説明

リチウムイオン電池用包装材

【課題】冷間成型して凹部を形成する際に成型深さを深くしてもクラックや破断が生じることが抑制され、優れた成型性を有するリチウムイオン電池用包装材の提供を目的とする。
【解決手段】シーラント層11の一方の面に、第1の接着層12、アルミニウム箔層13、第2の接着層14及び基材層15Aが順次積層されたリチウムイオン電池用包装材1において、基材層15Aが、流れ方向(MD)及び垂直方向(TD)それぞれについて、試料幅15mm、標点間距離50mm/分、引張速度30mm/分の条件での引張試験における0.2%歪み時の変位量が2.0〜10.0%であり、かつ降伏点伸びが0〜2.0%である高分子フィルム(A)であるリチウムイオン電池用包装材1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池としては、ニッケル水素、鉛蓄電池が広く用いられてきた。しかし、携帯機器の小型化や設置スペースの制限などにより、二次電池の小型化が要求されていることから、エネルギー密度が高いリチウムイオン電池が注目されている。リチウムイオン電池に用いられる包装材としては、従来は金属製の缶が用いられてきたが、軽量で、放熱性が高く、低コストで形状の自由度が高い点から、多層フィルムが用いられるようになってきている。
【0003】
リチウムイオン電池の電解液としては、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルなどの非プロトン性の溶媒に、電解質を溶解したものが用いられる。電解質のリチウム塩としては、LiPF、LiBFなどが用いられる。しかし、前記リチウム塩は、加水分解によりフッ酸を発生させる。フッ酸は、金属面の腐食や多層フィルムにおける各層間のラミネート強度の低下を引き起こす。そのため、多層フィルムの内部にアルミニウム箔層を設けることで、多層フィルムの表面からの水分が浸入することを防止している。このように、内部にアルミニウム箔層を有する多層フィルムを用いたリチウム電池は、アルミラミネートタイプのリチウムイオン電池と呼ばれる。
【0004】
アルミニウム箔層を有するリチウムイオン電池用包装材としては、例えば、アルミニウム箔層の一方の面に第1の接着層を介してシーラント層を積層し、他方の面に第2の接着層を介して基材層を積層した多層フィルムが挙げられる。また、該リチウムイオン電池用包装材は、第1の接着層がドライラミネート用接着樹脂層からなるドライラミネート構成と、第1の接着層が熱可塑性材料からなる熱ラミネート構成の2種類に大きく分類される。ドライラミネート品の接着剤は、エステル基やウレタン基など加水分解性の高い結合部を有するため、フッ酸による加水分解反応が起こりやすい。したがって信頼性が求められる用途には、熱ラミネート構成が用いられる。
ラミネートタイプのリチウムイオン電池は、このような多層フィルムを袋状に加工し、内部に正極、セパレーター、負極、電解液及びタブなどを入れて密封することで得られる。
【0005】
また、前記リチウムイオン電池は、エネルギー密度をさらに高めるために、冷間成型により多層フィルムを凹状にした凹部を形成することで、電池内容物をより多く収納する形態が採用されている。近年では、より効率的に内容物を収納するために、2つの凹状の多層フィルムを貼り合わせることにより体積を増加させ、エネルギー密度を増加させる形態も用いられている。しかし、このような多層フィルムの冷間成型では、金型での成型加工時に、延伸率の高い部位である辺や角において多層フィルムに破断が起こりやすい。特に熱ラミネート品では、高温加工によりシーラント層の結晶状態が変化するので、破断が起こりやすくなる。そのため、熱ラミネート品であっても、前記冷間成型においてフィルムにクラックや破断が生じることを抑制でき、成型深さを深くできる多層フィルムが求められている。
【0006】
成型深さを深くできる成型性に優れた包装材としては、下記のリチウムイオン電池用包装材が示されている。
(1)基材層に、0°、45°、90°、135°の4方向すべてにおいて引張強さが150N/mm以上で、かつ伸びが80%以上の延伸ポリアミドフィルム又は延伸ポリエステルフィルムを用いたリチウムイオン電池用包装材(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3567230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、多層フィルムで凹部を形成した形態のリチウムイオン電池において、成型深さを一層深くすることが求められているなど、リチウムイオン電池用包装材には成型性をさらに向上させることが望まれている。
そこで本発明では、より優れた成型性を有するリチウムイオン電池用包装材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]シーラント層の一方の面に、少なくとも第1の接着層、アルミニウム箔層、第2の接着層及び基材層が順次積層されたリチウムイオン電池用包装材において、前記基材層が、下記高分子フィルム(A)を有することを特徴とするリチウムイオン電池用包装材。
高分子フィルム(A):流れ方向(MD)及び垂直方向(TD)それぞれについて、試料幅15mm、標点間距離50mm/分、引張速度30mm/分の条件での引張試験における0.2%歪み時の変位量が2.0〜10.0%であり、かつ降伏点伸びが0〜2.0%である高分子フィルム。
[2]前記高分子フィルム(A)として、二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方又は両方を有する、前記[1]に記載のリチウムイオン電池用包装材。
[3]前記基材層が、前記高分子フィルム(A)と他の高分子フィルム(B)とを有する積層フィルムからなり、該積層フィルムの前記第2の接着層側の最表層が高分子フィルム(A)である、前記[1]又は[2]に記載のリチウムイオン電池用包装材。
[4]前記第1の接着層が、酸変性ポリオレフィン樹脂を含む接着樹脂層であり、前記第2の接着層が、ドライラミネートにより前記アルミニウム箔層と前記基材層を接着可能な接着剤からなる接着剤層である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のリチウムイオン電池用包装材。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン電池用包装材は、成型深さを深くしてもフィルムにクラックや破断が生じることを抑制することができ、成型性が非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のリチウムイオン電池用包装材の実施形態の一例を示した断面図である。
【図2】高分子フィルムの引張試験における0.2%歪み時の変位量を説明する図である。
【図3】高分子フィルムの引張試験における降伏点伸びを説明する図である。
【図4】本発明のリチウムイオン電池用包装材の他の実施形態例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のリチウムイオン電池用包装材は、シーラント層の一方の面に、少なくとも第1の接着層、アルミニウム箔層、第2の接着層及び基材層が順次積層されており、前記基材層が特定の物性を有する高分子フィルム(A)を有していることを特徴とする。以下、本発明のリチウムイオン電池用包装材の実施形態の一例を示して本発明を詳細に説明する。
【0013】
[第1実施形態]
本実施形態のリチウムイオン電池用包装材1は、図1に示すように、シーラント層11の一方の面に、少なくとも第1の接着層12(以下、単に「接着層12」という。)、アルミニウム箔層13、第2の接着層14(以下、単に「接着層14」という。)及び基材層15Aが順次積層されている。
【0014】
(シーラント層11)
シーラント層11は、リチウムイオン電池においてリチウムイオン電池用包装材1の内層となる、熱溶着性のフィルムからなる層である。シーラント層11は、単層フィルムからなっていてもよく、複数のフィルムを積層した積層フィルムからなっていてもよい。
シーラント層11を構成する成分としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン樹脂を無水マレイン酸などでグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。なかでも、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸などをグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度、中密度、高密度のポリエチレン;エチレン−αオレフィン共重合体;ホモ、ブロック、またはランダムポリプロピレン;プロピレン−αオレフィン共重合体などが挙げられる。これらポリオレフィン樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
シーラント層11には、防湿性を付与する目的など、必要に応じて、エチレン−環状オレフィン共重合体やポリメチルペンテンなどの樹脂を介在させた多層フィルムを用いてもよい。
また、シーラント層11は、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤などの各種添加剤が配合されていてもよい。
シーラント層11の厚さは、10〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。前記厚さは、シーラント層11が多層フィルムである場合、その全体の厚さである。
【0016】
(接着層12)
接着層12は、シーラント層11とアルミニウム箔層13とを接着する層である。
接着層12を構成する成分としては、酸変性ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましく、酸変性ポリオレフィン樹脂に酸変性スチレン系エラストマー樹脂を添加した混合樹脂がより好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂とは、酸をグラフト共重合して変性したポリオレフィン樹脂を意味する。また、酸変性スチレン系エラストマー樹脂とは、酸をグラフト共重合して変性したスチレン系エラストマー樹脂を意味する。
ポリオレフィン樹脂は、シーラント層11で挙げたものと同じものが挙げられる。酸変性ポリオレフィン樹脂としては、無水マレイン酸でグラフト変性した無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0017】
スチレン系エラストマー樹脂は、ポリスチレンに代表されるハードセグメントとエチレン、ブタジエンに代表されるソフトセグメントを有する樹脂であり、ハードセグメントとソフトセグメントの割合や、ソフトセグメントへのグラフト反応によりカルボキシ基、エポキシ基などを付与して変性することで、各種樹脂との相溶性や、各種基材との密着性を改良できる。酸変性スチレン系エラストマー樹脂は、無水マレイン酸でグラフト変性した無水マレイン酸変性スチレン系エラストマー樹脂が好ましい。
【0018】
(アルミニウム箔層13)
アルミニウム箔層13の材質としては、公知の軟質アルミニウム箔が使用でき、耐ピンホール性、及び成型時の延展性に優れる点から、鉄を含むアルミニウム箔が好ましい。
該アルミニウム箔における鉄の含有量は、アルミニウム箔の全質量100質量%に対して、0.1〜9.0質量%が好ましく、0.5〜2.0質量%がより好ましい。鉄の含有量が0.1質量%以上であれば、耐ピンホール性、延展性が向上する。鉄の含有量が9.0質量%以下であれば、柔軟性が向上する。
また、アルミニウム箔は、脱脂処理および耐腐食処理を施したものを使用してもよい。
アルミニウム箔層13の厚さは、バリア性、耐ピンホール性、加工性の点から、9〜200μmが好ましく、15〜100μmがより好ましい。
【0019】
(接着層14)
接着層14は、アルミニウム箔層13と基材層15Aを接着する層である。
接着層14を構成する接着剤としては、ドライラミネートによりアルミニウム箔層13と基材層15Aを接着可能な接着剤が好ましく、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールなどのポリオールを主剤とし、芳香族系や脂肪族系のイソシアネートを硬化剤とした2液硬化型のポリウレタン系接着剤がより好ましい。該接着剤は、塗工後に40℃で4日以上のエージング処理を行うことで、主剤のポリオールのOH基と、硬化剤のイソシアネートのNCO基が反応し、アルミニウム箔層13と基材層15Aとを強固に接着させる。
主剤のOH基に対する硬化剤のNCO基のモル比(NCO/OH)は、1〜10が好ましく、2〜5がより好ましい。
接着層12の厚さは、接着強度、追随性、加工性などの点から、1〜10μmが好ましく、3〜7μmがより好ましい。
【0020】
(基材層15A)
基材層15Aは、単層フィルムからなる層であり、該フィルムとして、流れ方向(MD)及び垂直方向(TD)それぞれについて、試料幅15mm、標点間距離50mm/分、引張速度30mm/分の条件での引張試験における0.2%歪み時の変位量が2.0〜10.0%であり、かつ降伏点伸びが0〜2.0%である高分子フィルム(A)を用いた層である。
【0021】
以下、0.2%歪み時の変位量について説明する。図2に、高分子フィルムについて引張試験を行ったときの、変位量(単位:%)と応力(単位:MPa)との一般的な関係を示す。
高分子フィルムを引張試験した場合、図2に示すように、引張り初期は、変位量(変形量)に比例して応力が線形的に増大する。この応力が線形的に増大する領域は弾性領域であり、傾きはヤング率Eとなる。弾性領域では、応力を取り除くと、高分子フィルムは元の長さ、すなわち歪みがない状態に戻る。一方、変位量をさらに増大させていくと、変位量と応力が比例しなくなり、変位量に対する応力の増大量が減少する。この領域では、高分子フィルムの変形が弾性変形から塑性変形に変化している。塑性変形が生じる領域では、応力を取り除いても高分子フィルムは元の長さに戻らず、歪みを有する状態になる(永久伸び)。「0.2%歪み時」とは、この歪みを有するフィルムの伸びが、該フィルムの元の長さに対して0.2%である時(図2における変位量aが0.2%の時)を意味する。そして、「0.2%歪み時の変位量」とは、0.2%の歪みを生じさせる変位量であり、0.2%歪み時に相当する点aを通る、傾きがヤング率Eである直線αと、引張試験で実測された曲線との交点b(非弾性領域)における変位量cである。
0.2%歪み時の変位量が大きいほど、弾性領域が広いと言える。一般的に、鋼材などの引張試験においては、弾性限界応力を把握するために0.2%歪み時の応力(0.2%耐力)が評価されている。
【0022】
高分子フィルム(A)の0.2%歪み時の変位量(%)は、2.0〜10.0%であり、2.5〜5.0%が好ましい。0.2%歪み時の変位量が前記範囲内であれば、リチウムイオン電池用包装材1を冷間成型して凹部を形成する際、成型深さを深くしてもクラックや破断が生じることが抑制され、優れた成型性が得られる。
【0023】
次に、降伏点伸び(単位:%)について、図3に基づいて説明する。
高分子フィルムを引張試験した場合、高分子フィルムによっては変位量(%)に応じて応力(MPa)が線形的に増大する弾性領域を経た後、変位量が増加するに従って応力が減少する領域がある。この現象は降伏と呼ばれ、応力の頂点は上降伏点(図3の点d)、応力の谷は下降伏点(図3の点e)と呼ばれる。また、高分子フィルムによっては、下降伏点(点e)からさらに変位量が増加しても応力が変化しない領域fがあり、該領域fは降伏点伸びと呼ばれる。降伏点伸びは塑性変形を示す。つまり、降伏点伸び(%)とは、領域fにおける変位量(図3における点eから点gまでの変位量)を意味する。
【0024】
高分子フィルム(A)の降伏点伸び(%)は、0〜2.0%であり、0〜1.0%が好ましい。高分子フィルム(A)の降伏点伸びが2.0%以下であれば、リチウムイオン電池用包装材1を冷間成型して凹部を形成する際、成型深さを深くしてもクラックや破断が生じることが抑制され、優れた成型性が得られる。
【0025】
基材層15Aの高分子フィルム(A)としては、リチウムイオン電池製造時の成型性の向上が容易な樹脂フィルムが好ましく、例えば、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルムなどの延伸、無延伸フィルムが挙げられる。ポリアミドフィルムとしては、例えば、ナイロンフィルム、アラミドフィルムなどが挙げられる。ポリエステルフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルムなどが挙げられる。ポリオレフィンフィルムとしては、例えば、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
高分子フィルム(A)としては、成型性、耐熱性に優れる点から、二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリエステルフィルムが好ましく、二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。
【0026】
(製造方法)
以下、リチウムイオン電池用包装材1の製造方法を説明する。ただし、リチウムイオン電池用包装材1の製造方法は以下に示す方法には限定されない。リチウムイオン電池用包装材1の製造方法は、下記工程(I−1)及び工程(II−1)を有する。
工程(I−1):アルミニウム箔層13の一方の面に、接着層14を介して基材層15Aを積層する。
工程(II−1):アルミニウム箔層13の他方の面に、接着層12を介してシーラント層11を積層する。
【0027】
工程(I−1):
アルミニウム箔層13上に、高分子フィルム(A)を貼り合せて基材層15Aを積層する。貼り合わせの方法としては、例えば、接着層14を形成する前記接着剤(ポリウレタン系接着剤など。)を用いたドライラミネート工法が挙げられる。これにより、アルミニウム箔層13、接着層14及び基材層15Aが順次積層された積層体が得られる。
【0028】
工程(II−1):
前記積層体におけるアルミニウム箔層13の基材層15Aと反対側の面に、接着層12を介してシーラント層11を積層する。積層方法としては、ドライプロセスとウェットプロセス(ディスパージョンとして塗工する)が挙げられる。
ドライプロセスの場合は、前記積層体のアルミニウム箔層13上に、接着層12を形成する接着樹脂からなるペレットを用いて押出ラミネートにより接着樹脂層12を形成し、さらにインフレーション法またはキャスト法により得られるシーラント層11を積層する。また、押出ラミネートにより接着層12を積層し、シーラント層を熱ラミネートにより積層してもよい。また、インフレーション法またはキャスト法にて、接着樹脂層12とシーラント層11との多層フィルムを作成し、該多層フィルムを前記積層体上に熱ラミネートにより積層してもよい。
【0029】
ウェットプロセスの場合は、前記積層体のアルミニウム箔層13上に、接着層12を形成する接着樹脂を含有するディスパージョンを塗工し、接着樹脂の融点以上の温度で溶媒を揮発させた後、接着樹脂を溶融軟化させて焼き付けを行う。その後、シーラント層11を熱ラミネートなどの熱処理により積層することにより、リチウム電池用包装材1が得られる。
前記ディスパージョンの塗工方法としては、公知の方法が用いられ、例えば、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、ダイコーター、バーコーター、キスコーター、コンマコーターなどが挙げられる。
【0030】
[第2実施形態]
次に、本発明のリチウムイオン電池用包装材の他の実施形態例であるリチウムイオン電池用包装材2について説明する。リチウムイオン電池用包装材2においてリチウムイオン電池用包装材1と同じ部分については同符号を付して説明を省略する。
リチウムイオン電池用包装材2は、図4に示すように、シーラント層11の一方の面に、少なくとも接着層12、アルミニウム箔層13、接着層14及び基材層15Bが順次積層されている。すなわち、リチウムイオン電池用包装材2は、基材層15B以外は、リチウムイオン電池用包装材1と同じである。
【0031】
(基材層15B)
基材層15Bは、高分子フィルム15aと高分子フィルム15bが接着層15cを介して積層された積層フィルムからなる層である。
高分子フィルム15a、15bには、共に高分子フィルム(A)を用いてもよく、高分子フィルム15bには他の高分子フィルム(B)を用いてもよいが、共に高分子フィルム(A)を用いることが好ましい。基材層15Bとしては、成型性の点から、高分子フィルム15aとして、0.2%歪み時の変位量が2.0〜10.0%で、かつ降伏点伸びが0〜2.0%である二軸延伸ポリアミドフィルムを用い、高分子フィルム15bとして、0.2%歪み時の変位量が2.0〜10.0%で、かつ降伏点伸びが0〜2.0%である二軸延伸ポリエステルフィルムを用いることが特に好ましい。
【0032】
また、高分子フィルム(A)と他の高分子フィルム(B)とを併用する場合は、成型性の点から、基材層15Bの接着層14側の最表層、すなわち高分子フィルム15aが高分子フィルム(A)であることが好ましい。
他の高分子フィルム(B)としては、例えば、高分子フィルム(A)と同じ種類の樹脂フィルムで、0.2%歪み時の変位量及び降伏点伸びのいずれか一方又は両方が高分子フィルム(A)の規定値を満たさないフィルムなどが挙げられる。
高分子フィルム15aと高分子フィルム15bを接着する接着層を構成する接着剤としては、例えば、接着層14で挙げた接着剤と同じ接着剤を使用することができ、例えば、ポリウレタン系接着剤などが挙げられる。
【0033】
(製造方法)
以下、リチウムイオン電池用包装材2の製造方法について説明するが、製造方法は以下に記載の方法には限定されない。リチウムイオン電池用包装材2の製造方法は、下記工程(I−2)及び工程(II−2)を有する。
工程(I−2):アルミニウム箔層13の一方の面に、接着層14を介して基材層15Bを積層する。
工程(II−2):アルミニウム箔層13の他方の面に、接着層12を介してシーラント層11を積層する。
【0034】
工程(I−1):
アルミニウム箔層13上に、接着層14を介して高分子フィルム15aを貼り合せる。貼り合わせの方法としては、例えば、接着層14を形成する前記接着剤(ポリウレタン系接着剤など。)を用いたドライラミネート工法が挙げられる。さらに、高分子フィルム15a上に、接着層15cを介して高分子フィルム15bを貼り合せる。高分子フィルム15bの貼り合わせ方法としては、例えば、高分子フィルム15aの貼り合わせ方法と同様に、ポリウレタン系接着剤などを用いたドライラミネート工法が挙げられる。これにより、アルミニウム箔層13、接着層14及び基材層15B(高分子フィルム15a、接着層15c、高分子フィルム15b)が順次積層された積層体が得られる。
【0035】
工程(II−2):
第1実施形態の工程(II−1)と同様の方法で、前記積層体のアルミニウム箔層13上に、接着層12を介してシーラント層11を積層して、リチウムイオン電池用包装材2を得る。
【0036】
本発明のリチウムイオン電池用包装材は、例えば、以下のように用いることでリチウムイオン電池が得られる。
前述した多層フィルムをエンボス成型して凹部を形成し、該凹部の内部に、正極、セパレーター、負極及びタブを入れ、その後にシーラント層11が向かい合うように2つの多層フィルムを重ね合わせ、それらフィルムの3辺をシールする。その後、真空状態において残った1辺から電解液を注入し、残り1辺を最後にシールして内部を密封し、リチウムイオン電池を作製する。
【0037】
以上説明した本発明のリチウムイオン電池用包装材は、基材層に、0.2%歪み時の変位量と降伏点伸びを所定の範囲内に規定した高分子フィルム(A)を用いることで、冷間成型して凹部を形成する際に成型深さを深くしてもクラックや破断が生じることが抑制され、優れた成型性が得られる。
なお、本発明のリチウムイオン電池用包装材は、前述したリチウムイオン電池用包装材1、2には限定されない。例えば、基材層は、高分子フィルム(A)を含む3層以上の積層フィルムを有する層であってもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
本実施例に使用した原料を以下に示す。
[基材層]
基材層に用いた高分子フィルムを表1に示す。ただし、表1における「二軸延伸Ny」は「二軸延伸ナイロンフィルム」を意味し、「二軸延伸PET」は、「二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」を意味する。
【0039】
【表1】

【0040】
[第2の接着層]
C−1:ポリウレタン系接着剤(商品名「A525/A50」、三井化学ポリウレタン(株)製)(4μm)。
【0041】
[アルミニウム箔層]
D−1:軟質アルミニウム箔8079材(40μm)。
【0042】
[第1の接着層]
E−1:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(20μm)。
E−2:ポリウレタン系接着剤(4μm)。
【0043】
[シーラント層]
F−1:包装材の内面となる側の表面をコロナ処理した無延伸ポリプロピレンフィルム(25μm)。
【0044】
[実施例1]
アルミニウム箔層D−1にドライラミネート工法により、接着剤C−1を用いて基材層である耐熱性の高分子フィルムA−1を積層した。その後、60℃で6日間エージングを行った。次に、アルミニウム箔層D−1の基材層を積層した面の反対側に、押出し装置にて接着樹脂E−1を押出し、シーラント層となるフィルムF−1をサンドイッチラミネーションして積層体を得た。その後、該積層体を160℃で4kg/cm、2m/分の条件で加熱圧着することでリチウムイオン電池用包装材を作成した(製造方法(i);熱ラミネート工法)。
【0045】
[実施例2]
高分子フィルムA−1の代わりに高分子フィルムA−2を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用包装材を作成した。
【0046】
[実施例3]
アルミニウム箔D−1に高分子フィルムA−1を積層し、該高分子フィルムA−1上に、ドライラミネート工法により、接着剤C−1と同じ接着剤を用いてさらに高分子フィルムB−2を積層した後に、60℃で6日間エージングした以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用包装材を作成した(製造方法(ii);熱ラミネート工法)。
【0047】
[比較例1]
高分子フィルムA−1の代わりに高分子フィルムB−1を用い、さらにアルミニウム箔層D−1の基材層を積層した面の反対側に、接着剤E−2を用いてフィルムF−1を積層し、60℃6日間エージングすることでシーラント層を設けた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用包装材を作成した(製造方法(iii);ドライラミネート工法)。
【0048】
[比較例2]
高分子フィルムB−1の代わりに高分子フィルムB−2を用いた以外は、比較例1と同様にしてリチウムイオン電池用包装材を作成した。
【0049】
[比較例3]
高分子フィルムA−1の代わりに高分子フィルムB−3を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用包装材を作成した。
【0050】
[評価方法]
各例で得られたリチウムイオン電池用包装材をブランク形状(150mm×190mm)に切り取り、成型性(破断、クラックが生じない成型深さ)を下記基準で評価した。パンチは、100mm×150mmの形状で、パンチコーナーR(RCP)が1.5mm、パンチ肩R(RP)が0.75mm、ダイ肩R(RD)が0.75mmのものを使用した。
○:7mm以上の成型深さで、破断、クラックが生じずに成型可能であった。
△:5mm以上7mm未満の成型深さであれば、破断、クラックが生じずに成型可能であった。
×:5mm以上の成型深さで、破断、クラックが生じた。
実施例及び比較例における評価結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
基材層として高分子フィルムA−1を使用した実施例1では、熱ラミネート工法にも関わらず成型深さ9mmでも破断、クラックを生じずに成型することが可能であり、成型性が優れていた。同様に、高分子フィルムA−2を用いた実施例2では、熱ラミネート工法にも関わらず成型深さ7mmでも破断、クラックを生じずに成型できた。
また、接着層側が高分子フィルムA−1である高分子フィルムA−1及び高分子フィルムB−2の積層フィルムを用いた実施例3でも、熱ラミネート工法にも関わらず成型深さ9mmでも破断、クラックを生じず成型できた。
【0053】
一方、MDの0.2%歪み時の変位量が2.0%未満の高分子フィルムB−1を用いた比較例1では、ドライラミネート工法であっても成型深さ7mmで破断が生じ、実施例に比べて成型性が劣っていた。
また、0.2%歪み時の変位量がMDとTDともに2.0%未満の高分子フィルムB−2を用いた比較例2でも、ドライラミネート工法であっても成型深さ5mmで破断が生じた。
また、0.2%歪み時の変位量がMD、TDともに2.0%を超えるが、降伏点伸びが2.0%を超える高分子フィルムB−3を用いた比較例3では、成型深さ5mmにて破断が生じ、成型性が劣っていた。
【0054】
以上のように、0.2%歪み時の変位量がMD、TDともに2.0〜10.0%で、降伏点伸びが0〜2.0%の高分子フィルムを用いることにより、成型深さを深くしてもクラックや破断が生じることが抑制され、優れた成型性を有するリチウムイオン電池用包装材が得られた。つまり、成型加工において基材層はアルミニウム箔層の破断及びクラックの抑制に重要な役割を果たしており、弾性変形領域が広く、塑性変形が少ない基材層を用いることにより、アルミニウム箔層の充分な保護が可能となった。
【符号の説明】
【0055】
1、2 リチウムイオン電池用包装材 11 シーラント層 12 第1の接着層 13 アルミニウム箔層 14 第2の接着層 15A、15B 基材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーラント層の一方の面に、少なくとも第1の接着層、アルミニウム箔層、第2の接着層及び基材層が順次積層されたリチウムイオン電池用包装材において、
前記基材層が、下記高分子フィルム(A)を有することを特徴とするリチウムイオン電池用包装材。
高分子フィルム(A):流れ方向(MD)及び垂直方向(TD)それぞれについて、試料幅15mm、標点間距離50mm/分、引張速度30mm/分の条件での引張試験における0.2%歪み時の変位量が2.0〜10.0%であり、かつ降伏点伸びが0〜2.0%である高分子フィルム。
【請求項2】
前記高分子フィルム(A)として、二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方又は両方を有する、請求項1に記載のリチウムイオン電池用包装材。
【請求項3】
前記基材層が、前記高分子フィルム(A)と他の高分子フィルム(B)とを有する積層フィルムからなり、該積層フィルムの前記第2の接着層側の最表層が高分子フィルム(A)である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用包装材。
【請求項4】
前記第1の接着層が、酸変性ポリオレフィン樹脂を含む接着樹脂層であり、
前記第2の接着層が、ドライラミネートにより前記アルミニウム箔層と前記基材層を接着可能な接着剤からなる接着剤層である、請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用包装材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−76735(P2011−76735A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224024(P2009−224024)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】