説明

リチウムイオン二次電池

【課題】リン酸バナジウムリチウム(LVP)を活物質とする正極材料を用い、高電圧であっても高い容量の充放電が可能であり、かつ繰り返し使用後の容量維持率が向上し、サイクル特性及び出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出する負極と、リン酸バナジウムリチウムを含有する正極と、フッ素化カーボネートを溶媒として含有する非水電解液と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた寿命特性を有するリチウムイオン二次電池、特に長期使用後の容量維持率が向上したリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV、HEV等)や携帯型情報通信関連機器等の多岐の分野にわたり、リチウムイオン二次電池等のリチウムイオン蓄電デバイスが広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の多くでは、LiCoO2等のリチウム複合酸化物が正極活物質として使用されており、これにより高容量・高寿命の蓄電デバイスを実現している。
【0004】
しかしながら、これらの正極活物質は、異常発生時の高温高電位状態等において、電解液と激しく反応し、酸素放出を伴って発熱し、最悪の場合には、発火に至る可能性も否定できない。
【0005】
近年では、電解液の反応を抑え、安全性を確保し、更に高エネルギー密度を得るために、オリビン鉄バナジウムを含む化合物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池が提案されている(特許文献1及び2)。これらのリチウムイオン二次電池は、正極活物質が所定以上の理論容量を有している。更に、電解質溶媒としてフルオロエチレンカーボネート(FEC)が使用されることにより、最大4.2Vの充電圧を印加可能とされ、高いエネルギー密度を得ようとするものである。
【0006】
この他には、炭素材料を含む負極と、添加剤としてのFECを含む電解液と、を含むリチウムイオン二次電池も開発されている(特許文献3)。特許文献3には、保存試験後の電圧上昇を抑制することが可能とされる旨、記載されている。
【0007】
一方、熱安定性に優れた正極材料としては、Li3V2(PO4)3が注目されている。この材料を用いることにより、作動電圧がLi/Li+に対して3.8Vとされ、かつ理論容量が195mAh/gと高く、高容量で安全性の高いリチウムイオン二次電池が構成可能である(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−71678
【特許文献2】特開2010−186689
【特許文献3】特開2010−135190
【特許文献4】特表2001−500665
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、自動車や電子機器等の高性能化及び大容量化に伴い、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスについても、その更なる特性向上、例えばエネルギー密度の向上(高容量化)、出力密度の向上(高出力化)、サイクル特性の向上(サイクル寿命の向上)、及び高い安全性等が望まれている。
【0010】
上記特許文献1及び2によれば、オリビン鉄バナジウムの理論容量が150〜160mAh/g程度であり、作動電圧は最大でも4.2Vに制限されるため、高エネルギー密度という観点からはLi3V2(PO4)3に劣る。
【0011】
また、Li3V2(PO4)3は、4.6V以上(耐Li/Li)の充放電においては、理論容量として195 mAh/gを得ることができる正極活物質ではあるものの、上記高電圧下で繰り返し使用することにより、一般には容量劣化を免れない。これは、繰り返し使用により、Li3V2(PO4)3からバナジウムが溶出して負極に析出するため、Li3V2(PO4)3がその理論容量を維持できなくなるためである。
【0012】
そこで、本発明は、リン酸バナジウムリチウム(LVP)を活物質とする正極材料を用い、高電圧であっても高い容量の充放電が可能であり、かつ繰り返し使用後の容量維持率が向上し、サイクル特性及び出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明者等は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出する負極と、リン酸バナジウムリチウムを含有する正極と、フッ素化カーボネートを溶媒として含有する非水電解液と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池を見出した。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池によると、非水電解液に含まれるフッ素化カーボネートが負極及び正極上に被膜を生成することにより、正極に含まれるリン酸バナジウムリチウムからのバナジウムの電解液への溶出が回避される。そして、電解液へのバナジウム溶出が回避されれば、溶出したバナジウムが負極上に析出することもなく、リチウムイオン二次電池をサイクル試験に付した後の容量維持率が向上する。
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池は、その構成に応じて作動電圧が4.2Vを超過する値、特に4.4V以上とされる。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池は、4.2Vを超過する値、特に4.4V以上の高電圧で動作するため、正極材料のリン酸バナジウムリチウムにより本来生じ得る高いエネルギー密度ないし大きな放電エネルギーが最大限に利用可能とされる。これにもかかわらず、サイクル特性が向上するため、電池の寿命が長期化する。
【0017】
本発明の非水電解液に含まれるフッ素化カーボネートは、cis-ジフルオロエチレンカーボネート、trans-ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、アリルトリス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、若しくはフルオロエチレンカーボネート、又はこれらの混合物であることが好ましい。
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池において、電解液中のフッ素化カーボネートとして、上記材料のいずれかを用いると、負極及び正極上に被膜が形成されやすい。このうち、特にフルオロエチレンカーボネートが好ましく使用される。
【0019】
本発明の正極材料として用いられるリン酸バナジウムリチウムは、
LiV2−yM(PO4)
で表され、
Mが原子番号11以上の金属元素の一種以上であり、かつ
1≦x≦3、
0≦y<2、
2≦x≦3
を表わす材料であると好ましい。
【0020】
これらの材料は理論容量が大きくサイクル試験後も所定の容量維持率を確保できるため、正極材料として好ましく用いられる。このうち、特にLi3V2(PO4)3は、特に好ましく使用される。
【0021】
本発明では、フッ素化カーボネートの含有率は、電解液全質量を100質量%とした場合の0.01質量%以上30質量%以下であると好ましい。
【0022】
電解液全質量を100質量%とした場合のフッ素化カーボネートの含有率が30質量%を超過すると出力特性が低下し、0.01%未満とすると、内部抵抗の上昇を抑制することができない。
【発明の効果】
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出する負極と、リン酸バナジウムリチウムを含有する正極と、フッ素化カーボネートを溶媒として含有する非水電解液と、を備えることを特徴とするものである。本発明では、理論容量の大きな正極材料を使用したリチウムイオン二次電池に対して4.2Vを超過する電圧、特に4.4V以上の高電圧を印加することにより、大容量の充放電を可能とし、かつ繰り返し使用しても容量劣化を引き起こさない、すなわちサイクル特性及び容量維持率が向上した、長寿命のリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態におけるリチウムイオン二次電池の内部を模式的に示した断面図である。
【図2】本発明及び比較用のリチウムイオン二次電池を充放電サイクル試験に付した場合の容量維持率の変化を示すグラフである。
【図3】本発明及び比較用のリチウムイオン二次電池を充放電サイクル試験に付した場合の内部抵抗の上昇率を示すグラフである。
【図4】本発明及び比較用のリチウムイオン二次電池の放電にあたり放電速度(Cレートを変化させた場合の容量維持率の変化を示すグラフである。
【図5】本発明及び比較用のリチウムイオン二次電池を充放電サイクル試験に付した場合の容量維持率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明によると、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出する負極と、リン酸バナジウムリチウムを含有する正極と、フッ素化カーボネートを溶媒として含有する非水電解液と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池が得られる。
【0026】
本発明では、リン酸バナジウムリチウムを正極活物質とし、電解質溶液の溶媒の少なくとも一部としてフッ素化カーボネートを用いることにより、作動電圧4.4V以上のリチウムイオン二次電池を得ることが可能とされた。ここで作動電圧とは、印加可能な最大電圧(充電電圧)を意味する。
【0027】
従来のリチウムイオン二次電池では、正極材料活物質としてリン酸バナジウムリチウムを用いた場合、一般に、作動電圧がLi/Li+に対して3.8Vとされるため、リン酸バナジウムリチウム自体の理論容量は大きいが、電圧が制限されるため、放電エネルギー値に限界があった。また、他の活物質を用いる場合にも、作動電圧が4.2V以下とされることが一般的である。
【0028】
正極活物質としてリン酸バナジウムリチウムを用いたリチウムイオン二次電池に高電圧を印加すると、活物質中のバナジウムが電解液中に溶出し、負極材料上に析出するため、リチウムイオン二次電池を多数回繰り返して使用すると、容量維持率が次第に低下し、必然的に電池寿命が短くなるものとされていた。
【0029】
しかしながら、電解液溶媒がフッ化カーボネートを含むことにより、負極表面に均一な被膜が形成される。電流集中が緩和されることで、負極表面上での電解液との副反応を抑制できる。これにより、正極での副反応も抑制され、電解液及び負極へのバナジウム溶出を抑制できる。また、フッ素化カーボネートが正極活物質のリン酸バナジウムリチウム上にて薄い被膜を形成するため、正極活物質からのバナジウム溶出が阻止される。これらにより、バナジウムが負極上に析出することもなく、理論容量の大きな正極活物質を含むリチウムイオン二次電池に、4.2Vを超過する電圧、特に4.4V以上といった高電圧を繰り返し印加することが可能とされる。すなわち、容量劣化を最小限に抑えた高寿命のリチウムイオン二次電池が得られる。また、負極へのバナジウム析出が回避されたことにより、稼働時の発火可能性も回避されて電池の安全性が向上した。
【0030】
[正極活物質]
本発明では、正極活物質としてリン酸バナジウムリチウム(LVP)が使用される。
本発明において、リン酸バナジウムリチウムとは
LiV2−yM(PO4)
で表され、
Mが原子番号11以上の金属元素、例えばFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、Zrからなる群より選ばれるの一種以上であり、かつ
1≦x≦3、
0≦y<2、
2≦z≦3
を表わす材料を意味する。
【0031】
本発明では、ナシコン型(NASICON(ナトリウム・スーパーイオンコンダクター)型)リン酸バナジウムリチウム、すなわちLiV2(PO4)3が最も好ましく使用される。
【0032】
ナシコン型のリン酸バナジウムリチウムの充放電容量及び充放電サイクル特性に特に優れた材料であるため、本発明のリチウムイオン二次電池の大容量の充放電、及び優れたサイクル特性に直接的に寄与する。使用するリン酸バナジウムリチウムは粒状化して使用することができる。粒径には特に制限はない。
【0033】
また、LiV(PO4は、それ自体では電子伝導性が低いため、その表面に導電性カーボン被膜加工を行う必要がある。これによりLiV(PO4の電子伝導性を向上することができる。導電性カーボンの被膜量はC原子換算で0.1〜20質量%であることが好ましい。
【0034】
[リン酸バナジウムリチウムの製造法]
本発明において、リン酸バナジウムリチウムは、どのような方法で製造されても良く、製造法に特に制限されない。例えば、LiOH、LiOH・H2O等のリチウム源、V25、V23等のバナジウム源、及びNH42PO4、(NH42HPO4等のリン酸源等を混合し、反応、焼成する等により製造できる。Li32(PO43は、通常、焼成物を粉砕等した粒子状の形態で得られる。
【0035】
既に述べたように、リン酸バナジウムリチウム粒子の粒度自体には特に制限は無く、所望の粒度のものを使用することができる。粒度はLi32(PO43の安定性や密度に影響するため、Li32(PO43の2次粒子の粒度分布におけるD50が0.5〜25μmであることが好ましい。
【0036】
上記D50が0.5μm未満の場合は、電解液との接触面積が増加することからLi32(PO43の安定性が低下する場合があり、25μmを超える場合は密度低下のため出力が低下する場合がある。上記の範囲であれば、より安定性が高く高出力の蓄電デバイスとすることができる。Li32(PO43の2次粒子の粒度分布におけるD50は1〜10μmであることが更に好ましく、3〜5μmであることが特に好ましい。なお、この2次粒子の粒度分布におけるD50は、レーザー回折(光散乱法)方式による粒度分布測定装置を用いて測定した値とする。
【0037】
なお、導電性カーボン被膜加工は、公知の方法で行うことができる。例えば、カーボン被膜材料として、クエン酸、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール、ショ糖、メタノール、プロペン、カーボンブラック、ケッチェンブラック等を用い、上述のLiV(PO4製造の反応時や焼成時に混合すること等によって表面に導電性カーボン被膜を形成させることができる。
【0038】
[非水電解液]
本発明に用いられる電解液は、高電圧でも電気分解を起こさないという点、リチウムイオンが安定に存在できるという点から、非水電解液であり、一般的なリチウム塩を電解質とし、これを溶媒に溶解した電解液を使用する。
【0039】
ただし、本発明では、非水電解液の溶媒の少なくとも一部にフッ素化カーボネートを含むことを必須とする。フッ素化カーボネートの使用割合は、電解液全質量を100質量%とした場合の0.01質量%以上30質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上20質量%以下、であると特に好ましい。
【0040】
フッ素化カーボネートの具体例は、cis-ジフルオロエチレンカーボネート、trans-ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、アリルトリス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、若しくはフルオロエチレンカーボネート、又はこれらの混合物である。これらの材料を用いることにより、負極及び正極上に上に均一かつ安定な皮膜を形成することができる。
【0041】
本発明では、溶媒の少なくとも一部にフッ素化カーボネートを含むこと以外、すなわち他の溶媒や電解質に特に制限されるものではないが、溶媒として使用可能な他の材料としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(MEC)等の鎖状カーボネート、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート、及びアセトニトリル(AN)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-シオキソラン(DOXL)、ジメチルスホキシド(DMSO)、スルホラン(SL)、プロピオニトリル(PN)等の比較的分子量の小さい溶媒、又はこれらの混合物を使用することができる。本発明の電解液における溶媒は鎖状ないし環状のカーボネートであると好ましい。
【0042】
電解質としては、例えば、LiClO、LiAsF、LiBF、LiCF3BF3、LiPF、Li(C2F5)3PF3、LiB(C、CHSOLi、CFSOLi、(CSONLi、(CFSONLi等やこれらの混合物を用いることができる。これらの電解質は単独使用しても、複数種類を併用してもよい。本発明では、LiPFやLiBFが特に好ましく使用される。
【0043】
非水電解液中の電解質濃度は0.1〜3.0mol/Lが好ましく、0.5〜2.0mol/Lが更に好ましい。
【0044】
非水電解液は液状でも良く、可塑剤やポリマー等を混合し、固体電解質又はポリマーゲル電解質としたものでも良い。溶媒としてフッ素化カーボネートを含む非水電解液を用いた本発明のリチウムイオン二次電池では、4.4V以上の高電圧を印加すると、フッ素化カーボネートが負極及び正極上に均一かつ安定な皮膜を形成することができる。
【0045】
このため、リン酸バナジウムリチウムから電解液へのバナジウムの溶出が回避され、リン酸バナジウムリチウムの本来の大きな電気容量を維持することができる。
更にバナジウムが電解液中に溶出し、負極に析出すること、及びこれに起因して、繰り返し使用した後のリチウムイオン二次電池の容量維持率が低下すること、及び発火等の不具合の可能性を回避することにつながる。
【0046】
このようにバナジウムの溶出が回避されるため、高電圧を引き続き印加することが可能であり、効率のよい充放電を行うことができる。
この結果、本発明では、長期信頼性に優れたリチウムイオン二次電池が得られる。
【0047】
以下、本発明のリチウムイオン蓄電デバイスの構成を図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0048】
[蓄電デバイス]
本発明のリチウムイオン蓄電デバイスとしては、上述の正極材料を含む正極と、負極と、非水電解液とを備えている。
【0049】
以下に本発明の蓄電デバイスの実施形態の一例として、リチウムイオン二次電池の例を、図面を参照しながら説明する。
【0050】
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池10の実施形態の一例を示す概略断面図である。図示のように、リチウムイオン二次電池10は、それぞれ板体状の正極18と、負極12とがセパレータ25を介して相互に対向して配置されている。
【0051】
正極18は、正極集電体20と、正極集電体20上に設けられ本発明の正極活物質を含む正極合材層22と、から構成され、負極12は、負極集電体14と、負極集電体14上に設けられ負極活物質を含む負極合材層16と、から構成されている。負極合剤層16は、セパレータ25を介して正極合材層22に対向するように配置されている。これら正極18、負極12、セパレータ25は、図示しない外装容器に封入されており、外装容器内には非水電解液が充填されている。外装材としては例えば電池缶やラミネートフィルム等が挙げられる。
【0052】
また、正極集電体20と負極集電体14とには、必要に応じて、それぞれ外部端子接続用のリード20a及び14aが接続されている。
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質から得られる最大限の充放電容量及び充放電サイクル特性を維持して、かつ長寿命とされる。
本発明のリチウムイオン蓄電デバイスに係る、正極18、負極12、及びセパレータ25について更に説明する。
【0054】
[正極]
本発明における正極18は、上述のようにリン酸バナジウムリチウムを含み、それ以外は公知の材料を用いて作製することができる。具体的には、例えば、以下のように作製する。
【0055】
上記正極材料、結着剤、導電助剤を含む混合物を溶媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体20上に塗布、乾燥を含む工程により正極合材層22を形成する。乾燥工程後にプレス加圧等を行っても良い。これにより正極合材層22が均一且つ強固に集電体に圧着される。正極合材層22の膜厚は10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0056】
正極合材層22の形成に用いる結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、アクリル系バインダ、SBR等のゴム系バインダ、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、カルボキシメチルセルロース等が使用できる。結着剤は、本発明の蓄電デバイスに用いられる非水電解液に対して化学的、電気化学的に安定な含フッ素系樹脂、熱可塑性樹脂が好ましく、特に含フッ素系樹脂が好ましい。含フッ素系樹脂としてはポリフッ化ビニリデンの他、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体及びプロピレン−4フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。結着剤の配合量は、上記正極活物質に対して0.5〜20質量%が好ましい。
【0057】
正極合材層22の形成に用いる導電助剤としては、例えばケッチェンブラック等の導電性カーボン、銅、鉄、銀、ニッケル、パラジウム、金、白金、インジウム及びタングステン等の金属、酸化インジウム及び酸化スズ等の導電性金属酸化物等が使用できる。導電材の配合量は、上記正極活物質に対して1〜30質量%が好ましい。
【0058】
正極合材層22の形成に用いる溶媒としては、水、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が使用できる。
【0059】
正極集電体20は正極合材層22と接する面が導電性を示す導電性基体であれば良く、例えば、金属、導電性金属酸化物、導電性カーボン等の導電性材料で形成された導電性基体や、非導電性の基体本体を上記の導電性材料で被覆したものが使用できる。導電性材料としては、銅、金、アルミニウムもしくはそれらの合金又は導電性カーボンが好ましい。正極集電体20は、上記材料のエキスパンドメタル、パンチングメタル、箔、網、発泡体等を用いることができる。多孔質体の場合の貫通孔の形状や個数等は特に制限はなく、リチウムイオンの移動を阻害しない範囲で適宜設定できる。
【0060】
また、本発明おいては、正極合材層22の目付けを4mg/cm以上、20mg/cm以下とすることで、優れたサイクル特性を得ることができる。目付けが4mg/cm未満または20mg/cmを超えると、サイクル劣化が生じる。なお、目付けが大きいほど高容量が得られる。正極合材層22の目付けは10mg/cm以上、20mg/cm以下であることがさらに好ましい。なお、ここでいう目付けとは正極集電体20の一方の面側の正極合材層22の目付けを意味する。正極合材層22を正極集電体20の両面に形成する場合には、一方の面および他方の面の正極合材層22がそれぞれ上記範囲に含まれるよう形成される。
【0061】
また、本発明においては、正極合材層22の空孔率を35%以上、65%以下とすることで、優れたサイクル特性を得ることができる。正極合材層22の空孔率が35%未満ではサイクル劣化が生じる。正極合材層22の空孔率が65%を超えても、優れたサイクル特性は維持できるが、容量や出力が低下するため好ましくない。正極合材層22の空孔率は40%以上、60%以下であることがさらに好ましい。
【0062】
[負極]
本発明において負極12は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することが可能な材料であれば特に制限はなく、公知の材料を用いて作製することができる。
例えば、一般に使用される負極活物質及び結着剤を含む混合物を溶媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体14上に塗布、乾燥等することにより負極合材層16を形成する。
【0063】
なお、結着剤、溶媒及び集電体は上述の正極の場合と同様の材料が使用できる。
【0064】
負極活物質としては、例えば、リチウム系金属材料、金属とリチウム金属との金属間化合物材料、リチウム化合物、リチウムインターカレーション炭素材料、炭素材料、又はシリコン系材料が挙げられる。
【0065】
リチウム系金属材料は、例えば金属リチウムやリチウム合金(例えば、Li−Al合金)である。金属とリチウム金属との金属間化合物材料は、例えば、スズ、ケイ素等を含む金属間化合物である。リチウム化合物は、例えば窒化リチウムである。
【0066】
また、リチウムインターカレーション炭素材料としては、例えば、黒鉛、難黒鉛化炭素材料等の炭素材料、ポリアセン物質等が挙げられる。ポリアセン系物質は、例えばポリアセン系骨格を有する不溶且つ不融性のPAS等である。なお、これらのリチウムインターカレーション炭素材料は、いずれもリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質である。負極合材層16の膜厚は一般に10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0067】
炭素材料の例は、グラファイト、及びハードカーボンである。
【0068】
更に、シリコン系材料としては、シリコン及びシリコンと炭素の複合材料が挙げられる。
【0069】
本発明では、炭素材料、リチウム系金属材料、及びシリコン系材料が負極として好ましく使用される。
【0070】
また、本発明おいては、負極合材層16の目付けは、正極合材層22の目付けに合わせて適宜設計される。通常、リチウムイオン二次電池では、正負極の容量バランスやエネルギー密度の観点から正極と負極の容量(mAh)がおおよそ同じになるように設計される。よって、負極合材層16の目付けは、負極活物質の種類や正極の容量等に基づいて設定される。
【0071】
[セパレータ]
本発明で使用するセパレータは、特に制限はなく、公知のセパレータを使用できる。例えば、電解液、正極活物質、負極活物質に対して耐久性があり、連通気孔を有する電子伝導性の無い多孔質体等を好ましく使用できる。このような多孔質体として例えば、織布、不織布、合成樹脂性微多孔膜、ガラス繊維などが挙げられる。合成樹脂性の微多孔膜が好ましく用いられ、特にポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン製微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好ましい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
(1)正極の作製
正極活物質としてカーボン被覆(C原子換算で1.4質量%)されたLi3V2(PO4)3を92質量%と、導電剤としてのケッチェンブラック3質量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%とを均質に混合した。このように得られた混合物50gに対して75mlのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて、正極合剤塗液を得た。得られた正極合剤塗液を、正極集電体20となる厚み15μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、乾燥して、片面当たり15mg/cmの正極活物質層を形成した。これを幅24mm、長さ38mmの形状に切断して、正極を作製し、更に正極リードを取り付けた。
(2)負極の作製
負極活物質としての黒鉛95質量%と、結着剤としてのPVdF5質量%とを均質に混合した。このように得られた、混合物50gに対して75mlのNMPに分散させて、負極合剤塗液を得た。
得られた負極合剤塗液 を、負極集電体となる厚み15μmの銅箔の両面に均一に塗布し、乾燥して、片面当たり7mg/cmの負極活物質層を形成した。これを幅26mm、長さ40mmの形状に切断して、負極を作製し、更に負極リードを取り付けた。
(3)電解液の作製
エチレンカーボネート(EC)を28.2質量%と、エチルメチルカーボネート(EMC)を27.9質量%と、とジメチルカーボネート(DMC)を30.5質量%と、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を1質量%と、6フッ化リン酸リチウム(Li-PF6)を12.4質量%の割合で加えた。
(4)リチウムイオン二次電池の作製
得られた正極と負極とを、厚み12μmの微多孔性ポリエチレンフィルムからなるセパレータを介して積層し、アルミニウムラミネートフィルムからなる外装部材内に入れ熱融着を行い積層型セルを作製する。この積層型セルに得られた電解液を1g注液後、真空熱融着を行い、封止して、実施例1によるミニセルサイズのリチウムイオン二次電池(サンプル1という)を得た。
【0074】
[実施例2〜4]
電解液の作成において、溶媒及び溶質の使用割合を以下の表1に記載したように変更した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、実施例2〜4によるリチウムイオン二次電池(それぞれサンプル2〜4という)を製造した。
【0075】
[比較例1〜3]
電解液の作成において、溶媒及び溶質の使用割合を以下の表1に記載したように変更した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、比較例1〜3によるリチウムイオン二次電池(それぞれ比較サンプル1〜3という)を製造した。
【0076】
【表1】

【0077】
[性能評価]
(1)サイクル試験による評価
サンプル1〜4及び比較サンプル1〜3を、室温(20℃)下、電池電圧が4.6Vに到達するまで0.7Cの定電流にて充電したのち、引き続き4.2Vの定電圧で充電し、さらに、電池電圧が2.5Vに到達するまで0.7Cの定電流にて放電した。この条件にて300サイクル繰り返した。
【0078】
(1−1)容量維持率 / 電荷移動抵抗
各サンプルについて、所定サイクルにおける放電容量維持率及び電荷移動抵抗の上昇率をサンプル毎に測定した。容量維持率を図2に、電荷移動抵抗上昇率を図3に示す。
【0079】
更に、各サンプルの充放電容量を充放電試験装置(東洋システム社製)により、測定した。電荷移動抵抗を電気化学測定システム装置(北斗電工株式会社製)により測定した。
電荷移動抵抗測定については、サンプル1〜4及び比較サンプル1〜3をSOC100%、すなわち満充電状態とした。印加電圧4.6V、周波数の測定範囲0.1Hz〜100kHzにて、インピーダンス測定装置を用いて交流インピーダンス測定を行った。これにより、電荷移動抵抗(バルク抵抗)の増加率を求めた。それぞれ、これらの値を100%とした場合の、300サイクル後における放電容量維持率 (図2)、及び内部抵抗の上昇率 (図3)を、表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
(1−2)バナジウム定量試験:電解液へのバナジウム溶出量
サンプル1〜4及び比較サンプル1〜3をそれぞれ3個ずつ用い、上記のサイクル試験に付した。100、200及び、300サイクル後に電池を解体し、電解液を取り出してバナジウム量(ppm)を、ICP(誘導結合プラズマ)質量分析器(セイコー電子工業社製)を用いて測定した。この結果を表3に示す。
【0082】

【0083】
(1−3)バナジウム定量試験:負極のバナジウム量
上述のように100、200及び、300サイクルの充放電を行ったサンプル1〜4及び比較サンプル1〜3から、それぞれ負極1枚を取り出し、ジメチルカーボネートにて洗浄後、真空乾燥を行った。
【0084】
負極表面の物質を薬匙で削り取り、50%硫酸水溶液にて80℃加熱攪拌を行い濾過後、負極中のバナジウム量(ppm)を、ICP(誘導結合プラズマ)質量分析器(セイコー電子工業社製)を用いて測定した。
測定結果を表4に示す。
【0085】


【0086】
(2)出力特性(レート特性)の評価
サンプル1〜3及び比較サンプル1〜3を100%充電し(SOC100)、25℃、0.1C放電にて、活物質あたりの初期放電容量(mAh/g活物質)を測定した。
更に、放電速度を0.2C、0.5C、1.0Cおよび2.0Cに加速した場合の放電容量(mAh/g活物質)を測定した。そして、0.2C、0.5C、1.0C、3.0C及び5.0C放電における値を0.1C放電の値に対して百分率で表わした値を容量維持率とし、この値により出力特性を評価する目的で、各値を図4のグラフに示した。
なお、各サンプルの5.0C時の容量維持率を下表5に示す。

【0087】
放電温度20℃における放電レート0.25C、0.5C、1C、2C、3C、4Cにおける容量維持率(C値)測定した。結果を表5に記載する。
【0088】
ここで、1Cとは公称容量値の容量を有するセルを定電流放電して、ちょうど1時間で放電終了となる電流値、0.25Cは公称容量値の容量を有するセルが4時間で放電終了となる電流値を意味する。一般に、放電レートが大きくなるとセルの内部抵抗による電圧の低下が生じ、電池の電圧が低下する。
【0089】
(3)電圧変更による容量維持率の観察
サンプル1及び比較サンプル1について、室温(20℃)下、電池電圧が4.2Vに到達するまで0.7Cの定電流にて充電したのち、引き続き4.2Vの定電圧で充電し、さらに、電池電圧が2.5Vに到達するまで0.7Cの定電流にて放電した。この条件にて300サイクル繰り返した。
【0090】
すなわち、上述のサイクル試験の充電終止電圧4.6Vを4.2Vに低下させて、このほかは同様の充放電サイクルを行った。
初期放電容量を100%とした場合の300サイクル後の放電容量維持率は、サンプル1において89.5%、比較サンプル1において93%であった。
【0091】
各サイクルにおける容量維持率の推移を図5に示す。
【0092】
一般に、リン酸バナジウムリチウムを用いたリチウムイオン二次電池では高電圧下での容量劣化が顕著である。すなわち通常は4.6V印加時の方が、4.2V印加時に比べ、一般にはバナジウムが溶出しやすく、サイクル特性が低下すると考えられている。
しかしながら、本発明のサンプル1と比較サンプル1とを、電圧を変更して対比したところ、本発明のサンプルでは、低電圧印加時よりも高電圧印加時にサイクル特性が向上することがわかる。
【0093】
図2と図5とを対比すると、更にサイクル数が増加した場合には、本発明のリチウムイオン二次電池では、特に高電圧印加時に容量維持率の低下が抑制されて長期信頼性が確保されることがわかる。
【0094】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0095】
10 リチウムイオン二次電池
12 負極
14 負極集電体
16 負極合剤層
18 正極
20 正極集電体
22 正極合剤層
14a リード
25 セパレータ
18a リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出する負極と、
リン酸バナジウムリチウムを含有する正極と、
フッ素化カーボネートを溶媒として含有する非水電解液と、
を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
作動電圧が4.4V以上であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記フッ素化カーボネートが、cis-ジフルオロエチレンカーボネート、trans-ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、アリルトリス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、若しくはフルオロエチレンカーボネート、又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記フッ素化カーボネートが、フルオロエチレンカーボネートであることを特徴とする請求項3に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
リン酸バナジウムリチウムが、
LiV2−yM(PO4)
で表され、
Mが原子番号11以上の金属元素の一種以上であり、かつ
1≦x≦3、
0≦y<2、
2≦z≦3
であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記リン酸バナジウムリチウムが、Li3V2(PO4)3であることを特徴とする請求項5に記載の非水電解液電池。
【請求項7】
フッ素化カーボネートの含有率が、電解液全質量を100質量%とした場合の0.01質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の非水電解液電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−77424(P2013−77424A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216173(P2011−216173)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】