説明

リチウム同位体分離濃縮法、装置、方法およびリチウムイオン選択的透過膜、並びにリチウム同位体濃縮物

【課題】水銀を使用することなく扱い易く、同位体分離係数を従来法に比べて格段によくすることができるリチウム同位体分離濃縮法および装置並びにリチウム同位体分離用隔膜とシステムを提案する。
【解決手段】リチウムイオン伝導性のイオン液体、例えば、TMPA−TFSIまたはPP13−TFSI、を多孔質体に含浸保持させたリチウムイオン選択的透過膜に、Li同位体およびLi同位体を含むリチウム溶液を接して配置し、透析法によってLi同位体およびLi同位体を分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム同位体分離濃縮法、リチウム同位体分離濃縮装置、LiまたはLi濃縮回収方法、リチウムイオン選択的透過膜およびLi濃縮物またはLi濃縮物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムの天然同位体はLiが約7.6%でLiが約92.4%の割合で存在する。核融合炉の燃料となるトリチウムは、6−リチウム(Li)と中性子との核反応により生産するが、核融合エネルギーを取り出すために必要となるトリチウム量を確保するためには天然同位体比より高い30〜90%濃縮Liが必要となる。一方、7−リチウム(Li)は、加圧水型原子力発電所の水素イオン調整用に使われており、その場合トリチウムを生成するLiが含まれないことが必要とされる。
【0003】
世界各国において、将来のエネルギーとして核融合技術の開発が盛んに進められており、そのため濃縮Li資源の確保が必要不可欠になっている。濃縮Li資源については、日本では海外からの調達が考えられていたが、国際熱核融合実験炉(ITER)の建設決定に伴い世界的に核融合研究の競争が激しくなり、調達が不可能となった。
【0004】
濃縮Li資源の回収技術の開発に関しては、1970年代にLi同位体分離の様々な原理に基づく研究が盛んに行われたが、それらのほとんどが同位体の分離効率が低く、工業化や大量製造のためのスケールアップが困難であったため、実用化されず現在に至っている。
【0005】
リチウム同位体分離としては、アマルガム法、分子蒸留、イオン交換法、電気泳動法(溶融塩法)、溶媒抽出法が知られている。その他のリチウム同位体分離法としては、クラウンエーテル抽出法、クラウンエーテル樹脂吸着クロマト分離法、グラファイトインターカレート法、リン酸ジルコニウム吸着クロマト分離法および電気化学的酸化還元法が知られている。
【0006】
特許文献1には、リチウム同位体分離方法とその装置が記載されている。すなわち、この文献には、LiとLiとが混在する原料の中から、Liを分離する方法があって、Liイオン伝導体に電界を加え、LiとLiとの前記Liイオン伝導体のイオン伝導度の違いにより、Liを正電位側から負電位側へと前記Liイオン伝導体中を移動させ、原料の中からLiを分離することを特徴とするリチウム同位体分離方法が記載され、固体電解質セラミックを使用することが記載されている。しかしこの方法では、リチウム原料を溶融塩の状態に保つ必要があり、しかも前記Liイオン伝導体のリチウム透過分離効率を向上させるためには高温状態が必要であるため、システムの耐熱性の問題やリチウム同位体分離係数が低い方法であった。
【0007】
【特許文献1】特開2002−79059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで実用化されているLi同位体分離法は、水酸化リチウム水溶液とリチウムアマルガム(リチウムと水銀の合金)との間のリチウム同位体の向流交換反応を用いるアマルガム法(特許文献2)である。このアマルガム法によるリチウム同位体分離係数は1.04−1.09の範囲のものである。しかし水銀による環境汚染の観点から、水銀を用いないイオン交換膜法及び溶融塩法を利用したLi同位体分離に関する研究が1970年代以降盛んに行われ今日に至っている。しかし、イオン交換膜法は同位体分離係数が小さく、溶融塩法はエネルギー消費量が大きく大量製造へのスケールアップも困難という結果が得られ、実用化には至らなかった。また、他の方法にあっても同位体の分離係数が1.001−1.01というように小さいものであった。
【0009】
以上の理由から、工業的なLi同位体分離法としては、これまでアマルガム法以外には無かった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、水銀を使用することなく扱い易く、同位体分離係数を従来法に比べて格段によくすることのできるリチウム同位体分離濃縮法および装置、並びにシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体あるいは該イオン液体にさらにリチウム選択的吸着性を有するクラウンエーテル化合物を混合溶解させたものを多孔質体に含浸保持させたリチウムイオン選択的透過膜に、Li同位体およびLi同位体を含むリチウム溶液を接して配置し、透析法によってLi同位体およびLi同位体を分離することを特徴とするリチウム同位体分離濃縮法を提供する。
【0012】
本発明は、また、前記透析法として電気透析法もしくは塩濃度差透析法を用いることを特徴とするリチウム同位体分離濃縮法を提供する。
【0013】
本発明は、また、前記リチウムイオン選択的透過膜を、表面が密構造で内部が粗構造の多孔質体で形成したことを特徴とするリチウム同位体分離濃縮法を提供する。
【0014】
本発明は、胴体と、該胴体内に配置される、リチウムイオン伝導性のイオン液体あるいは該イオン液体にさらにリチウム選択的吸着性を有するクラウンエーテル化合物を混合溶解させたものを多孔質体に含侵保持させたリチウムイオン選択的透過膜および該リチウム選択性透過膜に接した、Li同位体およびLi同位体を含むリチウム溶液槽と、を備えることを特徴とするリチウム同位体分離濃縮装置を提供する。
【0015】
本発明は、また、前記リチウム同位体分離濃縮装置が、前記リチウムイオン選択的透過膜と前記リチウム溶液槽とが隣接するようにして多段に配置されて、Li濃縮溶液あるいはLi濃縮溶液が生成される第一プロセス、その後段に陽イオン交接樹脂濃縮回収装置を配置し生成されたLi同位体濃縮溶液あるいはLi同位体濃縮溶液からLiまたはLiを陽イオン交換樹脂によって吸着回収する第二プロセス、該陽イオン交換樹脂濃縮回収装置によって濃縮して回収された高濃度Li溶液あるいは高濃度Li溶液を電解透析濃縮回収装置によって濃縮Liまたは濃縮Liを水酸化リチウム溶液としてカソード側に回収し、同時にアノード側に塩酸を回収し、該生成回収塩酸を前段の陽イオン交換樹脂濃縮回収装置の吸着リチウムイオンの溶離液とできる第三プロセス、以上のプロセスから構成されることを特徴とするLiまたはLi同位体高濃縮回収方法またはシステムを提供する。
【0016】
本発明は、また、前記LiまたはLi濃縮回収システムで濃縮回収したことを特徴とするLi濃縮物またはLi濃縮物を提供する。
【0017】
本発明は、また、前記リチウム同位体分離濃縮装置が、前記リチウムイオン選択的透過膜と前記リチウム溶液槽とが隣接するようにして多段に配置されて多段型Li同位体分離濃縮装置が構成され、該多段型Li同位体分離濃縮装置をカスケードに多段階に構成したことを特徴とするLiまたはLi同位体高濃縮回収システムを提供する。
【0018】
本発明は、また、前記リチウムイオン選択的透過膜を提供する。
【0019】
本発明は、また、表面が密構造で内部が粗構造としたことを特徴とするリチウムイオン選択的透過膜を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明はTMPA−TFSIあるいはPP3−TFSIに代表させるリチウムイオン伝導性を有するイオン溶液を多孔質体に含浸保持させて使用しており、これによって水銀を使用することなく扱い易く、同位体分離係数を従来法に比べて格段に高く向上できるリチウム同位体分離濃縮法および装置並びにシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0022】
図1は、本発明の実施例であるリチウム同位体分離濃縮の原理を示す図である。
図1に示すリチウム同位体分離濃縮装置100は、胴体1と、この胴体内に配置されるリチウムイオン伝導性のイオン液体あるいは該イオン液体にリチウムに対し選択的吸着性を有するクラウンエーテル化合物を混合溶解したものを多孔質に含浸保持されたリチウムイオン選択的透過膜2およびこのリチウムイオン選択的透過膜2に接したLi同位体およびLi同位体を含むリチウム溶液槽(リチウム原料溶液槽)3と、を備えて構成される。
【0023】
リチウムイオン選択的透過膜2の他の側にはLiが分離濃縮されて収容されるLi分離濃縮槽4が形成される。
【0024】
リチウム溶液槽3にはアノード電極5が、そしてLi分離濃縮槽4にはカソード電極6が配設される。リチウム溶液槽3にはLiおよびLiが天然比で混在する例えば塩化リチウム(LiCl)などのLi/Li天然比溶液7を導入する導入路8およびLi/Li天然比溶液からLiが減損したLi減損液9を導出する導出路10が接続される。
【0025】
Li分離濃縮槽4にはLiおよびLiが天然比で混在する例えば塩化リチウム(LiCl)溶液を導入する導入路12およびLi濃縮液13を導出する導出路14が接続される。そして、Li濃縮液13にLi回収14がなされる。
【0026】
リチウムイオン選択的透過膜2は、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体あるいは該イオン液体にさらにリチウム選択的吸着性を有するクラウンエーテル化合物を混合溶解させたものを疎水性多孔質体(多孔質膜を含む)15に含浸保持(イオン液体含浸保持16)させて構成される。
【0027】
リチウムイオン選択性のあるイオン液体としてTMPA−TFSI(正式化学名:N,N,N-Trimethyl-N-propylammonium bis(trifluoromethanesulfonyl) imide)あるいはPP3−TFSI(正式化学名:N-Methyl-N-propylpiperidinium bis(trifluoromethanesulfonyl) imide)が使用されるが他のイオン液体であってもよい。他のイオン液体として、例えば、
1-Alkyl-3methylimidazoliumをカチオンとしてTFSIアニオン((CF3SO2)2N-)を組み合わせたイオン液体として、1-Ethyl-3methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide や、1-Ethyl -2,3methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide などのイミダゾリウム系イオン液体があり、1-Ethylpyridinium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide や 1-Butylpyridinium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide などのピリジニウム系イオン液体、Trimethylphosphonium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide、Polyethyleneoxide(PEO) bis(trifluoromethanesulfonyl)imideなどのイオン液体、他にもスルフォン酸型Zwitterion、カルボン酸型Zwitterion、イミド酸型Zwitterion、ボレート型ZwitterionにそれぞれTFSIアニオンのイオン液体、以上のリチウムイオン伝導性イオン液体としては、TFSIアニオンを含むものが良好なリチウムイオン伝導性を有する。
さらに、それらイオン液体に混合溶解してリチウム同位体分離特性を高めるクラウンエーテル化合物としては、12−クラウン−4−エーテルが適している。いずれにしても本実施例にあっては、LiイオンとLiイオンを分離するに当って、リチウム同位体分離のために水溶液であるイオン液体あるいはそのイオン液体にクラウンエーテルを混合溶解させたものを使用することを特徴とする。
【0028】
透過法として、電気透過法あるいは塩素濃度透析法が用いられるが、他の透析法であってもよい。
【0029】
図2は、リチウム選択的透過膜2を円筒形に構成した例を示す。
図2(a)に示すように、円筒形に構成されたリチウムイオン選択的透過膜2は円筒状の胴体1の中央部周囲に配置され、外周部にLi溶液槽3が、そしてリチウムイオン選択性透過膜2の中央部、すなわち胴体1の中央部にLi濃縮槽4が形成される。Li分離濃縮槽4には、図1と同様にリチウム溶液13の導入路12、Li濃縮溶液13の導出路14が接続される。
【0030】
図2(b)に示すように、リチウムイオン選択的透過膜2は円筒型に、疎水性多孔質膜15(図1)にイオン液体を含浸保持16(図1)したイオン液体含浸部16Aを構成する。イオン液体含浸多孔質隔膜で形成される。この多孔質隔膜の材質としては、例えばテフロン(登録商標)などの撥水性材料が望ましい。
【0031】
図2(b)のA部断面拡大図を図2(c)に示す。図2(c)において、イオン液体を、表面(外表面、内表面)が密構造で、内部が粗構造の多孔質体(多孔質膜を含む。)のフィルタ状物質に含浸させることで、粗部分の含浸部をイオンが比較的自由に動き得るようにして、内外表面部でイオン液体が多孔質体外へ脱離することを低減あるいは防止することができる。この円筒内外表面に疎水性多孔質膜を貼付けることも、イオン液体の脱離防止に効果的である。
【0032】
図2に示す例にあってはリチウムイオン選択的透過膜2を円筒形に形成したが、平板状に形成して平板状隔膜構成とすることもでき、構成は上述した図1と同様とすることができる。
【0033】
本発明は、Liイオンの同位体を選択的に分離回収するに当ってイオン液体あるいはイオン液体にクラウンエーテル化合物を混合溶解したものを多孔質隔膜に含浸させたものを使用することを特徴とし、Liイオンの選択的透過性を有するイオン液体を含浸させた無機あるいは有機の多孔質隔膜を用いて透析法によってLiイオンとLiイオンに分離することを原理とする。LiイオンとLiイオンではイオン半径がわずかに異なるだけでなく、イオンの移動度はイオンの質量に依存することにより、イオン液体含浸多孔隔膜中のLi同位体毎のイオン伝導速度に差が生じるため、伝導速度の速いLiがイオン液体含浸多孔隔膜(特に有機質の多孔隔膜)を通して選択的に回収される。
【0034】
図1に示すように、天然同位体比のLi水溶液(Li/Li天然比溶液7、アノード側)とLiが透過する溶液(Li/Li天然比溶液11、カソード側)の間で、Liイオンに選択的吸着性を有するイオン液体を含浸した多孔隔膜(リチウムイオン選択的透過膜2)の両側に電位を加えることにより、イオン液体含浸多孔質隔膜を通してLiイオンのみが移動する。移動の際、LiイオンはLiイオンより移動速度が速いため、Liイオンは速くLi分離濃縮槽4に移動し、Liは、リチウム溶液槽3に多く留まる。Li移動後には、カソード側でLiが濃縮された溶液となり、一方元の溶液であるリチウム溶液はLiが減損し、Li濃度が移動前のLi/Liの比に比べて増大した状態になる。
【0035】
分離濃縮されたLi液はLi回収溶液(Li/Li天然比LiCl溶液)に伴われてLi濃縮液13として取り出され、Li回収14される。一方、Liが減損したリチウム溶液(Li減損液9)からはLiの減損に伴って相対的に濃度の増したLiがLi濃縮液として回収される。
【0036】
図3は、イオン液体としてTMPA−TESIあるいはPP13−TFSIを使用した場合のLi同位体分離試験効果を示す。
【0037】
図3においては、X軸は印加する電流の強さを示し、Y軸はLi分離係数を示す。Li同位体分離濃縮体を得るには、Li同位体分離係数が高く、Li回収量の多いことが望ましい。印加する電流を増加させるといずれかの場合にあっても従来例に比べ格段に高いLi分離係数が得られる。30mA以上にあっては大きなLi分離係数が得られないが、10mA以内において従来例に比べて格段に高いLi分離係数が得られる。PP13−TFSIの場合、約3mAの場合に1.20という極めて高いLi分離係数が得られる。従来の方法であるアマルガム法のLi分離係数が1.04〜1.09、イオン交換法の1.001〜1.01に比べ、本発明の場合はLi分離係数が非常に高く1.15〜1.40の効率でLiを分離回収できることが判る。
【0038】
図4は、本実施例による透析電流の強さに対するLi同位体分離係数の値を示すLi同位体分離試験結果である。この条件においても図3と同様に、従来例に比べて格段に高い6Li同位体分離係数が得られている。従って、格段に高いLi同位体分離効率があることが判る。
【0039】
図5はイオン液体の種類を変え、リチウムイオン選択的透過膜の隔膜厚、透過電流、LiCl濃度を変化させた場合に得られるLi同位体分離係数を示す。この場合に使用したイオン液体(TMPA−TFSI)の場合は、図4に比べ低いLi同位体分離係数であり、従来法のアマルガム法に比べて同様程度のLi同位体分離係数が得られているが、この場合のイオン液体(TMPA−TFSI)の場合は、Liの収量が高いことが特徴である。従って、格段に高いLi同位体分離効率があることが判る。
【0040】
図6も同様のLi同位体分離効率が得られた結果を示す。この図の場合、X軸にリチウム溶液槽のLiCl濃度を表示し、Y軸にLi同位体分離係数を表示している。
【0041】
図7は、多段型電気透析セル構造のLi同位体分離濃縮装置(多段型Li同位体分離濃縮装置)200を示す。この多段型Li同位体分離濃縮装置200は、図1に示す単セル型電気透析構造のリチウム同位体分離濃縮装置100を多段化することによって構成される。
【0042】
図7において、多段型Li同位体分離濃縮装置200は、胴体1内に多数の単セル型のリチウム同位体分離濃縮装置100(単セル)が組み込まれて構成され、図には5つの単セル100を組み込んだ例を示す。
【0043】
胴体1には、極液21を導入する導入路22、排出23する排出路24が接続してある。胴体1内の極液のある周辺部に図1に示すと同様にカソード電極6A、アノード電極5Aが設けてある。
【0044】
単セル100は、リチウム溶液槽3、Li分離濃縮槽4およびその間のリチウム選択的透過膜2から構成され、図にあってはKLiと表示してあり、公知の有機隔膜電気透析法が適用可能となる。
【0045】
単セル100の間、すなわちリチウム溶液槽3と隣接するLi分離濃縮槽4との間には陰イオン透析膜25が配設してあり、図にあってはAと表示してある。
【0046】
単セル間の隣接するリチウム溶液槽3間は接続配管26によってそれぞれ接続され、Li分離濃縮槽4間は接続配管27によってそれぞれ接続される。図に示すように、接続配管26と接続配管27とは向流するようにされており、従ってリチウム溶液およびLi分離濃縮液は向流し、逆方向に流れることになる。
【0047】
脱塩側にあるリチウム溶液槽3にはLiCl溶液31を導入する導入路32が接続され、濃縮側にあるリチウム溶液槽3には低塩(Li濃縮)38Aを排出する導出路35が接続される。
【0048】
濃縮側にあるLi分離濃縮槽4にはLiCl溶液36を導入する導入路37が接続され脱塩側にあるLi分離濃縮槽4にはLi濃縮溶液38を回収する導出路39が接続される。
【0049】
各セル100でリチウム溶液からイオン液体を用いた有機隔膜電気透析法の適用によって、Liが分離され、各接続配管27を介して順次Li分離濃縮4を流れて順次濃縮度を増しながら最終段の脱塩側のLi分離濃縮槽4からLi濃縮溶液38として回収され、多段Li濃縮処理によってLi高濃縮液39とされる。
【0050】
一方各セル100内においてLiの分離によって濃縮されたLiは接続配管26を流過し、濃縮側のリチウムの濃縮槽3から回収される。LiからみるとLi減損溶液とされ、LiからみるとLi濃縮溶液となる。
【0051】
回収されたLi濃縮溶液はLi濃縮溶液38と同様にLi濃縮溶液38Aとされ、多段Li濃縮処理されて、順次濃縮度を増してLi高濃縮液39Aとされる。
【0052】
このようにLiイオンとLiイオンを分離するイオン液体含浸有機隔膜を配した電気透析セルを多段(カスケード)に配置し、それら多段電気透析セル間を交互に繋ぎ天然同位体比のLi水溶液を通液し電極に電位を印加することで、Liが高濃度に濃縮したLi濃縮流(Li減損流)とLiが減損した高濃度のLi濃縮流が得られる。
【0053】
有機隔膜電気透析法のメリットとしては次の事項が挙げられる。
・工業化し易い方法
・スケールアップ可能
・生産性が高く経済的な方法
・同位体分離係数が高い
以下、図7に示す本方式の多段型Li同位体分離濃縮装置200をKLi−A複合隔膜方式電気透析セルと称する。
【0054】
図8は、図7に示す多段型Li同位体分離濃縮装置200の変形例を示す。同一の構成には同一の番号を付してある。図8に示す多段型Li同位体分離濃縮装置200にあっては、図7に“A”で示す陰イオン透析膜25は、カソード電極直近部のみ使用し、他はKLiで示すリチウム選択的透過膜だけを使用している。Liが隣接するリチウムリチウム溶液槽とLi分離濃縮槽に次々に透過され、高濃縮されることになる。この例はLiについて高濃縮しているが、同様にしてLiについても高濃縮することができる。以下、図8に示す本方式の多段型Li同位体分離濃縮装置200をKLi隔膜方式電気透析セルと称する。
【0055】
図9に、図7に示す多段型Li同位体分離濃縮装置200によって構成される電気透析式多段型Li同位体分離系に、イオン交換樹脂濃縮による濃縮Li同位体回収系301、電解透析による電解透析LiOH回収系302に接続してLi高濃縮液を得るLi高濃縮回収システム300を示す。図9にはLi高濃縮液を回収するシステムについて示すが、Li濃縮液も同様にして回収させる。
【0056】
図9において、多段型Li同位体分離濃縮装置200の構成は図5に示すものと同一であるのでこれ以上は説明しない。この図において、LiCl粉末41、42は水溶液のLi溶液(脱塩側)31、LiCl溶液(濃縮側)36とされ、その場合にそれぞれLi濃度及びLi/Li比分析43、44がなされLi同位体分離濃縮体回収のデータとなる。
【0057】
濃縮Li同位体回収系301は陽イオン交換樹脂51を用いた陽イオン交換樹脂濃縮回収装置50によって構成される。図では2塔の陽イオン交換樹脂濃縮回収装置50が図示してある。
【0058】
各陽イオン交換樹脂濃縮回収装置50下部には多段型Li同位体分離濃縮装置200で回収されたLi濃縮溶液38が配管52を介して導入される。濃縮Li成分は陽イオン交換樹脂51に吸着される。吸着されたLi成分は配管54を介して導入される陽イオン交換樹脂溶離のための再生液53としての塩酸溶液によって脱着され、陽イオン交換樹脂濃縮回収装置50上部からLi高濃縮回収液56として回収される。
【0059】
Li高濃縮回収液56は配管55を介して電解透析LiOH回収系302に導かれる。
【0060】
陽イオン交換樹脂濃縮回収装置50から排出される樹脂再生廃液57は配管57を介して回収され、図におけるLiCl溶液31あるいは陽イオン交換樹脂溶離用の再生液53として再利用される。
【0061】
電解透析LiOH回収系302は電解透析回収装置60によって構成される。電解透析濃縮回収装置60としては周知の電解透析装置が採用される。
【0062】
電解透析濃縮回収装置60において、Aには陰イオン透析膜が使用され、Kには陽イオン透析膜が使用される。電解透析装置60のカソード反応及びアノード反応は次のようになる。
[カソード反応] 2Li+2HO+2e → 2LiOH+H
[アノード反応] 2Cl+HO−2e → 2HCl+1/2O
LiOH回収液61は配管62から回収される。
【0063】
電解透析濃縮回収装置60において、共存する塩素イオンを除去回収し、目的とする高濃度LiOHを回収する。この高濃度LiOH溶液を加熱して水分を除去し乾燥することで、目的とするLiOH・HO粉末65を得る。この濃縮LiOH・HOは、Liの濃縮されたLiOH・HOあるいはLiの濃縮されたLiOH・HOとなる。
【0064】
電解透析濃縮回収装置60において、陰イオン透析膜で透析反応によって生成された塩素イオンは塩酸63に変換されて、配管64を介して陽イオン交換樹脂溶離、用の再生液53として回収される。
【0065】
濃縮LiOH回収液61は乾燥処理されて濃縮LiOH・HOの粉末65とされる。これらの系統において、各溶液についてLi濃度及びLi/Li比分析43−49がなされる。
【0066】
原料となるリチウム天然同位体比の塩化リチウムLiClの水溶液を多段型Li同位体分離濃縮装置200の多段に構成された単セルに導入し、各セルでLiとLiを分離することで、Liが濃縮したLi減損流とLiが減損したLi濃縮流が得られる。多段の単セルで所定の濃縮Li水溶液を得た後、陽イオン交換樹脂でLi濃縮Li成分を捕集した後、その捕集したLi濃縮Li成分を塩酸などで溶離して高濃縮Li濃縮Li成分を得る。さらに、この高濃縮されたLi濃縮Li成分を電解透析法により、水酸化リチウム(LiOH)溶液と塩酸溶液に分解回収する。この結果、電解透析槽のカソード側に回収されるLiOH溶液は、Li濃縮Li成分を含む。電解透析槽のアノード側には、電解透析処理によって塩酸が回収される。この回収塩酸は、前段の陽イオン交換樹脂で捕集したLi濃縮Li成分の回収のための溶離液として再利用される。
【0067】
一方、Liが減損して得られたLi濃縮液から同様にして陽イオン交換樹脂および電解透析法の適用によって濃縮LiOH回収液、更には濃縮LiOH、HOの粉末を得る。
【0068】
このようにして、リチウム同位体分離濃縮装置100が、リチウムイオン選択的透過膜2とリチウム溶液槽3とが隣接するようにして多段に配置されて、Li濃縮体あるいはLi濃縮体が生成させ、生成されたLi濃縮体あるいはLi濃縮体からLiまたはLiを陽イオン交換樹脂51によって濃縮回収する陽イオン交換樹脂回収装置50および電解透析プロセスによって更に濃縮して回収する電解透析濃縮回収装置60を設けて、濃縮されたLiまたはLiを回収するLiまたはLi高濃縮回収システム300を構成するLiまたはLi濃縮回収システム300によりLi濃縮物またはLi濃縮物が回収される。
【0069】
Li分離濃縮液38のデータを示せば次の通りである。
【0070】
Li天然同位体比=Li(7.59%):Li(92.41%)
単セルによるLi同位体分離係数:1.20(Li9.11%)
10段連続濃縮セルの場合のLi同位体分離係数:6.19(Li47.0%)
Li分離濃縮液56のデータを示せば次の通りである。
【0071】
10段連続濃縮セルの場合のLi同位体(47.0%)の溶液中Li濃度(例えば0.2M/L)を10−25倍に増大して、2.0〜5.0M/Lの高濃縮Li溶液を回収する。
【0072】
図10は、図9に示すLiまたはLi高濃縮回収システムについてのシステムフローを示す。
【0073】
図10に示す例にあっては、透析法として電気透析法あるいは塩濃度勾配透析法を用いている。これらを併用してシステムフローを形成することもできる。
【0074】
以上のように構成されるLiまたはLi(LiおよびLiを含む。)高濃度回収システム300によるLiまたはLi高濃度回収法は、常温で同位体分離と濃縮運転が可能であり、消費電力が少なく、同位体分離係数が高くLi、Liの高濃縮回収ができる。
【0075】
本発明によれば、Li同位体の大量製造のためのスケールアップが容易なだけでなく、これまで唯一実用化されている水銀アマルガム法の同位体分離係数(約1.06)を超える分離係数を得ることができる。
【0076】
図11は、図7に示すKLi−A複合隔膜方式電気透析セル200と図8に示すKLi隔膜方式電気透析セル200を用いて構成したLi同位体分離カスケード400としてシステム化した例を示す。
【0077】
図11において、Li同位体分離カスケード400は、Liの1段濃縮および2段濃縮にKLi−A複合隔膜方式電気透析セル200を用い、本例で最終段とされた多段濃縮にKLi隔膜方式電気透析セル200を用いている。それぞれの電気透析セルについては、図7および図8に示して説明してあるので、内部詳細説明は割愛し、接続関係について説明する。本例にあっては、1段濃縮に3つの、そして2段濃縮に2つのKLi−A複合隔膜方式電気透析セル200を用いているが、これらの数には限定されない。いずれにしても段数が上るに従って用いられる電気透析セル200数が溶液量との関係で減少する。1段濃縮で得られた1段濃縮Li401は2つに分岐されて、2段目のKLi−A複合隔膜方式電気透析セル200のLiCl溶液(Li濃縮側)とされてリチウム溶液槽3に導入され、(1段濃縮Li402は合流または分岐されて2段目のKLi−A複合隔膜方式電気透析セル200のLiCl溶液(Li濃縮、Li脱塩側)とされてLi分離濃縮槽4に導入される。排出されたLiについては7Li回収系403で回収される。
【0078】
同様にして2段濃縮で得られた2段濃縮404は、混合または分岐されてそれぞれ3段目のKLi隔膜方式電気透析セル200のLiCl溶液とされてリチウム溶液槽3に導入されてLi濃縮液4(Li濃縮,Li脱塩側)を得る。この2−3段目のLi減損液(Li脱塩,Li濃縮側)はLi回収系405、407として別系のKLi−A複合隔膜方式電気透析セル200、あるいは1−2段目のLi分離濃縮液3に導入され再度Li回収がなされる。
このようにして、カスケード処理されて最終段からLi高濃縮液406が回収される。
この例はLiの回収について示したが、Liについても同様のカスケードで構成して回収することができる。
【0079】
本発明の応用性について記載すれば次のようである。
核融合の実現に寄与
本発明の高い効率の濃縮Li製造法は、核融合炉の燃料として必要なトリチウムの確保に寄与するため、核融合炉実現に向けて大きな課題を克服できる。
他の原子力分野への応用
他の原子力研究開発の分野においては、トリチウム同位体であるLiは、加圧水型原子力発電では水素イオンの濃縮を制御して構造材腐食を低減させるためLiOHの形態で使われているが、Li同位体の熱中性子吸収断面積はLiが940b、Liが0.037bであるため、Liの含有率が0.001%以下のLi(濃縮度99.99%以上)を用いる必要があるがこれに対応することができる。
リチウム電池への応用
Li溶解液中のLiはLiより移動度が高いことから、Liの多いLi溶解液中ではLiイオン伝導率の向上が見込まれる。この特性はLiイオン電池に生かすことができ、濃縮Liを使用したLiイオン電池は天然Liを使用したこれまでのLiイオン電池の性能を凌ぐ強力Li電池の実現が見込める。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の原理を説明する図。
【図2】本発明に用いるリチウムイオン選択的透過膜構成の1例を示す図。
【図3】本発明の実施例による効果を示す図。
【図4】Li同位体分離試験結果を示す図。
【図5】Li同位体分離試験結果を示す図。
【図6】Li同位体分離試験結果を示す図。
【図7】本発明の実施例である多段型Li同位体分離濃縮装置の構成を示す図。
【図8】図7に示す多段型Li同位体分離濃縮装置の変形例を示す図。
【図9】本発明の実施例であるLiまたはLi高濃縮回収システムを示す図。
【図10】LiまたはLi高濃縮回収システムのシステムフローの1例を示す図。
【図11】本発明の実施例であるLi同位体分離カスケードの1例を示す図。
【符号の説明】
【0081】
1…胴体、2…リチウムイオン選択的透過膜、3…リチウム溶液槽、4…Li分離濃縮槽、5…アノード電極、6…カソード電極、7…Li/Li天然比溶液、9…Li減損液、13…Li濃縮液、26,27…接続配管、50…陽イオン交換樹脂、51…陽イオン交換樹脂濃縮回収装置、60…電解透析濃縮回収装置、61…LiOH回収液、100…リチウム同位体分離濃縮装置(単セル)、200…多段型電気透析セル構造のLi同位体分離濃縮装置(多段型Li同位体分離濃縮装置、多段型セル)、300…Li高濃縮回収システム(LiまたはLi高濃度回収システム)、301…イオン交換樹脂濃縮による濃縮Li同位体回収系(濃縮LiまたはLi同位体回収系)、302…電解透析LiOH回収系(電解透過LiOHまたはLiOH回収系)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を多孔質体に含浸保持させたリチウムイオン選択的透過膜に、Li同位体およびLi同位体を含むリチウム溶液を接して配置し、透析法によってLi同位体およびLi同位体を分離することを特徴とするリチウム同位体分離濃縮法。
【請求項2】
リチウムイオン伝導性を有するイオン液体にリチウムに対し選択的吸着性を有するクラウンエーテル化合物を混合溶解したものを多孔質体に含浸保持させたリチウムイオン選択的透過膜に、Li同位体およびLi同位体を含むリチウム溶液を接して配置し、透析法によってLi同位体およびLi同位体を分離することを特徴とするリチウム同位体分離濃縮法。
【請求項3】
請求項1または2において、前記透析法として電気透析法もしくは塩濃度差透析法を用いることを特徴とするリチウム同位体分離濃縮法。
【請求項4】
請求項1または2において、前記リチウムイオン選択的透過膜を、表面が密構造で内部が粗構造の多孔質体で形成したことを特徴とするリチウム同位体分離濃縮法。
【請求項5】
胴体と、該胴体内に配置される、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を多孔質体に含侵保持させたリチウムイオン選択的透過膜および該リチウム選択的透過膜に接した、Li同位体およびLi同位体を含むリチウム溶液槽と、を備えることを特徴とするリチウム同位体分離濃縮装置。
【請求項6】
胴体と、該胴体内に配置される、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体にリチウムに対し選択的吸着性を有するクラウンエーテル化合物を混合溶解したものを多孔質体に含侵保持させたリチウムイオン選択的透過膜および該リチウムイオン選択的透過膜に接した、Li同位体およびLi同位体を含むリチウム溶液槽と、を備えることを特徴とするリチウム同位体分離濃縮装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載したリチウム同位体分離濃縮装置が、前記リチウムイオン選択的透過膜と前記リチウム溶液槽とが隣接するようにして多段に配置されて多段型Li同位体分離濃縮装置が構成され、該多段型Li同位体分離濃縮装置をカスケードに多段階に構成したことを特徴とするLiまたはLi同位体高濃縮回収システム。
【請求項8】
請求項5または6に記載したリチウム同位体分離濃縮装置を、前記リチウムイオン選択的透過膜と前記リチウム溶液槽とが隣接するようにして多段に配置して、Li濃縮溶液あるいはLi濃縮溶液が生成される第一プロセス、その後段に陽イオン交接樹脂濃縮回収装置を配置し生成されたLi同位体濃縮溶液あるいはLi同位体濃縮溶液からLiまたはLiを陽イオン交換樹脂によって吸着回収する第二プロセス、該陽イオン交換樹脂濃縮回収装置によって濃縮して回収された高濃度Li溶液あるいは高濃度Li溶液を電解透析濃縮回収装置によって濃縮Liまたは濃縮Liを水酸化リチウム溶液としてカソード側に回収し、同時にアノード側に塩酸を回収し、該生成回収塩酸を前段の陽イオン交換樹脂濃縮回収装置の吸着リチウムイオンの溶離液とできる第三プロセスから構成されることを特徴とするLiまたはLi同位体高濃縮回収方法。
【請求項9】
請求項8のLiまたはLi濃縮回収方法で濃縮回収したことを特徴とするLi濃縮物またはLi濃縮物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかにおいて記載したリチウムイオン選択的透過膜。
【請求項11】
請求項10において、表面が密構造で内部が粗構造としたことを特徴とするリチウムイオン選択的透過膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−29797(P2010−29797A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195404(P2008−195404)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000140627)株式会社化研 (27)
【Fターム(参考)】