説明

リチウムイオン二次電池用負極材料およびその製造方法

【課題】黒鉛粒子からなる第一粒子に第二粒子がバインダーによらず付着したリチウムイオン二次電池用負極材料、およびこの負極材料の製造方法の提供。
【解決手段】黒鉛からなる第一粒子NMと、第一粒子よりも小粒径の第二粒子SMとから構成され、第二粒子SMがバインダーによらず第一粒子NMに付着し、第一粒子NMに露出表面が存在するリチウムイオン二次電池用負極材料。この負極材料は、第一粒子NMとバインダー以外の第二粒子SMとを混合し、等方的に加圧した後、加圧で塊状となった混合物を解砕することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用負極材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体積エネルギー密度と重量エネルギー密度が大きいリチウム二次電池は、電池の小型化、高電圧を供給できるという利点から注目され続けている。リチウム二次電池は、起電反応にリチウムが関与する二次電池の総称であり、正極にリチウムコバルト複合酸化物などを使用したリチウムイオン二次電池や、負極にリチウム合金を使用する金属リチウム二次電池などに分類される。現在、負極に粒状黒鉛を構成部材にしているリチウムイオン二次電池が実用化されており、一層の高性能化が求められている。
【0003】
粒状黒鉛を構成部材にしている負極は、集電板(銅箔)表面上に粒状黒鉛とバインダーとの混合物を層形成して製造されている。このような負極を備えるリチウムイオン二次電池の負荷特性、充電特性、充放電サイクル特性を改善し、リチウムイオン二次電池の高性能化を図るため、負極の改良が進められている。
【0004】
上記負極の改良の一つとして、負極内の電気伝導性を高める手段がある。そして、負極内の電気伝導性を高めるためには、粒状黒鉛と導電材との混合物を集電板表面に層形成する手法がある。
【0005】
例えば、特許文献1及び2には、導電材にも黒鉛を使用し、核材となる黒鉛粒子表面にバインダーで導電材を付着した負極材料が開示されている。この負極材料においては、導電材の付着に無関係な核材表面までがバインダーで覆われ、主たる負極材料となる核材の表面特性が変わる。核材表面特性の変化は、従来から使用されていたリチウムイオン二次電池用電解液の選択の幅を狭める問題がある。
【0006】
従来から使用されている電解液の選択幅を維持するためには、バインダーを使用することなく、黒鉛表面に導電材を付着させる必要がある。そのための方法のとしては、メカニカルアロイイング法が考えられる(例えば、特許文献3、4参照)。しかし、この方法は、黒鉛粒子と導電材とを混合後、機械的攪拌を行うものであり、導電材が不特定方向から黒鉛に衝突するため、導電材が黒鉛粒子表面に付着する前に黒鉛粒子が崩壊する問題がある。黒鉛よりも高い硬度の導電材が使用されている場合には、黒鉛粒子の崩壊が顕著に生じる。
【0007】
上記以外に集電体表面に層形成する負極材料としては、炭素蒸着膜層で被覆された黒鉛がある(特許文献5参照)。しかし、この黒鉛を製造するためには、高価な蒸着装置が必要である上に、製造効率が低い。
【0008】
ところで、上述の技術は、表面に導電材が付着した黒鉛に関するものであるが、導電材以外の他部材が付着した黒鉛が、リチウムイオン二次電池用負極材料として要求されるときもある(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2005−19399号公報
【特許文献2】特開2004−127723号公報
【特許文献3】特開2005−15910号公報
【特許文献4】特開2004−555055号公報
【特許文献5】特開2004−250275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、黒鉛からなる第一粒子に第二の粒子をバインダーを使用することなく付着したリチウムイオン二次電池用負極材料の提供を目的とする。また、この負極材料を簡易かつ安価に製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材料は、黒鉛からなる第一粒子と、該第一粒子よりも小粒径の第二粒子とを有するリチウムイオン二次電池用負極材料であって、前記第一粒子表面の一部が露出し、前記第二粒子がバインダーを用いることなく前記第一粒子に付着していることを特徴とする。
【0011】
前記本発明に係る負極材料の第一粒子が鱗片状黒鉛であっても、電池での負極において、負極材料層への電解液の通液性に優れる。これを詳述すれば、次の通りである。第二粒子を有さない鱗片状黒鉛自体のみを集電体表面上に層形成した負極では、第一粒子が集電体と平行に配向し易く、負極材料層内部への通液性が悪化する。しかし、本発明の負極材料のように第二粒子が第一粒子(鱗片状黒鉛)の表面に付着していると、負極材料が集電体と平行に配向することが阻まれ、負極材料層内への通液性が良好となる。
【0012】
また、本発明の負極材料が略球状黒鉛を第一粒子としている場合、第二粒子を有さない略球状黒鉛を負極材料とするよりも、負極における各負極材料間の接触面積が高まる。接触面積が高まれば、第二粒子が導電材である場合、各負極材料間の電気伝導性が向上する。
【0013】
前記第一粒子よりも前記第二粒子が高硬度であっても良い。本発明において、第一粒子と第二粒子との硬度の高低確認方法は、次の通りである。シリンダーに測定試料(第一粒子または第二粒子)を所定量充填し、充填した測定試料に圧力を加えた後に測定試料の密度を確認する。シリンダー内の第一粒子は、加えられる圧力の上昇に伴って密度が上昇し、圧力が約2.2t/cmになったときに2.1〜2.25g/cmの定常密度になる。第一粒子が定常密度になる圧力よりも高い圧力で定常密度になる第二粒子であれば、第二粒子が第一粒子よりも高硬度であると確認できる。
【0014】
また、リチウムイオン二次電池の負荷特性、充電特性、および充放電サイクル特性の改善を目的とする場合、前記第二粒子が導電材であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法は、黒鉛からなる第一粒子と該第一粒子よりも小粒径の第二粒子とを混合する工程と、前記第一粒子と第二粒子との混合物を等方的に加圧する工程と、加圧で塊状となった前記混合物を解砕する工程とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明の方法においては、第一粒子と第二粒子との混合物を塊状になるまで等方的に加圧するので、塊状混合物を解砕しても、第一粒子への第二粒子の付着が保持される。これは、第二粒子の一部が第一粒子の表面に埋没しているためと、本発明者は推測している。黒鉛である第一粒子は、網平面(炭素6員環が連結した構造)が積層した構造をとり、網平面内よりも網平面間の電気伝導性が著しく劣っているが、本発明者の推測によれば、網平面間の電気伝導性が向上する。つまり、第二粒子の一部が第一粒子に埋没すると、導電材が網平面間を中継するので、網平面間の電気伝導性が一層高まる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料では、第一粒子と第二粒子で構成され、表面にバインダー層がないリチウムイオン二次電池用負極材料が実現される。
【0018】
また、本発明の製造方法によれば、第一粒子の崩壊を抑制しつつ、第二粒子が第一粒子に付着した負極材料を簡易かつ安価に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施形態に基づき、本発明について以下に説明する。図1は、本実施形態に係る負極材料を説明するための模式図である。図示の負極材料AMは、第一粒子NMと、複数の第二粒子SMとを構成部材としている。そして、各第二粒子SMは、バインダーを要することなく、第一粒子NMの表面上に点在付着し、第一粒子NMの外表面の一部は、露出している。
【0020】
第一粒子NMは、鱗片状、球状等、その形状が特に限定されるものではない。また、天然黒鉛および人造黒鉛の種別が問われない。天然黒鉛が使用される場合には、例えば、一般入手可能な純度85〜99質量%の黒鉛であれば良く、必要に応じて、公知の方法で黒鉛の純度を99質量%以上に高めると良い。
【0021】
第一粒子NMの平均粒径は、負極材料の平均粒径に応じて任意に選択されるべきであるが、平均粒径が小さいほど、負極における負極材料の比表面積が大きくなり、リチウムイオン二次電池の初回の放電量を初回の充電量で除して算出される初期効率が低下する傾向があるため、平均粒径が5μm以上であると良い。一方で、負極における負極材料層の厚みが通常60μm程度であり、第一粒子の粒径が過大であると負極の厚み方向に並ぶ粒子数が少なくなって負極の均一性が低下するので、平均粒径の上限は、50μm以下であると良い。第一粒子NMの好ましい平均粒径は、10〜40μm、更に好ましくは、15〜30μmである。
【0022】
なお、「平均粒径」とは、水に分散させた試料を、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて求められるメジアン径をいい、例えば、株式会社島津製作所製の「SALD−2000」を使用して測定できる。この平均粒径の意味は、本発明における全ての平均粒径に当てはまる。
【0023】
第二粒子SMの材質は、目的とする電池の特性に応じて選択される。優れた負荷特性、充電特性、および充放電サイクル特性を目的とするのであれば、カーボンブラック、黒鉛、非晶質炭素、金属等の導電材が選択される。また、電池の大容量化を目的とするのであれば、黒鉛よりも容量が大きいシリコン等が選択される。
【0024】
第二粒子の硬度が第一粒子NMと同等以下の黒鉛等である場合、第一粒子NMよりも高い硬度の表面層を形成すると良い。このような黒鉛を例示すれば、コールタールピッチやアスファルトピッチ等のピッチ、タール、熱硬化性樹脂等の有機物で被覆し、熱処理した黒鉛が挙げられる。なお、有機物を被覆した後の熱処理は、有機物がバインダー性質を有する場合、その性質が消失するまで行われる。
【0025】
第二粒子の平均粒径は、第一粒子NMよりも小粒径である。この粒径が小さいほど、負極における負極材料の比表面積が大きくなり、リチウムイオン二次電池の初期効率が低下する傾向があるので、第二粒子の平均粒径は、1μm以上であると良い。好ましくは、2μm以上、更に好ましくは、3μm以上である。
【0026】
次に本発明の製造方法を実施形態に基づき説明する。図2は、本実施形態に係る製造方法を説明するための工程フロー図である。図示の通り、本実施形態の方法は、第一粒子NMと第二粒子SMとを混合する負極原料混合工程S10と、混合した負極原料を外部から均一に加圧する等方加圧工程S20と、加圧後の負極原料を解砕する解砕工程S30と、を順次経る方法である。以下、各工程に分けて実施形態の方法を詳述する。
【0027】
第一工程である負極原料混合工程S10では、任意平均粒径の第一粒子NMと第一粒子NMよりも小粒径の第二粒子SMとを均一に混合する。但し、バインダーを負極原料として混合しない。なお、第二粒子SMの粒径が大きくなるほど、解砕工程S30における解砕で第二粒子SMが第一粒子NMから分離し易くなるので、第一粒子NMの平均粒径が5〜50μmである場合、第二粒子SMの平均粒径は、20μm以下であると良く、好ましくは、15μm以下、更に好ましくは、10μm以下である。
【0028】
負極原料混合工程S10において、第二粒子SMの構成部材の硬度が第一粒子NMと同等以下である場合、その第二粒子の構成部材の表面を第一粒子NMよりも高い硬度とするには、表面に第一粒子NMよりも高硬度の被覆層を設ける。例えば、第二粒子SMの構成部材に黒鉛を有するとき、この黒鉛表面を有機物で被覆した後に熱処理することにより、第一粒子NMよりも高硬度の第二粒子SMが得られる。このとき黒鉛表面を被覆する有機物としては、コールタールピッチやアスファルトピッチ等のピッチ、タール、熱硬化性樹脂等を挙げることができる。有機物がバインダーとしての性質を有している場合には、その性質が消失する温度以上で、黒鉛表面を被覆した後の熱処理を行う。なお、ピッチを使用する場合の温度は、次の通りである。熱処理温度が低い場合、ピッチの炭化が十分ではなく、リチウムイオン二次電池の充電時に吸蔵されるが放電時に放出されないリチウム量が熱処理ピッチ内に増大し、リチウムイオン二次電池の初期効率が低下する。そのため、熱処理温度は、500℃以上であると良く、好ましくは600℃以上、更に好ましくは、700℃以上である。一方で、熱処理温度の上限は、ピッチの黒鉛化進行により第一粒子と第二粒子の硬度差が小さくならない温度に制御するのであれば特に限定されるものではないが、3000℃以下、好ましくは2000℃以下、更に好ましくは1600℃以下である。
【0029】
次に、第二工程である等方加圧工程S20について説明する。この工程では、負極原料混合工程S10で調製した第一粒子NMと第二粒子SMとの混合物を外部から等方的に加圧する。等方的な加圧を行う方法としては、ガス、液体等の加圧媒体を使用する方法があるが、迅速且つ簡易に等方加圧できる冷間静水圧で加圧することが好ましい。このように等方的加圧を行うので、不特定方向から第一粒子NMを加圧して生じる第一粒子NMの崩壊を抑制できる。第二粒子SMの表面が第一粒子NMよりも高い硬度であっても、第一粒子NMの崩壊を抑制できる。
【0030】
等方加圧工程S20において、混合物に加える圧力は、混合物が塊状になる圧力に適宜設定される。例えば、10〜500MPaである。圧力が小さくなると第一粒子と第二粒子との複合化の効果が十分ではなく、解砕時に第二炭素が第一炭素から分離し易く、一方で圧力が大きいと、圧力上昇に時間を要する上に生産性が低下するので、圧力が20〜400MPaであると好ましく、30〜300MPaであると更に好ましい。
【0031】
解砕工程S30では、剪断力を加えて塊状混合物を解砕する。混合物は、バインダーを使用することなく塊状となっているので、小さな剪断力で解砕される。そして、第二粒子SMが第一粒子NMの表面に付着した負極材料AMが得られる。
【0032】
次に、リチウムイオン二次電池用負極について説明する。本実施形態の負極は、本実施形態の負極材料AMが使用される。負極は、公知の方法により製造できる。例えば、集電板の表面に、本実施形態の負極材料AMとバインダーを分散させたスラリーを塗布し、次に乾燥することにより製造できる。集電板としては、一般的に銅箔が使用される。また、バインダーは、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素系高分子化合物や、カルボキシメチルセルロース、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等が使用される。このバインダーは、通常、溶剤に溶解して使用される。
【0033】
次に、リチウムイオン二次電池について説明する。本実施形態のリチウムイオン二次電池は、負極の他、正極、電解液およびセパレータを主要構成としており、負極に上記本実施形態の負極を使用している。正極材料を例示すれば、LiCoOやLiNiO、LiNi1−yCo、LiMnO、LiMn、LiFeOなどが挙げられる。また、正極のバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)やポリ四フッ化エチレン(PTFE)などを採用できる。また、導電材として、カーボンブラックなどを混合しても良い。電解液としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)などの有機溶媒や、該有機溶媒とジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシメタン、エトキシメトキシエタンなどの低沸点溶媒との混合溶媒に、LiPFやLiBF、LiClO、LiCFSO、LiAsFなどの電解液溶質(電解質塩)を溶解した溶液が用いられる。セパレータとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム等が用いられる。
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0035】
(実施例)
以下の黒鉛粒子の調製、導電材粒子の調製、及び負極材料の製造、に従って実施例のリチウムイオン二次電池用負極材料を製造した。
【0036】
[黒鉛粒子の調製]
平均粒径30μmの鱗片状天然黒鉛200gを、ホソカワミクロン株式会社製「カウンタージェットAFG100」を使用し(ノズル吐出空気圧:0.20MPa、操作時間:20分)、球状の黒鉛粒子Aを調製した。
【0037】
[導電材の調製]
平均粒径が6μmの鱗片状天然黒鉛90質量部、コールタールピッチ10質量部、およびNMP50質量部を混合し、次に、窒素気流中800℃で2時間、炭化焼成処理を行った。この処理により得られた炭化物を解砕して、導電材Bを得た。
【0038】
導電材Bが黒鉛粒子Aよりも高硬度であることを次の通り確認した。直径13mmのシリンダーに0.34gの試料(黒鉛粒子Aまたは導電材B)を充填し、シリンダー内の試料を段階的に加圧した。このとき加圧を60秒間維持し、加圧後の試料密度を測定した。0.30、0.75、および2.26t/cmで加圧した後の密度測定値を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
黒鉛粒子Aは、圧力2.26t/cmで加圧した後に黒鉛の定常密度に達している。一方、導電材Bの密度は、2.26t/cm以上で加圧したときに定常密度になったことが確認されており、黒鉛粒子Aよりも導電材Bが高硬度であったことが確認されている。
【0041】
[負極材料の製造]
90質量部の黒鉛粒子Aと、10質量部の導電材Bと、を混合した。得られた混合物を次の条件で冷間静水圧成形処理(等方加圧処理)した。
冷間静水圧成形処理装置:神戸製鋼所株式会社製CIP装置「WET−CIP」
静水圧:400MPa
加圧時間:静水圧到達後5分間
冷間静水圧処理により、直径40mm、高さ200mm、重さ550gの成形体を得た。この成形体を乳鉢で解砕し、実施例のリチウムイオン電池用負極材料を得た。
【0042】
(比較例1)
実施例の負極材材料を製造する過程で調製した黒鉛粒子Aを比較例1の負極材料とした。
【0043】
(比較例2)
実施例の負極材料を製造する過程で調製した90質量部の黒鉛粒子Aと、10質量部の導電材Bと、を混合して、比較例2の負極材料を得た。なお、比較例2の負極材料の調製過程では、冷間静水圧処理を行っていない。
【0044】
図3乃至8に実施例および比較例の負極材料材を顕微鏡観察した写真を示す。図3は実施例の600倍率写真、図4は実施例の2000倍率写真、図5は比較例1の600倍率写真、図6は比較例1の2000倍率写真、図7は比較例2の600倍率写真、図8は比較例2の2000倍率写真、である。
【0045】
図3および4に示すように、実施例の負極材料は、黒鉛粒子Aの表面に粒子状の導電材Bが分散付着していることを確認できる。この実施例の負極材料と図5および6に示す比較例1の負極材料とを比較すると、実施例の黒鉛粒子Aと比較例の黒鉛粒子Aの形状に大きな差異が認められないので、実施例の負極材料製造過程で黒鉛粒子Aの崩壊が抑制されていたことを確認できる。他方で、図7および8に示すように、比較例2の負極材料は、黒鉛粒子Aの表面に導電材Bが付着していない。これは、実施例の負極材料おいては、バインダーを要することなく導電材Bが黒鉛粒子Aの表面に付着していたことの確認になる。
【0046】
上記実施例および比較例の負極材料を使用して、リチウムイオン二次電池を作製した。この電池の負荷特性、低温充電特性、およびサイクル特性の評価を行った。電池の作製方法、および電池の評価方法は、以下の通りである。
【0047】
[リチウムイオン二次電池の作製]
(1)負極の作製
100質量部の実施例ないしは比較例の負極材料、50質量部のバインダー水溶液(2.0質量%カルボキシメチルセルロース水溶液)、および20質量部の5.0質量%スチレンブタジエンゴム水溶液を混合し、これに30質量部の水を加えてスラリー状にした。得られたスラリーを厚さ18μmの銅箔上に塗布し、乾燥機(100℃)で10分間乾燥した。乾燥後、直径1.6cmの円形に打ち抜いたのち、銅箔を除く塗布量を測定すると18mgであった。この膜をローラープレス機で、銅箔上に塗布した塗布物の密度が1.60g/ccとなるようにプレスし、リチウムイオン二次電池用の負極を作製した。
【0048】
(2)リチウムイオン二次電池の作製
リチウムイオン二次電池用の正極としては、低温充電特性および負荷特性を算出するためのリチウムイオン二次電池用にはリチウム箔を用い、サイクル特性を算出するためのリチウムイオン二次電池用にはLiCoO2を活物質とする電極を用いた。LiCoO2を活物質とする電極は、次のようにして作製した。LiCoO290質量部に対して、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量部、導電材としてカーボンブラック5質量部を夫々混合し、これにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)200質量部を加えてスラリーを作製した。得られたスラリーを厚さ30μmのアルミ箔上に塗布し、乾燥機(100℃)で20分間乾燥した。乾燥後の膜を直径1.6cmの円形に打ち抜いた後、アルミ箔を除く塗布量を測定すると45mgであった。この膜をローラープレス機で、アルミ箔上に塗布した塗布物の密度が2.8g/ccとなるようにプレスしてリチウムイオン二次電池用の正極を作製した。
【0049】
(3)リチウムイオン二次電池の組み立て
上記正極と負極とを、セパレータを介して対向させて、ステンレス製セルに組み込み、リチウムイオン二次電池(コイン型)を作製した。電池の組み立てはアルゴンガス雰囲気下で行ない、電解液としては、1MのLiPF/(EC+DMC)0.05mLを、セパレータとしてはCelgard社製の「セルガード#3501(商品名)」を用いた。電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)を容積比1:1で混合した溶媒に、LiPFを1Mの濃度になるように溶解したものである(三菱化学社製、商品名「ソルライト」)。
【0050】
[負荷特性の評価]
電池の充電を、電極面積に対する電流密度が0.37mA/cm(0.1C)の定電流値で、正極と負極の電位差が0Vになるまでを行い、続けて、0Vの定電位で電流値が0.06mAcmに下がるまで行った。充電後、0.37mA/cm(0.1C)で1Vまで放電した放電容量と、9.2mA/cm(2.5C)で1Vまで放電した放電容量とから、次式により算出した。
負荷特性(%)=100×[(9.2mA/cm2で放電した放電容量)/(0.37mA/cm2で放電した放電容量)]
【0051】
[低温充電特性の評価]
電池の充電を、0℃にて、0.74mA/cm(0.2C)の定電流で0Vまで行った。このときの負極における単位質量あたりの充電容量(mAh/g)で評価した。
【0052】
[サイクル特性の評価]
電池の充電を、電流値6.4mAで4.2Vまで行った後、続けて、4.2Vの定電圧で電流値が0.2mAになるまで行なった。次に、放電を、電流値6.4mAで3.0Vになるまで行なった。この充電と放電とを所定回数繰り返し、次式によりサイクル特性を算出した。
nサイクル目のサイクル特性(%)=100×[(nサイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)]
【0053】
表2に、負荷特性、充電特性、およびサイクル特性の評価結果を示す。
【表2】

【0054】
表2に示す通り、実施例の冷間静水圧処理をした負極材料(導電材Bが付着した黒鉛粒子A)を使用したリチウムイオン二次電池は、比較例の負極材料を使用したリチウムイオン二次電池よりも、急速放電の指標となる負荷特性、及び急速充電の指標となる低温充電特性が優れていることを確認できる。特に、実施例の負極材料を使用したリチウムイオン二次電池のサイクル特性が優れていることを確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態に係る負極材料を説明するための模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る負極材料の製造方法を説明するための工程フロー図である。
【図3】実施例の負極材料の顕微鏡写真である(倍率:600倍)。
【図4】実施例の負極材料の顕微鏡写真である(倍率:2000倍)。
【図5】比較例1の負極材料の顕微鏡写真である(倍率:600倍)。
【図6】比較例1の負極材料の顕微鏡写真である(倍率:2000倍)。
【図7】比較例2の負極材料の顕微鏡写真である(倍率:600倍)。
【図8】比較例2の負極材料の顕微鏡写真である(倍率:2000倍)。
【符号の説明】
【0056】
AM 負極材料
NM 第一粒子
SM 第二粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛からなる第一粒子と、該第一粒子よりも小粒径の第二粒子とを有するリチウムイオン二次電池用負極材料であって、
前記第一粒子表面の一部が露出し、
前記第二粒子がバインダーを用いることなく前記第一粒子に付着していることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記第一粒子よりも前記第二粒子が高硬度である請求項1に記載の負極材料。
【請求項3】
前記第二粒子が導電材である請求項1または2に記載の負極材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の負極材料を備える負極。
【請求項5】
請求項4に記載の負極を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
黒鉛からなる第一粒子と該第一粒子よりも小粒径の第二粒子とを混合する工程と、
前記第一粒子と第二粒子との混合物を等方的に加圧する工程と、
加圧で塊状となった前記混合物を解砕する工程とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−220324(P2007−220324A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36204(P2006−36204)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【Fターム(参考)】