説明

リチウム二次電池用負極スラリー組成物、リチウム二次電池用負極の製造方法、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池

【課題】初期容量及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池を製造できるリチウム二次電池用負極スラリー組成物を提供する。
【解決手段】リチウム二次電池用負極スラリー組成物が、チタン酸リチウム化合物、バインダ、水、有機ホスホン酸化合物及びアルカリ土類金属化合物を含むようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用負極スラリー組成物、それを用いたリチウム二次電池用負極の製造方法、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン二次電池等のリチウム系二次電池を構成する負極は、通常、バインダと、負極活物質と、溶媒とを含有する負極スラリー組成物を、金属箔などからなる集電体に塗布し、溶媒を除去することにより製造される。
【0003】
リチウム系二次電池用の負極活物質として、チタン酸リチウム化合物を用いることがある。チタン酸リチウム化合物を含む負極を製造する際に用いる負極スラリー組成物としては、バインダとして例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系ポリマーを用い、溶媒として例えばN−メチル−ピロリドン(NMP)等の有機溶剤を用いた、有機系のスラリー組成物が一般的に用いられている。
【0004】
例えば特許文献1には、チタン酸リチウムと、焼成コークスと、ポリフッ化ビニリデンと、N−メチルピロリドンとを混合した有機系のスラリー組成物が記載されている。特許文献1では、このスラリー組成物を用いて、集電体としてのアルミニウム箔上に負極活物質層を形成することで、リチウム系二次電池用の負極を得るようにしている。しかしながら、特許文献1のように有機系のスラリー組成物を用いる方法においては、有機溶剤のリサイクルに費用を要したり、有機溶剤を使用することにより安全性確保を要したりするという課題がある。そのため、水に溶解又は分散しうる水系のバインダを用いたスラリー組成物が検討されている。
【0005】
ところが、水を溶媒又は分散媒として用いたスラリー組成物では、負極活物質に含まれる不純物又はリチウム塩等の影響を受けて、当該スラリー組成物が強いアルカリ性を示すことがある。このため、スラリー組成物を塗工及び乾燥する工程において、集電体としてのアルミニウム箔の表面が腐食(例えば、アルミニウムの溶解等に起因する腐食)を生じる場合があった。集電体の表面が腐食すると、リチウム系二次電池の電極として充分に機能しない可能性がある。
【0006】
これに対し、例えば特許文献2では、アルミニウムの弁金属としての性質を利用し、アルミニウム箔の表面に陽極酸化被膜を形成する技術が提案されている。具体的には、酒石酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、ホウ酸、リン酸、リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、炭酸ナトリウムからなる群より選択される少なくともいずれか一種の電解質を含有する電解液中でアルミニウム箔を陽極酸化することにより、そのアルミニウム箔の表面にバリア型の陽極酸化被膜を形成する技術が開示されている。
【0007】
また、例えば特許文献3では、蓚酸塩と、ケイ素、クロム及びリンから選択される少なくとも1つの元素の化合物とを用いて、集電体としてのアルミニウム箔の表面処理を行ない、アルミニウム箔に保護層を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−32704号公報
【特許文献2】特開2007−250376号公報
【特許文献3】特開2000−294252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2においては集電体の表面に絶縁体の被膜が形成される。また、特許文献3においては、集電体の表面に保護層が形成される。これらの被膜及び保護層は電気抵抗を増大させるため、従来の技術で腐食を防止しようとすれば、集電体としてのアルミニウム箔の抵抗が増大し、リチウム二次電池の初期容量及びサイクル特性を十分に向上させることができなかった。
【0010】
本発明は前記の課題に鑑みて創案されたもので、初期容量及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池、並びに、当該リチウム二次電池を製造できるリチウム二次電池用負極スラリー組成物、リチウム二次電池用負極及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は前記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体にリチウム二次電池用負極スラリー組成物を塗工する際、当該リチウム二次電池用負極スラリー組成物が有機ホスホン酸化合物及びアルカリ土類金属化合物を組み合わせて含んでいれば、集電体の腐食を抑制して、リチウム二次電池の初期容量及びサイクル特性を改善できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔5〕を要旨とする。
【0012】
〔1〕 チタン酸リチウム化合物、バインダ、水、有機ホスホン酸化合物及びアルカリ土類金属化合物を含む、リチウム二次電池用負極スラリー組成物。
〔2〕 前記アルカリ土類金属化合物が、アルカリ土類有機金属化合物である、〔1〕記載のリチウム二次電池負極用スラリー組成物。
〔3〕 アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体に、〔1〕又は〔2〕記載のリチウム二次電池用負極スラリー組成物の層を形成し、乾燥させることを含む、リチウム二次電池用負極の製造方法。
〔4〕 アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体と、負極活物質層とを備え、
前記負極活物質層が、チタン酸リチウム化合物、バインダ、有機ホスホン酸化合物及びアルカリ土類金属化合物を含む、リチウム二次電池用負極。
〔5〕 〔4〕に記載のリチウム二次電池用負極、正極、セパレータ、及び電解質を備える、リチウム二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、初期容量及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池、並びに、当該リチウム二次電池を製造できるリチウム二次電池用負極スラリー組成物、リチウム二次電池用負極及びその製造方法を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に挙げる実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」又は「メタクリル」を意味する。また、「正極活物質」とは正極用の電極活物質を意味し、「負極活物質」とは負極用の電極活物質を意味する。さらに、「正極活物質層」とは正極に設けられる電極活物質層を意味し、「負極活物質層」とは負極に設けられる電極活物質層を意味する。
【0015】
〔1.リチウム二次電池用負極スラリー組成物〕
〔1−1.概要〕
本発明のリチウム二次電池用負極スラリー組成物(以下、適宜「本発明の負極スラリー組成物」ということがある。)は、チタン酸リチウム化合物、バインダ、水、有機ホスホン酸化合物及びアルカリ土類金属化合物を含む。チタン酸リチウム化合物及び水を含むスラリー組成物においては、例えばチタン酸リチウム化合物が水に溶解することにより、そのスラリー組成物のpHは高くなり、アルミニウム及びアルミニウム合金を腐食させ易い傾向がある。ところが、このスラリー組成物に有機ホスホン酸化合物及びアルカリ土類金属化合物を組み合わせて含ませると、有機ホスホン酸化合物及びアルカリ土類金属化合物が腐食防止剤として機能し、pHが高くてもアルミニウム及びアルミニウム合金を腐食させ難くなる。このため、本発明の負極スラリー組成物は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体に塗工しても当該集電体を腐食させ難いので、集電体の腐食による初期容量及びサイクル特性の低下を抑制できる。したがって、本発明によれば、初期容量及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池を実現できる。また、リチウム二次電池用負極の抵抗の小さくできるので、通常は、リチウム二次電池のレート特性を改善することもできる。
【0016】
〔1−2.負極活物質(チタン酸リチウム化合物)〕
本発明の負極スラリー組成物は、負極活物質としてチタン酸リチウム化合物を含む。チタン酸リチウム化合物は、従来よりリチウム系二次電池の負極活物質として用いられてきたグラファイトと比較して、サイクル特性およびレート特性に優れるため、好適である。チタン酸リチウム化合物は、例えば、LiTi(0≦x≦4、1≦y≦5、2≦z≦12)で表されるスピネル構造を有するものが好ましい。
チタン酸リチウム化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0017】
チタン酸リチウム化合物は、通常、粒子の状態で本発明の負極スラリー組成物及び本発明のリチウム二次電池用負極の負極活物質層に含まれる。この際、チタン酸リチウム化合物の粒子の平均粒子径は、通常0.001μm以上、通常50μm以下である。チタン酸リチウム化合物の平均粒子径を、前記範囲の下限値以上とすることにより、本発明の負極スラリー組成物におけるチタン酸リチウム化合物の分散性を高くして、本発明の負極スラリー組成物の塗工性を良好にすることができる。また、前記範囲の上限値以下とすることにより、チタン酸リチウム化合物の粒子内部におけるリチウムイオンの拡散が阻害され難くなるので、粒子内の抵抗の上昇を防止し、電池のレート特性を高くできる。
【0018】
なお、チタン酸リチウム化合物の粒子の平均粒子径としては、50%体積累積径を用いる。50%体積累積径は、レーザー回折法によって粒径分布を測定し、測定された粒径分布において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を意味する。
【0019】
本発明のリチウム二次電池用負極の負極活物質層におけるチタン酸リチウム化合物の含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上であり、好ましくは99.5重量%以下、より好ましくは99重量%以下である。チタン酸リチウム化合物の含有量を前記範囲の下限値以上とすることにより、本発明のリチウム二次電池の電池容量の低下を抑制できる。また、上限値以下とすることにより、負極活物質層におけるバインダの比率が過度に小さくなってチタン酸リチウム化合物の粒子同士の結着性が低下することを防止できるので、サイクル特性の低下を抑制できる。
【0020】
〔1−3.バインダ〕
バインダは、負極活物質層において、当該負極活物質層に含まれる成分が負極活物質層から脱離しないように保持しうる成分である。本発明では、バインダとして、通常、水に溶解又は分散しうるバインダ(以下、適宜「水系バインダ」ということがある。)を用い、中でも水に分散しうる水系バインダを用いることが好ましい。なお、バインダは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0021】
水系バインダの好ましい例を挙げると、水に分散して例えばラテックスのような水分散体となりうる重合体が挙げられる。その例を挙げると、ジエン系重合体、アクリル系重合体、フッ素系重合体、シリコン系重合体などが挙げられる。中でも、チタン酸リチウム化合物との結着性並びにリチウム二次電池用負極の強度及び柔軟性に優れるため、ジエン系重合体及びアクリル系重合体が好ましい。
【0022】
ジエン系重合体とは、例えばブタジエン、イソプレン等の共役ジエンを重合してなる単量体単位を含む重合体である。その例を挙げると、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の、1種類の共役ジエンの単独重合体;2種類以上の共役ジエンの共重合体;共役ジエンと、共役ジエンに共重合可能な単量体との共重合体;などが挙げられる。また、ジエン系重合体において共役ジエンを重合してなる単量体単位の割合は、通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上であり、また、通常100重量%以下である。
【0023】
前記の共役ジエンと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル化合物;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ジエン系重合体のなかでも、負極活物質との結着性並びに得られるリチウム二次電池用負極の強度及び柔軟性に優れるため、スチレンとブタジエンとの共重合体であるスチレンブタジエンゴム(SBR)が好ましい。
【0025】
アクリル系重合体とは、例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合してなる単量体単位を含む重合体である。その例を挙げると、1種類の(メタ)アクリル酸エステル単量体の単独重合体;2種類以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合体;(メタ)アクリル酸エステル単量体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体に共重合可能な単量体との共重合体;などが挙げられる。また、アクリル系重合体において(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合してなる単量体単位の割合は、通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上であり、通常100重量%以下である。
【0026】
前記の(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸類;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリルアミド、N−メチロールアクエイルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のアミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル化合物;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0027】
アクリル系重合体の中でも、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合してなる単量体単位と、酸成分を有するビニル単量体を重合してなる単量体単位と、α,β−不飽和ニトリル単量体を重合してなる単量体単位とを含む重合体が好ましい。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0029】
これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体の中でも、リチウム二次電池において電解液に溶出せずに電解液に適度に膨潤することにより良好なイオン伝導性を示すことから、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が6〜13のものが好ましく、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が8〜10のものがより好ましく、中でも、2−エチルヘキシルアクリレートが特に好ましい。
【0030】
このアクリル系重合体における、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合してなる単量体単位の含有割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上であり、好ましくは95重量%以下、より好ましくは90重量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合してなる単量体単位の含有割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、バインダの柔軟性を高くし、リチウム二次電池用負極を割れ難くできる。また、前記範囲の上限値以下にすることにより、バインダとしての機械強度を向上させて、結着力を高めることができる。
【0031】
酸成分を有するビニル単量体としては、例えば、酸成分として、−COOH基(カルボキシル基)を有するビニル単量体、−OH基(水酸基)を有するビニル単量体、−SOH基(スルホン酸基)を有するビニル単量体、並びに低級ポリオキシアルキレン基を有するビニル単量体などが挙げられる。
【0032】
カルボキシル基を有するビニル単量体としては、例えば、モノカルボン酸及びその誘導体;ジカルボン酸、その酸無水物及びこれらの誘導体;などが挙げられる。モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。モノカルボン酸誘導体としては、例えば、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α―アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。ジカルボン酸の酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。ジカルボン酸誘導体としては、例えば、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸などが挙げられ、更に、例えばマレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステルなども挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0033】
水酸基を有するビニル単量体としては、例えば、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール等のエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ−2−ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ−4−ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ−2−ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式CH=CR−COO−(C2nO)−H(mは2ないし9の整数を表し、nは2ないし4の整数を表し、Rは水素又はメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシサクシネート等のジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−4−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−6−ヒドロキシヘキシルエーテル等のアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレングリコール(メタ)モノアリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル−2−クロロ−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルエーテル等の、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲン及びヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノール等の多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテル及びそのハロゲン置換体;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルチオエーテル等のアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0034】
スルホン酸基を有するビニル単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0035】
低級ポリオキシアルキレン基を有するビニル単量体としては、例えば、ポリ(エチレンオキシド)等のポリ(アルキレンオキシド)などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0036】
これらの中でも、集電体への密着性に優れるという点より、カルボキシル基を有するビニル単量体が好ましく、中でも、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基を1つ有する炭素数5以下のモノカルボン酸、並びに、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基を2つ有する炭素数5以下のジカルボン酸が好ましい。さらには、アクリル系重合体の保存安定性を高くできるという観点から、アクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
【0037】
このアクリル系重合体における、酸成分を有するビニル単量体を重合してなる単量体単位の含有割合は、好ましくは1.0重量%以上、より好ましくは1.5重量%以上であり、好ましくは5.0重量%以下、より好ましくは4.0重量%以下である。酸成分を有するビニル単量体を重合してなる単量体単位の含有割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、バインダとしての結着性を高めてサイクル特性を改善できる。また、前記範囲の上限値以下にすることにより、アクリル系重合体の製造安定性及び保存安定性を良好にできる。
【0038】
α,β−不飽和ニトリル単量体としては、機械的強度及び結着力の向上という観点から、例えばアクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0039】
このアクリル系重合体における、α,β−不飽和ニトリル単量体を重合してなる単量体単位の含有割合は、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。α,β−不飽和ニトリル単量体を重合してなる単量体単位の含有割合を前記範囲の下限値以上とすることにより、バインダとしての機械強度を向上させて、結着力を高めることができる。また、前記範囲の上限値以下とすることにより、バインダの柔軟性を高くし、リチウム二次電池用負極を割れ難くできる。
【0040】
また、前記のアクリル系重合体は、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合してなる単量体単位、酸成分を有するビニル単量体を重合してなる単量体単位、及びα,β−不飽和ニトリル単量体を重合してなる単量体単位に加えて、架橋性を有する単量体を重合してなる単量体単位を含んでいてもよい。架橋性を有する単量体としては、例えば、エポキシ基を含有する単量体、炭素−炭素二重結合及びエポキシ基を含有する単量体、ハロゲン原子及びエポキシ基を有する単量体、N−メチロールアミド基を含有する単量体、オキセタニル基を含有する単量体、オキサゾリン基を含有する単量体、2つ以上のオレフィン性二重結合を持つ多官能性単量体などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
このアクリル系重合体における、架橋性を有する単量体を重合してなる単量体単位の含有割合は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上であり、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下である。架橋性を有する単量体を重合してなる単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、アクリル系重合体は電解液に対して適度な膨潤性を示し、レート特性及びサイクル特性をより向上させることができる。
【0042】
さらに、前記のアクリル系重合体は、上述したもの以外の単量体を重合してなる単量体単位を含んでいてもよい。このような単量体の例を挙げると、上記にて例示したもの以外のビニル単量体が挙げられる。具体例を挙げると、共役ジエンと共重合可能な単量体又は(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能な単量体として例示されたのと同様の、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類、ハロゲン原子含有単量体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、ビニルケトン類、複素環含有ビニル化合物などが挙げられる。
【0043】
バインダは、通常、水中に粒子状で分散した分散液の状態で製造され、本発明の負極スラリー組成物においても同様に水中に粒子状で分散した状態で含まれる。水中に粒子状で分散している場合、バインダの粒子の平均粒子径は、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは90nm以上であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下、さらに好ましくは250nm以下である。バインダの粒子の平均粒子径を前記の範囲に収めることにより、本発明のリチウム二次電池用負極の強度及び柔軟性を良好にできる。なお、ここでいうバインダの粒子の平均粒子径は、50%体積累積径を意味する。
【0044】
バインダのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−50℃以上、より好ましくは−45℃以上、特に好ましくは−40℃以上であり、好ましくは25℃以下、より好ましくは15℃以下、特に好ましくは5℃以下である。バインダのガラス転移温度を前記の範囲に収めることにより、本発明のリチウム二次電池用負極の強度及び柔軟性を向上させて、高い出力特性を実現できる。バインダのガラス転移温度は、例えば、各単量体単位を構成するための単量体の組み合わせなどを変化させることにより、調整可能である。
【0045】
バインダの量は、チタン酸リチウム化合物100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、さらに好ましくは0.8重量部以上であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下、さらに好ましくは3重量部以下である。バインダの量を前記範囲の下限値以上とすることにより、チタン酸リチウム化合物の粒子同士の結着性を高め、サイクル特性を高くすることができる。また、前期範囲の上限値以下とすることにより、本発明のリチウム二次電池においてバインダによりリチウムイオンの移動が阻害されることを防止できるので、電池抵抗を小さくできる。
【0046】
バインダの製造方法は特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法を用いてもよい。また、重合方法としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法を用いてもよい。
【0047】
バインダを製造する際には、通常、重合開始剤を用いる。重合開始剤としては、例えば、過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の有機過酸化物;α,α’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。なお、重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0048】
バインダを製造する際には、通常、分散剤を用いる。分散剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエ−テルサルフェートナトリウム塩等のエトキシサルフェート塩;アルカンスルホン酸塩;アルキルエーテルリン酸エステルナトリウム塩;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等の非イオン性乳化剤;ゼラチン、無水マレイン酸−スチレン共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、重合度700以上かつケン化度75%以上のポリビニルアルコール等の水溶性高分子;などが挙げられる。中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩が好ましく、耐酸化性に優れるという点から、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩がより好ましい。なお、分散剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
分散剤の使用量は、重合に用いる単量体の総量100重量部に対して、通常0.01重量部〜10重量部である。
【0049】
バインダは、通常、分散液に含まれた粒子として得られ、分散液のままで保存及び運搬される。このような分散液の固形分濃度は、通常15重量%以上、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上であり、通常70重量%以下、好ましくは65重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。分散液の固形分濃度がこの範囲であると、本発明の負極スラリー組成物を製造する際における作業性が良好である。
【0050】
また、前記のバインダを含む分散液のpHは、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であり、好ましくは13以下、より好ましくは12以下である。分散液のpHを上記範囲に収めることにより、バインダの保存安定性が向上し、さらには、リチウム二次電池用負極の機械的安定性を向上させることができる。
【0051】
〔1−4.水〕
本発明の負極スラリー組成物は、水を含む。水は溶媒又は分散媒として機能し、チタン酸リチウム化合物、バインダ、有機ホスホン酸化合物及びアルカリ土類金属化合物は、水に溶解又は分散した状態となっている。また、水は本発明のリチウム二次電池用負極を製造する過程において乾燥させられるので、本発明のリチウム二次電池用負極には通常は含まれない。
【0052】
水の量は、通常、本発明の負極スラリー組成物の集電体への塗工又は集電体の本発明の負極スラリー組成物への浸漬が可能な程度でかつ、本発明の負極スラリー組成物が流動性を有する粘度を本発明の負極スラリー組成物が有する限り、特に限定はされない。好ましくは、本発明の負極スラリー組成物の固形分濃度が、10重量%〜80重量%となるように水の量を調整する。
【0053】
〔1−5.有機ホスホン酸化合物〕
本発明の負極スラリー組成物は、有機ホスホン酸化合物を含む。本発明の負極スラリー組成物が、有機ホスホン酸化合物を、アルカリ土類金属化合物と組み合わせて含むことにより、集電体に負極活物質層を形成する際における、集電体の腐食を防止することができる。これにより、本発明のリチウム二次電池の初期容量及びサイクル特性を良好にすることができ、また、通常はレート特性を改善することもできる。
【0054】
本発明の負極スラリー組成物のpHが高くても、有機ホスホン酸化合物とアルカリ土類金属化合物とを組み合わせることにより、集電体を形成するアルミニウム又はアルミニウム合金の腐食を防止できる仕組みは必ずしも定かではないが、本発明者の検討によれば、以下のとおりと推察される。
アルカリ土類金属化合物に含まれるアルカリ土類金属が、集電体を形成するアルミニウム又はアルミニウム合金の表面に難溶性の皮膜を形成し、アルミニウムの腐食を抑制するインヒビターとして働くと共に、有機ホスホン酸化合物がアルカリ土類金属に配位し被膜の形成を効果的に補助するために、腐食を防止できるものと推察される。
【0055】
有機ホスホン酸化合物としては、ホスホン酸基(−PO基)を有する有機化合物及びその塩を使用しうる。有機ホスホン酸化合物が有するホスホン酸基の数は、1個でもよく、2個以上でもよい。また、有機ホスホン酸化合物は、低分子化合物であってもよく、高分子化合物であってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0056】
ただし、有機ホスホン酸化合物としては、有機ホスホン酸化合物の分子量と、当該有機ホスホン酸化合物1分子が有するホスホン酸基の数との比「分子量/ホスホン酸基」が、350未満のものが好ましく、300未満のものがより好ましい。これにより、本発明の負極スラリー組成物において、有機ホスホン酸化合物は水に安定に溶存すると共に、アルカリ土類金属に安定に配位することができる。
【0057】
このような有機ホスホン酸化合物のうち、低分子化合物の具体例としては、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロピリデン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、メチルジホスホン酸、ニトロトリスメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、エチレンジアミンビスメチレンホスホン酸、アミノトリスメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、シクロヘキサンジアミンテトラメチレンホスホン酸、及びこれらの塩が挙げられる。これらのなかでも、アルカリ土類金属化合物に含まれるアルカリ土類金属に安定して配位し、これにより集電体の腐食防止効果がより顕著になるという点より、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸が好ましい。
【0058】
また、有機ホスホン酸化合物のうち、高分子化合物の例としては、分子にホスホン酸基を有する単量体を重合してなる単量体単位を含む高分子化合物などが挙げられる。
なお、有機ホスホン酸化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0059】
通常、本発明の負極スラリー組成物において、有機ホスホン酸化合物は水に溶解している。この際、有機ホスホン酸化合物が含むホスホン酸基は、通常はアルカリ土類金属化合物のアルカリ土類金属に配位し、錯体となっているものと推察される。負極スラリー組成物が有機ホスホン酸化合物とアルカリ土類金属化合物とを別々の分子として含む場合だけでなく、前記のように有機ホスホン酸化合物とアルカリ土類金属化合物とが組み合わせられた錯体を含む場合も、当該負極スラリー組成物は本発明の負極スラリー組成物として扱うものとする。また、前記の錯体は本発明のリチウム二次電池用負極における負極活物質層においても維持されると推察される。
【0060】
有機ホスホン酸化合物の量は、チタン酸リチウム化合物100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、さらに好ましくは0.15重量部以上であり、好ましくは3重量部以下、より好ましくは2.5重量部以下、さらに好ましくは1.5重量部以下である。有機ホスホン酸化合物の量を前記範囲の下限値以上とすることにより集電体の腐食抑制効果を安定して発揮できるようになる。また、前記範囲の上限値以下とすることにより、負極活物質であるチタン酸リチウム化合物の量を相対的に多くして、本発明のリチウム二次電池を高容量化することができる。
【0061】
〔1−6.アルカリ土類金属化合物〕
本発明の負極スラリー組成物は、アルカリ土類金属化合物を含む。前述したように、本発明の負極スラリー組成物が、アルカリ土類金属化合物を、有機ホスホン酸化合物と組み合わせて含むことにより、集電体に負極活物質層を形成する際における、集電体の腐食を防止することができる。これにより、本発明のリチウム二次電池の初期容量及びサイクル特性を良好にすることができ、また、通常はレート特性を改善することもできる。
【0062】
アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属を含む。アルカリ土類金属としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、二価の金属が好ましい。中でも、カルシウム及びバリウムがより好ましく、カルシウムが特に好ましい。
【0063】
アルカリ土類金属化合物の例としては、アルカリ土類金属の水酸化物、塩化物、硫化物、炭酸塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩などが挙げられる。これらのなかでも、アルカリ土類金属の水酸化物、有機酸塩、及び炭酸塩が好ましく、水酸化物及び有機酸塩がより好ましい。有機酸塩としては、カルボキシル基(−COOH基)を有する有機酸が好ましく、モノカルボン酸及びその誘導体、並びにジカルボン酸及びその誘導体などが挙げられる。モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。モノカルボン酸誘導体としては、例えば、シュウ酸、酢酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酒石酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸、2−エチルアクリル酸、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α―アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。ジカルボン酸誘導体としては、例えば、メチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸の部分エステルなどが挙げられる。水により溶解しやすく、かつ安定に分散状態又は溶解状態で存在できるため、アルカリ土類金属化合物はアルカリ土類有機金属化合物であることが好ましく、したがって前記の例示物の中でも酢酸塩が特に好ましい。
【0064】
アルカリ土類金属化合物の具体例を挙げると、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム等のカルシウム化合物:炭酸バリウム、水酸化バリウム等のバリウム化合物;等が挙げられる。
なお、アルカリ土類金属化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0065】
アルカリ土類金属化合物の含有量は、チタン酸リチウム化合物100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.03重量部以上、さらに好ましくは0.05重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下である。アルカリ土類金属化合物の量を前記範囲の下限値以上とすることにより集電体の腐食抑制効果を安定して発揮できるようになる。また、前記範囲の上限値以下とすることにより、負極活物質であるチタン酸リチウム化合物の量を相対的に多くして、本発明のリチウム二次電池を高容量化することができる。
【0066】
また、有機ホスホン酸化合物とアルカリ土類金属化合物との含有比率は、「有機ホスホン酸化合物/アルカリ土類金属化合物」の重量比で、好ましくは1/5以上、より好ましくは1/3以上、さらに好ましくは1/2以上であり、好ましくは1/0.1以下、より好ましくは1/0.5以下、さらに好ましくは1/0.8以下である。有機ホスホン酸化合物とアルカリ土類金属化合物との含有比率を前記の範囲に収めることにより、集電体の腐食防止効果を安定して発揮できる。
【0067】
〔1−7.導電材〕
本発明の負極スラリー組成物は、通常、導電材(導電性付与材ともいう。)を含む。導電材を用いることにより、負極活物質であるチタン酸リチウム化合物の粒子同士の電気的接触を向上させることができ、リチウム二次電池とした場合における、放電負荷特性を改善することができる。このため、導電材を含有させることにより、リチウム二次電池のレート特性を向上させることができる。
【0068】
導電材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト等の導電性カーボン;各種金属のファイバー、箔;などが挙げられる。なお、導電材は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0069】
導電材の量は、チタン酸リチウム化合物100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは1重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは10重量部以下である。導電材の量を前記範囲の下限値以上とすることにより、負極の抵抗を小さくしてレート特性を改善することができる。また、上限値以下とすることにより、相対的に負極活物質の量を多くして、容量密度を高めることができる。
【0070】
〔1−8.その他の成分〕
本発明の負極スラリー組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、チタン酸リチウム化合物、バインダ、水、有機ホスホン酸化合物、アルカリ土類金属化合物及び導電材以外に、他の成分を含んでいてもよい。このような成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0071】
このような成分としては、通常、電池反応に影響を及ぼさない成分を用いる。その例を挙げると、補強材、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、電解液の分解を抑制しうる電解液添加剤などが挙げられる。
【0072】
補強材としては、例えば、各種の無機及び有機の球状、板状、又は棒状のフィラーを使用してもよい。補強材を用いることにより、本発明のリチウム二次電池用負極を強靭で柔軟なものとすることができ、これによりサイクル特性のさらなる向上が可能となる。補強材の量は、チタン酸リチウム化合物100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは1重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは10重量部以下である。
【0073】
分散剤としては、例えば、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物などが挙げられる。分散剤は、例えば導電材に応じて選択してもよい。分散剤を用いることにより、本発明の負極スラリー組成物の安定性を向上させることができるので、本発明のリチウム二次電池用負極の平滑性を向上させることができ、これにより高容量化が可能となる。分散剤の量は、チタン酸リチウム化合物100重量部に対して、好ましくは0.01重量部〜10重量部である。
【0074】
レベリング剤としては、例えば、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。レベリング剤を用いることにより、本発明の負極スラリー組成物を集電体に塗工した際に、はじきの発生を防止することができ、本発明のリチウム二次電池用負極の平滑性を向上させることができる。レベリング剤の量は、チタン酸リチウム化合物100重量部に対して、好ましくは0.01重量部〜10重量部である。
【0075】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、有機リン化合物、硫黄化合物、フェニレンジアミン化合物、ポリマー型フェノール化合物等が挙げられる。ポリマー型フェノール化合物は、分子内にフェノール構造を有する重合体であり、その重量平均分子量は、好ましくは200以上、より好ましくは600以上であり、好ましくは1000以下、より好ましくは700以下である。酸化防止剤を用いることにより、本発明の負極スラリー組成物の安定性を向上させることができ、本発明のリチウム二次電池の電池容量及びサイクル特性を向上させるこができる。酸化防止剤の量は、チタン酸リチウム化合物100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.05重量部以上であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下である。
【0076】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマー、並びに、これらのアンモニウム塩及びアルカリ金属塩;変性又は未変性のポリ(メタ)アクリル酸、並びに、これらのアンモニウム塩及びアルカリ金属塩;変性又は未変性のポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールとの共重合体、無水マレイン酸、マレイン酸又はフマル酸とビニルアルコールとの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物などが挙げられる。増粘剤を用いることにより、本発明の負極スラリー組成物の粘度を良好にすることができ、これにより、集電体への塗工性を向上させることができる。増粘剤の量は、チタン酸リチウム化合物100重量部に対して、好ましくは0.01重量部〜10重量部である。
【0077】
電解液添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネートなどが挙げられる。電解液添加剤を用いることにより、本発明のリチウム二次電池のサイクル特性及び高温特性を向上させることができる。電解液添加剤の量は、チタン酸リチウム化合物100重量部に対して、好ましくは0.01重量部〜10重量部である。
【0078】
また、本発明の負極スラリー組成物は、上記以外にも、例えば、フュームドシリカ、フュームドアルミナ等のナノ微粒子;アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤等の界面活性剤などを含んでいてもよい。
【0079】
〔1−9.リチウム二次電池用負極スラリー組成物の物性等〕
本発明の負極スラリー組成物の粘度は、好ましくは10mPa・s以上、より好ましくは100mPa・s以上であり、好ましくは100000mPa・s以下、より好ましくは50000mPa・s以下である。粘度をこの範囲に収めることにより、本発明の負極スラリー組成物を均一に塗工し易くなり、また、当該負極スラリー組成物の経時安定性を改善することができる。なお、上記の粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
【0080】
本発明の負極スラリー組成物のpHは、好ましくは7以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上であり、好ましくは13.2以下、より好ましくは13以下、さらに好ましくは12.5以下である。pHが上記範囲にあるときに、本発明の効果が顕著に得られる。一方、pHが7未満の場合は、集電体の腐食自体は生じ難いが、チタン酸リチウム化合物の分散が不安定になり、本発明の負極スラリー組成物中に凝集物が発生する可能性がある。
【0081】
〔1−10.リチウム二次電池用負極スラリー組成物の製造方法〕
本発明の負極スラリー組成物の製造方法は、特に限定されない。通常は、本発明の負極スラリー組成物を構成する各成分のうち、バインダと、有機ホスホン酸化合物と、アルカリ土類金属化合物と、水とを混合することによりバインダ組成物を得る。その後、得られたバインダ組成物と、チタン酸リチウム化合物及び必要に応じて用いられるその他の成分とを混合することにより、本発明の負極スラリー組成物を得る。
【0082】
バインダがアクリル系重合体である場合、当該バインダは、通常、水中に粒子状で分散した分散液の状態で使用される。そのため、バインダ組成物及び本発明の負極スラリー組成物中においては、水系アクリル重合体は、分散媒である水中に分散された状態で含有されることとなる。
【0083】
混合装置としては、例えば、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどが挙げられる。中でも高濃度での分散が可能なことから、ボールミル、ロールミル、顔料分散機、擂潰機、プラネタリーミキサーが好ましい。
【0084】
〔2.リチウム二次電池用負極〕
本発明のリチウム二次電池用負極は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体と、負極活物質層とを備え、負極活物質層が、チタン酸リチウム化合物、バインダ、有機ホスホン酸化合物及びアルカリ土類金属化合物を含む。また、負極活物質層は、必要に応じて、導電材及びその他の成分を含んでいてもよい。負極活物質層は通常は集電体の表面に形成されるが、本発明の負極スラリー組成物は集電体を腐食させ難いので、腐食による初期容量及びサイクル特性の低下を防止して、優れたリチウム二次電池を実現できる。なお、本発明の負極スラリー組成物に含まれていた水は、負極活物質層を作製する過程で乾燥するので、通常は負極活物質層には水は含まれないか、含まれるとしても少量となる。
【0085】
本発明のリチウム二次電池用負極の製造方法は、通常、集電体に、本発明の負極スラリー組成物の層を形成し、乾燥させることを含む。
集電体としては、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体を用いる。この際、アルミニウムとアルミニウム合金とを組み合わせて用いてよく、種類が異なるアルミニウム合金を組み合わせて用いてもよい。集電体は一般に電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられ、特にアルミニウム及びアルミニウム合金は耐熱性を有し、電気化学的に安定であるため、優れた集電体材料である。
【0086】
アルミニウム合金としては、例えば、鉄、マグネシウム、亜鉛、マンガン及びケイ素よりなる群から選択される1種類以上の元素と、アルミニウムとの合金が挙げられる。
集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001mm〜0.5mmのシート状のものが好ましい。
また、集電体は、負極活物質層の接着強度を高めるため、予め粗面化処理が施されていてもよい。粗面化方法としては、例えば、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、例えば、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。
【0087】
集電体を用意した後で、その集電体の表面に本発明の負極スラリー組成物の層を形成する。本発明の負極スラリー組成物の層は、集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に形成する。従来の技術では、このように負極スラリー組成物を集電体に接触させた時に集電体が容易に腐食していたが、本発明の負極スラリー組成物はpHが高くても集電体を腐食させ難い。このため、本発明のリチウム二次電池用負極の製造方法によれば、高い初期容量及びサイクル特性を実現可能なリチウム二次電池用負極が得られる。
【0088】
本発明の負極スラリー組成物の層の形成方法は、例えば、本発明の負極スラリー組成物に集電体を浸漬させる方法でもよいが、通常は、集電体の表面に本発明の負極スラリー組成物を塗工する方法を用いる。塗工方法としては、例えば、ドクターブレード法、ジップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法等の方法が挙げられる。
【0089】
集電体に本発明の負極スラリー組成物の層を形成した後で、当該層を乾燥させる。乾燥により水が除去され、チタン酸リチウム化合物等が集電体に結着し、負極活物質層が得られる。乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥方法;真空乾燥法;赤外線、遠赤外線、電子線等の照射による乾燥方法;などが挙げられる。
【0090】
また、本発明のリチウム二次電池用負極の製造方法では、必要に応じて、本発明の負極スラリー組成物の層を形成する工程、及び、当該層を乾燥させる工程以外の工程を行ってもよい。
【0091】
例えば、金型プレス、ロールプレス等を用いて負極活物質層に加圧処理を施す工程を行ってもよい。負極活物質層に加圧処理を施すことにより、負極活物質層の空隙率を低減させることができる。負極活物質層の空隙率の範囲は、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上であり、好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下である。負極活物質層の空隙率を前記範囲の下限値以上とすることにより、高い体積容量を得ることができ、また、負極活物質層を集電体から剥がれ難くできる。また、前記範囲の上限値以下とすることにより、充電効率及び放電効率を良好にすることができる。
【0092】
本発明のリチウム二次電池用負極の厚みは、集電体と負極活物質層との合計で、通常5μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常150μm以下、好ましくは100μm以下である。本発明のリチウム二次電池用負極の厚みを前記の範囲に収めることにより、負荷特性及びエネルギー密度の両方を良好にできる。
【0093】
〔3.リチウム二次電池〕
本発明のリチウム二次電池は、本発明のリチウム二次電池用負極、正極、セパレータ、及び電解液を備える。本発明のリチウム二次電池用負極は集電体の腐食が抑制されているため、高い初期容量及び優れたサイクル特性を有し、さらに、通常は優れたレート特性を有する。また、負極活物質層が有機ホスホン酸化合物及びアルカリ土類金属化合物を含むため、集電体の経時的な腐食の進行も抑制できるので、これによっても、本発明のリチウム二次電池のサイクル特性を改善することが可能となっている。
【0094】
〔3−1.正極〕
正極は、通常、集電体と、前記集電体の表面に形成された正極活物質層を備える。
【0095】
正極の集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の金属材料からなるものを用いる。中でも、高い電気導電性を有し、かつ電気化学的に安定であるという観点より、アルミニウムが特に好ましい。
【0096】
正極活物質層は、正極活物質及びバインダを含む層である。
正極活物質は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。
無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Mn等が挙げられる。正極活物質として使用される無機化合物の具体例としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiFeVO等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS、TiS、非晶質MoS等の遷移金属硫化物;Cu、非晶質VO−P、MoO、V、V13等の遷移金属酸化物などが挙げられる。
有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子などが挙げられる。また、例えば、鉄系酸化物を炭素源物質の存在下において還元焼成することで、炭素材料で覆われた複合材料を作製し、この複合材料を正極活物質として用いてもよい。鉄系酸化物は電気伝導性に乏しい傾向があるが、前記のような複合材料にすることにより、高性能な正極活物質として使用できる。
【0097】
さらに、前記の正極活物質は、部分的に元素置換したものであってもよい。また、上記の無機化合物と有機化合物の混合物を正極活物質として用いてもよい。なお、正極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0098】
正極活物質の粒子の平均粒子径は、通常、リチウム二次電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択される。中でも、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、50%体積累積径が、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは20μm以下である。50%体積累積径がこの範囲であると、充放電容量が大きいリチウム二次電池を得ることができ、かつ正極スラリー組成物および正極を製造する際の取扱いが容易である。
【0099】
正極活物質層における正極活物質の含有割合は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上であり、好ましくは99.5重量%以下、より好ましくは99重量%以下である。正極活物質の含有量を上記範囲とすることにより、リチウム二次電池の容量を高くでき、また、正極の柔軟性並びに集電体と正極活物質層との結着性を向上させてサイクル特性を向上させることができる。
【0100】
正極用のバインダとしては、特に制限されず公知のものを用いることができる。例えば、本発明のリチウム二次電池用負極のバインダと同様のものを用いてもよい。好適なものの具体例を挙げると、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体等の重合体;アクリル系軟質重合体、ジエン系軟質重合体、オレフィン系軟質重合体、ビニル系軟質重合体等の軟質重合体などが挙げられる。なお、正極用のバインダは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0101】
また、正極活物質層には、必要に応じて、正極活物質及びバインダ以外の成分が含まれていてもよい。その例を挙げると、例えば、本発明のリチウム二次電池用負極の負極活物質層に含まれていてもよい成分などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0102】
正極の厚みは、集電体と正極活物質層との合計で、通常5μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは250μm以下である。正極の厚みを前記の範囲に納めることにより、負荷特性及びエネルギー密度の両方を良好にできる。
【0103】
正極は、例えば、本発明のリチウム二次電池用負極と同様の要領で製造してもよい。
【0104】
〔3−2.電解質〕
本発明のリチウム二次電池の電解質としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。
支持電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLi等が挙げられる。これらの中でも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、LiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。解離度の高い支持電解質を用いるほど、リチウムイオンの伝導度を高くできる。なお、支持電解質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0105】
有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものが用いられる。有機溶媒の例を挙げると、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などのカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。これらの中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いという観点より、カーボネート類が好ましい。なお、有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0106】
電解液には、添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート系化合物が挙げられる。なお、添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0107】
電解液における支持電解質の濃度は、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上であり、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。また、支持電解質の種類に応じて、通常0.5モル/L〜2.5モル/Lの濃度で用いてもよい。支持電解質の濃度を適切に設定することにより、イオン導電度を高くすることができる。
【0108】
また、電解質としては、上記した電解液に代えて、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル等のポリマー電解質;前記のポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質;LiI、LiN等の無機固体電解質;などを用いてもよい。
【0109】
〔3−3.セパレータ〕
セパレータとしては、例えば、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)、及びこれらの混合物あるいは共重合体等の樹脂からなる微多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂からなる微多孔膜、これらの繊維を織ったもの、又はその不織布;無機セラミック粉末等の絶縁性物質粒子の集合体、又はこれらの絶縁性物質微粒子を含む多孔質の樹脂コート等が挙げられる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウム二次電池内の電極活物質の比率を高くし、体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0110】
セパレータの厚さは、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上であり、通常40μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下である。この範囲であると、リチウム二次電池内でのセパレータによる抵抗が小さくなり、またリチウム二次電池を作成する時の作業性に優れる。
【0111】
〔3−4.リチウム二次電池の製造方法〕
本発明のリチウム二次電池は、例えば、本発明のリチウム二次電池用負極と、正極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造してもよい。リチウム二次電池の内部の圧力上昇、過充放電の発生などを防止をするために、必要に応じて、例えば、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。リチウム二次電池の形状は、例えばコイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0112】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲において任意に変更して実施してもよい。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温常圧の環境下において行った。
【0113】
[評価方法]
各特性の定義及び評価方法は、以下のとおりである。
【0114】
〔集電体の腐食性の評価方法〕
各実施例及び比較例で得られたリチウム二次電池用負極スラリー組成物を、厚み20μmのアルミニウム箔からなる集電体の表面に、乾燥後の膜厚が70μm程度になるように塗工し、50℃にて20分乾燥を行うことで、負極サンプルを得た。得られた負極サンプルのリチウム二次電池用負極スラリー組成物を塗工した表面の10cm×10cmの範囲について、目視にて観察を行い、直径0.5mm以上の塗工不良部分が発生している箇所の数を確認することにより、集電体の腐食性についての評価を行った。なお、集電体の腐食性についての評価は、以下の基準に従って行なった。塗工不良部分の発生箇所が多いほど、集電体の腐食が進行しており、そのため、好ましくないと判断できる。
A:塗工不良の発生箇所がなく、全体がなめらか
B:塗工不良の発生箇所が1箇所以上、5箇所未満
C:塗工不良の発生箇所が5箇所以上、10箇所未満
D:塗工不良の発生箇所が10箇所以上
【0115】
〔初期容量の評価方法〕
各実施例及び比較例で得られたリチウム二次電池について、充電レート0.1Cとした定電流法により1.0Vまで充電を行ない、次いで、放電レート0.1Cにて2.5Vまで放電することにより、0.1C放電時の電池容量を求めた。そして、得られた電池容量から、負極活物質層の単位重量当たりの容量を算出し、これを初期容量とした。初期容量の評価は、以下の基準にしたがって行なった。初期容量が高いほど、リチウム二次電池の電池容量が高くなるため、好ましい。
A:160mAh/g以上
B:150mAh/g以上、160mAh/g未満
C:130mAh/g以上、150mAh/g未満
D:100mAh/g以上、130mAh/g未満
E:100mAh/g未満
【0116】
〔サイクル特性の評価方法〕
各実施例及び比較例で得られたリチウム二次電池について、温度25℃の条件にて、充電レート0.1Cとした定電流放により1.0Vまで充電を行なった後、放電レート0.1Cにて2.5Vまで放電する充放電試験を300回繰り返した。そして、1回目の充放電試験における放電容量Cap1stと、300回目の充放電試験における放電容量Cap300thとの比((Cap300th/Cap1st)×100%)である300サイクル時容量維持率を求めた。そして、得られた300サイクル時容量維持率に基づき、以下の基準にて、サイクル特性を評価した。なお、300サイクル時容量維持率が高いほど、サイクル試験を行った際の300サイクル目における劣化が少なく、サイクル特性に優れると判断できるため、好ましい。
A:300サイクル時容量維持率が95%以上
B:300サイクル時容量維持率が85%以上、95%未満
C:300サイクル時容量維持率が75%以上、85%未満
D:300サイクル時容量維持率が60%以上、75%未満
E:300サイクル時容量維持率が60%未満
【0117】
[実施例1]
(A)バインダの製造
重合缶Aに、(メタ)アクリル酸エステル単量体である2−エチルヘキシルアクリレート10.75部、α,β−不飽和ニトリル単量体であるアクリロニトリル1.25部、界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム0.12部、及びイオン交換水79部を入れ、更に重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.2部、及び、イオン交換水10部を加え、60℃に加温し90分攪拌した。
【0118】
次いで、上記重合缶Aとは別の重合缶Bに、2−エチルヘキシルアクリレート67部、アクリロニトリル19部、酸成分を有するビニル単量体であるメタクリル酸2.0部、ラウリル硫酸ナトリウム0.7部、及び、イオン交換水46部を加えて攪拌することで、エマルジョンを作製した。このエマルジョンを、約180分かけて、重合缶Bから重合缶Aに逐次添加した後、約120分攪拌し、単量体の消費量が95%になったところで冷却して反応を終了した。その後、4%NaOH水溶液でpHを調整し、水系のアクリル系重合体の水分散液を得た。得られたアクリル系重合体の水分散液は、pHが10.5、分散粒子径が0.10μmであり、アクリル系重合体のガラス転移温度は−32℃であった。得られたアクリル系重合体はバインダである。このアクリル系重合体の組成をH−NMRで測定したところ、2−エチルヘキシルアクリレート単位77.75重量%、アクリロニトリル単位20.25重量%、及びメタクリル酸単位2重量%であった。
【0119】
(B)リチウム二次電池用負極スラリー組成物の製造
有機ホスホン酸化合物としての2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸を濃度50%で含む水溶液100部に、アルカリ土類金属化合物としての酢酸カルシウム1水和物29.7部、水69部を添加し、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸カルシウム溶液を得た。前記(A)で得られたアクリル系重合体の水分散体に水を加えて濃度を40%に調整し、このように濃度が調整されたアクリル系重合体の水分散体75部に、前記の2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸カルシウム溶液10部を加え、バインダ組成物を得た。
【0120】
そして、負極活物質としてのチタン酸リチウム化合物(LiTi12、平均粒子径7.0μm)100部、アセチレンブラック(デンカブラックHS−100、電気化学工業株式会社製)4.0部、上記にて得られたバインダ組成物8.5部、及び、増粘剤としてのエーテル化度が0.8のカルボキシメチルセルロース水溶液75部(固形分濃度2%)を、適量の水とともに、プラネタリーミキサーにて攪拌することにより、リチウム二次電池用負極スラリー組成物を製造した。なお、得られたリチウム二次電池用負極スラリー組成物のpHを、pHメーターで測定したところ、11.5であった。
【0121】
(C)リチウム二次電池の作製
上記にて得られたリチウム二次電池用負極スラリー組成物を、コンマコーターを用いて、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体の表面に塗工し、50℃で20分間乾燥し、その後、150℃で2時間加熱処理して、電極原反を得た。そして、得られた電極原反をロールプレスで圧延し、密度が2.0g/cm、アルミニウム箔及び負極活物質層からなる厚みが50μmに制御されたリチウム二次電池用負極を製造した。
【0122】
次いで、上記にて得られたリチウム二次電池用負極を直径16mmの円盤状に切り抜き、負極活物質層の形成面側に、直径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ、対極としての金属リチウム、及び、エキスパンドメタルを、この順に積層し、得られた積層体をポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼の厚さ0.25mm)中に収納した。そして、この容器中に、電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmの単極試験用のコイン型リチウム二次電池を製造した。なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒に、LiPFを1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。
【0123】
そして、上記にて得られたリチウム二次電池用負極スラリー組成物、及びリチウム二次電池を用いて、集電体の腐食性、初期容量、及びサイクル特性の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0124】
[実施例2]
アルカリ土類金属化合物として、酢酸カルシウムの代わりに水酸化カルシウムを使用したこと以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池用正極スラリー組成物及びリチウム二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0125】
[実施例3]
負極活物質100部に対する有機ホスホン酸化合物(2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸)の量が1.5部になるようにしたこと、並びに、負極活物質100部に対するアルカリ土類金属化合物(酢酸カルシウム)の量が1部になるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池用正極スラリー組成物及びリチウム二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
[実施例4]
負極活物質100部に対する有機ホスホン酸化合物(2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸)の量が0.15部になるようにしたこと、並びに、負極活物質100部に対するアルカリ土類金属化合物(酢酸カルシウム)の量が0.05部になるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池用正極スラリー組成物及びリチウム二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0127】
[実施例5]
有機ホスホン酸化合物として、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸の代わりにニトロトリスメチレンホスホン酸を使用したこと以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池用負極スラリー組成物及びリチウム二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0128】
[実施例6]
有機ホスホン酸化合物として、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸の代わりにエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸を使用したこと以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池用負極スラリー組成物及びリチウム二次電池を製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0129】
[実施例7]
有機ホスホン酸化合物として、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸の代わりに1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ホスホン酸を使用したこと以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池用負極スラリー組成物及びリチウム二次電池を製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0130】
[実施例8]
アルカリ土類金属化合物として、酢酸カルシウムの代わりに炭酸バリウムを使用したこと以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池用負極スラリー組成物及びリチウム二次電池を製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0131】
[実施例9]
アルカリ土類金属化合物として、酢酸カルシウムの代わりに水酸化バリウムを使用したこと以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池用負極スラリー組成物及びリチウム二次電池を製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0132】
[比較例1]
有機ホスホン酸化合物としての2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池用負極スラリー組成物及びリチウム二次電池を製造し、評価を行った。結果を表3に示す。
【0133】
[比較例2]
アルカリ土類金属化合物としての酢酸カルシウムを使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池用負極スラリー組成物及びリチウム二次電池を製造し、評価を行った。結果を表3に示す。
【0134】
[比較例3]
アルカリ土類金属化合物としての酢酸カルシウムの代わりに、1価の金属化合物である酢酸ナトリウムを使用したこと以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池用負極スラリー組成物及びリチウム二次電池を製造し、評価を行った。結果を表3に示す。
【0135】
[比較例4]
有機ホスホン酸化合物としての2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸の代わりに、有機スルホン酸化合物であるベンゼンスルホン酸を使用したこと以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池用正極スラリー組成物及びリチウム二次電池を製造し、評価を行った。結果を表3に示す。
【0136】
【表1】

【0137】
【表2】

【0138】
【表3】

【0139】
[検討]
表1〜3に示すように、リチウム二次電池用負極スラリー組成物に、有機ホスホン酸化合物(2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ニトロトリスメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、または1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ホスホン酸)と、アルカリ土類金属化合物(酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸バリウム、水酸化バリウム)とを組み合わせて配合した場合には、集電体の腐食の発生を防止することができ、また、リチウム二次電池とした場合における、初期容量及びサイクル特性に優れる結果となった(実施例1〜9)。
【0140】
一方、有機ホスホン酸化合物を使用しなかった場合、及び、有機ホスホン酸化合物の代わりにベンゼンスルホン酸を使用した場合には、集電体の腐食が発生し、初期容量、レート特性及びサイクル特性に劣る結果となった(比較例1、4)。
また、アルカリ土類金属化合物を使用しなかった場合、及び、アルカリ土類金属化合物の代わりに1価の金属化合物である水酸化ナトリウムを使用した場合には、集電体の腐食が発生し、初期容量及びサイクル特性に劣る結果となった(比較例2,3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸リチウム化合物、バインダ、水、有機ホスホン酸化合物及びアルカリ土類金属化合物を含む、リチウム二次電池用負極スラリー組成物。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属化合物が、アルカリ土類有機金属化合物である、請求項1記載のリチウム二次電池負極用スラリー組成物。
【請求項3】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体に、請求項1又は2記載のリチウム二次電池用負極スラリー組成物の層を形成し、乾燥させることを含む、リチウム二次電池用負極の製造方法。
【請求項4】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体と、負極活物質層とを備え、
前記負極活物質層が、チタン酸リチウム化合物、バインダ、有機ホスホン酸化合物及びアルカリ土類金属化合物を含む、リチウム二次電池用負極。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウム二次電池用負極、正極、セパレータ、及び電解質を備える、リチウム二次電池。

【公開番号】特開2012−234665(P2012−234665A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101270(P2011−101270)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】