説明

リチウムイオン二次電池用負極およびこれを用いたリチウムイオン二次電池

【課題】合金系負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用負極において、負極活物質層(特に、外周縁部)からの負極活物質の滑落を防止しうる手段を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池用負極は、集電体11と、当該集電体の表面中央部に形成された、合金系負極活物質を含む負極活物質層15とを有し、該負極活物質層の外周縁部には、当該外周縁部からの負極活物質の滑落を防止するための緩衝層23が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池に関する。より詳細には、リチウムイオン二次電池の耐久性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、及び高いエネルギーを有することが求められている。従って、全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダを用いて正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、バインダを用いて負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
【0005】
従来、リチウムイオン二次電池の負極には充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素・黒鉛系材料が用いられてきた。しかし、炭素・黒鉛系の負極材料ではリチウムイオンの黒鉛結晶中への吸蔵・放出により充放電がなされる。その結果、最大リチウム導入化合物であるLiCから得られる理論容量372mAh/g以上の充放電容量が得られないという欠点がある。このため、炭素・黒鉛系負極材料で車両用途の実用化レベルを満足する容量、エネルギー密度を得るのは困難であると予想される。
【0006】
これに対し、リチウムと合金化しうる材料を負極活物質として用いた電池は、従来の炭素・黒鉛系負極材料と比較して、エネルギー密度が向上しうる。このため、車両用途における負極材料として期待されている。例えば、Si材料は、充放電において下記の反応式のように1molあたり4.4molのリチウムイオンを吸蔵放出し、Li22Siにおいては約2000mAh/gもの理論容量を有する。
【0007】
【数1】

【0008】
しかしながら、リチウムと合金化しうる元素を含む負極活物質(以下、「合金系負極活物質」とも称する)を用いたリチウムイオン二次電池では、充放電時に、負極活物質層が大きく膨張収縮する。例えば、リチウムイオンを吸蔵した場合の体積膨張は、黒鉛では約1.2倍であるのに対し、Si材料では約4.4倍にも達する。
【0009】
上述したように、充放電時において負極活物質層が膨張収縮すると、集電体に大きい応力が働き、集電体の幅方向の端部において破断が生じる場合がある。そこで、従来の負極活物質層に加えて、集電体の幅方向の両端部に、密度のより小さい第2活物質層を設ける技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、集電体の幅方向の両端部に対する応力が軽減され、集電体の破断が防止されうる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007?220450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一方、充放電時に負極活物質層が膨張収縮を繰り返すと、負極活物質層から負極活物質が滑落することが判明した。かような負極活物質の滑落は、電池の内部における短絡(内部短絡)の原因となりうる。なお、上述したような負極活物質の滑落は、負極活物質層の外周縁部において特に顕著に発生しうることも判明した。
【0012】
この点、特許文献1に記載の電極では、第2活物質層も膨張収縮の大きい負極活物質を含む。このため、特許文献1に記載の電極を用いた電池においても、負極活物質の膨張収縮に起因して負極活物質層の特に外周縁部から負極活物質が滑落するという問題は依然として解決されない。
【0013】
そこで本発明は、合金系負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用負極において、負極活物質層(特に、外周縁部)からの負極活物質の滑落を防止しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、負極活物質層の外周縁部に、当該外周縁部からの負極活物質の滑落を防止するための滑落防止手段を設けることで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明のリチウムイオン二時電池用負極は、集電体と、当該集電体の表面中央部に形成された、合金系負極活物質を含む負極活物質層とを有する。そして、当該負極活物質層の外周縁部には、当該外周縁部からの負極活物質の滑落を防止するための滑落防止手段が備えられている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、滑落防止手段が負極活物質の膨張収縮に起因する活物質層の変位を吸収することで、負極活物質層の特に外周縁部からの負極活物質の滑落が防止されうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の代表的な一実施形態である双極型リチウムイオン二次電池の概要を模式的に表した断面概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態の双極型二次電池における負極の拡大断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態の双極型二次電池における負極の拡大断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態の双極型二次電池における負極の平面図である。
【図5】双極型でない積層型のリチウムイオン二次電池の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る組電池の外観図であって、図6Aは組電池の平面図であり、図6Bは組電池の正面図であり、図6Cは組電池の側面図である。
【図7】図6に示す実施形態の組電池を搭載した車両の概念図である。
【図8】実施例1−1および1−2、並びに比較例1の電池について、充放電サイクル数の増加に伴うショート発生率の変化を測定した結果を示すグラフである。
【図9】実施例2並びに比較例2−1および2−2の電池について、充放電サイクル数の増加に伴うショート発生率の変化を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0019】
図1は、本発明の代表的な一実施形態である双極型リチウムイオン二次電池(本明細書では、単に「双極型二次電池」とも称する)の概要を模式的に表した断面概略図である。なお、本明細書においては、双極型のリチウムイオン二次電池を例に挙げて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0020】
図1に示す本実施形態の双極型二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の双極型二次電池10の発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層13が形成され、前記集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層15が形成された複数の双極型電極を有する。各双極型電極は、電解質層17を介して積層されて発電要素21を形成する。なお、電解質層17は、基材としてのセパレータの面方向中央部に電解質が保持されてなる構成を有する。この際、一の双極型電極の正極活物質層13と前記一の双極型電極に隣接する他の双極型電極の負極活物質層15とが電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極および電解質層17が交互に積層されている。すなわち、一の双極型電極の正極活物質層13と前記一の双極型電極に隣接する他の双極型電極の負極活物質層15との間に電解質層17が挟まれて配置されている。
【0022】
隣接する正極活物質層13、電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。したがって、双極型二次電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。また、電解質層17からの電解液の漏れによる液絡を防止する目的で、単電池層19の外周部にはシール部31が配置されている。該シール部31を設けることで、隣接する集電体11間を絶縁し、隣接する電極間の接触による短絡を防止することもできる。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。ただし、正極側の最外層集電体11aの両面に正極活物質層13が形成されてもよい。同様に、負極側の最外層集電体11bの両面に負極活物質層13が形成されてもよい。
【0023】
さらに、図1に示す双極型二次電池10では、正極側最外層集電体11aに隣接するように正極集電板25が配置され、これが延長されて電池外装材であるラミネートシート29から導出している。一方、負極側最外層集電体11bに隣接するように負極集電板27が配置され、同様にこれが延長されて電池外装材であるラミネートシート29から導出している。
【0024】
以下、本実施形態の双極型二次電池を構成する部材について順を追って説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0025】
[集電体]
集電体11は導電性材料から構成され、その両面に活物質層が形成されて電池の電極となり、最終的には電池を構成する。本実施形態において、集電体は、それぞれの層の表面に極性(正極・負極)の異なる活物質層が形成された電池(双極型電池)に用いられる。なお、図1に示すように、複数の単電池層が積層されてなる発電要素を有する電池において最外層に位置する電極は電池反応に関与しないため、最外層に位置する集電体においては、発電要素の内側のみに活物質層が存在すればよい。
【0026】
また、集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。
【0027】
集電体11を構成する材料に特に制限はない。例えば、金属や導電性高分子が採用されうる。具体的には、例えば、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、銅などの金属材料が挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス鋼、銅が好ましい。
【0028】
集電体11の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
【0029】
[負極(負極活物質層)]
(第1実施形態)
本実施形態の双極型二次電池10は、負極の構成に特徴を有する。以下、本実施形態の特徴的な構成について、詳細に説明する。
【0030】
図2は、本発明の第1実施形態の双極型二次電池10における負極の拡大断面図である。図2に示すように、本実施形態における負極は、集電体11と、当該集電体の表面中央部に形成された負極活物質層15とを有する。図2に示す形態において、負極活物質層15は、リチウムと合金化しうる元素であるケイ素(Si)を含有する負極活物質(合金系負極活物質)である酸化ケイ素(SiO)を含む。また、負極活物質層15は、バインダとして、ポリイミド(PI)を含む。
【0031】
そして、集電体11の表面の負極活物質層15の外周部には、負極活物質層15よりも厚さの大きい緩衝層23が形成されている。緩衝層23は、導電助剤として、アセチレンブラック(AB)を含む。また、これに加えて、緩衝層23は、バインダとして、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む。かような構成によって、緩衝層23のヤング率は負極活物質層15のヤング率よりも小さくなるように制御されている。なお、図2に示す形態において、緩衝層23は、負極活物質層15の外周部に全周にわたって形成されている。ただし、本発明の技術的範囲はかような形態のみには制限されず、少なくとも一部に当該緩衝層23が形成されていればよい。
【0032】
図2に示す形態の負極を用いた双極型二次電池10の動作時においては、緩衝層23が、負極活物質層15に含まれる負極活物質の膨張収縮に起因する負極活物質層15の変位を吸収することができる。これにより、電池の動作時において、負極活物質層の特に外周縁部からの負極活物質の滑落が防止されうる。換言すれば、本実施形態において緩衝層23は、負極活物質層15の外周縁部からの負極活物質の滑落を防止するための滑落防止手段として機能するのである。このように、負極活物質層15の外周縁部からの負極活物質の滑落が防止される結果、電池における内部短絡の発生が効果的に抑制されうる。
【0033】
負極活物質層15は、合金系負極活物質を含む。ここで、リチウムと合金化しうる元素としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、インジウム、および亜鉛が挙げられる。かような元素を含む活物質を負極活物質として用いることで、電池の高容量化が可能となる。なお、これらの元素は1種のみが負極活物質に含まれてもよいし、2種以上が負極活物質に含まれてもよい。なかでも、ケイ素またはスズが負極活物質に含まれることが好ましく、ケイ素が含まれることが最も好ましい。
【0034】
上述した合金系負極活物質の具体的な例としては、例えば、金属化合物、金属酸化物、リチウム金属化合物、リチウム金属酸化物(リチウム−遷移金属複合酸化物を含む)などが挙げられる。金属化合物の形態の負極活物質としては、LiAl、LiSi、Li4.4Pb、Li4.4Sn等が挙げられる。また、金属酸化物の形態の負極活物質としては、SnO、SnO、GeO、GeO、InO、In、PbO、PbO、Pb、Pb、SiO、ZnO等が挙げられる。なお、これらの負極活物質は1種のみが負極活物質層15に含まれてもよいし、2種以上が負極活物質層15に含まれてもよい。なかでも、LiSi、Li4.4Sn、SnO、SnO、SiOが負極活物質として好ましく用いられ、特に好ましくはSiOが用いられる。
【0035】
負極活物質15は、上述した合金系負極活物質を含むが、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。負極活物質層15に含まれうる添加剤としては、例えば、バインダ、導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。なお、本明細書においては、負極活物質層15に含まれるバインダを、緩衝層23に含まれるバインダと区別する目的で「第1バインダ」とも称する。以下、これらの添加剤の一例を記載するが、下記の形態のみに限定されることはなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0036】
バインダ(第1バインダ)としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリイミド(PI)、ポリアミド、(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)等が挙げられる。なかでも、第1バインダとしては、好ましくはポリアミド、(PA)、ポリアミドイミド(PAI)が用いられ、より好ましくはポリイミドが用いられる。
【0037】
導電助剤とは、負極活物質層15の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0038】
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(FSON)、Li(CFSON)、Li(CSON)、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO3、LiClO、LiPF(CF3、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C等が挙げられる。
【0039】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0040】
負極活物質層15中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、双極型二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)やイオン伝導性を考慮して調整されうる。
【0041】
緩衝層23の組成について説明する。緩衝層23の組成は、基本的には負極活物質層1
5の組成に類似している。ただし、緩衝層23における、上述した合金系負極活物質の含有量は、低いほど好ましい。具体的には、緩衝層23の全質量に占める合金系負極活物質の含有量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、最も好ましくは0質量%である。
【0042】
緩衝層23は、上述した合金系負極活物質以外の負極活物質(つまり、リチウムと合金化しうる元素を含まない負極活物質)を含んでもよい。かような負極活物質の具体的な種類については、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、活性炭、グラファイト、ハードカーボンなどの炭素材料;リチウムと合金化しない金属(例えば、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、クロム、モリブデン、タングステン、パラジウム、白金およびこれらの合金などの金属材料等が、負極活物質として緩衝層23に含まれうる。これらの負極活物質が緩衝層23に含まれることで、電池の容量密度の低下を最小限に抑制しつつ、合金系負極活物質の膨張収縮に起因する当該活物質の滑落を効果的に防止することが可能である。
【0043】
緩衝層23において、合金系負極活物質以外の負極活物質のほかには、負極活物質層15と同様の材料が含まれうる。すなわち、緩衝層23に含まれうる材料としては、例えば、バインダ、導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。なお、本明細書においては、緩衝層23に含まれるバインダを、負極活物質層15に含まれるバインダと区別する目的で「第2バインダ」とも称する。バインダ以外の材料については上述したのと同様の形態が採用されうる。よって、以下、第2バインダの具体的な形態について説明する。ただし、下記の形態のみに限定されることはなく、従来公知の知見が適宜参照されうることは、上記と同様である。
【0044】
第2バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリイミド(PI)、ポリアミド、(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)等が挙げられる。なかでも、第2バインダとして好ましくは、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、またはこれらの2成分の混合物や、ポリフッ化ビニリデンが用いられる。これらの材料を第2バインダとして用いることで、緩衝層23のヤング率を負極活物質層15よりも低くすることが容易である。
【0045】
なお、第2バインダは、負極活物質層15に含まれる第1バインダと同じであってもよいし、異なっていてもよい。ただし、他の好ましい形態において、第2バインダは、第1バインダよりもヤング率の小さいものであることが好ましい。ここで、第1バインダと第2バインダとの好ましい組み合わせの一例を、下記の表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
本実施形態の負極において、負極活物質層15のヤング率の値、および緩衝層23のヤング率の値は特に制限されず、負極活物質層15よりも緩衝層23のヤング率が小さければよい。
【0048】
緩衝層23中に含まれる成分の配合比についても、特に限定はない。ただし、本発明の作用効果を向上させるという観点から、緩衝層23の組成の具体的な一例を挙げると、例えば以下の通りである(すべて緩衝層23の全質量を基準とする)。まず、緩衝層23におけるバインダ(第2バインダ)の含有量は、0.1〜20質量%程度であり、好ましくは1〜10質量%である。また、緩衝層23における導電助剤の含有量は、1〜99質量%程度であり、好ましくは50〜80質量%である。さらに、緩衝層23における電解質塩(リチウム塩)の含有量は、0〜1質量%程度であり、好ましくは0質量%である。また、緩衝層23におけるイオン伝導性ポリマーの含有量は、1〜99質量%程度であり、好ましくは50〜90質量%である。そして、緩衝層23における合金系負極活物質以外の活物質の含有量は、0〜10質量%程度であり、好ましくは0〜5質量%である。なお、緩衝層23における合金系負極活物質の含有量については、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0049】
図2に示す形態における負極では、上述したように、緩衝層23の厚さは、負極活物質層15の厚さよりも大きい。かような構成とすることにより、緩衝層23の滑落防止手段としての作用効果がより一層効果的に発現しうる。好ましい形態において、緩衝層23の厚さは、負極活物質層15の厚さに対して、好ましくは1倍を超えて4.4倍以下であり、好ましくは2〜4.4倍である。なお、負極活物質層15の厚さや緩衝層23の厚さを検討する際には、負極活物質層15に含まれる合金系負極活物質の膨張時のサイズを考慮するとよい。また、負極活物質層15の厚さや緩衝層23の厚さの具体的な値について特に制限はなく、従来公知の知見および本発明の作用効果を考慮することで、適宜設定が可能である。一例として、負極活物質層15の厚さは、通常は2〜100μm程度であり、好ましくは10〜75μmである。また、緩衝層23の厚さは、通常は2〜200μm程度とすればよく、好ましくは5〜150μmである。なお、負極活物質層15の厚さや緩衝層23の厚さが一様ではない場合、これらの層の「厚さ」とは、当該層における最も厚い部位における厚さを意味するものとする。
【0050】
負極の積層方向から見た場合の負極活物質層15や緩衝層23のサイズについて特に制限はなく、所望の電池性能と本発明の作用効果とのバランスを勘案することにより、適宜決定されうる。なお、負極活物質層15は、詳細は後述する正極における正極活物質層13よりも大きいことが好ましい。より正確に言えば、負極活物質層15および正極活物質層13のそれぞれ対向する側の面を、単電池層19の積層方向から見た場合に、負極活物質層15の対向面が正極活物質層13の対向面を包含することが好ましい。かような形態によれば、正極活物質層13の外周縁部は、電解質層17を介して必ず負極活物質層15と対向することになる。その結果、充電時に負極活物質層15においてリチウム金属が析出する現象(いわゆる、電析)の発生が防止されうる。
【0051】
本実施形態の負極を製造する手法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。製造手法の一例を説明すると、まず、負極活物質層15および緩衝層23を構成する材料をそれぞれ適当な溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP))に添加してスラリーを調製する。この際、構成材料の添加量や溶媒の使用量は特に制限されず、得られるスラリーの所望の粘度などの物性を考慮して適宜決定されうる。続いて、別途準備した集電体の表面に、ドクターブレードなどの慣用の塗布手段を用いて当該スラリーを所望のパターンで塗布し、乾燥(溶媒を揮発)させることにより、負極活物質層15および緩衝層23をそれぞれ作製することが可能である。なお、負極活物質層15および緩衝層23のいずれを先に作製しても問題ない。可能であれば、これらを同時に作製しても構わない。スラリーの塗布量を制御することで、得られる負極活物質層15および緩衝層23の厚さが調整されうる。
【0052】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態の双極型二次電池10における負極の拡大断面図である。また、図4は、本発明の第2実施形態の双極型二次電池10における負極の平面図である。本実施形態の双極型二次電池10は、負極の構成において、上述した実施形態とは異なる特徴を有する。以下、本実施形態の特徴的な構成について、詳細に説明する。
【0053】
具体的には、図3および図4に示すように、本実施形態における負極は、集電体11と、当該集電体の表面中央部に形成された負極活物質層15とを有する。そして、図3および図4に示す実施形態では、負極活物質層15の外周縁面(図3に示す15’)が傾斜することにより、傾斜部を形成している。当該傾斜縁面15’は、集電体11の負極活物質層15と接する主表面に垂直な面(図3に示す11’)に対して、負極活物質層15の中央部側に傾斜角θ(図3においては、θ=45°)だけ傾斜している。なお、当該傾斜部は、負極活物質層15と一体に形成されている。かような構成によって、負極活物質層15の集電体11と接する主表面(図4に示す15a)の面積が、当該負極活物質層15の異なる主表面(図4に示す15b)の面積よりも大きくなっている。なお、図3および図4に示す形態においては、負極活物質層15の外周縁面15’の全体が負極活物質層15の中央部側に45°の傾斜角で傾斜している。ただし、本発明の技術的範囲はかような形態のみには制限されず、外周縁面15’の少なくとも一部が負極活物質層15の中央部側に傾斜することにより傾斜部が形成されていればよい。また、傾斜部の全体にわたって傾斜角θが同一である必要はなく、部位によって傾斜角θが変動しても構わない。
【0054】
図3および図4に示す形態の負極を用いた双極型二次電池10の動作時においては、傾斜部が、負極活物質層15に含まれる負極活物質の膨張収縮に起因する負極活物質層15の変位を吸収することができる。これにより、電池の動作時において、負極活物質層15の特に外周縁部からの負極活物質の滑落が防止されうる。換言すれば、本実施形態において負極活物質層15の外周縁部に形成された傾斜部は、負極活物質層15の外周縁部からの負極活物質の滑落を防止するための滑落防止手段として機能するのである。このように、負極活物質層15の外周縁部からの負極活物質の滑落が防止される結果、電池における内部短絡の発生が効果的に抑制されうる。このように、負極活物質層15の外周縁部に、当該外周縁部からの前記負極活物質の滑落を防止するための滑落防止手段を備えるという点で、当該第2実施形態は上述した第1実施形態と共通する。
【0055】
本実施形態において、負極活物質層15の組成や厚さ、サイズなどの具体的な形態としては、上述の第1実施形態と同様の形態が採用されうる。よって、ここでは詳細な説明を省略する。
【0056】
傾斜角θについても特に制限はない。傾斜角θは、電池に要求される所望の電池容量と、滑落防止手段としての作用効果とのバランスを勘案して、適宜設定されうる。ただし、好ましい形態においては、傾斜角θについてのTanθが所定の範囲内の値に制御される。ここで、tanθは、傾斜部が負極活物質層15の中央部側に切り込まれた水平方向の幅(図3に示す距離A)と、負極活物質層15の厚さ(図3に示す距離B)との比(A/B)として算出可能である。具体的には、tanθは、好ましくは1〜5であり、より好ましくは1〜2であり、さらに好ましくは1である。かような構成とすることにより、本実施形態の電極が適用された電池の容量密度の低下を最小限に抑制しつつ、本発明の作用効果をより一層発揮させることが可能となる。
【0057】
上述したように、本実施形態の負極においては、傾斜部の存在によって、負極活物質層15の集電体11と接する主表面15aの面積が、当該負極活物質層15の異なる主表面15bの面積よりも大きくなっている。これら2つの主表面(15a、15b)の面積比についても特に制限はない。
【0058】
なお、電析を防止するという観点からは、本実施形態においても、上述した第1実施形態と同様に、負極活物質層15は正極における正極活物質層13よりも大きいことが好ましい。
【0059】
本実施形態の負極を製造する手法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。製造手法の一例を説明すると、まず、負極活物質層15を構成する材料を適当な溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP))に添加してスラリーを調製する。この際、構成材料の添加量や溶媒の使用量は特に制限されず、得られるスラリーの所望の粘度などの物性を考慮して適宜決定されうる。続いて、別途準備した集電体の表面に、ドクターブレードなどの慣用の塗布手段を用いて当該スラリーを所望のパターンで塗布し、乾燥(溶媒を揮発)させることにより、負極活物質層の前駆体を作製する。そして、負極活物質層15の外周縁面が所望の傾斜角で傾斜するように、当該前駆体の外周縁部を切断すればよい。これにより、傾斜部が負極活物質層と一体に形成されてなる負極を作製することが可能である。なお、スラリーの塗布量を制御することで、得られる負極活物質層15の厚さが調整されうる。
【0060】
以上、本発明の好適な2つの実施形態を例に挙げて本発明の負極について説明したが、本発明の技術的範囲はかような形態のみには制限されない。例えば、上述した2つの実施形態の双方の特徴を有するリチウムイオン二次電池用負極もまた、本発明の技術的範囲に包含されうる。すなわち、外周縁面が傾斜することにより外周縁部に傾斜部が形成されてなる負極活物質層のさらに外周部に、負極活物質層よりもヤング率の小さい緩衝層が形成される形態もまた、採用されうる。かような形態において、緩衝層は、図2に示すのと同様の、直立した形状であってもよいし、傾斜部の存在によって発生した空間をも埋めるように形成されてもよい。
【0061】
[正極(正極活物質層)]
正極活物質層13は正極活物質を含み、必要に応じて他の添加剤を含みうる。正極活物質層13の構成要素のうち、正極活物質以外は、負極活物質層15について上述したのと同様の形態が採用されうるため、ここでは説明を省略する。正極活物質層13に含まれる成分の配合比および正極活物質層の厚さについても特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0062】
正極活物質は、特にリチウムの吸蔵放出が可能な材料であれば特に限定されず、リチウムイオン二次電池に通常用いられる正極活物質が利用されうる。具体的には、リチウム−遷移金属複合酸化物が好ましく、例えば、LiMnなどのLi−Mn系複合酸化物、LiNiOなどのLi−Ni系複合酸化物、LiNi0.5Mn0.5などのLi−Ni−Mn系複合酸化物が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。
【0063】
[電解質層]
電解質層17は、正極活物質層と負極活物質層との間の空間的な隔壁(スペーサ)として機能する。また、これと併せて、充放電時における正負極間でのリチウムイオンの移動媒体である電解質を保持する機能をも有する。
【0064】
電解質層を構成する電解質に特に制限はなく、液体電解質、ならびに高分子ゲル電解質および高分子固体電解質などのポリマー電解質が適宜用いられうる。
【0065】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)などのカーボネート類が挙げられる。また、支持塩(リチウム塩)としては、LiN(SO、LiN(SOCF、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSOCFなどの電極の活物質層に添加されうる化合物を同様に用いることができる。
【0066】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない高分子固体電解質に分類される。
【0067】
ゲル電解質は、リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体などが挙げられる。かようなマトリックスポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0068】
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンやポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素、ガラス繊維などからなる微多孔膜が挙げられる。
【0069】
高分子固体電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。したがって、電解質層が高分子固体電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0070】
高分子ゲル電解質や高分子固体電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発揮しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合などの重合処理を施せばよい。なお、上記電解質は、電極の活物質層中に含まれていてもよい。
【0071】
[シール部]
シール部31は、双極型二次電池に特有の部材であり、電解質層17の漏れを防止する目的で単電池層19の外周部に配置されている。このほかにも、電池内で隣り合う集電体同士が接触したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こったりするのを防止することもできる。図1に示す形態において、シール部31は、隣接する2つの単電池層19を構成するそれぞれの集電体11で挟持され、電解質層17の基材であるセパレータの外周縁部を貫通するように、単電池層19の外周部に配置されている。シール部31の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ゴム、ポリイミドなどが挙げられる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、製膜性、経済性などの観点からは、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0072】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板25と負極集電板27とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。また、最外層集電体(11a、11b)を延長することにより集電板としてもよいし、図1に示すように別途準備したタブを最外層集電体に接続してもよい。
【0073】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0074】
[外装]
外装としては、図1に示すようなラミネートシート29が用いられうる。ラミネートシートは、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなる3層構造として構成されうる。なお、場合によっては、従来公知の金属缶ケースもまた、外装として用いられうる。
【0075】
以上、図1に示す形態の双極型二次電池10を例に挙げて、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、例えば、双極型でないリチウムイオン二次電池にも適用されうる。図5は、双極型でない積層型のリチウムイオン二次電池の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【0076】
図5に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池10’は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。詳しくは、高分子−金属複合ラミネートシートを電池外装材として用いて、その周辺部の全部を熱融着にて接合することにより、発電要素21を収納し密封した構成を有している。
【0077】
発電要素21は、正極集電体11の両面に正極活物質層13が配置された正極と、電解質層17と、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、正極、電解質層および負極がこの順に積層されている。
【0078】
これにより、隣接する正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。従って、本実施形態のリチウムイオン電池10’は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層19の外周には、隣接する正極集電体11と負極集電体12との間を絶縁するためのシール部(絶縁層)(図示せず;図1の符号31を参照)が設けられていてもよい。発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層12が配置されている。なお、図5とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層負極集電体が位置するようにし、該最外層負極集電体の片面のみに負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0079】
正極集電体11および負極集電体12は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板25および負極集電板27がそれぞれ取り付けられ、ラミネートシート29の端部に挟まれるようにしてラミネートシート29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0080】
本実施形態の双極型二次電池10やリチウムイオン二次電池10’は、上述した実施形態の負極を用いている。よって、これらの電池では、動作時における内部短絡の発生が効果的に抑制されうる。このため、本実施形態によれば、信頼性の高い電池が提供されうる。
【0081】
[組電池]
上述した実施形態の双極型二次電池10やリチウムイオン二次電池10’は、複数個接続されて組電池を構成してもよい。詳しくは、少なくとも2つの電池が、直列化あるいは並列化あるいはその両方で接続されることにより、組電池が構成されうる。この際、直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0082】
本実施形態の組電池を構成する二次電池の数および接続の仕方は、電池に求める出力および容量に応じて決定されうる。本実施形態によれば、高寿命で信頼性の高い組電池が提供されうる。また、本実施形態の組電池を構成することにより、組電池を構成する1つの単電池層(単セル)の劣化による組電池全体への影響を低減することもできる。
【0083】
図6は、本発明の一実施形態に係る組電池の外観図であって、図6Aは組電池の平面図であり、図6Bは組電池の正面図であり、図6Cは組電池の側面図である。
【0084】
図6に示す形態では、上述した実施形態の電池(10、10’)が複数、直列および/または並列に接続されて装脱着可能な小型の組電池35が形成されている。そして、この装脱着可能な小型の組電池35がさらに複数、直列および/または並列に接続され、組電池37とされている。これにより、組電池37は、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池37とされる。作製した装脱着可能な小型の組電池35は、バスバーのような電気的な接続手段を用いて相互に接続され、この組電池35は接続治具39を用いて複数段積層される。何個の非水電解質二次電池を接続して組電池35を作成するか、また、何段の組電池35を積層して組電池37を作成するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0085】
[車両]
上述した実施形態の二次電池(10、10’)や組電池37は、車両の駆動用電源として用いられうる。これらの二次電池または組電池は、例えば、自動車ならばハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いられうる。これにより、高寿命で信頼性の高い自動車が提供されうる。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両であれば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【0086】
図7は、図6に示す実施形態の組電池37を搭載した車両の概念図である。
【0087】
図7に示すように、組電池37を電気自動車40のような車両に搭載するには、電気自動車40の車体中央部の座席下に搭載する。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができるからである。なお、組電池37を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームに搭載してもよい。以上のような組電池37を用いた電気自動車40は優れた耐久性を有し、長期間使用しても十分な出力を提供しうる。さらに、燃費、走行性能に優れた電気自動車、ハイブリッド自動車を提供できる。
【0088】
以上、本発明の好適な実施形態について示したが、本発明は、以上の実施形態に限られず、当業者によって種々の変更、省略、および追加が可能である。
【実施例】
【0089】
以下、本発明による効果を、実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されない。
【0090】
[実施例1−1]
(負極の作製)
まず、合金系負極活物質である酸化ケイ素(SiO)(平均粒子径:8μm)(85質量部)およびバインダであるポリイミド(PI)(15質量部)を、スラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の適量に対して添加して、負極活物質スラリーを調製した。
【0091】
同様に、導電助剤であるアセチレンブラック(AB)(90質量部)およびバインダであるポリイミド(PI)(10質量部)を、スラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の適量に対して添加して、緩衝層形成用スラリーを調製した。
【0092】
一方、負極集電体として、銅箔(厚さ10μm、φ20mm)を準備した。次いで、準備した銅箔の中央部の負極活物質を形成する部位(φ16mm)に保護テープを貼付した。これにより、銅箔の外周縁部を2mm幅で露出させた。
【0093】
銅箔の外周縁部の露出部の全体に、上記で調製した緩衝層形成用スラリーを塗布し、乾燥させ、次いで保護テープを剥離することにより、銅箔表面の外周縁部に緩衝層(厚さ:100μm)を形成した。その後、枠形に形成された緩衝層の内部の領域(保護テープが貼付されていた部位)の全体に、上記で調製した負極活物質スラリーをドクターブレードを用いて塗布し、乾燥させて、負極活物質層(厚さ:75μm、電極密度:1.3g/cm)を形成した。最後に、得られた積層体を120℃の真空オーブン中で8時間さらに乾燥させることにより、本実施例の負極を完成させた。
【0094】
(電解液の調製)
有機溶媒であるエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との等体積混合液に、電解質塩であるLiPFを添加して、電解液を調製した。この際、電解液におけるLiPFの濃度が1モル/Lとなるように添加量を調整した。
【0095】
(電池の作製)
電解質層を構成する基材として、ポリエチレン製微多孔質セパレータ(厚さ25μm)を準備した。そして、上記で作製した負極と、別途準備した金属リチウム箔からなる正極(厚さ100μm、サイズφ15mm)とで、負極活物質層が正極側を向くように、上記で準備したセパレータを挟持した。得られた積層体をステンレス製電池ケース内に収容した後、上記で調製した電解液を注液し、絶縁用ガスケットを用いて当該ケースを封口することにより、本実施例のコイン型電池を作製した。
【0096】
[実施例1−2]
緩衝層形成用スラリーに添加されるバインダの組成を、導電助剤であるアセチレンブラック(AB)(85質量部)、およびスチレン−ブタジエンゴム(SBR)(9質量部)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)(6質量部)の合計で15質量部としたこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、本実施例のコイン型電池を作製した。
【0097】
[比較例1]
緩衝層を形成することなく、銅箔の全面に負極活物質層(厚さ:75μm)を形成したこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、本比較例のコイン型電池を作製した。
【0098】
[電池の評価]
上述した実施例1−1および1−2、並びに比較例1の電池をそれぞれ20個ずつ作製し、25℃にて、電池電圧0.05〜1.5Vの間で充放電サイクル試験を実施した。この際、充放電時の電流密度を1.0mA/cmとし、50サイクルの充放電を行なった。なお、充電と放電との間には、毎回1時間のレストを置き、その際、異常電圧品については内部短絡を発生しているものとみなして、その後の試験から除外した。また、1、5、10、20、30、50サイクルのそれぞれの終了時点において、異常電圧品の個数を計数した。その結果(ショート発生率=電池の全個数に対して異常電圧品の占める割合(%))を下記の表2に示す。また、表2に示す結果に対応するグラフを図8に示す。
【0099】
【表2】

【0100】
表2および図8に示す結果からわかるように、実施例1−1および実施例1−2では、比較例1と比較して、ショート発生率が顕著に改善された。これは、本発明の第1実施形態のように、緩衝層を滑落防止手段として設けたことによると考えられる。
【0101】
また、実施例1−1と実施例1−2との比較から、緩衝層に含まれるバインダ(第2バインダ)をポリイミド(PI)からスチレン−ブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)との混合物とすることで、ショート発生率がより一層顕著に改善されることがわかる。これは、実施例1−2で用いられている第2バインダのヤング率が、実施例1−1のものと比較して小さいことによるものと考えられる。
【0102】
[実施例2]
(負極の作製)
まず、上述した実施例1−1と同様の手法により、負極活物質スラリーを調製した。
【0103】
一方、負極集電体として、銅箔(厚さ10μm、φ20mm)を準備した。次いで、準備した銅箔の全面に、上記で調製した負極活物質スラリーをドクターブレードを用いて塗布し、乾燥させて、負極活物質層(厚さ:75μm、電極密度:1.3g/cm)を形成した。
【0104】
次いで、電極のスリット時に、負極活物質層の外周縁部が当該層の中央部側に傾斜角45°で傾斜するように、負極活物質層を切断した(なお、tanθ=1である)。最後に、得られた積層体を120℃の真空オーブン中で8時間さらに乾燥させることにより、本実施例の負極を完成させた。
【0105】
(電池の作製)
上述したこと以外は、上記実施例1−1と同様の手法により、本実施例のコイン型電池を作製した。
【0106】
[比較例2−1]
上記比較例1と同様の手法により、本比較例のコイン型電池を作製した。
【0107】
[比較例2−2]
インクジェットプリンタを用いて負極活物質スラリーを格子状に集電体に塗布したこと以外は、上記比較例2−1と同様の手法により、本比較例のコイン型電池を作製した。この際、塗布した格子の形状は100μm四方の正方形とし、格子間距離は20μmとした。
【0108】
[電池の評価]
上述した実施例2並びに比較例2−1および2−2の電池をそれぞれ20個ずつ作製し、上記と同様の手法により、充放電サイクル試験を実施した。その結果(ショート発生率)を下記の表3に示す。また、表3に示す結果に対応するグラフを図9に示す。
【0109】
【表3】

【0110】
表3および図9に示す結果からわかるように、実施例2では、比較例2−1および2−2と比較して、ショート発生率が顕著に改善された。これは、本発明の第2実施形態のように、負極活物質層の傾斜部を滑落防止手段として設けたことによると考えられる。
【0111】
また、合金系負極活物質の膨張収縮に起因する負極活物質の滑落を防止しうる1つの手法である格子状パターンでの負極活物質層の形成を行なった場合(比較例2−2)と比較しても、ショート発生率が改善されうることがわかる。すなわち、本発明の実施形態によれば、極めて簡便な手法によって、負極活物質層からの負極活物質の滑落を防止しうる手段が提供されうる。
【符号の説明】
【0112】
10 双極型二次電池、
10’ リチウムイオン二次電池
11 集電体(正極集電体)、
11a 正極側最外層集電体、
11b 負極側最外層集電体、
12 負極集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
15’ 負極活物質層の外周縁面、
15a 負極活物質層の集電体と接する主表面、
15b 負極活物質層の異なる主表面、
17 電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
23 緩衝層、
25 正極集電板、
27 負極集電板、
29 ラミネートシート、
31 シール部、
35 小型の組電池、
37 組電池、
39 接続冶具、
40 電気自動車、
A 傾斜部が負極活物質層の中央部側に切り込まれた水平方向の幅、
B 負極活物質層の厚さ、
θ 傾斜角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体の表面中央部に形成された、リチウムと合金化しうる元素を含有する負極活物質を含む負極活物質層と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記負極活物質層の外周縁部に、当該外周縁部からの前記負極活物質の滑落を防止するための滑落防止手段を備えることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
前記滑落防止手段として、前記集電体の表面であって前記負極活物質層の外周部に形成された、前記負極活物質層よりもヤング率の小さい緩衝層を有する、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記負極活物質層が第1バインダをさらに含み、
前記緩衝層が、導電助剤と、前記第1バインダよりもヤング率の小さい第2バインダとからなる、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
前記第2バインダが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン−ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、およびアクリル系樹脂からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
前記緩衝層の厚さが、前記負極活物質層よりも大きい、請求項2〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
前記緩衝層が、リチウムと合金化しうる元素を含まない負極活物質を含む、請求項2〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
前記滑落防止手段として、前記負極活物質層の外周縁面が前記集電体の前記負極活物質層と接する主表面に垂直な面に対して前記負極活物質層の中央部側に傾斜してなる傾斜部が前記負極活物質層と一体に形成されてなる、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項8】
前記外周縁面の前記垂直な面に対する傾斜角をθとしたときのtanθが1〜5である、請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項9】
前記リチウムと合金化しうる元素が、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、インジウム、および亜鉛からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項10】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する電解質層と、を有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極の少なくとも1つが請求項1〜9のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極である、リチウムイオン二次電池。
【請求項11】
双極型である、請求項10に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
請求項10または11に記載のリチウムイオン二次電池を用いた組電池。
【請求項13】
請求項10または11に記載のリチウムイオン二次電池、または請求項12に記載の組電池をモータ駆動用電源として搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−176980(P2010−176980A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17099(P2009−17099)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】