説明

リチウムイオン二次電池

【課題】 高容量・高出力であり充放電サイクル特性も良好で、安全で長寿命なリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】正極集電体、正極層、負極集電体、負極層、及び固体電解質層を備えたリチウムイオン二次電池であって、該固体電解質は、リチウムイオン伝導性の無機物質からなる粉体を含有する厚さ20μm以下の薄膜状固体電解質からなり、該正極層及び/又は該負極層と、該固体電解質層との界面において、該正極層及び/又は該負極層と該固体電解質層とが混じった状態であるリチウムイオン二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薄膜状固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、リチウムイオン二次電池における電解液としては、一般に非水系の電解液が使用されていたが、近年、このように液体が中心の電解液に替わり、高分子で構成されたポリマー電解質を用いたリチウムイオン二次電池が注目されるようになった([特許文献1])。すなわち、このようにポリマー電解質を用いたリチウムイオン二次電池においては、ポリマー電解質中に液体の電解液が保持されるため、漏液がしにくく、腐食性も少なく、リチウム析出(デンドライト)の発生による電極のショートを防ぎ、また電池の構造が簡単でその組立ても容易になる等の利点があった。
【0003】
ここで、このようなポリマー電解質は電解液のみに比べ、リチウムイオンの導電性が低いため、このポリマー電解質の厚さを薄くすることが行なわれるようになった。しかし、このようにポリマー電解質を薄くした場合その機械的強度が低くなり、電池の作製時に破れたり、穴が開いたりして、ポリマー電解質が破壊され、正極と負極とが短絡し易いという問題があった。ゲル状ポリマー電解質層の厚さとしては、30〜80μm程度と紹介されている。
【0004】
機械的強度を改良する目的でリチウムイオン伝導性のガラスセラミックス粉体
を含有する複合電解質も提案されている([特許文献2])。しかし、厚さ20μm以下の薄膜化は実現していなかった。
【0005】
また、電解液を全く用いない固体電解質電池も多く提案されている。固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池では、従来の電池のように有機電解液を含浸する必要がないため、液漏れや発火などを起こす危険性が無く、安全性の高い電池が提供できる可能性がある([特許文献3])。従来の有機電解液を用いた電池では、正極及び負極は固体電解質を介して有機電解液で接触しているため、界面でのイオン移動抵抗はそれほど問題にはならなかった。しかし、構成されている正極、負極及び電解質が全て固体である場合、電解液を用いた電池と比較して、正極−電解質の界面及び負極−電解質の界面が固体同士の接触、部分的に点での接触となり、大きな界面抵抗が生じる。そのため、界面でのインピーダンスが大きく、分極を引き起しやすくなり、界面のリチウムイオン移動が制限され、高容量・大出力の電池は実現し難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−067917号公報
【特許文献2】特開2001−015164号公報
【特許文献3】特開平07−326372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、リチウムイオン二次電池における上記のような問題を解決することを課題とするものであり、固体電解質を用いた場合においても、電解質が薄く抵抗が小さいため高出力、高容量で充放電サイクル特性も良好な長期的に安定して使用できるリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、リチウムイオン二次電池用途として様々な材料について詳細に実験した結果、ある結晶を有する無機物質はリチウムイオン伝導性が高く、リチウムイオン輸率が1であること、この材料を薄膜状にしてリチウムイオン二次電池の固体電解質として用いた場合、高性能な電池を提供することができることを見い出した。
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、及び固体電解質を備え、固体電解質は、リチウムイオン伝導性の無機物質を含有する薄膜状固体電解質からなる。薄膜状固体電解質は高いリチウムイオン伝導性の無機物質を含有することが好ましく、さらに好ましくはリチウムイオン伝導性の結晶、ガラス又はガラスセラミックスを含有することが好ましい。本発明のリチウムイオン二次電池に用いる薄膜状固体電解質は薄い方がリチウムイオンの移動距離が短いため高出力の電池が得られ、また単位体積当りの電極面積が広く確保できるため高容量の電池が得られる。そこで、本発明のリチウムイオン二次電池において、薄膜状固体電解質の厚さは20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が特に好ましい。
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池の、充放電時におけるリチウムイオンの移動性は、固体電解質のリチウムイオン伝導度及びリチウムイオン輸率に依存する。したがって、本発明のリチウムイオン二次電池において、薄膜状固体電解質のイオン伝導度は、1×10−5S・cm−1以上であることが好ましい。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池において、該薄膜状固体電解質は無機物質を40重量%以上含有することが好ましい。該無機物質はリチウムイオン伝導性の結晶、ガラス又は、ガラスセラミックスからなることが好ましい。該無機物質は無機物質粉体からなることが好ましい。該薄膜状固体電解質に含まれる該無機物質粉体の平均粒径は、1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.3μm以下が特に好ましい。
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池において、該薄膜状固体電解質は、ポリマー媒体中にリチウムイオン伝導性の無機物質粉体を含有することができる。該薄膜状固体電解質は、ポリマー媒体中にリチウム無機塩及びリチウム伝導性ガラスセラミックス粉体を含有することが好ましい。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池において、該薄膜状固体電解質は、正極及び/又は負極の電極材料上に直接コーティングにより形成することができる。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、リチウムイオン伝導性の無機物質を含有する薄膜状固体電解質を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法であって、リチウムイオン伝導性の無機物質を、正極及び/又は負極の電極材料上に直接コーティングすることにより薄膜状固体電解質を形成することを特徴とする。
【0015】
固体電解質は薄い方が抵抗が低く、イオンの移動距離が短いため、より高出力な電池が得られるが、これらを単独で製造する場合、強度及びハンドリング、製造工程の問題から、薄くするには限界がある。これに対し、本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法においては、正極及び/又は負極の電極材料上に固体電解質を直接形成するので、単独でのハンドリングなどの問題は生じないため、さらに薄くすることが可能である。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池において、薄膜状固体電解質は、無機物質としてリチウムイオン伝導性の結晶、ガラス又はガラスセラミックスを含有するスラリーを調製し、該スラリーを正極及び/又は負極の電極材料上に直接コーティングすることにより作製できる。
【0017】
スラリーを正極及び/又は負極の電極材料上に直接コーティングする方法としては、ディップ、スピンコーティング、テープキャスティングなどの方法や、インクジェットやスクリーン印刷などの印刷技術を用いることができ、スラリーは、無機物質としてリチウムイオン伝導性を有する粉末をバインダーとともに溶媒中に分散したものを用いることができる。無機物質は結晶、ガラス又はガラスセラミックスからなることが好ましい。該薄膜状固体電解質は無機物質を40重量%以上含有することが好ましい。
【0018】
ここで、用いるリチウムイオン伝導性の粉末は、高いリチウムイオン伝導性を有することが好ましい。さらに好ましくは、化学的に安定なガラスセラミックスであり、具体的には母ガラスがLiO−Al−TiO−SiO−P系の組成であり、このガラスを熱処理して結晶化させ、その際の主結晶相がLi1−x+yAlTi2−xSi3−y12(0≦x≦1、0≦y≦1)である粉末である。
【0019】
用いるバインダーは、結晶やガラス又はガラスセラミックス粉末同士及び基板である電極とを結着させるため、有機高分子材料を用いることが好ましい。具体的な材料としては、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素樹脂、ポリアミド類、ポリエステル類ポリアクリレート等の高分子材料や、これらを構造単位として有する高分子材料を用いることができる。また、リチウムイオン伝導性を有しているバインダーを用いる、あるいはリチウム塩等を添加し、リチウムイオン伝導性を付加させた高分子材料を用いると、複合電解質のイオン伝導性も高くなるため、より好ましい。また、溶媒としては、上記高分子材料が溶解又は分散する有機溶媒を用いることができる。
【0020】
また、本発明のリチウムイオン二次電池において、薄膜状固体電解質は、リチウムイオン伝導性の無機物質を電極材料上に直接コーティングすることにより作製することもできる。無機物質を電極材料上に直接コーティングする方法としては、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、プラズマ溶射など既知の薄膜作製装置を用いることもできる。この際、ターゲットには、リチウムイオン伝導性の結晶やガラス又はこれらリチウムイオン伝導性の結晶やガラスを含有した複合材料を用い、直接電極材料上に薄膜を形成することができる。
【0021】
ここで、ターゲット材料には、上記の化学的に安定でかつ高いリチウムイオン伝導性のガラスセラミックスを用いることが好ましい。また、薄膜化した場合にアモルファス化する場合があるが、この場合は熱処理して結晶化することにより、上記主結晶相を析出させれば問題は無い。同様にこのガラスセラミックスの結晶化前の母ガラスもターゲットとして用いることができる。この場合も成膜後に結晶化処理を行なうことで、上記主結晶相が得られる。また、複合材料のターゲットは、リチウムイオン伝導性の結晶やガラス、ガラスセラミックス粉末に無機バインダーを加え焼成して得られる。ここでガラスセラミックス粉体としては、リチウムイオン伝導性を有することが好ましく、主結晶相がLi1+x+yAlTi2−xSi3−y12であることがより好ましい。このガラスセラミックス粉体の平均粒径としては5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。用いる無機バインダーは、低融点の無機酸化物である結晶やガラスであることが好ましく、量は20wt%以下が好ましい。
【0022】
本発明の薄膜固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池においては、正極集電体としてのアルミニウム箔等に正極活物質としての遷移金属酸化物を含有する材料を形成したものを、正極とすることができる。本発明のリチウムイオン二次電池の正極に使用する正極活物質材料としては、リチウムの吸蔵,放出が可能な遷移金属化合物を用いることができ、例えば、マンガン、コバルト、鉄、ニッケル、バナジウム、ニオブ、モリブデン、チタンなどの遷移金属から選ばれる少なくとも一種を含む酸化物を使用することができる。また、リチウムを含有していない材料を負極活物質に用いる場合は、リチウム含有遷移金属酸化物を使用することが好ましい。
【0023】
本発明の薄膜固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池においては、該薄膜状固体電解質にリチウムイオン伝導性の無機物質を含有すると共に、正極にも、イオン伝導助剤として、リチウムイオン伝導性の無機物質を含有することが好ましい。ここで用いるリチウムイオン伝導性の無機物質としては、該薄膜状固体電解質に含有する無機物質と同様に、主結晶相がLi1+x+yAlTi2−xSi3−y12であるガラスセラミックス粉末を用いることが好ましい。ここで用いるガラスセラミックス粉体の平均粒径としては、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。
【0024】
本発明の薄膜固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池においては、正極には、導電助剤及び/又は結着剤を含有することが好ましい。導電助剤としてはアセチレンブラックが好ましく、結着剤としてはポリビニリデンフルオライドPVdFが好ましい。
【0025】
また、本発明のリチウムイオン二次電池においては、負極集電体としての銅箔等に負極活物質を含有する材料を形成したものを、負極とすることができる。本発明のリチウムイオン二次電池の負極に使用する負極活物質材料としては、金属リチウムやリチウム−アルミニウム合金、リチウム−インジウム合金などリチウムの吸蔵、放出が可能な金属や合金、チタンやバナジウムなどの遷移金属酸化物、黒鉛や活性炭、メソフェーズピッチ炭素繊維などの炭素系の材料を使用することができる。
【0026】
また、本発明のリチウムイオン二次電池においては、該薄膜状固体電解質にリチウムイオン伝導性の無機物質を含有すると共に、負極にも、イオン伝導助剤として、リチウムイオン伝導性の無機物質を含有することが好ましい。ここで用いるリチウムイオン伝導性の無機物質としては、該薄膜状固体電解質に含有する無機物質と同様に、主結晶相がLi1+x+yAlTi2−xSi3−y12であるガラスセラミックス粉末を用いることが好ましい。該負極は、負極活物質材料と、イオン伝導助剤と、結着剤とをアセトン溶媒を用いて混合し、この混合物を負極集電体上に塗布することにより調製することができる。負極活物質には市販の黒鉛粉末を用いることができる。
【0027】
以下、この発明に係る薄膜固体電解質及びこれを用いたリチウムイオン電池について、具体的な実施例を挙げて説明すると共に、比較例を挙げ、本発明に係る薄膜固体電解質を備えたリチウムイオン二次電池が優れている点を明らかにする。なお、本発明のリチウムイオン二次電池は、下記の実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【発明の効果】
【0028】
既述したように、本発明の薄膜状固体電解質を備えたリチウムイオン二次電池は、高出力であり充放電サイクル特性も良好であった。また、従来のリチウムイオン二次電池と比較して、有機電解液を含まないため、安全で長寿命な電池が実現した。
【0029】
また、従来の固体電解質を備えた二次電池が、正極−電解質の界面又は負極−電解質の界面での電気化学的抵抗が大きいのに対して、本発明の薄膜状固体電解質を備えたリチウムイオン二次電池は、電極上に固体電解質を直接形成することにより正極及び負極と固体電解質の界面の接触が良好となり、高容量・大出力の二次電池が可能となる。
【0030】
リチウムイオン二次電池では、電解質を極端に薄くした場合、電池に応力が加わったり、曲がったときなどに内部短絡によるショートなどが問題視されてきたが、本発明の薄膜状固体電解質を備えたリチウムイオン二次電池では、ガラスセラミックス微粒子等の無機物質が固体電解質中に多く存在しているため、外部応力で内部短絡が起きないため問題にはならない。また、薄膜状固体電解質をスパッタなどで形成した場合は、全てガラスセラミックスとすることができ、短絡する可能性を皆無とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のリチウムイオン二次電池の内部構造を示した断面説明図。
【図2】参考例1及び比較例1で得られたリチウムイオン二次電池の充放電サイクルに伴う放電容量の変化。
【図3】実施例2及び比較例4で得られたリチウムイオン二次電池の充放電サイクルに伴う放電容量の変化。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(参考例1)
(正極の作製)
正極活物質には市販のコバルト酸リチウムLiCoO を用い、この正極活物質材料と、導電助剤であるアセチレンブラックと、イオン伝導助剤であって主結晶相がLi1+x+yAlTi2−xSi3−y12であるガラスセラミックス粉末と、結着剤であるポリビニリデンフルオライドPVdFとをアセトン溶媒を用いて混合し、この混合物を厚さ10μmのアルミニウムシートである正極集電体上に厚さが約50μmになるように塗布した後、これを100℃の温度で乾燥させてシート状になった正極シートを作製した。なお、ここでは、ガラスセラミックス粉末として、平均粒径は1.0μm(体積平均)、最大粒径は8μmのものを使用した。粒子径はレーザー回析/散乱式粒度分布測定装置にて測定した。
【0033】
(負極の作製)
負極活物質には市販の黒鉛粉末を用い、この負極活物質材料と、イオン伝導助剤であるガラスセラミックス粉末(正極の作製に用いたものと同じく、主結晶相がLi1+x+yAlTi2−xSi3−y12であって、平均粒径は1.0μm、最大粒径は8μm)と、結着剤であるポリビニリデンフルオライドPVdFとをアセトン溶媒を用いて混合し、この混合物を厚さ10μmの銅シートである負極集電体上に厚さが約50μmになるように塗布した後、これを100℃の温度で乾燥させてシート状になった負極シートを作製した。
【0034】
(薄膜状固体電解質の作製と電池の組み立て)
主結晶相がLi1+x+yAlTi2−xSi3−y12であって、平均粒径は0.15μm、最大粒径は0.3μmのガラスセラミックス粉末と、リチウム塩としてLiBFを添加したポリエチレンオキサイドとを、アセトンを溶媒として均一に混合した。この混合物を上記で作製した正極シートの活物質側及び負極シートの活物質側それぞれに塗布し、更に溶媒であるアセトンを乾燥・除去して、正極及び負極の電極材料上に薄膜状固体電解質層を直接形成した。正極及び負極シートの塗布面を貼り合わせた状態で、ロールプレスに通し、40×50mmのサイズに切り出し、正極及び負極の間に薄膜状固体電解質を形成した図1に示すリチウムイオン二次電池を組み立てた。この電池は、全体の厚さは110μmであり、その中で薄膜状固体電解質層の厚さは3μmであった。
【0035】
正極集電体及び負極集電体にリード線を取り付け、25℃、4.2V−3.5Vの充放電サイクル試験を行った。20サイクルまでの放電容量のサイクル特性を図2に示した。実施例1の初期放電容量は36.2mAhであり、20サイクル後は34.1mAhと初期容量の96%以上を維持していた。
【0036】
(比較例1)
薄膜状固体電解質にガラスセラミックス粉末を用いないこと以外は、参考例1と同様の電池を組み、同じ条件にて充放電サイクル試験を行なった。20サイクルまでの放電容量のサイクル特性を図2に示した。
【0037】
(実施例1)
正極活物質には市販のコバルト酸リチウムLiCoO を用い、参考例1と同じ正極活物質材料と導電助剤とイオン伝導助剤と結着剤とをアセトン溶媒を用いて混合し、この混合物を厚さ10μmのアルミニウムシートである正極集電体上に厚さが約50μmになるように塗布して正極層とした。その後すぐに、参考例1の薄膜状固体電解質の作製と同じ、ガラスセラミックス粉末とリチウム塩とを添加したポリエチレンオキサイドの混合物を、この正極層の上に薄く塗布し、電解質層とした。続けて実施例1の負極の作製と同じ混合物を電解質層上に厚さが約50μmになるように塗布した。負極塗布面に負極集電体である銅シートを貼り合わせ、100℃にて乾燥させた後、ロールプレスに通し、40×50mmのサイズに切り出し、正極及び負極の間に薄膜状固体電解質を形成した図1に示すリチウムイオン二次電池を組み立てた。この電池全体の厚さは100μmであり、その中で薄膜状固体電解質層の厚さは約2μmであった。正極−電解質−負極の塗布は途中で乾燥工程を入れないため、それぞれの界面では、正極と固体電解質層及び固体電解質と負極層が混じった状態になっている。
【0038】
正極集電体及び負極集電体にリード線を取り付け、25℃、0.1mA/cmの定電流にて4.2V−3.5Vの充放電サイクル試験を行った。また、1mA/cmの定電流にて急速充放電サイクル試験も行なった。
【0039】
(比較例2)
薄膜状固体電解質にガラスセラミックス粉末を用いないこと以外は、実施例1と同様の電池を組み、同じ条件にて充放電サイクル試験を行なった。0.1及び1mA/cmの充放電密度における初期放電容量、20サイクル後の放電容量の比較を表1に示した。
【表1】

【0040】
表1より分かる様に、実施例1の電池は、サイクルによる劣化及び急速充放電による放電容量の低下が小さく抑えられていた。
【0041】
(参考例2)
参考例1の正極の作製に用いたものと同じガラスセラミックス粉末(主結晶相がLi1+x+yAlTi2−xSi3−y12であって、平均粒径は1.0μm)を、リン酸リチウムLiPOを無機バインダーとしてディスク状に加圧成形した後、焼成してターゲット材を得た。得られたターゲット材の外周及び両面を研削、研磨して直径100mm、厚さ1mmのスパッタリングターゲットを得た。
【0042】
RFマグネトロンスパッタ装置にて、φ20mm、厚さ20μmの負極のリチウム−アルミニウム合金箔上に薄膜を成膜した。このとき得られた固体電解質層は厚さ0.1μmであった。次にこの薄膜状固体電解質上に、正極材料であるLiCoOをスパッタ装置にて成膜した。このとき得られた正極膜は厚さ2μmであった。その上に正極集電体であるアルミニウムを厚さ0.1μmに成膜した。固体電解質及び正極膜はアモルファス化しているため、550℃で熱処理を行い、厚さ約22μmの薄膜セルとした。このセルをφ18mmに打ち抜き、φ20mmのコインセルに入れ、コイン型電池を組み上げた。
【0043】
−20℃、25℃、80℃の各温度にて1mAh/cmの定電流にて3.5V−2.5Vの充放電サイクル試験を行なった。また、組み上げたコイン型電池を250℃のハンダリフローにより回路基板に実装し、25℃にて同様のサイクル試験を行なった。
【0044】
(比較例3)
電解質を従来通りの電解液を不織布に含浸させた電池を作製した。負極は実施例1と同じリチウム−アルミニウム合金を用い、正極は厚さ10μmアルミニウム箔上に参考例1と同様にLiCoOをスパッタ装置にて成膜した。正極と負極を厚さ26μmの不織布のセパレータを介して貼り合わせ、そこにリチウム支持塩としてLiN(CSOを添加したプロピレンカーボネートを含浸させて、厚さ約58μmの薄膜状セルとし、上記以外は参考例2と同様にコイン型電池を組み上げた。参考例2と同じ条件にて充放電サイクル試験を行なった。
【0045】
各温度における初期放電容量、300サイクル後の放電容量、ハンダリフロー後の初期及び300サイクル後の放電容量の比較を表2に示した。
【表2】

【0046】
表2より参考例2の電池は、各温度において良好なサイクル特性を有しており、−25℃においても室温使用と比較して、約50%程度の容量を維持していた。また、比較例3の電池はハンダリフローにより破裂したが、参考例2の電池はほとんど容量劣化を起こさなかった。
【0047】
(実施例2)
(正極の作製)
正極活物質にLiMnを用いた点以外は実施例1と同様に、正極集電体のアルミニウム上に正極層及び薄い電解質層を作製した。
【0048】
(負極の作製)
負極活物質にLiTi12を用い、この負極活物質材料と、イオン伝導助剤であるガラスセラミックス粉末と、結着剤であるポリビニリデンフルオライドPVdFとをアセトン溶媒を用いて混合し、この混合物を厚さ10μmの銅シートである負極集電体上に厚さが約50μmになるように塗布し、負極集電体の銅上に負極層を作製した。その後すぐに、参考例1の薄膜状固体電解質の作製と同じ、ガラスセラミックス粉末とリチウム塩とを添加したポリエチレンオキサイドの混合物を、この負極層の上に薄く塗布し、薄い電解質層を作製した。
【0049】
(電池の組み立て)
正極及び負極の両電解質面同士を貼り合わせ、100℃でロールプレスに通し、乾燥させた。正極層の厚さは60μm、薄膜状固体電解質層の厚さは3μm、負極層の厚さ100μmであり、全体の厚さは約180μmであった。40×50mmのサイズに切り出し、正極集電体及び負極集電体にリード線を取り付け、25℃、0.1mA/cmの定電流にて3.0V−2.2Vの充放電サイクル試験を行った。
【0050】
(比較例4)
正極及び負極の電解質層にガラスセラミックス粉末を用いないこと以外は、実施例2と同様の電池を組み、同じ条件にて充放電サイクル試験を行なった。20サイクルまでの放電容量のサイクル特性を図3に示した。実施例4の初期放電容量は比較例4よりも少し低い値であったが、その後のサイクル特性の劣化が少なく、20サイクル後も初期の98%の容量を維持していた。
【0051】
(実施例3)
実施例2と同じ電池を作製し、25℃にて0.1mA/cmの定電流及び1、3mA/cmの急速充放電にて3.0V−2.2Vの充放電サイクル試験を行った。
【0052】
(比較例5)
ガラスセラミックス粉末とリチウム塩としてLiBFを添加したポリエチレンオキサイドとをアセトンを溶媒として均一に混合し、この混合物をキャストシート上に50μmの厚さに塗布し、これを乾燥し、ロールプレスにかけて厚さ30μmのシート状の固体電解質を作製した。また、実施例2と同様に正極集電体のアルミニウム上に正極層、及び銅シートの負極集電体の上に負極層を作製した。そして、シート状固体電解質(セパレータ)の両面に、正極層及び負極層を貼り合わせ、ロールプレスにかけて、厚さ210μmのシート状の電池を作製した。40×50mmのサイズに切り出し、正極集電体及び負極集電体にリード線を取り付け、実施例と同じ条件にて充放電サイクル試験を行なった。初期放電容量及び20サイクル後の放電容量を表3に示した。
【表3】

【0053】
実施例3及び比較例5の電池は、0.1mA/cm程度の充放電速度では大きな差はなかったが、充放電密度を上げて、急速充放電を行なうと比較例5でははっきりとした容量の減少が確認できた。これは、電池の正極−固体電解質、固体電解質−負極の界面でのイオン移動の抵抗が大きな原因である。電極に直接固体電解質を形成し、界面抵抗を低減させた実施例3では、大きな出力にも耐える電池が得られた。
【符号の説明】
【0054】
1.正極集電体
2.正極
3.薄膜状固体電解質
4.負極
5.負極集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体、正極層、負極集電体、負極層、及び固体電解質層を備えたリチウムイオン二次電池であって、該固体電解質は、リチウムイオン伝導性の無機物質からなる粉体を含有する厚さ20μm以下の薄膜状固体電解質からなり、該正極層及び/又は該負極層と、該固体電解質層との界面において、該正極層及び/又は該負極層と該固体電解質層とが混じった状態であるリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
該薄膜状固体電解質は、溶媒を含んだ未乾燥の正極層及び/又は負極層上に直接形成されたものである、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
該薄膜状固体電解質はリチウムイオン伝導度が10−5Scm−1以上である、請求項1または2記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
該薄膜状固体電解質はリチウムイオン伝導性の無機物質からなる粉体を40重量%以上含有する、請求項1から3のうちいずれか一項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
該粉体の平均粒径は、1.0μm以下である、請求項1から4のうちいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
該薄膜状固体電解質は、ポリマー媒体中にリチウムイオン伝導性の無機物質からなる粉体を含有する、請求項1から5のうちいずれか一項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
該薄膜状固体電解質は、ポリマー媒体中にリチウム無機塩及びリチウム伝導性ガラスセラミックス粉体を含有する、請求項1から6のうちいずれか一項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
該薄膜状固体電解質は、溶媒を含んだ未乾燥の正極層及び/又は負極層上に直接コーティングにより形成されたものである、請求項1から7のうちいずれか一項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
正極集電体、正極層、負極集電体、負極層、及び固体電解質層を備えたリチウムイオン二次電池であって、該正極層及び/又は該負極層に、リチウムイオン伝導性の無機物質からなる粉体を含有する、請求項1から7のうちいずれか一項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
該正極層及び/又は該負極層に含まれる該無機物質からなる粉体は、平均粒径が3μm以下である、請求項9記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−56093(P2010−56093A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273153(P2009−273153)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【分割の表示】特願2002−348532(P2002−348532)の分割
【原出願日】平成14年11月29日(2002.11.29)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】