説明

リチウム二次電池及びその製造方法

【課題】ケイ素及び/またはケイ素合金を含む負極活物質粒子を用いたリチウム二次電池において、充放電時のバインダー自体の破壊や負極活物質及び負極集電体とバインダーとの界面での剥離の発生を抑制し、高エネルギー密度を有し、かつサイクル特性に優れたリチウム二次電池を得る。
【解決手段】ケイ素及び/またはケイ素合金を含む負極活物質粒子とバインダーとを含む負極活物質層が負極集電体である導電性金属箔の表面上に形成された負極と、正極と、非水電解質とを備えるリチウム二次電池であって、前記バインダーが、6価以上のポリカルボン酸またはその無水物とジアミンとのイミド化により形成される架橋構造を含むポリイミド樹脂を含んでいることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質として、ケイ素及び/またケイ素合金を含む負極活物質粒子を用いたリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、リチウム二次電池では、実用化されている黒鉛材料に代わり、更なる高エネルギー密度化を目的として、リチウムとの合金化反応によって高い体積比容量を有するAl、Sn、Siなどの元素の合金材料が、新たな負極活物質の候補として取り上げられ、多く検討なされている。
【0003】
しかしながら、リチウムと合金化する材料を活物質として用いた負極では、リチウムの吸蔵、放出時に活物質の体積変化が大きいため、活物質の微粉化や集電体からの離脱が生じ、電極内の集電性が低下して充放電サイクル特性が劣悪になるという問題がある。
【0004】
そこで、負極内に高い集電性を達成するため、ケイ素を含む材料から成る活物質とポリイミドバインダーとを含む活物質層を非酸化性雰囲気下で焼結して配置することによって得た負極が、良好な充放電サイクル特性を示すことが見出されている(下記特許文献1参照)。
【0005】
更に、負極バインダーであるポリイミド種の変更を行うことにより、更にサイクル特性が改善できることが見出されている(下記特許文献2、3参照)。特許文献4においては3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物とm−フェニレンジアミンまたは4,4’−ジアミノジフェニルメタンとからなるポリイミドを用いることでサイクル特性が改善できることが開示されている(下記特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−260637号公報
【特許文献2】国際公開第04/004031号パンフレット
【特許文献3】特開2007−242405号公報
【特許文献4】特開2008−34352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術においても、バインダーによる負極部材間の密着性が不十分であり、サイクル特性が不十分であった。
【0008】
本発明の目的は、ケイ素及び/またはケイ素合金を含む負極活物質粒子を負極活物質として用いたリチウム二次電池において、充放電時のバインダー自体の破壊や負極活物質及び負極集電体とバインダーとの界面での剥離の発生を抑制し、サイクル特性に優れたリチウム二次電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ケイ素及び/またはケイ素合金を含む負極活物質粒子とバインダーとを含む負極活物質層が負極集電体の表面上に形成された負極と、正極と、非水電解質とを備えるリチウム二次電池であって、バインダーが、6価以上のポリカルボン酸またはその無水物とジアミンとのイミド化により形成される架橋構造を含むポリイミド樹脂を含んでいることを特徴としている。
【0010】
本発明においては、バインダーが、6価以上のポリカルボン酸またはその無水物とジアミンとのイミド化により形成される架橋構造を含むポリイミド樹脂を含んでいる。このような架橋構造をポリイミド樹脂が含むことにより、架橋構造を含まず直鎖構造だけで構成されているポリイミド樹脂に比べ、バインダーの機械的強度を高めることができる。このため、充放電によりケイ素負極活物質粒子に体積変化が生じた際の、バインダー自体の破壊を抑制することができるため、負極内の集電構造が維持され、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0011】
また、上記ポリイミド樹脂は、架橋構造の部分に、イミド結合が多く存在しているので、高い密着性を発現することができる。イミド結合部は、高い極性を有するので、ケイ素活物質粒子や、集電体である金属箔、例えば銅箔との密着性が高い。さらに、架橋構造は、多くの方向に広がった分岐構造を有しているので、その架橋構造内に存在するイミド結合部も多くの方向に広がっている。これにより、活物質粒子や集電体の表面の凹凸にも高い極性を有するイミド結合が多く接することになるので、ポリイミド樹脂全体として活物質粒子や集電体との高い密着性を発現することができる。
【0012】
本発明に従う好ましい実施形態においては、6価以上のポリカルボン酸の無水物が下記化1に示されるものを含み、ジアミンが下記化2に示されるものを含み、架橋構造が下記化3に示される構造を含むことが好ましい。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
また、本発明に従う好ましい実施形態においては、架橋構造を含むポリイミド樹脂が、テトラカルボン酸またはその二無水物とジアミンとのイミド化により形成される直鎖構造をも含むことが好ましい。
【0017】
また、本発明に従う好ましい実施形態においては、架橋構造を含むポリイミド樹脂が、下記化4及び/または下記化5に示されるテトラカルボン酸二無水物と化2に示されるジアミンとのイミド化により形成される下記化6及び/または下記化7に示される直鎖構造を含むことが好ましい。
【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
また、架橋構造及び直鎖構造を含むポリイミド樹脂において、架橋構造の総モル数と、直鎖構造の総モル数との比率(架橋構造:直鎖構造)は、5:95〜15:85であることが好ましい。このような範囲内とすることにより、架橋構造による高い機械的強度と直鎖構造による変形性(柔軟性)のバランスがとれた状態となるため、強度と密着性に優れたバインダーとすることができる。
【0023】
また、本発明においては、ポリイミド樹脂が、3価以上の多価アミンのイミド化による架橋構造をさらに含んでいてもよい。
【0024】
本発明の製造方法は、上記本発明のリチウム二次電池用負極を製造することができる方法であり、溶媒中にて6価以上のポリカルボン酸無水物と1価アルコールを反応させてエステル化物を形成し、このエステル化物にジアミンを添加して、架橋構造を含むポリイミド樹脂のモノマー成分を含むバインダー前駆体溶液を作製する工程と、ケイ素及び/又はケイ素合金を含む負極活物質粒子をバインダー前駆体溶液中に分散させて負極合剤スラリーを作製する工程と、負極合剤スラリーを負極集電体である導電性金属箔の表面上に塗布する工程と、負極合剤スラリーが塗布された負極集電体を非酸化性雰囲気下で熱処理することにより、架橋構造を含むポリイミド樹脂のモノマー成分間での重合反応とイミド化反応を行って架橋構造を含むポリイミド樹脂のバインダーを形成し、負極を作製する工程とを備えることを特徴としている。
【0025】
上記本発明の製造方法においては、バインダー前駆体溶液を作製する工程が、6価以上のポリカルボン酸無水物及びテトラカルボン酸二無水物を1価アルコールと反応させてエステル化物を形成し、このエステル化物にジアミンを添加して、架橋構造及び直鎖構造を含むポリイミド樹脂のモノマー成分を含むバインダー前駆体溶液を作製する工程を含むことが好ましい。
【0026】
本発明のリチウム二次電池の製造方法においては、上記本発明の製造方法により負極を製造する工程と、上記負極と正極との間にセパレータを配置して電極体を作製する工程と、上記電極体に非水電解質を含浸させる工程とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、負極活物質層を形成するバインダーが、架橋構造を含むポリイミド樹脂を含んでいるので、バインダー自体の機械的強度及び密着性を向上させることができる。このため、充放電によりケイ素及び/またはケイ素合金を含む負極活物質粒子に体積変化が生じた際にも、バインダー自体の破壊や負極活物質及び負極集電体とバインダーとの界面での剥離の発生を抑制することができ、負極内部の電子伝導性が低下するのを抑えることができるので、優れたサイクル特性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に従う実施例において作製したリチウム二次電池を示す平面図。
【図2】図1に示すA−A線に沿う断面図。
【図3】本発明に従う実施例において作製した電極体を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0030】
6価以上のポリカルボン酸またはその無水物としては、ベンゼンヘキサカルボン酸(メリト酸)またはその無水物であるベンゼンヘキサカルボン酸三無水物(無水メリト酸)、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸、などが挙げられる。
【0031】
この中でも化1で示されるベンゼンヘキサカルボン酸三無水物が好ましい。ベンゼンヘキサカルボン酸三無水物はジアミンとのイミド化により架橋構造を形成する。この架橋構造では、芳香環内で3つのイミド基が3方向に均等に配置され、且つ3つのイミド基それぞれにおいて形成されている3つの5員環部分の平面部分と芳香環の平面部分が同一平面上に並んだ構造となっていることにより、対称性及び構造安定性が高い構造となっている。この架橋構造がポリイミド樹脂内に含まれていることにより、樹脂全体がより高い機械的強度を発現することになる。
【0032】
ジアミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノフェニルエーテル、4,4’−ジアミノフェニルメタン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0033】
この中でもポリカルボン酸とのイミド化により生成する架橋構造を含むポリイミド樹脂の機械的強度と変形性(柔軟性)との兼ね合いより、上記化2で示されるm−フェニレンジアミンが最も好ましい。m−フェニレンジアミンは芳香環1つだけを含み、この芳香環に2つのアミン基がメタ位で配置されている。これにより、芳香環による高い機械的強度とメタ位の配置による屈曲性により、機械的強度と変形性(柔軟性)のバランスの取れたポリイミド樹脂を得ることができる。
【0034】
これに対し、p−フェニレンジアミンにより生成したポリイミド樹脂は、p−フェニレンジアミンが芳香環に2つのアミン基がパラ位で配置された構造のために、メタ位であるm−フェニレンジアミンに比べて屈曲性が低くなるので、変形性(柔軟性)が低くなり、密着性が低くなる傾向にある。
【0035】
また、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノフェニルエーテル、4,4’−ジアミノフェニルメタン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンは、2つ以上の芳香環を含むため、芳香環が1つのm−フェニレンジアミンに比べ、変形性(柔軟性)が高くなりすぎて、機械的強度が低くなる傾向にある。
【0036】
従って、本発明においては、6価以上のポリカルボン酸またはその無水物とジアミンとのイミド化により形成される架橋構造としては、6価以上のポリカルボン酸またはその無水物としてベンゼンヘキサカルボン酸(メリト酸)またはその無水物である上記化1で示されるベンゼンヘキサカルボン酸三無水物(無水メリト酸)を用い、ジアミンとして上記化2で示されるm−フェニレンジアミンを用いることが最も好ましいので、これらのイミド化によって形成される上記化3で示される架橋構造が最も好ましい。
【0037】
本発明のリチウム二次電池での負極バインダーとしての架橋構造を含むポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸またはその無水物とジアミンとのイミド化により形成される直鎖構造をも含んでいることが好ましい。
【0038】
6価以上のポリカルボン酸またはその無水物とジアミンとのイミド化により形成される架橋構造に比べ、テトラカルボン酸またはその無水物とジアミンとのイミド化により形成される直鎖構造は、変形性(柔軟性)がより高く、密着性に優れる。従って、ポリイミド樹脂中に、架橋構造に加えて直鎖構造も存在することにより、架橋構造による高い機械的強度を発現させた状態で直鎖構造による変形性(柔軟性)も発現させることができ、強度と密着性に優れたバインダーとすることが可能となる。
【0039】
本発明においては、テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸1,2:4,5−二無水物(別名;ピロメリット酸二無水物)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、ジアミンとのイミド化により生成する直鎖構造の状態における機械的強度と変形性(柔軟性)の兼ね合いより、上記化4で示される3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましく、特に後述の実施例により、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物が好ましい。3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、共に2つの芳香環を含み、これら2つの芳香環の間の結合種の効果によって、2つの芳香環が常に平面を保持した状態となっており、機械的強度と変形性(柔軟性)のバランスの取れたポリイミド樹脂を得ることができる。
【0041】
これに対し、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸1,2:4,5−二無水物により生成したポリイミド樹脂は、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物や3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のような芳香環を2つ有するものから得られるポリイミド樹脂に比べ、剛直性が高く、変形性(柔軟性)が低く、密着性が低い傾向にある。
【0042】
また、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水物は、2つの芳香環の間の結合種による影響により、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物や3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と異なり、2つの芳香環が常に平面を保持した状態とならないため、機械的強度が低くなる場合がある。
【0043】
従って、本発明においては、テトラカルボン酸またはその無水物とジアミンとのイミド化により形成される直鎖構造としては、テトラカルボン酸としては上記化4で示される3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及び/または上記化5で示される3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミンとして上記化2で示されるm−フェニレンジアミンを用いることが、最も好ましいので、これらのイミド化により形成される上記化6と上記化7で示される直鎖構造が最も好ましい。
【0044】
本発明のポリイミド樹脂においては、ジアミンにより形成されるイミド基以外にも、3価以上の多価アミンにより形成されるイミド基を含む架橋構造が含まれていてもよい。3価以上の多価アミンにより形成されるイミド基を含む架橋構造は、この3価以上の多価アミンと6価以上のポリカルボン酸またはテトラカルボン酸とのイミド化により形成される。ポリカルボン酸とジアミンとのイミド化により形成される架橋構造以外に、更にこの3価以上の多価アミンにより形成されるイミド基を含む架橋構造がポリイミド樹脂内に形成されることにより、ポリイミド樹脂全体の機械的強度が更に高くなる。
【0045】
3価以上の多価アミンとしては、3〜6価の多価アミンを用いることが可能であるが、特に3価のトリアミンを用いることが好ましい。3〜6価の多価アミンを用いることにより、機械的強度が十分に担保されたポリイミド樹脂を得ることができる。しかし、多価アミンが4価以上になるとポリイミド樹脂の機械的強度は向上するが、架橋構造の変形性(柔軟性)が低下するために脆くなり、充放電時にポリイミド樹脂の破壊が生じやすくなる。また、樹脂の変形性(柔軟性)が低い場合、密着性も低下する。従って、機械的強度と変形性(柔軟性)の兼ね合いより、3価のトリアミンが特に好ましい。
【0046】
トリアミンとしては、トリス(4−アミノフェニル)メタノール(別名;パラローズアニリン)、トリス(4−アミノフェニル)メタン、3,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル、3,4,4’−トリアミノベンゾフェノン、3,4,4’−トリアミノジフェニルメタン、1,4,5−トリアミノナフタレン、トリス(4−アミノフェニル)アミン、1,2,4−トリアミノベンゼン、1,3,5−トリアミノベンゼン等の芳香族トリアミンや、2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン(別名;メラミン)、1,3,5−トリアミノシクロヘキサン等が挙げられる。
【0047】
これらの中では、トリス(4−アミノフェニル)メタノール、トリス(4−アミノフェニル)メタン、トリス(4−アミノフェニル)アミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリアミノシクロヘキサンが好ましい。これらのトリアミンは、分子内のアミン基の配置の対称性が高いので、ポリカルボン酸やテトラカルボン酸二無水物とのイミド化によって形成される架橋構造の対称性及び構造安定性が高い構造となり、樹脂全体がより高い機械的強度を発現することが可能になる。
【0048】
更に、この機械的強度の観点に加えて、耐熱性という観点からは、トリス(4−アミノフェニル)メタノール、トリス(4−アミノフェニル)メタン、トリス(4−アミノフェニル)アミン、1,3,5−トリアミノベンゼンといった芳香族トリアミンが好ましい。多価アミンとテトラカルボン酸二無水物とのイミド化を生じさせるには熱処理を行う必要があるが、これらの材料自体の耐熱性が低いと熱処理時に熱分解し、所望のポリイミド樹脂が形成できなくなる。
【0049】
また、市販品として比較的安価に入手可能なものとしては、トリス(4−アミノフェニル)メタノール、3,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル、1,2,4−トリアミノベンゼンが挙げられる。
【0050】
従って、価格、機械的強度、耐熱性、全ての観点からは、トリス(4−アミノフェニル)メタノールが最も好ましい。
【0051】
テトラアミンとしては、テトラキス(4−アミノフェニル)メタン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルメタン、N,N,N’N’−テトラキス(4−メチルフェニル)ベンジジン等が挙げられる。
【0052】
多価アミンを用いる場合、ジアミンと多価アミンのモル比(ジアミン:多価アミン)は、90:10〜70:30の範囲内であることが好ましい。
【0053】
本発明の製造方法によれば、6価以上のポリカルボン酸無水物とジアミンとのイミド化により形成される架橋構造を含んだポリイミド樹脂を含む負極バインダーを含むリチウム二次電池を作製することができる。
【0054】
バインダー前駆体溶液として、架橋構造を含むポリイミド樹脂のモノマー成分の混合物である、6価以上のポリカルボン酸無水物と1価アルコールとのエステル化物と、ジアミンとを含有したものを用い、これを熱処理することにより、重合反応とそれに引き続くイミド化反応を適正に生じさせ、架橋構造を含むポリイミド樹脂を形成することができる。
【0055】
また、このようにバインダー前駆体として、架橋構造を含むポリイミド樹脂のモノマー成分の混合物を用いることにより、ポリイミド樹脂の前駆体として一般的なポリアミド酸のようなポリマー状態のバインダー前駆体と比べて粘度が低い。このため、負極合剤スラリー作製時における負極活物質粒子表面の凹凸内へのバインダー前駆体の入り込みや、負極集電体上への負極合剤スラリーの塗布時における負極集電体表面の凹凸内へのバインダー前駆体の入り込みが生じやすくなり、負極活物質粒子及び負極集電体とバインダーとの間のアンカー効果が大きく発現し、より高い密着性を得ることが可能となる。
【0056】
ここでバインダー前駆体として用いられる6価以上のポリカルボン酸無水物とジアミンは、上記で例示したものを用いることが可能である。
【0057】
また、アルコール類による6価以上のポリカルボン酸無水物のエステル化物は、6価以上のポリカルボン酸無水物とアルコ−ル性のヒドロキシ基を1個有する化合物、例えば、メタノ−ル、エタノ−ル、イソプロパノ−ル、ブタノ−ルなどの脂肪族アルコ−ルとを反応させることで得られる。
【0058】
本発明のリチウム二次電池の製造方法においては、バインダー前駆体溶液中にテトラカルボン酸二無水物が含まれていることが好ましい。バインダー前駆体溶液中に6価以上のポリカルボン酸無水物とジアミンに加えてテトラカルボン酸二無水物が含まれており、負極合剤スラリーが塗布された負極集電体を非酸化性雰囲気下で熱処理することによって、6価以上のポリカルボン酸無水物とジミアンとの重合反応とそれに引き続くイミド化反応により形成される架橋構造に加えて、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重合反応とそれに引き続くイミド化反応により形成される直鎖構造も形成される。更には、これらが溶液内にて均一に存在していることにより、この架橋構造と直鎖構造が均一に複合し合ったポリマー鎖となるため、架橋構造による高い機械的強度を発現させた状態で直鎖構造による変形性(柔軟性)も発現した状態となって、強度と密着性に優れたバインダーとすることが可能となる。
【0059】
また、上記テトラカルボン酸二無水物を含まない場合と同じように、バインダー前駆体として、架橋構造及び直鎖構造を含むポリイミド樹脂のモノマー成分の混合物である6価以上のポリカルボン酸無水物とジアミンとテトラカルボン酸二無水物の混合物を用いていることによっても、負極作製時に負極活物質粒子及び負極集電体の表面凹凸内へのバインダー前駆体の入り込みが生じやすくなり、負極活物質粒子及び負極集電体とバインダーとの間のアンカー効果が大きく発現し、より高い密着性を得ることが可能となる。
【0060】
ここでバインダー前駆体として用いられるジアミンは、上記で例示したものを用いることが可能である。
【0061】
本発明のリチウム二次電池の製造方法において、バインダー前駆体溶液が、6価以上のポリカルボン酸無水物とジアミンに加えてテトラカルボン酸二無水物を含む場合、6価以上のポリカルボン酸無水物の総モル数と、テトラカルボン酸二無水物の総モル数の比率が、5:95〜15:85であることが好ましい。
【0062】
15:85の比率(ポリカルボン酸無水物:テトラカルボン酸二無水物)の割合を超えて、6価以上のポリカルボン酸無水物が多くなると、架橋構造が多くなりすぎ、バインダー全体の柔軟性が低くなりすぎる場合がある。よって、負極合剤層と負極集電体との間の密着性が低下し、充放電サイクル特性が悪化する場合がある。
【0063】
6価以上のポリカルボン酸無水物の総モル数とテトラカルボン酸二無水物の総モル数の比率が上記範囲内にある場合、ポリイミド樹脂中における、6価以上のポリカルボン酸無水物とジアミンとの重合反応とそれに引き続くイミド化反応により形成される架橋構造とジアミンとテトラカルボン酸二無水物との重合反応とそれに引き続くイミド化反応により形成される直鎖構造との割合が適切なものとなる。これにより架橋構造による高い機械的強度と直鎖構造による変形性(柔軟性)のバランスが取れた状態となるため、強度と密着性に優れたバインダーとすることが可能となる。
【0064】
本発明のリチウム二次電池の製造方法においては、バインダー前駆体溶液での、カルボン酸基の総モル数とアミン基の総モル数の比が1.9〜2.1であることが好ましい。このカルボン酸基の総モル数とアミン基の総モル数の比は、例えば、バインダー前駆体溶液が、6価のポリカルボン酸成分の総モル数がA、ジアミン成分の総モル数がB、テトラカルボン酸二無水物成分の総モル数がC、3価の多価アミン成分の総モル数がDの組成である場合、(6A+4C)/(2B+3D)で表される。
【0065】
カルボン酸基の総モル数とアミン基の総モル数の比が2である場合、イミド化反応の化学量論比となる。従って、バインダー溶液中のカルボン基の総モル数とアミン基の総モル数の比率が2に近い1.9〜2.1の範囲内であれば、カルボン酸成分とアミン成分との重合反応とそれに引き続くイミド化反応が効果的に生じて、ポリマー鎖が長く機械的強度に優れたポリイミド樹脂を得ることが可能となる。
【0066】
本発明の製造方法においては、集電体上に負極合剤スラリーを塗布した後、非酸化性雰囲気下で熱処理することにより、架橋構造を含むポリイミド樹脂のモノマー成分間での重合反応とイミド化反応が生じ、架橋構造を含むポリイミド樹脂のバインダーを形成する。
【0067】
非酸化性雰囲気下での熱処理の温度は、架橋構造を含むポリイミド樹脂が5%質量の減少を開始する温度を下回る範囲であることが好ましい。熱処理の温度が,ポリイミド樹脂が5%質量の減少を開始する温度を上回る場合,熱処理時にポリイミド樹脂の熱分解が生じ、所望のポリイミド樹脂が形成できなくなる場合がある。
【0068】
また、架橋構造を含むポリイミド樹脂がガラス転移温度を有している場合は、このガラス転移温度を超える温度であることが好ましい。ガラス転移温度を超える温度で熱処理を行うことにより、バインダー前駆体の重合とそれに引き続くイミド化反応による架橋構造を含むポリイミド樹脂の生成後に、架橋構造を含むポリイミド樹脂が可塑性領域となるため、負極活物質粒子や負極集電体の表面に存在する凹凸部分への樹脂の入り込みが更に大きくなり、アンカー効果がより大きく発現(樹脂の熱融着効果が発現)し、より大きな密着性が得られることになる。
【0069】
熱処理の具体的な温度としては、例えば、200〜500℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは300〜450℃の範囲である。
【0070】
また、非酸化性雰囲気としては、アルゴンなどの不活性ガスの雰囲気や窒素ガスの雰囲気が挙げられる。また、水素ガスなどの還元性雰囲気であってもよい。
【0071】
本発明において、負極集電体は、導電性を有するものである限りにおいて特に限定されない。負極集電体は、例えば、銅、ニッケル、鉄、チタン、コバルト、マンガン、錫、ケイ素等の金属またはこれらの組み合わせからなる合金からなる箔など導電性金属箔により構成することができる。これらの中でも、導電性金属箔は、活物質粒子中に拡散しやすい金属元素を含有するものが好ましいため、銅薄膜または銅を含む合金からなる箔により構成されていることが好ましい。
【0072】
負極集電体の厚みは特に限定されず、例えば、10μm〜100μm程度とすることができる。
【0073】
負極合剤層に上記バインダーと共に含まれる負極活物質粒子は、ケイ素及びケイ素を含む合金のうちの少なくとも一方を含んでいれば良い。また、ケイ素合金は、負極活物質として機能する合金である限りにおいて特に限定されない。
【0074】
ケイ素合金の具体例としては、ケイ素と他の1種以上の元素との固溶体、ケイ素と他の1種以上の元素との金属間化合物、ケイ素と他の1種以上の元素との共晶合金などが挙げられる。ケイ素を含む合金の作製方法としては、アーク溶解法、液体急冷法、メカニカルアロイング法、スパッタリング法、化学気相成長法、焼成法などが挙げられる。液体急冷法の具体例としては、単ロール急冷法、双ロール急冷法、及びガスアトマイズ法、水アトマイズ法、ディスクアトマイズ法などの各種アトマイズ法が挙げられる。
【0075】
また、負極活物質粒子は、粒子表面が金属や合金等で被覆されたケイ素及び/またはケイ素合金の粒子であってもよい。被覆方法としては、無電解めっき法、電解めっき法、化学還元法、蒸着法、スパッタリング法、化学気相成長法などが挙げられる。粒子表面を被覆する金属は、負極集電体を構成している導電性金属箔や、下記の導電性金属粉末と同じ金属であることが好ましい。導電性金属箔及び導電性金属粉末と同じ金属を用いて粒子を被覆することにより、焼結の際の集電体及び導電性金属粉末との結合性が大きく向上し、さらに優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0076】
負極活物質粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0077】
本発明においては、負極合剤層に、導電性金属粉末や導電性炭素粉末などの導電性粉末がさらに含まれていてもよい。導電性金属粉末の具体例としては、上記導電性金属箔と同様の材質のものを好ましく用いられる。具体的には、銅、ニッケル、鉄、チタン、コバルト等の金属またはこれらの組み合わせからなる合金により形成された粉末が導電性金属粉末として好ましく用いられる。なお、導電性粉末の平均粒径は、特に限定されないが100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0078】
本発明において、正極及び非水電解質のそれぞれは、特に限定されず、例えば、公知のものを用いることができる。
【0079】
正極は、一般的には、導電性金属箔などにより構成される正極集電体と、正極集電体の上に形成される正極合剤層とを備えている。正極合剤層は、正極活物質を含む。正極活物質は、リチウムを電気化学的に挿入・脱離するものである限りにおいて特に限定されない。正極活物質の具体例としては、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMnO、LiCo0.5Ni0.5、LiNi0.7Co0.2Mn0.1などのリチウム含有遷移金属酸化物や、MnOなどのリチウムを含有していない金属酸化物等が挙げられる。
【0080】
非水電解質に用いられる溶媒も特に限定されない。非水電解質に用いられる溶媒の具体例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートやフルオロエチレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒などが挙げられる。
【0081】
非水電解質に用いられる溶質も特に限定されない。非水電解質に用いられる溶質の具体例としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSOなど及びそれらの混合物等が挙げられる。また、電解質として、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、LiI、LiNなどの無機固体電解質を用いてもよい。また、非水電解質には、COが含まれていることが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0083】
(実施例1)
<負極の作製>
〔負極活物質の作製〕
先ず、内温800℃の流動層内に多結晶珪素微粒子を導入し、モノシラン(SiH)を送入することで粒状の多結晶ケイ素を作製した。
【0084】
次に、この粒状の多結晶ケイ素をジェットミルを用いて粉砕した後、分級機にて分級し、メディアン径が9μmの多結晶ケイ素粉末(負極活物質)を作製した。メディアン径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における累積体積50%径で得た。
【0085】
なお、この多結晶ケイ素粉末の結晶子サイズは、粉末X線回折のケイ素の(111)ピークの半値幅を用いたscherrerの式による算出で、44nmであった。
【0086】
〔負極バインダー前駆体の作製〕
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、上記化1で示されるベンゼンヘキサカルボン酸三無水物を3当量のエタノールでエステル化したものと、上記化4で示される、3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を2当量のエタノールでエステル化したものと、上記化2で示されるm−フェニレンジアミンを、モル比で化1:化4:化2が、5:95:102.5となるように溶解させ、バインダー前駆体溶液a1を得た。
【0087】
ここで、バインダー前駆体溶液a1中における、化1のモル数をA、化4のモル数をB、化2のモル数をc、とすると、(6A+4B)/2c=2となる。
【0088】
〔負極合剤スラリーの作製〕
上記作製の負極活物質と、負極導電剤としての平均粒径3μmの黒鉛粉末と、上記作製の負極バインダー前駆体溶液a1とを、負極活物質粉末と負極導電剤粉末と負極バインダー(負極バインダー前駆体溶液a1の乾燥によるNMP除去、重合反応、イミド化反応後のもの)の質量比が89.5:3.7:6.8となるように混合し、負極合剤スラリーとした。
【0089】
〔負極の作製〕
上記で作製された負極合剤スラリーを、負極集電体の両面に、25℃空気中で塗布し、120℃空気中で乾燥後、25℃空気中で圧延した。得られたものを、長さ380mm、幅52mmの長方形に切り抜いた後、アルゴン雰囲気下で400℃、10時間熱処理し、負極集電体の表面に負極活物質層が形成された負極を作製した。負極の端部には、負極集電タブとしてのニッケル板を接続した。負極集電体上の負極合剤層量は5.6mg/cm、厚みは56μmであった。なお、負極集電体としては、厚さ18μmの銅合金箔(C7025合金箔、組成;Cu96.2質量%、Ni3質量%、Si0.65質量%、Mg0.15質量%)の両面を、表面粗さRa(JIS B 0601−1994)が0.25μm、平均山間隔S(JIS B 0601−1994)が0.85μmとなるように電解銅粗化したものを用いた。
【0090】
上記負極の熱処理によって、バインダー前駆体溶液a1からポリイミド化合物が生成したことを確認するために以下の実験を行った。バインダー前駆体溶液a1を、120℃の空気中で乾燥させてNMPを除去後、先述の負極の熱処理と同様に、アルゴン雰囲気下、400℃で10時間熱処理したものの赤外線(IR)吸収スペクトルを測定した。その結果、1720cm−1付近にイミド結合由来のピークが検出された。これにより、バインダー前駆体溶液a1の熱処理により、重合反応とイミド化反応とが進行してポリイミド化合物が生成したことを確認した。
【0091】
<正極の作製>
〔リチウム遷移金属複合酸化物の作製〕
正極活物質として、LiCOとCoCOとを、LiとCoのモル比が1:1になるようにして乳鉢にて混合し、空気雰囲気中にて800℃で24時間熱処理した後に粉砕し、平均粒子径10μmのLiCoOで表されるリチウムコバルト複合酸化物の正極活物質の粉末を得た。得られた正極活物質粉末のBET比表面積は0.37m/gであった。
【0092】
〔正極の作製〕
分散媒としてのNMPに、上記作製の正極活物質としてのLiCoO粉末と、正極導電剤としての炭素材料粉末と、正極バインダーとしてのポリフッ化ビニリデンとを、正極活物質と導電剤とバインダーとの質量比が95:2.5:2.5となるように加えた後、混練し、正極合剤スラリーとした。
【0093】
この正極合剤スラリーを、正極集電体としての厚み15μm、長さ402mm、幅50mmのアルミニウム箔の両面に、塗布し、乾燥した後、圧延した。正極合剤スラリーは、その塗布部が正極集電体の表面で長さ340mm幅50mm、正極集電体の裏面で長さ270mm幅50mmとなるように塗布された。集電体上の活物質量、及び正極の厚みは、両面に活物質層が形成されている部分で48mg/cm、143μmであった。
【0094】
なお、正極の端部にある正極活物質層の未塗布部分には、正極集電タブとしてアルミニウム板を接続した。
【0095】
〔非水電解液の作製〕
アルゴン雰囲気下で、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とを体積比2:8で混合した溶媒に対し、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットル溶解させた後、この溶液に対して0.4質量%の二酸化炭素ガスを溶存させ、非水電解液とした。
【0096】
〔電極体の作製〕
上記正極を1枚、上記負極を1枚、ポリエチレン製微多孔膜のセパレータを2枚用いた。セパレータは、厚さ20μm、長さ450mm、幅54.5mmであり、突き刺し強度340g、空孔率39%である。正極と負極とをセパレータを介して対向させ、正極タブ、負極タブ共に最外周となるようにして、円柱型の巻き芯で、渦巻き状に巻回した後、巻き芯を引き抜いて、渦巻状の電極体を作製した後、押し潰して、扁平型の電極体を得た。ここで、作製した渦巻き状電極体の構造の模式図を図3に示す。
【0097】
図3に示すように、電極体5は、電極体5から取り出された正極集電タブ3及び負極集電タブ4を有している。
【0098】
<リチウム二次電池の作製>
上記のようにして得られた電極体及び電解液を、25℃で、1気圧の二酸化炭素雰囲気下で、アルミニウムラミネート製の外装体内に挿入し、扁平型のリチウム二次電池を作製した。
【0099】
図1は、作製したリチウム二次電池を示す平面図である。図1に示すように、リチウム二次電池は、アルミニウムラミネート外装体1、アルミニウムラミネートの端部同士をヒートシールした閉口部2、正極集電タブ3、負極集電タブ4、電極体5から構成されている。
【0100】
図2は、図1に示すA−A線に沿う断面図である。電極体5は、正極6及び負極7の間にセパレータ8を挟んだ状態で巻回することにより構成されている。
【0101】
以上のようにして、本発明電池A1を作製した。
【0102】
(実施例2)
前記本発明電池A1の負極バインダー前駆体の作製において、化1:化4:化2のモル比を15:85:107.5とした他は、同様にして、本発明電池A2を作製した。
【0103】
(実施例3)
前記本発明電池A1の負極バインダー前駆体の作製において、化1:化4:化2のモル比を20:80:110とした他は、同様にして、本発明電池A3を作製した。
【0104】
(実施例4)
前記本発明電池A1の負極バインダー前駆体の作製において、上記化4で示される3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物の代わりに、上記化5で示される3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いた他は、同様にして、本発明電池A4を作製した。
【0105】
(実施例5)
前記本発明電池A1の負極バインダー前駆体の作製において、多価アミンとして、下記化8で示されるトリス(4−アミノフェニル)メタノールを更に添加し、モル比 化1:化4:化2:化8を5:95:95:5となるようにした他は、同様にして、本発明電池A5を作製した。
【0106】
【化8】

【0107】
(比較例1)
前記本発明電池A1の負極バインダー前駆体の作製において、上記化1で示されるベンゼンヘキサカルボン酸三無水物を3当量のエタノールでエステル化したものを混合せず、更に化4:化2のモル比を100:100とした他は、同様にして、比較電池B1を作製した。
【0108】
(比較例2)
前記本発明電池A4の負極バインダー前駆体の作製において、上記化1で示されるベンゼンヘキサカルボン酸三無水物を3当量のエタノールでエステル化したものを混合せず、更に化5:化2のモル比を100:100とした他は、同様にして、比較電池B2を作製した。
【0109】
〔充放電サイクル特性の評価〕
上記の本発明電池A1〜A5及び比較電池B1〜B2について、下記の充放電サイクル条件にて充放電サイクル特性を評価した。
【0110】
(充放電サイクル条件)
・1サイクル目の充電条件
50mAの電流で4時間定電流充電を行った後、200mAの電流で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電を行い、更に、4.2Vの電圧で電流値が50mAとなるまで定電圧充電を行った。
【0111】
・1サイクル目の放電条件
200mAの電流で電池電圧が2.75Vとなるまで定電流放電を行った。
【0112】
・2サイクル目以降の充電条件
1000mAの電流で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電を行い、更に、4.2Vの電圧で電流値が50mAとなるまで定電圧充電を行った。
【0113】
・2サイクル目以降の放電条件
1000mAの電流で電池電圧が2.75Vとなるまで定電流放電を行った。
【0114】
以下の計算方法で、初期充放電効率、サイクル寿命を求めた。
【0115】
・初期充放電効率
; (1サイクル目の放電容量/1サイクル目の充電容量)×100
・サイクル寿命
; 容量維持率(nサイクル目の放電容量を、1サイクル目の放電容量で除した値)が85%になった時のサイクル数
本発明電池A1〜A5及び比較電池B1〜B2の初期充放電効率、サイクル寿命を表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
表1から明らかなように、負極バインダーが6価以上のポリカルボン酸とジアミンとのイミド化により形成される架橋構造を含むポリイミド樹脂である本発明電池A1〜A5は、負極バインダーがこのような架橋構造を含まないポリイミド樹脂である比較電池B1〜B2に比べて、優れたサイクル寿命を示していることが分かる。
【0118】
これは、架橋構造を含むポリイミド樹脂は、その架橋構造によって高い機械的特性と密着性が両立していることにより負極内に高い集電性が発現したためと考える。
【0119】
また、本発明電池A1〜A5の間での比較より、架橋構造を形成する6価以上のポリカルボン酸と直鎖構造を形成するテトラカルボン酸の比率が5:95〜15:85である本発明電池A1、A2、A4及びA5が特に優れたサイクル寿命を示していることが分かる。
【0120】
本発明電池A1とA5との比較より、アミン成分としてジアミンに加えて3価以上の多価アミンであるトリアミンが含まれている本発明電池A5が特に優れたサイクル寿命を示していることが分かる。
【0121】
また、本発明電池A1とA4との比較より、テトラカルボン酸二無水物として、化5で表されるものより、化4で表されるものを用いることが好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0122】
1…アルミニウムラミネート外装体
2…閉口部
3…正極集電タブ
4…負極集電タブ
5…電極体
6…正極
7…負極
8…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素及び/またはケイ素合金を含む負極活物質粒子とバインダーとを含む負極活物質層が負極集電体である導電性金属箔の表面上に形成された負極と、正極と、非水電解質とを備えるリチウム二次電池であって、
前記バインダーが、6価以上のポリカルボン酸またはその無水物とジアミンとのイミド化により形成される架橋構造を含むポリイミド樹脂を含んでいることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
前記6価以上のポリカルボン酸の無水物が下記化1に示されるものを含み、前記ジアミンが下記化2に示されるものを含み、前記架橋構造が下記化3に示される構造を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項3】
前記架橋構造を含むポリイミド樹脂が、テトラカルボン酸またはその二無水物とジアミンとのイミド化により形成される直鎖構造を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記架橋構造を含むポリイミド樹脂が、下記化4及び/または下記化5に示されるテトラカルボン酸二無水物と前記化2に示されるジアミンとのイミド化により形成される下記化6及び/または下記化7に示される直鎖構造を含むことを特徴とする請求項2に記載のリチウム二次電池。
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【請求項5】
前記ポリイミド樹脂において、上記化3で示される架橋構造の総モル数と、上記化6及び/または下記化7で示される直鎖構造の総モル数との比率(架橋構造:直鎖構造)が、5:95〜15:85であることを特徴とする請求項4に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記ポリイミド樹脂が、3価以上の多価アミンのイミド化による架橋構造をさらに含んでいることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
溶媒中にて6価以上のポリカルボン酸無水物と1価アルコールを反応させてエステル化物を形成する工程と、
このエステル化物にジアミンを添加して、架橋構造を含むポリイミド樹脂のモノマー成分を含むバインダー前駆体溶液を作製する工程と、
ケイ素及び/又はケイ素合金を含む負極活物質粒子をバインダー前駆体溶液中に分散させて負極合剤スラリーを作製する工程と、
負極合剤スラリーを負極集電体である導電性金属箔の表面上に塗布する工程と、
負極合剤スラリーが塗布された負極集電体を非酸化性雰囲気下で熱処理することにより、架橋構造を含むポリイミド樹脂のモノマー成分間での重合反応とイミド化反応を行って架橋構造を含むポリイミド樹脂のバインダーを形成する工程とを備えることを特徴とするリチウム二次電池用負極の製造方法。
【請求項8】
前記エステル化物を形成する工程において、さらにテトラカルボン酸二無水物を添加して、前記ポリカルボン酸無水物及び前記カルボン酸二無水物と、前記1価アルコールとを反応させてエステル化物を形成し、
前記バインダー前駆体溶液を作製する工程において、これらのエステル化物にジアミンを添加して、架橋構造及び直鎖構造を含むポリイミド樹脂のモノマー成分を含むバインダー前駆体溶液を作製することを特徴とする請求項7に記載のリチウム二次電池用負極の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の方法により負極を製造する工程と、
前記負極と正極との間にセパレータを配置して電極体を作製する工程と、
前記電極体に非水電解質を含浸させる工程とを備えることを特徴とするリチウム二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−204592(P2011−204592A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72908(P2010−72908)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】