説明

リチウム含有液からの高濃度リチウム液の製造方法および炭酸リチウムの製造方法

【課題】リチウム含有液から、電気透析や溶媒抽出を行うことなく簡便な方法で、高濃度リチウム溶液を製造し、リチウムを効率よく回収する。
【解決手段】リチウム含有液にリン酸塩を添加して、リチウム含有液中のリチウムイオンをリン酸リチウムの沈殿物にし、リン酸リチウムの沈殿物を回収するリチウムのリン酸化工程と、リン酸リチウムの沈殿物を金属化合物および酸性溶液と混合して、リン酸リチウム中のリチウムを酸性溶液中に浸出させるリチウム浸出工程とからなり、リチウム浸出工程において、酸を添加して酸性溶液を強酸性にする第一のpH調整を行った後、水酸化アルカリを添加して酸性溶液のpH値を高くする第二のpH調整を行い、第一のpH調整および第二のpH調整の2段階のpH下でリチウム浸出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有液から高濃度リチウム溶液を製造し、さらにその高濃度リチウム溶液からリチウムを炭酸リチウムとして回収するための、リチウム含有液からの高濃度リチウム溶液の製造方法および炭酸リチウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池の需要が拡大し、それに伴って、使用済みのリチウムイオン電池による環境汚染への対策や、有価金属を回収して有効利用する技術の確立が強く要望され、検討されている。従来、正極材に使用されている活物質からコバルトやニッケル等を回収する方法は多く提案されているが、リチウムイオン電池からのリチウムの回収に関しては、多くの提案がなされているものの、コストやプロセスの簡便さ等において問題を有している。特に、リチウムを効率よく回収するために必要となる高濃度リチウム溶液の製造方法、すなわちリチウム溶液のリチウム濃縮方法について、効率の良い方法が求められているが、以下のような課題が残っている。
【0003】
例えば特許文献1には、湿式処理によるリチウムの濃縮、回収方法として、溶媒抽出法が記載されている。しかし、溶媒抽出は、高価な抽出剤を使用するうえ、抽出と逆抽出の操作を繰り返す必要があり、工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
また、特許文献2では、電気透析によりリチウムを濃縮、回収する方法が提案されている。しかし、電気透析は特別な設備を要するうえ、繰り返し透析を行わなければ十分なリチウム濃度が得られず、濃縮コストが高くなるという問題がある。
【0005】
特許文献3では、リチウム含有マンガン酸化物の吸着剤を合成してリチウムの吸着を行い、数十ppmと非常に低濃度なリチウム溶液からのリチウム回収を可能とする吸着方法が提案されている。しかしながら、この方法は、低濃度リチウム溶液からのリチウムイオンの吸着を目的としており、リチウム含有液から高濃度リチウム溶液を効率よく得る方法には適していないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−122885号公報
【特許文献2】特開2004−142986号公報
【特許文献3】特開2004−25113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上述べた従来の課題を解決し、リチウム含有液から、電気透析や溶媒抽出を行うことなく簡便な方法で、高濃度リチウム溶液を製造し、リチウムを効率よく回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は、リチウム含有液にリン酸塩を添加して、前記リチウム含有液中のリチウムイオンをリン酸リチウムの沈殿物にし、前記リン酸リチウムの沈殿物を回収するリチウムのリン酸化工程と、前記リン酸リチウムの沈殿物を金属化合物および酸性溶液と混合して、前記リン酸リチウム中のリチウムを前記酸性溶液中に浸出させるリチウム浸出工程と、からなり、前記リチウム浸出工程において、酸を添加して前記酸性溶液を強酸性にする第一のpH調整を行った後、水酸化アルカリを添加して前記酸性溶液のpH値を高くする第二のpH調整を行い、前記第一のpH調整および前記第二のpH調整の2段階のpH下でリチウム浸出を行うことを特徴とするリチウム含有液からの高濃度リチウム溶液の製造方法を提供する。
【0009】
前記リチウム浸出工程において、前記金属化合物が、鉄、銅、鉛、亜鉛、マンガン、カルシウム、セリウム、イットリウム、ランタンの化合物のいずれかを含むものでもよい。また、前記第一のpH調整はpHが−0.5〜4.0の範囲であり、前記第二のpH調整はpHが1.0〜10.0の範囲であることが好ましい。
【0010】
前記リチウムのリン酸化工程の前処理として、前記リチウム含有液に水酸化アルカリを添加して重金属不純物を沈殿させた後、固液分離により、前記重金属不純物を除去してもよい。
【0011】
前記リチウムのリン酸化工程において、リン酸化する際の前記リチウム含有液のpHを5.0〜15.0の範囲にすることが好ましい。また、前記リチウムのリン酸化工程において、リン酸塩の原料が、リン酸アルカリまたは重金属リン酸塩でもよい。
【0012】
前記リチウム浸出工程において、前記酸性溶液が硫酸、塩酸、硝酸のいずれかを含むものでもよい。また、前記第二のpH調整で使用する水酸化アルカリが、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであってもよい。
【0013】
前記リチウム浸出工程において、前記第二のpH調整により、前記リン酸リチウム中のリン酸イオンを前記金属化合物に吸着させ、金属リン酸塩化合物とすることが好ましい。前記金属リン酸塩化合物を、前記リチウムのリン酸化工程におけるリン酸塩として使用してもよい。
【0014】
また、本発明によれば、前記高濃度リチウム溶液の製造方法で得られた高濃度リチウム溶液に、炭酸塩を添加し、前記高濃度リチウム溶液中のリチウムを炭酸リチウムとして析出することを特徴とする炭酸リチウムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リチウム含有液から電気透析や溶媒抽出を行うことなく、湿式処理のみによって、高濃度リチウム溶液を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による高濃度リチウム溶液および炭酸リチウムの製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は、リチウム含有液から高濃度リチウム溶液を製造する本発明の高濃度リチウム溶液の製造方法、およびその高濃度リチウム溶液から炭酸リチウムを析出する炭酸リチウムの製造方法を示す工程図である。
【0018】
本発明で用いられるリチウム含有液は、リチウム濃度が0.07g/L以上であることが好ましく、0.3g/L以上であることが更に好ましい。リチウム濃度が0.3g/L以上であれば、リン酸リチウムの沈殿物を効率よく生成することができるが、リチウム濃度が0.07g/L未満の場合には、リチウムを濃縮してリン酸リチウムの沈殿物を十分に生成することが難しい。ただし、リチウム濃度が0.07g/L未満の場合でも、公知の方法を用いてリチウム濃度を0.07g/L以上に濃縮すれば、本発明を適用して高濃度リチウム溶液を製造することができる。
【0019】
リチウムのリン酸化工程の前処理として、リチウム含有液中の重金属類を除去することが好ましい。重金属の除去方法は、公知の方法を使用することができ、例えば、図1に示すように、水酸化ナトリウムを加えて中和処理により重金属類を沈殿させ、固液分離によって重金属沈殿物を取り除く。なお、原料のリチウム含有液中の重金属類の含有量が少量である場合には、この工程は行わなくてもよい。
【0020】
次に、リチウムのリン酸化工程について説明する。
【0021】
リチウム含有液に、pH5.0〜15.0の条件下で、リン酸塩等からなるリン酸イオンを生成する物質を添加すると、難溶性のリン酸リチウムが生成される。なお、このように難溶性のリン酸リチウムが生成されることを、本明細書中、リチウムのリン酸化と称する。この性質により、リチウム濃度が希薄なリチウム溶液からでも、簡便にリチウムを固体(沈殿物)として取り出すことが可能である。添加するリン酸塩の種類は特に限定しないが、例えばリン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸鉄等が好適に使用できる。リン酸化により生成したリン酸リチウムは、固液分離により回収する。
【0022】
リチウムのリン酸化の反応は、(1)式により、リン酸リチウム(LiPO)が生成するものと考えられる。
3Li + PO3− = LiPO (1)
【0023】
リン酸化工程におけるリン酸塩の添加量は、用いるリチウム含有液中に含有するリチウム量と(1)式から当量を求めることができ、その当量以上とすることが好ましい。当量未満であってもリン酸リチウムの沈殿物を生成することはできるが、リチウムの回収率が低下することがある。
【0024】
次に、リチウム浸出工程について説明する。
【0025】
リン酸化工程で固液分離により得られたリン酸リチウムの沈殿物は、金属化合物および少量の水とともにリパルプする。この際の水の添加量は、リパルプ後のスラリー中に、リチウムを20g/L以上含むように調整することが好ましい。更に好ましくは、リチウムを30g/L以上含むように水の添加量を調整する。スラリー中のリチウム含有量が少ない場合には、得られるリチウム濃縮液のリチウム濃度が低くなるため、リチウム含有量を上記の範囲とすることが好ましい。また、金属化合物は、スラリー中でリン酸イオンと反応して固体の化合物を生成するものであればよく、鉄、銅、鉛、亜鉛、マンガン、カルシウム、セリウム、イットリウム、ランタンから選択される金属の化合物のうち1種以上を使用する。この金属化合物の好適な例として、水酸化鉄等が挙げられる。このような金属化合物を添加することにより、リン酸イオンを固体のリン酸化合物として回収し、高濃度リチウム溶液のリン濃度を低減することが可能になる。
【0026】
リパルプして得られたスラリーに酸を添加し、pHを下げることにより、リン酸リチウムは容易に溶解する。この性質により、30g/L以上の高濃度リチウム液を得ることができる。単純に酸のみを添加してリン酸リチウムを溶解すると、スラリー中にリン酸リチウムが溶解することにより生成したリン酸イオンが、高濃度に高濃度リチウム溶液中に存在する。リチウムを高濃度に含む高濃度リチウム溶液であっても、リン酸イオンが高濃度で溶解していると、高濃度リチウム溶液から炭酸リチウムを得る際に、炭酸リチウム中にリン酸リチウムの混入が避けられなくなるために好ましくない。高濃度リチウム溶液中に含まれるリン酸イオン濃度は、100mg/L以下であることが好ましく、10mg/L以下であることが更に好ましい。
【0027】
本実施形態では、図1に示すように、リパルプして得られたスラリーに酸を添加して強酸性にする第一のpH調整と、水酸化アルカリを添加してpH値を高くする第二のpH調整との2段階のpH調整を行う。これにより、リン酸リチウムから生じたリン酸イオンを、容易に金属化合物に吸着させることができる。
【0028】
これは、第一のpH調整による強酸性時に、金属化合物が一部溶解し、その後、第二のpH調整によりpH値を上昇させることで、溶解した金属化合物とスラリー中のリン酸イオンとが反応し、難溶性の金属リン酸塩を生成するためと考えられる。なお、添加する酸としては、硫酸、硝酸、塩酸のいずれかを含むものが望ましい。また、添加する水酸化アルカリとしては、水酸化ナトリウムや、水酸化カリウムが使用できる。また、第一のpH調整は、−0.5〜4.0の範囲とすることがこの好ましく、更に好ましくは−0.5〜2.0の範囲であり、一層好ましくは、0.0〜1.5の範囲である。また、第二のpH調整は、1.0〜10.0の範囲で制御することが好ましく、更に好ましくは2.0〜7.0の範囲である。第一および第二のpH調整のpH値が高すぎるとリチウムを十分溶解できないことがあり、pH値が低すぎると使用する酸の量が多くなりコスト的に不利になる。また、第二のpH調整によるpH値が10を超えると、金属化合物とリン酸イオンが十分に反応せず、スラリー中に溶解したリン酸イオンが残留することがある。
【0029】
また、第二のpH調整は、第一のpH調整と比較して、pH値を1〜10大きくすることが好ましく、pH値を2〜7大きくすることが更に好ましい。このpH値を大きくする幅が1未満では、十分に難溶性の金属リン酸塩を生成することができないことがあり、pH値を大きくする幅が10を超えると、金属化合物とリン酸イオンが十分に反応せず、液中に溶解したリン酸イオンが残留することがある。
【0030】
リチウムの浸出反応としては、金属化合物が水酸化鉄の場合には、(2)式のようになる。
LiPO + Fe(OH) + 3H = 3Li + FePO + 3H2O (2)
【0031】
2段階のpH調整により得られたスラリーは、固液分離により、金属リン酸塩(固相)と高濃度リチウム溶液とに分離される。これにより、リン酸イオン濃度の低い高濃度リチウム溶液を得ることができる。固液分離は、公知の方法を使用することができる。
【0032】
固液分離により得られたリン酸塩化合物は、リチウムのリン酸化工程の際のリン酸塩として用いることができる。これは、リン酸鉄等は、強アルカリ性条件で、リン酸イオンを脱離する性質を有するためである。この性質により、リン酸塩を繰り返し使用することができるので、使用する薬品のコストを抑えられる。
【0033】
更に、固液分離工程で得られた高濃度リチウム溶液は、次に炭酸ナトリウムなどの炭酸塩と攪拌混合することで、溶液中のリチウムを炭酸リチウムとして析出させることができ、これを固液分離することにより、炭酸リチウムを得ることができる。
【0034】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例1】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0036】
なお、溶液および残渣中のリチウム等の金属およびPの濃度は、特に記載がない限り、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(SII社製、SPS5100)を用いて測定した。なお、リン(P)濃度は、Pとしての濃度であり、PO43―としての濃度ではない。
【0037】
先ず、リチウムのリン酸化工程を行った。リチウム含有液の原料としては、以下の成分を含有する溶液からなるものを使用した。
コバルト:4.30g/L
リチウム:3.00g/L
ナトリウム:30g/L
マグネシウム:80mg/L
カリウム:60mg/L
【0038】
このリチウム含有液4Lに、20%の水酸化ナトリウム水溶液を投入して、pHを9.0に調整し、攪拌機を用いて120分間攪拌し、固液分離により、固体として重金属を除去した。固液分離により得られたろ液には、コバルト:1mg/L未満、リチウム:2.87g/L、ナトリウム:32g/Lが含まれていた。
【0039】
リチウム含有液中のリチウムをリン酸化するため、固液分離により得られたろ液にリン酸三カリウム(KPO)を183g投入後、20%の水酸化ナトリウム水溶液を投入して、pHを12.0に調整した後、攪拌機を用いて360分間攪拌した。その後、固液分離によりリン酸リチウムの沈殿物を分離、回収した。固液分離により得られた沈殿物は54.7gであった。また、ろ液の液量は4.875Lで、ろ液のリチウム濃度は0.29g/L、リン濃度は1.97g/Lであった。つまり、リン酸化工程によるリチウムの回収率は88%であった。
【0040】
次に、リチウム浸出工程を行った。固液分離により得られたリン酸リチウムの沈殿物54.7gを100mLの水に投入してリパルプし、そこへ80gの水酸化鉄(III)(Fe(OH))を添加した。さらに、第一のpH調整として、75質量%の硫酸を投入して、pHを1.0に調整した後、マグネチックスターラーで120分間攪拌した。
【0041】
攪拌後の液に、第二のpH調整として、20%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを3.5に調整した後、マグネチックスターラーで60分間攪拌してスラリーを得た。このスラリーを固液分離して、ろ液として高濃度リチウム溶液、残渣物としてリン酸鉄残渣を得た。固液分離により得られた高濃度リチウム溶液の液量は232.4mLで、リチウム濃度は44.8g/L(3.73質量%)、リン濃度は10mg/L未満であった。つまり、最終的なリチウム回収率は87%で、リチウム濃度が30g/L以上の高濃度リチウム溶液が得られることが分かった。また、高濃度リチウム溶液中のP濃度が低濃度であることが分かった。
【0042】
更に、上記の固液分離により回収したリン酸鉄残渣の重量は78.09gで、リチウム含有率は0.03%、リン含有率は16.9%であった。つまり、リン酸鉄残渣には、リチウムはごく僅かな量しか存在しないことが分かった。
【0043】
比較例1として、リチウム浸出工程において、水酸化鉄(III)を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、高濃度リチウム溶液を製造した。得られた高濃度リチウム溶液のリチウム濃度は40g/L以上であり、リン濃度は60g/L以上であった。金属化合物を用いない場合、高濃度リチウム溶液は得られるが、高濃度リチウム溶液中のリン濃度が高い結果となった。
【0044】
さらに、比較例2として、リチウム浸出工程において、本発明の第二のpH調整である水酸化ナトリウム水溶液を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、高濃度リチウム溶液を製造した。すなわち、リチウム浸出工程を、pH値が1.0での反応のみとした。得られた高濃度リチウム溶液のリチウム濃度は45.2g/Lであり、リン濃度は61.20g/Lであった。第二のpH調整を行わない場合にも、高濃度リチウム溶液は得られるが、高濃度リチウム溶液中のリン濃度が高い結果となった。
【0045】
また、比較例3として、リチウム浸出工程において、75質量%の硫酸を投入する第一のpH調整のpH値を1.0から3.5に変更した以外は、上記の比較例2と同様にして、高濃度リチウム溶液を製造した。すなわち、リチウム浸出工程は、pH値が3.5での反応のみであり、本発明の第二のpH調整を行わなかった。得られた高濃度リチウム溶液のリチウム濃度は45.2g/Lであり、リン濃度は63.20g/Lであった。この場合も、高濃度リチウム溶液は得られるが、高濃度リチウム溶液中のリン濃度が高い結果となった。
【実施例2】
【0046】
実施例1で回収したリン酸鉄残渣の再利用を行った。実施例1で回収したリン酸鉄残渣78gを500mLの水に投入し、20%の水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを14.0に調整した後、マグネチックスターラーで120分間攪拌しスラリーを得た。
【0047】
攪拌後のスラリーを固液分離し、ろ液を得た。得られたろ液の質量は666gで、リン含有率は13g/kgであった。リン酸鉄残渣をアルカリ性条件にすることで、リン酸イオンが脱離し、リン酸イオンを高濃度で含有する液が得られた。リン酸化工程で添加する物質を、リン酸三カリウムから、このろ液に変更した以外は、実施例1と同様に、前処理、リチウムのリン酸化、リチウム浸出の各工程を行った。その結果、リチウム濃度が30g/L以上で、リン濃度が10mg/L未満である高濃度リチウム溶液を得ることができた。本発明により発生するリン酸鉄残渣は、リチウムのリン酸化工程に再利用できることが分かった。
【実施例3】
【0048】
リチウム浸出工程における第二のpH調整のpH値以外は、実施例1と同様の方法で、高濃度リチウム溶液の製造を行った。
【0049】
リン酸リチウムの沈殿物10gを30mlの水に投入し、そこへ15gの水酸化鉄(III)を投入した。それらに、第一のpH調整として、75質量%の硫酸を投入して、pHを1.0に調整した後、マグネチックスターラーで120分間攪拌した。攪拌後の液に、第二のpH調整として、20%の水酸化ナトリウム水溶液を投入して、pHを5.0に調整した後、マグネチックスターラーで60分間攪拌し、固液分離によりろ液として高濃度リチウム溶液、残渣としてリン酸鉄残渣を得た。固液分離により得られた高濃度リチウム溶液の液量は283.0gで、高濃度リチウム溶液のリチウム濃度は29.3g/L、リン濃度は10.0mg/L未満であった。
【実施例4】
【0050】
リチウム浸出工程における第一のpH調整のpH値以外は、実施例1と同様の方法で、高濃度リチウム溶液の製造を行った。
【0051】
リン酸リチウムの沈殿物10gを30mlの水に投入し、そこへ15gの水酸化鉄(III)を投入した。それらに、第一のpH調整として、75質量%の硫酸を投入して、pHを0.0に調整した後、マグネチックスターラーで120分間攪拌した。攪拌後の液に、第二のpH調整として、20%の水酸化ナトリウム水溶液を投入して、pHを3.5に調整した後、マグネチックスターラーで60分間攪拌し、固液分離によりろ液として高濃度リチウム溶液、残渣としてリン酸鉄残渣を得た。固液分離により得られた高濃度リチウム溶液の液量は342.8gで、高濃度リチウム溶液のリチウム濃度は24.9g/L、リン濃度は10.0mg/L未満であった。
【実施例5】
【0052】
実施例1で得られた高濃度リチウム溶液100mLに、200g/Lの炭酸ナトリウム水溶液200mlを添加し、60℃に加熱し、攪拌してスラリーを得た。このスラリーを固液分離、水洗して、固体の炭酸リチウムを得た。得られた炭酸リチウム中のリン濃度を測定したところ、リン濃度は、30mg/kgであった。
【0053】
比較例4として、前述の比較例2で得られた高濃度リチウム溶液100mLに、200g/Lの炭酸ナトリウム水溶液200mlを添加し、60℃に加熱し、攪拌してスラリーを得た。このスラリーを固液分離、水洗して、固体のリチウム化合物を得た。得られたリチウム化合物中のリン濃度を測定したところ、リン濃度が20質量%以上であった。本発明の第二のpH調整を行わずに製造した高濃度リチウム溶液から得られたリチウム化合物は、リン濃度が極めて高く、リン酸リチウム主体の化合物であると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、リチウム含有液からリチウムを回収する方法として適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有液にリン酸塩を添加して、前記リチウム含有液中のリチウムイオンをリン酸リチウムの沈殿物にし、前記リン酸リチウムの沈殿物を回収するリチウムのリン酸化工程と、
前記リン酸リチウムの沈殿物を金属化合物および酸性溶液と混合して、前記リン酸リチウム中のリチウムを前記酸性溶液中に浸出させるリチウム浸出工程とからなり、
前記リチウム浸出工程において、酸を添加して前記酸性溶液を強酸性にする第一のpH調整を行った後、水酸化アルカリを添加して前記酸性溶液のpH値を高くする第二のpH調整を行い、前記第一のpH調整および前記第二のpH調整の2段階のpH下でリチウム浸出を行うことを特徴とする、リチウム含有液からの高濃度リチウム溶液の製造方法。
【請求項2】
前記リチウム浸出工程において、前記金属化合物が、鉄、銅、鉛、亜鉛、マンガン、カルシウム、セリウム、イットリウム、ランタンの化合物のいずれかを含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム含有液からの高濃度リチウム溶液の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム浸出工程において、前記第一のpH調整はpHが−0.5〜4.0の範囲であり、前記第二のpH調整はpHが1.0〜10.0の範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載のリチウム含有液からの高濃度リチウム溶液の製造方法。
【請求項4】
前記リチウムのリン酸化工程の前処理として、前記リチウム含有液に水酸化アルカリを添加して重金属不純物を沈殿させた後、固液分離により、前記重金属不純物を除去することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のリチウム含有液からの高濃度リチウム溶液の製造方法。
【請求項5】
前記リチウムのリン酸化工程において、リン酸化する際の前記リチウム含有液のpHを5.0〜15.0の範囲にすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のリチウム含有液からの高濃度リチウム溶液の製造方法。
【請求項6】
前記リチウムのリン酸化工程において、リン酸塩の原料が、リン酸アルカリまたは重金属リン酸塩であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のリチウム含有液からの高濃度リチウム溶液の製造方法。
【請求項7】
前記リチウム浸出工程において、前記酸性溶液が硫酸、塩酸、硝酸のいずれかを含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のリチウム含有液からの高濃度リチウム溶液の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム浸出工程において、前記第二のpH調整で使用する水酸化アルカリが、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のリチウム含有液からの高濃度リチウム溶液の製造方法。
【請求項9】
前記リチウム浸出工程において、前記第二のpH調整により、前記リン酸リチウム中のリン酸イオンを前記金属化合物に吸着させ、金属リン酸塩化合物とすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のリチウム含有液からの高濃度リチウム溶液の製造方法。
【請求項10】
前記金属リン酸塩化合物を、前記リチウムのリン酸化工程におけるリン酸塩として使用することを特徴とする、請求項9に記載のリチウム含有液からの高濃度リチウム溶液の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の高濃度リチウム溶液の製造方法で得られた高濃度リチウム溶液に、炭酸塩化合物を添加し、前記高濃度リチウム溶液中のリチウムを炭酸リチウムとして析出することを特徴とする、炭酸リチウムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−168461(P2011−168461A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35619(P2010−35619)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(508093056)エコシステムリサイクリング株式会社 (12)
【出願人】(506347517)DOWAエコシステム株式会社 (83)
【Fターム(参考)】