説明

リチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法並びにそれを用いたリチウム二次電池

【課題】遷移金属としてMnを含有し、かつ層状構造を有し、リチウムを過剰に含有するリチウム含有遷移金属酸化物において、放電容量が高いリチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法並びにそれを用いたリチウム二次電池を得る。
【解決手段】一般式Li1+xMn1−x−y(ここで、x及びyは、0<x<0.33、0<y<0.66の範囲であり、MはMn以外の少なくとも1つの遷移金属を示す。)で表され、かつ層状構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物であって、その表面に酸化ホウ素の層が形成されているリチウム二次電池用正極活物質を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属としてMnを含有し、Liを過剰に含み、かつ層状構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物からなるリチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法並びにそれを用いたリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Li1+xMn1−x−y(ここで、MはMn以外の少なくとも1つの遷移金属である。)で表されるLi量が過剰なMn系層状活物質は、200mAh/g以上の放電容量を示すことが知られている(例えば、非特許文献1)。この活物質のようにLiを1+xモル含有する活物質は、Liを1モル含有するLiCoOなどの従来の活物質よりも高い放電容量を理論的に示すことができるはずである。しかしながら、Liを過剰な量含有しているにもかかわらず、高い放電容量を得ることができていない。
【0003】
本発明者は、放電容量を改善するため、この活物質に被覆層を設けることを検討した。活物質の表面に被覆層を設けることについては、以下のような従来技術が知られている。
【0004】
特許文献1及び非特許文献2においては、リチウムホウ素酸化物でLiMnを表面処理することにより、高温保存特性を改善することが提案されているが、一方で放電容量が低下している。これは、被覆層を設けることにより、表面積を低減し、電極と電解液との間の反応を減少させることによるものと考えられる。
【0005】
特許文献2においては、LiCoOにBを添加し、保存時におけるCoの溶解を減少させ、自己放電を減少させることが開示されている。
【0006】
特許文献3においては、MnOまたはLi−Mn化合物(Mn:Li=7:3)に、ホウ素含有材料を混合し、375℃で30時間アニールすることにより、自己放電を減少させ、保存特性を改善することが開示されている。
【0007】
特許文献4においては、ホウ酸リチウム及びLiCOを、Ni−Mn−Co前駆体に添加し、900℃で11時間アニールすることにより、活物質の熱的安定性(DSC)を改善することが開示されている。
【0008】
特許文献5においては、LiCoO、Li含有Ni−Co−Mo酸化物、LiMnなどの活物質にホウ素エトキシドを混合し、アニールすることにより、サイクル特性を改善することが開示されている。
【0009】
特許文献6においては、LiCoOに、水酸化Ni/Mn、ホウ素含有材料、及び適量のLi含有化合物を混合した後乾燥し、950℃でアニールすることにより、サイクル特性を改善することが開示されている。
【0010】
特許文献7及び特許文献8においては、Ni系酸化物材料(Li1.03Ni0.77Co0.20Al0.03)を、(NH.5B.8HO、Li及びLiBOで処理することが開示されている。ここでは、700℃で処理した場合、放電容量が増加するが、500℃で処理した場合には放電容量が低くなることが記載されている。これは、BET比表面積の増加によるものであると考えられる。
【0011】
上記のように、従来技術においては、遷移金属としてMnを含有し、かつ層状構造を有し、Liを過剰に含有するリチウム含有遷移金属酸化物について、放電容量を高める技術は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5705291号明細書
【特許文献2】特開2008−91196号公報
【特許文献3】特開平9−115515号公報
【特許文献4】特開2004−335278号公報
【特許文献5】特開2009−152214号公報
【特許文献6】特開2008−16236号公報
【特許文献7】特開2009−146739号公報
【特許文献8】特開2009−146740号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Electrochemical and Solid-State Letters , 9(5) A221-A224(2006)“High Capacity , Surface-Modified Layered Li[Li(1-x)/3Mn(2-x)/3Nix/3Cox/3]O2Cathodes with Low Irreversible Capacity Loss”, Y.Wu and A.Manthiram
【非特許文献2】Solid State Ionics 104(1997) 13-25“Surface treatment of Li1+xMn2-xO4 spinels for improved elevated temperature performance”, G.G.Amatucci , A.Blyr , C.Sigala , P.Alfonce , J.M.Tarascon
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、遷移金属としてMnを含有し、かつ層状構造を有し、リチウムを過剰に含有するリチウム含有遷移金属酸化物において、放電容量が高いリチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法並びにそれを用いたリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、一般式Li1+xMn1−x−y(ここで、x及びyは、0<x<0.33、0<y<0.66の範囲であり、MはMn以外の少なくとも1つの遷移金属を示す。)で表され、かつ層状構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物であって、その表面に酸化ホウ素の層が形成されていることを特徴としている。
【0016】
本発明の正極活物質においては、遷移金属としてMnを含有し、かつ層状構造を有し、リチウムを過剰に含有するリチウム含有遷移金属酸化物を用いているが、その表面に酸化ホウ素の層が形成されているので、放電容量を高めることができる。
【0017】
本発明においては、上記一般式における1−x−yが、0.4<1−x−y<1の範囲であることが好ましい。すなわち、リチウム含有遷移金属酸化物において、遷移金属中のMnの含有量が、0.4〜1の範囲内であることが好ましい。本発明で放電容量が高まる理由はMnとBの相互作用であるので、Mnの含有量が少なすぎると、効果が小さくなる。
【0018】
上記一般式におけるMは、Mn以外の少なくとも1つの遷移金属を示す。具体的には、Co、Ni、Fe、Ti、Cr、Zr、Nb、Mo、Mg、Alなどが挙げられる。これらの中でも、Co及びNiが特に好ましい。MがCo及びNiである場合、上記リチウム含有遷移金属酸化物は、一般式Li1+xMn1−x−p−qCoNi(ここで、x、p及びqは、0<x<0.33、0<p<0.33、0<q<0.33の範囲である。)で表されることが好ましい。
【0019】
上記一般式におけるxは、0.1≦x≦0.30の範囲であることが好ましい。上記リチウム含有遷移金属酸化物はrLiMnO+sLiMO (ここで、r及びsは1<2r+s<1.33の範囲である。)と表すことができ、xが上記範囲であるとLiMnOの利用率が上がるため、放電容量が高くなる。
【0020】
本発明において、酸化ホウ素の層の量は、リチウム含有遷移金属酸化物100質量部に対し、B換算で0.1〜5質量部の範囲であることが好ましい。酸化ホウ素の層の量が少なすぎると、放電容量が高いという本発明の効果を十分に得ることができない場合がある。また、酸化ホウ素の層の量が多すぎると、正極活物質中におけるリチウム含有遷移金属酸化物の量が相対的に少なくなるので、放電容量が低下する場合がある。酸化ホウ素の層の量は、さらに好ましくは0.2〜4質量部の範囲であり、さらに好ましくは0.5〜3質量部の範囲である。
【0021】
本発明のリチウム含有遷移金属酸化物は、C2/mまたはC2/cの空間群を有するものであることが好ましい。
【0022】
本発明において、酸化ホウ素の層は、ホウ素含有化合物を熱処理することにより形成されたものであることが好ましい。熱処理の温度としては、200〜500℃の範囲内であることが好ましく、300〜400℃の範囲内であることがさらに好ましい。熱処理の温度をこのような範囲内とすることにより、より高い放電容量を得ることができる。
【0023】
本発明の製造方法は、上記本発明のリチウム二次電池用正極活物質を製造することができる方法であり、上記一般式で表されるリチウム含有遷移金属酸化物を調製する工程と、リチウム含有遷移金属酸化物の表面にホウ素含有化合物を付着させる工程と、ホウ素含有化合物を付着させたリチウム含有遷移金属酸化物を熱処理することにより、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に酸化ホウ素の層を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0024】
ホウ素含有化合物としては、HBO、B、LiBO、Liなどが挙げられる。これらの中でも、HBO及びBの少なくとも1つであることが特に好ましい。
【0025】
リチウム含有遷移金属酸化物の表面にホウ素含有化合物を付着させる方法としては、ホウ素含有化合物を含む溶液とリチウム含有遷移金属酸化物とを混合した後乾燥する方法が挙げられる。また、ホウ素含有化合物が、Bのように水などの溶媒に溶解しない化合物である場合には、ホウ素含有化合物の粒子とリチウム含有遷移金属酸化物とを混合することにより、リチウム含有遷移金属の表面にホウ素含有化合物を付着させる方法が挙げられる。この場合、ホウ素含有化合物の平均粒子径は、0.1〜10μmの範囲内であることが好ましい。
【0026】
また、本発明において用いるリチウム含有遷移金属酸化物の平均粒子径は、0.5〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0027】
本発明の製造方法においては、リチウム含有遷移金属酸化物の表面にホウ素含有化合物を付着させた後、熱処理を行う。熱処理を行うことにより、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に酸化ホウ素の層を形成することができる。本発明における酸化ホウ素の層は、Bの組成に限定されるものではなく、ホウ素と酸素を含む化合物の層であればよく、例えばHBO等から形成する場合、Hが酸化ホウ素の層に残存していてもよい。
【0028】
を付着させる場合には、Bを熱処理することにより、Bの粒子が焼結した層を形成することができる。
【0029】
本発明における酸化ホウ素の層は、リチウム含有遷移金属酸化物の表面を少なくとも部分的に被覆していればよく、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子全体を被覆している必要はない。
【0030】
本発明のリチウム二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備えるリチウム二次電池であり、正極の活物質として、上記本発明の正極活物質が用いられていることを特徴としている。
【0031】
本発明のリチウム二次電池は、上記本発明の正極活物質を用いているので、放電容量が高い。
【0032】
本発明で用いる非水電解質の溶媒としては、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類等が挙げられる。
【0033】
上記環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどが挙げられ、また、これらの水素の一部または全部をフッ素化されているものも用いることが可能である。このようなものとしては、トリフルオロプロピレンカーボネートやフルオロエチレンカーボネートなどが例示される。
【0034】
上記鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネートなどが挙げられ、これらの水素の一部または全部をフッ素化されているものも用いることが可能である。
【0035】
上記エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0036】
上記環状エーテル類としては、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、1,8−シネオール、クラウンエーテルなどが挙げられる。
【0037】
上記鎖状エーテル類としては、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルなどが挙げられる。
【0038】
上記ニトリル類としては、アセトニトリル等、上記アミド類としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0039】
本発明においては、上記各種溶媒の中から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0040】
非水溶媒に加える電解質としては、従来のリチウム二次電池において電解質として一般に使用されているリチウム塩を用いることができ、例えば、LiPF,LiBF,LiAsF,LiClO,LiCFSO,LiN(FSO,LiN(C2l+1SO)(C2m+1SO)(l,mは1以上の整数),LiC(C2p+1SO)(C2q+1SO)(C2r+1SO)(p,q,rは1以上の整数),Li〔B(C〕(ビス(オキサレート)ホウ酸リチウム(LiBOB))、Li〔B(C)F〕、Li〔P(C)F〕、Li〔P(C〕等が挙げられ、これらのリチウム塩は一種類で使用してもよく、また二種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0041】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出可能な材料を用いるのが好ましく、例えば、リチウム金属、リチウム合金、炭素質物、金属化合物等を挙げることができる。またこれらの負極活物質を一種類で使用してもよく、また二種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0042】
上記リチウム合金としては、リチウムアルミニウム合金、リチウム珪素合金、リチウムスズ合金、リチウムマグネシウム合金などが挙げられる。
【0043】
リチウムを吸蔵、放出する炭素質物としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、気相成長炭素繊維、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素を挙げることができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質を用いることにより、放電容量の高いリチウム二次電池を得ることができる。
【0045】
本発明の製造方法によれば、上記本発明のリチウム二次電池用正極活物質を効率良く製造することができる。
【0046】
本発明のリチウム二次電池は、上記本発明のリチウム二次電池用正極活物質を用いているので、放電容量を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
<実験1>
〔リチウム含有遷移金属酸化物の作製〕
水酸化リチウム(LiOH)及びMn、Co及びNiの共沈水酸化物を出発材料として用いた。これらの材料を、所定の組成比となるように混合し、混合した粉末をペレットに形成した。このペレットを900℃で24時間焼成することにより、Li1.2Mn0.54Co0.13Ni0.13の組成を有するリチウム含有遷移金属酸化物を得た。得られたリチウム含有遷移金属酸化物の平均粒子径は、11μmであった。
【0049】
〔正極活物質の作製〕
得られたリチウム含有遷移金属酸化物の表面に、以下の実施例において記載するように酸化ホウ素の層を形成し、正極活物質とした。
【0050】
比較例においては、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に酸化ホウ素の層を形成せずに、所定の温度で熱処理したものを正極活物質として用いた。
【0051】
〔正極の作製〕
得られた正極活物質を、導電剤としてのアセチレンブラック、及びバインダーとしてのポリビニリデンフルオライド(PVdF)と、重量比で80:10:10となるように混合した。次に、この混合物に、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)を添加し、混合してスラリーを調製した。
【0052】
得られたスラリーを、コーターを用いてアルミニウム箔の上に塗布し、ホットプレートを用いて110℃で乾燥し、正極を作製した。
【0053】
〔リチウム二次電池の作製〕
得られた正極を用いて、リチウム二次電池としてテストセルを作製した。テストセルは、Li金属を負極として用い、正極と負極の間にセパレータを配置して作製した。非水電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比で3:7に混合した混合溶媒に、1M(モル/リットル)となるようにLiPF(リチウムヘキサフルオロホスフェイト)を添加して作製した電解液を用いた。
【0054】
〔リチウム二次電池の評価〕
上記のようにして得られたテストセルについて、2Vと4.8Vの間で充放電を行い、テストセルを評価した。充放電における電流は20mA/gとした。
【0055】
1サイクル目の放電容量と、1サイクル目の充放電効率を測定した。
【0056】
(実施例1〜5)
上記のようにして得られたリチウム含有遷移金属酸化物の表面に、以下のようにして酸化ホウ素の層を形成した。
【0057】
リチウム含有遷移金属酸化物100質量部に対し、2質量部のHBOと50質量部の水を調製し、この水溶液を、リチウム含有遷移金属酸化物と混合した。次に、この混合物を空気中80℃で乾燥した。次に、この乾燥した粉末を、空気中所定の温度で5時間熱処理した。熱処理温度は、200℃(実施例1)、300℃(実施例2)、400℃(実施例3)、500℃(実施例4)、及び600℃(実施例5)とした。
【0058】
以上のようにして、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に酸化ホウ素の層を形成し、正極活物質として用いた。これらの正極活物質を用いたテストセルの評価結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1〜3)
リチウム含有遷移金属酸化物の表面に、酸化ホウ素の層を形成せずに、所定の温度で熱処理のみを行った正極活物質を比較のため作製した。比較例1においては熱処理温度を300℃とし、比較例2においては400℃、比較例3においては500℃とした。熱処理時間は上記と同様に5時間である。
【0060】
比較例1〜3の正極活物質を用いたテストセルの評価結果を、表1に併せて示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、本発明に従い、表面に酸化ホウ素の層を形成した実施例2〜4においては、表面に酸化ホウ素の層を形成していないそれぞれ同じ熱処理温度の比較例1〜3に比べ、1サイクル目の放電容量が高くなっている。
【0063】
(実施例6及び7)
実施例2において、リチウム含有遷移金属酸化物と混合するHBO水溶液中のHBOの量を、リチウム含有遷移金属酸化物100質量部に対し、1質量部(実施例6)、及び3質量部(実施例7)とする以外は、実施例2と同様にして正極活物質を作製し、得られた正極活物質を用いてテストセルを作製した。なお、HBO水溶液の水量は、実施例2と同様に50質量部とした。
【0064】
テストセルの評価結果を表2に示す。なお、表2には、実施例2及び比較例1の結果も併せて示す。
【0065】
【表2】

【0066】
表2に示すように、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に形成する酸化ホウ素層の量を0.56質量部または1.69質量部に変化させた場合においても、1サイクル目の放電容量が高くなっている。
【0067】
(実施例8〜10)
本実施例においては、酸化ホウ素の層を形成するための材料として、Bを用いた。Bは、溶媒に溶解しないので、粒子の形態で、リチウム含有遷移金属酸化物と混合した。B粒子としては、平均粒子径1μmのものを用いた。
【0068】
リチウム含有遷移金属酸化物100質量部に対し、1質量部(実施例8及び10)または2質量部(実施例9)のB粒子を混合した後、実施例8及び9については300℃で、実施例10については600℃で5時間熱処理し、表面に酸化ホウ素層が形成された正極活物質を得た。
【0069】
得られた正極活物質を用いて、正極を作製し、得られた正極を用いてテストセルを作製した。作製したテストセルについて、上記と同様にして評価し、評価結果を表3に示した。なお、表3には、比較例1の結果も併せて示す。
【0070】
【表3】

【0071】
表3に示すように、被覆処理剤としてBを用いた場合においても、酸化ホウ素層を形成していない比較例1に比べ、1サイクル目の放電容量が高くなっている。
【0072】
<実験2>
〔リチウム含有遷移金属酸化物の作製〕
実験1のリチウム含有遷移金属酸化物の作製において、Mn、Co、及びNiの組成比を変えた共沈水酸化物を作製し、この共沈水酸化物と水酸化リチウムとを所定の組成比となるように混合する以外は、実験1におけるリチウム含有遷移金属酸化物の作製と同様にして、Li1.04Mn0.32Co0.32Ni0.32の組成を有するリチウム含有遷移金属酸化物を作製した。
【0073】
〔正極の作製〕
(実施例11〜12及び比較例4)
被覆処理剤としてHBOを用い、リチウム含有遷移金属100質量部に対し、1質量部(実施例11)または2質量部(実施例12)となるHBOを含む水溶液とリチウム含有遷移金属酸化物とを混合し、80℃で乾燥した後、空気中300℃で5時間熱処理することにより、正極活物質を得た。
【0074】
また、比較として、リチウム含有遷移金属酸化物をそのまま正極活物質として用いた(比較例4)。
【0075】
得られた正極活物質を用いて正極を作製し、得られた正極を用いてテストセルを作製し、作製したテストセルについて上記と同様にして評価した。評価結果を表4に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
表4に示すように、本発明に従いリチウム含有遷移金属酸化物の表面に酸化ホウ素層を形成した実施例11及び12においては、酸化ホウ素層を形成していない比較例4に比べ、1サイクル目の放電容量が高くなっている。
【0078】
<参考実験>
(比較例5)
正極活物質として、市販のスピネル型LiMnを用い、上記と同様にしてテストセルを作製した。テストセルの評価結果を表5に示す。
【0079】
(比較例6)
リチウム含有遷移金属酸化物として、比較例5において用いたスピネル型のLiMnを用い、このリチウム含有遷移金属酸化物の表面に、実施例2と同様にして、HBOを被覆処理剤として用い、酸化ホウ素の層を形成した。
【0080】
得られた正極活物質を用いて、上記と同様にしてテストセルを作製した。テストセルの評価結果を表5に示す。
【0081】
【表5】

【0082】
表5に示すように、リチウム含有遷移金属酸化物として、LiMnを用いた場合には、その表面に酸化ホウ素層を形成しても、1サイクル目の放電容量は高くなっていない。なお、この参考実験は、特許文献1に開示された技術を再現したものである。
【0083】
従って、本発明の効果は、本発明において規定しているリチウム含有遷移金属酸化物に特有のものであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li1+xMn1−x−y(ここで、x及びyは、0<x<0.33、0<y<0.66の範囲であり、MはMn以外の少なくとも1つの遷移金属を示す。)で表され、かつ層状構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物であって、その表面に酸化ホウ素の層が形成されていることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記一般式における1−x−yが、0.4<1−x−y<1の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記一般式におけるMが、Co及びNiであり、前記リチウム含有遷移金属酸化物が、一般式Li1+xMn1−x−p−qCoNi(ここで、x、p及びqは、0<x<0.33、0<p<0.33、0<q<0.33の範囲である。)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記一般式におけるxが、0.1≦x≦0.30の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記酸化ホウ素の層の量が、前記リチウム含有遷移金属酸化物100質量部に対し、B換算で0.1〜5質量部の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記リチウム含有遷移金属酸化物が、C2/mまたはC2/cの空間群を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記酸化ホウ素の層が、ホウ素含有化合物を熱処理することにより形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記熱処理の温度が、200〜500℃の範囲内であることを特徴とする請求項7に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を製造する方法であって、
前記一般式で表されるリチウム含有遷移金属酸化物を調製する工程と、
前記リチウム含有遷移金属酸化物の表面にホウ素含有化合物を付着させる工程と、
前記ホウ素含有化合物を付着させた前記リチウム含有遷移金属酸化物を熱処理することにより、前記リチウム含有遷移金属酸化物の表面に酸化ホウ素の層を形成する工程とを備えることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記ホウ素含有化合物が、HBO及びBの少なくとも1つであることを特徴とする請求項9に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
正極と、負極と、非水電解質とを備えるリチウム二次電池であって、前記正極の活物質として、請求項1〜8のいずれか1項に記載の正極活物質が用いられていることを特徴とするリチウム二次電池。

【公開番号】特開2011−171113(P2011−171113A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33766(P2010−33766)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】