説明

リチウムイオンのプレドープ方法、電極およびそれを使用した蓄電体

【課題】インサーション系物質の結晶構造の崩壊を抑制しつつ、リチウムイオンをプレドープする技術を提供。
【解決手段】リチウム極10と、正極20と、負極30とから電極構成Aを行う。かかる電極構成Aに対して、リチウム極10と正極20とを、充放電装置40aを介在させて電気的に接続する。充電することにより、正極20の活物質21内に有したピラー元素Pをリチウム極10側に脱ドープする。その後、放電モードに切り換えて、リチウム極10からピラー元素Pの脱ドープ後の活物質21内にリチウムイオンをプレドープする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池等の蓄電体の技術に関し、特に正極活物質等に使用されるインサーション系物質に対するリチウムイオンのプレドープ方法に適用して有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
以下に説明する技術は、本発明を完成するに際し、本発明者によって検討されたものであり、その概要は次のとおりである。
【0003】
電気自動車(EV)の本格的な普及のためには航続距離の伸長が不可欠である。リチウムイオン電池(Lithium Ion Battery,LIB)は高いエネルギー密度を有するため、電気自動車用の蓄電源の最有力候補の一つとして取り上げられている。かかるリチウムイオン電池では、現在よりも更なるエネルギー密度の向上が求められている。また、電気自動車への搭載に際しては、リチウムイオン電池は安全性にも優れたものでなければならない。
【0004】
かかるリチウムイオン電池では、例えば、酸化バナジウム系化合物を電極の活物質に用いた開発が行われている。酸化バナジウム系化合物では、その層状結晶構造の層間に、リチウムイオンを取り込む特性が高い。そのため、高エネルギーを取り出すことが出来るとして注目されている。
【0005】
さらに、酸化バナジウム系化合物の中でも、五酸化バナジウム(V)が特に注目を集めている。五酸化バナジウムを電極の活物質に用いることで、リチウムイオン電池の大型化、大容量化が可能となる。併せて、高いエネルギー密度を有する安全な電池として、電気自動車用の蓄電源として有望視されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、かかる五酸化バナジウムを活物質として用いる提案がなされている。かかる活物質の五酸化バナジウムは、正確には化学式M・nHOで示されることが記載されている。Mはカチオン、Aはアニオンを示している。特に製造に際して強無機酸を用いることから、Aは硝酸イオン、あるいは硫酸イオン、あるいは塩素イオンであると記載されている。
【特許文献1】特公表2004−511407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、リチウムイオンがドープ、脱ドープし易い酸化バナジウム系材料の研究を行っている。かかる中、酸化バナジウム系材料の結晶構造の層長を短くした。かかる結果、リチウムイオンのドープ、脱ドープのし易さを向上させ得ることを見出し、先に出願した。
【0008】
かかる提案は、層長をある程度の長さ以下に規定することで、リチウムイオンのパス長(通過距離)を短くした。かかるバス長を短くすることで、層状結晶構造への出入りの円滑性を確保する発想である。しかし、層長を変化させなくても、かかるリチウムイオンの層状結晶構造への出入りの円滑性を確保する手段があれば好ましい。
【0009】
一般に、リチウムイオンがドープされるインサーション系物質(ホスト物質)では、脱ドープに際して、その結晶構造が崩壊すると指摘されている。かかる崩壊により、再度のリチウムイオンのドープが行い難くなる。また、ドープされたとしても、当然に、脱ドープが行い難くなる。
【0010】
そこで、本発明者は、先の出願で、層状結晶構造内に層間確保部材をドープさせる提案を行った。層間確保部材のドープで、結晶構造の崩壊を防止するのである。すなわち、五酸化バナジウム等の層状結晶構造において、リチウムイオンのドープ、脱ドープに基づく結晶構造の崩壊を回避した。かかる提案により、サイクル安定性等の改善が図られた。
【0011】
しかし、さらなるサイクル安定性の改善が求められている。また、さらなるエネルギー密度の向上も求められている。エネルギー密度の向上には、一つの手段として、リチウムイオンのドープ、脱ドープ量を増やすことが求められる。
【0012】
リチウムイオンのドープ量が多い場合は、リチウムイオンのドープ量が少ない場合に比べて、上記ホスト物質の結晶構造がより崩壊し易い。そこで、酸化バナジウム等のインサーション系物質のさらなる結晶構造の崩壊を抑制して、リチウムイオンのドープ量を増やす技術が求められる。因みに、先の出願では、層間確保部材のドープ量は、バナジウム酸化物1モル当り0.5モル以下に制限していた。
【0013】
本発明の目的は、インサーション系物質の結晶構造の崩壊を抑制しつつ、リチウムイオンをドープする技術を提供することにある。
【0014】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。すなわち、リチウムイオンのインサーション系物質であるホスト物質の結晶構造内に、リチウムイオンよりイオン半径が大きく電気的に脱ドープ可能な元素を予め含ませておく。かかる元素のイオンを、リチウムイオンと交換してリチウムイオンをドープする。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0017】
すなわち、本発明では、リチウムイオンをドープするインサーション系物質の結晶構造内には、リチウムイオンよりイオン半径が大きく電気的に脱ドープ可能な元素が含まれている。かかる元素が、リチウムイオンのドープ等の際の結晶構造の崩壊を抑制する。また、かかる元素が、リチウムイオンとイオン交換して、リチウムイオンのプレドープ量の確保が行われる。その結果、かかる電極を用いた蓄電体の容量維持率、高率放電性能等が改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本発明は、リチウムイオン二次電池等の蓄電体に関する技術である。特に、リチウムイオン二次電池等の蓄電体で使用される電極に適用できる技術である。電極に使用される活物質へのリチウムイオンのドープ技術である。すなわち、正極等に使用されるインサーション系物質に、リチウムイオンを予めドープ(インサーション)する、所謂プレドープ技術に適用して有効である。かかる技術は、例えば、五酸化バナジウム等を含むバナジウム酸化物等のインサーション系物質に適用できる。かかる活物質として用いられるインサーション系物質に対して、高濃度のリチウムイオンのプレドープ、脱ドープを行えるようにした技術である。その結果、例えば、容量維持率の向上、高率放電特性等が改善される。
【0019】
本発明が適用できるインサーション系物質としては、例えば、遷移金属の酸化物、硫化物等が挙げられる。かかる物質は、層間にリチウムイオンをプレドープできる結晶構造を有している。
【0020】
具体的には、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物等のリチウムを含有した遷移金属酸化物や、リン酸鉄リチウムやケイ酸リチウム等の、いわゆるポリアニオン系のリチウム含有化合物が挙げられる。また、本来の材料中にリチウムイオンを含まない物質に対してもリチウムのインサーションは可能である。バナジウムやマンガンなどの遷移金属酸化物等が公知である。
【0021】
上記インサーション系物質に対して、リチウムイオンをプレドープする。本発明では、リチウムイオンのプレドープに際しては、予め、インサーション系物質に対して、リチウム元素とは異なる元素(ピラー元素)を含有させておく。かかるリチウムイオンとは異なる元素とは、リチウムイオンよりもイオン半径が大きいことが求められる。かかる要請を満足させることで、リチウムイオンより大きい空間確保ができる。併せて、リチウムイオンの出入りの円滑性を確保することもできる。これにより、リチウムイオンのプレドープ、脱ドープが行い易くなる。さらには、予めピラー元素を含有させておくことで、含有させた結晶構造自体も強化され、リチウムイオンのドープ、脱ドープ時のホスト構造の崩壊が抑制される。すなわち、ホスト構造が強化されるのである。
【0022】
かかるホスト構造の強化については、次のように説明することができる。リチウムイオンのようなイオン半径の小さい元素を用いてホスト物質を合成すると、リチウムイオンサイズの小ささ故にホスト構造中の、例えば酸素等のアニオンの反発を内在させた状態で構造が形成されることになる。一度、構造内に反発を内在した母体構造はその状態で記憶されてしまい、充放電に伴ってリチウムイオンが挿入/脱離を繰り返した時に、それが顕在化して構造崩壊へと繋がる。他方、イオン半径の大きな元素を用いてホスト物質を合成すると前記反発が緩和され、かつ緩和された状態が母体構造に記憶されるので、充放電に対して崩壊が抑制された強固なホスト構造が形成されるのである。
【0023】
かかる元素は、例えば、層間で、結晶構造の崩壊を防ぐ支柱の役割も果たすものと思われる。いわば、ピラー(支柱)としての役割を担っている。かかる元素を、以下ピラー元素と呼ぶことにする。
【0024】
かかるピラー元素として使用できるものは、例えば、図1に示すように、周期律表の11、12番、19番〜34番、37番〜52番、55番〜84陣、87番〜109番までの元素が考えられ。勿論、57番〜71番までのランタノイド系列元素、89番〜103番までのアクチノイド系列元素も含めて構わない。上記使用可能な元素は、図1では、周期表の太線枠内に囲われた元素である。基本的には、カチオンが好ましい。しかし、反応等が起きなければ、リチウムイオンよりイオン半径が大きなアニオンでも構わない。さらに、場合によっては、複数の原子で構成される原子団でも構わない。
【0025】
また、本発明では、かかるピラー元素は、インサーション系物質に対して含ませるようにしている。ホスト構造を強化するため、インサーション系物質1モル当り、0.2モル以上を含ませている。インサーション系物質の結晶強度をより強固にするためには0.5モル以上含ませることがより望ましい。0.2モル未満では、ホスト構造の強化が果たせない場合がある。
【0026】
かかるピラー元素は可能な限り多い方がよいが、1.5モル以下とすることが望ましい。固相合成法、液相合成法、気相析出法等、通常の工業的製造方法においては、1.5モル程度が上限値となるためである。インサーション系物質の製造方法として、固相合成法や液相合成法等を使用することが出来る。固相合成法が任意のピラー元素を熱反応によってインサーション系物質中に取り込ませやすいため望ましい。
【0027】
また、かかるピラー元素は、電気的にインサーション系物質から脱ドープできることが求められる。本発明では、インサーション系物質に対して、ピラー元素を含ませインサーション系物質の崩壊を抑制した。また、含ませたピラー元素を脱ドープすることで、その空位にリチウムイオンをプレドープできるようにした。これにより、リチウムイオンをより高濃度にプレドープすることができる。ドープされたピラー元素を脱ドープするためには、強制力が必要である。電気的な強制力で、脱ドープを推進することが是非とも望ましい。すなわち、電気的に脱ドープを強制するのである。その後、ピラー元素が脱ドープされる過程でも、ホスト構造は記憶されており維持される。ピラー元素を取り除くことにより、リチウムイオンの占有サイトを発現させることが可能となる。すなわち、ピラー元素がドープされていた箇所にも、リチウムイオンをドープさせることが可能となる。
【0028】
インサーション系物質に含有されたピラー元素の種類に応じて、標準電極電位等の値を参考にして所定電圧を印加して充電する。かかる電圧印加により、脱ドープを行えばよい。かかる電圧印加は、通常3.5V〜4.5Vで行うことが望ましい。また、脱ドープは、電流値が減衰しきるまで行うことが望ましい。途中で脱ドープを止めてしまうと、以降の充電で断続的にピラー元素の脱離が発生し、セル性能が低下するためである。もちろん、結晶構造の強化を目的として規定量のピラー元素を残してもよい。その際には、脱ドープ量を規定して、脱ドープを行うが、脱ドープは電圧印加により所定容量の充電電流を流すことで行えばよい。ピラー元素が脱離しても構造は維持されるので、合成の段階で充分に強固なホスト構造となっている場合には、引続き、リチウムイオンのインサーションを円滑に行うことが可能である。そのため、脱ドープ時に、含有させたピラー元素の全量あるいは全量に近い量を脱ドープしてもよい。
【0029】
したがって、ピラー元素の含有量の制御は、ホスト構造の強度が十分に確保できるように行われる。例えば、インサーション系物質1モル当りのピラー元素の含有モル数の制御を行えばよい。
【0030】
かかるインサーション系物質に人為的に含有させたピラー元素を、上記の如く印加電圧を制御して脱ドープし引き抜く。かかる引き抜きによりできたインサーション系物質の結晶構造内の空位に、リチウムイオンをプレドープする。リチウムイオンは、例えば、リチウム極から供給される。
【0031】
尚、本発明では、ドープとは、吸蔵、担持、吸着または挿入を意味し、正極等のインサーション系物質である電極活物質にリチウムイオン等のイオン種が入る現象を意味する。また、脱ドープとは、かかるドープとは逆の現象を意味する。リチウムイオン等のイオン種が出る現象を意味する。プレドープとは、正負極間を通電させ使用するのに先立って、電極の活物質にリチウムイオン等のイオン種を予めドープすることを意味する。例えば、インサーション系物質を電極の活物質として用いたリチウムイオン電池等の蓄電体では、正負極間を通電させ使用するに際して、正極、負極の活物質の間で、リチウムイオンがドープ、脱ドープを繰り返す。かかる蓄電体では、組立当初、インサーション系物質を活物質として用いた電極にリチウムイオンが予めドープされた状態で提供される。かかるリチウムイオンのドープを、特にプレドープと呼んでいる。
【0032】
本発明に係わるリチウムイオンのプレドープ方法は、例えば、図2(a)に示す電極構成で実施できる。図2(a)には、説明が分かりやすいように、電極構成のみを模式的に示した。かかる電極構成Aは、図2(a)に示すように、リチウム極10、正極20、負極30を有している。すなわち、電極構成Aは、3極構成となっている。リチウム極10は、例えば、リチウム金属等で構成されている。かかるリチウム極10は、正極20に対向して設けられている。正極20は、例えば、五酸化バナジウム等のインサーション系物質が活物質として用いられている。かかる正極20は、負極30と対向して設けられている。かかる負極30では、例えばカーボン材料等が活物質として用いられている。
【0033】
正極20の活物質21として使用されるインサーション系物質21aには、予め、ピラー元素Pが含有されている。かかるピラー元素Pの含有は、前述の如く、固相合成法や液相合成法等によりインサーション系物質の合成で行われる。かかる状態の電極構成Aで、図2(b)に示すように、リチウム極10と正極20とを、外部負荷40を介して電気的に接続する。例えば、充放電装置40a等を接続して結線する。この状態で、充放電装置40aを用いてリチウム極10と正極20との間で充電を行う。充電により、正極20の活物質21からピラー元素Pがイオン状態で電気的に脱ドープされる。電気的に強制されて脱ドープされたピラー元素Pは、リチウム極10に移動する。
【0034】
図2(a)、(b)に示すように、脱ドープされるピラー元素Pは、活物質21に含有されたピラー元素Pの一部である。残りは、図2(b)に示すように、活物質21内に残っている。残ったピラー元素Pが、その後に行われるリチウムイオンのプレドープのし易さを確保している。勿論、プレドープ後の電極使用に際しての繰り返し行われるリチウムイオンのドープのし易さも確保している。併せて、プレドープされたリチウムイオンの脱ドープのし易さも確保している。
【0035】
すなわち、かかる活物質21内に残されたピラー元素Pが、リチウムイオンの出入りがし易いように、結晶構造の崩壊を防いでいる。ピラー元素Pが、結晶構造内で支柱の役目を果たして崩壊を防ぐものと推定される。先ほども述べたように、ピラー元素の全量またはそれに近い量が脱ドープされても、結晶構造が強固であれば特に問題はない。また、目的によっては、かかるピラー元素Pの脱ドープ量を、充放電装置40aを用いて流す充電電流量で制御しても良い。充電電流の容量、あるいは所定容量の充電電流を流す時間等で、ピラー元素Pの脱ドープ量の制御ができる。
【0036】
このようにしてピラー元素Pを正極20から脱ドープした後に、リチウムイオンをプレドープする。プレドープに際しては、リチウム極10と正極20とを結線したままで、充放電装置40aを放電モードに切り換える。図2(c)に示すように、リチウム極10からリチウムイオンが正極20に移動する。リチウムイオンは、正極20の活物質21の結晶構造内にプレドープされる。すなわち、脱ドープされたピラー元素Pに替わって、リチウムイオンがその空位にプレドープされる。ここでピラー元素Pは、図2(b)に示す脱ドープで、リチウム極の表面に形成された固体電解質界面相(solid electrolyte interface、SEIと略記)の被膜内に主として取り込まれる。そこで、図2(c)に示す放電操作で、再度ピラー元素Pが正極20内の活物質21内に取り込まれることは殆どない。このようにして、リチウムイオンの正極20内へのプレドープが完成される。すなわち、正極20の活物質21であるインサーション系物質21a内へ、リチウムイオンのプレドープを完了させることができる。上記の方法に限られることは無く、もちろん、正極20へのリチウムイオンのプレドープは正極とリチウム極を電気的に短絡させるなどして行っても良い。
【0037】
上記説明では、ピラー元素を含有する活物質を用いた正極20とリチウム極10との間で、充電操作してピラー元素Pを脱ドープし、脱ドープ後、放電操作して、脱ドープしたピラー元素Pに替わってリチウムイオンをプレドープした。しかし、かかる方法以外でも、リチウムイオンのプレドープは行える。
【0038】
図3には、図2に述べた方法とは異なるリチウムイオンのプレドープ方法を示した。図3(a)に模式的に示す電極構成は、図2(a)に示す電極構成Aと同一である。すなわち、電極構成Aは、リチウム極10、正極20、負極30とで、図2(a)に示すと同様に3極に構成されている。かかる正極20の活物質21には、ピラー元素Pが図2(a)と同様にドープされている。
【0039】
かかるピラー元素Pは、図3(b)に示すように、正極20と負極30との間で脱ドープされる。すなわち、正極20と負極30とを、外部負荷40を介して電気的に接続する。例えば、充放電装置40a等を接続して結線する。かかる状態で、充放電装置40aを用いて正極20と負極30との間で充電を行う。充電により、正極20の活物質21からピラー元素Pが電気的にイオン状態で脱ドープされる。電気的に強制されて脱ドープされたピラー元素Pは、負極30に移動する。図3(b)に示す場合には、図2(b)と同様に、脱ドープされるピラー元素Pは、活物質21に保持されたピラー元素Pの一部である。残りは、図3(b)に示すように、活物質21内に残っている。
【0040】
残ったピラー元素Pが、その後のリチウムイオンのプレドープをも含めたドープのし易さを確保している。併せて、プレドープされたリチウムイオンの脱ドープのし易さも確保している。活物質21内に残されたピラー元素Pが、リチウムイオンの出入りがし易いように、結晶構造の崩壊を防いでいる。かかる場合にも、ピラー元素Pが、結晶構造内で支柱の役目を果たして崩壊を防ぐものと推定される。先ほども述べたように、ピラー元素が全量またはそれに近い量が脱ドープされても、結晶構造が強固であれば特に問題はない。また、目的によっては、かかるピラー元素Pの脱ドープ量を、前例の如く、充放電装置40aを用いて流す充電電流量で制御しても良い。充電電流の容量、あるいは所定容量の充電電流を流す時間等で、ピラー元素Pの脱ドープ量の制御ができる。
【0041】
このようにしてピラー元素Pを正極20から負極30へ脱ドープした後に、リチウムイオンをプレドープする。プレドープに際しては、リチウム極10と正極20とを、外部負荷40を介して電気的に接続する。例えば、充放電装置40a等を接続して結線する。この状態で、充放電装置40aを用いてリチウム極10と正極20との間で放電を行う。放電により、リチウム極10からリチウムイオンが、正極20にプレドープされる。すなわち、脱ドープされたピラー元素Pに替わって、リチウムイオンがその空位にプレドープされる。プレドープ方法は上記放電に限らず、電気的短絡等が選択可能である。
【0042】
ここでピラー元素Pは、図3(b)に示す脱ドープで、負極30の表面に形成された固体電解質界面相(SEI)の被膜内に取り込まれる。そのため、例えば、リチウムイオン二次電池等の蓄電体の使用に際して繰り返されるリチウムイオンのドープ、脱ドープのみが選択的に行われる。ピラー元素Pは、上記ドープ、脱ドープには、殆ど関与しない。このようにして、リチウムイオンの正極20内へのプレドープが完成される。すなわち、正極20の活物質21であるインサーション系物質21a内へ、リチウムイオンのプレドープを完了させることができる。
【0043】
以上説明したリチウムイオンのプレドープの方法では、電極構成Aが3極構成となっていた。しかし、2極構成の電極構成でも構わない。かかる場合を、図4に模式的に説明した。すなわち、図4(a)に示す構成では、電極構成Bは、リチウム極10と電気的に短絡された負極30と、正極20とから構成されている。かかる電極構成Bでは、リチウム極10と負極30とが予め電気的に接続されて短絡されているので、実質的には一つの電極と考えることができる。その意味で、2極構成ということができる。
【0044】
かかる電極構成Bは、図4(a)に示すように、リチウム極10に対向して負極30が設けられている。かかるリチウム極10と負極30とは、予め、結線等により電気的に短絡接続されている。一方、正極20は、リチウム極10と電気的に接続されている負極30と、対向配置されている。正極20のインサーション系物質21aである活物質21には、図2、3に示すと同様に、ピラー元素Pがその結晶構造内に含有されている。かかる電極構成Bでは、図4(a)に示すように、図示は省略したが電解液を注入すると、予め電気的に接続されているので、短絡モードで負極30内にリチウム極10からリチウムイオンのドープが起きている。
【0045】
かかる状態の電極構成Bを、その後、図4(b)に示すように、電気的に接続したリチウム極10、負極30と、外部負荷40を介して、正極20と電気的に接続する。例えば、充放電装置40a等を介して結線する。この状態で、電気的に接続したリチウム極10、負極30と、正極20との間で、充電を行う。かかる充電により、正極20の活物質21からピラー元素Pが電気的にイオン状態で脱ドープされる。電気的に強制されて脱ドープされたピラー元素Pは、リチウム極10、負極30側に移動する。図4(b)に示すように、正極20の対極としてのリチウム極10、負極30の電位に応じて、リチウム極10、負極30に移動したピラー元素Pは、正極20にドープされていたピラー元素Pの一部である。残りは、図4(b)に示すように、活物質21内に残っている。
【0046】
残ったピラー元素Pが、その後のリチウムイオンのプレドープをも含めたドープのし易さを確保している。併せて、プレドープされたリチウムイオンの脱ドープのし易さも確保している。活物質21内に残されたピラー元素Pが、リチウムイオンの出入りがし易いように、結晶構造の崩壊を防いでいる。かかる場合にも、ピラー元素Pが、結晶構造内で支柱の役目を果たして崩壊を防ぐものと推定される。先ほども述べたように、ピラー元素の全量またはそれに近い量が脱ドープされても、結晶構造が強固であれば特に問題はない。また、目的によっては、かかるピラー元素Pの脱ドープ量を、前述の2例の如く、充放電装置40aを用いて流す充電電流量で制御してもよい。充電電流の容量、あるいは所定容量の充電電流を流す時間等で、ピラー元素Pの脱ドープ量の制御ができる。
【0047】
このようにしてピラー元素Pを正極20から脱ドープした後に、リチウムイオンをプレドープする。プレドープに際しては、図4(b)の結線状態を維持したまま、充放電装置40aを、放電モードに切り換える。かかる操作により、図4(c)に示すように、リチウム極10から、正極20にリチウムイオンのプレドープが行われる。すなわち、脱ドープされたピラー元素Pに替わって、リチウムイオンがその空位にプレドープされる。ピラー元素Pは、図4(b)に示す脱ドープに際して、リチウム極10、負極30の表面に形成された固体電解質界面相(SEI)の被膜内に取り込まれる。そのため、例えば、リチウムイオン二次電池等の蓄電体の使用に際して繰り返されるリチウムイオンのドープ、脱ドープと、競合することはない。リチウムイオンのみが選択的に、ドープ、脱ドープされる。ピラー元素Pは、上記ドープ、脱ドープには、殆ど関与しない。このようにして、正極20の活物質21であるインサーション系物質21a内へ、リチウムイオンのプレドープが完了する。上記においても、プレドープ方法は、電気的短絡が選択可能である。
【0048】
次に、上記電極構成A、Bを有する蓄電体について説明する。上記電極構成Aを有した蓄電体100は、例えば、図5(a)に模式的に示すような構成となる。すなわち、蓄電体100には、リチウム極10、正極20、負極30がセパレータ50を介してそれぞれ設けられている。セパレータ50を介して設けたリチウム極10、正極20、負極30は、電解液に浸されている。リチウム極10は、リチウム供給源11として例えば金属リチウム11aが、所定層厚で集電体12上に設けられている。正極20は、インサーション系物質21aである正極用の活物質21が、集電体22に所定層厚で設けられている。負極30も、負極用の活物質31が、集電体32上に所定層厚に設けられている。
【0049】
また、正極20では、集電体22から引き出されて正極端子23が設けられている。負極30では、集電体32から引き出されて負極端子33が設けられている。蓄電体100の使用に際しては、かかる正極端子23、負極端子33を使用する。このようにして、正極20と負極30を一対有する単一型ユニットとしての蓄電体100が構成されている。かかる蓄電体100は、例えば、ラミネートフィルム等の外装容器であるパッケージに入れられて製品とされる。
【0050】
このように構成される蓄電体100では、製品とする前に、リチウムイオンのプレドープが行われる。すなわち、蓄電体100の組立工程で、プレドープが行われる。かかるプレドープは、図5(b)に示すように、先ず、リチウム極10の集電体12と、正極20の集電体22から引き出された正極端子23とを接続しておく。破線で示すように、例えば結線aで電気的に接続しておく。かかる接続に際しては、図5(b)に示すように、充放電装置40aを介在させておく。
【0051】
かかる外部負荷40としての充放電装置40aを、充電モードにする。充電モードにより、リチウム極10と正極20との間で充電が行われる。かかる充電により、前掲の図2(b)に示すように、正極20の活物質21から、リチウム極10へ一部のピラー元素Pが脱ドープされる。ピラー元素Pの脱ドープ後に、前掲の図2(c)にも示すように、充放電装置40aを放電モードに切り換え、リチウム極10と正極20との間で放電を行う。かかる放電により、リチウムイオンを正極20にプレドープする。この操作は、電気的な短絡に置き換えることも可能である。その際には、充放電装置40aを取り外し、リチウム極10と正極20を短絡させればよい。かかるプレドープが終了したら、破線で示したリチウム極10と正極20との間の結線aを、充放電装置40aと共に除去する。蓄電体100は、図5(a)に示すように、集電体22からは正極端子23が出ている元の状態にされる。
【0052】
かかるリチウムイオンのプレドープは、電解液を入れた状態で行う。そのため、蓄電体100の組立工程で、例えば、蓄電体100の外装容器であるパッケージ内に、図5(a)に示す単一型ユニットの構成を電解液と共に入れる。入れた状態で、最初にピラー元素の脱ドープを行う。それに続いて、リチウムイオンのプレドープを行えばよい。その後、プレドープ終了後、上述の如く、結線aを除去して、パッケージを閉じ製品とすればよい。
【0053】
尚、図5(a)では、リチウム極10の集電体12は、電気的にどこにも接続されていない。これは、図5(a)に示す蓄電体100が、リチウムイオンのプレドープ前の状態、あるいはリチウムイオンのプレドープ終了後の状態を示しているためである。
【0054】
かかる構成の蓄電体100は、例えば、図6に示すように、積層型ユニットの蓄電体110とすることもできる。かかる積層型ユニットの場合には、複数の正極20、負極30がセパレータ50を介して交互に積層されている。かかる積層した正極20、負極30の外側に、図6に示すように、リチウム極10が設けられている。リチウム極10は、正極20に対向して設けられている。リチウム極10と、正極20との間には、セパレータ50が介在されている。複数の各々の正極20は、それぞれの集電体22が電気的に結線bで接続されている。かかる結線bからは、正極端子23が出されている。複数の負極30も結線cで、電気的に接続されている。結線cからは、負極端子33が出されている。かかるリチウム極10、正極20、負極30は、図5(a)に示す説明と同様に構成しておけばよい。また、蓄電体110では、リチウムイオンのプレドープ前後では、図6に示すように、リチウム極10の集電体12は電気的にどこにも接続されていない。
【0055】
リチウムイオンをプレドープするに際しては、上記蓄電体110は、図7に示すように、リチウム極10と正極20とを電気的に接続する。すなわち、正極20の正極端子23と、積層型ユニットの両サイドに設けたリチウム極10とを、破線で示した結線aで電気的に接続する。電気的な接続に際しては、図7に示すように、正極端子23との間に充放電装置40aを介しておく。かかる状態で、外部負荷40である充放電装置40aを充電モードにして、活物質21からピラー元素Pを一部脱ドープする。その後、脱ドープ終了後の正極20の活物質21内に、リチウム極10からリチウムイオンをプレドープする。この操作は前述のように短絡と置き換えることが可能である。かかるプレドープ終了後に、結線aを充放電装置40aと共に蓄電体110から取り外す。かかる蓄電体110のプレドープの要領は、上記説明の単一型ユニットの蓄電体100に対しての場合と同様である。
【0056】
図5(a)に示す蓄電体100では、集電体12、22、32に、孔が設けられていない孔無し集電体を使用した。図6に示す蓄電体110の構成では、集電体12、22、32に、孔開きの集電体を用いている。積層タイプなので、プレドープがより速やかに行えるように配慮した。しかし、単一型ユニットの蓄電体100でも、集電体12、22、32の少なくともいずれかに孔開きの集電体を用いても構わない。また、プレドープ完了までの時間は長くなるが、蓄電体110の集電体12、22、32の少なくともいずれかに孔無しの集電体を用いても勿論構わない。
【0057】
次に、前掲の図3で説明したリチウムイオンのプレドープ方法を採用する蓄電体200について説明する。かかる蓄電体200は、図2(a)に示すと同様の電極構成Aを有している。すなわち、蓄電体200は、図5(a)に示すと同一の構成が採用されている。蓄電体200には、リチウム極10、正極20、負極30がセパレータ50を介してそれぞれ設けられている。セパレータ50を介して設けたリチウム極10、正極20、負極30は、電解液に浸されている。リチウム極10は、リチウム供給源11として例えば金属リチウム11aが、所定層厚で集電体12上に設けられている。正極20は、インサーション系物質21aである正極用の活物質21が、集電体22に所定層厚で設けられている。負極30も、負極用の活物質31が、集電体32上に所定層厚で設けられている。
【0058】
また、正極20では、集電体22から正極端子23が引き出されている。負極30では、集電体32から負極端子33が引き出されている。蓄電体200の使用に際しては、かかる正極端子23、負極端子33を使用すればよい。このようにして、正極20と負極30を一対有する単一型ユニットとして、蓄電体200は構成されている。かかる蓄電体200は、例えば、ラミネートフィルム等の外装容器であるパッケージに入れて製品とされる。
【0059】
かかる構成の蓄電体200では、製品とする前に、蓄電体100と同様に、リチウムイオンのプレドープが行われる。かかるプレドープは、図8(a)に示すように、先ず、負極30の集電体32と、正極20の集電体22とを電気的に接続しておく。正極端子23と負極端子33を接続しておけばよい。例えば、破線で示すように結線dで、接続されている。かかる接続に際しては、図8(a)に示すように、充放電装置40aが介在されている。かかる外部負荷40としての充放電装置40aを、充電モードにする。充電モードにより、正極20と負極30との間で充電が行われる。かかる充電により、前掲の図3(b)に示すように、正極20の活物質21から、負極30へ一部のピラー元素Pが脱ドープされる。脱ドープが完了したら、結線dを外部負荷40と共に除去し、正極20と負極30との電気的接続を解除する。
【0060】
上記結線dの除去後、図8(b)に示すように、リチウム極10と正極20を結線aで電気的に接続する。かかる接続に際しては、外部負荷40としての充放電装置40aを介在させる。かかる充放電装置40aを放電モードにして、リチウム極10と正極20との間で放電を行う。放電により、前掲の図3(c)で説明したように、リチウム極10からリチウムイオンが正極20の活物質21内にプレドープされる。もちろん、この操作は前述のように電気的短絡と置き換えることが可能である。ピラー元素の脱ドープ、リチウムイオンのプレドープは、電解液を入れた状態で行われる。そのため、蓄電体200の組立工程で、例えば、蓄電体200の外装容器であるパッケージ内に、図5(a)に示す単一型ユニットの構成を電解液と共に入れる。入れた状態で、図8(a)に説明する脱ドープ、図8(b)に説明するプレドープを順次行う。プレドープ終了後、結線aを除去して、パッケージを閉じて製品とすればよい。
【0061】
かかる蓄電体200も、積層型ユニットに構成することができる。積層型ユニットに構成された蓄電体210は、図6に示す蓄電体110の構成と同様である。すなわち、複数の正極20、負極30がセパレータ50を介して交互に積層されている。かかる積層した正極20、負極30の外側に、図6に示すように、リチウム極10が設けられている。リチウム極10は、正極20に対向して、間にセパレータ50を介して設けられている。リチウム極10、正極20、負極30は、蓄電体200のように、前掲の図6で説明した蓄電体110の場合と同様に構成されている。重複するため、その説明は省略する。
【0062】
かかる蓄電体210では、リチウムイオンのプレドープを行う。かかるリチウムイオンのプレドープに際しては、図9に示すように、先ず正極端子23と負極端子33とを電気的に接続しておく。すなわち、複数の正極20同士が結線bで接続され、複数の負極30同士も結線cで接続されている。かかる結線bから引き出された正極端子23と、結線cから引き出された負極端子33とを、結線dで電気的に接続する。結線dによる接続では、外部負荷40としての充放電装置40aが介在させられる。かかる状態で、充放電装置40aを充電モードにして、正極20と負極30との間で充電を行う。かかる充電により、正極20の活物質21内のピラー元素Pの一部が、脱ドープされる。脱ドープされたピラー元素Pは、負極30側に移動する。かかる脱ドープが完了したら、充電を終了する。結線dを充放電装置40aと共に取り外し、正極20と負極30との電気的接続を解除する。
【0063】
充電解除後に、リチウムイオンのプレドープを行う。リチウムイオンのプレドープに際しては、図10に示すように、図9で示す結線状態を変更する。すなわち、リチウム極10と、正極20とを、図10に示すように結線aで電気的に接続する。すなわち、結線bで接続された複数の正極20と、積層型ユニットの両サイドに配置したリチウム極10とを、結線aで正極端子23に接続する。結線aで接続するに際しては、正極端子23とリチウム極10の集電体12との間に充放電装置40aを介在させておく。充放電装置40aを放電モードにして、リチウム極10と正極20との間で放電を行う。かかる放電により、リチウム極10から正極21の活物質21内へ、リチウムイオンのドープが行われる。もちろん、この操作は前述のように電気的短絡と置き換えることが可能である。リチウムイオンのドープが終了したら、結線aと充放電装置40aを共に外して、リチウム極10と正極20との電気的接続を解除する。
【0064】
次に、前掲の図4に示したリチウムイオンのプレドープ方法を採用する蓄電体300について説明する。かかる蓄電体300は、図4に示す電極構成Bを有している。蓄電体300は、図11(a)に示すように、リチウム極10、正極20、負極30が設けられている。かかるリチウム極10と、負極30が、当初より、一点鎖線で示す結線eで短絡するように接続されている。かかる電極構成Bのリチウム極10、正極20、負極30は、図11(a)に示すように、セパレータ50を介してそれぞれ設けられている。セパレータ50を介して設けたリチウム極10は、リチウム供給源11として例えば金属リチウム11aが、所定層厚で集電体12上に設けられている。正極20は、インサーション系物質21aである正極用の活物質21が、集電体22に所定層厚で設けられている。負極30も、負極用の活物質31が、集電体32上に所定層厚で設けられている。
【0065】
かかる構成のリチウム極10、正極20、負極30は、電解液に浸されている。一方、上記の如く、リチウム極10、負極30は短絡されているため、電解液に浸された状態では、前掲の図4(a)で説明したように、負極30に対して、リチウム極10からリチウムイオンのドープが行われている。
【0066】
また、正極20では、集電体22から正極端子23が引き出されている。負極30では、集電体32から負極端子33が引き出されている。蓄電体300の使用に際しては、かかる正極端子23、負極端子33が使用される。このようにして、正極20と負極30を一対有する単一型ユニットとして、蓄電体300が構成されている。かかる蓄電体300は、例えば、ラミネートフィルム等の外装容器であるパッケージに入れて製品とされる。
【0067】
かかる構成の蓄電体300では、製品とする前に、蓄電体100、200と同様に、正極20に対して、リチウムイオンのプレドープが行われる。かかるプレドープは、図11(b)に示すように、正極端子23と、負極端子33とを、電気的に充放電装置40aを介して接続する。すなわち、外部負荷40としての充放電装置40aにより、正極端子23と、予めリチウム極10が負極30と結線eで短絡された負極端子33とが、結線fにより接続されている。かかる状態で、充放電装置40aを充電モードにして、正極20と、リチウム極10、負極30との間で充電を行う。かかる充電により、前掲の図4(b)に示すように、正極20の活物質21から、一部のピラー元素Pがリチウム極10、負極30へ脱ドープされる。
【0068】
このようにしてピラー元素の脱ドープが完了したら、リチウムイオンのプレドープを行う。すなわち、図11(b)に示す結線e、fの状態を維持したまま、充放電装置40aを放電モードに切り換える。放電モードへの切り換えにより、今度は、リチウム極10、負極30側から、正極20に対してリチウムイオンのプレドープが行われる。この操作は前述のように電気的短絡と置き換えることが可能である。かかるリチウムイオンのプレドープにより、リチウムイオンが正極20の活物質21内に取り込まれる。かかるリチウムイオンのプレドープ完了後、結線fを充放電装置40aと共に外す。
【0069】
かかるピラー元素の脱ドープ、リチウムイオンのプレドープは、電解液を入れた状態で行われる。そのため、蓄電体300の組立工程で、例えば、蓄電体300の外装容器であるパッケージ内に、図11(a)に示す単一型ユニットの構成を電解液と共に入れる。入れた状態で、図11(b)に説明する脱ドープ、リチウムイオンのプレドープを順次行えばよい。その後、プレドープ終了後、結線fを除去して、パッケージを閉じて製品とすればよい。一点鎖線で示した結線fは、蓄電体300の構成からは外さなくても使用上特段支障はないが、外しておいて構わない。
【0070】
かかる構成の蓄電体300は、積層型ユニットとして構成することもできる。図12には、積層型ユニットに構成した蓄電体310を示した。かかる蓄電体310も、複数の正極20、負極30がセパレータ50を介して交互に積層されている。かかる積層した正極20、負極30の外側に、図12に示すように、リチウム極10が設けられている。リチウム極10は、負極30に対向して、間にセパレータ50を介して設けられている。尚、リチウム極10、正極20、負極30は、前掲の図5(a)で説明した蓄電体100、あるいは蓄電体200の場合と同様に構成しておけばよい。重複するため、その説明は省略する。
【0071】
かかる蓄電体310では、当初よりリチウム極10と負極30とが、一点鎖線で示される結線eで短絡されている。そのため、蓄電体310の電極構成Bが電解液に浸されると、リチウム極10から負極30に、一部リチウムイオンがドープされることとなる。かかる状態で、図13に示すように、正極端子23と負極端子33を電気的に接続する。接続に際しては、外部負荷40としての充放電装置40aを介在させて、結線fで接続すればよい。
【0072】
この状態で充放電装置40aを充電モードにすると、正極20と、リチウム極10、負極30との間で充電が行われる。充電により、正極20の活物質21から、ピラー元素が一部脱ドープされる。かかる脱ドープが終了したら、図13に示す結線状態を維持したまま、充放電装置40aを放電モードに切り換える。放電モードにより、リチウム極10及び負極30から、リチウムイオンのプレドープが、正極20に対して行われる。かかるプレドープにより、リチウムイオンは活物質21の結晶構造内に挿入されることとなる。リチウムイオンのプレドープが終了したら、結線fと充放電装置40aを外して、正極20と、リチウム極10及び負極30との電気的接続を解除する。
【0073】
以上説明した蓄電体100、110、200、210、300、310では、適用できる部材について、前記記載と一部重複するが、次に示すようになる。すなわち、リチウム極10としては、金属リチウムを使用することができる。金属リチウム以外にも、リチウムイオンの供給源となるものであれば使用できる。例えば、リチウム合金の使用が考えられる。例えば、Li−Al合金等を挙げることができる。かかるリチウム供給源は、リチウムイオンのプレドープ量に応じて、その層厚、面積等を調整して、所定の集電体に設けておけばよい。
【0074】
本発明では、正極20の活物質21としてインサーション系物質21aが適用される。インサーション系物質としては、例えば、2次元方向にリチウムイオンの拡散チャンネルを有する層状結晶構造を有する物質が適用できる。あるいは、一次元、三次元のリチウムイオンの拡散チャンネルを有する結晶構造の物質も適用できる。
【0075】
層状結晶構造を有する物質としては、例えば、バナジウム系化合物が挙げられる。例えば、バナジウム酸化物が適用できる。かかるバナジウム酸化物は、例えば、VyOxなる化学式で、x、yは、0を含まない実数として示すことができる。かかる化学式で、例えば、yは1〜9までのいずれかの実数である。xは、0.2〜9.0までのいずれかの実数である。図14には、これらの内、文献等に見られるバナジウム酸化物の一部を示した。また、y=1とした場合、x=0.11〜2.5までのバナジウム酸化物が知られている。
【0076】
バナジウム酸化物以外には、例えば、LiMO(M=Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、W)、LiMnで表記される酸化物やLiFePOやLiCoSiOなどに代表されるポリアニオン型材料がある。
【0077】
正極21の活物質21aの上記結晶構造内に予めドープするピラー元素Pとしては、より実用的なものとしては、例えは、ナトリウム、セシウム等がある。しかし、かかるピラー元素に適用できる元素としては、前述の如く、図1の周期律表に示す太線の枠内の元素も可能と思われる。
【0078】
負極30に使用する活物質31としては、通常使用される活物質を使用すればよいが、例えば、非水系リチウムイオン二次電池では、リチウム電位近傍でリチウムをインサーション可能である物質として、錫や珪素などの金属とリチウムの合金、錫酸化物、珪素酸化物、リチウムインターカレーション炭素材料等を挙げることができる。リチウムインターカレーション炭素材料としては、例えば、黒鉛、非黒鉛質炭素材料、ポリアセン系物質等を使用することができる。非黒鉛質炭素材料としては、例えば、難黒鉛化炭素材料等が挙げられる。ポリアセン系物質としては、例えば、ポリアセン系骨格を有する不溶不融性基体であるPAS等が挙げられる。かかる負極活物質は、いずれもリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質である。
【0079】
上記正極、負極等の電極製造に際しては、一般的には、一旦活物質のスラリー等が形成される。かかるスラリーを、ダイコーター等を用いて、所定層厚で集電体上に塗布し、乾燥することで電極が製造される。かかる活物質のスラリーを形成する際には、必要に応じて、バインダー(結着剤)や導電性助材等が使用される。
【0080】
上記バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等が使用できる。かかるバインダを、好ましくは以下に説明する導電性粒子と共に混合してスラリーを形成する。かかるスラリーを、下記に説明する集電体である導電性基体上に所定層厚で塗布すれば電極の形成が行える。
【0081】
上記導電性助材としては、例えば、次のような導電性粒子が使用できる。すなわち、ケッチェンブラック等の導電性カーボン、銅、鉄、銀、ニッケル、パラジウム、金、白金、インジウム、タングステン等の金属、酸化インジウム、酸化スズ等の導電性金属酸化物等が挙げられる。かかる導電性粒子は、例えば、前記活物質の重量の1〜30%の割合で含まれていればよい。
【0082】
また、集電体には、例えば、少なくとも正極、負極の活物質と接する表面において導電性を示す導電性基体が使用される。かかる基体としては、金属、導電性金属酸化物、導電性カーボン等の導電性材料が使用できる。特に、銅、金、アルミニウム、あるいはそれらの合金または導電性カーボンで形成すればよい。また、基体を非導電性材料で形成した場合には、その基体を導電性材料で被覆すれば使用することができる。また、孔開きの集電体を構成するには、例えば、開口率が10%以上、30%以下の範囲で、多孔性に孔を設けておけばよい。因みに、開口率とは、集電体の開口面の総面積の集電体金属部の面積に対する割合である。
【0083】
また、電解液には、例えば、次のような非水系溶媒が使用できる。すなわち、非水系溶媒としては、鎖状カーボネート、環状カーボネート、環状エステル、ニトリル化合物、酸無水物、アミド化合物、ホスフェート化合物、アミン化合物等が挙げられる。さらに、非水系溶媒の具体例を挙げると、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、あるいはプロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合物、スルホランとテトラヒドロフランとの混合物等で適用できる。
【0084】
かかる電解液に溶かす電解質としては、例えば、次のようなものが使用できる。すなわち、電解質としては、CFSOLi、CSOLi、(CFSONLi、(CFSOCLi、LiBF、LiPF、LiClO等のリチウム塩を使用することができる。かかる電解質を溶解する溶媒は非水系溶媒である。さらには、正極と負極との問に介挿される電解質層としては、上記電解質の非水溶液を含むポリマーゲル(ポリマーゲル電解質)であってもよい。
【実施例】
【0085】
上記実施の形態の説明の効果を確認すべく、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸リチウムを例に挙げて実験を行った。すなわち、ピラー元素としてナトリウムを含む場合と、ピラー元素を含まないバナジン酸リチウムとを比較検証した。
【0086】
[正極の作製]本実施例では、固相法により、ピラー元素を含有するインサーション系物質を製造した。前記インサーション系物質には、MV、MV(M=NaLi 1≦x+y≦1.5、x≧0、y≧0の範囲の組成を取ることができる。)を選んだ。また、ピラー元素Mとしては、ナトリウム元素を選んだ。比較として、ピラー元素を含まないバナジン酸リチウムを選んだ。
【0087】
NaVの合成は次の通り実施した。メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)100gと水酸化ナトリウム(NaOH)17.1gとを混合し予め粉砕混合した。次いでそれをアルミナ鉢に入れて10%Hと90%Arの混合アルゴン流通下400℃で6時間反応させた。得られた粗結晶を再び粉砕して目的とする材料を合成した。XRD及びICPによる元素組成分析の結果、NaV相を確認した。ピラー元素量は、インサーション系物質V1モルに対して1モルということになる。
【0088】
NaVの合成は次の通り実施した。メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)100gと水酸化ナトリウム(NaOH)11.4gとを混合し予め粉砕混合した。次いでそれをアルミナ鉢に入れてエアー流通下400℃で6時間反応させた。得られた粗結晶を再び粉砕して目的とする材料を合成した。XRD及びICPによる元素組成分析の結果、NaV相を確認した。ピラー元素量は、インサーション系物質V1モルに対して1モルということになる。
【0089】
Na1.5の合成は次の通り実施した。メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)100gと水酸化ナトリウム(NaOH)25.7gとを混合し予め粉砕混合した。次いでそれをアルミナ鉢に入れて10%Hと90%Arの混合アルゴン流通下400℃で6時間反応させた。得られた粗結晶を再び粉砕して目的とする材料を合成した。XRD及びICPによる元素組成分析の結果、NaV相を確認した。ピラー元素量は、インサーション系物質V1モルに対して1.5モルということになる。
【0090】
Na1.5の合成は次の通り実施した。メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)100gと水酸化ナトリウム(NaOH)17.1gとを混合し予め粉砕混合した。次いでそれをアルミナ鉢に入れてエアー流通下400℃で6時間反応させた。得られた粗結晶を再び粉砕して目的とする材料を合成した。XRD及びICPによる元素組成分析の結果、NaV相を確認した。ピラー元素量は、インサーション系物質V1モルに対して1.5モルということになる。
【0091】
Na0.2Li0.8の合成は次の通り実施した。メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)100gとLiOH3.6g、NaOH17.1gとを混合し予め粉砕混合した。次いでそれをアルミナ鉢に入れて10%Hと90%Arの混合アルゴン流通下400℃で6時間反応させた。得られた粗結晶を再び粉砕して目的とする材料を合成した。XRD及びICPによる元素組成分析の結果、Na0.2Li0.8相を確認した。ピラー元素量は、インサーション系物質V1モルに対して0.2モルということになる。
【0092】
Na0.2Li0.8の合成は次の通り実施した。メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)100gとLiOH2.4g、NaOH9.1gとを混合し予め粉砕混合した。次いでそれをアルミナ鉢に入れてエアー流通下400℃で6時間反応させた。得られた粗結晶を再び粉砕して目的とする材料を合成した。XRD及びICPによる元素組成分析の結果、Na0.2Li0.8相を確認した。ピラー元素量は、インサーション系物質V1モルに対して0.2モルということになる。
【0093】
LiVの合成は次の通り実施した。メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)100gと水酸化リチウム(LiOH)17.9gとを混合し予め粉砕混合した。次いでそれをアルミナ鉢に入れて10%Hと90%Arの混合アルゴン流通下400℃で6時間反応させた。得られた粗結晶を再び粉砕して目的とする材料を合成した。XRD及びICPによる元素組成分析の結果、LiV相を確認した。ピラー元素量は、インサーション系物質V1モルに対して0モルということになる。
【0094】
LiVの合成は次の通り実施した。メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)100gと水酸化リチウム(LiOH)12.0gとを混合し予め粉砕混合した。次いでそれをアルミナ鉢に入れてエアー流通下400℃で6時間反応させた。得られた粗結晶を再び粉砕して目的とする材料を合成した。XRD及びICPによる元素組成分析の結果、LiV相を確認した。ピラー元素量は、インサーション系物質V1モルに対して0モルということになる。
【0095】
このようにして得られたバナジン酸ナトリウム、バナジン酸塩リチウムを活物質として用いて、正極を作成した。正極活物質としてのNaVを90重量%を、導電性カーボンブラック5重量%、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)5重量%と混合した。溶媒には、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)を用いてスラリーを形成した。かかるスラリーを、片面当たりの合材密度2g/cmとなるように、貫通孔を有する銅製集電体両面にドクターブレード法によって塗布、プレス成型した。かかる乾燥体を、24×36mm四方に裁断して正極とした。
【0096】
同様に、NaV、Na1.5、Na1.5、Na0.2Li0.8、Na0.2Li0.8、LiV、LiVを活物質として、活物質が異なる以外は、NaVと同様にして電極を製造した。かかる製造した活物質をNMPを溶媒にしてスラリーを形成した。かかるスラリーを、乾燥により正極を比較例も含めて作成し、合材密度が2g/cmとなるようプレス成型した。
【0097】
[負極の作製]負極の活物質としては、黒鉛を使用した。かかる活物質の黒鉛と、バインダとしてPVdFを、90:10の割合で混合した。NMPで希釈して、スラリーを調製した。かかるスラリーを、貫通孔を有する銅製集電体両面に塗布し、合材密度が1.5g/cmとなるようプレス成型した。かかる構成の集電体を、26×38mm四方に裁断して負極とした。
【0098】
[電池(蓄電体)の作成]上記のように作製した正極、負極を用いて、実施の形態の説明にそって、電極構成A、Bを有する蓄電体を作成した。電極構成Aの場合には、前記実施の形態で説明した二つの異なるリチウムのプレドープ方法に基づき2種形成した。セパレータとしてポリエチレン系微多孔膜を使用した。そして、さらにセパレータを介して、ステンレス多孔箔に金属リチウムを貼り付けたリチウム極を正極に対向して配置した。このようにして、正極、負極、リチウム極およびセパレータからなる三極積層ユニットを作製した。この三極積層ユニットを、溶媒としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:3で混合し、テトラフルオロほう酸リチウムを1mol/Lとなるように溶解して電解液を作成した。電極構成Bの場合も、当初からリチウム極と負極とを短絡させておく以外は、上記電極構成Aの場合と同様にして蓄電体を構成した。
【0099】
かかる構成の蓄電体で、上記2種の電極構成Aを有する一方の場合には、0.1C、4.1Vの定電流―定電圧(CC−CV)充電方式で、含有させたピラー元素を脱ドープさせた。また、他の一方の場合の電極構成Aでも、0.1C、4.1Vの定電流―定電圧(CC−CV)充電方式で、含有させたピラー元素を脱ドープさせた。かかる構成の蓄電体に、放電させることでリチウムイオンのプレドープを行った。電極構成Bについても、0.1C、4.1Vの定電流―定電圧(CC−CV)充電方式で、ピラー元素の脱ドープを行った。さらに、その後、リチウムイオンのプレドープを行った。
【0100】
[容量維持率の測定]上記の如く作成した電極構成Aを有する2種、電極構成Bを有する1種の蓄電体では、充電は0.1C、4.1Vの定電流―定電圧(CC−CV)充電方式で30時間カットし、放電は0.05Cで1.35Vカットの定電流(CC)放電方式とし、容量維持率を測定した。
【0101】
[高率放電性能の測定]上記作成した電極構成Aを有する2種、電極構成Bを有する1種の蓄電体で、充電は0.1C、4.1Vの定電流―定電圧(CC−CV)充電方式で30時間カットとし、放電は、4.0Cで1.35Vカットの定電流(CC)放電方式とし、高率放電性能を測定した。
【0102】
上記のように構成した電池構成の蓄電体に対して、前記実施の形態で説明した3種のリチウムイオンのプレドープ方法を行った。このようにして3種のプレドープ方法で製作されたそれぞれ3種の蓄電体に対して、容量維持率、高率放電性能をそれぞれ測定した。本実施例で得られた数値結果を、図15(a)で表形式にして示した。図15(b)では、その数値結果を分かりやすいように視覚化して示した。
【0103】
尚、図15(a)、(b)からも分かるように、電極構成A、Bに基づく前記実施の形態で示した3種のプレドープ方法による結果は、同一であった。
【0104】
図15(b)から明らかなようにNaV、NaV、Na1.5、Na1.5、Na0.2Li0.8、Na0.2Li0.8を活物質として使用したリチウムイオンのプレドープの場合の方が、比較例として示したLiV、LiVを用いてプレドープを行った場合よりも、容量維持率、高率放電性能が共に良好であった。
【0105】
容量維持率では、本発明に係わるNaV、Na1.5を用いた電池の方が、従来例としてのLiVよりも、約1.4倍も向上していることが確認された。併せて、高率放電性能も約1.3倍も向上していた。Na0.2Li0.8の場合にも、従来例としてのLiVと比較して、容量維持率が約1.3倍、高率放電性能が約1.2倍向上することが確認された。
【0106】
一方、本発明に係わるNaV、Na1.5についても、従来例のLiVに比して、容量維持率で約1.3倍、高率放電性能で約1.4倍も向上していることが確認された。Na0.2Li0.8についても、従来例のLiVに比して、容量維持率で約1.2倍、高率放電性能で約1.3倍も向上していることが確認された。
【0107】
また、Na0.2Li0.8、Na0.2Li0.8の場合に明らかに示されるように、活物質1モル当りピラー元素としてのナトリウムが0.2モル含まれていれば、少なくとも容量維持率を約1.3〜1.2倍も向上させることができる。併せて、かかる場合には、さらに高率放電性能も、約1.2倍〜1.3倍も向上させ得ることが確認された。
【0108】
以上の結果から、本願発明の如く、電極の活物質に当初からピラー元素を含ませておき、そのピラー元素を脱ドープして、その後にピラー元素の代りにリチウムをプレドープする構成が、蓄電体の容量維持率、高率放電性能の両者の向上に有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、リチウムイオンのプレドープを行うリチウムイオン二次電池等の蓄電体の分野で有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明におけるピラー元素としての使用可能性の範囲を周期律表で示した説明図である。
【図2】(a)、(b)、(c)は、本発明に係わる電極構成の一例のみを模式的に示した説明図である。
【図3】(a)、(b)、(c)は、本発明に係わる電極構成の一例のみを模式的に示した説明図である。
【図4】(a)、(b)、(c)は、本発明に係わる電極構成の一例のみを模式的に示した説明図である。
【図5】(a)、(b)は、図2に対応した電極構成を有する本発明に係わる蓄電体の一例を模式的に示した説明図である。
【図6】図2に対応した電極構成を有する本発明に係わる蓄電体の一例を模式的に示した説明図である。
【図7】図2に対応した電極構成を有する本発明に係わる蓄電体の一例を模式的に示した説明図である。
【図8】(a)、(b)は、図3に対応した電極構成を有する本発明に係わる蓄電体の一例を模式的に示した説明図である。
【図9】図3に対応した電極構成を有する本発明に係わる蓄電体の一例を模式的に示した説明図である。
【図10】図3に対応した電極構成を有する本発明に係わる蓄電体の一例を模式的に示した説明図である。
【図11】(a)、(b)は、図4に対応した電極構成を有する本発明に係わる蓄電体の一例を模式的に示した説明図である。
【図12】図4に対応した電極構成を有する本発明に係わる蓄電体の一例を模式的に示した説明図である。
【図13】図4に対応した電極構成を有する本発明に係わる蓄電体の一例を模式的に示した説明図である。
【図14】インサーション系物質として使用できるバナジン酸化物の一例を表形式で示した説明図である。
【図15】(a)は容量維持率、高率放電性能を表形式で示す説明図であり、(b)は(a)を視覚化した説明図である。
【符号の説明】
【0111】
10 リチウム極
11 リチウム供給源
11a 金属リチウム
12 集電体
20 正極
21 活物質
21a インサーション系物質
22 集電体
23 正極端子
30 負極
31 活物質
32 集電体
33 負極端子
40 外部負荷
40a 充放電装置
50 セパレータ
100 蓄電体
110 蓄電体
200 蓄電体
210 蓄電体
300 蓄電体
310 蓄電体
A 電極構成
a 結線
B 電極構成
b 結線
c 結線
d 結線
e 結線
f 結線
P ピラー元素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正負極間を通電させ使用する前に電極に用いる活物質へリチウムイオンを予めドープするプレドープ方法であって、
前記活物質の結晶構造内に保持された前記リチウムイオンよりイオン半径が大きく前記リチウムイオンとイオン交換される電気的に脱ドープ可能な元素を、充電により前記活物質から脱ドープし、
前記脱ドープで空位になった前記活物質の結晶構造内に、前記リチウムイオンを電気的にドープすることを特徴とするリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオンのプレドープ方法において、
前記リチウムイオンのドープは放電により行われることを特徴とするリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項3】
請求項1に記載のリチウムイオンのプレドープ方法において、
前記リチウムイオンのドープは短絡により行われることを特徴とするリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオンのプレドープ方法において、
前記元素は最初の前記脱ドープが行われる前は、前記活物質1モルに対して、0.2モル以上、1.5モル以下含まれていることを特徴とするリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウムイオンのプレドープ方法において、
前記元素は最初の前記脱ドープが行われる前は、前記活物質1モルに対して0.5モル以上含まれていることを特徴とするリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオンのプレドープ方法において、
前記充電は、前記元素を含有する活物質を用いた正極と、リチウム極との間で行われ、
前記リチウムイオンのドープは、前記元素が脱ドープされた後の前記正極と、前記リチウム極との間で行われることを特徴とするリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオンのプレドープ方法において、
前記充電は、前記元素を含有する活物質を用いた正極と、負極との間で行われ、
前記リチウムイオンのドープは、前記元素が脱ドープされた後の前記正極と、リチウム極との間で行われることを特徴とするリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項記載のリチウムイオンのプレドープ方法において、
前記充電は、リチウム極と電気的に短絡した負極と、前記元素を含有する活物質を用いた正極との間で行われ、
前記リチウムイオンのドープは、前記負極と電気的に短絡したリチウム極と、前記元素の脱ドープされた後の前記正極との間で行われることを特徴とするリチウムイオンのプレドープ方法。
【請求項9】
正負極間を通電させ使用するに予めリチウムイオンをプレドープする活物質を有する電極であって、
請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオンのプレドープ方法によって、前記リチウムイオンがドープされることを特徴とする電極。
【請求項10】
正負極間を通電させ使用する前に活物質に予めリチウムイオンをプレドープする前記電極を有する蓄電体であって、
請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオンのプレドープ方法により、前記電極には前記リチウムイオンがドープされることを特徴とする蓄電体。
【請求項11】
請求項10記載の蓄電体において、
負極に形成される固体電解質界面相には、正極で使用する前記活物質の結晶構造内にリチウムイオンよりイオン半径が大きく前記リチウムイオンとイオン交換される電気的に脱ドープ可能な元素が、正極から脱ドープされた量以下含まれていることを特徴とする蓄電体。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−97707(P2010−97707A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265160(P2008−265160)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】