説明

リチウム二次電池用負極活物質及びそれを使用した負極

【課題】急速な充放電が可能で、高出力特性に優れ、HEV等の用途に好適で、しかも高エネルギー密度の負極材を提供する。
【解決手段】波長514.5nmのアルゴンレーザーラマン光を用いたラマンスペクトル分光分析において、1600cm-1付近、及び1580cm-1付近にピークを有するGバンドの複合ピークとDバンドの1380cm-1付近に少なくとも1つのピークを有し、X線広角回折で得られる結晶面の面間隔d002が0.335〜0.337nmである多相構造を有する粉末状の炭素材からなり、炭素材は、天然黒鉛を球状に賦形した母材にピッチとカーボンブラックの混合物を含浸・被覆して900℃〜1500℃で焼成して得た、表面に微小突起を有する概略球形の黒鉛粒子(A)と、ピッチとカーボンブラックの混合物を900℃〜1500℃で焼成した後、粉砕、整粒して得た炭素質粒子(B)の混合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用負極活物質に関し、特に比較的高速で充放電をおこなう必要のある、ハイブリッド電気自動車(HEV)や住居や公共施設設置型あるいは電動工具等の高出力用途に有用な負極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は高容量、高電圧、小型軽量の二次電池として携帯電話、パソコン、PDA、ハンデイビデオカメラ等の可搬型機器類に多く使用され、今後もその需要が更に高くなると予想されている。
リチウム二次電池の各種のパーツや材料の高性能化も活発に試みられ、中でも電池の性能を左右するものとして、負極材の開発は、重要度を増している。
一方、最近では、前記の小型の可般型機器用途に加えて高出力型のリチウム二次電池が電動工具用電源としても普及しつつある。
【0003】
更に、自動車産業では環境問題から電気自動車、ニッケル水素電池とガソリンエンジンを組み合わせたハイブリッド電気自動車(HEV)が開発され、販売台数を伸ばしているが、このHEV用の電源としてリチウム二次電池が注目されている。
すなわち、現在HEVに用いられるニッケル水素電池に比べ、高エネルギー密度、高電圧のリチウム電池は、次代の電源として、開発に大きな期待がかけられている。
このようなHEV用電源として使用するにあたり、小型の電池に比して、高入出力特性が求められる。
【0004】
ところで、これまでリチウム電池の主な用途であった携帯機器においては、電池の充放電容量を高めるために、負極材として主にカーボン材が用いられ、特に高結晶の黒鉛質材が高エネルギー密度に優れているので多用されている。
例えば、特許文献1(特開平7−249411号公報)には、放電容量の大きなリチウム二次電池の負極材を得る目的で、炭素化可能な材料を、不活性雰囲気中、圧力10kgf/cm2 以上及び熱処理温度600℃以下で前処理した後、500〜3300℃程度の温度で炭素化処理することが開示されている。具体的には、炭素化可能な材料が、易黒鉛化材料の場合、1500〜3300℃、難黒鉛化材料の場合、500〜1500℃で炭素化するとしている。
また、特許文献2(特開平11−73963号公報)には、フィラー黒鉛と、炭素化可能な粘結材と、粘結材を溶解する溶媒とからなるスラリーをスプレードライ法で球形に成形すると共に乾燥して造粒物を得、次いで粘結材を不融化し、あるいは不融化することなく前記造粒物を不活性雰囲気下で900〜1400℃で所定時間熱処理をすることにより粘結材を炭素化してマトリックス炭素としたリチウムイオン二次電池負極用複合材が記載されている。
【特許文献1】特開平7−249411号公報
【特許文献2】特開平11−73963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、HEVなどの高出力が重視される用途では、急激な加速、減速に対応した充放電特性が要求されるが、黒鉛質材はかかる特性を十分に満足させる負極材とはなり得ない欠点がある。
そこで高入出力特性を有するカーボン材として、低結晶性の炭素が考えられるが、上記の黒鉛質材と反対にエネルギー密度が低いという問題がある。
このように、高出力で、HEV等の用途に満足な性能を発揮し、かつ高エネルギー密度の負極材は未だ得られていない現状であり、本発明は、急速な充放電が可能で高出力特性に優れ、しかも高エネルギー密度の負極材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、鱗片状天然黒鉛を球状に賦形した母材にピッチとカーボンブラックの混合物を含浸・被覆し、900℃〜1500℃で焼成して解砕、篩掛けした表面に微小突起を有する概略球形の黒鉛粒子(A)、及びピッチとカーボンブラックの混合物を900℃〜1500℃で焼成して粉砕、整粒した炭素質粒子(B)を混合した負極活性物質であり、波長514.5nmのアルゴンレーザーラマン光を用いたラマンスペクトル分光分析において、1600cm-1付近、及び1580cm-1付近にピークを有するGバンドの複合ピークとDバンドの1380cm-1付近に少なくとも1つのピークを有し、広角X線回折で得られる結晶面の面間隔d002が0.335〜0.337nmである多相構造を有する粉末状の炭素材料であり、高出力性と高エネルギー密度の両方を兼ね備えた優れたリチウムイオン二次電池用負極活物質である。
【0007】
また、黒鉛粒子(A)については、母材となる球状化された天然黒鉛粒子の平均粒子径を変えた2種以上の母材に対してそれぞれ別々にピッチとカーボンブラックの混合物を含浸・被覆し、900℃〜1500℃で焼成して解砕、篩掛けをおこなった黒鉛粒子(A1、A2、A3、・・・)と、粉体物性等の目的に応じて黒鉛粒子(A1、A2、A3、・・・)同士、及び炭素質粒子(B1、B2・・・)とを任意の割合で混合してリチウムイオン二次電池用負極活物質としても良い。
【0008】
黒鉛粒子(A)は、球状に賦形した天然黒鉛にカーボンブラック及びピッチを含浸・混合・混捏することによって表面をカーボンブラック及びピッチで被覆し、これを高温で焼成して炭素化して解砕し、篩を通して整粒したものである。球状天然黒鉛、カーボンブラック、ピッチは混合後に混捏しても、また、球状天然黒鉛とピッチを混捏しながらカーボンブラックを添加してもどちらでもかまわない。混捏とは、ニーダー等に処理物を仕込み、加熱しながら練る操作をいう。
【0009】
黒鉛粒子(A)は、カーボンブラックとピッチ由来の炭素が複合化された微小な突起を粒子表面に多数有している。このため、表面が平滑な粒子同士に比較して表面積が大きく、粒子間の接点が多く電極内の導電性ネットワークが多数、複雑に構築されて負極の電気抵抗が低くなることから、急速充放電、及びパワー特性が優れた負極材となる。
カーボンブラックの量は、天然黒鉛100重量部に対して2〜50重量部とするのが望ましい。カーボンブラック量が天然黒鉛に対して2%未満の場合、微小突起量が少なく、十分な効果が得られない。カーボンブラック量が50%を超えると比表面積が大きくなりすぎて、容量ロスが大きくなり好ましくない。
【0010】
焼成は、非酸化性雰囲気下において900℃〜1500℃でおこなう。900℃未満では粒子表面の官能基が残存し、リチウムイオンと反応するため容量ロスの増加や放電曲線1V付近の変極点の発生があり、好ましくない。
黒鉛化処理は、一般に2000℃以上で熱処理することを指す。従って、黒鉛粒子(A)を製造する場合は、900℃〜2000℃での熱処理となる。しかし、2000℃近くでの処理は、放電容量が最も低くなる付近の処理温度であるので、実際には900℃〜1500℃以下、好ましくは900℃〜1200℃以下である。
【0011】
黒鉛粒子(A)に用いる球状に賦形した天然黒鉛は、平均粒子径が、3〜25μm程度のものが使用できる。平均粒子径が3μm以下のものは、球形に賦形するのが難しく、生産性が低下するのでコスト面での難点があるのに加え、ピッチ及びカーボンブラックで含浸・被覆によって複合体とする際に粒子径が小さいために均一で粒度分布が制御された複合体を製造するのが難しいので好ましくない。
また、平均粒子径が25μm以上では、その粒度分布の関係上70μmを超えるような粒子の存在割合が高くなり、一般に考えられている40μm程度の厚さの薄い電極の場合、塗工時に問題が出るので、大きくとも平均粒子径25μmで最大粒子径75μm程度に抑えておくことが好ましい。
【0012】
更に、目的とする負極活物質の粒度分布を調整するため、塗工・乾燥後のプレス性の調整及び、プレス後に得られる電極の密度の調整のため、総表面積、あるいは比表面積の調整のためなどの目的で、天然黒鉛の平均粒子径が異なるものや、混合するカーボンブラックが異なる粒子(A)を数種類(A1、A2、A3、・・・・)別々に製造した後、それぞれの目的に合わせて任意に配合して用いてもかまわない。
【0013】
炭素質粒子(B)は、カーボンブラックをピッチと混捏し、焼成し、粉砕し、気流式分級機や篩通しを行って整粒した炭素質多孔性粉末である。
具体的にはニーダー等にカーボンブラックとピッチを投入し、加熱しながら混捏をおこない、十分にピッチがカーボンブラックと濡れ、複合化した後にニーダー等から取り出し金属製、セラミック製、あるいは黒鉛製の容器に移し替えて非酸化性雰囲気下で焼成をおこなう。一般にはニーダー等の中で混合/攪拌しながら取り出すことによって数mmから数cmの造粒体となって排出されるので、そのまま容器に投入して焼成することができる。もし必要であれば、任意の成型機を使ってハンドリングしやすい任意の形状に成形した後、焼成に回してもかまわない。
焼成は黒鉛粒子(A)の場合と同様900〜1500℃でおこなう。この温度範囲で焼成する理由は、黒鉛粒子(A)の場合と同様である。
焼成後は、初期の目的に応じて適切な粒度になるよう機械的な粉砕をおこなう。必要であれば粒度分布を調整するために気流式分級機や振動篩を使って整粒する。
なお、カーボンブラックとピッチの混合割合は、生成される炭素質粒子(B)の目的とする性状やカーボンブラックの吸油量を勘案して決めるが、カーボンブラック100重量部に対して25〜250重量部程度が目安である。25重量部以下ではピッチの量が少なすぎてカーボンブラックとの複合化が不十分である。また、250重量部を超える量ではピッチがカーボンブラックに対して過剰となり、ピッチ単独の焼成物に近い物性に近づき過ぎ、本発明の趣旨から外れてしまう。
【0014】
カーボンブラックは、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ランプブラックなど原料や製法が異なる数種類のものが知られている。これらの中でも数十nmの一次粒子が複数個連なって形成されるストラクチャー(DBP吸油量:フタル酸ジブチル吸油量の大小で表される)の大きさ、窒素ガスの吸脱着によって測定される比表面積の大きさや細孔径分布の違いや他の特性の差によって更に複雑に銘柄分けされている。
本発明における黒鉛粒子(A)及び炭素質粒子(B)のどちらも、用いるカーボンブラックの銘柄、配合割合によって生成される粒子の比表面積、DBP吸油量等の諸物性は変化する。実際に用いるカーボンブラックの銘柄は特に限定されるものではないが、目的とする諸物性を考慮して銘柄の選定と配合量を決めることが必要である。なお、黒鉛粒子(A)、あるいは複数種製造した黒鉛粒子それぞれに用いるカーボンブラック銘柄は同じでも別々でもかまわない。更に炭素質粒子(B)に用いるカーボンブラック銘柄も黒鉛粒子(A)に用いたものと同じでも別々でもかまわない。
【0015】
ピッチは、一般的なバインダーピッチや含浸用ピッチを使用することができる。石炭系でも石油系でもかまわないが、軟化点は、70〜250℃、好ましくは80〜150℃、より好ましくは80〜120℃程度である。軟化点があまりに低いと取り扱いが不便だったり、残炭率が低いためコスト高の原因となるので好ましくない。また逆に軟化点が高すぎると一般的な加熱ニーダーで処理するには不向きであり、特殊な設備を使用せざるを得なくなり、量産向きではない。また、ピッチ価格も高くなるのでコスト的にも好ましくない。
【0016】
以上のようにして得られた黒鉛粒子(A)あるいは黒鉛粒子群(A1,A2,A3・・・)と炭素質粒子(B)を目的とする負極の特性、すなわち電極厚さ、電極密度、更には負極を作製するために作る負極活物質に有機バインダーと分散媒を加えて混練りしたペーストの性状に合わせて混合することにより、本発明のリチウム二次電池負極活物質が最終的に得られる。
【0017】
最終的に得られた負極活物質は、電極の導電性を確保し、出力特性を良好にするため、集電体である銅箔上に通常は比較的薄く塗布するので、平均粒子径D50=3〜15μm、より好ましくは5〜12μm程度が適当である。なお必要によっては補助導電剤の添加をおこなう等の手段もこれに併せて適宜選択できる。D50が3μm以下では、粉砕が困難で製造コストが高価なこと、比表面積が大きくなること、またハンドリング性が著しく劣ることなどの問題が生じる。
【0018】
また、D50が15μm以上では、電極に薄く塗布する場合、塗布できないか、あるいは、粒子同士の十分な接触が得られず、電気抵抗が高くなり、出力特性が低下し、高出力特性が得られない。
最大粒子径は、55μm以下とするのが適当である。高出力用途の電極はプレス後の電極厚を40〜50μm程度とするため、最大粒子径を55μm以上にすると、平滑で均一な塗膜を得ることができない。
なお、事情により電極を50μmを超えて厚くする場合は、電極の厚さに応じて負極活物質の平均粒子径及び/または最大粒子径を大きくすることができるが、大きくとも平均粒子径D50は25μm、最大粒子径75μm程度に抑えておくことが好ましい。
本発明の負極活物質は、黒鉛部分と炭素部分が複合化されており、黒鉛の高エネルギー密度と低結晶炭素の高入出力特性を兼ね備えた負極活物質となる。
【0019】
本発明の負極活物質は、レーザーラマン分光分析の他、広角X線回折、タップ密度、比表面積等の表面構造、吸油量、粒度分布及び電気化学的な充放電試験を行った。詳細な条件については以下に示す。
【0020】
レーザーラマン分光分析には、Jobin Yvon/愛宕物産のRamanor T−64000型を用いた。詳細な分析条件は、以下の通りである。
測定モード :マクロラマン
測定配置 :60°
ビーム径 :100μm
光 源 :Ar+レーザー/514.5nm
レーザーパワー:10mW.
回折格子 :Single 600gr/mm
分 散 :Single 21A/mm
スリット :100μm
検出器 :CCD/Jobin Yvon 1024×256
測定は、試料表面から任意に3点を選択して測定した。
【0021】
本発明におけるレーザーラマン分光分析においては、2種以上の混合系と考えられるラマンスペクトルが観測される。従って、一般的に炭素材料の評価に用いられているDバンド(1360cm-1付近に現れるピーク)の強度IDと、Gバンド(1600cm-1付近に現れるピーク)の強度IGとの比(ID/IG)であるR値やGバンドの半値幅の値で数的に表現することは困難である。すなわち、得られたピークから直接各ピーク強度を読み取って便宜的にR値を算出することは意味がないと言える。
スペクトル解釈のためにフィッティングによって各バンドの成分分離をおこなった。スペクトルは、主に低結晶性のものと高結晶性のものとの混合系として得られたので、Gバンドを1600cm-1付近の低結晶性の成分と、1580cm-1付近の高結晶性の成分に分離した。一方、1360cm-1付近のDバンドでは、ピーク位置や半値幅に明確な差異が認められないので成分分離は困難であった。
Dバンドの切り分けができないので、R値の取り扱いは事実上できなくなる。但し、スペクトル形状を数的に表現するパラメーターとして各成分の面積分率を寄与率として算出することは可能である。
フィッティングについては、3成分のローレンツ関数及び1成分のバックグラウンド成分でおこなった。1600cm-1付近にピークを有するラマンバンドについてはピーク位置を1600cm-1に固定した。バックグラウンド成分については非晶質の炭素に由来すると思われるが、スペクトル形状が不明なのでガウス関数によって近似してフィッティングを行った。
ベースラインは600〜2000cm-1で直線近似した。
観測されたラマンスペクトルから直接読み取り、または、フィッティングをおこなった後の各パラメーターの説明を以下に示す。
直接読み取り
R:ID/IG
D:Dバンド(1360cm-1付近)の強度
G:Gバンド(1600cm-1付近)の強度
フィッティング後
R:I1360/I1600
1360:Dバンド(1360cm-1付近)の強度
1380:1380cm-1付近のラマンバンドの強度(非晶成分)
1580:Gバンド(1580cm-1付近)の強度(高結晶性成分)
1600:G’バンド(1600cm-1付近)の強度(低結晶性成分)
Δν1580:Gバンド(1580cm-1付近)のバンド幅
Δν1600:G’バンド(1600cm-1付近)のバンド幅
寄与率:各ラマンバンドの面積強度/全バンドの面積強度の和
1360:Dバンド(1360cm-1付近)の面積強度
1380:1380cm-1付近のラマンバンドの面積強度(非晶成分)
1580:Gバンド(1580cm-1付近)の面積強度(高結晶性成分)
1600:G’バンド(1600cm-1付近)の面積強度(低結晶性成分)
ラマンスペクトルの測定深さは試料の吸収係数に依存する。炭素のような黒色材料では測定深さは小さくなる。黒鉛の場合は514.5nm励起における吸収係数から予想される測定深さは約15nmとされている。非晶質炭素の場合では一般に測定深さは大きくなり、数十nmと推定される。
【0022】
X線広角回折は、株式会社リガク製のX線回折装置RINT−UltimaIIIを用いて、金属珪素を内部標準とした、人造炭素材料の結晶子サイズ・網面サイズなどの構造解析をおこなう方法を規定した学振法に基づいて実施した。
タップ密度は、100mlのメスシリンダーに試料を60±0.1g投入し、内部にカムを備えた自製のタップ密度測定器にセットし、ストローク10mmにて700回タッピング後の試料の体積から算出した。
【0023】
比表面積は、細孔容積、細孔直径は、窒素ガスの吸脱着により測定し、測定装置、Micromeritics社製の自動比表面積/細孔分布測定装置Tristar3000を使用した。
比表面積は、吸着等温線から得られた吸着ガス量を、単分子層として評価して表面積を計算するBETの多点法によって求めた。
P/V(P0−P)=(1/VmC)+{(C−1)/VmC(P/P0)}…(1)
S=kVm ……………………………………………………………………………(2)
0 :飽和蒸気圧
P :吸着平衡圧
V :吸着平衡圧Pにおける吸着量
Vm :単分子層吸着量
C :吸着熱などに関するパラメーター
S :比表面積
k :窒素単分子占有面積 0.162nm2
全細孔容積は、吸着等温線から得られた平衡相対圧(P/P0)=0.99付近の飽和吸着ガス量から求めた。
孔径2nm以下のマイクロポア容積は、窒素ガスの吸着膜の厚さtに対して吸着量をプロットしたt−プロット法により求めた。
吸着膜の厚さは、0.35〜0.50nmの範囲でHarkins & Juraの式
t=〔13.99/{0.034−log(P/P0)}〕0.5 …………………(3)
により求めた。
0 :飽和蒸気圧
P :吸着平衡圧
【0024】
吸油量は、株式会社あさひ総研製の吸収量測定器S−410型を使用して亜麻仁油を用いてJIS K6217に従って測定した。
平均粒子径や粒度分布の測定は、株式会社セイシン企業製のLMS−30システムを用いて、水を分散媒として微量の界面活性剤を分散剤にして、超音波分散をさせた状態で測定した。
【0025】
電気化学的な充放電試験は、負極活物質100重量部に対して結着剤としてSBRとCMCをそれぞれ2重量部ずつ併せて水系スラリーを調整し、銅箔上にドクターブレードを用いて厚さ80μmに塗布し、120℃で乾燥し、ロールプレスをかけた後、φ12に打ち抜き電極とした。プレス後の負極は、厚さが40μmであった。
これに対極としてリチウム金属を用い、セパレーターを介し対向させ電極群とした後、1MLiPF6/EC:MEC(1:2)の電解液を加えてコインセルを形成し、充放電試験に供した。
充放電条件は、まず電流値0.5mA/cm2で定電流充電をおこない、電圧値が0.01Vになった後、定電圧充電に切り替え、電流値が0.01mA/cm2に下がるまで充電を行った。充電終了後、電流値0.5mA/cm2で定電流放電をおこない、電圧値が1.5Vとなったところで放電終了した。
急速充電及び急速放電の測定には、まず0〜1Vまでの放電容量を放電深度(DOD)100%とし、測定前のDODを50%に調整した。DOD=50%の状態からCレートを変えて定電流で急速充電及び急速放電を行った。また容量維持率は0.2Cでの容量を100%とし、Cレートを上げたときの変化率を求めた。
【発明の効果】
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、有機バインダーと分散媒を加えて混練りしたペーストを金属製の集電体上に塗工、乾燥、プレスして塗工厚さを30〜100μm、電極密度を0.9〜1.8g/cm3の負極とすると、急速な充放電が可能で、高出力特性に優れ、かつ高エネルギー密度であるのでHEV等の用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明を更に詳しく実施例に基づいて述べるが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
〈黒鉛粒子(A)〉
A1:球形に賦形した平均粒子径D50が11μm、最大粒子径Dtopが28μmの天然黒鉛100重量部と算術平均粒子径46nm、DBP吸油量106ml/100g、BET比表面積38m2/g、ヨウ素吸着量40mg/gの市販のファーネスブラック20重量部を混合し、更に軟化点110℃のバインダーピッチ15重量部を加えた後、加熱ニーダーを使用して150℃で1時間混捏した。これを非酸化性雰囲気下1000℃で焼成後、解砕し、目開き38μmの篩を通過させて概略球形の黒鉛粒子(A1)を得た。
【0028】
A2:球形に賦形した平均粒子径D50が11μm、最大粒子径Dtopが28μmの天然黒鉛100重量部と算術平均粒子径35nm、DBP吸油量160ml/100g、BET比表面積69m2/g、ヨウ素吸着量93mg/gの市販のアセチレンブラック20重量部を混合し、更に軟化点110℃のバインダーピッチ18重量部を加えた後、加熱ニーダーを使用して150℃で1時間混捏した。これを非酸化性雰囲気下1000℃で焼成後、解砕し、目開き38μmの篩を通過させて概略球形の黒鉛粒子(A2)を得た。
【0029】
A3:球形に賦形した平均粒子径D50が23μm、最大粒子径Dtopが65μmの天然黒鉛100重量部と算術平均粒子径35nm、DBP吸油量160ml/100g、BET比表面積69m2/g、ヨウ素吸着量93mg/gの市販のアセチレンブラック20重量部を混合し、更に軟化点110℃のバインダーピッチ16重量部を加えた後、加熱ニーダーを使用して150℃で1時間混捏した。これを非酸化性雰囲気下1000℃で焼成後、解砕し、目開き38μmの篩を通過させて概略球形の黒鉛粒子(A3)を得た。
【0030】
A4:球形に賦形した平均粒子径D50が23μm、最大粒子径Dtopが65μmの天然黒鉛100重量部と算術平均粒子径46nm、DBP吸油量106ml/100g、BET比表面積38m2/g、ヨウ素吸着量40mg/gの市販のファーネスブラック20重量部を混合し、更に軟化点110℃のバインダーピッチ16重量部を加えた後、加熱ニーダーを使用して150℃で1時間混捏した。これを非酸化性雰囲気下1000℃で焼成後、解砕し、目開き38μmの篩を通過させて概略球形の黒鉛粒子(A4)を得た。
【0031】
A5:球形に賦形した平均粒子径D50が5μm、最大粒子径Dtopが17μmの天然黒鉛100重量部と算術平均粒子径46nm、DBP吸油量106ml/100g、BET比表面積38m2/g、ヨウ素吸着量40mg/gの市販のファーネスブラック20重量部を混合し、更に軟化点110℃のバインダーピッチ20重量部を加えた後、加熱ニーダーを使用して150℃で1時間混捏した。これを非酸化性雰囲気下1000℃で焼成後、解砕し、目開き38μmの篩を通過させて概略球形の黒鉛粒子(A5)を得た。
【0032】
A6:球形に賦形した平均粒子径D50が5μm、最大粒子径Dtopが17μmの天然黒鉛100重量部と算術平均粒子径24nm、DBP吸油量115ml/100g、BET比表面積117m2/g、ヨウ素吸着量80mg/gの市販のファーネスブラック10重量部を混合し、更に軟化点110℃のバインダーピッチ20重量部を加えた後、加熱ニーダーを使用して150℃で1時間混捏した。これを非酸化性雰囲気下1000℃で焼成後、解砕し、目開き38μmの篩を通過させて概略球形の黒鉛粒子(A6)を得た。
【0033】
〈炭素質粒子(B)〉
B1:算術平均粒子径24nm、DBP吸油量115ml/100g、BET比表面積117m2/g、ヨウ素吸着量80mg/gの市販のファーネスブラック100重量部と軟化点110℃のバインダーピッチ50重量部を加えた後、加熱ニーダーを使用して150℃で1時間混捏した。これを非酸化性雰囲気下1000℃で焼成後、粉砕し、目開き38μmの篩を通過させて炭素質粒子(B1)を得た。
【0034】
B2:算術平均粒子径23nm、DBP吸油量108ml/100g、BET比表面積123m2/g、ヨウ素吸着量115mg/gの市販のファーネスブラック100重量部と軟化点110℃のバインダーピッチ50重量部を加えた後、加熱ニーダーを使用して150℃で1時間混捏した。これを非酸化性雰囲気下1000℃で焼成後、粉砕し、目開き38μmの篩を通過させて炭素質粒子(B2)を得た。
【0035】
実施例1
黒鉛粒子(A)と炭素質粒子(B)をA2:B1=90:10の割合で混合した。生成した混合物の諸物性を表1に示す。
実施例2
黒鉛粒子(A)と炭素質粒子(B)をA2:B1=85:15の割合で混合した。生成した混合物の諸物性を表1に示す。
実施例3
黒鉛粒子(A)と炭素質粒子(B)をA1:B1=90:10の割合で混合した。生成した混合物の諸物性を表1に示す。
実施例4
黒鉛粒子(A)と炭素質粒子(B)をA1:B2=94:6の割合で混合した。生成した混合物の諸物性を表1に示す。
実施例5
黒鉛粒子(A)と炭素質粒子(B)をA1:A5:B1=85:10:5の割合で混合した。生成した混合物の諸物性を表1に示す。
実施例6
黒鉛粒子(A)と炭素質粒子(B)をA2:A3:A6:B1=70:10:10:10の割合で混合した。生成した混合物の諸物性を表1に示す。
【0036】
比較例1
球形に賦形した天然黒鉛100重量部に対し等方性ピッチ18重量部を加えた後、ワーナーニーダーを使用して150℃で1時間混捏した。これを非酸化性雰囲気において3000℃で黒鉛化した。生成物の諸物性を表1に示す。
比較例2
QI成分が10%の軟化点110℃の石炭系ピッチ(光学的等方性)を窒素ガスバブリング下(21l/min・kg)500℃で熱処理をおこない、偏光顕微鏡での観察による光学的異方性が30%の炭素前駆体を得た。揮発分は0.3%であった。軟化点はメトラー法によって測定したが観察できず、測定不能であった。これを粉砕・整粒し、D50=8μmとした後、非酸化性雰囲気1300℃で焼成した。生成物の諸物性を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1によれば、実施例1〜6は、いずれも面間隔d002が0.335〜0.337nmの範囲内であり、放電容量が350〜360mAh/gの高容量を示している。
一方、比較例1の面間隔d002は、実施例と変わりなく、比表面積が実施例の1/5と小さいが放電容量は実施例と同等であった。比較例2は、実施例1〜6と比較して面間隔d002が大きく、0.337nmを超えており、放電容量がかなり低い値を示している。
【0039】
実施例のリチウムイオン二次電池用負極活物質に有機バインダーと分散媒を加えて混練りしたペーストを金属製の集電体上に塗工、乾燥、プレスして塗工厚さを30〜100μm、電極密度を0.9〜1.8g/cm3とした負極とすると、急速な充放電が可能で、高出力特性に優れていることが確認された。
その一例として実施例と比較例のリチウムイオン二次電池用負極活物質に有機バインダーと分散媒を加えて混練りしたペーストを金属製の集電体上に塗工、乾燥、プレスして塗工厚さを30〜50μm、電極密度を1.1〜1.5g/cm3とした負極を使用して充電レート及び放電レートを変化させた場合の定電流充電容量、定電流充電容量維持率、放電容量、及び放電容量維持率の測定結果を図1、2及び図3、4に示す。
実施例1及び実施例2は、充電レート及び放電レートを上げて充放電した場合の定電流充電容量、定電流充電維持率、放電容量、及び放電維持率の低下が比較例1、比較例2と比較して小さく、急速充電、急速放電性能が共に優れていることを示している。
【0040】
図5には実施例のラマン分光スペクトルの1例として、実施例5の負極活物質のラマン分光スペクトルを示す。
図5に示されているように、1600cm-1付近のピークにはショルダーが観測される。
【0041】
図6には図5のラマン分光スペクトルをフィッティングした結果を示す。1600cm-1付近のピークは1600cm-1付近の低結晶成分と1580cm-1付近の高結晶成分に分離できた。
【0042】
図6のラマンバンドのピーク強度及び面積強度を表2及び表3に示す。
【表2】

【表3】

【0043】
以上説明したように、波長514.5nmのアルゴンレーザー光を用いたラマンスペクトル分光分析において、1600cm-1付近、及び1580cm-1付近にピークを有するGバンドの複合ピークとDバンドの1380cm-1付近に少なくとも1つのピークを有し、X線広角回折で得られる結晶面の面間隔d002が0.335〜0.337nmである多相構造を有する本発明の炭素材は、リチウムイオン二次電池用負極活物質として高容量と高出力の両特性を兼ね備えたものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例と比較例の定電流充電容量のグラフ。
【図2】実施例と比較例の定電流充電容量維持率のグラフ。
【図3】実施例と比較例の放電容量のグラフ。
【図4】実施例と比較例の放電容量維持率のグラフ。
【図5】本発明の負極活物質の実施例のラマン分光スペクトル。
【図6】本発明の負極活物質の実施例のラマン分光スペクトルフィッティングの結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材が天然黒鉛を球状に賦形した母材にピッチとカーボンブラックの混合物を含浸・被覆し、900℃〜1500℃で焼成して得た、表面に微小突起を有する概略球形の黒鉛粒子(A)とピッチとカーボンブラックの混合物を900℃〜1500℃で焼成して粉砕、整粒した炭素質粒子(B)の混合物であって、波長514.5nmのアルゴンレーザー光を用いたラマンスペクトル分光分析において、1600cm-1付近、及び1580cm-1付近にピークを有するGバンドの複合ピークとDバンドの1380cm-1付近に少なくとも1つのピークを有し、X線広角回折で得られる結晶面の面間隔d002が0.335〜0.337nmである多相構造を有する粉末状の炭素材からなるリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項2】
請求項1において、表面に微小突起を有する概略球形の黒鉛粒子(A)は、天然黒鉛100重量部に対してカーボンブラック2〜50重量部であるリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項3】
請求項1または2のリチウムイオン二次電池用負極活物質に有機バインダーと分散媒を加えて混練りしたペーストを金属製の集電体上に塗工、乾燥、プレスした負極。
【請求項4】
請求項3において、塗工厚さが30〜100μm、電極密度が0.9〜1.8g/cm3である負極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−4304(P2009−4304A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166226(P2007−166226)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000228338)日本カーボン株式会社 (19)
【Fターム(参考)】