説明

リスペリドン送達用埋め込み可能型装置およびその使用方法

本発明は、生物活性リスペリドンを長期間にわたって一定速度で送達する薬物送達装置としてのポリウレタン系ポリマーの使用、およびその製造方法に関する。この装置は、非常に生体適合性および生体安定性があり、患者(ヒトおよび動物)における組織または器官へのリスペリドンの送達のためのインプラントとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2008年9月30日出願の米国特許仮出願第61/101,548号、および2008年11月24日出願の米国特許仮出願第61/117,448号の優先権を主張するものであり、この仮出願の全開示は参照により本明細書に援用されている。
【0002】
(背景技術)
その優れた生体適合性、生体安定性および物理的特性のため、ポリウレタンまたはポリウレタン含有ポリマーは、ペースメーカーリード、人工心臓、心臓弁、ステントカバー、人工腱、動脈および静脈をはじめとする、多数の埋め込み可能型装置の作製に用いられてきた。しかし、ポリウレタン埋め込み可能型装置を用いる活性薬物の送達用の処方物は、ゼロ次速度での薬物の拡散のために液体媒体または担体を必要とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
1つ以上の活性薬物を含む固形処方物を、ポリウレタン埋め込み可能型装置の芯に用いることで、該活性薬物を該埋め込み可能型装置から制御放出、ゼロ次様式で放出させ得るという予想外の発見に基づく方法および組成物を本明細書に記載する。この活性薬物およびポリウレタンコーティングは様々な物理的パラメータに基づいて選択することができ、そしてさらに、臨床および/またはインビトロ試験に基づいてこの埋め込み可能型装置からの活性薬物の放出速度を臨床的に妥当な放出速度に最適化することができる。
【0004】
1つの実施形態は、有効量のリスペリドンを含む処方物を被験体に送達する方法であって、埋め込み可能型装置を被験体に埋め込むことを含み、前記埋め込み可能型装置が、ポリウレタン系ポリマーで実質的に囲まれたリスペリドンまたはその処方物を含む、方法に関する。特定の実施形態において、このポリウレタン系ポリマーは、1つ以上のポリオールから形成され、そのポリオール一般構造は、
−[O−(CH−O−;
O−(CH−CH−CH−CH−O−;および
O−[(CH−CO−(CH)−O−
からなる群より選択される。
【0005】
ここで説明する組成物および方法についてのnおよびxの値は、約1〜約1,000,000の間の;約2〜約500,000の間の;約5〜約250,000の間の;および約10〜約100,000の間の整数値である。特定の実施形態において、ポリオールは、−[O−(CH−O−を含み、このポリウレタン系ポリマーは、約5%〜約200%の間の、例えば少なくとも約15%の、平衡含水率を有する。特定の実施形態において、リスペリドンは、埋め込み可能型装置の表面積の平方センチメートルあたり約149μg/日のゼロ次速度で放出される。特定の実施形態において、このポリオールは、O−(CH−CH−CH−CH−O−を含み、このポリウレタン系ポリマーは、約1000〜約92,000psiの間の、例えば2,300psiの、曲げ係数を有する。特定の実施形態において、リスペリドンは、この埋め込み可能型装置の表面積の平方センチメートルあたり約146μg/日のゼロ次速度で放出される。特定の実施形態において、このポリオールは、O−[(CH−CO−(CH)−O−を含み、このポリウレタン系ポリマーは、約620〜約92,000psiの間の、例えば、約620pisの、曲げ係数を有する。特定の実施形態において、リスペリドンは、この埋め込み可能型装置の表面積の平方センチメートルあたり約40μg/日のゼロ次速度で放出される。
【0006】
1つの実施形態は、リスペリドンを長期間にわたって制御放出して局所性または全身性薬理効果を生じさせる薬物送達装置に関し、この装置は、a)中空空間を形成するように成形されたポリウレタン系ポリマー、およびb)リスペリドンと場合により1つ以上の医薬的に許容される担体とを含む処方物を含む固形医薬処方物を含み、この固形医薬処方物は、該中空空間内に収容され、この装置は、埋め込み後、この装置からのリスペリドンの所望の放出速度を生じさせる。特定の実施形態において、この薬物送達装置は、少なくとも1つの活性薬物の水溶性特性と合うように選択された条件下でコンディショニングおよびプライミングされる。特定の実施形態において、この医薬的に許容される担体は、ステアリン酸である。特定の実施形態において、このポリウレタン系ポリマーは、1つ以上のポリオールから形成され、そのポリオール一般構造は、
−[O−(CH−O−;
O−(CH−CH−CH−CH−O−;および
O−[(CH−CO−(CH)−O−
からなる群より選択される。
【0007】
特定の実施形態において、このポリオールは、−[O−(CH−O−を含み、このポリウレタン系ポリマーは、約5%〜約43%の間の、例えば少なくとも約15%の、平衡含水率を有する。特定の実施形態において、リスペリドンは、この埋め込み可能型装置の表面積の平方センチメートルあたり約149μg/日のゼロ次速度で放出される。特定の実施形態において、このポリオールは、O−(CH−CH−CH−CH−O−を含み、このポリウレタン系ポリマーは、約1000〜約92,000psiの間の、例えば2,300psiの、曲げ係数を有する。特定の実施形態において、リスペリドンは、この埋め込み可能型装置の表面積の平方センチメートルあたり約146μg/日のゼロ次速度で放出される。特定の実施形態において、このポリオールは、O−[(CH−CO−(CH)−O−を含み、およびこのポリウレタン系ポリマーは、約620〜約92,000psiの間の、例えば約620psiの、曲げ係数を有する。特定の実施形態において、リスペリドンは、この埋め込み可能型装置の表面積の平方センチメートルあたり約40μg/日のゼロ次速度で放出される。特定の実施形態において、この少なくとも1つの活性薬物の所望の送達速度を確立するように適切なコンディショニングおよびプライミングパラメータを選択することができ、このとき、プライミングパラメータは、時間、温度、コンディショニング媒体およびプライミング媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、2つの開口端を有するインプラントの側面図である。
【図2】図2は、インプラントに栓をするために用いられる、予め作製された先端プラグの側面図である。
【図3】図3は、1つの開口端を有するインプラントの側面図である。
【図4A】図4Aは、特定のロットの中の材料の均一性の評定の一部としての1巻きのチューブ材料の始端、中間および終端に相当するチューブ材料切断材から作製したCarbothane(登録商標)PC−3575Aポリウレタンインプラント(曲げ係数620psi)からのリスペリドンの放出速度のグラフである。サンプルを1年間、週1回、評価した。すべてのインプラントは、同等の幾何形状および薬物負荷量のものであった。
【図4B】図4Bは、特定のロットの中の材料の均一性の評定の一部としての1巻きのチューブ材料の始端、中間および終端に相当するチューブ材料切断材から作製したCarbothane(登録商標)PC−3575Aポリウレタンインプラント(曲げ係数620psi)からのリスペリドンの放出速度のグラフである。サンプルを1年間、週1回、評価した。すべてのインプラントは、同等の幾何形状および薬物負荷量のものであった。
【図5】図5は、溶出媒体としてのヒドロキシプロピルベータセルロース水溶液(リン酸緩衝食塩水中15%)の使用効果に対する食塩水の使用効果の評定の一部としてのCarbothane(登録商標)PC−3575Aポリウレタンインプラント(曲げ係数620psi)からのリスペリドンの放出速度のグラフである。サンプルを11週間、週1回評価した。すべてのインプラントは、同等の幾何形状および薬物負荷量のものであった。
【図6A】図6Aは、親水性ポリウレタン材料および疎水性ポリウレタン材料のいずれかからの活性物質の放出の評価の一部としてCarbothane(登録商標)PC−3595Aポリウレタンインプラント(曲げ係数4500psi)からのリスペリドンの放出速度とTecophilic(登録商標)HP−60D−20ポリウレタンインプラント(EWC、14.9%)からのリスペリドンの放出速度を比較するグラフである。Carbothane(登録商標)インプラントについてはサンプルを22週間、週1回評価した。Tecophilic(登録商標)インプラントについてはサンプルを15週間、週1回評価した。すべてのインプラントは、同等の幾何形状および薬物負荷量のものであった。
【図6B】図6Bは、親水性ポリウレタン材料および疎水性ポリウレタン材料のいずれかからの活性物質の放出の評価の一部としてCarbothane(登録商標)PC−3595Aポリウレタンインプラント(曲げ係数4500psi)からのリスペリドンの放出速度とTecophilic(登録商標)HP−60D−20ポリウレタンインプラント(EWC、14.9%)からのリスペリドンの放出速度を比較するグラフである。Carbothane(登録商標)インプラントについてはサンプルを22週間、週1回評価した。Tecophilic(登録商標)インプラントについてはサンプルを15週間、週1回評価した。すべてのインプラントは、同等の幾何形状および薬物負荷量のものであった。図11Bは、15週間、週1回サンプリングした、Tecophilic(登録商標)HP−60D−20ポリウレタンインプラント(EWC、14.9%)からのリスペリドンの放出のみのグラフである。
【図7】図7は、Tecoflex(登録商標)EG−80Aポリウレタンインプラント(曲げ係数1000psi)からのリスペリドンの放出速度と2つのグレードのTecophilic(登録商標)ポリウレタンインプラント、HP−60D−35およびHP−60D−60(EWC、それぞれ、23.6%および30.8%)からのリスペリドンの放出速度とを比較するグラフである。すべてを10週間、週1回、サンプリングした。すべてのインプラントは、同等の幾何形状および薬物負荷量のものであった。
【図8】図8は、実施例8にて説明するビーグル犬での研究において使用したインプラントについてのインビトロ対照としての、Carbothane(登録商標)PC−3575Aポリウレタンインプラント(曲げ係数620psi)からのリスペリドンの放出速度のグラフである。インビボ−インビトロ相関関係の評定の一部として、被験体インプラントの埋め込み当日にこれらのインプラントのインビトロ溶出研究を開始した。
【図9】図9は、実施例8において説明するビーグル犬での研究におけるリスペリドンのインビボ血漿濃度のグラフである。下方のプロットは、Carbothane(登録商標)PC−3575Aポリウレタンインプラント(曲げ係数620psi)を埋め込んだイヌにおいて得られた平均血漿濃度を表す。上方のプロットは、2つのCarbothane(登録商標)PC−3575Aポリウレタンインプラント(曲げ係数620psi)を埋め込んだイヌにおいて得られた平均血漿濃度を表す。
【図10】図10は、Tecoflex(登録商標)およびCarbothane(登録商標)インプラントからのリスペリドンのインビトロ放出を示すグラフである。リスペリドン処方物を含むペレットは、3.5mmの直径、約4.5mmの長さおよび5.4mgの重量を有した。このインプラントは、約39〜40mmのリザーバ長、0.2mmの壁厚、ならびに3.6mmの内径および約45mmの全長を有した。
【図11】図11は、対照と比較して、Tecoflex(登録商標)およびCarbothane(登録商標)からのリスペリドンのインビボ放出を示すグラフである。リスペリドン処方物を含むペレットは、3.5mmの直径、約4.5mmの長さおよび5.4mgの重量を有した。このインプラントは、約39〜40mmのリザーバ長、0.2mmの壁厚、ならびに3.6mmの内径および約45mmの全長を有した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ポリウレタン系ポリマーの優れた特性を利用するために、本発明は、局所性または全身性薬理効果を生じさせる、長期間にわたって制御速度で薬物を放出する薬物送達装置としてのポリウレタン系ポリマーの使用に関する。この薬物送達装置は、円筒形リザーバであってそのリザーバ内の薬物の送達速度を制御するポリウレタン系ポリマーで囲まれたリザーバを含むことができる。このリザーバは、1つ以上の活性成分と、場合により、医薬的に許容される担体とを含む処方物、例えば固形処方物を含む。この担体は、ポリマーを通しての活性成分の拡散を助けるためにおよびリザーバ内の薬物の安定性を確保するために配合される。
【0010】
ポリウレタンは、ウレタン結合によって連結された有機単位の鎖からなる任意のポリマーである。ポリウレタンポリマーは、少なくとも2つのイソシアナート官能基を含むモノマーと少なくとも2つのアルコール基を含む別のモノマーとを触媒の存在下で反応させることによって形成される。ポリウレタン処方物は、広範な剛性、硬度および密度にわたる。
【化1】

【0011】
ポリウレタンは、エポキシド、不飽和ポリエステルおよびフェノールを含む、「反応ポリマー」と呼ばれる化合物のクラスに存する。ウレタン結合は、イソシアナート基、−N=C=O、とヒドロキシル(アルコール)基、−OH、との反応によって生成される。ポリウレタンは、触媒および他の添加剤の存在下でのポリイソシアナートと多価アルコール(ポリオール)の重付加反応によって生成される。この場合、ポリイソシアナートは、2つ以上のイソシアナート官能基を有する分子、R−(N=C=O)n≧2であり、ポリオールは、2つ以上のヒドロキシル官能基を有する分子、R’−(OH)n≧2である。その反応生成物は、ウレタン結合、−RNHCOOR’−を有するポリマーである。イソシアナートは、活性水素を有する任意の分子と反応する。重要なこととして、イソシアナートは、水と反応して尿素結合および二酸化炭素ガスを形成し、それらは、ポリエーテルアミンとも反応してポリ尿素を形成する。
【0012】
ポリウレタンは、商業的には、ポリオールと触媒と他の添加剤との液体ブレンドと液体イソシアナートを反応させることによって生成される。これらの2成分は、ポリウレタン系、または単に系と呼ばれる。イソシアナートは、北米では、一般に、「A−サイド(A−side)」または単に「イソ」と呼ばれ、その系の硬い主鎖(または「ハードセグメント」)に相当する。ポリオールと他の添加剤とのブレンドは、一般に「B−サイド(B−side)」または「ポリ」と呼ばれ、その系の機能性部分(または「ソフトセグメント」)に相当する。この混合物は、「樹脂」または「樹脂ブレンド」と呼ばれることもある。樹脂ブレンド添加剤には、連鎖延長剤、架橋剤、界面活性剤、難燃剤、発泡剤、顔料および充填剤を挙げることができる。薬物送達用途の場合、「ソフトセグメント」は、そのポリマーを通しての活性医薬成分(API)の拡散率を決める特性を付与するそのポリマーの部分に相当する。
【0013】
これらの材料の弾性特性は、ポリマーのハードコポリマーセグメントとソフトコポリマーセグメントとの相分離から得られ、ウレタンハードセグメントドメインが非晶質ポリエーテル(またはポリエステル)ソフトセグメントドメイン間の架橋としての役割を果たす。この相分離は、主として非極性で低融点のソフトセグメントが極性で高融点のハードセグメントと不相溶性であるため、発生する。高分子量ポリオールからなるソフトセグメントは、可動性であり、通常は巻かれた形で存在するが、イソシアナートおよび連鎖延長剤からなるハードセグメントは、剛性であり、不動である。ハードセグメントは、ソフトセグメントと共有結合で結合しているので、それらは、ポリマー鎖の可塑流動を抑制し、従って、弾性反発力を生じさせる。機械的変形により、ソフトセグメントの一部分は、巻き戻しによる応力を受け、ハードセグメントは、その応力方向に整列した状態になる。ハードセグメントのこの再配向、および結果として生ずる強力な水素結合が、高い引張強度、伸び率および引裂き耐性値に寄与する。
【0014】
その重合反応は、第三アミン、例えばジメチルシクロヘキシルアミンなど、および有機金属化合物、例えばジブチルスズジラウラートまたはオクタン酸ビスマスなどによって触媒される。さらに、触媒は、それらがウレタン(ゲル)反応に有利であるかどうかに基づいて選択することができ(例えば、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCOもしくはTEDAとも呼ばれる)など)、または尿素(ブロー)反応に有利であるかどうかに基づいて選択することができ(例えば、ビス−(2−ジメチルアミノエチル)エーテルなど)、またはイソシアナート三量体化反応を特異的に誘発するかどうかに基づいて選択することができる(例えば、オクタン酸カリウム)。
【化2】

【0015】
2つ以上の官能基を有するイソシアナートがポリウレタンポリマーの形成に必要とされる。量的には、芳香族イソシアナートが世界中のジイソシアナート生産の大多数を占める。脂肪族および環式脂肪族イソシアナートも、はるかに少ない量でではあるが、ポリウレタン材料にとって重要な構成単位である。これには多くの理由がある。第一に、芳香族連結イソシアナート基は、脂肪族のものよりはるかに反応性が高い。第二に、芳香族イソシアナートの使用のほうが経済的である。脂肪族イソシアナートは、最終生成物に特別な特性が望まれる場合にのみ使用される。例えば光安定性コーティングおよびエラストマーは、脂肪族イソシアナートでしか得ることができない。脂肪族イソシアナートは、それらに固有の安定性および弾性特性のため、ポリウレタン生体材料の生産にも有利である。
【0016】
脂肪族および環式脂肪族イソシアナートの例としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、1−イソシアナト−3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチル−シクロヘキサン(イソホロンジイソシアナート、IPDI)、および4,4’−ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン(H12MDI)が挙げられる。それらは、光安定性で黄変しないポリウレタンコーティングおよびエラストマーを生産するために使用される。H12MDIプレポリマーは、光学的透明性および耐加水分解性を有する高性能コーティングおよびエラストマーを生産するために使用される。Tecoflex(登録商標)、Tecophilic(登録商標)およびCarbothane(登録商標)ポリウレタンは、すべて、H12MDIプレポリマーから生成される。
【0017】
ポリオールは、開始剤およびモノマー構成単位から製造される高分子量材料であり、そしてポリウレタン系に組み込まれる場合、そのポリマーの「ソフトセグメント」に相当する。それらは、最も簡単には、エポキシド(オキシラン)と活性水素含有スターター化合物の反応によって製造されるポリエーテルポリオール、または多官能性カルボン酸とヒドロキシル化合物の重縮合によって製造されるポリエステルポリオールとして分類される。
【0018】
Tecoflex(登録商標)ポリウレタン、Tecogel(登録商標)ポリウレタンおよびTecophilic(登録商標)ポリウレタンは、環式脂肪族ポリマーであり、ポリエーテル系ポリオールから生成されるタイプのものである。Tecoflex(登録商標)ポリウレタンについて、そのポリオールセグメントの一般構造は、
O−(CH−CH−CH−CH−O−
と表され、この式では、「x」の増加は、可撓性の増加(「曲げ係数」、「Flex Modulus、FM」、の減少)を表し、約1000〜92,000psiにわたるFMを生じさせる。これらの材料からの薬物放出の観点からすると、相対的に疎水性のAPIの放出は、FMが増加するにつれて減少する。ここで説明する組成物および方法についてのxの値は、約1〜約1,000,000の間、約2〜約500,000の間、約5〜約250,000の間、および約10〜約100,000の間の整数値である。さらに他の実施形態において、xは、約2〜500、約2〜100、約5〜50、および10〜30にわたることがある。
【0019】
Tecophilic(登録商標)(親水性)またはTecogel(登録商標)ポリウレタンについて、ポリオールセグメントの一般構造は、
−[O−(CH−O−
と表される。
【0020】
この式では、「n」および「x」の増加が親水性の変動を表し、約5%〜200%にわたる平衡含水率(%EWC)を生じさせる。ここで説明する組成物および方法についてのnおよびxの値は、約1〜約1,000,000の間、約2〜約500,000の間、約5〜約250,000の間、および約10〜約100,000の間の整数値である。さらに他の実施形態において、nおよびxは、同じ値を有することもあり、または異なる値を有することもあり、それらの値は、約2〜500、約2〜100、約5〜50、および10〜30にわたる。これらの材料からの薬物放出の観点からすると、相対的に親水性のAPIの放出は、%EWCが増加するにつれて増加する。
【0021】
特殊ポリオールとしては、例えば、ポリカルボナートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリブタジエンポリオール、およびポリスルフィドポリオールが挙げられる。
【0022】
Carbothane(登録商標)ポリウレタンは、環式脂肪族ポリマーであり、およびポリカルボナート系ポリオールから生成されるタイプのものである。そのポリオールセグメントの一般構造は、
O−[(CH−CO−(CH)−O−
と表され、この式では、「n」の増加が可撓性の増加(FM減少)を表し、約620〜92,000psiにわたるFMを生じさせる。ここで説明する組成物および方法についてのnの値は、約1〜約1,000,000の間、約2〜約500,000の間、約5〜約250,000の間、および約10〜約100,000の間の整数値である。さらに他の実施形態において、nは、約2〜500、約2〜100、約5〜50、および10〜30にわたることがある。これらの材料からの薬物放出の観点からすると、相対的に疎水性のAPIの放出は、FMが増加するにつれて減少する。
【0023】
連鎖延長剤および架橋剤は、ポリウレタン繊維、エラストマー、接着剤および一定の表皮一体および微小気泡発泡体のポリマー形態に重要な役割を果たす、末端にヒドロキシルおよびアミン基を有する低分子量化合物である。連鎖延長剤の例としては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール(1,4−BDOまたはBDO)、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールおよびヒドロキノンビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル(HQEE)が挙げられる。これらのグリコールのすべてが、十分に相分離しているポリウレタンを形成し、明確なハードセグメントドメインを形成し、および溶融加工可能である。それらは、エチレングリコールを除いて(その誘導ビス−フェニルウレタンが、高いハードセグメントレベルで好ましくない分解を受けるからである)、熱可塑性ポリウレタンにすべて適する。Tecophilic(登録商標)、Tecoflex(登録商標)およびCarbothane(登録商標)ポリウレタンは、すべて、連鎖延長剤として1,4−ブタンジオールの使用を取り入れている。
【0024】
本発明は、以下の目的を達成することができる薬物送達装置を提供する。治療効果を最大にし望ましくない副作用を最少にする制御放出速度(例えば、ゼロ次放出速度)と、治療を終えるために必要な場合にその装置を回収する簡単な方法と、吸収度の変動が少なく初回通過代謝のないバイオアベイラビリティーの増加。
【0025】
薬物の放出速度は、円筒形リザーバ装置(カートリッジ)に適用されるようなフィックの拡散の法則によって支配される。以下の方程式により、異なるパラメータ間の関係が説明される:
【数1】

(式中、
dM/dt :薬物放出速度;
h :装置の充填された部分の長さ;
ΔC :リザーバ壁にわたる濃度勾配;
/r :装置の外半径の内半径に対する比;および
p :使用されるポリマーの透過係数。)
【0026】
透過係数は、ポリマーの親水性または疎水性、ポリマーの構造、および薬物とポリマーの相互作用によって主として規定される。ポリマーおよび活性成分を選択すると、pは、定数であり、円筒形装置を製造すると、h、r、およびrは、固定され、一定を保つ。ΔCは、一定に維持される。
【0027】
できる限り精密に装置の幾何形状を保つために、熱可塑性ポリウレタンポリマーについては精密押出または精密成形プロセスによって、ならびに熱硬化性ポリウレタンついては反応射出成形またはスピンキャスティングプロセスによって、装置、例えば円筒形装置を製造することができる。
【0028】
いずれか一端が閉じられた、または両端が開口した、カートリッジを作ることができる。例えば、平滑端および中実封止を確保するように予め製造された先端プラグ(単数または複数)を用いて、または、熱可塑性ポリウレタンの場合には、当業者に周知のヒートシール技術を用いることによって、開口端に栓をすることができる。固体活性物質および担体をペレット形に圧縮して、該活性物質の負荷量を最大にすることができる。
【0029】
インプラントの位置を特定するために、放射線不透過性材料を、リザーバに挿入することにより、またはカートリッジを封止するために使用される先端プラグに形成することにより、送達装置に組み込むことができる。
【0030】
充填されたリザーバを有するカートリッジの両端を封止したら、場合により、それらを、一定送達速度を確保するために適切な期間、コンディショニングおよびプライミングする。
【0031】
薬物送達装置のコンディショニングは、リザーバを囲むポリウレタン系ポリマーへの活性物質(薬物)の負荷を含む。プライミングは、ポリウレタン系ポリマーへの薬物の負荷を停止させるために行われ、従って、インプラントの実際の使用前の活性物質の損失を防止する。コンディショニングおよびプライミング段階に用いられる条件は、活性物質、それらを行う温度および媒体に依存する。コンディショニングおよびプライミングの条件は、場合によっては同じであることがある。
【0032】
薬物送達装置の作製プロセスにおけるコンディショニングおよびプライミング段階は、特定の薬物の所定放出速度を得るために行われる。親水性薬物を含むインプラントのコンディショニングおよびプライミング段階は、水性媒体中で、例えば食塩溶液中で、行うことができる。疎水性薬物を含む薬物送達装置のコンディショニングおよびプライミング段階は、例えば油性媒体などの疎水性媒体中で通常は行われる。コンディショニングおよびプライミング段階は、3つの特定のファクタ、すなわち温度、媒体および期間を制御することによって行うことができる。
【0033】
薬物送達装置のコンディショニングおよびプライミング段階が、その装置が置かれる媒体による影響を受けることは、当業者には理解されるだろう。親水性薬物は、例えば、水溶液中で、例えば食塩水中で、コンディショニングおよびプライミングすることができる。薬物送達装置をコンディショニングおよびプライミングするために用いられる温度は、広範な温度にわたって様々であり得る(例えば、37℃)。
【0034】
薬物送達装置のコンディショニングおよびプライミングのために用いられる期間は、その特定のインプラントまたは薬物に望まれる放出速度に応じて約1日から数週間まで様々であり得る。ペレット処方物に用いられる特定の活性薬物に関しては所望の放出速度を当業者が決める。
【0035】
インプラントをコンディショニングおよびプライミングする段階が、そのインプラント内に収容されている薬物の放出速度を最適化する段階であることは、当量者には理解されるであろう。従って、薬物送達装置のコンディショニングおよびプライミングにかける期間が短いほど、長いコンディショニングおよびプライミング段階を受けた同様の薬物送達装置と比べて、薬物放出速度は低くなる。
【0036】
コンディショニングおよびプライミング段階の温度も放出速度に影響を及ぼすであろう。この場合、高い温度での処理を受けた同様の薬物送達装置と比べたとき、温度が低いほど、その薬物送達装置内に収容されている薬物の放出速度は低くなる。
【0037】
同様に、水溶液、例えば、食塩水の場合、その溶液の塩化ナトリウム含有率が、その薬物送達装置についてどのようなタイプの放出速度が得られるかを決める。より具体的には、塩化ナトリウム含有率が高いコンディショニングおよびプライミング段階を受けた薬物送達装置と比べたとき、塩化ナトリウムの含有率が低いほど、薬物放出速度は高くなる。
【0038】
同じ条件が疎水性薬物にも当てはまり、この場合、コンディショニングおよびプライミング段階に関する主な違いは、コンディショニングおよびプライミング媒体が疎水性媒体、より具体的には油性媒体、であることである。
【0039】
リスペリドンの送達は、例えば、統合失調症、躁状態、双極性障害、被刺激性、自閉症、強迫性障害、精神病的特徴を伴うまたは伴わない重症難治性うつ病、トゥレット症候群、児童の破壊的行動障害、および摂食障害の治療に有用であり得る。リスペリドンは、「非定型神経遮断薬」としても知られている抗精神病薬の一分類に属する。それは、強いドーパミンアンタゴニストである。それは、D2ドーパミン作動性受容体に対して高い親和性を有する。それは、幾つかの5−HT(セロトニン)受容体サブタイプに対する作用を有する。これらは、5−HT2C(体重増加に関連づけられる)、5−HT2A(その抗精神病作用に、および5−HT1Aでの作用により「定型神経遮断薬」で経験した錐体外路系副作用の一部の軽減に関連づけられる)である。後述の作用は、脳における中間皮質ニューロンからのドーパミンの放出増加をもたらす。血液中のリスペリドンの有効レベルは、公知であり、確立されており、例えば、約0.1〜約10ng/mL、約0.5〜約8ng/mLまたは約1.0〜約5ng/mL範囲にわたることがある。
【0040】
当業者は、インプラントの様々なファクタを変えることによりリスペリドン放出を調整することができるだろう。例えば、実施例において示すように、異なるクラスのポリウレタンは、異なるリスペリドン放出速度をもたらす。加えて、ポリウレタンのクラスの中でも、ポリウレタンのEWCおよび/または曲げ係数を変えて、異なるリスペリドン放出速度を達成することができる。さらに尚、当業者は、インプラントの表面積を増加または減少させるようにインプラントのサイズを変え、それによって、そのインプラントからのリスペリドンの放出速度を変えることができるだろう。そのような改変は、生理学的に妥当な範囲内の、例えば、約0.001〜約15mg/日、約0.1〜約15mg/日、約1〜約12.5mg/日、約7.5〜約12.5mg/日または約12.5mg/日の、放出速度をもたらす。インプラントからの放出速度は、例えば、リスペリドン処方薬に含有されている補形剤の量および性質を調整することによっても変えることができる。
【0041】
リスペリドンの生理的放出速度を達成するインプラントは、例えば、使用されるポリウレタンの性質に依存して、サイズの点で様々であり得る。例えば、円筒インプラントは、約1mm〜約10mm、約1.5mm〜約5mm、約1.8mm〜約3.6mm、約3.6mm〜約1.8mmの範囲の内径を有することがある。インプラントは、長さの点で、おおよそ、例えば、5mm〜約100mm、約7.5mm〜約50mm、約10mm〜約40mm、約15mm〜約30mm、約37mm、約40mmまたは約15.24mmにわたることがある。
【0042】
本発明は、生物活性化合物を制御された速度で長期間にわたって送達する埋め込み可能型装置の作成へのポリウレタン系ポリマー、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂、の適用に焦点を合せている。ポリウレタンポリマーは、例えば、使用されるポリウレタンのタイプに応じて押出、(反応)射出成形、圧縮成形、またはスピンキャスティング(例えば、米国特許第5,266,325号および同第5,292,515号参照)により1つまたは2つの開口端を有する円筒中空チューブにすることができる。
【0043】
熱可塑性ポリウレタンは、押出、射出成形または圧縮成形によって加工することができる。熱硬化性ポリウレタンは、反応射出成形、圧縮成形、またはスピンキャスティングによって加工することができる。その円筒中空チューブの寸法は、出来る限り精密でなければならない。
【0044】
ポリウレタン系ポリマーは、多官能性ポリオール、イソシアナートおよび連鎖延長剤から合成される。それぞれのポリウレタンの特徴は、その構造に帰すことができる。
【0045】
熱可塑性ポリウレタンは、マクロジオール、ジイソシアナートおよび二官能性連鎖延長剤から製造される(例えば、米国特許第4,523,005号および同第5,254,662号)。マクロジオールは、ソフトドメインを構成する。ジイソシアナートおよび連鎖延長剤は、ハードドメインを構成する。ハードドメインは、それらのポリマーのための物理的架橋部位としての役割を果たす。これらの2ドメインの比率を変化させることによって、そのポリウレタンの物理的特徴、例えば曲げ係数を変えることができる。
【0046】
熱硬化性ポリウレタンは、(二官能性より大きい)多官能性ポリオールおよび/またはイソシアナートおよび/または連鎖延長剤で製造することができる(例えば、米国特許第4,386,039号および同第4,131,604号)。熱硬化性ポリウレタンは、ポリマー鎖への不飽和結合の導入、ならびに化学的架橋を行うための適切な架橋剤および/または開始剤により、製造することもできる(例えば、米国特許第4,751,133号)。架橋部位の量およびそれらの分布を制御することにより、活性物質の放出速度を制御することができる。
【0047】
所望の性質に応じてポリオールの主鎖の修飾によりポリウレタンポリマー鎖に異なる官能基を導入することができる。この装置を水溶性薬物の送達に用いる場合、親水性ペンダント基、例えば、イオン性基、カルボキシル基、エーテル基およびヒドロキシル基をポリオールに組み込んで、ポリマーの親水性を増加させる(例えば、米国特許第4,743,673号および同第5,354,835号参照)。この装置を疎水性薬物の送達に用いる場合、疎水性ペンダント基、例えば、アルキル基、シロキサン基をポリオールに組み込んで、ポリマーの疎水性を増加させる(例えば、米国特許第6,313,254号)。活性物質の放出速度をポリウレタンポリマーの親水性/疎水性によって制御することもできる。
【0048】
熱可塑性ポリウレタンについては、精密押出および射出成形が、一貫した物理的寸法を有する2開口端中空チューブ(図1)を製造するための好ましい選択肢である。活性物質と担体とを含む適切な処方物を自由にリザーバに装入することができ、または活性物質の負荷量を最大にするように予め作製したペレットを装填することができる。処方物を中空チューブに装入する前に一方の開口端を封止する必要がある。2つの開口端を封止するために、2つの予め作製した先端プラグ(図2)を使用することができる。この封止段階は、先端を、好ましくは永久に、封止するための熱もしくは溶剤または任意の他の手段の適用により、遂行することができる。
【0049】
熱硬化性ポリウレタンについては、その硬化メカニズムに応じて、精密反応射出成形またはスピンキャスティングが好ましい選択肢である。その硬化メカニズムが熱によって行われる場合には反応射出成形が用いられ、その硬化メカニズムが光および/または熱によって行われる場合にはスピンキャスティングが用いられる。例えば、1つの開口端を有する中空チューブ(図3)を、スピンキャスティングによって製造することができる。例えば、2つの開口端を有する中空チューブを、反応射出成形によって製造することができる。リザーバには、熱可塑性ポリウレタンと同じ方法で負荷することができる。
【0050】
開口端を封止するために、適切な光開始型および/または熱開始型熱硬化性ポリウレタン処方物を開口端の充填に用いることができ、これを光および/または熱で硬化する。例えば、予め作製した先端プラグを用いて開口端を封止することもでき、これは、適切な光開始および/または熱開始熱硬化性ポリウレタン処方物をその予め作製した先端プラグと開口端の間に用い、それを光および/もしくは熱または任意の他の手段で硬化させて先端を、好ましくは永久に、封止することによる。
【0051】
最終プロセスは、それらの活性物質に求められる送達速度を達成するためのインプラントのコンディショニングおよびプライミングを含む。活性成分のタイプ、親水性または疎水性に応じて、適切なコンディショニングおよびプライミング媒体を選択する。親水性活性物質には水性媒体が好ましく、疎水性活性物質には油水性媒体が好ましい。
【0052】
当業者には容易に理解されるように、本発明の範囲を逸脱することなく多くの変更を本発明の好ましい実施形態に加えることができる。本明細書に含まれるすべてのことは本発明の例示であって限定を意図するものではないと解釈されたい。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
Tecophilic(登録商標)ポリウレタンポリマーチューブは、Thermedics Polymer Productsにより供給されており、精密押出プロセスによって製造される。Tecophilic(登録商標)ポリウレタンは、乾燥樹脂重量の150%以下の異なる平衡含水率(EWC)に配合することができる脂肪族ポリエーテル系熱可塑性ポリウレタンの1ファミリーである。押出しグレードの処方物は、熱成形チューブ材料または他の構成要素の最大の物理的特性をもたらすように設計する。例示的チューブおよび先端キャップ構造を図1〜3に図示する。
【0054】
このポリマーについての物理的データを、Thermedics Polymer Productsによって提供されているとおり下記に示す(米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials:ASTM)によって概説されているとおりに行われた試験、表1)。
【表1】

【0055】
(実施例2)
表2A〜Cは、3つの異なるクラスのポリウレタン化合物(Tecophilic(登録商標)、Tecoflex(登録商標)およびCarbothane(登録商標))からのリスペリドンの放出速度を示すものである。これらの放出速度をインプラントの表面積で正規化し、それによって、それらの様々な埋め込み可能型装置のサイズのわずかな差を調整した。リスペリドンは、LogP値によって示されるように、疎水性である(あまり水溶性でない)と考えられる。示したデータの意味については、約2.0より大きいLogP値では、水溶液に容易に溶解しないと考える。水溶性活性薬物に対する様々な親和性および(曲げ係数の変動によって示されるような)様々な可撓性を有するポリウレタンを選択した。
【0056】
本明細書に記載する装置および方法に有用なポリウレタンの用途のために、これらのポリウレタンは、送達すべきリスペリドン処方物に適する物理的特性を示す。例えばある範囲のEWCまたは曲げ係数を有する、ポリウレタンを入手でき、または調製することができる(表2)。表2A〜Cは、ポリウレタン化合物からの様々な活性成分についての正規化された放出速度を示すものである。表2D〜Fは、同じ活性成分についての非正規化放出速度をインプラント構成と共に示すものである。
【表2A】

【表2B】

【表2C】

【表2D】

【表2E】

【表2F】

【0057】
水性環境における活性薬物の溶解度は、(水性相中の化合物の濃度と不混和性溶剤中の濃度との比として定義される)その分配係数に基づいて測定し、予測することができる。分配係数(P)は、物質が脂質(油)と水の間でどれほど十分に分配するかの尺度である。Pに基づく溶解度の尺度は、多くの場合、LogPとして与えられる。一般に、溶解度は、LogPおよび(化合物のサイズおよび構造による影響を受ける)融点によって決まる。概して、LogP値が低いほど、化合物は水中でより水溶性である。しかし、例えばそれらの低い融点のために、高いLogP値を有するが依然として可溶性である化合物もある。同様に、非常に不溶性である、高い融点を有する低LogP化合物もありえる。
【0058】
所与のポリウレタンについての曲げ係数は、応力の歪に対する比である。それは、化合物の「剛性」の尺度である。この剛性は、概して、パスカル(Pa)でまたはポンド毎平方インチ(psi)として表される。
【0059】
ポリウレタン化合物からの活性薬物の溶出速度は、例えば、(例えば、logPによって示されるような)ポリウレタンの相対的疎水性/親水性、(例えば、曲げ係数によって示されるような)ポリウレタンの相対「剛性」、および/または放出される活性薬物の分子量をはじめとする、様々なファクタに基づいて変動し得る。
【0060】
(実施例3)
ポリウレタン埋め込み可能型装置からのリスペリドンの溶出
図5〜10は、様々な期間にわたっての様々な埋め込み可能型装置からのリスペリドンの溶出プロフィールを示すグラフである。
【0061】
特定のロット内の材料の均一性の評定の一部として、1巻きのチューブ材料の始端、中間および終端に相当するチューブ材料切断材から作製したCarbothane(登録商標)PC−3575Aポリウレタンインプラント(F.M.620psi)からのリスペリドンの放出速度を得た(図5)。サンプルを1年間、週1回、評価した。すべてのインプラントは、同等の幾何形状および薬物負荷量のものであった。
【0062】
溶出媒体としてのヒドロキシプロピルベータセルロース水溶液(リン酸緩衝食塩水中15%)の使用効果に対する食塩水の使用効果の評定の一部として、Carbothane(登録商標)PC−3575Aポリウレタンインプラント(F.M.620psi)からのリスペリドンの放出速度を得た(図6)。サンプルを11週間、週1回、評価した。すべてのインプラントは、同等の幾何形状および薬物負荷量のものであった。
【0063】
親水性ポリウレタン材料および疎水性ポリウレタン材料のいずれかからの活性物質の放出の評価の一部として、Carbothane(登録商標)PC−3595Aポリウレタンインプラント(F.M.4500psi)からのリスペリドンの放出速度とTecophilic(登録商標)HP−60D−20ポリウレタンインプラント(EWC 14.9%)からのリスペリドンの放出速度を比較した(図7Aおよび7B)。Carobthane(登録商標)インプラントについては22週間、週1回、サンプルを評価した。Tecophilic(登録商標)インプラントについては15週間、週1回、サンプルを評価した。すべてのインプラントは、同等の幾何形状および薬物負荷量のものであった。
【0064】
Tecoflex(登録商標)EG−80Aポリウレタンインプラント(F.M.1000psi)からのリスペリドンの放出速度と、2つのグレードのTecophilic(登録商標)ポリウレタンインプラント、HP−60D−35およびHP−60D−60(EWC、それぞれ、23.6%および30.8%)からのリスペリドンの放出速度を比較した(図8)。すべて、10週間、週1回、サンプリングした。すべてのインプラントは、同等の幾何形状および薬物負荷量のものであった。
【0065】
実施例4にて説明するビーグル犬での研究において使用したインプラントについてインビトロ対照として、Carbothane(登録商標)PC−3575Aポリウレタンインプラント(F.M.620psi)からのリスペリドンの放出速度を得た。これらのインプラントのインビトロ溶出研究を、インビボ−インビトロ相関関係の評定の一部として、被験体インプラントの埋め込み当日に開始した。
【0066】
(実施例4)
リスペリドンを含むポリウレタン皮下インプラント装置のビーグル犬における評価
この研究は、1つまたは2つのインプラントからのリスペリドンの血中濃度およびそれらのインプラントが薬物を放出する継続期間を測定するものである。リスペリドンを含むペレットを含むポリウレタン系埋め込み可能型装置をビーグルに埋め込んで、インビボでのリスペリドンの放出速度を測定した。サンプル分析結果を表3および図10にまとめる。リスペリドンは、第3月の終わりに依然として高レベルでイヌの血漿に存在する。この研究は、WCFPの標準操作手順書(standard operating procesures:SOPs)、そのプロトコル、および任意のプロトコルの改定に従って行った。すべての手順は、実験動物の管理と使用に関する指針(the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)(National Research Center,National Academy Press,Washington,DC.1996)に従って行い、WCFPにおける研究機関内動物管理使用委員会(the Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認されたものであった。
【0067】
インプラントは、最初、80mgのリスペリドンを含有した。それらのインプラントを3か月間、おおよそ130mcg/日を送達するように設計する。使用前は、試験物品を2〜8℃の間で保管した。
【0068】
動物は、次の通りであった:
種:イヌ科の動物
系統:ビーグル犬
供給業者:Guangzhou Pharm.Industril Reserch Institute,Certification No:SCXK(YUE)2003−0007
処置開始時の歳:6〜9ヶ月
体重:8〜10kg
数および性別:オス6匹
【0069】
研究開始前、動物に前処置識別番号を割り当てた。すべての動物を、投与前に週1回計量し、資格を有する獣医が順化期間中、1日1回、症状観察(cage−side observations)を行った。研究のために選択する前に、すべての動物に臨床検査を行った。疾病または身体的異常の何らかの証拠を有する動物は、研究用としては選択しなかった。埋め込み前の第3日および2日の時点でベースラインとして採血した。その後、2つの群に動物を無作為に割り当て、次のような投薬スケジュールを施した。
【表3】

【0070】
装置埋め込みのために30mg/kgの用量でのペントバルビタールナトリウムによる全身麻酔により動物をそれぞれ麻酔した。薬物は、数ヶ月間、一定速度で放出された。半分の動物には1つのインプラントを施し(群1)、その他には2つのインプラントを施した(群2)。5cmの肩領域の毛を刈り、2mLのマーカインを皮下注入して、その領域を麻痺させた。肩に小切開を施し、装置を皮下にそっと入れた。その小切開を閉じ、動物を回復させ、その動物のランに戻した。翌5から7日にわたって、埋め込み部位を感染または反応の徴候についてモニターした。皮膚が十分に治癒したら、スキンステープルを除去した。三ヶ月の終わりに、まさに臨床治療的に、装置を取り出した。
【0071】
採血前、少なくとも4時間は、動物を絶食させた。採血は朝に行ったので、餌を一晩与えずにおいた。20G針を使用して血液サンプルを採血し、ヘパリンナトリウムが入っている5mLチューブに直接回収し、遠心分離まで冷蔵しておいた。その後、サンプルを5000RPMで5分間、4℃で遠心分離した。その後、その分離した血漿を3mL冷凍チューブに移した。サンプルを採取した実際の日付、対応する研究日、イヌ識別および二重反復試験サンプル表示(AまたはBのいずれか)のラベルをサンプルに貼った。分析の準備が整うまでサンプルを−20℃で保持した。
【0072】
送達装置の埋め込み前に2日連続でベースライン血液サンプルを採取した。加えて、第1週の間は血液サンプルを1日1回採取し、埋め込み後3か月間、週1回、サンプルを採取した。各イヌから各回、5mL血液サンプル2つを採血した。血液サンプルは、主として橈側皮静脈から採血し、予備として伏在または頸静脈からのものを使用した。シングルインプラント群とダブルインプラント群の両方について、下表3に概略を示すような適切な時に血液サンプルを採血した。分析には少なくとも2mLの血漿が必要であり、それには、それぞれのサンプルについて採血した血液10mL以上が必要であった。リスペリドンの血漿濃度の分析を、この化合物のために開発されたLC/MSアッセイを用いて行った。各サンプルにつき1回のアッセイを実行した。サンプルを収集し、適切な条件で保持し、バッチで分析した。
【表4】

【0073】
図9は、このビーグル犬研究におけるリスペリドンのインビボ血漿濃度のグラフである。下方のプロットは、Carbothane(登録商標)PC−3575Aポリウレタンインプラント(F.M.620psi)1つを埋め込んだイヌにおいて得られた平均血漿濃度を表す。上方のプロットは、Carbothane(登録商標)PC−3575Aポリウレタンインプラント(F.M.620psi)2つを埋め込んだイヌにおいて得られた平均血漿濃度を表す。
【0074】
(実施例5)
リスペリドンを含むポリウレタン皮下インプラント装置のビーグル犬における評価
実施例4において提示したデータを展開させて、この研究では、1つまたは2つのより大きなインプラントからのリスペリドンの血中濃度およびそれらのインプラントが薬物を放出する継続期間を測定する。リスペリドンを含むペレットを含むポリウレタン系埋め込み可能型装置をビーグルに埋め込んで、リスペリドンの放出速度をインビボで測定した。より大きなインプラントのデータの結果を図10(インビトロ溶出プロフィール)および図11(ビーグル犬での溶出)にまとめる。
【0075】
この研究において使用したリスペリドン処方物を含むペレットは、3.5mmの直径、約4.5mmの長さおよび5.4mgの重量を有した。このインプラントは、約39〜40mmのリザーバ長、0.2mmの壁厚、ならびに3.6mmの内径および約45mmの全長を有し、最初に約80mgのリスペリドンを含んだ。このインプラントは3か月間、おおよそ130mcg/日を送達するように設計される。
【0076】
均等物
本開示は、本出願に記載する特定の実施形態によって限定されず、これらの実施形態は、様々な態様の例示を意図するものである。当業者には明らかであるように、本開示の精神および範囲を逸脱することなく、多くの変更および変形を加えることができる。本明細書において列挙するものに加えて、本開示の範囲内の機能的に等価の方法、系および装置が、上記の説明から当業者には明らかであろう。そのような変更および変形は、添付のクレームの範囲内に入ると解釈される。本開示は、添付のクレームと、当該クレームの均等物の全範囲によってのみ限定されるものである。本開示が、特定の方法、試薬、化合物、組成物または生体系に限定されない(これらは勿論様々であり得る)ことは、理解されよう。本明細書において用いる用語が、単に特定の実施形態を説明するためのものであり、限定を意図したものでないことも理解されよう。当業者には理解されるように、任意のまたはすべての意味で、例えば、記載する説明の提供に関して、本明細書に開示するすべての範囲は、任意のおよびすべての可能な下位範囲およびそれらの下位範囲の組み合わせも包含する。
【0077】
様々な態様および実施形態を本明細書に開示したが、他の態様および実施形態が当量者には明らかであろう。本明細書に引用したすべての参考文献は、それら全体が参照により援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のリスペリドンを含む処方物を被験体に送達する方法であって、
埋め込み可能型装置を前記被験体に埋め込むことを含み、
前記埋め込み可能型装置が、ポリウレタン系ポリマーで実質的に囲まれたリスペリドンまたはその処方物を含む、
方法。
【請求項2】
前記ポリウレタン系ポリマーが、1つ以上のポリオールから形成され、そのポリオール一般構造が、
−[O−(CH−O−;
O−(CH−CH−CH−CH−O−;および
O−[(CH−CO−(CH)−O−
からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリオールが、−[O−(CH−O−を含み、
前記ポリウレタン系ポリマーが、約5%〜約200%の間の平衡含水率を有する、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリウレタン系ポリマーが、少なくとも約15%の平衡含水率を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
リスペリドンが、前記埋め込み可能型装置の表面積の平方センチメートルあたり約149μg/日のゼロ次速度で放出される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリオールが、O−(CH−CH−CH−CH−O−を含み、
前記ポリウレタン系ポリマーが、約1000〜約92,000psiの間の曲げ係数を有する、
請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリウレタン系ポリマーが、約2,300psiの曲げ係数を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
リスペリドンが、前記埋め込み可能型装置の表面積の平方センチメートルあたり約146μg/日のゼロ次速度で放出される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリオールが、O−[(CH−CO−(CH)−O−を含み、
前記ポリウレタン系ポリマーが、約620〜約92,000psiの間の曲げ係数を有する、
請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリウレタン系ポリマーが、約620psiの曲げ係数を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
リスペリドンが、前記埋め込み可能型装置の表面積の平方センチメートルあたり約40μg/日のゼロ次速度で放出される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
リスペリドンを長期間にわたって制御放出して局所性または全身性薬理効果を生じさせる薬物送達装置であって、
a)中空空間を形成するように成形されたポリウレタン系ポリマー、および
b)リスペリドンと場合により1つ以上の医薬的に許容される担体とを含む処方物を含む固形医薬処方物
を含み、
前記固形医薬処方物が、前記中空空間内に収容され、
前記装置が、埋め込み後、前記装置からのリスペリドンの所望の放出速度を生じさせる、
薬物送達装置。
【請求項13】
前記薬物送達装置が、前記少なくとも1つの活性薬物の水溶性特性と合うように選択された条件下でコンディショニングおよびプライミングされる、請求項12に記載の薬物送達装置。
【請求項14】
前記医薬的に許容される担体が、ステアリン酸である、請求項13に記載の薬物送達装置。
【請求項15】
前記ポリウレタン系ポリマーが、1つ以上のポリオールから形成され、そのポリオール一般構造が、
−[O−(CH−O−;
O−(CH−CH−CH−CH−O−;および
O−[(CH−CO−(CH)−O−
からなる群より選択される、請求項8に記載の薬物送達装置。
【請求項16】
前記ポリオールが、−[O−(CH−O−を含み、
前記ポリウレタン系ポリマーが、約5%〜約200%の間の平衡含水率を有する、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリウレタン系ポリマーが、少なくとも約15%の平衡含水率を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
リスペリドンが、前記埋め込み可能型装置の表面積の平方センチメートルあたり約149μg/日のゼロ次速度で放出される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリオールが、O−(CH−CH−CH−CH−O−を含み、
前記ポリウレタン系ポリマーが、約1000〜約92,000psiの間の曲げ係数を有する、
請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記ポリウレタン系ポリマーが、約2,300psiの曲げ係数を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
リスペリドンが、前記埋め込み可能型装置の表面積の平方センチメートルあたり約146μg/日のゼロ次速度で放出される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリオールが、O−[(CH−CO−(CH)−O−を含み、
前記ポリウレタン系ポリマーが、約620〜約92,000psiの間の曲げ係数を有する、
請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記ポリウレタン系ポリマーが、約620psiの曲げ係数を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
リスペリドンが、前記埋め込み可能型装置の表面積の平方センチメートルあたり約40μg/日のゼロ次速度で放出される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1つの活性薬物の前記所望の送達速度を確立するように適切なコンディショニングおよびプライミングパラメータを選択することができ、前記プライミングパラメータが、時間、温度、コンディショニング媒体およびプライミング媒体である、請求項12に記載の薬物送達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−504146(P2012−504146A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529360(P2011−529360)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/058810
【国際公開番号】WO2010/039722
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(509297680)エンド ファーマスーティカルズ ソリューションズ インコーポレイテッド. (9)
【氏名又は名称原語表記】ENDO PHARMACEUTICALS SOLUTIONS INC.
【Fターム(参考)】