説明

リチウムイオン二次電池用負極およびそれを用いるリチウムイオン二次電池

【課題】充放電時の体積変化の大きい活物質を用いた場合でも、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を与える負極およびその負極を用いるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】シート状の集電体およびその上に担持された活物質層を備え、集電体は、基材部および基材部よりも塑性変形しやすい表層部を含み、表層部は、凹凸を有しており、活物質層は、ケイ素を含む複数の柱状粒子を含み、前記柱状粒子が表層部に担持されているリチウムイオン二次電池用負極、ならびにそれを用いるリチウムイオン二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素を含む負極活物質を含むリチウムイオン二次電池用負極、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関し、具体的には負極に用いられる集電体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話などのポータブル機器の開発に伴い、その電源としての電池の需要が増大している。上記のような用途に用いられる電池には、常温での使用が求められると同時に、高いエネルギー密度と優れたサイクル特性が要望されている。
【0003】
この要望に対し、非常に高い容量が得られるケイ素(Si)もしくは錫(Sn)の単体、酸化物または合金を負極活物質として用いる電池が有望視されている。
ただし、上記のような負極活物質は、リチウムを吸蔵するときに結晶構造が変化し、その体積が増加する。充放電時の活物質の体積変化が大きいと、活物質と集電体との接触不良等が生じるため、充放電サイクル寿命が短くなる。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば、表面を粗化した集電体上に、ケイ素の薄膜を形成することが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特許3733065号公報(国際公開第2001/029912号パンフレット)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、文献1の負極では、Si薄膜内に空間がないため、充電時に活物質が膨張した場合に、Si薄膜に多大な応力が発生し、Si薄膜が集電体から剥がれたり、極板が変形したりする。
【0006】
そこで、本発明は、充放電時の体積変化の大きい活物質を用いた場合でも、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を与える負極およびその負極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、シート状の集電体とその上に担持された活物質層とを備える。集電体は、基材部と、基材部よりも塑性変形しやすい表層部とを含み、表層部は、凹凸を有している。活物質層は、ケイ素を含む複数の柱状粒子を含み、柱状粒子は、表層部に担持されている。
【0008】
本発明の一実施形態において、表層部の硬度は、基材部の硬度よりも低いことが好ましい。例えば、基材部および表層部が銅を含み、表層部に含まれる銅の濃度を、前記基材部に含まれる銅の濃度よりも高くすることにより、表層部の硬度を、基材部の硬度よりも低くすることができる。
このような表層部は、基材部の表面に圧着された純度の高い銅箔を含んでもよいし、基材部の表面に銅をメッキすることにより形成されてもよいし、基材部の表面に銅を蒸着することにより形成されてもよい。
【0009】
本発明の別の実施形態において、表層部は、多孔質であることが好ましい。多孔質の表層部は、基材部をエッチングすることにより形成されてもよいし、基材部の表面に銅を電着することにより形成されてもよい。
【0010】
本発明のさらに別の実施形態において、表層部が多孔質であるとともに、基材部および表層部が銅を含み、表層部に含まれる銅の濃度が、前記基材部に含まれる銅の濃度よりも高いことが好ましい。
【0011】
前記柱状粒子は、集電体の表面の法線方向に対して傾斜して成長した複数の粒層の積層体を含むことが好ましい。前記積層体に含まれる複数の粒層の成長方向は、集電体の表面の法線方向に対し、第1方向と第2方向に交互に傾斜していることがさらに好ましい。
【0012】
また、本発明は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極、上記負極、および正極と負極の間に配置されたセパレータを含む電極群と、リチウムイオン伝導性を有する電解質と、電極群および電解質を収容する電池ケースとを具備するリチウムイオン二次電池に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明において、集電体は、基材部と、基材部よりも塑性変形しやすい表層部とを含む。この表層部は、応力をかけると容易に変形する。このため、集電体の表面に、任意形状の凹凸を形成することができる。
また、基材部を、表層部と比較して硬度の高い層とすることで、金型を用いて、集電体の表面に凹凸を形成する場合に、集電体全体がゆがむことがない。
さらに、集電体上に活物質層を形成する場合、集電体の表面には凹凸が形成されているので、凸部に集中的に、ケイ素を含む柱状の活物質粒子を形成できる。このため、柱状粒子間に隙間が形成される。この結果、充電時の柱状粒子の膨張応力が緩和されて、柱状粒子が集電体から剥がれることが抑制されるとともに、極板の変形も抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、シート状の集電体およびその上に担持された活物質層を備える。集電体は、基材部と、基材部よりも塑性変形しやすい表層部を含む。表層部は、凹凸を有している。活物質層は、ケイ素を含む複数の柱状粒子を含み、前記柱状粒子は、表層部に担持されている。
【0015】
上記リチウムイオン二次電池用負極において、集電体は、基材部よりも塑性変形しやすい表層部を有する。この表層部は、応力をかけると容易に変形する。このため、集電体表面に、例えば、機械的応力をかけることにより、集電体の表面に、容易に任意のサイズの凹凸を形成することができる。例えば、表面に凹凸を規則的に配列した金型を用いて集電体を加圧することにより、集電体表面に凹凸を容易に形成することが可能となる。
【0016】
表層部が塑性変形しにくい層であるか、または硬質な層であると、集電体表面に凹凸を形成するために多大な応力が必要となる。その結果、そのような応力をかけるための生産装置のコストが増加したり、生産効率が低下したりする。さらに、集電体に多大な応力をかけると、集電体が切断される可能性もある。
【0017】
例えば、表層部の硬度を、基材部の硬度よりも低くすることにより、表層部を基材部よりも塑性変形しやすくすることができる。表層部の塑性変形を容易とするために、表層部のビッカース硬さは、200以下であることが好ましく、160以下であることがさらに好ましい。
なお、ビッカース硬さは、JIS Z2244に準拠して測定することができる。
【0018】
ビッカース硬さが200以下である表層部としては、例えば、純度の高い銅からなる層が挙げられる。純度の高い銅からなる層において、銅の比率は99.9wt%以上であることが望ましい。
【0019】
なお、上記のように、表層部の硬度を基材部の硬度より低くしている場合、つまり、基材部の硬度を表層部の硬度より高くしている場合には、集電体表面に凹凸を設けるときに、集電体全体がゆがんだり、うねりが生じたりするのを防ぐこともできる。集電体のゆがみやうねりは、集電体の両面に同時に凹凸を設ける場合に生じやすい。
集電体全体がゆがんだり、集電体にうねりが生じたりすると、負極、セパレータ、および正極を捲回して、電極群を構成することが困難となる。また、不必要な空間が電極群内に形成されるため、リチウムイオン二次電池の容量が低下する。
【0020】
表層部を多孔質とすることにより、表層部を基材部よりも塑性変形しやすくすることもできる。この場合にも、表層部のビッカース硬さは、200以下であることが好ましく、160以下であることがさらに好ましい。なお、表層部を構成する材料自体の硬さが高くても、表層部を多孔質とすることにより、表層部の硬度を低くすることができ、塑性変形しやすくすることができる。
【0021】
表層部の多孔度は、ビッカース硬度が低減するように調節される。
また、表層部が多孔質である場合、凹凸を設ける前の表層部の表面粗さRaは、0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。なお、表面粗さRaは、JIS B0601−1994に準拠して測定することができる。
【0022】
多孔質の表層部は、例えば、基材部の表面を異方的にエッチングすることにより作製することができる。このように、エッチングによって、基材部の表面に多数の孔を形成することで、ビッカース硬度が低い表層部を形成することができる。
【0023】
また、多孔質の表層部は、多数の堆積した金属粒子から構成することもできる。このような多孔質の表層部は、電着により基材部の表面に多数の金属粒子を形成することにより作製することができる。
本発明において、電着とは、所定の金属イオンを含む電解液を用い、通常のメッキの場合よりも高い電流密度(例えば、限界電流密度以上)を用いることにより、所定のサイズの多数の金属粒子を基材部の表面に成長させ、金属粒子を固定させることをいう。金属粒子の基材部表面への固定は、例えば、金属粒子とその周りに、所定の金属からなる薄膜が形成されるようにめっきを施すことで行うことができる。
【0024】
上記電着により、基材部の表面に、例えば、純度の高い銅粒子(銅比率が99.9wt%以上)を形成することができる。
【0025】
形成される金属粒子のメジアン粒径は、1μm〜10μmであることが望ましい。金属粒子のメジアン粒径が1μm未満である場合、表層部の製造が困難となり、製造コストが高くなる。金属粒子のメジアン粒径が10μmより大きい場合には、表層部のビッカース硬度を低くすることができない。このため、表層部の加工性を高める効果が十分に得られない。
【0026】
表層部に設けられる凹凸の平均高低差(つまり、凸部の平均高さ)は、1〜15μmであることが好ましく、3〜10μmであることがさらに好ましい。凹凸の平均高低差を1μm以上とすることにより、活物質層の空隙率が高くなるため、活物質の膨張緩和効果が高まる。その結果、極板の変形や活物質の剥がれが抑制されるので、サイクル特性を向上させることができる。凹凸の平均高低差が15μmより大きくなると、活物質層の空隙率が大きくなりすぎて、負極のエネルギー密度が低下することがある。
【0027】
凹凸の平均高低差は、集電体を切断し、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察により、例えば、2〜10個の凹凸の高低差を測定し、得られた値の平均値で表される。つまり、凹凸の平均高低差は、集電体の表面の法線方向における、凹部の最も低い位置から凸部の最も高い位置までの高さの平均値のことをいう。
【0028】
表層部の厚みは、形成する凹凸の平均高低差、凹凸の配置等に依存する。例えば、凹凸を設けた後の表層部の厚さは、1〜8μmであることが好ましい。なお、この場合の表層部の厚さは、凹凸の高さの平均位置と表層部の基材部側の端との間の最短距離である。凹凸の高さの平均位置とは、凸部における前記凹凸の平均高低差の半分の高さの位置のことをいう。
表層部の厚さは、上記と同様に、SEMを用いて求めることができる。
【0029】
基材部のビッカース硬さは、200より高いことが好ましく、250以上であることがさらに好ましい。基材部を硬くすることにより、表層部を塑性変形させて凹凸を形成する場合に、基材部の変形を抑制することができる。また、活物質が膨張した場合でも、極板の変形を抑制することができる。
なお、表層部のビッカース硬さが200よりもかなり低い場合には、基材部のビッカース硬さは、200程度でもよい。
【0030】
ビッカース硬さが200より高い基材部の例としては、銅に、クロム、スズ、亜鉛、ケイ素、ニッケルなどを0.2wt%ずつ添加した銅合金箔が挙げられる。さらには、銅にスズを0.05〜0.2wt%添加した銅合金箔、銅にジルコニウムを0.02〜0.2wt%添加した銅合金箔、銅にチタンを1〜4wt%添加した銅合金箔、およびニッケル箔を挙げることもできる。
なお、表層部のビッカース硬さが低い場合には、ステンレス鋼箔を、基材部として用いることもできる。
【0031】
表層部のビッカース硬さと、基材部のビッカース硬さとの差は、30以上であることが好ましく、50以上であることがさらに好ましい。これは、表層部が基材部の硬度に対して相対的に低ければ、表層部を塑性変形させるための応力に対して、基材部は変形を阻止することが出来るからである。
【0032】
基材部の厚さは、8〜30μmであることが好ましい。基材部の厚さは、活物質層の厚さ、その空隙率等に応じて適宜選択することが好ましい。基材部の厚さが8μm以上であれば、加工性を維持しつつ、集電体の変形を抑制できる。基材部の厚さが30μmより大きくなると、電池の体積に占める基材部の割合が高いため、高容量の電池を設計することができなくなる。
また、基材部の厚さに対する凹凸が設けられた表層部の厚さの比は、基材部の上記厚さの範囲に応じて、3〜50%であることが好ましい。
【0033】
また、基材部は、表層部より硬度が高ければ、多孔質であってもよい。基材部が多孔質である場合、基材部の表面粗さRaは、0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0034】
本発明において、集電体を構成する基材部および表層部が銅を含み、表層部に含まれる銅の濃度が、基材部に含まれる銅の濃度よりも高いことが好ましい。このような集電体は、例えば、上記のような銅合金からなる硬質の基材部と、基材部を構成する銅合金よりも銅比率の高い銅材料からなる表層部とから構成することができる。銅比率の高い銅材料としては、上記と同様に、銅比率が99.9wt%以上の銅箔を用いることができる。
このような集電体は、例えば、上記銅合金からなる硬質の銅箔(基材部)と、硬質の銅箔よりも純度の高い銅箔(表層部)とを張り合わせることにより形成することができる。なお、硬質の銅箔と純度の高い銅箔とは、純度の高い銅箔に凹凸を設ける時に、圧着させることができる。従って、このような構成の集電体は、接着剤等を使用することなく作製することができる。
【0035】
また、銅比率の高い銅材料からなる表層部は、基材部の表面に銅をメッキすることにより形成することができる。メッキ法として、硫酸銅浴、ホウフッ化銅浴、シアン化銅浴、ピロリン酸銅浴などを用いるメッキ法を使用することができる。特に硫酸銅浴を用いるメッキ法では、電流密度を高く設定することで、密度が疎であり、ビッカース硬度が低く、加工性に優れた銅層を形成することができる。このため、メッキ法により純度の高い銅からなる表層部を作製する場合には、硫酸銅浴を用いるメッキ法を用いることが好ましい。
【0036】
さらには、上記銅比率の高い銅材料からなる表層部は、基材部の表面に銅を蒸着させることにより形成することができる。蒸着法において用いられる蒸着源としては、銅比率が99.9wt%以上の銅材料を用いることが好ましい。蒸着源は、種々の方法により加熱することができる。加熱方法の例としては、抵抗加熱、誘導加熱、および電子ビーム加熱が挙げられる。
【0037】
さらに、本発明においては、表層部を多孔質とするとともに、基材部および表層部が銅を含む場合、表層部に含まれる銅の濃度を基材部に含まれる銅の濃度よりも高くすることにより、表層部を基材部よりもさらに塑性変形しやすくすることができる。
銅比率の高い銅材料から構成される多孔質の表層部は、例えば、上記のように、銅を含む基材部と、基材部よりも純度の高い銅箔とに張り合わせ、その純度の高い銅箔をエッチングすることにより作製することができる。基材部と純度の高い銅箔を張り合わせる代わりに、メッキ法または蒸着法により、基材部の上に、基材部よりも純度の高い銅からなる層を形成し、その純度が高い銅からなる層をエッチングしてもよい。
または、銅を電着することにより、基材部の表面に、基材部よりも純度の高い銅から構成される多孔質の表層部を作製することもできる。
【0038】
活物質層は、凹凸を有する表層部の上に形成された、ケイ素を含む複数の柱状粒子を含む。
集電体の表面が凹凸を有する場合、集電体に活物質を堆積させると、活物質は集電体に設けられた凸部に主に担持されるため、集電体の表面には、活物質からなる複数の柱状粒子が形成される。つまり、各柱状粒子は離れて存在し、柱状粒子間には隙間が存在する。このため、活物質である柱状粒子の充電時の膨張応力が緩和されて、柱状粒子が集電体から剥がれることが抑制されるとともに、極板の変形も抑制される。よって、活物質の集電性が確保され、均一な電極反応を維持することができるので、サイクル特性が優れた電池を得ることが可能となる。
【0039】
上記のように、負極活物質粒子は、ケイ素を含む。このような負極活物質粒子としては、例えば、ケイ素の単体、ケイ素酸化物(SiOx)、ケイ素合金、およびケイ素化合物が挙げられる。このような負極活物質は、高容量である。
ケイ素合金としては、例えば、Si−Ti系合金、Si−Cu系合金が挙げられる。
ケイ素化合物としては、例えば、窒化ケイ素(SiNx)が挙げられる。
【0040】
負極活物質層の空隙率は、10〜70%であることが好ましく、30〜60%であることがさらに好ましい。活物質層の空隙率が10%以上であれば、活物質層の膨張緩和効果が得られる。なお、空隙率が70%を超えると、電池の用途によっては問題なく負極として用いることができるが、負極のエネルギー密度は小さくなる。
【0041】
負極活物質層の空隙率は、一定面積の活物質層の重量と厚みと、活物質の密度から計算することができる。一定面積Sの活物質層の厚みをTとし、その活物質層の重量をWとし、活物質の密度をDとすると、空隙率(%)は、式:100〔{ST−(W/D)}/ST〕により求めることができる。
【0042】
負極活物質層の空隙率は、例えば、負極集電体の表面に形成される凹凸の高低差、凸部間の間隔等を調節することにより制御することができる。また、活物質からなる柱状粒子の成長方向が、集電体の表面の法線方向に対して傾斜している場合には、さらに柱状粒子の成長方向と集電体の表面の法線方向とのなす角度を調節することにより、負極活物質層の空隙率を制御することができる。なお、集電体の表面は、凹凸を有するが、目視によれば平坦であるため、集電体の法線方向は一義的に定められる。
【0043】
隣接する凸部間の間隔は、5〜50μmであることが好ましく、10〜40μmであることが好ましい。ここで、隣接する凸部間の間隔とは、集電体の表面の法線方向から見たときの凸部の輪郭の形状の重心と、隣接する凸部の輪郭の形状の重心との間の距離のことをいう。集電体の表面の法線方向から見たときの凸部の輪郭の形状は、例えば、電子顕微鏡により確認することができる。
【0044】
以下に、表層部に凹凸を設ける方法の一例および表層部上に活物質層を作製する方法の一例を示す。以下では、基材部の両面に、凹凸を有する表層部を備える負極集電体を作製し、次いで、図5に示されるような、一方の表層部上のみにケイ素酸化物を含む活物質層を形成する場合について説明する。
【0045】
例えば、表面に凹凸を規則的に配列した金型を用いて、集電体表面に加圧すると、金型の凹凸を反転させた形状に集電体表面を加工することができる。また、表面に凹凸を形成した硬質のロールを回転させながら、集電体を加圧することにより、長尺の集電体に連続的に効率よく凹凸を形成することが可能となる。
【0046】
具体的には、図1に示される装置を用いて、表層部に凹凸を設けることができる。
図1の装置は、2つの凹凸形成用の加工ロール1と、加工ロールを支える2つのバックアップロール2とを備える。凹凸形成用の加工ロール1の表面は硬質材料から構成されており、規則的に凹凸が形成されている。加工ロール1の例としては、孔を規則的に形成したセラミック層を表面に備える鉄製ロールが挙げられる。なお、上記セラミック層は、鉄製ロールの表面に、酸化クロムのようなセラミックを溶射することにより形成することができる。孔は、レーザー加工によりセラミック層に形成することができる。
【0047】
図2に示されるような、基材部10aと塑性変形しやすい表層部10bとを備える集電体前駆体10を、2つの加工ロール1間に配置する。塑性変形しやすい表層部10bは、基材部10aの両方の面に設けられている。
集電体前駆体10を2つの加工ロール1で加圧しながら、集電体前駆体10を矢印の方向に移動させる。本発明においては、集電体の表面に塑性変形しやすい表層部が設けられているために、図3に示されるような、凹凸を有する表層部11bを含む負極集電体11を容易に形成することができる。
【0048】
ケイ素酸化物を含む活物質層の表層部上への形成は、例えば、図4に示されるような電子ビーム加熱手段を具備する蒸着装置40を用いて行うことができる。
蒸着装置40は、酸素ガスをチャンバー41内に導入するための配管44とノズル43を具備する。ノズル43は、真空チャンバー41内に導入された配管44に接続されている。配管44は、マスフローコントローラ(図示せず)を経由して、酸素ボンベ(図示せず)と接続されている。
ノズル43の上方には、負極集電体11を固定する固定台42が設置されている。固定台42の鉛直下方には、ターゲット45が設置されている。負極集電体11と、ターゲット45との間には、酸素ガスからなる酸素雰囲気が存在している。
ターゲット45には、ケイ素を含む材料、例えば、ケイ素の単体を用いることができる。
【0049】
上記のような表面に凹凸を有する負極集電体を固定台42に固定し、固定台42を水平面と角αを成すように傾斜させる。
ターゲット45としてケイ素の単体を用いる場合、ターゲット45に電子ビームを照射すると、ターゲット45から、ケイ素原子が蒸発する。蒸発したケイ素原子は、酸素雰囲気を通過して、酸素原子とともに、集電体の表層部11b上に堆積する。このようにして、ケイ素酸化物を含む活物質層12が集電体上に形成される。このとき、集電体表面の凸部に集中して、酸素原子とともにケイ素原子が堆積され、凹部には、それらの原子はほとんど堆積されない。このため、活物質層12は、表層部11bの凸部上に担持された、ケイ素酸化物を含む複数の柱状粒子12aから構成されることとなる。
このようにして、図5に示されるような、一方の表層部11b上のみに活物質層12が形成された負極13を形成することができる。
【0050】
集電体の表面に担持される柱状粒子は、図5に示されるように、単一の部分から構成されてもよいし、図6および7に示されるように、複数の粒層の積層体から構成されてもよい。また、柱状粒子の成長方向は、図5に示されるように集電体の表面の法線方向に対して傾斜していてもよいし、図6および7に示されるように集電体の表面の法線方向と平行であってもよい。
【0051】
図6および7は、本発明の別の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極に含まれる活物質粒子を概略的に示す。図6および7において、図5と同じ構成要素には、同じ番号を付している。また、図6において、凸部の上面は、所定の表面粗さを有している。
【0052】
図6の柱状粒子60は、8個の粒層60a、60b、60c、60d、60e、60f、60g、および60hを含む積層体を有する。図6の柱状粒子において、粒層60aの成長方向は、集電体の表面の法線方向に対して所定の第1方向に傾いている。粒層60bの成長方向は、集電体の表面の法線方向に対して、前記第1方向とは異なる第2方向に傾いている。以下同様に、柱状粒子60に含まれる粒層は、集電体の表面の法線方向に対して、第1方向と第2方向に交互に傾いている。このように、複数の粒層を積層するときに粒層の成長方向を第1方向と第2方向とに交互に変化させることにより、柱状粒子60の粒子全体としての平均的な成長方向を、集電体の表面の法線方向と平行にすることができる。
あるいは、柱状粒子全体としての成長方向が、集電体の表面の法線方向と平行となれば、各粒層の成長方向は、それぞれ異なる方向に傾斜していてもよい。
【0053】
図6の柱状粒子は、例えば、以下のようにして作製することができる。まず、突出領域11bの頂部およびそれに続く側面の一部を被覆するように粒層60aを形成する。次に、突出領域11bの残りの側面および粒層60aの頂部表面の一部を被覆するように、粒層60bを形成する。すなわち、図6において、粒層60aは突出領域11bの頂部を含む一方の端部に形成され、粒層60bは部分的には粒層60aに重なるが、残りの部分は突出領域11bの他方の端部に形成される。さらに、粒層60aの頂部表面の残りおよび粒層60bの頂部表面の一部を被覆するように、粒層60cが形成される。すなわち、粒層60cは、主に粒層60aに接するように形成される。さらに、粒層60dは、主に粒層60bに接するように形成される。以下同様にして、粒層60e、60f、60g、60hを交互に積層することによって、図6に示されるような柱状粒子が形成される。
【0054】
図7の柱状粒子70は、複数の第1の粒層71および複数の第2の粒層72を有する。
図7の柱状粒子の各粒層の厚みは、図6の柱状粒子の粒層の厚みより薄い。また、図7の柱状粒子は、その輪郭が、図6の柱状粒子と比較して、滑らかとなっている。
図7の柱状粒子においても、柱状粒子全体としての平均的な成長方向が集電体の表面の法線方向と平行となれば、各粒層の成長方向は、集電体の表面の法線方向から傾斜していてもよい。なお、図7の柱状粒子において、第1の粒層71の成長方向はA方向であり、第2の粒層72の成長方向は、B方向である。
【0055】
図6に示されるような柱状粒子を含む負極活物質層は、例えば、図8に示されるような蒸着装置80を用いて作製することができる。図8は、蒸着装置80の構成を模式的に示す側面図である。図8において、図4と同様の構成要素には同じ番号を付すとともに、それらの説明は省略する。
【0056】
板状部材である固定台81は、角変位または回転自在にチャンバー41内に支持され、その厚み方向の一方の面に負極集電体11が固定される。固定台81の角変位は、図8における実線で示される位置と一点破線で示される位置との間で行われる。実線で示される位置は、固定台81の負極集電体11を固定する側の面が鉛直方向下方のターゲット45を臨み、固定台81と水平方向の直線とがなす角の角度がβ°である位置(位置A)である。一点破線で示される位置は、固定台81の負極集電体11を固定する側の面が鉛直方向下方のターゲット45を臨み、固定台81と水平方向の直線とが成す角の角度が
(180−β)°である位置(位置B)である。角度β°は、形成しようとする負極活物質層の寸法などに応じて適宜選択できる。
【0057】
蒸着装置80を用いる負極活物質層の作製方法においては、まず、負極集電体11を固定台81に固定し、チャンバー41内部に酸素ガスを導入する。この状態で、ターゲット45に電子ビームを照射して加熱し、その蒸気を発生させる。例えば、ターゲットとしてケイ素を用いた場合、気化したケイ素は、酸素雰囲気を通過して、ケイ素酸化物が集電体の表面に堆積する。このとき、固定台81を実線の位置に配置することによって、突出領域に図6に示す粒層60aが形成される。次に、固定台81を一点破線の位置に角変位させることによって、図6に示す粒層60bが形成される。このように固定台81の位置を交互に角変位させることによって、図6に示す8つの粒層を有する柱状粒子60が形成される。
【0058】
図7に示される柱状粒子も、基本的には、図8の蒸着装置を用い、図6の柱状粒子と同様にして作製することができる。図7の柱状粒子は、例えば、位置Aおよび位置Bにおける蒸着時間を、図6の柱状粒子の場合より短くし、粒層の積層数を多くすることにより作製することができる。
【0059】
なお、上記いずれの作製方法においても、集電体表面に凹凸を規則的に配列して、その集電体上にケイ素を含む複数の柱状粒子からなる活物質層を形成すれば、柱状粒子間に隙間を一定間隔で形成することができる。
【0060】
集電体の片面のみに活物質層を設ける場合には、基材部の活物質層が設けられる側にのみ塑性変形しやすい表層部を設けてもよい。さらに、基材部の両面に塑性変形しやすい表層部を設け、各表層部の上に活物質層を設けてもよい。
【0061】
ケイ素酸化物を含む活物質層は、上記作製方法において、集電体とターゲットとの間に酸素雰囲気を存在させることなく、ケイ素酸化物をターゲットして用い、そのケイ素酸化物を集電体に堆積させることにより、作製することもできる。
また、酸素雰囲気の代わりに窒素雰囲気を用い、ターゲットとしてケイ素の単体を用いることにより、集電体上に窒化ケイ素を堆積させることもできる。
さらに、例えば、ケイ素の単体からなる活物質粒子またはケイ素合金からなる活物質粒子は、上記蒸着装置において、ケイ素の単体、またはケイ素合金を構成する元素を含む材料(混合物を含む)をターゲットとして用い、真空下で蒸発させることにより、作製することができる。
【0062】
なお、電池に含まれる負極集電体は、負極集電体から負極活物質層を除去することにより観察することができる。例えば、充電状態のリチウムイオン二次電池を分解し、負極を取り出す。負極を水に浸すと、負極中に存在するリチウムが水と急激に反応し、負極活物質が集電体から容易に剥離する。つまり、充電状態の負極を水に浸すことにより、活物質を集電体から容易に除去することができる。
【0063】
上記のような負極は、リチウムイオン二次電池の負極として用いられる。図9に、本発明の一実施形態にかかるリチウムイオン二次電池を示す。
図9の電池90は、電池ケース94に収容された積層型の電極群および電解質(図示せず)を含む。電極群は、正極91、負極92および正極91と負極92との間に配置されたセパレータ93を含む。負極92は、上記のように、基材部と凹凸を有する表層部とを含む集電体92aおよび負極活物質層92bを具備する。負極活物質層92bは、前記表層部の上に形成された複数の柱状の負極活物質粒子を含む。なお、図9の電池において、負極活物質層は、負極集電体の片面にのみ設けられている。
正極91は、正極集電体91aおよびその片面に担持された正極活物質層91bを具備する。
【0064】
負極集電体92aの負極活物質層が形成されていない面には、負極リード96の一端が接続されており、正極集電体91aの正極活物質層が形成されていない面には、正極リード95の一端が接続されている。
電池ケース94は、互いに反対方向の位置に開口部を有しており、電池ケース94の一方の開口部から、正極リード95の他端が外部に延ばされており、電池ケース94の他方の開口部から、負極リード96の他端が外部に延ばされている。電池ケース94の開口部は、シール材97を用いて密封されている。
【0065】
正極集電体を構成する材料としては、当該分野で公知の材料が挙げられる。このような材料としては、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0066】
正極活物質層は、例えば、正極活物質、結着剤および導電剤を含むことができる。正極活物質、ならびに正極に添加される結着剤および導電剤としては、当該分野で公知の材料を用いることができる。正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウムのようなリチウム含有複合酸化物が挙げられる。
正極に添加される結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンおよびポリフッ化ビニリデンが挙げられる。
正極に添加される導電剤としては、例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅、ニッケル等の金属粉末類、ならびにポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
電解質としては、例えば、非水溶媒およびそれに溶解した溶質を含む非水電解質が挙げられる。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどを用いることができるが、これらに限定されない。これらの非水溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
溶質としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiCl4、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCl、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF2SO22、LiAsF6、LiN(CF3SO22、LiB10Cl10、およびイミド類が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0069】
セパレータを構成する材料としては、当該分野で公知の材料を用いることができる。このような材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、あるいはポリエチレンとポリプロピレンの混合物、またはエチレンとプロピレンとの共重合体が挙げられる。
【0070】
上記負極を含むリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、例えば、コイン型、シート型、または角型であってもよい。また、前記リチウムイオン二次電池は、電気自動車等に用いる大型の電池であってもよい。本発明のリチウムイオン二次電池に含まれる電極群は、図9に示されるような積層型であってもよいし、捲回型であってもよい。
【実施例】
【0071】
《実施例1》
図9に示すような積層型のリチウムイオン二次電池を作製した。
(i)正極の作製
正極活物質である平均粒径約10μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2)粉末10gと、導電剤であるアセチレンブラック0.3gと、結着剤であるポリフッ化ビニリデン粉末0.8gと、適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)とを充分に混合して、正極合剤ペーストを調製した。
得られたペーストを、厚み20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の片面に塗布し、乾燥し、圧延して、正極活物質層を形成した。次いで、得られた正極シートを、所定形状に切断して、正極を得た。得られた正極において、アルミニウム箔の片面に担持された正極活物質層は、厚み70μmであり、30mm×30mmのサイズであった。
正極集電体の正極活物質層を有さない方の面には、アルミニウム製の正極リードの一端を接続した。
【0072】
(ii)負極の作製
図1に示すような、凹凸形成用の加工ロールと、加工ロールを支えるバックアップロールとを備える装置を用いて、基材部と、凹凸を有する表層部とを含む集電体を作製した。凹凸形成用の加工ロールとしては、規則的に形成された孔を有する酸化クロム層を備える鉄製のロールを用いた。酸化クロム層は、鉄製のロールに酸化クロムを溶射することにより形成した。孔は、レーザー加工により形成した。孔の直径は10μmとし、孔の深さは11μmとした。隣り合う孔の中心間距離は20μmとした。
【0073】
基材部としては、銅にクロム、スズ、および亜鉛がそれぞれ0.2wt%含有された銅合金箔(日立電線(株)製)(厚さ:10μm)を用いた。表層部としては、銅比率が99.9wt%以上の圧延銅箔(日立電線(株)製)(厚さ:10μm)を用いた。
【0074】
銅合金箔の両面に、圧延銅箔を重ねた。得られた積層物を、加工ロール間に配置し、線圧2t/cmで加圧成形した。銅合金箔と圧延銅箔とが加圧によって密着すると共に、圧延銅箔には、凹凸が形成された。このようにして、集電体を得た。
図10に、本実施例で作製した集電体を模式的に表した縦断面図を示す。本実施例では、直径が10μmの円柱状の凸部を形成した。集電体の表面の法線方向に平行な方向から見たときの凸部の形状は円形であるため、その重心と中心とは一致する。よって、本実施例において、隣接する凸部間の間隔Pは、20μmであった。
【0075】
得られた集電体を切断し、10箇所の凸部を電子顕微鏡で観察し、凹凸の高低差を測定して、平均値を求めた。その結果、凹凸の平均高低差Hは8μmであった。
【0076】
集電体における基材部の厚さBは、10μmであり、凹凸を設けた後の表層部の厚さCは、8μmであった。上記のように、表層部の厚さCは、凹凸の高さの平均位置と表層部の基材部側の端との間の長さである。表層部の厚さは、集電体の10箇所の位置について測定を行い、得られた値を平均することにより求めた。このことは、以下の実施例においても同様である。
【0077】
得られた集電体の厚みLは35μmであった。ここで、集電体の厚みLとは、両面の凸部間の距離、つまり、集電体の一方の面に設けられた凸部の最も高い位置と、他方の面に設けられた凸部の最も高い位置との間の距離の平均値のことをいう。集電体の10箇所の厚みを、ダイアルゲージを用いて測定し、得られた平均値を、集電体の厚みとした。
【0078】
銅合金箔と圧延銅箔のビッカース硬さをビッカース硬度計で測定した。その結果、銅合金箔のビッカース硬さは250であり、圧延銅箔のビッカース硬さは120であった。
【0079】
次に、図4に示すような、電子ビーム加熱手段(図示せず)を具備する蒸着装置((株)アルバック製)を用いて、負極を作製した。
蒸着装置に設けられたノズルからは、純度99.7%の酸素ガス(日本酸素(株)製)を、流量80sccmで放出した。ターゲットには、純度99.9999%のケイ素単体((株)高純度化学研究所製)を用いた。
【0080】
上記のようにして得られた負極集電体を、40mm×40mmのサイズに切断し、厚み35μmで40mm×40mmのサイズに裁断した集電体を、固定台に固定した。固定台は水平面と60°の角αを成すように傾斜させた。
【0081】
ターゲットに照射する電子ビームの加速電圧を−8kVとし、エミッションを500mAに設定した。ケイ素単体の蒸気は、酸素雰囲気を通過したのち、固定台に固定された負極集電体の表層部上に堆積した。蒸着時間は22分間に設定した。こうして、負極集電体上に柱状のケイ素酸化物粒子を含む負極活物質層を備える負極板を得た。なお、得られた負極板において、集電体の片面のみに活物質層を形成した。活物質層の厚みTは、17μmであった。
【0082】
負極活物質に含まれる酸素量を燃焼法により定量した。その結果、ケイ素と酸素とを含む負極活物質の組成は、SiO0.5であった。
【0083】
負極活物質層の空隙率を、以下のようにして求めた。なお、得られた負極板において、負極活物質層が形成されている領域の面積Sは961mm2(31mm×31mm)であった。
得られた負極板の重量から負極集電体の重量を差し引いて、活物質層の重量Wを求めた。その活物質層の重量WとSiO0.5の密度D(2.3g/cm3)から、活物質層の体積(W/D)を求めた。活物質層の厚みT(17μm)と、活物質層を担持する集電体の領域の面積S(961mm2)とから、活物質層の全空間体積(S×T)を求めた。得られた活物質層の体積(W/D)および活物質層の全空間体積(S×T)を用いて、活物質層の空隙率P(=100〔{ST−(W/D)}/ST〕)を求めた。その結果、活物質層の空隙率は、40%であった。
なお、上記の計算において、Siの真密度(2.33g/cm3)とSiOの真密度(2.24g/cm3)の平均値を、SiO0.5の密度とした。
【0084】
次に、抵抗加熱蒸着装置((株)アルバック製)を用いて、以下のようにして、得られた負極板の表面にリチウム金属を蒸着した。
蒸着装置内に、負極板およびタンタル製ボートを配置し、ボートに所定量のリチウム金属を装填した。ボートは、負極板の活物質層に対向するように固定した。
ボートに流す電流値を50Aに設定して、10分間蒸着を行った。このように負極にリチウム金属を蒸着することによって、SiO0.5からなる負極活物質に、初回充放電時に蓄えられる不可逆容量のリチウムを補填した。この後、リチウム金属を蒸着させた負極板を31mm×31mmのサイズに裁断した。このようにして、負極1Aを得た。
負極集電体の負極活物質層を有さない面には、ニッケル製の負極リードを接続した。
【0085】
(iii)電池の組立
上記のようにして得られた正極と負極との間に、厚み20μmのポリエチレン微多孔膜からなるセパレータ(旭化成(株)製)を配置して、積層型の電極群を作製した。このとき、正極と負極とは、正極活物質層と負極活物質層とがセパレータを介して対向するように配置した。
得られた電極群を、電解質とともに、アルミニウムラミネートシートからなる電池ケースに挿入した。
電解質は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:1の体積比で含む混合溶媒に、LiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解することにより調製した。
【0086】
所定の時間放置して、電解質を、正極活物質層、負極活物質層およびセパレータに含浸させた。この後、正極リードと負極リードを、電池ケースの互いに逆方向に位置する開口部からそれぞれ外部に延ばした。この状態で、電池ケース内を真空減圧しながら、電池ケースの両方の開口部をそれぞれシール材を用いて密封した。こうして、電池を完成させた。得られた電池を電池1Aと称する。
【0087】
《比較例1》
(負極1B)
実施例1で用いた銅合金箔のみを負極集電体として用いた。銅合金箔には、実施例1と同様にして、凹凸を形成した。凹凸の平均高低差は1μmであった。
得られた負極集電体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、負極1Bを作製した。負極1Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較電池1Bを作製した。
【0088】
《比較例2》
(負極1C)
実施例1で用いた圧延銅箔のみを負極集電体として用いた。実施例1と同様にして、圧延銅箔に凹凸の形成を試みた。しかしながら、圧延銅箔が加工ロールを通過して出てきたところで、圧延銅箔にシワが生じた。このため、圧延銅箔のみを、負極集電体とすることは不適切であると判断された。
【0089】
負極1A、負極1Bおよび負極1Cの負極集電体の構成、表層部の形成方法、表層部のビッカース硬さ、凹凸の平均高低差、ならびに活物質層の空隙率を、表1にまとめる。
【0090】
【表1】

【0091】
[評価方法]
(i)サイクル特性
まず、電池1Aおよび比較電池1Bを、それぞれ20℃の恒温槽に収容し、以下のような定電流定電圧方式で、電池を充電した。各電池を、電池電圧が4.2Vになるまで1Cレート(1Cとは1時間で全電池容量を使い切ることができる電流値)の定電流で充電した。電池電圧が4.2Vに達した後は、電流値が0.05Cになるまで、各電池を4.2Vの定電圧で充電した。
次に、20分間休止した後、充電後の電池を、1Cレートのハイレートの定電流で、電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。
このような充放電を100サイクル繰り返した。
【0092】
1サイクル目の全放電容量に対する、100サイクル目の全放電容量の割合を、百分率値で求めた。得られた値を、容量維持率として、表2に示す。
また、100サイクル後の負極の状態を目視により確認した。結果を、表2に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
表1に示されるように、負極1Aは凹凸の高低差が大きく、活物質層の空隙率は40%と高い値が得られた。また、表2に示されるように、電池1Aの容量維持率が優れた値を示し、電池1Aの負極において、100サイクル後においても、シワは発生していなかった。
【0095】
負極1Aにおいては、負極集電体の表面に塑性変形しやすい圧延銅箔を配置したことで、負極集電体の加工ロールによる凹凸形成が可能となり、凹凸の高低差が十分に得られた。このため、隣接する柱状粒子間の距離が長くなり、空隙率が高くなったと考えられる。その結果、活物質層が膨張しても、負極にシワが発生せず、活物質の柱状粒子も剥がれることがなかった。よって、このような負極1Aを用いる電池1Aは、良好なサイクル特性を有すると考えられる。
【0096】
一方、比較電池1Bは、凹凸の高低差が小さく、空隙率も小さかった。また、比較電池1Bの容量維持率は小さかった。100サイクル後において、負極にはシワが発生し、また活物質層の剥がれも発生していた。比較電池1Bは、集電体表面が硬いために、加工ロールによる凹凸の高低差が不十分であった。このため、隣接する柱状粒子間の距離が短くなり、空隙率が低下した。その結果、活物質層の膨張を緩和する空間が不足し、膨張応力によって極板にシワが発生したり、活物質層が剥がれたりしたと考えられる。
【0097】
《実施例2》
表層部の形成方法を、以下のように変更したこと以外、実施例1と同様にして、負極2A〜2Eを作製した。負極2A〜2Eを用いたこと以外、実施例1と同様にして、電池2A〜2Eを作製した。
【0098】
(i)負極2A
表層部を構成する材料として、実施例1で用いた圧延銅箔を、真空中、200℃で1時間熱処理した銅箔を用いたこと以外、実施例1と同様にして、負極2Aを作製した。真空中での熱処理により、組成を変化させることなく、ビッカース硬さを低下させることができる。
表層部のビッカース硬さをビッカース硬度計で測定した結果、ビッカース硬さは70であった。集電体の凹凸の平均高低差は9μmであった。凹凸を設けた後の表層部の厚さは、8μmであった。
【0099】
(ii)負極2B
実施例1で用いた基材部である銅合金箔の表面上に、銅をメッキすることにより表層部を形成したこと以外、実施例1と同様にして、負極集電体を作製した。
メッキ法による表層部の作製は、以下のようにして行った。
硫酸銅五水和物を270g/Lの濃度で含み、硫酸を100g/Lの濃度で含む電解液中に、陰極として銅合金箔を浸し、電流密度5A/dm2、液温50℃の条件で、銅合金箔の表面に表層部である銅層を形成した。表層部の銅比率は99.9wt%以上であった。
メッキ法で形成した表層部のビッカース硬さをビッカース硬度計で測定した結果、ビッカース硬さは160であった。
集電体の凹凸の平均高低差は5μmであった。凹凸を設けた後の表層部の厚さは、8μmであった。
【0100】
この集電体を用いたこと以外、実施例1と同様にして、負極2Bを作製した。
【0101】
(iii)負極2C
基材部である銅合金箔の表面上に、銅を蒸着させることにより、表層部を形成したこと以外、実施例1と同様にして、負極集電体を作製した。
蒸着法による表層部の形成には、図4に示すような、電子ビーム加熱手段(図示せず)を具備する蒸着装置((株)アルバック製)を用いた。
固定台に銅合金箔を固定した。固定台は水平面となるように固定した(α=0°)。固定台の鉛直下方には、銅合金箔の表面に堆積させるターゲットを設置した。ターゲットには、純度99.9wt%の銅単体((株)高純度化学研究所製)を用いた。
ターゲットに照射する電子ビームの加速電圧を−8kVとし、エミッションを100mAに設定した。
ターゲットに電子ビームを照射すると、銅原子が蒸発し、蒸発した銅原子が、固定台に設置された銅合金箔上に堆積し、銅層が形成される。蒸着時間は20分間に設定した。
表層部の銅比率は99.9wt%以上であった。蒸着法で形成した表層部のビッカース硬さをビッカース硬度計で測定した結果、ビッカース硬さは120であった。
集電体の凹凸の平均高低差は8μmであった。凹凸を設けた後の表層部の厚さは、8μmであった。
【0102】
この集電体を用いたこと以外、実施例1と同様にして、負極2Cを作製した。
【0103】
(iv)負極2D
基材部である銅合金箔の表面をエッチング液で粗化することで、多孔質の表層部を形成したこと以外、実施例1と同様にして、負極集電体を作製した。
エッチング液としては、部分エッチング液(メック(株)製)を用いた。エッチング液の液温を35℃とし、エッチング時間を30秒とした。エッチング後の銅合金箔の表面粗さRaは、1.5μmであった。
エッチング法で形成した表層部のビッカース硬さをビッカース硬度計で測定した結果、ビッカース硬さは200であった。集電体の凹凸の平均高低差は3μmであった。
【0104】
この集電体を用いたこと以外、実施例1と同様にして、負極2Dを作製した。
【0105】
(v)負極2E
基材部である銅合金箔の表面に、電着により多孔質の表層部を形成したこと以外、実施例1と同様にして、負極集電体を作製した。
表層部を以下のようにして形成した。
硫酸銅五水和物を47g/Lの濃度で含み、硫酸を100g/Lの濃度で含む電解液中に、陰極として銅合金箔を浸した。電流密度30A/dm2、液温50℃の条件で、銅合金箔上に、多数の銅粒子を形成させて、多孔質の表層部を形成した。さらに、硫酸銅五水和物を235g/Lの濃度で含み、硫酸を100g/Lの濃度で含む溶液に、表層部が形成された集電体を浸し、電流密度3A/dm2および液温50℃の条件で、表層部に銅メッキを施した。この銅メッキにより、表層部の銅合金箔への密着力を向上させた。銅メッキ後の表層部の厚みは10μmであった。
上記電着により形成された銅粒子のメジアン径は、2μmであった。
【0106】
凹凸を設ける前の表層部の表面粗さRaは、2μmであった。電着法で形成した表層部のビッカース硬さをビッカース硬度計で測定した結果、ビッカース硬さは90であった。
【0107】
集電体に凹凸を設けた後の、凹凸の平均高低差は9μmであった。凹凸を設けた後の表層部の厚さは、8μmであった。
【0108】
この集電体を用いたこと以外、実施例1と同様にして、負極2Eを作製した。
【0109】
負極2A〜2Eにおける、表層部の種類、その形成方法、そのビッカース硬さ、凹凸の平均高低差、および活物質層の空隙率を、表3にまとめる。なお、負極2A、2B、2C、および2Eにおいて、形成された集電体における基材部の厚さは10μmであった。
負極2Dにおいて、凹凸を設けた後の集電体の厚さは30μmであった。なお、エッチングを行う前の銅合金箔の厚さは26μmであった。
【0110】
【表3】

【0111】
電池2A〜2Eについて、実施例1と同様にして、容量維持率を求めた。結果を表4に示す。
【0112】
【表4】

【0113】
表3に示されるように、本実施例で行った形成方法で得られた表層部のビッカース硬度は、200以下であり、加工性に優れる。このため、表層部に形成される凹凸の平均高低差が高いことが判明した。これらの集電体上に形成された負極活物質層の空隙率は20%以上であった。
【0114】
表4に示されるように、電池2A〜2Eにおいて、75%以上の容量維持率が得られた。さらに、サイクル試験後の電池を分解して、負極の状態を観察した。その結果、極板におけるシワの発生および活物質の剥がれが抑制されていた。
上記のように、活物質層の空隙率が20%以上と大きいために、活物質層の膨張応力が十分に緩和され、極板におけるシワの発生やおよび活物質の剥がれが抑制されたことが、良好な容量維持率が得られた要因と考えられる。
【0115】
《実施例3》
負極集電体の基材部の種類を、以下のように変更したこと以外、実施例1と同様にして、下記負極3A〜3Bを作製した。負極3A〜3Bを用いたこと以外、実施例1と同様にして、電池3A〜3Bを作製した。
【0116】
(i)負極3A
厚さ18μmのニッケル箔(ビッカース硬さ:300)を基材部として用いたこと以外、実施例1と同様にして、負極3Aを作製した。負極3Aを用いて、実施例1と同様にして、電池3Aを作製した。なお、表層部は、実施例1と同じであるため、表層部のビッカース硬度は120であった。集電体の凹凸の平均高低差は7μmであった。凹凸を設けた後の表層部の厚さは、8μmであった。
【0117】
(ii)負極3B
厚さ18μmのステンレス鋼箔(ビッカース硬さ:200)を基材部として用いたこと以外、実施例1と同様にして、負極3Bを作製した。負極3Bを用いて、実施例1と同様にして、電池3Bを作製した。なお、表層部は、実施例1と同じであるため、表層部のビッカース硬度は120であった。集電体の凹凸の平均高低差は7μmであった。凹凸を設けた後の表層部の厚さは、8μmであった。
負極3Aおよび3Bで用いた集電体において、基材部の厚さは、18μmであった。
【0118】
なお、負極3Aおよび3Bでは、それぞれ基材部を構成する材料に対して、アルミナ(Al23)粒子を用いるブラスト処理を行った。このブラスト処理により、基材部を構成する材料の表面を粗化し、基材部を構成する材料と表層部を構成する材料との密着性を向上させた。
【0119】
負極3Aと3Bにおける、基材部の種類、表層部の種類および形成方法、表層部のビッカース硬さ、凹凸の平均高低差、ならびに活物質層の空隙率を、表5にまとめる。
【0120】
【表5】

【0121】
電池3A〜3Bについて、実施例1と同様にして、容量維持率を求めた。結果を表6に示す。
【0122】
【表6】

【0123】
基材部がニッケル箔である場合でも、ステンレス鋼箔である場合でも、表層部における凹凸加工時に、集電体にシワが形成されることがなかった。
また、表6の結果より、基材部がニッケル箔であっても、ステンレス鋼箔であっても、サイクル特性が優れることが判明した。
【0124】
《実施例4》
負極活物質として、以下のように作製したケイ素合金またはケイ素化合物を用いて、負極4A〜4Cを作製した。負極4A〜4Cを用いたこと以外、実施例1と同様にして、電池4A〜4Cを作製した。なお、ケイ素合金に含まれるケイ素以外の金属元素Mとしては、リチウムと合金を形成しないTi(負極4A)またはCu(負極4B)を用いた。また、ケイ素化合物(負極4C)は、ケイ素以外の元素として窒素を含んだ。
【0125】
(i)負極4A
負極活物質層の形成において、ターゲットに、Si粉末((株)高純度化学研究所製)とTiSi2粉末((株)高純度化学研究所製)との混合物(Si:TiSi2=3:1(モル比))を用いた。固定台と水平面の成す角αを60°に設定し、蒸着時間を25分に設定した。酸素ガスの流量は0sccmに設定した。前記以外は、実施例1と同様にして、負極4Aを作製した。
得られた活物質層に含まれる元素を蛍光X線分光法により定量した。その結果、形成されたケイ素合金の組成は、SiTi0.2であった。
【0126】
(ii)負極4B
負極活物質層の形成において、ターゲットに、Si粉末((株)高純度化学研究所製)とCu粉末((株)高純度化学研究所製)との混合物(Si:Cu=5:1(モル比))を用いた。固定台と水平面の成す角αを60°に設定し、蒸着時間を25分に設定した。酸素ガスの流量は0sccmに設定した。前記以外、実施例1と同様にして、負極4Bを作製した。
得られた活物質層に含まれる元素を蛍光X線分光法により定量した。その結果、ケイ素合金の組成は、SiCu0.2であった。
【0127】
(iii)負極4C
負極活物質層の形成において、ターゲットに、ケイ素単結晶((株)高純度化学研究所製)を用いた。チャンバー内に、酸素ガスの代わりに窒素ガスを導入した。ターゲットに照射される電子ビームの加速電圧を−8kVとし、エミッションを300mAに設定した。固定台と水平面の成す角αを60°に設定し、蒸着時間を40分に設定した。前記以外、実施例1と同様にして、負極4Cを作製した。
なお、窒素ガスには、純度99.7%の窒素ガス(日本酸素(株)製)を用い、窒素ガスの流量は20sccmに設定した。また、ノズル付近には、電子ビーム照射装置を設置して、窒素ガスをプラズマ化した。電子ビーム照射装置において、加速電圧は−4kVに設定し、エミッションは20mAに設定した。
得られた活物質層に含まれる元素を蛍光X線分光法により定量した。その結果、ケイ素と窒素とを含む化合物の組成は、SiN0.2であった。
【0128】
負極4A〜4Cにおける負極活物質層の空隙率は、それぞれ40%であった。
【0129】
電池4A〜4Cについて、実施例1と同様にして、容量維持率を測定した。結果を表7に示す。
【0130】
【表7】

【0131】
電池4Aの結果から、ケイ素とチタンとを含む合金を活物質に用いても、優れた容量維持率が得られることがわかる。また、電池4Bの結果から、ケイ素と銅とを含む合金を活物質に用いても、優れた容量維持率が得られることがわかる。
電池4Cの結果から、ケイ素と窒素とを含む化合物を活物質に用いても、優れた容量維持率が得られることがわかる。
【0132】
《実施例5》
負極活物質層を下記のように形成したこと以外は、実施例1と同様にして、負極5Aを作製した。活物質層には、実施例1と同様にリチウムを蒸着した。
負極5Aを用いたこと以外、実施例1と同様にして、電池5Aを作製した。
【0133】
(負極活物質層の形成)
実施例2の負極2Eで用いた負極集電体を用い、図8に示される蒸着装置を用いて、図6に示されるような柱状粒子を含む負極活物質層を形成した。
【0134】
上記負極集電体を固定台81に固定した。固定台81は水平面と60°の角度βを成すように傾斜させた(位置A)。
ターゲット45であるケイ素単体に照射する電子ビームの加速電圧を−8kVとし、エミッションを500mAに設定した。ノズルから放出される酸素ガスの流量を、80sccmとした。固定台81に設置された集電体上にケイ素と酸素とを堆積させて、凸部上に第1の粒層60aを形成した。蒸着時間は2分30秒に設定した。
【0135】
次に、固定台81を、図8に示すように、水平面に対して120°の角度(つまり、(180−β)°)を成すように傾斜させた(位置B)。第1の粒層の場合と同じ条件で、第1の粒層60a上に、第2の粒層60bを形成した。このように、固定台の位置を、交互に位置Aと位置Bに変化させることにより、8個の粒層の積層体を含む柱状粒子を形成した。こうして得られた負極を負極5Aとする。
【0136】
負極活物質層の厚みTは16μmであった。負極活物質層に含まれる酸素量を燃焼法により定量した。その結果、負極活物質の組成はSiO0.5であった。負極活物質層の空隙率を、実施例1と同様にして求めたところ、46%であった。
【0137】
電池5Aの容量維持率を、実施例1と同様にして測定した。また、100サイクル後の負極5Aを、目視により観察した。結果を表8にまとめる。
【0138】
【表8】

【0139】
負極活物質層が、斜め蒸着により形成した複数の部分からなる柱状粒子を含む場合でも、実施例2の電池2Eと同様に、しわの発生が抑制されて、優れたサイクル特性を示した。これは、柱状粒子の周りに空間を形成することができるため、活物質の膨張を、その空間に逃がすことで隣接する柱状粒子との衝突を避けられたことが要因であると考えられる。
【0140】
さらに、電池5Aの容量維持率は、電池2Eの容量維持率と比較して向上していた。本実施例で作製した成長方向が集電体の表面の法線方向と平行である柱状粒子の場合には、膨張時に発生する界面のストレスが、成長方向が集電体の表面の法線方向に対して傾斜している柱状粒子よりも低く抑えられる。このため、活物質層の厚みが厚くても、集電体のしわの発生が抑制され、容量維持率が向上したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明においては、集電体の表面に塑性変形しやすい層が設けられており、集電体の表面に容易に凹凸を形成することができる。このため、本発明により、高容量で、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を容易に提供することができる。このようなリチウムイオン二次電池は、例えば、携帯型電子機器の電源として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】表層部に凹凸を形成するための装置の一例の概略図である。
【図2】表層部に凹凸を設ける前の負極集電体前駆体の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図3】表層部に凹凸が設けられた負極集電体の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図4】負極活物質層を形成するための装置の一例の概略図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用負極を概略的に示す縦断面図である。
【図6】本発明のさらに別の実施形態に係るリチウム二次電池用負極に含まれる柱状粒子を概略的に示す図である。
【図7】本発明のなおさらに別の実施形態に係るリチウム二次電池用負極に含まれる柱状粒子を概略的に示す図である。
【図8】負極活物質層を作製するための装置の別の例の概略図である。
【図9】本発明の一実施形態にかかるリチウムイオン二次電池を概略的に示す縦断面図である。
【図10】実施例1で作製した集電体を概略的に示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0143】
1 加工ロール
2 バックアップロール
10 負極集電体前駆体
10a 基材部
10b 凹凸を設ける前の表層部
11 負極集電体
11b 凹凸を設けた表層部
12 負極活物質層
12a 柱状の活物質粒子
13 負極
40、80 蒸着装置
41 チャンバー
42 ノズル
43 配管
44、81 固定台
45 ターゲット
60、70 柱状粒子
60a、60b、60c、60d、60e、60f、60g、60h 粒層
71 第1の粒層
72 第2の粒層
90 電池
91 正極
91a 正極集電体
91b 正極活物質層
92 負極
92a 負極集電体
92b 負極活物質層
93 セパレータ
94 電池ケース
95 正極リード
96 負極極リード
97 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の集電体と前記集電体上に担持された活物質層とを備え、
前記集電体は、基材部と、前記基材部よりも塑性変形しやすい表層部とを含み、前記表層部は、凹凸を有しており、
前記活物質層は、ケイ素を含む複数の柱状粒子を含み、前記柱状粒子は、前記表層部に担持されているリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
前記表層部の硬度が、前記基材部の硬度よりも低い、請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記基材部および前記表層部が、銅を含み、前記表層部に含まれる銅の濃度が、前記基材部に含まれる銅の濃度よりも高い、請求項2記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
前記表層部が、前記基材部の表面に圧着された純度の高い銅箔を含む、請求項3記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
前記表層部が、前記基材部の表面に銅をメッキすることにより形成された、請求項3記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
前記表層部が、前記基材部の表面に銅を蒸着することにより形成された、請求項3記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
前記表層部が、多孔質である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項8】
前記表層部が、前記基材部をエッチングすることにより形成された、請求項7記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項9】
前記表層部が、前記基材部の表面に銅を電着することにより形成された、請求項7記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項10】
前記基材部および前記表層部が、銅を含み、前記表層部に含まれる銅の濃度が、前記基材部に含まれる銅の濃度よりも高い、請求項7記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項11】
前記柱状粒子が、前記集電体の表面の法線方向に対して傾斜して成長した複数の粒層の積層体を含む、請求項1〜10のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項12】
前記積層体に含まれる複数の粒層の成長方向が、前記集電体の表面の法線方向に対し、第1方向と第2方向に交互に傾斜している、請求項11記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項13】
リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極、請求項1〜12のいずれかに記載の負極および前記正極と前記負極の間に配置されたセパレータを含む電極群と、リチウムイオン伝導性を有する電解質と、前記電極群および前記電解質を収容する電池ケースと、を具備するリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−98157(P2008−98157A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235629(P2007−235629)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】