説明

リチウム二次電池

【課題】高容量化とともに、大電流充放電で長寿命、かつ安全性の高いリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】負極合剤層に箔状負極集電体を有する負極と、正極合剤層に箔状正極集電体を有する正極とが、セパレータを介して積層あるいは捲回されることにより形成される電極群と、上記電極群が浸漬される電解液とを備えてなるリチウム二次電池であって、上記箔状負極集電体および上記箔状正極集電体は、該集電体を貫通する複数の孔を有し、該孔は孔の周囲が箔状集電体の少なくとも一方の面側へ突出してなり、上記箔状集電体の上記孔周囲の突出部を含めた厚さが、上記負極または上記正極の該集電体および該合剤層を合わせた1枚の極板総厚さの 3 %をこえ 25 %以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンの吸蔵、放出が可能な材料を用いて負極を形成したリチウム二次電池は、金属リチウムを用いて負極を形成したリチウム電池に比べてデンドライトの析出を抑制することができる。そのため、電池の短絡を防止して安全性を高めた上で高容量なエネルギー密度の高い電池を提供できるという利点を有している。
近年ではこのリチウム二次電池のさらなる高容量化が求められる一方、電池抵抗の低減に伴う大電流充放電性能の向上が求められている。この点で従来では電池反応物質であるリチウム金属酸化物正極材または負極材自体の高容量化、さらにはこれら反応物質粒子の比表面積や電池設計による電極面積の増加、さらにはセパレータの薄形化による反応物質量の増加等の工夫がなされてきた。また、一方では電池内部で反応物質が集電体である金属箔から剥離・脱落して内部短絡を生じ、電池の電圧低下や発熱暴走などのリチウム二次電池の安全性が損なわれることがあった。そこで反応物質間や箔との結着性増加させるためにバインダーを増量したり、種類を変更したり(特許文献1)、また他の二次電池で採用されているような、剥離防止のために表面に凹凸を有する金属箔を使用すること(特許文献2、特許文献3)などを採用することが考えられる。
【0003】
しかしながら、これまでに提案されてきた手段では、単に容量という観点では増大できるが、加えて抵抗低減による大電流充放電特性の改善という点では未解決であり、ニカド電池やニッケル水素電池等の他の二次電池と比較して、リチウム二次電池の大きな性能障壁であった大電流充放電が必要とされる電動工具やハイブリッドカー用途への展開が不可能であった。また、大電流による充放電サイクルを繰り返すと正・負極材の膨張収縮により、正・負極粒子間や金属箔との結着性が損なわれて抵抗が大きくなったり、箔から剥離・脱落を加速したりして、結果、電池として大電流が流せなくなり早期寿命になったり、電池が発熱暴走し、不安全なものになるおそれもあった。
【特許文献1】特開平5−226004号公報
【特許文献2】特開2004−342519号公報
【特許文献3】特開2002−198055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、高容量化とともに、大電流充放電で長寿命、かつ安全性の高いリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のリチウム二次電池は、負極合剤層に箔状負極集電体を有する負極と、正極合剤層に箔状正極集電体を有する正極とが、セパレータを介して積層あるいは捲回されることにより形成される電極群と、上記電極群が浸漬される電解液とを備えてなるリチウム二次電池であって、上記箔状負極集電体および上記箔状正極集電体は、該集電体を貫通する複数の孔を有し、該孔は孔の周囲が箔状集電体の少なくとも一方の面側へ突出してなり、上記箔状集電体の上記孔周囲の突出部を含めた厚さが、上記負極または上記正極の該集電体および該合剤層を合わせた1枚の極板総厚さの 3 %をこえ 25 %以下であることを特徴とする。
【0006】
上記箔状負極集電体および上記箔状正極集電体は、該集電体の表面全体に上記突出部を有する孔を備えるもの、または該集電体の長手方向もしくは幅方向に対して孔を有さない部分を残して該集電体の表面に上記突出部を有する孔を備えるものであることを特徴とする。
【0007】
上記箔状正極集電体を除く上記正極合剤層の密度が 1.8〜3.6 g/cc であり、上記箔状負極集電体を除く上記負極合剤層の密度が 1.2〜1.6 g/cc であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリチウム二次電池は、上記電池構成部材として、負極合剤層に箔状負極集電体を有する負極と、正極合剤層に箔状正極集電体を有する正極とが、セパレータを介して積層あるいは捲回されることにより形成される電極群と、この電極群が浸漬される電解液とを備えている。また、上記負極および正極箔状集電体は、該集電体を貫通する複数の孔を有し、該孔は孔の周囲が箔状集電体の少なくとも一方の面側へ突出してなり、かつ上記箔状集電体の上記孔周囲の突出部を含めた厚さが、負極または正極の集電体および合剤層を合わせた1枚の極板総厚さの 3 %をこえ 25 %以下である。この孔周囲の突出部により、集電体表面に形成する活物質合剤層の保持能力が向上し、合剤層の剥離を防止することができる。また上記孔周囲に突出部を有する複数の孔を備えることにより、集電体としての電子伝導ネットワークが向上し、電極抵抗が低減され、大電流充放電が可能となる。
さらに、上記孔周囲の突出部により当該充放電中に正極または負極が膨張収縮して、それぞれの粒子間や集電体との密着性が向上し、急激な容量や出力の低下や内部短絡の防止を可能にする。
また、集電体が複数の孔を有することにより、発熱時の溶融応答性が良好で、瞬時に箔が切断されることにより部分的な電流パスのシャットダウンが生じて、より安全性の高い電池が得られる。
【0009】
また本発明のリチウム二次電池は、箔状集電体の表面全体に上記突出部を有する孔を備えるもの、または該集電体の長手方向もしくは幅方向に対して孔を有さない部分を残して該集電体の表面に上記突出部を有する孔を備えるものである。集電体の一部に穿孔を施さない部分を残すことにより、集電体自体の強度が増加し、プレス時や折り曲げた際に集電体が切断されることなく、結果極板が割れにくくなり、内部短絡を防止できる。
【0010】
また本発明のリチウム二次電池は、正極または負極箔状集電体を貫通する複数の孔の周囲に突出部を有するとともに、正極集電体を除く正極合剤層の密度を 1.8〜3.6 g/cc および負極集電体を除く負極合剤層の密度を 1.2〜1.6 g/cc とすることで、活物質自体を増量または合剤層を厚くすることができ、大電流充放電が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のリチウム二次電池の一例について図に基づいて説明する。図1は本発明のリチウム二次電池の一例を示す断面図であり、特に正極、負極およびセパレータが積層されて形成された電極群の断面図を示す。
【0012】
図1に示すように、本発明のリチウム二次電池は、負極合剤層1bに箔状負極集電体1aを有する負極1と、正極合剤層2bに箔状正極集電体2aを有する正極2とが、セパレータ3を介して積層されることにより形成される電極群4を備える。この電極群4は上記のように積層されるものの他に、負極および正極がセパレータを介して捲回されているものも挙げられる。上記電極群4は封口される電池ケースの内部で電解液に浸漬されている(図示せず)。
【0013】
本発明のリチウム二次電池用負極1は、負極合剤層1bとして、活物質となるリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な材料を主材料とし、該材料と、結着剤と、分散溶媒等とを混練してペースト状にし、箔状負極集電体1aの両面に塗布して形成することができる。
リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な材料としては、炭素材、リチウム−アルミニウム合金、シリコン系またはスズ系リチウム合金などを挙げることができる。この中で、リチウムイオンの吸蔵・放出量が多く、不可逆容量が小さいなどの理由から、炭素材を用いることが好ましい。
また、本発明に用いることができる負極集電体1aとしては、電気化学的性質、箔状への加工性やコスト面から、銅箔が用いられている。
【0014】
本発明のリチウム二次電池用正極2は、正極合剤層2bを形成する活物質として、リチウム含有金属酸化物、リチウム含有金属リン酸化合物またはリチウム含有化合物を主材料とし、該材料と、結着剤と、分散溶媒等を混練してペースト状にし、正極集電体2aの両面に塗布して形成することができる。
リチウム含有金属酸化物としては、LiCoO2、Li(Ni/Co/Mn)O2、Li2MnO4などが挙げられ、リチウム含有金属リン酸化合物としては、LiFePO4、LiCoPO4などが挙げられ、リチウム含有化合物としては、LiTi2(PO43、LiFeO2などが挙げられる。この中で、電気化学特性、安全性やコスト面で、LiCoO2、Li(Ni/Co/Mn)O2、LiFePO4を用いることが好ましい。
また、本発明に用いることができる正極集電体2aとしては、アルミニウム箔を性能上用いる。
【0015】
また、本発明において、正極集電体を除く上記正極合剤層の密度は 1.8〜3.6 g/cc であり、負極集電体を除く上記負極合剤層の密度は 1.2〜1.6 g/cc であることが好ましい。上記範囲外であると、特に下限側は活物質である合剤層と集電体との密着性が低下するため、サイクル性能が低下するおそれがある。また、上限側では極板の多孔性が確保されず、電解液の拡散性が抑制されて、結果大電流充放電性能が低下する。
【0016】
図1に示すように、本発明のリチウム二次電池に使用する負極集電体1aおよび正極集電体2aには、これら箔状集電体を貫通する孔の周囲が箔状集電体の少なくとも一方の面側へ突出した突出部(1d、2d)を有する複数の孔(1c、2c)が設けられている。
【0017】
図2は突出部を有する複数の孔を備えた集電体の例を示す端面図である。孔1cは、集電体1aの一方の面側へ突出部1dを有するもの(図2(a)または図2(c))であっても、集電体1aの両面へ突出部1dを有するもの(図2(b)または図2(d))であってもよい。ここで、突出部1dは少なくとも合剤層を形成する面側に突出していることが好ましい。また、先端が孔の開口方向より外側に広がる形状あるいは鉤状に曲がった形状の突出部1d’を有するものであってもよく、この形状により集電体1a上に形成される合剤層との密着性がより高まる(図2(c)または図2(d))。集電体1aに設けられる複数の孔1cのパターンは、周期的あるいは連続的に設けられるもの、またはランダムで設けられるもののどちらでもよいが、その上に形成される合剤層との密着性や電極抵抗などの理由から、周期的あるいは連続的なものであることが好ましい。上記は負極集電体1aを例に説明したが、正極集電体2aについても同様である。
箔状集電体1aに上述の孔周囲に突出部1dまたは1d’を有する複数の孔1cを設ける方法としては、ロール加工、または金型プレス加工などの方法を用いることができる。また、先端が孔の開口方向より外側に広がる形状あるいは鉤状に曲がった形状の突出部1d’を得るために、さらに上述の穿孔方法に加えてロールプレスまたは金型プレス加工などの方法を用いることができる。
【0018】
図3は突出部を有する複数の孔を備えた箔状集電体および合剤層からなる1枚の負極板の断面図である。孔周囲に突出部1dを有する孔1cが設けられた負極集電体1aの厚さt1は、負極集電体1aおよび負極合剤層1bを合わせた1枚の極板総厚さt0の 3 %をこえ 25 %以下であることが好ましい。ここで集電体1aの厚さt1とは、集電体1aに設けられた孔1c周囲の突出部1dが集電体1aの一方の面側のみへ突出している場合は、孔1cの非突出面から突出部1dの先端までの高さであり(図3(a))、孔1c周囲の突出部1dが集電体1aの両面へ突出している場合は、一方の面側の突出部1dの先端から反対の面側の突出部1dの先端までの高さである(図3(b))。孔周囲の突出部を含めた集電体1aの厚さt1の割合が 3 %以下では活物質である合剤層と集電体との間で所期の密着性を得ることができず、また 25 %をこえると合剤の集電体上への塗布が困難になる。上記は負極集電体1aを例に説明したが、正極についても同様である。
【0019】
本発明のリチウム二次電池における箔状負極集電体および箔状正極集電体は、該集電体の表面全体に上述の突出部を有する孔を備えるものであっても、集電体の長手方向もしくは幅方向に対して孔を有さない部分を残して集電体の表面に上述の突出部を有する孔を備えるものであってもよい。本発明において、活物質を集電体表面の上記突出部を有する孔が設けられている部分へ塗布して合剤層を形成する。集電体の長手方向もしくは幅方向に対して孔を有さない部分、すなわち合剤層を形成しない部分を残すことで、集電体の長手方向もしくは幅方向の強度が増し、極板加工時や積層、捲回等の電池組込み時の極板切断等を防止することができる。
【0020】
本発明のリチウム二次電池に使用できるセパレータは、正極および負極を電気的に絶縁して電解液を保持するものである。上記セパレータは合成樹脂製などを挙げることができ、その具体例としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどを挙げることができる。電解液の保持性が良いことから、多孔性フィルムを用いることが好ましい。
【0021】
本発明のリチウム二次電池において、上述する電極群が浸漬される電解液としては、リチウム塩を含む非水電解液またはイオン伝導ポリマーなどを用いることが好ましい。
【0022】
リチウム塩を含む非水電解液における非水電解質の非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等が挙げられる。
また、上記非水溶媒に溶解できるリチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ホウ四フッ化リチウム(LiBF4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiSO3CF4)等が挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例により、本発明に係るリチウム二次電池を詳細に説明する。しかし、本発明はその要旨をこえない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本発明における正極および負極及び電池作製方法の一例を以下に示す。それぞれの実施例では、下記正極、負極、セパレータを組合せて電池を得た。
【0024】
<正極の作製>
コバルト酸リチウムを正極活物質とし、活物質 95.3 重量部に、導電剤 2.2 重量部と結着剤として 2.5 重量部のポリフッ化ビニリデンを添加した。これに分散溶媒としてN−メチルピロリドンを添加、混練した正極合剤(スラリー)を作製した。
20 μm アルミニウム箔に穿孔加工を施して、当該加工アルミ箔厚さを正極所定総厚さ(アルミニウム箔の両面に上記材料を塗布・乾燥後、プレスをした時の厚さ)のそれぞれ表1に示す割合としたものを準備した。上記正極スラリーを当該加工アルミニウム箔の両面に塗布、乾燥し、その後、プレス、裁断して、リチウム二次電池用正極を得た。
【0025】
<負極の作製>
黒鉛粉末 93 重量部に結着剤として 7 重量部のポリフッ化ビニリデンを添加し、これに分散溶媒としてN−メチルピロリドンを添加、混練した負極合剤(スラリー)を作製した。
10 μm の銅箔に穿孔加工を施して、当該加工銅箔厚さを負極所定総厚さ(銅箔の両面に上記材料を塗布・乾燥後、プレスをした時の厚さ)に対してそれぞれ表1に示す割合としたものを準備した。上記負極スラリーを当該加工銅箔の両面に塗布、乾燥し、その後、プレス、裁断して、リチウム二次電池用負極を得た。
【0026】
上記で得られた正極および負極の表面を目視および光学顕微鏡にて観察した。その塗工面の表面形状が平滑であったものを「良好」とし、それ以外の結果を理由を付して表1に併記した。
【0027】
【表1】

表1に示すように、スラリー塗工面の表面状態は、突出部を有する穿孔加工箔厚さの極板総厚さに対する割合は、正極および負極共に 3〜25 %の範囲のものが良好な結果であり、特に 5〜25 %の範囲のものが良好であった。25 %のものでは、塗工面がやや肌荒れとなったが、電池作製に問題はなかった。26 %のものでは、穿孔した孔径が大きく、スラリーの塗工が困難であった。一方、割合が逆に小さくなると、通常の平滑な金属箔(穿孔加工を施していない金属箔)に近づくために塗工としては問題がない。
上記の結果から、以下の実施例4および実施例5〜7では、正・負極ともに正極3および負極3の箔仕様のものを用いることとした。
【0028】
実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例2
上記のように作製した、正極および負極の極板を用いて電池を作製した。ただし、正・負極の組み合わせについては、電池性能の差違を示すために、表2に示すように、実施例1として正極2と負極2を、実施例2として正極3と負極3を、という具合に組み合わせた。また比較例1として、穿孔加工を施していない金属箔を用いて正極2および負極2とそれぞれ同様の方法で作製された正極6および負極6を使用し、また比較例2として、上述した箔厚さの割合が平滑箔に近い正極1および負極1を組み合わせて使用した。
上記の正極および負極を、厚さ 20 μm のポリエチレン製セパレータを介し捲回して電極群とし、この電極群を円筒形の電池缶に挿入、電解液を所定量注入後、上蓋をカシメ封口することにより円筒形リチウム二次電池を得た。電解液にはEC、MECを体積比で 30:70 に混合した溶液中に6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を 1 mol/l 溶解したものを用いた。この電池の設計容量は 1800 mAh である。
電池性能試験としては 1 kHz の交流波による電池内部抵抗測定、2 ItA と 0.2 ItA定電流放電時の容量比率、さらには 2 ItA 定電流放電( E.V = 3.0 V )、4.2 V ( 2 ItA Cut-off ) CCCV 3 hr 充電の充放電サイクルにおける初期5サイクル目の容量に対する 200 サイクル目の容量比率を測定した。試験性能結果を表2に併記する。
【0029】
実施例4
上述の正極3および負極3の箔仕様に穿孔し、かつ集電体の幅方向に対して穿孔加工を施さない部分を残した集電体箔を用いて極板を作製し、上記実施例1と同様にして円筒形のリチウム二次電池を得た。この電池の設計容量は 1800 mAh である。
電池性能試験として、上述の電池内部抵抗測定、電流放電時の容量比率およびサイクル容量比率を測定した。試験性能結果を表2に併記する。
【0030】
【表2】

表2に示すように、突出部を有する穿孔加工箔厚さの割合が 3 %である比較例2は、穿孔加工を施していない比較例1と変化がないことがわかった。また、25 %の金属箔を用いた実施例3は、比較例1と比べて性能は向上するが、正比例しないことがわかり、上記割合の上限と考えられる。25 %をこえると塗工面が平滑でなくなり、セパレータと極板との界面で隙間が開いて、液の拡散性が悪くなり、所期の効果が得られなくなると考えられる。
したがって、突出部を有する穿孔加工箔厚さの割合は 3 %をこえ 25 %以下が好ましく、5〜25 %がさらに好ましいと言える。これは比較例1の平滑箔に比べ、孔周囲に突出部を有する孔の存在により合剤活物質中での電子伝導性が向上して抵抗が小さくなる。またこのことにより大電流での放電容量が大きくなることがわかる。さらには孔周囲の突出部により箔と活物質合剤との密着性が向上して、かつ抵抗が小さいのでサイクル特性は向上することになる。
また、実施例4の部分的に穿孔加工をしない箔で極板を作製すると、全面加工されたものに比べて、通電部が広くなり抵抗が下がる場合がある。そして特に集電箔幅方向の強度が増加してプレス時の極板切断等の生産上の不具合が改善されることがわかった。
【0031】
実施例5〜実施例7および比較例3〜比較例4
上述の正極3と負極3の箔仕様の集電体箔を用いて、塗工乾燥後プレスをする際に、それぞれ表3に示す正極合剤密度と負極合剤密度に設定した電極を作製した。
これらの極板により実施例1と同様にして円筒形のリチウム二次電池を得た。この電池の設計容量は 1800 mAh である。
上記電池を、2 ItA と 0.2 ItA 定電流放電時の容量比率、さらには 2 ItA 定電流放電( E.V = 3.0 V )、4.2 V ( 2 ItA Cut-off ) CCCV 3 hr 充電の充放電サイクルにおける初期5サイクル目の容量に対する 200 サイクル目の容量比率を測定した。結果を表3に併記する。
【0032】
比較例5
集電体に穿孔加工を施していない 20 μm アルミニウム箔と 10 μm 銅箔を用いて、それぞれ表3に示す正極合剤密度と負極合剤密度となるようにプレスした極板を用いた以外は上記実施例1と同様にして円筒形のリチウム二次電池を得た。この電池の設計容量は 1800 mAh である。
上記電池を、2 ItA と 0.2 ItA 定電流放電時の容量比率、さらには 2 ItA 定電流放電( E.V = 3.0 V )、4.2 V ( 2 ItA Cut-off ) CCCV 3 hr 充電の充放電サイクルにおける初期5サイクル目の容量に対する 200 サイクル目の容量比率を測定した。結果を表3に併記する。
【0033】
【表3】

表3の結果より、合剤密度の限界は正極下限が 1.8 g/cc で、負極が 1.2 g/cc、上限については正極が 3.6 g/cc で、負極が 1.6 g/cc であることがわかる。これは下限値側になると極板の多孔度が大きくなるので電解液の拡散が良好となるが、電子伝導性が低下するので大電流放電容量は逆に小さくなる。そして寿命においても活物質の密着性が低下するのでサイクル寿命が低下することになる。特に、正極の 1.7 g/cc や負極の 1.1 g/cc の密度は塗工した状態の密度であり、プレスされていないのでさらに集電箔との密着性は劣る。一方上限値側になると多孔度が小さくなるので大電流放電容量は小さくなる。しかしサイクル寿命は良くなるように推定されるが、極板をプレスして極板密度を上げていくと、本発明の集電体の穿孔の孔周囲の突出部の高さが結果として押しつぶされて低下することになるので、比較例5の通常平滑箔に近づくため、かえって箔との密着性は劣ることになり、サイクル性能は低下すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のリチウム電池は、高容量であって、大電流充放電が繰り返し可能であり、かつ安全性が高いため、電動工具やハイブリッドカーなど大電流充放電が必要とされる用途に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のリチウム二次電池の一例を示す断面図である。
【図2】突出部を有する複数の孔を備えた集電体の例を示す端面図である。
【図3】突出部を有する複数の孔を備えた集電体および合剤層の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 負極
1a 負極集電体
1b 負極合剤層
1c 孔
1d 突出部
2 正極
2a 正極集電体
2b 正極合剤層
2c 孔
2d 突出部
3 セパレータ
4 電極群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極合剤層に箔状負極集電体を有する負極と、正極合剤層に箔状正極集電体を有する正極とが、セパレータを介して積層あるいは捲回されることにより形成される電極群と、前記電極群が浸漬される電解液とを備えてなるリチウム二次電池であって、
前記箔状負極集電体および前記箔状正極集電体は、該集電体を貫通する複数の孔を有し、該孔は孔の周囲が箔状集電体の少なくとも一方の面側へ突出してなり、
前記箔状集電体の前記孔周囲の突出部を含めた厚さが、前記負極または前記正極の該集電体および該合剤層を合わせた1枚の極板総厚さの 3 %をこえ 25 %以下であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
前記箔状負極集電体および前記箔状正極集電体は、該集電体の表面全体に前記突出部を有する孔を備えるもの、または該集電体の長手方向もしくは幅方向に対して孔を有さない部分を残して該集電体の表面に前記突出部を有する孔を備えるものであることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記箔状正極集電体を除く前記正極合剤層の密度が 1.8〜3.6 g/cc であり、前記箔状負極集電体を除く前記負極合剤層の密度が 1.2〜1.6 g/cc であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−311171(P2008−311171A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159982(P2007−159982)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(502318560)エス・イー・アイ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】