説明

リチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法

【課題】マンガン酸リチウムによるリチウムイオン二次電池正極活物質を製造する過程で、腐食性ガスの発生を抑制可能なリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】マンガン酸リチウムによるリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法であって、リチウム化合物とマンガン化合物とを、増粘剤で分散させた溶液を生成する溶液生成工程と、溶液生成工程で生成された溶液を噴霧し、噴霧された溶液のミストを加熱し、マンガン酸リチウム前駆体を生成する加熱工程と、加熱工程で生成されたマンガン酸リチウム前駆体を焼成し、マンガン酸リチウムを生成する焼成工程とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン酸リチウムによるリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車、ハイブリッド自動車用、燃料電池車などの電源、電動工具などの産業機器あるいは風力・太陽光発電の負荷平準化用電源としてエネルギー密度が高く、かつ、サイクル寿命の長い非水二次電池が注目されている。このような非水二次電池の中で、現在、最も広く市場に出回っているのがリチウムイオン二次電池である。
【0003】
電気自動車、ハイブリッド自動車用、燃料電池車などに用いられるリチウムイオン二次電池正極活物質にはマンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リチウム・コバルト・ニッケル・マンガンの三元系(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)などのリチウムと遷移金属の複合酸化物がある。しかしながら、マンガン酸リチウムでは、高温での使用中にマンガンイオンが溶出するために寿命が短い等の欠点がある。そこで、最近では、このような欠点を補う目的で、アルミニウム、マグネシウムなどへの置換が提案されており、マンガン酸リチウムへアルミニウムなどを置換する製造方法として、噴霧乾燥、噴霧熱分解法などが提案されている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0004】
マンガン酸リチウムを電気自動車などの電源として適したリチウムイオン二次電池の正極活物質として使用するには、10C以上の放電レートで繰り返し充電しても放電容量を初期容量の50%以上付与する必要があり、固相法などが公知又は提案されている(例えば、特許文献1〜6参照)。
【0005】
また、噴霧熱分解法による製造方法として、いくつかの技術が提案されている(例えば、非特許文献3〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−97216号公報
【特許文献2】特開平11−71115号公報
【特許文献3】特開平11−278848号公報
【特許文献4】特開2000−159522号公報
【特許文献5】特開2002−226214号公報
【特許文献6】特開2005−183004号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D.Song, G.Li, H.Ikuta and M.Wakihara, "Chemical Diffusion Coefficients of Lithium in LiAlyMn2-yO4 (y=0, 1/9, 1/6, 1/3) and LiAl1/12M1/12Mn11/6O4 (M=Cr,Co)", Denki Kagaku, 66, 1194-1197 (1998)
【非特許文献2】Y.Idemoto, N.Koura and K.Udagawa, "Relation between Property and Electrode Characteristics of LiMn2-XMgXO4 Positive Electrode Material for the Lithium Secondary Battery", Electrochemistry, 67, 235-237 (1999)
【非特許文献3】T.Ogihara, N.Ogata, K.Katayama and Y.Azuma, "Electrochemical Properties of Spherical Porous LiMn2-XMgXO4 Powders Prepared by Ultrasonic Spray Pyrolysis", Electrochemistry, 68, 162-166 (2000)
【非特許文献4】S.H.Park and Y.K.Sun, "Synthesis and Electrochemical Properties of 5V spinel LiNi0.5Mn1.5O4 Cathode Materials Prepared by Ultrasonic Spray Pyrolysis Method", Electrochimica Acta, 50, 431-434 (2004)
【非特許文献5】K.Myojin, T.Ogihara, N.Ogata, N.Aoyagi, H.Aikiyo, T.Ookawa, S.Omura, M.Yanagimoto, M.Uede and T.Oohara, "Synthesis of Nonstoichiometric Lithium Manganate Fine Powders by Internal Combustion Type Spray Pyrolysis Using Gas Burner", Advanced Powder Technol., 15, 397-403 (2004)
【非特許文献6】I.Taniguchi and Z.Bakenov, "Spray Pyrolysis Synthesis of Nanostructured LiFeXMn2-XO4 Cathode Materials for Lithium-Ion Batteries", Powder Technol., 159, 55-62 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の製造方法には、例えば次のような課題がある。すなわち、従来の製造方法では、硝酸塩、塩化物、硫酸塩の無機塩水溶液を乾燥し、乾燥および熱分解する必要がある。
【0009】
従来の製造方法では、中空構造の粒子が生成されることや、製造中に大量のNOX、ClX、SOXなどが排出されることから、その処理設備の設置と処理コストとが正極活物質への高コスト化に繋がるなどの課題があった。
【0010】
従来の製造方法では、NOX、ClX、SOXなどが腐食性ガスであることから、製造装置の早期劣化を加速するなどの課題があった。
【0011】
従来の製造方法で得られる粒子は中空構造になることが多いため、リチウムイオン二次電池正極活物質の製造において、集電体からの剥離やクラックが起こり易くなるため、緻密な粒子構造を形成させる必要がある。
【0012】
上記のような場合、電極作製時の歩留まり率の低下を招き、電池の生産効率の低下とコスト高に繋がるため、工業生産上、不利である。
【0013】
本発明は、マンガン酸リチウムによるリチウムイオン二次電池正極活物質を製造する過程で、腐食性ガスの発生を抑制可能なリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一側面は、マンガン酸リチウムによるリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法であって、リチウム化合物とマンガン化合物とを、増粘剤で分散させた溶液を生成する溶液生成工程と、前記溶液生成工程で生成された前記溶液を噴霧し、噴霧された前記溶液のミストを加熱し、マンガン酸リチウム前駆体を生成する加熱工程と、前記加熱工程で生成された前記マンガン酸リチウム前駆体を焼成し、マンガン酸リチウムを生成する焼成工程とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法である。
【0015】
これによれば、リチウムイオン二次電池正極活物質に用いられる好適なマンガン酸リチウムを、好適に生成することができる。生成されるマンガン酸リチウム前駆体およびマンガン酸リチウムを緻密なものとすることができる。したがって、マンガン酸リチウムによるリチウムイオン二次電池正極活物質を用いた正極を製造するとき、集電体からの剥離やクラックの発生を抑制し、歩留まりも改善できる。
【0016】
また、本発明の他の側面において、前記リチウム化合物は、リチウムの、炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、塩化物または酢酸塩のいずれかであり、前記マンガン化合物は、マンガンの、炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、塩化物または酢酸塩のいずれかであることを特徴とする。これによれば、好適なマンガン酸リチウムを生成することができる。
【0017】
また、本発明の他の側面において、前記溶液生成工程での前記増粘剤の添加濃度が、1重量%〜10重量%であることを特徴とする。これによれば、好適なマンガン酸リチウムを好適に生成することができる。
【0018】
また、本発明の他の側面において、前記加熱工程では、200℃〜400℃の温度範囲で、前記溶液のミストを加熱し、乾燥させて、前記マンガン酸リチウム前駆体を生成することを特徴とする。これによれば、好適なマンガン酸リチウムを好適に生成することができる。
【0019】
また、本発明の他の側面において、前記加熱工程では、500℃〜900℃の温度範囲で、前記溶液のミストを加熱し、熱分解させて、前記マンガン酸リチウム前駆体を生成することを特徴とする。これによれば、好適なマンガン酸リチウムを好適に生成することができる。
【0020】
また、本発明の他の側面において、前記焼成工程では、600℃〜900℃の温度範囲で、前記加熱工程で生成された前記マンガン酸リチウム前駆体を焼成し、前記マンガン酸リチウムを生成することを特徴とする。これによれば、好適なマンガン酸リチウムを好適に生成することができる。
【0021】
また、本発明の他の側面において、前記焼成工程では、1時間〜24時間の範囲で、前記加熱工程で生成された前記マンガン酸リチウム前駆体を焼成し、前記マンガン酸リチウムを生成することを特徴とする。これによれば、好適なマンガン酸リチウムを好適に生成することができる。
【0022】
また、本発明の他の側面において、前記溶液生成工程では、マンガン化合物に対して、アルミニウム化合物を含む3価の金属化合物またはマグネシウム化合物を含む2価の金属化合物が、モル比で0.01〜0.1の範囲で添加されることを特徴とする。これによれば、リチウムイオン二次電池の所定の特性を向上させることが可能なマンガン酸リチウムを生成することができる。
【0023】
また、本発明の他の側面において、前記溶液生成工程で、マンガン化合物に対して、モル比で0.01〜0.1の範囲で添加される3価の金属化合物が、アルミニウム化合物である場合、アルミニウム化合物は、アルミニウムの、無機塩、酸化物または水酸化物のいずれかであることを特徴とする。これによれば、リチウムイオン二次電池の所定の特性を向上させることが可能なマンガン酸リチウムを生成することができる。
【0024】
また、本発明の他の側面において、前記増粘剤は、会合系増粘剤であることを特徴とする。これによれば、好適なマンガン酸リチウムを好適に生成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、マンガン酸リチウムによるリチウムイオン二次電池正極活物質を製造する過程で、腐食性ガスの発生を抑制可能なリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】噴霧熱分解法によるマンガン酸リチウムの粉体の製造工程を示す図である。
【図2】噴霧熱分解法によるマンガン酸リチウム前駆体および800℃で焼成して生成されたマンガン酸リチウムの粉末X線回折図形である。
【図3】(a)は本実施形態に係るアルミニウムを5mol%添加したマンガン酸リチウム前駆体の走査型電子顕微鏡写真であり、(b)は従来の金属硝酸塩水溶液からの噴霧熱分解法によるマンガン酸リチウム前駆体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】マンガン酸リチウムおよびアルミニウムを5mol%添加したマンガン酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の室温での放電特性図である。
【図5】マンガン酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の室温、1Cでの充放電サイクル特性図である。
【図6】アルミニウムを5mol%添加したマンガン酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の室温、1Cでの充放電サイクル特性図である。
【図7】従来の金属硝酸塩水溶液からの噴霧熱分解法によるマンガン酸リチウムと、本実施形態に係るマンガン酸リチウムおよびアルミニウムを5mol%添加したマンガン酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の放電レート特性図である。
【図8】従来の金属硝酸塩水溶液からの噴霧熱分解法によるマンガン酸リチウムと、本実施形態に係るマンガン酸リチウムおよびアルミニウムを5mol%添加したマンガン酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の温度特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る実施形態について、図面を用いて以下に詳細に説明する。本発明は、以下に記載の構成に限定されるものではなく、同一の技術的思想において種々の構成を採用することができる。例えば、以下に説明する各構成(工程)において、所定の構成(工程)を省略することもできる。
【0028】
(リチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法)
本実施形態の製造方法は、リチウムイオン二次電池正極活物質としてのマンガン酸リチウムを生成するものである。この製造方法は、溶液生成工程と加熱工程と焼成工程とを含む。第1番目の工程である溶液生成工程では、まず、リチウム化合物とマンガン化合物とアルミニウム化合物とをビーカーに入れ、溶媒として例えば水を添加して、撹拌しながら増粘剤を添加する。具体的には、水酸化リチウム1モルと、炭酸マンガン2モル、硝酸アルミニウム0.05モルをビーカーに入れ水を添加して、撹拌しながら増粘剤を水溶液1kgに対して例えば30gを添加する。これによって、図1(b)左側に示すゾルを含む水溶液が生成される。有機溶媒中で増粘剤により分散させ、溶液を生成させてもよい。増粘剤の添加濃度は、1重量%〜10重量%に設定される。
【0029】
本実施形態の製造方法において、アルミニウムが添加されたマンガン酸リチウムを生成させる方法として種々の原料試薬を採用することができる。例えば、金属炭酸塩、金属酸化物、金属水酸化物、金属硝酸塩、金属塩化物、金属酢酸塩を使うことが可能である。例えば、リチウム源として、水酸化リチウム以外に、炭酸リチウム、酸化リチウムを用いてもよい。マンガン源として、炭酸マンガン以外に、酸化マンガンを用いてもよい。アルミニウム源として、硝酸アルミニウム以外に、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムを用いてもよい。アルミニウム化合物の他、その他の3価の金属化合物または2価の金属化合物を用いることもできる。2価の金属化合物としては、例えば、マグネシウム化合物を用いることができる。
【0030】
溶液生成工程で生成される水溶液(溶液)の濃度は1リットル当たり0.1モル〜2モルの範囲で設定される。増粘剤として、会合系増粘剤を用いてもよい。会合系増粘剤として、例えば、キサンタンガム、ポリカルボン酸ポリアミド・アミン塩を用いてもよい。
【0031】
第2番目の加熱工程は、噴霧熱分解法による工程であって、例えば図1(a)に概略構成を示す噴霧熱分解装置100を使用して行われる。なお、マンガン酸リチウム粒子(マンガン酸リチウム前駆体)を生成する装置は、噴霧熱分解装置100に限定されるものではない。溶液生成工程で生成された水溶液(溶液)を用いて噴霧熱分解装置100でマンガン酸リチウム前駆体を生成すると、図1(b)右側に示す緻密で球状の粒子が得られるので、正極作製時の剥離やクラックの発生が低減されて、歩留まりが向上する他に、正極内部での粒子の充填密度が高められるので、エネルギー密度が高くなる。また、その他種々の、例えば、低環境負荷、排ガス処理、コスト削減の点において、有利な効果を得ることができる。加熱工程では、腐食性ガスは排出されず、水(H2O)および二酸化炭素(CO2)が排出される。
【0032】
噴霧熱分解装置100は、図1(a)に示すように、二流体ノズル110とアルミナ管120と電気炉130とバグフィルター140とを備える。まず、溶液生成工程で生成された、例えば図1(b)左側に示すゾルを含む水溶液が二流体ノズル110に入れられる。噴霧熱分解装置100の上側で下向きに設置された二流体ノズル110から、ゾルを含む水溶液によるミストが、上側から電気炉130に向けて吹き付けられ(噴霧され)、このミストを、アルミナ管120の中を強制的に流通させる。ミストは、アルミナ管120の中を上側から電気炉130を通過し下側に流通する。電気炉130を通過して生成された粒子(マンガン酸リチウム前駆体)は、バグフィルター140によって回収される。
【0033】
噴霧熱分解装置100において、水溶液(溶液)中のゾルによる二流体ノズル110の目詰まりが起こり易いので、二流体ノズル110のノズル径は5μm以上に設定される。噴霧熱分解装置100において、ゾルを含む水溶液(溶液)をアルミナ管120の中を流通させるためのキャリアガスには、例えば空気が用いられる。空気以外に、窒素ガス、アルゴンガスのいずれか1つを用いてもよい。キャリアガスの流量は、例えば毎分1リットル〜毎分15リットルの範囲に設定される。ただし、キャリアガスの流量は、アルミナ管120の長さに応じて適宜変更してもよく、この範囲に限定されるものではない。
【0034】
噴霧熱分解装置100において、ゾルを含む水溶液(溶液)のミストの十分な乾燥と熱分解を確保するために、アルミナ管120の長さは、例えば1000mmに設定される。また、アルミナ管120の内径は、ミストの供給量を確保するために、30mm〜300mmの範囲に設定される。ただし、アルミナ管120の長さおよび内径は、種々の条件の下、適宜変更してもよく、この寸法に限定されるものではない。アルミナ管120の他、石英管、ムライト管、ステンレス管、ジルコニア管を備えた噴霧熱分解装置とすることもできる。石英管などを備えた噴霧熱分解装置とした場合においても、石英管などの長さおよび内径は、アルミナ管120の場合と同様の範囲に設定することができる。
【0035】
電気炉130では、電気炉130を通過する、二流体ノズル110から噴霧されたミストを構成するミスト液滴内部で、リチウムおよびマンガンの固形物の熱分解と固相反応とが同時に起こり、マンガン酸リチウム粒子(マンガン酸リチウム前駆体)が生成される。電気炉130において、マンガン酸リチウム粒子(マンガン酸リチウム前駆体)を生成する温度は、500℃〜900℃の温度範囲に設定される。すなわち、電気炉130を通過する、二流体ノズル110から噴霧されたミストは、500℃〜900℃の温度範囲で加熱される。その結果、マンガン酸リチウム粒子(マンガン酸リチウム前駆体)が生成される。
【0036】
電気炉130の他、例えば、ガス燃焼炉、アークプラズマ炉、赤外線加熱炉、熱風式乾燥炉、マイクロ波誘導加熱炉のいずれか1つを備えた噴霧熱分解装置とすることもできる。ガス燃焼炉を備えた噴霧熱分解装置とした場合、ガス燃焼炉の熱源には、例えば、都市ガス、LPガスのいずれか1つを用いるとよい。
【0037】
電気炉130を通過して生成されたリン酸鉄リチウム粒子(リン酸鉄リチウム前駆体)は、バグフィルター140で回収(捕集)される。このとき、マンガン酸リチウム粒子(マンガン酸リチウム前駆体)を回収する吸引量は、毎分15リットル〜毎分30リットルの範囲に設定される。リン酸鉄リチウム粒子(リン酸鉄リチウム前駆体)の回収には、バグフィルター140の他に、サイクロン、ガラスフィルター、電気集塵のいずれか1つを用いてもよい。
【0038】
上記の混合において、マンガン、リチウム、アルミニウムの混合割合は金属モル比で1.99:1:0.01〜1.90:1:0.1までとする。この混合において、リチウムとマンガンとの混合割合を1:1から1.2:1まで増加させてもよい。なお、アルミニウムに代えて、その他の3価の金属(金属化合物)または2価の金属(金属化合物)を用いる場合においても、アルミニウムと同様の混合割合で混合される。
【0039】
第3番目の焼成工程では、加熱工程で生成されたマンガン酸リチウム粒子(マンガン酸リチウム前駆体)を、600℃〜900℃の温度範囲で、かつ1時間〜24時間の範囲で焼成する。これによって、緻密なマンガン酸リチウムが生成され、これの粉体を得ることができる。焼成工程は、大気雰囲気中で行われる。なお、焼成工程は、大気雰囲気中の他に、不活性ガス、不活性ガスと水素との混合ガスなどの雰囲気中で行ってもよい。また、焼成工程は、電気炉を用いて行われる。電気炉の他、加熱炉を用いることもできる。
【0040】
なお、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物などが添加される状態では、いずれもアルミニウムイオンやマグネシウムイオンが、マンガン酸リチウムの結晶構造中(16dサイト)に固溶されることになる。マンガン酸リチウムは空間群Fd3mのスピネル型結晶で、その中に16dサイトがある。そこには本来、マンガンイオンが配置されるが、そこにアルミニウムなどの金属が置換されて固溶する。
【0041】
(実験結果)
上述した本実施形態の製造方法によって生成された、マンガン酸リチウムを対象として、所定の実験を行った。以下、この結果について説明する。
【0042】
水酸化リチウム、炭酸マンガン、硝酸アルミニウムをポリカルボン酸ポリアミド・アミン塩系増粘剤(日華化学株式会社、ネオステッカーV)で分散させた水溶液を、800℃で噴霧熱分解して生成された、本実施形態に係るマンガン酸リチウム前駆体、および、マンガン酸リチウム前駆体を生成した後、800℃で焼成して生成された、本実施形態に係るマンガン酸リチウムの粒子が集合した粉体(以下、「マンガン酸リチウムの粉体」ともいう。)のX線回折結果について、図2を参照して説明する。測定には、株式会社島津製作所製のX線回折装置(XRD−6100)を用いた。X線源にはCuKα線を用い、印加電圧および印加電流はそれぞれ40kVおよび30mAとして、2θが10°〜80°の範囲を0.02°のステップ幅で測定した。図2によれば、噴霧熱分解によって生成されたマンガン酸リチウム前駆体の状態で(「as-prepared」参照)、マンガン酸リチウムへ結晶化し、焼成されたマンガン酸リチウムの状態で(「800℃」参照)、結晶性が向上していることがわかる。
【0043】
走査型電子顕微鏡による、マンガン酸リチウムの観察結果について、図3を参照して説明する。図3(a)は、水酸化リチウム、炭酸マンガン、硝酸アルミニウムをポリカルボン酸ポリアミド・アミン塩系増粘剤(日華化学株式会社、ネオステッカーV)で分散させた水溶液を800℃で噴霧熱分解して生成された、本実施形態に係るアルミニウムを5mol%添加したマンガン酸リチウム前駆体の走査型電子顕微鏡写真である。図3(b)は、従来の金属硝酸塩の水溶液を800℃で噴霧熱分解して生成された、マンガン酸リチウム前駆体の走査型電子顕微鏡写真である。金属硝酸塩には、硝酸リチウム、硝酸マンガン、硝酸アルミニウムを用いた。観察には株式会社日立製作所製の走査型電子顕微鏡(S−2300)を用いた。観察試料はイオンコーターで金コーティングした後、加速電圧25kVで測定した。図3(b)の従来の方法では、中空粒子であるが、図3(a)の本実施形態では、緻密な球状粒子が生成されていることがわかる。
【0044】
噴霧熱分解法によってマンガン酸リチウム前駆体を生成した後、800℃で焼成して生成されたマンガン酸リチウムの粉体をリチウムイオン二次電池正極活物質として用いて、正極活物質:導電性バインダー(カーボン/ポリフッ化ビニリデン)=87:13の比率で混合し、さらに、分散液としてN−メチルピロリドン(株式会社クレハ製)を加えてスラリー化したものを集電体金属箔上に塗布後、乾燥およびプレスし、所定のサイズに切り取って正極を形成した。そして、この正極と、負極としてリチウム(本庄ケミカル株式会社製)と、電解液に1M(モル)のLiPF6 EC/DMC(50/50vol%)溶液(富山薬品工業株式会社製)とを使用してリチウムイオン二次電池を作製した。このリチウムイオン二次電池を使用して充放電試験(宝泉バッテリーテスターBTS2004)を行った。測定電圧は3.5V〜4.3Vの範囲とした。
【0045】
噴霧熱分解法によってマンガン酸リチウム前駆体を生成した後、800℃で焼成して生成されたマンガン酸リチウムの粉体をリチウムイオン二次電池正極活物質として用いて形成された正極を備えるリチウムイオン二次電池の室温での放電特性について、図4を参照して説明する。本実施形態に係るマンガン酸リチウム(LiMn2O4)(図4に記載の「1」参照)と、本実施形態に係るアルミニウムを5mol%添加したマンガン酸リチウム(LiAl0.05Mn1.95O4)(図4に記載の「2」参照)とを対象とした。図4に示した放電曲線の縦軸は電圧であり、その単位はVである。横軸は1グラム当たりの比放電容量であり、その単位はmAh/gである。放電曲線は放電レートが1C(1時間充放電)でのときに測定されている。本実施形態に係るマンガン酸リチウムの放電容量は、125mAh/gであった。本実施形態に係るアルミニウムを添加したマンガン酸リチウムの放電容量は、120mAh/gであった。
【0046】
噴霧熱分解法によってマンガン酸リチウム前駆体を生成した後、800℃で焼成して生成された、本実施形態に係るマンガン酸リチウムの粉体をリチウムイオン二次電池正極活物質として用いて形成された正極を備えるリチウムイオン二次電池の室温での充放電サイクル特性について、図5を参照して説明する。図5に示した縦軸は1グラム当たりの比放電容量であり、その単位はmAh/gである。横軸はサイクル数であり、その単位は回数nである。放電曲線は放電レートが1C(1時間充放電)でのときに測定されている。測定サイクル数は74サイクルである。1Cで74サイクル充放電を行った結果、74サイクル後、比放電容量は102mAh/gであった。初回比放電容量129mAh/gの80%を維持していた。
【0047】
噴霧熱分解法によってマンガン酸リチウム前駆体を生成した後、800℃で焼成して生成された、本実施形態に係るマンガン酸リチウムの粉体をリチウムイオン二次電池正極活物質として用いて形成された正極を備えるリチウムイオン二次電池の室温での充放電サイクル特性について、図6を参照して説明する。マンガン酸リチウムには、アルミニウムが5mol%添加されている。図6に示した縦軸は1グラム当たりの比放電容量であり、その単位はmAh/gである。横軸はサイクル数であり、その単位は回数nである。放電曲線は放電レートが1Cでのときに測定されている。測定サイクル数は74サイクルである。1Cで74サイクル充放電を行った結果、74サイクル後、比放電容量は106mAh/gであった。初回比放電容量123mAh/gの86%を維持しており、アルミニウムの添加によりサイクル安定性が高くなった。
【0048】
噴霧熱分解法によってマンガン酸リチウム前駆体を生成した後、800℃で焼成して生成されたマンガン酸リチウムの粉体をリチウムイオン二次電池正極活物質として用いて形成された正極を備えるリチウムイオン二次電池の放電レート毎の充放電特性(放電レート特性)について、図7を参照して説明する。図7で、「1」は本実施形態に係るマンガン酸リチウムによるものであり、「2」は本実施形態に係るアルミニウムを5mol%添加したマンガン酸リチウムによるものである。「3」は従来の方法で生成されたマンガン酸リチウムによるものである。温度は25℃である。放電レートは1C〜10Cまでの範囲である。図7には、「1」、「2」および「3」の放電容量と500サイクル後の初期放電容量に対する維持率とが示してある。放電容量の単位はmAh/gである。維持率の単位は%である。本実施形態に係るマンガン酸リチウムの初期放電容量が放電レート毎に最も高い。500サイクル後は、本実施形態に係るアルミニウムを5mol%添加したマンガン酸リチウムの維持率が放電レート毎に最も高い。
【0049】
噴霧熱分解法によってマンガン酸リチウム前駆体を生成した後、800℃で焼成して生成されたマンガン酸リチウムの粉体をリチウムイオン二次電池正極活物質として用いて形成された正極を備えるリチウムイオン二次電池の温度毎の充放電特性(温度特性)について、図8を参照して説明する。図8で、「1」は本実施形態に係るマンガン酸リチウムによるものであり、「2」は本実施形態に係るアルミニウムを5mol%添加したマンガン酸リチウムによるものである。「3」は従来の方法で生成されたマンガン酸リチウムによるものである。放電レートは1Cである。温度は25℃〜60℃までの範囲である。図8には、「1」、「2」および「3」の各温度での1Cレートの放電容量と500サイクル後の初期放電容量に対する容量維持率とが示してある。放電容量の単位はmAh/gである。容量維持率の単位は%である。本実施形態に係るマンガン酸リチウムの初期放電容量が温度毎に最も高い。500サイクル後は、本実施形態に係るアルミニウムを5mol%添加したマンガン酸リチウムの容量維持率が温度毎に最も高い。
【0050】
なお、放電レートが1C〜10Cまでの範囲で、温度が25℃〜60℃の範である各組合せ(1C−25℃,・・・1C−60℃,3C−25℃,・・・3C−60℃,5C−25℃,・・・5C−60℃,10C−25℃,・・・10C−60℃,)において、同一の組合せについては、本実施形態に係るマンガン酸リチウムの初期放電容量が最も高い。同じく、500サイクル後は、本実施形態に係るアルミニウムを5mol%添加したマンガン酸リチウムの容量維持率が最も高い。
【0051】
(変形例)
上記の本実施形態の製造方法では、加熱工程を噴霧熱分解法によるものとして説明した。しかし、噴霧熱分解法の他、噴霧乾燥法とすることもできる。この場合、加熱工程では、二流体ノズル110から噴霧されたミストを、200℃〜400℃の温度範囲で加熱し、乾燥させて、マンガン酸リチウム粒子(マンガン酸リチウム前駆体)を生成する。生成されたマンガン酸リチウム粒子(マンガン酸リチウム前駆体)は、焼成工程で焼成される。これによっても、上記同様のリチウムイオン二次電池正極活物質としてのマンガン酸リチウムを生成し、これの粉末を得ることができる。なお、噴霧乾燥法では、例えばスプレードライヤー装置が用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るマンガン酸リチウムを使用したリチウムイオン二次電池は、従来のマンガン酸リチウムを使用したリチウムイオン二次電池に比べ、室温および高温でのサイクル特性が改善される。
【0053】
このため、本発明は、リチウムイオン二次電池正極活物質の高温時のマンガンイオン溶出およびサイクル寿命改善ができ、しかも大量生産によりコストダウンが図れる非常に有益なものである。電気自動車・ハイブリッド車の駆動電源のみならず、太陽光発電・風力発電などの自然エネルギーの負荷平準化用電源として利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
100 噴霧熱分解装置
110 二流体ノズル
120 アルミナ管
130 電気炉
140 バグフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン酸リチウムによるリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法であって、
リチウム化合物とマンガン化合物とを、増粘剤で分散させた溶液を生成する溶液生成工程と、
前記溶液生成工程で生成された前記溶液を噴霧し、噴霧された前記溶液のミストを加熱し、マンガン酸リチウム前駆体を生成する加熱工程と、
前記加熱工程で生成された前記マンガン酸リチウム前駆体を焼成し、マンガン酸リチウムを生成する焼成工程とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記リチウム化合物は、リチウムの、炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、塩化物または酢酸塩のいずれかであり、
前記マンガン化合物は、マンガンの、炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、塩化物または酢酸塩のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記溶液生成工程での前記増粘剤の添加濃度が、1重量%〜10重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程では、200℃〜400℃の温度範囲で、前記溶液のミストを加熱し、乾燥させて、前記マンガン酸リチウム前駆体を生成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程では、500℃〜900℃の温度範囲で、前記溶液のミストを加熱し、熱分解させて、前記マンガン酸リチウム前駆体を生成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程では、600℃〜900℃の温度範囲で、前記加熱工程で生成された前記マンガン酸リチウム前駆体を焼成し、前記マンガン酸リチウムを生成することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程では、1時間〜24時間の範囲で、前記加熱工程で生成された前記マンガン酸リチウム前駆体を焼成し、前記マンガン酸リチウムを生成することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記溶液生成工程では、マンガン化合物に対して、アルミニウム化合物を含む3価の金属化合物またはマグネシウム化合物を含む2価の金属化合物が、モル比で0.01〜0.1の範囲で添加されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記溶液生成工程で、マンガン化合物に対して、モル比で0.01〜0.1の範囲で添加される3価の金属化合物が、アルミニウム化合物である場合、アルミニウム化合物は、アルミニウムの、無機塩、酸化物または水酸化物のいずれかであることを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記増粘剤は、会合系増粘剤であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−108406(P2011−108406A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259973(P2009−259973)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】