説明

リチウムイオン二次電池

【課題】 耐膨潤が高く密着性および導電性に優れた負極を提供し、高容量でサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】 リチウムを吸蔵放出し得る負極と、リチウムを吸蔵放出し得る正極と、負極と正極を隔てるセパレータと、リチウム塩を溶解した非水電解液とからなるリチウムイオン二次電池において、前記負極は、負極活物質と、ニトリル基含有単量体由来の繰り返し単位を80質量%以上含むアクリル変性樹脂を用いた結着剤と、導電助剤としてDBP吸収量(cm/100g)が250以上500以下であるカーボンブラックとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量でサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来のアルカリ蓄電池などの二次電池に比べて、体積が小さく、あるいは重量容量密度が大きく、しかも高電圧を取り出すことが可能であるので、小型機器用の電源として広く採用され、携帯電話、ノート型パソコンなどのモバイル機器用の電源として広く用いられている。また、近年では小型のモバイル機器用途以外にも、環境問題に対する配慮と省エネルギー化に対する意識の高まりから、電気自動車(EV)や電力貯蔵分野といった大容量で長寿命が要求される大型電池に対する需要が高まっている。
【0003】
上記のような大型電池では、エネルギー密度が高いこと、充放電の繰り返しに対する放電容量の劣化が少ない、即ちサイクル特性が優れていることが求められる。また、一般に普及するには更なる低コスト化が必要と考えられている。
【0004】
一般に、リチウムイオン二次電池は、黒鉛などの炭素材料を負極活物質とした負極、リチウム複合酸化物を正極活物質とした正極、負極と正極を隔てるセパレータ、非水溶媒にリチウム塩を溶解させた非水電解液などから構成される。
【0005】
負極活物質としては、高いエネルギー密度が得られる黒鉛材料が一般に用いられている。しかしながら、黒鉛材料はリチウムイオンの挿入脱離に伴い最大10%程度の膨張収縮があるため、充放電サイクルによって電極構造が破壊されて電極内の活物質粒子間および活物質層と集電体間の電気的な接触が悪くなることが、電池容量の低下の一因となっていた。
【0006】
したがって、充放電サイクルによる電池容量の低下を抑えるには、活物質の膨張収縮によっても電極構造が劣化しにくい強固な電極構造を有すること、また、たとえ電極構造が劣化しても電極内の導電ネットワークが維持されるようにすることが重要である。前者については電極構造の維持を担っている結着剤、後者については電極内の導電性の向上・維持を担う導電助剤を適切に構成することが必要となってくる。
【0007】
従来、結着剤としては、有機溶剤系としてはポリフッ化ビニリデン(以下、単にPVDFと記す)が用いられてきたが、PVDFは電解液に対する膨潤が大きいため密着性が低下して電極の導電性が悪くなる結果、サイクル特性の低下を招いていた。特に、高温環境下では膨潤が更に大きくなるため電池容量の低下が起きやすく、高温に曝されることがある電気自動車用電池に要求される寿命特性を満足することが困難な場合があった。
【0008】
このような膨潤性および密着性を改善させた結着剤として、特許文献1には、ニトリル基含有単量体由来の繰り返し単位を80質量%以上含むニトリル系重合体を含むバインダ樹脂溶液を用いるとともに、バインダ樹脂溶液に導電性フィラを予め添加する方法により充放電特性が改善することが記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1では導電性フィラについては特に限定されていなかった。特に、上記結着剤は、耐膨潤性および密着性が高い反面、活物質表面が結着剤樹脂で覆われるとイオン導電性が低下して電極抵抗が増大したり、電極内の電解液保持性が低下してしまうなどの問題があり、電気自動車など大型電池に求められるような高いサイクル特性を実現するには、更なる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−311217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、結着剤として耐膨潤性および密着性が高いニトリル基含有アクリル変性樹脂(以下、単にアクリル系結着剤と記す)を用いた際に問題となる電極の導電性及び電解液保持性を向上させた負極、また本負極に特に適した電池構成をとることにより、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、アクリル系結着剤と導電助剤としてDBP(フタル酸ジブチル)吸収量(JISK6216‐2等)で表されるストラクチャーが発達したカーボンブラックとを用いることで、密着性が高い強固な電極構造と十分な導電性および電解液保持性を具備した高性能な黒鉛系負極を得、それを用いた電池が優れたサイクル特性を示すことを見出した。また、上記負極に適した活物質粒子、結着剤と導電助剤の配合量、正極活物質や電解液添加剤などの好ましい電池構成を見出した。
【0013】
即ち、本発明は、リチウムを吸蔵放出し得る負極と、リチウムを吸蔵放出し得る正極と、負極と正極を隔てるセパレータと、リチウム塩を溶解した非水電解液とからなるリチウムイオン二次電池において、前記負極は、負極活物質と、ニトリル基含有単量体由来の繰り返し単位を80質量%以上含むアクリル変性樹脂を用いた結着剤と、導電助剤としてDBP吸収量(cm/100g)が250以上、500以下であるカーボンブラックとを含むことを特徴とする。
【0014】
前記負極活物質は、黒鉛を主体とし、該黒鉛は比表面積が0.4m/g以上、2m/g以下で、アスペクト比が1以上、2以下であることを特徴とする。
【0015】
前記黒鉛は、塊状人造黒鉛又は略球状の低結晶炭素被覆黒鉛の少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする。
【0016】
前記負極は、前記負極活物質100重量部当たり1重量部以上、8重量部以下の結着剤と、0.2重量部以上、5.0重量部以下の導電助剤とを含むことを特徴とする。前記負極活物質100重量部当たり2重量部以上、4重量部以下の結着剤と、0.5重量部以上、1.5重量部以下の導電助剤とを含むことを特徴とする。
【0017】
前記アクリル変性樹脂において、前記ニトリル基含有単量体はアクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリルであり、又、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルからなるカルボキシ含有単量体由来の繰り返し単位を含むことを特徴とする。
【0018】
前記正極は、正極活物質として、Li(Mn2−x)O(MはMn以外の少なくとも一種の元素であり、0.05<x≦0.3である。)で表されるマンガン酸リチウムを含むことを特徴とする。
【0019】
前記マンガン酸リチウムにおけるMは、少なくともMg、Al、Co、Ni、Fe、Bより選択される1種以上の元素を含有していることを特徴とする。
【0020】
前記電解液の添加剤として、環状ジスルホン酸エステルを含有していることを特徴とする。
【0021】
前記正極と前記負極と前記セパレータが有する総空孔体積(VA)に対する前記電解液の体積(VB)の比率(VB/VA)が、1.1〜2.0の範囲にあることを特徴とする。
【0022】
前記正極と前記負極と前記セパレータが有する総空孔体積(VA)に対する前記電解液の体積(VB)の比率(VB/VA)が、1.2〜1.7の範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、負極活物質として特に黒鉛を用いた負極において、結着剤としてニトリル基含有単量体由来の繰り返し単位を80質量%以上含むアクリル変性樹脂を用いることにより耐膨潤性および密着性が高く、導電助剤としてDBP吸収量が250cm/100g以上のカーボンブラックとを用いることにより十分な導電性および電解液保持性が確保された負極が提供される。これによって、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
(本発明における電池構成)
本発明におけるリチウムイオン二次電池は、負極集電体にリチウムイオンを吸蔵、放出し得る負極活物質を含有する負極活物質層を形成した負極と、正極集電体にリチウムイオンを吸蔵、放出し得る正極活物質を含有する正極活物質層を形成した正極とが、セパレータを介して対向して配置され、これらがリチウム塩を溶解した非水電解液を含んで、構成されている。
【0026】
(負極)
負極は、負極集電体の少なくとも一方の面に負極活物質層が形成されてなり、負極活物質層は、主材である負極活物質と導電助剤とが有機ポリマーからなる結着剤によって結合された構造を有している。
【0027】
本発明に用いられるアクリル系結着剤は、ニトリル基含有単量体由来の繰り返し単位を80質量%以上含むアクリル変性樹脂からなる。80質量%以上のニトリル基含有単量体由来の繰り返し単位を含むことで、電解液に対する膨潤を抑えることができる。ニトリル基含有単量体としては、特に制限はされないが、電極の柔軟性・可撓性の点でアクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリルが好ましい。また、電極の柔軟性や接着性の点で、カルボキシ含有単量体由来の繰り返し単位を含んでいることが好ましい。例えば、カルボキシ含有単量体としては、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルなどが好ましい。このようなアクリル系結着剤を用いた負極は、耐膨潤性、密着性、可撓性に優れたものである。
【0028】
従来のPVDFのような結着剤は、膨潤が大きく密着性が劣る反面、電解液を吸収した結着剤層がイオン導電性を有するとともに電解液を保持する効果があり、バインダの配合量にあまり依存せず抵抗が低い電極を得ることができる。一方、アクリル系結着剤は、膨潤が小さく電極の密着性に優れるというメリットがある反面、結着剤によって被覆された部分のイオン導電性が低下して抵抗が増大したり、電解液保持性が低下するといったデメリットがある。本発明では、そのデメリットを改善する方法として、以下に述べる特徴を有する導電助剤を適用する。
【0029】
一般に、導電助剤としては、例えば、燐片状黒鉛や粒状炭素類、カーボンブラックなどの種々の炭素材料が用いられる。カーボンブラックは、粒子サイズ、比表面積、DBP吸収量などが異なる種々のものがあるが、DBP吸収量が高いほどストラクチャーが発達しており、カーボン粒子が鎖状につながった構造を有し、これが電極内の電子導電のネットワークとして機能する。また、このストラクチャー構造が電解液を保持する役割をしており電極内のイオン導電性の向上に寄与している。本発明によれば、導電助剤としてDBP吸収量が250cm/100g以上のカーボンブラックを含むことによって、上記アクリル系結着剤を用いた場合にでも十分な導電性と電解液保持性が確保される。一方、DBP吸収量が500cm/100gを超えると、電極スラリーの分散媒の大部分がカーボンブラックに吸収されて粘度が著しく増大してハンドリング性が低下したり、電極の塗工性が悪化してしまう場合がある。したがって、DBP吸収量は500cm/100g以下とすることが望ましい。
【0030】
負極活物質としては、黒鉛を主体とするが、非晶質炭素などの炭素材料、あるいは、Si、Sn、Al、などのLiと合金を形成する材料、Si酸化物、SiとSi以外の他金属元素を含むSi複合酸化物、Sn酸化物、SnとSn以外の他金属元素を含むSn複合酸化物、LiTi12などを混合して用いてもよい。
【0031】
リチウムイオン電池に用いられる黒鉛材料は、人造黒鉛と天然黒鉛に大別されるが、一般に粒子径は数μm〜数十μm、比表面積は0.4〜10m/gの範囲であり、目的に応じて塊状、燐片状、球状など様々な形に加工されたものを1種あるいは2種以上混合して供される。また、電解液に対する反応性を抑えるための表面処理手段として、あるいは比表面積を低減させる目的で黒鉛表面を基材黒鉛よりも結晶性が低い炭素で被覆することがある。
【0032】
本発明によれば、黒鉛材料としてはアスペクト比が2以下のものが好ましい。アスペクト比が大きいと、リチウムの挿入脱離反応が起こる黒鉛のエッジ面が電極面内に配向して電極内でのリチウムイオンの移動が制限される。イオン透過性が小さいアクリル系結着剤がエッジ面を覆うとリチウムイオンの移動を大きく阻害してしまう。一方、アスペクト比が小さく配向性が少ないものでは、リチウムイオンが出入りする領域が電極内のあらゆる方向に多数存在するため、アクリル系結着剤を用いてもリチウムイオンの移動が十分に確保される。一方、アスペクト比の下限値は1である。アスペクト比が1の真球状の粒子を得ることは実際上困難であるが、そのような粒子は電極内における粒子間の接触点また接触面積が少ないために、サイクル特性の低下を招く場合がある。したがって、アスペクト比は1以上、より好ましくは1.1以上である。
【0033】
また、黒鉛材料としては比表面積が2m/g以下のものが好ましい。結着剤量が一定の場合、比表面積が大きいと電極の密着性が低下してしまう。一方、十分な密着性を得るために結着剤量を増やすと、活物質や集電体表面に被覆される結着剤量が増えて電極の導電性を低下させてしまう。また、電極中の活物質の割合が減少するため電池容量が低下してしまう。比表面積が2m/g以下であれば比較的少量の結着剤量で十分な密着性が得られるとともに、比較的少量の上記カーボンブラックの添加により電極の導電性を確保することができる。一方、比表面積が0.4m/g以下になると反応表面積が減少するためリチウムの受入性能が低下して充放電容量の低下やレート特性の悪化を招く場合がある。したがって、比表面積は0.4m/g以上が好ましい。なお、比表面積はBET法で測定されたものである。
【0034】
本発明における。アスペクト比が1以上、2以下で比表面積が0.4m/g以上、2m/g以下の黒鉛材料としては、塊状人造黒鉛や低結晶性炭素で表面被覆した球状天然黒鉛(以下、単に炭素被覆天然黒鉛と記す)が好ましい。塊状人造黒鉛は低アスペクト比と低比表面積の両方の特性を有するものとして、本発明の黒鉛として好適に用いることができる。一方、特に加工や処理が施されていない天然黒鉛の多くは燐片状でアスペクト比および比表面積が大きいため、本発明の黒鉛材料としては適当ではない。しかしながら、球状に加工されて表面を低結晶性炭素で被覆された天然黒鉛は、低アスペクト比と低比表面積を有するものが得られ、本発明の黒鉛として好適に用いることができる。また、上記人造黒鉛と天然黒鉛を混合して用いても良い。人造黒鉛は結晶性や粒子形状によっては圧縮性が劣り電極密度を高めることが困難な場合がある。そのような場合に、圧縮性の高い天然黒鉛を混ぜることによって負極の充填性を上げ、エネルギー密度を向上させることができる。また、一般に人造黒鉛は天然黒鉛よりも寿命特性が優れているものの材料コストが高い傾向があり、コストと寿命特性のバランスを図る点で、これらを混合して用いることもできる。
【0035】
アスペクト比の小さい塊状人造黒鉛や球状天然黒鉛を用いた場合の問題点として、活物質粒子間が点接触となりやすく電極の電気的接触性が取りにくくなることが挙げられる。しかしながら、本発明のアクリル系結着剤と導電助剤とを組み合わせることで、電極の電気的接触性は十分に維持され、優れたサイクル特性の電池を得ることが可能となる。
【0036】
負極活物質層における負極結着剤は、負極活物質100重量部当たり1重量部以上、8重量部以下が好ましく、2重量部以上、4重量部以下であることがさらに好ましい。1重量部未満だと、活物質と導電助剤粒子を保持するのに十分な結着性が得られない場合がある。また、8重量部を超えると余剰な結着剤が活物質表面を覆ってしまい充放電反応を阻害してしまう恐れがある。一方、導電助剤は0.2重量部以上、5.0重量部以下が好ましく、0.5重量部以上1.5重量部以下がさらに好ましい。0.2重量部未満だと、電極内の導電性・保液性を確保するのに十分ではない場合がある。また5.0重量部を超えると、活物質に比べて比表面積が著しく高いカーボンブラックに多量の結着剤が吸着されてしまい密着性が低下してしまう同時に、電極スラリーの粘度が上がりすぎてしまい多量の溶剤を必要としたり電極塗布工程に問題が出る恐れがある。
【0037】
以上述べた、負極活物質と、結着剤と、導電助剤とを、所定の配合量でN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶剤中に分散混練したスラリーを銅箔などの負極集電体に塗布して負極活物質層を形成することにより本発明の負極を得ることができる。得られた負極は、ロールプレスなどの方法により圧縮して適当な密度に調整することができる。
【0038】
(集電体)
正極集電体としてはアルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金などを用いることができ、負極集電体としては銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金を用いることができる。
【0039】
(セパレータ)
セパレータとしては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、フッ素樹脂などの多孔性フィルムが用いられる。
【0040】
(正極)
正極活物質としては通常リチウム含有複合酸化物が用いられる。具体的にはLiMO(MはMn、Fe、Co、Niより選ばれる1種のみ、または2種以上の混合物であり、一部をMg、Al、Tiなどその他カチオンで置換してもよい)、LiMn2−x(MはMn以外の少なくとも一種の元素。)など汎用の材料を用いることができる。また、LiFePOで表されるオリビン型材料を用いることもできる。これらは、例えばLi過剰組成など非化学量論組成であっても良い。これらの中で、特にLiMn2−xで表されるマンガン酸リチウムは、コバルト酸リチウム(LiCoO)やニッケル酸リチウム(LiNiO)よりは容量は低いものの、NiやCoと比較してMnの産出量が多いため材料コストが低く、スピネル構造を有するため熱的安定性が高いといったメリットがあり、電気自動車や電力貯蔵用などの大型電池向けの正極材料として好適に用いられる。したがって、マンガン酸リチウムを主体とすることが好ましい。ところで、一般にマンガン酸リチウムは高温劣化が大きいとされている。その原因としてマンガン溶出により正極活物質の構造劣化が起こることや、溶出した金属イオンが負極上に析出して、電池のインピーダンスの増大や容量の低下を引き起こしていることが考えられている。一方、マンガン酸リチウムの高温特性を改善させる方法として、種々の添加元素を加えるなどして結晶構造の安定化を図る検討がなされている。添加元素としては、例えば、Mg、Al、Co、Ni、Fe、Bなどが挙げられる。このような元素を添加することにより結晶構造の安定化が図られてMn溶出が抑制される結果、高温特性を向上させることができる。しかしながら、正極活物質からのMnや添加元素などの金属イオンの溶出を完全になくすことは困難であり、さらに改善が必要である。
【0041】
一方、活物質表面に電解液が浸透しにくいアクリル系結着剤の樹脂層が存在すると、その表面上での金属イオンの析出を抑える効果がある。また、細孔が多く乱層構造を有するカーボンブラックが、溶出した金属イオンを取り込むことによって、活物質表面への金属イオンの析出を減少させる効果がある。したがって、本発明の負極はマンガン酸リチウムをベースとした正極と組み合わせるのが好ましく、高温寿命特性の点で、Li(Mn2−x)O(M=Mg、Al、Co,Ni、Fe、Bより選択される1種以上の元素であって、0.05<x≦0.3である)がさらに好ましい。
【0042】
正極は、上記正極活物質と炭素質粉末などの導電助剤とを、PVDFなどの結着剤とともにNMPなどの溶剤中に分散混練し、このスラリーをホットプレート上にてドクターブレードなどを用いてアルミニウム箔などの正極集電体に塗布後、溶媒を乾燥させるなどの方法により正極活物質層を得ることができる。得られた正極は、ロールプレスなどの方法により圧縮して適切な密度に調整することができる。
【0043】
(電解液)
電解液は、電解質が溶解された非水溶媒を用いることができる。電解質は、リチウム二次電池の場合にはリチウム塩を用い、これを非水溶媒中に溶解させる。リチウム塩としては、リチウムイミド塩、LiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbFなどが挙げられる。この中でも特にLiPF、LiBFが好ましい。リチウムイミド塩としてはLiN(C2k+1SO)(C2m+1SO)(k、mはそれぞれ独立して1または2である)が挙げられる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて用いることができる。
【0044】
また、非水溶媒としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ラクトン類、環状エーテル類、鎖状エーテル類およびそれらのフッ化誘導体の有機溶媒から選ばれた少なくとも1種類の有機溶媒を用いる。より具体的には、環状カーボネート類:プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびこれらの誘導体鎖状カーボネート類:ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、およびこれらの誘導体、脂肪族カルボン酸エステル類:ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、およびこれらの誘導体、γ−ラクトン類:γ−ブチロラクトン、およびこれらの誘導体、環状エーテル類:テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン鎖状エーテル類:1,2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、およびこれらの誘導体、その他:ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステル、これらを1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0045】
また、電解液には、負極表面に良質なSEI(Solid Electrolyte Interface)皮膜を形成させるために添加剤を加えても良い。SEI皮膜には、電解液との反応性を抑制したり、リチウムイオンの挿入脱離に伴う脱溶媒和反応を円滑にして活物質の構造劣化を防止する働きがある。このような添加剤としては、例えば、プロパンスルトン(PS)やビニレンカーボネート(VC)などが挙げられる。本発明においては、環状ジスルホン酸エステルが好ましい。環状ジスルホン酸エステルを用いることで緻密で良質なSEI皮膜を形成することができる。しかしながら、このような緻密なSEI皮膜はその皮膜抵抗が高い場合がある。したがって、PVDFを結着剤に用いた場合のように電極の密着性が不十分だと粒子間の接触抵抗が増大して電極の性能を低下させてしまう恐れがある。一方、アクリル系結着剤は密着性が高いため、皮膜抵抗が高くても粒子間の電気的接触性は十分に維持される。また、SEI皮膜は電池反応には直接関与しないカーボンブラックにも形成されるが、カーボンブラックは比表面積が非常に大きいため数%の配合量でも活物質表面の皮膜形成に使われる添加剤を実質的に減少させてしまい、SEI皮膜の品質を低下させてしまう恐れがある。しかしながら、環状ジスルホン酸エステルは従来の添加剤に比べて少量でも良質な皮膜が形成されることから、このようなSEI皮膜の品質の低下を招きにくい。したがって、本発明の負極と環状ジスルホン酸エステルの組合せが特に好ましい。ここで、環状ジスルホン酸エステルとは、下記一般式(1)で表される化合物のことである。添加剤の量としては、少なすぎると良質な皮膜が形成されず、多すぎると抵抗が増大したり多量のガス発生が生じたりする。したがって、電解液に対して0.1重量部から10重量部が好ましく、0.5重量部〜3重量部がさらに好ましい。
【0046】
【化1】

(ただし、一般式(1)において、Qは酸素原子、メチレン基または単結合、Aは置換もしくは無置換の炭素数1〜5のアルキレン基、カルボニル基、スルフィニル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜6のフルオロアルキレン基、エーテル結合を介してアルキレン単位またはフルオロアルキレン単位結合した炭素数2〜6の2価の基を示し、Bは置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のフルオロアルキレン基、または酸素原子を示す。)
【0047】
本発明に係るリチウムイオン二次電池の外装体としては、合成樹脂と金属箔との積層体からなる可撓性フィルムなどよりなるラミネート外装体が、軽量化が可能であり電池エネルギー密度の向上を図る上で好ましい。また、ラミネート型電池は放熱性にも優れるため、電気自動車などの車載用電池として好適に用いることができる。
【0048】
電池内に注液される上記非水電解液の量は、少なくとも電池内に収容された負極と正極とセパレータとで構成される電極積層体が有する空孔体積以上である必要がある。それ以下では、電極積層体内に電解液不足が生じて電池反応を阻害してしまう。一方、必要以上に電解液を入れてしまうと、特にラミネート型電池ではセル形状を保持するのが困難になったり、電極間の間隔を押し広げることによって抵抗の増大を招いたりする場合がある。また、充放電反応に直接関与にない電解液を増やすことは電池のコスト増加を招いてしまう。本発明によれば、電解液量は、上記電極積層体が有する総空孔体積の1.1〜2.0倍が好ましく、1.2〜1.7倍がさらに好ましい。1.1倍より小さいと充放電サイクルに伴う電極膨張や電解液の反応による電解液の減少分を補うのに十分ではない。一方、2.0倍より大きいとセル抵抗の増大を招いてサイクル特性を低下させてしまう。1.2〜1.7倍の範囲であれば、良好なサイクル特性を得ることができる。一方、結着剤としてPVDFを用いた場合は、PVDFが電解液を吸収して電極膨張も大きくなるため、電解液不足が生じやすくアクリル系結着剤よりも多い電解液量が必要となる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
(負極の作製)
負極活物質として、平均粒径20μmで、平均のアスペクト比が1.4、比表面積が1m/gの塊状人造黒鉛粉末と、結着剤としてアクリル変性樹脂(日立化成工業(株)製のLSR−7(商品名))と、DBP吸収量(cm/100g)が290のカーボンブラック(平均粒子径30nm、比表面積64m/g)とを固形分重量比で96:3:1の割合でNMP中に均一に分散させてスラリーを作製した。このスラリーを負極集電体となる厚み15μmの銅箔上に塗布後、125℃にて10分間NMPを蒸発させることにより負極活物質層を形成し、プレスすることによって片面塗布した負極を作製した。乾燥後の単位面積当たりの負極合剤量は0.008g/cmとした。上記結着剤は、ニトリル基含有単量体由来の繰り返し単位を80質量%以上含んだアクリル変性樹脂である。
【0051】
(正極の作製)
正極活物質として平均粒径10μmのLi1.1Mn1.9粉末と、結着剤としてPVDFと、導電助剤として炭素質粉末とを重量比を92:4:4でNMP中に均一に分散させてスラリーを作製した。そのスラリーを正極集電体となる厚み20μmのアルミ箔上に塗布後、125℃にて10分間NMPを蒸発させることにより正極活物質層を形成した。乾燥後の単位面積当たりの正極合剤量は0.025g/cmとした。
【0052】
(電解液)
電解液は、溶媒としてEC:DEC=30:70(体積%)に、電解質として1mol/LのLiPFを溶解し、添加剤として、下記の化学式で示される環状ジスルホン酸エステル(メチレンメタンジスルホン酸エステル:以下、MMDSと記載)を1.5重量%混合したものを用いた。
【0053】
【化2】

【0054】
(ラミネート型電池の作製)
上記のように作製した正極と負極を各々5cm(幅)×6.0cm(長さ)に切り出した。このうち、一辺5cm×1cmはタブを接続するための未塗布部であって、活物質層は5cm×5cmである。幅5mm、長さ3cm、厚み0.1mmのアルミ製の正極タブを正極未塗布部に長さ1cmで超音波溶接した。同様に、正極タブと同サイズのニッケル製の負極タブを負極未塗布部に超音波溶接した。6cm×6cmのポリエチレンおよびポリプロピレンからなるセパレータの両面に上記負極と正極を活物質層がセパレータを隔てて重なるように配置して電極積層体を得た。2枚の7cm×10cmのアルミラミネートフィルムの長辺の一方を除いて三辺を熱融着により幅5mmにて接着して袋状のラミネート外装体を作製した。ラミネート外装体の一方の短辺より1cmの距離となるように上記電極積層体を挿入した。上記非水電解液を0.203g注液して真空含浸させた後、減圧下にて開口部を熱融着により幅5mmで封止することで、ラミネート型電池を作製した。ここで、注液した電解液量は負極と正極とセパレータからなる上記電極積層体が有する空孔体積に対して1.3倍となる量である。ここで、空孔体積は各部材の見掛け比重と各部材を構成している材料の真比重との差から算出した。
【0055】
(サイクル試験)
上記のように作製したラミネート型電池のサイクル試験を行った。具体的には、60mAの定電流で4.2Vまで充電した後合計で2.5時間の4.2V定電圧充電を行ってから、60mAで3.0Vまで定電流放電するという充放電サイクルを500回繰り返した。初回放電容量に対する500サイクル後の放電容量の比率を容量維持率(%)として求めた。試験温度は、高温環境化での劣化試験および加速試験を目的として、60℃とした。
【0056】
(実施例2、3、4)
導電助剤として、実施例2ではDBP吸収量(cm/100g)が360のカーボンブラック(平均粒子径40nm、比表面積800m/g)、実施例3ではDBP吸収量(cm/100g)が495のカーボンブラック(平均粒子径34nm、比表面積1270m/g)、実施例4ではDBP吸収量(cm/100g)が250のカーボンブラック(平均粒子径32nm、比表面積62m/g)を用いた以外は、実施例1と同様に電池を作製してサイクル試験を行った。
【0057】
(比較例1)
導電助剤として、DBP吸収量(cm/100g)が175のカーボンブラック(平均粒子径35nm、比表面積68m/g)を用いた以外は、実施例1と同様に電池を作製してサイクル試験を行った。
【0058】
(比較例2)
結着剤としてPVDFを用いて、導電助剤としてDBP吸収量(cm/100g)が175のカーボンブラック(平均粒子径35nm、比表面積68m/g)を用い、負極活物質と結着剤と導電助剤との重量比を93:6:1とした以外は、実施例1と同様に電池を作製してサイクル試験を行った。
【0059】
(比較例3、4)
比較例3では、導電助剤としてDBP吸収量(cm/100g)が290のカーボンブラック(平均粒子径30nm、比表面積64m/g)を用い、比較例4では、DBP吸収量(cm/100g)が360のカーボンブラック(平均粒子径40nm、比表面積800m/g)を用いた以外は、比較例2と同様に電池を作製してサイクル試験を行った。
【0060】
表1に、実施例1〜4と比較例1〜4の60℃における500サイクル後容量維持率(以下、単に容量維持率と記す)を示した。アクリル系結着剤とDBP吸収量(cm/100g)が250〜495のカーボンブラックを用いた実施例1〜4は良好な容量維持率を示した。なお、DBP吸収量(cm/100g)が600のカーボンブラックでは、電極スラリーの粘性が著しく増大して塗工が困難であり、集電体からの活物質層の剥離が認められたため、電池評価は出来なかった。アクリル系結着剤を用いても、DBP吸収量(cm/100g)が175と低い比較例1は十分なサイクル特性は得られなかった。一方、PVDFではいずれのカーボンブラックでも容量維持率は低かった。このことから、アクリル系結着剤とDBP吸収量(cm/100g)が250以上、500以下のカーボンブラックとを組み合わせることにより良好なサイクル特性が得られることがわかった。
【0061】
(実施例5)
負極活物質として、平均粒径20μm、平均アスペクト比1.2、比表面積1.2m/gの低結晶性炭素で被覆された球状天然黒鉛粉末(炭素被天然覆黒鉛)を用いた以外は、実施例1と同様にして電池を作製してサイクル試験を行った。
【0062】
(実施例6〜10)
実施例6では、平均粒径25μmで、平均アスペクト比1.2、比表面積0.4m/gの炭素被覆天然黒鉛を用いた。実施例7では、平均粒径20μmで、平均アスペクト比2.0、比表面積2.0m/gの塊状人造黒鉛粉末を用いた。実施例8では、平均粒径20μmで、平均アスペクト比1.4、比表面積2.5m/gの塊状人造黒鉛粉末を用いた。実施例9では、平均粒径20μmで、平均アスペクト比2.5、比表面積1.3m/gの燐片状人造黒鉛粉末を用いた。実施例10では、平均粒径20μmで、平均アスペクト比1.2、比表面積2.5m/gの炭素被覆天然黒鉛を用いた。負極活物質以外については、実施例1と同様に電池を作製してサイクル試験を行った。
【0063】
表2に実施例1と実施例5〜10の容量維持率を示した。いずれも、比較例1〜4より良好であった。特に、アスペクト比が2以下で比表面積が2m/g以下の実施例1と実施例5〜7は、塊状人造黒鉛、炭素被覆天然黒鉛いずれも良好な容量維持率を示した。比表面積が2m/gを超えたあるいはアスペクト比が2を超えた実施例8〜10は容量維持率はやや劣っていた。なお、平均粒径40μmで、平均アスペクト比1.2、比表面積0.3m/gの炭素被覆天然黒鉛は、初期の充放電容量が20%減少したため、サイクル特性評価は行わなかった。このことから、黒鉛材料はアスペクト比が1以上、2以下、比表面積が0.4m/g以上、2.0m/g以下のものが好ましい。このような特性を有する黒鉛材料としては、塊状人造黒鉛や炭素被覆天然黒鉛が好ましい。
【0064】
(実施例11〜14)
実施例11では、負極活物質に対する結着剤の重量比を2%、導電助剤量を0.5%とした。実施例12では、結着剤量を2%、導電助剤量を1.5%とした。実施例13では、結着剤量を4%、導電助剤量を0.5%とした。実施例14では、結着剤量を4%、導電助剤量を1.5%とした。結着剤と導電助剤の配合量以外は、実施例1と同様にして電池を作製してサイクル試験を行った。
【0065】
(実施例15〜19)
実施例15では、結着剤量を1%、導電助剤量を0.2%とした。実施例16では、結着剤量を8%、導電助剤量を5.0%とした。実施例17では、結着剤量を10%、導電助剤量を5.0%とした。実施例18では、結着剤量を2.0%、導電助剤量を0.1%とした。実施例19では、結着剤量を8%、導電助剤量を6.0%とした。結着剤と導電助剤の配合量以外については、実施例1と同様にして電池を作製してサイクル試験を行った。
【0066】
表3に実施例11〜19の容量維持率を示した。いずれも、比較例1〜4より良好であった。結着剤量が1〜8%、導電助剤量が0.2〜5.0%の範囲にある実施例11〜16、特に、結着剤量が2〜4%、導電助剤量が0.5〜1.5%の範囲にある実施例11〜14が良好な容量維持率を示した。この範囲外の条件にある実施例17〜19のサイクル特性はやや劣っていた。実施例17では結着剤量が多いために、実施例18では導電助剤量が少ないために、電極の導電性が不十分であったと考えられる。実施例19では導電剤量が多いために電極の密着性が不十分であったと考えられる。なお、結着剤量が1%未満では、集電体から活物質層が剥離したため電池評価はできなかった。このことから、結着剤量は1〜8%で導電助剤量は0.2〜5%が好ましく、特に、結着剤量は2〜4%で導電助剤量は0.5〜1.5%が好ましい。
【0067】
(実施例20〜22)
実施例20では正極活物質として、Mgを含有したLi1.07Mn1.88Mg0.05、実施例21ではAlを含有したLi1.07Mn1.83Al0.1、実施例22ではMgとAlを含有したLi1.05Mn1.82Mg0.03Al0.1を用いた以外は実施例1と同様にして電池を作製してサイクル試験を行った。
【0068】
(比較例5)
正極活物質として、Mgを含有したLi1.07Mn1.88Mg0.05を用いた以外は、比較例3と同様にして電池を作製してサイクル試験を行った。
【0069】
(実施例23)
電解液添加剤としてビニレンカーボネート(VC)を2重量%含有させた電解液を用いた以外は、実施例20と同様にして電池を作製してサイクル試験を行った。
【0070】
(比較例6)
電解液添加剤としてビニレンカーボネート(VC)を2重量%含有させた電解液を用いた以外は、実施例23と同様にして電池を作製してサイクル試験を行った。
【0071】
表4に、実施例1と実施例20〜23、比較例3と比較例5、6をまとめて示した。Mg及び/又はAlを含有したマンガン酸リチウムを用いた実施例20〜22では、添加元素を含有していない実施例1よりも優れた容量維持率を示した。なお、表4には示していないが、Co、Ni、Fe、Bなどの添加元素でも同様な効果が認められた。また、添加剤がMMDSで、正極活物質としてLi1.1Mn1.9とMgを含有したLi1.07Mn1.88Mg0.05を比較した場合(実施例1と実施例20、比較例3と比較例5)、本発明のアクリル系結着剤を用いた負極に添加元素(Mg)を含有したマンガン酸リチウムを組み合わせた方が容量維持率の向上が大きく、好ましいことがわかった。
【0072】
また、正極活物質がLi1.07Mn1.88Mg0.05で、電解液添加剤としてMMDSとVCを比較した場合(実施例20と実施例23、比較例5と比較例6)も、本発明のアクリル系結着剤を用いた負極にMMDSを組み合わせた方が容量維持率の向上が大きく、好ましいことがわかった。
【0073】
(実施例24〜26)
実施例24では、電池に注液した電解液量を上記電極積層体が有する空孔体積に対して1.2倍(0.187g)、実施例25では1.5倍(0.234g)、実施例26では1.7倍(0.265g)とした以外は実施例20と同様にして電池を作製してサイクル試験を行った。
【0074】
(実施例27〜29)
実施例27では、電解液量を上記空孔体積に対して1.1倍(0.172g)、実施例28では2.0倍(0.313g)、実施例29では2.5倍(0.391g)とした以外は実施例8と同様にして電池を作製してサイクル試験を行った。
【0075】
(参考例1〜3)
参考例1では、電解液量を上記空孔体積に対して1.2倍(0.187g)、参考例2では1.7倍(0.265g)、参考例3では2.0倍(0.313g)とした以外は比較例14と同様にして電池を作製してサイクル試験を行った。
【0076】
実施例24〜29および参考例1〜3を表5に示した。電解液量が空孔体積に対して1.1倍では電解液不足のため、2.5倍では電解液が多すぎて内部抵抗が増大したため容量維持率は低かった。表5の結果から、空孔体積に対する電解液量は1.2〜2.0倍が好ましく、特に1.2倍〜1.7倍が好ましく、1.2倍〜1.5倍がさらに好ましいことがわかった。一方、参考例に示すように、結着剤としてPVDFを用いた場合は1.7倍以上とアクリル系結着剤よりも多めの電解液が必要であり、また容量維持率は低かった。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを吸蔵放出し得る負極と、リチウムを吸蔵放出し得る正極と、負極と正極を隔てるセパレータと、リチウム塩を溶解した非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池において、前記負極は、負極活物質と、ニトリル基含有単量体由来の繰り返し単位を80質量%以上含むアクリル変性樹脂を用いた結着剤と、DBP吸収量(cm/100g)が250以上500以下であるカーボンブラックを用いた導電助剤とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質は、黒鉛を主体とし、該黒鉛は比表面積が0.4m/g以上、2m/g以下で、アスペクト比が1以上、2以下(であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記黒鉛は、塊状人造黒鉛又は略球状の低結晶炭素被覆黒鉛の少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記負極は、前記負極活物質100重量部当たり1重量部以上8重量部以下の結着剤と0.2重量部以上5.0重量部以下の導電助剤とを含むことを特徴とする請求項1〜3に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記負極は、前記負極活物質100重量部当たり2重量部以上4重量部以下の結着剤と0.5重量部以上1.5重量部以下の導電助剤とを含むことを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記アクリル変性樹脂において、前記ニトリル基含有単量体はアクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリルであり、又、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルからなるカルボキシ含有単量体由来の繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記正極は、正極活物質として、Li(Mn2−x)O(MはMn以外の少なくとも一種の元素であり、0.05<x≦0.3である。)で表されるマンガン酸リチウムを含むことを特徴とする請求項1〜5に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記マンガン酸リチウムにおけるMは、少なくともMg、Al、Co、Ni、Fe、Bより選択される1種以上の元素を含有していることを特徴とする請求項6に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記電解液の添加剤として、下記一般式(1)で示される環状ジスルホン酸エステルを含有させたことを特徴とする請求項1〜7に記載のリチウムイオン二次電池。
【化1】

(ただし、一般式(1)において、Qは酸素原子、メチレン基または単結合、Aは置換もしくは無置換の炭素数1〜5のアルキレン基、カルボニル基、スルフィニル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜6のフルオロアルキレン基、エーテル結合を介してアルキレン単位またはフルオロアルキレン単位結合した炭素数2〜6の2価の基を示し、Bは置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のフルオロアルキレン基、または酸素原子を示す。)
【請求項10】
前記正極と前記負極と前記セパレータが有する総空孔体積(VA)に対する前記電解液の体積(VB)の比率(VB/VA)が、1.1〜2.0の範囲にあることを特徴とする請求項1〜8に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記正極と前記負極と前記セパレータが有する総空孔体積(VA)に対する前記電解液の体積(VB)の比率(VB/VA)が、1.2〜1.7の範囲にあることを特徴とする請求項9に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
電気自動車用である請求項1〜10に記載のリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2011−23221(P2011−23221A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167526(P2009−167526)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(310010081)NECエナジーデバイス株式会社 (112)
【Fターム(参考)】