説明

リチウムイオンの輸送方法、リチウムイオン性液晶化合物、その製造方法

【課題】リチウムイオン二次電池の電解質として用いたときに、充電時間の短縮が期待できるリチウムイオンの輸送方法を提供する。
【解決手段】液晶相としてスメクチック相を有するリチウムイオン性液晶性化合物を用い、該リチウムイオン性液晶化合物のスメクチック相の液晶状態、該リチウムイオン性液晶化合物のスメクチック相からの相転移で生じる固体状態、又は該リチウムイオン性液晶化合物のリオトロピック液晶状態でリチウムイオンの輸送を行わせることを特徴とするリチウムイオンの輸送方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンの輸送方法、更にはリチウムイオン二次電池の電解質として有用なリチウムイオン性液晶化合物、その製造方法、液晶材料、リチウムイオン輸送材料及びリチウムイオン輸送層に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、利便性の向上のため、充電時間の短縮が求められている。近年、イオン伝導性の高い有機材料が注目され、イオン伝導性の高い有機材料は、次世代のリチウムイオン二次電池用電解質として、特に注目されている。
【0003】
従来のリチウムイオン伝導性のある有機材料のリチウムイオンの輸送機構は、不規則に並んだ分子間で行われるため、リチウムイオン輸送効率に問題があり、充電時間の短縮が要望される中で、更にリチウムイオンの輸送能に優れたものが要望されている。
【0004】
本発明者らは、液晶相としてスメクチック相を有する液晶化合物の液晶状態の分子配向を利用することで、プロトン輸送能、電荷輸送能及び導電性が向上することを見出し、これらの用途に適用可能な液晶化合物を提案している(例えば、特許文献1〜4等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−338585号公報
【特許文献2】特開2003−55337号公報
【特許文献3】特開2003−144196号公報
【特許文献4】特開2001−351786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、更に、液晶状態の分子配向を利用した材料の開発を進めるうちに、リチウムイオン二次電池の電解質として用いたときに、充電時間の短縮が期待できるリチウムイオンの輸送方法及び材料を見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
従って、本発明の目的は、リチウムイオン二次電池の電解質として用いたときに、充電時間の短縮が期待できるリチウムイオンの輸送方法を提供することにある。また、本発明は新規なリチウムイオン性液晶化合物、その製造方法、該リチウムイオン性液晶化合物を含有する液晶材料、リチウムイオン輸送材料及びリチウムイオン輸送層を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明が提供しようとする第1の発明は、液晶相としてスメクチック相を有するリチウムイオン性液晶性化合物を用い、該リチウムイオン性液晶化合物のスメクチック相の液晶状態、又は該リチウムイオン性液晶化合物のスメクチック相からの相転移で生じる固体状態、又は該リチウムイオン性液晶化合物のリオトロピック液晶状態でリチウムイオンの輸送を行わせることを特徴とするリチウムイオンの輸送方法である。
【0009】
また、本発明が提供しようとする第2の発明は、下記一般式(1)
【化1】

{式中、Rは、アルキル基、アルコキシ基、又はCH=C(R)−(CHn1−O−、CH=C(R)−CO−O−(CHn1−O−(式中、Rはメチル基又は水素原子を示す。n1は1〜20の整数を示す。)から選ばれる不飽和結合を有する基を示す。Bは−O−(CHn2−又は−(CHn2−(式中、n2は1〜20の整数を示す。)から選ばれる基を示す。Rはカルボン酸基、スルホン酸基及びホスホン酸基からプロトンを除いた酸残基を示す。式中、Aは下記一般式(1a)〜(1d)
【化2】

(式中、tは1又は2の整数を示す。)から選ばれる基を示す。式中、mはアニオンの価数又は数により定まる整数を示す。}で表されることを特徴とするリチウムイオン性液晶化合物である。
【0010】
また、本発明が提供しようとする第3の発明は、下記一般式(2)
【化3】

(式中、R、A及びBは前記と同義。R2’は、カルボン酸基、スルホン酸基及びホスホン酸基から選ばれる基を示す。)で表される有機酸化合物を溶解した水溶性有機溶媒に、水酸化リチウム水溶液を添加して反応を行うことを特徴とする前記第2の発明のリチウムイオン性液晶化合物の製造方法である。
【0011】
また、本発明が提供しようとする第4の発明は、前記第2の発明のリチウムイオン性液晶化合物を含有することを特徴とする液晶材料である。
【0012】
また、本発明が提供しようとする第5の発明は、前記第2の発明の前記一般式(1)の式中のRが不飽和結合を有する基であるリチウムイオン性液晶化合物を用いて得られた高分子液晶化合物を含有することを特徴とする液晶材料である。
【0013】
また、本発明が提供しようとする第6の発明は、前記第4又は第5の発明の液晶材料を用いたことを特徴とするリチウムイオン輸送材料である。
【0014】
また、本発明が提供しようとする第7の発明は、リチウムイオン性液晶化合物を1種又は2種以上含有することを特徴とするリチウムイオン輸送層である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウムイオンの輸送方法は、液晶相としてスメクチック相を有しているリチウムイオン性液晶化合物を用いているので、スメクチック相の液晶状態、又はスメクチック相からの降温過程の相転移で生じる固体状態でリチウムイオンの輸送部位を密な状態に重ねることができ、この分子配向を維持したままの状態で電圧を印加することにより、効率的にリチウムイオンの輸送を行うことができる。
【0016】
また、リチウムイオン性液晶化合物の溶媒中の濃度を調整し、前記リチウムイオン性液晶化合物をラメラ相配向に配向させたリオトロピック液晶状態で電圧を印加することにより、効率的にリチウムイオンの輸送を行うことができる。
【0017】
従って、本発明のリチウムイオン性液晶化合物を含有するリチウムイオン輸送材料は、従来より効率的にリチウムイオンの輸送を行うことができるので、リチウムイオン二次電池の電解質として用いたときに、充電時間の短縮が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のリチウムイオン性液晶化合物をリチウムイオン二次電池の電解質として用いたときのリチウムイオンの輸送能の機構を示す概略図。
【図2】実施例3で得られたリチウムイオン性液晶化合物の温度毎の偏光顕微鏡写真(200℃、240℃、280℃及び50℃(冷却))。
【図3】実施例1で得られたリチウムイオン性液晶化合物に10Vの電圧を印加し、除々に加温したときの温度と電流量の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のリチウムイオンの輸送方法は、液晶相としてスメクチック相を有するリチウムイオン性液晶性化合物を用い、該リチウムイオン性液晶化合物のスメクチック相の液晶状態、該リチウムイオン性液晶化合物のスメクチック相からの相転移で生じる固体状態、又は該リチウムイオン性液晶化合物のリオトロピック液晶状態で電圧を印加することによりリチウムイオンの輸送を行うものである。
【0020】
本発明のリチウムイオンの輸送方法に用いられる液晶化合物は、液晶相としてスメクチック相を有し、 1つの分子内に、陽イオン基と、その陽イオン基の対陰イオンを有し、陽イオン基がリチウムイオン基であるリチウムイオン性液晶化合物であり、該リチウムイオン性液晶化合物は高分子液晶化合物であってもよい。
【0021】
また、本発明のリチウムイオンの輸送方法で用いるリチウムイオン性液晶化合物は、下記一般式(1)で表わされるものが好ましい。
【化4】

【0022】
式中のRは、アルキル基、アルコキシ基、下記一般式(3)又は(4)で表わされる不飽和結合を有する基を示す。
【化5】

【0023】
に係る前記アルキル基は、炭素数1〜20、好ましくは炭素数5〜20の直鎖状のアルキル基である。Rに係る前記アルコキシ基は、炭素数が1〜20、好ましくは5〜20のアルコキシ基が好ましい。
に係る前記一般式(3)又は(4)の式中のRは水素原子又はメチル基を示し、式中のn1は炭素数1〜20、好ましくは3〜10である。
【0024】
前記一般式(1)の式中のBは、一般式;−O−(CHn2−又は−(CHn2−で表わされる基を示し、式中のn2は1〜20の整数、好ましくは2〜10の整数である。本発明において、式中のBは−O−(CHn2−が特に好ましい。
【0025】
前記一般式(1)の式中のRはカルボン酸基、スルホン酸基及びホスホン酸基からプロトンを除いた酸残基を示す。
【0026】
前記一般式(1)の式中のAは、下記一般式(1a)〜(1d)から選ばれる基を示す。
【化6】

(式中、tは1又は2の整数を示す。)。
【0027】
前記一般式(1)の式中のmは、アニオンの価数又は/及び数により定まる整数を示す。
【0028】
本発明のリチウムイオンの輸送方法において、特に好ましいリチウムイオン性液晶化合物は、下記一般式(1A−1)、(1A)又は下記(1B)で表わされる化合物である。
【化7】

(式中、R、B及びtは前記と同義。)。なお、上記一般式(1A−1)、(1A−2)又は下記(1B)の式中のR及びBの好ましい基は前述したとおりである。
【0029】
本発明に係るリチウムイオン性液晶化合物は、例えば、下記一般式(2)
【化8】

(式中、R、A及びBは前記と同義。R2’は、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基及びホスホン酸基から選ばれる基を示す。)で表される有機酸化合物を溶解した水溶性有機溶媒(A液)に、水酸化リチウム水溶液を添加して反応を行うことにより、工業的に有利に製造することができる。
【0030】
A液は、前記一般式(2)で表わされる有機酸化合物を水溶性有機溶媒に溶解した溶液である。
【0031】
前記一般式(2)の式中のR、A及びBは前記一般式(1)の式中のR、A及びBにそれぞれ相当する基である。また、式中のR2’は、カルボン酸基(−COOH)、スルホン酸基(−SOH)及びホスホン酸基(−PO)から選ばれる基を示す。
【0032】
原料の前記一般式(2)で表わされる有機酸化合物は、例えば、式中のRが前記一般式(3)の不飽和結合を有する基であり、式中のBが−O−(CHn2−、R’がカルボン酸基、スルホン酸基又はホスホン酸基で表わされ有機酸化合物(2A)は、下記反応スキーム(1)に従って、
1)化合物(5)と化合物(6)とを塩基及び所望により重合禁止剤の存在下に溶媒中で反応させて、化合物(7)を得た後、化合物(7)と化合物(8)とを塩基及び所望により重合禁止剤の存在下に溶媒中で反応させる方法(特開2003−55337号公報、特開2002−338585号公報等参照)。
2)又は、化合物(7)と化合物(8’)とを塩基及び所望により重合禁止剤の存在下に溶媒中で反応さて化合物(2A’)を得た後、塩酸等の酸と反応させることにより容易に製造することができる(特開2003−55337号公報、特開2002−338585号公報等参照)。
【0033】
【化9】

{式中、R、R’A及びn2は前記と同義。R''は−SO、−COO、−PO2−を示す。Mはアルカリ金属原子を示す。なお、MはR''が−SO、−COOのときはMは1原子(−R''M)であり、R''が−PO2−のときはMは2原子(−R''2M)である。Zは−(CHn1−又は−CO−O−(CHn1−(n1は1〜20の整数)を示す。Xはハロゲン原子を示す。}
【0034】
また、原料の前記一般式(2)で表わされる有機酸化合物の中、例えば、Aが前記一般式(1b)の式中のtが1で、Bが−O−(CHn2−、R’がカルボン酸基、スルホン酸基又はホスホン酸基で表わされ有機酸化合物(2B)は、下記反応スキーム(2)に従って製造することができる。
【0035】
【化10】

{式中、R、R、n2は前記と同義。R''は−SO、−COO、−PO2−を示す。Mはアルカリ金属原子を示す。なお、MはR''が−SO、−COOのときはMは1原子(−R''M)であり、R''が−PO2−のときはMは2原子(−R''2M)である。Xはハロゲン原子を示す。}
【0036】
反応スキーム(2)に係る反応は、化合物(A)に対して1.5〜2.5倍モルのLiAlHをジエチルエーテル等の溶媒中で30〜50℃程度で還流下に反応させて、化合物(B)を得、次に化合物(B)に対して等モルの三臭化リンをピリジン等の存在下にベンゼン等の溶媒中で反応させて化合物(C)を得る。
次に得られた化合物(C)に対して亜リン酸トリエチルを1〜2倍モルで約100〜150℃で反応させて化合物(9A)を得、化合物(9A)に対して化合物(9B)とを1〜2倍モルで、カリウムt−ブトキシド等の塩基の存在下にTHF等の溶媒中で10〜40℃で反応させて化合物(9C)を得た後、化合物(9C)1gに対して塩酸の濃度が1〜2モル/Lのジオキサン等の溶媒中で40〜80℃で反応を行って化合物(9D)を得る。
化合物(9D)はシス体とトランス体との混合物である場合は、必要によりこの混合物をトルエン中で環流させながらヨウ素を作用させることによりトランス体を得ることができる。この場合、ヨウ素の添加量は化合物(9D)に対して好ましくは0.001〜0.1倍モル、更に好ましくは0.005〜0.01倍モルであり、加熱処理温度は100〜180℃、好ましくは130〜150℃である。
次に化合物(9D)に対して化合物(8’)を1〜4倍モルで1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデンセン(DBU)等の塩基の存在下にDMF等の溶媒中で40〜80℃で反応させて化合物(9E)を得た後、化合物(9E)に対して塩酸等の酸をTHF等の溶媒中で反応させることにより、有機酸化合物(2B)を得ることができる。
【0037】
前記一般式(2)で表わされる有機酸化合物を溶解する水溶性有機溶媒としては、用いる有機酸化合物の種類等により異なるが、多くの場合は、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トリオキサン、テトラヒドロピラン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の1種又は2種以上で用いることができる。
【0038】
A液中の前記一般式(2)で表わされる有機酸化合物の濃度は、該有機酸化合物が溶解できる濃度範囲であれば特に制限されるものではなく、また、用いる有機酸化合物と水溶性有機溶媒の種類にもよるが、多くの場合、0.001〜1モル/L、好ましくは、0.05〜0.5モル/Lである。
【0039】
前記水酸化リチウムは、水酸化リチウムを水に溶解した水溶液である。水酸化リチウム水溶液中の水酸化リチウムの濃度は、水酸化リチウムが溶解できる濃度範囲であれば特に制限はないが、多くの場合、0.1〜0.5モル/L、好ましくは0.2〜0.4モル/Lである。
【0040】
水酸化リチウム水溶液の添加量は、前記一般式(2)の式中のR2’がカルボン酸基又はスルホン酸基の場合は、A液中の有機酸化合物に対する水酸化リチウム水溶液中の水酸化リチウム(LiOH)のモル比で1〜1.2、好ましくは1〜1.1となるように添加することが望ましい。
【0041】
前記一般式(2)の式中のR2’がホスホン酸基を有する場合は、ホスホン酸基はLi原子と反応可能な活性部位を2個有している。このためR2’がホスホン酸基を有する有機酸化合物の場合は、Li原子を1又は2個導入可能である。前記有機酸化合物にLi原子を1個を導入することを意図する場合は、水酸化リチウム水溶液の添加量は、A液中の有機酸化合物に対する水酸化リチウム水溶液中の水酸化リチウム(LiOH)のモル比で1〜1.3、好ましくは1〜1.2となるように添加することが望ましい。前記有機酸化合物にLi原子を2個を導入することを意図する場合は、水酸化リチウム水溶液の添加量は、A液中の有機酸化合物に対する水酸化リチウム水溶液中の水酸化リチウム(LiOH)のモル比で2〜2.4、好ましくは2〜2.2である。
【0042】
水酸化リチウム水溶液の添加速度は特に制限はないが、かかる反応は発熱をともなうので安全性を考慮して反応温度が0〜80℃、好ましくは5〜30℃の範囲となるように適宜添加速度を調整しながら行うことが好ましい。
【0043】
所定量の水酸化リチウム水溶液を添加後、必要により熟成反応を行った後、常法により溶媒を除去し、必要により洗浄等の精製を行って、目的とする前記一般式(1)で表わされるリチウムイオン性液晶化合物を得ることができる。
【0044】
本発明に係る液晶材料は、前記リチウムイオン性液晶化合物を50重量%以上、好ましくは80重量%以上含有し、リチウムイオン性液晶化合物に起因するスメクチック相の液晶状態を示す材料であり、リチウムイオン輸送材料として、リチウムイオン二次電池の電解質の用途への適用が期待できる材料である。
【0045】
該リチウムイオン性液晶化合物は、2種以上で混合して用いることにより、液晶を示す温度範囲を広く調整することができる。
【0046】
また、本発明のリチウムイオン輸送材料に含有させるリチウムイオン性液晶化合物は、末端に不飽和基を有するものは、そのホモ重合体、共重合体、架橋剤により架橋されている高分子量の化合物、或いはヒドロシリル基を有する高分子化合物に付加反応させて得られるもの(以下、「高分子液晶化合物」と呼ぶ。)であってもよい。
【0047】
本発明において、特に好ましい高分子液晶化合物は、下記一般式(H1)又は(H2)で表される繰り返し単位を含有するものが挙げられる。
【化11】

{式中、R、A、B、Rは前記と同義。mはアニオンの価数又は数により定まる整数を示す。式中のLは−(CHn1−又は−CO−O−(CHn1−(式中、n1は1〜20の整数)の基を示す。}。
【0048】
高分子液晶化合物の共重合体成分としては、アクリル酸、メタクリル酸又はスチレン等から誘導される繰り返し単位を有していてもよい。
共重合体の場合、上記一般式(H1)で表される繰り返し単位は、共重合体中50モル%、好ましくは70モル%、さらに好ましくは80モル%である。重合体の分子量は、数平均分子量が1000〜数千万の範囲、好ましくは数万〜数百万の範囲である。重合体は以下の方法で製造することができる。一般式(1)の式中のRが不飽和基を有するリチウムイオン性液晶化合物のホモ重合体、共重合体、或いは架橋剤により架橋されている高分子量の化合物等の高分子液晶化合物を製造するには、所望のモノマー又は所望のモノマーと架橋剤とを重合開始剤の存在下に、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、バルク重合法等のラジカル重合法により重合反応を行なうことにより製造することができる。また、ヒドロシリル基を有する高分子化合物に一般式(1)の式中のRが不飽和基を有するリチウムイオン性液晶化合物を付加反応させた高分子液晶化合物を製造するには、ヒドロシリル基を有する高分子化合物と、一般式(1)の式中のRが不飽和基を有するリチウムイオン性液晶化合物を、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金とオレフィンの錯体、白金とビニルシロキサン錯体等の白金系触媒、ウィルキンソン錯体、ロジウムとカルボニルの錯体等のロジウム系触媒等の存在下に反応を行なうことにより製造することができる。
【0049】
本発明のリチウムイオン輸送材料に含有させる他の成分としては、液晶温度範囲を広げることを目的として、本発明の効果を損なわない範囲の添加量でリチウムイオン性液晶化合物以外の液晶化合物を併用して含有せることができる。
【0050】
リチウムイオン性液晶化合物以外の液晶化合物としては、特に制限されるものではないが、例えば、前記一般式(2)で表される有機酸化合物が挙げられる。
【0051】
本発明のリチウムイオン輸送材料には、更に、他の電解質、有機溶媒等を含有させることができる。
【0052】
本発明のリチウムイオン輸送材料は、液晶相としてスメクチック相を有しているので、図1に示すようにスメクチック相の液晶状態、又はスメクチック相からの降温過程の相転移で生じる固体状態でリチウムイオンの輸送部位を密な状態に重ねることができ、この分子配向を維持したままの状態で、リチウムイオン二次電池の電解質としてそのまま用いることにより、効率的にリチウムイオンの輸送を行うことが期待できる。
【0053】
また、本発明に係るリチウムイオン輸送材料は、溶媒中のリチウムイオン性液晶化合物の濃度を調整し、リオトロピック液晶状態として、このリオトロピック液晶状態でリチウムイオン二次電池の電解質として用いることにより、効率的にリチウムイオンの輸送を行うことが期待できる。
【0054】
これは、リチウムイオン性液晶化合物をリオトロピック液晶状態で分子鎖の配向をラメラ相配向に制御し、このラメラ相配向において、リチウムイオン性液晶化合物のリチウムイオンの輸送部位が電荷の安定化作用で重なってくるので、規則的に該リチウムイオン性液晶化合物が一軸方向に配向し、この液晶状態で電圧を印加することにより、極めて効率よくリチウムイオンの輸送を行うことができる。
【0055】
前記リオトロピック液晶状態で使用する溶媒としては、リチウムイオン二次電池の分野で使われる電解液を用いることができ、該電解液としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン等の高誘電率溶媒;1,2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の低粘度溶媒およびこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0056】
従って、本発明のリチウムイオン輸送材料は、効率的にリチウムイオンの輸送を行うことができるので、リチウムイオン二次電池の電解質として用いたときに、充電時間の短縮が期待できる。
【0057】
また、本発明のリチウムイオン輸送材料の形態は特に制限されないが、例えばリチウム二次電池の電解質として用いる場合は、正極、及びリチウムを吸蔵・放出可能な負極活物質を有する負極の間に、リチウムイオン輸送層として介在させればよい。
【0058】
本発明のリチウムイオン輸送材料は、スメクチック相からの降温過程の相転移で生じる固体状態でリチウムイオン二次電池の電解質として用いる場合は、固体状態の界面に対して、リチウムイオン性液晶化合物を塗布しておくことにより、固体界面でのリチウムイオンの移動をスムーズに行うことができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により、詳細に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
{実施例1}
<化合物(7a)の調製工程>
【化12】

水酸化ナトリウム0.02mol(94%;0.85g)をエタノール50mlに溶解した。この溶液を4,4’−ビフェノール(6a)0.02mol(3.72g)を溶解させたエタノール100mlに少しずつ加え、次にエタノールを減圧除去した。その残渣にDMF150mlを加え、加温しながら溶解した(a液)。
臭化アルキル((5a);R’=n−C1021−)0.02molを50mlのDMFに溶解した(b液)
40℃で攪拌ながら、b液をa液に30分かけて添加し、24時間反応させた。反応終了後、反応液を冷却し、300ml冷希塩酸(蒸留水270ml+HCl25ml+氷)中に注ぎ、200mlのジエチルエーテルで抽出した後、冷蒸留水で洗浄した。エーテル層は無水硫酸ナトリウムで一晩脱水した。次いで硫酸ナトリウムをろ過して除き、更にエーテルを減圧除去した。残渣にヘキサン200mlを加え、加温しながら30分攪拌後、ろ過により得られた沈殿物に、更にヘキサン200mlを加え、ろ過して沈殿物を回収した。
これにベンゼン150mlを加えて加温し、ベンゼン可溶部分をカラムクロマトグラフィーで精製して化合物((7a);R’=n−C1021−)を得た。
<化合物(2A−1)の調製工程>
【化13】

DMF25ml中に1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデンセン(DBU)0.008mol(1.22g)と前記で得られた化合物(7a)、3−ブロモプロパンスルホン酸ナトリウム(8a’)0.008mol(1.80g)を溶解させ、窒素雰囲気下、60℃で48時間攪拌して反応を行った。
反応終了後、溶媒を濃縮しジエチルーエーテルを加え、ろ過して沈殿物を回収した。次に沈殿物(化合物(2a’))を蒸留水でよく洗浄した。
次に、洗浄後の沈殿を6mol/LのHCl中で24時間攪拌後、反応液を濾過し、次いで、真空乾燥して有機酸化合物(2A−1)を得た。
(有機酸化合物(2A−1)の同定データ)
1H−NMR(δ,d−DMSO)
0.93(t,3H)、1.2〜1.5(m,14H)、1.7〜1.8(m,2H)、2.0〜2.1(m,2H)、2.6〜2.7(m,2H)、4(t,2H)、4.1(t,2H)、7.0〜7.1(m,4H)、7.5〜7.6(m,4H)
<リチウムイオン性液晶化合物(1A−1)の調製>
【化14】

有機酸化合物(2A−1)0.01モルをジオキサン100mlに溶解した(A液)。別に水酸化リチウム0.01モルを蒸留水30mlに溶解した水酸化リチウム水溶液を調製した。
前記A液に、攪拌下に水酸化リチウム水溶液を20℃に保持しながら全量添加し、添加終了後、1時間攪拌下に熟成反応を行った。
反応終了後、減圧下に溶媒を留去した後、得られた残渣にジエチルエーテル100mlを加え洗浄を行て、リチウムイオン性液晶化合物試料を得た。
【0060】
{実施例2}
化合物(7a)の調製工程において、R’=n−C1021−の臭化アルキル(5a)に代えてR’=n−C17−の臭化アルキルを用いた以外は、実施例1と同様にして反応を行い、リチウムイオン性液晶化合物試料を得た。
【0061】
{実施例3}
化合物(2A−1)の調製工程において、3−ブロモプロパンスルホン酸ナトリウム(8a’)に代えて、4−ブロモブチルスルホン酸ナトリウムを用いた以外は、実施例1と同様にして反応を行い、リチウムイオン性液晶化合物試料を得た。
【0062】
{実施例4}
化合物(7a)の調製工程において、R’=n−C1021−の臭化アルキル(5a)に代えてR’=n−C1225−の臭化アルキルを用いた以外は、実施例1と同様にして反応を行い、リチウムイオン性液晶化合物試料を得た。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例1〜4で得られたリチウムイオン性液晶化合物の相転移温度を測定し下記表2の結果が得られた。
【表2】

【0065】
実施例3で得られたリチウムイオン性液晶化合物は、240℃付近から液晶状態を示し、また、DSCの結果より、350℃で安定に液晶として存在できることが分かった。更に、液晶状態から温度を室温付近まで降下させると、冷却により分子間秩序が固定化され、スメクチック液晶の分子配列の固定化が観察される。即ち、偏光顕微鏡観察から、液晶分子は、基板に平行な連続秩序を保ったまま、固体状態に固定化されていることが分かる(図2参照)。
これにより、液晶分子の連続体によるリチウムイオンの輸送が可能になると考えられる。
【0066】
{実施例5}
<化合物(2A−2)の調製工程>
【化15】

化合物(7a)の調製工程において、b液としてR’=n−C1021−の臭化アルキル(5a)に代えて、6−ブロモヘキシルメタクリレート0.02モルとし、更にフェニチアジン0.05gをDMF50mlに溶解したものをb液として使用し、化合物(2A−1)の調製工程において、DMF25mlに更にフェノチアジン0.05gを加えて反応を行ったこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、有機酸化合物(2A−2)を得た。
(有機酸化合物(2A−2)の同定データ)
【表3】

<リチウムイオン性液晶化合物(1A−2)の調製工程>
【化16】

有機酸化合物(2A−2)0.01モルをジオキサン100mlに溶解した(A液)。別に水酸化リチウム0.01モルを蒸留水30mlに溶解した水酸化リチウム水溶液を調製した。
前記A液に、攪拌下に水酸化リチウム水溶液を20℃に保持しながら全量添加し、添加終了後、1時間攪拌下に熟成反応を行った。
反応終了後、減圧下に溶媒を留去した後、得られた残渣にジエチルエーテル100mlを加え洗浄を行て、リチウムイオン性液晶化合物試料(1A−2)を得た。
【0067】
{実施例6}
<化合物(2A−3)の調製工程>
【化17】

化合物(7a)の調製工程において、b液としてR’=n−C1021−の臭化アルキル(5a)に代えて、10−ブロモ−1−デセン0.02モルとし、更にフェニチアジン0.05gをDMF50mlに溶解したものをb液として使用し、化合物(2A−1)の調製工程において、DMF25mlに更にフェノチアジン0.05gを加えて反応を行ったこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、有機酸化合物(2A−3)を得た。
<リチウムイオン性液晶化合物(1A−3)の調製工程>
【化18】

有機酸化合物(2A−3)0.01モルをジオキサン100mlに溶解した(A液)。別に水酸化リチウム0.01モルを蒸留水30mlに溶解した水酸化リチウム水溶液を調製した。
前記A液に、攪拌下に水酸化リチウム水溶液を20℃に保持しながら全量添加し、添加終了後、1時間攪拌下に熟成反応を行った。
反応終了後、減圧下に溶媒を留去した後、得られた残渣にジエチルエーテル100mlを加え洗浄を行て、リチウムイオン性液晶化合物試料(1A−3)を得た。
【0068】
{実施例7}
<化合物(2A−4)の調製工程>
【化19】

化合物(7a)の調製工程において、b液としてR’=n−C1021−の臭化アルキル(5a)に代えて、6−ブロモヘキシルメタクリレート0.02モルとし、更にフェニチアジン0.05gをDMF50mlに溶解したものをb液として使用し、化合物(2A−1)の調製工程において、DMF25mlに更にフェノチアジン0.05gを加えて、また、3−ブロモプロパンスルホン酸ナトリウム(8a’)に代えて6−ブロモヘキシルホスホン酸ナトリウムで反応を行ったこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、有機酸化合物(2A−4)を得た。
(有機酸化合物(2A−4)の同定データ)
【表4】

<リチウムイオン性液晶化合物(1A−4)の調製工程>
【化20】

有機酸化合物(2A−4)0.01モルをジオキサン100mlに溶解した(A液)。別に水酸化リチウム0.02モルを蒸留水30mlに溶解した水酸化リチウム水溶液を調製した。
前記A液に、攪拌下に水酸化リチウム水溶液を20℃に保持しながら全量添加し、添加終了後、1時間攪拌下に熟成反応を行った。
反応終了後、減圧下に溶媒を留去した後、得られた残渣にジエチルエーテル100mlを加え洗浄を行て、リチウムイオン性液晶化合物試料(1A−4)を得た。
【0069】
{実施例8}
<化合物(9c)の調製工程>
【化21】

300mL三つ口フラスコを用いて化合物(9a)0.005molと化合物(9b)0.0077molをTHF30mlに溶解した。塩基としてカリウムt−ブトキシド0.0077molを50mLのTHFに溶解させ、室温(25℃)で滴下した。次いで、室温(25℃)で、窒素雰囲気下に一晩攪拌して反応を行った。
反応終了後、THFを減圧除去し、残渣にメタノール120mlを加え10分間超音波洗浄し、メタノール不溶分を得、次いで真空にして一晩乾燥して化合物(9c)を得た。
<化合物(9d)の調製工程>
【化22】

化合物(9c)3gを4mol/L塩酸−ジオキサン溶液15mLに溶解し、冷却菅をつけて60℃で1.5時間攪拌下に反応を行った。
反応終了後、100mLの氷水を注ぎ150mLのジエチルエーテルで抽出した。得られたエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて一晩脱水し、濾過後溶媒を除去し、化合物(9d)を得た。
<有機酸化合物(2A−5)の調製工程>
【化23】

化合物(9d)0.002mol、1,8−−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデンセン(DBU)0.004mol、3−ブロモプロパンスルホン酸ナトリウム0.004molをDMF25mlに溶解し、窒素雰囲気下に60℃で48時間攪拌して反応を行った。
反応終了後、溶媒を除去し、ジエチルエーテル30mLを加え、ろ過して沈殿物を回収した。沈殿物を蒸留水、ジエチルエーテルで洗浄して化合物(9e)を得た。
次いで、THF100mLと塩酸8mLを加え、30分間室温(25℃)で攪拌し、反応を行った。反応終了後、反応液をデカンテーションを2回繰り返し溶液部分を得た。得られた溶液部分を濃縮し、ろ過して沈殿物を得た。得られた沈殿物を脱水ジオキサン100mLに溶解し、ろ過して不溶分を除去し、有機酸化合物(2A−5)を得た。
(有機酸化合物(2A−5)の同定データ)
1H−NMR(δ,d−DMSO)
0.87(t,3H)、1.2〜1.6(m,16H)、1.7〜1.8(b,2H)、2.0〜2.1(b,2H)、2.6〜2.7(b,2H)、4.0〜4.1(d,4H)、7.0〜7.7(m,10H)。
<リチウムイオン性液晶化合物(1A−5)の調製工程>
【化24】

有機酸化合物(2A−5)0.01モルをジオキサン100mlに溶解した(A液)。別に水酸化リチウム0.01モルを蒸留水30mlに溶解した水酸化リチウム水溶液を調製した。
前記A液に、攪拌下に水酸化リチウム水溶液を20℃に保持しながら全量添加し、添加終了後、1時間攪拌下に熟成反応を行った。
反応終了後、減圧下に溶媒を留去した後、得られた残渣にジエチルエーテル100mlを加え洗浄を行て、リチウムイオン性液晶化合物試料(1A−5)を得た。
【0070】
{実施例9}
<有機酸化合物(2A−6)の調製工程>
【化25】

化合物(9a)のR’の基をn−C1021−の化合物を用い、同様な反応操作により化合物(9d)の式中のR’がn−C1021−である化合物を得た後、該化合物0.03モルにp−キシレン100mlを加え、更にヨウ素0.09gを加えて120℃で4時間還流し、反応終了後、室温まで冷却し析出物を濾過して回収し、回収物をヘキサンで数回洗浄して化合物((9d);R’がn−C1021−)のトランス体とした以外は実施例8と同様にして反応を行い、有機酸化合物(2A−6)を得た。
(有機酸化合物(2A−6)の同定データ)
1H−NMR(δ,d−DMSO)
0.85(t,3H)、1.2〜1.6(m,16H)、1.7〜1.8(b,2H)、2.0〜2.1(b,2H)、2.5〜2.7(m,4H)、4.1(b,2H)、7.0〜7.7(m,10H)。
<リチウムイオン性液晶化合物(1A−6)の調製工程>
【化26】

有機酸化合物(2A−6)0.01モルをジオキサン100mlに溶解した(A液)。別に水酸化リチウム0.01モルを蒸留水30mlに溶解した水酸化リチウム水溶液を調製した。
前記A液に、攪拌下に水酸化リチウム水溶液を20℃に保持しながら全量添加し、添加終了後、1時間攪拌下に熟成反応を行った。
反応終了後、減圧下に溶媒を留去した後、得られた残渣にジエチルエーテル100mlを加え洗浄を行て、リチウムイオン性液晶化合物試料(1A−6)を得た。
【0071】
実施例5〜9で得られたリチウムイオン性液晶化合物の相転移温度を測定し下記表5の結果が得られた。
【0072】
【表5】

【0073】
{実施例10}
<有機酸化合物(2A−7)の調製工程>
【化27】

実施例5と同様にして、有機酸化合物(2A−2)を得た。次にアンプル菅中に有機酸化合物(2A−2)0.05molをDMF5mlに溶解した。そこにAIBN7mgをDMF5mlに溶解した溶液を加え、窒素置換を行い、減圧状態にして、酸素バーナーで溶封した。恒温層にて70℃で96時間反応させた。反応終了後、ジエチルエーテル100ml中に注ぎ、沈殿物をろ過し、さらに沈殿にエタノールを加え、ろ過して有機酸化合物(2A−7)を得た。
(有機酸化合物(2A−7)の同定データ)
【表6】

<リチウムイオン性高分子液晶化合物(1A−7)の調製工程>
【化28】

三つ口フラスコに蒸留水5ml及び水酸化リチウム1gを入れ溶解した(A液)。有機酸化合物(2A−7)0.5gをDMF5mlに溶解し、A液にゆっくりと滴下した。
1時間攪拌後、ジエチルエーテル50mlに注ぎ沈殿物を得、これを回収してリチウムイオン性高分子液晶化合物(1A−7)を得た。
【0074】
{実施例11}
<有機酸化合物(2A−8)の調製工程>
【化29】

実施例6と同様にして、有機酸化合物(2A−3)を得た。次に、トルエン4mlにポリシロキサン(10)0.095gと有機酸化合物(2A−3)1.08×10−3molを加え攪拌して溶液を調製した(A液)。
別にヘキサクロロ白金(IV)酸0.6mgをイソプロパノール0.1mlに溶解した(B液)。B液を0.05mlだけA液に滴下し、窒素雰囲気下、110℃で24時間攪拌して反応を行った。
反応終了後、反応溶媒を減圧除去し、残渣をヘキサンで洗浄し有機酸化合物(2A−8)を得た。
(有機酸化合物(2A−8)の同定データ)
【表7】

<リチウムイオン性高分子化合物(1A−8)の調製工程>
【化30】

三つ口フラスコに蒸留水5ml及び水酸化リチウム1gを入れ溶解した(A液)。有機酸化合物(2A−8)0.5gをDMF5mlに溶解し、A液にゆっくりと滴下した。
1時間20℃で攪拌後、ジエチルエーテル50mlに注ぎ沈殿物を得、これを回収してリチウムイオン性高分子液晶化合物(1A−8)を得た。
【0075】
{実施例12}
<有機酸化合物(2A−10)の調製工程>
【化31】

実施例7において、6−ブロモヘキシルメタクリレートに代えて8−ブロモ−1−オクテン(0.02モル)を用いた以外は実施例7と同様にして、有機酸化合物(2A−9)を得た。
次に、トルエン4mlにポリシロキサン(10)0.095gと有機酸化合物(2A−9)1.08×10−3molを加え攪拌して溶液を調製した(A液)。
別にヘキサクロロ白金(IV)酸0.6mgをイソプロパノール0.1mlに溶解した(B液)。B液を0.05mlだけA液に滴下し、窒素雰囲気下、110℃で24時間攪拌して反応を行った。
反応終了後、反応溶媒を減圧除去し、残渣をヘキサンで洗浄し有機酸化合物(2A−10)を得た。
(有機酸化合物(2A−10)の同定データ)
【表8】

<リチウムイオン性高分子化合物(1A−10)の調製工程>
【化32】

三つ口フラスコに蒸留水5ml及び水酸化リチウム1gを入れ溶解した(A液)。有機酸化合物(2A−10)0.5gをDMF5mlに溶解し、A液にゆっくりと滴下した。
1時間20℃で攪拌後、ジエチルエーテル50mlに注ぎ沈殿物を得、これを回収してリチウムイオン性高分子液晶化合物(1A−10)を得た。
【0076】
実施例10〜12で得られたリチウムイオン性高分子液晶化合物を2枚のガラス基板に挟持し、液晶相となる温度以上に加熱した後、偏光顕微鏡によりその透過光を観察した結果、該化合物は基板に対して垂直配向をとる液晶相としてスメクチック相を有する液晶性化合物であることを確認した。
【0077】
<リチウムイオン輸送の評価>
ITO電極を備えたセル(電極面積:0.16cm、電極間距離:70μm、、ギャップ:50μm EHC社製)に実施例1で得られたリチウムイオン性液晶化合物20mgをセルに圧入した。
次いで、10Vの電圧を印加し、除々に加温し、各温度毎の電流量を測定した。その結果を図3に示す。
図3の結果、スメクチック相の液晶状態で急激にリチウムイオン伝導性が高くなることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶相としてスメクチック相を有するリチウムイオン性液晶性化合物を用い、該リチウムイオン性液晶化合物のスメクチック相の液晶状態、該リチウムイオン性液晶化合物のスメクチック相からの相転移で生じる固体状態、又は該リチウムイオン性液晶化合物のリオトロピック液晶状態でリチウムイオンの輸送を行わせることを特徴とするリチウムイオンの輸送方法。
【請求項2】
下記一般式(1)
【化1】

{式中、Rは、アルキル基、アルコキシ基、又はCH=C(R)−(CHn1−O−、CH=C(R)−CO−O−(CHn1−O−(式中、Rはメチル基又は水素原子を示す。n1は1〜20の整数を示す。)から選ばれる不飽和結合を有する基を示す。Bは−O−(CHn2−又は−(CHn2−(式中、n2は1〜20の整数を示す。)から選ばれる基を示す。Rはカルボン酸基、スルホン酸基及びホスホン酸基からプロトンを除いた酸残基を示す。式中、Aは下記一般式(1a)〜(1d)
【化2】

(式中、tは1又は2の整数を示す。)から選ばれる基を示す。式中、mはアニオンの価数又は数により定まる整数を示す。}で表されることを特徴とするリチウムイオン性液晶化合物。
【請求項3】
下記一般式(1A−1)
【化3】

(式中、R及びBは前記と同義。)で表されることを特徴とする請求項2記載のリチウムイオン性液晶化合物。
【請求項4】
下記一般式(1A)
【化4】

(式中、R及びBは前記と同義。)で表されることを特徴とする請求項2記載のリチウムイオン性液晶化合物。
【請求項5】
下記一般式(1B)
【化5】

(式中、R、B及びtは前記と同義。)で表されることを特徴とする請求項2記載のリチウムイオン性液晶化合物。
【請求項6】
下記一般式(2)
【化6】

(式中、R、A及びBは前記と同義。R2’は、カルボン酸基、スルホン酸基及びホスホン酸基から選ばれる基を示す。)で表される有機酸化合物を溶解した水溶性有機溶媒に、水酸化リチウム水溶液を添加して反応を行うことを特徴とする請求項2記載のリチウムイオン性液晶化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項2乃至5記載のリチウムイオン性液晶化合物を含有することを特徴とする液晶材料。
【請求項8】
前記一般式(1)の式中のRが不飽和結合を有する基であるリチウムイオン性液晶化合物を用いて得られた高分子液晶化合物を含有することを特徴とする請求項7記載の液晶材料。
【請求項9】
リチウムイオン二次電池の電解質として用いられることを特徴とする請求項7又は8記載の液晶材料。
【請求項10】
請求項7又は8の何れか1項に記載の液晶材料を用いたことを特徴とするリチウムイオン輸送材料。
【請求項11】
請求項2乃至5記載のリチウムイオン性液晶化合物を1種又は2種以上含有することを特徴とするリチウムイオン輸送層。
【請求項12】
前記一般式(1)の式中のRが不飽和結合を有する基であるリチウムイオン性液晶化合物を用いて得られた高分子液晶化合物を含有することを特徴とする請求項11記載のリチウムイオン輸送層。
【請求項13】
リチウムイオン性液晶化合物が高分子液晶化合物であり、該高分子化合物のスメクチック相の液晶状態、該高分子液晶化合物のスメクチック相からの相転移で生じる固体状態を用いてリチウムイオンの輸送を行うことを特徴とする請求項12記載のリチウムイオン輸送層。
【請求項14】
リチウムイオン性液晶化合物のリオトロピック液晶状態を用いてリチウムの輸送を行うことを特徴とする請求項11記載のリチウムイオン輸送層。
【請求項15】
リチウムイオン性液晶化合物と、リチウムイオン性液晶化合物以外の液晶化合物との混合液晶からなり、該混合液晶のスメクチック相の液晶状態、該混合液晶のスメクチック相からの相転移で生じる固体状態を用いてリチウムイオンの輸送を行うことを特徴とする請求項11記載のリチウムイオン輸送層。












【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−116770(P2012−116770A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265763(P2010−265763)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【出願人】(501358002)株式会社バルビス (6)
【Fターム(参考)】