以下の1つまたは複数である、請求項35記載の薬学的組成物:ドキソルビシン、シスプラチン、シクロホスファミドエトポシド、パクリタキセル、タキソテール、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、トポテカン、ビンクリスチン、ゲムシタビン、エピルビシン、カペシタビンおよびテモゾロミド。
【請求項1】
(a)リシン様毒素のA鎖、(b)リシン様毒素のB鎖ならびに(c)AおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列を含む組換えタンパク質であって、リンカー配列は疾患特異的プロテアーゼの切断認識部位を含有し、A鎖またはB鎖は少なくとも1つのグリコシル化部位を有する組換えタンパク質。
【請求項2】
1つまたは複数のグリコシル化部位が突然変異されており、かつグリコシル化されえない請求項1記載の組換えタンパク質。
【請求項3】
B鎖が少なくとも1つのグリコシル化部位を有する、請求項1または2記載の組換えタンパク質。
【請求項4】
B鎖だけがB1でグリコシル化される、請求項1〜3のいずれか1項記載の組換えタンパク質。
【請求項5】
リシン分泌シグナル配列を有する、請求項1〜4のいずれか1項記載の組換えタンパク質。
【請求項6】
図1に示すアミノ酸配列(配列番号1)またはそのフラグメントもしくはアナログを有する、請求項1記載の組換えタンパク質。
【請求項7】
図2に示すアミノ酸配列(配列番号2)またはそのフラグメントもしくはアナログを有する、請求項1記載の組換えタンパク質。
【請求項8】
図3に示すアミノ酸配列(配列番号3)またはそのフラグメントもしくはアナログを有する、請求項1記載の組換えタンパク質。
【請求項9】
(a)リシン様毒素のA鎖をコードするヌクレオチド配列、(b)リシン様毒素のB鎖をコードするヌクレオチド配列および(c)AおよびB鎖を結合する異種リンカーアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む単離精製された核酸分子であって、異種リンカー配列は疾患特異的プロテアーゼの切断可能な認識部位を含み、A鎖をコードするヌクレオチド配列またはB鎖をコードするヌクレオチド配列は少なくとも1つのグリコシル化部位を有するアミノ酸をコードする単離精製された核酸分子。
【請求項10】
1つまたは複数のグリコシル化部位が突然変異されており、かつグリコシル化されえない請求項9記載の核酸分子。
【請求項11】
B鎖のヌクレオチド配列が、少なくとも1つのグリコシル化部位を有するアミノ酸をコードする、請求項9または10記載の核酸分子。
【請求項12】
B鎖のヌクレオチド配列が、B1にグリコシル化部位を有するアミノ酸をコードする、請求項9〜11のいずれか1項記載の核酸分子。
【請求項13】
リシン分泌シグナル配列をコードする、請求項9〜12のいずれか1項記載の核酸分子。
【請求項14】
(a)図4(配列番号:4)、図5(配列番号:5)または図6(配列番号:6)(ここで、TはUであってもよい)に示す核酸配列であって、
(b)(a)の核酸配列に相補的な核酸配列;
(c)(a)または(b)の核酸配列との実質的な配列相同性を有する核酸配列;
(d)(a)、(b)もしくは(c)の核酸配列のアナログである核酸配列;または
(e)ストリンジェントな条件下において(a)、(b)、(c)もしくは(d)の核酸配列にハイブリダイゼーションする核酸配列
を含む請求項9記載の核酸分子。
【請求項15】
図4(配列番号4)に示す核酸配列を有する、請求項14記載の核酸分子。
【請求項16】
図5(配列番号5)に示す核酸配列を有する、請求項14記載の核酸分子。
【請求項17】
図6(配列番号6)に示す核酸配列を有する、請求項14記載の核酸分子。
【請求項18】
疾患に罹患しており、疾患に特異的なプロテアーゼに関連している細胞を阻害または破壊する方法であって、
(a)請求項9〜17のいずれか1項記載の単離精製された核酸を調整する段階;
(b)宿主細胞に核酸を導入し、宿主細胞において核酸を発現して、請求項1〜8のいずれか1項記載の組換えタンパク質を得る段階;
(c)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤にタンパク質を懸濁させる段階、および
(d)細胞と組換えタンパク質を接触させる段階
を含む方法。
【請求項19】
疾患に罹患しており、疾患に特異的なプロテアーゼに関連している細胞を阻害または破壊するための請求項1〜8のいずれか1項記載の組換えタンパク質の使用。
【請求項20】
疾患が癌である、請求項19記載の使用。
【請求項21】
少なくとも1つの追加の抗癌治療を使用する段階をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
追加の抗癌治療が以下の1つまたは複数である、請求項21記載の使用:ドキソルビシン、シスプラチン、シクロホスファミドエトポシド、パクリタキセル、タキソテール、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、トポテカン、ビンクリスチン、ゲムシタビン、エピルビシン、カペシタビンおよびテモゾロミド。
【請求項23】
疾患がウイルス、真菌または寄生虫感染症である、請求項19記載の使用。
【請求項24】
疾患に罹患しており、疾患に特異的なプロテアーゼに関連している細胞を阻害または破壊するための請求項9〜17のいずれか1項記載の核酸分子の使用。
【請求項25】
疾患が癌である、請求項23記載の使用。
【請求項26】
少なくとも1つの追加の抗癌治療を使用する段階をさらに含む、請求項23記載の方法。
【請求項27】
追加の抗癌治療が以下の1つまたは複数である、請求項25記載の使用:ドキソルビシン、シスプラチン、シクロホスファミドエトポシド、パクリタキセル、タキソテール、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、トポテカン、ビンクリスチン、ゲムシタビン、エピルビシン、カペシタビンおよびテモゾロミド。
【請求項28】
疾患がウイルス、真菌または寄生虫感染症である、請求項24記載の使用。
【請求項29】
癌、真菌感染症、ウイルス感染症または寄生虫感染症の哺乳類を治療するための薬剤を調整するための工程であって:
(a)請求項9〜17のいずれか1項記載の単離精製された核酸を調整する段階であって、リンカー配列が、癌、真菌またはウイルスまたは寄生虫プロテアーゼの切断認識部位を含有する段階;
(b)核酸を宿主細胞に導入し、宿主細胞において核酸を発現して、請求項1〜8のいずれか1項記載の組換えタンパク質を得る段階;
(c) 薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤にタンパク質を懸濁させる段階
を含む工程。
【請求項30】
癌が認められる哺乳類を治療するための薬剤を調整するための工程であって:
(a) 請求項9〜17のいずれか1項記載の単離精製された核酸を調整する段階であって、リンカー配列が、癌プロテアーゼの切断認識部位を含有する段階;
(b)核酸を宿主細胞に導入し、宿主細胞において核酸を発現して、請求項1〜8のいずれか1項記載の組換えタンパク質を得る段階;
(c) 薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤にタンパク質を懸濁させる段階
を含む工程。
【請求項31】
薬学的組成物が少なくとも1つの追加の抗癌治療をさらに含む、請求項28および29記載の工程。
【請求項32】
追加の抗癌治療が以下の1つまたは複数である、請求項31記載の工程:ドキソルビシン、シスプラチン、シクロホスファミドエトポシド、パクリタキセル、タキソテール、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、トポテカン、ビンクリスチン、ゲムシタビン、エピルビシン、カペシタビンおよびテモゾロミド。
【請求項33】
請求項1〜8のいずれか1項記載の組換えタンパク質および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む、動物の癌または真菌、ウイルスもしくは寄生虫感染症を治療するための薬学的組成物。
【請求項34】
請求項9〜17のいずれか1項記載の核酸分子および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む、任意の動物の癌または真菌、ウイルスもしくは寄生虫感染症を治療するための薬学的組成物。
【請求項35】
少なくとも1つの追加の抗癌治療をさらに含む、請求項33または34記載の癌を治療するための薬学的組成物。
【請求項36】
追加の抗癌治療が以下の1つまたは複数である、請求項35記載の薬学的組成物:ドキソルビシン、シスプラチン、シクロホスファミドエトポシド、パクリタキセル、タキソテール、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、トポテカン、ビンクリスチン、ゲムシタビン、エピルビシン、カペシタビンおよびテモゾロミド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
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【図15】
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【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公表番号】特表2007−530019(P2007−530019A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504224(P2007−504224)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【国際出願番号】PCT/CA2005/000436
【国際公開番号】WO2005/090575
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(506322400)ツインストランド セラピューティックス インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【国際出願番号】PCT/CA2005/000436
【国際公開番号】WO2005/090575
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(506322400)ツインストランド セラピューティックス インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
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