説明

リチウム二次電池

【課題】 負極活物質としてケイ素を含む材料を用いたリチウム二次電池において、充放電サイクル特性を向上させる。
【解決手段】 負極活物質としてケイ素を含む負極2と、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極1と、非水電解質とを備えるリチウム二次電池であって、正極1内に炭酸リチウムが添加されており、非水電解質内に二酸化炭素が溶解されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質としてケイ素を含む材料を用いたリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力及び高エネルギー密度の新型二次電池の1つとして、非水電解液を用い、リチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うリチウム二次電池が利用されている。
【0003】
リチウム二次電池は、高エネルギー密度であることから、携帯電話やノート型パソコンなどの情報技術関連のエレクトロニクス携帯機器の電源として実用化され、広く普及している。今後、これらの携帯機器のさらなる小型化及び高機能化により、電源であるリチウム二次電池の高エネルギー密度化への要求は非常に高いものになってきている。
【0004】
電池の高エネルギー密度化には、活物質として、より大きなエネルギー密度を有する材料を用いることが有効な手段である。最近、リチウム二次電池において、より高いエネルギー密度を有する負極活物質として、現在実用化されている黒鉛に代わり、リチウムとの合金化反応によりリチウムを吸蔵するSi、Sn、Alなどの元素を含む材料を用いることが提案され、検討されている。
【0005】
しかしながら、リチウムと合金化する材料を活物質として用いた電極においては、リチウムの吸蔵・放出の際に活物質の体積が膨張・収縮するため、活物質の微粉化や、集電体からの剥離を生じる。このため、電極内の集電性が低下し、充放電サイクル特性が悪くなるという問題がある。
【0006】
特許文献1においては、Si及びSnなどのリチウムと合金化し得る元素または化合物を負極活物質として含む非水二次電池において、正極、負極、または非水電解質のいずれかに、炭酸塩及び/またはシュウ酸塩を含有させることにより、充放電サイクル特性を向上させることが提案されている。
【0007】
しかしながら、このような方法によっても、炭酸塩及び/またはシュウ酸塩による効果は十分に発揮されず、十分に充放電サイクル特性の向上が得られないという問題があった。
【特許文献1】特開2004−14472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、負極活物質としてケイ素を含む材料を用いたリチウム二次電池において、優れた充放電サイクル特性を示すリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のリチウム二次電池は、負極活物質としてケイ素を含む負極と、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と、非水電解質とを備えるリチウム二次電池であり、正極内に炭酸リチウムが添加されており、非水電解質内に二酸化炭素が溶解されていることを特徴としている。
【0010】
本発明においては、正極内に炭酸リチウムが添加されている。この正極内の炭酸リチウムは、充電時、すなわち正極活物質からリチウムが放出され正極の電位が上昇したときに、分解して二酸化炭素を発生し、この二酸化炭素が負極活物質表面におけるリチウムの吸蔵・放出反応を適切に生じさせるため、優れた充放電サイクル特性を得ることができるものと思われる。また、この炭酸リチウムによる充放電サイクル特性向上の効果は、非水電解質内に二酸化炭素が溶解されていることにより、さらに効果的に発現されるものと考えられる。
【0011】
炭酸リチウムを負極内に添加した場合には、負極の電位が低いため、上記のような炭酸リチウムによる効果が得られず、優れた充放電サイクル特性を得ることができない。さらに、炭酸リチウムが負極合剤層内に存在すると、負極活物質と負極バインダーとの接触面積の低減が生じるため、負極合剤層の強度が低下し、充放電時の負極活物質の体積変化により電極構造が破壊されて、集電性が低下する。このため、充放電サイクル特性の低下が生じる。
【0012】
また、炭酸リチウムを非水電解質に添加した場合、正極と接している非水電解質の部分のみで上記のような炭酸リチウムによる効果が得られるが、正極に添加した場合のように、電池系内に存在する全ての炭酸リチウムが効果的に作用することができないため、十分な充放電サイクル特性の向上は得られない。
【0013】
本発明において、正極内に添加されている炭酸リチウムは、リチウム遷移金属複合酸化物と均一に混合されて正極内に含まれていることが好ましい。炭酸リチウムが、正極活物質の周りに均一に分布していることにより、炭酸リチウムによるサイクル特性向上の効果がより効果的に発現され、より優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0014】
正極内に添加されている炭酸リチウムの量は、リチウム遷移金属複合酸化物に対して0.3〜5重量%の範囲内であることが好ましい。すなわち、リチウム遷移金属複合酸化物100重量部に対して、0.3〜5重量部の炭酸リチウムが正極内に添加されていることが好ましい。炭酸リチウムの正極内への添加量が、0.3重量%未満であると、炭酸リチウム添加による充放電サイクル特性向上の効果が十分に得られない場合がある。また、5重量%を超えると、過剰な炭酸リチウムによって副反応が生じ、電池特性が低下するため好ましくない。
【0015】
炭酸リチウムは、本発明に従い正極内に添加されていることが好ましい。正極内に炭酸リチウムを添加することにより、負極や非水電解質中に炭酸リチウムを添加した場合よりも、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。これは、正極の電位が上昇した時に正極内に含まれている炭酸リチウムが作用することによるものと思われる。また、正極内に炭酸リチウムを添加することにより、非水電解質中に溶解されている二酸化炭素との相乗効果がより有効に発揮されることがわかっている。
【0016】
リチウム遷移金属複合酸化物が不可避的に炭酸リチウムを含有している場合、この不可避的に含有されている炭酸リチウムも、充放電サイクル特性を向上させる効果を示すと考えられる。リチウム遷移金属複合酸化物に不可避的に含有される炭酸リチウムとは、リチウム遷移金属複合酸化物を製造する際に、この化合物に含有されるリチウムが、雰囲気ガス中に含まれる炭酸ガスと反応して生成するか、または原料として用いた炭酸リチウムが製造後も残存している分の炭酸リチウムである。本発明において特に影響を与えるのは、リチウム遷移金属複合酸化物の表面及びその近傍に存在している炭酸リチウムであると考えられる。
【0017】
上記のように、リチウム遷移金属複合酸化物が不可避的に炭酸リチウムを含有している場合には、この不可避的に含有される炭酸リチウムと、正極内に意図的に添加される炭酸リチウムとの合計の量が、リチウム遷移金属複合酸化物に対して0.3〜5重量%の範囲内であることが好ましい。すなわち、リチウム遷移金属複合酸化物100重量部に対して、0.3〜5重量部の範囲内であることが好ましい。本発明において、炭酸リチウムの含有量の基準となるリチウム遷移金属複合酸化物には、この不可避的炭酸リチウムの重量は含めないものとする。すなわち、(リチウム遷移金属複合酸化物)−(リチウム遷移金属複合酸化物に不可避的に含有されている炭酸リチウム)を、リチウム遷移金属複合酸化物の基準重量とする。
【0018】
不可避的に含有される炭酸リチウムと正極内に添加されている炭酸リチウムの合計の量が、0.3重量%未満であると、炭酸リチウム添加による充放電サイクル特性向上の効果が十分に得られない場合がある。また、5重量%を超えると、過剰な炭酸リチウムによって副反応が生じ、電池特性が低下する場合がある。
【0019】
本発明において用いるリチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウム二次電池の正極活物質として用いることができるリチウム遷移金属複合酸化物であれば特に限定されるものではないが、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiMnO2、LiCo0.5Ni0.52、LiNi0.33Co0.33Mn0.342などが例示される。特に、LiCoO2、並びに層状構造を有し、遷移金属としてNi、Mn及びCoを含むリチウム遷移金属複合酸化物を好ましく用いることができる。
【0020】
本発明におけるリチウム遷移金属複合酸化物のBET比表面積は3m2/g以下であることが好ましい。また、リチウム遷移金属複合酸化物の平均粒子径(二次粒子径の平均粒子径)は、20μm以下であることが好ましい。平均粒子径が20μmを超えると、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子内のリチウムの移動距離が大きくなるため、充放電サイクル特性が低下する傾向にある。
【0021】
本発明のリチウム二次電池における正極は、正極活物質としてのリチウム遷移金属複合酸化物と、炭酸リチウムと、正極導電剤と、正極バインダーとを含む正極合剤層が、導電性金属箔からなる正極集電体の上に配置されたものであることが好ましい。
【0022】
正極バインダーとしては、非水電解質の溶媒に溶解しないものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアクリロニトリルなどを好ましく用いることができる。
【0023】
正極導電剤としては、従来から公知の導電剤を用いることができ、例えば、導電性の炭素材料を用いることができる。アセチレンブラックやケッチェンブラックなどが特に好ましく用いられる。
【0024】
正極集電体として用いる導電性金属箔は、充放電時に正極に加わる電位において、電解液に溶解せず安定に存在するものであればよく、例えば、アルミニウム箔を好ましく用いることができる。
【0025】
正極合剤層における正極バインダーの量は、正極合剤層の1〜5重量%の範囲内であることが好ましい。正極バインダーの量が、1重量%未満であると、正極活物質粒子間の接触面積が増えて接触抵抗は低下するが、バインダーの量が少なすぎるため、活物質粒子間や正極集電体に対する正極活物質の密着性が低下して、正極活物質の脱離が生じ易くなり、充放電特性が低下する場合がある。また、正極バインダーの量が5重量%を超えると、正極活物質粒子間や正極集電体に対する正極活物質の密着性は向上するが、バインダーの量が多すぎるため、正極活物質粒子間の接触面積が減少し、接触抵抗が増加し、この結果充放電特性が低下する場合がある。
【0026】
正極合剤層における正極導電剤の量は、正極合剤層の1〜5重量%の範囲内であることが好ましい。正極導電剤の量が1重量%未満であると、導電剤の量が少なすぎるため、正極活物質の周りに十分な導電ネットワークが形成されず、正極合剤層内の集電性が低下し、充放電特性が低下する場合がある。また、導電剤の量が5重量%を超えると、導電剤の量が多すぎるため、導電剤の接着のためにバインダーが消費され、正極活物質粒子間や正極集電体に対する正極活物質の密着性が低下して、正極活物質の脱離が生じ易くなり、充放電特性が低下する。
【0027】
本発明における正極合剤層の密度は、3.0g/cm3以上であることが好ましい。正極合剤層の密度を3.0g/cm3以上にすることにより、正極活物質間の接触面積が増加して、正極合剤層内の集電性が向上するため、優れた充放電特性を得ることができる。
【0028】
本発明における正極において、炭酸リチウムは、上述のように、正極活物質と均一に混合し分散していることが好ましい。正極活物質と炭酸リチウムとを均一に混合し分散させる方法としては、正極バインダーの溶液中に、正極活物質粉末と、炭酸リチウム粉末と、正極導電剤粉末とを均一に混合して分散し、正極合剤スラリーを作製し、この正極合剤スラリーを正極集電体上に塗布した後乾燥して、正極合剤層を形成する方法が挙げられる。
【0029】
正極活物質は、正極合剤スラリー中においても、二次粒子を形成した状態を保っていることが好ましい。従って、正極合剤スラリーの作製方法としては、まず正極バインダーの溶液中に炭酸リチウム粉末と正極導電剤粉末のみを均一に混合分散させた後、正極活物質を添加混合し、正極活物質の二次粒子が破壊されない程度の力で混合することが好ましい。
【0030】
正極活物質の添加混合の前に、バインダー溶液中に炭酸リチウム粉末を均一に混合し分散させることが好ましい。炭酸リチウム粉末は凝集して二次粒子を形成し易いので、乳鉢、ミキサー、ホモジナイザー、ディゾルバー、ニーダー、ロールミル、サンドミル、ボールミル等の撹拌混合機及び分散機を用いることが好ましい。
【0031】
本発明における非水電解質の溶媒は、特に限定されるものではないが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類などを用いることができる。これらを単独または複数組み合わせて使用することができる。特に、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を好ましく用いることができる。
【0032】
また、本発明における非水電解質の溶質としては、特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiAsF6などの化学式LiXFy(式中、XはP、As、Sb、B、Bi、Al、Ga、またはInであり、XがP、AsまたはSbのときyは6であり、XがB、Bi、Al、Ga、またはInのときyは4である)で表されるリチウム化合物や、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C25SO2)2、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C25SO2)3、LiClO4、Li210Cl10、Li212Cl12などのリチウム化合物を用いることができる。これらの中でも、LiPF6を特に好ましく用いることができる。
【0033】
さらに電解質として、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、LiI、Li3Nなどの無機固体電解質が例示される。本発明のリチウム二次電池の電解質は、イオン導電性を発現させる溶質としてのリチウム化合物とこれを溶解・保持する溶媒が電池の充電時や放電時あるいは保存時の電圧で分解しない限り、制約なく用いることができる。
【0034】
本発明における非水電解質には、二酸化炭素が溶解されている。非水電解質に二酸化炭素が溶解されることにより、正極内に添加される炭酸リチウムとの相乗効果が発揮され、リチウム遷移金属複合酸化物の表面におけるリチウムの吸蔵・放出反応が円滑に生じ、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。負極活物質であるケイ素の表面に二酸化炭素による被膜が形成されるため、負極活物質表面におけるリチウムの吸蔵・放出反応が円滑に生じるものと考えられる。
【0035】
二酸化炭素の溶解量としては、0.01重量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.05重量%以上であり、さらに好ましくは0.1重量%以上である。上限値は特に設定されるものではなく、二酸化炭素の飽和溶解量が上限値となる。
【0036】
正極内に含有されている炭酸リチウムは、バインダーを溶剤で溶解した後、水で炭酸リチウムを抽出し、水抽出液中に含まれている炭酸リチウムを塩酸などで中和滴定することにより求めることができる。このような方法によれば、リチウム遷移金属複合酸化物中に不可避的に含有されている炭酸リチウムと、正極内に添加されている炭酸リチウムの合計の量を測定することができる。
【0037】
本発明における負極は、ケイ素及び/またはケイ素合金を含む活物質粒子とバインダーとを含む負極合剤層を導電性金属箔からなる負極集電体の上に配置したものであることが好ましい。ケイ素合金としては、ケイ素と他の1種以上の元素との固溶体、ケイ素と他の1種以上の元素との金属間化合物、ケイ素と他の1種以上の元素との共晶合金などが挙げられる。合金の作製方法としては、アーク溶解法、液体急冷法、メカニカルアロイング法、スパッタリング法、化学気相成長法、焼成法などが挙げられる。特に、液体急冷法としては、単ロール急冷法、双ロール急冷法、及びガスアトマイズ法、水アトマイズ法、ディスクアトマイズ法などの各種アトマイズ法が挙げられる。
【0038】
また、本発明において用いる負極活物質としては、ケイ素及び/またはケイ素合金の粒子表面を金属等で被覆したものを用いてもよい。被覆方法としては、無電解めっき法、電解めっき法、化学還元法、蒸着法、スパッタリング法、化学気相成長法などが挙げられる。
【0039】
本発明における負極活物質としては、ケイ素単体の粒子が最も好ましく用いられる。
【0040】
本発明における負極活物質の平均粒子径は、特に限定されないが、100μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは50μm以下であり、最も好ましくは10μm以下である。粒子径の小さい活物質粒子を用いることにより、充放電におけるリチウムの吸蔵・放出に伴う活物質粒子の体積の膨張・収縮の絶対量が小さくなる。このため、充放電時の電極内での活物質粒子間の歪みの絶対量も小さくなるので、バインダーの破壊が生じにくくなり、電極内の集電性の低下を抑制することができ、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0041】
本発明における負極活物質の粒度分布は、できるだけ狭いことが好ましい。幅広い粒度分布である場合、粒径が大きく異なる活物質粒子間において、リチウムの吸蔵・放出に伴う体積の膨張・収縮の絶対量に大きな差が存在することになる。このため、合剤層内で歪みが生じ、バインダーの破壊が生じる。従って、電極内の集電性が低下し、充放電サイクル特性が低下する。
【0042】
また、粒子径が小さく、かつ粒度分布が狭い負極活物質粉末を用いた場合、正極内に添加する炭酸リチウムの効果がより有効に発揮される。すなわち、正極内の炭酸リチウムによって、負極活物質の表面でのリチウムの吸蔵・放出反応が適切に生じるようになるので、負極内での充放電反応の分布の均一性が大きく向上する。このため、リチウムの吸蔵・放出に伴う体積変化量の偏りにより発生する歪みを抑制することができ、活物質粒子の割れ等が防止されるため、充放電サイクル特性を大きく向上させることができる。
【0043】
本発明における負極集電体は、負極合剤層が配置される面の表面粗さRaが0.2μm以上であることが好ましい。このような表面粗さRaを有する導電性金属箔を負極集電体として用いることにより、集電体の表面の凹凸部分にバインダーが入り込み、バインダーと集電体間にアンカー効果が発現され、高い密着性が得られる。このため、リチウムの吸蔵・放出に伴う活物質粒子の体積の膨張・収縮による合剤層の集電体からの剥離が抑制される。集電体の両面に負極合剤層を配置する場合には、負極の両面の表面粗さRaが0.2μm以上であることが好ましい。
【0044】
表面粗さRaと局部山頂の平均間隔Sは、100Ra≧Sの関係を有することが好ましい。表面粗さRa及び局部山頂の平均間隔Sは、日本工業規格(JIS B 0601−1994)に定められており、例えば表面粗さ計により測定することができる。
【0045】
集電体の表面粗さRaを.0.2μm以上とするために、導電性金属箔に粗面化処理を施してもよい。このような粗面化処理としては、めっき法、気相成長法、エッチング法、及び研磨法などが挙げられる。めっき法及び気相成長法は、金属箔の表面上に、凹凸を有する薄膜層を形成することにより、表面を粗面化する方法である。めっき法としては、電界めっき法及び無電界めっき法が挙げられる。また、気相成長法としては、スパッタリング法、化学気相成長法、蒸着法などが挙げられる。エッチング法としては、物理的エッチングや化学的エッチングによる方法が挙げられる。また、研磨法としては、サンドペーパーによる研磨やブラスト法による研磨などが挙げられる。
【0046】
本発明における集電体としては、例えば、銅、ニッケル、鉄、チタン、コバルト等の金属またはこれらの組み合わせからなる合金の箔が挙げられる。
【0047】
また、本発明における負極集電体は、高い機械的強度を有していることが特に好ましい。集電体が高い機械的強度を有することにより、リチウムの吸蔵・放出時に、負極活物質の体積変化によって発生する応力を集電体に加えられた場合でも、集電体が破壊や塑性変形を生じることなく、これを緩和することができる。このため、合剤層の集電体からの剥離が抑制され、電極内の集電性が保持され、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0048】
本発明における負極集電体の厚みは、特に限定されるものではないが、10μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0049】
本発明における負極集電体の表面粗さRaの上限は、特に限定されるものではないが、上記のように導電性金属箔の厚みが10〜100μmの範囲内であることが好ましいので、実質的には表面粗さRaの上限は10μm以下である。
【0050】
本発明の負極において、負極合剤層の厚みXが、集電体の厚みY及び表面粗さRaと5Y≧X、250Ra≧Xの関係を有することが好ましい。合剤層の厚みXが5Yまたは250Ra以上の場合、充放電時の合剤層の体積の膨張収縮が大きいため、集電体表面の凹凸によって合剤層と集電体との密着性が保てなくなり、合剤層の集電体からの剥離が生じる。
【0051】
本発明における負極合剤層の厚みXは、特に限定されるものではないが、1000μm以下が好ましく、さらに好ましくは10μm〜100μmである。
【0052】
本発明における負極バインダーは、高い機械的強度を有し、さらには弾性に優れていることが好ましい。バインダーが優れた機械的特性を有していることにより、リチウムの吸蔵・放出時に、負極活物質の体積変化が生じた場合でもバインダーの破壊が生じず、活物質の体積変化に追随した合剤層の変形が可能となる。このため、電極内の集電性が保持され、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。このように機械的特性を有したバインダーとしては、ポリイミド樹脂を用いることができる。また、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂も好ましく用いることができる。
【0053】
本発明における負極バインダーの量は、負極合剤層の総重量の5重量%以上であることが好ましく、バインダーの占める体積は負極合剤層の総体積の5%以上であることが好ましい。ここで、負極合剤層の総体積とは、合剤層に含まれる活物質やバインダーなどの材料のそれぞれの体積を合計したものであり、合剤層内に空隙が存在する場合にはこの空隙が占める体積を含まないものとする。バインダー量が合剤層の総重量の5重量%未満であり、バインダーの占める体積が合剤層の総体積の5%未満である場合、負極活物質に対してバインダー量が少なすぎるため、バインダーにおける電極内の密着性が不十分となる。これに対し、バインダー量を増加させすぎた場合、電極内の抵抗が増加するため、初期の充電が困難になる。従って、負極バインダー量が負極合剤層の総重量の50重量%以下であり、バインダーの占める体積が負極合剤層の総体積の50%以下であることが好ましい。
【0054】
本発明の負極においては、合剤層内に導電性粉末を混合してもよい。導電性粉末を混合することにより、活物質粒子の周囲に導電性粉末による導電性ネットワークを形成することができ、電極内の集電性をさらに向上させることができる。導電性粉末としては、上記導電性金属箔と同様の材質のものを好ましく用いることができる。具体的には、銅、ニッケル、鉄、チタン、コバルト等の金属またはこれらの組み合わせからなる合金または混合物である。特に、金属粉末としては、銅粉末が好ましく用いられる。また、導電性カーボン粉末も好ましく用いることができる。
【0055】
負極合剤層内での導電性粉末の混合量は、負極活物質との総重量の50重量%以下であることが好ましく、導電性粉末の占める体積が負極合剤層の総体積の20%以下であることが好ましい。導電性粉末の混合量が多すぎると、負極合剤層内の負極活物質の割合が相対的に少なくなるので、負極の充放電容量は小さくなる。また、この場合、合剤層内での活物質と導電剤との総量に比べたバインダーの量の割合が低下するため、合剤層の強度が低下し、充放電サイクル特性が低下する。
【0056】
導電性粉末の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、100μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは50μm以下、最も好ましくは10μm以下である。
【0057】
本発明における負極は、負極活物質としてのケイ素及び/またはケイ素合金を含む粒子と負極バインダーとを含む負極合剤層を、負極集電体としての導電性金属箔の表面上で焼結して配置したものであることがさらに好ましい。合剤層が焼結により集電体表面上に配置されることにより、焼結の効果によって活物質粒子間の密着性及び合剤層と集電体間の密着性が大きく向上する。このため、リチウムの吸蔵・放出時に、負極活物質の体積変化が生じた場合でも、合剤層の集電性が保持され、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0058】
負極バインダーは、熱可塑性であることが特に好ましい。例えば、負極バインダーがガラス転移温度を有する場合、ガラス転移温度より高い温度で負極合剤層を負極集電体表面上に焼結して配置するための熱処理を行うことが好ましい。これにより、バインダーが活物質粒子や集電体と熱融着し、活物質粒子間や合剤層と集電体との密着性がさらに大きく向上し、電極内の集電性を大きく向上させることができ、さらに優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0059】
また、この場合、熱処理後も負極バインダーは完全に分解せずに残存していることが好ましい。熱処理後に、バインダーが完全に分解された場合、バインダーによる結着効果が
失われてしまうため、電極への集電性が大きく低下し、充放電サイクル特性が悪くなる。
【0060】
負極合剤層を集電体表面上に配置するための焼結は、真空下または窒素雰囲気下またはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、水素雰囲気などの還元性雰囲気で行ってもよい。焼結する際の熱処理の温度は、上記のように焼結のための熱処理後も負極バインダーが完全に分解せずに残存していることが好ましいため、バインダー樹脂の熱分解開始温度以下であることが好ましい。また、焼結の方法としては、放電プラズマ焼結法やホットプレス法を用いてもよい。
【0061】
本発明における負極は、負極バインダーの溶液中に負極活物質としてのケイ素及び/またはケイ素合金を含む粒子を均一に混合し、分散させた負極合剤スラリーを、負極集電体としての導電性金属箔の表面上に塗布して、製造することが好ましい。このように、活物質粒子がバインダー溶液中に均一に混合し、分散されたスラリーを用いて形成された合剤層は、活物質粒子の周りにバインダーが均一に分布した構造となるため、バインダーの機械的特性が最大限に生かされ、高い電極強度が得られ、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0062】
本発明に従い、正極内に炭酸リチウムを添加し、非水電解質内に二酸化炭素を溶解させることにより、負極活物質としてケイ素を含む材料を用いたリチウム二次電池において、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0064】
(実験1)
〔正極の作製〕
Al23製の容積2リットルのビーズミル容器内に、ポリフッ化ビニリデンの6重量%N−メチル−2−ピロリドン溶液500gと、アセチレンブラック30gと、直径1.5mmのZrO2製ビーズ1.8kgを入れ、Al23製の円盤状の撹拌羽根を1500rpmで回転させることで15分間撹拌し、この後ZrO2製ビーズを全て取り除くことにより、ポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドン溶液中に、アセチレンブラック粉末を均一に混合、分散させた正極ペーストを得た。
【0065】
次に、Li2CO3とCoCO3とを、LiとCoのモル比が1:1になるようにして乳鉢にて混合し、空気雰囲気中にて800℃で24時間熱処理した後、粉砕して、平均粒子径約7μmのLiCoO2で表されるリチウムコバルト複合酸化物を得た。得られたLiCoO2のBET比表面積は0.47m2/gであった。
【0066】
この正極活物質としてのLiCoO2粉末と、上記正極ペーストと、平均粒径50μmの炭酸リチウム粉末とを重量比94:53:3で混ぜたものを、特殊機化工業製ロボミックスにて撹拌羽根を3000rpmで30分撹拌して、ポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドン溶液中に、LiCoO2粉末と、ポリフッ化ビニリデンと、アセチレンブラックと、炭酸リチウム粉末とを重量比94:3:3:3で混合させた正極合剤スラリーを得た。
【0067】
この正極合剤スラリーを、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚み15μm)の片面に塗布し、乾燥した後、圧延した。これを20×20mmの正方形状に切り抜き、集電タブを取り付け、正極とした。
【0068】
〔負極の作製〕
分散媒としてのN−メチル−2−ピロリドンに、負極活物質としての平均粒子径3μmのケイ素粉末(純度99.9%)と、負極バインダーとしてのガラス転移温度190℃、密度1.1g/cm3の熱可塑性ポリイミドとを、活物質とバインダーとの重量比が90:10となるように混合し、負極合剤スラリーとした。
【0069】
この負極合剤スラリーを、負極集電体である表面粗さRaが1.0μmである電解銅箔(厚み35μm)の片面(粗面)に塗布し、乾燥した。得られたものを25×30mmの長方形状に切り抜き、圧延した後、アルゴン雰囲気下で400℃、1時間熱処理し、焼結して負極とした。
【0070】
〔電解液の作製〕
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比3:7で混合した溶媒に対し、LiPF6を1モル/リットル溶解させたものに二酸化炭素を吹き込み、二酸化炭素を溶解させ、電解液とした。電解液中の二酸化炭素の溶解量を重量法(溶解後の重量−溶解前の重量)により求めたところ、電解液総重量の0.37重量%であった。
【0071】
〔電池の作製〕
上記の正極、負極、及び電解液をアルミニウムラミネートの外装体内に挿入したリチウム二次電池A1を作製した。
【0072】
図1に示すように、正極1及び負極2は、ポリエチレン多孔質体のセパレーター3を介して対向しており、これらはそれぞれ正極タブ4または負極タブ5に接続され、二次電池としての充電及び放電が可能な構造となっている。
【0073】
作製したリチウム二次電池A1は、アルミニウムラミネートの外装体6、アルミニウムラミネートの端部同士をヒートシールした閉口部7、正極集電タブ4、負極集電タブ5、正極1及び負極2の間にセパレーター3を挟んだ電極体から構成されている。
【0074】
(実験2)
実験1の正極の作製において、炭酸リチウム粉末を添加させなかったこと以外は実験1と同様にして、電池B1を作製した。
【0075】
(実験3)
電池A1及びB1の電解液の作製において、二酸化炭素を溶解させなかったこと以外は電池A1及びB1の作製方法と同様にして、電池B2及びB3を作製した。
【0076】
(実験4)
電池A1及びB1〜B3の正極の作製において、正極活物質として、LiOHとNi0.4Mn0.3Co0.3(OH)2で表される共沈水酸化物とを、Liと遷移金属全体のモル比が1:1になるようにして乳鉢にて混合した後、空気雰囲気中にて1000℃で20時間熱処理後に粉砕して、平均粒子径が約10μmのLiNi0.4Mn0.3Co0.32で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を得た。これを正極活物質として用いたこと以外は、電池A1及びB1〜B3の作製方法と同様にして、電池A2及びB4〜B6を作製した。ここで用いたLiNi0.4Mn0.3Co0.32のBET比表面積は1.04m2/gであった。
【0077】
〔充放電サイクル特性の評価〕
上記の電池A1〜A2、及びB1〜B6それぞれについて、充放電サイクル特性を評価した。各電池を、25℃において、電流値14mAで4.2Vまで充電し、続けて4.2Vに保持したまま電流値0.7mAになるまで充電した後、電流値14mAで2.75Vまで放電し、これを1サイクルの充放電とした。1サイクル目の放電容量の80%に達するまでのサイクル数を測定し、サイクル寿命とした。結果を表1に示す。なお、各電池のサイクル寿命は、電池A1のサイクル寿命を100とした指数である。
【0078】
【表1】

【0079】
表1から明らかなように、正極内に炭酸リチウムが添加され、さらに電解液内に二酸化炭素が溶解されている電池A1及びA2は、正極内に炭酸リチウムが添加されているが、電解液内に二酸化炭素が溶解されていない電池B2及びB5や、正極内に炭酸リチウムが添加されているが、電解液内に二酸化炭素が溶解されていない電池B2及びB5に比べ、優れた充放電サイクル特性を示すことがわかる。これは、負極活物質としてケイ素を用いている電池においては、正極内に添加された炭酸リチウムによる充放電サイクル特性向上効果が、電解液内に二酸化炭素が溶解していることにより、より効果的に発現したためと考えられる。
【0080】
次に、正極内での炭酸リチウムの分布状態及び含有量が電池の充放電サイクル特性に与える影響について検討を行った。
【0081】
(実験5)
〔正極の作製〕
Al23製の容積2リットルのビーズミル容器内に、ポリフッ化ビニリデンの6重量%N−メチル−2−ピロリドン溶液500gと、アセチレンブラック30gと、平均粒径50μmの炭酸リチウム粉末30gと、直径1.5mmのZrO2製ビーズ1.8kgを入れたものを、Al23製の円盤状の撹拌羽根を1500rpmで回転させることで15分間撹拌し、この後ZrO2製ビーズを全て取り除くことにより、ポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドン溶液中に、アセチレンブラックと炭酸リチウム粉末を均一に混合、分散させた正極ペーストを得た。
【0082】
電池A1で用いたのと同じLi2CO2粉末と、上記正極ペーストとを重量比94:56で混ぜたものを、特殊機化工業製ロボミックスにて撹拌羽根を3000rpmで30分撹拌して、ポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドン溶液中に、LiCoO2粉末と、ポリフッ化ビニリデンと、アセチレンブラックと、炭酸リチウム粉末とを重量比94:3:3:3で混合させた正極合剤スラリーを得た。
【0083】
この正極合剤スラリーを、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚み15μm)の片面に塗布し、乾燥した後、圧延した。これを20×20mmの正方形状に切り抜き、集電タブを取り付け、正極とした。
【0084】
〔電池の作製〕
電池A1の作製において、正極として、上記のようにして作製した正極を用いたこと以外は電池A1の作製方法と同様にして、電池A3を作製した。
【0085】
(実験6)
電池A3の正極の作製において、正極ペーストの作製の際に炭酸リチウム粉末の添加量を2g、4g、45g、または50gとし、正極活物質粉末とこれらのペーストをそれぞれ重量比〔94:53.2〕、〔94:53.4〕、〔94:57.5〕、または〔94:58〕となるように混ぜ、ポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドン溶液中での正極活物質粉末と、ポリフッ化ビニリデンと、炭酸材料粉末と、炭酸リチウム粉末とが重量比〔94:3:3:0.2〕、〔94:3:3:0.4〕、〔94:3:3:4.5〕、または〔94:3:3:5〕となるように均一に混合、分散された正極合剤スラリーを得たこと以外は電池A3の作製方法と同様にして、電池A4〜A7を作製した。
【0086】
(実験7)
電池A3〜A7の正極の作製において、正極活物質として、電池A2及びB4〜B6の正極活物質と同じLiNi0.4Mn0.3Co0.32を用いたこと以外は電池A3〜A7の作製方法と同様にして、電池A8〜A12を作製した。
【0087】
(実験8)
電池A3の正極の作製において、正極活物質として、LiOHと、Ni0.4Mn0.3Co0.3(OH)2とをLiと遷移金属全体のモル比が1.02:1になるようにして乳鉢にて混合した後、空気雰囲気中にて1000℃で20時間熱処理後に粉砕して得られた、平均粒子径約10μmのLi1.02Ni0.4Mn0.3Co0.32で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いたこと以外は電池A3の作製方法と同様にして、電池A13を作製した。この電池A13で用いたLi1.02Ni0.4Mn0.3Co0.32のBET比表面積は1.01m2/gであった。
【0088】
〔充放電サイクル特性の評価〕
電池A3〜A13について、電池A1と同様に充放電サイクル特性を評価した。評価結果を表2に示す。なお、サイクル寿命は電池A1のサイクル寿命を100とした指数である。
【0089】
〔正極活物質内含有炭酸リチウム量の測定〕
上記の電池A1〜A13で正極活物質として用いたリチウム遷移金属複合酸化物それぞれについて、リチウム遷移金属複合酸化物内に不可避的に含まれる炭酸リチウム量を、以下の方法で求めた。
【0090】
リチウム遷移金属複合酸化物を純水中に分散させ、超音波処理を10分間行った後、リチウム遷移金属複合酸化物粉末を濾過により取り除き、濾液を得た。この濾液を0.1NのHClの水溶液で中和滴定することにより、リチウム遷移金属複合酸化物粉末中に不可避的に含有されている炭酸リチウムの量を測定した。測定結果を、「正極活物質内含有炭酸リチウム量」として、表2に示す。
【0091】
表2には、上記「正極活物質内含有炭酸リチウム量」と、正極に添加した炭酸リチウム量(「添加炭酸リチウム粉末量」)と、これらの合計量(「正極内含有総炭酸リチウム量」)とを示している。
【0092】
【表2】

【0093】
電池A3〜A7及びA8〜A13においては、炭酸リチウムを予め導電剤と均一に混合分散させた正極ペーストを用いており、炭酸リチウムが電池A1及びA2に比べ、より均一に混合分散されている。電池A3及びA8と、電池A1及びA2とを比較すると、電池A3及びA8は、サイクル寿命が長く、充放電サイクル特性に優れていることがわかる。このことから、正極に含まれている炭酸リチウムが正極活物質の周りに均一に分布していることにより、サイクル特性がさらに向上することがわかる。
【0094】
また、電池A3〜A7及び電池A8〜A12のサイクル寿命を比較すると、電池A3及びA5〜A7並びに電池A8及びA10〜A12は、電池A4及びA9に比べ、優れた充放電サイクル特性を示していることがわかる。これは、正極内に含まれる炭酸リチウムの合計量が、正極活物質の0.3重量%以上であると、炭酸リチウム添加による効果がより有効に発揮され、充放電サイクル特性が高められるからであると考えられる。
【0095】
また、炭酸リチウムの含有量が、正極活物質の5重量%を超える電池A7及びA12においては、充放電時に、ガス発生による電池の膨れが認められた。
【0096】
〔正極断面のSEM観察〕
上記の電池A1及びA3で用いた各正極について、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図2は、電池A1の正極の断面を示す図であり、図3及び図4は、電池A3の正極の断面を示す図である。図2の倍率は700倍であり、図3の倍率は200倍であり、図4の倍率は1000倍である。
【0097】
図2から明らかなように、電池A1の場合、炭酸リチウム粉末は、凝集したままの状態で合剤層内に存在していることがわかる。なお、炭酸リチウムは、合剤層内に含まれる活物質や炭素材料に比べ導電性が低いため、これらに比べ白く映る。
【0098】
図3及び図4に示すように、電池A3においては、大きな粒子径の炭酸リチウム粒子が認められず、合剤層内において、正極活物質と炭酸リチウム粉末が均一に混合して存在していることがわかる。
【0099】
(実験9)
実験1において、正極の作製で炭酸リチウムを添加する代わりに、負極の作製で負極合剤スラリー内に電池A1の正極内に含まれるのと同量またはその10分の1の量の炭酸リチウム粉末(平均粒径50μm)を添加したこと以外は、実験1と同様にして、電池B7及び電池B8を作製した。
【0100】
また、実験1において、正極の作製で炭酸リチウムを添加する代わりに、電解液の作製で電解液内に電池A1の正極内に含まれるのと同量の炭酸リチウム粉末(平均粒径50μm)を添加した以外は、実験1と同様にして電池B9を作製した。
【0101】
電池B7〜B9について、上記と同様に充放電サイクル特性を評価し、評価結果を表3に示した。なお、表3には、電池A1の結果も併せて示した。
【0102】
【表3】

【0103】
表3から明らかなように、炭酸リチウムが正極内に添加されていない電池B7〜B9は、正極内に炭酸リチウムが添加されている電池A1に比べ、充放電サイクル特性が低くなっている。これは、電池B7及びB8では、炭酸リチウムが負極内に添加されているので、負極の電位が低いため炭酸リチウムの分解が生じず、電池A1におけるような炭酸リチウムによる効果が得られなかったことによるものであると考えられる。
【0104】
また、電池B7では、電池B8に比べ、負極内に添加されている炭酸リチウム量が多いため、負極活物質と負極バインダーの接触面積の低減が生じ、負極合剤層の強度が低下し、充放電時の負極活物質の体積変化により電極構造が破壊されて、集電性が低下し、充放電サイクル特性がより大きく低下したものと考えられる。
【0105】
また、電池B9においては、炭酸リチウムが電解液内に添加されているので、正極への添加のように、電池系内に存在する全ての炭酸リチウムが効果的に作用しないため、十分な充放電サイクル特性の向上が得られなかったものと考えられる。
【0106】
<参考実験>
ここでは、負極活物質として天然黒鉛を用いた電池を作製し、負極活物質が天然黒鉛である場合において、正極内に含まれる炭酸リチウムの影響について検討した。
【0107】
〔負極の作製〕
分散媒としてのN−メチル−2−ピロリドンに、負極活物質としての平均粒子径18μmの天然黒鉛粉末と、負極バインダーとしてのポリフッ化ビニリデンとを、活物質とバインダとの重量比が90:10となるように混合し、負極合剤スラリーとした。
【0108】
この負極合剤スラリーを、負極集電体としての圧延銅箔(厚み35μm)の片面(粗面)に、塗布、乾燥した。得られたものを25×30mmの長方形状に切り抜き、圧延して、負極C1とした。
【0109】
〔電池の作製〕
電池A1、B1〜B3、及び電池A2、B4〜B6の作製において、負極として、上記作製の負極C1を用いたこと以外は同様にして、電池C1〜C8を作製した。
【0110】
〔充放電サイクル特性の評価〕
上記の電池C1〜C8について、充放電サイクル特性を評価した。各電池を、25℃において、4.2Vまで充電した後、2.75Vまで放電し、これを1サイクルの充放電とした。1サイクル目の放電容量の80%に達するまでのサイクル数を測定し、サイクル寿命とした。電池C1〜C4のサイクル寿命は、電池C1のサイクル寿命を100とした指数である。
【0111】
【表4】

【0112】
表4に示す結果から明らかなように、負極活物質として天然黒鉛を用いた場合には、正極内に炭酸リチウムを添加し、かつ電解液内に二酸化炭素を溶解させる効果が、負極活物質にSiを用いた本発明に比べ認められない。従って、本発明に従い、負極活物質としてケイ素を含む材料を用いた場合に、本発明の効果が顕著に発揮されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明に従う実施例において作製したリチウム二次電池を示す正面図。
【図2】本発明に従う実施例において作製したリチウム二次電池を示す断面図。
【図3】電池A1の正極の断面を示す図。
【図4】電池A3の正極の断面を示す図。
【図5】電池A3の正極の断面を示す図。
【符号の説明】
【0114】
1…正極
2…負極
3…セパレーター
4…正極タブ
5…負極タブ
6…外装体
7…閉口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質としてケイ素を含む負極と、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と、非水電解質とを備えるリチウム二次電池であって、
前記正極内に炭酸リチウムが添加されており、前記非水電解質内に二酸化炭素が溶解されていることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
前記正極内に添加されている炭酸リチウムが、前記リチウム遷移金属複合酸化物と均一に混合されて前記正極内に含まれていることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記正極内に添加されている炭酸リチウムの量が、前記リチウム遷移金属複合酸化物に対して0.3〜5重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属複合酸化物が不可避的に炭酸リチウムを含有しており、この不可避的に含有される炭酸リチウムと前記正極内に添加されている炭酸リチウムの合計の量が、前記リチウム遷移金属複合酸化物に対して0.3〜5重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属複合酸化物に不可避的に含有される炭酸リチウムが、リチウム遷移金属複合酸化物の表面及びその近傍に存在している炭酸リチウムであることを特徴とする請求項4に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記正極が、前記正極活物質と、前記炭酸リチウムと、正極バインダーと、正極導電剤とを含む合剤層を、導電性金属箔からなる正極集電体の上に配置したものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記負極が、ケイ素及び/またはケイ素合金を含む活物質粒子と、バインダーとを含む合剤層を、導電性金属箔からなる負極集電体の上に配置したものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記負極が、前記合剤層を前記負極集電体の表面上で焼結して配置したものであることを特徴とする請求項7に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記非水電解質に溶解されている二酸化炭素の量が、0.01重量%以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−196435(P2006−196435A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245895(P2005−245895)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】