説明

リチウム二次電池用電極及びその製造方法

【課題】優れたサイクル特性及び充放電特性を与えるリチウム二次電池用電極を提供する。
【解決手段】電極活物質を含む粉末原料をガスデポジション法により基材に担持させる。電極活物質としてはMgと14属元素との合金又は金属間化合物、希土類元素と14属元素との合金又は金属間化合物、ケイ素の酸化物、スズの酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物等が好ましい。また、粉末原料はメカニカルアロイング法、またはメカニカルミリング法によって得られた、平均粒径が0.1〜50μmのものが好ましい。
【効果】ガスデポジション法により電極活物質層を形成するので基材と活物質粒子間の密着性が強く、また、密度を不均一にすることができ、リチウムが活物質層内に挿入される際の応力を緩和することができるので、リチウム吸蔵ー放出の繰り返しによる活物質層の剥離を効果的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、その理論エネルギー密度の潜在的な大きさから、最も有用な二次電池として期待されている。この電池の容量をさらに増大させるためには、電極容量の増大が不可欠である。ところが、負極材料として最大のエネルギー密度を有する金属リチウムは安全性の見地より実用化できる目処が立っていない。一方、現在実用化されている炭素材料はその電極容量に限界があるため、これ以上の電極容量の飛躍的増大は望めない。
【0003】
これに対し、リチウムを可逆的に吸蔵−脱離できる金属(Si、Ge、Sn)又は合金からなる金属系材料が注目されている。これらの金属系材料は、炭素材料よりもエネルギー密度が大きく、金属リチウムよりも安全性が高いという点で有望な電極材料とされている。
【0004】
このため、この金属系材料を電極材料として用い、電極を製造する試みがなされている。この電極は、例えば上記金属系材料の粉末と導電剤(導電助剤)との合材に結着剤を加えてなる混練物を集電体(銅箔等)に塗布することにより作製される。
【0005】
また、蒸発法で生成したリチウムを気流に乗せて基板に吹き付けることにより薄膜を形成することを特徴とするリチウム負極の製造方法等も知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3等)
【特許文献1】特開平3−105854号公報
【特許文献2】特開2002−216747号公報
【特許文献3】国際公開WO01/029913
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら従来法で作製された電極は、電極層が緻密で強固なものであるため、リチウムが合金層に侵入する際の応力が大きくなる。このため、リチウム挿入−脱離時に比較的大きな体積変化が起こり、合金層の剥離・脱落の原因となる。これが、充放電特性、サイクル特性等の向上の妨げとなることから、結果として実用に耐えるリチウム二次電池を提供することが困難となる。
【0007】
従って、本発明の主な目的は、特に、優れたサイクル特性及び充放電特性を与えるリチウム二次電池用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の方法により作製された電極が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記のリチウム二次電池用電極及びその製造方法に係る。
【0010】
1. 電極活物質を含む粉末原料をガスデポジション法により基材に担持させる工程を含むことを特徴とするリチウム二次電池用電極の製造方法。
【0011】
2. 電極活物質が、1)14族元素ならびに2)その化合物、その合金及びその金属間化合物の少なくとも1種である、前記項1に記載の製造方法。
【0012】
3. 電極活物質が、1)Mgと14族元素との合金又は金属間化合物、2)希土類元素と14族元素との合金又は金属間化合物、3)ケイ素の酸化物、4)スズの酸化物、5)リチウムコバルト複合酸化物、6)リチウムニッケル複合酸化物及び7)リチウムマンガン複合酸化物の少なくとも1種である、前記項1に記載の製造方法。
【0013】
4. 粉末原料が、さらに導電性材料を含む、前記項1に記載の製造方法。
【0014】
5. 粉末原料が、メカニカルアロイング法及び/又はメカニカルミリング法によって得られたものである、前記項1に記載の製造方法。
【0015】
6. 粉末原料が、平均粒径0.1〜50μmである、前記項1に記載の製造方法。
【0016】
7. 前記項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られるリチウム二次電池用電極。
【0017】
8. 前記項7に記載のリチウム二次電池用負極。
【0018】
9. 前記項7に記載の電極を含むリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明のリチウム二次電池用電極の製造方法では、ガスデポジション法により電極活物質層を形成するので、基材と活物質粒子間ならびに活物質粒子どうしの密着性が強い上、その層の厚み方向及び面方向の密度が不均一(密度ムラ、密度の傾斜等)とすることができる。これにより、従来の電極作製法(圧着法、メッキ法等)による場合と異なり、リチウムが電極活物質層に挿入される際の応力を緩和ないしは解消することができる。このため、リチウム吸蔵−放出の繰り返しによる電極活物質層の剥離等を効果的に抑制することができる。その結果、従来のリチウム電池用電極に比して優れた充放電特性、サイクル特性等を得ることができる。
【0020】
また、基材として電解質、正極又は負極を用いる場合、電解質と電極とが強固に接合された電池を作製することもできる。例えば、リチウムイオン伝導性固体電解質と正極活物質を用い、これをガスデポジション法により負極上に担持させることにより、全固体電池を製造することが可能となる。このような電池は、電極/電解質が強固に接合されているため、その界面での電気的抵抗を低くすることができる結果、優れた電池特性を発揮するリチウム二次電池を提供することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
1.リチウム二次電池用電極の製造方法
本発明のリチウム二次電池用電極の製造方法は、電極活物質を含む粉末原料をガスデポジション法により基材に担持させる工程を含むことを特徴とする。
【0022】
電極活物質
電極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵−脱離できる合金(リチウム貯蔵合金)であれば特に限定されない。本発明では、1)14族元素ならびに2)その化合物、その合金及びその金属間化合物の少なくとも1種が好ましい。特に前記2)としては、例えば酸化物、窒化物、硫化物、炭化物等も包含される。また、14族元素としては、特にSi、Ge及びSnの少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0023】
これらの電極活物質の中でも、1)Mgと14族元素との合金又は金属間化合物、2)希土類元素と14族元素との合金又は金属間化合物、3)ケイ素酸化物及び4)スズ酸化物、5)リチウムコバルト複合酸化物、6)リチウムニッケル複合酸化物及び7)リチウムマンガン複合酸化物の少なくとも1種がより望ましい。前記1)としては、例えばMg2Ge、Mg2Sn等が挙げられる。前記2)としては、例えばCeSn3、LaSn3等が挙げられる。前記3)としては、例えばSiO、SiO2等が挙げられる。前記4)としては、例えばSnO、SnO2等が挙げられる。前記5)リチウムコバルト複合酸化物としてはLiCoO2がある。前記6)としては、LiNiO2である。前記7)としては、Li0.5MnO2がある。
【0024】
粉末原料
本発明で使用される粉末原料は、上記の電極活物質を含む。この粉末原料には、必要に応じて他の成分を配合することもできる。例えば、導電性材料(銀、銅、アルミニウム、ニッケル、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)等が含まれていても良い。導電性材料を含む場合、その含有量は特に限定的ではないが、通常は粉末原料中50重量%以下、特に5〜30重量%程度とすれば良い。
【0025】
粉末原料の平均粒径は、ガスデポジション法が行える限り制限されないが、一般的には平均粒径0.1〜50μm(好ましくは0.1〜10μm)の範囲内において、用いる電極活物質の種類、基材の材質、所望の電極特性等に応じて適宜設定することができる。
【0026】
粉末原料の調製方法は、公知の方法に従って実施することができる。例えば、メカニカルアロイング法(メカニカルミリング法)、ガスアトマイズ法のほか、通常の冶金的方法等で作成したものを粉砕する方法等が適用できる。本発明では、特にメカニカルアロイング法及び/又はメカニカルミリング法を好ましく採用することができる。メカニカルアロイング法及び/又はメカニカルミリング法による粉末原料を用いて電極を作製する場合には、より高い充放電特性等を発揮する電池を提供することが可能となる。
【0027】
メカニカルアロイング法及び/又はメカニカルミリング法は、公知の条件に基づいて実施することができる。例えば、所定の粉末原料となるように調合された出発原料をボールミルに投入し、ミリングを実行すれば良い。ボールミルは、遊星型ボールミル等の公知の装置を使用することができる。また、ミリングは、乾式又は湿式のいずれであっても良いが、特に乾式であることが望ましい。ミリングの条件は、所望の粉末原料の性状等に応じて適宜設定することができるが、一般的には室温(特に0〜50℃)で回転数100〜500rpm程度とすれば良い。また、雰囲気は、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気とすることが望ましい。
【0028】
ガスデポジション法
上記のようにして得られた粉末原料を用い、ガスデポジション法により基材に担持(積層)させる。
【0029】
ガスデポジション法により粉末原料を基材に担持させることによって、電極活物質層を形成する。かかる電極活物質層は、従来の圧着法、気相析出法、メッキ法等による緻密で均質な層とは異なり、厚み方向及び層の面方向の密度が不均一になっている。これにより、リチウムが電極活物質層に挿入される際に発生する応力を緩和ないしは解消することができる結果、充放電特性、サイクル特性等の向上を図ることができる。
【0030】
用いる基材の種類は特に限定されない。例えば、銅、ニッケル等の導電性材料を用いることができる。その形状も限定的でなく、例えば箔、シート等の形態で使用することができる。この場合の厚みは、例えば1〜50μm程度とすれば良い。また例えば、電解質として固体電解質を用いる場合には、固体電解質を基材としてこれに直接に電極活物質層を形成することも可能である。この場合には、全固体電池を作製することができる。
【0031】
ガスデポジション法は、粉末原料とキャリアガスとを用いることによりエアロゾルを発生させ、これを基材上に噴射することにより膜を形成する方法である。より具体的には、所定の初期圧力を有するキャリアガスを粉末原料とともに導管中でエアロゾル化した後、このエアロゾルをノズルから基材に向かって噴出させることにより実施される。ガスデポジション法自体は、公知の方法(装置)に従って実施することができる。特に、本発明では、次のような条件とすることが望ましい。
【0032】
すなわち、キャリアガスとしては、例えばアルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスを用いることが好ましい。また、圧力差(装置内圧力とガスのゲージ圧との差)は、3×105〜1×106Pa程度とすることが好ましい。さらに、基材とノズルとの距離は5〜30mm程度とすることが好ましい。
【0033】
ガスデポジション法により粉末原料を担持する場合、その担持量は所望の電極特性に応じて適宜設定することができる。一般的には、担持量を0.5〜20mg/cm2程度とすれば良い。
【0034】
また、ガスデポジション法を実施する場合、1回の噴射で電極活物質層を形成しても良いが、複数回にわたり噴射していも良い。複数回の噴射による場合は、多層構造を有する電極活物質層が形成されるが、このような構造も本発明に含まれる。
【0035】
2.リチウム二次電池用電極及びリチウム二次電池
本発明は、上記のようにして製造されたリチウム二次電池用電極を包含する。また、本発明は、前記の電極を含むリチウム二次電池も包含する。
【0036】
リチウム二次電池用電極は、ガスデポジションにより粉末原料が基材に担持されてなる。より具体的には、ガスデポジション法による電極活物質層が基材に形成されてなるものである。電極活物質層の厚みは特に制限されないが、通常は1〜50μm程度とすれば良い。前記のように、電極活物質層中には、必要に応じて導電性材料等が含まれていても良い。
【0037】
リチウム二次電池用電極は、負極及び/又は正極のいずれに使用しても良い。特に、本発明の電極は、リチウム二次電池用負極として好適に用いることができる。
【0038】
また、本発明のリチウム二次電池は、負極及び/又は正極として上記電極を使用するものであり、その他の構成(電解液、収容容器等)は公知のリチウム二次電池の構成要素を採用することができる。また、コイン型電池、円筒型電池、角型電池等のいずれのタイプの電池であっても良い。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0040】
製造例1
電極活物質粉末をメカニカルアロイング(MA)法によって調製した。
【0041】
まず、MgとGeの各粉末(全量で約5g)をステンレス鋼製ボールミル容器(容量80mL)に5個のボール(直径5mm)とともに入れた。その際、Mg/Geのモル比は2.0とした。また、ボールとの重量比は1対15とした。試料の取り扱いはすべてアルゴン雰囲気下で行い、容器もO−リングで気密性が保たれたものを使用した。ミリングは、遊星型ボールミル装置を用い、室温下において300回転(rpm)で約25時間行った。このようにしてMg2Ge粉末を得た。この粉末の平均粒径は1μm程度であった。
【0042】
実施例1
製造例1で得られたMg2Ge粉末を用いて電極を作製した。
【0043】
前記Mg2Ge粉末(仕込み量は約20mg)を用い、これを基板(厚さ20μmの銅箔)にガスデポジション法により担持した。基板は、前処理として、中性洗剤溶液中に10分間浸漬した後、アセトン中で10分間超音波洗浄し、さらに1Nの硝酸水溶液中に約2分浸漬し、水洗及びアセトン洗浄後、ドライヤにて乾燥したものを用いた。
【0044】
ガスデポジション法の条件は、1)基板−ノズル距離:10mm、2)ノズル口径:直径0.8mm、3)ノズルまでの導管の内径:4mm、4)圧力差:約6×105 Pa(キャリアガス(アルゴンガス) 約5×105 Pa−ベルジャー内圧(マイナス1×105 Pa))とした。ガスデポジションにより作製された電極は直ちに電解液中に保存した。得られた電極のMg2Ge層は、全量0.1mgであり、厚み約8μmであった。
【0045】
比較例1
製造例1で得られた粉末を用い、従来の粉末圧着方法により電極を作製した。より具体的には、前記Mg2Ge粉末(仕込み量は約5mg)を銅網(5mm×5mm、100メッシュ)に圧力200kgf/cm2で圧着することにより電極を製造した。
【0046】
試験例1
実施例1及び比較例1で作製された電極を試験極とした電池(三極式ビーカーセル)を組み立て、その電池について定電流充放電試験を行った。
【0047】
三極式ビーカーセルでは、対極・参照極:リチウム板、電解液:LiClO4がポリカーボネートに溶解した溶液(濃度1M)、測定電位幅:0.005〜2.0V、雰囲気:アルゴン雰囲気、測定温度:30℃、電流密度:0.5mA/cm2(約1000mA/g)(実施例1)及び0.4mA/cm2(約20mA/g)(比較例1)とした。その結果を図1に示す。図1からも明らかなように、緻密さが比較的低い圧着法で作製された比較例1であっても、十分な充放電特性が得られないことがわかる。これに対し、ガスデポジション法による電極(負極)を用いた実施例1では、優れた充放電特性が発揮されていることがわかる。
【0048】
試験例2
実施例1で得られた電極を用いて、試験例1に従って三極式ビーカーセルを構成し、サイクル特性を調べた。電流密度は、1.0A/g及び1.6A/gの2種とした。また、実施例1において、導電材CuをMg2Ge:Cu=2:1(重量比)で配合したほかは、実施例1と同様にして作製した電極を用い、試験例1と同様にして組み立てた三極式ビーカーセルについても同様の試験を行った。その結果を図2に示す。図2からも明らかなように、優れたサイクル特性を発揮できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1及び比較例1の電極による充放電特性を示す図である。
【図2】実施例1の電極によるサイクル特性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質を含む粉末原料をガスデポジション法により基材に担持させる工程を含むことを特徴とするリチウム二次電池用電極の製造方法。
【請求項2】
電極活物質が、1)14族元素ならびに2)その化合物、その合金及びその金属間化合物の少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
電極活物質が、1)Mgと14族元素との合金又は金属間化合物、2)希土類元素と14族元素との合金又は金属間化合物、3)ケイ素の酸化物、4)スズの酸化物、5)リチウムコバルト複合酸化物、6)リチウムニッケル複合酸化物及び7)リチウムマンガン複合酸化物の少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
粉末原料が、さらに導電性材料を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
粉末原料が、メカニカルアロイング法及び/又はメカニカルミリング法によって得られたものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
粉末原料が、平均粒径0.1〜50μmである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られるリチウム二次電池用電極。
【請求項8】
請求項7に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項9】
請求項7に記載の電極を含むリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−156248(P2006−156248A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347521(P2004−347521)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】